本発明は、結晶性樹脂を含む結着樹脂と媒体とを含む分散液を、前記結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱する第1の工程と、前記第1の工程で加熱された前記分散液を冷却する第2の工程と、前記第2の工程で冷却された前記分散液を、前記結晶性樹脂の再結晶化温度をRc(℃)として、Rc−25℃未満の温度において1時間以上維持する第3の工程と、前記第3の工程で得られた分散液を、Rc−25℃以上の温度で維持する第4の工程と、を含む、トナーの製造方法である。
一般に、結着樹脂として結晶性樹脂を含むトナーにおいて、高温高湿保管時に定着性能が変動することを抑制する手段として、トナーの製造工程中の結着樹脂の凝集粒子を含む分散液、または得られたトナー粒子に対する熱処理が有効であることが知られている。非晶性樹脂に対して相溶状態である結晶性樹脂の結晶化を熱処理によって進行させきることで、得られたトナーを高温高湿条件下で保管した際に結晶化度がさらに高くなることに起因するトナーの性能変動を抑制することが可能になるためだと推定されている。
上述の特許文献2には、熱処理によって相溶している結晶性樹脂の再結晶化が起こり、トナーの耐熱保管性が向上することが示されている。しかしながら、特許文献2に記載の方法では、熱処理前に樹脂粒子を急冷し、低温で維持する工程が含まれないため、結晶性樹脂の結着樹脂中への微分散化が不十分になる。そのため、十分な低温定着性が得られにくい。
特許文献3に記載の方法では、熱処理前に、トナーの製造工程中の結着樹脂の凝集粒子を含む分散液を冷却して、所定の範囲の温度で維持するスキームが導入されている。しかしながら、冷却前の上記分散液の温度が結晶性樹脂の融点を下回るため、冷却前に非晶性樹脂と完全な相溶状態になっていない。完全な相溶状態から結晶化していないため、結晶性樹脂の微分散化ができず、十分な低温定着性が得られにくい。
これに対して、本発明の方法では、処理スキームを適切に制御することによって結晶性樹脂の微分散化を達成することができる。すなわち、結着樹脂の樹脂粒子を含む分散液を結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱して結晶性樹脂を結着樹脂中に十分に相溶させた後、結晶核生成が支配的に起こる温度領域まで冷却して所定の時間維持することで、微細な結晶核を生成する。その後、所定の温度で熱処理して結晶成長を行うことで、結晶核が微分散した状態で結晶化を進行させることができる。
一般的に、結晶性樹脂の結晶化(再結晶化)のメカニズムは、非晶状態から非常に小さい結晶核が生成し、その核が結晶成長する2段階で進行するといわれている。この結晶核が生成する速度と、結晶が成長する速度との和が、全体の結晶化速度を決定する。この際、結晶性樹脂の結晶化が最も進行しやすい温度であって、温度に対する全体の結晶化速度を求めたときに全体の結晶化速度が最大になる温度が再結晶化温度Rc(℃)である。ここで、結晶核生成速度が最大になる温度領域は、結晶成長速度が最大になる温度領域よりも低温側にあることが知られている。はじめに、結着樹脂の樹脂粒子を含む分散液を結晶性樹脂の融点以上に昇温することで、粗大な結晶が完全に溶融し、結晶性樹脂が結着樹脂中に相溶した状態になる。その状態を経て、結晶核生成が支配的に起こる温度領域であるRc−25℃を下回る温度まで冷却し、その温度領域にて所定の時間放置することで、細やかな結晶核の生成を十分に進行させることができると考えられる。その後、多数の微細な結晶核を起点に、結晶成長速度がより大きくなる温度領域であるRc−25℃以上の温度で熱処理を行うことで、結晶性樹脂が微分散した状態で結晶成長して結晶化が進むため、優れた低温定着性と高温高湿下で保管したときの定着性能の安定性が得られるものと考えられる。
以下、本発明のトナーの製造方法について、詳細に説明する。
[トナー(静電荷像現像用トナー)の製造方法]
本発明において、トナーは、下記で説明する第1の工程〜第4の工程を含む製造方法により得ることができる。なお、本発明でいう「トナー母体粒子」とは、少なくとも結着樹脂を含有し、必要に応じて着色剤を含有してなり、かつ外添剤を含まない粒子であって、電子写真方式の画像形成に使用されるトナーの母体を構成するものである。トナー母体粒子は、そのままでもトナーとして使用することができるが、通常、外添剤を添加して使用する。また、トナー母体粒子は、単層構造であってもよく、コアシェル構造であってもよい。ここでいう「コアシェル構造」とは、コア粒子とその表面を被覆するシェル層とを備える多層構造である。かかるシェル層は、コア粒子の表面を全て被覆してもよく、部分的に被覆しコア粒子が露出してもよい。また、コアシェル構造の断面は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型ブローブ顕微鏡(SPM)等の公知の観察手段によって確認できる。
図1に示されるように、本発明のトナーの製造方法は、(a)準備工程から(e)外添剤の添加工程までを含むことが好ましい。これらの中で、第1の工程〜第4の工程は必須の工程である。なお、第1の工程〜第4の工程は、(b)トナー母体粒子の製造工程と(c)冷却工程との間で行われるものであるが、(b)トナー母体粒子の製造工程が、第1の工程を含んでもよく、(b)トナー母体粒子の製造工程の後に第1の工程〜第4の工程を順次行ってもよい。
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
(a)準備工程
本発明において、(a)準備工程(単に「工程(a)」とも称する)は、トナー母体粒子を製造するための各分散液を調製する工程である。より具体的に、工程(a)は、結晶性樹脂を含む結着樹脂と水系媒体とを含む分散液を調製する工程を含む、また、必要に応じて、着色剤分散液を調製する工程などを含み得る。さらに、必要に応じて係る樹脂を単量体から合成する工程も含み得る。なお、各分散液または樹脂は、市販のものをそのまま使用してもよい。以下、各分散液の好適な構成および調製方法について、説明する。
<結着樹脂>
本発明に係る結着樹脂は、必須成分として結晶性樹脂を含み、好ましくは結晶性樹脂と非晶性樹脂とを含む。本明細書において、「結着樹脂が結晶性樹脂を含む」とは、結着樹脂が結晶性樹脂そのものを含む態様であってもよいし、後述のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂における結晶性ポリエステル重合セグメントのように、他の樹脂中に含まれるセグメントを含む態様であってもよい。また本明細書において、「結着樹脂が非晶性樹脂を含む」とは、結着樹脂が、非晶性樹脂そのものを含む態様であってもよいし、後述のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂における非晶性重合セグメントのように、他の樹脂中に含まれるセグメントを含む態様であってもよい。
〔結晶性樹脂〕
本発明において、結晶性樹脂とは、示差走査熱量計(DSC)で測定した示差熱量曲線において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、DSC測定において、昇温速度10℃/分で測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。なお、DSC測定は、示差走査熱量計(島津製作所製)を用い、この装置の検出部の温度補正にはインジウムと亜鉛との融点を用い、熱量の補正にはインジウムの融解熱を用いる。
上記結晶性樹脂の融点(Tm)は、結晶性樹脂の試料3.0mgをアルミニウム製パンKITNO.B0143013に封入し、Diamond DSCのサンプルホルダーにセットして、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させる。1回目と2回目の加熱時には、10℃/分の昇温速度で室温(25℃)から150℃まで昇温して150℃を5分間保持し、冷却時には、10℃/分の降温速度で150℃から0℃まで降温して0℃の温度を5分間保持する。2回目の加熱時に得られる吸熱曲線における吸熱ピークのピークトップの温度を融点(Tm)として求める。
上記結晶性樹脂の再結晶化温度(Rc)は、結晶性樹脂の結晶化が最も進行しやすい温度であって、上記の同装置、同サンプル封入方法にてサンプルセットを行った後に、結晶性樹脂を10℃/分の昇温速度で室温から100℃まで昇温し、1分間保持し、0.1℃/分の降温速度で0℃まで降温し、降温時に得られた測定曲線における発熱ピークのピークトップの温度(Rc)として求める。このとき降温速度を0.1℃/分とする理由は、できるだけ降温速度を遅くして得られた結晶化温度と本発明のトナーの製造方法で得られるトナーの性能との相関が高く、降温速度が0.1℃/分であると、十分な相関が得られるからである。
本発明において、結晶性樹脂は、上記定義した通りであれば特に限定されず、例えば、結晶性樹脂による主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂について、この樹脂が上記のように明確な吸熱ピークを示すものであれば、本発明でいう結晶性樹脂に該当するものとする。本発明に係る結晶性樹脂の例としては、結晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリアミド樹脂、結晶性ポリウレタン樹脂、結晶性ポリアセタール樹脂、結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂、結晶性ポリブチレンテレフタレート樹脂、結晶性ポリフェニレンサルファイド樹脂、結晶性ポリエーテルエーテルケトン樹脂、結晶性ポリテトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。なかでも、結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。熱定着時に結晶性ポリエステル樹脂が融解して非晶性樹脂の可塑化剤として働くため、低温定着性を向上させることができるからである。
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂は、例えば、多価カルボン酸(2価以上のカルボン酸)と多価アルコール(2価以上のアルコール)との脱水縮合反応による公知の合成法により得ることができる。また、結晶性ポリエステル樹脂は、一種でもそれ以上の種類を用いてもよい。
(多価カルボン酸)
多価カルボン酸の例として、コハク酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;それらの酸無水物;およびそれらの炭素数1〜3のアルキルエステル;が含まれる。上記多価カルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。
(多価アルコール)
多価アルコールの例として、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,7−へプタンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;および、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上のアルコール;が含まれる。上記多価アルコールは、脂肪族ジオールであることが好ましい。
(エステル化触媒)
上記単量体(多価カルボン酸、多価アルコール)を用いた結晶性ポリエステル樹脂の形成方法は、特に限定されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸および多価アルコールを重縮合する(エステル化する)ことにより、当該樹脂を形成することができる。用いられうるエステル化触媒としては、酢酸チタン、プロピオン酸チタン、ヘキサン酸チタン、オクタン酸チタンなどの脂肪族モノカルボン酸チタン、シュウ酸チタン、コハク酸チタン、マレイン酸チタン、アジピン酸チタン、セバシン酸チタンなどの脂肪族ジカルボン酸チタン、ヘキサントリカルボン酸チタン、イソオクタントリカルボン酸などの脂肪族トリカルボン酸チタン、オクタンテトラカルボン酸チタン、デカンテトラカルボン酸チタンなどの脂肪族ポリカルボン酸チタン、などの脂肪族カルボン酸チタン類、安息香酸チタンなどの芳香族モノカルボン酸チタン、フタル酸チタン、テレフタル酸チタン、イソフタル酸チタン、ナフタレンジカルボン酸チタン、ビフェニルジカルボン酸チタン、アントラセンジカルボン酸チタンなどの芳香族ジカルボン酸チタン;トリメリット酸チタン、ナフタレントリカルボン酸チタンなどの芳香族トリカルボン酸チタン;ベンゼンテトラカルボン酸チタン、ナフタレンテトラカルボン酸チタンなどの芳香族テトラカルボン酸チタン;などの芳香族カルボン酸チタン類、脂肪族カルボン酸チタン類や芳香族カルボン酸チタン類のチタニル化合物類およびそのアルカリ金属塩類、ジクロロチタン、トリクロロチタン、テトラクロロチタン、テトラブロモチタンなどのハロゲン化チタン類、テトラブトキシチタン(チタンテトラブトキサイド、Ti(O−n−Bu)4)、テトラオクトキシチタン、テトラステアリロキシチタンなどのテトラアルコキシチタン類、チタンアセチルアセトナート、チタンジイソプロポキシドビスアセチルアセトナート、チタントリエタノールアミネート、などのチタン含有触媒などが挙げられる。
本発明によって製造されるトナーにおいて、結晶性樹脂の含有量としては、トナーの全質量に対して3〜30質量%の範囲内であることが好ましい。これにより、結着樹脂のシャープメルト性を向上させて、トナーの低温定着性を向上させるという効果を得つつ、結晶性樹脂を含有させることによる耐熱性の低下を抑制することができる。
また、本発明においては、結晶性樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂を使用することが好ましく、さらに、結晶性ポリエステル樹脂の構造と非晶性樹脂の構造とを含有するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を使用することが好ましい。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が有する非晶性樹脂の部分は、結着樹脂が非晶性樹脂を含む場合に、その非晶性樹脂との相溶性が高くなり、トナー母体粒子中にハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が均一に分散しうるため、低温定着性が向上するからである。
また、トナー母体粒子が後述のコアシェル構造を有する場合、コア部にポリエステル樹脂を含有させることにより、トナー粒子表面に結晶性ポリエステル樹脂が露出しにくくなる。これにより、高画質な画像が得られることから、コアシェル構造を有することが好ましい。
本発明の好ましい形態において、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとが化学的に結合した樹脂である。よって、本発明の好ましい形態によれば、前記結晶性樹脂が、結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとが化学的に結合している構造を有する。
化学的に結合している構造についても特に制限はないが、結晶性ポリエステル重合セグメントが、非晶性重合セグメントを主鎖として、グラフト化されていると好ましい。すなわち、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、主鎖として前記非晶性重合セグメントを有し、側鎖として前記結晶性ポリエステル重合セグメントを有するグラフト共重合体であると好ましい。
より好ましくは、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、非晶性重合セグメントであるスチレンアクリル重合セグメントの主鎖に、側鎖である結晶性ポリエステル重合セグメントが化学的に結合した樹脂である。以下、かような構造を有するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂について説明する。
<結晶性ポリエステル重合セグメント>
結晶性ポリエステル重合セグメントとは、結晶性ポリエステル樹脂に由来する部分を指す。すなわち、結晶性ポリエステル樹脂を構成するものと同じ化学構造の分子鎖を指す。
結晶性ポリエステル重合セグメントは、上記した結晶性ポリエステル樹脂と同様であり、同様の多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂に由来する部分である。なお、結晶性ポリエステル重合セグメントを構成する多価カルボン酸成分および多価アルコール成分については、上記の結晶性ポリエステル樹脂で説明した「多価カルボン酸」と「多価アルコール」の項目の内容と同様であるため、説明を省略する。
結晶性ポリエステル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の全量に対して80質量%以上98質量%以下であることが好ましく、90質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。なお、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中の各セグメントの構成成分および含有割合は、例えば、NMR測定、メチル化反応Py−GC/MS測定により特定することができる。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、上記結晶性ポリエステル重合セグメントの他に、非晶性重合セグメントを含む。かような非晶性重合セグメントを含むグラフト共重合体とすることにより、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向を制御しやすくなり、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。
<非晶性重合セグメント>
非晶性重合セグメントとは、非晶性樹脂に由来する部分を指す。すなわち、非晶性樹脂を構成するものと同じ化学構造の分子鎖を指す。非晶性重合セグメントは、本発明における結着樹脂に含まれうる非晶性樹脂と、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂との親和性に寄与し得る。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が非晶性重合セグメントを含有することは、例えば、NMR測定、メチル化反応Py−GC/MS測定を用いて化学構造を特定することによって確認することができる。
また、非晶性重合セグメントは、当該セグメントと同じ化学構造および分子量を有する樹脂について示差走査熱量測定(DSC)を行った時に、融点を有さず、比較的高いガラス転移点(Tg)を有する重合セグメントである。
非晶性重合セグメントの含有量は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。
非晶性重合セグメントを構成する樹脂成分は特に制限されないが、例えば、ビニル重合セグメント、ウレタン重合セグメント、ウレア重合セグメントなどが挙げられる。なかでも、熱可塑性を制御しやすいという理由から、ビニル重合セグメントが好ましい。
ビニル重合セグメントとしては、ビニル化合物を重合したものであれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸エステル重合セグメント、スチレン−アクリル酸エステル重合セグメント、エチレン−酢酸ビニル重合セグメントなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のビニル重合セグメントのなかでも、熱定着時の可塑性を考慮すると、スチレン−アクリル酸エステル重合セグメント(スチレンアクリル重合セグメント)が好ましい。したがって、以下では、非晶性重合セグメントとしてのスチレンアクリル重合セグメントについて説明する。
〔スチレンアクリル重合セグメント〕
スチレンアクリル重合セグメントは、少なくとも、スチレン単量体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、を付加重合させて形成されるものである。ここでいうスチレン単量体は、CH2=CH−C6H5の構造式で表されるスチレンの他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものを含むものである。また、ここでいう(メタ)アクリル酸エステル単量体は、CH2=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル化合物や、メタクリル酸エステル化合物の他に、アクリル酸エステル誘導体やメタクリル酸エステル誘導体等の構造中に公知の側鎖や官能基を有するエステル化合物を含むものである。
以下に、スチレンアクリル重合セグメントの形成が可能なスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例を示すが、本発明で使用されるスチレンアクリル重合セグメントの形成に使用可能なものは以下に限定されない。
(スチレン単量体)
スチレン単量体の具体例としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン等が挙げられる。これらスチレン単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
((メタ)アクリル酸エステル単量体)
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、フェニルアクリレート等のアクリル酸エステル単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル等が挙げられる。これらのうち、長鎖アクリル酸エステル単量体を使用することが好ましい。具体的には、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸エステル単量体」とは、「アクリル酸エステル単量体」と「メタクリル酸エステル単量体」とを総称したもので、例えば、「(メタ)アクリル酸メチル」は「アクリル酸メチル」と「メタクリル酸メチル」とを総称したものである。
これらのアクリル酸エステル単量体またはメタクリル酸エステル単量体は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。すなわち、スチレン単量体と2種以上のアクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること、スチレン単量体と2種以上のメタクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること、あるいは、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体およびメタクリル酸エステル単量体とを併用して共重合体を形成することのいずれも可能である。
スチレンアクリル重合セグメント中のスチレン単量体に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、40〜90質量%であると好ましい。また、非晶性重合セグメント中の(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、10〜60質量%であると好ましい。
さらに、スチレンアクリル重合セグメントは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の他、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに化学的に結合するための化合物が付加重合されてなると好ましい。具体的には、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに含まれる、多価アルコール成分由来のヒドロキシル基[−OH]または多価カルボン酸成分由来のカルボキシル基[−COOH]とエステル結合する化合物を用いると好ましい。したがって、スチレンアクリル重合セグメントは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して付加重合可能であり、かつ、カルボキシル基[−COOH]またはヒドロキシル基[−OH]を有する化合物をさらに重合してなると好ましい。
かような化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシル基を有する化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。
スチレンアクリル重合セグメント中の上記化合物に由来する構成単位の含有率は、スチレンアクリル重合セグメントの全量に対し、0.5〜20質量%であると好ましい。
スチレンアクリル重合セグメントの形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法が挙げられる。油溶性の重合開始剤としては、具体的には、以下に示すアゾ系またはジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤がある。
(アゾ系またはジアゾ系重合開始剤)
アゾ系またはジアゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
(過酸化物系重合開始剤)
過酸化物系重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジクミルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2−ビス−(4,4−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス−(t−ブチルパーオキシ)トリアジン等が挙げられる。
また、乳化重合法で樹脂粒子を形成する場合は水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素等が挙げられる。
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明に係る結着樹脂に含まれるハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の製造方法は、上記結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとを化学結合させた構造の重合体を形成することが可能な方法であれば、特に制限されるものではない。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の具体的な製造方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。
(a)非晶性重合セグメントを予め重合しておき、当該非晶性重合セグメントの存在下で結晶性ポリエステル重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法
この方法では、先ず、上述した非晶性重合セグメントを構成する単量体(好ましくは、スチレン単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体といったビニル単量体)を付加反応させて非晶性重合セグメントを形成する。次に、非晶性重合セグメントの存在下で、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを重合反応させて結晶性ポリエステル重合セグメントを形成する。このとき、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを縮合反応させると共に、非晶性重合セグメントに対し、多価カルボン酸成分または多価アルコール成分を付加反応させることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が形成される。
上記方法においては、結晶性ポリエステル重合セグメント中または非晶性重合セグメント中に、これらセグメントが互いに反応可能な部位を組み込んでおくと好ましい。具体的には、非晶性重合セグメントの形成時、非晶性重合セグメントを構成する単量体の他に、結晶性ポリエステル重合セグメントに残存するカルボキシル基[−COOH]またはヒドロキシル基[−OH]と反応可能な部位および非晶性重合セグメントと反応可能な部位を有する化合物も使用する。すなわち、この化合物が結晶性ポリエステル重合セグメント中のカルボキシル基[−COOH]またはヒドロキシル基[−OH]と反応することにより、結晶性ポリエステル重合セグメントは非晶性重合セグメントと化学的に結合することができる。
もしくは、結晶性ポリエステル重合セグメントの形成時、多価アルコール成分または多価カルボン酸成分と反応可能であり、かつ、非晶性重合セグメントと反応可能な部位を有する化合物を使用してもよい。
上記の方法を用いることにより、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントが化学結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成することができる。
(a)の方法は、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントをグラフト化させた構造のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成し易いことや、生産工程を簡素化できるため好ましい。また、(a)の方法は、非晶性重合セグメントを予め形成してから結晶性ポリエステル重合セグメントを結合させるため、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向が均一になりやすい。したがって、本発明に係るトナーに適したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を確実に形成することができるので好ましい。
その他、(b)結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとをそれぞれ形成しておき、これらを結合させてハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法であってもよいし、(c)結晶性ポリエステル重合セグメントを予め形成しておき、当該結晶性ポリエステル重合セグメントの存在下で非晶性重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法であってもよい。
上記の方法を用いることにより、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントが化学結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成することができる。
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂(ハイブリット結晶性ポリエステル樹脂も含む)は、低温定着性及び光沢度安定性の観点から、数平均分子量(Mn)が2000〜10000の範囲内にあることが好ましい。また、重量平均分子量(Mw)が5000〜50000の範囲内にあることが好ましい。なお、数平均分子量及び重量平均分子量は、実施例で示す測定方法により求めることができる。
本発明に係る結晶性樹脂の融点(Tm)は、十分な低温定着性と耐熱保管性とを得る観点から、50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることがより好ましい。なお、融点は、実施例で示す測定方法により求めることができる。2種類以上の結晶性樹脂を用いる場合には、同じ配合比の試料を同様の方法で測定して求めた融点を用いるものとする。
本発明に係る結晶性樹脂の再結晶化温度(Rc)は、十分な低温定着性と耐熱保管性とを得るとともに、高温高湿保管による定着性能の変動を抑制する観点から、50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることがより好ましい。なお、本発明でいう「再結晶化温度」とは、結晶性樹脂の結晶化が最も進行しやすい温度であって、実施例で示す測定方法により求めることができる。2種類以上の結晶性樹脂を用いる場合には、同じ配合比の試料を同様の方法で測定して求めた再結晶化温度を用いるものとする。
本発明において、結着樹脂中の結晶性樹脂の含有量は5〜50質量%であることが好ましい。結着樹脂中の結晶性樹脂の含有量が5質量%以上であると、低温定着性の効果が効率よく得られ、50質量%以下であれば耐熱保管性が良好となる。また、トナー母体粒子中の結晶性樹脂の含有量は、十分な低温定着性及び耐熱保管性を得る観点から、1〜20質量%の範囲内にあることが好ましく、5〜15質量%の範囲内にあることがより好ましい。この範囲であれば、結着樹脂が後述する非晶性ビニル樹脂を含む場合に、結晶性樹脂をトナー母体粒子中で均一に分散させ、結晶化を十分に抑えることができる。
工程(a)は、結晶性樹脂を含む結着樹脂と水系媒体とを含む分散液を調製する工程であり、(a−1)結晶性樹脂粒子分散液の調製工程を含む。さらに必要に応じて、(a−2)非晶性ビニル樹脂粒子分散液の調製工程、(a−3)ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製工程、(a−4)着色剤粒子分散液の調製工程、を含んでもよい。以下、これら各工程について説明する。
(a−1)結晶性樹脂粒子分散液の調製工程
本発明において、結晶性樹脂を水系媒体中に分散させる方法としては、当該結晶性樹脂を有機溶媒(溶剤)中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒を除去する方法が挙げられる。
油相液の調製に使用される有機溶媒としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
有機溶媒(溶剤)の使用量(2種類以上使用する場合はその合計使用量)は、樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜1000質量部、より好ましくは10〜800質量部、さらに好ましくは25〜500質量部である。さらに、油相液中には、カルボキシル基をイオン解離させて、水相に安定に乳化させて乳化を円滑に進めるためにアンモニア、水酸化ナトリウムなどを添加してもよい。
(水系媒体)
本発明に係る水系媒体とは、水の含有量が50質量%以上の媒体をいう。水以外の成分としては、水に溶解する有機溶媒が挙げられ、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらのうち、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の樹脂を溶解しないアルコール系有機溶媒が特に好ましい。
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50〜2,000質量部であることが好ましく、100〜1,000質量部であることがより好ましい。水系媒体の使用量を上記の範囲とすることで、水系媒体中において油相液を所望の粒径に乳化分散させることができる。
水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
(分散安定剤)
分散安定剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、リン酸三カルシウムなどのように酸やアルカリに可溶性のものを使用することが好ましく、または環境面の視点からは、酵素により分解可能なものを使用することが好ましい。
(界面活性剤)
界面活性剤としては、例えばドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等のカチオン性界面活性剤、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム(ドデシル硫酸ナトリウム)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル等のノニオン性界面活性剤等の公知の界面活性剤を用いることができる。これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(その他の添加物−樹脂微粒子)
また、分散安定性の向上のための樹脂微粒子としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、ポリスチレン−アクリロニトリル樹脂微粒子などが挙げられる。
このような油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、乳化分散を行うための分散機としては、特に限定されるものではなく、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波ホモジナイザーなどの超音波分散機、高圧衝撃式分散機アルティマイザーなどが挙げられる。
油滴の形成後における有機溶媒の除去は、結晶性ポリエステル樹脂粒子または後述する非晶性樹脂粒子が水系媒体中に分散された状態の分散液全体を、徐々に撹拌状態で昇温し、一定の温度域において強い撹拌を与えた後、脱溶媒を行うなどの操作により行うことができる。あるいは、エバポレータ等の装置を用いて減圧しながら除去することができる。
このように準備された結晶性樹脂粒子分散液における結晶性樹脂粒子(油滴)の平均粒径は、体積基準のメジアン径で60〜1000nmであることが好ましく、80〜500nmであることがより好ましい。なお、平均粒径は、実施例に記載の方法で測定する。なお、この油滴の平均粒径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさにより制御することができる。
〔非晶性樹脂〕
本発明に係るトナーは、非晶性樹脂を含むことが好ましい。非晶性樹脂を含むことにより、加熱定着の際、結晶性樹脂と非晶性樹脂とが相溶し、トナーの低温定着性が向上する。
非晶性樹脂とは、DSCにより得られる吸熱曲線において、ガラス転移点(Tg)を有するが、融点すなわち昇温時の前述の明確な吸熱ピークがない非晶性を示す樹脂をいう。
非晶性樹脂は、上述した結晶性樹脂とともに結着樹脂として用いられて、トナー母体粒子を構成することが好ましい。非晶性樹脂が含まれることにより、適度な定着強度及び画像光沢が得られるとともに温湿度の変動環境下においても良好な帯電性が得られるという利点が得られる。本発明に係る非晶性樹脂は、一種であってもよく数種類混合された状態であってもよい。また、非晶性樹脂の例として、非晶性ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂またはハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂などが好ましく挙げられる。これらの非晶性樹脂は、公知の合成法または市販によって入手可能である。また、本発明に係るトナー母体粒子は、コアシェル構造を有する場合、結晶性ポリエステル樹脂のトナー粒子中の分散状態の制御性や帯電特性の観点から、非晶性ビニル樹脂と前述した結晶性ポリエステル樹脂とがコア部を構成することが好ましく、後述のハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂がシェル層を構成することが好ましい。
非晶性樹脂は、熱定着時の可塑性の観点から、非晶性ビニル樹脂であることが好ましい。以下、非晶性ビニル樹脂について説明する。
(非晶性ビニル樹脂)
本発明において、非晶性ビニル樹脂は、ビニル化合物を重合した非晶性ビニル樹脂であれば特に制限されず、例えば、アクリル酸エステル樹脂、スチレン−アクリル酸エステル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、低温定着性と耐熱性とを両立する観点から、スチレン−アクリル酸エステル樹脂(スチレン−アクリル樹脂)が好ましい。スチレン−アクリル樹脂で用いられるスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体は、上述と同様であるため、ここでは説明を省略する。
非晶性ビニル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、20000〜150000の範囲内にあることが、また、数平均分子量(Mn)は、5000〜20000の範囲内にあることが、定着性と耐ホットオフセット性との両立の観点から好ましい。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、上記結晶性樹脂の場合と同様に測定することができる。
非晶性ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)は、定着性と耐熱保管性との両立の観点から、20〜70℃の範囲内にあることが好ましい。なお、ガラス転移点は、実施例で示す測定方法によって求めることができる。
非晶性ビニル樹脂に用いられる単量体としては、特に限定されず、例えば、上述したスチレン単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体などが挙げられる。
(a−2)非晶性ビニル樹脂粒子分散液の調製工程
非晶性ビニル樹脂粒子分散液は、例えば溶剤を用いることなく、水系媒体中において非晶性ビニル樹脂の分散処理を行う方法、あるいは非晶性ビニル樹脂を酢酸エチルなどの溶剤に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水系媒体中に乳化分散させた後、脱溶剤処理を行う方法などが挙げられる。好適には、水系媒体中において非晶性ビニル樹脂の分散処理を行い、非晶性ビニル樹脂粒子分散液を調製する。
また、水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。なお、分散安定剤、界面活性剤および樹脂微粒子の具体例および好適な例は、上述の「水系媒体」、「分散安定剤」、「界面活性剤」および「その他の添加物−樹脂微粒子」の項目に記載したとおりである。
分散処理は、撹拌下で行うことが好ましく、また、機械的エネルギーを利用して行うことができる。分散処理で用いられる分散機としては、特に限定されるものではなく、ホモジナイザー、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波分散機、高圧衝撃式分散機アルティマイザー、乳化分散機などが挙げられる。
非晶性ビニル樹脂の製造方法は、特に限定されないが、樹脂の単量体を重合開始剤とともに水系媒体中に添加し、単量体を重合反応させて、樹脂粒子の分散液を得る乳化重合法を使用できる。
乳化重合法では、以下のシード重合が好ましい。具体的には、非晶性ビニル樹脂を得るための単量体を重合開始剤と共に水系媒体中に添加して重合し、基礎粒子を得る。次に、当該基礎粒子が分散している分散液中に、非晶性ビニル樹脂を得るためのラジカル重合性単量体および重合開始剤を添加し、上記基礎粒子にラジカル重合性単量体をシード重合する手法を用いることが好ましい。
また、例えば、3段階で重合反応させる場合、第1段重合により樹脂粒子の分散液を調製し、この分散液中にさらに樹脂の単量体、重合開始剤、および必要に応じて離型剤を添加して、第2段重合を行う。第2段重合により調製した分散液中にさらに樹脂の単量体と重合開始剤を添加して第3段重合を行う。第2段および第3段の重合時には、先の重合により生成された分散液中の樹脂粒子をシード(種)として、この樹脂粒子に新たに添加した単量体をさらに重合させることができ、樹脂粒子の粒径等の均一化を図ることができる。また、各段階の重合反応の際、異なる単量体を用いることにより、樹脂粒子の構造も多層構造とすることができ、目的の特性を有する樹脂粒子を得やすい。
また、重合の際に、溶液(反応液)を加熱することが好ましい。加熱条件は特に限定されるものではないが、通常60〜100℃程度である。
(重合開始剤)
重合反応に使用できる重合開始剤としては、公知のものを使用することができ、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)塩酸塩、2,2’−アゾビス−(2−アミノジプロパン)硝酸塩、4,7’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、ポリ(テトラエチレングリコール−2,2’−アゾビスイソブチレート)等のアゾ化合物、過酸化水素等の過酸化物等が挙げられる。
重合開始剤の添加量は、目的の分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には重合性単量体の添加量に対して、0.1〜5.0質量%の範囲内とすることができる。
(連鎖移動剤)
重合反応時には、樹脂粒子の分子量を制御する観点から、連鎖移動剤を添加することができる。使用できる連鎖移動剤としては、例えば連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン;n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート、ステアリル−3−メルカプトプロピオネートなどのメルカプトプロピオン酸;およびスチレンダイマーなどを用いることができる。これらは一種単独であるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
連鎖移動剤の添加量は、目的の分子量や分子量分布によって異なるが、重合性単量体の添加量に対して、0.1〜5.0質量%の範囲内とすることができる。
(界面活性剤)
重合反応時には、分散液中の樹脂粒子の凝集等を防ぎ、良好な分散状態を維持する観点から、界面活性剤を添加することができる。
界面活性剤としては、例えばドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等のカチオン性界面活性剤、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム(ドデシル硫酸ナトリウム)、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル等のノニオン性界面活性剤等の公知の界面活性剤を用いることができる。これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
このように準備された非晶性ビニル樹脂粒子分散液における非晶性ビニル樹脂粒子(油滴)の粒径は、体積基準のメジアン径で、60〜1000nmが好ましく、80〜500nmであるがより好ましい。なお、この体積基準のメジアン径は、実施例に記載の方法で測定する。なお、この油滴の体積基準のメジアン径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさによりコントロールすることができる。
(離型剤(ワックス))
本発明に用いられる離型剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス、パラフィンワックス、サゾールワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス、ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス、カルナウバワックス、モンタンワックス、ベヘニルベヘネート(ベヘン酸ベヘニル)、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1、18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエート、脂肪酸ポリグリセリンエステルなどのエステル系ワックス、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。
また、離型剤の融点は、好ましくは40〜160℃であり、より好ましくは50〜120℃である。融点を上記範囲内にすることにより、トナーの耐熱保管性が確保されるとともに、低温で定着を行う場合でもコールドオフセット等を起こさずに安定したトナー画像の形成が行える。また、トナー中の離型剤の含有量は、1〜30質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。
(ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂)
本発明にかかる結着樹脂は、非晶性ビニル樹脂との併用時に適度な相溶度が得られ、トナー粒子の形状制御性や定着後の画像強度が得られる等の観点から、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。
本発明において、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂は、非晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性ビニル重合セグメントとが化学的に結合した樹脂であり得る。
非晶性ポリエステル重合セグメントとは、非晶性ポリエステル樹脂に由来する部分を指す。すなわち、非晶性ポリエステル樹脂を構成するものと同じ化学構造の分子鎖を指す。また、非晶性ビニル重合セグメントとは、非晶性ビニル樹脂に由来する部分を指す。すなわち、非晶性ビニル樹脂を構成するものと同じ化学構造の分子鎖を指す。
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂は、非晶性ポリエステル重合セグメントおよび非晶性ビニル重合セグメントを含むものであれば、ブロック共重合体、グラフト共重合体などいずれの形態であってもよいが、グラフト共重合体であることが好ましい。グラフト共重合体とすることにより、最終的に得られるトナーが、良好な低温定着性を維持しつつ、耐熱保管性、および離型分離性が共に向上したものとなる。
さらに、上記観点からは、非晶性ポリエステル重合セグメントが、非晶性ビニル重合セグメントを主鎖として、グラフト化されている構造であることが好ましい。すなわち、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂は、主鎖として非晶性ビニル重合セグメントを有し、側鎖として非晶性ポリエステル重合セグメントを有するグラフト共重合体であることが好ましい。このような形態とすることにより、最終的に得られるトナーが、良好な低温定着性を維持しつつ、耐熱保管性、および離型分離性が共に向上したものとなる。
非晶性ポリエステル重合セグメント
非晶性ポリエステル重合セグメントは、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸成分)と、2価以上のアルコール(多価アルコール成分)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂に由来する部分であって、DSCにおいて、明確な吸熱ピークが認められない重合セグメントをいう。
非晶性ポリエステル重合セグメントは、上記定義したとおりであれば特に限定されない。例えば、非晶性ポリエステル重合セグメントによる主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂や、非晶性ポリエステル重合セグメントを他成分からなる主鎖に共重合させた構造を有する樹脂について、この樹脂を含むトナーが上記のように明確な吸熱ピークが認められないものであれば、その樹脂は、本発明でいう非晶性ポリエステル重合セグメントを有するハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂に該当する。
多価カルボン酸成分としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、β−メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン−3,5−ジエン−1,2−ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、マロン酸、ピメリン酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸などのジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸などが挙げられる。これら多価カルボン酸は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
これらの中でも、本発明の効果を得やすいという観点から、フマル酸、マレイン酸、メサコン酸などの脂肪族不飽和ジカルボン酸や、イソフタル酸やテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸、トリメリット酸を用いることが好ましい。
また、多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの2価のアルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミンなどの3価以上のポリオールなどが挙げられる。これら多価アルコール成分は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
これらの中でも、本発明の効果を得やすいという観点から、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの2価のアルコールが好ましい。
上記の多価カルボン酸成分と多価アルコール成分との使用比率は、多価アルコール成分のヒドロキシル基[OH]と多価カルボン酸成分のカルボキシル基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]において、1.5/1〜1/1.5とすることが好ましく、1.2/1〜1/1.2とすることがより好ましい。多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との使用比率が上記の範囲にあることにより、非晶性ポリエステル樹脂の酸価および分子量を制御することがより容易となる。
非晶性ポリエステル重合セグメントの形成方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を重縮合する(エステル化する)ことにより当該重合セグメントを形成することができる。
非晶性ポリエステル重合セグメントの製造の際に使用可能な触媒としては、上記(結晶性樹脂)の項で説明した触媒と同様であるため、ここでは説明を省略する。
重合温度は特に限定されるものではないが、150〜250℃であることが好ましい。また、重合時間は特に限定されるものではないが、0.5〜10時間とすると好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂中の非晶性ポリエステル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の全量に対して50〜99.9質量%であることが好ましく、70〜95質量%であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、耐熱性を維持しながらより低温定着化が図れるとともに、非晶性ビニル樹脂との親和性のバランス取りが可能という利点が得られる。なお、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂中の各重合セグメントの構成成分および含有割合は、例えば、NMR測定、メチル化反応Py−GC/MS測定により特定することができる。
なお、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂には、さらにスルホン酸基、カルボキシル基、ウレタン基などの置換基が導入されていてもよい。上記置換基の導入は、非晶性ポリエステル重合セグメント中でもよいし、以下で詳説する非晶性ビニル重合セグメント中であってもよい。
非晶性ビニル重合セグメント
非晶性ビニル重合セグメントは、結着樹脂に非晶性ビニル樹脂が含まれる場合に、該非晶性ビニル樹脂とハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂との親和性を制御することができる。
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂中(さらには、トナー中)に非晶性ビニル重合セグメントを含有することは、例えば、NMR測定、メチル化反応Py−GC/MS測定を用いて化学構造を特定することによって確認することができる。
また、非晶性ビニル重合セグメントは、当該セグメントと同じ化学構造および分子量を有する樹脂について示差走査熱量測定(DSC)を行った時に、融点を有さず、比較的高いガラス転移点(Tg)を有する重合セグメントである。このとき、当該ユニットと同じ化学構造および分子量を有する樹脂について、ガラス転移点(Tg)が、30〜70℃であることが好ましく、特に35〜65℃であることが好ましい。
非晶性ビニル重合セグメントは、上記定義したとおりであれば特に限定されない。例えば、非晶性ビニル重合セグメントによる主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂や、非晶性ビニル重合セグメントを他成分からなる主鎖に共重合させた構造を有する樹脂について、この樹脂を含むトナーが上記のような非晶性重合セグメントを有するものであれば、その樹脂は、本発明でいう非晶性重合セグメントを有するハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂に該当する。
非晶性ビニル重合セグメントとしては、ビニル化合物を重合したものであれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸エステル重合セグメント、スチレン−アクリル酸エステル重合セグメント、エチレン・酢酸ビニル重合セグメントなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のビニル重合セグメントのなかでも、熱定着時の可塑性を考慮すると、スチレン−アクリル酸エステル重合セグメント(スチレンアクリル重合セグメント)が好ましい。また、非晶性ビニル樹脂の好適な形態はスチレン−アクリル樹脂であることから、非晶性ビニル重合セグメントもスチレンアクリル重合セグメントであることが好ましい。このような形態とすることにより、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂と非晶性ビニル樹脂との親和性がより向上し、トナー粒子の形状制御が容易であるという利点が得られる。
スチレンアクリル重合セグメントの形成に用いられる単量体や形成方法は、上記ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の項で説明した「スチレンアクリル重合セグメント」項目の内容と同様であるため、ここでは説明を省略する。
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂中の非晶性ビニル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の全量に対して、0.1〜50質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、コア部に非晶性ビニル樹脂が含まれた場合、該非晶性ビニル樹脂との親和性がより高くなり、最終的に得られるトナーが、良好な低温定着性を維持しつつ、耐熱保管性が共に向上したものとなる。
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の製造方法は、上記非晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性ビニル重合セグメントとを結合させた構造の重合体を形成することが可能な方法であれば、特に制限されるものではない。ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の具体的な製造方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。
(1)非晶性ビニル重合セグメントを予め重合しておき、当該非晶性ビニル重合セグメントの存在下で非晶性ポリエステル重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を製造する方法
(2)非晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性ビニル重合セグメントとをそれぞれ形成しておき、これらを結合させてハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を製造する方法
(3)非晶性ポリエステル重合セグメントを予め形成しておき、当該非晶性ポリエステル重合セグメントの存在下で非晶性ビニル重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を製造する方法
上記(1)〜(3)の形成方法の中でも、(1)の方法は、非晶性ビニル重合セグメントに非晶性ポリエステル重合セグメントがグラフト化した構造であるハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を形成し易いことや生産工程を簡素化できるため好ましい。
(a−3)ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製工程
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液は、例えば溶剤を用いることなく、水系媒体中においてハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の分散処理を行う方法(あ)、あるいはハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を有機溶媒(溶剤)中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒を除去する方法(い)などが挙げられる。方法(あ)における水系媒体および分散方法は上記(a−2)欄に記載した通りである。方法(い)の詳細は、上記(a−1)欄に記載した通りである。
このように準備されたハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液におけるハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子(油滴)の粒径は、体積基準のメジアン径で、60〜1000nmが好ましく、80〜500nmがより好ましい。なお、この体積基準のメジアン径は、実施例に記載の方法で測定する。なお、この油滴の体積基準のメジアン径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさによりコントロールすることができる。
〔着色剤〕
本発明において、着色剤としては、カラートナーの着色剤に用いられる公知の無機または有機着色剤が用いられる。当該着色剤の例には、カーボンブラック、磁性体、顔料および染料が含まれる。上記着色剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
カーボンブラックの例には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックおよびランプブラックが含まれる。上記磁性体の例には、鉄やニッケル、コバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、およびフェライトやマグネタイトなどの強磁性金属の化合物が含まれる。
顔料の例には、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同7、同15、同16、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同123、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同208、同209、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー3、同9、同14、同17、同35、同36、同65、同74、同83、同93、同94、同98、同110、同111、同138、同139、同153、同155、同180、同181、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4、同60、および中心金属が亜鉛やチタン、マグネシウムなどであるフタロシアニン顔料、が含まれる。
染料の例には、C.I.ソルベントレッド1、同3、同14、同17、同18、同22、同23、同49、同51、同52、同58、同63、同87、同111、同122、同127、同128、同131、同145、同146、同149、同150、同151、同152、同153、同154、同155、同156、同157、同158、同176、同179、ピラゾロトリアゾールアゾ染料、ピラゾロトリアゾールアゾメチン染料、ピラゾロンアゾ染料、ピラゾロンアゾメチン染料、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93および同95が含まれる。
(a−4)着色剤粒子分散液の調製工程
本工程において、着色剤を水系媒体中に分散させて、着色剤粒子分散液を調製することができる。
着色剤粒子分散液の調製時にも、着色剤粒子の分散安定性を向上させるため、上述した界面活性剤を添加することができる。また、上述した機械的エネルギーを分散処理に利用することができる。
分散液中の着色剤粒子は、体積基準のメジアン径が10〜300nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは100〜200nmの範囲内であり、さらに好ましくは100〜150nmの範囲内である。
(b)トナー母体粒子の製造工程(単に「工程(b)」とも称する)
上述したように、(b)トナー母体粒子の製造工程は、上記第1の工程を含んでもよい。ここで、「トナー母体粒子の製造工程が第1の工程を含む」とは、工程(b)の中で行われる操作の中に、第1の工程の要件(定義)を満たす操作があれば、当該工程(b)は、第1の工程を含むと定義する。第1の工程の要件を満たす操作とは、下記の通りである。
《第1の工程》
本発明において、結晶性樹脂を含む結着樹脂と媒体とを含有する分散液を当該結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱する工程を、「第1の工程」と定義する。当該結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱することにより、結晶性樹脂が非晶状態となり、定着時にトナー可塑化を阻害すると考えられる原料の結晶性樹脂由来の粗大な結晶性部位が消滅する。
上述したように、工程(b)の中に、結晶性樹脂を含む結着樹脂と媒体とを含有する分散液を当該結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱する操作があれば、工程(b)は第1の工程を含むと定義する。
第1の工程における分散液の加熱温度は上記結晶性樹脂の融点以上の温度であれば適宜設定して良いが、製造時の反応(熱凝集)制御性の確保や過剰な熱エネルギー付与抑制の観点から融点+15℃以下が望ましい。ここで、上記分散液の加熱温度が結晶性樹脂の融点を下回ると、結晶性樹脂が結着樹脂中で完全な相溶状態にならず、冷却して再結晶化する際に微分散化されないため、良好な低温定着性が得られない。
結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱する時間は、特に限定されないが、後述するトナー母体粒子の製造方法によって適宜に設定することができる。例えば、トナー母体粒子の所望の平均円形度になるまで加熱してもよい。
加熱の手段としては、ヒーターなどの公知の加熱装置を用いることができる。
本発明において、トナー母体粒子を製造する方法としては、例えば、凝集・融着法(乳化凝集法)、懸濁重合法、溶解懸濁法、ポリエステル伸長法、分散重合法、その他の公知の方法などを挙げることができるが、凝集・融着法および懸濁重合法を用いることが好ましい。より好ましくは凝集・融着法であり、トナー母体粒子は、結晶性樹脂を含む結着樹脂を凝集、融着させて生成される。凝集・融着法は、粒径の均一性、形状の制御性、コアシェル構造形成の容易性の観点から好ましい。また、凝集・融着法によれば、凝集時に使用したイオンにより、製造されたトナー母体粒子中で結晶性樹脂の動きが阻害され、より高温高湿保管時の性能変動が起こりにくくなる。
以下では、凝集・融着法によってトナー母体粒子を製造する工程と、懸濁重合法によってトナー母体粒子を製造する工程とをそれぞれ説明する。
(b−1)凝集・融着法によるトナー母体粒子の製造工程(「凝集・融着工程」とも称する)
凝集・融着法とは、結晶性樹脂を含む結着樹脂と水系媒体とを含む分散液を、加熱することによって、分散液中の粒子間の凝集、融着を進行させる方法である。以下では、トナー母体粒子が、コア部に結晶性樹脂および非晶性ビニル樹脂を含み、シェル層にハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を含む、コアシェル構造を有する粒子である例を示しながら、当該製造工程を説明する。
調製した非晶性ビニル樹脂粒子分散液、結晶性樹脂粒子分散液(好ましくは結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液)および必要に応じて着色剤粒子分散液を混合し、水系媒体に分散させる。水系媒体中において上記各粒子を凝集させる。さらに、混合液を加熱することによって、各粒子を融着させて、コア粒子(コア部)を形成する。
凝集および融着時、臨界凝集濃度以上の凝集剤を添加し、非晶性ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)以上に混合液を加熱することにより、凝集および融着を促進すればよい。
より詳細には、非晶性ビニル樹脂粒子分散液、結晶性樹脂粒子分散液、および必要に応じて界面活性剤(例えばドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩)を混合した後、凝集性付与のために、予め水酸化ナトリウム水溶液等の塩基を該混合液に加えて、pHを9〜12に調整しておくことが好ましい。
次いで、必要に応じて着色剤粒子分散液を添加し、塩化マグネシウム水溶液等の凝集剤を、25〜35℃で5〜15分間かけて撹拌しながら添加することが好ましい。凝集剤の使用量は、結着樹脂粒子および着色剤粒子の固形分全量に対して、5〜20質量%であることが好ましい。その後、通常30分以内、好ましくは10分以内、より好ましくは1〜6分間放置し、30〜90分間かけて70〜95℃まで昇温することが好ましい。このような方法により、凝集した樹脂粒子および着色剤粒子を融着させることができる。
また、本工程においては、凝集剤を添加した後、加熱により速やかに昇温させることが好ましく、昇温速度は0.8℃/分以上とすることが好ましい。昇温速度の上限は、特に限定されないが、急速な融着の進行による粗大粒子の発生を抑制する観点から15℃/分以下とすることが好ましい。さらに、凝集用分散液が非晶性ビニル樹脂のガラス転移点以上の温度に到達した後、当該凝集用分散液の温度を一定時間、好ましくは体積基準のメジアン径が4.5〜7.0μmになるまで保持することにより、融着を継続させることが肝要である。これにより、コアシェル構造であるトナー母体粒子のコア部を形成することができる。
この凝集・融着において、結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱する操作を行ってもよい。
〔凝集剤〕
使用できる凝集剤としては、特に限定されないが、アルカリ金属塩、2価の金属塩、3価の金属塩等の金属塩が挙げられる。
金属塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等の1価のアルカリ金属塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸銅、硫酸マグネシウム等の2価の金属塩、鉄、アルミニウム等の3価の金属塩等が挙げられる。なかでも、より少量で凝集させることができることから、2価の金属塩が好ましい。
次に、コア部が形成された分散液中に、シェル部を形成するハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液をさらに添加し、上記で得られたコア部の粒子(コア粒子)の表面に、シェル部を形成するハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を凝集、融着させる。これにより、コアシェル構造を有する結着樹脂が得られる。そして、凝集した粒子の大きさが目標の大きさになった時に、塩化ナトリウム水溶液等の塩を添加して凝集を停止させる。その後、コア粒子表面へのシェル部の凝集、融着をより強固にし、かつ粒子の形状が所望の形状になるまで、さらに反応系の加熱処理を行うとよい。この加熱処理において、結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱する操作を行ってもよい。これにより、粒子の成長(結晶性樹脂粒子、非晶性ビニル樹脂粒子、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂、および必要に応じて着色剤粒子の凝集)と、融着(粒子間の界面の消失)とを効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナーの耐久性を向上することができる。
なお、トナー母体粒子の平均円形度の好適範囲は、特に限定されないが、0.955〜0.980のであることが好ましく、0.960〜0.975であることがより好ましい。該平均円形度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
(b−2)懸濁重合法によるトナー母体粒子の製造工程(「懸濁重合工程」とも称する)
懸濁重合法とは、結晶性樹脂と、重合性単量体と、必要に応じて着色剤、離型剤、重合開始剤、分散安定剤などの添加剤と、を水系媒体に懸濁させて油滴分散粒子を形成し、その後加熱して重合を行い、トナー母体粒子を製造する方法である。
ここで、使用され得る結晶性樹脂としては、特に限定されず、上記の「結晶性樹脂」項の記載通りである。重合性単量体としては、特に限定されず、上記の「非晶性重合セグメント」項に記載の各種重合性単量体(例えば、スチレン単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、また必要に応じて添加するカルボキシル基もしくはヒドロキシル基を有する化合物など)が適宜採用されうる。また、着色剤、離型剤、重合開始剤、分散安定剤なども特に限定されず、それぞれ上述した「着色剤」の項目、「離型剤」の項目、「重合開始剤」の項目(「アゾ系またはジアゾ系重合開始剤」および「過酸化物系重合開始剤」を含む)、「分散安定剤」の項目の記載通りである。
懸濁の際に、撹拌下で行うことが好ましく、また、機械的エネルギーを利用して行うことができる。用いられる機械としては、特に限定されるものではなく、ホモミキサー、ホモジナイザーなど公知の機械が挙げられる。
また、懸濁の際に、加温しながら撹拌下で行うことが好ましく、例えば、40℃〜80℃に加温しながら行うことが好ましい。
懸濁後、重合を行う際にも、使用される重合性単量体などに合わせて、加熱の温度や重合時間を適宜設定することができる。例えば、撹拌しながら、60℃〜100℃に保持して、2〜10時間重合させることができる。加熱の手段としては、ヒーターなどの公知の加熱装置を用いることができる。
本発明において、懸濁重合法を採用する場合は、懸濁重合の後に得られる分散液に対して、結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱する操作を行ってもよい。すなわち、工程(b)の後に、第1の工程を行ってもよい。
《第2の工程》
第2の工程は、上記第1の工程で得られた分散液を冷却する工程である。具体的には、後述の方法で測定される結晶性樹脂の融点Tm(℃)よりも高温に加熱された上記分散液を、Rc−25℃未満の温度まで冷却する。
本明細書中、第2の工程は、冷却開始から、後述の第3の工程(Rc−25℃を下回る温度で1時間以上維持する)の開始までの工程を指す。第1の工程においてTmよりも高温に加熱する工程を2回以上行う場合は、最後の加熱の後、冷却を開始する時点を、冷却開始とする。また、第2の工程の終了は、分散液の温度がRc−25℃を下回った時点とし、この時点を第3の工程の開始とする。
第2の工程において、上記分散液の温度が、冷却開始時の温度以下に維持されていれば、上記第2の工程の開始から終了までの上記分散液の温度変化の態様は限定されない。例えば、上記分散液の温度は、Rc−25℃未満の温度まで昇温なく一定の速度で冷却してもよく、降温速度を変化させてもよい。また、冷却、昇温、再冷却を繰り返してもよい。ただし、製造効率の観点から、温度を上下に振るスキームではなく、降温だけの温度変化であることが好ましい。本実施形態においては、第2の工程の終了以前に、分散液の温度がRc−25℃を下回らないことが好ましい。特には、冷却開始時の温度から、Rc−25℃未満の温度まで、昇温なく冷却することが好ましい。
このとき、過度の結晶ドメインの成長によって結晶性樹脂がトナー母体粒子の表面にブリードアウトすることを抑制し、より低温定着性に優れたトナーを得るという観点から、Rcよりも高温の分散液が、2℃/分以上の降温速度でRc未満まで冷却されることが好ましい。「Rcよりも高温の分散液の温度」は、第1の工程の終点(冷却開始時)の温度でもよいし、第1の工程の終点の温度から所定のRc超の温度まで上記分散液を冷却したときの温度でもよい。よって、上記第1の工程で加熱された分散液を直ちに降温速度2℃/分以上でRc未満の温度まで冷却してもよいし、当該分散液をRc超の所定の温度まで任意の冷却温度で冷却し、その後、2℃/分以上の降温速度でRc未満の温度まで冷却してもよい。また、Rc通過後の降温速度も限定されない。例えば、上記分散液をRc未満の所定の温度まで2℃/分以上の降温速度で冷却後、降温速度を1℃/分未満としてもよい。より好ましくは、当該降温速度は5℃/分以上である。
また、Rc近傍(Rc±0.9℃)の温度領域における前記分散液の降温速度が、2℃/分以上であることが好ましい。Rc近傍の通過速度(降温速度)が2℃/分以上であれば、過度な結晶ドメインの成長によるブリードアウトが抑制できる。また、結晶ドメインが過度に大きくなって溶融に必要なエネルギーが大きくなることに起因する定着性能の低下を抑制できる。Rc近傍の温度領域における前記分散液の降温速度は、25℃/分以下であることが好ましい。降温速度が25℃/分以下であれば、Rc付近での結晶化が十分に進行するため、高温高湿下で保管しても定着性能の変動の少ないトナーが容易に得られうる。
上記分散液は、上記の降温速度を実現可能な公知の冷却装置を用いて冷却することができる。例えば、反応容器の外浴を急速に冷却してもよいし、分散液を熱交換器に通してもよいし、分散液中に冷却されたイオン交換水を投入してもよい。生産効率の観点からは、熱交換器を用いて冷却を行うことが好ましい。
[第2の工程の分散液の温度変化の説明]
以下、図2a〜図2cを参照して、本発明における第2の工程の分散液の温度変化の例を説明する。例えば、図2a、図2bに示されるように、第2の工程中、分散液を昇温することなくRc未満の温度まで冷却する。図2bのように一定の降温速度で冷却してもよく、図2aのように降温速度を変化させてもよい。また、図2cのように昇温と降温とを繰り返してもよく、いずれも本発明の範囲に含まれる。
《第3の工程》
第3の工程は、第2の工程で冷却された分散液を、Rc−25℃未満の温度で1時間以上維持する工程である(以下、単に「熱処理前待機」ともいう)。
本明細書中、「Rc−25℃未満の温度で1時間以上維持する」とは、Rc−25℃未満の温度域で、1時間以上連続的に維持することと定義する。
第3の工程は、冷却工程で冷却した分散液の温度がRc−25℃を下回った時点から、Rc−25℃未満の温度域で、1時間以上の時間である時間t1が経過する時点までの熱処理前待機工程である。本明細書中、熱処理前待機時間(待機時間)t1は、分散液の温度がRc−25℃未満の範囲に維持されている時間を指す。
第3の工程において、上記分散液の温度が、Rc−25℃未満の温度範囲に1時間以上維持されていれば、上記第3の工程の開始から終了までの上記分散液の温度変化の態様は限定されない。例えば、上記分散液の温度は、Rc−25℃未満の温度範囲内に連続して1時間以上あれば、一定の温度に保持されていても、一定の速度で上昇又は降下し続けてもよく、あるいは、上昇と降下を繰り返す等、絶えず変化していてもよい。生産性の観点から、温度を上下に振るスキームではなく、一定の温度に保持するスキームや、昇温または降温し続けるスキームを含むことが好ましい。
分散液が最も低温まで冷却された時点での温度(最終的な冷却温度)は、核生成進行を促進する観点から、Rc−35℃以下であることが好ましい。分散液が最も低温まで冷却された時点での温度の下限値は特に限定されないが、トナーのガラス転移温度以上であることが好ましい。トナーのガラス転移温度以上であれば、核生成が効果的に起こるため好ましい。
また、Rc−25℃未満の温度で維持する時間(待機時間)t1は、1時間以上であれば特に制限されないが、結晶核生成を十分に進行させる観点から、6時間以上であることが好ましい。t1の上限は特に限定されないが、製造効率を損ねない範囲で長いほうが好ましい。より好ましくは、t1は、5〜10時間である。
好ましい実施形態においては、上記第3の工程において、第2の工程で得られた分散液を、Rc−35℃以下の温度範囲で、1時間以上、特には6時間以上維持する。このようにすることで、微細な結晶核の生成がより効果的に、十分に進行する。そのため、結晶性樹脂が結着樹脂中に微分散し、低温定着性に優れたトナーがより容易に得られうる。このとき、Rc−35℃以下の範囲内の一定の熱処理前待機温度で1時間以上、特には6時間以上保持するように設定することが好ましい。
[第3の工程の分散液の温度変化の説明]
以下、図3a〜図3eを参照して、本発明における第3の工程の分散液の温度変化の例を説明する。
第1の例では、図3aに示されるように、第1の工程でTmよりも高温に加熱された分散液を冷却し(第2の工程)、Rc−25℃を下回る温度で、1時間以上の時間t1維持する(第3の工程)。このとき、Rc−25℃未満の温度範囲内で、一定の温度に保持する段階を含むスキームを有する。
第2の例では、図3bに示されるように、第3の工程中、Rc−25℃未満の温度域で1時間以上の時間t1維持しつつ、分散液の温度を一定の速度で下降させるスキームを有する。第3の例では、図3cに示されるように、第3の工程中、分散液の温度を一定の速度で上昇させるスキームを有する。第4の例では、図3dに示されるように、第3の工程中、分散液の温度を繰り返し上昇および下降させるスキームを有する。第5の例では、図3eのように、さらに、Rc−35℃以下の温度範囲で時間t1’維持する段階を含む。
このように、本実施形態に係るトナーの製造方法では、第3の工程において、第2の工程で得られた分散液をRc−25℃未満の温度で1時間以上維持するものであり、図3a〜図3eに示すいずれの形態も本発明の範囲に含まれる。
《第4の工程》
第4の工程は、第3の工程で所定の温度で所定の時間維持した後の分散液を、Rc−25℃以上の温度に維持する工程である(以下、単に「熱処理」ともいう)。
なお、第4の工程において、「Rc−25℃以上の温度に維持する」とは、Rc−25℃以上の温度を、連続的に維持することと定義する。
第4の工程は、第3の工程の後、分散液の温度がRc−25℃以上である温度域で、時間t2が経過する時点までの熱処理工程である。第3の工程の後、連続して第4の工程を行うことが好ましい。本明細書中、熱処理時間t2は、分散液の温度がRc−25℃以上の範囲に維持されている時間を指す。
第4の工程の間、上記分散液の温度がRc−25℃以上の範囲内に維持されていればよく、第4の工程の開始から終了までの上記分散液の温度変化の態様は限定されない。例えば、上記分散液の温度は、第4の工程の間、Rc−25℃以上の範囲内であれば、一定の温度に保持されていても、一定の速度で上昇又は降下し続けてもよく、あるいは、上昇と降下を繰り返す等、絶えず変化していてもよい。生産性の観点から、温度を上下に振るスキームではなく、一定の温度に保持するスキームや、昇温または降温し続けるスキームを含むことが好ましい。
また、上記熱処理工程における分散液の温度は、結晶成長進行と、結晶ドメインの過度な増大やこれに伴う結晶性物質のブリードアウトの抑制とバランスをとる観点から、Rc−25℃以上、Rc−5℃以下の範囲内の温度に維持されることが好ましい。分散液の温度がRc−5℃以下であれば、結晶ドメインの過度な増大が発生しにくくなるため、低温定着性が向上しうる。分散液の温度がRc−25℃より低いと、結晶成長が不十分になり、定着性能の変動が生じやすくなる。より好ましくは、分散液の温度は、第4の工程において最も高い温度が、Rc−20℃以上、Rc−10℃以下の範囲である。
また熱処理時間t2は、結晶成長を十分に進行させる観点から、30分以上であることが好ましく、より好ましくは3時間以上である。熱処理時間t2の上限は特に限定されないが、製造効率を損ねない範囲で長いほうが好ましいが、例えば、6時間以下である。また、水系媒体中で熱処理工程が行われることにより、媒体を用いないで乾式で熱処理した場合と比較して、樹脂粒子中の水分子の吸着状態が変化することを抑制することができ、その結果、結着樹脂のガラス転移温度の上昇を抑制することができるため、得られるトナーの低温定着性が向上しうる。また、樹脂粒子中の水分量の変動による結晶ドメインの過度の増大に起因する低温定着性の低下を抑制できるため、水系媒体を用いることが好ましい。
好ましい実施形態においては、上記第4の工程において、第3の工程で得られた分散液を、Rc−25℃以上、Rc−5℃以下の温度範囲で30分以上維持する。このようにすることで、結晶成長が十分に進行し、かつ、結晶ドメインの過度な増大やこれに伴う結晶性樹脂のブリードアウトが生じにくいため、低温定着性に優れ、定着性能の変動の少ないトナーがより容易に得られうる。このとき、Rc−25℃以上、Rc−5℃以下の範囲内の一定の熱処理温度で30分以上維持するように設定することが好ましい。
さらに好ましい実施形態においては、上記第4の工程において、第3の工程で得られた分散液を、Rc−20℃以上、Rc−10℃以下の温度範囲で3時間以上維持する。このようにすることで、低温定着性を向上させ、定着性能の変動を抑制する効果がより顕著に得られうる。このとき、Rc−20℃以上、Rc−10℃以下の範囲内の一定の熱処理温度で3時間以上維持するように設定することがさらに好ましい。
[第4の工程の分散液の温度変化の説明]
以下、図4a〜図4fを参照して、本発明における第4の工程の分散液の温度変化の例を説明する。
第1の例では、図4aに示されるように、第1の工程でTmよりも高温に加熱された分散液を冷却し(第2の工程)、Rc−25℃を下回る温度で所定時間維持し(第3の工程)、次いで、分散液の温度をRc−25℃以上の温度で時間t2維持する(第4の工程)。このとき、Rc−25℃以上の範囲内で、一定の温度に保持する段階を含むスキームを有する。
第2の例では、図4bに示されるように、第4の工程中、分散液の温度を一定の速度で下降させるスキームを有する。第3の例では、図4cに示されるように、第4の工程中、分散液の温度を一定の速度で上昇させるスキームを有する。第4の例では、図4dに示されるように、第4の工程中、分散液の温度を繰り返し上昇および下降させるスキームを有する。第5の例では、図4eに示すように、Rc−25℃以上、Rc−5℃以下の温度範囲で時間t21’および時間t22’で維持する段階を含む。第6の例では、図4fに示すように、Rc−20℃以上、Rc−10℃以下の温度範囲で時間t2”で維持する段階を含む。
このように、本実施形態に係るトナーの製造方法では、第4の工程において、第3の工程で得られた分散液をRc−25℃以上の温度で維持するものであり、図4a〜図4fに示すいずれの形態も本発明の範囲に含まれる。
上述した第1の工程から第4の工程までを含む本発明の製造方法を行うことにより、結晶性樹脂を結着樹脂中に微分散させた状態で結晶成長を効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナーの低温定着性を向上させるとともに、高温高湿条件下で保管した場合であっても定着性能の変動の少ないトナーが得られうる。
(c)冷却工程
冷却工程では、上述した第4の工程により得られたトナー母体粒子の分散液を冷却する。
冷却温度は、25〜35℃の範囲内とすることができ、降温速度は1〜20℃/分の範囲内とすることができる。冷却方法は特に限定されず、反応容器の外部から冷媒を導入して冷却することもできるし、冷水を直接反応系に投入して冷却することもできる。
(d)ろ過、洗浄、乾燥工程
本工程では、上記(c)冷却工程で冷却した後のトナー母体粒子の分散液をろ過してトナー粒子を固液分離し、得られたウェット状のトナーケーキ(ケーキ形状のトナー母体粒子の集合体をいう。)を洗浄して、界面活性剤、凝集剤等を除去する。
固液分離の方法としては、遠心分離法、ヌッチェ等を使用する減圧ろ過法、フィルタープレスを使用するろ過法等を使用することができる。
洗浄時には、例えばろ液の電気伝導度が10μS/cm以下になるまで水で洗浄することができる。
ろ過洗浄後は、得られたトナーケーキを乾燥する。乾燥には、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機等を使用することができる。乾燥後のトナー母体粒子の水分は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下がより好ましい。
乾燥後のトナー粒子同士が弱い粒子間引力で凝集している場合には、その凝集体を解砕処理してもよい。解砕処理装置としては、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル、フードプロセッサー等を使用することができる。
(e)外添剤の添加工程
トナー母体粒子に外添剤を添加する場合、乾燥後のトナー母体粒子に外添剤を添加して混合する。これにより、トナーを得ることができる。
<外添剤>
トナーとしての帯電性能や流動性、あるいはクリーニング性を向上させる観点から、トナー母体粒子の表面に公知の無機微粒子や有機微粒子などの粒子、滑材を外添剤として添加することできる。
無機微粒子としては、シリカ、チタニア(酸化チタン)、アルミナ、チタン酸ストロンチウムなどによる無機微粒子を好ましいものとして挙げられる。
必要に応じてこれらの無機微粒子は疎水化処理されていてもよい。
有機微粒子としては、数平均一次粒径が10〜2000nm程度の球形の有機微粒子を使用することができる。具体的には、スチレンやメチルメタクリレートなどの単独重合体やこれらの共重合体による有機微粒子を使用することができる。
滑材は、クリーニング性や転写性をさらに向上させる目的で使用されるものであって、滑材としては、例えば、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウムなどの塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩、リノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩などの高級脂肪酸の金属塩が挙げられる。これらの外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
外添剤の添加量は、トナー母体粒子100質量%に対して0.1〜10.0質量%であることが好ましい。
外添剤の添加方法としては、タービュラーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、V型混合機などの公知の種々の混合装置を使用して添加する方法が挙げられる。
以上で説明した本発明の製造方法により、良好な耐熱保管性を有し、かつ、低温で定着させた際にも、良好な画像強度を得ることができるトナー(静電荷像現像用トナー)を製造することができる。
本発明の静電荷像現像用トナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイト等の金属、それらの金属とアルミニウム、鉛等の金属との合金等の従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。
また、キャリアとしては、磁性粒子の表面をシリコーン樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる分散型キャリア等用いてもよい。
キャリアの平均粒径は、体積基準のメジアン径で20〜100μmの範囲内にあることが好ましく、25〜80μmの範囲内にあることがより好ましい。
キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置HELOS(SYMPATEC社製)により測定することができる。
以下、本発明を実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。また、特記しない限り、各操作は室温(25℃)で行われる。
<各種特性の測定方法>
〔結晶性樹脂の融点の測定〕
結晶性樹脂の融点(Tm)は、示差走査熱量測定(DSC)により測定した。具体的には、結晶性樹脂の試料3.0mgをアルミニウム製パンKITNo.B0143013に封入し、熱分析装置 Diamond DSC(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットして、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させた。1回目と2回目の加熱時には、10℃/分の昇温速度で室温(25℃)から150℃まで昇温して150℃を5分間保持し、冷却時には、10℃/分の降温速度で150℃から0℃まで降温して0℃の温度を5分間保持した。2回目の加熱時に得られる吸熱曲線における吸熱ピークのピークトップの温度を結晶性樹脂の融点(Tm(℃))として測定した。
〔結晶性樹脂および非晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定〕
結着樹脂である結晶性樹脂および非晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、以下のようにゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した分子量分布から求めた。
結着樹脂の試料を濃度1mg/mLとなるようにテトラヒドロフラン(THF)中に添加し、室温において超音波分散機を用いて5分間分散処理した後、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して、試料液を調製した。GPC装置HLC−8120GPC(東ソー株式会社製)及びカラムTSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ−m3連(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフランを流速0.2mL/分で流した。キャリア溶媒とともに、調製した試料液10μLをGPC装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて試料を検出し、単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて、試料の分子量分布を算出した。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いた。
〔非晶性樹脂のガラス転移点(Tg)の測定〕
非晶性樹脂のガラス転移点(Tg)は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418−82に規定された方法(DSC法)にしたがって測定した。測定には、DSC−7示差走査カロリメーター(パーキンエルマー社製)、TAC7/DX熱分析装置コントローラー(パーキンエルマー社製)等を用いて行った。
〔各種粒子の体積基準のメジアン径の測定〕
トナー母体粒子の体積基準のメジアン径は、マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフトSoftware V3.51を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定した。トナー母体粒子以外にも、結晶性樹脂粒子、非晶性樹脂粒子、着色剤粒子、トナー母体粒子のコア部、コアシェル構造のトナー母体粒子、外添剤を有するトナー粒子、並びにその他の添加剤粒子等のそれぞれの体積基準のメジアン径についても、トナー母体粒子の体積基準のメジアン径と同様にして測定した。
具体的には、試料(例えば、トナー母体粒子)0.02gを、20mLの界面活性剤溶液(トナー母体粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加してなじませた後、1分間の超音波分散処理を行い、トナー母体粒子の分散液を調製した。このトナー母体粒子の分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入した。この濃度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。
そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmにし、測定範囲である2〜60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒径を体積基準のメジアン径として求めた。
〔キャリアの体積基準のメジアン径の測定〕
キャリアの体積基準のメジアン径は、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置HELOS(SYMPATEC社製)により測定した。
〔トナー母体粒子の平均円形度の測定〕
トナー母体粒子(外添剤を含まないトナー粒子)の平均円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」(Sysmex社製)を用い、所定数(実施例ではHPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数を4000個とした)のトナー母体粒子における、粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長L1と、粒子投影像の周囲長L2とから、下記式から算出した円形度Cの総和を、当該所定数で除することにより求めた。なお、フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」(Sysmex社製)と同様の装置、例えば、FPIA−2100(Sysmex社製)等を用いて測定を行うこともできる。またHPF検出数は、3000〜10000個の適正濃度範囲であれば、十分な再現性が得られる。
(式) C=L1/L2
〔結晶性樹脂の再結晶化温度(Rc)の測定〕
再結晶化温度(Rc)は、示差走査熱量測定(DSC)により、上記の結晶性樹脂の融点の測定と同装置、同サンプル封入方法にてサンプルセットを行った後に、結晶性樹脂を10℃/分の昇温速度で室温から100℃まで昇温し、1分間保持し、0.1℃/分の降温速度で0℃まで降温し、降温時に得られた測定曲線における発熱ピークのピークトップの温度として求めた。
[結晶性ポリエステル樹脂の合成及びその分散液の調製]
(結晶性ポリエステル樹脂1の合成)
両反応性単量体を含む、下記のスチレンアクリル重合セグメントの原料単量体およびラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン 36.0質量部
n−ブチルアクリレート 13.0質量部
アクリル酸 2.0質量部
重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 7.0質量部。
また、結晶性ポリエステル重合セグメントの原料単量体を、窒素ガス導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
テトラデカン二酸 440質量部
1,4−ブタンジオール 153質量部。
次いで、撹拌下でスチレンアクリル重合セグメントの原料単量体を90分間かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応のスチレンアクリル重合セグメントの原料単量体を除去した。なお、このとき除去された原料単量体の量は、上記の仕込みの原料単量体に対してごく微量であった。その後、触媒としてチタンテトラブトキサイド(Ti(O−n−Bu)4)を0.8質量部投入し、235℃まで昇温し、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次いで、200℃まで冷却した後、減圧下(20kPa)にて1時間反応させ、結晶性ポリエステル樹脂1(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂)を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂1は、重量平均分子量(Mw)が24500、融点(Tm)が75.5℃、再結晶化温度(Rc)が70.6℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液1の調製)
上記で得られた結晶性ポリエステル樹脂1 100質量部を、400質量部の酢酸エチルに溶解させ、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のドデシル硫酸ナトリウム溶液 638質量部と混合させた。得られた混合液を撹拌しながら、超音波ホモジナイザーUS−150T(株式会社日本精機製作所製)によりV−LEVEL 300μAで30分間の超音波分散処理を行った。その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV−700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去し、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液1を調製した。当該分散液中の結晶性ポリエステル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が160nmであった。
[コア用非晶性ビニル樹脂粒子分散液の調製]
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部およびイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃として、下記単量体の混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン 480.0質量部
n−ブチルアクリレート 250.0質量部
メタクリル酸 68.0質量部。
上記混合液の滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより単量体の重合を行い、コア用非晶性ビニル樹脂粒子分散液(1−a)を調製した。
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱した。加熱後、上記第1段重合により調製した非晶性ビニル樹脂粒子分散液(1−a)を固形分換算で80質量部と、下記単量体、連鎖移動剤及び離型剤を90℃にて溶解させた混合液とを添加した。
スチレン(St) 285.0質量部
n−ブチルアクリレート(BA) 95.0質量部
メタクリル酸(MAA) 20.0質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート(連鎖移動剤) 1.5質量部
ベヘン酸ベヘニル(離型剤、融点73℃) 190.0質量部。
循環経路を有する機械式分散機クレアミックス(登録商標)(エム・テクニック社製)により、1時間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた重合開始剤の溶液を添加し、この系を84℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行って、非晶性ビニル樹脂粒子分散液(1−b)を調製した。
(第3段重合)
上記第2段重合により得られた非晶性ビニル樹脂粒子分散液(1−b)にさらにイオン交換水400質量部を添加し、よく混合した後、過硫酸カリウム11質量部をイオン交換水400質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、82℃の温度条件下で、下記単量体及び連鎖移動剤の混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン(St) 454.8質量部
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA) 143.2質量部
メタクリル酸(MAA) 52.0質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 8.0質量部。
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、コア用非晶性ビニル樹脂分散液を調製した。当該分散液中の非晶性ビニル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が145nmであった。また、得られた非晶性ビニル樹脂の重量平均分子量は35,000であり、ガラス転移点(Tg)は37℃であった。
[シェル層用ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の調製]
下記スチレン−アクリル樹脂の単量体、非晶性ポリエステル樹脂とスチレン−アクリル樹脂のいずれとも反応する置換基を有する単量体及び重合開始剤の混合液を滴下ロートに入れた。
スチレン 80.0質量部
n−ブチルアクリレート 20.0質量部
アクリル酸 10.0質量部
ジ−t−ブチルパーオキサイド(重合開始剤) 16.0質量部。
また、下記非晶性ポリエステル樹脂の単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 285.7質量部
テレフタル酸 66.9質量部
フマル酸 47.4質量部。
撹拌下で、滴下ロートに入れた混合液を四つ口フラスコへ90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の単量体を除去した。その後、エステル化触媒としてチタンテトラブトキサイド(Ti(OBu)4)を0.4質量部投入し、235℃まで昇温して、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間、反応を行った。次いで200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にて反応を行った後、脱溶剤を行い、シェル層用ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を得た。得られたシェル層用ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は25000であり、ガラス転移点(Tg)は60℃であった。重量平均分子量(Mw)は上述した結晶性ポリエステル樹脂と同様にして測定し、ガラス転移点(Tg)は非晶性ビニル樹脂と同様にして測定した。
[シェル層用ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製]
上記シェル層ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂100質量部を、400質量部の酢酸エチルに溶解し、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のドデシル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合した。混合液を撹拌しながら、超音波ホモジナイザーUS−150T(日本精機製作所製)によりV−LEVEL 300μAで30分間の超音波分散処理を行った。その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV−700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量が13.5質量%のシェル層用ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を調製した。分散液中のハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が160nmであった。
(着色剤粒子分散液の調製)
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)420質量部を徐々に添加した。撹拌装置クレアミックス(登録商標)(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子分散液を調製した。当該分散液中の着色剤粒子は、体積基準のメジアン径が110nmであった。
[実施例1]
(トナー1の製造)
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、上記で調製したコア用非晶性ビニル樹脂粒子分散液285質量部(固形分換算)、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液1 40質量部(固形分換算)、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩を3.25質量部(固形分換算)及びイオン交換水2000質量部を投入した。室温(25℃)下、5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。さらに、着色剤粒子分散液30質量部(固形分換算)を投入し、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解させた溶液を、撹拌しながら、30℃において10分間かけて添加した。3分間放置した後、60分間かけて85℃まで昇温し、液温が85℃に到達した後、粒径の成長速度が0.01μm/分となるように撹拌速度を調整し、コールターマルチサイザー3(コールター・ベックマン社製)により測定した体積基準のメジアン径が6.0μmになるまで成長させた。次いで、シェル用ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液37質量部(固形分換算)を30分間かけて投入し、分散液(反応液)の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解させた水溶液を添加して、粒径の成長を停止させた。次いで、昇温して85℃の状態で撹拌し、平均円形度が0.970になるまで粒子の融着を進行させた。
次いで、以下の冷却工程、熱処理前の待機工程、および熱処理工程を行った。得られた樹脂粒子の分散液について、分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるように調整しながら、25℃まで冷却した後、25℃において6時間保持した。次いで、この分散液を、60℃まで30分かけて再度昇温し、60℃で3時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
次いで、固液分離を行い、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した。洗浄後、40℃で24時間乾燥させることにより、トナー粒子を得た。得られたトナー粒子100質量部に、疎水性シリカ粒子(個数平均一次粒径:12nm、疎水化度:68)0.6質量部、疎水性酸化チタン粒子(個数平均一次粒径:20nm、疎水化度:63)1.0質量部及びゾルゲルシリカ(個数数平均一次粒径=110nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機社製)により回転翼周速35mm/秒、32℃で20分間混合した。混合後、45μmの目開きのふるいを用いて粗大粒子を除去し、トナー1を得た。
[実施例2]
(トナー2の製造)
実施例1のトナー1の製造において、樹脂粒子の成長・融着の温度(コア粒子の粒径を6.0μmまで成長させる工程における加熱温度、およびシェル層を被覆した後、円形度を調整するための工程における加熱温度の両方)を85℃から76℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー2を製造した。
[実施例3]
(トナー3の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー3を製造した。
分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるよう調整しながら、43℃まで冷却した後、43℃において6時間保持した。次いで、60℃まで30分かけて再度昇温し、60℃にて3時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[実施例4]
(トナー4の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー4を製造した。
分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるよう調整しながら、40℃まで冷却した後、さらに6時間かけて25℃まで冷却した。次いで、60℃まで30分かけて再度昇温し、60℃にて3時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[実施例5]
(トナー5の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー5を製造した。
反応液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるよう調整しながら、25℃まで冷却した後、25℃において1時間保持した。次いで、60℃まで30分かけて再度昇温し、60℃にて3時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[実施例6]
(トナー6の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー6を製造した。
分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるよう調整しながら、25℃まで冷却した後、25℃において6時間保持した。次いで、46℃まで30分かけて再度昇温し、46℃にて3時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[実施例7]
(トナー7の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー7を製造した。
分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるよう調整しながら、25℃まで冷却した後、25℃において6時間保持した。次いで、60℃まで30分かけて再度昇温し、46℃まで3時間かけて冷却したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[実施例8]
(トナー8の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー8を製造した。
分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるよう調整しながら、25℃まで冷却した後、25℃において6時間保持した。次いで、65℃まで30分かけて再度昇温し、65℃にて3時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[実施例9]
(トナー9の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー9を製造した。
分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるよう調整しながら、25℃まで冷却した後、25℃において6時間保持した。次いで、60℃まで30分かけて再度昇温し、60℃にて0.5時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[実施例10]
(トナー10の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー10を製造した。
分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度1.5℃/分になるよう調整しながら、25℃まで冷却した後、25℃において6時間保持した。次いで、60℃まで30分かけて再度昇温し、60℃にて3時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[実施例11]
(トナー11の製造)
懸濁重合
下記原料を混合し、得られた混合液を15mmのセラミックビーズを入れ、アトライター(三井三池化工機製)を用いて2時間分散して、重合性単量体組成物を得た。
スチレン(St) 50.0質量部
n−ブチルアクリレート(BA) 16.7質量部
メタクリル酸(MAA) 3.5質量部
ベヘン酸ベヘニル(離型剤、融点73℃) 7.0質量部
結晶性ポリステル樹脂1 8.0質量部
銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー) 7.0質量部
次いで、高速撹拌装置TK−ホモミキサー(特殊機化工業製)を備えた容器に、イオン交換水800質量部とリン酸三カルシウム15.5質量部とを添加し、回転数を15000回転/分に調整し、70℃に加温して水系分散媒体を得た。上記で調製した重合性単量体組成物92.2質量部(固形分換算)に重合開始剤であるt−ブチルパーオキシピバレート4.0質量部を添加し、これを上記の水系分散媒体に投入した。上記高速撹拌装置にて15000回転/分を維持しつつ、3分間分散させて造粒を行った。その後、高速撹拌装置からプロペラ撹拌羽根に撹拌機を代え、150回転/分で撹拌しながら70℃を保持して8.0時間重合を行い、体積基準のメジアン径が6.14μmであり、平均円形度が0.969であるトナー母体粒子の分散液を得た。当該分散液を80℃に昇温して4時間加熱した後、トナー1と同様のスキームで、冷却工程、熱処理前待機工程、および熱処理工程を行い、トナー11を得た。
[比較例1]
(トナー12の製造)
実施例1のトナー1の製造において、樹脂粒子の成長・融着の温度(コア粒子の粒径を6.0μmまで成長させる工程における加熱温度、およびシェル層を被覆した後、円形度を調整するための工程における加熱温度のいずれも)を、85℃から70℃に変更し、降温速度2.5℃/分になるように調整したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー12を製造した。
[比較例2]
(トナー13の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー13を製造した。
分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるよう調整しながら、60℃まで冷却した後、60℃において9.5時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[比較例3]
(トナー14の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー14を製造した。
分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるよう調整しながら、25℃まで冷却した。次いで保持を行わず、60℃まで30分かけて再度昇温し、60℃にて3時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[比較例4]
(トナー15の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー15を製造した。
分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるよう調整しながら、25℃まで冷却した後、25℃において0.17時間保持した。次いで、60℃まで30分かけて再度昇温し、60℃にて3時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[比較例5]
(トナー16の製造)
実施例1のトナー1の製造において、冷却工程、熱処理前の待機工程、熱処理工程を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー16を製造した。
分散液の温度を0.4℃/分の降温速度で、71.5℃まで冷却し、そこから、降温速度2.5℃/分になるよう調整しながら、25℃まで冷却した後、25℃において6時間保持した。次いで、40℃まで30分かけて再度昇温し、40℃にて3時間保持したのちに、1℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
[現像剤1〜16の作製]
フェライトコア100質量部とシクロヘキシルメタクリレート/メチルメタクリレート(共重合比5/5)の共重合体樹脂粒子を5質量部とを、撹拌羽根付き高速混合機に投入し、120℃で30分間撹拌混合して機械的衝撃力の作用でフェライトコアの表面に樹脂コート層を形成し、体積基準のメジアン径50μmのキャリアを得た。
上記で作製したトナー1〜16に対し、上記で作製したキャリアが、二成分現像剤におけるトナー含有量(トナー濃度)が6質量%となるよう加えた。その後、ミクロ型V型混合機(筒井理化学器株式会社)に投入し、回転速度45rpmで30分間混合し、現像剤1〜16を作製した。
[トナーの評価]
(低温定着性(アンダーオフセット)の評価〉
アンダーオフセットとは、定着装置を通過する際に与えられた熱によるトナー層の溶融が不十分であるために記録紙等の転写材から剥離してしまう画像欠陥をいう。低温定着性の評価は、画像形成装置(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製bizhub PRESS(商標登録)C1070)に上記で作製した各現像剤を順次装填し、常温・常湿(20℃・50%RH)環境下で、画像形成装置でNPI128g/m2(日本製紙製)に未定着ベタ画像(付着量11.3g/m2)を形成した。次に、定着装置の加圧ローラーの表面温度を100℃に設定し、加熱ローラーの表面温度を1℃刻みで130〜170℃の範囲で変更して、定着をした。このとき、アンダーオフセットが発生しない定着上ベルトの定着下限温度を計測した。また、定着下限温度の計測は、50℃、85%RHの高温高湿下に24時間曝露する前後のトナーの双方に対して行い、下記評価基準によって、低温定着性の評価を行い、定着下限温度155℃以下を合格とした。結果を表1に示す。
高温高湿下に曝露前の低温定着性の判定基準は下記の通りである:
◎:定着下限温度が148℃以下、
○:定着下限温度が149〜151℃、
△:定着下限温度が152〜155℃、
×:定着下限温度が156℃以上。
低温定着性の変動としては、高温高湿下に曝露する前後の定着下限温度の差が6℃以下を合格とした。低温定着性の変動の判定基準は下記の通りである:
◎:高温高湿下に曝露する前後の定着下限温度の差が2℃以下、
○:高温高湿下に曝露する前後の定着下限温度の差が3〜4℃、
△:高温高湿下に曝露する前後の定着下限温度の差が5〜6℃、
×:高温高湿下に曝露する前後の定着下限温度の差が7℃以上。
表1から、結晶性樹脂を含む結着樹脂を有する樹脂粒子と媒体とを含む分散液を、結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱する第1の工程と、前記分散液を冷却する第2の工程と、冷却された分散液を、Rc−25℃未満の温度において1時間以上維持する第3の工程と、得られた分散液を昇温し、Rc−25℃以上の温度で維持する第4の工程と、を含む工程を経て製造された実施例1〜11のトナーは、いずれも十分な低温定着性を有し、かつ、高温高湿下に保存した後も低温定着性の変化が小さいことがわかる。
低温定着性が向上し、および高温高湿条件に保存した後の低温定着性の変動が低減された理由は必ずしも定かではないが、一度融点以上の温度に加熱されて融解された結晶性樹脂が、冷却されて結晶核生成が支配的に起こる温度領域で所定の時間、維持されることによって、細やかな結晶核の生成を十分に進行させ、次の熱処理工程で多数の結晶核を起点に結晶化を行うことができるためと考えられる。これにより、結晶性樹脂が微分散し、優れた低温定着性が得られるものと考えられる。さらに所定の温度で熱処理することで、結晶成長が効果的に進行し、定着性能の変動が少ないトナーが得られるものと考えられる。
また、実施例1と実施例5とを比較すると、第3の工程での待機時間が6時間以上である実施例1は、結晶核の生成が十分に進行するため、より優れた低温定着性を示す。
実施例1と実施例6〜9とを比較すると、第4の工程において、Rc−20℃以上、Rc−10℃以下の温度で3時間以上熱処理した実施例1のトナーは、低温定着性と定着性能の安定性の両方に特に優れたバランスのよい性能を示す。
さらに、実施例1と実施例10との比較から、第2の工程において、Rcを通過するときの降温速度が2℃/分以上である実施例1では、過度の結晶ドメインの成長によって結晶性樹脂がトナー母体粒子の表面にブリードアウトすることを抑制できるため、より低温定着性に優れたトナーが得られることがわかった。
また、実施例1と実施例11とを比較すると、凝集・融着法でトナー母体粒子を作製した場合、懸濁重合法によって作製した場合と比較して、高温高湿条件下に保存した後の低温定着性の変動が小さいことがわかる。これは、凝集・融着法であれば、凝集時に使用するイオン(凝集剤としての金属塩に由来する金属イオン)により、トナー母体粒子中の結晶性樹脂の動きが阻害され、高温高湿条件下に保管した際の性能変動がより起こりにくくなるためと考えられる。
これに対して、比較例1のトナーでは、低温定着性が不十分である。これは、結晶性樹脂の融点以上の温度に昇温していないため、結晶性樹脂が結着樹脂中で十分に相溶せず、その結果、結晶性樹脂が微分散した状態が得られにくいためと考えられる。分散液をRc−25℃を下回る温度に冷却していない比較例2、Rc−25℃を下回る温度での待機時間を設けていない比較例3、待機時間が1時間未満である比較例4では、微細な結晶核の生成が十分に進行していないため、得られたトナーの低温定着性が不十分になっているものと考えられる。また、Rc−25℃以上の温度での熱処理を行っていない比較例5のトナーでは、結晶成長が十分に進行しないため、高温高湿環境下での低温定着性の変動が大きくなってしまうものと考えられる。