ポリブチレンテレフタレート樹脂は、結晶化特性、耐熱性、成形性、耐薬品性および電気絶縁性に優れている。本発明に用いられる(A)ポリブチレンテレフタレートとは、テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体と、1,4−ブタンジオールおよび/またはそのエステル形成性誘導体とを重縮合することによって得られる重合体である。テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸のアルキルエステルなどが挙げられる。1,4−ブタンジオールのエステル形成性誘導体としては、例えば、1,4−ブタンジオールエステルなどのジオールのアルキルエステルなどが挙げられる。
本発明の目的を損なわない範囲であれば、テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体とともに、他のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を共重合したものであってもよいし、1,4−ブタンジオールおよび/またはそのエステル形成性誘導体とともに、他のジオールおよび/またはそのエステル形成性誘導体を共重合したものであってもよい。共重合成分として用いられるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、イソフタル酸、アジピン酸、シュウ酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸やこれらのアルキルエステルなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。また、共重合成分として用いられるジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、分子量400〜6000のポリエチレングリコールやポリ1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの長鎖グリコールやこれらの脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これら共重合成分は、(A)ポリブチレンテレフタレートを形成する原料の20重量%以下が好ましい。このような共重合体の好ましい例としては、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられる。ここで、「/」は共重合体を示し、以下同じである。これらを2種以上配合してもよい。
本発明に用いられる(A)ポリブチレンテレフタレートは、o−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.60〜1.60の範囲にあることが好ましい。固有粘度が0.60以上であれば、機械特性に優れる成形品を得ることができる。0.70以上がより好ましい。一方、固有粘度が1.60以下であれば、流動性をより向上させることができる。
ポリエチレンテレフタレート樹脂は、耐薬品性、電気特性に優れている。また、結晶化速度が適度に低いため、金型転写性に優れ、外観の良好な成形品を得ることができる。本発明に用いられる(B)ポリエチレンテレフタレートとは、テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコールおよび/またはそのエステル形成性誘導体とを重縮合することによって得られる重合体である。テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、(A)ポリブチレンテレフタレートを構成する成分として例示したものが挙げられる。エチレングリコールのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステルなどが挙げられる。
本発明の目的を損なわない範囲であれば、テレフタル酸またはその誘導体および、エチレングリコールまたはその誘導体とともに、他のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を共重合したものであってもよいし、他のジオールおよび/またはそのエステル形成性誘導体を共重合したものであってもよい。共重合成分として用いられるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、(A)ポリブチレンテレフタレートを構成する共重合成分として例示したものが挙げられる。共重合成分として用いられるジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては1,4−ブタンジオール、(A)ポリブチレンテレフタレートを構成する共重合成分として例示したものが挙げられる。これらの共重合成分は、(B)ポリエチレンテレフタレートを形成する原料の20重量%以下が好ましい。
(B)ポリエチレンテレフタレートおよび共重合体の好ましい例としては、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリエチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナフタレート)等が挙げられる。ここで、「/」は共重合体を示す。これらを2種以上配合してもよい。
また、本発明に用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂は、o−クロロフェノール溶媒を用いて25℃で測定した固有粘度が0.36〜1.60であることが好ましく、0.45〜1.15の範囲が更に好ましい。得られる組成物の衝撃強度、成形性の点から好適である。
本発明に用いられる(A)ポリブチレンテレフタレートおよび(B)ポリエチレンテレフタレートの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などを挙げることができる。バッチ重合法および連続重合法のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による重縮合反応のいずれも適用することができるが、カルボキシル末端基量を少なくすることができ、かつ、流動性向上効果が大きくなるという点で、連続重合法が好ましく、コストの点で、直接重合法が好ましい。
なお、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に触媒を添加することが好ましい。触媒の具体例としては、有機チタン化合物、スズ化合物、ジルコニア化合物、アンチモン化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、有機チタン化合物の中でも、チタン酸のテトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステルおよびテトライソプロピルエステルがより好ましく、チタン酸のテトラ−n−ブチルエステルが特に好ましい。スズ化合物の中でも、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズが好ましい。触媒の添加量は、機械特性、成形性および色調の点で、ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、0.005〜0.5重量部の範囲が好ましく、0.01〜0.2重量部の範囲がより好ましい。
(B)ポリエチレンテレフタレートとしては、フィルム成形工程、溶融紡糸工程および射出成形工程からなる群から選ばれる1種の工程を経たポリエチレンテレフタレート樹脂を含むことが好ましい(以下、再生材と略記することもある)。これらの工程を経たポリエチレンテレフタレートは、これらの工程を経ていないバージンのポリエチレンテレフタレートと比較して、熱履歴を多く受けているため、得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性が向上する。ポリエチレンテレフタレートは、前記工程を複数回経てもよいし、2種以上の工程を経てもよいが、工程回数および工程種類が多ければ多いほど、得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性がより向上する。具体的には、いわゆる工場等から出る再生材と、一般の消費者によって消費された後に出る再生材があり、前者はPETの重縮合の際、加工の際の生産廃棄物、例えば射出成形加工の際のスプルー、射出成形加工もしくは押出の際の出発品、または押出された板もしくはフィルムの縁部の断片が挙げられる。後者は、エンドユーザーによる利用の後に収集され、且つ処理されたプラスチック物品等である。量的に広く普及している物品は、ミネラルウォーター、ソフトドリンクおよびジュース用のブロー成形PETボトルである。
再生材は、粉砕材でも顆粒の形態でもよいが、消費者によって消費された後に出る再生材は、分離されて精製された後、押出機内で溶融されて造粒される。これにより、多くの場合、さらなる加工段階のための操作性、流動性、および計量性が良くなる。
本発明のPBT樹脂組成物は、(C)スチレン系樹脂を配合してなる。本発明で用いる(C)スチレン系樹脂は、(C−1)ゴム成分を含まないスチレン系樹脂と(C−2)ゴム成分を含むスチレン系樹脂からなり、これらの(C)スチレン系樹脂の総量におけるゴム成分量は5重量%を超えて45重量%以下であり、15〜35重量%が好ましい。5重量%以下になると、樹脂組成物を成形した成形品の靭性が低下し、45重量%を超えると寸法精度(同軸度)が低下する。(C−2)成分の特性(高温靭性)を十分に発揮した成形品とすることができるため、(C−2)成分と(C−1)成分とを併用する方法が良い。
本発明で用いる(C)スチレン系樹脂とは、(C−1)ゴム成分を含まないスチレン系樹脂と(C−2)ゴム成分を含むスチレン系樹脂からなる。
(C−1)ゴム成分を含まないスチレン系樹脂とは、スチレン由来の構造単位を有する(共)重合体であれば任意であるが、スチレン系化合物を、またはスチレン系化合物とスチレン系化合物と共重合可能な他の化合物とを、ゴム質重合体非存在下に重合して得られる(共)重合体が好ましい。スチレン系化合物の具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ブチルスチレン等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。スチレン系化合物と共重合可能な他の化合物の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートおよびブチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物類等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
(C−1)ゴム成分を含まないスチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)などがあり、これらの中でも、寸法精度(同軸度)、成形性の観点からアクリロニトリルとスチレンを共重合してなる共重合体であるAS樹脂が好ましく用いられる。AS樹脂におけるスチレンとアクリロニトリルの共重合量は特に制限はないが、両者の合計に対してアクリロニトリル50〜1重量%、スチレン50〜99重量%であることが好ましい。
(C−2)ゴム成分を含むスチレン系樹脂とは、前記スチレン系化合物を、または前記スチレン系化合物とスチレン系化合物と共重合可能な他の化合物とを、ゴム成分存在下に重合して得られる(共)重合体である。
ゴム成分としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴム等が使用できる。具体例として、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン/スチレン)、ポリ(ブタジエン/アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸オクチル、ポリ(ブタジエン/アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン/メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸ブチル/メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン/アクリル酸エチル)、エチレン/プロピレンラバー、エチレン/プロピレン/ジエンラバー、ポリ(エチレン/イソプレン)、ポリ(エチレン/アクリル酸メチル)等が挙げられる。これらのゴム成分は、1種または2種以上の混合物で使用される。これらのゴム成分のうち、ポリブタジエン、ポリアクリル酸ブチルが好ましく用いられる。
(C−2)ゴム成分を含むスチレン系樹脂の具体例としては、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル/スチレン/アクリレート共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル/エチレンゴム/スチレン共重合体(AES樹脂)などがあり、これらの中でも、寸法精度(同軸度)、高温靭性の観点からABS樹脂、ASA樹脂が好ましく用いられる。
(C)スチレン系樹脂におけるゴム成分の含有量は、(C−1)成分および(C−2)成分を含む(C)スチレン系樹脂の赤外分光スペクトルを測定し、ゴム成分由来のピークから求めることができる。
本発明のPBT樹脂組成物は、(D)炭酸カルシウムを配合してなる。(D)炭酸カルシウムは、異方性が小さいため、成形品の寸法精度(同軸度)を大幅に低減することができる。また、(D)炭酸カルシウムは、シランカップリング剤などの一種以上の表面処理剤で処理されていてもよく、樹脂との密着性を向上させ、成形品の機械特性を向上させることができる。(D)炭酸カルシウムの形状は、粉末状、板状などのいずれでも構わないが、粉末状が好ましく、分散性の観点などから、数平均粒子径10μm以下の粉末状がより好ましい。炭酸カルシウムは、水酸化カルシウムに二酸化炭素を反応させることで得られる。また、株式会社カルファインよりKSS−1000という商品名で購入できる。
強化繊維は、機械特性、耐熱性に優れている。本発明に用いられる(E)強化繊維としては、熱可塑性樹脂の強化に一般的に用いられる繊維状の材料をいずれも用いることができる。具体的には、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラストナイト、セピオライト、アスベスト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化硅素繊維およびホウ素繊維がなど挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。これらの中では、補強強化のより高いガラス繊維が好ましい。PBT樹脂組成物中における(E)強化繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は5以上であることが好ましく、10以上であることがさらに好ましく、20以上であることがさらに好ましい。また、(E)強化繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆または集束処理されていてもよく、アミノシランやエポキシシランなどのカップリング剤などで処理されていてもよい。かかる予備処理が施されたガラス繊維としては、具体的には、アミノシラン(カップリング剤)/エポキシシラン(集束剤)で表面処理されているガラス繊維としては、例えば、日東紡社製CSF3PE941H、日本電気硝子社製ECS03T187などが市販されている。
本発明のPBT樹脂組成物は、さらに(F)リン系安定剤を配合してなる。(F)リン系安定剤は、(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリエチレンテレフタレートのエステル交換反応を抑制し、成形性を向上させる効果がある。(F)リン系安定剤としては、例えば、ホスファイト系安定剤(ホスファイト化合物)、ホスフェート系安定剤(ホスフェート化合物)が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。中でも、ホスフェート系安定剤は、熱可塑性樹脂組成物の成形性を向上させる効果が高いため好ましい。ホスファイト系安定剤としては、例えば、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,6−ヘキサメチレン−ビス(N−ヒドロキシエチル−N−メチルセミカルバジド)−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,10−デカメチレン−ジ−カルボキシリックアシッド−ジ−ヒドロキシエチルカルボニルヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,10−デカメチレン−ジ−カルボキシリックアシッド−ジ−サリシロイルヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−ジ(ヒドロキシエチルカルボニル)ヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−N,N’−ビス(ヒドロキシエチル)オキサミド−ジホスファイトなどが挙げられる。少なくとも1つのP−O結合が芳香族基に結合しているものが好ましく、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスフォナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチル−フェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノおよびジ−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’−イソプロピリデンビス(フェニル−ジアルキルホスファイト)などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。中でも、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスフォナイトなどが好ましく使用できる。これらホスファイト系安定剤の具体的な商品名としては、ADEKAの“アデカスタブ”(登録商標)PEP−4C、PEP−8、PEP−11C、PEP−24G、PEP−36、HP−10、2112、260、522A、329A、1178、1500、C、135A、3010、TPP、BASFジャパン社の“イルガフォス”(登録商標)168、住友化学社の“スミライザー”(登録商標)P−16、クラリアント社の“サンドスタブ”(登録商標)P−EPQ、GE社の“ウエストン”(登録商標)618、619G、624などが挙げられる。
ホスフェート系安定剤としては、例えば、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、メチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェートなどが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。中でも、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェートが好ましい。これらのホスフェート系安定剤の具体的な商品名としては、BASFジャパン社の“イルガノックス”(登録商標)MD1024、イーストマン・コダック社の“インヒビター”(登録商標)OABH、ADEKAの“アデカスタブ”(登録商標)CDA−1、CDA−6、AX−71、三井東圧ファイン社の“Qunox”(登録商標)、ユニロイアル社の“ナウガード”(登録商標)XL−1などを挙げることができる。
本発明のPBT樹脂組成物は、さらに(G)多官能性化合物を配合することができる。多官能性化合物を配合することで、熱可塑性樹脂組成物の流動性を改良する効果がある。また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、3つ以上の官能基を有する(G)多官能性化合物を配合することが好ましい。3つ以上の官能基を有する(G)多官能性化合物を配合することでポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性をより向上させることができる。3つ以上の官能基を有する多官能性化合物としては、低分子化合物であってもよいし、高分子量の重合体であってもよい。このような3つ以上の官能基を有する多官能性化合物は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基およびアミド基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を3つ以上有することが好ましい。3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−へキサントリオール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、トリエタノールアミン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリトリメチロールプロパン、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、スクロース、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンなどの炭素数3〜24の多価アルコールやポリビニルアルコールなどのポリマーが挙げられる。なかでも、熱可塑性樹脂組成物の流動性により優れるため分岐構造を有するグリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが好ましい。なかでも、3価または4価の水酸基を有するものが好ましい。さらに好ましくは3価の水酸基を有するものである。3つ以上の官能基を有する多官能性化合物が3価または4価の水酸基を有することで、特に熱可塑性樹脂組成物の流動性がより向上する。
また、熱可塑性樹脂組成物の流動性をより向上させる観点から、3つ以上の官能基を有する(G)多官能性化合物がアルキレンオキシド単位を一つ以上含むことが好ましい。アルキレンオキシド単位の好ましい例としては、炭素原子数1〜4である脂肪族アルキレンオキシド単位が好ましく、具体例としてはメチレンオキシド単位、エチレンオキシド単位、トリメチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、テトラメチレンオキシド単位、1,2−ブチレンオキシド単位、2,3−ブチレンオキシド単位若しくはイソブチレンオキシド単位が挙げられる。本発明においては、アルキレンオキシド単位としてエチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位が含まれる化合物を使用することが特に好ましい。
本発明で用いる3つ以上の官能基を有する多官能性化合物に含まれるアルキレンオキシド単位数については、1官能基当たりのアルキレンオキシド単位が、0.1以上20以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることがより好ましく、1以上5以下であることがさらに好ましい。
アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、(ポリ)オキシメチレングリセリン、(ポリ)オキシエチレングリセリン、(ポリ)オキシトリメチレングリセリン、(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシテトラメチレングリセリン、(ポリ)オキシメチレンジグリセリン、(ポリ)オキシエチレンジグリセリン、(ポリ)オキシトリメチレンジグリセリン、(ポリ)オキシプロピレンジグリセリン、(ポリ)オキシメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシトリメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシテトラメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシメチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシトリメチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシトリメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシテトラメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシメチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、(ポリ)オキシトリメチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシメチレングルコース、(ポリ)オキシエチレングルコース、(ポリ)オキシトリメチレングルコース、(ポリ)オキシプロピレングルコース、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレングルコース、(ポリ)オキシテトラメチレングルコース等を挙げることができる。中でも(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパンエーテルが好ましい。特に好ましい多官能性化合物である(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパンエーテルは、日本乳化剤(株)からTMP−F32という商品名で入手できる。
本発明のPBT樹脂組成物における(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレートおよび(C)スチレン系樹脂の合計100重量部に対して、38〜58重量部の範囲である。(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量が38重量部未満であると、樹脂組成物の流動性、成形性が低下する。40重量部以上が好ましい。一方、(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量が58重量部を超えると、樹脂組成物を成形し成形品とした場合のの寸法精度(同軸度)が低下する。55重量部以下が好ましい。
本発明のPBT樹脂組成物における(B)ポリエチレンテレフタレートの配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレートおよび(C)スチレン系樹脂の合計100重量部に対して、6〜16重量部の範囲である。(B)ポリエチレンテレフタレートの配合量が6重量部未満であると、樹脂組成物を成形し成形品とした場合の寸法精度(同軸度)が低下する。8重量部以上が好ましい。一方、(B)ポリエチレンテレフタレートの配合量が16重量部を超えると、樹脂組成物の成形性が低下する。15重量部以下が好ましい。
さらに、本発明のPBT樹脂組成物における(B)ポリエチレンテレフタレートに対する(A)ポリブチレンテレフタレートの重量比率は2.6〜7.5の範囲である。(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリエチレンテレフタレートの重量比率が2.6未満であると、樹脂組成物の成形性が低下する。7.5を超えると樹脂組成物を成形し成形品とした場合の寸法精度(同軸度)が低下する。
本発明のPBT樹脂組成物において、(C)スチレン系樹脂の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレートおよび(C)スチレン系樹脂の合計100重量部に対し、26〜56重量部の範囲である。(C)スチレン系樹脂の配合量が26重量部未満であると、樹脂組成物を成形し成形品とした場合の寸法精度(同軸度)が低下する。30重量部以上が好ましい。一方、(C)スチレン系樹脂の配合量が56重量部を超えると、樹脂組成物の成形性、樹脂組成物を成形し成形品とした場合の寸法精度(同軸度)が低下する。50重量部以下が好ましい。(C)スチレン系樹脂におけるゴム成分の量は、5重量%を超えて45重量%以下の範囲である。5重量%以下になると、樹脂組成物を成形し成形品とした場合の靭性が低下し、45重量%を超えると寸法精度(同軸度)が低下する。
本発明のPBT樹脂組成物において、(D)炭酸カルシウムの配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレート、および(C)スチレン系樹脂の合計100重量部に対し、2〜5重量部である。(D)炭酸カルシウムの配合量が2重量部未満であると、樹脂組成物を成形し成形品とした場合の寸法精度(同軸度)が低下する。一方、(D)炭酸カルシウムの配合量が5重量部を超えると、樹脂組成物の流動性、成形性が低下する。(D)炭酸カルシウムの配合量は、5重量部が好ましい。
本発明のPBT樹脂組成物における(E)強化繊維の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレート、および(C)スチレン系樹脂の合計100重量部に対し、40〜50重量部である。(E)強化繊維の配合量が40重量部未満であると、樹脂組成物を成形し成形品とした場合の寸法精度(同軸度)が低下する。42重量部以上がより好ましい。一方、(E)強化繊維の配合量が50重量部を超えると、樹脂組成物の成形性が低下する。また、成形品表面において(E)強化繊維の浮きが多くなることから、成形品の表面外観が悪化する。48重量部以下がより好ましい。
(F)リン系安定剤の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリエチレンテレフタレートの合計100重量部に対して、0.1〜1重量部の範囲である。(F)リン系安定剤の配合量が0.1重量部未満であると、(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリエチレンテレフタレートのエステル交換の抑制効果が得られず、樹脂組成物の成形性、樹脂組成物を成形し成形品とした場合の寸法精度(同軸度)が低下する。一方、(F)リン系安定剤の配合量が1重量部を超えると、成形時に、他添加剤と樹脂の反応が抑制されるため、他添加剤の効果が得られにくくなる。樹脂組成物を成形し成形品とした場合の寸法精度(同軸度)も低下する。
(G)多官能性化合物を配合する場合、その配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレート、および(C)スチレン系樹脂の合計100重量部に対し、0.1〜1重量部の範囲であることが好ましい。(G)多官能性化合物の配合量が0.1重量部以上であると、樹脂組成物の流動性改良効果が得られやすい。(G)多官能性化合物の配合量が1重量部以下の場合は、樹脂組成物を成形し成形品とした場合の機械的強度の低下を抑制できる。
また、本発明のPBT樹脂組成物は、それを構成する各成分同士が反応した反応物を含むが、当該反応物はその構造を特定することが実際的でない事情が存在する。そのため、本発明は、各成分の配合量で発明を特定するものである。
本発明のPBT樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、安定剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤などの各種添加剤を配合することができる。
本発明のPBT樹脂組成物は、前記(A)〜(F)成分および必要によりその他成分が均一に分散されていることが好ましい。本発明のPBT樹脂組成物の製造方法としては、例えば、単軸あるいは二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーあるいはミキシングロールなどの公知の溶融混練機を用いて、各成分を溶融混練する方法を挙げることができる。各成分は、予め一括して混合しておき、それから溶融混練してもよい。なお、各成分に含まれる水分は少ない方がよく、必要により予め乾燥しておくことが望ましい。
また、溶融混練機に各成分を投入する方法としては、例えば、単軸あるいは二軸の押出機を用い、スクリュー根元側に設置した主投入口から(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレート、(C)スチレン系樹脂、(D)炭酸カルシウム、(F)リン系安定剤および必要に応じてその他成分を供給し、スクリュー吐出口手前側に設置した副投入口から(E)強化繊維を供給し溶融混練する方法が挙げられる。
溶融混練温度は、流動性および機械特性により優れるという点で、110℃以上が好ましく、210℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましい。また、360℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましい。ここで溶融混練温度とは、溶融混練機の設定温度を指し、例えば二軸押出機の場合、シリンダー温度を指す。
本発明のPBT樹脂組成物は、公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することにより、各種成形部品に加工し利用することができる。射出成形時の温度は、流動性をより向上させる観点から240℃以上が好ましい。成形部品としては例えば、射出成形部品、押出成形部品、ブロー成形部品、フィルム、シート、繊維などが挙げられる。
本発明において、上記各種成形品は、自動車部材、電気・電子部材、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛星用品など各種用途に利用することができる。特に、本発明のPBT樹脂組成物は、流動性、成形性に優れ、寸法精度(同軸度)、高温条件下での作動耐久性(高温靭性)に優れた成形品を得ることができるため、円筒部を有する成形品、特に、円筒部とハウジング部を有する成形品で、さらに高温条件下での作動耐久性(高温靭性)が求められる成形品に好適に用いられる。ここで言う「円筒部とハウジング部を有する成形品」とは、ハウジング部は円筒部の開口部以外の円筒部側面に有しており、ハウジング部の形状は四角形状、三角形状、楕円形状などいずれの形状、またはそれぞれの複合形状であっても良く、そのハウジング部にリブが設置されていても良い。また、円筒部とハウジング部の間に、円筒部とハウジング部を取り付けるための部位を有していても良く、その形状は四角形状、三角形状、楕円形状などいずれの形状、またはそれぞれの複合形状であっても良く、そのハウジング部を取り付けるための部位にリブが設置されていても良い。
円筒部とハウジング部を有する成形品において、円筒部の開口部以外の円筒部側面にハウジング部もしくはハウジング部を取り付けるための部位を一体成形しようとすると、ハウジング部もしくはハウジング部を取り付けるための部位の存在により、円筒部の内径が歪みやすくなり、円筒部内径の同軸度が悪くなることがあるため、円筒部の内径に同軸性が求められる場合は、その歪みによって問題が生じる場合がある。特に、円筒部の内部を流体や気体が通過し、その流量を円筒部に内在した制御弁の機構によって制御する成形品などの場合、円筒部に生じた歪みによって円筒部内径の同軸度が悪くなり、流体または気体の流量制御の機能を低下させる恐れがある。
本発明の組成物を使用することで、円筒部の開口部以外の円筒部側面にハウジング部もしくはハウジング部を取り付けるための部位を一体成形しても、円筒部の内径の歪みを抑制することで、円筒部の内径の同軸度を保つことができ、円筒部の内径が30mmから100mmの時、内径の同軸度が100μm以下の円筒部とハウジング部を有する成形品を得ることができる。さらに、得られた成形品は、高温条件下での高い作動耐久性(高温靭性)を有する。
円筒部とハウジング部を有する成形品としては、ウォームギアを内包する自動車部品、電気電子部品等が挙げられ、より具体的には、ウォームギアを内包する車載用パワーシートギアハウジング、パワーウィンドウギアハウジング等が挙げられる。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。実施例、比較例で使用する原料の略号および内容を以下に示す。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂:東レ(株)製“トレコン”(登録商標)1050M(商品名)
(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂:東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)TSB900(商品名)
(C−1)アクリロニトリル/スチレン共重合体:スチレンとアクリロニトリルを懸濁重合しビーズ状のビニル系共重合体を調製した。アクリロニトリル/スチレン共重合体の各成分の重量比は24/76(重量%)である。
(C−2−1) アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体:ポリブタジエンラテックス(ゴム粒子径0.25μ、ゲル含率80%)60重量部(固定分換算)の存在下でスチレン70重量%、アクリロニトリル30重量%からなる単量体混合物40重量部を乳化重合した。得られたグラフト共重合体は硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和、洗浄、ろ過、乾燥してパウダー状のグラフト共重合体を調製した。共重合体中におけるブタジエン量は60重量%である。
(C−2−2)アクリロニトリル/スチレン/アクリルゴム共重合体:アクリル系ゴム質重合体(ゴム粒子径0.20μ、ゲル含率95%)50重量部(固定分換算)の存在下でスチレン73.0重量%、アクリロニトリル27.0重量%からなる単量体混合物50重量部を乳化重合した。得られたグラフト共重合体は硫酸マグネシウムで凝固し、脱水、乾燥してパウダー状のグラフト共重合体を調製した。共重合体中におけるアクリルゴム量は50重量%である。
(D)炭酸カルシウム:カルファイン製 KSS−1000(商品名)
(E)強化繊維:日本電気硝子製、ECS03T187(商品名)
(F)リン系安定剤:ADEKA(株)製 アデカスタブAX−71(商品名)
(G)多官能性化合物:ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、日本乳化剤製 TMP−F32(商品名)。
実施例および比較例における評価方法を以下にまとめて示す。
(1)流動性(バーフロー流動長)
日精樹脂工業射出成形機“PS40”を用い、各実施例および比較例で得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を、厚み1mm、幅10mmの短冊型に8秒間射出し、得られた短冊型成形品の長さ(バーフロー流動長)を測定した。射出条件は、シリンダー温度270℃、金型温度60℃、射出圧力50MPaで実施した。流動長が大きいほど、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性は良好と判断できる。
(2)成形性
日精樹脂工業射出成形機“PS40”を用い、シリンダ温度270℃、金型温度60℃、冷却時間20秒の成形条件でウェルドダンベル(ASTM1号タイプ、厚み3.2mm)を成形した。成形時において、流動性が悪く充填不可能なものや、あるいは充填した後の成形品突き出し時に試験片が変形したり、突き出し箇所が大きく挫屈するようなものを成形性不良として表中「×」で示した。充填後、成形品突出し時に変形が起こらないものは「○」とし、さらに、冷却時間を15秒に短縮しても成形品の突出し時に変形が起こらないものについては、「◎」で示した。
(3)高温靭性(80℃雰囲気下での引張破壊歪み)
各実施例および比較例で得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から、住友重工業製射出成形機“SGE75DU”を使用して、ISO294に準拠して試験片(ISO金型タイプA)を成形した。ISO527−1、2に準拠して、インストロンジャパン製インストロン5581にて、80℃雰囲気下で引張破壊歪みを測定した(引張試験速度:5mm/min、チャック間:115mmで測定した)。80℃雰囲気下での引張破壊歪みが3%以上であれば高温靭性は良好と判断できる。
(4)寸法精度(同軸度)
各実施例および比較例で得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から、射出成形機(住友SE100DU)を使用して、図1に示す円筒部を有する成形品を成形した。成形条件はシリンダ温度270℃、金型温度60℃、充填時間0.4秒、保圧力70MPa、その他条件は一般的な成形条件で成形した。図1(d)に示すようにゲートから遠い円筒開口部を底面にし、この底面を基準面(図1(d)の7)とした。ゲートから近い円筒開口部の端面から5mm、20mmの円(円筒部)の中心よりそれぞれ、基準面に対する垂線をおろしたときの、2本の垂線の基準面上の交点の距離(図1(d)の8)を同軸度とした。測定はミツトヨ製3次元寸法測定機を使用し、行った。同軸度の値が小さいほど、寸法精度が良好であると判断できる。成形品の同軸度が0.4mm以下であれば、寸法精度は良好と判断できる。
[実施例1〜17]
表1に示す配合組成に従い、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、および(F)成分をシリンダー温度260℃に設定したスクリュー径57mmφの二軸押出機(WERNER&Pfeiderer社製ZSK57)の元込め部から、(E)成分および(G)成分についてはサイドから供給し、溶融混練を行った。ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得た。得られたPBT樹脂組成物について、上記方法で評価した結果を表1に記した。
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、いずれも流動性、成形性に優れ、寸法精度(同軸度)に優れた成形品を得ることができた。実施例1〜4に示すように、(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量が多いほど、流動性、成形性がより向上した。一方、実施例2、4に示すように(B)ポリエチレンテレフタレートの配合量が多いほど、成形品の寸法精度(同軸度)が向上した。実施例5、6に示すように、(C)スチレン系樹脂の配合量が多いほど、流動性、成形品の寸法精度(同軸度)が向上した。実施例7、12に示すように、(D)炭酸カルシウムの配合量が多いほど、成形品の寸法精度(同軸度)が向上した。実施例8、9に示すように(E)強化繊維の配合量が多いほど、成形品の寸法精度(同軸度)が向上した。実施例10〜17に示すように、(C)スチレン系樹脂に含まれるゴム成分の量が多いほど、成形品の高温靭性(80℃引張破壊歪み)が向上した。実施例12、16の組成となるように配合した場合は、流動性、成形性、成形品の高温靭性、寸法精度(同軸度)のバランスが最も優れたものであった。
[比較例1〜23]
表2に示す配合組成に変更した以外は実施例1〜17と同様にして、PBT樹脂組成物のペレットを得た。得られたPBT樹脂組成物について、実施例1〜17と同様に評価した結果を表2に記した。
比較例1、2、5に示すように、(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量が58重量部を超えると、成形品の寸法精度(同軸度)が低下した。一方、(A)ポリブチレンテレフタレートの配合量が38重量部未満であると、成形性が低下した。
比較例3、4に示すように、(B)ポリエチレンテレフタレートの配合量が16重量部を超えると、流動性、成形性が低下した。一方、(B)ポリエチレンテレフタレートの配合量が6重量部未満であると、成形品の寸法精度(同軸度)が低下した。
比較例6、7に示すように、(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリエチレンテレフタレートの配合比が7.5を超えると、成形品の寸法精度(同軸度)が低下した。(A)ポリブチレンテレフタレートと(B)ポリエチレンテレフタレートの配合比が2.6未満であると、流動性、成形性が低下した。
比較例8、9および10に示すように、(C)スチレン系樹脂の配合量が56重量部を超えると、成形性が低下した。(C)スチレン系樹脂の配合量が26重量部未満であると、高温靭性(80℃引張破壊歪み)、成形品の寸法精度(同軸度)が低下した。
比較例11、12および13に示すように、(D)炭酸カルシウムの配合量が、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレート、(C)スチレン系樹脂の合計100重量部に対し5重量部を超えると、流動性、成形性が低下した。また、(D)炭酸カルシウムの配合量が2重量部未満であると、成形品の寸法精度(同軸度)が低下した。
比較例14、15、16に示すように、(E)強化繊維の配合量が、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレート、(C)スチレン系樹脂の合計100重量部に対し、50重量部を超えると、流動性、成形性が低下した。また、(E)強化繊維の配合量が30重量部未満であると、成形品の寸法精度(同軸度)が低下した。
比較例17、18に示すように、(F)リン系安定剤の配合量が、(A)ポリブチレンテレフタレート、(B)ポリエチレンテレフタレートの合計100重量部に対し、1重量部を超えると、流動性、成形品の寸法精度(同軸度)が低下した。また、(F)リン系安定剤の配合量が0.1重量部未満であると、成形性、成形品の寸法精度(同軸度)が低下した。
比較例19〜23に示すように、(C)スチレン系樹脂に含まれるゴム成分の量が、5重量%以下の場合、成形品の高温靭性(80℃引張破壊歪み)が低下した。また、ゴム成分の量が45重量%を超えると、成形品の寸法精度(同軸度)が低下した。