JP6808772B2 - エネルギーフィルタおよび荷電粒子線装置 - Google Patents

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Description

本発明は、エネルギーフィルタおよび荷電粒子線装置に関する。
電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy、EELS)は、試料に電子線を照射し、試料を透過した電子の損失エネルギー強度をスペクトルとして得る分析手法である。試料内で電子が損失するエネルギーは、試料を構成する元素や原子間の結合状態などに依存する。したがって、そのスペクトルを調べることで、試料に含まれる元素の種類や結合状態等を知ることができる。
透過電子顕微鏡法(Transmission Electron Microscopy、TEM)におけるエネルギーフィルタの基本的な機能は、分光とイメージングである。
分光モードでは、エネルギーフィルタのエネルギー分散面をスクリーンに結像することによって、エネルギースペクトルを取得することができる。特に、透過電子顕微鏡法にエネルギーフィルタに組み合わせた手法をTEM−EELS、走査透過電子顕微鏡法(Scanning Transmission Electron Microscopy、STEM)にエネルギーフィルタを組み合わせた手法をSTEM−EELSという。走査透過電子顕微鏡法では、原子分解能が透過電子顕微鏡法に比べて容易に得られる。そのため、近年、走査透過電子顕微鏡法を用いた原子分解能をもつ元素分布観察法が注目されている。
イメージングモードでは、エネルギーフィルタのアクロマティック面をスクリーンに結像して、TEM像を取得することができる。さらに、エネルギー分散面にエネルギー選択スリットを置き、特定の損失エネルギーを持った電子のみを選択した状態にすることで、その損失エネルギーに対応するTEM像を得ることができる。また、元素に特有の損失エネルギーを選択することで、その元素の分布像を得ることもできる。このような手法を、Energy Filtering TEM(EF−TEM)という。
エネルギーフィルタには、インカラム方式とポストカラム方式がある。インカラム方式では、エネルギーフィルタが透過電子顕微鏡の中間レンズと投影レンズとの間に置かれる。これに対し、ポストカラム方式では、エネルギーフィルタが投影レンズの後段(鏡筒の下)に置かれる。
インカラム方式の利点としては、エネルギーフィルタの構造の対称性によってエネルギーフィルタそのものから発生するいくつかの収差がキャンセルされるため、これらの収差に対する収差補正を行わなくてもよいこと、投影レンズによって像観察モードとスペクトル観察モードを容易に切り替えられること、投影レンズによって拡大される前にエネルギーフィルタによるフィルタリングが行われるため、低倍率から高倍率までの、広視野での観察に対応できることが挙げられる。インカラム方式の欠点としては、エネルギーフィルタは中間レンズと投影レンズとの間に配置されるため、装置(鏡筒)の高さが増し、耐震性の低下、振動による装置性能の低下を招く可能性があること、また、汎用の透過電子顕微鏡に後付けして拡張することが容易ではないこと等が挙げられる。
ポストカラム方式の利点としては、汎用の透過電子顕微鏡に後付けで装着することが容易であり、その際、装置の高さを変える必要がないことが挙げられる。ポストカラム方式の欠点としては、収差補正のための構成要素が多く必要であり、軸調整が単純ではなく、かつ、コストが高くなること、透過電子顕微鏡と接続する際の光学的制約によって、低倍
観察に不向きであること等が挙げられる。
インカラム方式では、収差補正のための構成要素を追加することが難しい。収差補正のための構成要素を配置するための空間を設けることによって、基本光学系の設計が制約を受けてしまうためである。収差補正のための構成要素を追加した収差補正Ωフィルタは、特許文献1および特許文献2に開示されている。
また、インカラム方式では、上記のように、装置の高さが増大してしまう問題がある。これに対して、特許文献3には、エネルギーフィルタによる電子線の偏向角度の合計を180°として、装置の高さの増大を抑制した180°反転型の収差補正Ωフィルタが開示されている。
インカラム型エネルギーフィルタとしては、Ω型の他に、α型、γ型、マンドリン型など、種々のものが知られている。また、Ωフィルタの中でも、光学系の違いによりA−type、B−typeに分けられる。
特許文献4には、構造が単純であり、かつ、低収差を実現できるインカラム方式のエネルギーフィルタが開示されている。
特開2000−30645号公報 特開平7−37536号公報 特開2001−243910号公報 特開2018−129171号公報
エネルギーフィルタの光学系には、入射側クロスオーバー面S1、入射側像面A1、射出側クロスオーバー面(エネルギー分散面)S2、射出側像面(アクロマティック面)A2が存在する。エネルギーフィルタの光学系は、この4つの重要な面によって特徴づけられる。
エネルギーフィルタの性能を発揮させるためには、入射側クロスオーバー面S1にクロスオーバーをフォーカスし、入射側像面A1に像をフォーカスするように電子を入射させなければならない。エネルギーフィルタの射出側には、エネルギー分散を生じる面(エネルギー分散面S2)が入射側クロスオーバー面S1に対して鏡映対称の位置に形成され、エネルギー分散の無い面(アクロマティック面A2)が入射側像面A1に対して鏡映対称の位置に形成される。Ωフィルタのエネルギー分散能は、例えば、加速電圧200kVの電子線に対して1μm/eVである。
図21は、エネルギーフィルタのアクロマティック面Aとエネルギー分散面Sの関係を説明するための図である。入射側クロスオーバー面S1とエネルギー分散面S2は、対称面に対して鏡映対称にあり光学的には等価である。同様に、入射側像面A1とアクロマティック面A2は、対称面に対して鏡映対称にあり光学的には等価である。そのため、入射側クロスオーバー面S1とエネルギー分散面S2とを区別する必要がない場合にはエネルギー分散面Sと記載する。同様に、入射側像面A1とアクロマティック面A2とを区別する必要がない場合にはアクロマティック面Aと記載する。
エネルギー分散面Sとアクロマティック面Aとの間の距離Lが大きい場合、開き角α,
βを小さくできるので、像面の収差を小さくするために有利である。しかしながら、距離Lを大きくすればいくらでも高性能になるかというと、次の理由で、単純にはそうならない。
与えられた距離Lに対して、Ωフィルタのマグネットの形状および配置を決定することで、Ωフィルタの収差係数が決まる。しかし、マグネットの形状および配置と収差係数との相関は複雑であり(複雑さはマグネットの数に比例する)、多くの場合、上述のメリットを相殺するか、またはそれ以上の収差係数の増大を生じる。
また、像面の収差が小さくなるように設計すると通常はエネルギー分散面の収差は悪化する傾向にある。また、その逆も言える。
図22は、エネルギー分散面に生じる幾何収差を説明するための図である。
エネルギー分散面上に生じるエネルギースペクトルの収差は、図22に示すように、三角形状になり、視野サイズ(エネルギー分散面の1点から像面を見込む角γ,δ)の2乗に比例して大きくなる。この図形の大きさがエネルギー分解能の大きさの指標となる。
例えば、γδの大きさは例えば5mrad程度であり、αβの大きさは例えば0.1mrad程度である。ここでは、αβは小さく、エネルギー分散面上のビーム形状を点として扱う。
Ωフィルタの2次収差は、対称性によっていくつかがキャンセルされるが、残りは歪みとボケとなってエネルギー分散面Sとアクロマティック面Aの両方に現れる。上述した収差補正Ωフィルタでは、これらの残りの収差をキャンセルすることができる。しかしながら、収差補正Ωフィルタは、構造が複雑である。
エネルギーフィルタにおいては、簡単な構成で、エネルギー分解能を向上させることができることが望ましい。
(1)本発明に係るエネルギーフィルタの一態様は、
対称面に関して対称に構成された複数のセクターマグネットを備え、前記対称面に実像を作るエネルギーフィルタであって、
エネルギー分散方向に対して垂直な方向に長手方向を持つスリットが設けられた入射絞りと、
前記対称面に配置された6極子および4極子と、
を含む。
このようなエネルギーフィルタでは、入射絞り、6極子および4極子を用いて、エネルギースペクトルの幾何収差を補正することができる。したがって、このようなエネルギーフィルタでは、簡単な構成で、エネルギー分解能を向上できる。
(2)本発明に係る荷電粒子線装置の一態様は、
上記のエネルギーフィルタを含む。
このような荷電粒子線装置では、上記のエネルギーフィルタを含むため、エネルギースペクトルの幾何収差を補正することができる。したがって、このような荷電粒子線装置では、簡単な構成で、エネルギー分解能を向上できる。
第1実施形態に係るエネルギーフィルタが搭載された電子顕微鏡の構成を示す図。 入射絞りを模式的に示す図。 第1実施形態に係るエネルギーフィルタにおける電子線の軌道を示す図。 Ωフィルタ(B−type)における電子線の軌道を示す図。 第1実施形態に係るエネルギーフィルタの第2セクターマグネットを模式的に示す図。 第1実施形態に係るエネルギーフィルタの第2セクターマグネットを模式的に示す図。 第1実施形態に係るエネルギーフィルタの第2セクターマグネットを模式的に示す図。 距離Lに対するフォーカスパラメータを示すグラフ。 円い孔が設けられている入射絞りを用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフ。 矩形のスリットが設けられている入射絞りを用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフ。 矩形のスリットが設けられている入射絞りを用い、かつ、エネルギー分散面からデフォーカスした場合のスペクトルの形状を示すグラフ。 矩形のスリットが設けられている入射絞りを用い、エネルギー分散面からデフォーカスし、かつ、6極子を用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフ。 矩形のスリットが設けられている入射絞りを用い、エネルギー分散面からデフォーカスし、かつ、6極子および4極子を用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフ。 円い孔の入射絞りを用い、かつ、エネルギー分散面からデフォーカスした場合のスペクトルの形状を示すグラフ。 円い孔の入射絞りを用い、エネルギー分散面からデフォーカスし、かつ、6極子を用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフ。 円い孔の入射絞りを用い、エネルギー分散面からデフォーカスし、かつ、6極子および4極子を用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフ。 第2実施形態に係るエネルギーフィルタと、その前後の光学系の一例を示す図。 第2実施形態に係るエネルギーフィルタと、その前後の光学系の一例を示す図。 第2実施形態に係るエネルギーフィルタの構成を示す図。 第2実施形態に係るエネルギーフィルタにおける電子線の軌道を示す図。 エネルギーフィルタのアクロマティック面とエネルギー分散面の関係を説明するための図。 エネルギー分散面に生じる幾何収差を説明するための図。
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
また、以下では、本発明に係る荷電粒子線装置として、電子線を照射して試料の観察を行う電子顕微鏡を例に挙げて説明するが、本発明に係る荷電粒子線装置は電子線以外の荷電粒子線(イオン等)を照射して試料の観察を行う装置であってもよい。本発明に係る荷電粒子線装置としては、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)、走査透過電子顕微鏡(STEM)などが挙げられる。
1. 第1実施形態
1.1. エネルギーフィルタ
まず、第1実施形態に係るエネルギーフィルタについて図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係るエネルギーフィルタ100が搭載された電子顕微鏡1の構成を示す図である。電子顕微鏡1は、透過電子顕微鏡である。
電子顕微鏡1は、図1に示すように、電子源2と、照射レンズ3と、対物レンズ4と、中間レンズ5と、エネルギーフィルタ100と、投影レンズ6と、撮像装置7と、を含む。
電子源2は、電子を発生させる。電子源2は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
照射レンズ3は、電子源2から放出された電子線を集束して試料9に照射する。照射レンズ3は、例えば、複数の電子レンズで構成されている。
対物レンズ4は、試料9を透過した電子線で透過電子顕微鏡像(TEM像)を結像するための初段のレンズである。対物レンズ4は、試料9に強い磁場を与えるためのポールピースを有し、試料9はポールピースの中に配置される。
ここで、電子顕微鏡像(TEM像)とは、「試料像」と「試料の回折パターン」を含む。なお、TEM像を試料像とする場合、クロスオーバーは、試料の回折パターンとなる。また、TEM像を試料の回折パターンとする場合、クロスオーバーは試料像となる。以下、TEM像(もしくは単に「像」)という用語を上記意味で用いる。
中間レンズ5は、対物レンズ4とエネルギーフィルタ100との間に4段設けられている。4段の中間レンズ5によって、倍率、像回転、像フォーカス、クロスオーバーフォーカスを調整することができる。4段の中間レンズ5は、エネルギーフィルタ100の入射側クロスオーバー面S1にクロスオーバーを結び(フォーカスし)、かつ、入射側像面A1に像を結ぶ(フォーカスする)。
電子顕微鏡1において試料像を観察する場合(試料像観察モード)、中間レンズ5は、エネルギーフィルタ100の入射側クロスオーバー面S1に試料9の回折パターンをフォーカスし、エネルギーフィルタ100の入射側像面A1に試料9の像をフォーカスする。また、電子顕微鏡1において試料9の回折パターンを観察する場合(電子回折観察モード)、中間レンズ5は、エネルギーフィルタ100の入射側クロスオーバー面S1に試料9の像をフォーカスし、エネルギーフィルタ100の入射側像面A1に試料9の回折パターンをフォーカスする。
エネルギーフィルタ100は、中間レンズ5と投影レンズ6との間に配置されている。
エネルギーフィルタ100は、インカラム型エネルギーフィルタ(イメージングエネルギーフィルタ)である。エネルギーフィルタ100を通る電子の軌道は、U字型である。すなわち、エネルギーフィルタ100において、電子線の偏向角度の合計は180°である。
エネルギーフィルタ100の光学系には、入射側クロスオーバー面S1、入射側像面A1、エネルギー分散面(射出側クロスオーバー面)S2、アクロマティック面(射出側像面)A2が存在する。
入射側クロスオーバー面S1には、中間レンズ5によってクロスオーバーがフォーカスされる。入射側像面A1には、中間レンズ5によって像がフォーカスされる。エネルギーフィルタ100は電子レンズと同様の結像作用を有しており、入射側クロスオーバー面S1はエネルギー分散面S2に投影され、入射側像面A1はアクロマティック面A2に投影される。
エネルギー分散面S2は、エネルギー分散を生じる面である。エネルギー分散面S2には、クロスオーバーが結像される。エネルギー分散面S2は、対称面Mに関し、入射側クロスオーバー面S1に対して鏡映対称の位置に形成される。
アクロマティック面A2は、エネルギー分散の無い面である。アクロマティック面A2には、像が結像される。アクロマティック面A2は、対称面Mに関し、入射側像面A1に対して鏡映対称の位置に形成される。図示はしないが、エネルギー分散面S2には、エネルギースリットが配置される。エネルギースリットで特定の損失エネルギーを持った電子のみを選択することにより、その損失エネルギーに対応するTEM像を得ることできる(EF−TEM)。
エネルギーフィルタ100は、第1セクターマグネット10と、第2セクターマグネット20と、入射絞り30と、収差補正器40と、を含む。
エネルギーフィルタ100では、第1セクターマグネット10の後段(後方、電子線の流れの下流側)に第2セクターマグネット20が配置されている。第1セクターマグネット10および第2セクターマグネット20は、それぞれ電子線を偏向させる偏向磁場を発生させる。第1セクターマグネット10および第2セクターマグネット20は、クロスオーバーおよび像を結像する光学系を構成する。
第1セクターマグネット10と第2セクターマグネット20とは、対称面Mに関して対称に構成されている。すなわち、第1セクターマグネット10がつくる偏向磁場と第2セクターマグネット20がつくる偏向磁場とは、対称面Mに関して対称である。
第1セクターマグネット10および第2セクターマグネット20は、湾曲している。第1セクターマグネット10の形状は、図1に示すように、中心O10を中心とした扇型であり、中心角は90°である。同様に、第2セクターマグネット20の形状は、図1に示すように、中心O20を中心とした扇型であり、中心角は90°である。
第1セクターマグネット10によって電子線の進行方向は90°回転する。同様に第2セクターマグネット20によって電子線の進行方向は90°回転する。すなわち、第1セクターマグネット10における電子線の偏向角度は、90°である。同様に、第2セクターマグネット20における電子線の偏向角度は、90°である。
第1セクターマグネット10における電子線の偏向角度と第2セクターマグネットにおける電子線の偏向角度との和は、180°である。したがって、エネルギーフィルタ100に入射した電子線は、180°反転されて射出される。すなわち、エネルギーフィルタ100に入射する電子線の中心軌道(光軸)とエネルギーフィルタ100から射出する電子線の中心軌道(光軸)とは、平行である。
第1セクターマグネット10の極性と第2セクターマグネット20の極性は、同じである。ここで、極性とは、偏向磁場の磁力線の向き(磁界の向き)をいう。すなわち、第1セクターマグネット10がつくる偏向磁場の磁力線の向きと第2セクターマグネット20
がつくる偏向磁場の磁力線の向きとは、同じである。
後述する図6に示す例では、第2セクターマグネット20の磁力線の方向(磁場の方向)はY方向であり、磁力線の向きは+Y方向である。また、第1セクターマグネット10の極性と第2セクターマグネットの極性とは同じであるため、第1セクターマグネット10の磁力線の向きも+Y方向である。なお、図6に示す例では、磁極対向面22はS極であり、磁極対向面23はN極である。
入射絞り30は、エネルギーフィルタ100に入射する視野を制限するために用いられる。入射絞り30は、第1セクターマグネット10の入射側に配置されている。入射絞り30は、入射側クロスオーバーS1と第1セクターマグネット10との間に配置されている。入射絞り30の位置は、第1セクターマグネット10の入口に近いことが望ましい。
図2は、入射絞り30を模式的に示す図である。なお、図2は、入射絞り30を、光軸に沿って見た図である。
図2に示すように、入射絞り30には、スリット32が設けられている。スリット32は、エネルギー分散方向に対して垂直な方向に長手方向を有している。スリット32の長手方向の長さと短手方向の長さとの比は、例えば、10:1である。スリット32の形状は、例えば、長辺がエネルギー分散方向に対して垂直な長方形である。入射絞り30は、例えば、γを0.5mradに制限し、δを5mradに制限する。
収差補正器40は、図1に示すように、対称面Mに配置されている。すなわち、収差補正器40は、第1セクターマグネット10と第2セクターマグネット20との間に配置されている。収差補正器40は、対称面Mに配置された6極子と、対称面Mに配置された4極子と、を有している。すなわち、収差補正器40は、対称面Mにおいて、6極子場および4極子場の両方を発生させることができる。
入射絞り30および収差補正器40によって、エネルギーフィルタ100の幾何収差が補正され、エネルギー分解能を向上できる。この理由については後述する。
投影レンズ6は、エネルギーフィルタ100の後段(後方、電子線の下流側)に3段設けられている。3段の投影レンズ6の励磁を調整することによって、撮像装置7に結像される面を切り替えることができる。これにより、エネルギーロス像とエネルギースペクトルとを得ることができる。具体的には、エネルギーロス像を観察するためには、3段の投影レンズ6によってエネルギーフィルタ100のアクロマティック面A2を撮像装置7に結像する。また、エネルギースペクトルを取得するためには、3段の投影レンズ6によってエネルギーフィルタ100のエネルギー分散面S2を撮像装置7に結像する。
なお、ここでは、エネルギーフィルタ100の後段に3段の投影レンズ6が配置される場合について説明したが、投影レンズ6は2段であってもよい。
撮像装置7は、投影レンズ6によって結像されたエネルギーロス像やエネルギースペクトル、TEM像等を撮影する。撮像装置7は、例えば、CCDカメラ、CMOSカメラ等のデジタルカメラである。
電子顕微鏡1は、2つの鏡筒8a,8bを有している。鏡筒8aには電子源2、照射レンズ3、対物レンズ4、中間レンズ5が収容されている。鏡筒8bには投影レンズ6が収容されている。鏡筒8aと鏡筒8bとは、架台(図示せず)上に平行に並んで配置されている。電子顕微鏡1では、2つの鏡筒8a,8bをつなぐ部分にエネルギーフィルタ10
0が配置されている。
電子顕微鏡1では、電子源2から放出された電子線は、照射レンズ3によって集束されて試料9に照射される。試料9に照射された電子線は、試料9を透過して対物レンズ4によって結像される。そして、中間レンズ5によって入射側クロスオーバー面S1にクロスオーバーがフォーカスされ、入射側像面A1に像がフォーカスされる。エネルギーフィルタ100において、入射側クロスオーバー面S1にフォーカスされたクロスオーバーはエネルギー分散面S2に投影され、入射側像面A1にフォーカスされた像はアクロマティック面A2に投影される。投影レンズ6でアクロマティック面A2を撮像装置7に結像することによってエネルギーロス像を観察することができる。また、投影レンズ6でエネルギー分散面S2を撮像装置7に結像することによってエネルギースペクトルを取得することができる。
1.2. エネルギーフィルタ
次に、エネルギーフィルタ100について、より詳細に説明する。図3は、エネルギーフィルタ100における電子線の軌道を示す図である。図4は、比較例として、Ωフィルタ(B−type)における電子線の軌道を示す図である。なお、エネルギーフィルタの中心の軸(光軸)は、湾曲しているが、図3および図4では、便宜上、直線として描いている。
図3には、エネルギーフィルタ100における電子線の4つの基本軌道xα,yβ,xγ,yδを示している。軌道xα、軌道yβは、像面の中心を通る軌道である。また、軌道xγ、軌道yδは、クロスオーバー面の中心を通る軌道である。なお、xchiは、エネルギー分散した電子の軌道である。
図3に示すエネルギーフィルタ100では、軌道xγにおいて、中間レンズ5によって入射側クロスオーバー面S1に結像されたクロスオーバーは、エネルギー分散面S2に結像される。また、軌道yδにおいて、中間レンズ5によって入射側クロスオーバー面S1に結像されたクロスオーバーは、軌道xγと同様に、エネルギー分散面S2に結像される。
すなわち、エネルギーフィルタ100では、クロスオーバーのX方向の結像回数は最初の入射側クロスオーバー面S1の結像を除いて1回であり、クロスオーバーのY方向の結像回数は最初の入射側クロスオーバー面S1の結像を除いて1回である。また、最初の入射側クロスオーバー面S1を除いた場合、クロスオーバーのX方向の結像位置およびクロスオーバーのY方向の結像位置は、エネルギー分散面S2である。
また、エネルギーフィルタ100では、軌道xαにおいて、中間レンズ5によって入射側像面A1に結像された像は、対称面Mとアクロマティック面A2とに結像される。また、軌道yβにおいて、中間レンズ5によって入射側像面A1に結像された像は、対称面Mとアクロマティック面A2とに結像される。
すなわち、エネルギーフィルタ100では、像のX方向の結像回数は最初の入射側像面A1の結像を除いて2回であり、像のY方向の結像回数は最初の入射側像面A1の結像を除いて2回である。また、最初の入射側像面A1を除いた場合、像のX方向の結像位置および像のY方向の結像位置は、対称面Mおよびアクロマティック面A2である。なお、像のX方向の結像およびY方向の結像において、対称面Mの位置には実像が形成される。また、入射側像面A1およびアクロマティック面A2に結像される像は虚像であり、結像位置は、軌道xα、軌道yβにおいて、破線で示す電子の軌道を延長した直線と光軸とが交わる位置である。
これに対して、図4に示すΩフィルタ(B−type)では、クロスオーバーのX方向の結像回数は3回である(軌道xγ参照)。クロスオーバーのX方向の結像位置は、軌道xγとフィルタの光軸との3つの交点である。また、Ωフィルタ(B−type)では、像のX方向の結像回数は2回である(軌道xα参照)。像のX方向の結像位置は、対称面Mおよびアクロマティック面A2である。また、クロスオーバーのY方向の結像回数および像のY方向の結像回数は、それぞれX方向と比べて、1回少ない(軌道yδ、軌道yβ参照)。
このように、Ωフィルタ(B−type)では、クロスオーバーのY方向の結像回数および像のY方向の結像回数が、それぞれX方向と比べて、1回少ない。そのため、Ωフィルタ(B−type)では、像が反転する。また、Ωフィルタ(B−type)では、Y方向のフォーカス回数を少なくすることで、フォーカスに必要な磁極端面の角度(端面角度)の増大を抑え、それによって生じる収差を抑制している。
これに対して、エネルギーフィルタ100では、上述したように、X方向およびY方向において、結像回数が同じであるため、Ωフィルタ(B−type)で生じる像の反転が生じない。
以下では、図5〜図7を参照して第2セクターマグネット20の構成について説明するが、第1セクターマグネット10と第2セクターマグネット20とは対称に構成されているため、第1セクターマグネット10の構成も同様である。
図5〜図7は、エネルギーフィルタ100の第2セクターマグネット20を模式的に示す図である。なお、図6は、図5に示す第2セクターマグネット20のVI−VI線断面図である。また、図7は、第2セクターマグネット20の変形例を図示している。
なお、図6では、第2セクターマグネット20の磁極対向面(Y方向に対向する面)22,23が傾斜していない状態(すなわち傾斜角度θ=0°の場合)を図示している。また、図7では、第2セクターマグネット20の磁極対向面22,23が傾斜している状態(すなわち傾斜角度θ≠0°の場合)を図示している。
図5〜図7には、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、およびZ軸を図示している。電子の進行方向をZ方向とし、偏向磁場による電子の偏向方向をX方向とし、偏向磁場の磁力線の方向をY方向とする。
クロスオーバーと像を、それぞれX方向とY方向とでフォーカスさせるためには、自由度が4つ必要である。ここでは、クロスオーバー面S(エネルギー分散面S2)と像面(アクロマティック面A2)との間の距離L、または等価であるが入射側クロスオーバー面S1と入射側像面A1との間の距離L(図1参照)が与えられたときの、フォーカスパラメータ(距離L1、距離L2、端面角度T1、端面角度T2)を計算する。エネルギーフィルタ100は、構造が単純であるため、この4つ(距離L1、距離L2、端面角度T1、端面角度T2)以外にフォーカスパラメータはない。よって、与えられた距離Lに対して、距離L1、距離L2、端面角度T1、端面角度T2は、一意に定まる。なお、磁極対向面22,23の傾斜角度θもフォーカスパラメータになり得るがここでは考慮しない。
ここで、距離L1は、対称面Mと第2セクターマグネット20の入口との間の距離である。距離L2は、第2セクターマグネット20の出口とクロスオーバー面S(エネルギー分散面S2)との間の距離である。
端面角度T1は、第2セクターマグネット20の入口側の端面の角度である。端面角度T2は、第2セクターマグネット20の出口側の端面の角度である。端面角度T1および端面角度T2は、X軸を0°として、反時計まわりを正とする。端面角度T1,T2をつけることで、Y方向の集束作用を与えることができる。しかし、端面角度T1,T2が大きくなると、収差の増大を招きやすい。
図8は、与えられた距離Lに対するフォーカスパラメータ(距離L1、距離L2、端面角度T1、端面角度T2)を示すグラフである。図8に示すグラフは、偏向半径R=150mm、偏向角Θ=90°、傾斜角度θ=0°として、与えられた距離Lに対する距離L1、距離L2、端面角度T1、端面角度T2を計算した結果をプロットしたものである。
なお、偏向半径Rは、第2セクターマグネット20における電子線の中心軌道の半径である。また、偏向角Θは、第2セクターマグネット20における電子線の偏向角度である。また、傾斜角度θ(図7参照)は、第2セクターマグネット20の磁極対向面22,23の傾斜角度である。ここでは、傾斜角度θ=0°であるため、図6に示すように磁極対向面22,23は平行である。
図8に示すグラフより、偏向半径R=150mm、偏向角Θ=90°、傾斜角度θ=0°とした場合に、エネルギーフィルタ100において、上述した図3に示すようにクロスオーバーと像とをX方向およびY方向とでフォーカス可能である距離Lの範囲は、距離L=538mm以上である。すなわち、距離Lは、L>3.6Rの範囲で設定可能である(表1参照)。
また、図8に示すグラフにより、偏向半径R=150mm、偏向角Θ=90°、傾斜角度θ=0°とした場合に、距離L2は80mm以上90mm以下の範囲であり、端面角度T1は24°以上26°以下の範囲であり、端面角度T2は−25°以上−18°以下の範囲であり、距離L1は、0mmより大きく距離L2を超えない範囲である。
図7に示すように、第2セクターマグネット20の磁極対向面22,23が傾斜している場合(傾斜角度θ≠0°の場合)、もしくは第2セクターマグネット20の入口および出口の少なくとも一方に磁場4極子を配置した場合、Y方向の集束作用を持たせることができる。そのため、端面角度T1,T2を小さくすることができる。よって、端面角度T1,T2は、上記の範囲に限定されない。
端面角度T1,T2を最も小さくできるのは、第2セクターマグネット20がX方向およびY方向ともに常に同じ集束作用を持つ場合、すなわち、ラウンドレンズフォーカス(Round Lens Focus)の場合である。このとき、距離XC=2Rを満たす。すなわち、tanθ=s/4Rを満たす。このときの偏向角Θの範囲は理論的に決まっており、磁場のみの場合、2Θ<254°であり、電場のみの場合、2Θ<180°である。なお、ラウンドレンズフォーカスの場合、端面角度T1=T2=0°である。また、フォーカス可能である距離Lの範囲は、上記の範囲に限定されない(表1参照)。
ここで、距離XCは、図7に示すようにZ方向から見て、磁極対向面22を含む平面と磁極対向面23を含む平面とが交わる位置と、第2セクターマグネット20における電子線の中心軌道と、の間の距離である。また、距離sは、YZ平面における磁極対向面22と磁極対向面23との間の距離である。
第2セクターマグネット20においてX方向およびY方向の集束作用は、最終結像面で一致すれば途中は異なっていてもよい。これをスティグマティックフォーカス(Stigmttic Focus)という。
距離Lの範囲は、偏向角Θと磁極対向面22,23の傾斜角度θに依存する。2Θ=90°、2Θ=135°、2Θ=180°、2Θ=210°の場合、クロスオーバーと像とをX方向およびY方向とでフォーカス可能である距離Lの最小値は、次表1のようになる。なお、偏向半径R=150mmとした。
表1に示すように、スティグマティックフォーカス(R/Xc=0)では、2Θ=90°、傾斜角度θ=0°とした場合、フォーカス可能である距離Lの範囲は、距離L=478.4mm以上である。すなわち、距離Lは、L>3.2Rを満たす。また、2Θ=135°、傾斜角度θ=0°とした場合、フォーカス可能である距離Lの範囲は、距離L=415.0mm以上であり、距離Lは、L>2.8Rを満たす。また、2Θ=180°、傾斜角度θ=0°とした場合、フォーカス可能である距離Lの範囲は、距離L=538.4mm以上であり、距離Lは、L>3.6Rを満たす。また、2Θ=210°、傾斜角度θ=0°とした場合、フォーカス可能である距離Lの範囲は、距離L=1018.0mm以上であり、距離Lは、L>6.8Rを満たす。
また、ラウンドレンズフォーカス(R/Xc=1/2)では、2Θ=90°、傾斜角度θ≠0°とした場合、フォーカス可能である距離Lの範囲は、距離L=490.9mm以上であり、距離Lは、L>3.3Rを満たす。また、2Θ=135°、傾斜角度θ≠0°とした場合、フォーカス可能である距離Lの範囲は、距離L=430.6mm以上であり、距離Lは、L>2.9Rを満たす。また、2Θ=180°、傾斜角度θ≠0°とした場合、フォーカス可能である距離Lの範囲は、距離L=526.2mm以上であり、距離Lは、L>3.5Rを満たす。また、2Θ=210°、傾斜角度θ≠0°とした場合、フォーカス可能である距離Lの範囲は、距離L=780.4mm以上であり、距離Lは、L>5.2Rを満たす。
上記では、第2セクターマグネット20の構成について説明したが、上述したように、上記の内容は、第1セクターマグネット10にも当てはまる。すなわち、例えば、第1セクターマグネット10においても、クロスオーバー面S(入射側クロスオーバー面S1)と像面A(入射側像面A1)との間の距離Lは、L>3.6Rを満たす。また、第1セクターマグネット10において、距離L1は、対称面Mと第1セクターマグネット10の出口との間の距離に対応する。また、距離L2は、第1セクターマグネット10の入口とクロスオーバー面S(入射側クロスオーバー面S1)との間の距離に対応する。また、端面角度T1は、第1セクターマグネット10の出口側の端面の角度に対応する。また、端面角度T2は、第1セクターマグネット10の入口側の端面の角度に対応する。
1.3. 入射絞りおよび収差補正器
入射絞り30および収差補正器40を用いて、エネルギースペクトルの幾何収差を補正する原理について説明する。
エネルギー分解能を向上させる方法として、γとδを制限するために入射絞りを配置することが知られている。入射絞りには、一般的に、円い孔が設けられた絞りが用いられる。
エネルギー分解能を向上させるために入射絞りを用いる場合、孔の大きさが小さくなるほどエネルギー分解能は向上するが、孔の大きさが小さくなるほどスペクトル強度は低下し、エネルギーフィルタとしての感度が低下する。
エネルギーフィルタの感度を下げることなく、エネルギー分解能を向上させるためには収差補正が必要である。
エネルギースペクトルの収差補正を行う場合、例えば、エネルギーフィルタの対称面Mに実像をつくり、その位置に6極子を配置することが考えられる。しかしながら、6極子では、スペクトルの1方向の補正しかできないため、収差補正として不十分である。対称面Mの位置以外の位置に6極子を配置することは、機械的に配置する空間を設けるために基本光学系の設計が制約を受けるため、容易ではない。
図9は、参考例として、円い孔が設けられている入射絞りを用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフである。ただし、γ<5mradであり、δ<5mradである。
図9に示す2つの三角形のビームは、エネルギーロスのない電子のビーム(no loss)のエネルギー分散と、エネルギーロスした電子のビーム(5eV loss)のエネルギー分散を表している。三角形の内部にある楕円のビーム形状は、像面を見込むγδを1mrad〜5mradで変えてプロットしたものであり、エネルギー分散面の幾何収差を表している。なお、図9の横軸がX軸に対応し、縦軸がY軸に対応している。また、長さの単位はmmである。なお、X方向が、エネルギー分散方向である。
図10は、矩形のスリット32が設けられている入射絞り30を用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフである。ただし、γ<0.5mradであり、δ<5mradである。
図10に示すように、入射絞り30を用いただけでは、エネルギー分散方向(X方向)のビームサイズは、図9に示す円い孔の入射絞りを用いた場合と変わらない。したがって、エネルギー分解能は向上しない。
図11は、矩形のスリット32が設けられている入射絞り30を用い、かつ、エネルギー分散面からデフォーカスした場合のスペクトルの形状を示すグラフである。
図10に示す状態から、さらに、エネルギー分散面からデフォーカスした場合、スペクトル形状は、図11に示す形状となる。この場合でも、エネルギー分散方向のトータルのビームサイズは変化しない。すなわち、デフォーカスした場合であっても、エネルギー分解能は向上しない。
図12は、矩形のスリットが設けられている入射絞り30を用い、エネルギー分散面からデフォーカスし、かつ、6極子を用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフである。図13は、矩形のスリットが設けられている入射絞り30を用い、エネルギー分散面からデフォーカスし、かつ、6極子および4極子を用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフである。
図11に示す状態から、エネルギーフィルタ100の対称面Mに配置された6極子を用
いることで、図12に示すように、スペクトルの幾何収差が補正される。
さらに、対称面Mに配置された4極子を用いることで、図13に示すように、エネルギー分散面のフォーカスを変化させ、エネルギー分解能を向上させることができる。
図14は、円い孔の入射絞りを用い、かつ、エネルギー分散面からデフォーカスした場合のスペクトルの形状を示すグラフである。図15は、円い孔の入射絞りを用い、エネルギー分散面からデフォーカスし、かつ、6極子を用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフである。図16は、円い孔の入射絞りを用い、エネルギー分散面からデフォーカスし、かつ、6極子および4極子を用いた場合のスペクトルの形状を示すグラフである。
図14〜図16に示すように、円い孔の入射絞りを用いた場合には、入射絞り30を用いた場合と比べて、エネルギー分解能を向上できない。
このように、エネルギーフィルタ100では、入射絞り30と収差補正器40によって、エネルギースペクトルの幾何収差を補正することができる。この結果、エネルギー分解能を向上できる。
1.4. 特徴
エネルギーフィルタ100は、例えば、以下の特徴を有する。
エネルギーフィルタ100では、対称面Mに実像を作るエネルギーフィルタであって、エネルギー分散方向に対して垂直な方向に長手方向を持つスリットが設けられた入射絞り30と、対称面Mに配置された6極子および4極子と、を含む。そのため、エネルギーフィルタ100では、簡単な構成で、エネルギースペクトルの幾何収差を補正することができ、エネルギー分解能を向上できる。また、実像が形成される対称面Mに6極子および4極子を配置することによって、像に影響を与えずに、エネルギースペクトルに対して収差補正を行うことができる。
エネルギーフィルタ100では、クロスオーバーのX方向の結像回数およびクロスオーバーのY方向の結像回数は最初の入射側クロスオーバー面S1の結像を除いて1回であり、最初の入射側クロスオーバー面S1を除いた場合、クロスオーバーのX方向の結像位置およびクロスオーバーのY方向の結像位置はエネルギー分散面S2であり、像のX方向の結像回数および像のY方向の結像回数は最初の入射側像面A1の結像を除いて2回であり、最初の入射側像面A1を除いた場合、像のX方向の結像位置および像のY方向の結像位置は、対称面Mとアクロマティック面A2である。そのため、エネルギーフィルタ100では、構造を単純化でき、かつ、低収差を実現できる。
エネルギーフィルタ100では、第1セクターマグネット10および第2セクターマグネット20が、対称面Mに関して鏡映対称に構成されている。そのため、エネルギーフィルタ100では、いくつかの収差(幾何収差の2次収差の一部等)をキャンセルすることができる。
エネルギーフィルタ100では、第2セクターマグネット20における電子線の中心軌道の半径をRとし、偏向角Θ=90°、傾斜角度θ=0°とした場合に、エネルギー分散面S2とアクロマティック面A2との間の距離Lは、L>3.6Rを満たす。同様に、第1セクターマグネット10における電子線の中心軌道の半径をRとした場合に、入射側クロスオーバー面S1と入射側像面A1との間の距離Lは、L>3.6Rを満たす。すなわち、第1セクターマグネット10における電子線の偏向角度と第2セクターマグネット20における電子線の偏向角度の和は、180°であり、距離Lは、L>3.6Rを満たす
。そのため、エネルギーフィルタ100では、構造を単純化でき、かつ、低収差を実現できる。
エネルギーフィルタ100では、第2セクターマグネット20における電子線の中心軌道の半径をRとし、偏向角Θ=45°、傾斜角度θ=0°とした場合に、エネルギー分散面S2とアクロマティック面A2との間の距離Lは、L>3.2Rを満たす。同様に、第1セクターマグネット10における電子線の中心軌道の半径をRとした場合に、入射側クロスオーバー面S1と入射側像面A1との間の距離Lは、L>3.2Rを満たす。すなわち、第1セクターマグネット10における電子線の偏向角度と第2セクターマグネット20における電子線の偏向角度の和は、90°であり、距離Lは、L>3.2Rを満たす。そのため、エネルギーフィルタ100では、構造を単純化でき、かつ、低収差を実現できる。
エネルギーフィルタ100では、第1セクターマグネット10における電子線の偏向角度と第2セクターマグネット20における電子線の偏向角度の和は、180°である。そのため、電子顕微鏡1において、図1に示すように、2つの鏡筒8a,8bをつなぐ部分にエネルギーフィルタ100を配置することができ、電子顕微鏡(鏡筒)の高さの増大を抑制することができる。
電子顕微鏡1は、構造を単純化でき、かつ、低収差を実現できるエネルギーフィルタ100を含むため、低コストで高性能な電子顕微鏡を実現できる。また、電子顕微鏡1では、エネルギーフィルタ100が低収差であるため、軸調整が容易である。
電子顕微鏡1では、エネルギーフィルタ100が、中間レンズ5と投影レンズ6との間に配置されている。そのため、電子顕微鏡1では、エネルギーフィルタの構造の対称性によってエネルギーフィルタそのものから発生するいくつかの収差がキャンセルされるため、これらの収差に対する収差補正を行わなくてもよい。さらに、電子顕微鏡1では、投影レンズ6によって像観察モードとスペクトル観察モードを容易に切り替えられることができる。さらに、電子顕微鏡1では、投影レンズによって拡大される前にエネルギーフィルタによるフィルタリングが行われるため、低倍率から高倍率までの、広視野での観察に対応できる。
2. 第2実施形態
次に、第2実施形態に係るエネルギーフィルタについて、図面を参照しながら説明する。図17および図18は、第2実施形態に係るエネルギーフィルタ200と、その前後の光学系の一例を示す図である。なお、図17は、スクリーン11にアクロマティック面A2を結像している状態を図示し、図18は、スクリーン11にエネルギー分散面S2を結像している状態を図示している。また、図17および図18では、便宜上、電子顕微鏡1の結像系のみを図示している。
以下、第2実施形態に係るエネルギーフィルタ200を備えた電子顕微鏡1において、第1実施形態に係る電子顕微鏡1の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
第2実施形態に係るエネルギーフィルタ200は、A−typeのオメガ型のエネルギーフィルタ(Ωフィルタ)である。
エネルギーフィルタ200と対物レンズ4との間には、4段の中間レンズ5が配置されている。4段の中間レンズ5は、入射側クロスオーバー面S1にクロスオーバーを結び(フォーカスし)、かつ、入射側像面A1に像を結ぶ(フォーカスする)ように調整される
エネルギーフィルタ200の後段には、3段の投影レンズ6が配置される。3段の投影レンズ6の励磁を調整してスクリーン11に結像される面を切り替えることによって、エネルギーロス像とエネルギースペクトルとを得ることができる。具体的には、エネルギーロス像を観察するためには、図17に示すように、3段の投影レンズ6によってアクロマティック面A2をスクリーン11に結像する。エネルギースペクトルを取得するためには、図18に示すように、3段の投影レンズ6によってエネルギー分散面S2をスクリーン11に結像する。
エネルギースリット12は、特定の損失エネルギーを持った電子のみを選択するために用いられる。エネルギースリット12で特定の損失エネルギーを持った電子のみを選択することにより、その損失エネルギーに対応するTEM像を得ることできる(EF−TEM)。
入射絞り30は、エネルギーフィルタ200に入射する視野を制限するために用いられる。入射絞り30でエネルギーフィルタ200に入射する視野を制御することにより、収差の影響の少ないスペクトルを得ることができる。
図19は、エネルギーフィルタ200の構成を示す図である。図19では、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、およびZ軸を図示している。なお、電子の進行方向をZ方向、偏向磁場による電子の偏向方向をX方向、偏向磁場の磁力線の方向をY方向とする。
エネルギーフィルタ200は、図19に示すように、第1セクターマグネット210と、第2セクターマグネット220と、第3セクターマグネット230と、第4セクターマグネット240と、入射絞り30と、収差補正器40と、を含む。
第1セクターマグネット210、第2セクターマグネット220、第3セクターマグネット230、および第4セクターマグネット240は、エネルギーフィルタ200の入射側(入口)から、この順で配置されている。第1セクターマグネット210と第4セクターマグネット240とは、対称面Mに関して対称に配置されている。第2セクターマグネット220と第3セクターマグネット230とは、対称面Mに関して対称に配置されている。
入射絞り30は、最初の入射側クロスオーバー面S1と第1セクターマグネット210との間に配置されている。入射絞り30には、エネルギー分散方向に垂直な方向に長手方向を持つスリット32(図2参照)が設けられている。
収差補正器40は、対称面Mに配置されている。収差補正器40は、第2セクターマグネット220と第3セクターマグネット230との間に配置されている。収差補正器40は、6極子および4極子を含む。
図20は、エネルギーフィルタ200における電子線の軌道を示す図である。図20では、エネルギーフィルタの4つの基本軌道xα、yβ、xγ、yδを図示している。なお、エネルギーフィルタの中心の軸(光軸)は湾曲しているが、図20では、便宜上、光軸を直線として描いている。図20において、セクターマグネットは四角で示す領域で表している。
エネルギーフィルタ200は、A−typeのΩフィルタである。xγ光線は、入射側
クロスオーバー面S1を除いて光軸との交点が3つある。すなわち、クロスオーバーのX方向の結像回数は、最初の入射側クロスオーバー面の結像を除いて3回である。クロスオーバーのY方向の結像回数は、クロスオーバーのX方向の結像回数と同じである。
また、xα光線は、入射側像面A1を除いて光軸との交点が2つ(M,A2)ある。すなわち、像のX方向の結像回数は、最初の入射側像面A1の結像を除いて2回である。像のY方向の結像回数は、像のX方向の結像回数と同じである。
A−typeのΩフィルタでは、対称面Mに実像ができる。そのため、エネルギーフィルタ100と同様に、入射絞り30と収差補正器40によって、エネルギースペクトルの幾何収差を補正することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
例えば、上述した第1実施形態では、電子の軌道がU字型のエネルギーフィルタである場合、上述した第2実施形態では、電子の軌道がΩ型のΩフィルタである場合について説明したが、本発明は、対称面Mに実像がつくられるその他のエネルギーフィルタに適用可能である。
また、例えば、第1実施形態では、電子線の偏向角度の合計が180°である場合について説明したが、電子線の偏向角度の合計は特に限定されず、例えば、90°、135°、210°などであってもよい。
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
1…電子顕微鏡、2…電子源、3…照射レンズ、4…対物レンズ、5…中間レンズ、6…投影レンズ、7…撮像装置、8a…鏡筒、8b…鏡筒、9…試料、10…第1セクターマグネット、11…スクリーン、12…エネルギースリット、20…第2セクターマグネット、22…磁極対向面、23…磁極対向面、30…入射絞り、32…スリット、40…収差補正器、100…エネルギーフィルタ、200…エネルギーフィルタ、210…第1セクターマグネット、220…第2セクターマグネット、230…第3セクターマグネット、240…第4セクターマグネット

Claims (6)

  1. 対称面に関して対称に構成された複数のセクターマグネットを備え、前記対称面に実像を作るエネルギーフィルタであって、
    エネルギー分散方向に対して垂直な方向に長手方向を持つスリットが設けられた入射絞りと、
    前記対称面に配置された6極子および4極子と、
    を含む、エネルギーフィルタ。
  2. 請求項1において、
    荷電粒子線を偏向させる偏向磁場を発生させる第1セクターマグネットおよび第2セクターマグネットを含み、
    前記第1セクターマグネットおよび前記第2セクターマグネットは、前記対称面に関して鏡映対称に構成され、
    前記第1セクターマグネットの極性と前記第2セクターマグネットの極性は、同じであり、
    前記第1セクターマグネットおよび前記第2セクターマグネットは、クロスオーバーおよび像を結像する光学系を構成し、
    荷電粒子線の進行方向をZ方向、前記偏向磁場による荷電粒子線の偏向方向をX方向、前記偏向磁場の磁力線の方向をY方向とした場合、
    クロスオーバーのX方向の結像回数およびクロスオーバーのY方向の結像回数は、最初の入射側クロスオーバー面の結像を除いて1回であり、
    最初の入射側クロスオーバー面を除いた場合、クロスオーバーのX方向の結像位置およびクロスオーバーのY方向の結像位置は、エネルギー分散面であり、
    像のX方向の結像回数および像のY方向の結像回数は、最初の入射側像面の結像を除いて2回であり、
    最初の入射側像面を除いた場合、像のX方向の結像位置および像のY方向の結像位置は、前記対称面とアクロマティック面であり、
    像のX方向の結像およびY方向の結像において、前記対称面の位置には実像が形成され、
    入射側クロスオーバー面とエネルギー分散面は、前記対称面に関して鏡映対称の位置にあり、
    入射側像面とアクロマティック面は、前記対称面に関して鏡映対称の位置にある、エネルギーフィルタ。
  3. 請求項2において、
    前記入射絞りは、最初の入射側クロスオーバー面と前記第1セクターマグネットとの間に配置され、
    前記6極子および前記4極子は、前記第1セクターマグネットと前記第2セクターマグネットとの間に配置されている、エネルギーフィルタ。
  4. 請求項1において、
    オメガ型のエネルギーフィルタであって、
    荷電粒子線の進行方向をZ方向、偏向磁場による荷電粒子線の偏向方向をX方向、前記偏向磁場の磁力線の方向をY方向とした場合、
    クロスオーバーのX方向の結像回数は、最初の入射側クロスオーバー面の結像を除いて3回であり、
    像のX方向の結像回数は、最初の入射側像面の結像を除いて2回であり、
    クロスオーバーのY方向の結像回数は、クロスオーバーのX方向の結像回数と同じであり、
    像のY方向の結像回数は、像のX方向の結像回数と同じである、エネルギーフィルタ。
  5. 請求項4において、
    第1セクターマグネット、第2セクターマグネット、第3セクターマグネット、および第4セクターマグネットを含み、
    前記第1セクターマグネット、前記第2セクターマグネット、前記第3セクターマグネット、および前記第4セクターマグネットは、入射側からこの順で配置され、
    前記第1セクターマグネットと前記第4セクターマグネットとは、前記対称面に関して対称に配置され、
    前記第2セクターマグネットと前記第3セクターマグネットとは、前記対称面に関して対称に配置され、
    前記入射絞りは、最初の入射側クロスオーバー面と前記第1セクターマグネットとの間に配置され、
    前記6極子および前記4極子は、前記第2セクターマグネットと前記第3セクターマグネットとの間に配置されている、エネルギーフィルタ。
  6. 請求項1ないし5のいずれか1項に記載のエネルギーフィルタを含む、荷電粒子線装置。
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