JP6622658B2 - テン輪 - Google Patents

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Description

本発明は、時計に用いられるテン輪に関する。
機械式時計は、正確な歩度を得るために、調速装置におけるテンプの振動周期の精度を精密に調整する必要がある。テンプの振動周期は、主に、テン輪の回転中心周りの慣性モーメントとひげぜんまいのばね定数に依存している。
調速装置を取り巻く環境の温度が高くなると、ひげぜんまいのばね定数が小さくなる方向に変化する。また、調速装置を取り巻く環境の温度が高くなると、テン輪が径方向外側に広がるように熱膨張するため、テン輪の慣性モーメントは大きくなる方向に変化する。これらのいずれの変化も、テンプの振動周期を長くするように作用する。
そこで、テンプの振動周期の温度特性を改善するための対策として、テン輪のリム部をバイメタル構造とする方法が知られている。自由端を持ったバイメタルを、径方向外側に高熱膨張材料、内側に低熱膨張材料となるように配置することで、温度増加時には、自由端が径方向内側に移動するように変形する。その結果、慣性モーメントの変化がひげぜんまいの温度特性を打ち消すことができ、テンプの振動周期の温度特性を改善することができる(例えば、特許文献1参照)。
特開2014−142326号公報(第1頁、図2)
しかしながら、特許文献1のように、一般的にバイメタル構造は、接合する2種材料をリム形状に成形した後、ろう付けやレーザー接合等によって接合している。そのため、部材間の接合位置にずれが生じたり、接合面が不均一になるなどのムラが発生しやすく、テン輪の慣性モーメントにばらつきが生じる問題があった。また、テン輪の強度面においても、温度変化による変形によって2種材料の接合面に生じる応力が大きく、接合が不十分だと繰り返し温度変化を受けた際に部材が剥離して温度特性が変化したりテン輪が破損したりする問題があった。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、接合位置のずれによる慣性モーメントのばらつきや、温度変化によって接合面に生じる応力による部材の剥離や破損を防止した上で、テンプの振動周期の温度特性を改善することができる時計のテン輪を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明のテン輪は、下記記載の構成を採用する。
本発明のテン輪は、テン真が挿入される中央部と、中央部と接続されるアーム部と、前記アーム部と接続され、熱膨張率が異なる第1部材及び第2部材が径方向に積層されたバイメタルで構成される複数のリム部と、を有するテン輪であって、前記第1部材と前記第2部材との接合面に、第1の凹凸形状が形成され、前記第1の凹凸形状は、前記接合面に対して直交しない角度をなし、凹形状の入り口部分の幅及び内部の幅が、凸形状の先端部分の幅及び根元部分の幅と等しいことを特徴としている。
この構造によって、バイメタル部を構成する第1部材と第2部材との接合面積が増加するとともに、凹凸形状が楔として機能するため接合強度を向上させることができ、第1部
材と第2部材とが剥離することによる性能低下を防止することができる。
また、凹凸形状は、複数設けていてもよい。
これにより、嵌め合い箇所が増加し強固な接合が可能になるとともに、温度変化による変形の際に一箇所あたりに生じる応力を低減させることができる。
本発明に係るテン輪によれば、2種類の材料からなる棒状基材を加工してテン輪を形成することによって、部材間の位置ずれによる慣性モーメントのばらつきを低減することができる。また、2種類の材料の接合面に設けた凹凸形状により、温度変化時に接合面に生じる応力による剥離や破損を防止することができる。
本発明の実施形態における携帯用時計(例えば腕時計)の調速装置を示す斜視図である。 本発明の実施形態におけるテン輪が温度増加によって変形した状態を示す平面図である。 本発明の実施形態における凹凸形状を示す平面図である。 本発明の実施形態における凹凸形状の変形例を示す平面図である。 本発明の実施形態におけるテン輪の製造方法を示す工程図である。 本発明の実施形態における凹凸形成工程を説明するための斜視図である。 本発明の実施形態における第2部材形成工程を説明するための斜視図である。 本発明の実施形態におけるスライス加工工程を説明するための斜視図である。 本発明の実施形態におけるテン輪形状加工工程を説明するための斜視図である。
以下、本発明のテン輪について、図面を用いて説明する。
[調速装置の構成]
図1は、本発明の実施形態である携帯用時計(たとえば腕時計)における調速装置(テンプ)1を示す斜視図である。図示の調速装置1は、テン真2と、ひげぜんまい3と、テン輪4とを備えている。
テン真2は、軸の上下が図示を省略した地板とテンプ受けとに回転自在に支持されている。ひげぜんまい3は内側の端部がテン真2に接合され、外側の端部が、図示を省略したテンプ受けに固定されている。
[テン輪の構成]
テン輪4は、円環状の外周部であるリム部5と、リム部5を接続するアーム部7と、アーム部7を固定する円筒状の中心部8で構成されている。中心部8の円筒状の内側にテン真2が嵌め合わされて結合している。
テン輪4のリム部5は、径方向外側と径方向内側とが異なる2種類の材料で構成されて
おり、さらにリム部5の一部を切断してリム部自由端部44を設けることでバイメタル構造となっている。
リム部5を構成する2種類の材料は、径方向外側に設けられる第2部材42の熱膨張率が大きく、径方向内側に設けられる第1部材41の熱膨張率が小さくなるように選択する。径方向外側の第2部材42は、例えば銅や黄銅で形成し、径方向内側の第1部材41は、例えばチタンやインバー(登録商標)材などで形成される。テン輪4のアーム部7及び中心部8は、第1部材41と一体的に形成されるため、第1部材41同様にチタンやインバー(登録商標)材などで形成される。
[本発明のテン輪を用いた調速装置の作用]
次に、本実施形態の携帯用時計における調速装置1の作用について説明する。
本実施形態のテン輪4によれば、温度変化が生じると、バイメタル構造であるリム部5は第1部材41と第2部材42との熱膨張率差によって、リム部自由端部44が径方向に移動する。即ち、図2に示すように、温度が上昇した場合には、リム部自由端部44が径方向内側に向かって移動することができ、温度が低下した場合には、リム部自由端部44が径方向の外側方向に移動する。
これによって、温度が上昇した場合には、テン輪4の慣性モーメントが小さくなり、温度が低下した場合には大きくなる。つまり、慣性モーメントの温度特性に負の傾きを持たせることができ、ひげぜんまいの温度特性を打ち消しテンプの温度補正を行うことができる。
バイメタル構造を形成する第1部材41と第2部材42は、それぞれに設けられた凹凸が嵌め合わされた状態で凹凸形状43を形成しているため、第1部材41と第2部材42との接合面積を増加させるとともに、凹凸形状43が楔として機能するため第1部材41と第2部材42との接合強度を向上させることが可能となっている。
第1部材41に設けられた凹形状は、図3Aに示すように、入り口部分の幅L1が内部の幅L2よりも狭くなっており、また、第2部材42に設けられた凸形状は、先端部分の幅L2が根元部分の幅L1よりも広くなっている。この形状によって、凹凸形状43は一旦嵌め合わされるとそれぞれが引っかかり剥離しにくくなる(アンカー効果)。
凹凸形状43の形状は上述した形状に限定されるものではなく、図3Bに示す例のように、第1部材41に設けられた凹形状の入り口部分の幅L1及び内部の幅L2と、第2部材42に設けられた凸形状の先端部分の幅L2及び根元部分の幅L1とを等しくしておいてもよく、その場合、第1部材41と第2部材42との接合面に対して直交する方向に凹凸形状を形成してもよいし、第1部材41と第2部材42との接合面に対して直交しない角度で凹凸形状を形成してもよい。凹凸形状43の形状は、第1部材41と第2部材42とが剥離しないように必要に応じて適宜選択することができ、凹凸形状43を複数設けることもできる。
第1部材41と第2部材42との接合面に対して直交しない角度で凹凸形状を形成した場合、第1部材41と第2部材42の接合面で剥離が発生したとしても、凹凸形状43の第1部材41と第2部材42との接合面に対して直交しない角度の面の引っ掛かりによって、第1部材41と第2部材42とが完全に分離してしまうことを防止し、バイメタル構造を維持することが可能となる。
た、凹凸形状43は、第1部材41と第2部材42との接合面積を増加させるために、凹凸形状43を鋸歯状にすることもでき、必要とされる第1部材41と第2部材42との接合強度に応じて凹凸形状43を適宜決定することができる。
[テン輪の製造方法]
次に、上記したテン輪4の製造方法について図4から図8を用いて説明する。本発明のテン輪4の製造方法は、図4に示すように、棒状の第1部材41を用意する第1部材用意工程S1と、第1部材41へ凹凸を形成する凹凸形成工程S2と、第1部財41の外周側に第2部材42を形成する第2部材形成工程S3と、第1部材41及び第2部材42をスライスして平板片に加工するスライス加工工程S4と、平板片を、中央部8と、アーム部7と、リム部5とを有するテン輪形状に加工するテン輪形状加工工程S5とで構成されている。
第1部材用意工程S1は、第1部材41となる材料の棒材を用意する工程である。このとき用意する棒状の第1部材41は、例えばチタンやインバー(登録商標)材の棒材を用意し、棒状の第1部材41の直径は、最終的なテン輪4の大きさを考慮して適宜決定する。
凹凸形成工程S2は、図5に示すように、棒状の第1部材41の表面に、例えば回転刃による切削加工を行うことにより凹部43aを形成する。凹部43aの形状は、入り口部分の幅と内部の幅とを同一としてもよいし異ならせてもよい。凹部43aの入り口部分の幅と内部の幅とを異ならせる方法の例として、切削工具を各凹部43aに対して1方向以上の方向からあてることによって、凹部入り口の幅を内の部幅よりも狭くすることができる。回転刃の形状によって、矩形以外の形状や、鋸歯状の凹部43aを形成することもできる。
第2部材形成工程S3は、図6に示すように、凹部43aを形成した第1部材41の表面に、第2部材42を形成する。第2部材41は、凹部43aに対応する凸部を有した円環形状部材をろう付け等によって接合しても良いし、めっきによって第1部材41表面に析出させても良い。これによって、2種類の材料が接合された棒状基材を形成する。
スライス加工工程S4は、図7に示すように、第1部材41表面に第2部材42を形成した棒上材料を旋盤によってスライス加工し、テン輪4の外形となる平板片に加工する。平板片の厚みは、最終的に作成するテン輪4の厚みを考慮して適宜決定する。
テン輪形状加工工程S5は、図8に示すように、第1部材41及び第2部材42で構成されている平板片を旋盤加工やプレス加工によって、テン真2が挿入される中央部8と、中央部8と接続されるアーム部7と、アーム部7と接続される複数のリム部5とを有するテン輪形状に加工し、テン輪4形状及びリム部自由端44が形成される。
以上の工程により、図8に示す、バイメタル構造を有するテン輪4を製造することができる。また、予め2種類の材料を棒状基材形状とし、スライス加工により形成した平板片をテン輪形状に加工することで、容易に第1部材41と第2部材42との接合強度を向上させたテン輪を形成することができる。
なお、本発明の技術範囲は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、バイメタル構造を有するリム部5の数を2つとしたが、3つでも構わないし、4つ以上でも構わない。これらの場合であっても、各リム部5が回転対称に配置されていれば同様の作用効果を得られる。
上記方法以外でも本発明のテン輪を形成することができ、第1部材41と第2部材42との接合面に凹凸形状43を形成したものを個別に作成して用意しておき、最後に第1部材41と第2部材42とを嵌合させたり、ろう材や接着剤などの接合用部材を用いて接合することも可能である。
接合用部材を用いて第1部材41と第2部材42とを接合する場合、接合用部材が第1部材41及び第2部材42と比較して充分に薄く形成してあれば、バイメタル構造の機能を損なわず温度補償可能なテン輪を得ることができる。
また、凹凸形状43は、鋸歯状の凹凸を連続させて第1部材41と第2部材42との接合面積を増加させてもよいし、複数の形状の凹凸形状43を組合せることも可能である。
また、上記実施形態では、第2部材42に凸部を設け、第1部材41に凹部を設けた構成を説明したが、凹凸を逆に設けても構わないし、凹凸を組み合わせて設けても良い。
1 テンプ
2 テン真
3 ひげぜんまい
4 テン輪
5 リム部
7 アーム部
8 中央部
9 内側部材
41 第1部材
42 第2部材
43 凹凸形状
44 リム部自由端

Claims (3)

  1. テン真が挿入される中央部と、前記中央部と接続されるアーム部と、
    前記アーム部と接続され、熱膨張率が異なる第1部材及び第2部材が径方向に積層されたバイメタルで構成される複数のリム部と、を有するテン輪であって、
    前記第1部材と前記第2部材との接合面に、第1の凹凸形状が形成され、
    前記第1の凹凸形状は、前記接合面に対して直交しない角度をなし、凹形状の入り口部分の幅及び内部の幅が、凸形状の先端部分の幅及び根元部分の幅と等しい
    ことを特徴とするテン輪。
  2. 前記第1の凹凸形状に近接して、
    前記接合面に対して直交する方向に形成される第2の凹凸形状を有する
    ことを特徴とする請求項1に記載のテン輪。
  3. 前記第2の凹凸形状は、凹形状の入り口部分の幅及び内部の幅が、凸形状の先端部分の幅及び根元部分の幅と等しい

    ことを特徴とする請求項2に記載のテン輪。
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