以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について、図面を用いて説明する。
[1.紙幣出金機の構成]
図1に模式的な側面図を示すように、媒体取引装置としての紙幣出金機1は、例えば金融機関や各種商業施設等に設置され、利用者(すなわち金融機関や商業施設の顧客等)の操作に応じて紙幣を出金するようになっている。この紙幣出金機1は、大きく分けて下側の収納ユニット2及び上側の束搬送ユニット3により構成されており、さらに全体を制御する制御部4が組み込まれている。
制御部4は、図示しないCPU(Central Processing Unit)を中心に構成されており、図示しないROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリ等から所定のプログラムを読み出して実行することにより、出金処理等の処理を行う。また制御部4は、内部にRAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブやフラッシュメモリ等でなる記憶部を有しており、この記憶部に種々の情報を記憶させる。
以下では、紙幣出金機1のうち顧客が対峙する側を前側とし、その反対を後側とし、当該前側に対峙した顧客から見て左及び右をそれぞれ左側及び右側とし、さらに上側及び下側を定義して説明する。
[1−1.収納ユニットの構成]
収納ユニット2は、直方体状の収納筐体10内に、紙幣に関する種々の処理を行う複数の部分が組み込まれている。この収納筐体10内には、4個の紙幣カセット11、搬送部13、鑑別部14、切替部15及び集積部16、及びリジェクト収納庫17が設けられている。
各紙幣カセット11は、前後方向に長い直方体状に構成されており、それぞれ予め定められた金種の紙幣を内部に収納する。また紙幣カセット11は、その後側に、紙幣を1枚ずつ繰り出して搬送部13に引き渡す繰出口を有している。
搬送部13は、図示しないローラやベルト、或いはこれらを駆動するモータ等により、紙幣を搬送する経路である搬送路を構成している。鑑別部14は、内部に厚みセンサやイメージセンサといった複数種類のセンサが組み込まれており、各センサから得られた情報を基に、搬送される紙幣の金種や走行状態等を鑑別し、その鑑別結果を制御部4へ供給する。制御部4は、得られた鑑別結果を基に、各紙幣の搬送先を決定する。
切替部15は、制御部4の制御に基づき、紙幣に当接して進行方向を変化させるブレード(図中三角形で示す)の傾斜角度を変更することにより、紙幣の搬送経路を切り替える。集積部16は、切替部15から搬送されてきた紙幣を集積空間16S内へ放出し、ステージ16T上に束状に集積させていく。このため以下では、このように積み重ねられた紙幣を紙幣束Wとも呼ぶ。
また収納筐体10における最も上側の後側には、リジェクト収納庫17が配置されている。リジェクト収納庫17は、切替部15から搬送されてくるリジェクト紙幣(制御部4により出金すべきでないと判断された紙幣)や、上方に位置する束搬送ユニット3から上面の取込孔17Hを介して落下してくる紙幣束Wを取り込んで収納する。
[1−2.束搬送ユニットの構成]
束搬送ユニット3は、全体として、上下方向に短く前後方向に長い、扁平な直方体状に形成されており、その前後方向の長さが収納ユニット2よりも長くなっている。束搬送ユニット3は、直方体状の束搬送筐体20内に組み込まれた種々の部材により、紙幣束Wを搬送するときに当該紙幣束Wが通過する経路である束搬送路3Yを形成している。また束搬送筐体20の前端、すなわち束搬送路3Yの前端には、紙幣束Wを利用者に引き渡す出金口26が形成されている。
束搬送筐体20内における上側部分には、無端ベルトでなる上搬送ベルト21が設けられている。束搬送筐体20内における上搬送ベルト21の下側部分には、上下方向に薄い板状の挟持搬送ガイド22及び無端ベルトでなる下搬送ベルト24が設けられている。挟持搬送ガイド22は、図示しない移動機構によって前後方向へ移動することにより、集積孔16H又は取込孔17Hの何れか一方を開放して束搬送路3Yと連通させる。
集積部16のステージ16Tは、挟持搬送ガイド22が前方へ移動された状態において上方へ移動されることにより、その上面の高さを挟持搬送ガイド22とほぼ同等に揃え、束搬送路3Yの一部を形成する。ラッセル部25は、挟持搬送ガイド22、下搬送ベルト24及びステージ16Tの上面に沿って、紙幣束Wを押すことにより前後方向へ移動させる。
[1−3.出金動作及び取込動作]
次に、紙幣出金機1における出金動作及び取込動作について説明する。紙幣出金機1は、出金動作を行う場合、図示しない操作部を介して顧客から出金の指示及び出金額を受け付ける。これに応じて各紙幣カセット11は、この出金額に応じた金種及び枚数の紙幣を後面から1枚ずつ繰り出し、搬送部13に引き渡す。搬送部13は、各紙幣を上方へ搬送し、鑑別部14により鑑別させ、得られた鑑別結果を制御部4に供給させる。
制御部4において鑑別結果を基に正常と判断された紙幣は、切替部15により集積部16へ搬送され、ステージ16T上に集積される。また制御部4において出金すべきでないと判断されたリジェクト紙幣は、切替部15によりリジェクト収納庫17へ搬送され、収納される。
続いて紙幣出金機1は、出金額に相当する金種及び枚数の紙幣、すなわち紙幣束Wをステージ16T上に集積すると、当該ステージ16Tを上昇させ、当該紙幣束Wを束搬送路3Y内へ持ち上げる。続いて紙幣出金機1は、上搬送ベルト21及び下搬送ベルト24を前方へ走行させると共にラッセル部25を前方へ移動させることにより、紙幣束Wを束搬送路3Yに沿って前方へ進行させ、出金口26まで搬送する。紙幣出金機1は、この段階で出金動作を終了し、利用者に紙幣束Wを受け取らせる。
ここで、所定の待機時間以内に出金口26から紙幣束Wが取り出されなかった場合、紙幣出金機1は、利用者が紙幣束Wを取り忘れたと判断し、取込動作を開始する。具体的に紙幣出金機1は、上搬送ベルト21及び下搬送ベルト24を後方へ走行させることにより紙幣束Wを束搬送路3Y内に取り込み、さらにラッセル部25を後方へ走行させることにより、当該紙幣束Wを当該束搬送路3Yに沿って後方へ進行させていく。やがて紙幣出金機1は、紙幣束Wが取込孔17Hの上方に到達すると、この紙幣束Wを束搬送路3Yから落下させ、リジェクト収納庫17内に収納させる。
[2.紙幣カセットの基本構成]
ところで紙幣カセット11は、収納筐体10に形成された4箇所の装填スロットに対し、それぞれ着脱可能に構成されている。すなわち紙幣カセット11は、収納筐体10に装填された状態(図1)から前方へ引き抜かれることにより、図2(A)に示すように、該収納筐体10から離脱される。これにより紙幣カセット11は、保守作業者等により単体で運搬される。また紙幣カセット11は、空の装填スロットの前方に位置された状態から後方へ押し込まれることにより、図1に示したように、該収納筐体10に装着される。
因みに紙幣カセット11の前面には、収納可能な取手(図示せず)が設けられている。このため紙幣カセット11は、保守作業者等により収納筐体10から引き出される場合に、この取手に対し前方へ向かう力が加えられる。また紙幣カセット11は、保守作業者等により持ち運ばれる場合、この取手が把持されることにより、前面を上方へ向けると共に後面を下方へ向けた、いわば縦長の姿勢となる。
この紙幣カセット11は、前側、後側、左側、右側及び下側の各側面を形成する本体部としての筐体31と、上側の側面を形成する開閉体としての扉体32とにより構成されている。また紙幣カセット11の後上端部分には、扉体32の後端部分及び筐体31の後側上端部分により、蝶番部33が形成されている。紙幣カセット11は、この蝶番部33を回動中心として扉体32が回動されることにより、図2(A)に示したように筐体31の上側を閉塞する閉塞状態と、図2(B)に示すように筐体31の上側を開放した開放状態とに遷移することができる。
また紙幣カセット11は、閉塞状態(図2(A))において、その内部に紙幣を収納するための内部空間11Sを形成している。因みに内部空間11Sにおける左右方向及び上下方向の長さは、収納される最も大きい紙幣における長辺及び短辺よりも、それぞれ十分に長くなっている。
筐体31は、図3に平面図を示すように、その内部に、比較的大きな空間でなる筐体内部空間31Sを形成している。この筐体内部空間31Sは、紙幣カセット11の内部空間11Sのうち、筐体31側の部分である。これを換言すれば、筐体31は、その上面側に筐体内部空間31Sと外部とを連通させる大きな連通孔が形成されており、閉塞状態においてこの連通孔が扉体32により閉塞されている。
筐体内部空間31S内には、図3及びそのA1−A2断面図である図4(A)に示すように、ピックアップガイド41、ゲートガイド42、センターガイド43、2個のバックガイド44、2個のサイドガイド45及びステージ46が設けられている。因みに図4(A)は、説明の都合上、紙幣カセット11が閉塞状態である場合、すなわち筐体31の上側が扉体32により閉塞された状態の断面図を表している。
ピックアップガイド41は、前後方向に薄い板状に形成されており、筐体内部空間31Sにおける後端部分に設けられている。このピックアップガイド41は、図3におけるB1−B2断面図を図4(B)に示すように、その上面から上方に向けて、4本の後規制体47が立設されている。この後規制体47は、比較的小さな直方体状に形成されている。因みにピックアップガイド41の前面における下寄りの箇所は、紙幣を1枚ずつに分離して繰り出すためのピックアップローラ等(図示せず)が組み込まれている。
ゲートガイド42は、筐体内部空間31Sにおけるピックアップガイド41の前側下寄りに設けられており、その上面が平坦に形成されている。因みにゲートガイド42には、紙幣を1枚ずつに分離して繰り出すためのゲートローラ等(図示せず)が組み込まれている。
センターガイド43は、前後方向に沿った細長い角柱状に形成されており、筐体内部空間31S内の下端における左右方向のほぼ中央であって、ゲートガイド42の前方に設けられている。センターガイド43の上面は、ゲートガイド42の上面と同等に揃えられている。バックガイド44は、前後方向に長く上下方向に薄い板状に形成されており、センターガイド43の左右両側に、それぞれの上面を該センターガイド43の上面と揃えるように配置されている。
サイドガイド45は、前後方向に沿った細長い角柱状に形成されており、バックガイド44の上側にそれぞれ設けられている。このサイドガイド45は、少なくとも左右の内側面、すなわち筐体内部空間31Sの中心側を向いた側面が平坦に形成されている。またサイドガイド45は、図示しないサイドガイド取付部材により筐体31に取り付けられており、さらに左右方向の位置をそれぞれ調整し得るようになっている。
ステージ46は、前後方向に薄い板状に形成されており、ゲートガイド42、センターガイド43及びバックガイド44の上側に設けられている。またステージ46は、その大部分が左右のサイドガイド45の内側に位置しており、左右の外方へ向けて延設された一部分のみを該サイドガイド45よりも外側まで到達させている。
因みに、筐体内部空間31Sにおけるサイドガイド45の両外側には、このステージ46を傾斜させること無く前後方向へ移動させるための移動機構(図示せず)が設けられている。またステージ46は、図示しないスプリングにより後方向へ付勢されている。さらにステージ46には、前後方向に関する位置を保持するための保持機構(図示せず)も設けられている。
一方、扉体32は、図5に示すように、上面部51に形成された4箇所の取付基部52に対し、4個の取付部材53を介して2個のフロントガイド54が取り付けられている(詳しくは後述する)。因みに図5では、図2(A)に示したように、扉体32が閉塞状態である時の姿勢を基準に前方向及び後方向を表している。以降の図についても同様である。すなわち扉体32は、図2(B)に示した開放状態において、前後方向が反転することになる。
ガイド体としてのフロントガイド54(図5)は、少なくとも下面が概ね平坦状に形成されている。このフロントガイド54は、取付部材53の姿勢や取付位置を変化させることにより、上下方向に関する位置、すなわち扉体32の下面から該フロントガイド54の下面までの距離を調整し得るようになっている(詳しくは後述する)。
このような構成により、紙幣カセット11は、内部空間11S内に、上下方向、左右方向及び前後方向に関し、紙幣を収納する範囲をそれぞれ規制した収納空間11SCを形成している(図3、図4)。この収納空間11SCは、前側がステージ46の後面により、後側がピックアップガイド41の前面により、左右の両側がサイドガイド45の各内側面により、下側がセンターガイド43等の上面により、上側がフロントガイド54の下面により、それぞれ規制されている。これを換言すれば、フロントガイド54等の各部材は、紙幣を収納空間11SC内に収納するように案内している。
因みに紙幣カセット11では、収納空間11SCに収納する紙幣の大きさ、具体的には長辺及び短辺それぞれの長さに応じて、保守作業者等により、各サイドガイド45及びフロントガイド54の取付位置がそれぞれ調整される。これにより紙幣カセット11は、収納空間11SCにおける左右方向及び上下方向の長さが、この紙幣に合わせて最適化される。
この収納空間11SCには、紙面を前後方向に向けると共に長辺を上下方向に向けた紙幣が前後方向に沿って順次重ねられ、整然と集積された状態で収納される。説明の都合上、以下では、前後方向を集積方向とも呼び、また前後方向に沿った軸を集積軸とも呼ぶ。収納空間11SCに収納された紙幣は、スプリング(図示せず)の付勢力が作用するステージ46により後方へ付勢され、ピックアップガイド41に押し付けられる。
紙幣出金機1(図1)において出金動作が行われる場合、紙幣カセット11は、収納筐体10側から供給される駆動力により、ピックアップローラやゲートローラ等(何れも図示せず)を適宜回転させる。これにより紙幣カセット11は、収納空間11SC内の最も後側に集積されている紙幣を他の紙幣から分離しながら後方へ進行させ、後面の引渡口34(図2(A))から後方へ繰り出して搬送部13に引き渡すことができる。
[3.扉体の詳細構成]
次に、扉体32の詳細な構成に関し、扉体32の取付基部52、フロントガイド54及び取付部材53について、それぞれ説明する。
[3−1.扉体の構成]
基体としての扉体32(図5)には、上述したように、上面部51に4個の取付基部52が設けられている。4個の取付基部52は、下方から見て2行2列の格子状に配置されている。
取付基部52は、図6(A)に拡大斜視図を示すように、上面部51よりも下方へ隆起している。この取付基部52には、7個の固定孔52H(52H0、52H1、52H2、52H3、52H4、52H5及び52H6)が穿設されている。各固定孔52Hは、上面部51の上面側まで貫通している。各固定孔52Hは、概ね角孔状であり、下方向から見て長方形状であるものの、前辺における中央の約1/3の範囲が前方へ切り欠かれてなる切欠部分と連接されている。
また以下では、取付基部52のうち、各固定孔52H及びその周辺部分を、被固定部52S(52S0、52S1、52S2、52S3、52S4、52S5及び52S6)と呼ぶ。このうち被固定部52S0〜52S5は、左右方向に2列、前後方向に3列となるよう格子状に配置されており、その後側におけるほぼ中央に被固定部52S6が配置されている。また基体被係合部としての各被固定部52Sは、何れも取付基部52の後面に設けられているため、前後方向に関する互いの位置が同等となっている。
さらに扉体32(図5)には、上面部51の下面における前端近傍であって、2行2列の取付基部52における前側となる2箇所に、係合レール部55がそれぞれ設けられている。係合レール部55は、上面部51の下面から下方へ向けて垂設された複数の薄板状部材を組み合わることにより、上下方向に沿ったレールのような形状となっている。
係合レール部55は、図7(A)に下面図を示すように、前側に位置し左右方向に沿って形成された前部61を中心に構成されており、この前部61の左右両端から後方へ向けて延設部62がそれぞれ延設され、さらに延設部62の後端から左右の内方へ向けて後端部63がそれぞれ延設されている。
また前部61における左右方向のほぼ中央には、後方へ向けて前規制体64が延設されている。規制体としての前規制体64は、左右方向に薄い板状に形成されている。すなわち係合レール部55は、下方から見て、英大文字の「E」に類似した形状となっている。
[3−2.フロントガイドの構成]
図5に示したように、収納空間規定体としてのフロントガイド54は、全体として前後方向に長く、左右方向に比較的短く、上下方向に短い直方体状、すなわち細長い板状に形成されている。またフロントガイド54は、所定の樹脂材料により成型部品として構成されている。因みにフロントガイド54は、扉体32と比較して、前後方向に関して僅かに短く、左右方向に関して長さが約1/4〜1/8程度となっている。
図7(B)に下面図を示すように、フロントガイド54は、大きく分けて、前端近傍を除いた本体部71と、前端の中央に位置する前端中央部72と、該前端中央部72の左右に設けられた腕部74とにより構成されている。本体部71は、前後方向に長く左右方向に短く上下方向に薄い直方体状ないし薄板状に形成されている。
前端中央部72は、左右方向の長さ(すなわち幅)が、その後半部分において本体部71よりもやや短く(狭く)、その前半部分において後半部分よりもさらに短く(狭く)なっている。この前端中央部72の前端近傍には、前端から後方へ向けて切り込まれ、且つ上下方向に貫通する規制溝73が設けられている。
前端中央部72の左右両側には、腕部74が設けられている。腕部74は、前後方向に細長く左右方向に比較的薄い板状部材でなり、前後方向の中央付近において左右方向の内側へクランク状に屈曲されている。このため腕部74は、本体部71との接続部分がフロントガイド54における左右両端近傍に位置しているのに対し、前側の先端となる部分がこれよりも左右方向の内側にそれぞれ位置している。
さらに腕部74は、樹脂材料により形成されていることに加えて、前端中央部72との間に隙間を形成しており、左右方向の内側へ向けて外力が加えられると、前側部分を左右方向の内側へ向けて一時的に弾性変形する。また腕部74は、この外力が解放されると、復元力の作用により、元の形状へ戻ろうとして前側部分を左右方向の外側へ変位させる。
腕部74の前端には、左右の外方へ向けて爪状部75が立設されている。爪状部75は、前端から後方へ進むに連れて左右の外方へ広がるような傾斜面を前側に形成する一方、その反対の後側に、ほぼ真後ろを向いた平面を形成している。爪状部75は、腕部74における前側部分を中心とした変形に伴い、左右方向に変位することができる。
またフロントガイド54(図5)は、本体部71における前寄り及び後寄りの箇所に、上下方向に貫通する複数の孔部を有するフロントガイド固定部76がそれぞれ設けられている。フロントガイド固定部76は、図6(B)に拡大した斜視図を示すように、7個の被固定部76S(76S0、76S1、76S2、76S3、76S4、76S5及び76S6)が設けられている。ガイド体被係合部としての各被固定部76Sは、扉体32の取付基部52(図5、図6(A)及び図7(A))における各被固定部52Sと鏡像をなすように配置されている。
すなわち、被固定部76S0、76S1、76S2、76S3、76S4及び76S5は、左右方向に2列、前後方向に3列となるよう格子状に配置されており、その後側におけるほぼ中央に被固定部76S6が配置されている。換言すれば、被固定部76S0、76S1、76S2、76S3、76S4、76S5及び76S6は、取付基部52の被固定部52S0、52S1、52S2、52S3、52S4、52S5及び52S6とそれぞれ対応する位置に配置されている。
一方、各被固定部76Sは、被固定部52Sの場合とは異なり、上下方向に関して互いの上面の位置が異なっており、フロントガイド54の上面に複数段の段差を形成している。具体的に被固定部76S0、76S1、76S2、76S3、76S4、76S5及び76S6は、この順に1[mm]ずつ上方へせり出していくよう、それぞれの上下方向の位置が定められている。
因みに各被固定部76Sにおけるフロントガイド54の厚さ(すなわち上下方向の長さ)は、何れも同等となっている。換言すれば、フロントガイド54における下面にも、複数段の段差が形成されている。
各被固定部76Sには、上下方向に貫通する角孔でなる固定孔76H(76H0、76H1、76H2、76H3、76H4、76H5及び76H6)がそれぞれ穿設されている。ガイド体被係合部としての各固定孔76Hは、上下方向及び左右方向に関して、扉体32の取付基部52(図7(A))における各固定孔52Hと鏡像をなすように配置されている。
各固定孔76Hは、概ね角孔状であり、上方向から見て長方形状であるものの、後辺における中央の約1/3の範囲が後方へ切り欠かれてなる切欠部分と連接されている。すなわち各固定孔76Hにおける切欠部分の位置は、各固定孔52Hにおける切欠部分に対して前後方向に反対となっている。
[3−3.取付部材の構成]
取付部材53は、図8に拡大図を示すように、直方体状の本体部81と、各側面に1個ずつ設けられた合計6個の爪部とにより構成されている。
本体部81は、側面82A及びこれと反対側の側面83A、側面82B及びこれと反対側の側面83B、並びに側面82C及びこれと反対側の側面83Cにより構成されている。この本体部81では、側面82A及び側面83Aの間隔である取付間隔LA、側面82B及び側面83Bの間隔である取付間隔LB、並びに側面82C及び側面83Cの間隔である取付間隔LCの間に、LA<LB<LCという大小関係が成立している。詳細には、LB=LA+7[mm]であり、且つLC=LB+7[mm]となっている。
これを換言すれば、取付部材53の本体部81は、側面82A、82B及び82Cから、それぞれ互いに異なる方向へ、例えば前後方向、左右方向及び上下方向へ、互いに異なる距離(すなわち取付間隔)ずつ離隔した位置に、側面83A、83B及び83Cがそれぞれ配置されている。
取付部材53の側面82Cを上側に向けた姿勢において、側面82Aにおける上端近傍には、爪部86Aが設けられている。基体係合部としての爪部86Aは、側面82Aから法線方向に延びた後、下方へ向けて屈曲されることにより下方が開放された爪状の突起として形成されており、さらに幅方向の中央付近において、側面82Aと先端部分とを繋ぐ補強リブが設けられている。すなわち爪部86Aは、左右の側方から見て、英文字の「L」を適宜回転若しくは反転させたような形状に補強リブが組み合わされた形状となっている。側面82B及び82Cには、爪部86Aと同様の爪部86B及び86Cがそれぞれ設けられている。
同様に側面82Cを上側に向けた姿勢において、側面83Aにおける上端近傍には、爪部87Aが設けられている。ガイド体係合部としての爪部87Aは、爪部86Aとほぼ上下対称であり、上側が開放された爪状の突起として形成されて、さらに補強リブが設けられている。側面83B及び83Cには、爪部87Aと同様の爪部87B及び87Cがそれぞれ設けられている。
このように取付部材53は、爪部86A、86B及び86Cが設けられた側面82A、82B及び82Cと、爪部87A、87B及び87Cが設けられた側面83A、83B及び83Cとを、互いに反対側に配置し、且つ各側面同士の間隔である取付間隔LA、LB及びLCを互いに相違させている。
[3−4.扉体に対するフロントガイドの取付]
次に、扉体32に対する取付部材53を介したフロントガイド54の取付について、図9(A)を参照しながら説明する。なお、図9(A)では、説明の都合上、各部を模式的に表すと共に一部を省略しており、さらにフロントガイド54の各被固定部76Sを、前後方向に沿って一列に並べている。
紙幣カセット11では、まず扉体32の後側から、取付部材53の姿勢が適宜調整されると共に、取付基部52における何れかの固定孔52Hが選択されて取付部材53の爪部86が挿通される。さらに取付部材53は、被固定部52Sに側面82が当接した状態で前方へ僅かに移動(スライド)される。これにより取付部材53は、爪部86が固定孔52Hの周辺部分、すなわち被固定部52Sに引っ掛けられ、扉体32に固定される。
このとき扉体32は、取付部材53の側面82が取付基部52の被固定部52Sに対し、比較的広い面積により当接するため、当該取付部材53から上方向へ向けて比較的強い力が加えられたとしても、これを十分に受け止めることができる。また扉体32は、上方へ向けて伸びた爪部86が固定孔52Hに挿入され被固定部52Sに係合することにより、前後方向及び左右方向のうち、後方向を除いた3方向に関して、取付部材53の移動を規制することができる。
ここで、図10(A)及び(B)を参照しながら、固定孔52H及び爪部86における左右方向の長さについて説明する。因みに図10(B)は、図10(A)におけるC1−C2断面図を表している。また図10(A)は、図10(B)におけるD1−D2断面図を表している。
固定孔52H及び切欠部分52HCにおける左右方向の長さを、それぞれ長さL11及びL12とする。また、爪部86及び補強リブ86Rにおける左右方向の長さを、それぞれ長さL13及びL14とする。
紙幣カセット11では、基本的に、固定孔52Hの長さL11が爪部86の長さL13よりも大きく、また切欠部分52HCの長さL12が補強リブ86Rの長さL14よりも長くなっている。このため固定孔52Hは、爪部86を挿通させることができ、また切欠部分52HCに補強リブ86Rを入り込ませることができる。
さらに固定孔52H及び爪部86は、長さL11と長さL13との差分の半分、すなわち両者の間に生じる隙間の長さL15が比較的短い一方、切欠部分52HCの長さL12と補強リブ86Rの長さL14との差分の半分、すなわち両者の間に生じる隙間の長さL16が比較的長くなっている。
このため紙幣カセット11では、取付部材53の爪部86が扉体32の固定孔52Hに嵌め込まれた状態で、取付部材53に対し左右方向に力が加えられた場合、該取付部材53が左右方向へ変位しようとする。このとき紙幣カセット11では、固定孔52H及び爪部86の隙間である長さL15が比較的狭いために、固定孔52Hの内側面に対し爪部86の側面が先に当接してその力を受け止め、補強リブ86Rが切欠部分52HCの内側面から離れた状態を維持する。
次に紙幣カセット11では、取付部材53の下側にフロントガイド54が近づけられることにより、爪部87がフロントガイド固定部76における何れかの固定孔52Hに挿通されると共に、被固定部76Sに取付部材53の側面83が当接する。続いて紙幣カセット11では、フロントガイド54が前方へ僅かに移動(スライド)されることにより、取付部材53の爪部87が固定孔52Hの周辺部分、すなわち被固定部76Sに係合し、フロントガイド54を固定する。
因みに取付部材53は、フロントガイド固定部76において、取付基部52側で固定された被固定部52Sと対応する被固定部76Sに固定される。例えば取付部材53は、取付基部52において被固定部52S0に固定された場合、フロントガイド固定部76において被固定部76S0に固定される。
このときフロントガイド54は、腕部74の弾性変形を利用することにより、図7(C)に示すように、爪状部75を扉体32の係合レール部55における後端部63に係合させる。これによりフロントガイド54は、後方向への移動が規制されるため、後方向への外力が加えられた場合であっても、取付部材53の爪部87が被固定部76Sから外れること、若しくは取付部材53の爪部86が扉体32の被固定部52Sから外れることを防止し、取付部材53を介して扉体32に取り付けられた状態を維持できる。
因みに紙幣カセット11は、このときフロントガイド54の先端部分を係合レール部55の前部61と近接又は当接させているため(図7(C))、該フロントガイド54に対し前方向へ向かう力が加えられたとしても、これを受け止めることができ、取付部材53の爪部86及び87に過大な力が加えられることを防止できる。
ここで取付部材53(図5)は、上述したように、互いに反対側に位置する側面同士、すなわち側面82及び83の間隔が、取付間隔LA、LB又はLCの3通りに相違している。すなわち紙幣カセット11では、取付部材53の姿勢に応じて、扉体32の被固定部52Sとフロントガイド54の被固定部76Sとの間隔(以下これを選択取付間隔LSと呼ぶ)を、取付間隔LA、LB又はLCの3段階に調整することができる。この選択取付間隔LSは、上述したように、7[mm]ごとに3段階に変化することになる。
また紙幣カセット11では、図6(B)及び図9(A)に示したように、フロントガイド54側の各被固定部76S(76S0〜76S6)が7段の段差を形成しているため、取付部材53を取り付ける被固定部76Sに応じて、フロントガイド54の上下方向の位置を7段階に調整することができる。
説明の都合上、以下では、最も下側に位置する被固定部76S0を基準として、実際に取付部材53が取り付けられた被固定部76S(76S0〜76S6)までの上下方向の間隔を、段差間隔LTと定義する。これにより被固定部76S0、76S1、76S2、…、76S6におけるそれぞれの段差間隔LTは、0、1、2、…、6[mm]となる。
そうすると、紙幣カセット11では、取付部材53を介して扉体32に取り付けられたフロントガイド54の上下方向に関する位置(以下これを取付位置と呼ぶ)を、選択取付間隔LSと段差間隔LTとの加算値により表すことができる。ここで、取付部材53の姿勢に応じた選択取付間隔LSと、選択された被固定部76Sとにより定まる取付位置の値を整理すると、図9(B)に示す取付位置調整表T1のように表すことができる。
すなわち紙幣カセット11では、選択取付間隔LSを3通りに調整でき、段差間隔LTを7通りに調整できるので、両者の組み合わせが、3及び7を乗じた21通りとなる。また紙幣カセット11では、選択取付間隔LSを7[mm]ごとに設定し、段差間隔LTを1[mm]ごとに設定したため、両者の組み合わせにより1[mm]ごとに20[mm]の調整幅で、フロントガイド54の取付位置を上下方向に21段階に調整すること、すなわち複数通りに切り替えることができる。
これを換言すれば、紙幣カセット11では、収納空間11SCの上側を規定するフロントガイド54の取付位置を上下方向に変更することにより、該収納空間11SCにおける上下方向の大きさを変更することができる。説明の都合上、以下では、上下方向を規定方向とも呼ぶ。
また紙幣カセット11は、扉体32に対するフロントガイド54の上下方向に関する取付位置を変更する場合、該扉体32に対しフロントガイド54を後方向へ(図2(B)の開放状態であれば反対の前方向へ)移動させて取り外させる。具体的に紙幣カセット11は、フロントガイド54の前側において、保守作業者等により腕部74を左右の外方から把持させる等してそれぞれ内側へ押し込ませ、係合レール部55の後端部63に対する爪状部75の係合を解除させ、そのまま後方へスライドさせる。
これにより紙幣カセット11は、フロントガイド54の先端部分を係合レール部55の後方まで移動させて再度係合し得ない状態にすると共に、爪部87と被固定部76Sとの係合も解除するため、該フロントガイド54を下方へ(図2(B)の開放状態であれば上方へ)移動させることで、取り外させることができる。
ところで紙幣カセット11では、扉体32に対し取付部材53を介してフロントガイド54が取り付けられた場合、図7(C)に示したように、フロントガイド54の前端部分に形成された規制溝73に、係合レール部55の前規制体64が入り込む。ここで、規制溝73における溝幅、すなわち左右方向の長さL73(図7(B))は、前規制体64の厚さ、すなわち左右方向の長さL64(図7(A))よりも僅かに長くなっている。このため係合レール部55の前規制体64は、規制溝73と当接し、又は極めて近接することにより、フロントガイド54の前側部分に対し、左右方向への移動を規制できる。
また紙幣カセット11では、フロントガイド54が取り付けられた扉体32が閉塞状態(図2(A))となった場合、図4(B)に加えて図11に模式的な側面図を示すように、筐体31側においてピックアップガイド41の上面に立設された後規制体47が、該フロントガイド54の後端近傍であって、係合レール部55と同程度の高さに位置する。
この各後規制体47は、図7(C)に示したように、フロントガイド54の本体部71における後端付近の左右両側に1個ずつ位置するよう、その位置が適切に調整されている。また後規制体47同士の間隔である長さL47(図7(A))は、フロントガイド54の本体部71における左右方向の長さL71(図7(B))よりも僅かに広くなっている。
このためピックアップガイド41の後規制体47は、フロントガイド54の後端近傍に当接若しくは極めて近接することにより、フロントガイド54の後側部分に対し、左右方向への移動を規制できる。説明の都合上、以下では、集積方向である前後方向と規制方向である上下方向とそれぞれ交差する左右方向を、交差方向とも呼ぶ。
因みに後規制体47は、図11に示したように、収納空間11SCの後端を規定するピックアップガイド41の上面に立設しているため、該収納空間11SCの後端よりも後側に位置することになる。また係合レール部55の前規制体64は、ステージ46が最も前方へ位置した場合における後面よりも前側に位置しており、該収納空間11SCの前端よりも前側に位置することになる。すなわち紙幣カセット11では、前後方向に関し、収納空間11SCの範囲外に、前規制体64及び後規制体47を配置している。
ところでフロントガイド54は、上述したように、選択取付間隔LS及び段差間隔LTをそれぞれ選択することにより、上下方向の取付位置を21段階に調整できる(図9)。これに応じて係合レール部55及び後規制体47は、図4及び図11に示したように、上下方向に関し、フロントガイド54の移動範囲に対応し得るような十分な長さを有している。
またフロントガイド54は、上述したように、樹脂材料により成型部品として構成されており、上下方向にある程度の長さ(すなわち厚さ)を有することにより(図4及び図11等)、十分な剛性を確保している。これに伴いフロントガイド54は、規制溝73(図7)の内側面や本体部71の後端部近傍における左右の側面においても、上下方向に十分な長さを有している。
すなわち紙幣カセット11は、フロントガイド54の前端近傍において、上下方向に十分な長さを有する前規制体64及び規制溝73を互いに当接又は極めて近接させ、且つその後端近傍において、上下方向に十分な長さを有する本体部71における左右の側面及び後規制体47を互いに当接又は極めて近接させることができる。これにより紙幣カセット11は、扉体32に対し、フロントガイド54が前後方向に沿った軸である集積軸を中心として回転すること(すなわち捻れること)を規制できる。
[4.効果等]
以上の構成において、紙幣出金機1の紙幣カセット11は、扉体32の取付基部52に対し取付部材53を介してフロントガイド54を取り付け(図5)、該フロントガイド54の下面により収納空間11SCの上側を規定するようにした(図4)。また紙幣カセット11は、取付部材53の姿勢と、使用する取付基部52の固定孔52H及びフロントガイド固定部76の固定孔76Hとがそれぞれ変更されることにより、選択取付間隔LS及び段差間隔LTをそれぞれ変化させ、フロントガイド54の上下方向に関する取付位置を変化させるようにした(図9)。
この紙幣カセット11は、紙幣出金機1の収納筐体10から取り出されて運搬される場合、異物と衝突する等して、外部から衝撃が加えられる可能性がある。これにより紙幣カセット11では、収納されている紙幣から慣性モーメントによる力が加えられる等して、フロントガイド54に対し左右方向へ向かう力や、該フロントガイド54を上下方向に沿った集積軸を中心として回転させる力(すなわち捻る力)が作用する可能性がある。
このとき紙幣カセット11では、扉体32にフロントガイド54を取り付けている取付部材53の爪部86及び87(図8及び図9)に対し、左右方向へ向かう過大な力が加えられ、該爪部86及び87を破損させる恐れがあった。
この点において、本実施の形態による紙幣カセット11では、扉体32側の係合レール部55に設けた前規制体64をフロントガイド54の前端近傍に設けた規制溝73に入り込ませた(図7)。これと共に紙幣カセット11では、閉塞状態(図2(A))においてフロントガイド54の本体部71における後端近傍を2個の後規制体47により左右の両側から挟むように当接又は近接させた(図4及び図11)。
このため紙幣カセット11は、フロントガイド54の上端近傍及び下端近傍の双方において、該フロントガイド54の左右方向への移動や、前後方向に沿った集積軸を中心とする回転(すなわち捻れ)を規制できる。これに伴い紙幣カセット11は、取付部材53の爪部86及び87に過大な力が加えられることを回避でき、該爪部86及び87の破損を未然に防止できる。
因みに紙幣カセット11は、フロントガイド54の前端を係合レール部55の前部61に当接させており、且つ爪状部75を該係合レール部55の後端部63に係合させている(図7)。このため紙幣カセット11は、前後方向に関し、フロントガイド54を扉体32に対し十分な強度で支持しており、外力が加えられた場合にも該フロントガイド54をこの前後方向へ移動させずに済む。
また紙幣カセット11は、フロントガイド54の本体部71における後端近傍を規制する2個の後規制体47を、扉体32側では無く、筐体31側に設けた(図4、図11)。このため紙幣カセット11は、閉塞状態(図2(A))であれば、後規制体47をフロントガイド54の本体部71における後端近傍に当接又は近接させ、その左右方向への移動や回転(捻れ)を規制できる。
その一方で紙幣カセット11は、開放状態(図2(B))において、後規制体47をフロントガイド54から引き離し、該フロントガイド54の後端近傍に十分な空間を形成できる。これにより紙幣カセット11は、例えばフロントガイド54における上下方向の取付位置を変更する目的で、保守作業者等により該フロントガイド54を扉体32から一度取り外させ、再び取り付けさせる場合等に、自由に移動させてその作業効率を格段に高めることができる。
これに加えて紙幣カセット11は、フロントガイド54の後側において、本体部71の左右両側に当接又は近接する位置に、後規制体47をそれぞれ配置した。このため紙幣カセット11は、後規制体47を設けない場合と比較して、フロントガイド54の形状を変更する必要が無い。
一方、紙幣カセット11は、フロントガイド54の前側において、腕部74の前端における左右両外側に爪状部75を設け、該腕部74の弾性変形を利用することにより、爪状部75を係合レール部55の後端部63に係合させ、或いはその係合を解除させる。
このため紙幣カセット11は、仮に前端近傍において、後端側の後規制体47と同様の規制体を左右の両外側に配置した場合、この規制体が腕部74の直近に配置されることになる。この場合、紙幣カセット11では、例えば保守作業者等がフロントガイド54を取り外す場合に、腕部74に対し左右の外方から把持するように力を加えて弾性変形させる作業や、この力を加えたままフロントガイド54を後方へスライドさせる作業等において、その障害となり作業効率を大幅に低下させる恐れがあった。
この点において紙幣カセット11は、2本の腕部74の間に位置する前端中央部72の中央に規制溝73を形成すると共に、係合レール部55側において該規制溝73と対応する箇所に前規制体64を設けた(図7)。これにより紙幣カセット11は、保守作業員等による腕部74を把持する作業等を妨げること無く、フロントガイド54の前側部分に対し左右方向への移動や回転を効果的に規制することができる。
さらに紙幣カセット11は、後方向に関し、収納空間11SCの範囲外に、前規制体64及び後規制体47を配置するようにした(図11)。このため紙幣カセット11は、例えばフロントガイド54の取付位置が比較的上寄りとなり、収納空間11SCの上面が前規制体64及び後規制体47の下端よりも上側に到達した場合であっても、当該収納空間11SC内に前規制体64及び後規制体47を入り込ませて紙幣の集積を妨げることが無い。
そのうえ紙幣カセット11は、筐体31の後上側に設けた蝶番部33によって、左右方向に沿った回動軸を回動中心として扉体32を回動させることにより、開閉させるようにした。また紙幣カセット11は、フロントガイド54の後端近傍において、本体部71における左右の外側面、すなわち蝶番部33の回動軸と直交する平面と、後規制体47における左右の内側面、すなわち同様に蝶番部33の回動軸と直交する平面とを、互いに対向させるようにした。
これにより紙幣カセット11は、蝶番部33により扉体32を回動させる場合に、左右方向に関するフロントガイド54と後規制体47との間隔を変化させること無く、一定に保持できる。すなわち紙幣カセット11は、閉塞状態において後規制体47をフロントガイド54における後端近傍に当接又は近接させることと、該規制体47と該フロントガイド54とを互いに干渉させること無く扉体32を回動させることとを、両立させることができる。さらに紙幣カセット11は、扉体32に対するフロントガイド54の取付位置を変化させた場合であっても、該フロントガイド54を回動軸に沿った方向へは変位させないため、この両立を維持できる。
これを換言すれば、紙幣カセット11は、後規制体47により左右方向から規制された範囲内でフロントガイド54を回動又は移動させることにより、該後規制体47と該フロントガイド54とを互いに干渉させることなく、扉体32の回動と該フロントガイド54の取付位置の調整とを行わせることができる。
また紙幣カセット11は、左右方向に関する固定孔52Hの長さL11と爪部86の長さL13との差分、すなわち両者の間に生じる隙間の長さL15を比較的短くし、且つ切欠部分52HCの長さL12と補強リブ86Rの長さL14との差分、すなわち両者の間に生じる隙間の長さL16を比較的長くした(図10)。これにより紙幣カセット11では、取付部材53に対し左右方向へ向かう力が加えられたとしても、爪部86を固定孔52Hの内側面に当接させるため、補強リブ86Rを切欠部分52HCの内側面に当接させて過大な力が加えられ、破損してしまうことを未然に防止できる。
すなわち紙幣カセット11では、取付部材53(図8)の補強リブ86Rに対し、左右方向からの直接の外力に耐え得るような大きな強度を持たせる必要が無く、爪部86の先端部分に対し側面82に離接する方向へ過大な力が加えられることによる破損を防止し得る程度の、比較的小さな強度を持たせれば良い。
以上の構成によれば、紙幣出金機1の紙幣カセット11は、扉体32に対し取付部材53によりフロントガイド54の取付位置を上下方向へ調整し得るようにした。そのうえで紙幣カセット11は、係合レール部55の前規制体64をフロントガイド54の規制溝73に入り込ませると共に、閉塞状態においてフロントガイド54の後端近傍における左右の両側に後規制体47を当接又は近接させた。これにより紙幣カセット11は、閉塞状態において、フロントガイド54の左右方向への移動や、前後方向に沿った軸を中心とする回転を規制できるので、取付部材53の爪部86及び87に過大な力が加えられることによる破損を未然に防止できる。
[5.他の実施の形態]
なお上述した実施の形態においては、扉体32にフロントガイド54が取り付けられた場合に、該フロントガイド54の前端近傍において規制溝73に前規制体64を入り込ませ、後端近傍において2個の後規制体47を本体部71における左右の両側面に当接させる場合について述べた(図7)。しかしながら本発明はこれに限らず、前端近傍及び後端近傍において、種々の組合せにより、それぞれ左右方向の移動や回転を規制しても良い。例えば、図12(A)に示す扉体132のように、フロントガイド154の前端近傍において、フロントガイド54の後側近傍と同様に、該フロントガイド154の左右両側に規制体147を当接又は近接させるようにしても良い。或いは、例えば図12(B)に示す扉体232のように、フロントガイド254の後端近傍において、フロントガイド54の前側近傍と同様に、規制溝273を設けて規制体264を入り込ませても良い。
また上述した実施の形態においては、フロントガイド54の前端近傍及び後端近傍の2箇所において、前規制体64及び後規制体47により該フロントガイド54の左右方向への移動や回転を規制する場合について述べた(図7)。しかしながら本発明はこれに限らず、例えばフロントガイド54の前端近傍及び後端近傍の何れか一方を省略しても良く、或いは3箇所以上に規制体を設けても良い。この場合、規制体は、フロントガイド54の取付位置が比較的上寄りである場合にも、収納空間11SCの外側に位置することにより紙幣の集積を阻害しなければ良い。
さらに上述した実施の形態においては、扉体32に対し、前後方向に沿った細長いフロントガイド54を左右方向に2個並べるように取り付ける場合について述べた(図5)。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば図13(A)に示す扉体332のように、フロントガイド54を左右方向に2個並べて上端近傍及び下端近傍においてそれぞれ連結させたような形状でなるフロントガイド354を1個のみ取り付けても良い。この場合、例えばフロントガイド354の後端近傍における左右の両側に2個の後規制体47をそれぞれ配置すると共に、前端近傍の左右両側に2個の前規制体347をそれぞれ配置すれば良い。
或いは、図13(B)に示す扉体432のように、フロントガイド454における前端近傍に2箇所の規制溝73を設けて2個の前規制体64をその内部にそれぞれ入り込ませると共に、後端近傍に2箇所の規制溝473を設けて2個の後規制体464をそれぞれの内部に入り込ませても良い。さらには、図13(C)に示す扉体532のように、フロントガイド554における中央の隙間部分に前規制体547及び後規制体564を入り込ませることにより、左右方向への移動や集積軸回りの回転を規制しても良い。また、図13(A)〜(C)の構成を前端近傍及び後端近傍で適宜組み替えても良く、或いは前端近傍及び後端近傍の何れか一方のみに規制体を設けても良い。
さらに上述した実施の形態においては、後規制体47を筐体31側のピックアップガイド41に立設させる場合について述べた(図4及び図11)。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば後規制体47の一部又は全部を扉体32側に設けても良い。或いは、例えば前規制体64を筐体31側に設け、扉体32を閉塞状態とした場合にのみフロントガイド54の規制溝73に入り込むようにしても良い。
さらに上述した実施の形態においては、フロントガイド54の規制溝73における内側面と、本体部71の後端近傍における左右の両側面とを何れも上下方向に十分長く形成することにより、上下方向に関し比較的長い範囲において前規制体64及び後規制体47に当接又は近接させて、該フロントガイド54の回転を規制する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば規制溝73の内側面等における上下方向の長さを短くしても良い。この場合、少なくともフロントガイド54の左右方向への移動を規制することができる。
さらに上述した実施の形態においては、扉体32に2個のフロントガイド54を取り付ける場合について述べた(図5)。しかしながら本発明はこれに限らず、扉体32に1個又は3個以上のフロントガイド54を取り付けても良い。
さらに上述した実施の形態においては、1個のフロントガイド54を扉体32に取り付けるために2個の取付部材53を使用する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、1個のフロントガイド54を扉体32に取り付けるために1個又は3個以上の取付部材53を使用しても良い。
さらに上述した実施の形態においては、1種類の取付部材53における姿勢を3通りに変化させることにより、選択取付間隔LSを取付間隔LA、LB又はLCの3段階に調整する場合について述べた(図6、図9)。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば取付部材53における姿勢を2通りに変化させて選択取付間隔LSを2段階に調整しても良く、或いは各辺の長さがそれぞれ相違する2種類以上の取付部材を交換して使用することにより、選択取付間隔LSを4段階以上に調整しても良い。
さらに上述した実施の形態においては、取付部材53において爪部86及び87に補強リブを設ける場合について述べた(図8)。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば爪部86及び87の少なくとも一方において、補強リブを省略しても良い。この場合、対応する固定孔52H又は76Hにおいて、切欠部分を省略できる(図6)。
さらに上述した実施の形態においては、扉体32に対し取付部材53を使用してフロントガイド54を取り付ける場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば従来の紙幣収納庫のように、カラと呼ばれる部品を介して取り付けねじによりフロントガイド54を扉体32に取り付ける等、種々の手法により取り付けても良い。要は、扉体32に対しフロントガイド54を着脱可能に取り付けると共に、該フロントガイド54の取付位置を調整できれば良い。前規制体64及び後規制体47等により、フロントガイド54の左右方向への移動や回転を規制できれば良い。
さらに上述した実施の形態においては、扉体32に取り付けるフロントガイド54に本発明を適用する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば筐体31に取り付けるサイドガイド45(図3及び図4)等、収納空間11SCの大きさを規定して紙幣を案内し、且つ該筐体31に対する取付位置が調整可能である種々の部材に適用しても良い。
さらに上述した実施の形態においては、筐体31における後上側に蝶番部33を設け、左右方向に沿った回動軸を中心として扉体32を回動させることにより開閉させる場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば筐体31における左上側に蝶番部を設け、前後方向に沿った回動軸を中心として扉体32を回動させることにより開閉させる等、種々の方向に沿った回動軸を中心として扉体32を回動させることにより開閉させても良い。或いは、筐体31に対し扉体32をスライドさせ、若しくは筐体31に対し扉体32を着脱させることにより、開閉させても良い。
さらに上述した実施の形態においては、紙幣出金機1の収納筐体10に装填された場合に、収納されている紙幣の紙面が前後方向を向き、前後方向に沿って集積された状態となるような、いわば横型の紙幣カセット11に本発明を適用する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば特許文献1の紙幣入出金機に装填される紙幣カセットのように、装填された状態で紙幣の紙面が上下方向を向き、上下方向に沿って集積された状態となるような、いわば縦型の紙幣カセットに適用しても良い。
さらに上述した実施の形態においては、出金専用である紙幣出金機1に装填される紙幣カセット11に本発明を適用する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば入金取引や出金取引等、種々の取引処理を行い得る紙幣入出金機(いわゆるATM)に装填される紙幣カセットに適用しても良い。
さらに上述した実施の形態においては、媒体としての紙幣を内部に収納する紙幣カセットに本発明を適用する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば各種証券や金券、或いは商品券や入場券等、種々の紙葉状の媒体を内部に収納する媒体カセットに適用しても良い。
さらに本発明は、上述した実施の形態及び他の実施の形態に限定されるものではない。すなわち本発明は、上述した実施の形態と上述した他の実施の形態の一部又は全部を任意に組み合わせた実施の形態や、一部を抽出した実施の形態にもその適用範囲が及ぶものである。
さらに上述した実施の形態においては、基体としての扉体32と、ガイド体としてのフロントガイド54と、取付部材としての取付部材53と、規制体としての前規制体64及び後規制体47とによって媒体収納装置としての紙幣カセット11を構成する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる基体と、ガイド体と、取付部材と、規制体とによって媒体収納装置を構成しても良い。