以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態に係るモータ駆動装置、電気掃除機及び手乾燥機について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、以下では、電気的な接続と物理的な接続とを区別せずに、単に「接続」と称して説明する。
実施の形態.
図1は、実施の形態に係るモータ駆動装置2を含むモータ駆動システム1の構成図である。図1に示すモータ駆動システム1は、単相モータ12と、モータ駆動装置2と、バッテリ10と、電圧センサ20と、位置センサ21とを備える。
モータ駆動装置2は、単相モータ12に交流電力を供給して単相モータ12を駆動する。バッテリ10は、モータ駆動装置2に直流電力を供給する直流電源である。電圧センサ20は、バッテリ10からモータ駆動装置2に出力される直流電圧Vdcを検出する。位置センサ21は、単相モータ12に内蔵されるロータ12aの回転位置であるロータ回転位置を検出する。
単相モータ12は、不図示の電動送風機を回転させる回転電機として利用される。単相モータ12及び当該電動送風機は、電気掃除機及び手乾燥機といった装置に搭載される。
なお、本実施の形態では電圧センサ20が直流電圧Vdcを検出しているが、電圧センサ20の検出対象は、バッテリ10から出力される直流電圧Vdcに限定されない。電圧センサ20の検出対象は、モータ駆動装置2の出力電圧であるインバータ出力電圧でもよい。「インバータ出力電圧」は後述する「モータ印加電圧」と同義である。
モータ駆動装置2は、インバータ11と、制御部25と、駆動信号生成部32とを備える。インバータ11は、単相モータ12に接続され、単相モータ12に交流電圧を出力する。制御部25は、インバータ11が出力する交流電圧を制御する。インバータ11は、単相インバータを想定しているが、単相モータを駆動できるものであればよい。
制御部25には、電圧センサ20により検出された直流電圧Vdcと、位置センサ21から出力された回転位置検出信号である位置センサ信号21aと、電圧振幅指令V*とが入力される。電圧振幅指令V*は、後述する電圧指令Vmの振幅値である。制御部25は、直流電圧Vdcと、位置センサ信号21aと、電圧振幅指令V*とに基づいて、PWM信号Q1,Q2,Q3,Q4を生成する。
駆動信号生成部32は、制御部25から出力されたPWM信号Q1,Q2,Q3,Q4に基づいてインバータ11のスイッチング素子を駆動するための駆動信号を生成する。位置センサ信号21aは、ロータ12aで発生する磁束の方向に応じて変化する二値のディジタル信号である。
制御部25は、プロセッサ31、キャリア生成部33及びメモリ34を有する。プロセッサ31は、上述したPWM信号Q1,Q2,Q3,Q4を生成する。プロセッサ31は、PWM制御に関する演算処理に加え、進角制御に関する演算処理も行う。後述するキャリア比較部38、回転速度算出部42及び進角位相算出部44の各機能は、プロセッサ31によって実現される。プロセッサ31は、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、又はDSP(Digital Signal Processor)と称されるものでもよい。
メモリ34には、プロセッサ31によって読みとられるプログラムが保存される。メモリ34は、プロセッサ31が演算処理を行う際の作業領域として使用される。メモリ34は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリが一般的である。キャリア生成部33の構成の詳細は後述する。
駆動信号生成部32は、プロセッサ31から出力されたPWM信号Q1,Q2,Q3,Q4を、インバータ11を駆動するための駆動信号S1,S2,S3,S4に変換して、インバータ11に出力する。
単相モータ12の一例は、ブラシレスモータである。単相モータ12がブラシレスモータである場合、単相モータ12のロータ12aには、図示しない複数個の永久磁石が周方向に配列される。これらの複数個の永久磁石は、着磁方向が周方向に交互に反転するように配置され、ロータ12aの複数個の磁極を形成する。単相モータ12のステータ12bには図示しない巻線が巻かれている。当該巻線には交流電流が流れる。単相モータ12の巻線に流れる電流を適宜「モータ電流」と呼ぶ。本実施の形態では、ロータ12aの磁極数は4極を想定するが、ロータ12aの磁極数は4極以外でもよい。
図2は、図1に示されるインバータ11の回路構成図である。インバータ11は、ブリッジ接続された複数のスイッチング素子51,52,53,54を有する。スイッチング素子51,52は第1レグ5Aを構成する。第1レグ5Aにおいて、スイッチング素子51とスイッチング素子52とは直列に接続される。スイッチング素子53,54は第2レグ5Bを構成する。第2レグ5Bにおいて、スイッチング素子53とスイッチング素子54とは直列に接続される。
スイッチング素子51,53は、高電位側に位置し、スイッチング素子52,54は、低電位側に位置する。インバータ回路では、一般的に、高電位側は「上アーム」と称され、低電位側は「下アーム」と称される。以下の説明において、第1レグ5Aのスイッチング素子51を「上アーム第1素子」と呼び、第2レグ5Bのスイッチング素子53を「上アーム第2素子」と呼ぶ場合がある。また、第1レグ5Aのスイッチング素子52を「下アーム第1素子」と呼び、第2レグ5Bのスイッチング素子54を「下アーム第2素子」と呼ぶ場合がある。
スイッチング素子51とスイッチング素子52との接続点6Aと、スイッチング素子53とスイッチング素子54との接続点6Bとは、ブリッジ回路における交流端を構成する。接続点6Aと接続点6Bとの間には、単相モータ12が接続される。
複数のスイッチング素子51,52,53,54のそれぞれには、金属酸化膜半導体電界効果型トランジスタであるMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)が使用される。MOSFETは、FET(Field−Effect Transistor)の一例である。
スイッチング素子51には、スイッチング素子51のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード51aが形成される。スイッチング素子52には、スイッチング素子52のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード52aが形成される。スイッチング素子53には、スイッチング素子53のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード53aが形成される。スイッチング素子54には、スイッチング素子54のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード54aが形成される。複数のボディダイオード51a,52a,53a,54aのそれぞれは、MOSFETの内部に形成される寄生ダイオードであり、還流ダイオードとして使用される。
複数のスイッチング素子51,52,53,54は、シリコン系材料により形成されたMOSFETに限定されず、炭化珪素、窒化ガリウム系材料又はダイヤモンドといったワイドバンドギャップ半導体により形成されたMOSFETでもよい。
一般的にワイドバンドギャップ半導体はシリコン半導体に比べて耐電圧及び耐熱性が高い。そのため、複数のスイッチング素子51,52,53,54にワイドバンドギャップ半導体を用いることにより、スイッチング素子の耐電圧性及び許容電流密度が高くなり、スイッチング素子を組み込んだ半導体モジュールを小型化できる。またワイドバンドギャップ半導体は、耐熱性も高いため、半導体モジュールで発生した熱を放熱するための放熱部の小型化が可能であり、また半導体モジュールで発生した熱を放熱する放熱構造の簡素化が可能である。
図3は、図1に示される制御部25の機能部位のうちのPWM信号を生成する機能部位を示すブロック図である。
図3において、キャリア比較部38には、後述する電圧指令Vmを生成するときに用いる進角制御された進角位相θvと基準位相θeとが入力される。基準位相θeは、ロータ12aの基準位置からの角度であるロータ機械角θmを電気角に換算した位相である。ここで、「進角位相」とは、電圧指令の「進み角」である「進角」を位相で表したものである。また、ここでいう「進み角」とは、ステータ12bの巻線に印加されるモータ印加電圧と、ステータ12bの巻線に誘起されるモータ誘起電圧との間の位相差である。なお、モータ印加電圧がモータ誘起電圧よりも進んでいるときに「進み角」は正の値をとる。
また、キャリア比較部38には、進角位相θvと基準位相θeとに加え、キャリア生成部33で生成されたキャリアと、直流電圧Vdcと、電圧指令Vmの振幅値である電圧振幅指令V*とが入力される。キャリア比較部38は、キャリア、進角位相θv、基準位相θe、直流電圧Vdc及び電圧振幅指令V*に基づいて、PWM信号Q1,Q2,Q3,Q4を生成する。
図4は、図3に示されるキャリア比較部38の一例を示すブロック図である。図4には、キャリア比較部38A及びキャリア生成部33の詳細構成が示されている。
図4において、キャリア生成部33には、キャリアの周波数であるキャリア周波数fC[Hz]が設定される。キャリア周波数fCの矢印の先には、キャリア波形の一例として、“0”と“1”との間を上下する三角波キャリアが示される。インバータ11のPWM制御には、同期PWM制御と非同期PWM制御とがある。同期PWM制御の場合、進角位相θvにキャリアを同期させる必要がある。一方、非同期PWM制御の場合、進角位相θvにキャリアを同期させる必要はない。
キャリア比較部38Aは、図4に示されるように、絶対値演算部38a、除算部38b、乗算部38c、乗算部38d、乗算部38f、加算部38e、比較部38g、比較部38h、出力反転部38i及び出力反転部38jを有する。
絶対値演算部38aでは、電圧振幅指令V*の絶対値|V*|が演算される。除算部38bでは、絶対値|V*|が、電圧センサ20で検出された直流電圧Vdcによって除算される。図4の構成では、除算部38bの出力が変調率となる。バッテリ10の出力電圧であるバッテリ電圧は、電流を流し続けることにより変動する。一方、絶対値|V*|を直流電圧Vdcで除算することにより、変調率の値を調整し、バッテリ電圧の低下によってモータ印加電圧が低下しないようにできる。
乗算部38cでは、基準位相θeに進角位相θvを加えた“θe+θv”の正弦値が演算される。演算された“θe+θv”の正弦値は、除算部38bの出力である変調率に乗算される。乗算部38dでは、乗算部38cの出力である電圧指令Vmに“1/2”が乗算される。加算部38eでは、乗算部38dの出力に“1/2”が加算される。乗算部38fでは、加算部38eの出力に“−1”が乗算される。加算部38eの出力は、複数のスイッチング素子51,52,53,54のうち、上アームの2つのスイッチング素子51,53を駆動するための正側電圧指令Vm1として比較部38gに入力され、乗算部38fの出力は、下アームの2つのスイッチング素子52,54を駆動するための負側電圧指令Vm2として比較部38hに入力される。
比較部38gでは、正側電圧指令Vm1と、キャリアの振幅とが比較される。比較部38gの出力を反転した出力反転部38iの出力は、スイッチング素子51へのPWM信号Q1となり、比較部38gの出力は、スイッチング素子52へのPWM信号Q2となる。同様に、比較部38hでは、負側電圧指令Vm2と、キャリアの振幅とが比較される。比較部38hの出力を反転した出力反転部38jの出力は、スイッチング素子53へのPWM信号Q3となり、比較部38hの出力は、スイッチング素子54へのPWM信号Q4となる。出力反転部38iにより、スイッチング素子51とスイッチング素子52とが同時にオンされることはなく、出力反転部38jにより、スイッチング素子53とスイッチング素子54とが同時にオンされることはない。
図5は、図4に示されるキャリア比較部38Aにおける要部の波形例を示すタイムチャートである。図5には、加算部38eから出力される正側電圧指令Vm1の波形と、乗算部38fから出力される負側電圧指令Vm2の波形と、PWM信号Q1,Q2,Q3,Q4の波形と、インバータ出力電圧の波形とが示されている。
PWM信号Q1は、正側電圧指令Vm1がキャリアよりも大きいときに“ロー(Low)”となり、正側電圧指令Vm1がキャリアよりも小さいときに“ハイ(High)”となる。PWM信号Q2は、PWM信号Q1の反転信号である。PWM信号Q3は、負側電圧指令Vm2がキャリアよりも大きいときに“ロー(Low)”となり、負側電圧指令Vm2がキャリアよりも小さいときに“ハイ(High)”となる。PWM信号Q4は、PWM信号Q3の反転信号である。このように、図4に示される回路は、“ローアクティブ(Low Active)”で構成されているが、それぞれの信号が逆の値となる“ハイアクティブ(High Active)”で構成されていてもよい。
インバータ出力電圧の波形は、図5に示されるように、PWM信号Q1とPWM信号Q4との差電圧による電圧パルスと、PWM信号Q3とPWM信号Q2との差電圧による電圧パルスとが表れる。これらの電圧パルスが、モータ印加電圧として、単相モータ12に印加される。
PWM信号Q1,Q2,Q3,Q4を生成する際に使用する変調方式としては、バイポーラ変調と、ユニポーラ変調とが知られている。バイポーラ変調は、電圧指令Vmの1周期ごとに正又は負の電位で変化する電圧パルスを出力する変調方式である。ユニポーラ変調は、電圧指令Vmの1周期ごとに3つの電位で変化する電圧パルス、すなわち正の電位と負の電位と零の電位とに変化する電圧パルスを出力する変調方式である。図5に示される波形は、ユニポーラ変調によるものである。本実施の形態のモータ駆動装置2においては、何れの変調方式を用いてもよい。なお、モータ電流波形をより正弦波に制御する必要がある用途では、バイポーラ変調よりも、高調波含有率が少ないユニポーラ変調を採用することが好ましい。
また、図5に示される波形は、電圧指令Vmの半周期T/2の区間において、第1レグ5Aを構成するスイッチング素子51,52と、第2レグ5Bを構成するスイッチング素子53,54の4つのスイッチング素子をスイッチング動作させる方式によって得られる。この方式は、正側電圧指令Vm1と負側電圧指令Vm2の双方でスイッチング動作させることから、「両側PWM」と呼ばれる。これに対し、電圧指令Vmの1周期Tのうちの一方の半周期では、スイッチング素子51,52のスイッチング動作を休止させ、電圧指令Vmの1周期Tのうちの他方の半周期では、スイッチング素子53,54のスイッチング動作を休止させる方式もある。この方式は、「片側PWM」と呼ばれる。以下、「片側PWM」について説明する。
図6は、図3に示されるキャリア比較部38の他の例を示すブロック図である。図6には、上述した「片側PWM」によるPWM信号の生成回路の一例が示され、具体的には、キャリア比較部38B及びキャリア生成部33の詳細構成が示されている。なお、図6に示されるキャリア生成部33の構成は、図4に示されるものと同一又は同等である。また、図6に示されるキャリア比較部38Bの構成において、図4に示されるキャリア比較部38Aと同一又は同等の構成部には同一の符号を付して示している。
キャリア比較部38Bは、図6に示されるように、絶対値演算部38a、除算部38b、乗算部38c、乗算部38k、加算部38m、加算部38n、比較部38g、比較部38h、出力反転部38i及び出力反転部38jを有する。
絶対値演算部38aでは、電圧振幅指令V*の絶対値|V*|が演算される。除算部38bでは、絶対値|V*|が、電圧センサ20で検出された直流電圧Vdcによって除算される。図6の構成でも、除算部38bの出力が変調率となる。
乗算部38cでは、基準位相θeに進角位相θvを加えた“θe+θv”の正弦値が演算される。演算された“θe+θv”の正弦値は、除算部38bの出力である変調率に乗算される。乗算部38kでは、乗算部38cの出力である電圧指令Vmに“−1”が乗算される。加算部38mでは、乗算部38cの出力である電圧指令Vmに“1”が加算される。加算部38nでは、乗算部38kの出力、即ち電圧指令Vmの反転出力に“1”が加算される。加算部38mの出力は、複数のスイッチング素子51,52,53,54のうち、上アームの2つのスイッチング素子51,53を駆動するための第1電圧指令Vm3として比較部38gに入力される。加算部38nの出力は、下アームの2つのスイッチング素子52,54を駆動するための第2電圧指令Vm4として比較部38hに入力される。
比較部38gでは、第1電圧指令Vm3と、キャリアの振幅とが比較される。比較部38gの出力を反転した出力反転部38iの出力は、スイッチング素子51へのPWM信号Q1となり、比較部38gの出力は、スイッチング素子52へのPWM信号Q2となる。同様に、比較部38hでは、第2電圧指令Vm4と、キャリアの振幅とが比較される。比較部38hの出力を反転した出力反転部38jの出力は、スイッチング素子53へのPWM信号Q3となり、比較部38hの出力は、スイッチング素子54へのPWM信号Q4となる。出力反転部38iにより、スイッチング素子51とスイッチング素子52とが同時にオンされることはなく、出力反転部38jにより、スイッチング素子53とスイッチング素子54とが同時にオンされることはない。
図7は、図6に示されるキャリア比較部38Bにおける要部の波形例を示すタイムチャートである。図7には、加算部38mから出力される第1電圧指令Vm3の波形と、加算部38nから出力される第2電圧指令Vm4の波形と、PWM信号Q1,Q2,Q3,Q4の波形と、モータ印加電圧の波形とが示されている。なお、図7では、便宜的に、キャリアのピーク値よりも振幅値が大きくなる第1電圧指令Vm3の波形部分と、キャリアのピーク値よりも振幅値が大きくなる第2電圧指令Vm4の波形部分は、フラットな直線で表されている。
PWM信号Q1は、第1電圧指令Vm3がキャリアよりも大きいときに“ロー(Low)”となり、第1電圧指令Vm3がキャリアよりも小さいときに“ハイ(High)”となる。PWM信号Q2は、PWM信号Q1の反転信号である。PWM信号Q3は、第2電圧指令Vm4がキャリアよりも大きいときに“ロー(Low)”となり、第2電圧指令Vm4がキャリアよりも小さいときに“ハイ(High)”となる。PWM信号Q4は、PWM信号Q3の反転信号である。このように、図6に示される回路は、“ローアクティブ(Low Active)”で構成されているが、それぞれの信号が逆の値となる“ハイアクティブ(High Active)”で構成されていてもよい。
インバータ出力電圧の波形は、図7に示されるように、PWM信号Q1とPWM信号Q4との差電圧による電圧パルスと、PWM信号Q3とPWM信号Q2との差電圧による電圧パルスとが表れる。これらの電圧パルスが、モータ印加電圧として、単相モータ12に印加される。
図7に示される波形では、電圧指令Vmの1周期Tのうちの一方の半周期では、スイッチング素子51,52のスイッチング動作が休止し、電圧指令Vmの1周期Tのうちの他方の半周期では、スイッチング素子53,54のスイッチング動作が休止している。
また、図7に示されるように、インバータ出力電圧の波形は、電圧指令Vmの1周期ごとに3つの電位で変化するユニポーラ変調となる。前述の通り、ユニポーラ変調に代えてバイポーラ変調を用いてもよいが、モータ電流波形をより正弦波に制御する必要がある用途では、ユニポーラ変調を採用することが好ましい。
次に、本実施の形態における進角制御について、図8から図10の図面を参照して説明する。図8は、図4に示されるキャリア比較部38A、及び図6に示されるキャリア比較部38Bへ入力される進角位相θvを算出するための機能構成を示すブロック図である。図9は、実施の形態における進角位相θvの算出方法の一例を示す図である。図10は、図4及び図6に示される電圧指令Vmと進角位相θvとの関係の説明に使用するタイムチャートである。
進角位相θvの算出機能は、図8に示されるように、回転速度算出部42と、進角位相算出部44とによって実現できる。回転速度算出部42は、位置センサ21が検出した位置センサ信号21aに基づいて単相モータ12の回転速度ωを算出する。また、回転速度算出部42は、ロータ12aの基準位置からの角度であるロータ機械角θmを電気角に換算した基準位相θeを算出する。図10の例では、位置センサ信号21aが立ち下がるエッジの部分がロータ12aの基準位置とされている。進角位相算出部44は、回転速度算出部42が算出した回転速度ω及び基準位相θeに基づいて、進角位相θvを算出する。
図9の横軸には回転速度Nが示され、図9の縦軸には進角位相θvが示されている。図9に示されるように、進角位相θvは、回転速度Nの増加に対して進角位相θvが増加する関数を用いて決定することができる。図9の例では、1次の線形関数により進角位相θvを決定しているが、1次の線形関数に限定されない。回転速度Nの増加に応じて進角位相θvが同じか、もしくは大きくなる関係であれば、1次の線形関数以外の関数を用いてもよい。
図10の上段部には、図2に示す位置センサ21から出力される位置センサ信号21aと、図2に示すロータ12aの基準位置からの角度であるロータ機械角θmと、ロータ機械角θmを電気角に換算した位相である基準位相θeとが示されている。
図10の中段部には、「例1」及び「例2」として、2つの電圧指令Vmの波形例が示されている。
図10の最下段部には、ロータ12aが時計方向に回転したときのロータ機械角θmが0°、45°、90°、135°及び180°である状態が示されている。単相モータ12のロータ12aには4つの磁石が設けられ、ロータ12aの外周には4つのティース12b1が設けられている。ロータ12aが時計方向に回転した場合、ロータ機械角θmに応じた位置センサ信号21aが検出される。回転速度算出部42は、検出された位置センサ信号21aに基づいて、電気角に換算した基準位相θeを算出する。
図10の中段部において、「例1」として示される電圧指令Vmは、進角位相θv=0の場合の電圧指令である。進角位相θv=0の場合、基準位相θeと同相の電圧指令Vmが出力される。なお、このときの電圧指令Vmの振幅は、前述した電圧振幅指令V*に基づいて決定される。
また、図10の中段部において、「例2」として示される電圧指令Vmは、進角位相θv=π/4の場合の電圧指令である。進角位相θv=π/4の場合、基準位相θeから進角位相θvの成分であるπ/4進めた電圧指令Vmが出力される。
次に、実施の形態に係るモータ駆動装置2における駆動方法について説明する。本実施の形態では、単相モータ12に印加する電圧波形を回転速度に応じて変更する制御を行う。なお、以下の説明では、単相モータ12を電気掃除機の電動送風機に適用する場合を想定する。また、単相モータ12のロータ回転位置を検出する位置センサ21に1つのホールセンサを用いるものとする。
本実施の形態では、電動送風機の回転域を以下の通り区分する。
(A)起動時:0[rpm]〜1万[rpm]
(B)低速回転域(低回転数域):1万[rpm]〜2万[rpm]
(C)中速回転域(中回転数域):5万[rpm]〜7万[rpm]
(D)高速回転域(高回転数域):10万[rpm]以上
なお、上記(B)と(C)に挟まれた領域、及び上記(C)と(D)に挟まれた領域はグレーゾーンである。2万[rpm]から5万[rpm]までの回転速度は、低速回転域に含まれる場合もあれば、中速回転域に含まれる場合もある。また、7万[rpm]から10万[rpm]までの回転速度は、中速回転域に含まれる場合もあれば、高速回転域に含まれる場合もある。
図11は、起動から低速回転域までの回転域におけるキャリア、電圧指令Vm及びインバータ出力電圧の波形の一例を示す図である。図11の下段部に示される電圧パルス列は、図11の上段部に示される電圧指令Vmによって生成される。左側の半周期に示される電圧指令Vmは、図6において、基準位相θeに進角位相θvを加えた“θe+θv”の値を“π/2”に設定することで得られる。また、右側の半周期に示される電圧指令Vmは、“θe+θv”の値を“3π/2”に設定することで得られる。図11の上段部に示されるように、電圧指令Vmの半周期ごと、キャリアと比較される電圧指令Vmの大きさは一定である。このため、電圧指令Vmの半周期ごと、振幅一定で推移する正負の電圧パルス列が生成される。
図11の下段部の電圧パルス列の波形に含まれる周波数成分からPWM成分のスイッチング周波数成分を除去すれば、図11の下段部に破線で示されている矩形波の波形に概ね一致する。従って、図11の下段部に示される電圧パルス列を単相モータ12に印加することは、単相モータ12に矩形波を印加することと等価である。以下、図11の上段部に示されるような、半周期ごとの振幅一定の電圧指令Vmを使用してPWM信号を生成することを「矩形波PWM」と呼び、生成されるPWM信号を「矩形波PWM信号」と呼ぶ。
以上の説明のように、本実施の形態における制御部25は、起動時及び起動後の低速回転域において、インバータ11が矩形波の電圧を出力するように、矩形波PWM信号を生成して駆動信号生成部32に出力する。なお、インバータ11が矩形波の電圧を出力するとは、インバータ出力電圧の周波数成分からPWM制御のスイッチング周波数成分を除去した電圧波形が、実質的に矩形波になっていることを意味する。
図12は、中速回転域におけるキャリア、電圧指令Vm及びインバータ出力電圧の波形の一例を示す図である。図12の下段部に示される電圧パルス列は、図12の上段部に示される正弦波である電圧指令Vmによって生成される。図12の下段部には、正弦波である電圧指令Vmのピークに近づくにつれ、パルス幅が徐々に広くなり、電圧指令Vmのピークから離れるにつれ、パルス幅が徐々に狭くなる電圧パルス列が示されている。
図12の下段部の電圧パルス列の波形に含まれる周波数成分からPWM制御のスイッチング周波数成分を除去すれば、図12の下段部に破線で示されている正弦波の波形に概ね一致する。従って、図12の下段部に示される電圧パルス列を単相モータ12に印加することは、単相モータ12に正弦波を印加することと等価である。以下、図12の上段部に示されるような正弦波の電圧指令Vmを使用してPWM信号を生成することを「正弦波PWM」と呼び、生成されるPWM信号を「正弦波PWM信号」と呼ぶ。
以上の説明のように、本実施の形態では、中速回転域において、インバータ11が正弦波の電圧を出力するように、正弦波PWM信号を生成して駆動信号生成部32に出力する。なお、インバータ11が正弦波の電圧を出力するとは、インバータ出力電圧の周波数成分からPWM制御のスイッチング周波数成分を除去した電圧波形が、実質的に正弦波になっていることを意味する。
図13は、高速回転域におけるキャリア、電圧指令Vm及びインバータ出力電圧の波形の一例を示す図である。図13の下段部に示される電圧パルス列は、図13の上段部に示される電圧指令Vmによって生成される。図12との相違点は、電圧指令Vmのピーク値がキャリア振幅よりも大きいことにある。より詳細に説明すると、図12は、変調率=1.0の波形であるのに対し、図13は、変調率=1.2の波形である。
図13において、電圧指令Vmがキャリアのピークよりも大きい領域Aでは、下段部に示されるように、幅広且つ単一の電圧パルスが生成されている。領域Aの両側に位置する領域B1,B2では、領域Aに近づくにつれて、パルス幅が徐々に広くなる電圧パルス列が生成されている。
図13の下段部の電圧パルス列の波形に含まれる周波数成分からPWM制御のスイッチング周波数成分を除去すれば、図13の下段部に破線で示されている台形波の波形に概ね一致する。従って、図13の下段部に示される電圧パルス列を単相モータ12に印加することは、単相モータ12に台形波を印加することと等価である。以下、図13の上段部に示されるように、変調率が1.0を超える正弦波の電圧指令Vmを使用してPWM信号を生成することを「台形波PWM」と呼び、生成されるPWM信号を「台形波PWM信号」と呼ぶ。
以上の説明のように、本実施の形態では、高速回転域において、インバータ11が台形波の電圧を出力するように、台形波PWM信号を生成して駆動信号生成部32に出力する。なお、インバータ11が台形波の電圧を出力するとは、インバータ出力電圧の周波数成分からPWM制御のスイッチング周波数成分を除去した電圧波形が、実質的に台形波になっていることを意味する。
次に、上記のように回転速度に応じて単相モータ12に印加する電圧波形を制御することの意義について、図14から図19の図面を参照して説明する。
図14は、図1に示される単相モータ12の等価回路を示す図である。図15は、実施の形態における矩形波PWM、正弦波PWM及び台形波PWMにおける逆起電圧とインバータ出力電圧との間の位相差の説明に使用する図である。図16は、実施の形態における矩形波PWMから正弦波PWMへの切り替時の動作説明に使用するタイムチャートである。図17は、図1に示される単相モータ12に発生するブレーキトルクと回転速度との関係を示す図である。図18は、図1に示される単相モータ12に流れるブレーキ電流の時間変化を示す図である。図19は、電圧制限前の電圧指令の振幅とインバータ出力電圧の基本波成分との関係を示す図である。
永久磁石を用いた単相モータ12に1つのホールセンサを用いて磁極位置検出を行う場合、図16に示されるように、逆起電圧の1周期に対して1回しかホールセンサ信号が切り替わらない。このため、磁極位置の分解能は、180度となる。分解能が180度である場合、例えば0から180度の範囲、又は180から360度の範囲の何れかに磁極位置が存在することしか分からない。
一方、モータが回転を開始すれば、ホールセンサ信号のエッジの切替わり間隔を計時することにより、正確な回転速度を容易に求めることができる。また、回転速度に基づき、現在のエッジから次のエッジまでの磁極位置の位相加算量を求めれば、磁極位置を推定することが可能となる。
図15には、逆起電圧とモータ印加電圧との間に位相差がある場合の波形が示されている。図15の上段部には、矩形波PWMで制御する場合において、位相差がない場合が破線で示され、位相差がある場合が一点鎖線で示されている。図15の中段部及び下段部には、逆起電圧が破線で示され、モータ印加電圧が実線で示されている。
矩形波PWMの場合、多少の位相差があっても、図15の上段部に示されるように、矩形波の印加タイミングが位相差分ずれるだけであり、位相差の影響は小さいことが分かる。これに対し、正弦波PWM及び台形波PWMで制御する場合、位相差があると、図15の中段部及び下段部に示されるように、逆起電圧とモータ印加電圧との差が1周期全体に亘って生じるので、位相差の影響は大きくなる。
そこで、本実施の形態では、前述したように、起動時及び起動後の低速回転域においては、インバータ出力電圧を矩形波PWMで生成する。これにより、正確な磁極位置の推定ができていない場合でも、安定した電圧の供給が可能となる。
インバータ出力電圧を一定にすることの効果については、図14を用いて説明する。図14の等価回路において、Vはインバータ出力電圧、Eは単相モータ12のステータ巻線に生じる逆起電圧、Rはステータ巻線の抵抗、Lはステータ巻線のインダクタンス、Iは単相モータ12のステータ巻線に流れるモータ電流である。このとき、モータ電流Iは、次式で表される。
I=(V−E)/(R+sL) …(1)
上記(1)式において、sはラプラス演算子である。
起動時及び起動後の低速回転域では、回転速度が低いため、単相モータ12のインピーダンスも低く、逆起電圧も零か、極めて低い値となる。従って、上記(1)式におけるEの値は小さく、sLの値も小さくなるので、モータ電流が過大になりやすい。また、起動時及び起動後の低速回転域では、回転速度も安定しないので、電流を一定に制御することは困難である。一方、インバータ出力電圧が一定である場合、理論的に最大電流を求めることができる。このため、起動時及び起動後の低速回転域では、印加電圧の振幅が一定な矩形波PWMで制御することが好ましい。矩形波PWMの採用により、過電流に起因する起動不良、低速回転域における回転むらなどが起こる可能性を低くすることができる。
次に、中速回転域及び高速回転域まで、矩形波PWMで制御した場合について考える。矩形波PWM制御に関し、図15の上段部には、モータ印加電圧の波形が実線で示され、モータ誘起電圧の波形が破線及び一点鎖線で示されている。図14の等価回路でも理解できるように、単相モータ12には、矩形波電圧と正弦波状のモータ誘起電圧との差電圧に応じた電流が流れる。このため、単相モータ12には、回転速度に同期した基本波電流成分だけでなく、高周波電流成分が重畳する。
単相モータ12において、単相モータ12に駆動力を与える駆動トルクは、回転速度に同期した電流成分である基本波電流成分が密接に関係する。一方、基本波電流成分以外の電流成分は、回転を阻害するブレーキトルクとなる。ブレーキトルクは、単相モータ12の回転にブレーキ力を与えるため、瞬間的な回転数の低下、振動及び騒音の原因となる。また、基本波電流よりも周波数が高い高周波電流は、単相モータ12における高周波鉄損の原因となる。高周波鉄損の増加は、単相モータ12の効率を低下させる。そのため、回転速度の増加に応じて、回転速度に同期した基本波電流成分を効率良く出力可能な正弦波PWMに切り替えることが好ましい。
矩形波PWMから正弦波PMWへの切り替えに際しては、先に説明した通り、ホールセンサ信号に基づいて推定した磁極位置の情報を用いる。磁極位置の推定では、ホールセンサ信号のエッジの切替わり間隔を計時することにより、回転速度を演算する。また、演算した回転速度に基づいて、図16に示されるように、0〜360度の連続的な磁極位置を演算する。
回転速度が中速回転域になると、矩形波PWMから、磁極位置に基づいた正弦波PWMに切り替えられる。なお、矩形波PWMから正弦波PWMに切り替える際には、切替わり時の出力電圧の変化により、モータ電流脈動と呼ばれる現象が起こり、モータトルクの急変によって、振動及び騒音が増加するおそれがある。そのため、矩形波PWMにおける矩形波電圧の基本波成分を正弦波PWMにおける正弦波電圧に反映させることが好ましい。具体的には、以下の制御を行う。
周知のように、振幅が“1”の矩形波をフーリエ変換したとすると、矩形波の基本波成分に付される係数は“4/π”となる。従って、矩形波PWMから正弦波PWMに切り替える場合、切り替える直前の電圧指令Vmの振幅を、(4/π)倍して出力すればよい。矩形波PWMにおける電圧指令Vmの振幅を“K”とするとき、正弦波PWMにおける電圧指令Vmは、振幅が“(4/π)×K”の正弦波とすればよい。電圧指令Vmを変調率に基づいて制御する場合、切り替え直後の変調率を、切り替え直前の変調率を(4/π)倍したものを使用すればよい。このようにすることで、切替わり時に発生するトルクを一定に保つことが可能となる。これにより、振動及び騒音の発生を抑制した切り替えが可能となる。
次に、スイッチング素子51,52,53,54のオンオフの切り替え周波数であるスイッチング周波数に関する考慮事項について説明する。
スイッチング周波数を、例えば可聴周波数外の20kHzもしくはそれ以上に設定すれば、耳障りな騒音を低減させることができ、騒音の小さいモータ駆動装置を実現できるという効果がある。また、スイッチング周波数を増加させると、高速運転時における出力電圧の分解能が向上し、回転速度の精度が向上するという効果もある。但し、スイッチング周波数を増加させると、スイッチング素子の発熱及びスイッチング損失が増加する。このため、発熱量及び効率面を考慮して、スイッチング周波数を決めることが好ましい。
スイッチング回数を減らすため、電圧指令Vmの半周期に1回又は2回の電圧出力を行い、残りの区間をフリーホイール期間とすることで、モータ電流を略正弦波とする方法もある。フリーホイール期間は、単相モータ12のステータ巻線と、スイッチング素子52,54との間で電流が還流する期間である。フリーホイール期間では、下アーム第1素子であるスイッチング素子52と、下アーム第2素子であるスイッチング素子54とがオンに制御され、上アーム第1素子であるスイッチング素子51と、上アーム第2素子であるスイッチング素子53とがオフに制御される。
図17には、フリーホイール期間におけるブレーキトルクと回転速度との関係が示されている。フリーホイール期間が長く続いた場合、図17に示されるように、単相モータ12の回転速度に応じてブレーキトルクが発生する。このため、ステータ巻線の抵抗Rによって、電流が消費され、ブレーキトルクが発生する。ブレーキトルクが発生すると速度変動が起こる。ブレーキトルクが発生する周波数は可聴周波数内であるため、騒音の悪化が避けられない。
また、図18には、フリーホイール期間におけるブレーキ電流の時間変化波形が示されている。ブレーキ電流は、ステータ巻線のインダクタンスLとステータ巻線の抵抗Rとによって流れる電流である。このため、フリーホイール期間が長くなると、図18に示されるように、ブレーキ電流が流れる期間も長くなる。ブレーキ電流が比較的大きく、流れる期間も長くなると、永久磁石の減磁が問題となる。また、ブレーキ電流により、ステータ巻線の抵抗Rによる損失も増大する。
これに対して、正弦波PWMは、図12の下段部に示されるように、電圧出力の回数も多く、電圧パルスが生成されない期間であるフリーホイール期間も短い。このため、ステータ巻線での損失が低減され、永久磁石の減磁の影響も小さくできる。
また、スイッチング周波数を20kHz以上に設定すれば、フリーホイール期間におけるブレーキトルクによる速度脈動も20kHz以上とすることができる。従って、スイッチング周波数を20kHz以上に設定すれば、速度脈動に起因する騒音の発生も抑制することができる。
但し、正弦波PWMの場合、図12の下段部の波形から理解できるように、スイッチング素子のスイッチング回数が増加する。このため、スイッチング回数の増加によって、スイッチング損失が増加する。スイッチング損失の増加と、高周波鉄損の増加とはトレドオフの関係にあるが、本実施の形態の手法は、高周波鉄損の低減効果が大きい。このため、本実施の形態の手法を採用すれば、スイッチング損失の増加を加味しても効率改善を図ることができる。
また、スイッチング損失の更なる改善を図るためには、図5に示される両側PWMよりも、図7に示される片側PWMを用いる方がよい。片側PWMを用いれば、両側PWMを用いるよりも、スイッチング回数を半分にできるため、スイッチング損失の改善が図れる。
なお、両側PWMの場合は、スイッチング周波数の2倍の周波数が支配的となり、片側PWMの場合は、スイッチング周波数と同一の周波数が支配的となる。そのため、前述の通り、スイッチング周波数を20kHz以上に設定しておけば、片側PWMを用いても、騒音の悪化を抑制することができる。
なお、モータ誘起電圧の位相と、正弦波PWMにより流れる正弦波電流の位相とは一致することが好ましい。しかしながら、単相モータ12のような誘導性負荷において、当該正弦波電流は、モータ誘起電圧に対し、回転速度に応じた遅れ位相となる。このため、回転速度に応じて、モータ印加電圧に含まれる基本波成分の位相を制御することが好ましい。これにより、効率の良い運転が可能となる。
また、単相モータ12の加速時においては、回転速度の増加に応じて、単相モータ12の負荷トルクも増加する。ここで、モータトルクをTM、負荷トルクをTL、ロータ12aの慣性モーメントをJM、回転速度をωで表すと、回転速度の変化率は次式で表すことができる。
dω/dt=(TM−TL)/JM …(2)
例えば負荷がプロペラファンである場合、負荷トルクは、一般的に、回転速度の2〜3乗に比例すると言われている。負荷を加速する場合、上記(2)式に示されるように、負荷トルク以上のモータトルクを出力する必要がある。負荷トルクの特性を考慮せずに加速した場合、目標回転速度到達時の電流が過大になり、モータの減磁を招くおそれがある。このため、目標回転速度に近づくにつれ、加速率を下げて運転させることが好ましい。これにより、加速時の電流増加を抑えたモータ駆動装置を実現することができる。電気掃除機又は手乾燥機などの応用例においては、目標回転速度の80%程度の回転速度に速やかに到達できれば、その後の加速率が減少しても、性能的には充分である。
次に、台形波PWMについて説明する。前述したように、高速回転域では、台形波PWM信号が生成されて、単相モータ12に印加される。正弦波PWMでは、回転速度が増加すると、電圧指令Vmの振幅が増加する。ところが、電圧指令Vmの振幅が直流電圧Vdcを超えた場合、インバータ11は、当該直流電圧Vdcを超える電圧は出力できないので、電圧が制限される。その結果、図15の下段部において、実線で示されるように、電圧波形は台形波となる。
台形波PWMの場合、台形波のピーク付近では、スイッチング動作が行われない。このため、正弦波PWMに比して、スイッチング損失が改善される。また、台形波PWMの場合、ゼロクロスの前後でのみ、フリーホイール期間が生じる。このため、ブレーキトルクに起因する速度変動が緩和され、安定した運転が可能となる。
図19には、電圧制限前の電圧指令の振幅とインバータ出力電圧の基本波成分との関係が示されている。図19において、縦軸に平行に引かれた破線よりも右側の領域は、電圧が制限されて、インバータ出力電圧が台形波になる領域である。台形波となり、インバータ出力電圧が制限されたとしても、図19に示されるように、インバータ出力電圧の基本波成分は上昇を続ける。理論的には、電圧指令Vmの振幅が無限大になるときが矩形波である。電圧の制限値を“1”とすると、インバータ出力電圧の基本波成分の値は、矩形波をフーリエ級数展開したときの基本波成分の係数である“4/π(=1.27)”に漸近する。即ち、台形波PWMを使用すれば、電圧制限値の1.27倍までの電圧を出力することが可能となる。
一方、矩形波PWMを使用する場合、矩形波電圧が正から負、又は負から正に切り替わるタイミングに関する考慮が必要である。矩形波電圧が正から負、又は負から正に切り替わるタイミングに誤差が生じた場合、正電圧の印加期間と負電圧の印加期間との間にアンバランスが発生する。このアンバランスは、低速運転では、電圧の周期が長いため問題にはならないが、高速運転では、電圧の周期が短くなるため、タイミング誤差の影響が大きくなる。アンバランスが発生すると、モータ印加電圧に直流成分が重畳するので、制動力が発生したり、損失の悪化を招いたりするおそれがある。
そこで、台形波PWMの場合、電圧指令Vmの振幅を電圧制限値の1倍以上、且つ、2倍以下とすることが好ましい。これにより、インバータ出力電圧のゼロクロス前後での切り替わりが緩やかとなり、タイミング誤差の影響が緩和される。
また、前述の通り、台形波PWMでは、電圧制限値の1.27倍の電圧出力が可能であるが、電圧が不足する場合には、台形波PWM信号の位相を進み位相に制御すればよい。この制御により、単相モータ12の磁力が弱められ、逆起電圧を抑制されるので、より高速回転までの運転が可能となる。
以上説明したように、実施の形態における制御部は、単相モータの起動時及び低速回転域ではインバータに矩形波の電圧を出力させ、単相モータの中速回転域ではインバータに正弦波の電圧を出力させ、単相モータの高速回転域ではインバータに台形波の電圧を出力させる。これにより、モータの加速時において、振動及び騒音を抑制することが可能となる。
次に、実施の形態に係るモータ駆動装置の適用例について説明する。図20は、実施の形態に係るモータ駆動装置2を備えた電気掃除機61の構成図である。電気掃除機61は、図1に示されるバッテリ10と、図1に示されるモータ駆動装置2と、図1に示される単相モータ12により駆動される電動送風機64と、集塵室65と、センサ68と、吸込口体63と、延長管62と、操作部66とを備える。
電気掃除機61を使用するユーザは、操作部66を持ち、電気掃除機61を操作する。電気掃除機61のモータ駆動装置2は、バッテリ10を電源として電動送風機64を駆動する。電動送風機64が駆動されることにより、吸込口体63からごみの吸込みが行われる。吸込まれたごみは、延長管62を介して集塵室65へ集められる。
電気掃除機61は、単相モータ12の回転速度が0[rpm]から10万[rpm]を超えて変動する製品である。このような単相モータ12が高速回転する製品を駆動する際には、前述した実施の形態に係る制御手法が好適である。
例えば、起動時及び低速回転域において、インバータ11は、単相モータ12に矩形波の電圧を出力する。中速回転域では、正弦波の電圧を出力する。そして、高速回転域において、インバータ11は、台形波の電圧を出力する。このように制御することで、単相モータ12を加速するときに、振動及び騒音を抑制することが可能となる。
また、例えば矩形波の電圧から正弦波の電圧に出力を切り替える場合、制御部25は、矩形波の電圧の基本波成分と、正弦波の電圧の基本波成分とを一致させた状態で切り替える。このようにすることで、切替わり時に発生するトルクを一定に保つことができ、振動及び騒音の発生を抑制した切り替えが可能となる。
また、例えば単相モータ12の回転速度を目標回転速度に制御する際、制御部25は、回転速度が目標回転速度に近づくにつれて、加速率を低減させるようにする。これにより、目標回転速度到達時の電流が過大になることを抑止でき、単相モータ12の減磁を抑制することが可能となる。
また、単相モータ12に電圧指令に基づく電圧を出力する際、制御部25は、電圧指令の周期のうちの一方の半周期では、上アーム第1素子と下アーム第1素子とのスイッチング動作を休止させ、電圧指令の周期のうちの他方の半周期では、上アーム第2素子と下アーム第2素子とのスイッチング動作を休止させる。これにより、スイッチング損失の増加が抑制され、効率のよい電気掃除機61を実現することができる。
また、実施の形態に係る電気掃除機61は、前述した放熱部品の簡素化により小型化及び軽量化することができる。更に、電気掃除機61は、電流を検出する電流センサが必要なく、高速なアナログディジタル変換器も必要ないので、設計コスト及び製造コストの増加が抑制された電気掃除機61を実現することができる。
図21は、実施の形態に係るモータ駆動装置を備えた手乾燥機の構成図である。手乾燥機90は、モータ駆動装置2と、ケーシング91と、手検知センサ92と、水受け部93と、ドレン容器94と、カバー96と、センサ97と、吸気口98と、電動送風機95とを備える。ここで、センサ97は、ジャイロセンサ及び人感センサの何れかである。手乾燥機90では、水受け部93の上部にある手挿入部99に手が挿入されることにより、電動送風機95による送風で水が吹き飛ばされ、吹き飛ばされた水は、水受け部93で集められた後、ドレン容器94に溜められる。
手乾燥機90は、図20に示す電気掃除機61と同様に、モータ回転数が0[rpm]から10万[rpm]を超えて変動する製品である。このため、手乾燥機90においても、前述した実施の形態に係る制御手法が好適であり、電気掃除機61と同様な効果を得ることができる。
以上の説明の通り、本実施の形態では、電気掃除機61及びハンドドライヤ90にモータ駆動装置2を適用した構成例を説明したが、モータ駆動装置2は、モータが搭載された電気機器に適用することができる。モータが搭載された電気機器は、焼却炉、粉砕機、乾燥機、集塵機、印刷機械、クリーニング機械、製菓機械、製茶機械、木工機械、プラスチック押出機、ダンボール機械、包装機械、熱風発生機、OA機器、電動送風機などである。電動送風機は、物体輸送用、吸塵用、又は一般送排風用の送風手段である。
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。