JP6778481B2 - ポリエチレン系重合体及びその製造方法、ポリエチレン系重合体組成物、並びに架橋パイプ - Google Patents

ポリエチレン系重合体及びその製造方法、ポリエチレン系重合体組成物、並びに架橋パイプ Download PDF

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Description

本発明は、ポリエチレン系重合体及びその製造方法、ポリエチレン系重合体組成物、並びに架橋パイプに関する。
従来から、住宅用に給水パイプとして塩化ビニルパイプが、又は給湯パイプとして銅パイプが主に使用されてきている。しかし、塩化ビニルパイプや銅パイプは、耐久年数が短いという問題があり、特に銅パイプは、錆による青水、赤水等の着色水や漏水が発生するという問題がある。また、銅パイプは、施工性が悪いという欠点も有している。このため、近年では、架橋ポリエチレンパイプが使用されつつある。架橋ポリエチレンパイプは、高温でのクリープ特性が高く、耐久年数が長いという点で、塩化ビニルパイプや銅パイプと比べて優れている。このため、架橋ポリエチレンパイプは、給水用、給湯用、暖房用のパイプとして有望である。
架橋ポリエチレンパイプを製造する代表的な方法の一つとして、ポリエチレンにジクミルパーオキサイドのような有機過酸化物を配合してなる樹脂組成物を、該有機過酸化物の分解温度以上で加熱しながら、パイプ状に押し出し成形する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この製造過程では、上記有機過酸化物が熱分解して有機ラジカルになり、この有機ラジカルの作用で上記ポリエチレンがラジカルになり、そのラジカルを介してポリエチレンの架橋が進行する。また、架橋ポリエチレンパイプを製造する代表的な方法の他の一つとして、ポリエチレンにビニルトリエトキシシラン等のシラン化合物、有機過酸化物、及びシラノール縮合触媒を配合し、得られた組成物を加熱しながらパイプに押し出し成形した後、水分を含む環境に晒して架橋を進めるという方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
上述した架橋ポリエチレンパイプ以外にも、柔軟性を付与するために、ポリエチレンの密度を下げる試みが行われている(例えば、特許文献3、4)。また、パイプ内壁の微小な凹凸を一定値以下に低減する技術も開示されている(例えば、特許文献5参照)。
特公昭45ー35658号公報 特開昭57−170913号公報 特開平2−253076号公報 特開平10−193468号公報 特開2009−222131号公報
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示されるような架橋ポリエチレンパイプは柔軟性に劣るという問題がある。このため、複雑な引き回しが必要な家屋の床下や、スペースの限られる装置内等においては、パイプと特殊な継手との融着を行う必要がある。ただし、この融着を行うことは、施工者の負担が大きいだけでなく、経済的にも問題があるため、架橋ポリエチレンパイプの使用範囲が限定される原因となっている。
また、近年では、健康に対する意識の高まりにより、飲料水の水質向上が求められている。他に、医療用や工業用における水質に関しても、水の高純度化が求められるようになっている。このため、給水用、給湯用のパイプとしてポリエチレンパイプを用いる場合には、より衛生的であることが要求される。しかし、上述した架橋ポリエチレンパイプは、その原料であるポリエチレンに低分子量成分が存在するため、パイプの通水中にその低分子量成分が溶出し、水質を低下させることが懸念されている。また、パイプの内壁に波打ちや微小な凹凸が存在すると、水垢が溜まりやすくなり、正菌の増殖の原因となることで、水質が低下する要因となっている。
さらに、特許文献3に開示されているようなポリエチレンは、原料であるポリエチレンのメルトインデックスが0.1〜0.4g/10分と低く、流動性に乏しい。また、ポリエチレンの架橋が進行すると更に流動性が低下するため、押し出し機内での発熱が大きくなる。このため、部分的に高密度の架橋を生じたり、ポリエチレンが分解することで低分子量成分が発生したりする。その結果、パイプの表面状態が悪化するほか、低分子量成分の溶出による水質の低下が起こるなど、衛生上の問題が懸念される。また、特許文献4で開示されているようなポリエチレンは、メタロセン系触媒を使用することで分子量分布が狭いポリエチレンを得ることにより、柔軟な架橋パイプを得ることはできる。しかし、低分子量成分やパイプ内壁の微小凹凸等を制御していないため、水質の懸念は残留している。さらに、特許文献3〜4に開示されているようなポリエチレンは、柔軟性を向上させるためにポリエチレンの密度を低下させているため、低密度化に伴って耐久性(耐圧破壊時間が長いこと)も低下し、柔軟性と耐久性を両立させることが困難である。
さらに、特許文献5で開示されているようなパイプは、シングルサイト触媒を使用して合成したポリエチレンを使用することで、パイプ内壁の凹凸が小さい架橋パイプを得ることができるが、低分子量成分や柔軟性と耐久性との両立を図っていない。
そこで、本発明は、上記従来技術の課題の少なくとも一部を解決するものであり、柔軟性を有し、耐久性に優れ、かつパイプ内壁面の凹凸が少ないパイプを得ることのできるポリエチレン系重合体を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、密度、メルトフローレート、重量平均分子量に対するz平均分子量の比率、溶融張力、及び低分子の炭化水素成分の含有量が所定の範囲にあり、かつクロス分別クロマトグラフィー(CFC)で測定した2つの溶出ピークの極大温度が各々所定の範囲にあるポリエチレン系重合体が、柔軟性を有し、耐久性に優れ、かつパイプ内壁面の凹凸が少ないパイプを得ることのできることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]
密度が、930kg/m3以上940kg/m3以下であり、
メルトフローレートが、1.0g/10min以上6.0g/10min以下であり、
重量平均分子量に対するz平均分子量の比率が、2.5以上6.0以下であり、
溶融張力(MT190℃)が、5.0mN以上30mN未満であり、
ヘキサンで抽出される、炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計含有量が、300質量ppm以下であり、
クロス分別クロマトグラフィーを用いた測定における、ポリエチレン総溶出量の溶解温度曲線において、極大点温度が70℃以上80℃未満である溶出ピークと極大点温度が80℃以上90℃未満である溶出ピークとがそれぞれ少なくとも1つ存在する、ポリエチレン系重合体。
[2]
数平均分子量に対する重量平均分子量の比率が、3.5以上6.0以下である、[1]に記載のポリエチレン系重合体。
[3]
塩素含有量が、前記ポリエチレン系重合体に対して、5.0質量ppm以下である、[1]又は[2]に記載のポリエチレン系重合体。
[4]
Al、Mg、Ti、Zr、及びHfの合計含有量が、前記ポリエチレン系重合体に対して、20質量ppm以下である、[1]〜[3]のいずれかに記載のポリエチレン系重合体。
[5]
ポリエチレンにおける1000個の炭素中に含まれる二重結合量が、0.05個以下である、[1]〜[4]のいずれかに記載のポリエチレン系重合体。
[6]
前記極大点温度が70℃以上80℃未満である溶出ピークの重量平均分子量(Mw)が、50000以上200000以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載のポリエチレン系重合体。
[7]
架橋パイプ用である、[1]〜[6]のいずれかに記載のポリエチレン系重合体。
[8]
[1]〜[7]のいずれかに記載のポリエチレン系重合体と、該ポリエチレン系重合体100質量部に対して、0.005質量部以上5.0質量部以下の有機過酸化物と、0.1質量部以上10質量部以下の有機不飽和シラン化合物とを、含む、ポリエチレン系重合体組成物。
[9]
前記ポリエチレン系重合体組成物100質量部に対して、0.001質量部以上10質量部以下のシラノール縮合触媒をさらに含む、[8]に記載のポリエチレン系重合体組成物。
[10]
架橋パイプ用である、[8]又は[9]に記載のポリエチレン系重合体組成物。
[11]
[8]〜[10]のいずれかに記載のポリエチレン系重合体組成物の架橋物からなる、架橋パイプ。
[12]
ゲル分率が、65%以上である、[11]に記載の架橋パイプ。
[13]
給水用、給湯用、暖房用のパイプに用いられる、[11]又は[12]に記載の架橋パイプ。
[14]
少なくとも担体物質、有機アルミニウム化合物、活性水素を有するボレート化合物、シクロペンタジエン化合物、及び周期律表第IV族の遷移金属化合物から得られる担持型メタロセン触媒と、液体助触媒との存在下で、少なくともエチレンを重合し、[1]〜[7]のいずれかに記載のポリエチレン系重合体を得る重合工程を有する、ポリエチレン系重合体の製造方法。
[15]
前記重合工程は、炭素数が6以上10以下の重合媒体を用いてスラリー重合法及び二段重合法により前記エチレンを重合する工程である、[14]に記載のポリエチレン系重合体の製造方法。
本発明に係るポリエチレン系重合体によれば、柔軟性を有し、耐久性に優れ、かつパイプ内壁面の凹凸が少ないパイプを得ることができる。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
〔ポリエチレン系重合体〕
本実施形態のポリエチレン系重合体は、密度が930kg/m3以上940kg/m3以下であり、メルトフローレートが1.0g/10min以上6.0g/10min以下であり、重量平均分子量(Mw)に対するz平均分子量(Mz)の比率(Mz/Mw)が2.5以上6.0以下であり、溶融張力(MT190℃)が5.0mN以上30mN未満であり、ヘキサンで抽出される、炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計含有量が300質量ppm以下であり、クロス分別クロマトグラフィーを用いた測定における、ポリエチレン総溶出量の溶解温度曲線において、極大点温度が70℃以上80℃未満である。
ポリエチレン系重合体の密度は、930kg/m3以上940kg/m3以下であり、好ましくは931kg/m3以上939kg/m3以下であり、より好ましくは932kg/m3以上938kg/m3以下であり、さらに好ましくは933kg/m3以上935kg/m3以下である。ポリエチレン系重合体の密度が930kg/m3以上であることにより、耐久性に優れる架橋パイプが得られる。また、ポリエチレン系重合体の密度が940kg/m3以下であることにより、柔軟性に優れ、施工が容易な架橋パイプが得られる。
ポリエチレン系重合体の密度は、特に限定されないが、主にポリエチレン中のコモノマー種及びコモノマー含有量によって調整することができる。密度は、JIS K7112に準拠して測定されるものであり、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定される。
ポリエチレン系重合体のメルトフローレートは、1.0g/10min以上6.0g/10min以下であり、好ましくは1.1g/10min以上5.5g/10min以下であり、より好ましくは1.2g/10min以上5.0g/10min以下である。メルトフローレートが1.0g/10min以上であることにより、成形性に優れ、パイプ表面が平滑になる。また、溶融成形時の樹脂圧、及びシェアを低減することができるため、成形機の錆等に含まれる金属成分を取り込みにくくなる。メルトフローレートが6.0g/10min以下であれば、耐久性に優れる架橋パイプとなる。
ポリエチレン系重合体のメルトフローレートは、特に限定されないが、主に分子量により調整すること、重合系に水素を存在させること等によって調節することで、メルトフローレートを調整できる。メルトフローレートは、JIS K7210に準拠し、190℃、2.16kgにおいて測定され、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定される。
ポリエチレン系重合体の重量平均分子量(Mw)に対するz平均分子量(Mz)の比率(Mz/Mw)は、2.5以上6.0以下であり、好ましくは2.7以上5.8以下であり、より好ましくは2.9以上5.5以下である。(Mz/Mw)が2.5以上であることにより、成形加工条件幅が広く、寸法精度に優れる柔軟なパイプが得られる。また、(Mz/Mw)が6.0以下であることにより、押出しトルクの上昇や変動が抑制され、表面平滑性が高く、低分子量成分の溶出が少ない架橋パイプが得られる。
(Mz/Mw)は、特に限定されないが、本実施形態のメタロセン触媒を使用すること等によって調整することができる。また、(Mz/Mw)は、二段重合において高分子量成分を重合する際のエチレンの気相濃度に対する1−ブテン濃度を1.30mol%以下とすること、重合後のスラリーを内温30℃以上40℃以下に調整したフラッシュタンクに導入し、加湿した不活性ガスを液中にブローすることによっても制御することができる。ここでの不活性ガスとしては窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられる。また不活性ガス中の水分の含有量は、1.0質量%以上10質量%以下が好ましく、2.0質量%以上8.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。また、加湿した不活性ガスをブローする際のスラリーの滞留時間は0.1〜2時間が好ましく、0.3〜1.5時間がより好ましく、0.5〜1.0時間がさらに好ましい。(Mz/Mw)は、ポリエチレン系重合体を溶解したオルトジクロロベンゼン溶液をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう。)で測定し、市販の単分散ポリスチレンを用いて作成した検量線に基づいて求めることができる。より具体的には、実施例に記載の方法により求めることができる。
ポリエチレン系重合体の数平均分子量に対する重量平均分子量、即ち分子量分布(Mw/Mn)は、3.5以上6.0以下が好ましく、より好ましくは4.0以上5.8以下であり、さらに好ましくは4.2以上5.6以下である。(Mw/Mn)が4.0以上であることにより、ゲル量が少なく平滑性の高いパイプが得られる傾向にある。また、(Mw/Mn)が8.0以下であることにより、優れた成形性を保持したまま低分子量成分の発生を抑制することが可能で衛生性が向上する傾向にある。また、目やにの発生が抑制され平滑性の高いパイプが得られる傾向にある。
(Mw/Mn)は、特に限定されないが、メタロセン触媒を使用して、後述する低分子量ポリエチレンと高分子量ポリエチレンの分子量差を小さくすることで制御することができる。(Mw/Mn)は、上述のGPCで求めることができる。より具体的には、実施例に記載の方法により求めることができる。
ポリエチレン系重合体の溶融張力は、5.0mN以上30mN未満であり、好ましくは5.5mN以上25mN未満であり、より好ましくは6.0mN以上20mN未満である。溶融張力が5.0mN以上であることにより、耐久性に優れるパイプが得られる。また、溶融張力が30mN未満であることにより、押出し成形時の発熱が抑制されて目やにの発生を抑制できる。さらに、パイプ表面の肌荒れを抑制することができる。
ポリエチレン系重合体の溶融張力を本実施形態の範囲に調整するためには、特に限定されないが、メタロセン触媒を使用して二段重合により分子量分布を本実施形態の範囲にすること、重合後のスラリーを内温30℃以上40℃以下に調整したフラッシュタンクに導入し、加湿した不活性ガスを液中にブローすることによって制御することができる。溶融張力は、実施例に記載の方法により求めることができる。
ポリエチレン系重合体における、ヘキサンで抽出される、炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計含有量は、300質量ppm以下であり、好ましくは250質量ppm以下であり、より好ましくは200質量ppm以下、さらに好ましくは130質量ppm以下である。炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計含有量が300質量ppm以下であることにより、架橋剤がこれらの低分子量成分と反応する割合が低下して、高分子量成分と反応する割合が相対的に高くなるので、架橋パイプの耐久性が高くなる。また、通水中の低分子量成分の溶出も少なくなり、水質の悪化を抑制できる。さらに、架橋剤と、耐久性に寄与する高分子量成分との反応の割合が高くなることによって、使用する架橋剤の量を少なくすることができ、経済的な観点からも好ましい。
ポリエチレン系重合体の炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計含有量は、特に限定されないが、ポリエチレンを製造する際に生成する低分子量成分の量を抑制することで、300質量ppm以下に制御することができる。具体的には、エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したポリエチレンと共に連続的に排出する連続式重合にすること、触媒は予め水素と接触させた後、重合系内に添加すること等により、急重合により生成する低分子量成分を抑制することができる。また、溶融混練時の温度を低くして分解成分の生成を抑制すること等で、その生成を抑制することもできる。また、スラリー重合法で炭素数6〜12の重合媒体を使用すること、遠心分離法によってポリエチレンと溶媒を分離し、乾燥前のポリエチレンに含まれる溶媒量をポリエチレンの質量に対して70質量%以下にすること、脱揮押出し機を使用して真空下で乾燥、及び造粒すること、ポリエチレンを炭素数6〜12の精製重合媒体で洗浄すること等の方法で炭素数12以上34以下の低分子量成分を可能な限りポリエチレンから除去することができる。
また、ポリエチレン系重合体の炭素数12以上34以下の炭化水素の合計含有量は、メタロセン触媒を使用すること、メタロセン触媒は予め水素と接触させた後、重合系内に添加すること、二段重合において低分子量成分を重合する際のエチレンの気相濃度に対する1−ブテン濃度を0.50mol%以下とすること等により上記炭化水素の生成を抑制し、調整することができる。一方、さらに上記炭化水素を除去する方法としては、スラリー重合法で炭素数6〜12の重合媒体を使用し、重合終了後のフラッシュタンクに加湿窒素をフィードし、且つ遠心分離法によってポリエチレンと溶媒を分離することで乾燥前のポリエチレンに含まれる溶媒量をポリエチレン系重合体の質量に対して50質量%以下とすること、ペレット保存タンクで50℃に加温した窒素で10時間以上ブローすること等の方法が挙げられる。炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
ポリエチレン系重合体においては、クロス分別クロマトグラフィー(以下、単に「CFC」ともいう。)を用いた測定における、ポリエチレン総溶出量の溶解温度曲線において、極大点温度を有する溶出ピークが少なくとも2つ存在する。優れた柔軟性、耐久性、及び表面の平滑性を有する架橋パイプを得るためには、柔軟性に寄与して加工を容易にする非晶性成分と、耐久性を高める結晶性成分との両方が適正に存在することが好ましい。そのため、このような非晶性成分由来の低温側溶出ピーク(極大点温度が70℃以上80℃未満)と、結晶性成分由来の高温側溶出ピーク(極大点温度が80℃以上90℃以下)との2つが少なくとも存在する。また、これら以外の溶出ピークや、さらに極大点温度が70℃以上80℃未満の溶出ピーク及び/又は極大点温度が80℃以上90℃未満の溶出ピークが存在してもよい。なお、本実施形態のポリエチレン系重合体においては、上記非晶性成分と上記結晶性成分とを含有しているものに限定されず、低温側溶出ピーク(極大点温度が70℃以上80℃未満)と、高温側溶出ピーク(極大点温度が80℃以上90℃未満)との少なくとも2つのピークが存在すればよい。
ポリエチレン系重合体は、低温側溶出ピークが70℃以上であることにより、耐久性を維持することができ、低温側溶出ピークが80℃未満であることにより、十分な柔軟性を付与できる。また、ポリエチレン系重合体は、高温側溶出ピークが80℃以上であることにより、耐久性を維持することができ、高温側溶出ピークが90℃未満であることにより、十分な柔軟性を付与できる。
溶出ピークが少なくとも2つ存在して、70℃以上80℃未満と80℃以上90℃未満との範囲に各々溶出ピークの極大点温度を存在させる方法としては、特に限定されないが、一段目で低分子量ポリエチレンを重合し、二段目で高分子量ポリエチレンを重合する二段重合法で合成し、フラッシュタンクに5%加湿窒素を液中フィードする方法が挙げられる。一般的には、二段目の重合後に重合スラリーは未反応のエチレン、コモノマー、水素を分離するために反応槽より低圧にしたフラッシュタンクに導入される。しかしながら、触媒は失活されていないため、残存し易いコモノマーとエチレンとが反応することで、融点の低いオリゴマーや高分子量体が生成する傾向にある。融点の低いポリエチレンは、溶出ピーク温度を低下させるので、一般的には上述した範囲に極大点を持つピークを得られない場合が多い。フラッシュタンク内に加湿窒素を液中フィードすることで、残存するエチレン、コモノマーを可能な限り除去しながら、触媒を失活させることで、上述した範囲に極大点温度を有する溶出ピークを有するポリエチレン系重合体の合成が可能となる。また、遠心分離法によってポリエチレン系重合体と溶媒を分離することで、乾燥前のポリエチレンに含まれる溶媒量をポリエチレンの質量に対して50質量%以下とすることも有効である。
上述した極大点温度が70℃以上80℃未満である溶出ピークの重量平均分子量(Mw)は、50000以上200000以下が好ましく、より好ましくは60000以上180000以下であり、さらに好ましくは70000以上160000以下である。上記重量平均分子量(Mw)が、50000以上200000以下であれば、柔軟性及び耐久性を両立することができる傾向にある。
上記重量平均分子量(Mw)を50,000以上200,000以下に調整するための方法としては、特に限定されないが、低分子量ポリエチレン中のコモノマー量を0.05mol%以上0.5mol%未満で調整し、高分子量ポリエチレン中のコモノマー量を0.5mol%以上5mol%未満で調整する方法が挙げられる。なお、各成分のコモノマー量は13C−NMRスペクトル測定にて求めることができる。
ここで、「クロス分別クロマトグラフィー」とは、結晶性分別を行う温度上昇溶出分別部(以下、「TREF部」ともいう。)と分子量分別を行うGPC部とを組み合わせた装置であって、TREF部とGPC部とを直接接続することにより、組成分布と分子量分布との相互関係の解析を行うことが可能な装置である。なお、TREF部での測定を、CFCでの測定と記す場合もある。
TREF部による測定は、「Journal of Applied Polymer Science,Vol 26,4217−4231(1981)」に記載されている原理に基づき、以下のようにして行われる。測定の対象とするポリエチレンをオルトジクロロベンゼン中で完全に溶解させる。その後、一定の温度で冷却して不活性担体表面に薄いポリマー層を形成させる。このとき結晶性の高い成分が最初に結晶化され、続いて、温度の低下に伴って結晶性の低い成分が結晶化される。次に温度を段階的に上昇させると、結晶性の低い成分から高い成分へと順に溶出し、所定の温度での溶出成分の濃度を検出することができる。ここで、「溶出ピーク」とは、上記温度上昇時、5.0質量%以上が溶出されたピークを示すものである。
ポリエチレンの各温度での溶出量及び溶出積分量は、TREF部により、溶出温度−溶出量曲線を以下のように測定することで求めることができる。カラムの温度プロファイルは、まず充填剤を含有したカラムを140℃に昇温し、ポリエチレンをオルトジクロロベンゼンに溶かした試料溶液(例えば、濃度:16mg/8mL)を導入して120分間保持する。
次に、降温速度0.5℃/分で40℃まで降温した後、20分間保持し、試料を充填剤表面に析出させる。その後、カラムの温度を、昇温速度20℃/分で順次昇温する。40℃から80℃までは10℃間隔で昇温し、80℃から85℃までは5℃間隔で昇温し、85℃から90℃までは3℃間隔で昇温し、90℃から100℃までは1℃間隔で昇温し、100℃から120℃までは10℃間隔で昇温する。なお、各温度で20分間保持した後に昇温を行い、各温度で溶出した試料(ポリエチレン)の濃度を検出する。そして、試料の溶出量(質量%)とその時のカラム内温度(℃)との値より、溶出温度−溶出量曲線を測定し、各温度での溶出量、及び溶出積分量が得られる。より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
ポリエチレン系重合体の塩素含有量は、ポリエチレン系重合体に対して、好ましくは5.0質量ppm以下であり、より好ましくは3.0質量ppm以下、さらに好ましくは1.0質量ppm以下であり、より少ないほど好ましい。塩素含有量が5.0質量ppm以下であることにより、成形機等の腐食を抑制でき、ポリマーに含有される金属成分量を低減することができ、塩素及び塩酸に影響を受けやすい金属パイプ等の被覆材として使用した場合であっても、被保護材の錆等を抑制することができる傾向にある。さらに、塩素及び塩酸と有機過酸化物や有機不飽和シラン化合物(架橋剤)との反応が抑制される傾向にあるので、使用する架橋剤量を低減することができ、架橋反応が安定することによってパイプ表面の平滑性が高まり、寸法精度にも優れる架橋パイプが得られる傾向にある。
ポリエチレン系重合体の塩素含有量は、特に限定されないが、塩素含有量が少ない触媒成分を使用することで制御することができる。具体的には、触媒成分中の塩素含有量は50質量ppm以下であり、好ましくは20質量ppm以下であり、より好ましくは5.0質量ppm以下であり、より少ないほど好ましい。また、単位触媒あたりのポリエチレンの生産性により制御することも可能である。ポリエチレンの生産性は、製造する際の反応器の重合温度や重合圧力やスラリー濃度により制御することが可能である。つまり、本実施形態で用いるポリエチレンの生産性を高くするには、重合温度を高くすること、重合圧力を高くすること、及びスラリー濃度を高くすることが挙げられる。使用する触媒としては、後述するメタロセン触媒を使用することがより好ましい。また、ポリエチレン系重合体の塩素含有量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
ポリエチレン系重合体のAl、Mg、Ti、Zr、及びHfの合計含有量は、該ポリエチレン系重合体に対して、20質量ppm以下であり、好ましくは15質量ppm以下であり、より好ましくは10質量ppm以下であり、より少ないほど好ましい。Al、Mg、Ti、Zr、及びHfの合計含有量が上記範囲であることにより、ポリエチレンの熱劣化によるゲルの発生が抑制され、熱劣化により生成する低分子量成分も少なくなり、架橋パイプの着色やパイプ表面の肌荒れも少なくなる傾向にある。さらに、有機過酸化物や有機不飽和シラン化合物(架橋剤)との副反応も抑制されて、架橋反応が安定することによって寸法精度に優れる架橋パイプが得られる傾向にある。
Al、Mg、Ti、Zr、及びHfの合計含有量を制御する方法としては、特に限定されないが、後述する高活性であってAlの少ない助触媒を使用する方法、塩素含有量が少ない触媒を使用する方法、及び単位触媒あたりのポリエチレンの生産性を高くする方法、及び触媒の失活を遠心分離法によって溶媒を可能な限り分離した後に実施する方法が挙げられる。Al、Mg、Ti、Zr、及びHfの合計含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
ポリエチレン系重合体における1000個の炭素中に含まれる二重結合量は、0.05個以下であることが好ましい。二重結合の量が0.05個以下であることにより、ポリエチレン系重合体の熱劣化によるゲルの発生が抑制され、熱劣化により生成する低分子量成分も少なくなり、その結果として臭気の発生が抑制され、押し出されたパイプの表面状態も良好な状態となる傾向にある。
二重結合量は、特に限定されないが、エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したポリエチレンと共に連続的に排出する連続式重合にすること、メタロセン触媒を使用すること、触媒は予め水素と接触させた後、重合系内に添加することにより制御することができる。また、二重結合量は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
ポリエチレン系重合体は、特に限定されないが、エチレンと、他のコモノマーとの共重合体であることが好ましい。エチレンとしては、特に限定されないが、架橋剤である有機不飽和シラン化合物が反応しやすい3級炭素が多くなる観点から、プロピレン、及び1−ブテンが好ましい。他のコモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、α−オレフィン、及びビニル化合物が挙げられる。α−オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数3〜20のα−オレフィンが挙げられ、炭素数3〜20のαオレフィンの具体例として、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、及び1−テトラデセンが挙げられる。ビニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビニルシクロヘキサン、スチレン及びその誘導体が挙げられる。また、必要に応じて、他のコモノマーとして、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等の非共役ポリエンを使用することもできる。上記共重合体は3元ランダム重合体であってもよい。他のコモノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリエチレン系重合体は、架橋性の観点から、耐熱特性が低下しない範囲でコモノマーを挿入することが好ましい。具体的には、二段重合の場合、低分子量ポリエチレン中のコモノマー量を0.05mol%以上0.5mol%未満で調整し、高分子量ポリエチレン中のコモノマー量を0.5mol%以上5mol%未満で調整すること等が挙げられる。なお、各成分のコモノマー量は13C−NMRスペクトル測定にて求めることができる。
本実施形態のポリエチレン系重合体は、後述の架橋パイプ用であることが好ましい。
〔ポリエチレン系重合体の製造方法〕
本実施形態のポリエチレン系重合体の製造方法は、少なくとも担体物質、有機アルミニウム化合物、活性水素を有するボレート化合物、シクロペンタジエン化合物、及び周期律表第IV族の遷移金属化合物から得られる担持型メタロセン触媒と、液体助触媒との存在下で、少なくともエチレンを重合し、本実施形態のポリエチレン系重合体を得る重合工程を有する。
ポリエチレン系重合体の製造方法に使用される触媒は、少なくとも上記担持型メタロセン触媒を用いれば特に限定されず、その他のメタロセン触媒、チーグラー・ナッタ触媒、フィリップス触媒等を共に用いることもできる。上記担持型メタロセン触媒を用いることにより、ポリエチレン系重合体の低分子量成分を少なくすることができる。メタロセン触媒としては、特開2006−273977号公報に記載のものを好適に使用することができる。
担持型メタロセン触媒は、少なくとも担体物質、有機アルミニウム化合物、活性水素を有するボレート化合物、シクロペンタジエン化合物、及び周期律表第IV族の遷移金属化合物から調製して得ることができる。
担体物質の平均粒子径は、好ましくは1.0μm以上20μm以下であり、より好ましくは1.0μm以上15μm以下であり、さらに好ましくは2.0μm以上10μm以下である。平均粒径が1.0μm以上であることにより、得られる重合体粒子の飛散や付着を抑制する傾向にある。また、平均粒子径が20μm以下であることにより、ポリエチレン系重合体中に残存した担体物質がパイプ内表面の平滑性の低下を抑制する傾向にある。さらに、ポリエチレンを押出成形する際に、ポリエチレン中に残存した担体物質が押出し機のフィルターに詰まることによって昇圧してパイプ表面の平滑性の低下を抑制する傾向にもある。担体物質の粒径分布は可能な限り狭い方が好ましく、粒径分布は、篩や遠心分離、サイクロンによって、微粉粒子と粗粉粒子とを除去することで調整することができる。
担体物質の圧縮強度は、好ましくは1.0MPa以上10MPa未満であり、より好ましくは1.0MPa以上8.0MPa未満であり、さらに好ましくは2.0MPa以上6.0MPa未満である。圧縮強度が1.0MPa以上であることにより、触媒合成やフィードする際に破砕されて小さくなり、得られる重合体粒子の飛散や付着を抑制する傾向にある。圧縮強度が10MPa未満であることにより、担体物質が重合中に破砕されずに、ポリエチレン中に残存する確率が高くなり、パイプ内表面の平滑性が阻害される問題を抑制する傾向にある。
また、得られた担持型メタロセン触媒は、担体に担持されていない有機アルミニウム化合物、ボレート化合物等を除去することを目的に、不活性溶媒を用いでデカンテーション、濾過等の方法により洗浄することもできる。本実施形態で使用されるポリエチレン系重合体を製造する場合には、副反応によって生成する低分子量成分を低減するために、デカンテーション及び/又は濾過を3回以上実施することが好ましい。
更に、触媒中の塩素含有量は、好ましくは50質量ppm以下であり、より好ましくは20質量ppm以下であり、さらに好ましくは5.0質量ppm以下であり、より少ないほど好ましい。
液体助触媒は、液状の助触媒であり、担持型メタロセン触媒の活性を増大させる物質である。液体助触媒としては、特に限定されないが、例えば、有機マグネシウム化合物及びメチルヒドロポリシロキサンから調製することができる。
重合工程における重合法は、特に限定されないが、例えば、スラリー重合法、気相重合法、及び溶液重合法が挙げられ、これらの重合法により、エチレン、又はエチレンを含む単量体を(共)重合させることができる。この中でも、重合熱を効率的に除熱できるスラリー重合法が好ましい。スラリー重合法においては、重合媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、オレフィン自身を重合媒体として用いることもできる。
不活性炭化水素媒体としては、特に限定されないが、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチルクロライド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素及びこれらの混合物が挙げられる。
重合工程において、上述した不活性炭化水素媒体の中でも、炭素数が6以上10以下の炭化水素媒体を用いることがより好ましい。炭素数が6以上であることにより、架橋剤と反応して耐圧性、耐久性を低下させる低分子量成分が比較的溶解しやすく、ポリエチレン系重合体と重合媒体を分離する工程でポリエチレン系重合体から除去されやすい傾向にある。炭素数が10以下であることにより、ポリエチレン系重合体中に残存する低分子量成分(媒体)が少なくなり、反応槽へのポリエチレンパウダーの付着等が抑制されて、工業的に安定的な運転が行える傾向にある。
重合工程における重合温度は、30℃以上100℃以下が好ましく、35℃以上95℃以下がより好ましく、40℃以上90℃以下がさらに好ましい。重合温度が30℃以上であれば、工業的に効率的な製造が可能となる傾向にある。一方、重合温度が100℃以下であれば、連続的に安定運転が可能となる傾向にある。
重合工程における重合圧力は、常圧以上2MPa以下が好ましく、より好ましくは0.1MPa以上1.5MPa以下、さらに好ましくは0.1MPa以上1.0MPa以下である。
重合工程における重合は、回分式、半連続式、及び連続式のいずれの方法においても行なうことができ、連続式で重合することが好ましい。連続式は、エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したポリエチレンと共に連続的に排出することで、急激なエチレンの反応による部分的な高温状態を抑制することが可能となり、重合系内がより安定化する。系内が均一な状態でエチレンが反応すると、ポリマー鎖中に分岐や二重結合等が生成されることを抑制することができる。これにより、架橋効率の高いポリエチレン系重合体が得られやすくなり、ゲル分率を高くすることができる傾向にある。よって、重合系内がより均一となる連続式が好ましい。
重合工程は、重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行なう、二段重合法により重合する工程であることが好ましい。また、重合工程は、炭素数が6以上10以下の重合媒体を用いてスラリー重合法及び二段重合法により重合する工程であることがより好ましい。
ポリエチレン系重合体の分子量は、特に限定されないが、西独国特許出願公開第3127133号明細書に記載されているように、重合系に水素を存在させること、重合温度を変化させること等によって調節することができる。また、重合系内に連鎖移動剤として水素を添加することにより、分子量を適切な範囲で制御することも可能である。重合系内水素を添加する場合、水素のモル分率は、0mol%以上30mol%以下であることが好ましく、0mol%以上25mol%以下であることがより好ましく、0mol%以上20mol%以下であることがさらに好ましい。
さらに、水素は予め触媒と接触させた後、触媒導入ラインから重合系内に添加することが好ましい。触媒を重合系内に導入した直後は、導入ライン出口付近の触媒濃度が高く、エチレンが急激に反応することによって部分的な高温状態になる可能性が高まるが、水素と触媒を重合系内に導入する前に接触させることで、触媒の初期活性を抑制することが可能となり、低分子量成分の生成を抑制することが可能となる。よって、水素を触媒と接触させた状態で重合系内に導入することが好ましい。
重合工程の後に、未反応エチレン、コモノマー、水素を除去するフラッシュタンクには湿式窒素を液中フィードすることが好ましい。湿式窒素を液中フィードすることで、重合条件(温度、濃度等)の異なるフラッシュタンクでの後重合を抑制することが可能となり、低分子量成分や低融点のポリエチレン等の生成を低減することができる。
ポリエチレン系重合体の製造方法における溶媒分離方法は、デカンテーション法、遠心分離法、フィルター濾過法等によって行えるが、ポリエチレン系重合体と溶媒との分離効率が良い遠心分離法がより好ましい。溶媒分離後にポリエチレンに含まれる溶媒の量は、特に限定されないが、ポリエチレン系重合体の質量(100質量%)に対して70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以下である。ポリエチレン系重合体に含まれる溶媒が少量の状態で溶媒を乾燥除去することにより、溶媒中に含まれる金属成分や低分子量成分等がポリエチレン中に残存しにくい傾向にある。これらの成分が残存しないことにより、衛生性に優れ架橋効率の高いポリエチレン系重合体となり、耐圧性、耐久性に優れる架橋パイプが得られやすくなる。よって、遠心分離法でポリエチレン系重合体と溶媒とを分離することが好ましい。
ポリエチレン系重合体の製造方法における乾燥温度は、50℃以上150℃以下が好ましく、50℃以上140℃以下がより好ましく、50℃以上130℃以下がさらに好ましい。乾燥温度が50℃以上であることにより、効率的な乾燥が可能となる傾向にある。一方、乾燥温度が150℃以下であることにより、ポリエチレンの分解を抑制した状態で乾燥することが可能となる傾向にある。
ポリエチレン系重合体のペレタイズには、400メッシュのスクリーンを取り付けた押出機を使用することが好ましい。400メッシュのスクリーンを使用することで、異物やゲルを取り除くことが可能で、パイプ表面の平滑性が向上する傾向にある。本実施形態では、上記のような製法以外にもポリエチレンの製造に有用な他の公知の方法を含むことができる。
〔ポリエチレン系重合体組成物〕
本実施形態のポリエチレン系重合体は、本実施形態のポリエチレン系重合体と、該ポリエチレン系重合体100質量部に対して、0.005質量部以上5.0質量部以下の有機過酸化物と、0.1質量部以上10質量部以下の有機不飽和シラン化合物とを、含む。
〔有機過酸化物〕
有機過酸化物は、後述の押し出し工程でラジカルに分解され、有機不飽和シラン化合物をポリエチレン系重合体にグラフトさせることができる。
有機過酸化物の含有量は、ポリエチレン系重合体100質量部に対して、0.005質量部以上5.0質量部以下であり、好ましくは0.007質量部以上1.0質量部以下であり、より好ましくは0.01質量部以上0.5質量部以下である。含有量が0.005質量部以上であることにより、有機不飽和シラン化合物のグラフト反応が効率的に進行する。また、含有量が5.0質量部以下であることで、有機過酸化物によりポリエチレン中に生成したラジカルの再結合による不均一架橋を抑制し、パイプの押し出し加工性が低下することを抑制することができる。また架橋パイプの通水中における有機過酸化物の臭気を低減することができる。
有機過酸化物としては、特に限定されないが、例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチル−オキシ)−ヘキシン−3、1,3−ビス−(t−ブチル−オキシ−イソプロピル)−ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、4,4, −ジ−(t−ブチルパーオキシ)バレリツク酸−ブチルエステル、1,1−ジ−(tーブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンキシン−3、ベンゾイルパーオキシド、ジシクロベンゾパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、及び分子中に2重結合基とパーオキサイド基を有する化合物が挙げられる。この中では、ジクミルパーオキサイドが経済的であり好ましい。
〔有機不飽和シラン化合物〕
有機不飽和シラン化合物の含有量は、ポリエチレン系重合体100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であり、好ましくは0.3質量部以上5.0質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以上4.0質量部以下である。含有量が0.1質量部以上であることで、架橋パイプのシラン架橋を十分に進行させることができる。また、含有量が10質量部以下であることで、目やにの発生や、パイプ押し出し時の負荷の上昇等に起因するパイプの押出成形性の低下を抑制することができる。
有機不飽和シラン化合物としては、シラン架橋し得るものであれば制限されず、例えば、ビニルトリメチキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、及びビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シランが挙げられる。このような有機不飽和シラン化合物は、有機過酸化物の作用により発生したポリエチレン系重合体中のラジカルと反応し、該ポリエチレン系重合体にグラフトすることができる。
〔シラノール縮合触媒〕
本実施形態のポリエチレン系重合体組成物は、さらにシラノール縮合触媒を含有してもよい。シラノール縮合触媒は、水又は水蒸気の存在下で、ポリエチレンにグラフトしたシラン化合物を架橋させる。
シラノール縮合触媒としては、公知のジブチルスズジラウリレート、酢酸第一スズ、カプリル酸第一スズ、ナフテン酸スズ、カプリル酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸鉄、ナフテン酸コバルト、チタン酸テトラブチルエステル、エチルアミン、ジブチルアミン、特にジブチルスズジラウリレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルオクテートが挙げられる。
シラノール縮合触媒の含有量は、前記ポリエチレン系重合体組成物100重量部に対して0.001〜10重量部が好ましい。0.001重量部以上とすることで、シラン架橋を短時間で効率的に進行させることができる。一方10重量部以下とすることで、架橋パイプに通水した場合におけるシラノール縮合触媒の溶出を抑制することができる。
上記ポリエチレン系重合体組成物の製造においては、ポリエチレンはペレット又はパウダーのどちらの形態で用いてもかまわない。また有機過酸化物、有機不飽和シラン化合物、およびシラノール縮合触媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、又はポリエチレンとのマスターバッチとして用いてもよい。
本実施形態のポリエチレン系重合体組成物は、中和剤、酸化防止剤、耐光安定剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
中和剤はポリエチレン系重合体組成物中に含まれる塩素キャッチャー、成形加工助剤等として使用される。中和剤としては、特に限定されないが、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のステアリン酸塩が挙げられる。中和剤の含有量は、特に限定されないが、ポリエチレン系重合体組成物に対して、好ましくは5000質量ppm以下であり、より好ましくは4000質量ppm以下、さらに好ましくは3000質量ppm以下である。メタロセン触媒を用い、スラリー重合法により得られたポリエチレン系重合体は、触媒構成成分中からハロゲン成分を除外することも可能であり、この場合には中和剤は含まないことが好ましい。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、ポリエチレン系重合体組成物に対して、5000質量ppm以下が好ましく、より好ましくは4000質量ppm以下であり、さらに好ましくは3000質量ppm以下である。
耐光安定剤としては、特に限定されないが、例えば、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系耐光安定剤;ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン系耐光安定剤が挙げられる。耐光安定剤の含有量は、特に限定されないが、ポリエチレン系重合体組成物に対して、好ましくは5000質量ppm以下であり、より好ましくは4000質量ppm以下、さらに好ましくは3000質量ppm以下である。
ポリエチレン系重合体組成物中に含まれる上記添加剤の含有量は、ポリエチレン系重合体組成物中の添加剤をテトラヒドロフラン(THF)でソックスレー抽出により6時間抽出し、抽出液を液体クロマトグラフィーにより分離、定量することにより求めることができる。
本実施形態のポリエチレン系重合体組成物には、上記の他に公知のフェノール系安定剤、有機フォスファイト系安定剤、有機チオエーテル系安定剤、高級脂肪酸の金属塩等の安定剤:顔料、耐候剤、染料、核剤、ステアリン酸カルシウム等の潤滑材;カーボンブラック、タルク、ガラス繊維等の無機充填材あるいは補強材、難燃剤、中性子遮断剤等のポリオレフィンに添加される配合剤を、本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。また架橋パイプからの未反応の有機不飽和シラン化合物、シラノール縮合触媒、有機過酸化物の溶出をおさえるために、活性炭等の吸着剤を添加してもよい。
本実施形態のポリエチレン系重合体組成物は、後述の架橋パイプ用であることが好ましい。
〔架橋パイプ〕
本実施形態の架橋パイプは、本実施形態のポリエチレン系重合体組成物の架橋物からなる。具体的には、ポリエチレン系重合体組成物をパイプ状に成形し、架橋反応を進行させることにより架橋パイプを得ることができる。
架橋パイプの製造方法としては、ポリエチレン系重合体組成物の架橋物から製造されれば特に限定されないが、例えば
(1)ポリエチレン系重合体、有機過酸化物、有機不飽和シラン化合物、及びシラノール縮合触媒を押出機で溶融混合し、その後パイプを成形し、得られたパイプを温水又は水蒸気の存在下でシリル基を架橋させる方法、
(2)ポリエチレン系重合体、有機過酸化物、及び有機不飽和シラン化合物を一度押出機で溶融混合し、得られた組成物にシラノール縮合触媒を添加してパイプを成形し、該パイプを温水又は水蒸気の存在下でシリル基を架橋させる方法、
(3)ポリエチレン、有機過酸化物、及び有機不飽和シラン化合物を含む組成物を用いてパイプを成形し、シラノール縮合触媒を含む温水又は水蒸気の存在下にパイプを晒してシリル基を架橋させる方法、
が挙げられる。
架橋パイプのゲル分率は、65%以上であることが好ましい。このゲル分率は、特に限定されないが、架橋物中の有機シラン化合物が均一にグラフトされ、さらにそのシラン基がシラノール縮合触媒により、均一に架橋した場合に高い値とすることができる。経験的に、ゲル分率が高い架橋パイプは、短期及び長期の熱間内圧クリープ等の機械強度にすぐれる。従来のポリエチレン系重合体を用いた架橋パイプにおいては、高いゲル分率を得るためには、多量の有機不飽和シラン化合物を用いる必要がある。しかも、従来のポリエチレン系重合体を用いた架橋パイプにおいては、高いゲル分率を達成しても、熱間内圧クリープ特性は満足のいくものではない。一方、本実施形態のポリエチレン系重合体を用いた架橋パイプは、少量の有機シラン化合物添加量でも高いゲル分率が得られ、充分な耐圧性及び耐久性が達成できる傾向にある。
ここで、ゲル分率は、JIS K 6787−1997 水道用架橋ポリエチレン管 附属書7(規定)水道用架橋ポリエチレン管のゲル分率試験方法に準じて測定した値である。次に、架橋パイプのゲル分率の測定方法について説明する。架橋パイプ10g切削し、キシレン溶媒を用いてソックスレー抽出器で10時間抽出し、抽出残量を測定し、下記式により求める。
ゲル分率(%)=(抽出残量(g)/10(g))×100
より具体的には、後述する実施例に記載の方法により求める。
架橋パイプの沸騰ノルマルヘキサン抽出量は、0.2%以下であることが好ましい。この沸騰ノルマルヘキサン抽出量は、ポリエチレン中の低分子量成分が少なく、添加した架橋剤がポリエチレンと反応した割合が高いほど小さくなる。また、中和剤や酸化防止剤等の添加物が少ない場合は小さくなる傾向にある。沸騰ノルマルヘキサン抽出量が少なければ少ないほど、パイプから溶出する成分が少なく衛生的であり、架橋剤の反応効率が高く、ゲル分率も高くなる傾向にある。
〔用途〕
本実施形態のポリエチレン系重合体は、低密度でありながら低分子量成分が極めて少なく、成形加工性に優れる。そのため、それからなる架橋パイプは、柔軟性、耐久性に優れ、パイプ成形時における押出機のトルク上昇や変動がなく、パイプ表面の平滑性が高いため、特に高純度な水質を求められる分野等の給水用、及び給湯用のパイプ、並びに柔軟性が求められる暖房用のパイプに好適に用いられる。
以下に、実施例に基づいて本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。まず、下記に各物性及び評価の測定方法及び評価基準について述べる。
(物性1)密度
実施例及び比較例で得られた各ポリエチレン系重合体について、JIS K7112:1999、密度勾配管法(23℃)により、密度を測定した。
(物性2)メルトフローレート(MFR)
実施例及び比較例で得られた各ポリエチレン系重合体について、JIS K7210 コードD:1999(温度=190℃、荷重=2.16kg)により、メルトフローレートを測定した。
(物性3)分子量(Mw/Mn及びMz/Mw)
実施例及び比較例で得られた各ポリエチレン系重合体20mgにo−ジクロロベンゼン15mLを導入して、150℃で1時間撹拌することでサンプル溶液を調製し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定を行った。測定結果から、市販の単分散ポリスチレンを用いて作成した検量線(一次近似)に基づいて、z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)、及び重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)を求めた。なお、測定に用いた材料ないし条件は以下のとおりとした。
装置:Waters社製150−C ALC/GPC
検出器:RI検出器
移動相:o−ジクロロベンゼン(高速液体クロマトグラフ用)
流量:1.0mL/分
カラム:昭和電工(株)製AT−807Sを1本と東ソー(株)製TSK−gelGMH−H6を2本連結したものを用いた。
カラム温度:140℃
(物性4)溶融張力(MT)
実施例及び比較例で得られた各ポリエチレン系重合体について、2.095mm径、長さ8.0mm、流入角90°のキャピラリーを備えた東洋精機(株)製キャピログラフ1Dを用い、溶融張力を測定した。60mm/minの速度でポリエチレン系重合体を190℃で押し出し、室温(約25±2℃)の環境下において、2m/minで引き取る時の張力を測定した。
(物性5)ヘキサンで抽出される炭素数12以上34以下の炭化水素成分量
実施例及び比較例で得られた各ポリエチレン系重合体(ペレット)10g、及び和光純薬工業(株)製PCB試験用ヘキサン40mLを、180mL容積のSUS製容器中に入れて密閉した。このSUS製容器全体を70℃の湯浴に浸し、50min-1速度で振とうしながら2時間抽出した後、20℃の水に浸し急冷した。上澄み液を、0.2μmフィルター(PTFE製)を取り付けたガラスシリンジで濾過し、サンプルとした。炭素数12と14の標準物質は、和光純薬工業(株)製特級n−ドデカンとn−テトラデカン、炭素数16から炭素数34の標準物質は、シグマアルドリッチ社製ASTM D5442 C16−C44 Qualitative Retention Time Mixを和光純薬工業(株)製PCB試験用ヘキサンに溶解して標準物質として用いた。
上記サンプルについて、(株)島津製作所製ガスクロマトグラフGC−2014AF、及び信和化工(株)製SiliconeOV−1(3%)/CW80−100mesh/AW−DMCS処理を充填した、ガラス製3mmφx1.5mのカラムを用いて測定した。温度は、インジェクション温度300℃、検出温度290℃で、初期温度100℃で2分間保持した後、10℃/minで昇温、280℃で10分間保持する条件で測定した。上記標準試薬のピークエリアとの比から、炭素数12以上34以下の炭化水素成分量を算出した。
(物性6)CFC溶出量(TREF溶出量)
実施例及び比較例で得られた各ポリエチレン系重合体について、昇温溶離分別(TREF)による溶出温度−溶出量曲線を以下のように測定し、各温度での溶出量、及び溶出積分量を求めた。まず、充填剤を含有したカラムを140℃に昇温し、ポリエチレン系重合体をオルトジクロロベンゼンに溶かした試料溶液を導入して120分間保持した。
次に、降温速度0.5℃/分で40℃まで降温した後、20分間保持し、試料を充填剤表面に析出させた。その後、カラムの温度を、昇温速度20℃/分で順次昇温した。40℃から80℃までは10℃間隔で昇温し、80℃から85℃までは5℃間隔で昇温し、85℃から90℃までは3℃間隔で昇温し、90℃から100℃までは1℃間隔で昇温し、100℃から120℃までは10℃間隔で昇温した。なお、各温度で20分間保持した後に昇温を行い、各温度で溶出した試料(ポリエチレン)の濃度を検出した。そして、試料の溶出量(質量%)とその時のカラム内温度(℃)との値より、溶出温度−溶出量曲線を測定し、各温度での溶出量、及び溶出積分量を得た。
・装置:Polymer ChAR社製Automated 3D analyzer CFC−2
カラム:ステンレススチールマイクロボールカラム(3/8”o.d x 150mm)
溶離液:o−ジクロロベンゼン(高速液体クロマトグラフ用)
試料溶液濃度:試料(ポリエチレン)20mg/o−ジクロロベンゼン20mL
注入量:0.5mL
ポンプ流量:1.0mL/分
検出器:Polymer ChAR社製赤外分光光度計IR4
検出波数:3.42μm
試料溶解条件:140℃×120min溶解
(物性7)塩素含有量
実施例及び比較例で得られた各ポリエチレン系重合体約0.05gを石英製ボートに入れて、(株)三菱アナリテック製自動燃焼装置中AQF−100で燃焼させた。発生した燃焼ガスをあらかじめ酒石酸を添加した吸収液に吸収させて、日本ダイオネクス(株)製イオンクロマトグラフ分析装置ICS−1500を用い、酒石酸を内標準物質として内標準法で定量を行った。
(物性8)Al、Mg、Ti、Zr、及びHfの合計含有量
実施例及び比較例で得られた各ポリエチレン系重合体約0.2gをPTFE製分解容器に秤取り、高純度硝酸を加えてマイルストーンゼネラル(株)製マイクロウェーブ分解装置ETHOS−TCにて加圧分解後、日本ミリポア(株)製超純水製造装置で精製した純水で全量を50mLとしたものを検液として使用した。上記検液に対し、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)Xシリーズ2を使用して、内標準法でAl、Mg、Ti、Zr、及びHfの定量を行った。
(物性9)二重結合量
実施例及び比較例で得られた各ポリエチレン系重合体の二重結合量は、「高分子ハンドブック」((公社)日本分析化学会)に記載のポリエチレンの異種結合の定量法に準拠して測定した。二重結合量(個/1000C)は、963cm-1のトランス(個/1000C)、910cm-1の末端ビニル(個/1000C)、888cm-1のビニリデン(個/1000C)の吸光度Aを測定することで求めた。計算式を下記に示す。
二重結合量=0.083A963/(ρ×t)+0.114A910/(ρ×t)+0.109A888/(ρ×t)
尚、Aは吸光度、ρは密度(g/cm3)、tは厚み(mm)を表す。
(物性10)ゲル分率
実施例及び比較例で得られた各架橋パイプのゲル分率は、JIS K 6787−1997水道用架橋ポリエチレン管 附属書7(規定)水道用架橋ポリエチレン管のゲル分率試験方法に準じて測定した。
(評価1)95℃熱間内圧クリープ破壊時間
実施例及び比較例で得られた各架橋パイプに95℃の温水中で5.5MPaの円周応力を印加し、割れ又は漏れが生じるまでの時間を測定し、95℃熱間内圧クリープ破壊時間として評価した。
(評価2)柔軟性
架橋パイプを、直径300mmの管状の筒(マンドレル) に巻きつけ、その巻きつけ度合により、柔軟性の評価を行った。すなわち、上記巻きつけによりキンク(座屈) しなかったものを○ 、キンク(座屈) したものを×と表示した。
(評価3)パイプ外観
実施例及び比較例で得られた各架橋パイプを目視にて確認し、下記基準によりパイプ外観を評価した。
○:パイプ内表面にゲル状物等による凹凸が無く良好であって、架橋パイプの7時間連続成形加工時に目やにの発生が無い場合。
△:パイプ内表面にゲル状物等による凹凸が無く良好であって、架橋パイプの7時間連続成形加工時に目やにが少量発生した場合。
×:パイプが柔らかく蛇行した、パイプ内表面にゲル状物等による凹凸が有り不良であったこと、及び架橋パイプの7時間連続成形加工時に目やにの発生が多かったこと、のいずれかの場合。
(評価4)表面粗さ
実施例及び比較例で得られた各架橋パイプついて、(株)東京精密製表面粗さ計HANDYSURF E−35Bを用いて、ISO4287−1997準拠のJIS B 0601−2001の規格に従い、最大高さ(Ry)を測定した。測定長は4mm、カットオフ値は0.8mmで測定を行った。測定は架橋パイプ外表面の任意の5点で行い、その平均値から下記基準により表面粗さを評価した。
◎:最大高さ(Ry)が2.0μm未満であった。
○:最大高さが(Ry)2.0μm以上4.0μm未満であった。
×:最大高さが(Ry)4.0μm以上であった。
(評価5)衛生性
実施例及び比較例で得られた各架橋パイプについて、沸騰ノルマルヘキサン抽出量を、ソックスレー抽出器を用い、ペレット状に粉砕した架橋パイプ2gをノルマルヘキサン溶媒400mLで2時間抽出することで測定した。全樹脂に対する抽出分の質量割合(質量%)から下記基準により衛生性を評価した。
◎:抽出分が0.1質量%未満であった。
○:抽出分が0.1質量%以上0.2質量%未満であった。
×:抽出分が0.2質量%以上であった。
(担体[C]の前駆体に対するルイス酸性化合物の飽和吸着量)
まず、担体[C]の前駆体として、球状シリカを用意した。次に、活性化剤化合物(E−1)として、トリエチルアルミニウム(ルイス酸性化合物)を用意した。球状シリカを窒素雰囲気下、400℃で5時間加熱処理した。加熱処理後の平均粒径が3μm、圧縮強度が6MPaであり、表面水酸基の量は1.85mmol/gであった。窒素雰囲気下、容量0.2Lガラス容器にこの加熱処理後の球状シリカ4gを添加し、ヘキサン80mLを添加して分散させることにより、シリカスラリーを得た。得られたシリカスラリーを攪拌下20℃にてトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1mol/L)を10mL加え、その後2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムとシリカの表面水酸基とを反応させ、ヘキサンスラリーを得た。このヘキサンスラリーの上澄み中のアルミニウム量を定量した結果、球状シリカに対するトリエチルアルミニウムの飽和吸着量は2.1mmol/gであった。
(担体[C]の調製)
窒素置換した容量1.8Lオートクレーブに加熱処理後の球状シリカ(40g)をヘキサン800mL中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーを攪拌下20℃に保ちながら、トリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1M)を80mL加え、その後2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムを吸着させた担体[C]のヘキサンスラリー880mLを調製した。
(遷移金属化合物[D]の調製)
遷移金属化合物(D−1)として、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム−1,3−ペンタジエン(以下、「チタニウム錯体」と略称する)を用意した。さらに、有機マグネシウム化合物(D−2)として、組成式AlMg6(C253(C4912(以下、「Mg1」と略称する)を用意した。なお、このMg1は、ヘキサン中、25℃で所定量のトリエチルアルミニウムとジブチルマグネシウムとを混合することにより合成した。チタニウム錯体200mmolをアイソパー(登録商標)E(エクソンモービルケミカル製)1000mLに溶解し、Mg1のヘキサン溶液(濃度1M)を20mL加え、更にヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を0.1Mに調整し、遷移金属化合物[D]を得た。
(活性化剤[E]の調製)
活性化化合物(E−2)として、ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム−トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と略称する。)を用意した。また、活性化化合物(E−3)として、有機アルミニウム化合物、エトキシジエチルアルミニウムを用意した。ボレート5.7gをトルエン50mLに添加して溶解し、ボレートの100mMトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1M)5mLを25℃で加え、さらにヘキサンを加えてトルエン溶液中のボレート濃度を80mMに調節した。その後、25℃で1時間攪拌することにより活性化剤[E]を調製した。
(メタロセン担持触媒[A]の調製)
上記操作により得られた担体[C]のスラリー880mLに、上記操作により得られた活性化剤[E]50mLを20℃で攪拌しながら添加し、10分間反応を継続した。次に、上記操作により得られた遷移金属化合物成分[D]40mLを攪拌しながら添加し、3時間反応を継続し、スラリーを得た。更に、このスラリーの上澄み液を除去して、ヘキサンを添加して撹拌する精製操作を3回実施し、塩素含有量が1質量ppm以下のメタロセン担持触媒[A](表1中、単に[A]と示す。)を調製した。
(液体助触媒[B]の調製)
有機マグネシウム化合物[G]として、上記Mg1を用意した。化合物[J]として、メチルヒドロポリシロキサン(25℃における粘度20センチストークス、信越シリコン社製)を使用した。200mLのフラスコに、ヘキサン40mLとMg1を、MgとAlの総量として37.8mmolとなるように攪拌しながら添加し、25℃でメチルヒドロポリシロキサン2.27g(37.8mmol)を含有するヘキサン40mLを攪拌しながら添加し、その後80℃に温度を上げて3時間、攪拌下に反応させることにより、液体助触媒成分[B]を調製した。
(チーグラー触媒[H]の調製)
充分に窒素置換された15Lの反応器に、トリクロロシラン(HSiCl3)を2mol/Lのn−ヘプタン溶液として2740mL仕込み、攪拌しながら50℃に保ち、組成式AlMg6(C253(n−C4910.8(On−C49)1.2で示される有機マグネシウム成分のn−ヘプタン溶液7L(マグネシウム換算で5mol)を3時間かけて加え、さらに50℃にて1時間攪拌下反応させた。反応終了後、固体を含む反応液から上澄み液を除去し、得られた固体をn−ヘキサン7Lで4回洗浄を行い、スラリーを得た。この固体を分離・乾燥して分析した結果、固体1グラム当たり、Mg8.62mmol、Cl17.1mmol、n−ブトキシ基(On−C49)0.84mmolを含有していた。
上記のようにして得られた固体500gを含有するスラリーを、n−ブチルアルコール1mol/Lのn−ヘキサン溶液1250mLとともに、攪拌下50℃で1時間反応させた。反応終了後、固体を含む反応液から上澄みを除去し、得られた固体を7Lのn−ヘキサンで1回洗浄を行い、スラリーを得た。このスラリーを50℃に保ち、ジエチルアルミニウムクロリド1mol/Lのn−ヘキサン溶液500mLを攪拌下加えて1時間反応させた。反応終了後、固体を含む反応液から上澄みを除去し、得られた固体を7Lのn−ヘキサンで2回洗浄を行い、スラリーを得た。このスラリーを50℃に保ち、ジエチルアルミニウムクロリド1mol/Lのn−ヘキサン溶液78mL及び四塩化チタン1mol/Lのn−ヘキサン溶液78mLを加えて、1時間反応した。さらに、この反応液に対し、ジエチルアルミニウムクロリド1mol/Lのn−ヘキサン溶液234mL及び四塩化チタン1mol/Lのn−ヘキサン溶液234mLを加えて、2時間反応した。反応終了後、固体を含む反応液から上澄みを除去し、内温を50℃に保った状態で、7Lのn−ヘキサンで4回洗浄して、固体触媒であるチーグラー触媒[H](表1中、単に[H]と示す。)をヘキサンスラリー溶液として得た。この固体触媒の塩素含有量は55質量%であった。
[実施例1]ポリエチレンの重合工程
一段目の重合として、攪拌装置が付いたベッセル型340L重合反応器を用い、重合温度70℃、重合圧力0.25MPa、平均滞留時間3.3時間の条件で連続重合を行った。溶媒として脱水ノルマルヘキサン40L/時間、触媒として上記の担持型メタロセン触媒[A]を50.0mg/時間、液体助触媒[B]をAl原子換算で4mmol/時間、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン0.25mol%、水素0.23mol%になるようにそれぞれを供給して1段目の重合を行った。尚、水素は担持型メタロセン触媒[A]と反応させた後、反応器に導入した。また、1段目の重合で得られたポリエチレン中の1−ブテン挿入量は0.22mol%であった。重合反応器内の重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように圧力0.05MPa、温度70℃のフラッシュタンクに導き、未反応のエチレン、1−ブテン、水素を分離した。
次に、連続的に二段目の攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器に移送して、
重合温度75℃、重合圧力0.82MPa、平均滞留時間0.5時間の条件で連続重合を行った。溶媒として脱水ノルマルヘキサン190L/時間、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン1.28mol%、水素0.10mol%になるようにそれぞれを供給して2段目の重合を行った。重合反応器内の重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05MPaのフラッシュドラムに抜き、未反応のエチレン、1−ブテンを分離した。尚、フラッシュタンクには5%加湿窒素を液中に1.5m3/時間ブローして、内温はジャケット冷却により35〜40℃に調整した。フラッシュドラム中におけるスラリーの滞留時間は0.8時間であった。
続いて、重合反応器内の重合スラリーを連続的に遠心分離機に送り、ポリマーとそれ以外の溶媒等を分離し、ポリエチレンパウダーを得た。その時のポリマーに対する溶媒等の含有量は45質量%であった。分離されたポリエチレンパウダーは、85℃で窒素ブローしながら乾燥した。
得られたポリエチレンパウダーを、中和剤や酸化防止剤等の添加剤を使用せずに、日本製鋼所社製TEX−44(スクリュー径44mm、L/D=35。L:重合反応機の原料供給口から排出口までの距離(m)、D:重合反応機の内径(m)。以下、同じ。)の二軸押出成形機に120メッシュ、350メッシュ、120メッシュの順にスクリーンを取り付けて使用し、195℃の樹脂温度で溶融混錬して造粒し、ペレット保存タンクで50℃に加温した窒素を15時間ブローし、ポリエチレン系重合体を得た。得られたポリエチレン系重合体の各種物性及び評価の結果を表1に示す。
エチレン−ブテン−1共重合体である、上記ポリエチレン系重合体100質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2.0質量部、有機過酸化物としてパーヘキサ25B(日本油脂社製)0.1質量部、ジオクチルスズジラウリレート0.05質量部をそれぞれ配合、ヘンシエルで混合し、Reifenhauser社製単軸押出し機RH501(スクリュー径50mm、L/D=30)とパイプ状ダイを組み合わせてポリエチレン系樹脂組成物をパイプ状に押し出し、冷却を経て、外径約18mm、肉厚約2.5mmのパイプを得た。その後、95℃の温水で加熱してシラノール縮合反応によりシラン架橋されたポリエチレン製架橋パイプを得た。得られた架橋パイプの各種物性及び評価の結果を表1に示す。
[実施例2]
一段目の重合として、重合圧力0.20MPaの条件で、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン0.16mol%、水素0.20mol%になるように供給し、二段目の重合として、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン0.94mol%、水素0.22mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン系重合体、及び架橋パイプを得た。尚、遠心分離後のポリマーに対する溶媒等の含有量は47%であった。各種物性及び評価の結果を表1に示す。
[実施例3]
一段目の重合として、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン0.20mol%、水素0.24mol%になるように供給し、二段目の重合として、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン1.14mol%、水素0.28mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン系重合体、及び架橋パイプを得た。尚、遠心分離後のポリマーに対する溶媒等の含有量は45%であった。各種物性及び評価の結果を表1に示す。
[実施例4]
一段目の重合として、重合温度75℃の条件で、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン0.09mol%、水素0.22mol%になるように供給し、二段目の重合として、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン1.15mol%、水素0.34mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン系重合体、及び架橋パイプを得た。尚、遠心分離後のポリマーに対する溶媒等の含有量は46%であった。各種物性及び評価の結果を表1に示す。
[比較例1]
一段目の重合として、重合温度80℃、重合圧力0.96MPaの条件で、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン0.42mol%、水素0.23mol%になるように供給し、二段目の重合を行わない以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン系重合体、及び架橋パイプを得た。尚、遠心分離後のポリマーに対する溶媒等の含有量は49%であった。各種物性及び評価の結果を表1に示す。ここで、(物性4)CFC溶出量における溶出ピークは、溶出ピーク極大温度1として表される単一のピークであった。
[比較例2]
一段目の重合として、1−ブテンを使用せず、エチレンの気相濃度に対して水素0.21mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.57MPaの条件で、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン1.70mol%、水素0.11mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン系重合体、及び架橋パイプを得た。尚、遠心分離後のポリマーに対する溶媒等の含有量は55%であった。評価結果を表1に示す。各種物性及び評価の結果を表1に示す。
[比較例3]
一段目の重合として、重合温度75℃の条件で、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン0.30mol%、水素0.20mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合圧力0.80MPaの条件で、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン1.48mol%、水素0.09mol%にして、フラッシュタンクに加湿窒素をフィードしなかった以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン系重合体、及び架橋パイプを得た。尚、遠心分離後のポリマーに対する溶媒等の含有量は55%であった。各種物性及び評価の結果を表1に示す。
[比較例4]
一段目の重合として、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン0.43mol%、水素0.15mol%になるように供給し、二段目の重合として、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン1.34mol%、水素0.11mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン系重合体、及び架橋パイプを得た。尚、遠心分離後のポリマーに対する溶媒等の含有量は63%であった。各種物性及び評価の結果を表1に示す。
[比較例5]
一段目の重合として、重合温度75℃の条件で、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン0.80mol%、水素0.24mol%になるように供給し、二段目の重合として、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン0.64mol%、水素0.43mol%にして、フラッシュタンクに加湿窒素をフィードしなかった以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン系重合体、及び架橋パイプを得た。尚、遠心分離後のポリマーに対する溶媒等の含有量は59%であった。各種物性及び評価の結果を表1に示す。
[比較例6]
一段目の重合として、重合温度73℃、重合圧力0.30MPaの条件で、触媒としてチーグラー触媒[A]を10mg/時間、液体助触媒成分をAl原子換算で10mmol/時間、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン0.50mol%、水素0.26mol%になるように供給し、二段目の重合として、重合温度86℃、重合圧力0.25MPaの条件で、エチレンの気相濃度に対して1−ブテン14.8mol%、水素3.52mol%にした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン系重合体、及び架橋パイプを得た。尚、遠心分離後のポリマーに対する溶媒等の含有量は52%であった。各種物性及び評価の結果を表1に示す。
[比較例7]
一段目の重合として、触媒を水素と接触させずに導入し、二段目で生成した重合スラリーを加湿窒素を液中フィードしていない圧力0.05MPa、温度50℃のフラッシュタンクに導き、平均滞留時間3.5時間の条件で、未反応のエチレン、1−ブテン、水素を分離した。続いて重合スラリーを濾過することによって、ポリエチレンパウダーと溶媒等を分離した。また造粒後、加温窒素でブローせず架橋パイプ成形に使用した以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレン系重合体、及び架橋パイプを得た。各種物性及び評価の結果を表1に示す。
Figure 0006778481
上記実施例及び比較例の各種物性及び評価の結果より、実施例におけるポリエチレン系重合体は、柔軟でありながら耐久性に優れるパイプを与え、かつ通水中の溶出成分が少なく、衛生性に優れるものとなることが分かった。また、比較例では、溶融張力や低分子量成分量等の影響で架橋パイプに成形した時にパイプ表面の平滑性が低下したが、実施例ではパイプ表面の凹凸が少なく、平滑性の高い架橋パイプとなることが分かった。
本発明に係るポリエチレン系重合体は、末端ビニル基数が少なく熱安定性に優れ、低分子量成分が極めて少なく、成形加工性に優れる。そのため、それからなる架橋パイプは、柔軟でありながら耐久性に優れ、パイプ成形時における押出機の負荷上昇、発熱、目やに等の問題もなく、パイプ表面が極めて平滑で、通水中の溶出成分も少なく衛生的であるため、特に高純度な水質が求められる医療用や工業用等の給水用、給湯用のパイプに好適に用いられる。

Claims (16)

  1. 密度が、930kg/m3以上940kg/m3以下であり、
    メルトフローレートが、1.0g/10min以上6.0g/10min以下であり、
    重量平均分子量に対するz平均分子量の比率が、2.5以上6.0以下であり、
    溶融張力(MT190℃)が、5.0mN以上30mN未満であり、
    ヘキサンで抽出される、炭素数12以上34以下の炭化水素成分の合計含有量が、300質量ppm以下であり、
    クロス分別クロマトグラフィーを用いた測定における、ポリエチレン総溶出量の溶解温度曲線において、極大点温度が70℃以上80℃未満である溶出ピークと極大点温度が80℃以上90℃未満である溶出ピークとがそれぞれ少なくとも1つ存在する、ポリエチレン系重合体。
  2. 数平均分子量に対する重量平均分子量の比率が、3.5以上6.0以下である、請求項1に記載のポリエチレン系重合体。
  3. 塩素含有量が、前記ポリエチレン系重合体に対して、5.0質量ppm以下である、請求項1又は2に記載のポリエチレン系重合体。
  4. Al、Mg、Ti、Zr、及びHfの合計含有量が、前記ポリエチレン系重合体に対して、20質量ppm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエチレン系重合体。
  5. ポリエチレンにおける1000個の炭素中に含まれる二重結合量が、0.05個以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリエチレン系重合体。
  6. 前記極大点温度が70℃以上80℃未満である溶出ピークの重量平均分子量(Mw)が、50000以上200000以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリエチレン系重合体。
  7. 架橋パイプ用である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリエチレン系重合体。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリエチレン系重合体と、該ポリエチレン系重合体100質量部に対して、0.005質量部以上5.0質量部以下の有機過酸化物と、0.1質量部以上10質量部以下の有機不飽和シラン化合物とを、含む、ポリエチレン系重合体組成物。
  9. 前記ポリエチレン系重合体組成物100質量部に対して、0.001質量部以上10質量部以下のシラノール縮合触媒をさらに含む、請求項8に記載のポリエチレン系重合体組成物。
  10. 架橋パイプ用である、請求項8又は9に記載のポリエチレン系重合体組成物。
  11. 請求項8〜10のいずれか一項に記載のポリエチレン系重合体組成物の架橋物からなる、架橋パイプ。
  12. ゲル分率が、65%以上である、請求項11に記載の架橋パイプ。
  13. 給水用、給湯用、又は暖房用のパイプに用いられる、請求項11又は12に記載の架橋パイプ。
  14. 少なくとも担体物質、有機アルミニウム化合物、活性水素を有するボレート化合物、シクロペンタジエン化合物、及び周期律表第IV族の遷移金属化合物から得られる担持型メタロセン触媒と、液体助触媒との存在下で、少なくともエチレンを重合し、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリエチレン系重合体を得る重合工程を有する、ポリエチレン系重合体の製造方法。
  15. 前記重合工程は、炭素数が6以上10以下の重合媒体を用いてスラリー重合法及び二段重合法により前記エチレンを重合する工程である、請求項14に記載のポリエチレン系重合体の製造方法。
  16. 前記液体助触媒が、有機マグネシウム化合物とメチルヒドロポリシロキサンから調製された液体助触媒である、請求項14又は15に記載のポリエチレン系重合体の製造方法。
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