[実施例1]
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である電池システム10の構成を示す図である。この電池システム10は、動力源の一つとして回転電機100を搭載した電動車両(例えば電気自動車やハイブリッド自動車等)に搭載される。
電池システム10は、走行用の回転電機100に電力を供給する蓄電装置12を備えている。蓄電装置12は、複数の単セル14を直列または並列(図示例では直列)に接続して構成されている。一つの蓄電装置12を構成する単セル14の個数は、蓄電装置12の要求出力等に基づいて、適宜、設定できる。
単セル14は、充放電可能なリチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池は、様々な種類があるが、本実施形態では、電池の正極活物質として二相共存系材料を用いたリチウムイオン二次電池(以下「二相共存型電池」と呼ぶ)を単セル14として用いている。この二相共存型電池の特性等については、後に詳説する。
蓄電装置12には、均等化ユニット16および監視ユニット18が接続されている。図2は、この均等化ユニット16および監視ユニット18の構成を示す図である。図2に示すように、監視ユニット18は、単セル14ごとに設けられた複数の電圧監視IC37を有している。この電圧監視IC37は、各セル14に並列に接続されており、各セル14の電圧を検知し、後述する制御部32に出力する。また、監視ユニット18は、蓄電装置12全体の電圧も検知し、制御部32に出力する。以下の説明では、監視ユニット18で検知された電圧のうち、蓄電装置12全体の電圧を「電池電圧Vb」と呼び、各セル14の電圧を「セル電圧Vc」と呼ぶ。
均等化ユニット16は、単セル14ごとに設けられた複数の均等化回路38を含む。各均等化回路38は、均等用抵抗40と均等用スイッチ42を直列接続して構成されており、この均等化回路38は、単セル14と並列に接続されている。この均等化回路38は、複数の単セル14の電圧(セル電圧Vc)を均等化するための回路である。制御部32は、複数の単セル14のセル電圧Vcを比較し、特定のセル電圧Vc(例えば複数のセル電圧Vcのうち最小のセル電圧Vc)より高い単セル14については、対応する均等化回路38の均等用スイッチ42をオンにする。均等用スイッチ42をオンにすることで、対応する単セル14が放電し、セル電圧Vcが低下する。より具体的に説明すると、10個の単セル14のうち、三つの単セル14のセル電圧Vcが3.6Vで、残りの七つの単セル14のセル電圧Vcが3.7Vであった場合、制御部32は、この七つの単セル14に対応する均等化回路38の均等用スイッチ42を所定期間、オンする。この均等用スイッチ42をオンし続ける時間は、最小電圧(本例では3.6V)と、放電対象の単セル14のセル電圧Vc(本例では3.7V)との差分値(本例では、0.1V)に基づいて決定される。以下では、この均等化回路38を用いた電圧の均等化を「均等化処理」と呼ぶ。この均等化処理は、通常、後述するシステムオフ期間中に行われる。なお、ここでいうセル電圧Vcは、電池が十分に緩和された状態で取得された値、すなわち、開回路電圧OCVに相当する。
再び、図1に戻り電池システム10を説明する。蓄電装置12の近傍には、当該蓄電装置12の温度を検知する温度センサ28が設けられている。温度センサ28は、一つでもよいし、複数でもよい。温度センサ28による検出値は、制御部32に送られ、この検出値が、電池温度Tbとなる。なお、温度センサ28が複数あり、検出値が複数ある場合には、これら複数の検出値の統計値、例えば、平均値や、最小値、最大値等を電池温度Tbとして取り扱えばよい。また、電池システム10は、蓄電装置12に流れる電流値を検知する電流センサ30も有している。電流センサ30の検出値が、電池電流Ibとなる。
蓄電装置12は、システムメインリレー(以下「SMR」と呼ぶ)20を介して、負荷(インバータ102や回転電機100)に接続されている。SMR20がオンされることで、蓄電装置12から回転電機100への電力供給や、回転電機100で回生された電力による蓄電装置12の充電が許容される。このSMR20のオン/オフは、制御部32により制御されている。
蓄電装置12とSMR20との間には、充電回路21が接続されている。充電回路21は、外部の商用電源に接続可能なコネクタ(インレット26)と、充電器24、および充電リレー22を備えた回路である。インレット26を外部電源に接続するとともに充電リレー22をオンにすることで、外部電力による蓄電装置12の充電が可能となる。充電器24は、交流電力である外部電力を直流電力に変換し、蓄電装置12に出力する。
ここで、SMR20および充電リレー22の双方がオフされている場合、蓄電装置12は、原則として充放電されないことになる(ただし、厳密には均等化処理による一部単セル14の放電はある)。この両リレー20,22がオフされており、充放電が禁止された状態のことを以下では電池システム10がオフされた状態、すなわち、「システムオフ」と呼び、SMR20および充電リレー22の少なくとも一方がオンされた状態を「システムオン」と呼ぶ。なお、外部充電が行えない電池システム(充電回路を有さない電池システム)、あるいは、充電回路が、SMR20よりも負荷側に接続されている電池システムの場合は、SMR20がオフされれば、蓄電装置12の充放電が禁止されることになる。したがって、かかる電池システムでは、SMR20がオンされた状態が「システムオン」であり、SMR20がオフされた状態が「システムオフ」である。
蓄電装置12は、SMR20を介して各種負荷と接続される。こうした負荷の中には、インバータ102および回転電機100がある。インバータ102は、蓄電装置12と回転電機100との間で、電力を直流から交流に、または、交流から直流に変換しながら、電流制御を行なう。回転電機100は、車両の走行用動力を出力するモータとして機能するとともに、動力を電力に変換するジェネレータとしても機能する。回転電機100で発電された電力は、インバータ102、SMR20を介して、蓄電装置12に送られ、これにより、蓄電装置12が充電される。また、回転電機100は、モータとして機能する場合には、蓄電装置12から送られた電力で駆動する。なお、図1では、回転電機100の個数を一つとしているが、回転電機100は、複数設けてもよい。例えば、主にモータとして機能する第一回転電機と、主にジェネレータとして機能する第二回転電機、を設けてもよい。また、図1では、蓄電装置12に接続される負荷として、インバータ102、回転電機100のみを図示しているが、さらに、他の負荷が接続されてもよい。他の負荷としては、例えば、補機に電力を供給する補機用蓄電装置や、蓄電装置12を調温するためのヒータやファン等がある。
蓄電装置12の充放電は、制御部32により管理制御される。制御部32は、各種演算を行うCPU34と、各種プログラムやパラメータを記憶する記憶部36と、を備えている。なお、図1では、制御部32を、単一のユニットとして図示しているが、制御部32は、それぞれがCPU34および記憶部36を有する制御ユニットを複数、組み合わせて構成されてもよい。したがって、制御部32は、CPU34および記憶部36を複数有する構成としてもよい。
制御部32には、蓄電装置12に設けられた監視ユニット18、電流センサ30、温度センサ28から、電池電圧Vb、電池電流Ib、電池温度Tbが入力される。制御部32は、これらセンサで取得された情報に基づいて蓄電装置12のSOC(State Of Charge)を算出する。また、後に詳説するように、制御部32は、蓄電装置12の充放電電力の許容値、すなわち、充電電力許容値Winおよび放電電力許容値Woutを算出する。そして、制御部32は、蓄電装置12の充放電電力が、この充放電電力許容値Win,Woutを超えないように、蓄電装置12の充放電を制御する。充放電電力許容値Win,Woutを算出するために、制御部32は、蓄電装置12の充放電履歴を履歴データ64として記憶しておくが、これについては、後述する。
次に、二相共存型電池について説明する。既述した通り、本実施形態の単セル14は、正極活物質として二相共存系材料を用いたリチウムイオン二次電池(二相共存型電池)である。二相共存型の正極活物質とは、2つの相(第一相および第二相)が安定して共存することができる活物質である。例えば、第一相は、正極活物質にリチウムが多く挿入された状態であり、第二相は、第一相と比べてリチウム挿入量が少ない状態(例えば、リチウムがほぼゼロの状態)である。正極活物質からリチウムイオンを放出させた状態である。二相共存型の正極活物質は、リチウムを含む化合物であり、この正極活物質としては、例えば、NiやMnを含むスピネル型化合物や、Feを含むオリビン型化合物(LiFePO4など)を用いることができる。
具体的には、二相共存型電池(単セル14)をほぼ完全に放電したとき、正極活物質の全体がほとんど第一相(リチウムが多く挿入された状態)となり、一方、二相共存型電池をほぼ満充電にするとき、正極活物質の全体が第二相(リチウム挿入量が少ない状態−例えばリチウム量がほぼゼロの状態)となる。二相共存型電池を充電したときには、第一相が減少するとともに、第二相が増加し、放電したときには、第二相が減少するとともに、第一相が増加すると考えられている。
二相共存型電池では、二相共存型電池を充放電したときの過去の履歴(充放電履歴)に応じて、二相共存型電池の充放電特性が変化する。二相共存型電池の充放電特性について、図3〜図5を用いて説明する。
図3は、SOCが、A(A>0)[%]であるときの二相共存型電池を用いて、放電(ここでは、パルス放電)を行ったときの電圧挙動を示す。図4は、SOCがA(A>0)[%]であるときの二相共存型電池を用いて、充電(ここでは、パルス充電)を行ったときの電圧挙動を示す。図3、図4において、縦軸は、放電または充電に伴う電圧変化ΔVbを示し、横軸は、時間を示す。なお、SOCとは、満充電容量に対する、現在の充電容量の割合である。また、電圧変化ΔVbとは、充放電開始前の電圧と現時刻の電圧との差分値であり、図3と図4の時刻t0から時刻t1(すなわち、通電中)において、放電の場合、ΔVbは、減少し、充電の場合、ΔVbは、増加する。
図3および図4において、太線は、充電継続後の二相共存型電池の電圧挙動を、細線は、放電継続後の二相共存型電池の電圧挙動を、示している。ここで、「充電継続後」とは、充電を継続して行った後のことであり、本例では、図5(a)に示すように、SOCが0%の状態から、SOCがA%になるまで充電を行った状態を示す。また、「放電継続後」とは、放電を継続して行った後のことであり、本例では、図5(b)に示すように、SOCがほぼ100%の状態から、SOCがA%になるまで放電を行った状態を示す。なお、図5において、ハッチング箇所は、第一相、すなわち、リチウム挿入量が多い相を示しており、白色箇所は、第二相、すなわち、リチウム挿入量がほぼゼロの状態を例示している。
図3では、時刻t0〜時刻t1において放電を行い、時刻t1以降は、充放電を行わない休止期間となっている。図3に示す通り、放電開始時(時刻t0)のSOCが同じA%であっても、放電継続後(細線)は、充電継続後(太線)に比べて、電圧変化ΔVbの量が大きいことが分かる。放電に伴う電圧変化ΔVbの量が大きいとは、すなわち、放電に伴って発生する分極が大きいということである。つまり、放電継続後(細線)は、充電継続後(太線)に比べて、出力特性が低下することが分かる。
図4では、時刻t0〜時刻t1において充電を行い、時刻t1以降は、充放電を行わない休止期間となっている。図4に示す通り、充電開始時(時刻t0)のSOCが同じA%であっても、充電継続後(太線)は、放電継続後(細線)に比べて、電圧変化ΔVbの量が大きいことが分かる。充電に伴う電圧変化ΔVbの量が大きいとは、すなわち、充電に伴って発生する分極が大きいということである。つまり、充電継続後(太線)は、放電継続後(細線)に比べて、入力特性が低下することが分かる。
このように、二相共存型電池では、過去の充放電履歴によって、充放電の特性が変化する。かかる二相共存型電池において、充放電電力許容値Win,Woutを、充電継続後と放電継続後で同じにした場合、蓄電装置12の性能を有効に利用できないおそれがある。例えば、放電継続後は、入力特性が高いため、充電電力許容値Winを比較的高めに設定することが可能である。しかし、充放電履歴に関わらず充電電力許容値Winを一定値として設定する場合には、充電電力許容値Winを、入力特性の低い充電継続状態に合わせ、電池保護のため低めの値に設定する必要がある。その結果、放電継続後は、蓄電装置12(二相共存型電池)の実際の充電特性(入力特性)に比べて、充電電力許容値Winが過度に制限されることになる。同様に、充放電履歴に関わらず放電電力許容値Woutを一定値として設定する場合、充電継続後は、蓄電装置12(二相共存型電池)の実際の放電特性(出力特性)に比べて、放電電力許容値Woutが過度に制限される。
そこで、本実施形態では、蓄電装置12の充放電履歴を記憶し、この充放電履歴に応じて、充放電電力許容値Win,Woutを補正している。これにより、電池を適切に保護しつつ、最大限、入出力性能を発揮させることが可能となる。以下、この充放電電力許容値Win,Woutの設定について説明する。
初めに、本実施形態の制御部32の機能構成について説明する。図6は、制御部32の機能ブロック図である。制御部32は、本来、種々の機能を有しているが、図6では、特に、充放電電力許容値Win,Woutの算出に関する機能のみを図示している。図6に示す通り、制御部32は、SOC算出部50と、標準値算出部52と、補正値算出部54と、充放電制御部56と、均等化制御部58と、記憶部36とを有している。SOC算出部50は、蓄電装置12のSOCを算出する。具体的には、電流センサ30で取得した電流を随時積算し、満充電容量で除算する、公知の手法が用いられる。もしくは、例えば、正極が二相共存材料からなり、正極の平衡電位がリチウム量に対して平坦であっても、負極の平衡電位に傾きがあれば、以下の手法を用いてもよい。すなわち、SOC算出部50は、監視ユニット18で検知された電池電圧Vbから内部抵抗に由来する電圧変化の影響を除去してOCVを算出し、算出したOCVを記憶部36に記憶するSOC−OCVマップ60に照らし合わせて蓄電装置12のSOCを算出する。さらには、この二つの手法から算出したSOC値を、適宜、混合する手法でもよい。算出されたSOCは、蓄電装置12の制御等に利用される。また、算出されたSOCは、後述する履歴データ64に記憶される。
標準値算出部52は、充放電電力許容値Win,Woutの標準値である充電標準値Win_stおよび放電標準値Wout_stを算出する。充放電標準値Win_st,Wout_stは、いずれも、蓄電装置12の充放電履歴とは無関係に算出される充放電電力許容値Win,Woutの候補値である。充放電標準値Win_st,Wout_stの算出方法としては、種々考えられるが、本実施形態では、一例として、電池温度Tbに基づいて、充放電標準値Win_st,Wout_stを算出している。具体的には、本実施形態では、予め、電池温度Tbと、充放電標準値Win_st,Wout_stとの関係を示す標準値マップ62を、記憶部36に記憶している。図7は、標準値マップ62の一例を示す図である。図7に示す通り、一般に、充放電標準値Win_st,Wout_stの絶対値は、極低温では、大幅に制限されているが、温度が上昇するにつれ、充放電標準値Win_st,Wout_stの絶対値も増加していく。ただし、温度が一定以上になれば、充放電標準値Win_st,Wout_stは、ほぼ一定値として制限してもよい。標準値算出部52は、温度センサ28で検出された電池温度Tbを、この標準値マップ62に照らし合わせて、充放電標準値Win_st,Wout_stを算出する。なお、ここで説明した充放電標準値Win_st,Wout_stは、一例であり、適宜、変更されてもよい。例えば、本実施形態では、電池温度Tbに基づいて充放電標準値Win_st,Wout_stを特定したが、他のパラメータ、例えば、蓄電装置12のSOCや、車両の走行状態、蓄電装置12の劣化量等も考慮して、充放電標準値Win_st,Wout_stを算出してもよい。
補正値算出部54は、標準値算出部52で算出された充電標準値Win_stを補正する充電補正係数Kinおよび放電標準値Wout_stを補正する放電補正係数Koutを算出する。すなわち、既述した通り、本実施形態の蓄電装置12は、二相共存型電池で構成されており、この二相共存型電池は、過去の充放電履歴に応じて、その充放電特性(入出力特性)が変化する。こうした充放電特性を考慮しないまま、充放電電力許容値Win,Woutを設定すると、蓄電装置12の性能を最大限に発揮できない状況や、電池劣化が進む懸念が存在し得る。
そこで、補正値算出部54は、蓄電装置12の過去の充放電履歴に応じて、充放電標準値Win_st,Wout_stを補正する充放電補正係数Kin,Koutを算出する。この充放電補正係数Kin,Koutを算出するため、記憶部36には、履歴データ64および補正係数マップ66が記憶されている。
履歴データ64は、蓄電装置12の過去一定期間の充放電履歴を記憶するデータである。より具体的には、履歴データ64は、過去一定期間の蓄電装置12のSOCの変化量(ΔSOC)と、過去一定期間の電池電流Ibと、を含む。ここで、本実施形態では、放電電流を正、充電電流を負としている。履歴データ64として記憶し続ける期間は、蓄電装置12を構成する二相共存型電池の特性(長い時定数)に応じて決定することが望ましい。また、データサイズ低減のためには、過去一定期間よりさらに過去のデータは、順次、忘却することが望ましい。
ただし、ここで説明した履歴データ64の構成は、一例であり、適宜、変更されてもよい。例えば、本実施形態では、履歴データ64として、SOCと電池電流Ibの双方を記録しているが、いずれか一方のみを記録する形態でもよい。また、SOCと電池電流Ibに加えて、または、替えて、他のパラメータ、例えば、充放電の合計時間等を記憶してもよい。また、電池の休止時間(無負荷時間)が影響を及ぼすような電池系では、その影響を加味してもよい。なお、履歴データ64に記憶する充放電履歴には、均等化処理による放電履歴も含まれるが、これについては、後に詳説する。
補正係数マップ66は、SOCおよび電池電流Ibと、充放電補正係数Kin,Koutとの関係を示すマップである。図8は、補正係数マップ66の一例を示す図である。図8において、横線は、一定期間におけるΔSOCを示している。過去一定期間の間、電池が放電過多で利用された場合、差分値ΔSOCは、負となり、充電過多で利用された場合、差分値ΔSOCは、正となる。
また、図8において、太線は、充電補正係数Kinを、細線は、放電補正係数Koutを示している。また、一点鎖線は、電池電流Ibの過去一定期間の平均値、すなわち、電流平均値I_aveの絶対値(|I_ave|)が大きい場合の、実線は、|I_ave|が中間レベルの場合の、二点鎖線は、|I_ave|が小さい場合の充放電補正係数Kin,Koutを示している。
本実施形態では、充放電標準値Win_st,Wout_stに、充放電補正係数Kin,Koutを乗算した値を、充放電電力許容値Win,Woutとして用いる。したがって、充電補正係数Kinが大きいほど、充電電力許容値Winの絶対値も大きくなる。同様に、放電補正係数Koutが大きいほど、放電電力許容値Woutの絶対値も大きくなる。
図8から明らかな通り、本実施形態では、差分値ΔSOCが大きい程、放電補正係数Koutは大きくなり、充電補正係数Kinは小さくなり、差分値ΔSOCが小さい程、放電補正係数Koutは小さく、充電補正係数Kinは大きくなる。そして、差分値ΔSOCが正、すなわち、充電過多の場合、放電補正係数Koutは、1より大きくなり(Kout>1)、充電補正係数Kinは、1より小さくなる(Kin<1)。この場合、最終的に算出される放電電力許容値Woutの絶対値は、放電標準値Wout_stの絶対値よりも大きくなり、充電電力許容値Winの絶対値は、充電標準値Win_stの絶対値よりも小さくなる。これは、差分値ΔSOCが正の充電過多の場合、蓄電装置12は、標準状態(Win_st,Wout_st)と比べて、出力特性が向上する一方、入力特性が低下していると考えられるためである。かかる場合には、充電電力許容値Winの絶対値を低めにして充電を制限し、放電電力許容値Woutの絶対値を高めにすることで電池劣化を抑制しつつ電池を有効に利用することができる。
同様に、差分値ΔSOCが負、すなわち、放電過多の場合、Kout<1、Kin>1としている。そのため、放電電力許容値Woutの絶対値が低めになり、放電が制限される一方で、充電電力許容値Winの絶対値を高めになるため、充電の許容範囲が広がる。これにより、電池劣化を抑制しつつ電池を有効に利用することができる。
また、本実施形態では、SOCの差分値ΔSOCだけでなく、さらに、電池電流Ibの平均値I_aveの絶対値によっても充放電補正係数Kin,Koutを変化させている。具体的には、電流平均値I_aveの絶対値|I_ave|が大きい程、充放電補正係数Kin,Koutの差分値ΔSOCに対する変化の傾きを急峻にしている。このように、SOCの差分値ΔSOCだけでなく、電流平均値I_aveの絶対値によっても、充放電補正係数Kin,Koutを変化させることで、蓄電装置12の充放電履歴をより正確に、充放電補正係数Kin,Koutに反映させることができる。
なお、ここで説明した充放電補正係数Kin,Koutの算出方法は、一例であり、蓄電装置12の充放電履歴に基づいて、充電過多の場合は、放電過多の場合よりも、放電電力許容値Woutが大きく、かつ、充電電力許容値Winが小さくなるような充放電補正係数Kin,Koutが算出できるのであれば、他の方法で算出してもよい。例えば、本実施形態では、過去一定期間の電池電流Ibを全て同じ重みとした電流平均値I_aveに応じて充放電補正係数Kin,Koutを変更している。しかし、一般的に、直近に行った充放電のほうが、それ以上過去に行った充放電よりも、蓄電装置12の充放電特性に大きな影響を与える。そこで、電池電流Ibに、現在に近づくほど重くなるような重みを付けて加算した電流の重み付け加算値を算出し、この電流の重み付け加算値に応じて充放電補正係数Kin,Koutを変更してもよい。また、本実施形態では、SOCおよび電池電流Ibの両方を考慮して、充放電補正係数Kin,Koutを特定しているが、利用する電池の特性に応じて、いずれか一方のみで充放電補正係数Kin,Koutを特定してもよい。
充放電制御部56は、標準値算出部52で算出された充放電標準値Win_st,Wout_stに、補正値算出部54で算出された充放電補正係数Kin,Koutを乗算して、充放電電力許容値Win,Woutを算出する。すなわち、Win=Win_st×Kinであり、Wout=Wout_st×Koutである。そして、充放電制御部56は、蓄電装置12の充放電電力が、算出された充放電電力許容値Win,Woutを超えないように、蓄電装置12の充放電を制御する。均等化制御部58については、後に詳述する。
次に、以上のような構成の電池システム10において、充放電電力許容値Win,Woutを算出する流れについて説明する。図9は、充放電電力許容値Win,Woutの算出の流れを示すフローチャートである。
図9に示すフローは、原則として、蓄電装置12の充放電が許容された期間、すなわち、SMR20および充電リレー22の少なくとも一方がオンされたシステムオン期間に、所定の制御周期で繰り返し実行される。一方で、SMR20および充電リレー22の双方がオフされたシステムオフ期間には、充放電電力許容値Win,Woutを算出する必要はないため、図9のフローは、実行されない。
充放電電力許容値Win,Woutを算出するために、制御部32は、電流センサ30で検知された電池電流Ib、温度センサ28で検知された電池温度Tb、監視ユニット18で検知された電池電圧Vbを取得する(S10)。
続いて、制御部32は、取得された電池電流Ibや電池電圧Vbに基づいて蓄電装置12のSOCを算出する(S12)。SOCが算出できれば、制御部32は、履歴データ64を更新する(S14)。具体的には、履歴データ64に算出された現在のSOCと、電池電流Ibと、を記録するとともに、保存期間を過ぎた過去のSOCおよび電池電流Ibを忘却する。
続いて、制御部32は、電池温度Tbを、記憶部36に記憶されている標準値マップ62に照らし合わせて、充電標準値Win_stおよび放電標準値Wout_stを算出する(S16)。
次に、制御部32は、履歴データ64を参照して、ΔSOCと|I_ave|とから充電補正係数Kinおよび放電補正係数Woutを算出する(S18)。充放電標準値Win_st,Wout_stおよび充放電補正係数Kin,Koutが算出できれば、制御部32は、これらを乗算し、充電電力許容値Winおよび放電電力許容値Woutを算出する(S20)。すなわち、Win=Win_st×Kin、Wout=Wout_st×Koutの演算を行う。そして、充電電力許容値Winおよび放電電力許容値Woutが算出できれば、ステップS10に戻り、以降、システムオフ(SMR20がオフかつ充電リレー22がオフ)となるまで、ステップS10〜S20をくり返す。
以上の説明から明らかな通り、本実施形態では、充放電電力許容値Win,Woutを、蓄電装置12の過去一定期間の充放電履歴に応じて補正している。ここで、二相共存型電池は、過去の充放電履歴に応じて、その充放電特性が変化する。本実施形態では、充放電電力許容値Win,Woutを、充放電履歴に応じて補正しているため、充放電電力許容値Win,Woutを、この変化する充放電特性に追従させることができる。その結果、蓄電装置12の劣化を防止しつつ、蓄電装置12をより有効に利用することができる。
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。充放電電力許容値Win,Woutは、蓄電装置12が充放電可能な期間、すなわち、システムオン期間にのみ算出されればよく、システムオフ期間中は、充放電電力許容値Win,Woutの算出は不要となる。しかし、このシステムオフ期間中でも、一部の単セル14が放電される均等化処理が実施されることがある。
この均等化処理について簡単に説明する。図6に示すように、制御部32は、均等化制御部58を有している。この均等化制御部58は、蓄電装置12を構成する複数の単セル14の電圧値を均等化するために、均等化回路38の駆動を制御する。均等化回路38による均等化処理は、蓄電装置12の充放電が禁止されている期間、具体的には、SMR20がオフ、かつ、充電リレー22がオフされたシステムオフ期間中に実施される。
均等化処理の流れは、種々のバリエーションがあるが、基本的には、次の手順で均等化処理を実施する。システムオフ期間において、均等化制御部58は、監視ユニット18から複数の単セル14それぞれのセル電圧Vcを取得する。ここで、セル電圧Vcは、開回路電圧OCVとほぼ等価とみなすことができる。均等化制御部58は、複数のセル電圧Vcのうち、特定のセル電圧Vc、例えば、最小のセル電圧Vcを基準電圧Vdefとして特定する。続いて、この基準電圧Vdefと各セル14のセル電圧Vcとの差分電圧ΔVcを算出する。そして、均等化制御部58は、この差分電圧ΔVcが、所定の閾値以上である単セル14を特定し、当該単セル14に対応する均等化回路38の均等用スイッチ42をセル電圧Vcが基準電圧Vdefに到達するまでオンし続ける。これにより、当該単セル14の電圧のバラツキが解消される。
ここで、こうした均等化処理を行った場合、当然、均等化処理されたセルには電流が流れ、SOCが低下する。均等化制御部58は、このとき流れる電流値、および、均等化処理されたセルのΔSOCを演算し、履歴データ64に記憶する。
ここで、こうした均等化処理による放電によっても、蓄電装置12の充放電特性は、変化する。そこで、本実施形態では、この均等化処理による放電履歴も、履歴データ64に記録し、その後の充放電電力許容値Win,Woutの算出に利用している。ただし、均等化処理の際は、一部の単セル14でのみ放電が行われており、このときの放電電流は、電流センサ30では検知できない。そこで、本実施形態では、均等化処理の際の電流およびΔSOCを次の手順で取得している。
通常、均等化回路38に設けられている均等用抵抗40の抵抗値は、電池の内部抵抗より十分に大きいとみなせる。この場合、均等化処理時に流れる放電電流Icは、均等化処理前のセル電圧をVc_def、均等用抵抗40の抵抗値をReとした場合、Vc_def=Ic×Reと表すことができる。そこで、均等化処理中、制御部32は、Ic=Vc_def/Reに基づいて、各セルの放電電流Icを算出する。また、放電電流Icに均等化実行時間を乗じ、その値を蓄電装置12の満充電容量で除算すれば、均等化処理によるSOCの変化ΔSOCが分かる。制御部32は、均等化処理の実行が完了した時点で、放電電流IcおよびΔSOCの演算を行い、履歴データ64に記録する。システムオンされた後、制御部32は、この履歴データ64を参照して充放電補正係数Kin,Koutを算出する。
また、正極が二相共存材料で平衡電位がリチウム量に対して平坦であっても、負極の平衡電位に傾きがあり、電池OCVとSOCが一意に決定される場合、別の形態として、以下の手法も考えられる。すなわち、均等化処理を実行する前、および、実行後における蓄電装置12全体のOCV(電池電圧Vb)の変化に基づいて、均等化処理に伴うSOCの変化(ΔSOC)を算出してもよい。この場合、均等化処理期間中に単セル14に流れた電流(放電電流Ic)は、OCVの変化量に対応するΔSOCに満充電量を乗じ、その値を均等化実行時間で除算すれば算出できる。
また、均等化処理終了後は、蓄電装置12の充放電は行われないため、SOCは、変化せず、また、電池電流Ibは、0のままである。この充放電されていない期間、すなわち、電池が無負荷の時間(休止時間)も履歴として入出力特性に影響する電池系の場合、この影響を考慮して、履歴データ64を更新してもよい。
以上の説明から明らかな通り、システムオフ期間中、特に、均等化処理実行中に流れる電流値およびSOCも充放電履歴として履歴データ64に記憶しておくことで、均等化処理に起因する蓄電装置12の充放電特性の変化を反映させた充放電電力許容値Win,Woutが得られる。そして、これにより、蓄電装置12の劣化を防止しつつ、蓄電装置12をより有効に利用することができる。