以下、本発明に係る燃料タンク支持構造、および燃料電池車両の実施の形態について、図1から図9を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池車両の左側面図である。
図2は、本発明の実施形態に係る燃料電池車両の外装等(カバーやシート)を外した状態の左側面図である。
図3は、本発明の実施形態に係る燃料電池車両の外装等(カバーやシート)を外した状態の斜視図である。
なお、本実施形態における前後上下左右の表現は、燃料電池車両1の搭乗者を基準にする。図1から図3中の実線矢印Fは燃料電池車両1の前方を表し、実線矢印Rは燃料電池車両1の後方を表している。
図1から図3に示すように、本実施形態に係る燃料電池車両1は、燃料電池2で発電し、この電力でモータ3を駆動させて走行する。また、燃料電池車両1は、スクータ型の自動二輪車である。なお、燃料電池車両1は、三輪車や四輪車であっても良い。
燃料電池車両1は、前後に延びる車体5と、操舵輪としての前輪6と、前輪6を操舵自在に支えるステアリング機構7と、駆動輪としての後輪8と、後輪8を上下方向へ揺動自在に支えるスイングアーム9と、後輪8の駆動力を発生させるモータ3と、を備えている。
車体5は、車両の前後に延びるフレーム11と、フレーム11を覆う外装12と、フレーム11後半部の上方に配置されるシート13と、を備えている。
また、車体5は、燃料電池2と、燃料電池2で発電に使用される燃料としての水素の高圧ガスを貯蔵する燃料タンク15と、燃料電池2の電力を補助する二次電池16と、燃料電池2の出力電圧の調整と燃料電池2および二次電池16の電力の分配とを制御する電力管理装置17と、電力管理装置17が出力する直流電力を三相交流電力に変換してモータ3へ出力し、モータ3を運転するインバータ18と、これらを統括的に管理する車両コントローラ19と、を備えている。
燃料電池車両1のパワートレインは、燃料電池2および二次電池16を有し、車両の走行状態、燃料電池2の発電状態、二次電池16の蓄電状態によって各電池の電力を適宜に使うシステムである。また、燃料電池車両1は、減速する際にモータ3で回生電力を発生させる。車両の電源である二次電池16および燃料電池2は、インバータ18に並列に接続されてモータ3へ電力を供給する。二次電池16は、燃料電池車両1が減速する際にモータ3で発生する回生電力および燃料電池2が発電する電力を蓄える。
フレーム11は、複数の鋼鉄製中空管を一体に組み合わせたものである。フレーム11は、前端上部に配置されるヘッドパイプ21と、ヘッドパイプ21の中央部から後ろ下がりに傾斜して延びる上部ダウンフレーム22と、ヘッドパイプ21の下方に配置され、後ろ下がりに傾斜して延びる下部ダウンフレーム23と、左右一対の下部フレーム24と、左右一対の上部フレーム25と、ピボット軸26と、上ブリッジフレーム27と、下ブリッジフレーム28と、ガードフレーム29と、搭載機器保護フレーム30と、を備えている。
ヘッドパイプ21は、ステアリング機構7を操舵自在、つまり車両の左右方向へ揺動自在に支持している。
左右一対の下部フレーム24は、下部ダウンフレーム23の左右に配置され、ヘッドパイプ21の下部に接続されている。また、左右一対の下部フレーム24は、ヘッドパイプ21との接続部分から下部ダウンフレーム23に沿って略平行に、かつ後ろ下がりに傾斜して延びる前側傾斜部分と、前側傾斜部分の下端で後方に向かって湾曲する前側の湾曲部分と、前側の湾曲部分の後端から略水平に車体5の後方へ向かって車体5の中央部分(車両の前後方向で中央部分)に達するまで直線状に延びる直線部分と、を有している。さらに、左右一対の下部フレーム24は、直線部分の後端部から後上方に向けて湾曲する後ろ側の湾曲部分と、この後ろ側の湾曲部分の上端部から後ろ上がりに傾斜して延びる後側傾斜部分と、後側傾斜部分を上部フレーム25に接続する上下フレーム接合部と、を有している。なお、左右の下部フレーム24の間隔は、左右の上部フレーム25の間隔よりも広い。
左右の下部フレーム24の上部の間には、実質的に車両の左右方向へ直線状に延びるヘッドパイプ近傍ブリッジフレーム34が架設されている。また、左右それぞれの下部フレーム24は、フットレストブラケット31aを備えている。フットレストブラケット31aは、前側の湾曲部分の外側に配置されるフットボード31を下方から支持している。搭乗者は、フットボード31に足を置くことができる。
車体5の左側に配置される下部フレーム24は、サイドスタンドブラケット(図示省略)を備えている。サイドスタンドブラケット(図示省略)には、燃料電池車両1を左側へ傾けた状態で自立させるサイドスタンド(図示省略)が設けられている。サイドスタンドは、燃料電池車両1を自立させる起立位置と、走行の妨げとならないよう車体5に添う収納位置との間を揺動する。
左右一対の上部フレーム25は、車体5の前半部において下部フレーム24の前側傾斜部分の上下方向の中央部に接続されている。左右一対の上部フレーム25は、下部フレーム24の前側傾斜部分との接続部分から車体5の後方に向かって略水平に延びる水平部分と、左右一対の上部フレーム25の水平部分の後端であって、車体5の後半部、かつ後輪8の上方部分において後ろ上がりに大きく傾斜し、車体5の左右方向内側へ湾曲して後輪8の太さ(幅寸法)程度に接近する後端部と、を有している。
ピボット軸26は、車体5の後半部において左右の上部フレーム25間に架設されている。また、ピボット軸26は、上部フレーム25の下側、かつ上部フレーム25と下部フレーム24との合流部分(上下フレーム接合部)よりも後方であって、上部フレーム25の水平部分と下部フレーム24の後側傾斜部分とに接続されるブラケット26aに配置されている。ブラケット26aは、左右に一対ある。
上ブリッジフレーム27は、左右の上部フレーム25の前端部に架設されている。上ブリッジフレーム27は、左右の上部フレーム25の間を実質的に車両の左右方向へ直線状に延びて、左右の上部フレーム25を連結している。
下ブリッジフレーム28は、左右の下部フレーム24の前側の湾曲部分に架設されている。下ブリッジフレーム28は、左右の下部フレーム24の間を実質的に車両の左右方向へ直線状に延びて、左右の下部フレーム24を連結している。
ガードフレーム29は、左右の下部フレーム24の後側の湾曲部分に架設されている。ガードフレーム29は、左右の下部フレーム24との接続部分から後下方に延びるとともに、フレーム11の内部空間を拡大するように後ろ下がりのU字形状に延びている。ガードフレーム29には、燃料電池車両1を直立状態で自立させるセンタースタンド33が設けられている。センタースタンド33は、燃料電池車両1を自立させる起立位置と、走行の妨げとならないよう車体5に添う収納位置との間を揺動する。
上部ダウンフレーム22は、ヘッドパイプ21と上ブリッジフレーム27との間に架設されている。
下部ダウンフレーム23の上端部は、左右の下部フレーム24に架設されるヘッドパイプ近傍ブリッジフレーム34の車両の左右方向中央部に接続される上端部と、下ブリッジフレーム28の車両の左右方向中央部に接続される下端部と、を有している。
搭載機器保護フレーム30は、上部フレーム25の後半部の上部に設けられている。搭載機器保護フレーム30は、燃料電池2を燃料電池車両1の車体に支持している。また、搭載機器保護フレーム30は、その一部を上部フレーム25に着脱できる。
シート13は、フレーム11の後半部上方を覆って前後に延びている。シート13はタンデム式であり、搭乗者を着座させる前半部13aと、同乗者を着座させる後半部13bとを一体的に備えている。また、シート13は、前半部13aと後半部13bとの間に傾斜部13cを備えている。
ここで、左右の上部フレーム25および左右の下部フレーム24で囲まれる空間をセンタートンネル領域35と呼び、上部フレーム25の後半部、外装12およびシート13で囲まれる空間を機器搭載領域36と呼び、センタートンネル領域35の後方かつ機器搭載領域36の下方の空間をタイヤハウス領域37と呼ぶ。
センタートンネル領域35は、燃料タンク15を収容している。本実施形態に係るスクータ型の燃料電池車両1では、センタートンネル領域35は、車両の前後方向に沿って搭乗者が足を乗せる左右のフットボード31の間に配置され、フットボード31の足載せ領域を左右に分断するようにフットボード31よりも上方に隆起している。換言すると、センタートンネル領域35の左右には、足載せ領域となるフットボード31が配置され、左右のフットボード31の間に燃料タンク15が配置されている。
機器搭載領域36は、車体5の前側から順に二次電池16、電力管理装置17、燃料電池2を収容している。機器搭載領域36の前端部、中央部、後端部、および中央部から後端部に渡る側部は、搭載機器保護フレーム30によって保護されている。
搭載機器保護フレーム30は、機器搭載領域36を囲んで機器搭載領域36に搭載される機器を保護している。
タイヤハウス領域37には後輪8が配置されている。
機器搭載領域36とタイヤハウス領域37との間には、それぞれの領域を分断する隔壁部材としてのリアフェンダ38が設けられている。
外装12は、車体5の前半部を覆うフロントレッグシールドカバー41と、車体5の中央上部に配置されてセンタートンネル領域35などの上部フレーム25の上方を覆うフロントフレームカバー42と、車体5の後半部に配置されて機器搭載領域36などの車体5の側面のうちシート13の下方部分を覆うフレームカバー43と、を備えている。
フレームカバー43は、シート13とともに機器搭載領域36を囲んでいる。機器搭載領域36は、シート13、フレームカバー43およびリアフェンダ38に囲まれる閉鎖的な空間である。機器搭載領域36は、フレームカバー43、もしくはリアフェンダ38の適宜の箇所に設けられる通気孔(図示省略)によって、燃料電池2への空気の流れを容易、かつ確実に制御し、また冷却が必要な装置へ冷却風としての空気の流れを容易、かつ確実に制御している。なお、機器搭載領域36は、各カバー(フロントフレームカバー42、フレームカバー43など)の継ぎ目などから空気が入り込むことを許容する。
ステアリング機構7は、車体5の前方に配置されて、フレーム11のヘッドパイプ21を中心に左右方向へ揺動し前輪6の操舵を可能にする。ステアリング機構7は、頂部に設けられるハンドル45と、ハンドル45と前輪6とを連結し、若干後ろに傾斜して上下に延びる左右一対のフロントフォーク46と、を備えている。左右のフロントフォーク46は、弾性的に伸縮自在なテレスコピック構造を備えている。左右のフロントフォーク46の下端部には、前輪6を回転自在に支持する車軸(図示省略)が架設されている。前輪6の上方には、フロントフェンダ47が配置されている。フロントフェンダ47は、左右のフロントフォーク46の間にあって、フロントフォーク46に固定されている。
前輪6は、左右のフロントフォーク46の下端部に架設されている車軸の周りに回転自在な従動輪である。
スイングアーム9は、車体5の左右方向に延びている回転中心としてのピボット軸26の周りに上下方向へ揺動する。スイングアーム9は、車体5の左右で前後方向に延びる一対のアーム部の間に後輪8を回転自在に支持している。フレーム11とスイングアーム9との間には、リアサスペンション48が架設されている。リアサスペンション48の上端部は、上部フレーム25の後端部に揺動自在に支持されている。リアサスペンション48の下端部は、スイングアーム9の後端部に揺動自在に取り付けられている。リアサスペンション48は、スイングアーム9の揺動を緩衝する。
またスイングアーム9は、後輪8を回転駆動させるモータ3と、燃料電池2から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ3へ供給するインバータ18と、を収容している。
モータ3は、燃料電池2または二次電池16から供給される電力によって後輪8を回転駆動させ、これにより燃料電池車両1を走行させる。モータ3は、スイングアーム9の後部に収容されて、後輪8の車軸と同軸に配置されている。モータ3はスイングアーム9に一体的に組み付けられてユニットスイング式スイングアームを構成している。
インバータ18は、スイングアーム9の前部に収容されて、ピボット軸26とモータ3との間に配置されている。インバータ18は、電力管理装置17が出力する直流電力を三相交流電力に変換し、その交流電力の周波数を変更してモータ3の回転数を調整する。
後輪8は、モータ3から駆動力が伝達される車軸(図示省略)によって支えられる駆動輪である。
燃料電池2は、燃料と酸化剤とを反応させて発電する。燃料電池2は、燃料として高圧ガス、例えば水素ガスを使用し、酸化剤として空気中の酸素を使用して発電し、空気を用いて冷却する空冷式燃料電池システムである。
燃料電池2は、機器搭載領域36の後半側に配置されている。さらに具体的には、燃料電池2は、シート13の前半部13aと後半部13bとの間の傾斜部から後半部13bの下方に渡って配置されている。
燃料電池2は、車体5の前後方向に延びる長辺を有する直方体形状であって、吸気口2aが配置される正面を前斜め下方へ向け、排気口2bが配置される背面を後ろ斜め上方へ向ける姿勢で機器搭載領域36に配置されている。つまり、燃料電池2は、前方側が後方側よりも下方に位置する前傾姿勢でフレーム11に固定されている。燃料電池2の上部は搭載機器保護フレーム30に固定され、燃料電池2の下部は上部フレーム25に固定されている。
燃料電池2の後方には、排気ダクト52が設けられている。燃料電池2は、余剰ガスを排気ダクト52へ排気する。排気ダクト52の前端部は、燃料電池2に気密に接続されている。排気ダクト52は、車体5の後端で後下方と後上方に向かって開口される排気口52aを有している。排気ダクト52は、燃料電池2から吐出される排気(余剰ガス)を、排気口52aへ導いて車体5の後方へ排出する。
排気ダクト52の排気口52aは、燃料電池2の排気面(背面)よりも上方であって、望ましくは排気ダクト52の後方上端部に配置されている。換言すると、排気口52aの上縁部は、燃料電池2の排気口よりも高い位置に配置されている。排気ダクト52は、燃料電池2の排気面(背面)よりも上方に配置される排気口52aを有することによって、未反応の水素ガスを含む湿潤な余剰ガスを排気口52aに導いて車体5から確実に排気することができる。
燃料タンク15は高圧圧縮水素貯蔵システムである。燃料タンク15は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の、あるいはアルミライナ製複合容器である圧力容器55と、燃料充填口56を有する燃料充填用継手57と、燃料充填元弁58と、遮断弁(図示省略)とレギュレータ(図示省略)とを一体的に有する燃料供給元弁59と、二次減圧弁(図示省略)と、を備えている。
圧力容器55は、燃料電池2の燃料としての水素ガスを貯蔵するアルミライナ製複合容器である。燃料タンク15は、例えば約70MPaの水素ガスを貯蔵する。圧力容器55は、円筒形状の胴部と、胴部の前後の端面に設けられるドーム状の鏡板と、を有している。圧力容器55は、円筒胴の中心線を車体5の前後方向へ沿わせてセンタートンネル領域35内に配置されている。圧力容器55は、一対の上部フレーム25、一対の下部フレーム24、下ブリッジフレーム28、およびガードフレーム29に周囲を囲まれて、燃料電池車両1の転倒や衝突による負荷に対して堅牢に保護されている。
また、圧力容器55は、固定具61によってセンタートンネル領域35に支持されている。
燃料充填用継手57は、センタートンネル領域35の外側、詳しくはセンタートンネル領域35の後ろ上方であって、機器搭載領域36の前端部に配置されている。燃料充填用継手57は、二次電池16よりも上方、あるいは真上に配置されている。燃料充填用継手57は、搭載機器保護フレーム30の継手用ブラケット30fに固定されている。燃料充填用継手57は、燃料充填時に設備側の継手を車体の上方、かつ左側から差し込めるよう、車体5の上方、かつやや左側に向かって延びている。燃料充填用継手57は、シート13の前端部に設けられる燃料充填口用リッド62によって覆い隠されている。燃料充填口用リッド62は、ヒンジ機構(図示省略)を介してシート13に支持されており、揺動することで開閉する。燃料充填用継手57は、燃料としての水素の高圧ガスを燃料タンク15に導き入れる入口としての燃料充填口56を有している。
燃料充填口56は、燃料充填用継手57の頂部に配置されている。また、燃料充填口56は、車体5の左上方を向いている。燃料タンク15に燃料を充填する際、燃料充填口用リッド62を開放した状態において、燃料充填口56の上方は、雰囲気に開放されている。したがって、高圧ガス(燃料、水素ガス)を燃料タンク15に充填する際、仮に高圧ガス(燃料、水素ガス)が漏洩しても、漏洩燃料は滞留することなく燃料電池車両1の上方へ拡散する。
燃料充填元弁58および燃料供給元弁59は、一体化されて圧力容器55の後方側の鏡板の頂部に設けられているタンクバルブ63に内蔵されている。タンクバルブ63は、ガードフレーム29で囲まれた空間に配置されている。燃料供給元弁59は、遮断弁(図示省略)および一次減圧弁(図示省略)を備えている。燃料充填元弁58と燃料供給元弁59の遮断弁とは、電磁弁を用いた開閉弁である。燃料供給元弁59の一次減圧弁と二次減圧弁とは、圧力容器55からの高圧ガスの圧力を順次減圧して調整する。
二次電池16は、箱状のリチウムイオン電池である。二次電池16は、機器搭載領域36の前端部であって、圧力容器55の後半部、つまり円筒胴の後半部、および後方側の鏡板とシート13の前半部13aとの間に配置されている。
なお、燃料電池車両1は、二次電池16の他に、メータ類(図示省略)、ランプ類(図示省略)用の電源として、例えば12V系の電力を供給する第2二次電池(図示省略)を備えている。第2二次電池は、ヘッドパイプ21の周囲、例えば、ヘッドパイプ21の右側の側方に配置されている。
電力管理装置17は、機器搭載領域36内で二次電池16と燃料電池2との間に配置され、フレーム11に固定されている。なお、電力管理装置17は二次電池16と同じ防水ケース内に配置されていても良い。
車両コントローラ19は、燃料電池車両1内で比較的に高所となるヘッドパイプ21の周囲、例えば、12V系の電力を供給する第2二次電池の反対側にあたるヘッドパイプ21の左側の側方に配置されている。
次いで、燃料電池車両1の燃料タンク支持構造について詳しく説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る燃料タンク支持構造の正面図である。
図5は、本発明の実施形態に係る燃料タンク支持構造の平面図である。
図6は、本発明の実施形態に係る燃料タンク支持構造の側面図である。
図4から図6に示すように、本実施形態に係る燃料電池車両1の燃料タンク支持構造69は、複数の取付部71を有する車体5と、車体5に搭載される燃料タンク15と、燃料タンク15を複数の取付部71に固定する固定具61と、を備えている。
燃料タンク15の圧力容器55は、鏡板の頂部に設けられる配管(図示省略)を介して、または介さずにタンクバルブ63に流体的に接続されている。
複数の取付部71は、いわゆるブラケットまたはボスであり、車体5のフレーム11に設けられている。取付部71は、締結部材、例えばボルト72を締結するボルト穴(図示省略)を有している。
固定具61は、燃料タンク15の圧力容器55の胴部に巻き付けられ、センタートンネル領域35に配置される圧力容器55を支持している。
また、固定具61は、取付部71のそれぞれに固定される複数の固定部75と、隣り合う固定部75の間に配置されて燃料タンク15を保持する複数の保持部76と、固定部75のそれぞれから保持部76に向かって二股に分岐し固定部75と保持部76とを連結し燃料タンク15の変形に応じて分岐の間隔を変化させる複数の脚部77と、を備えている。
複数の取付部71、複数の固定部75、および複数の脚部77は、燃料タンク15の周囲に実質的に等間隔に配置されている。
複数の固定部75は、いわゆるフランジであり、ボルト72を配置する孔を有している。
複数の保持部76は、緩衝材78、例えばゴム板やゴムブロックを介して燃料タンク15を保持している。複数の保持部76は、燃料タンク15の外周部を環状に回っている。緩衝材78がゴム板のような一様な厚さを有している場合、複数の保持部76は、燃料タンク15の周囲を円環状に回る。また、緩衝材78が燃料タンク15を保持する円形の内周面と矩形等の多角形状の外周面とを有するゴムブロックの場合、複数の保持部76は、ゴムブロックの外周面に沿って多角形環状に回る。なお、ゴムブロックの内周面とは、燃料タンク15の外周面に接する面であり、ゴムブロックの外周面とは、燃料タンク15の径方向外側を臨む面である。換言すると、複数の保持部76は、燃料タンク15の外周部(圧力容器55の外周部)に面接触して、これを保持している。
複数の脚部77は、実質的に同じ形状と実質的に同じ寸法とを有している。換言すると、複数の脚部77は、合同である。それぞれの脚部77は、燃料タンク15に向かって開いている。脚部77は、燃料タンク15の中心から固定部75に延びる線分を中心に、燃料タンク15の周方向に線対称の形状を有している。具体的には、脚部77は、燃料タンク15の外周面の一部を底辺とし、燃料タンク15の径方向外側へ向かって突出する二等辺三角形状を描いている。
ここで、脚部77の一対の脚77aのなす角を頂角とする。脚部77は、燃料タンク15の変形に応じて分岐の間隔を変化させる。換言すると、脚部77は、燃料タンク15の変形に応じて隣り合う保持部76の間隔、つまり底辺の長さを変化させる。これにともない脚部77は、頂角を変化させつつ二等辺三角形を保つ。つまり、底辺に対する頂角の垂線は、底辺を実質的に二等分する位置を保つ。このとき、一対の脚77aは、燃料タンク15の外周面、保持部76、および固定部75に対する傾きを変える。この脚部77の形状変化は、固定具61の全周で見れば、複数の脚部77で実質的に一様に生じる。したがって、燃料タンク15の外周面の任意の1点に着目すると、この点は、燃料タンク15の変形にともなって燃料タンク15の径方向に移動することになる。
圧力容器55の中心が移動すると配管またはタンクバルブ63との接続部に強制変位が生じてしまうが、本実施形態に係る固定具61は、脚部77の形状変化によって圧力容器55の中心の移動を抑え、ひいては圧力容器55と配管またはタンクバルブ63との接続部に強制変位が生ずることを防いでいる。
なお、脚部77の分岐の間隔の変化とは、固定部75と脚部77との境界部分の変形、および保持部76と脚部77との境界部分の変形のいずれか一方によって行われれば良い。つまり、固定具61は、一対の脚77aのなす頂角、および保持部76と脚77aとのなす角の少なくともいずれか一方を変化させて脚部77の分岐の間隔を変化させる。
また、脚部77の形状変化は、燃料タンク15と保持部76との面接触状態を維持する。このため、固定具61は、燃料タンク15の保持を良好に維持できる。
なお、脚部77は、固定具61の全周で見て実質的に一様に形状を変化させる限りにおいて、台形状であっても良いし、矩形であっても良いし、五角形以上の多角形状であっても良い。また、脚部77は、円弧や楕円弧や一部が屈曲しているものを含むアーチ状であっても良い。この場合、固定部75に対する脚部77の変形度合と脚部77の屈曲部における変形度合とを異ならせてもよい。このようにすれば、固定部75に対する脚部77の関係と、脚部77と燃料タンク15との関係を考慮したうえで、固定部75と燃料タンク15を設計できるので、燃料タンクの中心の移動(偏心)を抑制できる。なお、変形度合を異ならせる具体例として、例えば、材質を変えたり、同じ材質であっても厚みを変えたり、ストッパを設けて変形度合を規制するなどがある。脚部77がアーチ状である場合、脚部77の分岐の間隔の変化は、脚77a自体の変形によって行われても良い。
固定部75、脚部77、および保持部76は、一様な厚さ寸法と幅寸法を有していても良いし、脚部77が開きやすいよう、脚部77の厚さ寸法や幅寸法が他の部分の厚さ寸法や幅寸法と異なっていても良い。
固定具61は、1つの保持部76、保持部76の両端部のそれぞれに設けられる脚部77の一方の脚77a、および脚77aのそれぞれに連接する固定部75の半体75aを有する同形状の複数の部品81を含んでいる。部品81は、環状に連結されて燃料タンク15を保持している。隣り合う部品81どうしは、それぞれの固定部75の半体75aを面接触させ、この状態で固定部75の半体75aを取付部71にボルト72で共締めされている。図4から図6に示す固定具61は、2つの部品81に分割され、組み立てられているものであるが、例えば図7のように4つの部品に分割され、組み立てられるものであっても良い。
部品81は、1つの保持部76、一対の脚77a、および一対の固定部75の半体75aを一体に有するバンドに、緩衝材78を一体化させたものであっても良い。部品81は、例えば、1つの保持部76、一対の脚77a、および一対の固定部75の半体75aを一体に有するバンドを緩衝材78としてのゴム板にインサート成型して製作される。
なお、固定具61は、全ての保持部76、脚部77、固定部75を有する一体のバンド状の部品を含んでいても良い。固定部75の2つの半体75aは、一体ものであっても良い。
また、固定具61は、燃料タンク15の変形に応じ脚部77を弾性変形させる。詳しくは、固定具61は、燃料タンク15の変形に応じ固定部75と脚部77との接続部分、および保持部76と脚部77との接続部分の少なくともいずれかを弾性変形させる。固定具61は、燃料タンク15が膨張すれば脚部77を開いて燃料タンク15の変形に追従し、燃料タンク15が収縮すれば脚部77を閉じて燃料タンク15の変形に追従する。このため、保持部76、脚部77、および固定部75を含む部品81、またはこれらを一体に有するバンドは、金属、例えばステンレス鋼で製作されている。
なお、固定具61は、図8に示すように固定部75と脚部77とを軸91(ピン)で揺動可能に連結したヒンジ機構92を備えていても良い。この場合、固定具61は、燃料タンク15の変形に脚部77の変形を追従させるため、脚部77に復元力を作用させるばねやエアシリンダのようなアクチュエータ93を備えていることが好ましい。アクチュエータ93は、燃料タンク15の変形を測定し、測定結果に基づいて電動機(図示省略)を駆動させて復元力を生じさせる電気式であっても良い。
さらに、固定具61は、図4から図6に示すように圧力容器55の胴部を保持するものに限られず、例えば、図9のように圧力容器55の胴部と鏡板との境界部分を保持していても良い。この場合、固定具61は、一対の鏡板のうち、タンクバルブ63が設けられている鏡板と胴部との境界部分を保持していることが好ましい。圧力容器55の胴部を保持する固定具61は、圧力容器55の長手方向(中心線に沿う方向)における変形に追従するよう、圧力容器55の長手方向に移動可能なスライド機構を有する取付部71に固定され、または固定具61自体が圧力容器55の長手方向の移動を許容できることが好ましい。図9のような固定具61は、燃料タンク15の伸縮にともなうタンクバルブ63の長手方向における移動を小さくする。
本実施形態に係る燃料電池車両1および燃料タンク支持構造69は、燃料タンク15の周囲に実質的に等間隔に配置される複数の取付部71、複数の固定部75、および複数の脚部77を備えているため、燃料タンク15の中心を移動(偏心)させることなく、高圧ガスの充填、放出にともなう燃料タンク15の変形に追従して燃料タンク15を保持できる。
また、本実施形態に係る燃料電池車両1および燃料タンク支持構造69は、同形状の複数の部品81を含むため、複数の固定部75、および複数の脚部77を容易に均等に配置できる。
さらに、本実施形態に係る燃料電池車両1および燃料タンク支持構造69は、同形状の複数の部品81を含むため、燃料タンク15の変形に追従する際の部品81間における変形の差異を抑え、ひいては固定具61の変形を全周において均一化させる。
さらにまた、本実施形態に係る燃料電池車両1および燃料タンク支持構造69は、同形状の部品81を含むため、量産効果を発揮しやすく、費用を抑制できる。
また、本実施形態に係る燃料電池車両1および燃料タンク支持構造69は、保持部76、脚部77、および固定部75を一体で扱えるため、組立性を向上できる。
さらに、本実施形態に係る燃料電池車両1および燃料タンク支持構造69は、燃料タンク15の変形に応じ脚部77を弾性変形させるため、燃料タンク15の膨張に追従させて固定具61に歪みエネルギーを蓄積し、蓄積した歪みエネルギーを消費させて固定具61を燃料タンク15の収縮に追従させて、燃料タンク15を確実に保持できる。
なお、本実施形態に係る燃料電池車両1および燃料タンク支持構造69は、取付部71、固定部75、保持部76、および脚部77を複数有しているが、本発明はこれに限られない。本発明は、例えば取付部71、固定部75、保持部76、および脚部77が単数であっても良い。つまり、脚部77のうち、一方の客77aを保持部76の一方の端部に接続し、他方の客77aを保持部76の他方の端部に接続し、燃料タンク15を取付部71、固定部75、保持部76、脚部77で片持ち状に支持しても良い。この場合も、本発明は、一対の脚77aを変形させることによって、燃料タンク15の中心の移動(偏心)を低減できる。
また、本発明は、複数の取付部71、複数の固定部75、および複数の脚部77を燃料タンク15の周囲に実質的に等間隔に配置することで、燃料タンク15の膨張および収縮による変形を固定部75の全周から見て実質的に均一なるように設定(許容)したが、これに限定されない。本発明は、固定部75と脚部77との変形度合、脚部77と燃料タンク15との変形度合、保持部76と燃料タンク15の変形度合を考慮して、固定具61全体として、燃料タンク15の膨張および収縮を均一に許容すればよい。
さらに、本発明は、燃料タンク15の偏心を許容できる所定の方向が決まっている場合(例えば、水平方向など)、この方向に偏心するよう取付部71、固定部75、および脚部77を配置しても良い。
さらにまた、燃料電池車両1が例えば四輪車の場合には、取付部72は、四輪車の車体フレームやフロアパネルに設けられる。
したがって、本発明に係る燃料電池車両1および燃料タンク支持構造69によれば、ガスの充填、放出にともなう燃料タンクの膨張、収縮を許容し、かつ、燃料タンクの膨張、収縮にともなう燃料タンクの中心の移動を防ぐことができる。