以下、本発明の実施形態について、図面を用いながら説明する。各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
実施形態1
図1は、本発明の実施形態1であるエレベーターシステムの装置構成を示す。
図1に示すように、本実施形態1における電力変換装置は、三相交流電源1(例えば、商用電源)からの定電圧・定周波数の交流電力を直流電力に変換するコンバーター2と、コンバーター2が出力する直流電圧を平滑化する平滑コンデンサ3と、コンバーター2(図1ではダイオード整流器)から入力する直流電力を可変電圧・可変周波数の交流電力へ変換するインバーター4にて構成される単位の変換器モジュールを複数個備える。複数の変換器モジュールは、単数もしくは複数の変換器モジュールからなる第1モジュール群16と、第1モジュール群よりは少ないかもしくは同じ個数の変換器モジュールからなる第2モジュール群17とに分けられる。
各モジュール群内において、複数の変換器モジュールは並列接続される。従って、各モジュール群の電力容量は変換器モジュールの個数に比例するので、第1モジュール群16の総電力容量は、第2モジュール群17の総電力容量以上である。このような総電力容量の大きさに応じ、本実施形態1においては、エレベーターの通常運転および保守運転の内、第1モジュール群16は通常運転のみに用いられ、第2モジュール群17は主に保守運転のみに用いられる。
なお、第1モジュール群16および第2モジュール群17における変換器モジュールの個数は、図1では、それぞれ2個および1個であるが、これに限らず、エレベーターを駆動する電動機の容量に応じて、任意の個数で良い。
図1に示すように、第1モジュール群16および第2モジュール群17を備える電力変換装置の主回路部において、コンバーター2の交流側には回路切替部15および電磁接触器19を介して三相交流電源1が接続され、インバーター4の交流側には回路切替部15を介して、負荷となる電動機6が接続される。電力変換装置の入出力部にそれぞれ設けられる回路切替部15によって、エレベーターの駆動に用いられるモジュール群が切り替えられる。すなわち、回路切替部15によって、第1モジュール群あるいは三相交流電源1と電動機6の間において、第1および第2モジュール群の内、通常運転時は、第1モジュール群16が選択的に接続され、保守運転時は、第2モジュール群17が選択的に接続される。
なお、電磁接触器19は、電力変換装置の入力側において、回路切替部15と三相交流電源1との間に接続される。電磁接触器19によって、電力変換装置に対して、三相交流電源1が、投入されたり、遮断されたりする。
インバーター駆動装置8は、電動機6の回転を検出する回転検出器7、例えば、ロータリーエンコーダからの信号と、電動機6の電流を検出する電流検出器5、例えば、電流トランス(CT)などからの信号に応じて、電力変換装置を駆動制御する駆動信号を作成する。インバーター駆動装置8が出力する駆動信号によって、インバーター4を構成する半導体スイッチング素子(図1ではIGBT)がオン・オフされることにより、直流電力が交流電力に変換されて、電動機6に供給される。電動機6は、電力変換装置から供給される交流電力によって、可変速駆動される。電動機6が駆動されると、電動機6を備える巻上機(図示せず)に巻き掛けられる主ロープ10の両端にそれぞれ接続される乗りかご11と釣り合い錘13が、昇降路(図示せず)内において、互いに上下反対方向へ昇降する。ここで、インバーター駆動装置8は、回転検出器7の検出信号に基づいて計測される乗りかご11の速度や位置、並びに電流検出器5の検出信号が示す電動機6の電流計測値が、それぞれ上位制御装置である運転制御装置9が作成する各指令値に一致するように、電力変換装置に対する駆動信号を作成する。
インバーター駆動装置8は、電力変換装置の動作状態を監視し、運転制御装置9へ、電力変換装置の動作状態を示す状態監視信号を送信する。運転制御装置9は、インバーター駆動装置8からの状態監視信号や回転検出器7の検出信号に基づいて、エレベーターシステムの動作異常が発生していると判定すると、インバーター駆動装置8へ停止指令を発信する。インバーター駆動装置8は、停止指令を受けると、電磁接触器19を開いて三相交流電源から電力変換装置への電力供給を遮断したり、電力変換装置の動作を停止したりするとともに、電動機6が備えるブレーキ装置(図示せず)を制動状態にして、乗りかご11を停止させる。
さらに、インバーター駆動装置8は、回路切替部15を制御して、電力変換装置においてエレベーターの駆動に用いるモジュール群として、第1モジュール群16および第2モジュール群17のいずれかを選択する。エレベーターの保全作業時に、乗りかご11内の操作盤内などに設けられる保守作業モード切替スイッチ12が操作されると、運転制御装置9は、インバーター駆動装置8へ回路切替指令を送信する。インバーター駆動装置8は、回路切替指令を受けると、回路切替部15を制御して、第2モジュール群17を選択する。
また、管制センター40から、通信ネットワーク30を介して、エレベーターシステムへ、自動診断指令信号が送信されると、自動診断指令信号は、遠隔保全監視装置14で受信され、遠隔保全監視装置14から運転制御装置9に送られる。運転制御装置9は、自動診断指令信号を受けると、インバーター駆動装置8へ自動診断運転指令を送信すると共に、インバーター駆動装置8へ回路切替指令を送信する。インバーター駆動装置8は、回路切替指令に応じて、回路切替部15を制御して、第2モジュール群17を選択すると共に、自動診断運転指令に応じて、自動診断運転を実行する。
保守作業モード切替スイッチ12の操作に代えて、管制センター40からの指令に応じて、エレベーターシステムが保守モードに設定されても良い。この場合、保守作業時に、保守作業開始信号が、エレベーターシステムから、遠隔保全監視装置を介して管制センター40に送信されたり、保守作業者の携帯端末などから管制センター40に送信されたりすると、管制センター40から通信ネットワーク30を介して、エレベーターシステムへ、エレベーターシステムを保守モードに設定する保守指令信号が送信される。保守指令信号は、遠隔保全監視装置14で受信され、遠隔保全監視装置14から運転制御装置9に送られる。運転制御装置9は、保守指令信号を受けると、保守作業モード切替スイッチ12が操作される場合と同様に、インバーター駆動装置8へ回路切替指令を送信する。
なお、本実施形態1において、インバーター駆動装置8、運転制御装置9および遠隔保全監視装置14は、いずれも主要部がマイクロコンピュータなどの演算処理装置によって構成され、演算処理装置が所定のプログラムを実行することにより、上述のような機能を備える。管制センター40は、主要部がコンピュータシステムによって構成され、エレベーターシステムの設置場所からは地理的に離れた場所に設置される。管制センター40は、図1に示すエレベーターシステム、並びに図示されない他のエレベーターシステムを含む、複数のエレベーターシステムの稼動状態を遠隔監視する。
上述のように、本実施形態1における電力変換装置は、第1モジュール群16と第2モジュール群17、すなわち電動機6と三相交流電源1との間に選択的に接続される二つの主回路部を備え、第1モジュール群16すなわち一方の主回路部がエレベーター利用者を運搬する通常運転に用いられ、第2モジュール群すなわち他方の主回路部が保守作業時における保守運転に用いられる。そして、第1モジュール群16は保守運転には用いられない。すなわち、電力変換装置の主回路が、通常運転に用いられる主回路部と、保守運転に用いられる主回路部とに、モジュール化されている。これにより、エレベーター用の電力変換装置の寿命、すなわち、エレベーターの通常運転への電力変換装置の耐用期間は、第1モジュール群16すなわち一方の主回路部の経年動作によって消費されるが、第2モジュール群17すなわち他方の主回路部の経年動作によっては消費されない。すなわち、エレベーター駆動用の電力変換装置の寿命は、保守運転によっては消費されない。従って、電力変換装置を保守運転に用いながらも、保守運転の装置寿命への影響を無くすことができる。
図2は、本実施形態1における電力変換装置の外観の一例を示す正面図である。
図2に示すように、本実施形態1における電力変換装置においては、筐体50に、複数の変換器モジュール16A〜16F,17A〜17Cが格納される。これら9個の変換器モジュールが、縦方向および横方向に、それぞれ3個ずつ配置される。また、6個の変換器モジュール16A〜16Fが、通常運転に用いられる第1モジュール群16を構成し、3個の変換器モジュール17A〜17Cが、保守運転に用いられる第2モジュール群17を構成する。
変換器モジュールは、筐体50の正面部から筐体50内に挿入され、図示されない筐体50内の配線導体(図示せず)に電気的に接続される。6個の変換器モジュール16A〜16Fは、配線導体を介して並列接続されて、第1モジュール群16を構成する。また、3個の変換器モジュール17A〜17Cは、配線導体を介して並列接続されて、第2モジュール群17を構成する。筐体50の正面部においては、変換器モジュールのパネル面が露出する。なお、パネル面に、パイロットランプや、電源スイッチなどが設けられても良い。
筐体50内には、変換器モジュールのほか、図1に示す回路切替部15、電磁接触器19およびインバーター駆動装置8が格納される。
本実施形態1では、上述のように、電力変換装置の主回路が、通常運転に用いられる主回路部と、保守運転に用いられる主回路部とに、モジュール化されている。さらに、これら主回路部は、図2に示すように、それぞれ、複数の変換器モジュールから構成される。これにより、単位の変換器モジュールの個数を調整すれば、種々の電力容量の電力変換装置を構成できる。例えば、図2に示す電力変換装置では、電力変換装置の電力容量に応じて、4個の変換器モジュール16A〜16Dにより第1モジュール群16を構成し、2個の変換器モジュール17A〜17Bにより第2モジュール群17を構成することができる。なお、この場合、図2中の変換器モジュール16E,16F,17Cの位置における筐体50の開口部は、変換器モジュールのパネル面を構成するパネル部材により塞いでも良い。
また、主回路部が複数の変換器モジュールから構成されるので、電力変換装置の主回路部の一部を点検あるいは保守する場合、対象部位の変換器モジュールを筐体50から抜き出して、作業を施せばよい。このため、電力変換装置の保守・点検作業が容易になる。
なお、第1および第2モジュール群を構成する変換器モジュールの個数は、所望の電力容量に応じて、適宜設定できる。
次に、本実施形態1における電力変換装置の主回路部すなわちモジュール群の切替動作について説明する。
ここで、第1モジュール群16は、エレベーターシステム供給者から納入した顧客が、通常運転に使用する。また、第2モジュール群17は、保守作業者側が保守作業(自動診断運転を含む)に使用する。そこで、以下の説明においては、「第1モジュール群16」および「第2モジュール群17」を、それぞれ、「顧客使用インバーターモジュール」および「保全専用インバーターモジュール」と記す。
図3は、本実施形態1におけるインバーターモジュールの切替手段を示すフロー図である。以下、適宜、図1も参照しながら説明する。
ステップS20で、電力変換装置は、インバーターモジュールの切替動作を開始する。本ステップS20の次に、ステップS21が実行される。
ステップS21で、運転制御装置9(図1)は、エレベーターの保全作業が実施される時に、保守作業者の操作によって、保守作業モード切替スイッチ12が動作したか否かを判定する。保守作業モード切替スイッチ12が動作したと判定されると(ステップS21のY)、ステップS23が実行され、保守作業モード切替スイッチ12が動作していないと判定されると(ステップS21のN)、ステップS22が実行される。
ステップS23で、インバーター駆動装置8(図1)は、運転制御装置9からの指令に応じて、保全専用インバーターモジュール(図1の「17」)が選択されるように、回路切替部15を切替制御する。本ステップS23の次に、ステップS24が実行される。
ステップS24で、保全専用インバーターモジュールによってエレベーターが駆動され、保守運転が実行される。保全作業時には、比較的高負荷の特殊運転が実施される場合があるが、この場合においても、顧客使用インバーターモジュールには負担がかからない。
保守運転が完了すると、インバーター駆動装置8は、保全専用インバーターモジュールの動作を停止させる。これにより、エレベーターは停止する。
また、ステップS22で、運転制御装置9は、管制センター40(図1)からの指令を受け、遠隔保全監視装置14(図1)によって自動診断運転の実施が設定されているか否かを判定する。自動診断運転が実施される場合(ステップS22のY)、上述のステップS23,S24,S27が順次実行される。自動診断運転が実施されない場合(ステップS22のN)、次に、ステップS25が実行される。
ステップS25で、インバーター駆動装置8(図1)は、運転制御装置9からの指令に応じて、顧客用インバーターモジュール(図1の「16」)が選択されるように、回路切替部15を切替制御する。本ステップS25の次に、ステップS26が実行される。
ステップS26で、顧客用インバーターモジュールによってエレベーターが駆動され、通常運転が実行される。
通常運転が完了すると、インバーター駆動装置8は、顧客用インバーターモジュールの動作を停止させる。これにより、エレベーターは停止する。
上述のように、本実施形態1における電力変換装置によれば、主回路が、通常運転に用いられる主回路部と、保守運転に用いられる主回路部とに、モジュール化されているので、電力変換装置を保守運転に用いながらも、保守運転の装置寿命への影響を無くすことができる。
本実施形態1における第2モジュール群17すなわち保全専用インバーターモジュールを保守作業者側の所有とすれば、エレベーターの所有者にとっては、設備コストを増大することなく、電力変換装置の信頼性が向上する。
なお、保守運転時に限らず、自動診断運転時、救出運転時、最寄階運転時、後述するような顧客用インバーターモジュールの故障時に、保全専用インバーターモジュールを用いてエレベーターを駆動しても良い。これにより、通常運転時に用いる顧客用インバーターモジュールの寿命消費が増大することが防止される。
実施形態2
次に、本発明の実施形態2について説明する。なお、本実施形態2のエレベーターシステムの構成は、図1に示す実施形態1と同様である。なお、以下の説明において、前述の図3の説明と同様に、図1における「第1モジュール群16」および「第2モジュール群17」を、それぞれ、「顧客用インバーターモジュール」および「保全専用インバーターモジュール」と記す。
本実施形態2においても、実施形態1と同様に、通常運転時では、顧客用インバーターモジュールを用いてエレベーターを駆動する。通常運転時に顧客用インバーターモジュールが故障した場合、例えばIGBTのオープン故障の場合、インバーター駆動装置8(図1)は、電流検出器5(図1)によって異常電流を計測すると、顧客用インバーターモジュールが異常であると判定し、電磁接触器19(図1)を開放して、三相交流電源1(図1)から電力変換装置への電力供給を遮断する。
また、インバーター駆動装置8は、エレベーター動作状態信号を運転制御装置9(図1)に送るととともに、異常電流を計測すると、異常検出信号を運転制御装置9(図1)に送る。運転制御装置9は、異常検出信号を受けると、異常検出時すなわち顧客用インバーターモジュールの故障時におけるエレベーター状態信号と異常検出信号を、遠隔保全監視装置14(図1)を用いて、通信ネットワーク30(図1)を介して管制センター40(図1)に送る。
管制センター40は、エレベーターシステム側から送られてくるエレベーター状態信号によって、エレベーターシステムの異常状態をモニタするので、顧客用インバーターモジュールの故障時におけるエレベーター状態信号によって顧客用インバーターモジュールの異常に起因するエレベーターの停止故障を遠隔で認識できる。また、エレベーター利用者が乗りかご11内(図1)に閉じ込められている場合には、管制センター40を運用する管制員(センター員)が乗りかご内の利用者と通話しながら、利用者の安全確認ができ次第、管制センター40は、通信ネットワーク30を介して遠隔保全監視装置14に、回路切替部15の切替指令を送る。遠隔保全監視装置14で受けた切替指令は、運転制御装置9を介して、インバーター駆動装置8へ送られる。インバーター駆動装置8は、切替指令を受けると、回路切替部15(図1)を操作して、エレベーター駆動に使用するインバーターモジュールを、顧客用インバーターモジュールから保全専用インバーターモジュールに変更する。さらに、インバーター駆動装置8は、電磁接触器19を閉じる。これにより、エレベーターの駆動が可能な状態となり、エレベーター停止状態の復旧が可能となる。
図4は、本実施形態2におけるインバーターモジュールの切替手段を示すフロー図である。
ステップS31で、エレベーターは、顧客用インバーターモジュールによる通常運転状態にある。
ステップS32で、運転制御装置9は、エレベーターに故障が発生したか否かを判定する。故障が発生していない場合(ステップS32のN)、通常運転(ステップS31)が継続される。故障が発生している場合(ステップS32のY)、ステップS33が実行される。
ステップS33で、管制センター40は、遠隔保全監視装置14を用いて、エレベーターの故障状態を確認する。ステップS33の次に、ステップS34が実行される。
ステップS34で、管制センター40は、エレベーターの停止故障の原因がインバーターモジュールであるか否かを判定する。インバーターモジュールが原因ではない場合(ステップS34のN)、処理は終了する(ステップS47)。インバーターモジュールが原因である場合(ステップS34のY)、次にステップS35が実行される。
ステップS35で、管制センター40では、故障直前の運転状態(例えば、かご呼びの有無、かご内荷重の有無など)に基づいて、乗りかご11内の利用者(閉じ込め者)の有無を判定し、利用者有りの場合は、管制センター40における通話装置を乗りかご11内に設置されるインターホンに自動接続し(ステップS35のY)、ステップS36に進む。利用者無の場合(ステップS35のN)、ステップS39に進む。
ステップS36で、管制センター40の管制員は、通話装置およびインターホンを使って、乗りかご11内の利用者に安全確認のための呼びかけを行い、呼びかけに対する応答の有無を確認する。応答有の場合(ステップS36のY)、ステップS37が実行される。応答無の場合(ステップS36のN)、ステップS42〜S46が順次実行される。
ステップS37で、管制員は、乗りかご11内の利用者に対し、通話装置およびインターホンを使って、エレベーターを再起動する旨のアナウンスをする。これにより、乗りかご11内の利用者に、安心感を与えることができる。
次に、ステップS38で、管制員は、ステップS37におけるアナウンスに対して乗りかご11内の利用者が了承したと判定すると(ステップS38のY)、次にステップS39を実行する。利用者の了承が確認できない場合(ステップS38のN)、アナウンスを継続する(ステップS37)。ここで、管制員は、エレベーター利用者や乗りかご11内の音声の状況から、乗りかご11内の状況がパニック状態にあると判断すると、再起動に伴う二次的な故障(例えば、乗りかご11内からドアを開けようとする行為によるドア故障)を誘発する恐れが有るため、呼びかけおよびアナウンスを継続する。
ステップS39で、管制員は、管制センター40において、遠隔保全監視装置14に対して、エレベーター駆動に用いるインバーターモジュールを保全専用インバーターモジュールに切り替えることを指令する回路切替部15の切替指令を発信するための手動操作を実施する。
次に、ステップS40で、ステップS39における管制員の手動操作に応じて、管制センター40は、遠隔保全監視装置14に切替指令を送る。
次に、ステップS41で、エレベーターは再起動され、保全専用インバーターモジュールを用いて低速運転や救出運転などが可能になる。ステップS41が実行されると、一連の処理は終了する(ステップS47)。
また、ステップS36で、管制員の呼びかけに対して乗りかご11内の応答が無い場合(ステップS36のN)、次にステップS42が実行される。
ステップS42で、管制員は、停止故障したエレベーターの管理者に、電話や電子メールなどで、乗りかご11内の利用者の状態を緊急連絡する。
次に、ステップS43で、ステップS40と同様に、管制員の手動操作に応じて、管制センター40は、遠隔保全監視装置14に切替指令を送る。なお、ステップS43は、ステップS42の前に実行されても良いし、ステップS42と同時に実行されても良い。
次に、ステップS44で、エレベーターは再起動され、保全専用インバーターモジュールを用いた運転が可能になる。
次に、ステップS45で、インバーター駆動装置8は、予め設定された自動運転モードで、保全専用インバーターモジュールを制御して、乗りかご11を基準階あるいは所定階に移動させる。
次に、ステップS46で、インバーター駆動装置8は、保全専用インバーターモジュールを制御(動作停止)して、乗りかご11を、基準階あるいは所定階にて休止させる。これにより、管制員から緊急連絡を受けた管理者は、乗りかご内の状態を確認でき、迅速に対処することができる。ステップS46が実行されると、一連の処理は終了する(ステップS47)。
前述のステップS35で、乗りかご11内の利用者無と判定された場合(ステップS35のN)、ステップS36〜S38は実行されずにスキップされ、前述のステップS39,S40,S41が順次実行される。
なお、図4のステップS47(処理終了)以降で、図示されない保守作業が実施され、故障した顧客用インバーターモジュールが修理される。顧客用インバーターモジュールの修理が完了するまで、保全専用インバーターモジュールでエレベーターを駆動し、利用者の運搬を継続することができる。これにより、エレベーターの稼動停止時間を低減できる。
また、図2に示したように、顧客用インバーターモジュールが複数の変換器モジュールから構成される場合、故障した変換器モジュールに代えて、保全専用インバーターモジュールを構成する変換器モジュールを用いても良い。すなわち、顧客用インバーターモジュールの故障していない変換器モジュールと、保全専用モジュールを構成する変換器モジュールを並列接続して用いることにより、正常な顧客用インバーターモジュールを用いた通常運転時と同等の動作条件で、エレベーターを駆動することができる。すなちわ、再起動後、実質、通常運転を継続することができる。
この場合、インバーター駆動装置8によって制御される回路切替部15は、電力変換装置を構成する複数の変換器モジュール(例えば、図2における9個の変換器モジュール)の各々を、三相交流電源と電動機の間に接続したり非接続にしたりできるように構成される。また、顧客用インバーターモジュールにおける各変換器モジュールの出力電流を検出することにより、検出電流に基づいて変換器モジュール毎に故障の有無を判定できる。
なお、上述のように図2に示す電力変換装置の構成を適用する場合、顧客用インバーターモジュールに故障が発生した場合、保全専用インバーターモジュールにおける変換器モジュールを用いることにより、顧客用インバーターモジュールにおける故障していない正常な変換器モジュールの負担が増えることはないので、これら変換器モジュールの寿命消費が増えることはない。
また、本実施形態2によれば、電力変換装置が故障しても、保全専用インバーターモジュールを用いて、エレベーターを稼働させることができるので、保守作業者は、エレベーター停止直後に緊急対応することなく、故障に対応することができる。
実施形態3
次に、本発明の実施形態3について説明する。なお、本実施形態3のエレベーターシステムの構成は、図1に示す実施形態1と同様である。なお、以下の説明において、前述の図3および図4の説明と同様に、図1における「第1モジュール群16」および「第2モジュール群17」を、それぞれ、「顧客用インバーターモジュール」および「保全専用インバーターモジュール」と記す。
本実施形態3では、前述の実施形態2における管制員の手動操作によるインバーターモジュールの切替に代えて、遠隔保全監視装置14(図1)によって自動で切替が行われる。
本実施形態3では、顧客用インバーターモジュールの故障によるエレベーター停止時に、運転制御装置9(図1)から異常検出信号を受信した遠隔保全監視装置14は、所定のプログラムを実行することによって、インバーターモジュールの切替による復旧が可能か否かを自動分析するとともに、乗りかご11内の利用者の有無に応じて乗りかご11内の利用者への安全確認を自動で実施した後、切替指令を発信する。
図5は、本実施形態3におけるインバーターモジュールの切替手段を示すフロー図である。
ステップS51で、エレベーターは、顧客用インバーターモジュールによる通常運転状態にある。
ステップS52で、運転制御装置9は、エレベーターに故障が発生したか否かを判定する。故障が発生していない場合(ステップS52のN)、通常運転(ステップS51)が継続される。故障が発生している場合(ステップS52のY)、ステップS53が実行される。
ステップS53で、遠隔保全監視装置14はエレベーターの故障状態を診断する。ステップS53の次に、ステップS54が実行される。
ステップS54で、遠隔保全監視装置14は、ステップS53における自動診断により、エレベーターの停止故障の原因がインバーターモジュールであるか否かを判定する。インバーターモジュールが原因ではない場合(ステップS54のN)、処理は終了する(ステップS66)。インバーターモジュールが原因である場合(ステップS54のY)、次にステップS55が実行される。
ステップS55で、遠隔保全監視装置14は、運転制御装置9(図1)から取得する故障直前の運転状態(例えば、かご呼びの有無、かご内荷重の有無など)に基づいて、乗りかご11内の利用者(閉じ込め者)の有無を判定し、利用者有りの場合(ステップS55のY)、ステップS56に進み、利用者無の場合(ステップS55のN)、ステップS59に進む。
ステップS56で、遠隔保全監視装置14は、乗りかご11内に設けられるインターホンを用いて、乗りかご11内に設けられる(任意の)押し釦の操作に応じてエレベーターが再起動される旨の自動アナウンスを行う。これにより、乗りかご11内の利用者に、安心感を与えることができる。
次に、ステップS57で、遠隔保全監視装置14は、押し釦が押し下げられたか否かを判定する。これにより、乗りかご内の利用者がアナウンスの内容を理解可能な状況にあるか否かなど、利用者の状態の異常の有無を確認できる。押下げ有の場合(ステップS57のY)、ステップS58が実行される。応答無の場合(ステップS57のN)、ステップS61〜S65が順次実行される。
ステップS58で、遠隔保全監視装置14は、乗りかご11内に設けられるインターホンを用いて、エレベーターを再起動する旨の自動アナウンスを行う。
次に、ステップS59で、遠隔保全監視装置14は、エレベーター駆動に用いるインバーターモジュールを切り替えることを指令する切替指令を、運転制御装置9を介して、インバーター駆動装置8に送信する。
次に、ステップS60で、インバーター駆動装置8は、受信した切替指令に応じ、回路切替部15を操作して、エレベーターを駆動するインバーターモジュールを顧客用インバーターモジュールから保全専用インバーターモジュールに切り替える。これにより、実施形態2(図4のステップS41)と同様に、エレベーターは再起動される。ステップS60が実行されると、一連の処理は終了する(ステップS66)。
また、ステップS57で、押し釦の押下げ無と判定された場合(ステップS57のN)、次にステップS61が実行される。
ステップS61で、遠隔保全監視装置14は、エレベーターの管理者に対し、ステップS56におけるアナウンスに対し乗りかご11内の利用者の反応が無く、利用者に何らかの異常が発生している旨を自動通報(異常発報)する。
次に、ステップS62で、前述のステップS59と同様に、遠隔保全監視装置14は、エレベーター駆動に用いるインバーターモジュールを切り替えることを指令する切替指令を、運転制御装置9を介して、インバーター駆動装置8に送信する。なお、ステップS62は、ステップS61の前に実行されても良いし、ステップS61と同時に実行されても良い。
次に、ステップS63で、前述のステップS59と同様に、エレベーターは再起動され、保全専用インバーターモジュールを用いた運転が可能になる。
次に、ステップS64で、インバーター駆動装置8は、予め設定された自動運転モードで、保全専用インバーターモジュールを制御して、乗りかご11を基準階あるいは所定階に移動させる。
次に、ステップS65で、インバーター駆動装置8は、保全専用インバーターモジュールを制御(動作停止)して、乗りかご11を、基準階あるいは所定階にて休止させる。これにより、遠隔保全監視装置14から自動通報を受けた管理者は、乗りかご内の状態を確認でき、迅速に対処することができる。ステップS65が実行されると、一連の処理は終了する(ステップS66)。
前述のステップS55で、乗りかご11内の利用者無と判定された場合(ステップS55のN)、ステップS56〜S58は実行されずにスキップされ、前述のステップS59,S60が順次実行される。
なお、実施形態2と同様に、図5のステップS66(処理終了)以降では、保守作業が実施されるが、保全専用インバーターモジュールでエレベーターを駆動することにより、エレベーターの稼動停止時間を低減できる。
また、実施形態2と同様に、顧客用インバーターモジュールが複数の変換器モジュールから構成される場合(図2)、故障していない顧客用インバーターモジュールと、保全専用モジュールを構成する変換器モジュールを並列接続して用いることにより、正常な顧客用インバーターモジュールを用いた通常運転時と同等の動作条件で、エレベーターを駆動することができる。
上述の各実施形態における電力変換装置は、エレベーターに限らず、通常運転および保守運転の切替が可能な機器(例えば、空調機などの電動機器)の運転に用いることができる。
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
例えば、電力変換装置の主回路におけるコンバーター2(図1)は、ダイオード整流器に限らず、半導体スイッチング素子から構成され、回生機能を有するものでも良い。また、インバーター4を構成する半導体スイッチング素子は、IGBTに限らず、MOSFETなどでも良い。また、電動機や電力変換器は、機械室に設置されても良いし、昇降路内に設置されても良い。
また、通常運転時以上の電力容量を要する試験時に、顧客用インバーターモジュールと保全専用インバーターモジュールを使用して、電力変換器の電力容量を増大させ、顧客用インバーターモジュールを通常運転に必要最小限の電力容量にしても良い。