以下に、本発明の実施の形態に係るモータ駆動装置、電動送風機、電気掃除機及びハンドドライヤーを図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、以下の説明では、電気掃除機及びハンドドライヤーへの適用例を中心に説明するが、他の用途への適用を除外する趣旨ではない。
実施の形態.
図1は、本実施の形態におけるモータ駆動装置を含むモータ駆動システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、モータ駆動システム1は、単相モータ12と、単相モータ12に交流電力を供給して単相モータ12を駆動するモータ駆動装置2と、モータ駆動装置2に直流電力を供給する直流電源である電源10と、電源10がモータ駆動装置2に印加する直流印加電圧を検出する電圧センサ20と、単相モータ12におけるロータ12aの回転位置であるロータ回転位置を検出する位置センサ21と、を備える。単相モータ12を具備する負荷としては、電動送風機を備えた電気掃除機及びハンドドライヤーが例示される。なお、上記の説明において、電圧センサ20は、直流印加電圧を検出するとしているが、電源10の出力電圧である電源電圧を検出してもよい。
また、モータ駆動装置2は、単相モータ12に接続され、単相モータ12に交流電圧を印加する単相インバータ11と、電圧センサ20により検出された直流印加電圧の検出値であるアナログデータをディジタルデータに変換するアナログディジタル変換器30と、アナログディジタル変換器30から読みとられた直流印加電圧、位置センサ21からの位置センサ信号、及び図示しない指令値である回転数指令すなわち回転速度の指令値に基づいてPWM信号を生成する制御部25と、制御部25から出力されたPWM信号に基づいて単相インバータ11内のスイッチング素子を駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成部32と、を備える。
制御部25は、プロセッサ31、キャリア生成部33及びメモリ34を有する。プロセッサ31は、PWM制御により後述するPWM信号を生成する。駆動信号生成部32は、プロセッサ31からのPWM信号に基づいて、単相インバータ11を駆動するための駆動信号を生成して単相インバータ11に出力する。
単相モータ12は、好ましくはブラシレスモータである。ブラシレスモータにおいて、ロータ12aには周方向に配列された図示しない複数個の永久磁石が配置される。これらの複数個の永久磁石は、着磁方向が周方向に交互に反転するように配置され、ロータ12aの複数個の磁極を形成する。また、ステータには図示しない巻線が巻回される。モータ電流は、巻線に流れる交流電流である。なお、本実施の形態では、磁極数は4極とするが、4極以外の磁極数でもよい。
位置センサ21は、ディジタル信号である位置センサ信号を制御部25に出力する。位置センサ信号は、ロータ回転位置を検出する信号であり、ロータ12aからの磁束の方向に応じて高低の二値を示す。
図2は、図1に示す単相インバータ11の回路構成図である。単相インバータ11は、ブリッジ接続されたスイッチング素子51,52,53,54を有する。高電位側に位置するスイッチング素子51,53は、上アームのスイッチング素子と称される。また、低電位側に位置するスイッチング素子52,54は、下アームのスイッチング素子と称される。スイッチング素子51とスイッチング素子52の接続端、及びスイッチング素子53とスイッチング素子54の接続端はブリッジ回路における交流端を成し、これらの交流端には単相モータ12が接続される回路構成となる。
スイッチング素子51,52,53,54には、MOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field Effect Transistor)を使用する。MOSFETは、FETの一例である。MOSFETは、ドレインとソースとの間で双方向に電流を流すことができるスイッチング素子である。また、スイッチング素子51,52,53,54のそれぞれにおいて、ドレインとソースとの間に並列に接続されるダイオードは還流ダイオードと称される。ただし、本実施の形態では、MOSFETの内部に形成される寄生ダイオードであるボディダイオードを還流ダイオードとして使用する。
また、スイッチング素子51,52,53,54のうちの少なくとも一つは、ワイドバンドギャップ半導体を用いて形成することができる。ワイドギャップ半導体は、例えばGaN(窒化ガリウム)、SiC(シリコンカーバイド)、又はダイヤモンドである。スイッチング素子51,52,53,54のうちの少なくとも一つにワイドバンドギャップ半導体を用いることで、当該スイッチング素子の耐電圧性および許容電流密度が高くなるため、当該スイッチング素子を組み込んだ半導体モジュールの小型化が可能となる。また、ワイドバンドギャップ半導体は、耐熱性も高いため、放熱部の小型化及び放熱構造の簡素化が可能になる。
図3は、PWM信号を生成するための機能構成を示すブロック図である。図4は、図3に示す構成を詳細に示したブロック図である。PWM信号を生成する機能は、図3に示すように、キャリア生成部33及びキャリア比較部38によって実現可能である。
図3において、キャリア生成部33には、後述する電圧指令Vm1,Vm2を生成するときに用いる進角位相θvが入力される。ここで、「進角位相」とは、電圧指令の「進み角」である「進角」を位相で表したものである。また、ここでいう「進み角」とは、単相インバータ11がステータ巻線に印加するモータ印加電圧と図示しないステータ巻線に誘起されるモータ誘起電圧との間の位相差である。なお、モータ印加電圧がモータ誘起電圧よりも進んでいるときに「進み角」は正の値をとる。
図3に戻り、キャリア比較部38には、進角制御された進角位相θv、直流印加電圧Vdc、及び電圧指令Vmの振幅値である電圧振幅指令V*が入力される。キャリア生成部33は、進角位相θvに基づいてキャリアを生成する。キャリア比較部38は、キャリア、直流印加電圧Vdc及び電圧振幅指令V*に基づいて、PWM信号Q1〜Q4を生成する。
キャリア生成部33は、図4に示すように、キャリア周波数設定部33aを有する。キャリア周波数設定部33aでは、キャリアの周波数であるキャリア周波数fC[Hz]が設定され、進角位相θvに同期したキャリアが生成されてキャリア比較部38に出力される。キャリア周波数設定部33aの矢印の先には、キャリア波形の一例として、“0”と“1”との間を上下する三角波キャリアを示している。なお、単相インバータ11に対するPWM制御には、同期PWM制御と非同期PWM制御とがあるが、非同期PWM制御の場合には進角位相θvにキャリアを同期させる必要はない。
また、キャリア比較部38は、図4に示すように、絶対値演算部38a、除算部38b、乗算部38c,38d,38f、加算部38e、比較部38g,38h及び出力反転部38i,38jの機能ブロックを有する。
絶対値演算部38aでは、電圧振幅指令V*の絶対値|V*|が演算される。除算部38bでは、絶対値|V*|が電圧センサ20によって検出された直流印加電圧Vdcで除算される。電源10がバッテリである場合、バッテリ電圧が変動するが、電圧センサ20の検出値で除算することにより、バッテリ電圧の低下によってモータ印加電圧が低下しないように変調率を増加させることができる。なお、図1では、電圧センサ20によって直流印加電圧Vdcを検出するようにしているが、電源10が商用電源に接続されている場合など、電源10の出力電圧が安定している場合には、電圧センサ20の検出値を使用せずに、内部で生成した値を使用してもよい。
乗算部38cでは、進角位相θvの正弦値が演算され、除算部38bの出力に乗算される。乗算部38dでは、乗算部38cの出力に1/2が乗算される。加算部38eでは、乗算部38dの出力結果に1/2が加算される。乗算部38fでは、除算部38bの出力に−1が乗算される。ここで、加算部38eの出力は、スイッチング素子51,52,53,54のうち、スイッチング素子51,52の駆動に用いる電圧指令Vm1として比較部38gに入力され、乗算部38fの出力は、スイッチング素子53,54の駆動に用いる電圧指令Vm2として比較部38hに入力される。
比較部38gの出力はスイッチング素子51へのPWM信号となり、比較部38gの出力を反転した出力反転部38iの出力はスイッチング素子52へのPWM信号となる。同様に、比較部38hの出力はスイッチング素子53へのPWM信号となり、比較部38hの出力を反転した出力反転部38jの出力はスイッチング素子54へのPWM信号となる。出力反転部38iの存在により、スイッチング素子51とスイッチング素子52とが同時にオンすることはなく、出力反転部38jの存在により、スイッチング素子53とスイッチング素子54とが同時にオンすることはない。
図5は、電圧指令Vm1,Vm2、PWM信号及びモータ印加電圧の波形例を示すタイムチャートである。図5の上段部には、加算部38eから出力される電圧指令Vm1の波形が示され、図5の中上段部には、乗算部38fから出力される電圧指令Vm2の波形が示されている。電圧指令Vm1を使用することにより、図5の中下段部に示されるようなPWM信号Q1,Q2を生成することができる。また、電圧指令Vm2を使用することにより、図5の中下段部に示されるようなPWM信号Q3,Q4を生成することができる。さらに、このようなPWM信号Q1,Q2,Q3,Q4を使用して単相インバータ11内のスイッチング素子51,52,53,54を制御することにより、図5の下段部に示されるようなPWM制御された電圧パルス波形を単相モータ12に印加することができる。
ところで、PWM信号を生成する際に使用する変調方式としては、正又は負の電位で変化する電圧パルスを出力するバイポーラ変調、電源半周期ごとに正もしくは零の電位、又は負もしくは零の電位、すなわち正、零又は負の3つの電位で変化する電圧パルスを出力するユニポーラ変調が知られている。上記図5に示した波形はユニポーラ変調によるものである。本実施の形態におけるモータ駆動装置としては、何れの変調方式を用いてもよい。なお、モータ電流波形をより正弦波に制御する必要がある用途では、バイポーラ変調よりも高調波含有率が少ないユニポーラ変調を採用することが好ましい。
上述の通り、モータ印加電圧は、キャリアと電圧指令値とを比較することにより決定される。モータ印加電圧に含まれる電圧パルスは、高速回転中においては、電圧指令Vmの周波数も増加し、電気角一周期中に出力される電圧パルスの数が減少するため、電圧パルスの数が電流波形の歪へもたらす影響も大きくなる。一般的に、偶数回の電圧パルスを印加した場合には、偶数次調波が重畳され、正側と負側の波形の対称性が無くなる。よって、モータ電流波形が高調波の含有率を抑えた正弦波に近づくようにするため、電気角一周期中の電圧パルスの数は、奇数回となるように制御することが好ましい。電気角一周期中の電圧パルスの数が奇数回となるように制御することより、モータ電流波形を正弦波に近づけることが可能となる。
次に、電気角一周期中の電圧パルス数を奇数回とする方法について説明する。高速回転中において、出力電圧パルス数が奇数回となるように制御するためには、三角波キャリアをモータ回転数と同期させる方法がある。また、製品仕様で回転数を指令値とする制御を実施する場合には、予め回転数指令に対してキャリア周波数を決定する方法がある。何れの方法も公知の技術であるため、ここでの詳細な説明は割愛する。なお、本実施の形態では、出力電圧が奇数回になる制御であればこれに限らない。
図6は、変調率に応じたインバータ出力電圧の変化を示す波形図である。上段側から、変調率=1.0、変調率=1.2及び変調率=2.0の場合の3パターンを示している。なお、「インバータ出力電圧」は、図5の下段部に示した「モータ印加電圧」と同義である。
図4及び図5で説明したように、電圧指令Vm1,Vm2はキャリアと比較され、比較結果に応じたPWM信号Q1,Q2,Q3,Q4が生成される。また、生成されたPWM信号Q1,Q2,Q3,Q4によって、単相インバータ11内のスイッチング素子51,52,53,54が制御され、図6の各段に示されるような変調率に応じたインバータ出力電圧が生成され、単相モータ12に印加される。
変調率の定義は種々なものが存在するが、ここでは、電圧振幅指令V*と三角波キャリアの振幅との比率、すなわち「電圧振幅指令V*/三角波キャリア振幅」を変調率と定義する。図6の上段部には、変調率=1.0の場合を示しているが、変調率が1.0未満の場合も同様な波形となる。変調率が1.0未満の場合、三角波キャリアの周波数に応じてインバータ出力電圧が生成されるため、インバータ出力電圧もキャリア周波数に応じた電圧パルスが出力される。
一方、変調率が1.0を超える場合、図6の中段部及び下段部に示すような波形となる。なお、変調率が1.0を超える場合は「過変調」と称され、変調率が1.0を超える領域は「過変調領域」と称される。過変調領域では、電圧指令Vm1,Vm2がキャリアの振幅を超える部分が生じるため、キャリア周波数に応じてインバータ駆動信号を生成することができない区間が発生する。この区間では、インバータ出力電圧は、正の電源電圧もしくは負の電源電圧に固定されるため、インバータ出力電圧は変調率1のときに比べ、大きな出力電圧を得ることが可能となる。
次に、本実施の形態における進角制御について説明する。図7は、図3及び図4に示したキャリア生成部33及びキャリア比較部38への入力信号である進角位相θvを算出するための機能構成を示すブロック図である。進角位相θvを算出するための機能は、図7に示すように、位置センサ信号に基づいて単相モータ12の回転速度ω、及びロータ12aの基準位置からの角度であるロータ機械角θmを電気角に換算した基準位相θeを算出する回転速度算出部42、及び回転速度算出部42が算出した回転速度ω及び基準位相θeの情報に基づいて進角位相θvを算出する進角位相算出部44によって実現可能である。
図8は、進角位相θvの算出方法の一例を示す図である。進角位相θvは、図8に示すように、回転数Nの増加に対して進角位相θvが増加する関数を用いて決定することができる。なお、図8の例では、1次の線形関数により進角位相θvを決定しているが、これに限らず、回転数の増加に応じて進角位相θvが大きくなる関係であれば、何れの関数を用いてもよい。
図9は、ロータの磁極位置、位置センサ信号及び電圧指令Vmの関係を示すタイムチャートである。なお、図9の最下段に示すように、ロータには4極の磁石が備えられ、ロータの外周に4つのステータを備えた場合の例である。ロータが時計方向に回転した場合、ロータ機械角θmに応じた位置センサ信号が検出され、検出された位置センサ信号に応じて電気角に換算された基準位相θeが算出される。
図9の中段部において、進角位相θv=0の場合を例1として示している。進角位相θv=0の場合、電圧指令Vmは基準位相θeと同相の正弦波電圧が出力される。なお、このときの電圧指令Vmの振幅は、上述した電圧振幅指令V*に基づいて決定される。また、進角位相θv=π/4の場合を例2として示している。進角位相θv=π/4の場合、電圧指令Vmは基準位相θeから進角位相θvの成分、すなわちπ/4進めた波形となる。
なお、図4に示すキャリア比較部38の機能、並びに、図7に示す回転速度算出部42及び進角位相算出部44の機能は、図1に示すプロセッサ31によって実現可能である。プロセッサ31は、PWM制御及び進角制御に関する各種演算を行う処理部である。メモリ34には、プロセッサ31によって読みとられるプログラムが保存される。メモリ34は、プロセッサ31が演算処理を行う際の作業領域として使用される。なお、プロセッサ31は、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、又はDSP(Digital Signal Processor)などと称されるものであってもよい。また、メモリ34は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリが一般的である。
ここで、従来技術において、単相モータの制御にPWM制御があまり用いられなかった理由について説明する。単相モータを駆動する方法としては、上述した特許文献2に示されるような、位置センサ信号の切り替わりに応じて出力電圧パルスを切り替える方法が一般的であった。ここで、単相モータを駆動する製品の一例として、電気掃除機又はハンドドライヤーを例に挙げると、これらの製品では、単相モータを10万回転以上で高速回転させる必要があるため、モータ電流を正弦波に制御するには高速な演算処理が必要であった。従来の環境では、高速な演算処理を可能とするマイコンを安価に入手することが困難であったため、PWM制御は行われていなかった。
次に、電圧振幅指令V*の与え方について説明する。図10は、電圧振幅指令V*の時間変化を示すタイムチャートである。本実施の形態において、電圧振幅指令V*は、図示のように、時間tに応じて段階的に変化する動作態様とする。具体的に説明すると、まず、起動時には予め設定した一定の第1電圧V1を与え、加速後の定常運転時には、第1電圧V1よりも大きな一定の第2電圧V2を与える。また、第1電圧V1から第2電圧V2に変化させる加速時には、予め設定した加速レートが得られるように電圧振幅指令V*を上昇させる。すなわち、本実施の形態では、起動時及び定常運転時には、電圧振幅指令V*を一定とするように制御している。なお、起動時において、第1電圧V1を与える時間τ1は制御系の安定時間を考慮した任意の時間を設定することができる。
次に、電圧振幅指令V*が一定であることの効果について説明する。定常運転時において、電圧振幅指令V*を一定に制御することにより、以下の効果が得られる。
(1)負荷が急変した場合においても位置センサ信号から検出された位相を元に一定の電圧指令を出力できる。
(2)回転数変動した場合においても電圧指令に影響が及ばないため、出力電圧を安定に保つことが可能となる。
上記の効果は、電気掃除機のように、電気掃除機の吸込口と床面との接触面積に応じて負荷が変動するアプリケーションの場合に有効である。
一般的な電動送風機で実施されている回転数一定制御を行うと、モータに過電流が流れる場合がある。過電流が流れる理由は、負荷変動の際に回転数を一定に保とうとするが故に、電流が急激に変動するからである。より詳細に説明すると、「負荷が軽い状態」すなわち「負荷トルクが小さい状態」から、「負荷が重い状態」すなわち「負荷トルクが大きい状態」に遷移した際に回転数一定制御を行うと、同一回転数を維持しようとしてモータ出力トルクを大きくしなければならず、モータ電流の変化量が大きくなるからである。
一方、本実施の形態の制御では、上述したように、定常運転時において、電圧振幅指令V*を一定とする制御を行っている。ここで、電圧振幅指令V*を一定とする場合、負荷が重くなった際には、電圧振幅指令V*は変化させないので、負荷トルクが大きくなった分、モータ回転数は低下する。この制御により、モータ電流の急峻な変化と過電流とを防止できるので、安定して回転する電動送風機及び電機掃除機を実現することができる。
なお、電動送風機の場合、負荷トルクは、モータの負荷である羽根の回転数の増加によって増加すると共に、風路の径が広くなることでも増加する。風路の径とは、電機掃除機を例とした場合、吸込口の広さを表している。風路の径が広いとき、吸込口に何も接触していない場合は、風を吸い込む力が必要となるため、同一回転数で羽根が回転している場合には負荷トルクが大きくなる。一方、風路の径が狭いとき、吸込口が何かと接触し、塞がれている状態では、風を吸い込む力が必要なくなるため、同一回転数で羽根が回転している場合には負荷トルクは小さくなる。
次に、進角制御による効果について説明する。まず、回転数の増加に応じて進角位相θvを増加させるようにすれば、回転数範囲を広げることが可能となる。進角位相θvを0とした場合には、モータ印加電圧とモータ誘起電圧とが釣り合う所で回転数が飽和する。回転数を更に増加させるためには、進角位相θvを進め、電機子反作用によるステータに発生させる磁束を弱めることでモータ誘起電圧を抑制し、回転数を増加させる。よって、進角位相θvを回転数に応じて選択することで、広い回転数領域を得ることが可能となる。
本実施の形態による進角制御御を電気掃除機に適用する場合には、吸込口の塞ぎ状態の変化によらず、すなわち負荷トルクに関係なく、電圧指令を一定とし、回転速度の増加に応じて電圧指令の進み角である進角位相θvを増加させるようにすればよい。このように制御すれば、広い回転速度範囲において安定した駆動が可能となる。
次に、本実施の形態における損失低減手法について説明する。図11から図13は、インバータ出力電圧の極性によるモータ電流の経路を示す図である。インバータ出力電圧の極性が正の場合、図11の太実線(a)で示すように、第1相の上アームであるMOSFET51のチャネル部分を通って単相モータ12に流れ込み、第2相の下アームであるMOSFET54のチャネル部分を通って単相モータ12から流れ出す。また、インバータ出力電圧の極性が負の場合、図11の太破線(b)で示すように、第2相の上アームであるMOSFET53のチャネル部分を通って単相モータ12に流れ込み、第1相の下アームであるMOSFET52のチャネル部分を通って単相モータ12から流れ出す。
次に、インバータ出力電圧が零、すなわち単相インバータ11から零電圧が出力された場合の電流経路について説明する。正のインバータ出力電圧が生成された後にインバータ出力電圧が零になると、図12の太実線(c)で示すように、電源側からは電流が流れず、単相インバータ11と単相モータ12との間で電流が行き来する還流モードとなる。このとき、単相モータ12に直前に流れている電流の向きは変わらないため、単相モータ12から流れ出した電流は、第2相の下アームであるMOSFET54のチャネル部分、及び第1相の下アームであるMOSFET52のボディダイオード部分を通って単相モータ12に戻る。なお、負のインバータ出力電圧が生成された後にインバータ出力電圧が零になる場合は、直前に流れていた電流の向きが逆であるため、図12の太破線(d)で示すように、還流電流の向きは逆となる。具体的に説明すると、単相モータ12から流れ出した電流は、第1相の上アームであるMOSFET51のボディダイオード部分、及び第2相の上アームであるMOSFET53のチャネル部分を通って単相モータ12に戻る。
上記の説明の通り、単相モータ12と単相インバータ11との間で電流が還流する還流モードでは、第1相及び第2相のうちの何れか一方の相ではボディダイオードに電流が流れる。一般的に、ダイオードの順方向に電流を流すことに比べ、MOSFETのチャネルに電流を流した方が、導通損失が小さくなることが知られている。そこで、本実施の形態では、還流電流が流れる還流モードにおいて、ボディダイオードに流れる通流電流を小さくすべく、当該ボディダイオードを有する側のMOSFETをオンに制御する。
還流モードにおいて、図12の太実線(c)で示す還流電流が流れるタイミングでは、MOSFET52をオンに制御する。このように制御すれば、図13の太実線(e)で示すように、還流電流の多くは抵抗値の小さいMOSFET52のチャネル側を流れる。これにより、MOSFET52での半導体損失が低減される。また、図12の太破線(d)で示す還流電流が流れるタイミングでは、MOSFET51をオンに制御する。このように制御すれば、図13の太破線(f)で示すように、還流電流の多くは抵抗値の小さいMOSFET51のチャネル側を流れる。これにより、MOSFET51での半導体損失が低減される。
上述のように、ボディダイオードに還流電流が流れるタイミングにおいて、当該ボディダイオードを有する側のMOSFETをオンに制御することにより、スイッチング素子の損失を低減することができる。このため、MOSFETの形状を表面実装タイプにして基板にて放熱可能な構造とし、また、要すればスイッチング素子の一部又は全部をワイドバンドギャップ半導体で形成することにより、基板のみでMOSFETの発熱を抑制する構造を実現する。なお、基板のみで放熱が可能であれば、ヒートシンクが不要となるため、インバータの小型化に寄与し、製品の小型化にも繋げることができる。
前述の放熱方法に加え、基板を風路に設置することで、更なる放熱効果をも得ることができる。ここで、風路とは、電動送風機のように空気の流れを発生させる部位又は電動送風機が発生する風流の通路である。基板を風路に設置することにより、電動送風機が発生する風によって基板上の半導体素子を放熱できるので、半導体素子の発熱を大幅に抑制することができる。
次に、本実施の形態におけるモータ駆動装置の適用例について説明する。図14は、本実施の形態におけるモータ駆動装置の適用例として電気掃除機の構成の一例を示す図である。図14において、電気掃除機61は、直流電源であるバッテリ67、上述した単相モータ12により駆動される電動送風機64を備え、さらに集塵室65、センサ68、吸込口体63、延長管62及び操作部66を備えて構成される。
電気掃除機61は、バッテリ67を電源として電動送風機64を駆動し、吸込口体63から吸込みを行い、延長管62を介して集塵室65へごみを吸引する。使用の際は操作部66を持ち、電気掃除機61を操作する。
電気掃除機61は、モータ回転数の駆動範囲が0から10万rpm以上に渡って変動する製品である。このようなモータが高速回転する製品を駆動する際には、上述した本実施の形態に係る制御手法が好適である。電圧振幅指令V*を一定とし、回転速度に応じて進角位相θvを変更することで、低速から高速回転領域まで回転数駆動範囲を広げつつ、負荷急変に対応することが可能となる。また、PWM制御によってモータ電流を正弦波に制御することで高効率な駆動ができるため、運転時間の長時間化が望める。
また、上述した放熱部品の削減により小型化及び軽量化に寄与することができる。さらに、電流を検出する電流センサが必要なく、高速なアナログディジタル変換器も必要ないことから、コストを抑制することが可能となる。
図15は、本実施の形態におけるモータ駆動装置の他の適用例としてハンドドライヤーの構成の一例を示す図である。ハンドドライヤー90は、ケーシング91、手検知センサ92、水受け部93、ドレン容器94、カバー96、センサ97、及び吸気口98を備える。ここで、センサ97は、ジャイロセンサおよび人感センサのいずれかである。ハンドドライヤー90では、ケーシング91内に図示しない電動送風機を有する。ハンドドライヤー90では、水受け部93の上部にある手挿入部99に手を挿入することで電動送風機による送風で水を吹き飛ばし、水受け部93からドレン容器94へと水を溜めこむ構造となっている。
ハンドドライヤー90も、モータ回転数の駆動範囲が0から10万rpm以上に渡って変動する製品である。このため、ハンドドライヤー90においても、上述した本実施の形態に係る制御手法が好適であり、電気掃除機61と同様な効果を得ることができる。
図16は、本実施の形態におけるモータ駆動装置に好適な変調制御の説明に供する図である。同図の左側には、回転数と変調率の関係を示している。また、同図の右側には、変調率が1以下と、1を超えるときのインバータ出力電圧の波形を示している。一般的に、回転数の増加に伴い回転体の負荷トルクは大きくなる。このため、回転数の増加に伴いモータ出力トルクを増加させる必要がある。また、一般的に、モータ出力トルクはモータ電流に比例して増加し、モータ電流の増加にはインバータ出力電圧の増加が必要である。よって、変調率を上げてインバータ出力電圧を増加させることで、回転数を増加させることが可能となる。
次に、本実施の形態における回転数制御について説明する。なお、以下の説明では、負荷として電動送風機を想定し、電動送風機の運転域を以下の通り区分する。
(1)低速回転域(低回転数領域):0〜7万rpm
(2)高速回転域(高回転数領域):10万rpm以上
なお、上記(1)と(2)に挟まれた領域はグレーゾーンであり、用途に応じて、低速回転域に含まれる場合もあれば、高速回転域に含まれる場合もある。
まず、低速回転域での制御について説明する。低速回転域では変調率を1以下としてPWM制御する。なお、変調率を1以下とすることで、モータ電流を正弦波に制御し、モータの高効率化を図ることができる。なお、低速回転域と高速回転域とで同じキャリア周波数で動作させた場合、キャリア周波数は高速回転域に合わせたキャリア周波数となるため、低速回転域ではPWMパルスが必要以上に多くなる傾向にある。このため、低速回転域ではキャリア周波数を低下させ、スイッチング損失を低下させる手法を用いてもよい。また、回転数に同期させてキャリア周波数を可変させることで、回転数に応じてパルス数が変化しないように制御してもよい。
次に、高速回転域での制御について説明する。高速回転域では、変調率を1より大きな値に設定する。変調率を1より大きくすることで、インバータ出力電圧を増加させつつ、インバータ内のスイッチング素子が行うスイッチング回数を低減させることで、スイッチング損失の増加を抑えることが可能となる。ここで、変調率が1を超えることでモータ出力電圧は増加するが、スイッチング回数が低下するため、電流の歪が懸念される。しかしながら、高速回転中においては、モータのリアクタンス成分が大きくなり、モータ電流の変化成分であるdi/dtが小さくなるため、低速回転域に比べて電流歪は小さくなり、波形の歪に対する影響は小さくなる。よって、高速回転域では、変調率を1より大きな値に設定し、スイッチングパルス数を低減させる制御を行う。この制御により、スイッチング損失の増加を抑制し、高効率化を図ることが可能となる。
なお、上記の通り、低速回転域と高速回転域の境界はグレーなところがある。このため、低速回転域と高速回転域の境界を決める第1回転速度を設定し、モータ又は負荷の回転速度が第1回転速度以下の場合には変調率を1以下に設定し、モータ又は負荷の回転速度が第1回転速度を超えた場合には1を超える変調率に設定するように制御すればよい。
以上の説明の通り、本実施の形態では、モータ駆動装置の適用例として、電気掃除機61およびハンドドライヤー90について説明したが、モータが搭載された電気機器一般に適用することができる。モータが搭載された電気機器は、焼却炉、粉砕機、乾燥機、集塵機、印刷機械、クリーニング機械、製菓機械、製茶機械、木工機械、プラスチック押出機、ダンボール機械、包装機械、熱風発生機、物体輸送、吸塵用、一般送排風、又はOA機器のような電動送風機を備えた機器である。
また、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。