JP2014220194A - 酸化物超電導線材及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】酸化物超電導積層体の基材裏面側に形成される保護層を薄くした場合であっても、安定化層が剥離しにくい酸化物超電導線材を提供することを目的とする。【解決手段】基材と、基材の主面上に中間層及び酸化物超電導層が形成された酸化物超電導積層体と、酸化物超電導積層体の外周に形成されAg又はAg合金からなる保護層と、保護層上に形成された安定化層と、を備え、基材の中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaが65nm以下であることを特徴とする酸化物超電導線材。【選択図】図1
Description
本発明は、酸化物超電導線材及びその製造方法に関する。
近年のエネルギー、環境、資源問題を解決できる高効率、低損失の電気機器の一つに低電流損失の材料として超電導体を用いたケーブル、コイル、モーター、マグネットなどの超電導機器が挙げられる。これらの超電導機器に用いられる超電導体には、例えば、RE−123系(REBa2Cu3O(7−x):REはYやGdなどを含む希土類元素)等の酸化物超電導体が知られている。この酸化物超電導体は、液体窒素温度付近で超電導特性を示し、強磁界内でも比較的高い臨界電流密度を維持することができるため、他の超電導体と比べると広範囲に応用できると考えられており、実用上有望な材料として期待されている。
酸化物超電導体を電気機器に使用するためには、酸化物超電導体を線材に加工して、電力供給用の導体あるいは磁気コイル等の酸化物超電導線材として用いるのが一般的である。酸化物超電導線材は、テープ状の基材上に中間層を介して酸化物超電導層を成膜することで形成される。
酸化物超電導体は多湿環境に曝されると水分の影響を受けて結晶構造が乱れ、超電導特性が劣化することが知られている。したがって酸化物超電導層を水分から保護する必要があり、このためにAgからなる保護層を、酸化物超電導層上に形成することにより、水分から保護する技術が知られている。
酸化物超電導体は多湿環境に曝されると水分の影響を受けて結晶構造が乱れ、超電導特性が劣化することが知られている。したがって酸化物超電導層を水分から保護する必要があり、このためにAgからなる保護層を、酸化物超電導層上に形成することにより、水分から保護する技術が知られている。
Agは比較的高価な金属でありその使用量は少ない方が望ましい。したがって、Agからなる保護層は薄く形成されるが、薄いAgの保護層では満足な耐湿性を得られない虞がある。このため種々の構造が提供されている。
例えば、基材上に中間層を介して酸化物超電導層を成膜した積層体の酸化物超電導層上に保護層を形成し、前記積層体の外周に、電解めっき法によりCu等の安定化層を形成し、酸化物超電導線材の外周を水分から封止した構造が知られている。
例えば、基材上に中間層を介して酸化物超電導層を成膜した積層体の酸化物超電導層上に保護層を形成し、前記積層体の外周に、電解めっき法によりCu等の安定化層を形成し、酸化物超電導線材の外周を水分から封止した構造が知られている。
しかしながら、電解めっき法により安定化層を形成する場合、酸化物超電導線材を構成する各層に流れる電流密度は、それぞれの電気抵抗に依存しており同等でないために、安定化層の厚みが不均一となる問題があった。また、基材の材料として好適とされているNi基合金(例えばハステロイ:商品名、米国ヘインズ社製)は、難めっき材として知られており、Cuめっきを施しても密着性が悪くめっき被覆層(安定化層)が剥離してしまう虞があった。
そこで、特許文献1には、基材上に中間層を介して酸化物超電導層を形成してなる積層体の外周を、Agからなる保護層で完全に覆い、この保護層上にめっき法によりCuの安定化層を設けることで、均一な厚さの安定化層を形成する技術が開示されている。
そこで、特許文献1には、基材上に中間層を介して酸化物超電導層を形成してなる積層体の外周を、Agからなる保護層で完全に覆い、この保護層上にめっき法によりCuの安定化層を設けることで、均一な厚さの安定化層を形成する技術が開示されている。
このような酸化物超電導線材を製造する際、Agからなる保護層を形成した後に酸素雰囲気中において酸素アニール処理を行うのが一般的である。酸素アニール処理を行うことによって、酸化物超電導層に酸素を供給して結晶構造を整えることができる。
Agは比較的高価であるため保護層をさらに薄くすることが求められている。しかしながら、Agの保護層を薄くすると、酸素アニール処理時の熱によって、保護層を形成しているAgが局所的に凝集し、孤立分散した複数のAg粒子の集合体となってしまう。これにより、保護層にピンホールが形成され基材が露出してしまう。
Agは比較的高価であるため保護層をさらに薄くすることが求められている。しかしながら、Agの保護層を薄くすると、酸素アニール処理時の熱によって、保護層を形成しているAgが局所的に凝集し、孤立分散した複数のAg粒子の集合体となってしまう。これにより、保護層にピンホールが形成され基材が露出してしまう。
上述したように、基材の材料として好適とされるNi基合金はめっき被覆層との密着性が悪いため、基材が露出した保護層上にCu等のめっき被覆層(安定化層)を形成する場合においては、めっき被覆層が基材裏面側に密着せず剥離する虞がある。
また、Ni基合金は、半田との密着性も悪いため、裏面の一部が露出した保護層上にCu等の金属テープを半田付けして安定化層を形成する場合においても、半田が酸化物超電導積層体の基材裏面側と十分に接合せず、金属テープの密着性が低下する問題がある。
また、Ni基合金は、半田との密着性も悪いため、裏面の一部が露出した保護層上にCu等の金属テープを半田付けして安定化層を形成する場合においても、半田が酸化物超電導積層体の基材裏面側と十分に接合せず、金属テープの密着性が低下する問題がある。
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、酸化物超電導積層体の基材裏面側に形成される保護層を薄くした場合であっても、安定化層が剥離しにくい酸化物超電導線材を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために本発明の酸化物超電導線材は、基材と、前記基材の主面上に中間層及び酸化物超電導層が形成された酸化物超電導積層体と、前記酸化物超電導積層体の外周に形成されAg又はAg合金からなる保護層と、前記保護層上に形成された安定化層と、を備え、前記基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaが65nm以下であることを特徴とする。
本発明者らは、傷や異物により悪化した表面状態を有する面上に構成される保護層は、Agの凝集が顕著となることを見出した。
本発明の酸化物超電導線材によれば、基材の裏面の算術平均粗さRaを65nm以下することによって、基材裏面に形成される保護層のAgの凝集を抑制することができる。したがって、安定化層としてめっき被覆層を設ける場合においては、基材裏面側に対して密着性が高いめっき被覆層を形成することが可能となる。また、安定化層として金属テープを用い、当該金属テープを半田等からなる導電性接合層を介して接合する場合においては、基材裏面側に対する密着性が高い安定化層を形成することができる。基材裏面側に対する安定化層の密着性が高まることによって、酸化物超電導層に水分が浸入し難くなり超電導特性が劣化することを抑制できる。
本発明の酸化物超電導線材によれば、基材の裏面の算術平均粗さRaを65nm以下することによって、基材裏面に形成される保護層のAgの凝集を抑制することができる。したがって、安定化層としてめっき被覆層を設ける場合においては、基材裏面側に対して密着性が高いめっき被覆層を形成することが可能となる。また、安定化層として金属テープを用い、当該金属テープを半田等からなる導電性接合層を介して接合する場合においては、基材裏面側に対する密着性が高い安定化層を形成することができる。基材裏面側に対する安定化層の密着性が高まることによって、酸化物超電導層に水分が浸入し難くなり超電導特性が劣化することを抑制できる。
また、本発明の酸化物超電導線材は、前記基材の前記中間層と対向しない裏面に酸化膜が形成されていないことが好ましい。
保護層及び安定化層は、事故時に発生する過電流をバイパスする役割を果たす。酸化物超電導線材の厚みを大きくしないため、またコストを抑えるために、保護層及び安定化層はできるだけ薄く形成することが望まれる。しかしながら、保護層及び安定化層を薄くすると、十分な電流容量を確保することができず、保護層及び安定化層が焼損する虞があった。そこで、過電流が発生した際に、基材にも電流が流れるように保護層と基材の導通を確保することが望ましい。しかしながら、従来の製造方法に従い保護層を成膜後、酸素アニール処理を行うと、保護層と基材との間の抵抗値が著しく高くなってしまい、基材に十分なバイパス機能を付加することが困難であった。これは、酸素アニール時に基材が保護層を透過した酸素により酸化され保護層との界面に抵抗値の高い酸化膜が形成されるためであることを、本発明者らは見出した。また、当該酸化膜は、基材の表面を機械的又は化学的にエッチングすることで除去することができることを見出した。
本発明の酸化物超電導線材によれば、基材の裏面に酸化膜が形成されていないため、保護層と基材との導通が確保され、基材を過電流発生時のバイパスとして機能させることができる。即ち、電気的に安定した酸化物超電導線材を提供することができる。
より具体的には、保護層を成膜し酸素アニール処理を行った後に、基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaが65nm以下となるように研磨する。次いで、基材の裏面に保護層を成膜する。また、基材裏面の保護層成膜後には、酸素アニール処理を行わない。以上の工程を経ることによって、酸素アニール処理の過程で形成された、基材裏面の酸化膜を除去することができ、基材と保護層の導通を確保することができる。加えて、この酸化物超電導線材は、基材裏面の酸化物超電導線材を成膜後に酸素アニール処理を行わないため、基材裏面の保護層において、Agの凝集が起こらない。
本発明の酸化物超電導線材によれば、基材の裏面に酸化膜が形成されていないため、保護層と基材との導通が確保され、基材を過電流発生時のバイパスとして機能させることができる。即ち、電気的に安定した酸化物超電導線材を提供することができる。
より具体的には、保護層を成膜し酸素アニール処理を行った後に、基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaが65nm以下となるように研磨する。次いで、基材の裏面に保護層を成膜する。また、基材裏面の保護層成膜後には、酸素アニール処理を行わない。以上の工程を経ることによって、酸素アニール処理の過程で形成された、基材裏面の酸化膜を除去することができ、基材と保護層の導通を確保することができる。加えて、この酸化物超電導線材は、基材裏面の酸化物超電導線材を成膜後に酸素アニール処理を行わないため、基材裏面の保護層において、Agの凝集が起こらない。
また、本発明の酸化物超電導線材は、基材と、前記基材の主面上に中間層及び酸化物超電導層が形成された酸化物超電導積層体と、前記酸化物超電導積層体の外周に形成されAg又はAg合金からなる保護層と、前記保護層上に形成された安定化層と、を備え、前記基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaが、当該裏面に形成される前記保護層の厚さtが0.2μm以上の範囲において、
によって、与えられていることが好ましい。
本発明の酸化物超電導線材は、基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaと、Ag又はAg合金からなる保護層の前記基材の裏面上に形成される厚さを上述のような関係とすることによって、基材裏面側に保護層を成膜した後に、酸素アニール処理を行った場合において、当該酸素アニール処理の過程での基材裏面側に保護層のAg凝集を確実に抑制できる。
また、本発明の酸化物超電導線材は、基材と、前記基材の主面上に中間層及び酸化物超電導層が形成された酸化物超電導積層体と、前記酸化物超電導積層体の外周に形成されAg又はAg合金からなる保護層と、前記保護層上に形成された安定化層と、を備え、前記基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaと、当該裏面に形成される前記保護層の厚さとの関係が、前記裏面に形成される前記保護層の厚さが0.2μm以上0.5μm未満であるならば前記基材裏面の算術平均粗さRaが36nm以下であり、前記裏面に形成される前記保護層の厚さが0.5μm以上1μm未満であるならば前記基材裏面の算術平均粗さRaが44nm以下であり、前記裏面に形成される前記保護層の厚さが1μm以上であるならば前記基材裏面の算術平均粗さRaが57nm以下であることが好ましい。
本発明の酸化物超電導線材は、基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaと、Ag又はAg合金からなる保護層の前記基材の裏面上に形成される厚さを上述のような関係とすることによって、基材裏面側に保護層を成膜した後に、酸素アニール処理を行った場合において、当該酸素アニール処理の過程での基材裏面側に保護層のAg凝集を確実に抑制できる。
また、本発明の酸化物超電導線材は、前記安定化層がめっき法により形成されためっき被覆層であるか又は、導電性接合層を介して接合された金属テープであることが好ましい。
本発明によれば、上記の構成を有することにより水分浸入による超電導特性の劣化を抑制できる。
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、基材と、前記基材の主面上に中間層及び酸化物超電導層が形成された酸化物超電導積層体を用い、前記酸化物超電導積層体の外周に保護層を形成し、当該保護層上に安定化層を形成する酸化物超電導線材の製造方法であって、前記酸化物超電導積層体に前記保護層の第1成膜工程を行った後に酸素アニール処理を行い、前記基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaが65nm以下となるように前記基材裏面側を研磨し、前記酸化物超電導積層体の基材裏面側から前記保護層の第2成膜工程を行い、前記保護層上に安定化層を形成することを特徴とする。
本発明によれば、保護層の第1成膜工程、及び酸素アニール処理を行った後、基材裏面を研磨することで、酸素アニール処理により形成された基材裏面の酸化膜を除去することができる。また、酸化膜を除去した基材裏面に第2成膜工程により保護層を形成し、酸素アニール処理を行わないことで、保護層と基材との導通を確保した酸化物超電導線材を形成することができる。加えて、基材裏面の酸化物超電導線材を成膜後に酸素アニール処理を行わないため、基材裏面の保護層において、Agの凝集がおこらない。これにより、安定化層としてめっき被覆層を設ける場合においては、基材裏面側に対する密着性が高いめっき被覆層を形成することが可能となる。また、安定化層として金属テープを用い、当該金属テープを半田等からなる導電性接合層を介して接合する場合においては、基材裏面側に対する密着性が高い安定化層を形成することができる。基材裏面側に対する安定化層の密着性が高めることによって、酸化物超電導層に水分が浸入し難い酸化物超電導線材を提供することができる。
また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、基材と、前記基材の主面上に中間層及び酸化物超電導層が形成された酸化物超電導積層体を用い、前記酸化物超電導積層体の外周に保護層を形成し、当該保護層上に安定化層を形成する酸化物超電導線材の製造方法であって、前記酸化物超電導積層体に対して、前記基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaが、当該裏面に形成される前記保護層の厚さtが0.2μm以上の範囲において、
となるように当該基材裏面を平坦にし、前記酸化物超電導積層体に前記保護層の成膜工程を行った後に酸素アニール処理を行い、前記保護層上に安定化層を形成することを特徴とする。
酸化物超電導積層体の各層を成膜する際に線材の移送は、Reel to Reelで行われることが一般的である。即ち、一方のリールから送り出したテープ状の基材を成膜領域に送り、成膜後に他方のリールに巻き取ることによって成膜している。Reel to Reel方式での移送において、酸化物超電導積層体の基材裏面側は装置のリールと接触し無数の傷が形成される。また、各層の成膜時に、酸化物超電導積層体の基材裏面側には裏面側に回り込んだ各種粒子が付着し表面状態が悪化する。
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、酸化物超電導積層体の基材裏面を平坦にし、直後に保護層を成膜するため、酸化物超電導積層体各層の成膜工程において形成された傷や異物を取り除いた基材裏面側上に保護層を成膜できる。この保護層は、酸素アニール処理によってAgの凝集が起こりにくくなるため、安定化層としてめっき被覆層を設ける場合においては、基材裏面側に対する密着性が高いめっき被覆層を形成することが可能となる。また、安定化層として金属テープを用い、当該金属テープを半田等からなる導電性接合層を介して接合する場合においては、基材裏面側に対する密着性が高い安定化層を形成することができる。基材裏面側に対する安定化層の密着性が高めることによって、酸化物超電導層に水分が浸入し難い酸化物超電導線材を提供することができる。
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、酸化物超電導積層体の基材裏面を平坦にし、直後に保護層を成膜するため、酸化物超電導積層体各層の成膜工程において形成された傷や異物を取り除いた基材裏面側上に保護層を成膜できる。この保護層は、酸素アニール処理によってAgの凝集が起こりにくくなるため、安定化層としてめっき被覆層を設ける場合においては、基材裏面側に対する密着性が高いめっき被覆層を形成することが可能となる。また、安定化層として金属テープを用い、当該金属テープを半田等からなる導電性接合層を介して接合する場合においては、基材裏面側に対する密着性が高い安定化層を形成することができる。基材裏面側に対する安定化層の密着性が高めることによって、酸化物超電導層に水分が浸入し難い酸化物超電導線材を提供することができる。
本発明の酸化物超電導線材によれば、基材の裏面の算術平均粗さRaを65nm以下することによって、基材裏面に形成される保護層のAgの凝集を抑制することができる。したがって、安定化層としてめっき被覆層を設ける場合においては、基材裏面側に対して密着性が高いめっき被覆層を形成することが可能となる。また、安定化層として金属テープを用い、当該金属テープを半田等からなる導電性接合層を介して接合する場合においては、基材裏面側に対する密着性が高い安定化層を形成することができる。基材裏面側に対する安定化層の密着性が高まることによって、酸化物超電導層に水分が浸入し難くなり超電導特性が劣化することを抑制できる。
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
(酸化物超電導線材の第1実施形態)
図1に本発明に係る第1実施形態の酸化物超電導線材1を示す。酸化物超電導線材1は、酸化物超電導導体15の外周を導電性接合層24を介して金属テープ20で覆い安定化層14を形成し構成されている。
また、図3に示す酸化物超電導導体15は、テープ状の基材10の主面10aに中間層11、酸化物超電導層12が積層された酸化物超電導積層体16(図2参照)と、その外周に積層された保護層13から構成される。
以下、図2を基に、酸化物超電導積層体16の各構成要素について詳しく説明する。
図1に本発明に係る第1実施形態の酸化物超電導線材1を示す。酸化物超電導線材1は、酸化物超電導導体15の外周を導電性接合層24を介して金属テープ20で覆い安定化層14を形成し構成されている。
また、図3に示す酸化物超電導導体15は、テープ状の基材10の主面10aに中間層11、酸化物超電導層12が積層された酸化物超電導積層体16(図2参照)と、その外周に積層された保護層13から構成される。
以下、図2を基に、酸化物超電導積層体16の各構成要素について詳しく説明する。
<酸化物超電導積層体>
基材10は、通常の酸化物超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、可撓性を有する長尺のテープ状であることが好ましい。また、基材10に用いられる材料は、機械的強度が高く、耐熱性があり、線材に加工することが容易な金属を有しているものが好ましく、例えば、ステンレス鋼、ハステロイ(商品名、米国ヘインズ社製)等のニッケル合金等の各種耐熱性金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配した材料などが挙げられる。中でも、市販品であれば、ハステロイが好適である。このハステロイの種類には、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等が挙げられ、ここではいずれの種類も使用できる。また、基材10として、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金テープ基材等を適用することもできる。基材10の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は10〜500μm、好ましくは20〜200μmである。
基材10は、通常の酸化物超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、可撓性を有する長尺のテープ状であることが好ましい。また、基材10に用いられる材料は、機械的強度が高く、耐熱性があり、線材に加工することが容易な金属を有しているものが好ましく、例えば、ステンレス鋼、ハステロイ(商品名、米国ヘインズ社製)等のニッケル合金等の各種耐熱性金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配した材料などが挙げられる。中でも、市販品であれば、ハステロイが好適である。このハステロイの種類には、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等が挙げられ、ここではいずれの種類も使用できる。また、基材10として、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金テープ基材等を適用することもできる。基材10の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は10〜500μm、好ましくは20〜200μmである。
基材10の主面10aには、中間層11が形成されている。中間層11は、一例として拡散防止層、ベッド層、配向層、及びキャップ層がこの順に積層された構造を適用することができる。
拡散防止層は、この層よりも上面に他の層を形成する際に加熱処理した結果、基材10や他の層が熱履歴を受ける場合に、基材10の構成元素の一部が拡散し、不純物として酸化物超電導層12側に混入することを抑制する機能を有する。拡散防止層の具体的な構造としては、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、不純物の混入を防止する効果が比較的高いAl2O3、Si3N4、又はGZO(Gd2Zr2O7)等から構成される単層構造あるいは複層構造が望ましい。
拡散防止層は、この層よりも上面に他の層を形成する際に加熱処理した結果、基材10や他の層が熱履歴を受ける場合に、基材10の構成元素の一部が拡散し、不純物として酸化物超電導層12側に混入することを抑制する機能を有する。拡散防止層の具体的な構造としては、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、不純物の混入を防止する効果が比較的高いAl2O3、Si3N4、又はGZO(Gd2Zr2O7)等から構成される単層構造あるいは複層構造が望ましい。
ベッド層は、基材10と酸化物超電導層12との界面における構成元素の反応を抑え、この層よりも上面に設ける層の配向性を向上させるために用いられる。ベッド層の具体的な構造としては、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、耐熱性が高いY2O3、CeO2、La2O3、Dy2O3、Er2O3、Eu2O3、Ho2O3などの希土類酸化物から構成される単層構造あるいは複層構造が望ましい。
配向層は、その上に形成されるキャップ層や酸化物超電導層12の結晶配向性を制御したり、基材10の構成元素が酸化物超電導層12へ拡散することを抑制したり、基材10と酸化物超電導層12との熱膨張率や格子定数といった物理的特性の差を緩和したりする機能等を有するものである。配向層の材料には、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、Gd2Zr2O7、MgO、ZrO2−Y2O3(YSZ)等の金属酸化物を用いると、後述するイオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と呼ぶことがある。)において、結晶配向性の高い層が得られ、キャップ層や酸化物超電導層12の結晶配向性をより良好にできるため、特に好適である。
キャップ層は、酸化物超電導層12の結晶配向性を配向層と同等ないしそれ以上に強く制御したり、酸化物超電導層12を構成する元素の中間層11への拡散や、酸化物超電導層12の積層時に使用するガスと中間層11との反応を抑制したりする機能等を有するものである。キャップ層の材料には、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、CeO2、LaMnO3、Y2O3、Al2O3、Gd2O3、ZrO2、YSZ、Ho2O3、Nd2O3等の金属酸化物が酸化物超電導層12との格子整合性の観点から好適である。そのなかでも、酸化物超電導層12とのマッチング性から、CeO2、LaMnO3が特に好適である。
ここで、キャップ層にCeO2を用いる場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
ここで、キャップ層にCeO2を用いる場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
中間層11上には、酸化物超電導層12が形成される。酸化物超電導層12に用いられる材料には、通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、例えば、RE−123系超電導体、Bi系超電導体などの銅酸化物超電導体などが挙げられる。RE−123系超電導体の組成は、例えば、REBa2Cu3O(7−x)(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素、xは酸素欠損を表す。)が挙げられ、具体的には、Y123(YBa2Cu3O(7−x))、Gd123(GdBa2Cu3O(7−x))が挙げられる。Bi系超電導体の組成は、例えば、Bi2Sr2Can−1CunO4+2n+δ(nはCuO2の層数、δは過剰酸素を表す。)が挙げられる。
また、本実施形態において用いられる酸化物超電導層12の材料は、銅酸化物超電導体であり、以下、特に指定がなければ、酸化物超電導層12に用いる材料を銅酸化物超電導体とする。
また、本実施形態において用いられる酸化物超電導層12の材料は、銅酸化物超電導体であり、以下、特に指定がなければ、酸化物超電導層12に用いる材料を銅酸化物超電導体とする。
酸化物超電導積層体16の中間層(拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層)11及び酸化物超電導層12は、スパッタ法、イオンビームスパッタ法、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)、パルスレーザー蒸着法(PLD法)等により成膜することができるが、これらの成膜工程において、線材はReel to Reel方式により移送される。
Reel to Reel方式において、基材10は、供給リールに巻き付けられ、必要長さ繰り出すことができるように構成されている。供給リールから繰り出された基材10は、成膜領域を通過して巻取リールに巻き取られる。即ち、基材10を移送させ、成膜領域を通過させることで中間層11及び前記酸化物超電導層12を、長手方向に連続的に積層することができる。
また、供給リールと巻取リールとの間にローラーを配置し、当該ローラーによって、基材10の移送方向を反転させることによって、基材10を成膜領域に複数回通過させ、複数回の積層を行うことで膜厚を厚くすることもできる。
Reel to Reel方式において、基材10は、供給リールに巻き付けられ、必要長さ繰り出すことができるように構成されている。供給リールから繰り出された基材10は、成膜領域を通過して巻取リールに巻き取られる。即ち、基材10を移送させ、成膜領域を通過させることで中間層11及び前記酸化物超電導層12を、長手方向に連続的に積層することができる。
また、供給リールと巻取リールとの間にローラーを配置し、当該ローラーによって、基材10の移送方向を反転させることによって、基材10を成膜領域に複数回通過させ、複数回の積層を行うことで膜厚を厚くすることもできる。
<酸化物超電導導体>
上述の基材10、中間層11、酸化物超電導層12によって、図2に示す酸化物超電導積層体16を構成する。また、この酸化物超電導積層体16の外周を保護層13によって覆うことで、図3に示す酸化物超電導導体15を構成することができる。
図3に示すように、酸化物超電導積層体16の裏面16bであり即ち基材10の裏面10bには保護層13の裏面部13Bが形成され、酸化物超電導積層体16の主面16aであり即ち酸化物超電導層12の主面12aには保護層13の主面部13Aが形成される。さらに酸化物超電導積層体16の側面16c、16cには保護層13の側面部13C、13Cが形成されている。
上述の基材10、中間層11、酸化物超電導層12によって、図2に示す酸化物超電導積層体16を構成する。また、この酸化物超電導積層体16の外周を保護層13によって覆うことで、図3に示す酸化物超電導導体15を構成することができる。
図3に示すように、酸化物超電導積層体16の裏面16bであり即ち基材10の裏面10bには保護層13の裏面部13Bが形成され、酸化物超電導積層体16の主面16aであり即ち酸化物超電導層12の主面12aには保護層13の主面部13Aが形成される。さらに酸化物超電導積層体16の側面16c、16cには保護層13の側面部13C、13Cが形成されている。
保護層13は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、酸化物超電導層12とこの層よりも上面に設ける層との間で起こる化学反応を抑制し、一方の層の元素の一部が他方の層側に侵入して組成がくずれることにより起こる超電導特性が低下するのを防いだりするなどの機能を有するものである。また、酸化物超電導層12に酸素を取り込ませやすくするために、加熱時には酸素を透過しやすくさせる機能も有する。このため、保護層13は、AgあるいはAg合金のような少なくともAgを主成分とする材料からなることが好ましい。保護層13は、スパッタ法等の成膜法により形成することができる。
また、Ag又はAg合金からなる保護層13は、導電性接合材(例えば半田)やめっきとの密着性に優れている。したがって、保護層13を酸化物超電導積層体16の全周に形成することにより、安定化層14として金属テープ20を導電性接合層24を介して接合するにあたり(図1参照)、密着性が高い安定化層14を形成することができる。
加えて、第2実施形態(図5参照)の酸化物超電導線材2として後述するように、保護層13の外周に安定化層14としてめっき被覆層21を形成する場合においても、密着性が高い安定化層14を形成することができる。
加えて、第2実施形態(図5参照)の酸化物超電導線材2として後述するように、保護層13の外周に安定化層14としてめっき被覆層21を形成する場合においても、密着性が高い安定化層14を形成することができる。
ところで、上述したように酸化物超電導積層体16の各層(中間層11及び酸化物超電導層12)を成膜する際に、線材はReel to Reel方式により移送されるReel to Reel方式で線材を移送すると、酸化物超電導積層体16の裏面16b(即ち基材10の裏面10b)は、装置のリール及びローラー部等と接触し多数の傷が形成される。また、各層成膜時に各層の成膜粒子が基材10の裏面10bに、回り込み付着するため、面上に異物が散在している。
このような表面状態の基材10の裏面10bに保護層13の裏面部13Bを成膜した後に酸素アニール処理を行うと、裏面部13Bを構成するAgが凝集し保護層13にピンホールが形成される虞がある。
このような表面状態の基材10の裏面10bに保護層13の裏面部13Bを成膜した後に酸素アニール処理を行うと、裏面部13Bを構成するAgが凝集し保護層13にピンホールが形成される虞がある。
基材10の裏面10bに成膜される保護層13の裏面部13BのAg凝集は、酸素アニール処理の工程で起こる。酸素アニール処理は、酸化物超電導層12に酸素を供給して結晶構造を整えることを目的としているため、酸化物超電導層12側に成膜される保護層13の主面部13Aに対しては必須の工程であるが、基材10の裏面10bに成膜される裏面部13Bに対して行う必要はない。
そこで、まず、保護層13の主面部13A及び、側面部13C、13Cを形成し、酸素アニール処理を行い、さらに裏面部13Bを形成することで、保護層13の裏面部13BのAgの凝集を防ぐことができる。
そこで、まず、保護層13の主面部13A及び、側面部13C、13Cを形成し、酸素アニール処理を行い、さらに裏面部13Bを形成することで、保護層13の裏面部13BのAgの凝集を防ぐことができる。
また、図3に示すように、酸化物超電導積層体16の外周を保護層13で覆った酸化物超電導導体15に対して酸素アニール処理を行うと、保護層13を透過した酸素と基材10を構成する材料とが反応し、基材10の裏面10bの表面部分において酸化膜が形成される。この酸化膜は、基材10と保護層13の導通を阻害するため、酸化膜が形成された状態では基材10は過電流発生時のバイパスとして十分な機能を果たすことができない。
したがって、図3に示す酸化物超電導導体15を構成するにあたって、以下のような手順を経ることが望ましい。
まず、酸化物超電導積層体16の酸化物超電導層12が形成された面である主面16a側から、スパッタ法により保護層13の主面部13A及び側面部13C、13Cを形成する第1成膜工程を行う。
スパッタ法による成膜においては、酸化物超電導積層体16の主面16a側から成膜を行うと、主面16aのみならず側面16cにもスパッタ粒子(Ag粒子)が回り込む。したがって、酸化物超電導積層体16の主面16a側からスパッタ法により成膜を行うことで、保護層13の主面部13A及び側面部13C、13Cを形成することができる。また成膜条件によっては、酸化物超電導積層体16の裏面16bにもスパッタ粒子が回り込み、当該裏面16b上にも保護層13が成膜される。
まず、酸化物超電導積層体16の酸化物超電導層12が形成された面である主面16a側から、スパッタ法により保護層13の主面部13A及び側面部13C、13Cを形成する第1成膜工程を行う。
スパッタ法による成膜においては、酸化物超電導積層体16の主面16a側から成膜を行うと、主面16aのみならず側面16cにもスパッタ粒子(Ag粒子)が回り込む。したがって、酸化物超電導積層体16の主面16a側からスパッタ法により成膜を行うことで、保護層13の主面部13A及び側面部13C、13Cを形成することができる。また成膜条件によっては、酸化物超電導積層体16の裏面16bにもスパッタ粒子が回り込み、当該裏面16b上にも保護層13が成膜される。
次に、外周に第1成膜工程による保護層13が形成された酸化物超電導積層体16に対して、酸素アニール処理を行う。酸素アニール処理を行うことによって、酸化物超電導層12に酸素が供給され結晶構造を整えることができる。また、基材10の裏面10b側にも酸素が供給され、裏面10bにおいて酸化膜が形成される。
次に、図4に示すように、酸化物超電導積層体16の裏面16b上に形成された保護層13を除去するとともに、前記基材10の裏面10bの表面を研磨する研磨処理を行い、基材10の裏面10bの算術平均粗さRaを65nm以下とした副次酸化物超電導導体15’を形成する。
基材10の裏面10bには、酸化膜が形成されており、基材10の裏面10bを研磨し、表面粗さRaを65nm以下とすることによって、この酸化膜を除去することができる。基材10の裏面10bであって、保護層13との界面に形成される酸化膜は、電気抵抗が高く、保護層13と基材10の導通を阻害する。したがって、基材10の裏面10b上に形成された保護層13を、研磨処理によって一旦除去し、さらに基材10の裏面10b上の酸化膜も合わせて除去する。
基材10の裏面10bには、酸化膜が形成されており、基材10の裏面10bを研磨し、表面粗さRaを65nm以下とすることによって、この酸化膜を除去することができる。基材10の裏面10bであって、保護層13との界面に形成される酸化膜は、電気抵抗が高く、保護層13と基材10の導通を阻害する。したがって、基材10の裏面10b上に形成された保護層13を、研磨処理によって一旦除去し、さらに基材10の裏面10b上の酸化膜も合わせて除去する。
研磨方法として、機械研磨が好適に用いられる。一例として、研磨ブラシを用いて、供給リールから順次供給される線材の基材10の裏面10bを連続的に研磨する方法等がある。
次に、この副次酸化物超電導導体15’に対して、基材10の裏面10b側から、スパッタ法により保護層13の裏面部13Bを形成する第2成膜工程を行い、図3に示す酸化物超電導導体15を形成する。
この酸化物超電導導体15の基材10の裏面10bには、酸化膜が形成されていない(除去されている)ため、基材10と保護層13の導通を十分に確保することができる。また、保護層13の裏面部13B成膜後には、酸素アニール処理を行っていないため、裏面部13Bにおいて、Agの凝集が起こらない。したがって、裏面部13Bにピンホールが形成されることがない。
この酸化物超電導導体15の基材10の裏面10bには、酸化膜が形成されていない(除去されている)ため、基材10と保護層13の導通を十分に確保することができる。また、保護層13の裏面部13B成膜後には、酸素アニール処理を行っていないため、裏面部13Bにおいて、Agの凝集が起こらない。したがって、裏面部13Bにピンホールが形成されることがない。
<酸化物超電導線材>
図1に示す本実施形態の酸化物超電導線材1は、酸化物超電導導体15の外周を導電性接合層24を介して金属テープ20によって覆い安定化層14を形成することにより構成される。
酸化物超電導線材1は、Snをめっきするなどして導電性接合層24を設けた金属テープ20の面上に酸化物超電導導体15を配置し、酸化物超電導導体15の周面を横断面略C字型をなすように包み込んで折り曲げ加工し、導電性接合層24を加熱溶融させてロールにより加圧することにより形成されている。
金属テープ20は、横断面略C字型に折り曲げられ、主面壁20Aと側壁20C、20Cと裏面壁20B、20Bとからなり、酸化物超電導導体15の酸化物超電導層12側から基材10側の一部を覆っている。また、金属テープ20の内周面側には導電性接合層24が形成される。
以上のように、金属テープ20によって酸化物超電導導体15を被覆し安定化層14を形成することで、内部に水分を浸入させない気密な構造を実現できる。
なお、金属テープ20の導電性接合層24は、酸化物超電導導体15と接する面(内側面)のみに形成されているが、金属テープ20の両面に導電性接合層24を設けていても良い。
また、酸化物超電導導体15を金属テープ20によって略C字型に被覆する以外にも、酸化物超電導導体15の外周に導電性接合層24を設けた金属テープ20を螺旋巻きにするなどして気密に被覆しても良い。
図1に示す本実施形態の酸化物超電導線材1は、酸化物超電導導体15の外周を導電性接合層24を介して金属テープ20によって覆い安定化層14を形成することにより構成される。
酸化物超電導線材1は、Snをめっきするなどして導電性接合層24を設けた金属テープ20の面上に酸化物超電導導体15を配置し、酸化物超電導導体15の周面を横断面略C字型をなすように包み込んで折り曲げ加工し、導電性接合層24を加熱溶融させてロールにより加圧することにより形成されている。
金属テープ20は、横断面略C字型に折り曲げられ、主面壁20Aと側壁20C、20Cと裏面壁20B、20Bとからなり、酸化物超電導導体15の酸化物超電導層12側から基材10側の一部を覆っている。また、金属テープ20の内周面側には導電性接合層24が形成される。
以上のように、金属テープ20によって酸化物超電導導体15を被覆し安定化層14を形成することで、内部に水分を浸入させない気密な構造を実現できる。
なお、金属テープ20の導電性接合層24は、酸化物超電導導体15と接する面(内側面)のみに形成されているが、金属テープ20の両面に導電性接合層24を設けていても良い。
また、酸化物超電導導体15を金属テープ20によって略C字型に被覆する以外にも、酸化物超電導導体15の外周に導電性接合層24を設けた金属テープ20を螺旋巻きにするなどして気密に被覆しても良い。
金属テープ20を構成する金属材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが銅、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、ステンレス等の比較的安価な材質からなるものを用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることから銅製が好ましい。また、酸化物超電導線材1を超電導限流器に使用する場合においては、金属テープ20に用いられる材料は、例えば、Ni−Cr等のNi系合金等の高抵抗金属を用いる事が良い。
金属テープ20の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、9〜60μmとすることができる。金属テープ20の厚さが薄すぎると破れが生じる虞があり、また厚すぎると、金属テープ20を横断面略C字型に成形することが困難となるのみならず、成形時に高い応力を加える必要があるため酸化物超電導層12が劣化する虞がある。
金属テープ20の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、9〜60μmとすることができる。金属テープ20の厚さが薄すぎると破れが生じる虞があり、また厚すぎると、金属テープ20を横断面略C字型に成形することが困難となるのみならず、成形時に高い応力を加える必要があるため酸化物超電導層12が劣化する虞がある。
導電性接合層24としては半田を用いる事ができ、半田としては特に限定されるものではなく従来公知の半田を使用可能である。例えば、Sn、Sn−Ag系合金、Sn−Bi系合金、Sn−Cu系合金、Sn−Zn系合金などのSnを主成分とする合金よりなる鉛フリー半田、Pb−Sn系合金半田、共晶半田、低温半田などが挙げられ、これらの半田を一種又は二種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、融点が300℃以下の半田を用いることが好ましい。これにより、300℃以下の温度で金属テープ20と保護層13を半田付けすることが可能となるので、半田付けの熱によって酸化物超電導層12の特性が劣化することを抑止できる。
酸化物超電導線材1において、酸化物超電導積層体16の外周が、導電性接合層24を構成する半田等と密着性の良い保護層13によって覆われて酸化物超電導導体15を構成している。したがって、導電性接合層24を介して金属テープ20と酸化物超電導導体15が強固に密着し気密性が高く剥離しづらい安定化層14を形成した酸化物超電導線材1を得ることができる。
特に、金属テープ20の裏面壁20B、20Bは、基材10の裏面側に導電性接合層24を介して接合されており、当該基材10の裏面10bに形成される保護層13の裏面部13Bは、Agの凝集が起こっていないため、導電性接合層24との密着性が高い。したがって、金属テープ20の裏面壁20Bと保護層13の裏面部13Bとの境界部から水分が浸入することを効果的に防ぐことができ、水分による超電導特性の劣化を抑制できる。
特に、金属テープ20の裏面壁20B、20Bは、基材10の裏面側に導電性接合層24を介して接合されており、当該基材10の裏面10bに形成される保護層13の裏面部13Bは、Agの凝集が起こっていないため、導電性接合層24との密着性が高い。したがって、金属テープ20の裏面壁20Bと保護層13の裏面部13Bとの境界部から水分が浸入することを効果的に防ぐことができ、水分による超電導特性の劣化を抑制できる。
(第1実施形態の変形例)
次に、上述した第1実施形態の酸化物超電導線材1の変形例について説明する。
変形例の酸化物超電導線材は、第1実施形態の酸化物超電導線材1と比較して、図面上同様の構成要素を備えるがその製造方法並びに詳細な構成要件が異なる。したがって、第1実施形態の酸化物超電導線材1と同じ図、同じ符号を用いて以下に詳しく説明する。
次に、上述した第1実施形態の酸化物超電導線材1の変形例について説明する。
変形例の酸化物超電導線材は、第1実施形態の酸化物超電導線材1と比較して、図面上同様の構成要素を備えるがその製造方法並びに詳細な構成要件が異なる。したがって、第1実施形態の酸化物超電導線材1と同じ図、同じ符号を用いて以下に詳しく説明する。
図1に示す変形例の酸化物超電導線材1は、上述した第1実施形態と同様の工程を経て形成された酸化物超電導積層体16を備える。したがって、酸化物超電導積層体16の裏面16b(即ち基材10の裏面10b)は、傷や異物が散在しており、このような表面状態の基材10の裏面10bに保護層13の裏面部13Bを成膜し、酸素アニール処理を行うと、裏面部13Bを構成するAgが凝集し保護層13にピンホールが形成される虞がある。
保護層13の裏面部13Bの膜厚tを大きくすることで、酸素アニール処理時のAgの凝集を抑制することができるが、保護層13を構成するAg又はAg合金は比較的高価な材料であるため、裏面部13Bはできるだけ薄く形成することが好ましい。
保護層13の裏面部13Bの膜厚tを大きくすることで、酸素アニール処理時のAgの凝集を抑制することができるが、保護層13を構成するAg又はAg合金は比較的高価な材料であるため、裏面部13Bはできるだけ薄く形成することが好ましい。
そこで変形例の酸化物超電導線材1の製造方法は、酸化物超電導積層体16の外周に保護層13を形成し酸化物超電導導体15を形成する過程で、まず、酸化物超電導積層体16の裏面16b、即ち基材10の裏面10bを研磨などにより平坦にし、当該裏面10bの算術平均粗さRaを65nm以下とした後に、保護層13を成膜しさらに酸素アニール処理を行う。これによって基材10の裏面10b上に形成される保護層13裏面部13BのAg凝集を抑制することができる。
なお、本変形例の酸化物超電導線材1の製造工程における保護層13の成膜工程は、第1成膜工程と第2成膜工程にわかれておらず、一連の成膜工程で酸化物超電導積層体16の主面16a、裏面16b、側面16c、16cに保護層13の主面部13A、裏面部13B、側面部13C、13Cを形成する。
なお、本変形例の酸化物超電導線材1の製造工程における保護層13の成膜工程は、第1成膜工程と第2成膜工程にわかれておらず、一連の成膜工程で酸化物超電導積層体16の主面16a、裏面16b、側面16c、16cに保護層13の主面部13A、裏面部13B、側面部13C、13Cを形成する。
酸素アニール処理においてAgの凝集を抑制するためには、保護層13の裏面部13Bの膜厚tを大きくする方法と、基材10の裏面10bの算術平均粗さRaと小さくする方法があることは既に述べた。これらの手段はいずれもコスト高に直結するため、保護層13裏面部13Bの膜厚tを極力小さくし、基材10の裏面10bの算術平均粗さRaを極力大きくして、しかもAgの凝集を抑制できることが望まれる。
本発明者らは、鋭意検討によって、Agの凝集を抑制できる上記膜厚tと上記算術平均粗さRaの一定の関係を見出した。
即ち、保護層13の裏面部13Bの保護層の厚さtが0.2μm以上の範囲において、
によって、与えられる保護層13の裏面部13Bの厚さtと、当該裏面部13Bが形成される基材10の裏面10bの算術平均粗さRaであることによって、保護層13裏面部13BのAg凝集を抑制することができる。即ち、基材10の裏面10bを上述の算術平均粗さRaとなるように平坦化することで、安価に、またより確実にAgの凝集を抑制できる。
本発明者らは、鋭意検討によって、Agの凝集を抑制できる上記膜厚tと上記算術平均粗さRaの一定の関係を見出した。
即ち、保護層13の裏面部13Bの保護層の厚さtが0.2μm以上の範囲において、
また、より限定的には、厚さtが0.2μm以上0.5μm未満である場合においては、裏面10bの算術平均粗さRaが36nm以下であり、厚さtが0.5μm以上1μm未満である場合においては、裏面10bの算術平均粗さRaが44nm以下であり、厚さtが1μm以上である場合においては、裏面10bの算術平均粗さRaが57nm以下であることが望ましい。
本変形例の酸化物超電導線材1は、第1実施形態と同様に、上述の酸化物超電導導体15の外周を導電性接合層24を介して金属テープ20によって覆い安定化層14を形成することにより構成される(図1参照)。基材10の裏面10bに形成される保護層13の裏面部13Bは、Agの凝集が抑制されており、導電性接合層24との密着性が高い。したがって、金属テープ20の裏面壁20Bと保護層13の裏面部13Bとの境界部から水分が浸入することを効果的に防ぐことができ、水分による超電導特性の劣化を抑制できる。
(酸化物超電導線材の第2実施形態)
以下、本発明に係る第2実施形態の酸化物超電導線材2について図5に基づいて説明する。なお、上述の第1実施形態と同一の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略する。
第2実施形態の酸化物超電導線材2は、上述した第1実施形態の酸化物超電導線材1と比較すると、酸化物超電導導体15の外周を覆う安定化層14の構成が異なっている。即ち、酸化物超電導線材2は、安定化層14としてめっき被覆層21により被覆することで構成されている。
以下、本発明に係る第2実施形態の酸化物超電導線材2について図5に基づいて説明する。なお、上述の第1実施形態と同一の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略する。
第2実施形態の酸化物超電導線材2は、上述した第1実施形態の酸化物超電導線材1と比較すると、酸化物超電導導体15の外周を覆う安定化層14の構成が異なっている。即ち、酸化物超電導線材2は、安定化層14としてめっき被覆層21により被覆することで構成されている。
基材10や酸化物超電導層12は、保護層13と比較してめっきの密着性が悪い。また、基材10や常温の酸化物超電導層12は、保護層13と比較して電気抵抗値が高いため、電解めっきにより、均一な厚みを有するめっき層を形成することができない。
しかしながら、本実施形態の酸化物超電導積層体16は、保護層13によって、その外周を被覆されており、めっき被覆層21は、保護層13上に形成される。したがって、酸化物超電導導体15との密着性に優れためっき被覆層21を形成することができる。
しかしながら、本実施形態の酸化物超電導積層体16は、保護層13によって、その外周を被覆されており、めっき被覆層21は、保護層13上に形成される。したがって、酸化物超電導導体15との密着性に優れためっき被覆層21を形成することができる。
めっき被覆層21は、良導電性の金属材料からなり、酸化物超電導層12が何らかの原因で超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、保護層13とともに、酸化物超電導層12の電流が転流するバイパスとなる安定化層14として機能する。
また、めっき被覆層21により、酸化物超電導導体15を外部から完全に遮断することが可能となり、より確実に水分の浸入を防ぐことができる。
めっき被覆層21に使用する金属としては、銅、ニッケル、金、銀、クロム、錫などを挙げることができ、これ等の金属のうち一種又は二種以上を組み合わせて用いる事ができる。
また、酸化物超電導線材2を超電導限流器に使用する場合、安定化層14としてのめっき被覆層21は、クエンチが起こり常電導状態に転移した時に発生する過電流を瞬時に抑制するために用いられる。この用途の場合、めっき被覆層21に用いられる材料は、例えば、Ni−Cr等のNi系合金等の高抵抗金属が挙げられる。
また、めっき被覆層21により、酸化物超電導導体15を外部から完全に遮断することが可能となり、より確実に水分の浸入を防ぐことができる。
めっき被覆層21に使用する金属としては、銅、ニッケル、金、銀、クロム、錫などを挙げることができ、これ等の金属のうち一種又は二種以上を組み合わせて用いる事ができる。
また、酸化物超電導線材2を超電導限流器に使用する場合、安定化層14としてのめっき被覆層21は、クエンチが起こり常電導状態に転移した時に発生する過電流を瞬時に抑制するために用いられる。この用途の場合、めっき被覆層21に用いられる材料は、例えば、Ni−Cr等のNi系合金等の高抵抗金属が挙げられる。
めっき被覆層21の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、10〜100μmとすることができる。めっき被覆層21の厚さが10μm未満の場合においては、めっき被覆層21にピンホールが発生する可能性があり、水分の浸入を確実に防ぐことができない虞がある。また、めっき被覆層21の厚さが100μmを超える場合は、酸化物超電導線材2の厚みが肥大化し屈曲性が悪くなるため望ましくない。したがって、めっき被覆層21の厚さは10μm以上、100μm以下であることが望ましい。
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「試験例1」
試験例1として、保護層を成膜し(第1成膜工程)、酸素アニール処理を行った後に基材裏面の研磨を行い、さらに基材裏面に保護層を成膜(第2成膜工程)する場合の、基材と保護層の導通性等の特性に関する試験を行った。以下に試験例1について詳しく説明する。
「試験例1」
試験例1として、保護層を成膜し(第1成膜工程)、酸素アニール処理を行った後に基材裏面の研磨を行い、さらに基材裏面に保護層を成膜(第2成膜工程)する場合の、基材と保護層の導通性等の特性に関する試験を行った。以下に試験例1について詳しく説明する。
(試料の作製)
まず、ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ1000mmのテープ状の基材の主面を平均粒径3μmのアルミナを使用し研磨し、当該基材をアセトンにより脱脂、洗浄した。
この基材の主面(先ほど研磨を行った面)上にスパッタ法によりAl2O3(拡散防止層;膜厚100nm)を成膜し、その上に、イオンビームスパッタ法によりY2O3(ベッド層;膜厚30nm)を成膜した。
次いで、このベッド層上に、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)によりMgO(金属酸化物層;膜厚5〜10nm)を形成し、その上にパルスレーザー蒸着法(PLD法)により500nm厚のCeO2(キャップ層)を成膜した。次いでCeO2層上にPLD法により2.0μm厚のGdBa2Cu3O7−δ(酸化物超電導層)を形成した。
次いでこの酸化物超電導層上にスパッタ法により厚さ2μmのAgの保護層を形成した(第1成膜工程)。
次に、500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニール処理を施し、26時間の炉冷却後に取り出した。
以上の工程を経て得た線材を以下の実施例ア、比較例ア、イの作製工程で共通して使用する。
まず、ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ1000mmのテープ状の基材の主面を平均粒径3μmのアルミナを使用し研磨し、当該基材をアセトンにより脱脂、洗浄した。
この基材の主面(先ほど研磨を行った面)上にスパッタ法によりAl2O3(拡散防止層;膜厚100nm)を成膜し、その上に、イオンビームスパッタ法によりY2O3(ベッド層;膜厚30nm)を成膜した。
次いで、このベッド層上に、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)によりMgO(金属酸化物層;膜厚5〜10nm)を形成し、その上にパルスレーザー蒸着法(PLD法)により500nm厚のCeO2(キャップ層)を成膜した。次いでCeO2層上にPLD法により2.0μm厚のGdBa2Cu3O7−δ(酸化物超電導層)を形成した。
次いでこの酸化物超電導層上にスパッタ法により厚さ2μmのAgの保護層を形成した(第1成膜工程)。
次に、500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニール処理を施し、26時間の炉冷却後に取り出した。
以上の工程を経て得た線材を以下の実施例ア、比較例ア、イの作製工程で共通して使用する。
(実施例ア、比較例ア、イ)
上述の線材に対して、さらに基材裏面側にスパッタ法により厚さ1μmのAgの保護層を形成し、さらに500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニール処理を施し、26時間の炉冷却後に取り出して比較例アの酸化物超電導導体を作製した。
また、上述の線材に対して、基材裏面側の算術表面粗さRaを65nm以下となるまで研磨ブラシにより研磨した。研磨後の基材裏面は、表面に金属光沢が観察された。さらに、基材裏面側にスパッタ法により厚さ1μmのAgの保護層を形成し(第2成膜工程)、実施例アの酸化物超電導導体(図3における酸化物超電導導体15)を作製した。
この実施例アの酸化物超電導導体と同じものに、さらに、500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニール処理を施し、26時間の炉冷却後に取り出して比較例イの酸化物超電導導体を作製した。
上述の線材に対して、さらに基材裏面側にスパッタ法により厚さ1μmのAgの保護層を形成し、さらに500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニール処理を施し、26時間の炉冷却後に取り出して比較例アの酸化物超電導導体を作製した。
また、上述の線材に対して、基材裏面側の算術表面粗さRaを65nm以下となるまで研磨ブラシにより研磨した。研磨後の基材裏面は、表面に金属光沢が観察された。さらに、基材裏面側にスパッタ法により厚さ1μmのAgの保護層を形成し(第2成膜工程)、実施例アの酸化物超電導導体(図3における酸化物超電導導体15)を作製した。
この実施例アの酸化物超電導導体と同じものに、さらに、500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニール処理を施し、26時間の炉冷却後に取り出して比較例イの酸化物超電導導体を作製した。
実施例アの酸化物超電導導体は、スパッタ法により行う保護層の第2成膜工程において、基板が加熱されており、その後に酸素アニール処理を行っていないため、酸化物超電導層から酸素が抜けてしまっていることが懸念される。酸化物超電導層から酸素が抜けてしまうと、臨界電流値が低下する。そこで、実施例ア、比較例ア、イの酸化物超電導導体の製造工程において、基材裏面側の保護層を形成する前の臨界電流値Ic0と、完成後の臨界電流値Ic1とをそれぞれ測定した結果を表1に示す。
なお、この臨界電流値Ic0、Ic1の測定は、各実施例及び比較例において、それぞれ5個に対して行い、表1にはこれらの測定値の平均値を示す。
なお、この臨界電流値Ic0、Ic1の測定は、各実施例及び比較例において、それぞれ5個に対して行い、表1にはこれらの測定値の平均値を示す。
また、実施例アの酸化物超電導導体において、保護層の第2成膜工程後に酸素アニール処理を行っていないため、基材と保護層の密着力が低下していることが懸念される。そこで、実施例ア、比較例ア、イの酸化物超電導導体の基材裏面における基材と保護層の密着力試験を行い、その結果を表1に合わせて示す。
密着力試験として、塗膜の付着性の評価試験方法であるクロスカット法(JIS K 5600−5−6に準拠)により行った。なお、各カットの間隔は1mmとした。
なお、密着力試験は、各実施例及び比較例において、それぞれ10個行い全てのサンプルで基材と保護層との剥離が発生しなかった(どの格子の目にもはがれがなかった)場合に○とした。
密着力試験として、塗膜の付着性の評価試験方法であるクロスカット法(JIS K 5600−5−6に準拠)により行った。なお、各カットの間隔は1mmとした。
なお、密着力試験は、各実施例及び比較例において、それぞれ10個行い全てのサンプルで基材と保護層との剥離が発生しなかった(どの格子の目にもはがれがなかった)場合に○とした。
さらに、実施例ア、比較例ア、イの酸化物超電導導体の室温における抵抗値を測定した結果を表1に合わせて示す。抵抗値の測定は、各超電導導体試料の保護層の外面に端子を装着して行う4端子法により行った。室温では酸化物超電導層が常電導状態であるため過電流時の状態を模した抵抗値を測定することができる。
なお、室温における抵抗値の測定は、各実施例及び比較例において、それぞれ5個に対して行い、表1にはこれらの測定値の平均値を示す。
なお、室温における抵抗値の測定は、各実施例及び比較例において、それぞれ5個に対して行い、表1にはこれらの測定値の平均値を示す。
表1から、実施例アの酸化物超電導導体は、第2成膜工程の前後で、臨界電流値の低下がないことが確認された。また、基板と保護層の密着力の顕著な低下もないことが確認された。加えて、比較例ア、イの酸化物超電導導体に対して、実施例アの酸化物超電導導体の室温における抵抗値が低いことが確認された。
物質の抵抗値は温度と相関関係を有するため、室温における抵抗値が比較例ア、イと比較して相対的に低い実施例アは、酸化物超電導層が超電導状態となる77Kにおいても、比較例ア、イに対して相対的に低くなると考えられる。したがって、過電流が流れた場合において、実施例アの酸化物超電導導体は、比較例ア、イの酸化物超電導導体よりも電流が流れやすい。即ち、実施例アの酸化物超電導導体と同様の方法で製造することにより、電流容量が高く、過電流が発生した場合の安定性が高い酸化物超電導導体を作製できる。
物質の抵抗値は温度と相関関係を有するため、室温における抵抗値が比較例ア、イと比較して相対的に低い実施例アは、酸化物超電導層が超電導状態となる77Kにおいても、比較例ア、イに対して相対的に低くなると考えられる。したがって、過電流が流れた場合において、実施例アの酸化物超電導導体は、比較例ア、イの酸化物超電導導体よりも電流が流れやすい。即ち、実施例アの酸化物超電導導体と同様の方法で製造することにより、電流容量が高く、過電流が発生した場合の安定性が高い酸化物超電導導体を作製できる。
実施例アの酸化物超電導導体の抵抗値が相対的に低かった理由は、基材裏面に酸化膜が形成されていないために保護層と基材との導通が保たれていることによると考えられる。
このことを確認するために、実施例ア、比較例ア、イの酸化物超電導導体に対して、保護層をアンモニアと過酸化水素の混合溶液により溶かし、基材裏面の表面状態を確認した。実施例アの基材裏面は金属光沢が見られたのに対して、比較例ア、イの基材裏面は光沢のない褐色となっていた。以上のように、実施例アの基材裏面には酸化膜が形成されておらず、比較例ア、イの基材裏面には酸化膜が形成されていることが確認された。
このことを確認するために、実施例ア、比較例ア、イの酸化物超電導導体に対して、保護層をアンモニアと過酸化水素の混合溶液により溶かし、基材裏面の表面状態を確認した。実施例アの基材裏面は金属光沢が見られたのに対して、比較例ア、イの基材裏面は光沢のない褐色となっていた。以上のように、実施例アの基材裏面には酸化膜が形成されておらず、比較例ア、イの基材裏面には酸化膜が形成されていることが確認された。
「試験例2」
試験例2として、基材裏面の研磨を行った後に保護層を成膜し酸素アニール処理を行った場合の、基材と保護層の導通及び保護層と安定化層の密着性に関する試験を行った。以下に試験例2について詳しく説明する。
(試料の作製)
まず、ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm又は5mm、厚さ0.1mm、長さ1000mmのテープ状の基材の主面を平均粒径3μmのアルミナを使用し研磨し、当該基材をアセトンにより脱脂、洗浄した。
この基材の主面(先ほど研磨を行った面)上にスパッタ法によりAl2O3(拡散防止層;膜厚100nm)を成膜し、その上に、イオンビームスパッタ法によりY2O3(ベッド層;膜厚30nm)を成膜した。
次いで、このベッド層上に、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)によりMgO(金属酸化物層;膜厚5〜10nm)を形成し、その上にパルスレーザー蒸着法(PLD法)により500nm厚のCeO2(キャップ層)を成膜した。次いでCeO2層上にPLD法により2.0μm厚のGdBa2Cu3O7−δ(酸化物超電導層)を形成した。
以上の工程を経て得た酸化物超電導積層体(図2の酸化物超電導積層体16)のうち幅10mmの基材を用いて作製したサンプルを以下の実施例1〜3、実施例A〜C並びに比較例1、比較例A〜Cで共通して使用する。また、幅5mmの基材を用いて作製したサンプルを実施例a、比較例aで共通して使用する。
試験例2として、基材裏面の研磨を行った後に保護層を成膜し酸素アニール処理を行った場合の、基材と保護層の導通及び保護層と安定化層の密着性に関する試験を行った。以下に試験例2について詳しく説明する。
(試料の作製)
まず、ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm又は5mm、厚さ0.1mm、長さ1000mmのテープ状の基材の主面を平均粒径3μmのアルミナを使用し研磨し、当該基材をアセトンにより脱脂、洗浄した。
この基材の主面(先ほど研磨を行った面)上にスパッタ法によりAl2O3(拡散防止層;膜厚100nm)を成膜し、その上に、イオンビームスパッタ法によりY2O3(ベッド層;膜厚30nm)を成膜した。
次いで、このベッド層上に、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)によりMgO(金属酸化物層;膜厚5〜10nm)を形成し、その上にパルスレーザー蒸着法(PLD法)により500nm厚のCeO2(キャップ層)を成膜した。次いでCeO2層上にPLD法により2.0μm厚のGdBa2Cu3O7−δ(酸化物超電導層)を形成した。
以上の工程を経て得た酸化物超電導積層体(図2の酸化物超電導積層体16)のうち幅10mmの基材を用いて作製したサンプルを以下の実施例1〜3、実施例A〜C並びに比較例1、比較例A〜Cで共通して使用する。また、幅5mmの基材を用いて作製したサンプルを実施例a、比較例aで共通して使用する。
(実施例1〜3、比較例1)
上述の手順を経て得た幅10mmの酸化物超電導積層体を長手方向に移送させながら、基材裏面側を研磨ブラシにより研磨し当該基材裏面側の異物除去と平坦化を行った。
このとき、線材移送速度1m/min〜20m/minとして研磨時間を様々に変更し、同一線材において基材裏面側が様々な表面状態となるように研磨した。
次に、酸化物超電導層側からスパッタ法によりAgからなる保護層の主面部を形成し、さらに、基材の裏面側からスパッタ法により保護層の裏面部を形成した。このとき、保護層の裏面部の厚さは、実施例1のサンプルは1.0μm、実施例2のサンプルは0.5μm、実施例3のサンプルは0.2μmとし、保護層の主面部の厚さは実施例1〜3で共通して2.0μmとした。
次いで、これらの線材に対して、500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニール処理を施し、26時間の炉冷却後に取り出し、実施例1〜3の酸化物超電導導体(図3における酸化物超電導導体15)を作製した。
また、実施例1〜3と比較してブラシ研磨の工程を行わずに保護層を成膜し、当該保護層のうち裏面部の厚さを1.0μm、主面部の厚さを2.0μmとした比較例1の酸化物超電導導体を作製した。
上述の手順を経て得た幅10mmの酸化物超電導積層体を長手方向に移送させながら、基材裏面側を研磨ブラシにより研磨し当該基材裏面側の異物除去と平坦化を行った。
このとき、線材移送速度1m/min〜20m/minとして研磨時間を様々に変更し、同一線材において基材裏面側が様々な表面状態となるように研磨した。
次に、酸化物超電導層側からスパッタ法によりAgからなる保護層の主面部を形成し、さらに、基材の裏面側からスパッタ法により保護層の裏面部を形成した。このとき、保護層の裏面部の厚さは、実施例1のサンプルは1.0μm、実施例2のサンプルは0.5μm、実施例3のサンプルは0.2μmとし、保護層の主面部の厚さは実施例1〜3で共通して2.0μmとした。
次いで、これらの線材に対して、500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニール処理を施し、26時間の炉冷却後に取り出し、実施例1〜3の酸化物超電導導体(図3における酸化物超電導導体15)を作製した。
また、実施例1〜3と比較してブラシ研磨の工程を行わずに保護層を成膜し、当該保護層のうち裏面部の厚さを1.0μm、主面部の厚さを2.0μmとした比較例1の酸化物超電導導体を作製した。
実施例1〜3及び比較例1の酸化物超電導導体の基材裏面側を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察し、保護層のAg粒子の凝集を調べた。
図7に比較例1の基材裏面側について、走査型電子顕微鏡による組織表面の拡大写真を示す。図7に示すように、比較例1の酸化物超電導導体の基材裏面側は、全面に渡ってAg粒子の凝集が確認された。
これに対して、実施例1〜3の酸化物超電導導体の基材裏面側には、Ag粒子の凝集が生じる領域と生じない領域とが確認された。
図6に実施例1の基材裏面側において、Ag粒子の凝集が生じない領域の走査型電子顕微鏡による組織表面の拡大写真を示す。
実施例1〜3において、凝集が生じない領域と生じた領域のAgをアンモニアと過酸化水素の混合溶液によって除去し、凝集が生じない基材裏面の算術平均粗さRaの閾値(許容Ra)を調べたところ表2に示す結果となった。
図7に比較例1の基材裏面側について、走査型電子顕微鏡による組織表面の拡大写真を示す。図7に示すように、比較例1の酸化物超電導導体の基材裏面側は、全面に渡ってAg粒子の凝集が確認された。
これに対して、実施例1〜3の酸化物超電導導体の基材裏面側には、Ag粒子の凝集が生じる領域と生じない領域とが確認された。
図6に実施例1の基材裏面側において、Ag粒子の凝集が生じない領域の走査型電子顕微鏡による組織表面の拡大写真を示す。
実施例1〜3において、凝集が生じない領域と生じた領域のAgをアンモニアと過酸化水素の混合溶液によって除去し、凝集が生じない基材裏面の算術平均粗さRaの閾値(許容Ra)を調べたところ表2に示す結果となった。
表2から、基材裏面側の保護層のAg粒子の凝集は、当該基材裏面の算術平均粗さRaと保護層の厚さに依存し、保護層が薄くなるにしたがって算術平均粗さRaを小さくしなければ凝集が起こりやすいことがわかる。
また、保護層が1.0μm以上の厚さを有する場合は、基材裏面の算術平均粗さRaを57μm以下とすればよく、保護層が0.5μm以上の厚さを有する場合は、基材裏面の算術平均粗さRaを44μm以下とすればよく、保護層が0.2μm以上の厚さを有する場合は、基材裏面の算術平均粗さRaを36μm以下とすればよいことが確認された。
また、保護層が1.0μm以上の厚さを有する場合は、基材裏面の算術平均粗さRaを57μm以下とすればよく、保護層が0.5μm以上の厚さを有する場合は、基材裏面の算術平均粗さRaを44μm以下とすればよく、保護層が0.2μm以上の厚さを有する場合は、基材裏面の算術平均粗さRaを36μm以下とすればよいことが確認された。
また、表1から、基材裏面に形成される保護層の厚さtと、基材裏面の算術平均粗さRaが、厚さt≧0.2μmの範囲において、
となっていることによって、基材裏面に形成される保護層のAgの凝集を抑制できることが確認された。
(実施例A〜C、比較例A〜C)
上述の幅10mmの酸化物超電導積層体を長手方向に移送させながら、基材裏面を研磨ブラシにより研磨し当該基材裏面の異物除去と平坦化を行い、さらに酸化物超電導層側、基材の裏面側からそれぞれスパッタ法によりAgからなる保護層の主面部及び裏面部を形成し実施例A〜Cのサンプルを作製した。このとき、基材裏面側の算術平均粗さRaと保護層の裏面部の厚さを、上記実施例1〜3の結果に基づき設定した。
また、実施例A〜Cと比較してブラシ研磨の工程を行わずに保護層を成膜することにより比較例A〜Cを作製した。比較例A〜Cの保護層の裏面部の厚さは、実施例A〜Cと対応するように設定した。比較例A〜Cの基材裏面側の算術平均粗さRaの測定値と合わせて、後段の表3に、実施例A〜C及び比較例A〜Cの構成をまとめる。
次いで、これらの線材に対して、500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニール処理を施し、26時間の炉冷却後に取り出し、酸化物超電導導体(図3における酸化物超電導導体15)を作製した。
上述の幅10mmの酸化物超電導積層体を長手方向に移送させながら、基材裏面を研磨ブラシにより研磨し当該基材裏面の異物除去と平坦化を行い、さらに酸化物超電導層側、基材の裏面側からそれぞれスパッタ法によりAgからなる保護層の主面部及び裏面部を形成し実施例A〜Cのサンプルを作製した。このとき、基材裏面側の算術平均粗さRaと保護層の裏面部の厚さを、上記実施例1〜3の結果に基づき設定した。
また、実施例A〜Cと比較してブラシ研磨の工程を行わずに保護層を成膜することにより比較例A〜Cを作製した。比較例A〜Cの保護層の裏面部の厚さは、実施例A〜Cと対応するように設定した。比較例A〜Cの基材裏面側の算術平均粗さRaの測定値と合わせて、後段の表3に、実施例A〜C及び比較例A〜Cの構成をまとめる。
次いで、これらの線材に対して、500℃で10時間、酸素雰囲気中において酸素アニール処理を施し、26時間の炉冷却後に取り出し、酸化物超電導導体(図3における酸化物超電導導体15)を作製した。
これらの酸化物超電導導体の基材裏面側に導電性接合層を介して金属テープを被着させた。
まず、片面に厚さ5μmのSnめっき(融点230℃、導電性接合層)が形成された幅10mm、厚さ20μm、長さ1000mmのCuからなる金属テープを用意する。この金属テープのSnめっきが施された面上に、前記酸化物超電導導体を、幅を一致させ基材側を下にして載置し、加熱・加圧ロールに通過させて金属テープ上のSnを溶融させて導電性接合層を形成し、酸化物超電導導体の保護層と金属テープを接合させた、実施例A〜C及び比較例A〜Cの試料を得た。
なお、加熱・加圧ロールは、シリコン製ロールを用い、加熱温度240℃、加圧力10〜20MPa、線材移送速度100m/hで加熱・加圧処理を行った。
まず、片面に厚さ5μmのSnめっき(融点230℃、導電性接合層)が形成された幅10mm、厚さ20μm、長さ1000mmのCuからなる金属テープを用意する。この金属テープのSnめっきが施された面上に、前記酸化物超電導導体を、幅を一致させ基材側を下にして載置し、加熱・加圧ロールに通過させて金属テープ上のSnを溶融させて導電性接合層を形成し、酸化物超電導導体の保護層と金属テープを接合させた、実施例A〜C及び比較例A〜Cの試料を得た。
なお、加熱・加圧ロールは、シリコン製ロールを用い、加熱温度240℃、加圧力10〜20MPa、線材移送速度100m/hで加熱・加圧処理を行った。
このように作製した実施例A〜C及び比較例A〜Cの試料に対して金属テープの90°引きはがし試験を行った。なお、試験方法は、フレキシブルプリント配線板機械的性能試験であるJIS C 5016 8.1.6に準拠して行った。即ち、実施例A〜C及び比較例A〜Cの試料の金属テープを90°方向に50mm/minの速度で引っ張ることにより引きはがし、そのときの引きはがし強さ(ピール強度と呼ぶ。単位はN/cm)を測定した。
表3に実施例A〜C及び比較例A〜Cの構成とともに、引きはがし試験を行った結果を示す。
表3に実施例A〜C及び比較例A〜Cの構成とともに、引きはがし試験を行った結果を示す。
表3から、裏面部の保護層を薄くするとピール強度が低下することがわかる。また、実施例Aと比較例A、実施例Bと比較例B、実施例Cと比較例Cをそれぞれ比較することにより、同じ保護層裏面部の厚さを有する場合においては、基材裏面部の研磨を行うことで、ピール強度が改善されることがわかる。
(実施例a、比較例a)
次に上述の幅5mmの酸化物超電導積層体を用いて、上述した実施例A及び比較例Aと同様の工程により酸化物超電導導体(金属テープが被着されていない状態)を得て、この酸化物超電導導体の外周を導電性接合層を介して金属テープにより被覆し、図1に示す酸化物超電導線材1と同構造の実施例a及び比較例aの酸化物超電導線材を作製した。
即ち、実施例aの酸化物超電導線材は、基材裏面に研磨がなされており、比較例aの酸化物超電導線材は、基材裏面に研磨がなされていない。また、実施例a、比較例aともに保護層裏面部の厚さは1.0μmである。
次に上述の幅5mmの酸化物超電導積層体を用いて、上述した実施例A及び比較例Aと同様の工程により酸化物超電導導体(金属テープが被着されていない状態)を得て、この酸化物超電導導体の外周を導電性接合層を介して金属テープにより被覆し、図1に示す酸化物超電導線材1と同構造の実施例a及び比較例aの酸化物超電導線材を作製した。
即ち、実施例aの酸化物超電導線材は、基材裏面に研磨がなされており、比較例aの酸化物超電導線材は、基材裏面に研磨がなされていない。また、実施例a、比較例aともに保護層裏面部の厚さは1.0μmである。
以下に、実施例a及び比較例aにおける金属テープによる被覆手順を説明する。
まず、片面に厚さ5μmのSnめっき(融点230℃、導電性接合層)が形成された幅10mm、厚さ50μm、長さ1000mm超のCuからなる金属テープを用意する。この金属テープのSnめっきが施された面上に、前記酸化物超電導導体を長手方向を一致させ、しかも基材側を下にして載置し、加熱・加圧ロールに通過させて金属テープ上のSnを溶融させて導電性接合層を形成し、酸化物超電導導体の保護層と金属テープを接合させた。
次に、金属テープの幅方向両端側を曲げてコ字型に加工し、さらに金属テープの両端側を基材裏面側に折り曲げて横断面略C字型をなすよう成形した。
次に、再度、加熱・加圧ロールに通過させて、金属テープ上のSnを溶融させて導電性接合層を形成し、酸化物超電導導体の側端部及び基材側の一部を金属テープと接合させ、図1と同構造の実施例a及び比較例aの酸化物超電導線材を得た。
なお、加熱・加圧ロールは、シリコン製ロールを用い、加熱温度240℃、加圧力10〜20MPa、線材移送速度100m/hで加熱・加圧処理を行った。
まず、片面に厚さ5μmのSnめっき(融点230℃、導電性接合層)が形成された幅10mm、厚さ50μm、長さ1000mm超のCuからなる金属テープを用意する。この金属テープのSnめっきが施された面上に、前記酸化物超電導導体を長手方向を一致させ、しかも基材側を下にして載置し、加熱・加圧ロールに通過させて金属テープ上のSnを溶融させて導電性接合層を形成し、酸化物超電導導体の保護層と金属テープを接合させた。
次に、金属テープの幅方向両端側を曲げてコ字型に加工し、さらに金属テープの両端側を基材裏面側に折り曲げて横断面略C字型をなすよう成形した。
次に、再度、加熱・加圧ロールに通過させて、金属テープ上のSnを溶融させて導電性接合層を形成し、酸化物超電導導体の側端部及び基材側の一部を金属テープと接合させ、図1と同構造の実施例a及び比較例aの酸化物超電導線材を得た。
なお、加熱・加圧ロールは、シリコン製ロールを用い、加熱温度240℃、加圧力10〜20MPa、線材移送速度100m/hで加熱・加圧処理を行った。
実施例a、比較例aに対して、高温(121℃)・高湿(100%)・高圧力(2気圧:203kPa)下に96時間放置するプレッシャークッカー試験を行った。各サンプルは、24時間ごとに取り出し、臨界電流値(Ic)を測定し、放置前の臨界電流値(Ic0)に対する比(Ic/Ic0)を求めた結果を表4に示す。
なお、表4において、Ic/Ic0が0.95以上である場合を○とし、0.95未満の場合を×とした。
なお、表4において、Ic/Ic0が0.95以上である場合を○とし、0.95未満の場合を×とした。
表4に示すように、実施例aの酸化物超電導線材は、プレッシャークッカー試験を96時間行っても超電導特性に劣化が見られなかった。これに対して、比較例Aの酸化物超電導線材は、72時間経過時点では超電導特性に劣化が見られなかったものの、96時間経過後には劣化が確認された。なお、96時間経過時点では、臨界電流値(Ic)が0になっていた。これは、プレッシャークッカー試験において酸化物超電導層に水分が浸入し劣化したためと考えられる。
これらの結果から、基材裏面の研磨を行うことによって、金属テープによって構成される安定化層の密着性が高まり、酸化物超電導層に水分が浸入し超電導特性が劣化することを抑制できることが確認された。
これらの結果から、基材裏面の研磨を行うことによって、金属テープによって構成される安定化層の密着性が高まり、酸化物超電導層に水分が浸入し超電導特性が劣化することを抑制できることが確認された。
1、2…酸化物超電導線材、10…基材、10a、12a、16a…主面、10b、16b…裏面、11…中間層、12…酸化物超電導層、13…保護層、13A…主面部、13B…裏面部、13C…側面部、14…安定化層、15…酸化物超電導導体、15’…副次酸化物超電導導体、16…酸化物超電導積層体、16c…側面、20…金属テープ、20A…主面壁、20B…裏面壁、20C…側壁、21…めっき被覆層、24…導電性接合層、t…厚さ
Claims (7)
- 基材と、前記基材の主面上に中間層及び酸化物超電導層が形成された酸化物超電導積層体と、前記酸化物超電導積層体の外周に形成されAg又はAg合金からなる保護層と、前記保護層上に形成された安定化層と、を備え、
前記基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaが65nm以下であることを特徴とする酸化物超電導線材。 - 前記基材の前記中間層と対向しない裏面に酸化膜が形成されていないことを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材。
- 基材と、前記基材の主面上に中間層及び酸化物超電導層が形成された酸化物超電導積層体と、前記酸化物超電導積層体の外周に形成されAg又はAg合金からなる保護層と、前記保護層上に形成された安定化層と、を備え、
前記基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaが、当該裏面に形成される前記保護層の厚さtが0.2μm以上の範囲において、
- 基材と、前記基材の主面上に中間層及び酸化物超電導層が形成された酸化物超電導積層体と、前記酸化物超電導積層体の外周に形成されAg又はAg合金からなる保護層と、前記保護層上に形成された安定化層と、を備え、
前記基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaと、当該裏面に形成される前記保護層の厚さとの関係が、
前記裏面に形成される前記保護層の厚さが0.2μm以上0.5μm未満であるならば前記基材裏面の算術平均粗さRaが36nm以下であり、
前記裏面に形成される前記保護層の厚さが0.5μm以上1μm未満であるならば前記基材裏面の算術平均粗さRaが44nm以下であり、
前記裏面に形成される前記保護層の厚さが1μm以上であるならば前記基材裏面の算術平均粗さRaが57nm以下であることを特徴とする請求項1又は3に記載の酸化物超電導線材。 - 前記安定化層がめっき法により形成されためっき被覆層であるか又は、導電性接合層を介して接合された金属テープであることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の酸化物超電導線材。
- 基材と、前記基材の主面上に中間層及び酸化物超電導層が形成された酸化物超電導積層体を用い、前記酸化物超電導積層体の外周に保護層を形成し、当該保護層上に安定化層を形成する酸化物超電導線材の製造方法であって、
前記酸化物超電導積層体に前記保護層の第1成膜工程を行った後に酸素アニール処理を行い、
前記基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaが65nm以下となるように前記基材裏面側を研磨し、
前記酸化物超電導積層体の基材裏面側から前記保護層の第2成膜工程を行い、
前記保護層上に安定化層を形成することを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。 - 基材と、前記基材の主面上に中間層及び酸化物超電導層が形成された酸化物超電導積層体を用い、前記酸化物超電導積層体の外周に保護層を形成し、当該保護層上に安定化層を形成する酸化物超電導線材の製造方法であって、
前記酸化物超電導積層体に対して、前記基材の前記中間層と対向しない裏面の算術平均粗さRaが、当該裏面に形成される前記保護層の厚さtが0.2μm以上の範囲において、
前記酸化物超電導積層体に前記保護層の成膜工程を行った後に酸素アニール処理を行い、
前記保護層上に安定化層を形成することを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
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-
2013
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