JP6750302B2 - 板状の鋼線強化樹脂 - Google Patents
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Description
a)高強度、衝撃エネルギー吸収能、および変形能の3つを両立させるためには、高強度鋼線と高分子樹脂の組み合わせが優れている。なお、鋼線が炭素繊維よりも変形能に優れることは公知である。
b)鋼線の直径が細いほど、鋼線を高強度化しやすいが、一方、直径が細いほど、伸線中の断線頻度やコストが増加する。鋼材のみで製造される部品に対して、高強度および衝撃エネルギー吸収能のメリットを得るためには、鋼線の引張り強さが3000MPa以上であることが必要であり、このような引張り強さを有する鋼線を安定的に製造するためには、鋼線の直径を1.0mm以下にする必要がある。
c)複数の鋼線を撚り合わせた、いわゆる撚り線は、鋼線同士の隙間が不可避的に生じるため、撚り線にしたものを高分子樹脂に埋め込みと、剛性が低くなる。一方、鋼線を直線状に平行に並べた状態で高分子樹脂に埋め込むと、撚り線にしたものを高分子樹脂に埋め込む場合に較べて、鋼線の長手方向に剛性が大幅に向上する。
d)鋼線を織布状または網状に加工してから、高分子樹脂に埋め込むと、撚り線にしたものを高分子樹脂に埋め込む場合に較べて、強度と剛性の異方性が小さくなる。
e)直線状に平行に並んだ鋼線と高分子樹脂との接着強度を十分に得るためには、鋼線の周囲に高分子樹脂が所定量以上必要なため、鋼線の直径を関数とした隙間と高分子樹脂の厚さが必要となる。この接着強度が不十分であると、衝撃エネルギーの吸収能が大きく低下する。一方、高分子樹脂の割合が大き過ぎると、強度不足となり、且つ衝撃エネルギーの吸収能も不足となる。
f)部品の使用用途によって、高分子樹脂の種類、鋼線へのめっき有無、およびめっきの種類を選択すればよい。
g)鋼線を直線状に平行に並べた状態で高分子樹脂に埋め込んだ鋼線強化樹脂は、特性に異方性があるため、部品として使用されるときの応力状態に則して、複数枚を接着して重ね合わせて使用すればよい。
(1) 質量%で、C:0.3〜1.2%を含有し、
引張り強さが3000〜5000MPaであり、
直径が0.20〜1.0mmである鋼製の単線からなる鋼線を有し、
複数の前記鋼線が略平行に配置された鋼線群が高分子樹脂内部に埋め込まれており、前記鋼線群において隣接する鋼線間の距離の平均値を平均間隔とした場合に、前記平均間隔が、前記鋼線の直径の0.30〜2.00倍であり、前記高分子樹脂の厚さが、前記鋼線の直径の1.20〜3.00倍であること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。
(2) (1)に記載の鋼線強化樹脂であって、熱硬化性樹脂または有機繊維で結合している鋼線が高分子樹脂に埋め込まれていること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。
(3) (1)または(2)に記載の板状の鋼線強化樹脂からなる高分子樹脂層を複数積層してなる板状の鋼線強化樹脂であって、
前記複数積層してなる板状の鋼線強化樹脂を平面視したときに、各高分子樹脂層内部の鋼線群の方向が少なくとも2方向であること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。
(4) 質量%で、C:0.3〜1.2%を含有し、
引張り強さが3000〜5000MPaであり、
直径が0.20〜1.0mmである鋼製の単線からなる鋼線を有し、
第1の方向に複数の前記鋼線が略平行に配置された第1の鋼線群と、前記第1の方向とは異なる第xの方向に複数の前記鋼線が略平行に配置された第xの鋼線群と、が交差している網状の鋼線部材が高分子樹脂内部に埋め込まれており、
前記第1の鋼線群において隣接する鋼線間の距離と、前記第xの鋼線群において隣接する鋼線間の距離と、から算出される平均値を、前記網状の鋼線部材における隙間の平均間隔とした場合に、前記平均間隔が、前記鋼線の直径の0.30〜2.00倍であり、前記高分子樹脂の厚さが、前記網状の鋼線部材の最大厚さの1.10〜2.00倍であり、
xは2からnまでの整数であること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。
(5) (3)または(4)に記載の板状の鋼線強化樹脂を平面視した場合、鋼線群の方向がなす角度が45°以上であること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。
(6) (1)から(5)のいずれかに記載の板状の鋼線強化樹脂において、前記鋼線の表面にめっきが施されていること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。
(7) (1)から(6)のいずれかに記載の板状の鋼線強化樹脂において、前記高分子樹脂が、エポキシ樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、およびナイロンから選ばれる1種または2種以上を主成分とすること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。
<鋼線の成分組成>
C: Cは鋼線の引張り強さを高めるために有効な成分である。しかし、その含有量が0.3質量%未満の場合には、引張り強さで3000MPaといった高い強度を安定して鋼線に付与させることが困難である。さらに高強度の最終製品を安定して得るためにはC含有量を高めることが有効であり、3500MPa以上の引張り強さを得るためには、たとえば、C含有量を0.6質量%以上にすることが望ましい。一方、C含有量が多すぎれば、鋼材が硬質化して伸線時の断線あるいは延性の低下を招く。特に、C含有量が1.2質量%を超えれば、その影響が顕著になり、安定した量産が工業的に困難になる。そこで、C含有量は0.3〜1.2質量%の範囲内と定めた。C含有量は、好ましくは0.6〜1.2質量%である。
本発明の鋼線強化樹脂における鋼線の引張り強さは3000MPa以上である。一方で、鋼材のみで製造される板状部品で最も高強度なものの引張り強さは約1500MPaである。本発明の鋼線強化樹脂における鋼線の引張り強さが3000MPa以上であることにより、鋼材のみで製造される板状部品に対して、高強度且つ軽量の板状鋼線強化樹脂を得ることができる。一方、引張り強さが5000MPaを超える鋼線を得るためには、伸線加工量が大きくなって、伸線中の断線頻度が大きくなる。そこで、鋼線の引張り強さを3000〜5000MPaに規定する。鋼線の引張り強さは、好ましくは3500〜5000MPa、より好ましくは3900〜5000MPaである。
鋼線の引張り強さを3000MPa以上としつつ、伸線中の断線を抑制して、安定的に製造するためには、鋼線の直径を1.00mm以下にする必要がある。一方、鋼線の直径を0.20mm未満にすると、鋼線の生産性の低下、あるいは、伸線中の断線頻度の増加が顕著になる。また、鋼線の直径が0.20mm未満になると、鋼線を直線状に平行に並べる際の鋼線強化樹脂の生産性の低下も顕著になる。そのため、鋼線の直径は0.20〜1.00mmと規定した。鋼線の直径は、好ましくは0.30mm以上、0.60mm以下である。
鋼線表面にめっきを施さなくてもよいが、伸線時の摩擦抵抗の低減のため、あるいは部品の使用環境に応じて耐食性の向上のため、鋼線表面にめっきを施してもよい。めっきの例としては、ブラス(Cu−Zn合金)、またはCu若しくはNiを主体としたものが挙げられる。
板状の鋼線強化樹脂の構成について説明する。本発明の板状の鋼線強化樹脂は、鋼線強化樹脂の内部における鋼線の配置により、2種類の鋼線強化樹脂が例示される。以下では、まず、鋼線が略平行に配置された板状の鋼線強化樹脂(板状鋼線強化樹脂1)について説明する。続いて、鋼線が網状に配置された板状の鋼線強化樹脂(板状鋼線強化樹脂2)について説明する。いずれの板状の鋼線強化樹脂においても、鋼線として、撚り線ではなく、単線を用いる必要がある。撚り線は応力が負荷された際に変形しやすい、すなわち剛性が低いためである。
<鋼線間の隙間(距離)の平均間隔と板状の鋼線強化樹脂の厚さとの関係>
鋼線と高分子樹脂との接着力を高めるためには、鋼線同士が密着しないようにする必要があり、さらに鋼線の直径に対して、高分子樹脂が所定以上の厚さを有する必要がある。
高分子樹脂に鋼線を埋め込む前に、鋼線同士を結合させていなくてもよいが、埋め込む前に結合させることで、鋼線の間隔のばらつきが低減し、また高分子樹脂に埋め込むときの生産性が向上する。鋼線同士の結合には、熱硬化樹脂または有機繊維を用いて鋼線間をまたぐように鋼線同士を接着させるとよい。
上述した板状鋼線強化樹脂1では、鋼線が直線状に平行に並んだ状態で高分子樹脂に埋め込まれているため、引張り強さ等の特性は異方性を有している。その特性の異方性を低減するためには、板状の鋼線強化樹脂1を2枚以上重ね、重ねた板状の鋼線強化樹脂1を平面視した場合に、鋼線が配置されている方向(鋼線群の方向)が少なくとも2方向であり、鋼線群の方向がなす角度が45°以上であるとよい。したがって、板状の鋼線強化樹脂1の積層体として、板状の鋼線強化樹脂1からなる高分子樹脂層を複数層積層し、接着等により一体化してなる板状の鋼線強化樹脂が得られる。すなわち、この鋼線強化樹脂中の鋼線群の方向は少なくとも2方向であり、その角度が45°以上である。鋼線強化樹脂1からなる高分子樹脂層の数は、好ましくは3層以上、より好ましくは4層以上である。
板状鋼線強化樹脂2は、第1の方向に複数の上述した鋼線が略平行に配置された第1の鋼線群と、第1の方向とは異なる第xの方向に複数の上述した鋼線が略平行に配置された第xの鋼線群と、が交差して形成された網状の鋼線部材が高分子樹脂内部に埋め込まれている構成を有している。ここで、xは2からnまでの整数であり、板状鋼線強化樹脂2の生産性等を考慮すると、nは3以下であることが好ましい。以下では、n=2である場合について説明する。
板状鋼線強化樹脂1と同様に、網状の鋼線と高分子樹脂との接着力、および衝撃吸収エネルギーを高めるためには、鋼線同士が密着しない部分を大きくする必要があり、さらに鋼線の直径に対して、高分子樹脂が所定以上の厚さを有する必要がある。
板状の鋼線強化樹脂(板状鋼線強化樹脂1および板状鋼線強化樹脂2)に用いられる高分子樹脂の種類は、当該鋼線強化樹脂の使用環境に応じて選択すればよいが、エポキシ樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、およびナイロンから選ばれる1種または2種以上を主成分として使用することが好ましい。本明細書において、「主成分」とは、高分子樹脂全体を100質量%とした場合に、50質量%以上を占める成分をいう。
10 鋼線
11 第1鋼線群
12 第2鋼線群
20 高分子樹脂
Claims (6)
- 質量%で、C:0.3〜1.2%を含有し、
引張り強さが3000〜5000MPaであり、
直径が0.20〜1.00mmである鋼製の単線からなる鋼線を有し、
複数の前記鋼線が略平行に配置された鋼線群が高分子樹脂内部に埋め込まれており、前記鋼線群において隣接する鋼線間の距離の平均値を平均間隔とした場合に、前記平均間隔が、前記鋼線の直径の0.30〜2.00倍であり、前記高分子樹脂の厚さが、前記鋼線の直径の1.20〜3.00倍であること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。 - 請求項1に記載の板状の鋼線強化樹脂からなる高分子樹脂層を複数積層してなる板状の鋼線強化樹脂であって、
前記複数積層してなる板状の鋼線強化樹脂を平面視したときに、各高分子樹脂層内部の鋼線群の方向が少なくとも2方向であること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。 - 質量%で、C:0.3〜1.2%を含有し、
引張り強さが3000〜5000MPaであり、
直径が0.20〜1.00mmである鋼製の単線からなる鋼線を有し、
第1の方向に複数の前記鋼線が略平行に配置された第1の鋼線群と、前記第1の方向とは異なる第xの方向に複数の前記鋼線が略平行に配置された第xの鋼線群と、が交差している網状の鋼線部材が高分子樹脂内部に埋め込まれており、
前記第1の鋼線群において隣接する鋼線間の距離と、前記第xの鋼線群において隣接する鋼線間の距離と、から算出される平均値を、前記網状の鋼線部材における隙間の平均間隔とした場合に、前記平均間隔が、前記鋼線の直径の0.30〜2.00倍であり、前記高分子樹脂の厚さが、前記網状の鋼線部材の最大厚さの1.10〜2.00倍であり、
xは2からnまでの整数であること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。 - 請求項2または3に記載の板状の鋼線強化樹脂を平面視した場合、鋼線群の方向がなす角度が45°以上であること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。
- 請求項1から4のいずれか一項に記載の板状の鋼線強化樹脂において、前記鋼線の表面にめっきが施されていること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。
- 請求項1から5のいずれか一項に記載の板状の鋼線強化樹脂において、前記高分子樹脂が、エポキシ樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、およびナイロンから選ばれる1種または2種以上を主成分とすること、を特徴とする板状の鋼線強化樹脂。
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