JP6751054B2 - 酸化物超電導線材、超電導コイル、および酸化物超電導線材の製造方法 - Google Patents

酸化物超電導線材、超電導コイル、および酸化物超電導線材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、酸化物超電導線材、超電導コイル、および酸化物超電導線材の製造方法に関する。
酸化物超電導線材、例えばイットリウム系超電導線材REBaCu7−δ(RE123、RE:希土類元素)は、金属テープ上に超電導層を含む酸化物薄膜を積層した構造に起因して、テープ面に垂直方向の力には比較的弱いことが知られている。
テープ状の線材を巻線してエポキシ樹脂等の樹脂で含浸した超電導コイルでは、各構成材の線膨張係数の差に起因して、冷却時に線材に垂直な方向の引張応力(剥離応力)が働き、超電導層が剥離等により破損して超電導特性が劣化することがある。
超電導層の剥離に対する対策としては、特許文献1に記載の技術がある。この線材は、表面に離形層が形成されているため、剥離応力が離形層で解放される。そのため、超電導層の剥離が起こりにくくなる。
特許第5426231号公報
しかしながら、前記酸化物超電導線材では、離形層で層間剥離が起きると、線材のターン間の熱伝導の悪化などにより超電導特性に影響が出るという問題がある。
本発明の一態様は、上記事情に鑑みてなされたものであり、超電導特性の劣化を抑制できる酸化物超電導線材、超電導コイル、および酸化物超電導線材の製造方法を提供することを課題とする。
本発明の一態様は、テープ状の基材に超電導層が形成された超電導積層体と、安定化層とを備え、前記安定化層は、前記超電導積層体の前記超電導層側の面である第1主面の少なくとも一部と、前記第1主面とは反対の第2主面の少なくとも一部と、を覆って形成され、前記安定化層の、前記第2主面に対する剥離強度は、前記第1主面に対する剥離強度より低い、酸化物超電導線材を提供する。
前記安定化層に、前記超電導積層体から剥離する方向の力を加えたときに、前記第2主面の99%の破壊確率の応力は、前記第1主面の4%の破壊確率の応力より低いことが好ましい。
前記超電導積層体の第2主面には、不動態酸化膜が形成されていることが好ましい。
本発明の一態様は、前記酸化物超電導線材が厚さ方向に積層された超電導コイルを提供する。
本発明の一態様は、テープ状の基材に超電導層を形成することによって超電導積層体を作製する工程と、前記超電導積層体の前記超電導層側の面である第1主面とは反対の第2主面に研磨を施す工程と、前記第1主面の少なくとも一部と、前記第2主面の少なくとも一部と、を覆う安定化層を形成する工程と、を有し、前記安定化層の、前記第2主面に対する剥離強度は、前記第1主面に対する剥離強度より低い、酸化物超電導線材の製造方法を提供する。
本発明の一態様によれば、第2主面における安定化層の剥離強度が低いため、剥離応力が作用したときには第2主面における安定化層が優先的に剥離する。その結果、剥離応力が第1主面に作用しにくくなる。そのため、酸化物超電導層等の剥離等の破損を回避することができる。よって、前記破損による超電導特性の劣化を防ぐことができる。
実施形態の酸化物超電導線材の構造を示す概略図である。 図1に示す酸化物超電導線材の拡大図である。 剥離試験に用いた試験装置を示す模式図である。 実施形態の酸化物超電導線材を用いた超電導コイルを示す概略図である。 剥離試験の結果を示す図である。 通電特性の試験結果を示す図である。
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
[酸化物超電導線材]
図1は、実施形態の酸化物超電導線材の構造を示す概略図である。図2は、図1に示す酸化物超電導線材の拡大図である。図1および図2は、酸化物超電導線材10の長手方向に垂直な断面の構造を模式的に示している。
図1および図2に示すように、本実施形態の酸化物超電導線材10は、超電導積層体5と、安定化層8とを備えている。
超電導積層体5は、基材1上に中間層2を介して酸化物超電導層3および保護層4が形成された構造を有する。詳しくは、超電導積層体5は、テープ状の基材1の一方の面に、中間層2と酸化物超電導層3と保護層4がこの順に積層された構成を有する。
以下、必要に応じてXY座標系に基づいて各方向の説明を行う。Y方向は、酸化物超電導線材10の厚さ方向であり、基材1、中間層2、酸化物超電導層3、保護層4等の各層が積層される方向である。X方向は、酸化物超電導線材10の幅方向であり、酸化物超電導線材10の長手方向および厚さ方向に直交する方向である。
基材1は、テープ状であり、例えば金属で形成されている。基材1を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金;ステンレス鋼;ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金などが挙げられる。基材1の厚さは、目的に応じて適宜調整すればよく、例えば10〜500μmの範囲である。
基材1の一方の面(中間層2が形成された面)を第1主面1aといい、第1主面1aと反対の面を第2主面1bという。
図2に示すように、基材1の表面には、不動態酸化膜6が形成されていてもよい。不動態酸化膜6は、基材1を構成する金属が自然酸化することで形成される自然酸化被膜であり、優れた耐食性を備えている。例えば、基材1がモリブデン、クロムを含有するニッケル合金のハステロイC(登録商標)の場合、不動態酸化膜6はモリブデン、クロムの酸化物である。一般的には、不動態酸化膜6の厚さは0.1〜10nmである。不動態酸化膜6は、基材1の第2主面1b(超電導積層体5の第2主面5c)を含む基材1の表面全体に形成されていてよい。不動態酸化膜6の形成された基材1の第2主面1bに、安定化層8が形成されることによって、第2主面5cに対する安定化層8の剥離強度を低くしやすくなる。
基材1の第2主面1bは、研磨面である。第2主面1bは、機械研磨により研磨された研磨面であることが好ましい。機械研磨は、例えば研磨粒子(例えばAl、SiC等からなる粒子)を用いて基材1の第2主面1bの表層領域を除去する処理である。基材1の第2主面1bの算術平均粗さRa(例えばJIS B0601:2013に準拠)は、1nm以上(例えば3nm以上)であることが好ましい。第2主面1bの算術平均粗さRaは、例えば1μm以下としてよい。
なお、第2主面1bを研磨する方法としては、機械研磨が好ましいが、電解研磨、化学研磨なども採用できる。
図1および図2に示すように、中間層2は、基材1と酸化物超電導層3との間に設けられる。中間層2は、基材1の第1主面1aに形成される。中間層2は、多層構成でもよく、例えば基材1側から酸化物超電導層3側に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これらの層は必ずしも1層ずつ設けられるとは限らず、一部の層を省略する場合や、同種の層を2以上繰り返し積層する場合もある。尚、中間層2は、酸化物超電導線材10において必須な構成ではなく、基材1自体が配向性を備えている場合は中間層2が形成されていなくてもよい。
拡散防止層は、基材1の成分の一部が拡散し、不純物として酸化物超電導層3側に混入することを抑制する機能を有する。拡散防止層は、例えば、Si、Al、GZO(GdZr)等から構成される。拡散防止層の厚さは、例えば10〜400nmである。
拡散防止層の上には、基材1と酸化物超電導層3との界面における反応を低減し、その上に形成される層の配向性を向上するためにベッド層を形成してもよい。ベッド層の材質としては、例えばY、Er、CeO、Dy、Eu、Ho、La等が挙げられる。ベッド層の厚さは、例えば10〜100nmである。
配向層は、その上のキャップ層の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から形成される。配向層の材質としては、例えば、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。配向層はIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法で形成することが好ましい。
キャップ層は、上述の配向層の表面に成膜されて、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料からなる。キャップ層の材質としては、例えば、CeO、Y、Al、Gd、ZrO、YSZ、Ho、Nd、LaMnO等が挙げられる。キャップ層の厚さは、50〜5000nmの範囲が挙げられる。
酸化物超電導層3は、酸化物超電導体から構成される。酸化物超電導体としては、特に限定されないが、例えば一般式REBaCu(RE123)で表されるRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体が挙げられる。希土類元素REとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。中でも、Y、Gd、Eu、Smの1種か、又はこれら元素の2種以上の組み合わせが好ましい。一般に、Xは、7−x(酸素欠損量x:約0〜1程度)である。酸化物超電導層3の厚さは、例えば0.5〜5μm程度である。この厚さは、長手方向に均一であることが好ましい。
酸化物超電導層3は、中間層2の主面2a(基材1側とは反対の面)に形成されている。
保護層4は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、酸化物超電導層3と保護層4の上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制する等の機能を有する。保護層4の材質としては、例えば銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、金と銀との合金、その他の銀合金、銅合金、金合金などが挙げられる。保護層4は、少なくとも酸化物超電導層3の主面3a(中間層2側とは反対の面)を覆っている。
保護層4は、酸化物超電導層3の側面、中間層2の側面、基材1の側面及び裏面から選択される領域の一部または全部を覆ってもよい。保護層4は2種以上又は2層以上の金属層から構成されてもよい。保護層4の厚さは、特に限定されないが、例えば1〜30μm程度が挙げられる。
図1および図2において、5aは超電導積層体5の第1主面(保護層4の主面4a)である。第1主面5aは超電導積層体5の酸化物超電導層3側の面である。
5bは超電導積層体5の側面(基材1の側面、中間層2の側面、酸化物超電導層3の側面、および保護層4の側面)である。5cは、第1主面5aとは反対の面であって、超電導積層体5の第2主面(基材1の第2主面1b)である。
安定化層8は、超電導積層体5の表面の少なくとも一部を覆って形成される。詳しくは、安定化層8は、超電導積層体5の第1主面5aの少なくとも一部、および第2主面5cの少なくとも一部を覆っている。安定化層8は、超電導積層体5の第1主面5a、側面5bおよび第2主面5cの全領域を覆って形成されることが好ましい。安定化層8の厚さは、特に限定されないが、例えば10〜300μm程度である。
安定化層8は、酸化物超電導層3が常電導状態に転移した時に発生する過電流を転流させるバイパス部としての機能を有する。安定化層8の構成材料としては、銅、銅合金(例えばCu−Zn合金、Cu−Ni合金等)、アルミニウム、アルミニウム合金、銀等の金属が挙げられる。安定化層8は、めっき(例えば電解めっき)によって形成することができる。
安定化層8の、超電導積層体5の第2主面5cに対する剥離強度は、第1主面5aに対する剥離強度より低い。剥離強度は、例えば、次に示すスタッドプル方法により測定することができる。スタッドプル方法には、例えば図3に示す測定装置20を用いることができる。図3に示すように、測定装置20は、バッキングプレート11と、支持部材12と、スタッドピン13とを備えている。支持部材12は被験体21の剥離方向の移動を規制できる。
被験体21はバッキングプレート11の表面に接着剤14(例えばエポキシ樹脂)によって接着される。スタッドピン13の先端は接着剤15(例えばエポキシ樹脂)によって被験体21の表面に接着される。スタッドピン13を、被験体21から離れる方向に移動させることによって、被験体21に対して剥離方向の力を加え、被験体21に剥離が生じたときの荷重(力)を剥離強度とする。
超電導積層体5の第2主面5cに対する安定化層8の剥離強度は、例えば第1主面5aに対する安定化層8の剥離強度の50%以下であってよい。
酸化物超電導線材10では、安定化層8に、超電導積層体5から剥離する方向(例えばY方向)の力を加えたときに、第2主面5cの99%の破壊確率の応力は、第1主面5aの4%の破壊確率の応力より低いことが好ましい。第2主面5cの99%の破壊確率の応力は、第1主面5aの1%の破壊確率の応力より低くてもよい。第2主面5cの99%の破壊確率の応力がこの範囲にあることによって、酸化物超電導線材10の超電導特性の劣化を抑制することができる。
[酸化物超電導線材の製造方法]
図1および図2に示す酸化物超電導線材10は、例えば次のようにして製造することができる。
(超電導積層体の作製工程)
基材1の第1主面1aに、中間層2、酸化物超電導層3、および保護層4を順次形成することによって超電導積層体5を得る。
(研磨工程)
超電導積層体5の第2主面5c(基材1の第2主面1b)に機械研磨等の研磨を施し、第2主面5cを研磨面とする。これにより、第2主面5cにおける安定化層8の剥離強度を低くできる。研磨によって、第2主面5cにおける安定化層8の剥離強度を低くできるのは、第2主面5cに付着した不純物(例えばセラミックス等)が除去されるためであると推測できる。
(安定化層の形成)
研磨工程において研磨した基材1の第2主面5cを含む超電導積層体5の表面に、安定化層8を形成する。安定化層8は、まず、超電導積層体5の表面にスパッタ法により下地金属層を形成し、次いで、下地金属層の表面にめっき法によりめっき金属層を成長させることで安定化層8を形成する。下地金属層は、厚さが0.1〜10μmであり、一般的にはめっき成長させる金属と同じ金属が用いられる。めっき金属層は、厚さ10〜300μmである。超電導積層体5の表面に、下地金属層とめっき金属層が形成されることで、安定化層8が形成される。
以上の工程を経て、酸化物超電導線材10を製造することができる。
図4は、実施形態の酸化物超電導線材を備えた超電導コイルの一例である超電導コイル100を示す図である。
超電導コイル100は、複数のコイル体101が積層されて構成されている。コイル体101は、パンケーキコイルであって、図1に示す酸化物超電導線材10が厚さ方向に積層されて巻回されている。パンケーキコイルとは、テープ状の酸化物超電導線材を重ね巻きするように巻回して構成されたコイルである。図4に示す超電導コイル100のコイル体101は円環状である。コイル体101は、含浸樹脂層(図示略)で覆われている。含浸樹脂層は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等からなる。複数のコイル体101は、互いに電気的に接続されていてよい。超電導コイル100は、超電導機器(図示略)に使用できる。
超電導コイル100を作製するには、酸化物超電導線材10を巻き枠に必要な層数巻き付けて多層巻きコイルを構成した後、巻き付けた酸化物超電導線材10を覆うようにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させて、酸化物超電導線材10を固定する方法を採用できる。
図1および図2に示す酸化物超電導線材10は、第2主面5cにおける安定化層8の剥離強度が、第1主面5aに対する安定化層8の剥離強度より低いため、次に示す効果を奏する。
酸化物超電導線材がコイル状に巻き回され、エポキシ樹脂などの樹脂が含浸された超電導コイルでは、酸化物超電導線材と樹脂の熱膨張係数の差に起因して、冷却時に、例えば超電導積層体の層が剥離する方向の応力(剥離応力)が働くことがある。
本実施形態の酸化物超電導線材10では、第2主面5cにおける安定化層8の剥離強度が低いため、剥離応力が作用したときには第2主面5cにおける安定化層8が優先的に剥離する。その結果、剥離応力が第1主面5aに作用しにくくなる。そのため、酸化物超電導層3等の剥離等の破損を回避することができる。よって、前記破損による超電導特性の劣化を防ぐことができる。
超電導コイル100では、酸化物超電導線材10の第2主面5cにおける安定化層8の剥離強度が低いため、剥離応力が作用したときには第2主面5cにおける安定化層8が優先的に剥離する。その結果、剥離応力が第1主面5aに作用しにくくなる。そのため、酸化物超電導層3等の剥離等の破損を回避することができる。よって、前記破損による超電導特性の劣化を防ぐことができる。
酸化物超電導線材10の製造方法によれば、酸化物超電導線材10の第2主面5cにおける安定化層8の剥離強度が低いため、剥離応力が作用したときには第2主面5cにおける安定化層8が優先的に剥離する。その結果、剥離応力が第1主面5aに作用しにくくなる。そのため、酸化物超電導層3等の剥離等の破損を回避することができる。よって、前記破損による超電導特性の劣化を防ぐことができる。
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
安定化層は、めっき以外の方法(例えばスパッタ法等)によって形成されていてもよいが、めっきによって形成するのが好ましい。
安定化層は、超電導積層体のすべての面(第1主面、側面および第2主面)を覆う構成が好ましいが、少なくとも、超電導積層体の第1主面の少なくとも一部と、第2主面の少なくとも一部とを覆う構成であればよい。
以下、図1に示す酸化物超電導線材10の試験結果について説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に限定されない。
(試験例1)
ハステロイからなる幅12mm、厚さ75μmのテープ状の基材を用意した。次のようにして、基材の主面に中間層を形成した。中間層は、拡散防止層、ベッド層、配向層およびキャップ層をこの順に積層した構成である。イオンビームスパッタ法により、基材の上にAlからなる厚さ100nmの拡散防止層を形成した。次いで、イオンビームスパッタ法により、拡散防止層の上にYからなる厚さ30nmのベッド層を形成した。次いで、IBAD法により、ベッド層の上にMgOからなる厚さ5〜10nmの配向層を形成した。次いで、配向層の上に、PLD法(パルスレーザ蒸着法)によりCeOからなる厚さ500nmのキャップ層を形成した。
キャップ層の上に、PLD法によりGdBaCu7−xからなる厚さ2μmの酸化物超電導層を形成した。
次いで、酸化物超電導層の上に、DCスパッタ法によりAgからなる厚さ2μmの保護層を形成し、超電導積層体(原材:幅12mm)を得た。この超電導積層体(原材)を、加熱炉内にて酸素雰囲気中で酸素アニール処理した。
超電導積層体(原材)を3つの超電導積層体(幅4mm)に分割した。
超電導積層体の第2主面を、平均粒径3μmの研磨粒子(アルミナ製)を使用して機械研磨加工した。第2主面の算術平均粗さRaは約3nmとなった。
この超電導積層体の表面に、DCスパッタ法により、Cuからなる下地金属層(超電導積層体の第1主面に厚さ約1μm、超電導積層体の側面および第2主面に厚さ約0.3μm)を形成した。次に、下地金属層が形成された超電導積層体の外周面に、Cuからなる厚さ20μmのめっき金属層を電解めっき法により成長させた。これにより安定化層を形成し、酸化物超電導線材を得た。
(比較例1)
超電導積層体の第2主面の研磨加工を行わないこと以外は実施例1と同様にして酸化物超電導線材を作製した。
実施例1において成膜工程ごとに線材をサンプリングし、図3に示す測定装置を用いて、超電導積層体の第1主面および第2主面における安定化層の剥離強度を測定した。結果を図5に示す。図5の横軸は剥離時の応力であり、縦軸は累積破壊確率(累積故障率)である。
図5に示すように、実施例1では、超電導積層体の第2主面に対する安定化層の剥離強度は、第1主面に対する安定化層の剥離強度より低かった。第2主面における破壊確率99%の応力は、第1主面における破壊確率4%の応力より低かった。
これに対し、比較例1では、第2主面に対する安定化層の剥離強度は、第1主面に対する安定化層の剥離強度とほぼ同等であった。
表1に示すように、実施例1の酸化物超電導線材を用いてコイル本体を作製した。このコイル本体にエポキシ樹脂を真空含浸して、シングルパンケーキ巻きの超電導コイルを得た。超電導コイルを液体窒素で冷却して、温度77.3KにてI−V特性(コイル通電特性)を評価した。結果を図6に示す。
比較例1についても、実施例1と同様にして超電導コイルを作製した。この超電導コイルのI−V特性(コイル通電特性)を図6に併せて示す。
Figure 0006751054
実施例1および比較例1の酸化物超電導線材を用いて作製した超電導コイルの劣化を調べた。劣化の判定は、液体窒素中で測定したn値(10−8〜10−6V/cm範囲)の結果に基づく。n値とは、I−V特性の近似曲線をべき乗数で表したときの乗数であり、このn値が変わると局所的にコイルの内部の線材から電圧が発生した(酸化物超電導線材が劣化した)と判断できる指標である。測定されたn値が20以下である場合に、酸化物超電導線材が劣化したと判定できる。
図6に示すように、比較例1ではn=約3.15であって劣化が見られたのに対し、実施例1ではn=約35.51であり、劣化は見られなかった。
1…基材、3…酸化物超電導層、5…超電導積層体、6…不動態酸化膜、8…安定化層、10…酸化物超電導線材、100…超電導コイル。

Claims (5)

  1. テープ状の基材に超電導層が形成された超電導積層体と、安定化層とを備え、
    前記安定化層は、前記超電導積層体の前記超電導層側の面である第1主面の少なくとも一部と、前記第1主面とは反対の第2主面の少なくとも一部と、を覆って形成され、
    前記安定化層の、前記第2主面に対する剥離強度は、前記第1主面に対する剥離強度より低い、酸化物超電導線材。
  2. 前記安定化層に、前記超電導積層体から剥離する方向の力を加えたときに、前記第2主面の99%の破壊確率の応力が、前記第1主面の4%の破壊確率の応力より低い、請求項1に記載の酸化物超電導線材。
  3. 前記超電導積層体の第2主面には、不動態酸化膜が形成されている、請求項1または2に記載の酸化物超電導線材。
  4. 請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の酸化物超電導線材が厚さ方向に積層された超電導コイル。
  5. テープ状の基材に超電導層を形成することによって超電導積層体を作製する工程と、
    前記超電導積層体の前記超電導層側の面である第1主面とは反対の第2主面に研磨を施す工程と、
    前記第1主面の少なくとも一部と、前記第2主面の少なくとも一部と、を覆う安定化層を形成する工程と、を有し、
    前記安定化層の、前記第2主面に対する剥離強度は、前記第1主面に対する剥離強度より低い、酸化物超電導線材の製造方法。
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