JP6853629B2 - 無機オキソ酸イオンの吸着方法 - Google Patents
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Description
そこで、本発明者らはより優れた吸着効率を示す鉱物を種々検討したところ、アカガネイト(赤金鉱)(Akaganeite)は、セレン酸や硫酸等の無機オキソ酸イオンに対して優れた吸着効率を示すことを見出した。
[2]セレンのオキソ酸イオン(A)と、セレン以外の無機オキソ酸イオン(B)とを含む水溶液を、アカガネイト以外のイオン吸着剤に接触させることにより、前記B成分の濃度を低減した一次処理液を得る第一工程と、前記一次処理液を、アルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩、並びに、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩から選ばれる1種以上の塩(S)と塩化鉄(III)を水に溶解させることにより、前記塩化鉄(III)と前記1種以上の塩(S)とのモル比が2:1〜1:3であり、かつpHが1〜3の水溶液中で電離したイオン同士を反応させて生成したアカガネイトに接触させることにより、前記A成分を前記アカガネイトに吸着させ、前記A成分の濃度を低減した二次処理液を得る第二工程と、を有することを特徴とする無機オキソ酸イオンの吸着方法。
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態は、セレンのオキソ酸イオン(以下、A成分という。)と、セレン以外の無機オキソ酸イオン(以下、B成分という。)とを含む水溶液を、アカガネイトに接触させることにより、前記A成分及び前記B成分を前記アカガネイトに吸着させる方法である。
図2は、上記トンネル構造を模式的に表した図である。図中、灰色丸は酸素原子を表し、白色丸は水素原子を表し、八面体の中央の丸は鉄原子を表し、トンネル内の黒色丸は、塩化物イオン及び水素イオンが同じ占有率(50:50)で存在することを示す。
前記水溶液に含まれるA成分は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
前記水溶液に含まれるB成分は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
ここで、オキソ酸とは、1つの無機原子に水酸基(−OH)及びオキソ基(=O)が結合しており、且つその水酸基のプロトンが脱離し得る無機化合物である。オキソ酸は水中では前記プロトンが脱離したオキソ酸イオンとなり得る。
前記水溶液に含まれるB成分の量としては、例えば、0.001〜1000mmol/L程度が挙げられる。
前記水溶液に含まれる、A成分とB成分の含有比は特に限定されず、例えばモル基準で、1:1000〜1000:1とすることができる。
前記水溶液にアカガネイトを添加し、無機オキソ酸イオンをアカガネイトに吸着させる際の処理中の前記水溶液(アカガネイト分散液)のpHは、10以下が好ましく、2以上9以下がより好ましく、3以上7以下がさらに好ましく、4以上6以下が特に好ましい。
処理中の前記水溶液のpHが9以下であると、アカガネイトの分解を防止し、アカガネイトによる目的の陰イオンの吸着力を高めることができる。
処理中の前記水溶液のpHが低いほど、アカガネイトの前記トンネル構造の中心を向く水酸基に結合するプロトンが増える。これにより前記トンネル構造内が負電荷を帯びることを抑制し、前記トンネル構造内に無機オキソ酸イオンをより容易に吸着させることができる。したがって、無機オキソ酸イオンの吸着力を高める観点から、処理中の前記水溶液のpHは、pH2〜5が好ましく、pH2〜4がより好ましく、pH2〜3がさらに好ましい。
処理中の前記水溶液のpHが4以上6以下であると、アカガネイト同士が凝集し易くなり、アカガネイトの回収が容易になる観点から好ましい。
前記水溶液のpHを調整する方法は特に限定されず、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、後述する1種以上の塩(S)を添加する方法が挙げられる。
上記温度範囲であると、アカガネイトによる無機オキソ酸イオンの吸着力を高めることができる。上記温度範囲の下限値以上であると、前記水溶液中における無機オキソ酸イオンの拡散速度が高まり、アカガネイトに接触して吸着する効率がより高められる。上記温度範囲の上限値以下であると、一度吸着した無機オキソ酸イオンがアカガネイトから脱離することをより低減することができる。
通常、アカガネイトの添加量を多くすれば、吸着可能な無機オキソ酸イオンの量も多くなり、例えば、アカガネイトによる無機オキソ酸イオンの吸着量として0.3〜0.5mol/kgが挙げられる。
前記水溶液からアカガネイトの粉末を回収する方法としては、例えば、沈殿法、濾過法等が挙げられる。沈殿法としては、例えば、前記水溶液を静置して沈殿させる方法、前記水溶液に硫酸バンド、PAC、高分子ポリマー凝集剤等を添加して凝集させて沈殿させる方法、前記水溶液のpHを4〜6に調整してアカガネイト同士を凝集させる方法等が挙げられる。
本発明の第二実施形態は、セレンのオキソ酸イオン(A)と、セレン以外の無機オキソ酸イオン(B)とを含む水溶液を、アカガネイト以外のイオン吸着剤に接触させることにより、前記B成分の濃度を低減した一次処理液を得る第一工程と、前記一次処理液をアカガネイトに接触させることにより、前記A成分を前記アカガネイトに吸着させ、前記A成分の濃度を低減した二次処理液を得る第二工程と、を有する無機オキソ酸イオンの吸着方法である。
一例として、前記イオン吸着剤がバリウムイオンであり、B成分が硫酸イオンである場合が挙げられる。
この場合、まず、第一工程において、A成分及び硫酸イオンを含む水溶液をバリウムイオンに接触させる。この接触により硫酸バリウムが生成される。硫酸バリウムの水に対する溶解性は低いため、硫酸バリウムは沈殿し、遊離の硫酸イオンの濃度が低減した一次処理液が得られる。
次に、第二工程において、A成分を含む一次処理液をアカガネイトに接触させて吸着させることにより、一次処理液から遊離のA成分を除去することができる。
上記のように第一工程において硫酸イオンを除いた一次処理液を得ることによって、第二工程においてA成分は、硫酸イオンによって競合されることなく、アカガネイトに容易に吸着する。
上記の範囲であると、第一工程においてB成分の濃度を充分に低減した一次処理液が得られる。
上記範囲の下限値以上であると、硫酸バリウムを容易に形成し、前記水溶液中の硫酸イオン濃度を充分に低減することができる。上記範囲の上限値は特に限定されず、例えば200モル部程度とすればよい。
前記水溶液のpHを上記の範囲に調整する方法は特に限定されず、例えば、前記水溶液に塩酸、水酸化ナトリウム等を添加する方法が挙げられる。なお、B成分に該当する硫酸、硝酸は用いない方が良い。pHの調整は、前記水溶液にイオン吸着剤を接触させる前であってもよいし、後であってもよい。
第二工程において一次処理液に含まれるA成分をアカガネイトに吸着させる方法は、前述した第一実施形態の方法が適用できる。
本発明で用いるアカガネイトは公知の方法で化学合成されたものであってもよいし、天然に産出されたものであってもよいが、以下に説明する方法で合成したアカガネイトは高品質であり、吸着力が優れているので好ましい。
アカガネイトを高収率で合成する観点から、前記1種以上の塩(S)は水に易溶性であることが好ましく、例えば、下記のカチオンを含む塩が好ましい。
前記アルカリ金属は周期表の第1族元素であり、ナトリウム、カリウムが好ましい。
前記アルカリ土類金属は周期表の第2族元素であり、マグネシウム、カルシウム、バリウムが好ましい。
アカガネイトの生成反応を促進するために、前記水溶液(反応液)を例えば40〜100℃程度に加熱してもよい。
pH7未満であると、塩化物イオン存在下においてアカガネイトが容易に生成される。
pH4未満であると、特にpH3以下であると、塩化物イオン存在下において高収率でアカガネイトを生成することができる。なお、pH4〜6でもアカガネイトは容易に形成されるが、このpH範囲であると、生成しつつあるアカガネイト同士が凝集して未反応の塩化鉄(III)又は塩(S)が取り込まれる場合がある。一方、pHがアルカリ性であると、異なる構造の酸化鉄鉱物(例えば、ゲータイト、スクメタイト等)が生成される可能性が高い。
前記水溶液を調製する際に、塩化鉄(III)と前記1種以上の塩(S)を溶解させる順序は特に限定されないが、水溶液のpHを酸性に維持するために、塩化鉄(III)を先に溶解することが望ましい。
上記モル比が1:2に近い上記範囲であると、前記水溶液中のFe3+が有する正電荷量と、OH−が有する負電荷量とがアカガネイトの生成に適したバランスとなり、塩化鉄(III)に由来するFe3+のほとんど全てを反応で消費して、アカガネイトを容易に高い収率で生成させることができる。
また、例えば、0.1モルの炭酸ナトリウムを溶解させた1Lの水溶液中において、炭酸の酸解離定数pKa2=10.3及び上記みかけの酸解離定数pKa1=6.3を考慮して、溶液pHが5.3以下において、水溶液中に生成する水酸化物イオン濃度(炭酸分子濃度)は0.18〜0.2モル/L程度と考えられる。これに基づき、塩化鉄(III)の濃度は、0.18〜0.2モル/Lの1/3〜1倍の濃度が好ましく、1/2〜1倍の濃度がより好ましい。
また、例えば、0.1モルの水酸化ナトリウムを溶解させた1Lの水溶液中において、その酸解離定数pKa=13を考慮して、溶液pHが7以下の酸性域において、水溶液中に生成する水酸化物イオン濃度はほぼ0.1モル/Lと考えられる。これに基づき、塩化鉄(III)の濃度は、0.1モル/Lの1/3〜1倍の濃度が好ましく、1/2〜1倍の濃度がより好ましい。
上記モル比の範囲であると、前記水溶液中のFe3+とOH−の電荷バランスが良好となり、アカガネイトを容易に高い収率で生成させることができる。
アカガネイトの生成反応の開始後、その反応が一段落するまでに要する時間は、生成するアカガネイトの濃度にもよるが、10〜25℃において例えば3〜5分程度である。
ここで前記水溶液のpHを4以上〜pH6以下に調整する方法としては、前記水溶液に前記1種以上の塩(S)を追加して添加する方法が好ましい。前記1種以上の塩(S)を用いることにより、余計な陰イオン(例えば硫酸イオン等)が前記水溶液に混入してアカガネイトに吸着することを防止できる。
回収したアカガネイトは、乾燥して使用時まで保存することができる。
濾過により得た乾燥後のアカガネイトの形態は、通常は粘土状の塊であり、乳鉢等で粉砕して粉末状にすることができる。
0.2mol/Lの塩化鉄(III)水溶液1Lに、0.4mol/Lの水酸化ナトリウム1Lを添加して、5分間穏やかに撹拌しながら、約pH2の水溶液(Fe3+:OH−=約1:2)中でアカガネイトを生成した。次いで、生成したアカガネイトが含まれた懸濁液に、水酸化ナトリウムをさらに添加し、pH4〜5に調整し、5分間穏やかに撹拌しながら、アカガネイト同士を凝集させた。凝集したアカガネイトを濾過で回収し、乾燥した粘土状のアカガネイトの塊を得た。この塊を乳鉢で砕いて粉体としたアカガネイトを以下の実験に用いた。
塩化鉄(III)として投入した鉄イオンの全てがアカガネイトになった場合の収率をモル基準で100%であるとした場合、収率95%でアカガネイトを回収して得た。
合成したアカガネイトをXRDで分析したところ、アカガネイトを示すピークが確認された。
セレンを10mg/L含むセレン酸ナトリウム水溶液(pH9)を調製した。上記合成で得たアカガネイトを用いて、以下の実験手順を行った。
(1)セレン酸イオンを含む上記水溶液に、上記で合成したアカガネイトを、0.015、0.025、0.05、0.1、0.2、0.5、1.0(単位:w/w%)の各濃度で添加した。pH6に調整した上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、アカガネイトを沈殿させ、上澄み液を回収し、セレン酸イオン濃度をJIS K0102:2013年の「67.セレンの水素化合物発生ICP発光分光分析法」によって測定した。
(2)セレン酸イオンを含む上記水溶液に、グリーンラストを、0.15w/w%〜1.0w/w%の重量比となるように添加した。pH6となった上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、グリーンラストを沈殿させ、上澄み液を回収し、セレン酸イオン濃度を上記方法で測定した。
(3)セレン酸イオンを含む上記水溶液に、シュベルトマナイトを、0.015、0.025、0.05、0.1、0.2、0.5、1.0(単位:w/w%)の各濃度で添加した。pH6に調整した上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、シュベルトマナイトを沈殿させ、上澄み液を回収し、セレン酸イオン濃度を上記方法で測定した。
上記実験によって、アカガネイト、グリーンラスト、シュベルトマナイトの各酸化鉄鉱物におけるセレン酸イオンに対する吸着等温線を得た(図1)。
図1に示す結果から、溶存セレン酸イオンの平衡濃度が環境基準(0.01 mg/L)以下になる酸化鉄鉱物は、アカガネイトだけであり、その吸着量が最も高いことが明らかである。
硫酸を約1200mg/L(約12.5mmol/L)で含む水溶液(pH10)に、上記で合成したアカガネイトを、0.1、0.5、1.0、2.0、3.0(単位:w/w%)の各濃度で添加した。pHを6に調整した上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、アカガネイトを沈殿させ、上澄み液を回収し、硫酸イオンと、塩化物イオンの濃度をそれぞれイオンクロマトグラフ法によって測定した。
その結果、図3のグラフに示すように、アカガネイトの添加量に比例して、水溶液中の塩化物イオン濃度が増加し、それに伴って硫酸イオン濃度が低下した。増加した塩化物イオン濃度は、低下した硫酸イオン濃度の約2倍であった。この結果は、アカガネイトから脱離した塩化物イオンの電荷量と、アカガネイトに吸着した硫酸イオンの電荷量とがほぼ同じであることを意味する。
以上の結果から、アカガネイトを構成する塩化物イオンは、別の陰イオンを吸着する際に置換されると考えられる。
硫酸イオンを約1200mg/L(約12.5mmol/L)、及びセレン酸イオンを約0.3mg/L(約0.0038mmol/L)で含む水溶液(pH10)を調製した。この水溶液に上記の合成したアカガネイトを3w/w%添加して、pH6に調整した水溶液を20℃で1時間撹拌した。その後、水溶液の上澄みに含まれる硫酸イオン濃度をイオンクロマトグラフで、セレン濃度を上記のICP発光分光分析法で測定した。
その結果、硫酸イオン及びセレン酸イオンの濃度はアカガネイト添加前の濃度よりも低下し、殆どゼロであった。このことから、アカガネイトが硫酸イオン及びセレン酸イオンを吸着したことが明らかである。この水溶液を濾過してアカガネイトを除去することによって、硫酸イオン及びセレン酸イオンが除去された水溶液を得た。
実施例1と同じ濃度で硫酸イオン及びセレン酸イオンを含む水溶液(pH10)を調製した。この水溶液に塩化バリウム2水和物を約4500mg/L(約18.75mmol/L)で添加して撹拌したところ、硫酸バリウムと考えられる白色の沈殿が生成した(第一工程)。
次いで、硫酸バリウムの沈殿を含む上記水溶液に、上記の合成したアカガネイトを0.5w/w%添加して、pH6に調整した水溶液を20℃で1時間撹拌した(第二工程)。その後、水溶液の上澄みに含まれる硫酸イオン及びセレンの各濃度を実施例1と同様に測定した。
その結果、硫酸イオン及びセレン酸イオンの濃度はアカガネイト添加前の濃度よりも低下し、殆どゼロであった。
実施例1と実施例2を比較して、セレン酸イオンを除去するために要したアカガネイトの量は、実施例2の方が2.5w/w%少なかった。
実施例1と同じ濃度で硫酸イオン及びセレン酸イオンを含む水溶液(pH10)を調製した。この水溶液に上記の合成したアカガネイトを0.5w/w%添加して、pH6に調整した水溶液を20℃で1時間撹拌した後、水溶液の上澄みに含まれるセレンの濃度を実施例1と同様に測定した。
その結果、セレン酸イオンの濃度はアカガネイト添加前の濃度よりも10%低下しただけであり、90%程度が上澄み液に残留して溶存していた。この理由として、水溶液に添加したアカガネイトの量に対する硫酸イオンの溶存量が過剰であり、アカガネイトの大半が硫酸イオンの吸着によって消費されたことが考えられる。
Claims (2)
- アルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩、並びに、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩から選ばれる1種以上の塩(S)と塩化鉄(III)を水に溶解させることにより、前記塩化鉄(III)と前記1種以上の塩(S)とのモル比が2:1〜1:3であり、かつpHが1〜3の水溶液中で電離したイオン同士を反応させてアカガネイトを生成し、セレンのオキソ酸イオン(A)と、セレン以外の無機オキソ酸イオン(B)とを含む水溶液を、前記アカガネイトに接触させることにより、
前記A成分及び前記B成分を前記アカガネイトに吸着させることを特徴とする無機オキソ酸イオンの吸着方法。 - セレンのオキソ酸イオン(A)と、セレン以外の無機オキソ酸イオン(B)とを含む水溶液を、アカガネイト以外のイオン吸着剤に接触させることにより、前記B成分の濃度を低減した一次処理液を得る第一工程と、
前記一次処理液を、アルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩、並びに、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩から選ばれる1種以上の塩(S)と塩化鉄(III)を水に溶解させることにより、前記塩化鉄(III)と前記1種以上の塩(S)とのモル比が2:1〜1:3であり、かつpHが1〜3の水溶液中で電離したイオン同士を反応させて生成したアカガネイトに接触させることにより、前記A成分を前記アカガネイトに吸着させ、前記A成分の濃度を低減した二次処理液を得る第二工程と、を有することを特徴とする無機オキソ酸イオンの吸着方法。
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