実施例1である電池システムについて、図1を用いて説明する。図1は、電池システムの構成を示す図である。
図1に示す電池システムは、車両に搭載することができる。車両としては、HV(Hybrid Vehicle)、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)およびEV(Electric Vehicle)がある。HVは、車両を走行させるための動力源として、後述する組電池に加えて、内燃機関又は燃料電池といった他の動力源を備えている。PHVでは、HVにおいて、外部電源からの電力を用いて組電池を充電できる。EVは、車両の動力源として、組電池だけを備えている。
組電池100は、直列に接続された複数の二次電池10を有する。二次電池10の数は、組電池100の要求出力などに基づいて、適宜設定することができる。監視ユニット21は、組電池100の端子間電圧を検出したり、二次電池10の電圧Vbを検出したりする。監視ユニット21の検出結果は、コントローラ30に出力される。
電流センサ22は、組電池100に流れる電流Ibを検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。ここで、充電電流Ibを正の値とし、放電電流Ibを負の値としている。温度センサ23は、組電池100の温度Tbを検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。
コントローラ30は、メモリ30aを有しており、メモリ30aは、コントローラ30が所定処理(例えば、本実施例で説明する処理)を行うための各種の情報を記憶している。本実施例では、メモリ30aが、コントローラ30に内蔵されているが、コントローラ30の外部にメモリ30aを設けることもできる。
組電池100の正極端子には、システムメインリレーSMR−Bが接続されている。システムメインリレーSMR−Bは、コントローラ30からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。組電池100の負極端子には、システムメインリレーSMR−Gが接続されている。システムメインリレーSMR−Gは、コントローラ30からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。
システムメインリレーSMR−Gには、システムメインリレーSMR−Pおよび電流制限抵抗24が並列に接続されている。システムメインリレーSMR−Pおよび電流制限抵抗24は、直列に接続されている。システムメインリレーSMR−Pは、コントローラ30からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。電流制限抵抗24は、組電池100を負荷(具体的には、インバータ31)と接続するときに、突入電流が流れるのを抑制するために用いられる。
組電池100をインバータ31と接続するとき、コントローラ30は、まず、システムメインリレーSMR−Bをオフからオンに切り替えるとともに、システムメインリレーSMR−Pをオフからオンに切り替える。これにより、電流制限抵抗24に電流が流れることになる。
次に、コントローラ30は、システムメインリレーSMR−Gをオフからオンに切り替えた後に、システムメインリレーSMR−Pをオンからオフに切り替える。これにより、組電池100およびインバータ31の接続が完了し、電池システムは、起動状態(Ready-On)となる。コントローラ30には、イグニッションスイッチのオン/オフに関する情報が入力され、コントローラ30は、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わることに応じて、電池システムを起動する。
一方、イグニッションスイッチがオンからオフに切り替わったとき、コントローラ30は、システムメインリレーSMR−B,SMR−Gをオンからオフに切り替える。これにより、組電池100およびインバータ31の接続が遮断され、電池システムは、停止状態(Ready-Off)となる。
インバータ31は、組電池100からの直流電力を交流電力に変換し、交流電力をモータ・ジェネレータ32に出力する。モータ・ジェネレータ32としては、例えば、三相交流モータを用いることができる。モータ・ジェネレータ32は、インバータ31からの交流電力を受けて、車両を走行させるための運動エネルギを生成する。モータ・ジェネレータ32によって生成された運動エネルギは、車輪に伝達される。
車両を減速させたり、停止させたりするとき、モータ・ジェネレータ32は、車両の制動時に発生する運動エネルギを電気エネルギ(交流電力)に変換する。インバータ31は、モータ・ジェネレータ32が生成した交流電力を直流電力に変換し、直流電力を組電池100に出力する。これにより、組電池100は、回生電力を蓄えることができる。
本実施例では、組電池100をインバータ31に接続しているが、これに限るものではない。具体的には、組電池100を昇圧回路に接続し、昇圧回路をインバータ31に接続することができる。昇圧回路を用いることにより、組電池100の出力電圧を昇圧することができる。また、昇圧回路は、インバータ31から組電池100への出力電圧を降圧することができる。
二次電池は、様々な要因によって劣化することがあり、二次電池の劣化には、摩耗劣化およびハイレート劣化が含まれる。摩耗劣化とは、二次電池を構成する材料が時間の経過とともに摩耗することによって発生する劣化である。ハイレート劣化とは、二次電池の内部における塩濃度の偏りによって発生する劣化である。塩濃度の偏りは、例えば、所定値以上のレートにおいて、二次電池を充電又は放電したときに発生しやすい。
二次電池10の劣化を抑制するためには、二次電池10の入出力を制限することができる。二次電池10の充放電を制御するときには、二次電池10の充電を許容する上限電力Win_limが設定されたり、二次電池10の放電を許容する上限電力Wout_limが設定されたりする。そして、二次電池10の入力電力(充電電力)が上限電力Win_limを超えないように、二次電池10の充電が制御されたり、二次電池10の出力電力(放電電力)が上限電力Wout_limを超えないように、二次電池10の放電が制御されたりする。
ハイレート劣化が発生したときには、二次電池10の内部抵抗が上昇するため、ハイレート劣化による抵抗上昇量(ハイレート抵抗上昇量という、本発明の劣化量に相当する)に応じて、上限電力Win_lim,Wout_limを設定することができる。具体的には、ハイレート抵抗上昇量が大きくなるほど、上限電力Win_lim,Wout_limを低下させることができる。上限電力Win_lim,Wout_limを低下させることとは、電力が0[kW]に近づく方向に上限電力Win_lim,Wout_limを変化させることである。上限電力Win_lim,Wout_limを低下させることにより、二次電池10の入出力が制限されやすくなり、ハイレート劣化が進行するのを抑制することができる。
ここで、ハイレート劣化は、塩濃度の偏りによって発生するものであるため、塩濃度の偏りを緩和させれば、ハイレート劣化を解消させることができる。例えば、二次電池10を通電せずに、放置すれば、塩濃度の偏りを緩和させることができる。また、現在の塩濃度の偏りとは逆の方向に、塩濃度の偏りを発生させれば、結果として、塩濃度の偏りを緩和させることができる。なお、摩耗劣化は、二次電池10の摩耗によって発生するため、ハイレート劣化のように解消させることはできない。
ハイレート劣化が発生している場合には、ハイレート抵抗上昇量に応じて、二次電池10の入出力を制限することが好ましいが、ハイレート劣化が発生したからといって、即座に二次電池10の入出力を制限しなくてもよい。すなわち、将来において、塩濃度の偏りが緩和されることがあるため、ハイレート劣化が発生していても、二次電池10の入出力の制限を緩和させておくことができる。例えば、図1に示す電池システムが搭載された車両は、駐車(放置)されることがあり、駐車中では、二次電池10が通電されずに放置される。この場合には、将来の駐車時において、塩濃度の偏りを緩和させることができ、現在において、ハイレート劣化が発生していても、このハイレート抵抗上昇量に応じて、二次電池10の入出力を制限しなくてもよい。
入出力の制限を緩和することとは、上限電力Win_lim,Wout_limを低下させる量を減らすことである。図2において、ハイレート劣化が発生する前は、上限電力Wout_limが電力Wref_maxに設定されている。時刻t1において、放電に伴うハイレート劣化が発生したとき、このハイレート劣化に応じた出力の制限を行うためには、上限電力Wout_limを、電力Wh_maxに設定する必要がある。
ここで、出力の制限を緩和する場合には、上限電力Wout_limが、電力Wh_maxよりも高い電力Wguard_maxに設定される。出力の制限を緩和することにより、緩和した分だけ、二次電池10の出力を確保することができる。すなわち、電力Wh_maxおよび電力Wguard_maxの間における出力電力を確保することができる。一方、電力Wguard_maxは、電力Wref_maxよりも低いため、電力を低下させた分だけ、放電に伴うハイレート劣化を抑制することができる。
入力の制限を緩和する場合も、出力の制限を緩和する場合と同様である。すなわち、ハイレート劣化が発生する前は、上限電力Win_limが電力Wref_maxに設定されている。時刻t1において、充電に伴うハイレート劣化が発生したとき、このハイレート劣化に応じた入力の制限を行うためには、上限電力Win_limを、電力Wh_maxに設定する必要がある。
ここで、入力の制限を緩和する場合には、上限電力Win_limが、電力Wh_maxよりも高い電力Wguard_maxに設定される。入力の制限を緩和することにより、緩和した分だけ、二次電池10の入力を確保することができる。すなわち、電力Wh_maxおよび電力Wguard_maxの間における入力電力を確保することができる。一方、電力Wguard_maxは、電力Wref_maxよりも低いため、電力を低下させた分だけ、充電に伴うハイレート劣化を抑制することができる。
ハイレート抵抗上昇量に応じた上限電力Win_lim,Wout_limを設定したときには、車両の状態に応じて二次電池10に要求される電力(出力電力又は入力電力)が上限電力Win_lim,Wout_limよりも高くなってしまうことがある。すなわち、図2において、二次電池10に要求される出力電力が、電力Wh_maxよりも高くなってしまったり、二次電池10に要求される入力電力が、電力Wh_maxよりも高くなってしまったりすることがある。
例えば、車両を加速するときには、二次電池10の出力電力を上昇させる必要があるが、加速時に要求される出力電力が、ハイレート抵抗上昇量に応じた上限電力Wout_lim(Wh_max)よりも高くなってしまうことがある。この場合には、上限電力Wout_lim(Wh_max)に対応した出力電力しか得られず、要求された加速性能を満たすことができなくなってしまうおそれがある。
また、回生時に発生する入力電力が上限電力Win_lim(Wh_max)よりも高くなってしまうときには、上限電力Win_lim(Wh_max)までの電力だけしか、二次電池10に充電することができず、上限電力Win_lim(Wh_max)を超えた電力は、二次電池10に充電することができなくなってしまう。すなわち、二次電池10に充電されない電力は、無駄になってしまう。
そこで、本実施例では、車両が特定の状態であるときには、ハイレート劣化の抑制処理よりも、所定条件での動作を優先させるようにしている。すなわち、ハイレート抵抗上昇量に対応した上限電力Win_lim(Wh_max),Wout_lim(Wh_max)に設定するのではなく、所定条件での動作を確保するための上限電力Win_lim,Wout_limに設定するようにしている。以下、具体的に説明する。
まず、車両の状態および所定条件としては、図3に示す内容(一例)が挙げられる。図3の内容について、具体的に説明する。図3に示す状態値は、車両の状態を特定するために用いられるパラメータである。所定条件とは、車両が特定の状態であることを特定するための条件であって、状態値に対応した条件である。
車両の状態が触媒暖機状態であるとき、エンジンを始動させて触媒を温めるために、二次電池10の出力を確保する必要がある。触媒は、エンジンから排出されたガスを浄化するために用いられ、触媒コンバータに備え付けられる。状態値としては、例えば、エンジンの水温、排気の温度、空気量が挙げられる。エンジンの水温とは、エンジンの冷却に用いられる冷却水の温度である。排気の温度とは、エンジンから排出されるガスの温度である。空気量とは、エンジンに吸入される空気量である。エンジンの水温や排気の温度は、温度センサを用いて検出することができる。空気量は、エアフローメータを用いて検出することができる。
エンジンの水温や排気の温度が低下しているときには、触媒の温度も低下しているため、触媒を温める必要がある。そこで、触媒暖機状態を特定するための条件として、エンジンの水温が暖機を完了させる温度以下である場合が挙げられる。暖機を完了させる温度は、触媒の温度特性などに基づいて適宜設定することができる。触媒の性能を発揮させるためには、暖機を完了させる温度以上に、エンジンの水温を上昇させる必要がある。一方、空気量が適正な量でなければ、触媒を温め難くなってしまうため、触媒暖機状態を特定するための条件として、例えば、空気量が適正量である場合が挙げられる。空気の適正量は、適宜設定することができる。
車両の状態が電池暖機状態であるとき、二次電池10を通電することにより、二次電池10を温める必要がある。二次電池10に電流を流せば、二次電池10の内部抵抗などによって、二次電池10を発熱させることができ、二次電池10を温めることができる。ここで、図1に示す電池システムを始動させるときに、二次電池10を温めるのであれば、二次電池10を放電させることができる。
状態値としては、例えば、二次電池10の温度が挙げられる。二次電池10の温度は、温度センサ23を用いて検出することができる。電池暖機状態を特定するための条件としては、例えば、二次電池10の温度が暖機を完了させる温度以下である場合が挙げられる。暖機を完了させる温度は、二次電池10の入出力性能などに基づいて適宜設定することができる。二次電池10の入出力性能を発揮させるためには、暖機を完了させる温度以上に、二次電池10の温度を上昇させる必要がある。
車両の状態がEV走行状態であるときには、車両を走行させるために、二次電池10の出力を確保する必要がある。EV走行では、二次電池10の出力だけを用いて、車両を走行させることになるため、二次電池10の出力電力として、車両の走行を確保するための電力が必要になる。ここで、状態値としては、例えば、モータ・ジェネレータ32の回転数やエンジンの回転数が挙げられる。モータ・ジェネレータ32やエンジンの回転数は、センサを用いて検出することができる。
EV走行状態を特定するための条件としては、例えば、モータ・ジェネレータ32の回転数が所定回転数以下である場合や、エンジンが回転していない場合が挙げられる。車両の走行を開始させるときには、二次電池10の出力だけを用いることがあり、この場合には、EV走行状態となる。したがって、モータ・ジェネレータ32の回転数が所定回転数以下であれば、車両がEV走行状態であることを特定することができる。一方、HVおよびPHVでは、エンジンを備えているが、エンジンを使わずに、車両を走行させるときには、EV走行状態となる。この場合には、エンジンは回転しないことになる。したがって、エンジンが回転していないことを確認することにより、車両がEV走行状態であることを特定することができる。
車両の状態がWOT(ワイドオープンスロットル)加速状態であるときには、車両を加速させるために、二次電池10の出力を確保する必要がある。状態値としては、例えば、アクセル開度が挙げられる。アクセル開度に関する情報は、アクセルポジションセンサを用いて検出することができる。WOT加速状態では、アクセル開度が全開となるため、WOT加速状態を特定するための条件としては、例えば、アクセル開度が全開である場合が挙げられる。
車両の状態がエンジン始動状態であるときには、エンジンを始動させるために、二次電池10の出力を確保する必要がある。HVやPHVでは、エンジンを始動させるために、二次電池10の電力が用いられるため、二次電池10は、エンジンを始動させるために必要な電力を出力する必要がある。状態値としては、例えば、点火信号、エンジンの回転数、スタータの回転数が挙げられる。点火信号は、混合気(燃料および空気)を燃焼させる点火装置を始動させるための信号である。エンジン始動状態を特定するための条件としては、例えば、点火信号が発生している場合や、エンジンの回転数がアイドリング回転数以上である場合や、スタータの回転数が所定回転数以上である場合がある。
車両の状態が電池冷却状態であるときには、組電池100を冷却するためのファンを駆動する必要があり、二次電池10の出力電力を用いてファンを駆動する場合には、二次電池10の出力を確保する必要がある。組電池100(二次電池10)の温度が上昇したときには、二次電池10の入出力性能が低下してしまうのを抑制するために、二次電池10を冷却する必要がある。二次電池10を冷却する手段として、ファンを用いることができる。ファンを駆動することにより、冷却風を二次電池10に供給することができる、冷却風によって二次電池10を冷却することができる。
状態値としては、例えば、ファンの回転数が挙げられる。ファンの回転数を上昇させるほど、より多くの冷却風を二次電池10に供給することができる。また、ファンの回転数が上昇するほど、ファンを駆動するための二次電池10の出力電力が上昇することになる。したがって、電池冷却状態を特定するための条件としては、例えば、ファンの回転数が所定回転数以上である場合が挙げられる。
車両の状態が回生充電状態であるとき、二次電池10は、回生電力を蓄える必要がある。ここで、状態値としては、例えば、車速、標高、二次電池10のSOC(State of Charge)が挙げられる。標高とは、車両が走行している場所の高さ(平均海水面からの高さ)である。SOCとは、満充電容量に対する、現在の充電容量の割合を示す。
回生電力が発生するときには、この回生電力のすべての二次電池10に蓄えることが好ましい。ここで、減速に伴って発生する回生電力は、車速が高いほど高くなりやすいため、回生充電状態を特定するための条件としては、例えば、車速が所定速度以上である場合が挙げられる。車速は、センサを用いて検出することができる。
一方、車両が下り坂を走行するときには、減速に伴う回生電力が発生しやすく、この回生電力を二次電池10に蓄える必要がある。ここで、標高が高いほど、回生電力が高くなりやすいため、回生充電状態を特定するための条件として、例えば、標高が所定の標高よちも高い場合が挙げられる。ここで、ナビゲーションシステムを用いることにより、車両が走行している場所の標高を特定することができる。
二次電池10のSOCが低下しているときには、より多くの回生電力を二次電池10に蓄えることができる。そこで、回生充電状態を特定するための条件として、例えば、二次電池10のSOCが所定SOC以下である場合が挙げられる。PHVやEVでは、車両の走行距離を確保するために、二次電池10が積極的に放電され、二次電池10のSOCが低下しやすいため、SOCが所定SOC以下になりやすい。二次電池10がこのような状態であれば、より多くの回生電力を二次電池10に蓄えることができる。
車両の状態がリバース走行状態であるとき、車両を後進させるために、二次電池10の出力を確保する必要がある。ここで、状態値としては、例えば、シフトポジションがある。シフトポジションは、シフトポジションセンサを用いて検出することができる。また、リバース走行状態を特定するための条件として、例えば、シフトポジションセンサがリバースポジションにある場合が挙げられる。
車両の状態が補機駆動状態であるとき、補機を駆動するために、二次電池10の出力を確保する必要がある。補機とは、車両に搭載された電子機器である。ここで、状態値としては、例えば、補機の駆動電力が挙げられる。補機を駆動するためには、二次電池10の出力電力が、補機を駆動するための電力以上である必要がある。そこで、補機駆動状態を特定するための条件として、例えば、補機の駆動電力とすることができる。ここで、補機の駆動電力は、補機の動作状態に応じて変化するため、補機駆動状態を特定するための条件は、補機の動作状態に応じた電力となる。また、複数の補機を駆動するときには、補機駆動状態を特定するための条件として、すべての補機の駆動電力の総和となる。
車両の状態が外部充電状態であるとき、二次電池10は、外部電源から供給される電力を蓄える必要がある。外部電源としては、例えば、商用電源を用いることができる。外部電源の電力を二次電池10に供給するための手段としては、無線又は有線を用いることができる。無線による電力供給では、電磁誘導や共振現象を利用した非接触充電システムを用いることができる。また、有線による電力供給では、充電ケーブルを介して外部電源と接続されたプラグを、車両に設けられたインレットに接続するシステムを用いることができる。ここで、交流電力を直流電力に変換したり、電圧を変換したりするための充電器を用いる必要がある。充電器は、車両に搭載したり、車両の外部に配置したりすることができる。
状態値としては、例えば、外部電源の接続状態、充電電力、二次電池10のSOCが挙げられる。外部充電状態を特定するための条件として、例えば、二次電池10が外部電源と接続されている場合が挙げられる。二次電池10が外部電源と接続されていれば、外部電源の電力を二次電池10に供給できる状態にあり、外部充電状態を特定することができる。
また、外部充電状態を特定するための条件として、外部電源から二次電池10への充電電力が発生している場合が挙げられる。すなわち、外部電源から二次電池10への充電電力が0よりも高いときには、外部充電状態を特定することができる。この充電電力は、外部電源から二次電池10に電力を供給する経路において、電圧センサや電流センサを設けることによって検出することができる。
さらに、二次電池10のSOCが低下しているときには、外部電源を用いて充電する可能性が高い。そこで、外部充電状態を特定するための条件として、二次電池10のSOCが所定SOC以下である場合が挙げられる。状態値として、二次電池10のSOCを用いるときには、外部充電状態を特定するために、他の状態値(外部電源の接続状態や充電電力)も考慮することが好ましい。
車両の状態が外部放電状態であるとき、二次電池10は、車両の外部に配置された負荷を駆動するための電力を確保する必要がある。負荷としては、家庭用の電子機器などがある。状態値としては、例えば、負荷の電力が挙げられる。また、外部放電状態を特定するための条件としては、例えば、負荷の駆動電力とすることができる。ここで、負荷の駆動電力は、負荷の動作状態に応じて変化するため、外部放電状態を特定するための条件は、負荷の動作状態に応じた電力となる。また、複数の負荷を駆動するときには、外部放電状態を特定するための条件として、すべての負荷の駆動電力の総和となる。
次に、図4に示すフローチャートを用いて、上限電力Win_lim,Wout_limを設定する処理について説明する。図4に示す処理は、コントローラ30によって実行される。以下の説明では、上限電力Win_lim,Wout_limを、上限電力Wlimとして説明する。
ステップS101において、コントローラ30は、二次電池10のハイレート劣化によって発生するハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出する。ハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出処理については、後述する。ハイレート劣化が発生していないときには、ハイレート抵抗上昇量ΔRhは、ゼロとなる。
ステップS102において、コントローラ30は、ステップS101で算出されたハイレート抵抗上昇量ΔRhがゼロであるか否か、すなわち、ハイレート劣化が発生しているか否かを判別する。ここで、ハイレート抵抗上昇量ΔRhの算出誤差を考慮して、ハイレート劣化が発生しているか否かを判別することができる。すなわち、ハイレート抵抗上昇量ΔRhが誤差に相当する量よりも大きいか否かを判別することもできる。誤差に相当する量は、予め設定しておくことができる。
ハイレート抵抗上昇量ΔRhがゼロであるとき、コントローラ30は、ステップS103の処理を行う。一方、ハイレート抵抗上昇量ΔRhがゼロよりも大きいとき、コントローラ30は、ステップS104の処理を行う。ステップS103において、コントローラ30は、上限電力Wlimとして、最大基準電力Wref_maxを設定する。最大基準電力Wref_maxとは、二次電池10を保護する観点に基づいて、予め特定された電力である。
最大基準電力Wref_maxは、二次電池10の温度やSOCなどに基づいて決定することができる。二次電池10の入出力性能は、二次電池10の温度やSOCに応じて変化するため、二次電池10の温度やSOCを考慮して、最大基準電力Wref_maxを決めることができる。これにより、二次電池10の入出力性能を考慮した最大の許容電力を決定することができる。
例えば、二次電池10の温度および最大基準電力Wref_maxの対応関係を予め求めておき、この対応関係を用いて、最大基準電力Wref_maxを特定することができる。上限電力Wlimとして、最大基準電力Wref_maxが設定されたとき、コントローラ30は、二次電池10の電力(出力電力又は入力電力)が最大基準電力Wref_maxを超えないように、二次電池10の充放電を制御する。これにより、二次電池10の過充電や過放電を抑制でき、二次電池10を保護することができる。
ステップS104において、コントローラ30は、ステップS101の処理で得られたハイレート抵抗上昇量ΔRhに基づいて、許容電力Wh_maxを算出する。許容電力Wh_maxとは、ハイレート劣化を抑制する観点に基づいて、二次電池10の入出力を許容する最大電力である。ハイレート劣化が発生しているときには、ハイレート劣化が発生していないときと比べて、二次電池10の入出力を制限する必要がある。このため、許容電力Wh_maxは、最大基準電力Wref_maxよりも低くなる。
上限電力Wlimとして、許容電力Wh_maxが設定されたとき、コントローラ30は、二次電池10の電力(出力電力又は入力電力)が許容電力Wh_maxを超えないように、二次電池10の入出力を制御する。これにより、二次電池10の入出力が制限され、二次電池10の劣化(特に、ハイレート劣化)が進行してしまうのを抑制することができる。
ハイレート抵抗上昇量ΔRhおよび許容電力Wh_maxの対応関係を予め求めておけば、この対応関係と、ステップS101で算出したハイレート抵抗上昇量ΔRhとを用いて、許容電力Wh_maxを特定することができる。ハイレート抵抗上昇量ΔRhおよび許容電力Wh_maxの対応関係は、マップ又は関数として表すことができ、対応関係に関する情報は、メモリ30aに記憶しておくことができる。ここで、二次電池10の劣化が進行するのを抑制するためには、ハイレート抵抗上昇量ΔRhが増加するほど、許容電力Wh_maxを低下させることが好ましい。許容電力Wh_maxを低下させるほど、二次電池10の入出力が制限され、ハイレート劣化の進行を抑制しやすくなる。
ステップS105において、コントローラ30は、状態値を取得する。状態値としては、図3で説明した、すべての状態値が取得される。ステップS106において、コントローラ30は、ステップS105の処理で取得した状態値が所定条件を満たすか否かを判別する。各状態値に対応した所定条件の内容については、図3に示している。各状態値が、対応する所定条件を満たすとき、コントローラ30は、ステップS107の処理を行い、各状態値が、対応する所定条件を満たさないとき、コントローラ30は、ステップS108の処理を行う。
ステップS107において、コントローラ30は、許容電力Wguardを算出する。許容電力Wguardは、状態値が所定条件を満たすときに、二次電池10(具体的には、組電池100)に要求される電力である。二次電池10に要求される電力は、所定条件の内容に基づいて、予め特定しておくことができる。すなわち、二次電池10に要求される電力は、状態値が所定条件を満たすときに、車両で行われる動作を確保できる電力としておけばよい。
例えば、車両の状態がWOT加速状態であるとき、WOT加速を行わせるための二次電池10の出力電力が許容電力Wguardとなる。また、車両の状態が回生充電状態であるとき、将来において発生する回生電力(推定値)が許容電力Wguardとなる。許容電力Wguardは、所定条件を満たす状態値に基づいて算出される。例えば、許容電力Wguardおよび状態値の対応関係を予め決めておけば、この対応関係および状態値に基づいて、許容電力Wguardを特定することができる。
許容電力Wguardは、ステップS103の処理で説明した最大基準電力Wref_max以下の電力となる。最大基準電力Wref_maxは、二次電池10を保護するための上限電力であるため、二次電池10の電力が最大基準電力Wref_maxを超えないようにする必要がある。ここで、ステップS107で算出した許容電力Wguardが最大基準電力Wref_maxを超えてしまう場合には、許容電力Wguardとして、最大基準電力Wref_maxを設定することができる。
ステップS108において、コントローラ30は、すべての状態値に関して、ステップS105〜ステップS107の処理を行ったか否かを判別する。すべての状態値について、ステップS105〜ステップS107の処理を行っていなければ、ステップS105の処理に戻り、他の状態値を取得する。一方、すべての状態値について、ステップS105〜ステップS107の処理を行っていれば、ステップS109の処理を行う。
ステップS109において、コントローラ30は、許容電力Wguardの最大値(最大許容電力Wguard_max)を特定する。ステップS105〜ステップS108までの処理において、1つの許容電力Wguardだけが算出されているときには、この許容電力Wguardが最大許容電力Wguard_maxとなる。一方、複数の許容電力Wguardが算出されているときには、これらの許容電力Wguardの最大値が、最大許容電力Wguard_maxとして特定される。
ステップS110において、コントローラ30は、ステップS109の処理で特定した最大許容電力Wguard_maxが、ステップS104の処理で算出した許容電力Wh_maxよりも高いか否かを判別する。最大許容電力Wguard_maxが許容電力Wh_maxよりも高いとき、コントローラ30は、ステップS111の処理を行い、最大許容電力Wguard_maxが許容電力Wh_limよりも低いとき、コントローラ30は、ステップS112の処理を行う。
ステップS111において、コントローラ30は、上限電力Wlimとして、最大許容電力Wguard_maxを設定する。これにより、二次電池10の電力(入力電力又は放電電力)が最大許容電力Wguard_maxを超えないように、二次電池10の入出力が制御される。ここでは、二次電池10の電力として、最大許容電力Wguard_maxを確保することができるため、状態値が所定条件を満たすときに、二次電池10に要求される電力を確保することができる。また、上限電力Wlimが最大許容電力Wguard_maxとなるため、すべての状態値が所定条件を満たす車両の状態に関して、二次電池10に要求される電力を確保することができる。
ステップS112において、コントローラ30は、上限電力Wlimとして、ステップS104の処理で算出された許容電力Wh_maxを設定する。これにより、二次電池10の電力(入力電力又は出力電力)が許容電力Wh_maxを超えないように、二次電池10の入出力が制御される。ここでは、二次電池10の電力を許容電力Wh_max以下に制限することにより、ハイレート劣化が進行するのを抑制することができる。しかも、最大許容電力Wguard_maxは、許容電力Wh_maxよりも低いため、状態値が所定条件を満たすときに、二次電池10に要求される電力を確保することができる。
本実施例では、最大許容電力Wguard_maxが許容電力Wh_maxよりも高いときに、上限電力Wlimとして、最大許容電力Wguard_maxに設定しているが、これに限るものではない。
具体的には、最大許容電力Wguard_maxが許容電力Wh_maxよりも高いとき、上限電力Wlimとして、許容電力Wh_maxよりも高い値に設定することができる。具体的には、上限電力Wlimとして、最大許容電力Wguard_maxおよび許容電力Wh_maxの間に位置する電力に設定することができる。許容電力Wh_maxよりも高い値に上限電力Wlimを設定すれば、二次電池10の入出力が制限されるのを緩和でき、二次電池10に要求される電力の一部を確保することができる。
一方、上限電力Wlimとして、最大許容電力Wguard_maxよりも高い値に設定することもできる。具体的には、上限電力Wlimとして、最大許容電力Wguard_maxおよび最大基準電力Wref_maxの間に位置する電力に設定することができる。この場合には、二次電池10の電力として、最大許容電力Wguard_maxよりも高い電力を確保することができ、二次電池10に要求される電力が一次的に変動(上昇)したときでも、この電力の変動に対応することができる。
また、上限電力Wlimを設定するときには、前回設定された上限電力Wlimを考慮することができる。今回設定される上限電力Wlimと、前回設定された上限電力Wlimとの差が広がりすぎると、車両の動力性能が急変してしまうことがある。そこで、動力性能の急変を抑制するために、前回設定された上限電力Wlimを考慮して、今回の上限電力Wlimを設定することができる。
具体的には、まず、電力を変更可能な範囲ΔWを予め設定しておく。変更範囲ΔWは、動力性能の急変などを考慮して適宜設定することができる。次に、ステップS111,S112で設定される電力が、前回設定された上限電力Wlimに対して変更範囲ΔWの範囲内に含まれていれば、この電力を、今回の上限電力Wlimとして設定することができる。
一方、ステップS111,S112で設定される電力が、前回設定された上限電力Wlimに対して変更範囲ΔWの範囲から外れていれば、例えば、変更範囲ΔWの最大量だけ、前回の上限電力Wlimを変更した電力を、今回の上限電力Wlimとして設定することができる。具体的には、ステップS111,S112で設定される電力が、前回設定された上限電力Wlimよりも高いときには、前回設定された上限電力Wlimに、変更範囲ΔWの最大量を加算した電力を、今回の上限電力Wlimとして設定することができる。また、ステップS111,S112で設定される電力が、前回設定された上限電力Wlimよりも低いときには、前回設定された上限電力Wlimから、変更範囲ΔWの最大量を減算した電力を、今回の上限電力Wlimとして設定することができる。
次に、ハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出する方法について説明する。まず、本実施例で用いられる電池モデルについて説明する。
図5は、二次電池10の構成を示す概略図である。ここでは、二次電池10の一例として、リチウムイオン二次電池を用いている。二次電池10は、負極(電極ともいう)12と、セパレータ14と、正極(電極ともいう)15とを有する。セパレータ14は、負極12および正極15の間に位置しており、電解液を含んでいる。図5に示す座標軸xは、電極の厚み方向における位置を示す。
負極12および正極15のそれぞれは、球状の活物質18の集合体で構成されている。二次電池10を放電するとき、負極12の活物質18の界面上では、リチウムイオンLi+および電子e-を放出する化学反応が行われる。また、正極15の活物質18の界面上では、リチウムイオンLi+および電子e-を吸収する化学反応が行われる。
負極12は、銅などで構成された集電板13を有しており、集電板13は、二次電池10の負極端子11nと電気的に接続されている。正極15は、アルミニウムなどで構成された集電板16を有しており、集電板16は、二次電池10の正極端子11pと電気的に接続されている。負極12および正極15の間でのリチウムイオンLi+の授受によって、二次電池10の充放電が行われ、充電電流Ib(<0)または放電電流Ib(>0)が生じる。
二次電池10の放電時において、負極12から放出されたリチウムイオンは、拡散および泳動によって正極15に移動して、正極15に吸収される。このとき、電解液内におけるリチウムイオンの拡散に遅れが生じると、負極12内の電解液では、リチウムイオン濃度(すなわち電解液の塩濃度)が増加する。一方、正極15内の電解液では、リチウムイオン濃度が減少する。この様子を図6に示す。図6に示した平均塩濃度とは、二次電池10の全体において、電解液の塩濃度が均一になったときの値である。例えば、二次電池10の長時間の放置によって、電解液の塩濃度を均一にすることができる。
図7は、電解液塩濃度および反応抵抗の関係を示す。反応抵抗は、活物質18の界面において反応電流が発生したときに、等価的に電気抵抗として作用する抵抗であり、言い換えれば、電極表面におけるリチウムイオンの出入りに関する抵抗成分である。反応抵抗は、電荷移動抵抗とも呼ばれる。
図7に示す特性によれば、反応抵抗は、電解液塩濃度の関数であることが分かる。特に、電解液塩濃度が閾値cthよりも高い領域では、電解液塩濃度の変化に対して反応抵抗の変化は緩やかである。また、電解液塩濃度が閾値cthよりも低い領域では、電解液塩濃度の変化に対して反応抵抗の変化が急である。すなわち、電解液塩濃度が閾値cthよりも低い領域では、電解液塩濃度が閾値cthよりも高い領域と比較して、電解液塩濃度に対する反応抵抗の変化率が大きい。
図6および図7を考慮すると、放電時に正極15内での電解液塩濃度が減少した場合であっても、正極15内の電解液塩濃度が閾値cthよりも高いときには、反応抵抗の低下はほとんど生じないことが分かる。一方、正極15内の電解液塩濃度が閾値cthよりも低いときには、正極15内での電解液塩濃度の低下は、反応抵抗の増加を招くことが分かる。
このような反応抵抗の増加の要因として、例えば、図8Aに示すように、電解液の平均塩濃度が低下することによって、正極15内の電解液塩濃度が閾値cthよりも低くなることが考えられる。また、例えば、図8Bに示すように、放電が繰り返されて累積的に正極15内の電解液塩濃度が低下することによって、正極15内の電解液塩濃度が閾値cthよりも低くなることが考えられる。
放電時に正極15内の電解液塩濃度が低下することによって、反応抵抗が上昇する場合を例示したが、充電時にも、負極12内の電解液塩濃度が低下することによって、反応抵抗が上昇する。
反応抵抗と、電極12,15での電子e-の移動に対する純電気的な抵抗(純抵抗)とを併せたものが、二次電池10をマクロに見た場合の電池抵抗(内部抵抗)における直流抵抗成分に相当する。
本実施例に用いられる基礎的な電池モデル式は、以下の式(1)〜(11)からなる基礎方程式で表される。図9は、電池モデル式で用いられる変数および定数の一覧表を示す。
以下に説明するモデル式中の変数および定数に関して、添字eは電解液中の値であることを示し、sは活物質中の値であることを示す。添字jは、正極および負極を区別するものであり、jが1であるときには正極における値を示し、jが2であるときには負極における値を示す。正極および負極における変数又は定数を包括的に表記する場合には、添字jを省略する。また、時間の関数であることを示す(t)の表記、電池温度の依存性を示す(T)の表記、あるいは、局所SOCθの依存性を示す(θ)等について、明細書中では表記を省略することもある。変数又は定数に付された記号♯は、平均値を表わす。
上記式(1),(2)は、電極(活物質)における電気化学反応を示す式であり、バトラー・ボルマーの式と呼ばれる。
電解液中のリチウムイオン濃度保存則に関する式として、下記式(3)が成立する。活物質内のリチウム濃度保存則に関する式として、下記式(4)の拡散方程式と、下記式(5),(6)に示す境界条件式が適用される。下記式(5)は、活物質の中心部における境界条件を示し、下記式(6)は、活物質の電解液との界面(以下、単に「界面」ともいう)における境界条件を示す。
活物質界面における局所的なリチウム濃度分布である局所SOCθjは、下記式(7)で定義される。下記式(7)中のcsejは、下記式(8)に示されるように、正極および負極の活物質界面におけるリチウム濃度を示している。csj,maxは、活物質内での限界リチウム濃度を示している。
電解液中の電荷保存則に関する式として、下記式(9)が成立し、活物質中の電荷保存則に関する式として、下記式(10)が成立する。活物質界面での電気化学反応式として、電流密度I(t)と、反応電流密度jj Liとの関係を示す下記式(11)が成立する。
上記式(1)〜(11)の基礎方程式で表される電池モデル式は、以下に説明するように、簡易化することができる。電池モデル式の簡易化により、演算負荷を低減したり、演算時間を短縮したりすることができる。
負極12および正極15のそれぞれにおける電気化学反応を一様なものと仮定する。すなわち、各電極12,15において、x方向における反応が均一に生じるものと仮定する。また、各電極12,15に含まれる複数の活物質18での反応が均一と仮定するので、各電極12,15の活物質18を、1個の活物質モデルとして取り扱う。これにより、図5に示す二次電池の構造は、図10に示す構造にモデリングすることができる。
図10に示す電池モデルでは、活物質モデル18p(j=1)および活物質モデル18n(j=2)の表面における電極反応をモデリングすることができる。また、図10に示す電池モデルでは、活物質モデル18p,18nの内部におけるリチウムの拡散(径方向)と、電解液中のリチウムイオンの拡散(濃度分布)とをモデリングすることができる。さらに、図10に示す電池モデルの各部位において、電位分布や温度分布をモデリングすることができる。
図11に示すように、各活物質モデル18p,18nの内部におけるリチウム濃度csは、活物質モデル18p,18nの半径方向の座標r(r:各点の中心からの距離、rs:活物質の半径)上での関数として表すことができる。ここで、活物質モデル18p,18nの周方向における位置依存性は、無いものと仮定している。図11に示す活物質モデル18p,18nは、界面での電気化学反応に伴う、活物質の内部におけるリチウム拡散現象を推定するために用いられる。活物質モデル18p,18nの径方向にN分割(N:2以上の自然数)された各領域(k=1〜N)について、リチウム濃度cs,k(t)が、後述する拡散方程式に従って推定される。
図10に示す電池モデルによれば、基礎方程式(1)〜(6),(8)は、下記式(1’)〜(6’),(8’)で表すことができる。
上記式(3’)では、電解液の濃度を時間に対して不変と仮定することによって、cej(t)が一定値であると仮定する。また、活物質モデル18n,18pに対しては、拡散方程式(4)〜(6)が極座標方向の分布のみを考慮して、拡散方程式(4’)〜(6’)に変形される。上記式(8’)において、活物質の界面におけるリチウム濃度csejは、図11に示したN分割領域のうちの最外周の領域におけるリチウム濃度csi(t)に対応する。
電界液中の電荷保存則に関する上記式(9)は、上記式(3’)を用いて、下記式(12)に簡易化される。すなわち、電解液の電位φejは、xの二次関数として近似される。過電圧ηj♯の算出に用いる電解液中の平均電位φej♯は、下記式(12)を電極厚さLjで積分した下記式(13)によって求められる。
負極12については、下記式(12)に基づいて、下記式(14)が成立する。このため、電解液平均電位φe2♯と、負極12およびセパレータ14の境界における電解液電位との電位差は、下記式(15)で表される。正極15については、電解液平均電位φe1♯と、正極15およびセパレータ14の境界における電解液電位との電位差は、下記式(16)で表される。
活物質中の電荷保存則に関する上記式(10)についても、下記式(17)に簡易化することができる。すなわち、活物質の電位φsjについても、xの二次関数として近似される。過電圧ηj♯の算出に用いる活物質中の平均電位φsj♯は、下記式(17)を電極厚さLjで積分した下記式(18)によって求められる。このため、正極15に関して、活物質平均電位φs1♯と、活物質モデル18pおよび集電板16の境界における活物質電位との電位差は、下記式(19)で示される。同様に、負極12については、下記式(20)が成立する。
図12は、二次電池10の端子電圧V(t)と、上述したように求めた各平均電位との関係を示す。図12において、セパレータ14では、反応電流密度jj Liが0であるため、セパレータ14での電圧降下は、電流密度I(t)に比例し、Ls/κs eff・I(t)となる。
また、各電極中における電気化学反応を一様と仮定したことにより、極板の単位面積当たりの電流密度I(t)と反応電流密度(リチウム生成量)jj Liとの間には、下記式(21)が成立する。
図12に示す電位関係および上記式(21)に基づいて、電池電圧V(t)については、下記式(22)が成立する。下記式(22)は、図12に示す式(23)の電位関係式を前提とする。
次に、平均過電圧η♯(t)を算出する。jj Liを一定にするとともに、バトラー・ボルマーの関係式において、充放電効率を同一として、αajおよびαcjを0.5とすると、下記式(24)が成立する。下記式(24)を逆変換することにより、平均過電圧η♯(t)は、下記式(25)により求められる。
図12を用いて平均電位φs1、φs2を求め、求めた値を上記式(22)に代入する。また、上記式(25)から求めた平均過電圧η1♯(t)、η2♯(t)を上記式(23)に代入する。この結果、上記式(1’)、(21)および上記式(2’)に基づいて、電気化学反応モデル式に従った電圧−電流関係モデル式(M1a)が導出される。
リチウム濃度保存則(拡散方程式)である上記式(4’)および境界条件式(5’),(6’)によって、活物質モデル18p,18nについての活物質拡散モデル式(M2a)が求められる。
モデル式(M1a)の右辺第1項は、活物質表面での反応物質(リチウム)濃度により決定される開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)を示し、右辺第2項は、過電圧(η1♯−η2♯)を示し、右辺第3項は、二次電池に電流が流れることによる電圧降下を示す。すなわち、二次電池10の直流純抵抗が,式(M2a)中のRd(T)で表わされる。
式(M2a)において、反応物質であるリチウムの拡散速度を規定するパラメータとして用いられる拡散係数Ds1、Ds2は温度依存性を有する。したがって、拡散係数Ds1、Ds2は、例えば、図13に示すマップを用いて設定することができる。図13に示すマップは、予め取得しておくことができる。図13において、横軸の電池温度Tは、温度センサ23を用いて取得された温度である。図13に示すように、拡散係数Ds1、Ds2は、電池温度の低下に応じて低下する。言い換えれば、拡散係数Ds1、Ds2は、電池温度の上昇に応じて上昇する。
拡散係数Ds1、Ds2について、温度の依存性だけでなく、局所SOCθの依存性を考慮してもよい。この場合、電池温度T、局所SOCθおよび拡散係数Ds1、Ds2の関係を示すマップを予め用意しておけばよい。
式(M1a)に含まれる開放電圧U1は、図14Aに示すように、局所SOCθの上昇に応じて低下する。また、開放電圧U2は、図14Bに示すように、局所SOCθの上昇に応じて上昇する。図14Aおよび図14Bに示すマップを予め用意しておけば、局所SOCθに対応した開放電圧U1、U2を特定することができる。
式(M1a)に含まれる交換電流密度i01、i02は、局所SOCθおよび電池温度Tの依存性を有する。したがって、交換電流密度i01、i02、局所SOCθおよび電池温度Tの関係を示すマップを予め用意しておけば、局所SOCθおよび電池温度Tから、交換電流密度i01、i02を特定することができる。
直流純抵抗Rdは、温度の依存性を有する。したがって、直流純抵抗Rdおよび電池温度Tの関係を示すマップを予め用意しておけば、電池温度Tから直流純抵抗Rdを特定することができる。なお、上述したマップについては、二次電池10に関する周知の交流インピーダンス測定等の実験結果に基づいて作成することができる。
図10に示す電池モデルは、さらに簡略化することができる。具体的には、電極12,15の活物質として、共通の活物質モデルを用いることができる。図10に示す活物質モデル18n,18pを、1つの活物質モデルとして扱うことにより、下記式(26)に示すような式の置き換えができる。下記式(26)では、正極15および負極12の区別を示す添字jが省略される。
モデル式(M1a)、(M2a)は、下記式(M1b)、(M2b)で表すことができる。また、1つの活物質モデルを用いた電池モデルでは、電流密度I(t)および反応電流密度jj Liの関係式として、上記式(21)の代わりに、下記式(21’)が適用される。
上記式(M1a)中のarcsinh項を一次近似(線形近似)することにより、下記式(M1c)が得られる。このように線形近似することにより、演算負荷を低減したり、演算時間を短縮したりすることができる。
上記式(M1c)では、線形近似の結果、右辺第2項も、電流密度I(t)および反応抵抗Rrの積で示される。反応抵抗Rrは、上記式(27)に示されるように、局所SOCθおよび電池温度Tに依存する交換電流密度i01,i02から算出される。したがって、上記式(M1c)を用いるときには、局所SOCθ、電池温度Tおよび交換電流密度i01,i02の関係を示すマップを予め用意しておけばよい。上記式(M1c)および上記式(27)によれば、上記式(28)が得られる。
上記式(M1b)における右辺第2項のarcsinh項を線形近似すれば、下記式(M1d)が得られる。
上記式(M1b)は、下記式(M1e)として表すことができる。
上記式(M1e)に含まれる抵抗変化率grは、下記式(29)で示される。
上記式(29)において、Ranは、初期状態における二次電池10の抵抗であり、Raは、使用後(充放電後)における二次電池10の抵抗である。ここで、抵抗Ranは、初期状態における二次電池10の抵抗に限るものではない。抵抗Ranは、抵抗Raの変化に対して基準となる値(固定値)であればよい。例えば、二次電池10を製造した直後における抵抗と、二次電池10の劣化が最大であるときの抵抗(推定値)との間の値(任意)を、抵抗Ranとして設定することができる。
抵抗は、二次電池10の使用に伴う経年的な劣化に応じて変化するため、抵抗Raは、抵抗Ranよりも高くなる。したがって、抵抗変化率grは、1よりも大きな値となる。
上記式(M1e)は、一次近似(線形近似)することにより、下記式(M1f)で表される。
図15は、コントローラ30の内部構成を示す概略図である。電池状態推定部300は、拡散推定部301と、開放電圧推定部302と、電流推定部303と、パラメータ設定部304と、境界条件設定部305とを含む。図15に示す構成において、電池状態推定部300は、上記式(M1f)および上記式(M2b)を用いることにより、電流密度I(t)を算出する。
本実施例では、上記式(M1f)を用いて電流密度I(t)を算出しているが、これに限るものではない。具体的には、上記式(M1a)〜上記式(M1e)のいずれかと、上記式(M2a)又は上記式(M2b)との任意の組み合わせに基づいて、電流密度I(t)を算出することができる。本実施例では、抵抗変化率grを用いているため、上記式(M1a)〜上記式(M1d)を用いるときには、これらの式のうち、arcsinh項又は、arcsinh項を一次近似(直線近似)した項において、電流密度I(t)に抵抗変化率grを乗算するものとする。
拡散推定部301は、上記式(M2b)を用い、境界条件設定部305で設定された境界条件に基づいて、活物質内部でのリチウム濃度分布を算出する。境界条件は、上記式(5’)又は上記式(6’)に基づいて設定される。拡散推定部301は、上記式(7)を用い、算出したリチウム濃度分布に基づいて局所SOCθを算出する。拡散推定部301は、局所SOCθに関する情報を開放電圧推定部302に出力する。
開放電圧推定部302は、拡散推定部301が算出した局所SOCθに基づいて、各電極12,15の開放電圧U1,U2を特定する。具体的には、開放電圧推定部302は、図14Aおよび図14Bに示すマップを用いることにより、開放電圧U1,U2を特定することができる。開放電圧推定部302は、開放電圧U1,U2に基づいて、二次電池10の開放電圧を算出することができる。二次電池10の開放電圧は、開放電圧U1から開放電圧U2を減算することによって得られる。
パラメータ設定部304は、電池温度Tbおよび局所SOCθに応じて、電池モデル式で用いられるパラメータを設定する。電池温度Tbとしては、温度センサ23による検出温度Tbを用いる。局所SOCθは、拡散推定部301から取得される。パラメータ設定部304で設定されるパラメータとしては、上記式(M2b)中の拡散定数Ds、上記式(M1f)中の電流密度i0および直流抵抗Rdがある。
電流推定部303は、下記式(M3a)を用いて、電流密度I(t)を算出(推定)する。下記式(M3a)は、上記式(M1f)を変形した式である。下記式(M3a)において、開放電圧U(θ,t)は、開放電圧推定部302で推定された開放電圧U(θ)である。電圧V(t)は、監視ユニット21を用いて取得した電池電圧Vbである。Rd(t)およびi0(θ,T,t)は、パラメータ設定部304で設定された値である。下記式(M3a)中のgrは、抵抗変化率算出部306が算出した抵抗変化率grである。
なお、上記式(M1a)〜上記式(M1e)のいずれかの式を用いる場合であっても、上述した式(M3a)と同様の方法によって、電流密度I(t)を算出することができる。
境界条件設定部305は、上記式(21)又は上記式(21’)を用いて、電流推定部303によって算出された電流密度I(t)から反応電流密度(リチウム生成量)jj Liを算出する。そして、境界条件設定部305は、上記式(6’)を用いて、上記式(M2b)における境界条件を更新する。抵抗変化率算出部306は、上記式(29)で表される抵抗変化率grを算出する。
抵抗Raは、局所SOCθおよび電池温度Tbの変化に応じて変化する。したがって、初期状態にある二次電池10を用いた実験を行うことにより、抵抗Ra、局所SOCθおよび電池温度Tbの関係を示すマップを予め取得しておくことができる。このマップは、メモリ30aに記憶することができる。抵抗Raは、局所SOCθや電池温度Tbの変化だけでなく、二次電池10の使用(充放電)に伴う経年劣化によっても変化する。
抵抗変化率算出部306は、下記式(30)を用いて、抵抗変化率grを算出する。抵抗変化率算出部306は、算出した抵抗変化率grに関する情報を、電流推定部303、判別部307および抵抗上昇量推定部309に出力する。
上記式(30)において、開放電圧U(θ)は、開放電圧推定部302によって推定された値であり、V(t)は、監視ユニット21から得られた電池電圧Vbである。Ranは、電池温度Tbおよび局所SOCθを特定することにより、電池温度Tb、局所SOCθおよび抵抗Raの関係を示すマップから特定される値である。電流密度I(t)は、電流センサ22による測定電流Ibを単位極板面積で除算した値である。
判別部307は、タイマ307aを備えており、ハイレート劣化が解消されたか否かを判別する。判別部307は、二次電池10を放置している間の計測時間が、予め定められた放置時間trestを超えているか否かを判別し、計測時間が放置時間trestを超えているときには、ハイレート劣化が解消されていると判別する。判別部307には、イグニッションスイッチのオン/オフに関する情報が入力され、イグニッションスイッチがオンからオフに切り替わったときに、判別部307は、二次電池10が放置されていると判別する。
記憶部308は、ハイレート劣化が解消されているときの抵抗変化率gr(以下、gr(t0)という)を記憶する。抵抗変化率gr(t0)は、抵抗変化率算出部306によって算出された値である。すなわち、抵抗変化率算出部306によって算出された抵抗変化率grのうち、ハイレート劣化が解消されていると判別されたタイミングにおける抵抗変化率grが記憶部308に記憶される。
抵抗上昇量推定部309は、ハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出(推定)する。電流推定部303で推定された電流密度(推定電流密度という)I(t)と、電流センサ22の測定電流Ibから得られる電流密度(測定電流密度という)I(t)との間に誤差が発生したときに、ハイレート劣化を観測できる。推定電流密度I(t)および測定電流密度I(t)は、同一のタイミングで得られる電流密度である。ハイレート劣化の観測方法に関して、以下に説明する。
上述した電池モデルでは、すべての電流が活物質18を流れて電気化学反応に関与するとの前提で導出されている。しかしながら、実際には、特に低温時等において、電解液および活物質の界面に電気二重層キャパシタが生じることにより、電池電流が、電気化学反応に関与する電気化学反応電流成分と、キャパシタを流れるキャパシタ電流成分とに分流されることがある。この場合には、キャパシタ電流成分を電気化学反応電流成分と分離するように、電池モデル式を構成するのが好ましい。
上述した基礎的な電池モデルでは、電極12,15の表面におけるリチウムイオンの反応、電極12,15の活物質18におけるリチウムイオンの拡散、および電解液でのリチウムイオンの拡散がモデル化されている。これに対し、電池状態推定部300に適用される簡易化された電池モデルは、基礎的な電池モデルにおいて、電極厚さ方向の反応は一様であるとする仮定と、電極12,15でのリチウムイオンの濃度は一定であるとする仮定の下で構成されている。
電解液中のリチウムイオンの濃度、すなわち電解液の塩濃度が十分に高い場合には、簡易化された電池モデルでの上記仮定を満足することはできる。電解液の塩濃度が十分に高い場合には、充放電によって電極内の電解液の塩濃度が変化したとしても、この塩濃度の変化が反応抵抗に及ぼす影響が小さい。したがって、電流密度I(t)を精度良く推定することができる。
一方、簡易化された電池モデルでの上記仮定は、電極内の電解液の塩濃度が低い場合に生じる反応抵抗の上昇が考慮されていない。この反応抵抗の上昇を、ハイレート抵抗上昇という。このため、簡易化された電池モデルによって推定された電流密度I(t)と、電流センサ22による検出電流Ibに対応する電流密度との間には、誤差が生じる。
この点を考慮すると、電流密度の誤差に基づいて、ハイレート劣化(指標)を推定することができる。例えば、電解液の塩濃度(リチウムイオン濃度)の拡散方程式を簡易化することにより、電極内の電解液における塩濃度変化は、下記式(31),(32)によって推定することができる。
上記式(31),(32)において、Δceは、負極内における電解液の塩濃度と、正極内における電解液の塩濃度との差である(図6参照)。Deffは、電解液の有効拡散係数であり、εeは、電解液の体積分率であり、t+ 0はリチウムイオンの輸率であり、Fはファラデー定数である。Δtは、電流密度の推定処理を行う時間間隔(時間刻み)であり、Δxは拡散距離(図6参照)である。Tは電池温度であり、I(t)は電流密度である。
例えば、二次電池10を放電するとき、塩濃度差Δceは、図6に示すように、負極での塩濃度の増加量と、正極での塩濃度の減少量との合計となる。塩濃度の増加量および減少量は、平均塩濃度に対する変化量である。
上記式(31)、(32)によって推定された電極間での電解液の塩濃度差Δceと、電流推定誤差(Im−Ir)(Imは推定電流密度、Irは測定電流密度)との相関を図16に示す。図16によれば、塩濃度差Δceが大きくなるときに、電流推定誤差が大きくなる傾向がある。
したがって、塩濃度差Δceが大きいときの電流推定誤差(Im−Ir)の値を、ハイレート劣化として利用することができる。ここで、塩濃度差Δceが大きいという条件としては、例えば、塩濃度差Δceの値が、予め設定された所定値以上であるという条件、または、塩濃度差Δceの値が、予め設定された所定範囲内に存在するという条件がある。本実施例では、推定電流密度Imおよび測定電流密度Irの差分を用いているが、これに限るものではなく、推定電流密度Imおよび測定電流密度Irの比を用いることもできる。
塩濃度差Δceが大きい領域において電流推定誤差(Im−Ir)が発生するのは、電極内での電解液の塩濃度が低下することによって発生する電池抵抗の上昇分が、実際の二次電池10と電池モデルとで異なるからであると考えられる。一方、電池抵抗の上昇を含む電圧変化量ΔVは、実際の二次電池10と電池モデルとで等しい。実際に発現する電池抵抗をRrとし、電池モデルにおける電池抵抗をRmとすると、下記式(33)が成り立つ。
本実施例では、上記式(33)に関連して、下記式(34)を定義する。
ΔV(t1)は、二次電池10の電圧降下量を示す。Ir(t1)は、電流センサ22による検出電流Ibから得られた電流密度であり、Rr(t1)は、検出電流Ibが得られたときの電池抵抗である。Im(t1)は、電流推定部303によって推定された電流密度I(t)であり、Rm(t1)は、電流推定部303によって推定された電流密度I(t)に対応する電池抵抗である。Im(t0)は、二次電池10を放置することによってハイレート劣化が解消したときの電流密度であり、Rm(t0)は、電流密度Im(t0)に対応する電池抵抗である。
上記式(34)において、下記式(35)の関係が成り立つ。
上記式(34)において、電池抵抗Rm(t1)には、ハイレート抵抗上昇量が含まれる可能性があり、電池抵抗Rm(t1)は、ハイレート劣化が発生していないときの電池抵抗Rm(t0)よりも高くなる。
上記式(M1f)によれば、上記式(34)は、下記式(36)で表すことができる。
上記式(36)において、ハイレート劣化に影響を与えない成分に関する値(I×Rd)は省略する。また、温度T(t0)を温度T(t1)と仮定する。このように仮定すると、上記式(36)は、下記式(37)で表される。
上記式(37)は、下記式(38)に変形することができる。
上記式(38)によれば、抵抗変化率gr(t1),gr(t0)を算出しておき、電流推定部303によって電流密度I(t1)を推定すれば、ハイレート劣化が発生していないときの電流密度I(t0)を推定することができる。
ハイレート劣化に伴う抵抗上昇量ΔRhは、下記式(39)で示すように、ハイレート劣化による電池抵抗Rrと、摩耗劣化による電池抵抗Rr0との差分に相当する。
上記式(39)の両辺に電池電流Irを掛ければ、下記式(40)に示すように、ハイレート劣化による電圧降下量ΔVhrを算出することができる。
推定電流密度Imから算出される推定抵抗Rmについて、ハイレート劣化の影響が小さく、無視できるものと仮定すると、抵抗Rr0は、推定抵抗Rmと見なすことができる。このため、上記式(39),(40)は、下記式(41),(42)で表される。
一方、ハイレート劣化は、推定電流Imおよび測定電流Irの誤差として観察できるため、ハイレート劣化に伴う電圧降下量ΔVhmは、下記式(43)で表される。
上記式(43)において、ΔIは、電流推定誤差である。
測定値としての電圧降下量ΔVhrと、推定値としての電圧降下量ΔVhmとが等しいと仮定すると、上記式(41)〜(43)から下記式(44)が得られる。
上記式(44)から下記式(45)が得られる。
また、上記式(34)を用いれば、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)を、下記式(46)で表すことができる。
上記式(46)に含まれる補正係数ξは、下記式(47)で表される。
上記式(47)によれば、抵抗変化率gr(t1), gr(t0)と、電流推定部330によって推定された電流密度Im(t1)とに基づいて、ハイレート劣化が発生していないときの電流密度Im(t0)を算出することができる。ここで、抵抗変化率gr(t0)としては、記憶部308に記憶された抵抗変化率gr(t0)が用いられる。
電流密度Im(t0)を算出すれば、上記式(34)に基づいて、電池抵抗Rm(t0)を算出(推定)することができる。すなわち、電圧降下量ΔV(t1)を電流密度Im(t0)で除算すれば、電池抵抗Rm(t0)を算出することができる。電流密度Im(t0)および電池抵抗Rm(t0)を算出できれば、上記式(46)を用いて、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)を算出することができる。
一方、下記式(48)に示すように、ハイレート抵抗上昇率γを定義することができる。ハイレート抵抗上昇率γは、ハイレート劣化を評価するために用いることができる。
ハイレート抵抗上昇率γを用いてハイレート劣化を評価する方法としては、例えば、許容値γlimを設定しておき、ハイレート抵抗上昇率γが許容値γlimを超えているときに、ハイレート劣化が発生していると判定することができる。許容値γlimは、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)と、ハイレート劣化が発生していないときの電池抵抗Rm(t0)とに基づいて設定される。電池抵抗Rm(t0)は、摩耗劣化による抵抗に相当する。ここで、二次電池10の寿命を考慮して、摩耗劣化による抵抗と、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)とを予め決めておけば、許容値γlimを設定することができる。
また、ハイレート抵抗上昇率γが許容値γlimを超えているときには、ハイレート劣化が発生していると判定することができる。ハイレート劣化が発生しているときには、上述したように、二次電池10の入出力を制限することができる。
一方、解消値γaを設定しておくことにより、ハイレート劣化が解消されているか否かを判別することもできる。解消値γaは、許容値γlimよりも低い値であり、予め定めておくことができる。
上記式(48)に示すように、ハイレート抵抗上昇率γを定義することにより、電流密度Im(t1),Ir(t1)を取得するだけで、ハイレート抵抗上昇率γを算出することができ、ハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出する場合と比べて、演算負荷を低減することができる。
次に、電池状態推定部300の処理について、図17に示すフローチャートを用いて説明する。図17に示す処理は、所定の周期で実行される。
電池状態量推定部300は、ステップS201において、監視ユニット21の出力に基づいて電池電圧Vbを取得し、ステップS202において、温度センサ23の出力に基づいて電池温度Tbを取得する。
ステップS203において、電池状態推定部300(拡散推定部301)は、上記式(M2b)を用いた前回の演算時におけるリチウム濃度分布に基づき、局所SOCθを算出する。ステップS204において、電池状態推定部300(開放電圧推定部302)は、ステップS203で得られた局所SOCθから、開放電圧U(θ)を算出する。
ステップS205において、電池状態推定部300(電流推定部303)は、上記式(M1f)を用いて、電流密度Im(t)を算出(推定)する。推定電流密度Im(t)は、電池電圧Vbと、ステップS203で得られた開放電圧U(θ)と、パラメータ設定部304で設定されたパラメータ値とを、上記式(M3a)に代入することによって得られる。
推定電流密度Im(t)(Im(t1)と同じ)が得られれば、上記式(34)を用いて、推定抵抗Rm(t1)を算出することができる。ここで、抵抗変化率算出部306は、上記式(30)を用いることにより、抵抗変化率grを算出する。
具体的には、上記式(30)において、開放電圧U(θ)として、開放電圧推定部302が推定した値を用い、電圧V(t)として、監視ユニット21から取得した電池電圧Vbを用いることができる。また、電池温度Tb、局所SOCθおよび抵抗Ranの関係を示すマップを用いることにより、電池温度Tbおよび局所SOCθから抵抗Ranを特定することができる。電流密度I(t)としては、電流センサ22による検出電流Ibから特定される電流密度I(t)を用いることができる。
ステップS206において、電池状態推定部300(境界条件設定部305)は、ステップS205で得られた推定電流密度I(t)から反応電流密度(リチウム生成量)jj Liを算出する。また、電池状態推定部300(境界条件設定部305)は、算出した反応電流密度を用いて、上記式(M2b)の活物質界面における境界条件(活物質界面)を設定する。
ステップS207において、電池状態推定部300(拡散推定部301)は、上記式(M2b)を用いて、活物質モデルの内部におけるリチウムイオン濃度分布を算出し、各領域におけるリチウムイオン濃度の推定値を更新する。ここで、最外周の分割領域におけるリチウムイオン濃度(更新値)は、図17に示す処理を次回行うときに、ステップS203における局所SOCθの算出に用いられる。
次に、判別部307の処理(一部)について、図18に示すフローチャートを用いて説明する。図18に示す処理は、ハイレート劣化が解消されているか否かを判定する処理である。
ステップS301において、イグニッションスイッチがオンからオフに切り替わると、判別部307は、ステップS302の処理を行う。ステップS302において、判別部307は、タイマ307aを用いた時間t1の計測を行う。時間t1の計測は、イグニッションスイッチがオンからオフに切り替わったタイミングから、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わるタイミングまで行われる。
ステップS303において、判別部307は、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わったか否かを判別する。イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わっていなければ、ステップS302の処理を継続して行う。イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わると、判別部307は、ステップS304の処理を行う。
ステップS304において、判別部307は、ステップS302の処理で得られた計測時間t1が放置時間trestを超えているか否かを判別する。放置時間trestとは、ハイレート劣化が解消されるまでの時間であり、予め設定しておくことができる。ハイレート劣化は、リチウム塩濃度の偏りによって発生するため、リチウム塩濃度の偏りが緩和される時間を実験などによって予め決めれば、この時間が放置時間trestとなる。放置時間trestに関する情報は、予めメモリ30aに格納しておくことができ、判別部307は、メモリ30aから放置時間trestに関する情報を取得することができる。
計測時間t1が放置時間trestよりも短いとき、判別部307は、本処理を終了する。一方、計測時間t1が放置時間trestよりも長いとき、判別部307は、ステップS305において、ハイレート劣化が解消されたものと判別する。判別部307がハイレート劣化の解消を判別したときには、以下に説明するように、抵抗変化率grの学習処理が行われる。
図19は、抵抗変化率grの学習処理を説明するフローチャートである。図19に示す処理は、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わったときに、判別部307によって行われる。
ステップS401において、判別部307は、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わったタイミングから、タイマ307aを用いた時間t2の計測を行う。ステップS402において、判別部307は、ステップS401で取得した計測時間t2が許容時間taを超えていないか否かを判別する。許容時間taとは、ハイレート劣化の影響を無視できる時間であり、予め設定することができる。イグニッションスイッチがオンになった直後の時間帯では、ハイレート劣化が発生しにくい状況にあるため、この時間帯を許容時間taとして設定する。許容時間taに関する情報は、予めメモリ30aに格納しておくことができ、判別部307は、許容時間taに関する情報をメモリ30aから読み出すことができる。
計測時間t2が許容時間taよりも短いとき、判別部307は、ステップS403において、抵抗変化率算出部306によって算出された抵抗変化率gr(gr(t0)に相当する)を記憶部308に記憶する。判別部307は、抵抗変化率算出部306から抵抗変化率grを取得しており、計測時間t2が許容時間taよりも短いときには、抵抗変化率算出部306から取得した抵抗変化率grを記憶部308に記憶する。
計測時間t2が許容時間taよりも長いとき、判別部307は、抵抗変化率を記憶部308には記憶させずに、本処理を終了する。計測時間t2が許容時間taよりも長いとき、抵抗変化率算出部306によって算出された抵抗変化率grは、抵抗上昇量推定部309に出力される。
抵抗上昇量推定部309は、記憶部308に記憶された抵抗変化率gr(t0)と、抵抗変化率算出部306から得られた抵抗変化率gr(t1)とを上記式(47)に代入することにより、補正係数ξを算出する。また、抵抗上昇量推定部309は、上記式(47)を用いて、補正係数ξおよび推定電流密度Im(t1)から推定電流密度Im(t0)を算出する。推定電流密度Im(t0)を算出すれば、上記式(34)から、推定抵抗Rm(t0)を算出することができる。
抵抗上昇量推定部309は、上記式(46)を用いて、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)を算出する。具体的には、上記式(46)に対して、測定電流密度Ir(t1)、推定電流密度Im(t1)、補正係数ξおよび推定抵抗Rm(t0)を代入することにより、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)を算出することができる。
本実施例では、Imを推定電流密度とし、Irを測定電流密度としたが、これに限るものではない。推定された電流密度に電極表面積を乗算して得られる電流をImとし、測定電流をIrとすることもできる。
本実施例では、抵抗変化率gr(t1)、gr(t0)を用いて補正係数ξを算出しているが、これに限るものではない。下記式(49)に示すように、抵抗変化率および容量維持率を用いて補正係数ξを算出することもできる。
容量維持率は、劣化状態にある単極の容量を、初期状態にある単極の容量で除算した値である。二次電池が劣化したとき、単極の容量は、初期状態の容量よりも減少する。
正極の容量維持率k1は、下記式(50)で表される。
ここで、Q1_iniは、二次電池10が初期状態にあるときの正極15の容量であり、実験などによって予め特定しておくことができる。ΔQ1は、正極15の容量が劣化に伴って減少する量である。容量維持率k1は、劣化後の満充電容量を、初期状態の満充電容量と比較することによって算出することができる。
負極の容量維持率k2は、下記式(51)で表される。
ここで、Q2_iniは、二次電池10が初期状態にあるときの負極12の容量であり、実験などによって予め特定しておくことができる。ΔQ2は、負極12の容量が劣化に伴って減少する量である。容量維持率k2は、劣化後の満充電容量を、初期状態の満充電容量と比較することによって算出することができる。
上記式(49)に示す容量維持率kについては、正極15および負極12の少なくとも一方における容量維持率を考慮することができる。
本実施例では、計測時間t1が放置時間trestよりも長いときに、ハイレート劣化が解消していると判定しているが、これに限るものではない。例えば、ハイレート抵抗上昇量ΔRhやリチウム塩濃度の偏り量に基づいて、ハイレート劣化が解消しているか否かを判別することができる。ここで、ハイレート劣化の解消を判別するときには、計測時間t1、ハイレート抵抗上昇量ΔRhおよびリチウム塩濃度の偏り量のうち、少なくとも1つのパラメータを用いることができる。
ハイレート抵抗上昇量ΔRhを用いるときには、ハイレート抵抗上昇量ΔRhが、予め定められた解消値よりも小さいときに、ハイレート劣化が解消されていると判別することができる。一方、リチウム塩濃度の偏り量は、上記式(31)に示す塩濃度差Δceによって特定することができる。ここで、塩濃度差Δceが、予め定めた解消値よりも小さいとき、ハイレート劣化が解消されていると判別することができる。
上述した基礎的な電池モデルは、電極12,15の厚さ方向における反応が一様であるとする仮定と、電極12,15におけるリチウムイオンの濃度が一定であるとする仮定の下で構成されている。基礎的な電池モデルの代わりに、電極12,15の間におけるリチウムイオン濃度の差による過電圧Δφe(t)を考慮した電池モデルを用いることもできる。
上記式(9)において、直流抵抗による電圧降下と、リチウムイオン濃度の差による過電圧とが独立していると仮定する。この場合には、下記式(52)に示すように、電極12,15の間におけるリチウムイオン濃度の差による過電圧Δφej(x、t)と、電極12,15の間におけるリチウムイオン濃度の差ΔCej(x、t)との関係が得られる。
上記式(52)から、過電圧Δφe(t)を求めると、下記式(53)となる。
上記式(53)において、Ce,iniは、二次電池10が初期状態にあるときのリチウムイオンの濃度を示す。
上記式(53)を一次近似(線形近似)すると、下記式(54)が得られる。
上記式(54)に示す濃度差は、上記式(31)、(32)から求めることができ、下記式(31’a)、(32’)で表すことができる。
上記式(31’a)は、電極12,15の間におけるリチウムイオン濃度の差に関する式であるため、上記式(32’)に示すように、上記式(32)に示す係数α、βとは異なる係数αe、βeを定義する。
時間変化Δtがn回進むと、上記式(31’a)は、下記式(31’b)で表すことができる。
上記式(54)に、上記式(31’b)に示す濃度差ΔCeを代入すれば、過電圧Δφe(t)を求めることができる。
一方、上記式(M1b)において、過電圧Δφe(t)を考慮すると、下記式(M1g)で表すことができる。
同様に、上記式(M1e)において、過電圧Δφe(t)を考慮すると、下記式(M1h)で表すことができる。
上記式(M1h)を一次近似(線形近似)すると、下記式(M1i)が得られる。
過電圧Δφe(t)を考慮した電池モデルでは、上記式(M1i)を用いて電流密度I(t)を算出することができる。すなわち、上記式(M1f)を用いて電流密度I(t)を算出する過程において、上記式(54)および上記式(31’b)から算出される過電圧Δφe(t)を考慮すればよい。
また、過電圧Δφe(t)を考慮した電池モデルでは、補正係数ξを以下のように求めることができる。
上記式(M1i)を用いて、時間t0,t1における電圧降下量ΔV(t0),ΔV(t1)をそれぞれ求めると、下記式(55)、(56)で表される。時間t0は、ハイレート劣化が解消したときの時間であり、時間t1は、電流などを検出したときの時間である。
上記式(55)、(56)および上記式(47)を用いれば、補正係数ξは、下記式(57)で表すことができる。
また、抵抗変化率grおよび容量維持率kを用いれば、補正係数ξは、下記式(58)で表すことができる。
上記式(57)、(58)は、下記式(59)に示す関係を有する。
補正係数ξは、上記式(57)、(58)に基づいて算出することができるが、上記式(57)、(58)に示す一部のパラメータを、仮定した値として設定すれば、補正係数ξの算出を簡素化することができる。例えば、温度T(t0)が温度T(t1)と等しいと仮定したり、直流純抵抗Rd(T,t0)が直流純抵抗Rd(T,t1)と等しいと仮定したりすることができる。また、交換電流密度i0(θ,T,t0)が交換電流密度i0(θ,T,t1)と等しいと仮定したり、過電圧Δφe(t0)が過電圧Δφe(t1)と等しいと仮定したりすることができる。
上述した説明では、電池モデルを用いて、ハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出しているが、これに限るものではない。具体的には、ハイレート劣化を評価するための評価値を定義し、この評価値に基づいて、ハイレート劣化を判別することができる。以下、具体的に説明する。
ハイレート劣化に応じた許容電力Wh_maxを設定する処理について、図20および図21に示すフローチャートを用いて説明する。図20および図21に示す処理は、コントローラ30によって実行することができる。図20および図21に示す処理は、予め設定された時間間隔(サイクルタイム)で繰り返して行われる。
ステップS501において、コントローラ30は、電流センサ22の出力信号に基づいて、放電電流値を取得する。二次電池10を放電しているときには、放電電流値が正の値になり、二次電池10を充電しているときには、放電電流値が負の値になる。
ステップS502において、コントローラ30は、ステップS501で得られた放電電流値に基づいて、二次電池10のSOCを算出(推定)する。コントローラ30は、二次電池10を充放電したときの電流値を積算することにより、二次電池10のSOCを算出することができる。二次電池10を充放電したときの電流値は、電流センサ22の出力から取得することができる。
一方、監視ユニット21の検出電圧から、二次電池10のSOCを推定することもできる。二次電池10のSOCは、二次電池10のOCV(Open Circuit Voltage)と対応関係があるため、SOCおよびOCVの対応関係を予め求めておけば、OCVからSOCを特定することができる。OCVは、監視ユニット21の検出電圧(CCV:Closed Circuit Voltage)と、二次電池10の内部抵抗による電圧降下量とから求めることができる。なお、SOCの算出方法は、本実施例で説明する方法に限るものではなく、公知の方法を適宜選択することができる。
ステップS503において、コントローラ30は、温度センサ23の出力信号に基づいて、組電池100(二次電池10)の温度を取得する。ステップS504において、コントローラ30は、ステップS502で算出したSOCと、ステップS503で取得した二次電池10の温度とに基づいて、忘却係数を算出する。忘却係数は、二次電池10の電解液中のイオンの拡散速度に対応する係数である。忘却係数は、下記式(60)の条件を満たす範囲で設定される。
上記式(60)において、Aは、忘却係数を示し、Δtは、図20および図21に示す処理を繰り返して行うときのサイクルタイムを示す。
例えば、コントローラ30は、図22に示すマップを用いて、忘却係数Aを特定することができる。図22において、縦軸は、忘却係数Aであり、横軸は、二次電池10の温度である。図22に示すマップは、実験等によって予め取得することができ、メモリ30aに記憶しておくことができる。
図22に示すマップにおいて、ステップS502で取得したSOCと、ステップS503で取得した温度とを特定することにより、忘却係数Aを特定することができる。イオンの拡散速度が速いほど、忘却係数Aが大きくなる。図22に示すマップでは、二次電池10の温度が同じであれば、二次電池10のSOCが高いほど、忘却係数Aが大きくなる。また、二次電池10のSOCが同じであれば、二次電池10の温度が高くなるほど、忘却係数Aが大きくなる。
ステップS505において、コントローラ30は、評価値の減少量D(−)を算出する。評価値D(N)は、組電池100(二次電池10)のハイレート劣化を評価する値である。評価値の減少量D(−)は、前回(直前)の評価値D(N−1)を算出したときから、1回のサイクルタイムΔtが経過するまでの間において、イオンの拡散に伴うイオン濃度の偏りの減少に応じて算出される。例えば、コントローラ30は、下記式(61)に基づいて、評価値の減少量D(−)を算出することができる。
上記式(61)において、AおよびΔtは、上記式(60)と同様である。D(N−1)は、前回(直前)に算出された評価値を示す。初期値としてのD(0)は、例えば、0とすることができる。
上記式(60)に示すように、「A×Δt」の値は、0から1までの値である。したがって、「A×Δt」の値が1に近づくほど、評価値の減少量D(−)が大きくなる。言い換えれば、忘却係数Aが大きいほど、又は、サイクルタイムΔtが長いほど、評価値の減少量D(−)が大きくなる。なお、減少量D(−)の算出方法は、本実施例で説明した方法に限定されるものではなく、イオン濃度の偏りの減少を特定することができる方法であればよい。
ステップS506において、コントローラ30は、メモリ30aに予め記憶された電流係数を読み出す。ステップS507において、コントローラ30は、ステップS502で算出された二次電池10のSOCと、ステップS503で取得した二次電池10の温度とに基づいて、限界値を算出する。
例えば、コントローラ30は、図23に示すマップを用いて、限界値を算出することができる。図23に示すマップは、実験等によって予め取得することができ、メモリ30aに記憶しておくことができる。図23において、縦軸は、限界値であり、横軸は、二次電池10の温度である。図23に示すマップにおいて、ステップS502で取得したSOCと、ステップS503で取得した温度とを特定することにより、限界値を特定することができる。
図23に示すマップでは、二次電池10の温度が同じであれば、二次電池10のSOCが高いほど、限界値が大きくなる。また、二次電池10のSOCが同じであれば、二次電池10の温度が高いほど、限界値が大きくなる。
ステップS508において、コントローラ30は、評価値の増加量D(+)を算出する。評価値の増加量D(+)は、前回(直前)の評価値D(N−1)を算出したときから、1回のサイクルタイムΔtが経過するまでの間において、放電に伴うイオン濃度の偏りの増加に応じて算出される。例えば、コントローラ30は、下記式(62)に基づいて、評価値の増加量D(+)を算出することができる。
上記式(62)において、Bは、電流係数を示し、ステップS506の処理で取得した値が用いられる。Cは、限界値を示し、ステップS507の処理で取得した値が用いられる。Iは、放電電流値を示し、ステップS501の処理で検出した値が用いられる。Δtは、サイクルタイムである。
上記式(62)から分かるように、放電電流値Iが大きいほど、又は、サイクルタイムΔtが長いほど、評価値の増加量D(+)は大きくなる。なお、増加量D(+)の算出方法は、本実施例で説明した算出方法に限定されるものではなく、イオン濃度の偏りの増加を特定することができる方法であればよい。
ステップS509において、コントローラ30は、今回のサイクルタイムΔtにおける評価値D(N)を算出する。評価値D(N)は、下記式(63)に基づいて算出することができる。
上記式(63)において、D(N)は、今回のサイクルタイムΔtにおける評価値であり、D(N−1)は、前回(直前)のサイクルタイムΔtにおける評価値である。初期値としてのD(0)は、例えば、0に設定することができる。D(−)およびD(+)は、評価値Dの減少量および増加量をそれぞれ示し、ステップS505,S508で算出された値が用いられる。
本実施例では、上記式(63)に表すように、イオン濃度の偏りの増加と、イオン濃度の偏りの減少とを考慮して、評価値D(N)を算出することができる。これにより、ハイレート劣化の要因と考えられるイオン濃度の偏りの変化(増減)を、評価値D(N)に適切に反映させることができる。したがって、二次電池10の状態がハイレート劣化の生じる状態にどの程度近づいているのかを、評価値D(N)に基づいて把握することができる。
ステップS510において、コントローラ30は、ステップS509で算出した評価値D(N)が予め定められた目標値を越えたか否かを判別する。目標値は、ハイレート劣化が発生し始める評価値D(N)よりも小さい値に設定され、予め設定しておくことができる。評価値D(N)が目標値を超えていれば、ステップS511に進み、そうでなければ、ステップS516に進む。
本実施例では、図24に示すように、評価値D(N)のプラス側およびマイナス側において、目標値Dtar+,Dtar−が設定されている。図24は、評価値D(N)の変化(一例)を示す図である。目標値Dtar+は、正の値であり、目標値Dtar−は、負の値である。目標値Dtar+,Dtar−の絶対値は、同じ値になる。
ステップS510において、評価値D(N)が目標値Dtar+よりも大きいときと、評価値D(N)が目標値Dtar−よりも小さいときには、ステップS511に進む。すなわち、評価値D(N)の絶対値が、各目標値Dtar+,Dtar−の絶対値よりも大きいときには、ステップS511に進む。各目標値Dtar+,Dtar−の絶対値よりも大きいときの評価値D(N)の絶対値は、本発明の劣化量に相当する。
ステップS511において、コントローラ30は、評価値D(N)の積算を行う。具体的には、図24に示すように、評価値D(N)が目標値Dtar+,Dtar−を超えたとき、評価値D(N)のうち、目標値Dtar+,Dtar−を超えている部分について、積算を行う。評価値D(N)が目標値Dtar+,Dtar−を超えるたびに、積算処理が行われる。
評価値D(N)が目標値Dtar+よりも大きいときには、評価値D(N)および目標値Dtar+の差分が加算される。一方、評価値D(N)が目標値Dtar−よりも小さいときには、評価値D(N)および目標値Dtar−の差分が減算される。
本実施例では、下記式(64)に基づいて、積算値ΣDex(N)が算出される。
上記式(64)において、aは補正係数であり、0よりも大きく、1よりも小さい値である。ΣDex(N−1)は、前回までのサイクルタイムにおいて、評価値Dおよび各目標値Dtar+,Dtar−の差分を累積した値である。Dex(N)は、今回のサイクルタイムで得られた、評価値D(N)および各目標値Dtar+,Dtar−の差分である。
補正係数aに関する情報は、メモリ30aに記憶させておくことができる。補正係数aは、0よりも大きく、1よりも小さい値であるため、今回のサイクルタイムにおいて積算値ΣDex(N)を算出するときには、前回までのサイクルタイムで得られた積算値ΣDex(N−1)が減少する。評価値D(N)は、ハイレート劣化を評価する値であるが、ハイレート劣化は、上述したように、特定の条件において、緩和されることがある。
本実施例では、積算値ΣDex(N−1)に補正係数a(0<a<1)を乗算することにより、ハイレート劣化の緩和を考慮して、積算値ΣDex(N−1)を補正している。補正係数aは、ハイレート劣化による抵抗上昇を考慮して、予め設定しておくことができる。補正係数aを0に近づければ、積算値ΣDex(N)のうち、積算値ΣDex(N−1)が占める割合が減少する。また、補正係数aを1に近づければ、積算値ΣDex(N)のうち、積算値ΣDex(N−1)が占める割合が増加する。
本実施例において、積算値ΣDex(N)を算出するときに、評価値D(N)が目標値Dtar−よりも小さいときには、評価値D(N)および目標値Dtar−の差分を減算しているが、これに限るものではない。具体的には、評価値D(N)が目標値Dtar+よりも大きくなったときだけ、積算値ΣDex(N)の算出を行うことができる。この場合には、評価値D(N)が目標値Dtar+よりも大きくなるたびに、評価値D(N)および目標値Dtar+の差分が加算されていく。ここで、積算値ΣDex(N−1)は、上述したように、補正係数aによって補正することができる。
本実施例において、積算値ΣDex(N)を算出するときに、評価値D(N)および各目標値Dtar+,Dtar−の差分を積算しているが、これに限るものではない。具体的には、評価値D(N)が目標値Dtar+よりも大きいときには、この評価値D(N)を加算し、評価値D(N)が目標値Dtar−よりも小さいときには、この評価値D(N)を減算することができる。ここで、積算値ΣDex(N−1)は、上述したように、補正係数aによって補正することができる。
ステップS512において、コントローラ30は、積算値ΣDex(N)が閾値Kよりも大きいか否かを判別する。閾値Kは、ハイレート劣化を許容するための値であり、適宜設定することができる。ステップS512において、積算値ΣDex(N)が閾値Kよりも大きいときには、ステップS514に進み、そうでなければ、ステップS513に進む。
ステップS513において、コントローラ30は、上限電力Wout_limとして、最大基準電圧Wref_maxを設定する。ステップS514において、コントローラ30は、ハイレート劣化に対応した上限電力Wout_limとして、許容電力Wh_maxを設定する。ここで、積算値ΣDex(N)が閾値Kよりも大きくなるほど、許容電力Wh_maxを低くすることができる。具体的には、積算値ΣDex(N)が閾値Kを超えた量(積算値ΣDex(N)および閾値Kの差分)と、許容電力Wh_maxとの対応関係を予め決めておくことにより、この対応関係と積算値ΣDex(N)とに基づいて、許容電力Wh_maxを設定することができる。
ステップS515において、コントローラ30は、今回の評価値D(N)および積算値ΣDex(N)をメモリ30aに記憶する。評価値D(N)をメモリ30aに記憶することにより、評価値D(N)の変化を監視することができる。また、積算値ΣDex(N)をメモリ30aに記憶することにより、次回の評価値D(N+1)が目標値Dtar+,Dtar−を超えたときに、積算値ΣDex(N)を更新することができる。
ステップS510の処理からステップS515の処理に進んだとき、ステップS516において、コントローラ30は、評価値D(N)をメモリ30aに記憶する。これにより、評価値D(N)の変化を監視することができる。
本実施例では、サイクルタイムΔtごとに評価値D(N)をメモリ30aに記憶し、メモリ30aに記憶された前回(直前)の評価値D(N−1)を用いて、今回の評価値D(N)を算出しているが、これに限るものではない。
具体的には、放電電流値の履歴に基づいて、評価値D(N)を算出することができる。放電電流値が変化することに応じて、評価値D(N)が変化するため、放電電流値の履歴を取得しておけば、評価値D(N)を算出することができる。例えば、放電電流値の履歴だけをメモリ30aに記憶しておき、放電電流値の履歴を用いて、特定のサイクルタイムΔtにおける評価値D(N)を算出することができる。