以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されず適宜変形して実施することができる。
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(以下、「本組成物」ともいう)は、構造の一部に下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を含有するポリカーボネート樹脂(A)を主成分とする。ここで主成分とは、通常50質量%を超え、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であることをいう。
ポリカーボネート樹脂(A)を主成分とすることにより、本組成物が透明性、耐熱性、低吸水性、表面硬度、低複屈折性及び耐衝撃性のバランスに優れる。
前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、例えば、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニドおよびイソイデッドが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのジヒドロキシ化合物は、フェノール性水酸基を有しないため、通常界面法で重合させることは困難であり、本発明に係るポリカーボネート樹脂(A)は、通常炭酸ジエステルを用いたエステル交換反応により製造される。
これらのジヒドロキシ化合物のうち、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手および製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性並びにカーボンニュートラルの面から最も好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)の柔軟性の付与等のためにポリカーボネート樹脂(A)に前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位以外のその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)を導入する場合、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、ジヒドロキシ化合物に由来する全構造単位に対して、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を、通常30mol%以上含むことが好ましく、より好ましくは35mol%以上、特に好ましく40mol%以上である。また、通常95mol%以下含むことが好ましく、より好ましくは85mol%以下、特に好ましくは75mol%以下である。
ジヒドロキシ化合物に由来する全構造単位に対する前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)の割合が30mol%以上であれば、本組成物が耐熱性や表面硬度に優れるものとなるため好ましい。一方、95mol%以下であれば、本組成物の吸水率が低くなり、また熱による劣化が少なくなるため好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)に導入される前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)以外のその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)としては、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位や脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が挙げられる。その脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、次のようなものが挙げられる。
<脂肪族ジヒドロキシ化合物>
脂肪族ジヒドロキシ化合物として、例えば、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、水素化ジリノレイルグリコール、水素化ジオレイルグリコール等が挙げられる。
尚、前記例示化合物は、本発明に使用し得る脂肪族ジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの脂肪族ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)において、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とのモル比率は、任意の割合で選択できるが、前記モル比率を調整することで、剛性と耐衝撃性のバランスを取ったり、適当な成形加工性を設計したりすることができる。中でも前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とのモル比率は、95:5〜30:70であることが好ましく、75:25〜40:60であるのが更に好ましい。モル比率が前記範囲であれば、ポリカーボネート樹脂(A)について熱滞留に起因する着色が生じにくくなり、かつ、高分子量化や衝撃強度の向上、ガラス転移温度の維持による耐熱性の向上が可能となるため好ましい。
<脂環式ジヒドロキシ化合物>
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、通常、5員環構造又は6員環構造を含む化合物が挙げられる。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環構造又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネート樹脂(A)の耐熱性が高くなる傾向がある。6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。炭素数が70以下の脂環式ジヒドロキシ化合物であれば、合成・精製しやすく、また安価で入手しやすいため好ましい。
5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、下記一般式(I)又は(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
HOCH2−R9−CH2OH (I)
HO−R10−OH (II)
(但し、式(I),式(II)中、R9及びR10は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のシクロアルキル構造を含む二価の基を表す。)
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジメタノールとしては、一般式(I)において、R9が下記一般式(Ia)(式中、R11は水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。)で示される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールとしては、一般式(I)において、R9が下記一般式(Ib)(式中、nは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジメタノール又は、トリシクロテトラデカンジメタノールとしては、一般式(I)において、R9が下記一般式(Ic)(式中、mは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール等が挙げられる。
また、前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジメタノールとしては、一般式(I)において、R9が下記一般式(Id)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール等が挙げられる。
一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジメタノールとしては、一般式(I)において、R9が下記一般式(Ie)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,3−アダマンタンジメタノール等が挙げられる。
また、前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジオールは、一般式(II)において、R10が下記一般式(IIa)(式中、R11は水素原子、又は、置換もしくは無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,2,4,4−テトラメチルー1,3−シクロブタンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオールとしては、一般式(II)において、R10が下記一般式(IIb)(式中、nは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジオール又は、トリシクロテトラデカンジオールとしては、一般式(II)において、R10が下記一般式(IIc)(式中、mは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジオール、1,5−デカリンジオール、2,3−デカリンジオール等が挙げられる。
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジオールとしては、一般式(II)において、R10が下記一般式(IId)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジオール等が挙げられる。
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジオールとしては、一般式(II)において、R10が下記一般式(IIe)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては具体的には、1,3−アダマンタンジオール等が挙げられる。
上述した脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例のうち、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、2,2,4,4−テトラメチルー1,3−シクロブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールがより好ましく、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールがさらに好ましく、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが特に好ましい。
尚、前記例示化合物は、本発明に使用し得る脂環式ジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの脂環式ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)において、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とのモル比率は、任意の割合で選択できるが、前記モル比率を調整することで、衝撃強度(例えば、ノッチ付きシャルピー衝撃強度)が向上する可能性があり、更にポリカーボネート樹脂の所望のガラス転移温度を得ることが可能である。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)において、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とのモル比率は、95:5〜30:70であることが好ましく、75:25〜40:60であるのが更に好ましい。モル比率が前記範囲であれば、ポリカーボネート樹脂(A)について熱滞留に起因する着色が生じにくくなり、かつ、高分子量化や衝撃強度の向上、ガラス転移温度の維持による耐熱性の向上が可能となるため好ましい。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、90℃〜160℃であることが好ましく、100℃〜150℃がより好ましく、110℃〜145℃が更に好ましく、115℃〜143℃が特に好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度が90℃以上であれば、本組成物が耐熱性に優れる。一方、ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度が160℃以下であれば、本樹脂組成物が成形性や透明性に優れる。
また前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は一般に不活性雰囲気下でも熱分解しやすいため、ガラス転移温度を係る範囲にすることにより溶融樹脂温度を過度に高く設定する必要をなくすことができれば、著しい熱分解を引き起こすおそれも小さいため好ましい。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度をより低いものとし、160℃以下を達成する方法としては、構造の一部に前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合を少なくしたり、耐熱性の低い脂環式ジヒドロキシ化合物を選定したり、ビスフェノール化合物等の芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合を少なくしたりする方法等が挙げられる。
なお、前記ガラス転移温度は、JIS−K7121(2012年)に準拠して、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、DSC220)を用いて、10℃/分の昇温速度で加熱して測定する補外ガラス転移開始温度を指す。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)においては、本発明の効果を阻害しない範囲において、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位に加えて、更にその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。その他のジヒドロキシ化合物としては、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外の、構造の一部に下記一般式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物や、芳香族系ジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
(但し、上記一般式(3)で表される部位が−CH2−O−Hの一部である場合を除く。)
前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外の、構造の一部に前記一般式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としては、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基が前記一般式(3)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられる。また、下記一般式(4a)で表される化合物や下記一般式(4b)で表される化合物に代表されるスピログリコール等の、環状エーテル構造を有する化合物等の複素環基の一部が前記一般式(3)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられる。
なお、上記の「環状エーテル構造を有する化合物」の「環状エーテル構造」とは、環状構造中にエーテル基を有し、環状鎖を構成する炭素が脂肪族炭素である構造からなるものを意味する。これらの中でも、エーテル基を複数有するものが好ましく、環状エーテル構造を複数有するものがより好ましく、環状エーテル構造を2つ有するものが特に好ましい。
(上記一般式(4a)中、Ra〜Rdはそれぞれ独立に、炭素数1〜炭素数3のアルキル基である。)
上記一般式(4a)で表されるジヒドロキシ化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ジオキサングリコールなどが挙げられる。
芳香族系ジヒドロキシ化合物としては、ビスフェノール化合物(置換、非置換を含む)が挙げられ、具体的には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基を有しないビスフェノール化合物;ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族環上に置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(sec−ブチル)フェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基としてアルキル基を有するビスフェノール化合物;ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン等の芳香族環を連結する2価基が置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等の芳香族環をエーテル結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン等の芳香族環をスルホン結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド等の芳香族環をスルフィド結合で連結したビスフェノール化合物等が挙げられるが、好ましくは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(別称:ビスフェノール−A)が挙げられる。
一般に、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、ビスフェノール−Aなどの芳香族系ジヒドロキシ化合物に比べて、重合反応の平衡定数が重合進行する方向へ傾いており、加熱したりフェノール脱揮したりすると重合反応が急激になり反応制御が難しくなる傾向がある。
このため、重合反応の終末段階で前記芳香族系ジヒドロキシ化合物を少量添加すれば、重合末端を前記芳香族系ジヒドロキシ化合物で塞ぐことで、加熱したりフェノール脱揮したりしても重合反応が急激にならずにすむ効果が期待できる。
ただし、前記芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位をポリカーボネート樹脂(A)中に多く含むと、本組成物の複屈折が増加したり、本組成物の耐熱性や表面硬度が低下したりするおそれがあるほか、本組成物を屋外で使用した場合等において紫外線吸収により黄変が生じることがある。従って、前記芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位は、必要最小限の範囲で含んでもよいが、可能であれば含まないことが好ましい。
上述のその他のジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<炭酸ジエステル>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、上述した前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記一般式(5)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
但し、上記一般式(5)において、A1およびA2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族基、または、置換若しくは無置換の芳香族基である。
前記式(5)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネートなどのジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネートなどのジアルキルカーボネートが例示されるが、好ましくは、ジフェニルカーボネート、置換基を有するジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートであり、ジアリールカーボネートの中でもジフェニルカーボネートが好ましい。
なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、これらの不純物は重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂(A)の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
<エステル交換反応触媒>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、上述のように前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換反応させて得られる。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常エステル交換反応触媒の存在下でエステル交換反応により重縮合を行う。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に「触媒」、「重合触媒」と言うことがある)は、特に波長350nmにおける光線透過率またはイエローインデックス(YI)値に影響を与えることがある。
用いる触媒としては、得られるポリカーボネート樹脂(A)の耐光性を満足させ得る、即ち後述のYI値を所定の値以下にし得るものが好ましく、例えば、長周期型周期表における第1族または第2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。これらの中でも、好ましくは1族金属化合物および2族金属化合物のうち少なくとも一方が使用される。
1族金属化合物および2族金属化合物のうち少なくとも一方と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物および2族金属化合物のうち少なくとも一方のみを使用することが特に好ましい。
また、1族金属化合物および2族金属化合物のうち少なくとも一方の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ナトリウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2ナトリウム塩等のナトリウム化合物、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸カリウム、水素化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素カリウム、安息香酸カリウム、リン酸水素2カリウム、フェニルリン酸2カリウム、カリウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2カリウム塩等のカリウム化合物、水酸化リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素リチウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2リチウム、リチウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2リチウム塩等のリチウム化合物、並びに水酸化セシウム、炭酸水素セシウム、炭酸セシウム、酢酸セシウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2セシウム、セシウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2セシウム塩等のセシウム化合物等が挙げられる。中でもリチウム化合物が好ましい。
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウムおよびステアリン酸カルシウム等のカルシウム化合物、水酸化バリウム、炭酸水素バリウム、炭酸バリウム、酢酸バリウムおよびステアリン酸バリウム等のバリウム化合物、水酸化マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムおよびステアリン酸マグネシウム等のマグネシウム化合物、並びに水酸化ストロンチウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウムおよびステアリン酸ストロンチウム等のストロンチウム化合物等が挙げられる。中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、マグネシウム化合物およびカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等の、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩およびストロンチウム塩等が挙げられる。
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンおよび四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドおよびブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾールおよびアミノキノリン等が挙げられる。
前記重合触媒の使用量は、好ましくは用いる全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1〜300μmol、より好ましくは0.5〜100μmolである。中でもリチウムおよび長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、好ましくは用いる全ジヒドロキシ化合物1mol当たり金属量として0.1〜20μmol、より好ましくは0.5〜10μmol、特に好ましくは0.7〜3μmolである。
重合触媒の使用量が0.1μmol以上であれば、重合速度が一定以上となるため、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとする際に、重合温度を高くする必要がなく、得られたポリカーボネート樹脂の色相または耐光性が悪化したり、未反応の原料が重合途中で揮発して前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が変化し、所望の分子量に到達しなかったりするおそれが小さいため好ましい。一方、重合触媒の使用量が300μmol以下であれば、得られるポリカーボネート樹脂の色相や、ポリカーボネート樹脂の耐光性が悪化する可能性が小さいため好ましい。また、重合反応器内で十分に減圧せずに目標分子量に到達する可能性や、残存するモノマーが十分に脱揮されない可能性が小さいため好ましい。
なお、1族金属、特にはリチウム、ナトリウム、カリウムおよびセシウムは、ポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性があり、該金属は使用する触媒からのみではなく、原料または反応装置から混入する場合がある。このため、ポリカーボネート樹脂中のこれらの化合物の合計量は、金属量として、通常1質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量ppm以下、更に好ましくは0.7質量ppm以下である。
ポリカーボネート樹脂中の金属量は、湿式灰化などの方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光またはInductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
<ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、前記一般式(5)で表される炭酸ジエステルとを触媒の存在下、エステル交換反応により重縮合させることによって得ることができる。
この時、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合してもよいし、混合せずに重合槽へ同時に投入されてもよいが、均一に混合することが好ましい。
混合の温度は通常80℃以上であることが好ましく、より好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。中でも100℃以上120℃以下が好適である。混合の温度が80℃以上であれば、溶解速度が速くなり、溶解度不足に起因する固化等の運転不具合が生じるおそれが小さいため好ましい。また、混合の温度が250℃以下であれば、ジヒドロキシ化合物の熱劣化が生じるおそれが小さく、得られるポリカーボネート樹脂の色相や耐光性が良好となるため好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の原料である前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記一般式(5)で表される炭酸ジエステルとを混合する操作は、酸素濃度が、好ましくは10体積%以下、より好ましくは0.0001体積%〜10体積%、更に好ましくは0.0001体積%〜5体積%、特に好ましくは0.0001体積%〜1体積%である雰囲気下で行うことが、色相悪化防止の観点から好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)を得るためには、前記一般式(5)で表される炭酸ジエステルは、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、0.900〜1.200のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.995〜0.999、又は、1.001〜1.115のモル比率である。
用いる全ジヒドロキシ化合物に対する一般式(5)で表される炭酸ジエステルのモル比率が0.900以上であれば、製造されたポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基の増加を抑制でき、ポリマーの熱安定性の悪化や、成形時の着色、エステル交換反応の速度の低下などの可能性が小さく、所望する高分子量のポリカーボネート樹脂が得られるため好ましい。
また、前記モル比率が1.200以下であれば、エステル交換反応の速度の低下などの可能性が小さく、所望する高分子量のポリカーボネート樹脂が得られるため好ましい。エステル交換反応速度の低下は、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂(A)の色相または耐光性を悪化させるおそれがある。
更には、用いる全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルのモル比率が1.200以下であれば、得られるポリカーボネート樹脂(A)中の残存炭酸ジエステル量が増加することなく、これらが紫外線を吸収してポリカーボネート樹脂(A)の耐光性を悪化させたり、成形加工時の臭気の原因となったり、金型の付着物が多くなったりするおそれが小さいため、好ましい。
また、用いる全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルのモル比率が0.999以下、又は1.001以上であれば、重合速度が速くなり過ぎず、重合が完結するまでの間に、最終重合槽で残存するモノマーを十分に脱気することが可能となり、樹脂中の残存モノマーの増大に起因する成形時の異臭やガス発生による気泡の発生、成形機での脈動などが発生するおそれが小さいため特に好ましい。
さらに連続重合で連続的に重合槽に原料混合物をフィードする場合は、ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルのモル比の変動幅は通常0.07以下が好ましく、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.03以下である。
変動幅が0.07以下であれば、均一な重合が進行するために得られる分子量の幅が広くなり過ぎず、均一で成形性の良好なポリカーボネート樹脂が得られ、その結果として均一な成形体が得られるため好ましい。
耐光性を高く維持するために、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)に残存する前記一般式(5)で表される炭酸ジエステルの濃度は、200質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100質量ppm以下、更に好ましくは60質量ppm以下、特に好ましくは30質量ppm以下である。現実的にポリカーボネート樹脂(A)は未反応の炭酸ジエステルを含むことがあり、炭酸ジエステル含有量の下限値は通常1質量ppmである。
本発明において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、通常、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、またはバッチ式と連続式との組み合わせのいずれの方法でもよい。
重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが色相または耐光性の観点から重要である。
例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのモル比率を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量または末端基を持つポリマーが得られなかったりする可能性がある。さらには、均一な分子量のポリマーが得られない可能性、2つ以上のジヒドロキシ化合物を共重合させた場合にはそのジヒドロキシ化合物の組成比が仕込み通りにならない可能性、均一な組成比のポリマーが得られない可能性があり、結果的に成形性や成形体の物性を低下させ、本発明の目的を達成することができない可能性がある。
更には、ポリマーのジヒドロキシ化合物組成を均一にし、得られるポリマーの分子量を一定にするために、重合反応器に還流冷却器を用いることは有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができる。
通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45〜180℃であることが好ましく、より好ましくは80〜150℃、特に好ましくは100〜150℃である。冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、逆に低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、例えば、温水、蒸気および熱媒オイル等が挙げられ、蒸気および熱媒オイルが好ましい。
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的なポリカーボネート樹脂(A)の色相、熱安定性または耐光性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で重合させて製造することが好ましいが、重合を複数の反応器で実施する理由は、重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要であり、重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の重合反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。
本発明の方法で使用される反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上であることが好ましく、より好ましくは3〜5つ、特に好ましくは4つである。
本発明において、反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせたり、連続的に温度・圧力を変えていくなどしてもよい。
本発明において、重合触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、重合槽に直接添加することもできるが、供給の安定性、重合の制御の観点からは、重合槽に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。
重合反応の温度は、低すぎると生産性の低下または製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解または着色を助長する可能性がある。
具体的には、第1段目の反応は、重合反応器の内温の最高温度として、好ましくは130℃〜270℃、より好ましくは150℃〜240℃、更に好ましくは180℃〜230℃で、好ましくは110〜1kPa、より好ましくは70〜5kPa、更に好ましくは30〜10kPa(絶対圧力)の圧力下、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは0.5〜3時間、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施する。また、連続重合設備ではこの温度、圧力や時間を可能な限り一定にすることにより均一な組成比で均一な分子量のポリマーが得られる。
第2段目以降の反応は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を好ましくは1kPa以下にして、内温の最高温度を好ましくは200℃〜270℃、より好ましくは220℃〜260℃にして、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは1〜6時間、特に好ましくは0.5〜3時間行う。また、連続重合設備ではこの温度、圧力や時間を可能な限り一定にすることにより均一な組成比で均一な分子量のポリマーが得られる。
特にポリカーボネート樹脂の着色または熱劣化を抑制し、色相または耐光性の良好なポリカーボネート樹脂(A)を得るには、全反応段階における内温の最高温度が260℃未満であることが好ましく、特に220〜240℃であることが好ましい。また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重合の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
所定の分子量のポリカーボネート樹脂(A)を得るために、重合温度を高く、重合時間を長くし過ぎると、紫外線透過率は下がり、YI値は大きくなる傾向にある。
所定の分子量範囲でポリカーボネート樹脂を得るためには、圧力や温度を制御して最終重合槽の攪拌を一定にし、攪拌電流値や攪拌トルクを一定にしたり、重合槽以降のギアポンプの電流値を一定にしたりすることが望ましい。
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジフェニルまたはビスフェノールA等の原料として再利用することが好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、上述の通り重縮合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。
ペレット化の方法としては、限定されるものではないが、例えば、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮、または、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤若しくは難燃剤等を添加、混練することも出来る。
押出機中の、溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度または分子量に依存するが、通常150〜300℃であることが好ましく、より好ましくは200〜270℃、更に好ましくは230〜260℃である。溶融混練温度を150℃以上とすることにより、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度を低下し、押出機への負荷が小さくなり、生産性が向上する。また、溶融混練温度を300℃以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂の熱劣化を抑え、分子量の低下による機械的強度の低下、着色またはガスの発生を防ぐことができる。
押出機において、減圧脱揮する場合のベント圧は、通常0.001kPa〜5kPaであることが好ましく、より好ましくは0.005kPa〜3kPa、更に好ましくは0.007kPa〜2kPaである。
ベント圧が上記範囲であれば、残存するモノマーや発生するガスを十分に脱揮することが可能であり、ストランド状に押し出す際に、ストランドが切れたり、押出機においてポリカーボネート樹脂の重合反応や分解が進行したりするおそれが小さいため好ましい。
押出機へ投入される樹脂量、押出機の回転数、バレル温度、ベント圧力を可能な限り一定にすることにより、均一な樹脂を得られるようになる。
また、ベントやベント以降の配管を40℃以上に保温することにより、留出するモノマーがベントやベント以降配管で固化せずに、均一なベント圧力を保持することができる。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)を製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが好ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の押出は、押出後の異物混入を防止するために、好ましくはJIS B9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが好ましい。
また、押出されたポリカーボネート樹脂(A)を冷却しチップ化する際は、空冷または水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが好ましい。
水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが好ましい。用いるフィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10〜0.45μmであることが好ましい。
さらに得られるペレットの形状を一定にすることにより、成形性のよいポリカーボネート樹脂ペレットとなる。
<ポリカーボネート樹脂(A)の物性>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、還元粘度で表すことができ、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度は、通常0.30dL/g以上が好ましく、0.35dL/g以上がより好ましく、また、1.20dL/g以下が好ましく、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度が0.30dL/g以上であれば、得られる本組成物の耐衝撃性や表面硬度などが良好となる。一方還元粘度が1.20dL/g以下であれば、ポリカーボネート樹脂(A)の流動性が低下することなく、生産性または成形性を維持できる。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度の範囲幅は、通常0.05dL/g以下が好ましく、0.04dL/g以下がより好ましい。還元粘度の範囲幅が0.05dL/g以下であれば、押出成形中の脈動や、成形品の厚み変動や幅変動を発生するおそれが小さいため好ましい。
ここで、ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度の範囲幅とは、連続的に製造されるポリカーボネート樹脂(A)について、例えば4〜24時間にわたって、連続的に又は1〜8時間に1回の頻度で、還元粘度を測定することにより、還元粘度の経時変化を調べた場合、その最大値と最小値との差に該当するものである。
還元粘度の範囲幅の小さいポリカーボネート樹脂(A)を製造する方法としては、圧力や温度を制御して最終重合槽の攪拌を一定にし、攪拌電流値や攪拌トルクを一定にしたり、重合槽以降のギアポンプの電流値を一定にしたりすることが望ましい。
更に本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の下記一般式(6)で表される末端基の濃度(「末端フェニル基濃度」という)の下限は、通常20μeq/gであることが好ましく、より好ましくは40μeq/g、特に好ましくは50μeq/gであり、上限は通常160μeq/gであることが好ましく、より好ましくは140μeq/g、特に好ましくは100μeq/gである。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の一般式(6)で表される末端基の濃度が160μeq/g以下であれば、重合直後または成形時の色相と紫外線曝露後の色相がともに良好となるため好ましい。また、20μeq/g以上であれば、十分な熱安定性を有するため好ましい。
一般式(6)で表される末端基の濃度を制御するには、原料である前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率を制御する他、エステル交換反応時の触媒の種類若しくは量、重合圧力または重合温度を制御する方法等が挙げられる。
前記一般式(5)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用いて、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂中に残存することは避けられないが、フェノール、置換フェノールも芳香環を有することから紫外線を吸収し、耐光性の悪化要因になる場合があるだけでなく、成形時の臭気の原因となる場合がある。
ポリカーボネート樹脂中には、通常のバッチ反応後は2000質量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性または臭気低減の観点、または押出成形時の脈動抑制の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器または真空ベント付の押出機を用いて、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量を、好ましくは1500質量ppm以下、更に好ましくは1000質量ppm以下、特には700質量ppm以下にすることが好ましい。ただし、工業的に完全に芳香族モノヒドロキシ化合物を除去することは困難であり、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限値は、通常1質量ppmである。
さらに本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の範囲幅は、500質量ppm以下、特に400質量ppm以下、とりわけ300質量ppmとすることが好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の範囲幅が500質量ppm以下であれば、押出成形において脈動が発生したり、ベントの不均一な圧力変動が発生したりするおそれが少ない。
ここで、ポリカーボネート樹脂(A)の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の範囲幅とは、連続的に製造されるポリカーボネート樹脂(A)について、例えば4〜24時間にわたって、連続的に又は1〜8時間に1回の頻度で芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量を測定することにより、芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の経時変化を調べた場合、その最大値と最小値との差に該当するものである。
芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の範囲幅の小さいポリカーボネート樹脂(A)を製造する方法としては仕込みのジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比を一定にすることや、重合槽の還流温度を一定にし、重合槽の温度や圧力を一定にし、減圧系での運転では真空トラップを複数基完備する等の工夫を行うことが挙げられる。
尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の芳香環に結合した水素原子のモル数を(X)、芳香環以外に結合した水素原子のモル数を(Y)とした場合、芳香環に結合した水素原子のモル数の全水素原子のモル数に対する比率は、X/(X+Y)で表されるが、耐光性には上述のように、紫外線吸収能を有する芳香族環が影響を及ぼす可能性があるため、X/(X+Y)は0.1以下であることが好ましく、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.02以下、特に好ましくは0.01以下である。X/(X+Y)は、1H−NMRで定量することができる。
[フッ素含有スルホン酸金属塩化合物(B)]
本組成物は難燃剤として構造中にフッ素を有するフッ素含有スルホン酸金属塩化合物を含有することが重要である。フッ素含有スルホン酸金属塩化合物はポリカーボネート樹脂(A)と相溶なため、透明な成形体を得ることが出来る。また燃焼時に活性な水酸基や水素ラジカルをトラップし、また生成するハロゲン化水素が不燃性であり、希釈効果と酸素遮断効果から優れた難燃性を示す。
フッ素含有スルホン酸金属塩化合物として種々のものを採用することができるが、取扱い・入手が容易であるとの観点から、下記式(7)又は(8)(式中、nは1〜20の整数を表す。M+は、1価のカチオンを表す。)で表されるフッ素含有スルホン酸金属化合物であることが好ましい。
フッ素含有スルホン酸金属塩化合物として、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム、ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホン酸リチウム等が挙げられる。
なお前記例示化合物は、本発明に使用し得る金属塩化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの金属塩化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
ポリカーボネート樹脂組成物中のフッ素含有スルホン酸金属塩化合物(B)の割合は、前記のポリカーボネート樹脂(A)の割合を踏まえて適宜調整可能であるが、通常0.01質量%以上、5質量%以下である。フッ素含有スルホン酸金属塩化合物(B)の割合が前記範囲であると透明性などの外観を維持したまま、樹脂燃焼時に生じる滴下(ドリップ)物の難燃性(自己消火性)を向上させることができる。フッ素含有スルホン酸金属塩化合物(B)の割合は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、また、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
[非ハロゲンリン酸エステル系化合物(C)]
本組成物はさらに、難燃剤として構造中に非ハロゲンリン酸エステル系化合物(C)を含有する。
本発明に用いられる非ハロゲンリン酸エステル系化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート等のリン酸エステル系化合物、1,3−フェニレンビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、テトラフェニル(m−フェニレン)ビスホスフェート、ビス(ジトリル)イソプロピリデン−ジ−p−フェニレンホスフェート等の縮合リン酸エステル系化合物、4,4’−ビス(ジフェニルホスホリルアミドフェニル)メタン等のリン酸エステルアミド系化合物、ホスホニトリル酸フェニルエステル等のホスファゼン系化合物を挙げることができる。これらの中でも特に、難燃効果、耐加水分解性の点から縮合リン酸エステル系化合物、あるいは、ホスファゼン系化合物を用いることが好ましい。
なお前記例示化合物は、本発明に使用しえるリン酸エステル系化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらのリン酸エステル系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの化合物は、脱水反応の促進による炭化層(チャー)を形成し、空気遮断効果と断熱効果を示す。トリフェニルホスフェート(TPP)などの低分子型のリン酸エステル系化合物でもよいが、中でも前記ポリカーボネート樹脂(A)と係る縮合リン酸エステル系化合物を含有することにより、透明性、耐衝撃性、耐熱性をほとんど低下させることなく樹脂燃焼時の自己消火性(難燃性)を付与することができる。さらに前記ハロゲン含有難燃剤、中でも構造中にフッ素を含有したスルホン酸金属塩化合物を所定量併用することで、透明性を維持したまま樹脂燃焼時の難燃性をさらに向上することができる。
ポリカーボネート樹脂組成物中の非ハロゲンリン酸エステル系化合物(C)の割合は、前記のポリカーボネート樹脂(A)とフッ素含有スルホン酸金属塩化合物(B)の割合を踏まえて適宜調整可能であるが、通常0.5質量%以上、15質量%以下である。非ハロゲンリン酸エステル系化合物(C)の割合が前記範囲であると透明性などの外観および耐熱性を維持したまま、樹脂燃焼時の難燃性(自己消火性)を向上させることができる。非ハロゲンリン酸エステル系化合物(C)の割合は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
本発明において、難燃剤の合計が、ポリカーボネート樹脂組成物中、1質量%以上、20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上、12質量%以下であることがより好ましく、さらには3質量%以上、10質量%以下が最も好ましい。本樹脂組成物中に難燃剤の割合の合計量が20質量%以下であれば、過剰な添加による耐熱性や透明性の低下を生じることがない。
[難燃助剤]
本樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、難燃助剤を含有することができる。中でも、フッ素系樹脂からなり、燃焼時にフィブリル化することで樹脂の溶融張力を向上させるドリップ防止剤や、ハロゲン系の難燃剤と併用することで相乗効果を示すアンチモン化合物などが好適に用いられる。
さらに本樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、染料等の添加剤を含有することができる。
<プレートの製造方法>
本発明のもう一つの要旨は、本組成物を用いてなるプレート(以下、「本プレート」と称する)にある。本プレートの製造方法は、特に限定されるものではない。例えばポリカーボネート樹脂、難燃剤、難燃助剤及び、必要に応じてその他の樹脂・添加剤を単軸、あるいは二軸押出機等で溶融混練し、射出成型、もしくはコンパウンド成形したものを熱プレスすることにより、作製することが出来る。
<プレートの厚み>
プレートの厚みは、特に限定するものではないが、例えば加工性、実用性を考慮した場合、0.5mm以上、3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上、3.0mm以下であることがより好ましい。本プレートの厚みが1.0mm以上であれば、好適なプレートの剛性が発現し、加工性、耐カール性に優れる。
<本樹脂組成物の物性値>
(1)難燃性
本組成物は難燃性に優れるものであり、火災などにより燃焼した場合において瞬時に自消するものである。また燃焼時に溶融した樹脂が滴下(ドリッピング)した際に、この滴下物の燃焼が瞬時に自消することが重要である。
(2)透明性
本組成物は透明性に優れるものであり、意匠性、内容物の視認性等の観点から、JIS K7136−1(1997年)に基づき測定される、単層の本プレートの厚み1.0mmでの全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましい。また、JIS K7136(2000年)に基づき測定される、単層の本プレートの厚み1.0mmでの全ヘーズ値が5.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましく、1.0%以下であることが特に好ましい。なお、全ヘーズ値の下限は特に限定されず、可能な限り小さい方が好ましい。全ヘーズ値及び全光線透過率が係る範囲であれば、本組成物が特に透明性に優れるものとなる。
<本樹脂組成物の用途>
フィルム、シート、または、プレートとして成形された本発明の成形体は、透明性、難燃性に優れる。そのため、本発明の特に制限されるものではないが、例えば、住宅建材、航空機や自動車の窓材、遮音壁、電子部材、家電製品部材、OA機器部材等に使用できる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、成形用フィルム、シート、プレートなどとして用いて種々の二次加工を施すことができ、加熱成形することによって熱成形体とすることもできる。熱成形の方法としては特に限定されず、ブリスター成形、真空成形、圧空成形など公知の成形方法を利用することができる。
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示される原料及び試験片についての種々の測定値及び評価は次のようにして行った。
<各種評価方法>
(1)難燃性(燃焼試験)
燃焼試験は長さ100mm×幅13mm、厚さ1.0mmの試料の試験片を、下部から高さ30cm、長さ方向に垂直に設置し、その試験片下部よりガスバーナーで10秒間接炎した後の(i)燃焼時間、(ii)接炎による滴下物の燃焼時間を測定した。炎を取り去った後の燃焼が5秒以下で消火し、さらには燃焼による滴下物の燃焼時間が3秒以下であるものを合格とした。
(2)透明性(全光線透過率、全ヘーズ)
全ヘーズ値は、JIS K7136(2000年)に基づき、厚み1.0mmのサンプ
ルの測定を行った。
<使用した材料>
[ポリカーボネート樹脂(IS)]
IS−1:ポリカーボネート樹脂(三菱化学株式会社製):イソソルビドに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=50/50mol%
[ハロゲン系難燃剤(OF)]
OF−1:トリフルオロメタンスルホン酸カリウム(三菱マテリアル株式会社製)
OF−2:ノナフルオロメタンスルホン酸カリウム(三菱マテリアル株式会社製)
[非ハロゲンリン酸エステル系化合物(FP)]
FP−1:芳香族リン酸エステル(丸菱油化工業株式会社製、ノンネン73)
(実施例1)
IS−1、OF−1およびFP−1を混合質量比94.9:0.1:5の割合で秤量し、これらを株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミルで試験温度230℃、回転数80rpm、の条件下で5分間混練後、230℃となるように設定した電熱プレス機を用いて、1.0mm厚のプレートを得た。得られたプレートの各測定、評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例2)
IS−1、OF−1およびFP−1を混合質量比93:2:5の割合で混練した以外は実施例1と同様の方法でプレートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例3)
IS−1、OF−2およびFP−1を混合質量比94.9:0.1:5の割合で混練した以外は実施例1と同様の方法でプレートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例4)
IS−1、OF−2およびFP−1を混合質量比93:2:5の割合で混練した以外は実施例1と同様の方法でプレートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例1)
IS−1を単独で用い、実施例1と同様の方法でプレートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例2)
IS−1およびOF−1を混合質量比99.5:0.5の割合で混練した以外は実施例1と同様の方法でプレートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例3)
IS−1およびFP−1を混合質量比95:5の割合で混練した以外は実施例1と同様の方法でプレートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例4)
IS−1およびFP−1を混合質量比90:10の割合で混練した以外は実施例1と同様の方法でプレートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
実施例1〜4に記載のポリカーボネート樹脂フィルムは、難燃性に優れ、透明性、耐熱性のバランスに優れていた。一方、比較例1〜4に記載のシートは、難燃性、透明性、耐熱性、機械特性のいずれかにおいて実施例よりも劣っていた。
本発明の特に制限されるものではないが、例えば、自動車、列車、航空機などの窓材、遮音壁、住宅建材、建築部材、家電製品部材、農業ハウスなど様々な用途での展開が期待される。