JP6789140B2 - 温度補償型てんぷ、ムーブメント及び時計 - Google Patents
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Description
そのため、温度上昇に伴い、慣性モーメントIが増加したり、ばね定数Kが低下したりすることで、振動周期Tが長くなる。その結果、てんぷの振動周期Tが低温で短く、高温で長くなることで、時計の温度特性が低温で進み、高温で遅れることになる。
この構成によれば、温度上昇時において、各板材の熱膨張率の差により、バイメタル片が例えば径方向の内側に向けて変形する。これにより、てん輪の平均径が縮径することで、慣性モーメントIを低下させることができる。その結果、慣性モーメントIの温度特性を補正でき、振動周期Tの温度依存性を抑えることができる。
しかしながら、従来のバイメタル片を備えたてんぷでは、慣性モーメントIの温度係数(温度特性の傾き)の調整が正及び負の何れか一方のみしかできなかった。
特に、本態様では、調整部が第2軸線回りで位置調整可能に構成されているため、ひげぜんまいにおけるヤング率の温度係数に応じてバイメタル片の向きを変更することができる。これにより、バイメタル片の温度係数補正量を正及び負の両方に変更でき、てんぷの慣性モーメントの温度係数を正及び負の両方に補正できる。すなわち、ヤング率の温度係数のばらつきを、てんぷの慣性モーメントの温度特性によりキャンセルし易くなる。その結果、てんぷの振動周期を一定に保つことができ、温度補償特性に優れたてんぷを提供できる。
しかも、本態様では、バイメタル片の向きを変更したとしても、調整部の第2軸線方向の長さが一定に維持される。そのため、従来のようにバイメタル片の有効長さを変更する場合と異なり、所定温度(常温(例えば、23℃程度))においててんぷの重心がずれるのを抑制できる。その結果、片重りの発生を抑制し、姿勢差を低減できる。
本態様によれば、調整部がてん輪のリム部に設けられているため、第1径方向において調整部を第1軸線から遠ざけることができる。これにより、調整部の半径変形量(第1径方向において、所定温度での調整部の先端部と第1軸線との距離と、温度変化時での調整部の先端部と第1軸線との距離の差)を大きくすることが可能になり、バイメタル片による温度係数補正量を大きくすることができる。
本態様によれば、調整部の追加に伴うてんぷの大型化を抑制した上で、温度変化に伴う半径変形量を確保できる。
本態様によれば、温度変化に伴う調整部の第1径方向への変形時に、リム部と調整部との干渉を抑制でき、調整部の半径変形量を確保できる。
本態様によれば、調整部の重量を増大させることができるため、バイメタル片による温度係数補正量を大きくすることができる。
本態様によれば、貫通孔を通じて固定部の係止部に工具を係止することができる。そのため、調整部の第2軸線回りの位置調整を簡単に行うことができる。しかも、固定部を介して調整部の回転角度を変更することで、先端部(バイメタル片や錘部)を介して調整部の回転角度を変更する場合に比べ、調整部の位置調整時における調整部の塑性変形を抑制できる。そのため、調整部の塑性変形によって所定温度での歩度のばらつきが生じるのを抑制できる。
本態様によれば、温度変化に伴う半径変形量を確保することができ、バイメタル片による温度係数補正量を大きくすることができる。
本態様によれば、温度変化に伴うヤング率の変化を小さくして、振動周期の温度依存性を抑えることができる。しかも、本態様では、ヤング率の温度係数のばらつきを調整部の回転角度によって補正できるので、ひげぜんまいの製造時での製造管理が容易になる。そのため、ひげぜんまいの製造効率を向上させるとともに、低コスト化を図ることができる。
本態様によれば、調整部の重心が第2軸線上に位置しているため、調整部の第2軸線回りの位置を調整した場合に、調整部の回転角度によって調整部の重心が第2軸線からずれるのを防止できる。その結果、調整部の回転角度に応じててんぷの重心がずれるのを抑制できるので、姿勢差を確実に低減できる。
本発明の一態様に係る時計は、上記態様のムーブメントを備えていてもよい。
本態様によれば、上記本態様の温度補償型てんぷを備えているため、歩度のばらつきの少ない高品質なムーブメント及び時計を提供できる。
(第1実施形態)
[時計]
図1は、時計1の外観図である。なお、以下に示す各図では、図面を見やすくするため、時計用部品のうち一部の図示を省略しているとともに、各時計用部品を簡略化して図示している場合がある。
図1に示すように、本実施形態の時計1は、ムーブメント2や文字板3、各種指針4〜6等が時計ケース7内に組み込まれて構成されている。
図2は、ムーブメント2を表側から見た平面図である。
図2に示すように、ムーブメント2は、ムーブメント2の基板を構成する地板21に複数の歯車体等が回転可能に支持されて構成されている。なお、以下の説明では、地板21に対して時計ケース7のカバーガラス12側(文字板3側)をムーブメント2の「裏側」と称し、ケース蓋側(文字板3側とは反対側)をムーブメント2の「表側」と称する。また、以下で説明する各歯車体は、何れもムーブメント2の表裏面方向を軸方向として設けられている。
巻真19を回転させると、つづみ車(不図示)の回転を介してきち車31が回転する。きち車31の回転により丸穴車32及び角穴車33が順に回転し、香箱車34に収容されたぜんまい(不図示)が巻き上げられる。
ぜんまいの復元力により香箱車34が回転すると、香箱車34の回転により二番車41、三番車42及び四番車43が順に回転する。香箱車34、二番車41、三番車42及び四番車43は、表輪列を構成する。
調速脱進機51は、がんぎ車52、アンクル53及びてんぷ(温度補償型てんぷ)54を有している。
アンクル53は、地板21とアンクル受55との間で往復回動可能に支持されている。アンクル53は、一対のつめ石56a,56bを備えている。つめ石56a,56bは、アンクル53の往復回動に伴いがんぎ車52のがんぎ歯車52aに交互に係合する。がんぎ車52は、一対のつめ石56a,56bのうち、一方のつめ石ががんぎ歯車52aに係合しているとき、一時的に回転が停止する。また、がんぎ車52は、一対のつめ石56a,56bががんぎ歯車53aから離脱しているとき、回転する。これらの動作が連続的に繰り返されることにより、がんぎ車52が間欠的に回転する。そして、がんぎ車52の間欠的な回転運動により、上述した輪列(表輪列)が間欠的に動作することで、表輪列の回転が制御される。
図3は、てんぷ54を表側から見た平面図である。図4は、てんぷ54の側面図である。
図3、図4に示すように、てんぷ54は、がんぎ車52を調速する(がんぎ車52を一定速度で脱進させる。)。てんぷ54は、てん真61、てん輪62及びひげぜんまい63を主に有している。
図3、図5に示すように、てん輪62は、てん真61における振り座67に対して第1軸線方向の表側に固定されている。てん輪62は、ハブ部71、あみだ部72及びリム部73を主に備えている。本実施形態において、ハブ部71、あみだ部72及びリム部73は、金属材料(例えば、真鍮等)により一体形成されている。
あみだ部72は、ハブ部71から第1径方向の外側に突設されている。本実施形態において、あみだ部72は、ハブ部71における第1軸線O1を間に挟んで第1径方向で対向する位置から突設されている。但し、あみだ部72の突設位置や本数等は適宜変更が可能である。
リム部73は、第1軸線O1と同軸上に配置された環状に形成されている。リム部73は、ハブ部71を第1径方向の外側から囲繞している。リム部73の内周面には、あみだ部72における第1径方向の外側端部が接続されている。
なお、ここでいう回転対象とは、図形を特徴づけるための表現の一例であり、公知の概念である、具体的には、例えば、nを2以上の整数とし、ある中心(2次元図形の場合)または軸(3次元図形の場合)の周りを(360/n)°回転させると自らと重なる性質を、n回対称、またはn相対称、(360/n)度対称などという。例えば、n=2の場合、180°回転させると自らと重なる2回対称となる。各調整部100は、リム部73の接線に平行な第2軸線O2に沿って延びる棒状に形成されている。各調整部100は、リム部73に連設された一対の支持部110に各別に支持されている。各調整部100同士及び支持部110同士は、互いに同等の構成であるため、以下の説明では、一方の調整部100及び支持部110を例にして説明する。また、以下の説明では、第2軸線O2に沿う方向を第2軸線方向といい、第2軸線O2に直交する方向を第2径方向といい、第2軸線O2回りに周回する方向を第2周方向という場合がある。
支持部110は、リム部73の内周面から第1径方向の内側に膨出している。支持部110には、第2軸線方向に沿って支持部110を貫通する取付孔(貫通孔)115が形成されている。取付孔115は、第2軸線方向から見た正面視で円形状(真円形状)に形成されている。なお、取付孔115の形状は、円形状に限らず、矩形状や三角形状等であっても構わない。
図4に示すように、リム部73において、第2軸線方向から見て取付孔115と重なり合う部分には、リム部73を第2軸線方向に貫通する作業孔(貫通孔)117が形成されている。作業孔117は、図示しない工具(例えば、マイナスドライバ等)を挿入可能に構成されている。
次に、上述したてんぷ54において、温度係数補正量の調整方法について説明する。図7は、調整部100の動作を説明するためのてんぷ54の部分平面図である。図7の状態において、バイメタル片121は、低膨張部材130が第1径方向の内側に位置した状態で、低膨張部材130及び高膨張部材131が第1径方向に並んでいる。
図7に示すように、本実施形態のてんぷ54では、温度変化が生じると、低膨張部材130及び高膨張部材131の熱膨張率の差によってバイメタル片121が屈曲変形する。具体的に、所定温度T0(常温(例えば、23℃程度))に対して温度上昇した場合には、高膨張部材131が低膨張部材130よりも膨張する。これにより、調整部100が、低膨張部材130及び高膨張部材131の積層方向の一方側(図7における第1径方向の内側)に変形する。所定温度T0に対して温度低下した場合には、高膨張部材131が低膨張部材130よりも収縮する。これにより、調整部100が、積層方向の他方側(図7における第1径方向の外側)に変形する。
図8に示す状態では、低膨張部材130及び高膨張部材131が第1軸線方向に並んだ状態で、低膨張部材130が第1軸線方向の表側に位置している。この状態を、調整部100の基準位置(0(deg))として、第2軸線O2回りの回転角度θが調整される。例えば、図9では、基準位置から第2軸線O2回りの時計回り方向(+方向)に調整部100を45(deg)回転させている。図10では、基準位置から第2軸線O2回りの時計回り方向(+方向)に調整部100を90(deg)回転させている。
図11では、基準位置から第2軸線O2回りの反時計回り方向(−方向)に調整部100を−45(deg)回転させている。図12では、基準位置から第2軸線O2回りの時計回り方向(−方向)に調整部100を−90(deg)回転させている。
図14に示すように、上述した図13での結果から、調整部100を基準位置から+方向に回転させると、調整部100の半径変化量ΔRが+方向(第1径方向の外側)に大きくなる。一方、調整部100を基準位置から−方向に回転させると、調整部100の半径変化量ΔRが−方向(第1径方向の内側)に大きくなる。
図15のG1に示すように、ひげぜんまい63のヤング率とてんぷ54の慣性モーメントとの関係により、歩度が負の温度特性を有する場合は、温度上昇に伴い歩度が遅れる傾向にある。この場合には、調整部100を基準位置から−方向に回転させる。これにより、温度上昇に伴う第1径方向の内側への半径変化量ΔRを確保して、慣性モーメントの温度係数を小さくすることができるので、温度上昇に伴うてんぷ54の慣性モーメントの増大を抑制できる。その結果、てんぷ54の振動周期の温度係数がゼロに近づく方向に調整され、温度変化に関わらず歩度が一定に維持される(図15における実線G3参照)。
一方、図15のG2に示すように、ひげぜんまい63のヤング率とてんぷ54の慣性モーメントとの関係により、歩度が正の温度特性を有している場合は、温度上昇に伴い歩度が進む傾向にある。この場合には、調整部100を基準位置から+方向に回転させる。これにより、温度上昇に伴う第1径方向の外側への半径変化量ΔRを確保して、慣性モーメントの温度係数を大きくすることができるので、温度上昇に伴うてんぷ54の慣性モーメントの増加量を大きくできる。その結果、てんぷ54の振動周期の温度係数がゼロに近づく方向に調整され、温度変化に関わらず歩度が一定に維持される(図15における実線G3参照)。
この構成によれば、温度変化に伴いバイメタル片121が変形することで、てん輪62の平均径が変化する。これにより、慣性モーメントの温度特性を補正することができる。
特に、本実施形態では、調整部100が第2軸線O2回りで位置調整可能に構成されている。そのため、ひげぜんまい63におけるヤング率の温度係数に応じてバイメタル片121の向きを変更することができる。これにより、バイメタル片121の温度係数補正量を正及び負の両方に変更でき、てんぷ54の慣性モーメントの温度係数を正及び負の両方に補正できる。すなわち、ヤング率の温度係数のばらつきを、てんぷ54の慣性モーメントの温度特性によりキャンセルし易くなる。その結果、てんぷ54の振動周期を一定に保つことができ、温度補償特性に優れたてんぷ54を提供できる。
しかも、本実施形態では、バイメタル片121の向きを変更したとしても、調整部100の第2軸線O2方向の長さが一定に維持される。そのため、従来のようにバイメタル片121の有効長さを変更する場合と異なり、所定温度T0においててんぷ54の重心がずれるのを抑制できる。その結果、片重りの発生を抑制し、姿勢差を低減できる。
この構成によれば、調整部100の追加に伴うてんぷ54の大型化を抑制した上で、温度変化に伴う半径変形量ΔRを確保できる。
この構成によれば、温度変化に伴うヤング率の変化を小さくして、振動周期の温度依存性を抑えることができる。しかも、本実施形態では、ヤング率の温度係数のばらつきを調整部100の回転角度θによって補正できるので、ひげぜんまい63の製造時での製造管理が容易になる。そのため、ひげぜんまい63の製造効率を向上させるとともに、低コスト化を図ることができる。
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図16は、第2実施形態に係るてんぷ201の斜視図である。本実施形態では、支持部202がリム部73から第1軸線方向に突出している点で、上述した実施形態と相違している。以下の説明では、上述した実施形態と同等の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
図16に示すてんぷ201において、リム部73の回転対称となる位置には、支持部202が形成されている。支持部202は、リム部73から第1軸線方向の裏側に突出するとともに、第1径方向の内側に張り出している。支持部202におけるリム部73に対して第1径方向の内側に張り出した部分には、支持部202を第2軸線方向に貫通する取付孔205が形成されている。各取付孔205には、調整部100の固定部120がそれぞれ圧入されている。
上述した実施形態では、調整部100が直線状に延在する構成について説明したが、この構成のみに限られない。調整部100は、第2軸線O2回りで位置調整可能に構成されていれば、第2軸線方向に交差して延在したり、波形に形成したりしても構わない。
上述した実施形態では、調整部100において、支持部110と錘部122との間の全体に亘ってバイメタル片121とした場合について説明したが、この構成のみに限られない。調整部100の少なくとも一部がバイメタル片121で構成されていれば構わない。
2…ムーブメント
54…てんぷ
61…てん真
62…てん輪
73…リム部
100…調整部
115…取付孔(貫通孔)
117…作業孔(貫通孔)
120…固定部
121…バイメタル片
122…錘部
135…係止部
202…支持部
205…取付孔(貫通孔)
Claims (11)
- 第1軸線に沿って延びるてん真を有し、ひげぜんまいの動力によって前記第1軸線回りに回動するてんぷ本体と、
前記てんぷ本体における前記第1軸線回りで回転対称となる位置からそれぞれ第2軸線に沿って延設されるとともに、前記第2軸線回りでの位置が調整可能に構成され、熱膨張率の異なる材料が前記第2軸線に交差する方向に積層されたバイメタル片を有する調整部と、を備えていることを特徴とする温度補償型てんぷ。 - 前記てんぷ本体は、
前記てん真と、
前記第1軸線に直交する第1径方向の外側から前記てん真を囲繞するリム部を有し、前記てん真に取り付けられたてん輪と、を備え、
前記調整部は、前記リム部から延設されていることを特徴とする請求項1に記載の温度補償型てんぷ。 - 前記調整部は、第1軸線方向から見た平面視で、前記リム部の内側に配置されるとともに、前記リム部の接線方向に沿って延在していることを特徴とする請求項2に記載の温度補償型てんぷ。
- 前記バイメタル片は、第1軸線方向で前記リム部と異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の温度補償型てんぷ。
- 前記調整部は、錘部を備えていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の温度補償型てんぷ。
- 前記てんぷ本体には、前記てんぷ本体を第2軸線方向に貫通する貫通孔が形成され、
前記調整部は、前記バイメタル片に対して前記第2軸線方向の一方側に位置して前記貫通孔内に嵌合された固定部を備え、
前記固定部において、前記第2軸線方向で前記一方側を向く端面には、工具が係止される係止部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の温度補償型てんぷ。 - 前記調整部は、前記第2軸線に沿って片持ちで延在していることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載の温度補償型てんぷ。
- 前記ひげぜんまいは、恒弾性材料により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項7の何れか1項に記載の温度補償型てんぷ。
- 前記調整部の重心は、前記第2軸線上に位置していることを特徴とする請求項1から請求項8の何れか1項に記載の温度補償型てんぷ。
- 請求項1から請求項9の何れか1項に記載の温度補償型てんぷを備えていることを特徴とするムーブメント。
- 請求項10記載のムーブメントを備えていることを特徴とする時計。
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