以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
図1〜3は、第1実施形態に係る溶接システムA1を説明するための図である。図1は、溶接システムA1の全体構成を示すものである。図2は、ガス配管を説明するための断面図である。図3は、溶接用電源部および送電用電源部の内部構成の一例を示すものである。
図1に示すように、溶接システムA1は、溶接電源装置1、ワイヤ送給装置2、溶接トーチ3、パワーケーブル41,42、電力伝送線51,52、ガスボンベ6、および、ガス配管7を備えている。溶接システムA1は、実際には、ワイヤ電極が巻回されたワイヤリールなどを備えているが、図への記載や説明を省略している。
溶接電源装置1の溶接電力用の一方の出力端子aは、パワーケーブル41を介して、ワイヤ送給装置2に接続されている。ワイヤ送給装置2は、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出して、ワイヤ電極の先端を溶接トーチ3の先端から突出させる。溶接トーチ3の先端に配置されているコンタクトチップにおいて、パワーケーブル41とワイヤ電極とは電気的に接続されている。溶接電源装置1の溶接電力用の他方の出力端子bは、パワーケーブル42を介して、被加工物Wに接続される。溶接電源装置1は、溶接トーチ3の先端から突出するワイヤ電極の先端と、被加工物Wとの間にアークを発生させ、アークに電力を供給する。溶接システムA1は、当該アークの熱で被加工物Wの溶接を行う。
溶接システムA1は、溶接時にシールドガスを用いる。ガスボンベ6のシールドガスは、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2を通るように設けられているガス配管7によって、溶接トーチ3の先端に供給される。ガス配管7は、ガスボンベ6と溶接電源装置1とを接続する配管、溶接電源装置1の内部に配置されている配管、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続する配管、および、ワイヤ送給装置2の内部に配置され溶接トーチ3の先端に接続する配管を備えている。図2は、ガス配管7のうち、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続する配管が、溶接電源装置1の内部に配置されている配管に接続された接続金具1a、および、ワイヤ送給装置2の内部に配置されている配管に接続された接続金具2aに接続されている部分の断面図である。例えばゴム製のガス配管7は、接続金具1a(2a)に嵌め込むようにして、接続されている。なお、ガス配管7の素材は限定されず、各区間によって異なっていてもよいが、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続する部分は、ゴムなどの絶縁体としている。
ワイヤ電極を送り出すための送給モータ24(後述)などを駆動するための電力は、電力伝送線51,52を介して、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に供給される。溶接電源装置1が備える、ワイヤ送給装置2の駆動電力用の電源(後述する送電用電源部12)の一方の出力端子は、電力伝送線51を介して、ワイヤ送給装置2の電源(後述する受電用電源部21)の一方の入力端子に接続されている。
電力伝送線51は、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2との間では、ガス配管7の内側に配置されている。図2に示すように、溶接電源装置1の内部で、電力伝送線51は導電性の接続金具1aに接続しており、ワイヤ送給装置2の内部で、電力伝送線51は導電性の接続金具2aに接続している。そして、ガス配管7の内側に配置された電力伝送線51が、ガス配管7と接続金具1a(2a)との間に挟まれて固定され、接続金具1a(2a)と電気的に接続されている。つまり、接続金具1aが、溶接電源装置1の内部の電力伝送線51と、ガス配管7の内側に配置された電力伝送線51とを接続するコネクタとして機能し、接続金具2aが、ワイヤ送給装置2の内部の電力伝送線51と、ガス配管7の内側に配置された電力伝送線51とを接続するコネクタとして機能している。
また、送電用電源部12の他方の出力端子とパワーケーブル41とが、溶接電源装置1の内部で、電力伝送線52によって接続されており、受電用電源部21の他方の入力端子とパワーケーブル41とが、ワイヤ送給装置2の内部で、電力伝送線52によって接続されている。つまり、送電用電源部12の他方の出力端子と受電用電源部21の他方の入力端子とが、一部の区間がパワーケーブル41になる電力伝送線52により、電気的に接続されている。送電用電源部12から出力される電力は、電力伝送線51,52によって、受電用電源部21に供給される。また、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とは、電力伝送線51,52の間に信号を重畳させて通信を行う。
溶接電源装置1は、アーク溶接のための直流電力を溶接トーチ3に供給するものである。溶接電源装置1は、溶接用電源部11、送電用電源部12、制御部13、通信部14、スイッチ15、および、切替部16を備えている。
溶接用電源部11は、電力系統から入力される三相交流電力をアーク溶接に適した直流電力に変換して出力するものである。図3(a)に示すように、溶接用電源部11に入力される三相交流電力は、整流回路111によって直流電力に変換され、インバータ回路112によって交流電力に変換される。そして、トランス113によって降圧(または昇圧)され、整流回路114によって直流電力に変換されて出力される。なお、溶接用電源部11の構成は、上記したものに限定されない。
送電用電源部12は、ワイヤ送給装置2の送給モータ24などを駆動するための電力を出力するものである。送電用電源部12は、電力系統から入力される単相交流電力をワイヤ送給装置2での使用に適した直流電力に変換して出力する。送電用電源部12は、いわゆるスイッチングレギュレータである。図3(a)に示すように、送電用電源部12に入力される交流電力は、整流回路121によって直流電力に変換され、DC/DCコンバータ回路122によって降圧(または昇圧)されて出力される。送電用電源部12は、電圧が例えば48Vに制御された直流電力を、電力伝送線51,52を介して、ワイヤ送給装置2に供給する。なお、送電用電源部12の構成は、上記したものに限定されない。例えば、溶接用電源部11と同様の構成であってもよいし、電力系統から入力される交流電力をトランスで降圧(または昇圧)してから、整流回路121で直流電力に変換して出力するようにしてもよい。
溶接用電源部11は、出力端子aが出力端子bより電位が高くなるようにして、パワーケーブル41の電位がパワーケーブル42の電位より高くなるように、電圧を印加する。送電用電源部12は、電力伝送線51の電位が電力伝送線52の電位より低くなるように、電圧を印加する。電力伝送線52はパワーケーブル41に接続しているので、電力伝送線51の電位は、パワーケーブル41の電位より低くなる。つまり、電力伝送線51およびパワーケーブル42の電位をどちらもパワーケーブル41より低くすることで、電力伝送線51とパワーケーブル42との電位差があまり大きくならないようにしている。例えば、溶接用電源部11が出力する無負荷電圧が90V、送電用電源部12が出力する電圧が48Vの場合、電力伝送線51とパワーケーブル42との電位差は42Vになる。仮に、電力伝送線51の電位を電力伝送線52の電位より高くした場合は、電力伝送線51とパワーケーブル42との電位差は132Vになる。なお、電力伝送線51とパワーケーブル42との電位差を気にしない場合は、送電用電源部12が印加する電圧を逆極性(電力伝送線51の電位が電力伝送線52の電位より高くなるように、電圧を印加する)にしてもよい。
制御部13は、溶接電源装置1の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部13は、溶接電源装置1から出力される溶接電圧および溶接電流が設定電圧および設定電流になるように、溶接用電源部11のインバータ回路112を制御する。また、送電用電源部12から出力される電圧が所定電圧になるように、送電用電源部12のDC/DCコンバータ回路122を制御する。制御部13は、図示しない設定ボタンの操作に応じて溶接条件の変更を行ったり、図示しない起動ボタンの操作に応じて溶接用電源部11を起動させたりなどの制御を行う。また、制御部13は、図示しないセンサによって検出された溶接電圧や溶接電流の検出値を図示しない表示部に表示させたり、異常が発生した場合に報知部28に報知させたりする。
また、制御部13は、通信部14から入力される信号に基づいても、溶接条件の変更や溶接用電源部11の起動を行い、検出された溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号、ワイヤ送給装置2に対するワイヤ送給指令やガス供給指令などのための信号を通信部14に出力する。
また、制御部13は、溶接電源装置1の通信相手となるワイヤ送給装置2を特定するために、ペアリング処理を行う。本実施形態においては、制御部13は、ペアリング処理として、自身に設定されている識別情報を、切替部16を制御することで、ワイヤ送給装置2に伝達する。識別情報を伝達する方法の詳細については後述する。なお、制御部13が、本発明の「送信制御部」に相当する。
通信部14は、電力伝送線51,52を介して、ワイヤ送給装置2との間で通信を行うためのものである。通信部14は、ワイヤ送給装置2から受信した信号を復調して、制御部13に出力する。ワイヤ送給装置2から受信する信号には、例えば、溶接条件を設定するための信号や、溶接用電源部11の起動を指示する起動信号などがある。また、通信部14は、制御部13から入力される信号を変調して、通信信号としてワイヤ送給装置2に送信する。ワイヤ送給装置2に送信する信号には、例えば、検出された溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号、ワイヤ送給指令やガス供給指令などのための信号などがある。なお、ワイヤ送給装置2との間で送受信される信号は、上記したものに限定されない。
通信部14は、直接スペクトル拡散(Direct Sequence Spread Spectrum:DSSS)通信方式を用いて通信を行う。直接スペクトル拡散通信方式では、送信側は、送信する信号に対して拡散符号による演算を行い、元の信号のスペクトルをより広い帯域に拡散して送信する。受信側は、受信した信号を共通する拡散符号を用いて逆拡散することで、元の信号に戻す。通信信号にノイズが重畳された場合でも、逆拡散によってノイズのスペクトルが拡散されるので、フィルタリングによって元の通信信号を抽出することができる。したがって、高い通信品質で通信を行うことができる。また、ペアリング処理を行った後に、ペアリングされた溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とに同じ拡散符号を設定し、当該拡散符号を溶接システムA1毎に異なるように設定すれば、別の溶接システムA1で送受信される通信信号を誤って受信したとしても、当該通信信号は異なる拡散符号で逆拡散されて、ノイズとして除去される。したがって、混信を抑制することができる。しかし、溶接電源装置1は、いずれのワイヤ送給装置2に接続されるか解らないので、初めはすべて同じ拡散符号が設定されている。したがって、ペアリングされる前の通信では、混信が発生する場合がある。
通信部14は、結合回路を備えている。当該結合回路は、通信部14の入出力端に接続されたコイルと、電力伝送線51,52に並列接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えており、通信部14が出力する通信信号を電力伝送線51,52に重畳し、また、電力伝送線51,52に重畳された通信信号を検出する。通信部14は、制御部13より入力される信号に応じてキャリア信号をBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調し、変調信号にスペクトル拡散を行い、アナログ信号に変換して送信する。なお、変調方法はBPSK変調に限られず、ASK変調やFSK変調を行うようにしてもよい。また、スペクトル拡散は直接拡散方式に限られず、周波数ホッピング方式を用いてもよい。なお、本実施形態では、スペクトル拡散を行っているが、これに限定されず、スペクトル拡散を行わないようにしてもよい。また、通信部14は、電力伝送線51,52に重畳された通信信号を検出し、デジタル信号に変換して、逆拡散およびフィルタリングを行い、復調を行って、制御部13に出力する。溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に送信する信号と、ワイヤ送給装置2から溶接電源装置1に送信する信号とでは、時間をずらして送受信を行う。なお、異なる周波数帯域を利用するようにしてもよい。
スイッチ15は、電力伝送線52に配置されており、電力伝送線52を導通させる状態(オン状態)と電力伝送線52を遮断する状態(オフ状態)とを切り替える。スイッチ15がオン状態の場合、送電用電源部12が出力する電圧がワイヤ送給装置2の受電用電源部21に印加される。一方、スイッチ15がオフ状態の場合、送電用電源部12が出力する電圧はワイヤ送給装置2の受電用電源部21に印加されない。なお、本実施形態においては、電力伝送線51,52が、本発明の「接続線」に相当する。スイッチ15は、切替部16からの指示に基づいて、オン状態とオフ状態とを切り替える。本実施形態では、スイッチ15として、切り替えを速くするために、トランジスタなどの半導体スイッチを用いている。なお、スイッチ15は、オン状態とオフ状態とを切り替えられればよいので、機械式のスイッチとしてもよい。なお、スイッチ15は、電力伝送線51に配置されていてもよい。
切替部16は、制御部13からの指示に基づいて、スイッチ15の状態を切り替える。通常時、切替部16は、スイッチ15をオン状態としている。制御部13は、ペアリング処理として、自身に設定されている識別情報に基づく信号を、切替部16に出力する。本実施形態においては、スイッチ15および切替部16が、本発明の「切替部」に相当する。また、送電用電源部12、制御部13、通信部14、スイッチ15および切替部16をまとめたものが、本発明の「第1の通信装置」に相当する。なお、溶接電源装置1が、本発明の「第1の通信装置」に相当すると考えることもできる。
ワイヤ送給装置2は、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出すものである。また、ワイヤ送給装置2は、ガスボンベ6のシールドガスを溶接トーチ3の先端に供給する。ワイヤ送給装置2は、受電用電源部21、制御部22、通信部23、送給モータ24、ガス電磁弁25、電圧センサ26、電圧比較部27、および、報知部28を備えている。
受電用電源部21は、制御部22、送給モータ24およびガス電磁弁25に電力を供給するものである。受電用電源部21は、電力伝送線51,52を介して溶接電源装置1から電力を供給され、制御部22、送給モータ24およびガス電磁弁25のそれぞれに適した電圧に変換を行って出力する。受電用電源部21は、溶接電源装置1から供給される電力を蓄積するコンデンサ、コンデンサから電力伝送線51,52に電流が逆流するのを防ぐためのダイオード、制御部22、送給モータ24およびガス電磁弁25に出力する電圧を調整するためのDC/DCコンバータを備えている。なお、受電用電源部21の構成は、上記したものに限定されない。
制御部22は、ワイヤ送給装置2の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部22は、溶接トーチ3に設けられている図示しないトーチスイッチより入力される起動のための操作信号に応じて、溶接電源装置1の溶接用電源部11を起動するための起動信号を通信部23に出力する。また、図示しない操作部より入力される溶接条件を変更するための操作信号に応じて、図示しない記憶部に記憶されている溶接条件を変更する。また、制御部22は、通信部23より入力される溶接電圧または溶接電流の検出値を、図示しない表示部に出力して表示させたり、通信部23より入力される異常発生を示す信号に基づいて、報知部28に異常の報知(例えば、スピーカによる警告音や振動による報知)をさせたりする。また、制御部22は、通信部23からワイヤ送給指令を入力されると、送給モータ24にワイヤ電極の送給を行わせて、溶接トーチ3にワイヤ電極を送り出す。また、通信部23からガス供給指令を入力されると、ガス電磁弁25を開放して、ガスボンベ6のシールドガスを溶接トーチ3の先端から放出させる。
また、制御部22は、ワイヤ送給装置2の通信相手となる溶接電源装置1を特定するために、ペアリング処理を行う。本実施形態においては、制御部22は、ペアリング処理として、電圧比較部27より入力される電圧低下検出信号(後述)に基づいて識別情報を復元し、記憶部に設定する。識別情報を伝達する方法の詳細については後述する。なお、制御部22が、本発明の「受信制御部」に相当する。
また、制御部22は、切替部16および電圧比較部27を利用した通信(後述)における通信異常を、電圧比較部27より入力される電圧低下検出信号に基づいて検出する。通信異常には、例えば、電圧低下検出信号に含まれる誤り検出データに基づくチェックサムエラーなどがある。制御部22は、通信異常を検出した場合には、報知部28に報知させると同時に、記憶部に記憶する。記憶部には、各通信異常に対して、識別情報である異常番号と異常名、異常に対する対処法であるトラブルシューティング情報などを設定したテーブルが記憶されている。制御部22は、検出した通信異常についての情報を当該テーブルから読み出して、報知部28に出力する。報知部28は、入力された情報の報知を行う。また、制御部22は、検出した通信異常についての情報、例えば異常番号と発生時刻を記憶部に出力して記憶させる。なお、制御部22が、本発明の「異常検出部」に相当する。
通信部23は、電力伝送線51,52を介して、溶接電源装置1との間で通信を行うためのものである。通信部23は、溶接電源装置1から受信した信号を復調して、制御部22に出力する。溶接電源装置1から受信する信号には、例えば、溶接電源装置1においてセンサで検出された溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号、ワイヤ送給指令やガス供給指令などのための信号などがある。また、通信部23は、制御部22から入力される信号を変調して、通信信号として溶接電源装置1に送信する。溶接電源装置1に送信する信号には、例えば、溶接条件を設定するための信号や、溶接用電源部11の起動を指示する起動信号などがある。なお、溶接電源装置1との間で送受信される信号は、上記したものに限定されない。通信部23も、通信部14と同様に、直接スペクトル拡散通信方式を用いて通信を行う。
通信部23は、結合回路を備えている。当該結合回路は、電力伝送線51,52に並列接続されたコイルと通信部23の入出力端に接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えており、通信部23が出力する通信信号を電力伝送線51,52に重畳し、また、電力伝送線51,52に重畳された通信信号を検出する。
送給モータ24は、溶接トーチ3にワイヤ電極の送給を行うものである。送給モータ24は、制御部22からのワイヤ送給指令に基づいて回転し、送給ローラを回転させて、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出す。
ガス電磁弁25は、ガスボンベ6と溶接トーチ3とを接続するガス配管7に設けられており、制御部22からのガス供給指令に基づいて開閉される。制御部22からガス供給指令が入力されている間、ガス電磁弁25は開放され、溶接トーチ3へシールドガスの供給が行われる。一方、制御部22からガス供給指令が入力されていないときは、ガス電磁弁25は閉鎖され、溶接トーチ3へのシールドガスの供給が停止される。
電圧センサ26は、受電用電源部21の入力端子間の電圧を検出するものである。なお、電圧センサ26は、受電用電源部21のコンデンサの端子間電圧を検出するようにしてもよい。電圧センサ26は、検出した電圧を電圧比較部27に出力する。
電圧比較部27は、電圧センサ26より入力される検出電圧Vを所定の閾値V0と比較して、受電用電源部21の電圧が低下していることを検出するものである。閾値V0は、電圧低下を判断するために設定された電圧値であり、送電用電源部12より印加される電圧(例えば48V)と0Vとの間の電圧値が設定される。閾値V0として大きい値を設定すると、電圧低下を速く検出することができるが、誤検出する可能性が高くなる。一方、閾値V0として小さい値を設定すると、電圧低下を誤検出する可能性が低くなるが、検出が遅くなる。本実施形態では、閾値V0として例えば30〜40Vの値が設定されている。電圧比較部27は、比較結果を電圧低下検出信号として、制御部22に出力する。電圧比較部27は、検出電圧Vが所定の閾値V0以上の場合、電圧は低下していないと判断して、電圧低下検出信号をローレベルとする。一方、検出電圧Vが所定の閾値V0より小さい場合、電圧が低下していると判断して、電圧低下検出信号をハイレベルとする。制御部22は、電圧比較部27より入力される電圧低下検出信号に基づいて、識別情報を復元して記憶部に設定する。本実施形態においては、電圧センサ26および電圧比較部27が、本発明の「識別部」に相当する。
報知部28は、操作者に対して報知を行うものであり、制御部22から入力される情報に基づいて報知を行う。報知部28は、図示しない表示装置を備えており、制御部22から入力される情報を表示装置に表示させる。なお、報知部28は、表示装置に代えて、または、加えて、スピーカやブザーを備えていてもよい。この場合、報知部28は、制御部22から入力される情報に基づいて、音声により報知を行う。例えば、報知部28は、制御部22から通信異常についての情報(例えば、異常番号、異常名、トラブルシューティング情報など)を入力された場合、表示装置にこれらの情報を表示して、ブザー音を鳴らすことで異常の発生を報知する。なお、LEDの点滅によって異常の発生を報知するようにしてもよいし、7セグメントディスプレイによって異常番号を報知するようにしてもよい。報知部28がどの様なデバイスを用いて報知を行うかは限定されない。
受電用電源部21、制御部22、通信部23、電圧センサ26、電圧比較部27および報知部28をまとめたものが、本発明の「第2の通信装置」に相当する。なお、ワイヤ送給装置2が、本発明の「第2の通信装置」に相当すると考えることもできる。また、ワイヤ送給装置2は、本発明の「溶接周辺装置」に相当する。
次に、ペアリング処理について説明する。
ペアリング処理は、通信相手を特定するための処理であり、共通の識別情報をそれぞれに設定するものである。送信側が送信する信号に当該識別情報を付与して送信し、受信側が当該識別情報が付与された信号だけを処理することで、通信相手以外から送信されて混信により受信した信号を排除することができる。上述したように、本実施形態では、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とは、電力伝送線51,52によって接続されており、電力伝送線51,52の間に信号を重畳させて通信を行う。溶接作業が行われる現場には複数の溶接システムA1が存在し、電力伝送線51が配置されたガス配管7や、電力伝送線52の一部であるパワーケーブル41は、束ねて配置される場合がある。この場合、磁気結合により、他の溶接システムA1で送受信される信号が混信して重畳されてしまう場合がある。したがって、正確に通信を行うためには、ペアリング処理が必要になる。また、無線通信を行う場合は、接続された接続線で通信を行わないので、ペアリング処理を行わないと通信が成り立たない。
2つの機器をペアリングする場合、一方の機器の識別情報を他方の機器に設定する。しかし、当該識別情報を通信によって送信する場合、2つの機器はペアリングされる前なので、混信が発生しうる。つまり、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とがペアリングされる前の状態で、通信部14から通信部23に識別情報を送信しても、混信により正しく伝達されない場合がある。誤って別のワイヤ送給装置2が識別情報を受信してしまうと、溶接電源装置1が別のワイヤ送給装置2とペアリングされてしまうことになる。これを防ぐために、本実施形態では、混信が発生しない、別の通信手法で、識別情報の送信を行う。具体的には、溶接電源装置1は、切替部16によるスイッチ15の切り替えを利用して、ワイヤ送給装置2に識別情報を送信する。そして、ワイヤ送給装置2は、電圧比較部27より出力される比較結果に基づいて、識別情報を受信する。
まず、切替部16によるスイッチ15の切り替えと、電圧比較部27での比較によって、信号が送受信できることを説明する。
図4は、スイッチ15の切り替えによって溶接電源装置1がワイヤ送給装置2に情報を伝達するときの、各信号の波形を示すタイムチャートである。
図4(a)は、制御部13が切替部16に出力する送信信号の一例を示している。図4(a)においては、時刻t1のときにハイレベルとなり、時刻t3のときにローレベルになるパルス信号を例としている。
図4(b)は、スイッチ15の状態を示している。図4(b)に示すように、スイッチ15は、送信信号がローレベルの間はオン状態であり、送信信号がハイレベルの間はオフ状態になっている。つまり、スイッチ15は、時刻t1のときにオフ状態に切り替えられ、時刻t3のときにオン状態に切り替えられている。
図4(c)は、電圧センサ26が検出した検出電圧Vを示している。図4(d)は、電圧比較部27が出力する電圧低下検出信号を示している。
時刻t1までは、スイッチ15がオン状態なので、電力伝送線52が導通状態になっている。したがって、送電用電源部12が出力する電圧が受電用電源部21に印加されて、電圧センサ26の検出電圧Vは所定の電圧(例えば48V)になっている。このとき、検出電圧Vは所定の閾値V0以上なので、電圧低下検出信号はローレベルになっている。
時刻t1において、スイッチ15がオフ状態に切り替えられている。このため、電力伝送線52が遮断状態になり、受電用電源部21に電圧が印加されなくなるので、電圧センサ26の検出電圧Vは低下している。時刻t2において、検出電圧Vが閾値V0より小さくなったので、電圧低下検出信号はハイレベルになっている。
検出電圧Vは、その後も低下するが、時刻t3でスイッチ15がオン状態に切り替えられたことで、上昇に転じている。スイッチ15をオフ状態とする時間、すなわち、送信信号のハイレベル期間は、受電用電源部21の電圧(検出電圧V)が、制御部22を駆動できるレベルを維持できるように、設定されている。つまり、ハイレベル期間は、送電用電源部12から受電用電源部21に電圧が印加されなくなってから、受電用電源部21の電圧が制御部22を駆動できる最低限の電圧になるまでの時間より短く設定されている。
そして、時刻t4において、検出電圧Vが閾値V0以上になったので、電圧低下検出信号はローレベルになっている。検出電圧Vは、その後も上昇して、所定の電圧になり、当該電圧が維持されている。
以上のように、溶接電源装置1の制御部13が切替部16に出力した送信信号に応じた波形の信号が、ワイヤ送給装置2の制御部22に電圧低下検出信号として入力される。電圧低下検出信号は、ローレベルからハイレベルに切り替わる立ち上がりのタイミングが送信信号より遅く、ハイレベルからローレベルに切り替わる立ち下がりのタイミングが送信信号とほぼ同じであるパルス波形になっている。受電用電源部21のコンデンサの容量が小さい場合や、閾値V0が大きい場合、電圧低下検出信号は、送信信号と同様の波形になる。このように、切替部16によるスイッチ15の切り替えと電圧比較部27での比較によって、溶接電源装置1の制御部13が出力する送信信号を、ワイヤ送給装置2の制御部22に電圧低下検出信号として伝達することができる。
図5は、溶接電源装置1がワイヤ送給装置2にペアリングのための識別情報の伝達を行うときの、各信号の波形を示すタイムチャートである。
図5(a)は、制御部13が切替部16に出力する送信信号を示している。当該送信信号は、識別情報信号、送信開始信号および送信終了信号を有している。
識別情報信号は、識別情報を2進数のデータとし、誤り検出データを付加したビットデータに基づいて生成される。本実施形態では、誤り検出データとして、巡回冗長符号(Cyclic Redundancy Check:CRC)を用いている。識別情報は16ビットの情報であり、誤り検出データも16ビットの情報としているので、識別情報信号は32ビットの情報になる。なお、誤り検出データは巡回冗長符号に限定されず、例えば、チェックサムデータやパリティ符号などであってもよい。また、誤り検出データを付加せずに、識別情報の16ビットのみに基づいて識別情報信号を生成してもよい。本実施形態においては、ローレベル期間の長さを切り替えたパルス信号を識別情報信号としている。制御部13は、ビットデータが「0」の場合にローレベル期間を短くし(例えば200ms)、ビットデータが「1」の場合にローレベル期間を長くして(例えば400ms)、識別情報信号を生成する。図5(a)に示す識別情報信号は、「00010010…0」を示している。なお、識別情報信号は、ビットデータに基づいてハイレベル期間の長さを切り替えたパルス信号としてもよいし、デューティ比を切り替えたパルス信号としてもよい。また、本実施形態においては、識別情報として、溶接電源装置1に設定されているMACアドレスの下位16ビットを用いている。なお、識別情報は、溶接電源装置1を特定できるものであればよく、ユーザが任意に設定した番号でもよいし、溶接電源装置1の製造番号やシリアル番号などとしてもよい。
送信開始信号は、識別情報信号の送信を開始することを知らせるための信号であり、識別情報信号を送信する直前に送信される。本実施形態では、所定時間(例えば1s)のハイレベル信号としている。
送信終了信号は、識別情報信号の送信が終了したことを知らせるための信号であり、識別情報信号を送信した直後に送信される。本実施形態では、所定時間(例えば1s)のハイレベル信号としている。
図5(a)に示すように、識別情報信号を送信開始信号と送信終了信号とで挟んだ信号が送信信号として、制御部13から切替部16に入力される。
図5(b)は、スイッチ15の状態を示している。図5(b)に示すように、スイッチ15は、送信信号がローレベルの間はオン状態であり、送信信号がハイレベルの間はオフ状態になっている。つまり、識別情報のビットデータが「0」の場合にスイッチ15のオン状態が短くなり、ビットデータが「1」の場合にスイッチ15のオン状態が長くなっている。また、送信開始信号および送信終了信号が入力されている間は、スイッチ15はオフ状態となっている。
図5(c)は、電圧センサ26が検出した検出電圧Vを示している。図5(d)は、電圧比較部27が出力する電圧低下検出信号を示している。図4で説明したように、スイッチ15がオフ状態に切り替えられると検出電圧Vは低下し、スイッチ15がオン状態に切り替えられると検出電圧Vは上昇する。そして、電圧比較部27は、検出電圧Vが所定の閾値V0より小さい場合に、電圧低下検出信号をハイレベルとする。スイッチ15のオン状態が短い場合は、検出電圧Vが閾値V0以上となる時間が短くなるので、電圧低下検出信号のローレベル期間が短くなる。一方、スイッチ15のオン状態が長い場合は、検出電圧Vが閾値V0以上となる時間が長くなるので、電圧低下検出信号のローレベル期間が長くなる。また、送信開始信号および送信終了信号によってスイッチ15がローレベルとなっている期間に応じて、電圧低下検出信号にも、ハイレベルが継続して表れる。つまり、電圧低下検出信号は、送信信号と同様の波形になる。
制御部22は、電圧比較部27より入力される電圧低下検出信号に基づいて、識別情報を復元することができる。制御部22は、電圧低下検出信号として所定の長さのハイレベル信号が入力されると、続いて識別情報信号に対応する電圧低下信号が入力されることを認識する。そして、次に、所定の長さのハイレベル信号が入力されると、識別情報信号に対応する電圧低下信号の入力が終了したと判断する。制御部22は、当該2つのハイレベル信号に挟まれて入力される信号を、識別情報信号に対応する信号として、当該信号から識別情報を復元する処理を行う。つまり、制御部22は、識別情報信号に対応する信号のローレベル期間の長さに基づいて、識別情報のビットデータを復元する。例えば、制御部22は、ローレベル期間の長さを所定の閾値(例えば250〜350ms)と比較して、閾値以上の場合は「1」と判断し、閾値未満の場合は「0」と判断する。
このようにして識別情報を受信したワイヤ送給装置2は、当該識別情報を記憶部に記憶して、通信部23から通信部14に、識別情報を受信した旨の信号を送信する。このとき、通信部23は、送信する信号に当該識別情報を付与して送信できるので、混信は発生しない。溶接電源装置1が識別情報を受信した旨の信号を受信することで、ペアリング処理が完了する。
次に、本実施形態に係る通信システムの作用および効果について説明する。
本実施形態によると、切替部16は、制御部13より入力される送信信号がローレベルの場合にスイッチ15をオン状態とし、ハイレベルの場合にスイッチ15をオフ状態とする。オン状態では電力伝送線52が導通状態になるので、受電用電源部21は、送電用電源部12から電圧を印加される。一方、オフ状態では電力伝送線52が遮断状態になるので、受電用電源部21に電圧が印加されなくなる。電圧比較部27は、電圧センサ26が検出した検出電圧Vを閾値V0と比較して、受電用電源部21が電圧低下状態である場合にハイレベルとなる電圧低下検出信号を生成する。電圧低下検出信号は、送信信号に応じた波形になる。したがって、溶接電源装置1の通信部14とワイヤ送給装置2の通信部23とでペアリングが確立する前であっても、溶接電源装置1は、送信信号を電圧低下検出信号として、ワイヤ送給装置2に伝達することができる。また、溶接電源装置1は、溶接電源装置1の識別情報を、通信部14および通信部23による通信を用いずに、ワイヤ送給装置2に伝達することができるので、ペアリング処理が失敗することを抑制することができる。
また、本実施形態によると、識別情報信号の直前に送信開始信号が送信される。したがって、ワイヤ送給装置2の制御部22は、識別情報信号に対応する信号の開始点を認識することができる。したがって、通信の信頼性を向上させることができる。また、識別情報信号の直後に送信終了信号が送信される。したがって、制御部22は、識別情報信号に対応する信号の終了点を認識することができる。したがって、通信の信頼性をさらに向上させることができる。
本実施形態によると、識別情報信号には誤り検出データが含まれている。したがって、制御部22は、電圧比較部27より入力される電圧低下検出信号に基づいて復元した識別情報の整合性を、誤り検出データによって確認することができる。これにより、溶接ノイズなどの影響で、誤った情報を受信してしまうことを防止することができる。したがって、通信の信頼性が向上する。
本実施形態によると、制御部22は、切替部16および電圧比較部27を利用した通信における通信異常を検出する。そして、制御部22は、通信異常を検出した場合には、通信異常が発生したこと、検出した通信異常を識別するための情報、および、トラブルシューティング情報を、報知部28に報知させる。したがって、操作者は、通信異常が発生したこと、発生した通信異常の種類、および、発生した通信異常への対処方法を知ることができる。また、制御部22は、検出した通信異常についての情報、例えば異常番号と発生時刻を記憶部に出力して記憶させる。したがって、通信異常の履歴を、後で確認することができる。
なお、本実施形態においては、識別情報信号の直後に送信終了信号を送信する場合について説明したが、これに限られない。送信終了信号を送信しないようにしてもよい。
本実施形態においては、送信開始信号および送信終了信号を、所定時間のハイレベル信号とした場合について説明したが、これに限られない。送信開始信号および送信終了信号は、識別情報信号と区別できるものであればよい。例えば、ハイレベル信号に続く所定時間のローレベル信号を送信開始信号としてもよい。この場合、スイッチ15は、オン状態から一旦、オフ状態に切り替えられて、その後所定時間のオン状態が継続することになる。また、送電用電源部12の出力電圧を変更できる場合は、電圧を変更することを送信開始信号としてもよい。例えば、通常48Vのところ、60Vに変化させることを送信開始信号としてもよい。この場合、電圧比較部27は、閾値V0とは別に閾値を設けて、48Vと60Vとを識別する必要がある。なお、送信開始信号および送信終了信号は、同じ信号であってもよいし、異なる信号であってもよい。
本実施形態においては、識別情報が2進数のデータであって、「1」と「0」とを識別情報信号のローレベル期間の長短で表しているが、これに限られない。例えば、識別情報を10進数のデータとして、識別情報信号のローレベル期間の長さを10段階で切り替えるようにしてもよい。
本実施形態においては、ペアリングのための識別情報を送信する場合について説明したが、これに限られない。ペアリングのための識別情報以外の情報を送信するようにしてもよい。制御部13が当該情報に基づく信号を切替部16に出力すれば、切替部16による切り替えに応じて、電圧比較部27より出力される電圧低下検出信号が変化するので、制御部13は制御部22に、任意の情報を混信することなく伝達することができる。したがって、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2への片側通信だけを行う場合は、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2がそれぞれ通信部14および通信部23を備えないようにして、切替部16による切り替えと電圧比較部27による比較だけで、情報の伝達を行うようにしてもよい。
本実施形態においては、電力伝送線52の一部の区間がパワーケーブル41になっている場合について説明したが、これに限られない。電力伝送線52の一部の区間がパワーケーブル42になっていてもよい。また、電力伝送線52が、送電用電源部12と受電用電源部21とを直接接続するようにしてもよい。また、電力伝送線51がガス配管7の内側に配置されている場合について説明したが、これに限られない。電力伝送線51は、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2との間でむき出しになっていてもよい。また、本実施形態においては、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とが、電力伝送線51,52の間に信号を重畳させて通信を行う場合について説明したが、これに限られない。パワーケーブル41,42の間に信号を重畳させて通信を行うようにしてもよいし、無線通信で通信を行うようにしてもよい。
図6〜図9は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記第1実施形態と同一または類似の要素には、上記第1実施形態と同一の符号を付している。
図6は、第2実施形態に係る溶接システムA2の構成を示す図である。なお、図6においては、溶接電源装置1の記載を省略している。
図6に示す溶接システムA2は、電圧センサ26および電圧比較部27に代えて、電流センサ26’および電流比較部27’を備えている点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
電流センサ26’は、電力伝送線51または電力伝送線52に流れる電流を検出するものである。電流センサ26’は、検出した電流を電流比較部27’に出力する。電流比較部27’は、電流センサ26’より入力される検出電流Iを所定の閾値I0と比較して、電力伝送線51,52に電流が流れているか否かを検出するものである。閾値I0は、電流が流れているか否かを判断するために設定された電流値であり、検出誤差を排除するために設けられている。スイッチ15がオン状態の場合、電力伝送線52が導通状態になっており、電力伝送線51,52には電流が流れる。一方、スイッチ15がオフ状態の場合、電力伝送線52が遮断状態になっており、電力伝送線51,52には電流が流れない。電流比較部27’は、比較結果を電流未検出信号として、制御部22に出力する。電流比較部27’は、検出電流Iが閾値I0未満の場合、電流が流れていないと判断して、電流未検出信号をハイレベルとする。一方、検出電流Iが閾値I0以上の場合、電流が流れていると判断して、電流未検出信号をローレベルとする。電流未検出信号は、制御部13が切替部16に出力する送信信号に応じた波形(同様の波形)になる。電流センサ26’および電流比較部27’は、本発明の「識別部」に相当する。
第2実施形態によると、溶接電源装置1の通信部14とワイヤ送給装置2の通信部23とでペアリングが確立する前であっても、溶接電源装置1は、送信信号を電流未検出信号として、ワイヤ送給装置2に伝達することができる。したがって、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
なお、ワイヤ送給装置2は、受電用電源部21に電圧が印加されているか否かを識別することができればよい。したがって、ワイヤ送給装置2が、電圧センサ26(電流センサ26’)の代わりに、例えば、電力センサを備えて、受電用電源部21に電力が供給されているか否かを識別するようにしてもよい。
図7は、第3実施形態に係る溶接システムA3の構成を示す図である。なお、図7においては、ワイヤ送給装置2の記載を省略している。
図7に示す溶接システムA3は、スイッチ15および切替部16を備えておらず、制御部13が送電用電源部12の出力電圧を切り替える点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
制御部13は、送信信号に応じて、送電用電源部12のDC/DCコンバータ回路122の出力を切り替える。具体的には、制御部13は、送信信号がローレベルの間は、DC/DCコンバータ回路122の出力が所定の電圧(例えば48V)となるように制御し、送信信号がハイレベルの間は、DC/DCコンバータ回路122の出力が0Vとなるように制御する。つまり、第3実施形態に係る溶接電源装置1は、スイッチ15で電力伝送線52を遮断状態にする代わりに、送電用電源部12の出力電圧を「0」にする。DC/DCコンバータ回路122は、本発明の「切替部」に相当する。
第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第3実施形態に係る溶接電源装置1は、スイッチ15および切替部16を備えていない。したがって、従来の溶接電源装置のハードウエアを変更することなく、ソフトウエアを変更するだけで、第3実施形態に係る溶接電源装置1として用いることができる。
なお、第3実施形態においては、制御部13が、DC/DCコンバータ回路122の出力を、所定の電圧(例えば48V)と0Vとで切り替える場合について説明したが、これに限られない。例えば、制御部13が、DC/DCコンバータ回路122の出力を、所定の第1電圧(例えば48V)と所定の第2電圧(例えば24V)とで切り替えるようにしてもよい。電圧比較部27で比較するための閾値V0は、第1電圧と第2電圧との間の電圧値を設定すればよい(例えば36V程度)。この場合、受電用電源部21には電圧が印加され続けるので、電圧が低下し過ぎることを防止することができる。
上記第1〜3実施形態においては、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続する電力伝送線51,52を用いる場合について説明したが、これに限られない。ワイヤ送給装置2が溶接電源装置1から電力を供給されない溶接システムは、電力伝送線51,52を備えていない。この場合は、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続する他の接続線を利用すればよい。以下では、溶接トーチ3に設けられているトーチスイッチが制御線によって溶接電源装置1に接続されている溶接システムにおいて、当該制御線を利用する場合について、第4実施形態として以下に説明する。
図8は、第4実施形態に係る溶接システムA4の全体構成を示す図である。なお、図8においては、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2の内部構成の一部、ガスボンベ6およびガス配管7の記載を省略している。
図8に示す溶接システムA4は、ワイヤ送給装置2が溶接電源装置1から電力を供給されていない点と、トーチスイッチ31からの操作信号が制御線8を介して溶接電源装置1に直接入力される点とで、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
トーチスイッチ31は、溶接トーチ3に設けられており、ワイヤ送給装置2の内部を通る制御線8によって、溶接電源装置1の制御部13に接続されている。操作者によるトーチスイッチ31の操作による起動信号が、制御線8を介して溶接電源装置1の制御部13に入力される。制御部13は、制御線8に小さな電圧を印加しており、電流が流れたか否かでトーチスイッチ31のオンオフを検出する。本実施形態におけるトーチスイッチ31は、本発明の「制御スイッチ」に相当する。
本実施形態において、スイッチ15は、制御線8に配置されており、制御線8を導通させる状態(オン状態)と制御線8を遮断する状態(オフ状態)とを切り替える。スイッチ15がオン状態の場合、制御線8には電圧が印加され、スイッチ15がオフ状態の場合、制御線8には電圧が印加されない。また、電圧センサ26は、制御線8に配置されており、制御線8に印加されている電圧を検出する。電圧比較部27は、電圧センサ26より入力される検出電圧Vを所定の閾値V0と比較して、制御線8に電圧が印加されているか否かを検出して、検出結果の信号を制御部22に出力する。本実施形態においては、制御線8が、本発明の「接続線」に相当する。
第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。なお、ワイヤ送給装置2が電力伝送線51,52によって溶接電源装置1から電力を供給されている場合でも、制御線8を利用するようにしてもよい。また、利用する制御線は、トーチスイッチ31の制御線8に限定されない。例えば、ワイヤ送給装置2に設けられている溶接電流(電圧)設定部と溶接電源装置1とを接続する制御線や、インチングスイッチと溶接電源装置1とを接続する制御線などを利用するようにしてもよい。また、ワイヤ送給装置2にリモコンが接続されており、溶接電流(電圧)設定部またはインチングスイッチが当該リモコンに設けられている場合、溶接電流(電圧)設定部またはインチングスイッチと溶接電源装置1とを接続する制御線を利用するようにしてもよい。これらの場合、溶接電流(電圧)設定部またはインチングスイッチが本発明の「制御スイッチ」に相当し、制御線が本発明の「接続線」に相当する。
上記第1〜4実施形態においては、溶接電源装置1がワイヤ送給装置2と通信を行う場合について説明したが、これに限られない。溶接電源装置1が他の周辺装置と通信する場合にも、本発明を適用することができる。以下では、溶接電源装置1を遠隔操作するためのリモコン9と溶接電源装置1とが通信を行う場合について、第5実施形態として以下に説明する。
図9は、第5実施形態に係る溶接システムA5の全体構成を示す図である。なお、図9においては、ワイヤ送給装置2、ガスボンベ6およびガス配管7の記載を省略している。
図9に示す溶接システムA5は、リモコン9を備えている。リモコン9は、溶接電源装置1を遠隔操作するものであり、受電用電源部21、制御部22、通信部23、電圧センサ26、電圧比較部27および報知部28を備えている。リモコン9は、駆動のための電力を、溶接電源装置1から供給される。リモコン9の受電用電源部21と溶接電源装置1の送電用電源部12とは、電力伝送線51,52によって接続されている。送電用電源部12から出力される電力は、電力伝送線51,52によって、受電用電源部21に供給される。また、溶接電源装置1とリモコン9とは、電力伝送線51,52の間に信号を重畳させて通信を行う。受電用電源部21、制御部22、通信部23、電圧センサ26、電圧比較部27および報知部28は、それぞれ、第1実施形態に係るワイヤ送給装置2の受電用電源部21、制御部22、通信部23、電圧センサ26、電圧比較部27および報知部28と同様のものである。なお、リモコン9は、実際には、操作部などを備えているが、図9においては記載を省略している。リモコン9は、本発明の「第2の通信装置」に相当する。
第5実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。なお、リモコン9以外の周辺装置(例えば溶接トーチ3、溶接トーチ3に循環させる冷却水を制御する冷却水循環装置、ガスボンベ6のガスの供給を制御する装置など)と溶接電源装置1とが通信する場合にも、同様に、本発明を適用することができる。これらの場合、各周辺装置は、本発明の「第2の通信装置」に相当する。
上記第1〜5実施形態においては、本発明を溶接システムに適用した場合について説明したが、これに限られない。その他の通信を行うシステムにおいても、本発明を適用することができる。
本発明に係る通信システムおよび溶接システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る通信システムおよび溶接システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。