以下に本発明について説明するが、実施形態の一例を詳述したものであって、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されない。なお、本明細書内において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値を限度として含むこと意味する。「(メタ)アクリレート」という表現を用いる場合、「アクリレート」と「メタクリレート」の一方または両方を含むことを意味する。「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル」等の表現も同様であり、「(メタ)アクリロイル」は、「アクリロイル」と「メタクリロイル」の一方または両方を含み、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」と「メタクリル」の一方または両方を含む。
<積層体>
積層体は、少なくとも基材層(A)とこれに積層形成されたコート層(B)とを有する。基材層(A)は、ポリカーボネート樹脂層(A1)と、これに積層形成された芳香族ポリカーボネート樹脂層(A2)とを有する。積層体においては、基材層(A)における芳香族ポリカーボネート樹脂層(A2)がコート層(B)と接している。すなわち、積層体においては、ポリカーボネート樹脂層(A1)と、芳香族ポリカーボネート樹脂層(A2)と、コート層(B)とが順次積層されている。なお、ポリカーボネート樹脂層(A1)のことを、以下適宜「樹脂層A1」といい、芳香族ポリカーボネート樹脂層(A2)のことを、以下適宜「樹脂層A2」という。積層体は、前述の樹脂層A1、樹脂層A2、コート層(B)の他にさらに他の樹脂等からなる層を含有していてもよい。
積層体は、耐衝撃性、耐湿熱性が良好であり、さらに、基材のカールを低減することができる。このカールの低減効果は、式(2)で表されるようにコート層(B)が水酸基を有しているためであると推察される。すなわち、基材(A)が吸湿膨張したときに生じるコート層(B)の膨張応力が小さくなるため、基材(A)のカールを抑制できると推定される。
<基材層A>
基材層(A)は、特定のポリカーボカーボネート樹脂からなる樹脂層(A1)と、芳香族ポリカーボネート樹脂からなる樹脂層(A2)との積層体からなる。
(ポリカーボネート樹脂層(A1))
樹脂層A1は、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物(a1)に由来する構造単位と、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、芳香族ビスフェノール類、及びエーテル基含有ジヒドロキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種のジヒドロキシ化合物(a2)に由来する構造単位と、を有する共重合体を含有する。式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にあるイソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。
ジヒドロキシ化合物(a1)は、生物起源物質を原料として糖質から製造可能なエーテルジオールである。とりわけイソソルビドは澱粉から得られるD−グルコースを水添してから脱水することにより安価に製造可能であって、資源として豊富に入手することが可能である。これら事情により、ジヒドロキシ化合物(a1)としては、イソソルビドが最も好ましい。
ジヒドロキシ化合物(a1)は、大気中の酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管中または製造中の取り扱いに際して、防湿包装、脱酸素剤の使用、窒素雰囲気パージ等の対策を行うことが好ましい。
また、ジヒドロキシ化合物(a2)は、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、芳香族ビスフェノール類およびエーテル基含有ジヒドロキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種である。エーテル基含有ジヒドロキシ化合物としては、例えば前述のジヒドロキシ化合物(a1)以外の化合物を用いることができる。ジヒドロキシ化合物(a2)由来の構造単位は、一般に柔軟な分子構造を有するため、樹脂層(A1)を構成するポリカーボネート樹脂に靭性を持たせる事ができる。
樹脂層(A1)におけるポリカーボネート樹脂は、前述のジヒドロキシ化合物(a1)に由来する構造単位と、前述のジヒドロキシ化合物(a2)に由来する構造単位とを有する共重合体、すなわち、これらの構造単位を有する共重合ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。この場合には、樹脂層(A1)が優れた耐衝撃性を示すことができる。耐衝撃性がより向上するという観点から、ジヒドロキシ化合物(a2)は、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、及び芳香族ビスフェノール類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることがより好ましい。また、樹脂層(A1)の耐光性が向上するという観点からは、ジヒドロキシ化合物(a2)は、分子構造内に芳香環構造を有しない化合物、即ち脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物の少なくとも一方がさらに好ましく、さらに耐熱性の向上も加味すると、脂環式ジヒドロキシ化合物が最も好ましい。
脂肪族ジヒドロキシ化合物は、直鎖脂肪族であっても、分岐鎖脂肪族であってもよい。脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、リモネン等が挙げられる。
芳香族ビスフェノール類としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ−2−メチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレンが挙げられる。なお、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンは、ビスフェノールAとも呼ばれる。
エーテル基含有ジヒドロキシ化合物としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ポリエチレングルコールとしては、分子量が、例えば150〜2000のものを用いることができる。
樹脂層(A1)の共重合体において、全ジヒドロキシ化合物由来の構造単位100モル%中のジヒドロキシ化合物(a1)由来の構造単位の含有割合が40mol%以上であることが好ましい。この場合には、樹脂層(A1)の耐熱性や剛性をより向上させることができる。耐熱性や剛性をより一層向上させるという観点からは、ジヒドロキシ化合物(a1)由来の構造単位の含有割合が45mol%以上であることがより好ましく、50mol%以上であることがさらにより好ましい。また、樹脂層(A1)が硬くなりすぎて脆くなり、取り扱いが困難になることを防止するという観点から、ジヒドロキシ化合物(a1)由来の構造単位の含有割合は90モル%以下であることが好ましい。また、成形加工性、機械強度、及び耐熱性などをバランス良く向上できるという観点からは、ジヒドロキシ化合物(a1)由来の構造単位の含有割合は、85モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが最も好ましい。
樹脂層(A1)の共重合体は、ジヒドロキシ化合物(a1)由来の構造単位とジヒドロキシ化合物(a2)構造単位(b)以外の構造単位を含むことを妨げない。例えば芳香族炭化水素のジヒドロキシ化合物等を例示できるが、芳香環を含有する化合物は太陽光や紫外線に曝されると、紫外線を吸収して構造劣化することで黄変等の不具合を生じることが多い。このため、芳香族炭化水素のジヒドロキシ化合物等を用いる場合には、成形加工性、耐候性、表面特性など要求される製品特性を損なわない範囲で配合することが望まれる。
樹脂層(A1)を構成するポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される中間点ガラス転移温度で、通常45℃以上155℃以下、好ましくは80℃以上150℃以下、より好ましくは90℃以上145℃以下である。通常は単一のガラス転移温度を有するが、DSCのチャート上で複数の転移点が認められる場合は、熱量遷移が最も大きい転移点で読み替えるものとする。構成単位の種類や比率を適宜選択することでガラス転移温度を前記範囲内に調整することができる。
ガラス転移温度を前記範囲とすることで、最低限必要な耐熱性を保持しながらも、樹脂層A1が脆くなることを防ぐ事ができる。ガラス転移温度を前記範囲にすることにより、シート状又は板状の樹脂層A1の成形時に樹脂層A1にカールが生じたり、冷却ロールからの剥離不良が生じたり、揮発成分がロール等を汚染したり、板切断時に切り粉や割れ欠けが生じたりすることをより一層防止することができる。
ポリカーボネート樹脂の原料に用いるジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤等を含んでいてもよく、とりわけ前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物(a1)は、酸性雰囲気下で変質しやすいため、塩基性安定剤を含むことが好ましい。
(塩基性安定剤)
ジヒドロキシ化合物(a1)を用いたポリカーボネート樹脂の重合時には、塩基性安定剤を反応系内に含むことが好ましい。この場合には、ジヒドロキシ化合物の変質を抑制することができ、ひいては得られるポリカーボネート樹脂の品質を向上させることができる。
塩基性安定剤としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における1族又は2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩及び脂肪酸塩;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド及びブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物;ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3−アミノ−1−プロパノール、エチレンジアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール及びアミノキノリン等のアミン系化合物、並びにジ−(tert−ブチル)アミン及び2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物。
ジヒドロキシ化合物(a1)に対する塩基性安定剤の含有量に特に制限はないが、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は酸性状態では不安定であるため、塩基性安定剤を含むジヒドロキシ化合物の水溶液のpHが7付近となるように塩基性安定剤の含有量を設定することが好ましい。
ジヒドロキシ化合物(a1)に対する塩基性安定剤の含有量は、0.0001〜1質量%であることが好ましい。この場合には、ジヒドロキシ化合物(a1)の変質を防止する効果が十分に得られる。この効果をさらに高めるという観点から、塩基性安定剤の含有量は0.001〜0.1質量%であることがより好ましい。
(炭酸ジエステル)
ポリカーボネート樹脂の原料に用いる炭酸ジエステルは、下記一般式(3)で表される化合物を採用できる。すなわち、ポリカーボネート樹脂は、炭酸ジエステル由来の構造単位を有する。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
一般式(3)において、A1及びA2は、それぞれ置換もしくは無置換の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基又は置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、A1とA2とは同一であっても異なっていてもよい。A1及びA2としては、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を採用することが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基を採用することがより好ましい。
一般式(3)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば下記を例示できる。ジフェニルカーボネートおよびジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート。ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネート。これらの炭酸ジエステルの中でも、ジフェニルカーボネート又は置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
(エステル交換反応)
樹脂層(A1)における共重合体、すなわち、ポリカーボネート樹脂は、前述のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応により重縮合させることで合成できる。より詳細には、エステル交換反応において副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に留去させることで重縮合反応を進行させることができる。
前記エステル交換反応は、エステル交換反応触媒(以下、エステル交換反応触媒を「重合触媒」と言う。)の存在下で進行する。重合触媒の種類は、エステル交換反応の反応速度及び得られるポリカーボネート樹脂の品質に影響を与え得る。
重合触媒としては、下記を例示できる。長周期型周期表における第1族又は第2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、並びに塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物及びアミン系化合物等の塩基性化合物を使用することができ、中でも1族金属化合物及び2族金属化合物の少なくとも一方が好ましい。
1族金属化合物として下記を例示できる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩及び2セシウム塩等。中でも、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色調の観点から、リチウム化合物が好ましい。
2族金属化合物として下記を例示できる。水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸ストロンチウム等。中でも、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、及びバリウム化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、重合活性とポリカーボネート樹脂の色調の観点から、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物の少なくとも一方が更に好ましい。
重合触媒として、1族金属化合物及び2族金属化合物の少なくとも一方のみを使用することが好ましいが、補助的に塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能である。
塩基性リン化合物として下記を例示できる。トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン及び四級ホスホニウム塩等。
塩基性アンモニウム化合物として下記を例示できる。テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド及びブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等。
アミン系化合物として下記を例示できる。4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン及びグアニジン等。
重合触媒の使用量は、反応に供される全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、好ましくは0.1〜300μmol、より好ましくは0.5〜100μmol、特には1〜50μmolである。
重合触媒として、長周期型周期表における第2族金属及びリチウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にマグネシウム化合物及びはカルシウム化合物の少なくとも一方を用いる場合には、重合触媒の使用量は、好ましくは0.1〜10μmol、より好ましくは0.3〜5μmol、特に好ましくは0.5〜3μmolである。
重合触媒の使用量を前述の範囲に調整することにより、重合速度を高めることができるため、重合温度を必ずしも高くすることなく所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ることが可能になる。そのため、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化を抑制することができる。また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れてしまうことを防止することができるため、所望の分子量の樹脂をより確実に得ることができる。さらに、副反応の併発を抑制することができるため、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化又は成形加工時の着色をより一層防止することができる。
1族金属の中でもナトリウム、カリウム、又はセシウムがポリカーボネート樹脂の色調へ与える悪影響や、鉄がポリカーボネート樹脂の色調へ与える悪影響を考慮すると、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、1質量ppm以下であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化をより一層防止することができ、ポリカーボネート樹脂の色調をより一層良好なものにすることができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、0.5質量ppm以下であることがより好ましい。なお、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料又は反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、ポリカーボネート樹脂中のこれらの金属の化合物の合計量は、ナトリウム、カリウム、セシウム及び鉄の合計の含有量として、前述の範囲にすることが好ましい。
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとは、エステル交換反応を開始する前に均一に混合することが好ましい。混合温度は通常80℃以上250℃以下、好ましくは90℃以上200℃以下、特に好ましくは100℃以上120℃以下である。この場合には、溶解に要する時間を短くできたり、溶解度を高めたり、固化等の不具合を回避することができるさらに、ジヒドロキシ化合物の熱劣化をより一層防止することができ、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化をより一層防止することができる。
前述の通りジヒドロキシ化合物はなるべく酸素との接触を抑制すべきであり、混合操作における酸素濃度は、通常0.0001体積%以上10体積%以下、好ましくは0.0001体積%以上5体積%以下、特に好ましくは0.0001体積%以上1体積%以下である。
ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルの混合モル比率は、好ましくは0.9以上1.2以下がよい。この場合には、ポリカーボネート樹脂(A)のヒドロキシ基末端量の増加を抑制することができるため、樹脂の熱安定性の向上が可能になる。そのため、成形時の着色をより一層防止することができる。また、エステル交換反応の速度が低下を抑制することができ、所望の分子量の共重合体のより確実な製造が可能になる。また、この場合には、反応時の熱履歴の増大を抑制することができるという観点からも、ポリカーボネート樹脂の着色をより一層防止することができる。さらにこの場合には、ポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量を減少させることができ、かかる観点からも樹脂の着色を防止することができる。さらに臭気の発生を回避又は緩和することができる。これらの効果をより高めるという観点から、ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルの混合モル比率は、特に好ましくは0.95以上1.10以下である。
重合反応の方法としては、バッチ式、連続式、またはそれらの組合せ等の方法を例示できる。中でも、前記触媒の存在下で、複数の反応器を用いて多段階で実施される連続式が、生産性や熱履歴管理のしやすさの観点で好ましい。
重合反応速度を適切に管理するため、反応段階に応じて反応器のジャケット温度と内温、内圧を適切に制御することが好ましい。重合反応初期は、相対的に低温低真空でオリゴマー〜プレポリマーを得て、重合反応後期は、相対的に高温高真空で所望の分子量に至るまで反応を進行させる方法が好ましい。この場合には、未反応のモノマーの留出を抑制し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのモル比率を所望の比率に調整し易くなる。
重合反応初期は、未反応モノマーの留出を完全に抑制することは困難であり、流出してしまう微量な未反応モノマーは、重合反応器に還流冷却器を設置することが有効である。還流冷却器に用いる冷媒の種類は、温水、蒸気、熱媒オイル等が好適に用いられる。冷媒の温度は、使用する原料モノマーに応じて適宜選択すればよいが、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において通常45℃以上180℃以下、好ましくは80℃以上150℃以下、特に好ましくは100℃以上130℃以下である。冷媒温度をこれらの範囲に調整することにより、還流量を十分に高め、その効果が十分得られると共に、留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率を十分に向上させることができる。
前述のとおり、重合反応は単独の反応器を用いて、順次反応条件を変化させながら行っても良いが、反応条件の異なる複数の反応器を用いて、連続的に反応物を送りながら多段階で行う方法が好ましい。
重合反応初期は、反応物中に含まれるモノマーが多量であり、反応速度を維持しつつも、これの留出を防ぐことが有効である。一方で重合反応後期は、副生するモノヒドロキシ化合物を十分に留去させることで、平衡反応である重合反応を重合進行側にシフトさせることが有効である。したがって反応初期と反応後期とでは好適な反応条件が異なっており、この観点から、直列に連結された複数の反応器を用いて、連続的に反応物を送る方法が好ましいといえる。前記反応器の直列連結数は、少なくとも2つあれば良いが、より詳細な反応条件の最適化を鑑み好ましくは3つ以上、特に好ましくは4つである。
重合触媒は、原料調製槽や原料貯槽に添加することもできるし、重合反応器に直接添加することもできる。供給の安定性、重縮合反応の制御の観点からは、重合反応器に供給される前の原料供給ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、水溶液で重合触媒を供給することが好ましい。
重合反応を多段階で連続的に行う場合、第1段目の条件は以下が好ましい。すなわち、重合反応器の内温の最高温度は、通常150〜250℃、好ましくは160〜240℃、更に好ましくは170〜230℃の範囲で設定する。また、重合反応器の圧力(以下、圧力とは絶対圧力を表す)は、通常1〜110kPa、好ましくは5〜70kPa、さらに好ましくは7〜30kPaの範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間の範囲で設定する。第1段目の反応は、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施されることが好ましい。
第2段目以降の条件は以下が好ましい。すなわち内圧を徐々に1kPa以下まで下げていき、副生するモノヒドロキシ化合物を系外に留去させていくことが好ましい。これを促進させるために、内温の最高温度も200℃以上260℃以下の範囲まで上げていくことが好ましく、210℃以上250℃以下の範囲にすることがより好ましい。ここでの反応時間は、通常0.1時間以上10時間以下、好ましくは0.3時間以上6時間以下、特に好ましくは0.5時間以上3時間以下がよい。
反応効率をより高めてポリカーボネート樹脂の色調の悪化をより防止するという観点から、重縮合反応の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
最終的に得られるポリカーボネート樹脂の分子量を一定水準内に制御するには、重合反応速度を調節することが好ましい。その場合は、重合反応後期における重合反応器の内圧を調整する方法が好ましい。
また、前述のように、ヒドロキシ基末端とカーボネート基末端との比率によって重合反応速度が敏感に変化するため、一方の末端基を意図的に減らすことで反応速度を抑制し、その間、反応器の内圧を高真空に保つことにより、モノヒドロキシ化合物をはじめとした樹脂中の残存低分子成分を低減させることができる。しかし、この場合には、一方の末端が少なくなりすぎると、末端基バランスが少し変動しただけで、極端に反応性が低下し、得られるポリカーボネート樹脂の分子量が所望の分子量に満たなくなるおそれがある。これをより確実に回避するため、最終段の重合反応器で得られるポリカーボネート樹脂は、ヒドロキシ基末端とカーボネート基末端とも10mol/ton以上含有することが好ましい。一方、両方の末端基が多すぎると、重合速度が速くなり、分子量が高くなりすぎてしまうため、片方の末端基は60mol/ton以下であることが好ましい。
前記のように反応条件を調整することで、反応器出口における樹脂中のモノヒドロキシ化合物残存量を低減させることができる。重合反応器の出口における樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量は、2000質量ppm以下であることが好ましく、1500質量ppm以下であることがより好ましく、は1000質量ppm以下であることが特に好ましい。このように反応器出口におけるモノヒドロキシ化合物残存量を低減させることで、後の工程におけるモノヒドロキシ化合物等の脱揮除去をより容易かつ十分に行うことができる。
副生し留去させたモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、精製を行った後、化合物原料として再利用することが好ましい。例えばモノヒドロキシ化合物がフェノールである場合、ジフェニルカーボネートやビスフェノール−A等の粗原料として活用することができる。
<ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物>
樹脂層A1は、ポリカーボネート樹脂の他に、種々の添加剤を含有することができる。このような樹脂層A1は、ポリカーボネート樹脂及び添加剤を含有する樹脂組成物を成形することにより製造される。
添加剤としては以下を例示できる。触媒失活剤、染顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、衝撃改良剤、加水分解抑制剤、核剤等。このようなポリカーボネート樹脂に通常用いられる添加剤を使用することができる。
(紫外線吸収剤)
樹脂層A1を構成するポリカーボネート樹脂は、紫外〜近紫外波長領域において光吸収が殆ど起こらず、光暴露による黄変劣化等に対する耐候性に優れる。そのため、紫外線吸収剤を配合させる必要はないが、積層体においては、樹脂層Aに、樹脂層A2及びコート層B等の何らかの中間層、表層、別の樹脂板等が積層される。このような他の層への紫外線暴露を防止するために、樹脂層A1を構成するポリカーボネート樹脂内に必要最低限の紫外線吸収剤を配合させることができる。また、黄色化や樹脂層表面のチョーキングによる白化、表面ヒビ割れ等を極めて厳密に防止したい場合も、紫外線吸収剤の添加が奏功することがある。
(特定リン系化合物)
樹脂層A1は、下記構造式(4)または(5)で表される部分構造のいずれかを有するリン系化合物(以下、「特定リン系化合物」という。)を含んでいることが好ましい。このような特定リン系化合物は、重縮合反応が完了した後、例えば溶融状態で重合槽から引き出されたポリカーボネート樹脂を押出機に通してペレット化させる溶融混練工程において、添加することができる。これより樹脂内に残存している重合触媒を失活させ、以降の熱履歴で重縮合反応が不必要に進行することを抑制できる。つまり溶融押出成形等の熱履歴が加わる工程で重縮合が進行することにより、モノヒドロキシ化合物が副生することを抑制することができる。また、この場合には、さらに高温下での樹脂着色を抑制することができる。
特定リン系化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ホスホン酸エステル、酸性リン酸エステル等を採用することができる。特定リン系化合物のうち、触媒失活と着色抑制の効果がさらに優れているのは、亜リン酸、ホスホン酸、ホスホン酸エステルであり、特に亜リン酸が好ましい。
ホスホン酸としては、例えば以下の化合物を採用することができる。ホスホン酸(亜リン酸)、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸、デシルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、アミノメチルホスホン酸、メチレンジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、4−メトキシフェニルホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、プロピルホスホン酸無水物等。
ホスホン酸エステルとしては、例えば以下の化合物を採用することができる。ホスホン酸ジメチル、ホスホン酸ジエチル、ホスホン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ホスホン酸ジラウリル、ホスホン酸ジオレイル、ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ジベンジル、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、エチルホスホン酸ジエチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジプロピル、(メトキシメチル)ホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ヒドロキシメチルホスホン酸ジエチル、(2−ヒドロキシエチル)ホスホン酸ジメチル、p−メチルベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸エチル、ジエチルホスホノ酢酸tert−ブチル、(4−クロロベンジル)ホスホン酸ジエチル、シアノホスホン酸ジエチル、シアノメチルホスホン酸ジエチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノアセトアルデヒドジエチルアセタール、(メチルチオメチル)ホスホン酸ジエチル等。
酸性リン酸エステルとしては、例えば以下の化合物を採用することができる。リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジビニル、リン酸ジプロピル、リン酸ジブチル、リン酸ビス(ブトキシエチル)、リン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸ジイソトリデシル、リン酸ジオレイル、リン酸ジステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸ジベンジルなどのリン酸ジエステル、又はジエステルとモノエステルの混合物、クロロリン酸ジエチル、リン酸ステアリル亜鉛塩等。
前記特定リン系化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
樹脂層A1中の特定リン系化合物の含有量は、リン原子として0.1質量ppm以上5質量ppm以下であることが好ましい。この場合には、特定リン系化合物による触媒失活や着色抑制の効果を十分に得ることができる。また、この場合には、特に高温・高湿度での耐久試験において、樹脂層A1の着色をより一層防止することができる。
前記特定リン系化合物は、重合触媒の量に応じて含有量を調節することにより、触媒失活や着色抑制の効果をより確実に得ることができる。前記特定リン系化合物の含有量は、重合触媒の金属原子1molに対して、リン原子の量として0.5倍mol以上5倍mol以下とすることが好ましく、0.7倍mol以上4倍mol以下とすることがより好ましく、0.8倍mol以上3倍mol以下とすることが特に好ましい。
(ヒンダードフェノール系化合物)
樹脂層A1は、特定リン系化合物に加えて、さらにヒンダードフェノール系化合物を含有することができる。この場合には、さらなる着色の抑制効果が期待できる。
ヒンダードフェノール系化合物としては、例えば以下の化合物を採用することができる。2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4−メトキシフェノール、2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、n−オクタデシル−3−(3',5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(6−シクロヘキシル−4−メチルフェノール)、2,2’−エチリデン−ビス−(2,4−ジ−tert−ブチルフェノール)、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]−メタン、n−オクタデシル−3−(3',5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
ヒンダードフェノール系化合物の含有量は、樹脂層A中のポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.01〜0.5質量部であることが好ましく、0.05〜0.3質量部であることがより好ましく、0.08〜0.2質量部であることがさらに好ましい。なお、ヒンダードフェノール化合物は、前記特定リン系化合物と同様に、混練工程やペレット化工程等においてポリカーボネート樹脂に添加されることが好ましい。
(酸化防止剤)
樹脂層A1は、酸化防止の目的で、通常知られている酸化防止剤を含んでいてもよい。適切に酸化防止剤を添加することで、重縮合反応時、押出機での添加剤混練時、成形加工等の加熱履歴時において、とりわけ黄変をより抑制することができる。
酸化防止剤としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等。
酸化防止剤を加える場合は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。また、酸化防止剤の添加量は、樹脂層A1中のポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.001〜0.2質量部が好ましく、0.005〜0.1質量部がより好ましく、0.01〜0.08質量部がさらに好ましい。
樹脂組成物の着色抑制効果の点では、酸化防止剤としてホスファイト系酸化防止剤を用いることが好ましい。しかし、リン原子を含む化合物、即ち、前記特定リン系化合物やホスファイト系酸化防止剤等の化合物は、含有量が過度に多い場合には、高温・高湿度下での耐久性試験においてかえって着色要因となり得る。そのため、これらを使用する場合には、リン原子の総量が樹脂組成物に対して好ましくは40質量ppm以下、より好ましくは30質量ppm以下となるように、前記特定リン系化合物を含む、リン原子を含有する化合物の総量を制御することが好ましい。
(ブルーイング剤)
積層板の色調要求に合わせるために、樹脂層A1はブルーイング剤を含有することができる。ブルーイング剤はポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物中に配合しておくことができる。ブルーイング剤は、ポリカーボネート樹脂組成物に通常使用されるブルーイング剤等から適宜選択し、その配合量を調整して使用すればよく、複数種のブルーイング剤を使用してもよい。
ブルーイング剤を加える場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1×10-4〜10×10-4質量部、より好ましくは0.3×10-4〜5×10-4質量部、特に好ましくは0.3×10-4〜2×10-4質量部である。これらの場合には、樹脂層A1を含む積層体を長期間使用した後でも色調を特定の範囲とすることが容易となると共に、明度の低下を抑制することができる。
なお、例えば黄色度(YI)が高い場合やb*値が高い場合等のように、調色前のポリカーボネート樹脂が黄色味を呈している場合には、黄色味を打ち消すためには多量のブルーイング剤を配合することが望まれる。しかし、多量のブルーイング剤を配合すると、明度が著しく低下する傾向がある。よって好ましい色調と高い明度を両立させるためには、元々のポリカーボネート樹脂の黄色みを十分に少なくすることが好ましく、そのためには原料不純物の低減、反応器構成や重合条件の選択、触媒種や触媒量の選択等を適正に行うことが好ましい。
ブルーイング剤としては、一般的にポリカーボネート樹脂組成物に使用されるものを好適に使用することができる。吸収波長の観点からは、極大吸収波長が520〜600nmの染料が好ましく、540〜580nmの染料がより好ましい。
極大吸収波長が520nm以上600nm以下の染料としては、例えば、一般名Solvent Violet 21に代表されるモノアゾ系染料、一般名Solvent Blue 2[CA.No(カラーインデックスNo)42563]に代表されるトリアリールメタン系染料、一般名Solvent Blue 25[CA.No74350]に代表されるフタロシアニン系染料、および一般名Solvent Violet13[CA.No60725]に代表されるアンスラキノン系染料が挙げられる。これらの中でもアンスラキノン系染料が、入手容易であり好ましい。
ブルーイング剤として利用可能なアンスラキノン系染料としては、その分子構造内にアンスラキノン構造を有するものであって、熱可塑性樹脂の染色に使用可能なものであれば、如何なるものでも利用することができる。なかでも、下記一般式(6)で表される化合物が、ポリカーボネート樹脂組成物の明度を高めるという点で、好適に用いられる。
一般式(6)中、R1〜R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1から3のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を表す。
アミノ基が有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基又はアリール基が挙げられる。アミノ基が置換基として有していてもよいアルキル基としては、炭素数が1から6のアルキル基が挙げられ、アミノ基が置換基として有していてもよいアリール基としては、環構造が3以下のアリール基が挙げられる。
環構造が3以下のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基が挙げられ、これらのアリール基は、炭素数3以下のアルキル基で置換されていても構わない。アミノ基が置換基として有していてもよいアリール基としてより好ましくは、アルキル基で置換されていてもよいフェニル基であり、更に好ましくは炭素数3以下のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基であって、特に好ましくは少なくとも1つのメチル基を有するフェニル基である。
好ましいアンスラキノン系のブルーイング剤の具体例としては、例えば、一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725;商標名 ランクセス社製「マクロレックスバイオレットB」、三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業(株)製「スミプラストバイオレットB」]、Solvent Violet14、一般名Solvent Violet31[CA.No68210;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンバイオレットD」]、Solvent Violet33[CA.No60725;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーJ」]、Solvent Violet36[CA.No68210;商標名 ランクセス社製「マクロレックスバイオレット3R」]、Solvent Blue45[CA.No61110;商標名 サンド社製「テトラゾールブルーRLS」]、一般名Solvent Blue94[CA.No61500;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーN」]、一般名Solvent Blue97[ランクセス社製「マクロレックスブルーRR」]、一般名Solvent Blue45、一般名Solvent Blue87および一般名Disperse Violet28が挙げられる。
これらの中でも、一般名Solvent Violet13[ランクセス社製「マクロレックスバイオレットB」]、一般名Solvent Violet36[ランクセス社製「マクロレックスバイオレット3R」]、一般名Solvent Blue97[ランクセス社製「マクロレックスブルーRR」]が好ましく、一般名Solvent Violet13[ランクセス社製「マクロレックスバイオレットB」]がより好ましい。中でも特に、下記式(7)で表される構造の染料、すなわち一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725;商標名 ランクセス社製「マクロレックスバイオレットB」および三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業(株)製「スミプラストバイオレットB」]が好ましい。
ブルーイング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、ブルーイング剤の使用量は少ない方が好ましく、使用するブルーイング剤の種類も少ない方が好ましい。
ブルーイング剤の配合時期、配合方法は特に限定されない。配合時期としては、例えば、重合反応前に原料とともに添加しそのまま重合を行う方法、重合反応終了時に配管や押出機で配合する方法、ポリカーボネート樹脂と他の配合剤と溶融混練する際に配合する方法等が挙げられるが、重合反応終了後に溶融混練して配合することが、ブルーイング剤の分散を良くし、色調と明度の調節を図りやすいため好ましい。特に重縮合反応終了後に溶融状態のまま押出機に導入し、ブルーイング剤を配合して溶融混練する方法が、熱履歴や酸素混入の影響を最小限に抑えられるため好ましい。
配合方法としては、例えば、ポリカーボネート樹脂にブルーイング剤を直接所定濃度になるよう混合又は混練する方法、高濃度のブルーイング剤を配合したマスターバッチを事前に作製し、これを通常のポリカーボネート樹脂とブレンドして所定濃度となるよう配合する方法などが挙げられる。
樹脂層A1は、前述のポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含むことができる。この場合には、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物に他の樹脂を混練させることができる。他の樹脂を混合する場合には、ヘーズや光線透過率、引張破断伸びなどの機械物性、加工温度条件などを考慮し、好ましくない影響の発現を抑制しながら、目的とする性能や特性を持たせることができる。その他の種類の樹脂の例としては、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル樹脂、アモルファスポリオレフィン、ABSやASなどの合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂、ゴムやエラストマーなどを用いることができる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの樹脂を前記の添加剤と併用してもよい。
(樹脂組成物の製造方法)
樹脂層A1を構成するポリカーボネート樹脂は、前述のようにジヒドロキシ化合物(a1)、ジヒドロキシ化合物(a2)、炭酸ジエステル等を原料として、エステル交換反応によりこれらの原料を重縮合させて得ることができる。このとき、その他のジヒドロキシ化合物をさらに用いることもできる。その後、得られたポリカーボネート樹脂に前記添加剤等を混練することにより、樹脂組成物を得ることができる。
・添加剤等の混練と低分子成分の除去
重縮合反応を行った後、重合槽から排出されたポリカーボネート樹脂に各種安定剤等を添加し混練して樹脂組成物を製造することができる。特には、重合槽で作製されたポリカーボネート樹脂を押出機に導入し、別途フィードされる各種安定剤と溶融混練するとともに、それの中に含まれる低分子成分の脱揮除去を行った後、得られる樹脂組成物を冷却固化してペレット化させることができる。
重縮合反応の後溶融混練して得られた樹脂組成物をペレット化させる方法としては、下記(1)または(2)の方法を例示できる。熱履歴を最小限にすることで色調悪化や分子量低下等の熱劣化をより抑制するという観点からは、下記(2)の方法を採用することが好ましい。
(1)重合槽からポリカーボネート樹脂をストランド状に引き出し、冷却固化させてから回転式カッター等でペレット化させる。次いで前記ペレットを押出機に供給し、各種安定剤等を添加して溶融混練に、同様に冷却固化させてからペレット化させる。
(2)重合槽からポリカーボネート樹脂をストランド状に引き出し、溶融状態のままのポリカーボネート樹脂を押出機へ導入し、各種安定剤等を添加して溶融混練し、冷却固化させてからペレット化させる。
溶融混練工程における低分子成分の脱揮除去の方法としては、脱揮効率の向上や添加剤の均一混合のため、吸引ベント付き二軸押出機を用いることが好ましい。溶融混練工程の後にポリマーフィルタを通過させる濾過工程を経る場合は、メルトライン内の気泡の原因となりうる低分子成分を効率よく除去でき、結果として前記フィルタへの樹脂組成物の安定供給が可能になるという観点から、やはり吸引ベント付き二軸押出機を用いることが好ましい。
前述のとおり、重合槽から引き出されたポリカーボネート樹脂中には、原料モノマー、エステル交換反応で副生するモノヒドロキシ化合物、オリゴマー、副反応生成物等の低分子成分が残存していることが多く、これらは樹脂の色調や熱安定性に悪影響を与え、成形加工時にブリードアウトするなどのトラブルの原因にもなりやすい。これら低分子成分は真空ポンプ等を備えた吸引ベントを備えた押出機内で、脱揮吸引して除去することができる。さらに、押出機内に水等の揮発性液体を供給して、水等と低分子成分とを同伴させながら効率よく脱揮を促進させることもできる。吸引ベント口は1箇所でも複数でもよいが好ましくは2箇所以上である。但し吸引ベント口の数を増やしすぎると押出機の長さが長くなりすぎ、ひいては溶融混練工程の滞留時間が過度に長くなるため、吸引ベント口は4箇所以下が好ましい。
ベント式二軸押出機では、重合触媒を失活させる作用を有する前記特定リン系化合物、ヒンダードフェノール化合物や通常知られている熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することもできる。
前記例示の方法では、前記特定リン系化合物を押出機でポリカーボネート樹脂に添加し、溶融混練して樹脂組成物を製造することができる。特にベント式二軸押出機の第一ベント口(フィード口に最も近い上流側のベント口)よりも更に上流側で前記リン系化合物を添加し、溶融混練することでポリカーボネート樹脂内の重合触媒を効率よく失活させた後、低分子成分を吸引除去することが好ましい。
このような方法を採用することにより、樹脂中の低分子成分を効率よく除去することができる。また、本来押出機内で溶融状態にあるポリカーボネート樹脂は、重縮合反応が進行しうる状態にあるが、末端基のモル比バランスの変動等によっては重合ないし解重合が進行して得られる樹脂組成物の分子量が変動することがある。そこで、前述の触媒失活の作用を有する特定リン系化合物を添加した後に低分子成分を吸引除去することにより、重縮合反応の進行を抑制したり、分子量変動を抑制したりすることが可能となり、均質な樹脂組成物を得ることが可能になる。
特定リン系化合物が高濃度になりすぎると、前述のように着色等の不具合を生じさせることがあるため、特定リン系化合物を押出機に供給する場合は、溶媒で希釈した溶液の状態で供給することが好ましい。希釈に用いる溶媒は、特定リン系化合物を溶解させることができれば特に制限はないが、押出機メルトラインの内壁金属を腐食させたり、系外に揮発するガスが人体に悪影響を与えたりするおそれがあるという観点から、ハロゲン含有溶媒は用いないことが好ましい。好ましい溶媒の例としては、エタノール等のアルコール類、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、トルエン等の芳香族炭化水素類、水等の無機溶媒等がある。これらの中でも引火等のおそれのない水を用いることが特に好ましい。
特定リン系化合物を供給する他の方法としては、ペレットや顆粒の担体に特定リン系化合物を添着させたマスターバッチを予め準備しておき、これを押出機へ供給する方法も採用できる。この方法は、押出機への供給が比較的容易であり定量供給性も確保される利点がある。
特定リン系化合物の担体への添着方法は、従来公知の混合攪拌機を用いて行うことができる。例えばリボンブレンダーを用いて、一定速度で前記リン系化合物と担体を供給して混合添着させ、それを一定速度で押出機へ供給する方法が好ましく例示できる。
特定リン系化合物と混合する担体樹脂は、押出機中の樹脂と同一であることが好ましい。例えば目的とするポリカーボネート樹脂中に、前記特定リン系化合物を高濃度に分散させたマスターバッチを作製し、これを押出機に供給する方法が好ましい。マスターバッチの濃度は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し0.1質量部以上20質量部以下が好ましく、更には0.5質量部以上10質量部以下、特には1質量部以上5質量部以下である。これらの場合には、特定リン系化合物の希釈分散が均一になると共に、押出機の可塑化負荷を低くすることができる。さらに空気が過分に押出機系内に同伴されることを抑制できるため、樹脂の着色や熱分解をより抑制することができる。
ポリカーボネート樹脂に特定リン系化合物を適切な条件で混練添加することで、本来加熱着色しやすい樹脂特性が抑制され、得られる樹脂組成物の色調を中心とした品質を大きく改善することができる。
具体的には、押出機系内において溶融状態にある樹脂組成物中に特定リン系化合物が分散した状態で、減圧下で脱揮処理することができる。この場合には、残存する低分子成分をより効率よく除去することができ、更には得られる樹脂組成物の色調もより改善することができる。脱揮処理の効率を高めるために、前述の吸引ベント付き二軸押出機における真空ベントの圧力は1kPa以下が好ましく、0.5kPa以下がより好ましく、0.3kPa以下が特に好ましい。できるだけ低い方がいいという観点で特に下限はないが、装置実用上の下限は0.01kPa程度である。
脱揮効率を高めるためには、樹脂の溶融粘度が低い方が好ましく、押出機系内での溶融混練温度は高い方が好ましい。しかし温度が高過ぎると着色や熱分解が生じる恐れがあるため、できるだけ高く且つ適切な温度で加工することが必要である。適切な溶融温度は、樹脂のガラス転移温度、分子量、溶融粘度等に依存するが、熱分解が急激に起こり始める温度を考慮して、200℃以上280℃以下が好ましい。この場合には、押出機の可塑化負荷が小さくなり、生産性を向上させることができると共に、ポリカーボネート樹脂の熱分解を抑制するこができ、着色、分子量低下による機械強度の低下、熱分解ガスの発生等をより防止することができる。この効果をより高めるという観点から、溶融温度は、210℃以上270℃以下がより好ましく、220℃以上265℃以下が特に好ましい。
押出機のスクリュ回転数は、周速で0.1m/秒以上0.45m/秒以下が好ましい。この場合には、剪断発熱に起因する着色や分子量低下をより抑制できると共に、吸引ベント口で溶融樹脂がベントアップしたり、低分子成分の脱揮効率や添加剤の分散効率が損なわれたりすることを防止することができる。この効果をより高めるという観点から、スクリュの回転数は、0.2m/秒以上0.4m/秒以下であることがより好ましい。
押出機は、シリンダの温度制御のための複数のヒータを有することが好ましい。また、押出機は、シリンダ内に二軸のスクリュを備えることが好ましい。押出機に供給された樹脂は、例えばシリンダ内で外部ヒータから加熱または冷却されながら押し出される。このときポリカーボネート樹脂の着色や熱分解を抑制するために、押出機のシリンダや下流側に接続されたダイヘッド、導管、フィルタ等の流路の内壁のヒータ設定温度は240℃以下であることが好ましい。加えて各ヒータゾーンでの流体の実測温度は、265℃以下であることが好ましく、260℃以下であることがより好ましく、255℃以下であることが特に好ましい。その一方で、ヒータ設定温度が低すぎると、スクリュ回転のトルクが過剰になり運転困難となったり、局所的な剪断発熱が生じることで前記好ましい上限温度を越えたりする恐れがあるため、各ヒータ設定温度は100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、140℃以上が特に好ましい。
前記例示のような条件で吸引ベント式二軸押出機を用いて脱揮処理することにより、ポリカーボネート樹脂の着色や熱分解をより抑制しながら、残存している低分子成分をより効率よく除去することができる。とは言え、最終的に得られる樹脂組成物中におけるフェノール等の残存低分子成分を極力少なくするためには、押出条件だけではなく、押出機に供給する前の重合工程においてできるだけ低減させておく事が好ましい。したがって前述のとおり、ポリカーボネート樹脂の末端基バランスや、重合の最終工程における圧力等の条件を最適化することにより、重合工程での残存低分子成分を極力低減させておくことが好ましい。
・濾過
重縮合により得られるポリカーボネート樹脂中のヤケ等の異物を除去するという観点から、前述のとおり押出機から排出される樹脂組成物を冷却固化させること無く、加熱溶融した状態のままでフィルタに供給して濾過を行うことが好ましい。中でも、残存モノマーや副生フェノール等を脱揮除去し、熱安定剤や離型剤等の添加剤を溶融混練した後で、溶融状態のまま下流側に設置されたフィルタで濾過することが好ましい。
フィルタの形態としては、キャンドル型、プリーツ型、リーフディスク型等の公知の形態を採用できる。これらの中でも、フィルタの格納容器に対する濾過面積を大きくすることができ、さらに滞留時間分布の狭いという観点から、キャンドル型が好ましい。異なる形態のフィルタを複数組み合わせて用いても良い。
好適に用いられるフィルタは、一般に保持部材(リテイナー等)に、濾過部材(メディア等)を組み合わせて構成されており、それらが格納容器に収納されたユニットの形式で用いられる。
フィルタ差圧(圧力損失)を小さくするためには、複数の目開きのメディアを積層し、樹脂の進入方向から見て順次目開きが細かくなっていく形式のものが好ましく、さらにはフィルタ表面にゲル破砕型の金属製パウダーを焼結した形式のものが好ましい。
フィルタから排出される樹脂組成物の温度は、直後に連結した導管で測定した流体の実測温度で265℃以下となっていることが好ましい。この場合には、樹脂の熱劣化をより抑制することができる。そのため、着色や分子量低下をより抑制することができる。この効果をより高めるという観点から、フィルタから排出される樹脂組成物の温度は、実測温度で260℃以下がより好ましく、255℃以下が特に好ましい。一方、樹脂組成物の溶融粘度を低下させ、押出機スクリュの回転負荷を小さくしたり、フィルタの破損を防止するとい観点から、樹脂組成物の温度は、実測温度で220℃以上が好ましく、225℃以上がより好ましく、230℃以上が特に好ましい。
フィルタ濾過を行うにあたっては、前記の特定リン系化合物を用い、更には重合条件や押出条件や濾過条件を最適化することにより、フィルタ通過前後の樹脂組成物中のモノヒドロキシ化合物の増加量を好ましくは100質量ppm以下、より好ましくは80質量ppm以下、特に好ましくは60質量ppm以下に抑制することがよい。
フィルタのメディア材質は、通過させる樹脂組成物の濾過に必要な強度と耐熱性を有しておれば特段の制限はないが、比較的鉄の含有量が少ないSUS316、SUS316L等のステンレス鋼が好ましい。フィルタの織り方は、平織、綾織、平畳織、綾畳織等の補修部分が規則正しい織り方になっているものがある。また、フィルタとしては、不織布を用いることもできる。好ましくはゲル補修能力の高い不織布タイプがよく、特に好ましくは不織布を構成する鋼線同士を焼結して固定させたタイプのフィルタがよい。
例えば99%の濾過精度を実現させるためには、フィルタの目開きは、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは20μm以下がよい。用途により微小な異物も出来るだけ除去させたい場合には、フィルタの目開きは10μm以下が好ましい。一方、目開きが小さすぎるとフィルタ前後での圧力損失が大きくなり、フィルタが破損したり、過剰な剪断発熱による樹脂劣化を引き起こす恐れがある。これを避けるという観点から、フィルタの目開きの下限は1μmである。なお、フィルタの目開きは、ISO16889に準拠して決定される。
ステンレス鋼等の鉄成分を含むフィルタは、使用前に不動態化しておくことが好ましい。この場合には、たとえ200℃を越える温度条件で濾過を行っても樹脂劣化を引き起こすことをより抑制することができる。不動態化の処理方法としては、硝酸等の酸に、浸漬させるか通液させる方法の他、水蒸気や酸素の存在下で焙焼加熱させる方法がある。これらの処理方法を併用してもよい。中でも硝酸浸漬と焙焼を併用する方法が好ましい。
不動態層を十分に形成させると共に、フィルタメディアの損傷を抑制して所望の濾過精度を得るという観点から、焙焼の温度は、350〜500℃が好ましく、350〜450℃がより好ましい。同様の観点から焙焼時間は3〜200時間が好ましく、5〜100時間がより好ましい。
不動態層を十分に形成させると共に、フィルタメディアの損傷を抑制して所望の濾過精度を得るという観点から、不動態化に用いる硝酸の濃度は、5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。同様の観点から、処理温度は5〜100℃が好ましく、50〜90℃がより好ましい。同様の観点から、処理時間は、5〜120分が好ましく、10〜60分がより好ましい。
フィルタの格納容器の材質は、樹脂の濾過に耐えられる強度と耐熱性を有していれば特段の制限はないが、好ましくは鉄の含有量が少ないSUS316やSUS316L等のステンレス鋼である。
フィルタへの溶融樹脂組成物の供給レートを安定化させるため、押出機とフィルタの間にギアポンプを配置することが好ましい。ギアポンプの種類は特段の制限はないが、好ましくはシール部にグランドパッキンを用いない自己潤滑型が、異物低減の観点から好ましい。
・ペレット化
押出機で溶融混練され、好ましくはギアポンプを経由してフィルタで濾過された樹脂組成物は、例えばダイヘッドからストランド状に吐出され、冷却固化の後に、回転式カッター等でペレット状に切断される。ペレット化工程は、外部環境からの異物混入を防止する観点で、好ましくはJIS B9920:2002に定義されるクラス7、更には同クラス6より清浄度の高い環境で行われる。
ストランドの冷却方法は、通常は空冷または水冷等で行われ、空冷の場合に使用する空気は、ヘパフィルタ等で空気中の異物を濾過した清浄な空気を用いて、空気中の異物の混入を防ぐことが好ましい。また水冷の場合に使用する水は、イオン交換樹脂等で水中の金属成分を除去したのち、水用フィルタで水中の異物を除去した清浄な水を用いることが好ましい。水用フィルタの目開きは、99%除去の濾過精度を実現するために10〜0.45μmであることが好ましい。
<ポリカーボネート樹脂及び樹脂組成物の物性>
ポリカーボネート樹脂及び樹脂組成物は、以下の物性を有することが好ましい。
(還元粘度)
ポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度が高いほど分子量が大きいことを示す。機械的強度をより向上させるという観点から、ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、0.3dL/g以上であることが好ましく、0.33dL/g以上がより好ましい。一方、成形時の流動性がより高め、生産性や成形性をより向上させるという観点からは、還元粘度は、1.2dL/g以下であることが好ましく、1dL/g以下がより好ましく、0.8dL/g以下が更に好ましい。
ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、例えば次のようにして測定することができる。ます、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解させ、精密に0.6g/dLの濃度のポリカーボネート樹脂溶液を調製する。次いで、森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃の条件で溶媒の通過時間t0と溶液の通過時間tとを測定し、次式(i)に基づいて相対粘度ηrelを算出する。次いで、相対粘度ηrelから、次式(ii)に基づいて比粘度ηspを求める。
ηrel=t/t0 ・・・(i)
ηsp=ηrel−1 ・・・(ii)
得られた比粘度ηspを溶液の濃度c(g/dL)で割ることにより、還元粘度(ηsp/c)を求める。
(溶融粘度)
ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は400〜3000Pa・sが好ましい。この場合には、樹脂層A1が脆くなることを防止し、機械物性をより向上させることができる。さらにこの場合には、成形加工時における流動性を向上させ、樹脂層A1の外観が損なわれたり、厚みなどの寸法精度が悪化したりすることを防止することができる。さらにこの場合には、剪断発熱により樹脂温度が上昇することに起因する、着色や発泡をより一層防止することができる。これらの効果をより高めるという観点から、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は、600〜2500Pa・sがより好ましく、800〜2000Pa・sが特に好ましい。なお、本明細書において溶融粘度とは、キャピラリーレオメーター(東洋精機社製)を用いて測定される、測定温度240℃、剪断速度91.2sec-1における溶融粘度をいう。
<芳香族ポリカーボネート樹脂層(A2))>
基材層Aは、前述のポリカーボネート樹脂を含有する樹脂層A1と、この樹脂層A1に積層形成された樹脂層A2とを有する。樹脂層A2は、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する。芳香族ポリカーボネート樹脂は、単独重合体または共重合体のいずれであってもよい。また、芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐構造であっても、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造と直鎖構造との混合物であってもよい。なお、本明細書において、樹脂層A2を構成する芳香族ポリカーボネート樹脂は、前述のポリカーボネート樹脂を含まない。
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、例えば、ホスゲン法、エステル交換法およびピリジン法などの従前知られるいずれの方法を用いてもかまわない。以下一例として、エステル交換法による芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法を説明する。
エステル交換法は、2価フェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。
2価フェノールの代表例としては、ビスフェノール類が挙げられ、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられる。また、ビスフェノールAの一部又は全部を他の2価フェノールで置き換えてもよい。
他の2価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンおよび1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォキシドおよびビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルなどの化合物、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのアルキル化ビスフェノール類、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)
プロパンなどのハロゲン化ビスフェノール類が挙げられる。
炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネートおよびジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。
これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
樹脂層A2に用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、力学特性と成形加工性のバランスから、8,000以上、30,000以下であることが好ましく、10,000以上、25,000以下であることがより好ましい。なお、粘度平均分子量(Mv)は、芳香族ポリカーボネート樹脂試料の塩化メチレン溶液(濃度:0.6g/dl)を調製し、ウベローデ型粘度計を用いて、温度20℃におけるηspを測定し、以下の式(I)及び(II)より求める。
ηspC=[η]×(1+0.28ηsp) (I)
[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83 (II)
式(I)中、ηspは芳香族ポリカーボネート樹脂試料の塩化メチレン中20℃で測定した比粘度であり、Cはこの塩化メチレン溶液の濃度である。塩化メチレン溶液としては、ポリカーボネート樹脂試料の濃度が0.6g/dlの溶液を使用する。
芳香族ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、A層に用いるポリカーボネート樹脂と同様に測定され、通常、0.23dl/g以上0.72dl/g以下であることが好ましく、0.27dl/g以上0.61dl/g以下であることがより好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂とは、2価フェノールに由来する構造単位中、50モル%以上(好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上)が一つ以上の芳香環を有するものをいい、前記芳香環は置換基を有していてもよい。
<コート層(B)>
積層体は、基材層(A)に積層形成されたコート層(B)を有する。コート層(B)は、基材層(A)における前述の樹脂層A2側に積層形成されている。コート層(B)は、は、化合物(b1)に由来する構造単位を少なくとも有する重合体を含有し、化合物(b1)は、下記式(2)で表される構造を有すると共に(メタ)アクリロイル基を有する。コート層(B)は、例えば化合物(b1)を少なくとも含有する硬化性組成物を硬化させることにより得られる。化合物(b1)は、(メタ)アクリロイル基を有し、下記式(2)で表される構造を有するものであれば特に制限されないが、(メタ)アクリロイル基の数が2個以上であることが硬化性組成物の硬化性の観点から好ましく、より好ましくは3個以上であり、通常10個以下である。
式(2)で表される構造は、例えばエポキシ基とカルボキシル基とが反応した構造を有している。即ち、下記式(8)の反応により得ることができる。なお、式(8)中、R及びR’はそれぞれ独立して有機基を示す。
化合物(b1)は、例えば(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有する化合物と、エポキシ基を有する化合物とを反応させて得ることができる。
エポキシ基を有する化合物としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグルシジル(メタ)アクリレート、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、α−メチル−o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、α−メチル−m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、α−メチル−p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等を原料として得られるエポキシ基を有するアクリル系ポリマー、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、エポキシ基を有する化合物はエポキシ基を2個以上有することが好ましく、3個以上有することがより好ましい。
また、(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートと無水コハク酸の付加物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと無水コハク酸の付加物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと無水フタル酸の付加物等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと無水コハク酸の付加物が好ましく、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。これらは1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<化合物(b2)>
コート層(B)の重合体は、さらに、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物(b2)に由来にする構造単位を有することができる。すなわち、コート層Bは、重合体として、化合物(b1)に由来の構造単位と、化合物(b2)に由来の構造単位とを有する共重合体を含有することができる。この場合には、コート層(B)の硬化性及び耐傷付性を向上させることができる。このようなコート層(B)は、例えば化合物(b1)と化合物(b2)とを少なくとも含有する硬化性組成物を硬化させることにより形成することができる。なお、化合物(b2)は、前述の化合物(b1)を含まず、これらは異なる化合物である。
化合物(b2)としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)ジアクリレート、ブタンジオール(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス−2−ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスエリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート;これらの(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε−カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物の変性物;イソシアヌレート構造を有する多官能(メタ)アクリレート等の窒素原子含有複素環構造を有する多官能(メタ)アクリレート;デンドリマー構造を有する多官能(メタ)アクリレート、ハイパーブランチ構造を有する多官能(メタ)アクリレート等の多分岐樹脂状構造を有する多官能(メタ)アクリレート;ジイソシアネートまたはトリイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリレートが付加したウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
化合物(b1)に由来の構造単位と化合物(b2)由来の構造単位との合計100モル%に対する化合物(b2)に由来する構造単位含有量が1〜80mol%であることが好ましい。この場合には、コート層(B)の硬化性及び耐傷付性をより向上させることができる。
硬化性組成物中の化合物(b1)と化合物(b2)との合計100モル%中の化合物(b2)の含有量は、前記範囲内で要求に従って適宜選択すればよいが、コート層(B)の硬化性及び耐傷付性をより重視する場合は、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましく、30モル%以上であることが特に好ましい。一方、同様の観点から、化合物(b)の含有量は、70モル%以下であることがより好ましく、60モル%以下であることがさらに好ましく、50モル%以下であることが特に好ましい。なお、化合物(b1)の含有量が少なくなるにつれ、前述の基材のカールを抑制する効果が小さくなっていく恐れがある。したがって、化合物(b)の配合比率を例えば上記範囲内で高めることにより、カール抑制効果をより高めることができる。
(光重合開始剤)
硬化性組成物は、硬化性を向上させるため、光重合開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤は従前知られるものを使用することができる。光重合開始剤としては例えば、光ラジカル発生剤、光酸発生剤等が挙げられる。
光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[例えば、商品名「イルガキュア(登録商標)184」、BASF製]、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン等のアセトフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノン等のアントラキノン類;ベンゾフェノン及びその各種誘導体;ベンゾイルギ酸メチル、ベンゾイルギ酸エチル等のギ酸誘導体等が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの光ラジカル発生剤の中でも、硬化物の耐光性の観点から、好ましいのはアセトフェノン類、ホスフィンオキシド類、ギ酸誘導体であり、更に好ましいのは、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ベンゾイルギ酸メチルであり、特に好ましいのは、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイルギ酸メチルである。
光酸発生剤としては従前知られているものが使用可能であるが、中でもジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩が硬化性、酸発生効率等から好ましい。具体例を挙げると、ジ(アルキル置換)フェニルヨードニウムのアニオン塩(具体的にはPF6塩、SbF5塩、テトラキス(パーフルオロフェニル)ボレート塩等)が例示できる。(アルキル置換)フェニルヨードニウムのアニオン塩の具体例としては、ジアルキルフェニルヨードニウムのPF6塩[商品名「イルガキュア(登録商標)250」、BASF製]が特に好ましい。これらの光酸発生剤は1種のみで用いても2種以上を組み合わせてもよい。
硬化性組成物が光重合開始剤を含む場合、その含有量は、硬化性組成物中の(メタ)アクリロイル基を有する化合物の合計100質量部に対して、硬化性を向上させる観点から、好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上である。一方、硬化性組成物を溶液としたときの液の安定性を維持する観点から、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは8質量部以下である。
(有機溶媒)
硬化性組成物を調整する際には、有機溶媒を含むことが好ましい。有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、硬化性組成物に含まれる成分の種類等を考慮して適宜選択することができる。用いることができる有機溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、アニソール、フェネトール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテート等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒等が挙げられる。
これらの有機溶媒は1種を単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。これらの有機溶媒のうち、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒及びケトン系溶媒が好ましく使用される。
有機溶媒の使用量には特に制限はなく、調製される硬化性組成物の塗布性、液の粘度・表面張力、固形分の相溶性等を考慮して適宜決定される。硬化性組成物は、前述の溶媒を用いて、好ましくは固形分濃度が20〜95質量%、より好ましくは30〜80質量%の塗液として調製される。ここで、硬化性組成物における「固形分」とは溶媒を除いた成分を意味するものであり、固体の成分のみならず、半固形や粘稠な液状物のものをも含むものとする。
(その他の成分)
硬化性組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、化合物(b1)、化合物(b2)、有機溶媒、及び重合開始剤以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、紫外線吸収剤、ヒンダートアミン系光安定剤、充填剤、シランカップリング剤、反応性希釈剤(ただし、化合物(b1)及び化合物(b2)に該当するものは除く)、帯電防止剤、有機顔料、有機粒子、無機粒子、レベリング剤、分散剤、チクソトロピー性付与剤(増粘剤)、消泡剤、酸化防止剤等が挙げられる。
コート層(B)の厚さは、積層体の表面硬度や耐傷性の観点からは厚い方が好ましく、耐クラック性や屈曲性の観点からは薄い方が好ましい。これらを両立させるという観点から、コート層(B)の厚さは2〜30μmであること好ましい。より高いレベルで両立させるという観点から、コート層(B)の厚さは、3〜25μmであることがより好ましく、5〜20μmであることがさらに好ましい。コート層(B)の厚さは、硬化性組成物の塗布厚によって調整可能である。
<硬化性組成物の製造方法>
硬化性組成物の製造方法は、特に制限されないが、例えば、化合物(b1)と、必要により添加される化合物(b2)、有機溶媒、重合開始剤、その他の成分等とを混合することにより得ることができる。各成分の混合に際しては、ディスパーザー、撹拌機等で均一に混合することが好ましい。
<積層体の製造方法>
積層体は、例えば基材層(A)を成形し、その表面にコート層(B)を積層形成することで作製される。その作製方法に特段の制限はないが、例えば、以下の製造方法が挙げられる。
積層体は、例えば下記の共押出工程と、塗布工程と、硬化工程とを行うことにより、製造することができる。
共押出工程においては、ジヒドロキシ化合物(a1)に由来する構造単位と、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、芳香族ビスフェノール類、及びエーテル基含有ジヒドロキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種のジヒドロキシ化合物(a2)に由来する構造単位とを有する共重合体を含むポリカーボネート樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂とを共押出成形法によりそれぞれ層状に成形する。これにより、樹脂層A1と樹脂層A2とが積層された基材層(A)を作製する。
塗布工程においては、基材層(A)における樹脂層A2に、化合物(b1)を少なくとも含む硬化性組成物を塗布する。
硬化工程においては、硬化性組成物の塗布面に活性エネルギー線を照射し、硬化性組成物中の全(メタ)アクリロイル基の5〜70mol%が反応するよう硬化性組成物を硬化させる照射工程を1回以上行う。これにより、基材層(A)上に化合物(b1)由来の構造単位を有する重合体よりなるコート層(B)を形成する。
共押出工程における各樹脂層の成形方法は、溶融押出成形、射出成形、溶液キャスト成形等の方法から、目的にあわせて任意に選択することができる。中でも各樹脂層の平滑性、薄肉成形性、連続生産性、環境負荷低減等の観点から溶融押出成形により作製することが好ましい。
基材層(A)の製造方法としては、前述の共押出工程のように、各樹脂層を構成する樹脂を同時に共押出成形することにより多層シートからなる基材層を得る方法を採用することができる。その他の方法としては、単相の各樹脂層をそれぞれ製造し、それらを適宜表面酸化、プライマー塗布、接着材塗布等の前処理を任意に行い、加熱ラミネート、加圧ラミネート等で積層する方法がある。
塗布工程においては、基材層(A)における少なくとも樹脂層A2上に、硬化性組成物を塗布する。硬化性組成物は、樹脂層A2上だけでなく、樹脂層A1上に塗布することも可能である。この場合には、基材層(A)の両面にコート層(B)を形成することができる。両面にコート層(B)を形成する場合には、片面ずつ塗布と硬化の工程を繰り返す方法、両面とも塗布してから硬化させる方法のいずれでもよい。
塗布工程においては、硬化性組成物を厚さ2〜40μmで塗布することができる。塗布方法は、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、マイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法等が挙げられる。塗布工程と硬化工程との間に、基材層(A)上に塗布された硬化性組成物を乾燥させる乾燥工程を行うことができる。乾燥工程における乾燥温度は、例えば40〜100℃である。
硬化工程においては、硬化性組成物の塗布面に活性エネルギー線を照射する照射工程を1回以上行う。各照射工程においては、硬化性組成物中の全(メタ)アクリロイル基の5〜70mol%が反応するよう前記硬化性組成物を硬化させる。各照射工程における(メタ)アクリロイル基の反応率が5mol%未満の場合には、コート層を十分に硬化させるために必要な照射回数が多くなる。そのため、生産性が低下するおそれがある。一方、反応率が70mol%を超える場合には、樹脂劣化が起こり易くなったり、可撓性が損なわれ易くなったりするおそれがある。
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、赤外線、可視光線等が選択できる。中でも硬化性と樹脂劣化防止の観点から、好ましくは紫外線または電子線である。
活性エネルギー線として紫外線を使用する場合には、種々の紫外線照射装置を用いることができ、光源としてキセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LED−UVランプ等を使用できる。紫外線の照射量は、通常10〜10000mJ/cm2程度であり、硬化性組成物の硬化性、コート層(B)の可撓性等の観点から好ましくは15〜50000mJ/cm2、特には20〜3000mJ/cm2の範囲で、目的とするアクリロイル基の反応率に応じて適宜決定される。
活性エネルギー線として電子線を使用する場合には、種々の電子線照射装置を用いることができる。電子線の照射量は、通常0.5〜20MRad程度であり、硬化性組成物の硬化性、コート層(B)の可撓性、基材の損傷防止等の観点から好ましくは1〜15MRadの範囲で、目的とするアクリロイル基の反応率に応じて適宜決定される。
コート層(B)は通常照射工程を1回行うことで形成される。硬化工程後には、硬化性組成物中の全(メタ)アクリロイル基の60mol%以上を反応させることが好ましい。この場合には、硬化性組成物中のアクリロイル基の反応を十分に進行させることにより、表面硬度や耐傷付性に優れる硬化膜からなるコート層(B)を形成することができる。硬化工程後には、硬化性組成物中の全(メタ)アクリロイル基の70mol%以上を反応させることがより好ましい。前述のアクリロイル基の反応率を達成するための活性エネルギー線の照射量は、通常300〜2000mJ/cm2程度である。
積層体の総厚さは、各層の厚さと機能を確保させる観点から好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上である。一方で、最終製品の薄肉化や例えばディスプレイ前面板などの用途に好適であるという観点から、好ましくは500μm以下、更に好ましくは300μ以下、特に好ましくは200μ以下である。なお積層体の構造内に、本発明の主旨を超えない範囲でその他の層を積層してもよい。その他の層の例として、防曇層、反射防止層、ハードコート層、光拡散層、光反射層、印刷層、着色層、凹凸パターン形成層、額縁層、封止層、ガスバリア層、粘接着層、蒸着層、位相差板、波長板、光学補償板、偏光板、導光板等が挙げられる。
<用途>
積層体は、耐衝撃性、耐湿熱性等が良好であり、さらに、基材のカールを低減することができる。そのため、積層体は、ディスプレイ前面板、タッチパネル等のディスプレイ関連部材、灯体カバー等のランプ関連部材、ウィンドウ基材やハーフミラー基材等のウィンドウ関連部材、一般機器筐体や化粧板、家具等の幅広い物品の表面クリア層に好適に使用できる。積層体は、屋内外で使用される透明建材にも好適である。これらの中でもディスプレイ関連部材に好適である。
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略号は次の通りである。
ISB:イソソルビド(ロケットフルーレ社製、商品名POLYSORB)
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール(イーストマン社製)
DPC:ジフェニルカーボネート(三菱化学(株)製)
<酸化防止剤>
AS2112:ホスファイト系酸化防止剤(ADEKA社製、アデカスタブ2112)
IRGANOX1010:フェノール系酸化防止剤(BASFジャパン社製、商品名IRGANOX1010)
実施例においては、図1に例示されるように、基材層2とコート層3との積層体1を製造する。基材層2は、ポリカーボネート樹脂層21と、これに積層形成された芳香族ポリカーボネート樹脂層22とを有する。ポリカーボネート樹脂層21は、ISB由来の構造単位と、CHDM由来の構造単位とを有する共重合体を含有する。また、芳香族ポリカーボネート樹脂層22は、ビスフェノールA由来の構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する。
<基材の作製>
まず、ジオール成分としてISB(すなわち、ジヒドロキシ化合物(a1))とCHDM(すなわち、ジヒドロキシ化合物(a2))とを以下の表1に記載の比率で配合し、さらに炭酸ジエステル成分としてDPCを表1に示す比率で配合し、これらを共重合させることによりポリカーボネート樹脂(すなわち、共重合脂肪族ポリカーボネート樹脂)を作製した。表1に示すように、ISBとCHDMとの比率の異なる2種類のポリカーボネート樹脂を作製した。これらをそれぞれPCA1−1及びPCA1−2という。
次いで、各ポリカーボネート樹脂に、AS2112を500ppm、IRGANOX1010を1000ppm添加することにより、2種類の樹脂組成物を作製した。
また、ジオール成分としてのビスフェノールAを重合させて得られた芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユーピロンS2000R)を準備した。この芳香族ポリカーボネート樹脂のことを、以下適宜、「PCA2」という。次いで、共押出成形法により、PCA1−1又はPCA1−2を含有する樹脂組成物と、PCA2とをそれぞれ層状に成形しつつ積層させた。これにより、ポリカーボネート樹脂を含有する樹脂層A1と芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する樹脂層A2との積層体からなる基材を作製した。基材において、樹脂層A1の厚さは50μm、樹脂層A2の厚さは125μmである。
<反りの評価>
8cm×8cmの大きさの基材を、予め100℃に設定された熱風乾燥機内で7時間乾燥させた。この基材の樹脂層A2上に、後述の方法によりコート層(B)を形成するための硬化性組成物を塗工した直後の積層体における反り程度及び反りの向きを下記の通り評価した。また、硬化性組成物を塗工してから、恒温恒湿条件下(23℃、60%RH)で24時間静置した後の積層体の反り程度及び反りの向きを下記の通り評価した。ただし、積層体はコート層(B)を上部にして静置した。
・反りの程度
四端の反りの平均が0.2cm未満の場合を「優」として評価した。
四端の反りの平均が0.2cm以上、0.5cm未満の場合を「良」として評価した。
四端の反りの平均が0.5cm以上、1cm未満の場合を「可」として評価した。
四端の反りの平均が1cm以上、または反りが大きすぎて積層体が円筒状となった場合を「不可」として評価した。
・反りの向き
カールがなく平らな場合を「平」と評価した。
基材層側が凸にカールした場合を「正」と評価した。
基材層側が凹にカールした場合を「逆」と評価した。
<落球試験>
8cm×8cmの大きさの基材の樹脂層A2上に、後述の方法によりコート層(B)を形成した積層体について、落球試験により脆性破壊率を測定した。具体的には、デュポン式落下衝撃試験機を用いて、積層体のコート層(B)側に、所定の高さから球状の錘を落下させて、その破壊形態を確認した後、脆性破壊率を測定した。脆性破壊率は値が小さいほど優れているものと評価される。脆性破壊率が20%未満の場合を「優」と評価し、20%以上80%未満の場合を「可」と評価し、80%以上の場合を「不可」と評価した。
測定条件は、サポート内径:30mm、撃芯半径:1/4インチ、錘の荷重:800g、高さ:50cm、試行数N:5である。
<耐湿熱性>
8cm×8cmの大きさの基材の樹脂層A2上に、後述の方法によりコート層(B)を形成した積層体について、耐湿熱性の評価を行った。耐湿熱性は、85℃、85%RHの恒温恒湿槽内に積層体を24時間立てかけ、著しい変形ない場合を「優」と評価し、著しい変形がある場合を「不可」と評価した。
<化合物(b1)の合成例>
撹拌機、還流冷却管及び温度計を取り付けた反応器に、グリシジルメタクリレート(三菱レイヨン社製「アクリエステルG」)98質量部、メチルメタクリレート(三菱レイヨン社製「アクリエステルM」)1質量部、エチルアクリレート(和光純薬工業社製)1質量部、メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM803」)1.9質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)157.3質量部を仕込んだ。次いで、撹拌を開始した後、反応器内を窒素置換し、温度55℃に昇温させた。次いで、反応器内に、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製「V−65」)1質量部を添加した後、反応器内を温度65℃まで昇温させ、3時間撹拌した。その後、さらにV−65を0.5質量部添加して温度65℃で3時間撹拌した。次いで、反応器内を温度100℃まで昇温させ、30分間撹拌した後、p−メトキシフェノール(和光純薬工業社製)0.45質量部、PGM138.1質量部を加え、再度反応器内を100℃まで昇温させた。次に、反応器内に、トリフェニルホスフィン(和光純薬工業社製)3.1質量部を添加した後、アクリル酸(三菱化学社製)50.7質量部を加え、温度110℃まで昇温し6時間撹拌した。このようにして、側鎖に(メタ)アクリロイル基を有すると共に、エポキシ基とカルボキシル基とを反応させてなる構造を有する化合物(b1)を含む反応液を得た。反応液の組成は化合物(b1)/PGM=30/70(質量比)であった。
[実施例1〜4、比較例1〜3]
<液状硬化性組成物の調製>
表2に示す製造例1及び製造例2に示す配合に従って、活性エネルギー線によって硬化可能な2種類の液状硬化性組成物を調製した。表2における製造例1の硬化物のことを、以下適宜「B1」といい、製造例2の硬化物のことを、以下適宜「B2」という。なお、表2中の略号は以下の通りである。
V#300:ペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート(大阪有機化学工業社製ビスコート#300)
MEKST:コロイダルシリカのMEK分散液(日産化学工業社製 MEK−ST)
IC184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製 イルガキュア184)
<積層体の製造及び評価>
温度80℃で8時間以上乾燥した基材の表面に、液状硬化性組成物を塗布し、熱風オーブンを用いて加熱することにより乾燥させた。乾燥は80℃で60秒間行った。次いで、塗布面に、高圧水銀灯を用いて紫外線を1回照射することにより、基材層の表面にコート層を形成し、積層体を得た。紫外線の照射条件は、出力:120W、照度:250mW/cm2、照射量:200mJ/cm2である。
得られた積層体につき、前述の評価を行った。その結果を表3に示す。なお、表3においては、積層体における各樹脂の積層構成を併記する。
表1〜表3より知られるように、実施例1〜4の積層体1においては、コート層3が(メタ)アクリロイル基を有すると共に前述の式(2)で表される所定構造を有する化合物(b1)由来の構造単位を有する重合体からなる(図1参照)。さらに実施例1〜4の積層体1においては、コート層3が基材層2における芳香族ポリカーボネート樹脂層22の上に積層形成されている。さらに、芳香族ポリカーボネート樹脂層22におけるコート層3とは反対側の面には、ISB等の所定の構造のジヒドロキシ化合物(a1)に由来の構造単位と、CHDMなどの所定のジヒドロキシ化合物(a2)に由来の構造単位とを有する共重合体を含有するポリカーボネート樹脂層21が積層形成されている。このような構成の実施例1〜4の積層体においては、耐衝撃性及び耐湿熱性が良好であると共に、反りが抑制できることがわかる。
これに対し、コート層を有さない比較例1、コート層に化合物(b1)を含有しない比較例2では、反りが増幅していた。また、コート層がポリカーボネート樹脂層と接しており、芳香族ポリカーボネート樹脂層とは接していない比較例3でも、反りが増幅していた。
また、図1に例示されるように、実施例の各積層体1をディスプレイ前面板5に用いることができる。ディスプレイ前面板5は、前述のように耐衝撃性及び耐湿熱性が良好であると共に、反りが抑制できる積層体1を備えることができる。