以下、本発明の生理用吸収性物品をその好ましい実施形態に基づき図面を参照して説明する。図1及び図2は、本発明の生理用吸収性物品の一実施形態である生理用ナプキン1が示されている。ナプキン1は、図1に示すように、着用者の前後方向に対応する縦方向Xとこれに直交する横方向Yとを有し、経血を吸収可能な吸収体4と、該吸収体4の肌対向面側に配され着用時に着用者の肌と接触し得る表面シート2とを構成部材として具備する。
本明細書において、「肌対向面」は、生理用吸収性物品又はその構成部材(例えば吸収体4)における、生理用吸収性物品の着用時に着用者の肌側に向けられる面、即ち相対的に着用者の肌に近い側であり、「非肌対向面」は、生理用吸収性物品又はその構成部材における、生理用吸収性物品の着用時に肌側とは反対側、即ち相対的に着用者の肌から遠い側に向けられる面である。尚、ここでいう「着用時」は、通常の適正な着用位置、即ち当該生理用吸収性物品の正しい着用位置が維持された状態を意味し、生理用吸収性物品が該着用位置からずれた状態にある場合は含まない。
ナプキン1は、図1及び図2に示すように、肌対向面を形成する表面シート2、非肌対向面を形成する裏面シート3、及び両シート2,3間に介在された吸収体4を具備する吸収性本体10を備えている。吸収性本体10は、着用時に着用者の液排泄部(膣口等)に対向配置される領域である排泄部対向部Bと、該排泄部対向部Bより着用者の腹側即ち前側に配される前方部Aと、該排泄部対向部Bよりも着用者の背側即ち後側に配される後方部Cとを縦方向Xに有している。即ち、ナプキン1又は吸収性本体10は、縦方向Xにおいて着用者の腹側から順に、前方部A、排泄部対向部B及び後方部Cの3つの領域に区分される。縦方向Xは、ナプキン1及び吸収性本体10の長手方向に一致し、横方向Yは、ナプキン1及び吸収性本体10の長手方向に直交する幅方向に一致する。
表面シート2は、吸収体4の肌対向面の全域を被覆し、その縦方向Xに沿う両側縁は、吸収体4の縦方向Xに沿う両側縁と略同位置に存している。一方、裏面シート3は、吸収
体4の非肌対向面の全域を被覆し、さらに吸収体4の縦方向Xに沿う両側縁から横方向Yの外方に延出して、後述するサイドシート6と共にサイドフラップ部10Sを形成している。裏面シート3とサイドシート6とは、吸収体4の縦方向Xに沿う両側縁からの延出部において、接着剤、ヒートシール、超音波シール等の公知の接合手段によって互いに接合されている。また、表面シート2及び裏面シート3は、図1に示すように、吸収体4の縦方向Xの両端からの延出部において、公知の接合手段によって互いに接合されている。表面シート2及び裏面シート3それぞれと吸収体4との間は接着剤によって接合されていても良い。
図3には、ナプキン1における、表面シート2の肌対向面の要部が拡大して示されている。表面シート2の肌対向面2a(ナプキン1の肌対向面)には、縦方向X及び横方向Yそれぞれに交差する方向(即ち斜め方向)に延びる窪み部20が斜め格子状に形成されており、窪み部20によって表面シート2が多数の領域に区画化されて、多数の区画領域22が形成されている。図3に示す実施形態では、窪み部20は、表面シート2の全域にわたって形成されている。これに代えて、窪み部20を、少なくとも排泄部対向部Bに形成しても良い。尚、図3中のX方向は、表面シート製造時におけるシートの流れ方向に直交する方向(CD)と同方向であり、ナプキン1の縦方向X(図1参照)とも同方向である。また、図3中のY方向は、表面シート製造時におけるシートの流れ方向(MD)と同方向であり、ナプキン1の横方向Y(図1参照)とも同方向である。
表面シート2についてさらに説明すると、表面シート2は例えば単層構造又は多層構造の不織布などの繊維シートからなり、親水化剤で処理された不織布からなる表面シートが好ましく使用できる。ナプキン1の表面シート2では、その肌対向面2aの全域は、図3に示すように、斜め格子状に形成された窪み部20及び該窪み部20で囲まれた凸部21をそれぞれ多数有する凹凸形状を有している。一方、表面シート2の非肌対向面(後述するセカンドシート5との対向面)2bは、凹凸形状を実質的に有しておらず、略平坦となっている。
窪み部20は、繊維シートからなる表面シート2の構成繊維が圧着又は接着されて形成されている。繊維を圧着する手段としては、熱を伴うか又は伴わない圧搾加工、超音波圧搾加工等のエンボス加工等が挙げられる。その結果、表面シート2においては、窪み部20の密度が凸部21の密度よりも高くなっている。つまり、窪み部20は、表面シート2において相対的に密度の高い高密度部であり、凸部21(区画領域22)は、表面シート2において相対的に密度の低い低密度部である。このことに起因して、窪み部20は、表面シート2に外力が加わった場合に、変形の可撓軸として作用しやすくなる。本実施形態に係る表面シート2における窪み部20は、カード法によって形成した繊維ウエブに熱エンボス加工を施して形成されている。窪み部20においては、表面シート2又はそれを構成する不織布の構成繊維である熱融着性繊維が熱融着により一体化している。窪み部20における熱融着性繊維は、熱融着成分が溶融して繊維の形態を維持していない。
本実施形態において、窪み部20は、表面シート2のみに形成されており、該表面シート2の非肌対向面側に配置されているセカンドシート5及び吸収体4の双方には形成されていない。したがって、表面シート2とセカンドシート5及び吸収体4とは、窪み部20を介しては接合されていない。
窪み部20は線状であることが好ましい。ここで、「線状」とは、窪み部20の形状が平面視において図3に示す如き直線に限られず、曲線を含み、各線は、連続線でも良く、あるいは平面視において長方形、正方形、菱形、円形、十字等の多数の凹部(エンボス部、高密度部)が実質的に間隔を置かずに連なって全体として連続線を形成していても良い。「実質的に間隔を置かずに」とは、凹部の隣り合う間隔が5mm以内であることを言う
。
窪み部20は、図3に示すように斜め格子状に形成されている。より具体的には、表面シート2は、窪み部20として、互いに平行に且つ所定の間隔で形成された多数本の第1線状の窪み部20aと、互いに平行に且つ所定の間隔で形成された多数本の第2線状の窪み部20bとを有しており、第1線状の窪み部20aと第2線状の窪み部20bとが所定の角度をなして互いに交差している。第1線状の窪み部20a及び第2線状の窪み部20bは、いずれも、縦方向X及び横方向Yそれぞれに交差する方向(即ち斜め方向)に直線状に延びている。第1線状の窪み部20aの幅と第2線状の窪み部20bの幅は同じであっても良く、あるいは異なっていても良い。第1線状の窪み部20aどうし間の間隔と第2線状の窪み部20bどうし間の間隔も、同じであっても良く、あるいは異なっていても良い。
個々の区画領域22は、それぞれ周囲を線状の窪み部20(窪み部20a、20b)に囲まれた領域であり、本実施形態では平面視において菱形形状である。個々の区画領域22の面積は、例えば0.25cm2以上2cm2以下であることが好ましい。区画領域22は、平面視において縦方向Xよりも横方向Yに長い菱形形状とすることができる。あるいはこの逆に、横方向Yよりも縦方向Xに長い菱形形状とすることもできる。区画領域22が、ナプキン1の横方向Yに長い形状をしている場合には、窪み部20が多数形成されている表面シート2が、横方向Yに高い剛性を保持するようになり、これによりナプキン1の装着状態におけるヨレや皺が効果的に防止される。ナプキン1の装着状態におけるヨレや皺は、主として、着用者の両大腿部間に挟まれたナプキン1が、該大腿部によって横方向Yから押圧されることに起因するところ、表面シート2が横方向Yに高い剛性を保持している、即ち区画領域22が縦方向Xに比して横方向Yに長い形状を有していると、横方向Yから押圧されてもナプキン1の形状が維持されやすく、ヨレや皺が発生し難くなる。
各区画領域22には、該区画領域22を囲む窪み部20に対して相対的に隆起する凸部21が形成されており、各区画領域22は肌対向面2a側に頂部21aを備えた凸形状をなしている。凸部21の頂部21aは、区画領域22の中央部に位置している。凸部21は、その内部が表面シート2の構成繊維で満たされており、中実構造を有している。本発明では線状以外の窪み部を排除はしないが、良好な凸部21の形成という観点からは、線状の窪み部であることが好ましい。
このように、窪み部20と凸部21とが、表面シート2の縦方向X及び横方向Yそれぞれにおいて交互に配置されていることで、ナプキン1の着用者の肌との接触面積が低減して蒸れやかぶれが効果的に防止される。また、凸部21(区画領域22)が、窪み部20によって包囲され、平面視において閉じた形状をしていることにより、凸部21が窪み部20によって包囲されていない場合に比して、凸部21における構成繊維が表面シート2の厚み方向に向かって伸張しやすくなるため凸部21の厚みが増し、これにより、1)液が素早く透過し、且つ、液残りが少なく、表面シート2の肌との接触面積が減少する、2)凸部21が規則正しいパターンで形成されるため、視覚的な印象が良好となる、等の効果が奏される。
尚、凹凸構造の表面シートとしては前述した構造のものに代えて、中空の凸部を有する凹凸構造の表面シートであっても良い。しかし、経血の吸収という観点からは、前述した、中実の凸部を有する凹凸構造の表面シートであることが好ましい。また、凹凸構造の表面シートの他の一例として、縦方向又は横方向に延在する畝部(凸部)と溝部(凹部)とが、その延在方向と直交する方向に交互に配置されている形態のものが挙げられる。
尚、裏面シート3としては、生理用ナプキン等の吸収性物品に従来使用されている各種のもの等を特に制限なく用いることができ、透湿性の樹脂フィルムや非透湿性の樹脂フィルムを使用できる。
本実施形態においては、吸収性本体10はセカンドシート5を具備している。具体的には図2に示すように、表面シート2と吸収体4との間に液透過性のセカンドシート5が配されている。セカンドシート5は、本技術分野においてサブレイヤーシートなどとも呼ばれる吸収性物品の構成部材であり、表面シート2から吸収体4への液の透過性の向上、吸収体4に吸収された液の表面シート2への液戻りの低減などの役割を担う。本実施形態においては、セカンドシート5は吸収体4(本体吸収性シート42)の肌対向面の略全域を被覆している。セカンドシート5としては、親水性不織布や親水性の繊維集合体を用いることができ、不織布としては、エアスルー不織布、ポイントボンド不織布、レジンボンド不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布等が挙げられる。セカンドシート5の坪量は、好ましくは10g/m2、さらに好ましくは15g/m2以上、そして、好ましくは50g/m2以下、さらに好ましくは40g/m2以下である。また、セカンドシート5の厚みは、好ましくは0.1mm以上5mm以下である。尚、セカンドシート5は、その幅(横方向Yの長さ)が、吸収体4の幅(横方向Yの長さ)よりも短いことが好ましく、縦方向Xの長さは、吸収体4の縦方向Xの長さよりも長く、ナプキン1の縦方向Xの全長にわたって配されていることが好ましい。また、本実施形態においては、セカンドシート5は表面シート2及び/又は吸収体4とはストライプ状又はスパイラル状に設けられた接着剤等によって部分的に接合された接合部を有している。
吸収性本体10の肌対向面即ち表面シート2の肌対向面における縦方向Xに沿う両側部には、平面視において吸収体4の縦方向Xに沿う左右両側部に重なるように、一対のサイドシート6,6が吸収性本体10の縦方向Xの略全長にわたって配されている。一対のサイドシート6,6は、それぞれ縦方向Xに延びる接合線61にて、公知の接合手段によって表面シート2に接合されている。
ナプキン1は、吸収性本体10に加えてさらに、吸収性本体10における排泄部対向部Bの縦方向Xに沿う両側部それぞれから横方向Yの外方に延出する一対のウイング部10W,10Wを有している。
尚、本発明の生理用吸収性物品において、排泄部対向部Bは、本実施形態のナプキン1のようにウイング部10Wを有する場合には、吸収性物品の縦方向(吸収性物品の長手方向、図中のX方向)においてウイング部10Wを有する領域(一方のウイング部10Wの縦方向Xに沿う付け根と他方のウイング部10Wの縦方向Xに沿う付け根とに挟まれた領域)を意味する。ウイング部を有しない吸収性物品における排泄部対向部Bは、吸収性物品が3つ折りの個装形態に折り畳まれた際に生じる、該吸収性物品を横方向(吸収性物品の幅方向、図中のY方向)に横断する2本の折り曲げ線(図示せず)について、該吸収性物品の縦方向Xの前端から数えて第1折り曲げ線と第2折り曲げ線とに囲まれた領域を意味する。
サイドフラップ部10Sは、図1に示すように、排泄部対向部Bにおいて横方向Yの外方に向かって大きく張り出しており、これにより吸収性本体10の縦方向Xに沿う左右両側に、一対のウイング部10W,10Wが延設されている。ウイング部10Wは、図1に示す如き平面視において、下底(上底よりも長い辺)が吸収性本体10の側部側に位置する略台形形状を有しており、その非肌対向面には、ウイング部10Wをショーツ等の着衣に固定するウイング部粘着部(図示せず)が形成されている。ウイング部10Wは、ショーツ等の着衣のクロッチ部の非肌対向面(外面)側に折り返されて用いられる。前記ウイング部粘着部は、その使用前においてはフィルム、不織布、紙等からなる剥離シート(図
示せず)によって被覆される。
吸収体4について説明すると、吸収体4は高吸収性ポリマーを含有する。吸収体4に含有される高吸収性ポリマーとしては、一般に粒子状のものが用いられるが、繊維状のものでも良い。粒子状の高吸収性ポリマーを用いる場合、その形状は球状、塊状、俵状又は不定形のいずれでも良い。高吸収性ポリマーとしては、一般に、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合物又は共重合物を用いることができる。その例としては、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリメタクリル酸及びその塩が挙げられる。ポリアクリル酸塩やポリメタクリル酸塩としては、ナトリウム塩を好ましく用いることができる。また、アクリル酸又はメタクリル酸にマレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又はスチレンスルホン酸等のコモノマーを高吸収性ポリマーの性能を低下させない範囲で共重合させた共重合物も用いることができる。吸収体4における高吸収性ポリマーの含有量は、吸収体4の全質量に対して、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、そして、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
また、本実施形態における吸収体4は、高吸収性ポリマーに加えてさらに親水性繊維を含有する。吸収体4に含有される親水性繊維としては、疎水性の繊維を親水化処理したものと、それ自体が親水性であるものが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、それ自体が親水性で且つ保水性を有するものが好ましい。後者の親水性繊維としては、天然系の繊維、セルロース系の再生繊維又は半合成繊維が好ましい例として挙げられる。親水性繊維としては、特にパルプ、レーヨンが好ましく、パルプが一層好ましい。パルプには、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプなどの木材パルプの他に、木綿パルプ、藁パルプなどの非木材パルプなどがあるが、特に制限されない。また、セルロース繊維の分子内及び/又は分子間を架橋させた架橋セルロース繊維、木材パルプをマーセル化処理して得られるような嵩高性のセルロース繊維を用いても良い。
本実施形態における吸収体4は、親水性繊維及び高吸収性ポリマーを含有する吸収性シート41,42から形成されている。本発明において「吸収性シート」とは、高吸収性ポリマー、親水性繊維等の吸収性材料を含むシート状の吸収構造体を意味し、吸収性材料を積繊してなる積繊体とは区別される。一般に、吸収性シートは、吸収性材料の積繊体に比して厚みが薄く低剛性であるため、吸収性シートを備えた吸収性物品は柔軟で着用感に優れ、またコンパクトに折り畳めてハンドリング性にも優れる。斯かる吸収性シートの特長をより有効に活用し、液拡散性、液保持性を十分に備え装着感の良好な吸収性物品を得る観点から、吸収性シートの1枚あたりの無荷重下における厚みは、好ましくは0.1mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上、そして、好ましくは2mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下である。吸収性シートとしては例えば、特許第2963647号公報、特許第2955223号公報に記載のものを利用することができる。吸収性シートとして好ましいものを例示すると、湿潤状態の高吸収性ポリマーに生じる粘着力や別に添加した接着剤や接着性繊維等のバインダーを介して、構成繊維間や構成繊維と高吸収性ポリマーとの間を結合させてシート状としたものが挙げられる。
本実施形態における吸収体4は、図1及び図2に示すように、着用時に着用者の排泄部に対向配置される中央吸収性シート41と、中央吸収性シート41に重ねられ、図1に示す如き平面視において中央吸収性シート41の周縁の少なくとも一部から外方に延出する部分42Eを有する本体吸収性シート42とを含んで構成される積層構造を有し、吸収性材料の積繊体は含んでいない。ここでいう「中央吸収性シートの周縁」とは、中央吸収性シート41における、生理用吸収性物品たるナプキン1に組み込まれた状態における周縁
を意味し、中央吸収性シート41が図2に示す如く、折り畳まれた状態でナプキン1に組み込まれている場合は、その折り畳まれた状態での中央吸収性シート41の周縁を意味する。即ち、図2に示す形態における中央吸収性シート41は、後述するように、縦方向Xに延びる折り曲げ線にて横方向Yに折り畳まれているので、該シート41の周縁は、この折り曲げ線における該シート41の折り曲げ部からなる縦方向Xに延びる両側縁と、該シート41の横方向Yに延びる両端縁とからなる。また、本体吸収性シート42は、この中央吸収性シート41の縦方向Xに延びる左右両側縁(折り曲げ部)と横方向Yに延びる前後両端縁とからなる周縁の少なくとも一部から外方に延出していれば良く、本実施形態のナプキン1においては図1に示すように、中央吸収性シート41の周縁全体から外方に延出している。
中央吸収性シート41は、図1に示すように、排泄部対向部B、あるいは排泄部対向部B並びに前方部A及び後方部Cそれぞれの排泄部対向部B寄りの部分において、ナプキン1又は吸収性本体10の横方向Yの中央部に配されている。また中央吸収性シート41は、図2に示すように、該シート41自体を折り畳んでなる多層構造をなしている。この中央吸収性シート41の折り畳み多層構造は、1枚の平面視略矩形形状の該シート41が、該シート41を横方向Yに略三等分する位置を通って縦方向Xに延びる2本の折り曲げ線にて同一面側(肌対向面側)に折り曲げられて、いわゆる巻き三つ折り状態に形成されたものであり、該シート41の3層構造を有している。
また、本体吸収性シート42も、該シート42自体を折り畳んでなる多層構造をなしている。この本体吸収性シート42の折り畳み多層構造は、1枚の平面視略矩形形状の該シート42が、縦方向Xに延びる2本の折り曲げ線にて同一面側(非肌対向面側)に折り曲げられ、且つ該シート41の縦方向Xに沿う両端縁どうしが横方向Yの中央部で重ね合わされて形成されたものであり、その両端縁の重ね合わせ部は該シート42の3層構造、該重ね合わせ部以外の部分は該シート42の2層構造を有している。本体吸収性シート42の折り畳み多層構造は、吸収体4の外形を形成している。
本実施形態における吸収体4は、このような1枚の本体吸収性シート42の折り畳み構造の内部に、1枚の中央吸収性シート41の折り畳み構造が内包された構成を有し、この中央吸収性シート41の折り畳み構造が配された部位、即ち、排泄部対向部Bの横方向Yの中央部は、周辺部に比して厚みの厚い、いわゆる中高部となっている。
本発明の生理用吸収性物品の主たる特徴の1つとして、吸収性物品の構成部材に、血球凝集剤を含有する血球凝集剤含有部材が含まれ、且つ、該血球凝集剤含有部材、又は着用時に該血球凝集剤含有部材よりも着用者の肌に近い位置に配され且つ血球凝集剤を含有しない他の構成部材に、トリアシルグリセロールが含有されている点が挙げられる。つまり、本発明の生理用吸収性物品には、(A)血球凝集剤及びトリアシルグリセロールの双方を含有する構成部材を具備する形態、並びに(B)着用者の肌から近い順に、トリアシルグリセロールを含有する構成部材と、血球凝集剤を含有する構成部材とを具備する形態が含まれる。
一般に、高吸収性ポリマーによる水分の吸収速度や吸収量は、水分の種類によって異なり、生理食塩水と血液とを比較すると、生理食塩水よりも血液の方が吸収速度が遅く、また吸収量も少ない。この理由は以下の理由による。血液は血漿等の液体成分と赤血球等の非液体成分に大別されるところ、高吸収性ポリマーに吸収される成分は血漿等の液体成分である。図5(a)に示す通り、経血11が高吸収性ポリマー14に接触すると、経血11中の液体成分12のみが高吸収性ポリマー14に吸収され、非液体成分13である赤血球は高吸収性ポリマー14に吸収されない。高吸収性ポリマー14への液体成分12の吸収が進行すると、図5(b)に示す通り、高吸収性ポリマー14に吸収されない非液体成
分13が、高吸収性ポリマー14の表面に蓄積して被膜15を形成する。この被膜15の形成に起因して、高吸収性ポリマー14の液吸収阻害が生じ、吸収速度が低下する。また被膜15の形成に起因して、高吸収性ポリマー14の膨潤阻害も生じ、吸収量が低下する。
図5(b)に示す通りの現象が生じることを防止して、吸収性能の低下を阻止するための手段について本発明者が種々検討した結果、経血中の非液体成分の大半を占める成分である赤血球を、図4に示す通り凝集させて凝集塊16を生成させることが効果的であることが判明した。赤血球の凝集塊16を生成させることで、凝集塊16の被膜が生成しづらくなり、又は、凝集塊16によって図5(b)に示す如き被膜15が生成したとしても、その被膜15内に液体成分12が透過できる空間が残存するため、液体成分12の吸収阻害が起こりづらくなる。その結果、高吸収性ポリマー14は、吸収性能を十分に発揮することができる。ここで、吸収性能は、吸収量及び吸収速度を尺度として表される。吸収量は、吸収前の高吸収性ポリマー14の体積と、吸収後の高吸収性ポリマー14の体積との比、つまり後述する体積膨潤倍率として表すことができる。また、吸収速度は、高吸収性ポリマー14の体積膨潤倍率の経時における傾きとして表すことができる。
そして、本発明の生理用吸収性物品において、経血中に赤血球の凝集塊を生成させる役割を果たすのが血球凝集剤である。本発明者の知見によれば、血球凝集剤としてはカチオン性ポリマーが有用であり、その理由は次の通りである。赤血球はその表面に赤血球膜を有する。赤血球膜は、2層構造を有している。この2層構造は、下層である赤血球膜骨格と上層である脂質皮膜からなる。赤血球の表面に露出している脂質皮膜には、グリコホリンと呼ばれるタンパク質が含まれている。グリコホリンはその末端にシアル酸と呼ばれるアニオン電荷を帯びた糖が結合した糖鎖を有している。その結果、赤血球はアニオン電荷を帯びたコロイド粒子として扱うことができる。コロイド粒子の凝集には一般に凝集剤が用いられる。赤血球がアニオン性のコロイド粒子であることを考慮すると、凝集剤としてはカチオン性の物質を用いることが、赤血球の電気二重層を中和する点から有利である。また凝集剤が高分子鎖を有していると、赤血球の表面に吸着した凝集剤の高分子鎖どうしの絡み合いが生じやすくなり、そのことに起因して赤血球の凝集が促進される。さらに、凝集剤が官能基を有している場合には、該官能基間の相互作用によっても赤血球の凝集が促進されるので好ましい。血球凝集剤(カチオン性ポリマー)によれば、以上の作用機序によって経血中に赤血球の凝集塊を生成することが可能になる。
一方、本発明の生理用吸収性物品において血球凝集剤と併用されるトリアシルグリセロールは、本発明者の知見によれば、経血の分散性、特に、高吸収性ポリマーに吸収されない経血中の赤血球等の非液体成分の分散性を高める機能を有する。従って、生理用吸収性物品において血球凝集剤とトリアシルグリセロールとを併用することで、主として血球凝集剤の作用により、経血が血漿等の液体成分と赤血球等の非液体成分とに分離されると共に、主としてトリアシルグリセロールの作用により、経血特に経血中の非液体成分(高吸収性ポリマー非吸収成分)の分散性が向上し、このような経血の他成分への分離・分散作用の発現により、経血の吸収性能が向上し、排泄された経血を速やかに吸収することが可能となる。
特に、血球凝集剤及びトリアシルグリセロールが前記(A)の形態で含有されている場合、即ち吸収性物品の一構成部材(例えば吸収体4)に血球凝集剤及びトリアシルグリセロールの双方が含有されている場合において、斯かる血球凝集剤含有部材に経血が接触すると、該部材において、血球凝集剤による経血の血漿等の液体成分と赤血球等の非液体成分とへの分離作用と、トリアシルグリセロールによる該非液体成分の分散作用が略同時に起こると推察される。
また、血球凝集剤及びトリアシルグリセロールが前記(B)の形態で含有されている場合、即ち血球凝集剤を含有せずにトリアシルグリセロールを含有する構成部材(例えば表面シート2又はセカンドシート5)の非肌対向面側に、前記血球凝集剤含有部材(例えば吸収体4)が配置されている場合においては、まず、トリアシルグリセロールを含有する構成部材に経血が接触し、その際に血液の面方向への拡散が促進されつつ、前記血球凝集剤含有部材よりも非肌対向面側に位置する構成部材へと経血が移行する。次いで前記血球凝集剤含有部材では、その経血が前記血球凝集剤含有部材と広範囲で接触することとなり、前記血球凝集剤含有部材の有効活用に繋がる。そして、前記血球凝集剤含有部材の広い範囲で生じる血球凝集剤の作用により、血漿等の液体成分と赤血球等の非液体成分との分離・分散が促進され、結果として経血の吸収性能の向上に繋がると考えられる。
また、血漿等の液体成分と赤血球等の非液体成分とでは流動性が異なり、前者の方が流動性が高いため、血球凝集剤及びトリアシルグリセロールの作用によって経血が液体成分と非液体成分とに分離・分散されると、流動性の高い該液体成分は、流動性の低い該非液体成分に優先して、生理用吸収性物品を厚み方向に透過すると共に面方向に拡散される。これにより、本発明の生理用吸収性物品における経血の吸収部は、肌対向面側(例えば表面シート2側)の方が非肌対向面側(例えば裏面シート3側)に比して面積が小さくなり、また経血に起因する色が薄くなり得る。従って、本発明の生理用吸収性物品の着用者がその使用後に該吸収性物品の表面シート側を目視したとき場合には、着用者に経血の吸収部の大きさについて比較的小さい印象を与えることができるため、漏れに対する不安感や視覚的な不快感を与え難い。つまり本発明の生理用吸収性物品は、使用後の見た目の安心感が高い。斯かる作用効果は、前記(A)及び(B)の形態の何れにおいても奏される。
本発明の生理用吸収性物品において、前記血球凝集剤含有部材として典型的なものは吸収体である。図1及び図2に示すナプキン1であれば、吸収性シート41,42からなる吸収体4に血球凝集剤が含有されている形態が典型的な形態である。
前記血球凝集剤含有部材における血球凝集剤の存在位置は特に制限されず、血球凝集剤は前記血球凝集剤含有部材全体に均一に存在していても良く、あるいは前記血球凝集剤含有部材の一部に偏在していても良いが、血球凝集剤による前述した作用効果を考慮すると、前記血球凝集剤含有部材の厚み方向については、着用者の肌から最も近い部位である肌対向面側表層部に偏在していることが好ましい。尚、血球凝集剤が前記血球凝集剤含有部材の肌対向面側表層部に偏在している場合には、その反対側である非肌対向面側表層部には血球凝集剤は実質的に含有されていなくても良い。ここでいう「血球凝集剤含有部材の肌対向面側表層部」とは、血球凝集剤含有部材(例えば吸収体4)の肌対向面から厚み方向に該部材の最大厚みの50%以内の領域を意味する。
例えば図1及び図2に示すナプキン1において、前記血球凝集剤含有部材が吸収性シート41,42の積層構造たる吸収体4である場合に、前記の「血球凝集剤が肌対向面側表層部に偏在している形態」の一例としては、折り畳み2層構造の本体吸収性シート42における表面シート2から相対的に近い方の1層、即ち該積層構造における肌対向面側の最外層のみに血球凝集剤が含有され、他の層には血球凝集剤が含有されていないか、又は該肌対向面側の最外層よりも血球凝集剤の含有量が少ない形態が挙げられる。
また、前記血球凝集剤含有部材の面方向における血球凝集剤の存在位置についても特に制限されず、例えば図1及び図2に示すナプキン1において、前記血球凝集剤含有部材が吸収体4である場合には、血球凝集剤は吸収体4の肌対向面の全域に均一に存在していても良く、あるいは吸収体4の肌対向面の一部にのみ偏在していても良い。また、吸収体4の肌対向面側表層部に後述する吸収体スリット43を形成する場合には、その吸収体スリット43の形成位置にのみ選択的に血球凝集剤が存在していても良い。尤も、血球凝集剤
の役割を考慮すると、血球凝集剤は少なくとも経血等の排泄液が集中する排泄部対向部Bに存在していることが好ましい。
ところで、本実施形態においては、図1及び図2に示すように、吸収体4の肌対向面側表層部に、縦方向Xに延びる吸収体スリット43が形成されている。吸収体スリット43は、吸収体4に形成された切れ目であり、吸収体スリット43の形成位置においては吸収体4の形成材料が切断され又は複数の形成材料が他の部位よりも相互に離れて分離されている。吸収体4にこのような吸収体スリット43が形成されていることにより、表面シート2及びセカンドシート5を順次透過して吸収体4の肌対向面に到達した経血等の排泄液が、吸収体スリット43に沿って縦方向Xに拡散され易くなると共に、吸収体4の厚み方向に浸透し易くなる。そして、斯かる吸収体スリット43による作用効果と、前述した血球凝集剤及びトリアシルグリセロールによる作用効果とが相俟って、本発明の所定の効果がより一層確実に奏され得る。
吸収体4には、排泄部対向部Bを中心に、吸収体スリット43が多数散在しているところ、各スリット43について前記作用効果が期待できる。これら多数の吸収体スリット43は、図1に示すように千鳥状に形成されている。即ち、吸収体4の肌対向面側表層部においては、複数の吸収体スリット43が横方向Yに所定間隔を置いて直線的に列状に配置されてなるスリット列が、縦方向Xに複数列配置され、且つ横方向Yにおいて、隣在する該スリット列どうしで互いに吸収体スリット43がずれている。
本実施形態における吸収体4は前述した通り、中央吸収性シート41と本体吸収性シート42とを含んで構成される積層構造を有しているところ、吸収体スリット43は、該積層構造の少なくとも1層を厚み方向に貫通している。斯かる構成により、吸収体4の全体を経血の吸収に有効に活用することが可能となる。特に、ナプキン1の肌対向面に周知技術である防漏溝、即ち表面シート2、セカンドシート5及び吸収体4が一体的に凹陥してなる平面視線状の高密度部(図示せず)が形成されている場合、該防漏溝の外方に経血等の排泄液が移行し難いため、吸収体4における該防漏溝の外方に位置する部分は、液吸収に活用され難い傾向があるところ、吸収体スリット43が前記積層構造の少なくとも1層を厚み方向に貫通していることにより、斯かる不都合が解消され得る。尚、防漏溝の平面視形状としては、排泄部対向部Bにおいて、横方向Yの外方へ向けて凸となる曲線形状を有するもの又は横方向Yの内側へ向けて凸となる曲線形状を有するものが好ましい。
また、吸収性シート41,42の積層構造に吸収体スリット43が形成されている場合、前述した吸収体スリット43による作用効果をより確実に奏させるようにする観点から、該吸収体スリット43は、少なくとも該積層構造における肌対向面側の最表層を厚み方向に貫通していることが好ましい。図1及び図2に示すナプキン1の吸収体4においては、前述した折り畳み2層構造の本体吸収性シート42における表面シート2から相対的に近い方の1層が、この「吸収性シートの積層構造における肌対向面側の最表層」に該当するので、吸収体スリット43は少なくともこの本体吸収性シート42の1層を厚み方向に貫通することが好ましい。
吸収性シート41,42の積層構造たる吸収体4においては、図2に示すように、吸収体スリット43は、吸収体4全体を厚み方向に貫通してはいないが、肌対向面から非肌対向面にかけて吸収体4の厚み方向の略全長にわたって形成されている。吸収体スリット43は吸収体4全体を厚み方向に貫通していても良い。また、図示の如く吸収体スリット43が複数形成されている場合に、複数の吸収体スリット43の深さは互いに同じでも良く、異なっていても構わない。
また、吸収体4が本実施形態の如き吸収性シートの積層構造から構成されていると、吸
収体4が吸収性材料を積繊してなる積繊体から構成されている場合に比して、該積層構造における層間においても経血等の排泄液が拡散し得るため、吸収体4の有効利用がより一層図られる。
また本実施形態においては、図2に示すように、吸収体スリット43は、相対的に着用者の肌に近い部位の方が、相対的に着用者の肌から遠い部位に比して幅が広い(即ち横方向Yの長さが長い)。図2に示す形態における吸収体スリット43は、吸収体4の肌対向面側から非肌対向面側に向かうに従って幅が漸次減少しており、吸収体4の肌対向面側の開口端部が最も幅広である。吸収体スリット43がこのように形成されていることにより、表面シート2及びセカンドシート5を順次透過して吸収体4の肌対向面に到達した経血を、速やかに吸収体4の非肌対向面側に透過させることが可能となり、これにより、肌対向面側における経血の面方向の拡散を抑制しつつ、非肌対向面側で経血を面方向に拡散させることができ、使用後の見た目の安心感が一層向上し得る。
図1及び図2に示す如き、吸収体スリット43が形成された吸収体4の肌対向面側表層部に血球凝集剤が含有されている場合、少なくとも吸収体スリット43の形成位置に血球凝集剤が存在していることが好ましい。ここでいう「吸収体スリットの形成位置」とは、吸収体4における、空間部である吸収体スリット43を画成する部分を意味し、より具体的には、吸収体スリット43から20mm以内の領域を意味する。吸収体スリット43の形成位置に血球凝集剤が存在することにより、前述した両者の機能が相乗的に作用し、経血の吸収性能がより一層効果的に向上し得る。
吸収体スリット43の形成は、公知の切断手段を用いて常法に従って行うことができる。例えば、吸収性シート41,42の積層構造たる吸収体4に吸収体スリット43を形成する場合には、切断手段として、カッターロールと該カッターロールの切断刃を受けるアンビルロールとを備えた切断装置を用いることができる。このカッターロールの周面には、該ロールの周方向に延びる切断刃が、該ロールの軸長方向に間欠配置されているところ、斯かる切断刃の配置パターンは、吸収体4における吸収体スリット43の配置パターンに対応する。
吸収体スリット43による前述した作用効果をより確実に奏させるようにする観点から吸収体スリット43の寸法等は下記のように設定することが好ましい。
吸収体4の肌対向面側の平面視において、吸収体スリット43の幅(横方向Yの長さ)は、好ましくは0.1mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上、そして、好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下である。
吸収体4の肌対向面側の平面視において、吸収体スリット43の縦方向Xの長さは、好ましくは10mm以上、さらに好ましくは15mm以上、そして、好ましくは35mm以下、さらに好ましくは25mm以下である。
横方向Yにおいて隣り合う吸収体スリット43,43の間隔は、好ましくは3mm以上、さらに好ましくは7mm以上、そして、好ましくは20mm以下、さらに好ましくは15mm以下である。
吸収体スリット43の単位面積当たりの数は、該単位面積を一辺5cmの平面視正方形形状の領域の面積とした場合に、好ましくは5本以上、さらに好ましくは10本以上、そして、好ましくは25本以下、さらに好ましくは20本以下である。
本実施形態においては、図1及び図2に示すように、表面シート2に、該表面シート2を厚み方向に貫通して縦方向Xに延びる表面材スリット23が形成されている。さらにはセカンドシート5にも、該セカンドシート5を厚み方向に貫通して縦方向Xに延びるスリットが形成されている。そして、表面材スリット23、セカンドシート5のスリット及び吸収体スリット43は平面視において互いに同位置に形成されており、これら各スリット
が一体となって、表面シート2の肌対向面に開口端部を有する1個のスリットを形成している。このようなスリットは、例えば、表面シート2、セカンドシート5及び吸収体4が積層された状態で、スリット形成手段としてのカッター刃などの切断手段を、表面シート2側から裏面シート3側に向けて押し込むことで形成することができる。表面材スリット23が形成されていることで、経血等の排泄液の吸収性能がより一層向上し得る。尚、表面材スリット23、セカンドシート5のスリット及び吸収体スリット43は、図2に示すように平面視において同位置に形成されていなくても良く、相互に位置がずれていても良い。
本発明の生理用吸収性物品における血球凝集剤の存在位置については前述した通りである。即ち本発明の生理用吸収性物品において、前記血球凝集剤含有部材は典型的には吸収体であり、また血球凝集剤は、吸収体の肌対向面側表層部に存在することが好ましく、吸収体の肌対向面側表層部に偏在することがさらに好ましい。前記血球凝集剤含有部材(例えば吸収体4)における血球凝集剤の含有量は、好ましくは0.1g/m2以上、さらに
好ましくは0.5g/m2以上、より好ましくは1.5g/m2以上、そして、好ましくは25g/m2以下、さらに好ましくは15g/m2以下、より好ましくは10g/m2以下
である。
一方、本発明の生理用吸収性物品におけるトリアシルグリセロールの存在位置については、前述した通り、吸収体に代表される前記血球凝集剤含有部材であっても良く、あるいは着用時に前記血球凝集剤含有部材よりも着用者の肌に近い位置に配され且つ血球凝集剤を含有しない他の構成部材であっても良い。この他の構成部材、即ち血球凝集剤を含有せずにトリアシルグリセロールを含有する吸収性物品の構成部材は、図1及び図2に示すナプキン1においては、表面シート2及び/又はセカンドシート5である。特に、セカンドシート5にトリアシルグリセロールが含有されていると、セカンドシート5による排泄液の透過が速やかになされるようになると共に、セカンドシート5が排泄液を一時的に貯蔵し得る貯蔵層として機能し得るようになるため、一度に多量の排泄液が排泄されても、セカンドシート5における排泄液の面方向への拡散が効果的に抑制され、排泄液が速やかに吸収体4に到達し得る。
前記他の構成部材(例えばセカンドシート5)におけるトリアシルグリセロールの含有量は、好ましくは0.5g/m2以上、さらに好ましくは3g/m2以上、より好ましくは5g/m2以上、そして、好ましくは20g/m2以下、さらに好ましくは15g/m2以
下、より好ましくは10g/m2以下である。
また、吸収体に血球凝集剤及びトリアシルグリセロールの双方が含有されている場合、トリアシルグリセロールの存在位置は、該血球凝集剤の存在位置にかかわらず任意に選択することができ、例えば、吸収体全体に均一に存在していても良く、あるいは吸収体の一部に偏在していても良いが、トリアシルグリセロールによる前述した作用効果を考慮すると、血球凝集剤と同様に、吸収体において着用者の肌から最も近い部位である肌対向面側表層部に存在することが好ましく、該肌対向面側表層部に偏在することがさらに好ましい。
例えば図1及び図2に示すナプキン1において、吸収体4の肌対向面側表層部に血球凝集剤及びトリアシルグリセロールの双方が存在、より具体的には偏在していると、まず、該肌対向面側表層部にて血球凝集剤による経血の血漿等の液体成分と赤血球等の非液体成分とへの分離作用と、トリアシルグリセロールによる該非液体成分の分散作用が略同時に起こると推察されるが、該肌対向面側表層部では斯かる経血の分離は十分には行われず、厚み方向の液透過が面方向への液拡散に優先して行われるため、該肌対向面側表層部における経血の面方向への拡散は比較的小さいものとなる。そして、経血が吸収体4を厚み方
向に透過してその非肌対向面側表層部に到達すると、該非肌対向面側表層部では、肌対向面側表層部とは逆に、面方向への液拡散が厚み方向の液透過に優先して行われるため、経血において比較的流動性の高い血漿等の液体成分が、比較的流動性の低い赤血球等の非液体成分に優先して、面方向に拡散される。これにより吸収体4における経血の吸収部は、肌対向面側の方が非肌対向面側に比して面積が小さくなり、また経血に起因する色が薄くなり得るため、該経血の吸収部を見た者に対して、ナプキン1の使用後の見た目の安心感を与えることが可能となる。
本発明者の知見によれば、吸収体の肌対向面側表層部に血球凝集剤及びトリアシルグリセロールの双方が含有されている場合、トリアシルグリセロールの方が血球凝集剤よりも単位面積当たりの含有量が多い方が、経血の吸収性能の向上により効果的である。吸収体の肌対向面側表層部において、トリアシルグリセロールの単位面積当たりの含有量と血球凝集剤のそれとの差は、(トリアシルグリセロールの単位面積当たりの含有量)−(血球凝集剤の単位面積当たりの含有量)として、好ましくは3g/m2、さらに好ましくは8
g/m2である。
血球凝集剤及び/又はトリアシルグリセロールを生理用吸収性物品の構成部材に含有させる方法は特に制限されず、これらが含有される構成部材の種類、これらの構成部材における存在位置などに応じて、塗布、噴霧又は浸漬などの公知の液状物付与方法を適宜利用することができる。例えば血球凝集剤の場合、これを適当な溶媒に溶解又は分散させた血球凝集剤含有液を調製し、該血球凝集剤含有液を吸収性物品の所望の構成部材に塗布、噴霧又は浸漬する方法が挙げられる。
以下、本発明で用いる血球凝集剤について説明する。本発明で用いる血球凝集剤とは、血液中の赤血球を凝集させ、血球が凝集した凝集塊と血漿成分が分離されるよう作用するものである。
望ましい血球凝集剤としては、例えば以下の性質を有するものが挙げられる。
即ち、擬似血液に、測定サンプル剤を1000ppm添加した際に、血液の流動性が維持された状態で、少なくとも2個以上の赤血球が凝集して凝集塊を形成するものである。
前記擬似血液は、B型粘度計(東機産業株式会社製 型番TVB−10M、測定条件:ローターNo.19、30rpm、25℃、60秒間)を用いて測定した粘度が8mPa・sになるように、脱繊維馬血(株式会社日本バイオテスト研究所製)の血球・血漿比率を調製したものである。
ここで、「血液の流動性が維持された状態」とは、測定サンプル剤が1000ppm添加された前記擬似血液10gをスクリュー管瓶(マルエム社製 品番「スクリュー管No.4」,口内径14.5mm,胴径27mm,全長55mm)に入れ、該擬似血液を入れたスクリュー管瓶を180度反転した際に、20秒以内で60%以上の体積の該擬似経血が流れ落ちる状態を意味する。
また、「2個以上の赤血球が凝集して凝集塊を形成」しているか否かは、次のようにして判断される。即ち、測定サンプル剤が1000ppm添加された前記擬似血液を、生理食塩水で4000倍に希釈し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA社製 型番:LA−950V2,測定条件:フロー式セル測定,循環速度1,超音波なし)を用いたレーザー回折散乱法によって、温度25℃にて測定した体積粒径平均のメジアン径が、2個以上の赤血球が凝集した凝集塊のサイズに相当する10μm以上である場合に、「2個以上の赤血球が凝集して凝集塊を形成」を形成していると判断する。
本発明で用いる血球凝集剤は、前記定義に当てはまる化合物又はその組み合わせ、さらには化合物の組み合わせによって前記定義を満たす(赤血球の凝集を発現し得る)剤であ
る。つまり、血球凝集剤とは、あくまで前記定義によるところの血球凝集作用があるものに限定した剤のことである。従って、血球凝集剤に、前記定義に当てはまらない第三成分を含む場合には、それを血球凝集剤組成物と表現し、血球凝集剤と区別する。
本発明で用いる血球凝集剤としては、カチオン性ポリマーが好適である。カチオン性ポリマーとしては、例えばカチオン化セルロースや、塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプン等のカチオン化デンプンなどが挙げられる。また、本発明で用いる血球凝集剤は、カチオン性ポリマーとして、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物又は第4級アンモニウム塩重縮合物を含むこともできる。本発明において「第4級アンモニウム塩」とは、窒素原子の位置にプラス一価の電荷を有している化合物、又は中和によって窒素原子の位置にプラス一価の電荷を生じさせる化合物を包含し、その具体例としては、第4級アンモニウムカチオンの塩、第3級アミンの中和塩、及び水溶液中でカチオンを帯びる第3級アミンが挙げられる。以下に述べる「第4級アンモニウム部位」も同様の意味で用いられ、水中で正に帯電する部位である。また、本発明において「共重合物」とは、2種以上の重合性単量体の共重合によって得られた重合物のことであり、二元系共重合物及び三元系以上の共重合物の双方を包含する。本発明において「重縮合物」とは、2種以上の単量体からなる縮合物を重合することで得られた重縮合物である。
本発明で用いる血球凝集剤が、カチオン性ポリマーとして、第4級アンモニウム塩ホモポリマー及び/又は第4級アンモニウム塩共重合物及び/又は第4級アンモニウム塩重縮合物を含む場合、該血球凝集剤は、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物及び第4級アンモニウム塩重縮合物のうちのいずれか1種を含んでいても良く、あるいは任意の2種以上の組み合わせを含んでいても良い。また第4級アンモニウム塩ホモポリマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。同様に、第4級アンモニウム塩共重合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに同様に、第4級アンモニウム塩重縮合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
前述した各種のカチオン性ポリマーのうち、特に、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物又は第4級アンモニウム塩重縮合物を用いることが、赤血球への吸着性の点から好ましい。以下の説明においては、簡便のため、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物及び第4級アンモニウム塩重縮合物を総称して「第4級アンモニウム塩ポリマー」と言う。
第4級アンモニウム塩ホモポリマーは、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を1種用い、これを重合することで得られたものである。一方、第4級アンモニウム塩共重合物は、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を少なくとも1種用い、必要に応じ第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体を少なくとも1種用い、これらを共重合することで得られたものである。即ち第4級アンモニウム塩共重合物は、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を2種以上用い、これらを共重合させて得られたものであるか、又は第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を1種以上と、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体を1種以上用い、これらを共重合させて得られたものである。第4級アンモニウム塩共重合物は、ランダム共重合物でも良く、交互共重合物でも良く、ブロック共重合物でも良く、あるいはグラフト共重合物でも良い。第4級アンモニウム塩重縮合物は、第4級アンモニウム部位を有する単量体1種以上からなる縮合物を用い、それら縮合物を重合することで得られたものである。即ち第4級アンモニウム塩重縮合物は、第4級アンモニウム部位を有する単量体2種以上の縮合物を用い、これを重合させて得られたものであるか、又は、第4級アンモニウム部位を有する単量体1種以上と、第4級アンモニウム部位を有さない単量体1種以上からなる縮合物を用い、これを縮重合させて得られたものである。
第4級アンモニウム塩ポリマーは、第4級アンモニウム部位を有するカチオン性のポリマーである。第4級アンモニウム部位は、アルキル化剤を用いた第3級アミンの第4級アンモニウム化によって生成させることができる。あるいは第3級アミンを酸若しくは水に溶解させ、中和で生じさせることができる。あるいは縮合反応を含む求核反応による第4級アンモニウム化によって生成させることができる。アルキル化剤としては、例えばハロゲン化アルキルや、硫酸ジメチル及び硫酸ジメチルなどの硫酸ジアルキルが挙げられる。これらのアルキル化剤のうち、硫酸ジアルキルを用いると、ハロゲン化アルキルを用いた場合に起こり得る腐食の問題が生じないので好ましい。酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸、リン酸、フルオロスルホン酸、ホウ酸、クロム酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、グルコン酸、ギ酸、アスコルビン酸、ヒアルロン酸などが挙げられる。特に、アルキル化剤によって第3級アミン部位を第4級アンモニウム化した第4級アンモニウム塩ポリマーを用いると、赤血球の電気二重層を確実に中和できるので好ましい。縮合反応を含む求核反応による第4級アンモニウム化は、ジメチルアミンとエピクロルヒドリンの開環重縮合反応、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンの環化反応のようにして生じさせることができる。
赤血球の凝集塊を効果的に生成させる観点から、カチオン性ポリマーは、その分子量が2000以上であることが好ましく、1万以上であることがさらに好ましく、3万以上であることが一層好ましい。カチオン性ポリマーの分子量がこれらの値以上であることによって、赤血球間でのカチオン性ポリマーどうしの絡み合いや、赤血球間でのカチオン性ポリマーの架橋が十分に生じる。分子量の上限値は1000万以下であることが好ましく、500万以下であることがさらに好ましく、300万以下であることが一層好ましい。カチオン性ポリマーの分子量がこれらの値以下であることによって、カチオン性ポリマーが経血中へ良好に溶解する。カチオン性ポリマーの分子量は、2000以上1000万以下であることが好ましく、2000以上500万以下であることがさらに好ましく、2000以上300万以下であることが一層好ましく、1万以上300万以下であることがさらに一層好ましく、3万以上300万以下であることが特に好ましい。本発明に言う分子量とは、重量平均分子量のことである。また、前述の分子量範囲内で、異なる分子量のカチオン性ポリマーを2種以上組み合わせても良い。カチオン性ポリマーの分子量は、その重合条件を適切に選択することで制御することができる。カチオン性ポリマーの分子量は、東ソー株式会社製のHLC−8320GPCを用いて測定することができる。具体的な測定条件は次の通りである。
カラムとしては、東ソー株式会社製のガードカラムαと分析カラムα−Mを直列でつないだものを、カラム温度:40℃で用いる。検出器は、RI(屈折率)を用いる。測定サンプルとしては、溶離液1mLに対して1mgの測定対象の処理剤(第4級アンモニウム塩ポリマー)を溶解させる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体は、水に150mmol/Lの硫酸ナトリウムと1質量%の酢酸を溶解させた溶離液を用いる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体は、溶離液10mLに対して、分子量5900のプルラン、分子量47300のプルラン、分子量21.2万のプルラン、分子量78.8万のプルラン、各2.5mg溶解させたプルラン混合物を、分子量標準として用いる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体は流速:1.0mL/min、注入量:100μLで測定する。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体以外は、エタノール:水=3:7(体積比)に50mmol/Lの臭化リチウムと1質量%の酢酸を溶解させた溶離液を用いる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体以外は、溶離液20mLに対して、分子量106のポリエチレングリコール(PEG)、分子量400のPEG、分子量1470のPEG、分子量6450のPEG、分子量5万のポリエチレンオキシド(PEO)、分子量23.5万の
PEO、分子量87.5万のPEO、各10mg溶解させたPEG−PEO混合物を、分子量標準として用いる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体以外は流速:0.6mL/min、注入量:100μLで測定する。
赤血球の凝集塊を一層効果的に生成させる観点から、カチオン性ポリマーとして第4級アンモニウム塩ポリマーを用いる場合、該第4級アンモニウム塩ポリマーは、その流動電位が1500μeq/L以上であることが好ましく、2000μeq/L以上であることがさらに好ましく、3000μeq/L以上であることが一層好ましく、4000μeq/L以上であることがさらに一層好ましい。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位がこれらの値以上であることによって、赤血球の電気二重層を十分に中和することができる。流動電位の上限値は13000μeq/L以下であることが好ましく、8000μeq/L以下であることがさらに好ましく、6000μeq/L以下であることが一層好ましい。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位がこれらの値以下であることによって、赤血球に吸着した第4級アンモニウム塩ポリマーどうしの電気的反発を効果的に防止することができる。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位は、1500μeq/L以上13000μeq/L以下であることが好ましく、2000μeq/L以上13000μeq/L以下であることがさらに好ましく、3000μeq/L以上8000μeq/L以下であることが一層好ましく、4000μeq/L以上6000μeq/L以下であることがさらに一層好ましい。
第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位は、例えば構成しているカチオン性モノマー自体の分子量、共重合体を構成しているカチオン性モノマーとアニオン性モノマー又はノニオン性モノマーの共重合モル比を調整することで制御することができる。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位は、スペクトリス株式会社製の流動電位測定器(PCD04)を用いて測定することができる。具体的な測定条件は次の通りである。まず市販のナプキンに対して、ドライヤーなどを用いて各部材を接着しているホットメルトを無効化し、表面シート、吸収体、裏面シートなどの部材に分解する。分解した各部材に対して、非極性溶媒から極性溶媒までの多段階溶媒抽出法を行い、各部材に用いられている処理剤を分離し、単一の組成物を含んだ溶液を得る。得られた溶液を乾燥・固化させ、1H−NMR(核磁気共鳴法)、IR(赤外分光法)、LC(液体クロマトグラフィ)、GC(ガスクロマトグラフィ)、MS(質量分析法)、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)、蛍光X線などを複合して、処理剤の構造を同定する。測定対象の処理剤(第4級アンモニウム塩ポリマー)0.001gを生理食塩水10gに溶解させた測定サンプルに対して、0.001Nのポリエチレンスルホン酸ナトリウム水溶液(測定サンプルが負電荷を有する場合は、0.001Nのポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液)を滴定し、電極間の電位差がなくなるまでに要した滴定量XmLを測定する。その後、下記式1により第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位を算出する。
流動電位 = (X+0.190※)×1000 ・・・ 式1
(※ 溶媒の生理食塩水に要した滴定量)
カチオン性ポリマーが、赤血球の表面に首尾よく吸着するためには、該カチオン性ポリマーが、赤血球の表面に存在しているシアル酸と相互作用しやすいことが有利である。この観点から本発明者が検討を推し進めたところ、物質の無機性値と有機性値との比率である無機性値/有機性値の値(以下「IOB(Inorganic Organic Balance)値」という。)を尺度として、シアル酸結合物とカチオン性ポリマーとの相互作用の程度を評価できることが判明した。詳細には、カチオン性ポリマーとして、シアル酸結合物のIOB値と同じか、それに近似した値のIOB値を有するものを用いることが有利であることが判明した。シアル酸結合物とは、生体内でシアル酸が存在し得る形態となっている化合物のことであり、例えばガラクト脂質などの糖脂質の末端にシアル酸が結合している化合物などが挙げられる。
一般に、物質の性状は、分子間の各種分子間力に大きく支配され、この分子間力は主に分子質量によるVan Der Waals力と、分子の極性による電気的親和力からなっている。物
質の性質の変化に対して大きな影響を与えるVan Der Waals力と、電気的親和力のそれぞ
れを個別に把握することができれば、その組み合わせから未知の物質、あるいはそれらの混合物についてもその性状を予測することができる。この考え方は、「有機概念図論」として良く知られている理論である。有機概念図論は、例えば藤田穆著の「有機分析」(カニヤ書店、昭和5年)、藤田穆著の「有機定性分析:系統的.純粋物編」(共立出版、1953年)、藤田穆著の「改編 化学実験学−有機化学編」(河出書房、1971年)、
藤田穆・赤塚政実著の「系統的有機定性分析(混合物編)」(風間書房、1974年)、及び甲田善生・佐藤四郎・本間善夫著の「新版 有機概念図 基礎と応用」(三共出版、2008年)等に詳述されている。有機概念図論では、物質の物理化学的物性について、主にVan Der Waals力による物性の程度を「有機性」と呼び、また主に電気的親和力による
物性の程度を「無機性」と呼び、物質の物性を「有機性」と「無機性」の組み合わせでとらえている。そして、炭素(C)1個を有機性20と定義し、それに対して各種極性基の無機性及び有機性の値を、以下の表1に記載のとおり定め、無機性値の和と有機性値の和を求め、両者の比をIOB値と定義している。本発明においては、これらの有機性値及び無機性値に基づき、上述したシアル酸結合物のIOB値を決定し、その値に基づきカチオン性ポリマーのIOB値を決定する。
具体的には、カチオン性ポリマーがホモポリマーである場合、該ホモポリマーの繰り返し単位に基づき無機性値及び有機性値を決定し、IOB値を算出する。例えば後述する実施例1で用いているカチオン性ポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(日本ルーブリゾール社製の商品名「マーコート106」)の場合、−C−×8=160の有機性値と、Ammo and NH4 salt×1=400の無機性値と、Ring(non-aromatic single ring)×1=10の無機性値と、−Cl×1=40の有機性値及び10の無機性値
とを有することから、無機性値の合計は400+10+10=420となり、有機性値の合計は160+40=200となる。したがってIOB値は420/200=2.10となる。
一方、カチオン性ポリマーが共重合物である場合には、共重合に用いられるモノマーのモル比に応じて以下の手順でIOB値を算出する。すなわち、共重合物がモノマーAとモノマーBとから得られ、モノマーAの有機性値がORAで、無機性値がINAであり、モノマーBの有機性値がORBで、無機性値がINBであり、モノマーA/モノマーBのモル比がMA/MBである場合、共重合物のIOB値は以下の式から算出される。
このようにして決定されたカチオン性ポリマーのIOB値は、0.6以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましく、2.1以上であることがさらに好ましく、2.2以上であることが一層好ましい。また、カチオン性ポリマーのIOB値は、4.6以下であることが好ましく、3.6以下であることがさらに好ましく、3.0以下であることが一層好ましい。具体的には、カチオン性ポリマーのIOB値は、0.6以上4.6以下であることが好ましく、1.8以上3.6以下であることがより好ましく、2.1以上3.6以下であることがさらに好ましく、2.2以上3.0以下であることが一層好ましい。なお、シアル酸のIOB値は、シアル酸単体で4.25であり、シアル酸結合体で3.89である。前記シアル酸結合物とは、糖脂質における糖鎖とシアル酸が結合したものであり、シアル酸結合体は、シアル酸単体よりも有機性値の割合が高くなり、IOB値は低くなる。
カチオン性ポリマーのIOB値は前述の通りであるところ、有機性値そのものは40以上であることが好ましく、100以上であることがさらに好ましく、130以上であることが一層好ましい。また、310以下であることが好ましく、250以下であることがより好ましく、240以下であることがさらに好ましく、190以下であることが一層好ましい。例えば有機性値は、40以上310以下であることが好ましく、40以上250以下であることがより好ましく、100以上240以下であることがさらに好ましく、130以上190以下であることが一層好ましい。カチオン性ポリマーの有機性値をこの範囲に設定することで、該カチオン性ポリマーが赤血球に一層首尾よく吸着するようになる。
一方、カチオン性ポリマーの無機性値に関しては、70以上であることが好ましく、90以上であることがさらに好ましく、100以上であることが一層好ましく、120以上であることがさらに一層好ましく、250以上であることが特に好ましい。また、790以下であることが好ましく、750以下であることがさらに好ましく、700以下であることが一層好ましく、680以下であることがさらに一層好ましく、490以下であることが特に好ましい。例えば無機性値は、70以上790以下であることが好ましく、90以上750以下であることがさらに好ましく、90以上680以下であることが一層好ましく、120以上680以下であることがさらに一層好ましく、250以上490以下であることが特に好ましい。カチオン性ポリマーの無機性値をこの範囲に設定することで、該カチオン性ポリマーが赤血球に一層首尾よく吸着するようになる。
カチオン性ポリマーを赤血球にさらに一層首尾よく吸着させる観点から、該カチオン性ポリマーの有機性値をxとし、無機性値をyとしたとき、xとyが以下の式Aを満たすことが好ましい。
y=ax (A)
前記式A中、aは0.66以上であることが好ましく、0.93以上であることがさら
に好ましく、1.96以上であることが一層好ましい。また、aは、4.56以下あることが好ましく、4.19以下であることがさらに好ましく、3.5以下であることが一層好ましい。例えばaは、0.66以上4.56以下の数であることが好ましく、0.93以上4.19以下の数であることがさらに好ましく、1.96以上3.5以下の数であることが一層好ましい。特に、カチオン性ポリマーの有機性値及び無機性値が前述の範囲内であることを条件として、該カチオン性ポリマーの有機性値及び無機性値が前記式Aを満たす場合には、該カチオン性ポリマーがシアル酸結合体と相互作用しやすくなり、該カチオン性ポリマーが赤血球にさらに一層吸着しやすくなる。
赤血球の凝集塊を効果的に生成させる観点から、カチオン性ポリマーは水溶性であることが好ましい。本発明において「水溶性」とは、100mLのガラスビーカー(5mmΦ)に0.05gの1mm以下の粉末状又は厚み0.5mm以下のフィルム状カチオン性ポリマーを25℃の50mLイオン交換水に添加混合したときに、長さ20mm、幅7mmのスターラーチップを入れ、アズワン株式会社製マグネチックスターラーHPS−100を用いて600rpm攪拌下、その全量が24時間以内に水に溶解する性質のことである。尚、本発明において、さらに好ましい溶解性としては、全量が3時間以内に水に溶解することが好ましく、全量が30分以内に水に溶解することがさらに好ましい。
カチオン性ポリマーは、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものであることが好ましい。特に第4級アンモニウム塩ポリマーは、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものであることが好ましい。第4級アンモニウム部位は側鎖に存在していることが好ましい。この場合、主鎖と側鎖とが1点で結合していると、側鎖の可撓性が阻害されにくくなり、側鎖に存在している第4級アンモニウム部位が赤血球の表面に円滑に吸着するようになる。尤も本発明において、カチオン性ポリマーの主鎖と側鎖とが2点又はそれ以上で結合していることは妨げられない。本発明において「1点で結合している」とは、主鎖を構成する炭素原子のうちの1個が、側鎖の末端に位置する1個の炭素原子と単結合していることをいう。「2点以上で結合している」とは、主鎖を構成する炭素原子のうちの2個以上が、側鎖の末端に位置する2個以上の炭素原子とそれぞれ単結合していることをいう。
カチオン性ポリマーが、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものである場合、例えば第4級アンモニウム塩ポリマーが、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものである場合、各側鎖の炭素数は4以上であることが好ましく、5以上であることがさらに好ましく、6以上であることが一層好ましい。炭素数の上限値は、10以下であることが好ましく、9以下であることがさらに好ましく、8以下であることが一層好ましい。例えば側鎖の炭素数は4以上10以下であることが好ましく、5以上9以下であることがさらに好ましく、6以上8以下であることが一層好ましい。側鎖の炭素数とは、該側鎖における第4級アンモニウム部位(カチオン部位)の炭素数のことであり、対イオンであるアニオン中に炭素が含まれているとしても、その炭素は計数に含まない。特に、側鎖の炭素原子のうち、主鎖に結合している炭素原子から、第4級窒素に結合している炭素原子までの炭素数が前述の範囲であることが、第4級アンモニウム塩ポリマーが赤血球の表面の表面に吸着するときの立体障害性が低くなるので好ましい。
第4級アンモニウム塩ポリマーが、第4級アンモニウム塩ホモポリマーである場合、該ホモポリマーとしては、例えば第4級アンモニウム部位又は第3級アミン部位を有するビニル系単量体の重合物が挙げられる。第3級アミン部位を有するビニル系単量体を重合する場合には、重合前に及び/又は重合後に、第3級アミン部位をアルキル化剤によって第4級アンモニウム化した第4級アンモニウム塩ホモポリマーとなるか、重合前に及び/又は重合後に、第3級アミン部位を酸によって中和した第3級アミン中和塩となるか、重合後に水溶液中でカチオンを帯びる第3級アミンとなる。アルキル化剤や酸の例は、前述し
た通りである。
特に第4級アンモニウム塩ホモポリマーは、以下の式1で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
第4級アンモニウム塩ホモポリマーの具体例としては、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。また、第4級アンモニウム部位を有する側鎖が、主鎖と1点で結合しているものであるポリ(2−メタクリルオキシエチルジメチルアミン4級塩)、ポリ(2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩)、ポリ(2−メタクリルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムメチル硫酸塩)、ポリ(2−アクリルオキシエチルジメチルアミン4級塩)、ポリ(2−アクリルオキシエチルトリメチルアミン4級塩)、ポリ(2−アクリルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチル硫酸塩)、ポリ(3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド4級塩)、ポリメタクル酸ジメチルアミノエチル、ポリアリルアミン塩酸塩、カチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ポリアミジンなどが挙げられる。一方、第4級アンモニウム部位を有する側鎖が、主鎖と2点以上で結合しているホモポリマーの例としては、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルアミン塩酸塩が挙げられる。
第4級アンモニウム塩ポリマーが、第4級アンモニウム塩共重合物である場合には、該共重合物として、前述した第4級アンモニウム塩ホモポリマーの重合に用いられる重合性単量体を2種以上用い共重合して得られた共重合物を用いることができる。あるいは、第4級アンモニウム塩共重合物として、前述した第4級アンモニウム塩ホモポリマーの重合に用いられる重合性単量体を1種以上と、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体を1種以上用い共重合して得られた共重合物を用いることができる。さらに、ビニル系重合性単量体に加えて、又はそれに代えて、他の重合性単量体、例えば−SO2−などを
用いることもできる。第4級アンモニウム塩共重合物は、前述した通り、二元系の共重合物又は三元系以上の共重合物であり得る。
特に、第4級アンモニウム塩共重合物は、前記の式1で表される繰り返し単位と、以下の式2で表される繰り返し単位とを有することが、赤血球の凝集塊を効果的に生成させる観点から好ましい。
また、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体としては、カチオン性重合性単量体、アニオン性重合性単量体、又はノニオン性重合性単量体を用いることができる。これらの重合性単量体中で、特にカチオン性重合性単量体又はノニオン性重合性単量体を用いることで、第4級アンモニウム塩共重合物内において第4級アンモニウム部位との電荷相殺が起こらないので、赤血球の凝集を効果的に生じさせることができる。カチオン性重合性単量体の例としては、特定の条件下でカチオンを帯びる窒素原子を有する環状化合物としてビニルピリジンなど、特定の条件下でカチオンを帯びる窒素原子を主鎖に有する直鎖状化合物としてジシアンジアミドとジエチレントリアミンの縮合化合物などが挙げられる。アニオン性重合性単量体の例としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、及び、スチレンスルホン酸、並びに、これらの化合物の塩などが挙げられる。一方、ノニオン性重合性単量体の例としては、ビニルアルコール、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、プロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレートなどが挙げられる。これらカチオン性重合性単量体、アニオン性重合性単量体、又はノニオン性重合性単量体は、それらのうちの一つを用いることができ、あるいは任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。またカチオン性重合性単量体を2種以上組み合わせて用いることができ、アニオン性重合性単量体を2種以上組み合わせて用いることができ、あるいはノニオン性重合性単量体を2種以上組み合わせて用いることもできる。カチオン性重合性単量体、アニオン性重合性単量体及び/又はノニオン性重合性単量体を重合性単量体として用いて共重合された第4級アンモニウム塩共重合物は、その分子量が、前述の通り1000万以下であることが好ましく、特に500万以下、とりわけ300万以下であ
ることが好ましい(以下に例示する第4級アンモニウム塩共重合物についても同様である。)。
第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体として、水素結合をすることが可能な官能基を有する重合性単量体を用いることもできる。このような重合性単量体を共重合に用いること、それから得られる第4級アンモニウム塩共重合物を用いて赤血球を凝集させたときに、硬い凝集塊が生じやすくなり、高吸収性ポリマーの吸収性能が一層阻害されにくくなる。水素結合をすることが可能な官能基としては、例えば−OH、−NH2、−C
HO、−COOH、−HF、−SHなどが挙げられる。水素結合をすることが可能な官能基を有する重合性単量体の例としては、ヒドロキシエチルメタクリレート、ビニルアルコール、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートなどが挙げられる。特に、水素結合が強く働く、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ジメチルアクリルアミドなどは、第4級アンモニウム塩ポリマーの赤血球への吸着状態が安定化するので好ましい。これらの重合性単量体は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体として、疎水性相互作用をすることが可能な官能基を有する重合性単量体を用いることもできる。このような重合性単量体を共重合に用いることで、前述した、水素結合をすることが可能な官能基を有する重合性単量体を用いる場合と同様の有利な効果、すなわち赤血球の硬い凝集塊が生じやすくなるという効果が奏される。疎水性相互作用をすることが可能な官能基としては、例えばメチル基、エチル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、アルキルナフタレン基、フッ化アルキル基などが挙げられる。疎水性相互作用をすることが可能な官能基を有する重合性単量体の例としては、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、プロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、スチレンなどが挙げられる。特に、疎水性相互作用が強く働き、第4級アンモニウム塩ポリマーの溶解性を大きく低下させない、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレートなどは、第4級アンモニウム塩ポリマーの赤血球への吸着状態が安定化するので好ましい。これらの重合性単量体は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
第4級アンモニウム塩共重合物中での、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体と、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体とのモル比は、該第4級アンモニウム塩共重合物によって赤血球が十分に凝集するように適切に調整されることが好ましい。あるいは、第4級アンモニウム塩共重合物の流動電位が、前述した値となるように調整されることが好ましい。あるいは、第4級アンモニウム塩共重合物のIOBが、前述した値となるように調整されることが好ましい。特に、第4級アンモニウム塩共重合物における第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体のモル比は10モル%以上であることが好ましく、22モル%以上であることがさらに好ましく、32モル%以上であることが一層好ましく、38モル%以上であることがさらに一層好ましい。また、100モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがさらに好ましく、65モル%以下であることが一層好ましく、56モル%以下であることがさらに一層好ましい。具体的には、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体のモル比は10モル%以上100モル%以下であることが好ましく、22モル%以上80モル%以下であることがさらに好ましく、32モル%以上65モル%以下であることがさらに好ましく、38モル%以上56モル%以下であることが一層好ましい。
第4級アンモニウム塩ポリマーが、第4級アンモニウム塩重縮合物である場合には、該
重縮合物として、前述した第4級アンモニウム部位を有する単量体1種以上からなる縮合物を用い、それらの縮合物を重合することで得られた重縮合物を用いることができる。具体例としては、ジシアンジアミド/ジエチレントリアミン重縮合物、ジメチルアミン/エピクロルヒドリン重縮合物などが挙げられる。
前述した第4級アンモニウム塩ホモポリマー及び第4級アンモニウム塩共重合物は、ビニル系重合性単量体の単独重合法又は共重合法によって得ることができる。重合方法としては、例えばラジカル重合、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、リビングアニオン重合、配位重合、開環重合、重縮合などを用いることができる。重合条件に特に制限はなく、目的とする分子量、流動電位、及び/又はIOB値を有する第4級アンモニウム塩ポリマーが得られる条件を適切に選択すれば良い。
また、本発明で用いる血球凝集剤は、ポリカチオン(カチオン性ポリマー)以外に、第三成分、例えば、溶媒、可塑剤、香料、抗菌・消臭剤、スキンケア剤等の他の成分を1種以上含んだ組成物(血球凝集剤組成物)の形態で付与されていても良い。溶媒としては、水、炭素数1ないし4の飽和脂肪族一価アルコール等の水溶性有機溶媒、又は該水溶性有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。可塑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,3−ブタンジオールなどを用いることができる。香料としては、特許第4776407号公報に記載されているグリーンハーバル様香気を有する香料、植物の抽出エキス、柑橘類の抽出エキスなどを用いることができる。抗菌・消臭剤としては、特許第4526271号公報に記載されている抗菌性を有する金属を含むカンクリナイト様鉱物、特許第4587928号公報に記載されているフェニル基を有する重合性モノマーから重合された多孔性ポリマー、特許第4651392号公報に記載されている第4級アンモニウム塩、活性炭、粘土鉱物などを用いることができる。スキンケア剤としては、特許第4084278号公報に記載されている植物エキス、コラーゲン、天然保湿成分、保湿剤、角質柔軟化剤、消炎剤などを用いることができる。
前記血球凝集剤組成物に占めるカチオン性ポリマーの割合は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、5質量%以上であることが一層好ましい。また、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが一層好ましい。前記血球凝集剤組成物に占めるカチオン性ポリマーの割合をこの範囲内に設定することで、吸収性物品に有効量のカチオン性ポリマーを付与することができる。
以下、本発明で用いるトリアシルグリセロールについて説明する。本発明で用いるトリアシルグリセロールとしては、血液改質作用、具体的には界面活性作用を有し、且つ経血との親和性が低い性質を有するものを用いることができ、そのような血液改質作用を有するトリアシルグリセロールの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。血液改質作用を有するトリアシルグリセロールの中でも特に、炭素数8〜20の脂肪酸とグリセリンとのトリエステルは、経血との親和性が低いため本発明で好ましく用いられる。本発明で使用可能な市販のトリアシルグリセロールとしては、例えば、日油株式会社製の商品名「パナセート810S」が挙げられる。
以上、本発明について説明したが、本発明は前述した実施形態に制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、前記実施形態においては、吸収体が吸収性シートのみから構成されていたが、吸収性材料を積繊してなる積繊体のみから構成されていても良く、両者を含んで構成されていても良い。また、吸収体における吸収性シートの多層構造は、前記実施形態のように、1枚の吸収性シートが折り重ねられて形成された構成でも良く、あるいは複数枚の吸収性シートを折り畳まずに積層した構成でも良
く、あるいは両構成を複合した構成でも良い。また吸収体が、高吸収性ポリマー、親水性繊維等の吸収性材料を含む吸収性コアと、該吸収性コアを被覆する液透過性のコアラップシートとを含んで構成される場合、該吸収性コアが血球凝集剤及びトリアシルグリセロールの両方を含有する形態としても良く、あるいは、該吸収性コアが血球凝集剤を含有し、該コアラップシートがトリアシルグリセロールを含有する形態としても良い。
本発明は、経血の吸収に用いられる物品全般に適用することができる。そのような物品の例としては、前記実施形態の如き生理用ナプキンの他に、パンティライナ及びタンポン等が挙げられるが、それらに限られない。
〔実施例〕
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
図1及び図2に示す生理用ナプキン1と同様の基本構成を有する生理用ナプキンを作製し、これを実施例1のサンプルとした。表面シート及びセカンドシートとしては、後述する方法で作製したものを用い、両シートどうしを、スプレーガンを用いてスパイラル状に坪量3g/m2で塗工されたSEBM系ホットメルト接着剤で接着した。裏面シートとし
ては、透湿性の樹脂フィルムを用いた。
吸収体として吸収性シートの折り畳み多層構造を用い、該吸収性シートは特許第2963647号公報記載の方法に準じて作製した。作製した吸収性シートは1枚につき、木材パルプの含有量60質量%、高吸収性ポリマーの含有量40質量%、坪量75g/m2、
無荷重下における厚み0.5mmであった。高吸収性ポリマーとしては、日本触媒社製のアクアリックCAを用いた。
吸収体の肌対向面側表層部の全域に血球凝集剤及びトリアシルグリセロールをそれぞれ塗布した。より具体的には図2を参照して、折り畳み2層構造の本体吸収性シート42における表面シート2から相対的に近い方の1層の全体に対して、市販の血球凝集剤の5%水溶液を塗布し乾燥すると共に、該血球凝集剤の塗布部分に重ねて市販のトリアシルグリセロールを原液のまま塗布し乾燥した。血球凝集剤の塗布量は固形分換算で1.5g/m2、トリアシルグリセロールの塗布量は固形分換算で5g/m2であった。血球凝集剤としては、日本ルーブリゾール社製の商品名「マーコート106」(カチオン性ポリマー、重量平均分子量:1.5万、IOB値2.10、流動電位7345μeq/L)を用い、トリアシルグリセロールとしては、日油株式会社製の商品名「パナセート810S」を用いた。
血球凝集剤及びトリアシルグリセロールが塗布された吸収体の肌対向面側に、図1に示すパターンで吸収体スリットを形成した。より具体的には、表面シート、セカンドシート及び吸収体が積層された状態で、カッター刃を表面シート側から裏面シート側に向けて押し込むことでこれらに一体的な切れ目を入れて、図2に示す如きスリット、即ち表面材スリット、セカンドシートスリット及び吸収体スリットを形成した。こうして形成された吸収体スリットは、吸収体の肌対向面から非肌対向面の近傍にかけて該吸収体の厚み方向の略全長にわたるものであった。表面材スリット、セカンドシートスリット及び吸収体スリットは何れも、横方向長さ即ち幅0.5mm、縦方向長さ20mm、横方向において隣り合う吸収体スリットの間隔14mm、5cm四方の単位面積当たりの数11本であった。
(表面シートの作製)
繊維径4.0dtex伸長率6%の芯鞘型の熱伸長性複合繊維(芯がポリプロピレン、鞘がポリエチレン)と、3.3dtexの非伸長の芯鞘型複合繊維(芯がポリエチレンテレフタレート、鞘がポリエチレン)とを、それぞれ50質量%ずつの比率でカード機に通してウエブとし、該ウエブを、ヒートエンボス装置に導入して、該ウエブに線状の窪み部
20(第1線状の窪み部20a及び第2線状の窪み部20b)を複数本形成した。次いで、そのウエブを、熱風吹き付け装置に導入し、エアスルー加工による熱風処理を行い、線状の窪み部20によって区画化された区画領域22を有する表面シートを得た。得られた表面シートの線状の窪み部20の形成パターンは、図3に示すパターンであり、第1及び第2線状の窪み部20a,20bそれぞれの幅は0.5mm、第1線状の窪み部20aどうし間の間隔及び第2線状の窪み部20bどうし間の間隔は6mm、第1線状の窪み部20aと第2線状の窪み部20bとのなす角は56°であった。尚、得られた表面シートの坪量は25g/m2であった。
(セカンドシートの作製)
繊維径2.2dtexのポリエチレン/ポリエチレンテレフタレートの複合樹脂からなる合成繊維をカード機に通してウエブとし、該ウエブを、熱風吹き付け装置に導入し、エアスルー加工による熱風処理を行い、その後ロールエンボスしてセカンドシートを得た。得られたセカンドシートは、その厚みが0.3mm、坪量は25g/m2であった。
〔参考例〕
吸収体にトリアシルグリセロールを塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして生理用ナプキンを作製し、これを参考例のサンプルとした。
〔比較例1〕
吸収体に血球凝集剤を塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして生理用ナプキンを作製し、これを比較例1のサンプルとした。
〔比較例2〕
吸収体に血球凝集剤及びトリアシルグリセロールの何れも塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして生理用ナプキンを作製し、これを比較例2のサンプルとした。
〔評価試験〕
各実施例及び比較例並びに参考例の生理用ナプキンについて、下記方法により静的吸収時間を評価した。その結果を下記表2に示す。
<静的吸収時間>
評価対象のサンプルを広げて実験台に置き、該サンプルの上に、直径1cmの注入孔を有する筒高さ50mmのアクリル製注入円筒部が一体成形されたアクリル製注液プレートを、その注液孔が該サンプルの肌対向面(表面シート側)における排泄部対向部の中央に位置するように重ねて置き、適当な重り板を乗せて(注液プレート自身を含む)荷重が0.85g/cm2となるよう調整した。脱繊維馬血3gを前記注液プレートの筒内に3分
間隔で9gまで注入し、9gまで注入し終わった瞬間から、筒内の脱繊維馬血が無くなってサンプルの表面シートが露出するまでの時間(秒)を計測した。ここで使用した脱繊維馬血は前記擬似血液と同じである。各サンプルについて3回計測を行い、その平均値を当該サンプルの静的吸収時間とした。静的吸収時間が短いほど、経血の吸収性能に優れ高評価となる。
表2に示す通り、静的吸収時間が最も短かったのは実施例1であり、即ち経血の吸収性能に最も優れていたのは実施例1であった。実施例1と他の例との対比から、経血の吸収性能の向上を図るためには、血球凝集剤及びトリアシルグリセロールの両方を吸収体に含有させることが有効であることがわかる。