JP6863054B2 - 二次電池システム - Google Patents

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Description

本開示は、二次電池システムに関し、より特定的には、リチウムイオンを含む電解液に含浸された電極体を有する二次電池(リチウムイオン二次電池)の劣化度合いを推定するための技術に関する。
近年、ハイブリッド車両、電気自動車等の電動車両の普及に伴い、リチウムイオン二次電池を走行用バッテリとして備えた二次電池システムが広く普及している。一般に、リチウムイオン二次電池(以下「二次電池」とも略す)においては、充放電(充電または放電)の際に電極体内のリチウムイオンの濃度分布(以下、「塩濃度分布」とも略す)に偏りが生じ、それにより二次電池の内部抵抗が増加することが知られている。塩濃度分布の偏りは大電流での充放電時に特に顕著となることから、このような劣化は「ハイレート劣化」とも称される。
ハイレート劣化の度合い(進行度合い、以下、「ハイレート劣化度」とも称する)に応じてリチウムイオン二次電池の充放電を適切に制御するため、ハイレート劣化度を推定するための技術が提案されている。たとえば特開2013−044580号公報(特許文献1)には、二次電池の内部抵抗増加率を算出し、算出された内部抵抗増加率と、予め取得した二次電池の経年劣化による内部抵抗増加率との差を求めることにより、ハイレート劣化度を推定する技術が開示されている。
特開2013−044580号公報 特開2016−065832号公報
二次電池のハイレート劣化度に応じて二次電池の充放電を制御することにより、二次電池のハイレートのさらなる進行を抑制(防止)することができる。たとえば、ハイレート劣化度が所定値以上になった場合(より厳密には、ハイレート劣化に至る前の微小な変化が検出された場合)には、ハイレート劣化度が所定値未満の場合(上記微小な変化が検出されていない場合)と比べて、二次電池の充放電電流を抑制する。これにより、ハイレート劣化のさらなる進行を抑制することができる。
上述のように、特許文献1では、二次電池の内部抵抗増加率と、二次電池の経年劣化による内部抵抗増加率とが算出される。特許文献1によれば、二次電池の内部抵抗増加率(全体としての内部抵抗増加率)とは、経年劣化による内部抵抗増加率と、ハイレート劣化による内部抵抗増加率とが重ね合わされたものであるとの考えの下、二次電池の内部抵抗増加率(全体としての内部抵抗増加率)から経年劣化による内部抵抗増加率を減算することで、ハイレート劣化による内部抵抗増加率が推定されている(たとえば特許文献1の段落[0042]参照)。
しかしながら、特許文献1に開示された上述の推定手法は、いわばハイレート劣化度を間接的に推定する手法である。したがって、ハイレート劣化度の推定精度に向上の余地があり、ハイレート劣化を抑制する観点において改善の余地がある。
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、リチウムイオン二次電池を備えた二次電池システムにおいて、より適切にハイレート劣化を抑制することが可能な技術を提供することである。
本開示のある局面に従う二次電池システムは、二次電池と、温度センサと、測定装置と、制御装置とを備える。二次電池は、リチウムイオンを含む電解液に含浸された電極体を有する。温度センサは、二次電池の温度を検出する。測定装置は、二次電池の交流インピーダンスを測定可能に構成される。制御装置は、電極体内においてリチウムイオンの濃度分布が偏ることにより生じる二次電池の劣化(ハイレート劣化)を引き起こす要因を示すハイレート劣化トリガが所定値よりも大きい場合には、ハイレート劣化トリガが所定値よりも小さい場合と比べて、二次電池の充放電電流を抑制する。制御装置は、二次電池の初期状態における二次電池の直流抵抗を示す初期直流抵抗と、二次電池の温度との対応関係を記憶している。制御装置は、測定装置により測定された二次電池の交流インピーダンスの測定結果から二次電池の直流抵抗を取得する。制御装置は、取得された直流抵抗と、温度センサにより検出された温度に対応する初期直流抵抗との差を用いてハイレート劣化トリガを推定する。
上記構成によれば、交流インピーダンスの測定結果から二次電池の直流抵抗が取得される。また、上記対応関係(たとえばマップ)を参照することで、温度センサにより検出された温度に対応する初期直流抵抗が求められる。詳細は後述するが、直流抵抗と初期直流抵抗との差には、二次電池のハイレート劣化トリガが反映されている。そのため、上記の差を用いてハイレート劣化トリガを推定することにより、ハイレート劣化度の推定精度を向上させることができる。したがって、より適切にハイレート劣化を抑制することが可能になる。
本開示によれば、リチウムイオン二次電池を備えた二次電池システムにおいて、より適切にハイレート劣化を抑制することができる。
本実施の形態に係る二次電池システムが搭載されたハイブリッド車両の全体構成を概略的に示すブロック図である。 交流インピーダンス測定装置の構成をより詳細に示す図である。 交流インピーダンスの測定結果の複素インピーダンスプロットを説明するための図である。 複素インピーダンスプロット上の円弧へのハイレート劣化および経年劣化の影響を説明するための図である。 本実施の形態における初期状態マップの一例を示す図である。 本実施の形態におけるバッテリの劣化推定処理を示すフローチャートである。
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
以下に説明する実施の形態では、本開示に係る二次電池システムがハイブリッド車両に搭載された構成を例に説明する。しかし、本開示に係る二次電池システムが搭載可能な車両はハイブリッド車両に限定されず、電気自動車または燃料自動車であってもよい。また、本開示に係る二次電池システムの用途は車両用に限定されるものではなく、たとえば定置用であってもよい。
[実施の形態]
<二次電池システムの構成>
図1は、本実施の形態に係る二次電池システムが搭載されたハイブリッド車両の全体構成を概略的に示すブロック図である。車両9は、二次電池システム1と、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)910,920と、動力分割装置930と、エンジン940と、駆動輪950とを備える。二次電池システム1は、バッテリ10と、リレー20と、交流インピーダンス測定装置30と、システムメインリレー(SMR:System Main Relay)40と、電力制御ユニット(PCU:Power Control Unit)50と、電圧センサ61と、電流センサ62と、温度センサ63と、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)100とを備える。
モータジェネレータ910,920の各々は、たとえば三相交流回転電機である。モータジェネレータ910は、動力分割装置930を介してエンジン940のクランク軸に連結される。モータジェネレータ910は、エンジン940を始動させる際にはバッテリ10の電力を用いてエンジン940のクランク軸を回転させる。また、モータジェネレータ910はエンジン940の動力を用いて発電することも可能である。モータジェネレータ910によって発電された交流電力は、PCU50により直流電力に変換されてバッテリ10に充電される。また、モータジェネレータ910によって発電された交流電力は、モータジェネレータ920に供給される場合もある。
モータジェネレータ920は、バッテリ10からの電力およびモータジェネレータ910により発電された電力のうちの少なくとも一方を用いて駆動軸を回転させる。また、モータジェネレータ920は回生制動によって発電することも可能である。モータジェネレータ920によって発電された交流電力は、PCU50により直流電力に変換されてバッテリ10に充電される。
動力分割装置930は、たとえば遊星歯車機構(図示せず)を含み、エンジン940のクランク軸、モータジェネレータ910の回転軸、および、駆動軸の三要素を機械的に連結する。
エンジン940は、ガソリンエンジン等の内燃機関であり、ECU100からの制御信号に応じて車両9が走行するための駆動力を発生する。
バッテリ10は、複数のセル(単電池)を含む組電池である。複数のセルの各々は、リチウムイオン二次電池である。
リレー20は、バッテリ10と交流インピーダンス測定装置30との間に電気的に接続されている。リレー20は、ECU100からの制御指令に応答して、バッテリ10の交流インピーダンス測定時には閉成される一方で、バッテリ10の充放電時には開放される。
交流インピーダンス測定装置30は、ECU100からの制御指令に応答して、バッテリ10(より詳細には各セル)の交流インピーダンスを測定することが可能に構成されている。交流インピーダンス測定装置30の構成については、図2にてより詳細に説明する。なお、交流インピーダンス測定装置30は、本開示に係る「測定装置」に相当する。
SMR40は、バッテリ10とPCU50とを結ぶ電力線に電気的に接続されている。SMR40は、ECU100からの制御信号に応答して、開放/閉成される。SMR40が閉成されている場合、バッテリ10とPCU50との間で電力の授受が行なわれ得る。なお、SMR40は、二次電池システム1に必須の構成要素ではない。
PCU50は、いずれも図示しないが、インバータと、コンバータとを含む。インバータは、たとえば一般的な三相インバータである。コンバータは、昇圧動作時にはバッテリ10から供給された電圧を昇圧してインバータに供給する。コンバータは、降圧動作時にはインバータから供給された電圧を降圧してバッテリ10を充電する。
電圧センサ61は、バッテリ10の電圧VBを検出する。電流センサ62は、バッテリ10に入出力される電流IBを検出する。温度センサ63は、バッテリ10の温度TBを検出する。各センサは、その検出結果をECU100に出力する。ECU100は、各センサによる検出結果に基づいて、バッテリ10のSOC(State Of Charge)を推定したりバッテリ10の充放電を制御したりする。
ECU100は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入出力バッファとを含んで構成される。ECU100は、各センサから受ける信号、ならびにメモリに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両9が所望の状態となるように各構成要素(より具体的には、リレー20、交流インピーダンス測定装置30、SMR40およびPCU50)を制御する。ECU100により実行される主要な制御としてバッテリ10の劣化の度合いを推定するための処理が挙げられるが、この処理については図4〜図6にて詳細に説明する。
<交流インピーダンス測定>
図2は、交流インピーダンス測定装置30の構成をより詳細に示す図である。図2を参照して、交流インピーダンス測定装置30は、発振器31と、ポテンショスタット32と、ロックインアンプ33とを含む。
発振器31は、ポテンショスタット32およびロックインアンプ33に同位相の正弦波を出力する。
ポテンショスタット32は、発振器31からの正弦波と同位相の交流電圧(たとえば振幅が10mV程度の電圧)を所定の直流電圧に重ね合わせてバッテリ10に印加する。そして、ポテンショスタット32は、バッテリ10を流れる電流の交流成分を検出し、その検出結果をロックインアンプ33に出力する。また、ポテンショスタット32は、上述の交流電圧と電流の交流成分とを測定結果としてECU100に出力する。
ロックインアンプ33は、発振器31から受けた正弦波の位相と、ポテンショスタット32により検出された電流の交流成分の位相とを比較し、正弦波と交流成分との位相差を測定結果としてECU100に出力する。
一般に、リチウムイオン二次電池のインピーダンス(内部抵抗)は、リチウムイオン二次電池の充放電反応におけるリチウムイオンの移動反応過程に基づき、複数(たとえば3つ)のインピーダンス成分に大別することができる。複数のインピーダンス成分は、直流抵抗(オーミック抵抗)Rohmと、反応抵抗Rctと、拡散抵抗Rdとを含む。直流抵抗Rohmは、電解液中でのリチウムイオンの伝導抵抗と、電極(正極および負極)での電気抵抗を含む。反応抵抗Rctは、電極/電解質界面での電荷移動抵抗(リチウムイオンが活物質に出入りする際の抵抗)と、被膜抵抗を含む。拡散抵抗Rdは、活物質内部へのリチウムの拡散に伴う抵抗を含む。
バッテリ10の各インピーダンス成分の間では、緩和時間(電流が流れるのに要する時間)が異なる。そのため、たとえば、高周波の交流電圧をバッテリ10に印可した場合、緩和時間が小さいインピーダンス成分は交流電圧の変化に追従可能である一方で、緩和時間が大きいインピーダンス成分は、電流が流れる前に正負が逆の電圧が印加されることになるため、交流電圧の変化に追従することができない。したがって、発振器31から出力される正弦波の周波数(あるいは角周波数ω)を徐々に変化させながら(掃引しながら)、バッテリ10に印加される交流電圧とバッテリ10を流れる交流電流とを測定することによって、角周波数ωにおいて支配的なバッテリ10のインピーダンス成分を切り分けることができる。
ECU100は、掃引される角周波数ωの各々について、インピーダンス(交流電圧と電流との振幅比)を測定する。そして、ECU100は、インピーダンスの測定結果と、ロックインアンプ33により検出された位相差とを複素平面上にプロットする(図3にて後述)。
なお、図2に示した交流インピーダンス測定装置30の構成は、一例に過ぎず、これに限定されるものではない。交流インピーダンス測定装置30は、たとえば、ロックインアンプ33に代えて周波数応答解析器を含んでもよい。また、専用の発振器31を設けず、たとえば車両9の走行時に変動する電流の波形から電流の交流成分を測定してもよい。
図3は、交流インピーダンスの測定結果の複素インピーダンスプロット(ナイキストプロットとも称される)を説明するための図である。図3および後述する図4において、横軸は複素インピーダンスの実数成分ZReを示し、縦軸は複素インピーダンスの虚数成分−ZImを示す。角周波数ωは、ω1〜ω4(ω4<ω3<ω2<ω1)の範囲で掃引される。一例として、ω1=100kHzであり、ω2=20kHzであり、ω3=5Hzであり、ω4=100mHzである。
図3に示すように、複素インピーダンスプロット上においては、角周波数ωの高周波領域(角周波数ωがω2〜ω3(ω3以上かつω2以下)の領域)に半円状の軌跡、言い換えると「円弧」が現れる。この円弧において、周波数依存性のゼロ点との直交成分(点P参照)は、直流抵抗Rohmを表す。以下、点Pのことを「円弧の始点」とも称する。
また、角周波数ωの低周波領域(角周波数ωがω3〜ω4(ω4以上かつω3以下)の領域)には、直線状の軌跡(直線)が現れる。半円状の軌跡(円弧)と直線状の軌跡との接続点(点Q参照)と、点Pとの横軸上での距離(実数成分の差)は、反応抵抗Rctを表す。以下、点Qと点Pとの間の距離のことを「円弧の大きさ」とも称する。
本発明者は、直流抵抗Rohmが変化した場合、すなわち複素インピーダンスプロット上で円弧の始点の位置がシフトした場合、そのシフトがハイレート劣化のトリガ(要因、誘因、きっかけ)となり、ハイレート劣化の進行を示すことに着目した。また、複素インピーダンスプロット上で円弧の大きさにはハイレート劣化および経年劣化の両方が影響し得るところ、本発明者は、バッテリ10の電流IBの制限によりハイレート劣化の進行がある程度抑制されている場合には、円弧の大きさの変化が主に経年劣化の進行を示すことに着目した。なお、経年劣化(あるいは保存劣化)とは、バッテリ10の充放電を行なわずに保存した状態でも進行し得る劣化を意味する。以下、円弧へのハイレート劣化および経年劣化の影響について、より詳細に説明する。
図4は、複素インピーダンスプロット上の円弧へのハイレート劣化および経年劣化の影響を説明するための図である。まず、図4(A)を参照して、バッテリ10が劣化していない状態(たとえば、バッテリ10が製造された直後の初期状態)においては、円弧の始点(Xで示す)は、直流抵抗Rohmの初期値(以下、初期直流抵抗Rohm0とも記載する)を表す。円弧と直線との接続点(Yで示す)と、円弧の始点(X)との実数成分の差は、反応抵抗Rctの初期値(以下、初期反応抵抗Rct0とも記載する)を表す。
次に図4(B)を参照して、バッテリ10のハイレート劣化が進行すると、直流抵抗Rohmが増加する。これにより、図中に矢印で示すように、円弧の始点が図中右方向にシフトする(図4(B)ではRohmBで示す)。一方で、バッテリ10の経年劣化が比較的進行していない場合には、円弧の大きさ(RctBで示す)は、初期状態における円弧の大きさ(Rct0)からあまり変化しない(すなわち、RohmB≒Rohm0)。
その後、バッテリ10の経年劣化が進行すると、図4(C)に示すように、経年劣化の進行前と比べて、円弧の大きさが増加する(図4(C)では、RohmC>RohmB≒Rohm0)。なお、図4(C)に示す例では、図4(B)に示した状態から電流IBが制限(大電流での充放電が抑制)されることにより、ハイレート劣化の進行が抑制されている。このため、円弧の始点のシフトはほとんど生じていない(RohmC≒RohmB)。
なお、図4では、説明の簡略化のため、円弧の始点(図4(A)においてXで示す)から、円弧と直線との接続点(Yで示す)との間の実数成分の差(横軸上での距離)を円弧の大きさ(Rct0)とした。しかし、円弧を仮想的に延長した場合の円弧の延長分(点線で示す)と横軸との交点(図4(A)においてY’で示す)を曲線回帰により求めてもよい。そして、円弧の始点(X)と上記交点(Y’)との間の距離を円弧の大きさとすることができる。
このように、円弧の始点のシフト量、すなわち初期直流抵抗Rohm0からの直流抵抗Rohmのシフト量ΔRohm(=Rohm−Rohm0)を算出することにより、ハイレート劣化トリガを推定することができる。また、円弧の大きさの増加量、すなわち初期反応抵抗Rct0からの反応抵抗Rctの増加量ΔRct(=Rct−Rct0)を算出することにより、経年劣化の進行度合いを推定することができる。つまり、本実施の形態によれば、バッテリ10の交流インピーダンスの測定結果を用いることで、バッテリ10の劣化モード(ハイレート劣化であるか経年劣化であるか)を直接的に特定することが可能になる。
<初期状態マップ>
直流抵抗のシフト量ΔRohmの算出には初期直流抵抗Rohm0が既知であり、反応抵抗の増加量ΔRctの算出には初期反応抵抗Rct0が既知であることが求められるところ、初期直流抵抗Rohm0および初期反応抵抗Rct0には、温度依存性が存在する。そのため、本実施の形態では、バッテリ10の各温度TBにおいて、初期直流抵抗Rohm0および初期反応抵抗Rct0が予め測定され、その測定結果がマップとして準備される。このマップ(以下、「初期状態マップMP」と記載する)は、ECU100のメモリ(図示せず)に格納されている。
図5は、本実施の形態における初期状態マップMPの一例を示す図である。図5に示すように、初期状態マップMPには、バッテリ10の温度TBと、初期直流抵抗Rohm0と、初期反応抵抗Rct0との対応関係が規定されている。
本実施の形態では、初期状態マップMPにおいて、直流抵抗Rohmの変化がハイレート劣化に起因することが担保されるバッテリ10のSOC範囲が「有効SOC範囲」として定められている。バッテリ10のSOCが有効SOC範囲内にある場合に、直流抵抗Rohmがハイレート劣化に起因するものであることが担保される。詳細な説明は繰り返さないが、反応抵抗Rctについても同様に、バッテリ10のSOCが有効SOC範囲内にある場合に、反応抵抗Rctが経年劣化に起因するものであることが担保される。なお、有効SOC範囲は、事前の予備実験に基づいて定めることができる。
図5には、初期直流抵抗Rohm0と初期反応抵抗Rct0との両方が1つのマップ内に規定された例を示すが、初期直流抵抗Rohm0と初期反応抵抗Rct0とを別々のマップとして準備してもよい。また、有効SOC範囲の設定は必須ではない。
<劣化推定フロー>
図6は、本実施の形態におけるバッテリ10の劣化推定処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、所定条件が成立した場合あるいは所定の演算周期が経過する度に、図示しないメインルーチンから呼び出されて実行される。なお、このフローチャートに含まれる各ステップ(以下「S」と略す)は、基本的にはECU100によるソフトウェア処理によって実現されるが、その一部または全部がECU100内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。
図1および図6を参照して、S1において、ECU100は、電圧センサ61を用いてバッテリ10の電圧VBを取得する。さらに、ECU100は、電流センサ62を用いてバッテリ10の電流IBを取得するとともに、温度センサ63を用いてバッテリ10の温度TBを取得する。
S2において、ECU100は、S1にて取得された各情報に基づいてバッテリ10のSOCを推定する。SOCの推定手法には公知の手法を用いることができる。
S3において、ECU100は、初期状態マップMP(図5参照)を参照することによって、S2にて推定されたバッテリ10のSOCが有効SOC範囲内であるか否かを、S1にて取得されたバッテリ10の温度TBに基づいて判定する。バッテリ10のSOCが有効SOC範囲外である場合(S3においてNO)には、以降の処理をスキップして処理をメインルーチンへと戻す。
バッテリ10のSOCが有効SOC範囲内である場合(S3においてYES)、ECU100は、処理をS4に進め、バッテリ10の交流インピーダンスを測定するように交流インピーダンス測定装置30を制御する。そして、ECU100は、交流インピーダンスの測定結果から、バッテリ10の直流抵抗Rohmを取得する。直流抵抗Rohmの取得手法については図3および図4にて詳細に説明したため、ここでは説明は繰り返さない。
S5において、ECU100は、初期状態マップMPを参照することによって、バッテリ10の温度TBに対応する初期直流抵抗Rohm0を取得する。そして、ECU100は、S4にて取得された直流抵抗Rohmと、初期直流抵抗Rohm0との差を示すシフト量ΔRohm(=Rohm−Rohm0)を算出する(S6)。
S7において、ECU100は、シフト量ΔRohmが所定の基準値(本開示に係る「所定値」に相当)以上であるか否かを判定する。シフト量ΔRohmが基準値以上である場合(S7においてYES)、ECU100は、それ以上のハイレート劣化を抑制(防止)するため、バッテリ10の充放電電流を抑制する(S8)。たとえば、ECU100は、電流IBの最大値(電流IBの絶対値の最大値)を示す最大電流IBmaxをシフト量ΔRohmに応じて決定する。より具体的には、ECU100は、予め定められたマップまたは関係式に従って、シフト量ΔRohmが大きいほど最大電流IBmax(の絶対値)が小さくなるようにバッテリ10の充放電電流を抑制する。その後、ECU100は、処理をS9に進める。
なお、S7にてシフト量ΔRohmが基準値未満である場合(S7においてNO)には、ECU100は、ハイレート劣化はあまり進行していない(ハイレート劣化トリガはほとんど生じていない)として、S8の処理をスキップして処理をS9に進めることができる。
S9において、ECU100は、S4における交流インピーダンスの測定結果から、バッテリ10の反応抵抗Rctを取得する。反応抵抗Rctの取得手法についても図3および図4にて詳細に説明したため、説明は繰り返さない。
S10において、ECU100は、初期状態マップMPを参照することによって、バッテリ10の温度TBに対応する初期反応抵抗Rct0を取得する。そして、ECU100は、S9にて取得された反応抵抗Rctと、初期反応抵抗Rct0との差を示す増加量ΔRct(=Rct−Rct0)を算出する(S11)。
S12において、ECU100は、増加量ΔRctが所定の判定値以上であるか否かを判定する。増加量ΔRctが判定値以上である場合(S12においてYES)、ECU100は、それ以上の経年劣化を抑制するためのバッテリ10の充放電制御を実行する(S13)。たとえば、一般に、リチウムイオン二次電池は、高SOC領域で放置されると、中SOC領域または低SOC領域で放置された場合と比べて、経年劣化が進行しやすい。そのため、ECU100は、バッテリ10のSOCが所定値よりも高い場合には、バッテリ10のSOCが中SOC領域まで低下するようにバッテリ10を放電させる。その後、処理はメインルーチンへと戻される。
なお、S12にて増加量ΔRctが判定値未満である場合(S12においてNO)には、ECU100は、経年劣化の進行は比較的緩やかである(経年劣化はあまり進行していない)として、S13の処理をスキップして処理をメインルーチンへと戻すことができる。
以上のように、本実施の形態によれば、バッテリ10の交流インピーダンスの測定結果から、バッテリ10の直流抵抗Rohm(図3における点P参照)が取得される。また、初期状態マップMP(図5参照)を参照することで、温度センサ63により検出された温度TBに対応する初期直流抵抗Rohm0が求められる。そして、直流抵抗Rohmと初期直流抵抗Rohm0とのシフト量ΔRohmが算出され、このシフト量ΔRohmに基づいて、ハイレート劣化を抑制するための充放電電流の制御(S8)が実行される。シフト量ΔRohmを用いることにより、劣化モードを特定し、ハイレート劣化トリガを適切に考慮に入れることが可能になる。したがって、より適切にバッテリ10のハイレート劣化を抑制することができる。
なお、本実施の形態では、シフト量ΔRohmに基づいてハイレート劣化を抑制するための充放電電流の制御が実行される例について説明した。すなわち、「シフト量ΔRohm=ハイレート劣化トリガ」である例について説明した。しかし、シフト量ΔRohmを用いて他の指標値を算出し、その指標値をハイレート劣化トリガとして用いてもよい。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 二次電池システム、10 バッテリ、20 リレー、30 交流インピーダンス測定装置、31 発振器、32 ポテンショスタット、33 ロックインアンプ、40 SMR、50 PCU、61 電圧センサ、62 電流センサ、63 温度センサ、100 ECU、9 車両、910,920 モータジェネレータ、930 動力分割装置、940 エンジン、950 駆動輪。

Claims (1)

  1. リチウムイオンを含む電解液に含浸された電極体を有する二次電池と、
    前記二次電池の温度を検出する温度センサと、
    前記二次電池の交流インピーダンスを測定可能に構成された測定装置と、
    前記電極体内において前記リチウムイオンの濃度分布が偏ることにより生じる前記二次電池のハイレート劣化を引き起こす要因を示すハイレート劣化トリガが所定値よりも大きい場合には、前記ハイレート劣化トリガが前記所定値よりも小さい場合と比べて、前記二次電池の充放電電流を抑制する制御装置とを備え、
    前記制御装置は、
    前記二次電池の直流抵抗の変化が前記ハイレート劣化に起因することが担保される前記二次電池のSOC範囲と、前記二次電池の初期状態における前記二次電池の直流抵抗を示す初期直流抵抗と、前記二次電池の温度との対応関係を記憶しており、
    前記二次電池のSOCが前記SOC範囲内である場合に、
    前記測定装置により測定された前記二次電池の交流インピーダンスの測定結果から前記二次電池の直流抵抗を取得し、
    取得された直流抵抗と、前記温度センサにより検出された温度に対応する前記初期直流抵抗との差を用いて前記ハイレート劣化トリガを推定する、二次電池システム。
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