以下に本発明を詳細に説明する。
本発明におけるポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸成分とジオール成分を主原料として重縮合して得られるポリエステル樹脂を指す。ポリエステル中の主たる成分は、ジカルボン酸成分およびジオール成分である構成単位が、合計で80モル%以上であることが得られた製品の物理特性、および本発明の目的効果から好ましい。より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
本発明におけるジカルボン酸成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル樹脂組成物の耐熱酸化分解性や、組成物をフィルムにした際の機械強度の観点から、芳香族ジカルボン酸が好ましい。その中でもテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸がより好ましく、フィルムを得る際の製膜性の観点からテレフタル酸がさらに好ましい。
本発明におけるジオール成分としては、各種ジオールを採用できる。例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロドデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、2,6−ジヒドロキシ−9−オキサビシクロ[3,3,1]ノナン、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(スピログリコール)、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル−4,4’−ジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3−メチル−1,2−シクロペンタジオール、4−シクロペンテン−1,3−ジオール、アダマンジオールなどの各種脂環式ジオールや、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。またゲル化しない範囲で、ジオール以外にもトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも採用できる。
この中で、沸点230℃以下のジオールであることが好ましく、脂肪族ジオールが好ましい。その中でも、例えば、組成物をフィルムにした際の伸度および柔軟性といった機械的特性の観点からエチレングリコールが特に好ましい。
なお、本発明の効果の範囲を損なわない程度に、他のジカルボン酸やヒドロキシカルボン酸誘導体、ジオールが共重合されていてもよい。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、優れた耐熱酸化分解性および透明性を得るために、希土類元素を含有することが必要である。希土類元素として具体的には、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられる。希土類元素として耐熱酸化分解性および色調、入手のしやすさの観点から、この中でもLa、Ceのいずれかが好ましく、より好ましくはCeである。希土類元素は2種類以上含有していてもかまわない。
希土類元素の含有量としては、十分な耐熱酸化分解性を得るためには0.1モル/トン以上であることが好ましく、より好ましくは1.0モル/トン以上、さらに好ましくは1.5モル/トン以上である。また、上限としては、10.0モル/トン以下であることが好ましく、より好ましくは6.0モル/トン以下、さらに好ましくは5.0モル/トン以下である。希土類元素が前記上限以下であると、ポリエステル樹脂との相溶性が良好で、成形加工時の粗大異物の発生が少ない。
本発明のポリエステル樹脂組成物においては、優れた耐熱酸化分解性および透明性を付与するために、アルカリ金属元素が含まれることが必要である。アルカリ金属元素として具体的には、Li、Na、K、Rb、Cs、Frが挙げられるが、耐熱酸化分解性の観点から、Li、Na、Kのいずれかであることが好ましく、より好ましくは、Na、Kのいずれかである。アルカリ金属元素は2種類以上含有していてもかまわない。
アルカリ金属元素の含有量は、0.1モル/トン以上が好ましく、より好ましくは1.0モル/トン以上である。アルカリ金属元素が0.1モル/トン以上であれば、希土類元素の耐熱酸化分解性効果がさらに向上する。また、アルカリ金属元素の含有量の上限は、10.0モル/トン以下であることが好ましく、より好ましくは4.0モル/トン以下、さらに好ましくは3.0モル/トン以下である。アルカリ金属元素が10.0モル/トン以下であれば、成形時にポリエステルの低分子量体と不溶性の異物を形成することがなく、透明性が良好である。
本発明のポリエステル樹脂組成物において、優れた耐熱酸化分解性を得るために、希土類元素の総和モル量(M)とアルカリ金属元素の総和モル量(A)の比(M/A)が0.1以上であることが必要である。M/Aとして好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上である。また、上限は特に設けないが、耐熱酸化分解性および透明性の観点から5.0以下が好ましく、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
優れた耐熱酸化分解性および透明性を得るためにリン元素を含むことが必要である。リン元素の含有量としては、十分な耐熱酸化分解性を得るために下限として0.3モル/トン以上であることが好ましく、より好ましくは1.0モル/トン以上、さらに好ましくは1.5モル/トン以上である。また、上限としては、6.0モル/トン以下であることが好ましく、より好ましくは4.0モル/トン以下である。リン元素が6.0モル/トン以下であると、組成物中の酸性度が高くなり過ぎないので、耐熱酸化分解性が良好である。
本発明のポリエステル樹脂組成物において、耐熱酸化分解性および透明性の観点から、希土類元素とアルカリ金属元素の総和モル量(MA)とリン元素の総和モル量(P)の比(MA/P)は、0.5以上6.0以下であることが好ましい。MA/Pが0.5以上であると組成物中の酸性度が高くなり過ぎないので、耐熱酸化分解性が良好である。MA/Pが6.0以下であると、副反応が抑制されて透明性が良好となる。MA/Pはより好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.3以上である。また、MA/Pはより好ましくは5.0以下、さらに好ましくは3.5以下である。
一般的に希土類元素は、複数のイオン価数状態となることができる。ポリエステルの熱分解や酸化分解の起点となるラジカルに対して、希土類元素が電子の授受によりイオン価数を変えて消費し、ラジカルを不活性化することができるため、熱分解や酸化分解を抑制する効果を付与できる。本発明では、耐熱酸化分解性を付与する目的で希土類元素を使用している。しかし、原理の詳細は明らかではないが、ポリエステル樹脂に希土類元素単独で含有させた場合は期待されるラジカル不活性化効果は得られず、かえってポリエステル樹脂の分解を促進することがわかった。そこで、鋭意検討した結果、アルカリ金属元素を希土類元素に対して特定以上の割合で併用し、かつリン元素を併用することで、希土類元素がより効果的に熱酸化分解を抑制できることを見出した。
本発明のポリエステル樹脂組成物の色調は、実施例の(5)として記載した測定方法により求められるL値で評価する。L値は、50以上が好ましく、より好ましくは55以上、さらに好ましくは58以上である。この範囲とすることで、フィルムや繊維などの色調が良好なポリエステル樹脂組成物成形体を提供することが可能となる。
本発明のポリエステル樹脂組成物の溶液ヘイズは、実施例の(6)として記載した測定方法により求められる。溶液ヘイズとしては、10%以下が好ましく、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは5%以下である。この範囲とすることで、得られる樹脂組成物からなる成形体は異物が少なく、透明性に優れたものとなる。
本発明のポリエステル樹脂組成物の耐熱酸化分解性は、実施例の(8)として記載した測定方法により求められるΔCOOHで評価する。ΔCOOHとして好ましくは100eq/トン以下、より好ましくは50eq/トン以下、特に好ましくは40eq/トン以下である。上記範囲を満たすことで、長期使用において高耐熱酸化分解性が必要とされる電絶フィルム用途などに好適なポリエステル樹脂組成物を提供することが可能となる。
ここで、耐熱酸化分解性試験では、試験精度の観点から、試験するポリエステル樹脂組成物の形態を統一することが重要である。当該耐熱酸化分解性試験では実施例の(7)として記載した方法で作製したプレスシート状形態で試験する。
本発明のポリエステル樹脂組成物の透明性は、実施例の(9)として記載した測定方法により求められる全光線透過率で評価する。全光線透過率として好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。上記範囲を満たすことで、透明性に優れた成型体を得ることが可能となる。
次に、本発明におけるポリエステル樹脂組成物の製造方法について、説明する。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、希土類元素、アルカリ金属元素、およびリン元素を含有したポリエステル樹脂組成物であって、希土類元素の総和モル量とアルカリ金属元素の総和モル量の比を0.1以上とすることで、得ることができる。
本発明において希土類元素、アルカリ金属元素およびリン元素をポリエステルに導入する方法としては、例えば、ポリエステル重縮合反応が完結するまでにそれぞれの元素を含む化合物を添加する方法、ポリエステル溶融ポリマー中へそれぞれの元素を含む化合物を添加し、混錬する方法、それぞれの元素を含む複数のポリエステルを溶融し、混錬する方法などが挙げられる。
ポリエステル樹脂組成物の製造方法として、ポリエステル重合反応が完結するまでに希土類元素、アルカリ金属元素およびリン元素を含む化合物を添加する方法について詳細に説明する。
ポリエステル樹脂組成物の製造方法は、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルおよびジオールをエステル化反応(A)またはエステル交換反応(B)させる、1段階目の反応と、それに続く重縮合反応(C)からなる。
1段階目の工程のうち、エステル化反応(A)の工程は、ジカルボン酸成分とジオール成分を所定の温度でエステル化させ、所定量の水が留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。また、エステル交換反応(B)の工程は、ジカルボン酸アルキルエステル成分とジオール成分を所定の温度でエステル交換反応させ、所定量のアルコールが留出するまで反応を行い、低重合体を得る工程である。
一般的に、ジカルボン酸成分とジオール成分を原料としてエステル化反応(A)を行う場合、予めエステル化反応物を貯留しておき、ジカルボン酸成分とジオール成分のスラリーを添加してエステル化反応を開始する手法が、ジオール成分に難溶なジカルボン酸成分のハンドリング性向上、反応時間の短縮の点から選択されている。エステル化反応物を貯留しない場合でも、エステル化反応は進行するが、加圧設備や触媒が必要となる場合がある。本発明においてもエステル化反応物を予め貯留してエステル化反応を実施することが望ましい。
本発明におけるポリエステル樹脂組成物の製造方法において、ジカルボン酸成分とジオール成分からエステル化反応物を得る際、エステル化反応性、耐熱酸化分解性および色調の観点から、エステル化反応開始前のジカルボン酸成分とジオール成分のモル比(ジオール成分/ジカルボン酸成分)は、1.05以上1.40以下の範囲であることが好ましい。モル比を1.05以上1.40以下にすることによって、エステル化反応を効率的に進行させることができ、ジオール成分の2量体の副生を抑えることができる。その結果として、得られるポリエステル樹脂組成物の耐熱酸化分解性および色調を良好にすることができる。モル比が1.05未満であると、エステル化反応が効率的に進まないため、タイムサイクルが長くなる場合がある。また、モル比が1.40を超えると、副生するジオール成分の2量体によって耐熱酸化分解性が低下する場合がある。
なお、本発明におけるエステル化反応において、触媒としてアルカリ金属塩、チタン化合物、アンモニウム塩などを用いても構わないが、重縮合反応段階での熱分解や異物の発生などの観点から、エステル化反応は無触媒で実施することが好ましい。ここで、エステル化反応は無触媒においてもカルボキシル基末端による自己触媒作用によって、反応は十分に進行する。
また、本発明におけるポリエステル樹脂組成物の製造方法において、ジカルボン酸アルキルエステル成分とジオール成分からエステル交換反応(B)を経てエステル化物を得る際、エステル交換反応性、耐酸化分解性の観点から、エステル交換反応開始前のジカルボン酸アルキルエステル成分とジオール成分のモル比(ジオール成分/ジカルボン酸アルキルエステル成分)は1.7以上2.3以下の範囲であることが好ましい。上記範囲とすることで、エステル交換反応を効率的に進行させることができ、またジオール成分の2量体の副生を抑えることができる。その結果として、得られるポリエステル樹脂組成物の耐熱酸化分解性および色調を良好にすることができる。モル比が1.7を下回る場合は、エステル化反応が効率的に進行しないため、タイムサイクルが長くなり色調が悪化する場合がある。一方、モル比が2.3を超えると、副生するジオール成分の2量体によって耐熱酸化分解性が低下する場合がある。
本発明におけるポリエステル樹脂組成物の製造方法において、エステル交換反応に用いられる触媒は、公知のエステル交換触媒を用いることができる。エステル交換触媒及び助触媒としては、有機マンガン化合物、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機コバルト化合物などが好ましく使用される。具体的には、炭酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、酸化物、水酸化物などがあるが、これに限定されるものではない。
2段階目の工程である重縮合反応(C)は、エステル化反応(A)またはエステル交換反応(B)で得られた低重合体を移送した反応器内を減圧にすることにより、重縮合反応を開始し、反応器内の温度、圧力および攪拌速度を調節し重合反応を行い、攪拌トルクが所定の値に到達した時、すなわちポリエステル樹脂組成物が所望の粘度に到達した時まで重縮合反応を行うことにより、高分子量ポリエステル樹脂を得る工程である。
本発明におけるポリエステル樹脂組成物の製造に用いられる重縮合触媒は、公知の重縮合触媒を用いることができる。例えば、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物、スズ化合物などが挙げられる。
希土類元素、アルカリ金属元素およびリン元素は、(A)または(B)工程、それに続く(C)工程のいずれの段階で添加しても良いが、耐熱酸化分解性および色調に優れたポリエステル樹脂組成物を効率的に製造することができる点で、(A)または(B)工程終了から(C)工程完了までの間で添加することが好ましい。この時、(A)または(B)工程は、反応率が95%に到達した段階を反応終了とする。希土類元素、アルカリ金属元素およびリン元素はそれぞれジオール成分と混合した状態で添加することが好ましい。
添加する希土類元素としては具体的には、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられ、希土類元素として耐酸化分解性や入手のしやすさの観点から、この中でもLa、Ceが好ましく、より好ましくはCeである。
希土類元素を含む化合物としては、有機酸塩、ハロゲン化塩、水酸化物、アルコキシド、酸化物、有機アルキル化合物などの各種の金属化合物を用いることができる。具体的には、トリス(アセチルアセトナト)ランタン(III)、塩化ランタン(III)、酢酸ランタン(III)、ステアリン酸ランタン(III)、リン酸ランタン(III)、酸化セリウム(III)、酸化セリウム(IV)、塩化セリウム(III)、フッ化セリウム(III)、硫酸セリウム(III)、硫酸セリウム(IV)、硝酸セリウム(III)アンモニウム、ペンタニトラトセリウム(III)酸アンモニウム、硝酸セリウム(IV)アンモニウム、ヘキサニトラトセリウム(IV)酸アンモニウム、硝酸セリウム(III)、水酸化セリウム(IV)、炭酸セリウム(III)、シュウ酸セリウム(III)、酢酸セリウム(III)、酢酸セリウム(IV)などの化合物が挙げられる。その中でも、耐熱酸化分解性の観点から、有機酸塩が好ましく、その中でも酢酸塩などのカルボン酸塩が特に好ましい。なお、これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。
十分な耐熱酸化分解性を得るために、希土類元素を含む化合物を希土類元素として0.1モル/トン以上添加することが好ましく、より好ましくは1.0モル/トン以上、さらに好ましくは1.5モル/トン以上である。また、上限としては、希土類元素として10.0モル/トン以下であることが好ましく、より好ましくは6.0モル/トン以下、さらに好ましくは5.0モル/トン以下である。希土類元素が上限以下であると、ポリエステル樹脂との相溶性が良好であるので、粗大異物の発生が少なく目的とするポリエステル組成物を得ることができる。
添加するアルカリ金属元素としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Frが挙げられるが、耐熱酸化分解性および耐加水分解性の観点から、Li、Na、Kのいずれかであることが好ましく、より好ましくは、Na、Kのいずれかである。
アルカリ金属元素を含む化合物としては、有機酸塩、水酸化物、アルコキシド、酸化物、有機アルキル化合物など各種のアルカリ金属化合物を用いることができる。具体的には、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、n−ブチルリチウムなどの化合物が挙げられる。なお、これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて使用しても構わない。
アルカリ金属元素を含む化合物の添加量としては、0.1モル/トン以上添加することが好ましく、より好ましくは1.0モル/トン以上である。希土類元素とアルカリ金属元素が含有されることで、希土類元素の耐熱酸化分解性がさらに向上する。また、上限として、10.0モル/トン以下であることが好ましく、より好ましくは4.0モル/トン以下、さらに好ましくは3.0モル/トン以下である。アルカリ金属元素が10.0モル/トン以下であると、ポリエステルの低分子量体と不溶性の異物を形成することがなく、透明性が良好である。
本発明におけるポリエステル樹脂組成物の製造方法において、優れた耐熱酸化分解性を得るために、希土類元素の総和モル量(M)とアルカリ金属元素の総和モル量(A)の比(M/A)が0.1以上となるように、希土類元素やアルカリ金属元素を含む化合物を添加することが必要である。M/Aとして好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上である。また、上限は特に設けないが、耐熱酸化分解性および透明性の観点から5.0以下が好ましく、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
優れた耐熱酸化分解性および色調を得るためにリン元素を含む化合物を添加することが必要である。なお、添加したリン化合物はポリエステル重合中に反応系外に揮発することがあり、ポリエステル樹脂組成物への残存量は添加量よりも少ないことが一般的である。そこで、十分な耐熱酸化分解性を得るために下限として0.4モル/トン以上のリン元素を含む化合物を添加することが好ましく、より好ましくは1.2モル/トン以上、さらに好ましくは1.8モル/トン以上である。また、上限としては、7.5モル/トン以下であることが好ましく、より好ましくは5.0モル/トン以下である。リン元素が7.5モル/トン以下であると、組成物中の酸性度が高くなり過ぎず、成型体の耐熱酸化分解性が良好である。
添加するリン化合物は特に限定しないが、ホスファイト系化合物、ホスフェイト系化合物、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物等が挙げられる。
ホスファイト系化合物としては、具体的には、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
ホスフェイト系化合物としては、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等が挙げられる。
ホスホン酸系化合物としては、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチルエステル、メチルホスホン酸ジエチルエステル、エチルホスホン酸ジメチルエステル、エチルホスホン酸ジエチルエステル、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、フェニルホスホン酸ジフェニルエステル、ベンジルホスホン酸ジメチルエステル、リチウム(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、ナトリウム(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、マグネシウムビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、カルシウムビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸メチル、ジエチルホスホノ酢酸エチル等が挙げられる。
ホスフィン酸系化合物としては、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、メチルホスフィン酸、エチルホスフィン酸、プロピルホスフィン酸、イソプロピルホスフィン酸、ブチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、トリルホスフィン酸、キシリルホスフィン酸、ビフェニリルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジプロピルホスフィン酸、ジイソプロピルホスフィン酸、ジブチルホスフィン酸、ジトリルホスフィン酸等が挙げられる。
ホスフィンオキサイド系化合物としては、トリメチルホスフィンオキサイド、トリエチルホスフィンオキサイド、トリプロピルホスフィンオキサイド、トリイソプロピルホスフィンオキサイド、トリブチルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
亜ホスホン酸系化合物としては、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、プロピル亜ホスホン酸、イソプロピル亜ホスホン酸、ブチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等が挙げられる。
亜ホスフィン酸系化合物としては、メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、プロピル亜ホスフィン酸、イソプロピル亜ホスフィン酸、ブチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸、ジメチル亜ホスフィン酸、ジエチル亜ホスフィン酸、ジプロピル亜ホスフィン酸、ジイソプロピル亜ホスフィン酸、ジブチル亜ホスフィン酸、ジフェニル亜ホスフィン酸等が挙げられる。
ホスフィン系化合物としては、メチルホスフィン、ジメチルホスフィン、トリメチルホスフィン、メエルホスフィン、ジエチルホスフィン、トリエチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
なお、これらのリン化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて使用しても構わない。
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、耐熱酸化分解性および透明性の観点から、希土類元素とアルカリ金属元素の総和モル量(MA)とリン元素の総和モル量(P)の比(MA/P)は、0.5以上6.0以下となるように、希土類元素やアルカリ金属元素、リン元素を含む化合物を添加することが好ましい。MA/Pを0.5以上とすると組成物中の酸性度が高くなり過ぎず、耐熱酸化分解性が良好である。一方、MA/Pが6.0以下であると副反応により色調の劣化を抑制できる。MA/Pの下限はより好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.3以上である。MA/Pの上限はより好ましくは5.0以下、さらに好ましくは3.5以下である。
本発明のポリエステル樹脂組成物においては、必要に応じて、色調調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、可塑剤もしくは消泡剤又はその他の添加剤等を添加しても構わない。
また、本発明においては、さらに高分子量のポリエステル樹脂組成物を得るために、固相重合をおこなってもよい。固相重合の装置・方法は特に限定されないが、例えば、減圧下でポリエステル樹脂組成物の融点以下の温度で加熱処理されることで実施される。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、耐熱酸化分解性および透明性がいずれも良好であり、繊維、フィルムなどの成形品に広く利用することができる。その中でも特に、近年長期耐久性の要求が高まっている電気絶縁用フィルムや太陽電池用バックシートフィルムなどに好適に用いることができる。
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
(1)樹脂組成物中のリン元素量の定量
理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて測定した。
(2)樹脂組成物中の希土類元素量及びアルカリ金属元素量の定量
原子吸光法(日立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度計180−80。フレーム:アセチレン−空気)にて定量を行った。
(3)樹脂組成物の固有粘度(IV)
o−クロロフェノール溶媒を用い、25℃で測定した。
(4)組成物のカルボキシル基末端量(COOH)
Mauliceの方法によって測定した。(文献 M.J.Maulice,F.Huizinga,Anal.Chem.Acta,22 363 (1960)) 。
(5)樹脂組成物の色調(L値)
ポリエステル樹脂組成物のチップを10gサンプリングし、色調(L値)について、スガ試験機(株)製のSC3Pカラーマシンを使用して測定した。L値は、白−黒系の色相を表し、ポリマーの色調としてはL値が高いほど、色調が良好である。
(6)樹脂組成物の溶液ヘイズ
ポリエステル樹脂組成物2gを20mLのオルトクロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの3/2(容積比)混合溶液に溶解し、光路長20mmのセルを用い、ヘイズメーター(スガ試験機社製 HZ−1)を用いて、積分球式光電光度法にて測定した。溶液ヘイズが低いほど、透明性が良好である。
(7)プレスシートの作製
150℃12時間真空乾燥したポリエステル樹脂組成物7gを、平滑なプレート間にはさみ280℃で1分間溶融し、その後280℃1.5MPaで1分間プレスし、水槽に沈めて冷却することで縦120mm×横120mm×厚み0.4mmのプレスシートを作製した。
(8)組成物の耐熱酸化分解性(ΔCOOH)
上記(7)にて作製したプレスシートを、縦10mm×横100mm×厚み0.4mmの短冊状に切り出し、内径15mmのガラス試験管に入れ、150℃12時間真空乾燥した後、ガラス試験管をオイルバスに挿入して200℃、酸素濃度20%の空気雰囲気下で24時間熱処理した。該熱処理前後のポリエステル樹脂組成物のカルボキシル基末端量を測定し、該熱処理後から該熱処理前を減したカルボキシル基末端増加量(ΔCOOH)により耐熱酸化分解性評価を実施した。ΔCOOHとしては100eq/トン以下であるとき、耐熱酸化分解性が良好であると判断した。
(9)組成物の透明性(全光線透過率)
JIS−K−7361−1に基づき、上記(7)にて作成したプレスシートの全光線透過率を、シングルビーム式ヘイズメーターを使用して測定した。全光線透過率としては75%以上であるとき、透明性が良好であると判断した。
(実施例1)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245〜255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
こうして得られた255℃のエステル化反応物105重量部(ポリエチレンテレフタレート(以降PETとする)100重量部相当)を重合装置に移送し、三酸化二アンチモン0.03重量部(1.0モル/トン相当)/エチレングリコール0.60重量部の混合溶液、酢酸セリウム(III)1水和物0.10重量部(3.0モル/トン相当)/エチレングリコール2.00重量部の混合溶液、および酢酸ナトリウム0.02重量部(2.0モル/トン相当)/エチレングリコール0.40重量部の混合溶液を添加し、5分攪拌した。その後、リン酸(85%水溶液)0.03重量部(2.5モル/トン相当)/エチレングリコール0.40重量部の混合溶液を添加した。
次いで、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.70相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水中にストランド状に吐出、カッティングし、ペレット状のポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表1に示す。
実施例1で得られたポリエステル樹脂組成物は、耐熱酸化分解性および透明性のいずれも良好であった。
(実施例2、3、比較例1)
酢酸セリウム(III)1水和物の添加量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例1に示した方法と同様に実施した。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表1に示す。
実施例2、3で得られたポリエステル樹脂組成物は、耐熱酸化分解性および透明性のいずれも良好であった。
比較例1で得られたポリエステル樹脂組成物は、希土類元素を含有しないため耐熱酸化分解性が不十分であった。
(実施例4、比較例2、3)
酢酸セリウム(III)1水和物を表1に記載の化合物に変更した以外は、実施例1に示した方法と同様に実施した。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表1に示す。
実施例4で得られたポリエステル樹脂組成物は、耐熱酸化分解性および透明性いずれも良好であった。
比較例2で得られたポリエステル樹脂組成物は、耐熱酸化分解性が不十分であり、銅元素による着色が強く、透明性が不十分であり、耐熱酸化分解性および透明性のいずれも不良であった。
比較例3で得られたポリエステル樹脂組成物は、希土類元素を含有しないため耐熱酸化分解性が不十分であった。
(実施例5)
酢酸ナトリウムを水酸化カリウムに変更した以外は、実施例1に示した方法と同様に実施した。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表1に示す。
実施例5で得られたポリエステル樹脂組成物は、耐熱酸化分解性および透明性いずれも良好であった。
(実施例6)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245〜255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
こうして得られた255℃のエステル化反応物105重量部(PET100重量部相当)を重合装置に移送し、三酸化二アンチモン0.03重量部(1.0モル/トン相当)/エチレングリコール0.60重量部の混合溶液、および酢酸セリウム(III)1水和物0.10重量部(3.0モル/トン相当)/エチレングリコール2.00重量部の混合溶液を添加し、5分攪拌した。その後、リン酸二水素ナトリウム2水和物0.03重量部(2.0モル/トン相当)/エチレングリコール0.60重量部の混合溶液を添加した。
次いで、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.70相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水中にストランド状に吐出、カッティングし、ペレット状のポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表1に示す。
実施例6で得られたポリエステル樹脂組成物は、耐酸化分解性および透明性のいずれも良好であった。
(実施例7、8、比較例4)
酢酸ナトリウムの添加量を表2に記載の量に変更した以外は、実施例1に示した方法と同様に実施した。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表2に示す。
実施例7、8で得られたポリエステル樹脂組成物は、耐熱酸化分解性および透明性のいずれも良好であった。
比較例4で得られたポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属元素を含有しないため耐熱酸化分解性が不十分であった。
(実施例9、10、比較例5)
リン酸の添加量を表2に記載の量に変更した以外は、実施例1に示した方法と同様に実施した。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表2に示す。
実施例9、10で得られたポリエステル樹脂組成物は、耐熱酸化分解性および透明性のいずれも良好であった。
比較例5で得られたポリエステル樹脂組成物は、リン元素を含有しないため耐熱酸化分解性および透明性ともに不十分であった。
(実施例11〜13)
酢酸セリウム1水和物、酢酸ナトリウム、およびリン酸の添加量を表2に記載の量に変更した以外は、実施例1に示した方法と同様に実施した。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表2に示す。
実施例11〜13で得られたポリエステル樹脂組成物は、耐熱酸化分解性および透明性のいずれも良好であった。