JP6709377B2 - 蛍光x線分析装置および蛍光x線分析方法 - Google Patents

蛍光x線分析装置および蛍光x線分析方法 Download PDF

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Description

本発明は、X線管からの連続X線をも1次X線として利用し、内標準法を用いる蛍光X線分析装置および蛍光X線分析方法に関する。
従来、試料から発生する蛍光X線の強度を最大にするために、複数のX線管と、複数のX線管の中から1つのX線管を選択するX線管選択手段と、X線管位置を調整するX線管調整手段と、分光素子位置を調整する分光素子位置調整手段と、を備え、広い範囲の波長にわたって高感度、高精度の分析が行える蛍光X線分析装置がある(特許文献1)。また、蛍光X線分析装置を用いた高精度の定量分析法としては、内標準元素を含む検量線用試料を用いて、内標準元素の蛍光X線の強度に対する、測定対象元素の蛍光X線の強度との比を測定し、その比と検量線用試料の濃度との関係から検量線を作成しておいて、未知試料中の測定対象元素を定量する内標準法がある。
特開2008−32703号公報
しかし、特許文献1に記載の蛍光X線分析装置は、X線管から放射されたX線から所定の特性X線を分光して1次X線とするため、この1次X線が有するエネルギーよりも低いエネルギー範囲でしか測定できない。そのため、広いエネルギー範囲を測定するためには、複数のX線管から1つのX線管を選択するX線管選択手段、X線管の位置を調整するX線管位置調整手段、分光素子の位置を調整する分光素子位置調整手段など多くの手段が必要であり、装置の構成が複雑になり、コストアップになっていた。また、X線管から放射されたX線を分光して所定の特性X線を反射して1次X線とするため、この1次X線が有するエネルギーよりも低いエネルギーで励起できる元素しか内標準元素として選択できなかった。X線管から放射されたX線を分光せずに、1次X線として連続X線を用いて広いエネルギー範囲を測定する装置もあるが、SN比が悪く微量分析には利用できない。
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、複数のX線管から1つのX線管を選択するX線管選択手段、X線管の位置を調整するX線管位置調整手段、分光素子の位置を調整する分光素子位置調整手段などを備えることなく、低コストの簡易な構成で、X線管からの特性X線に加えてその特性X線よりも高エネルギーの連続X線で励起できる広いエネルギー範囲にわたって測定が可能であり、X線管からの特性X線では励起できない元素であって、測定対象元素や内標準元素にできないX線管のターゲット材に含まれる元素から指定された元素を内標準元素として、迅速に高感度、高精度の分析ができる蛍光X線分析装置および蛍光X線分析方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明の蛍光X線分析装置は、X線管と、前記X線管から放射されたX線を分光する分光素子であって、所定の特性X線、および、その所定の特性X線よりも高エネルギーの連続X線を反射する分光素子と、前記所定の特性X線および前記高エネルギーの連続X線を含む1次X線が照射された試料から発生する2次X線の強度を測定する検出器と、を備え、前記X線管のターゲット材に含まれる元素から指定された内標準元素から発生する、前記所定の特性X線よりも高エネルギーの蛍光X線の測定強度に対する、測定対象元素から発生する蛍光X線の測定強度の比に基づいて測定対象元素を定量する。
X線管のターゲット材に含まれる元素とは、ターゲット材に、主成分として、または、1次X線として十分な強度で特性X線を発生させる含有率で、含まれる元素であり、不純物として含まれる元素ではない。
本発明の蛍光X線分析装置によれば、X線管から放射されたX線を分光する分光素子であって、所定の特性X線、および、その所定の特性X線よりも高エネルギーである所定の連続X線を反射する分光素子を備え、前記X線管のターゲット材に含まれる元素から指定された内標準元素から発生する、前記所定の特性X線よりも高エネルギーの蛍光X線の測定強度に対する、測定対象元素から発生する蛍光X線の測定強度の比に基づいて測定対象元素を定量するので、複数のX線管から1つのX線管を選択するX線管選択手段、X線管の位置を調整するX線管位置調整手段、分光素子の位置を調整する分光素子位置調整手段などを備えることなく、低コストの簡易な構成で、X線管からの特性X線に加えてその特性X線よりも高エネルギーの連続X線で励起できる広いエネルギー範囲にわたって測定が可能であり、X線管からの特性X線では励起できない元素であって、測定対象元素や内標準元素にできないX線管のターゲット材に含まれる元素から指定された元素を内標準元素として、迅速に高感度、高精度の分析ができる。
本発明の蛍光X線分析装置においては、前記分光素子が、原子番号42から52までの元素のうち少なくとも1つの元素の蛍光X線のKα線を励起する、前記所定の連続X線を反射するのが好ましい。蛍光X線分析で一般的に用いられるモリブデンやロジウムなどをターゲット材とするX線管を使用する場合、従来の蛍光X線分析装置では、原子番号42から52までの元素はスペクトルに重なりが多いL線でしか測定できなかったので、分析精度が良くなかった。本発明におけるこの好ましい構成によれば、原子番号42から52までの元素のうち少なくとも1つの元素である測定対象元素に対して、分光素子が反射する所定の連続X線が、スペクトルの重なりが障害にならないKα線を励起するので、高感度、高精度の分析ができる。
本発明の蛍光X線分析装置においては、前記X線管が、モリブデンを含むターゲット材を有するモリブデンX線管であり、前記所定の特性X線がMo−Kα線で、前記所定の連続X線がMo−Kα線の2倍のエネルギーを有する連続X線であり、測定対象元素がカドミウムで、内標準元素がモリブデンであり、Mo−Kβ線の測定強度に対するCd−Kα線の測定強度の比に基づいてカドミウムを定量するのが好ましい。この場合には、分光素子が反射するMo−Kα線の2倍のエネルギーを有する連続X線が、スペクトルの重なりが障害にならないCd−Kα線と、内標準線としてのMo−Kβ線を励起するので、カドミウムについて高感度、高精度の分析ができる。これに対し、従来の蛍光X線分析装置では、カドミウムの測定にCd−Lα線を用いていたが、空気中のAr、液体試料滴下用のガラス基板中のK、Caなどから発生する、Ar−Kα線、K−Kα線、Ca−Kα線などがCd−Lα線に重なるため、カドミウムについて高感度、高精度の分析ができなかった。
本発明の蛍光X線分析方法は、X線管と、前記X線管から放射されたX線を分光する分光素子であって、所定の特性X線、および、その所定の特性X線よりも高エネルギーである所定の連続X線を反射する分光素子と、前記所定の特性X線および前記所定の連続X線を含む1次X線が照射された試料から発生する2次X線の強度を測定する検出器と、を備える蛍光X線分析装置を用いて、前記X線管のターゲット材に含まれる元素から指定した内標準元素を添加した試料について、前記X線管のターゲット材に含まれる元素から指定した内標準元素から発生する、前記所定の特性X線よりも高エネルギーの蛍光X線の測定強度に対する、測定対象元素から発生する蛍光X線の測定強度の比に基づいて測定対象元素を定量する。
本発明の蛍光X線分析方法によれば、X線管から放射されたX線を分光する分光素子であって、所定の特性X線、および、その所定の特性X線よりも高エネルギーである所定の連続X線を反射する分光素子を備える蛍光X線分析装置を用いて、X線管のターゲット材に含まれる元素から指定した内標準元素を添加した試料について、前記X線管のターゲット材に含まれる元素から指定した内標準元素から発生する、所定の特性X線よりも高エネルギーの蛍光X線の測定強度に対する、測定対象元素から発生する蛍光X線の測定強度の比に基づいて測定対象元素を定量するので、低コストの簡易な装置を用いて、X線管からの特性X線に加えてその特性X線よりも高エネルギーの連続X線で励起できる広いエネルギー範囲にわたって測定が可能であり、X線管からの特性X線では励起できない元素であって、測定対象元素や内標準元素にできないX線管のターゲット材に含まれる元素から指定された元素を内標準元素として、迅速に高感度、高精度の分析ができる。
本発明の蛍光X線分析方法においては、前記分光素子が、原子番号42から52までの元素のうち少なくとも1つの元素の蛍光X線のKα線を励起する、前記所定の連続X線を反射する蛍光X線分析装置を用いて、原子番号42から52までの元素のうち少なくとも1つの元素を測定対象元素として指定し、指定した測定対象元素の蛍光X線のKα線の強度を測定するのが好ましい。この場合には、原子番号42から52までの元素のうち少なくとも1つの元素である測定対象元素に対して、分光素子が反射する所定の連続X線が、スペクトルの重なりが障害にならないKα線を励起するので、指定した測定対象元素について高感度、高精度の分析ができる。
本発明の蛍光X線分析方法においては、前記X線管が、モリブデンを含むターゲット材を有するモリブデンX線管であり、前記所定の特性X線がMo−Kα線で、前記所定の連続X線がMo−Kα線の2倍のエネルギーを有する連続X線であり、測定対象元素がカドミウムで、内標準元素がモリブデンであり、Mo−Kβ線の測定強度に対するCd−Kα線の測定強度の比に基づいてカドミウムを定量するのが好ましい。この場合には、分光素子が反射するMo−Kα線の2倍のエネルギーを有する連続X線が、スペクトルの重なりが障害にならないCd−Kα線と、内標準線としてのMo−Kβ線を励起するので、カドミウムについて高感度、高精度の分析ができる。
本発明の第1〜3実施形態の蛍光X線分析装置の概略図である。 同装置が備える分光素子の概略図である。 反射層の厚さに対するスペーサ層の厚さの比と2次線の反射率との関係を示す図である。 同装置が備える別の分光素子の概略図である。 第1実施形態の蛍光X線分析装置によってカドミウムとモリブデンを含む試料を測定したスペクトルである。 従来の蛍光X線分析装置によってカドミウムとモリブデンを含む試料を測定したスペクトルである。 図6のCd−Lα線の近辺を拡大したスペクトルである。
以下、本発明の第1実施形態の蛍光X線分析装置1について説明する。図1に示すように、この蛍光X線分析装置1は、X線管2と、X線管2から放射されたX線3を分光する分光素子であって、所定の特性X線、および、その所定の特性X線よりも高エネルギーである所定の連続X線を反射する分光素子43aと、前記所定の特性X線および前記所定の連続X線を含む1次X線7が照射された試料Sから発生する2次X線9の強度を測定する検出器10と、を備え、X線管2のターゲット材に含まれる元素から指定された内標準元素から発生する、前記所定の特性X線よりも高エネルギーの蛍光X線9の測定強度に対する、測定対象元素から発生する蛍光X線9の測定強度の比に基づいて測定対象元素を定量する。
X線管2は、例えばモリブデンを含むターゲット材を有するモリブデンX線管2である。検出器10は、例えばSDD、SSDなどの半導体検出器であり、高計数まで計数できるSDDが好ましい。
分光素子43aは、図2に示すように、反射層4aとこの反射層4aを形成する元素よりも原子番号の小さい元素を含むスペーサ層4bからなり所定の周期長dを有する層対を基板4c上に複数積層した多層膜で構成される。基板4cは、X線管2から放射されたX線3を反射して集光するように湾曲されており、例えば単結晶基板であるシリコン基板、ゲルマニウム基板などである。反射層4aとスペーサ層4bとの厚さの比は1対2、層対の周期長dは40.7Åである。分光素子43aは、入射角度θおよび出射角度θが0.5°になるように配置され(図2)、モリブデンX線管2から放射されたX線3を分光して、17.4keVのMo−Kα線、およびMo−Kα線の2倍のエネルギーである34.8keVの連続X線を強く反射する。
反射層4aとスペーサ層4bとの現実的な厚さは8Å以上であることを考慮すると、2次線を強く反射するような反射層4aとスペーサ層4bとの厚さの比としては、1対1.4ないし1対4が好ましく、1対1.8ないし1対3がより好ましい。参考のために、図3に反射層4aの厚さに対するスペーサ層4bの厚さの比と2次線の反射率との関係を示す。
第1実施形態の蛍光X線分析装置1の動作とともに、対応する一実施形態の蛍光X線分析方法について説明する。まず、試料S中のカドミウムを定量する分析において、モリブデンX線管2のターゲット材に含まれる元素から指定されたモリブデンを、内標準元素として例えば2ppmだけ添加した、検量線用試料Sおよび未知試料Sを準備する。
次に、検量線用試料Sおよび未知試料Sを1試料ごとに異なる試料基板11、例えばガラス基板(図1)に滴下して乾燥させて、これらの試料基板11を蛍光X線分析装置1の図示しない試料保持部に載置する。蛍光X線分析装置1を作動させると、モリブデンX線管2から放射されたX線3が分光素子43aで反射されて、17.4keVのMo−Kα線、およびMo−Kα線の2倍のエネルギーである34.8keVの連続X線を含む1次X線7が、試料保持部によって試料測定位置(図示なし)に移動された、検量線用試料Sが滴下乾燥された試料基板11に照射される。そして、内標準元素であるモリブデンから発生するMo−Kβ線(19.6keV)の測定強度に対する、測定対象元素であるカドミウムから発生するCd−Kα線(23.1keV)の測定強度の比に基づいて、検量線が作成される。作成された検量線の縦軸はMo−Kβ線の測定強度に対する、Cd−Kα線の測定強度の比であり、横軸は検量線用試料Sのカドミウムの濃度である。
検量線が作成されると、検量線用試料Sと同様に未知試料Sについて測定され、内標準元素であるモリブデンから発生するMo−Kβ線の測定強度に対する、測定対象元素であるカドミウムから発生するCd−Kα線の測定強度の比に基づいて、検量線から未知試料S中のカドミウムが定量される。
第1実施形態の蛍光X線分析装置1または対応する一実施形態の蛍光X線分析方法によれば、低コストの簡易な構成で、モリブデンX線管2からの17.4keVのMo−Kα線に加えてMo−Kα線の2倍のエネルギーである34.8keVの連続X線で励起できる広いエネルギー範囲にわたって測定が可能であり、モリブデンX線管2からのMo−Kα線では励起できない元素であって、測定対象元素や内標準元素にできないモリブデン
X線管2のターゲット材に含まれる元素から指定されたモリブデンを内標準元素として、迅速に高感度、高精度の分析ができる。特に、分光素子43aが反射するMo−Kα線の2倍のエネルギーを有する34.8keVの連続X線が、スペクトルの重なりが障害にならないCd−Kα線と、内標準線としてのMo−Kβ線を励起するので、カドミウムについて高感度、高精度の分析ができる。これに対し、従来の蛍光X線分析装置では、カドミウムの測定にCd−Lα線を用いていたが、空気中のAr、試料基板11であるガラス基板中のK、Caなどから発生する、Ar−Kα線、K−Kα線、Ca−Kα線などがCd−Lα線に重なるため、カドミウムについて高感度、高精度の分析ができなかった。
なお、分光素子43aに代えて、以下に説明する分光素子44a(図4)を用いてもよい。この分光素子44aは、図4(反射層とスペーサ層の符号を省略している)に示すように、反射層とスペーサ層からなり所定の周期長を有する層対を基板4c上に複数積層した多層膜4eで構成される。多層膜4eは、多層膜4e1と多層膜4e2の2段で構成され、多層膜4e1は、前述のように湾曲された基板4c上に多層膜4e2を介して積層されている。そして、基板4cにより近い多層膜4e2の方が多層膜4e1よりも層対の所定の周期長が小さく設定されている。
多層膜4e1においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対1、層対の周期長は40.7Åであり、多層膜4e2においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対1、層対の周期長は23.7Åである。基板4cに近い多層膜ほど層対の周期長が小さく設定されているので、エネルギーが小さくて吸収されやすいX線ほど、入射面から浅い位置で反射されることになり、全体としての反射の効率もよい。多層膜段数は3以上であってもよい。分光素子44aは、入射角度θおよび出射角度θが0.5°になるように配置され(図4)、モリブデンX線管2から放射されたX線3を分光して、多層膜4e1において17.4keVのMo−Kα線を強く反射する一方、多層膜4e2においてMo−Kα線よりも高エネルギーである30keVの連続X線を強く反射する。
この分光素子44aを用いる場合には、34.8keVの連続X線に代わり、30keVの連続X線が強く反射され、分光素子43aを用いた場合と同様の効果が得られる。
さらに、分光素子44aに代えて、以下に説明する分光素子44b(図4)を用いてもよい。この分光素子44bでは、多層膜4e1においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対2、層対の周期長は40.7Åであり、多層膜4e2においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対1、層対の周期長は23.7Åである。分光素子44bは、入射角度θおよび出射角度θが0.5°になるように配置され(図4)、モリブデンX線管2から放射されたX線3を分光して、多層膜4e1において17.4keVのMo−Kα線、およびMo−Kα線の2倍のエネルギーである34.8keVの連続X線を強く反射する一方、多層膜4e2においてMo−Kα線よりも高エネルギーである30keVの連続X線を強く反射する。
この分光素子44bを用いる場合には、34.8keVの連続X線および30keVの連続X線が強く反射され、やはり分光素子43aを用いた場合と同様の効果が得られる。
ここで、本発明と従来技術との比較のために、第1実施形態の、分光素子44bを備える蛍光X線分析装置1を用いて、1ppmのカドミウムが含有され、2ppmのモリブデンが添加されている試料Sを測定したスペクトルを図5に示す。このスペクトルでは、30keVの連続X線および34.8keVの連続X線によって励起された、Cd−Kα線およびMo−Kβ線が高強度で発生している。
次に、モリブデンX線管、およびMo−Kα線のみを強く反射する分光素子を備える従来の蛍光X線分析装置を用いて、1ppmのカドミウムが含有され、2ppmのモリブデンが添加されている試料Sを測定したスペクトルを図6に示す。このスペクトルでは、Cd−Kα線およびMo−Kβ線がともに発生していない。これは、従来の蛍光X線分析装置では、Cd−Kα線およびMo−Kβ線を励起する連続X線が分光素子によって反射されないからである。また、図6に示すスペクトルでは、蛍光X線であるMo−Kα線が1次X線であるMo−Kα線の散乱線と重なっており、分析に用いることができない。このように、モリブデンX線管およびMo−Kα線のみを強く反射する分光素子を備える従来の蛍光X線分析装置では、Mo−Kβ線を含め、Mo−Kα線以上のエネルギーを持つ蛍光X線を分析に用いることができなかった。
図6に示すCd−Lα線の近辺をエネルギー方向に拡大したスペクトルを図7に示す。従来の蛍光X線分析装置では、図7に示すように、Cd−Lα線が、空気中のAr、試料滴下用のガラス基板中のK、Caなどから発生する、Ar−Kα線、K−Kα線、Ca−Kα線などと重なっている。このため、従来の蛍光X線分析装置で、Cd−Lα線を用いてカドミウムを測定しても、高感度、高精度に分析できなかった。また、モリブデンX線管2およびMo−Kα線のみを強く反射する分光素子を備える従来の蛍光X線分析装置では、上述したように、Mo−Kα線およびMoーKβ線を分析に用いることができないので、モリブデンを内標準元素として分析することができなかった。このように、従来の蛍光X線分析装置では、ターゲット材に含まれる元素から指定された元素を内標準元素として分析することができなかった。
第1実施形態の、分光素子44bを備える蛍光X線分析装置1を用いて、1ppmのカドミウムが含有され、2ppmのモリブデンが添加されている試料Sを測定したスペクトル(図5)では、カドミウムから発生するCd−Kα線が他のX線スペクトルと重なることなく高強度で発生するとともに、モリブデンから発生するMo−Kβ線も他のX線スペクトルと重なることなく高強度で発生する。
この場合、さらに、カドミウムから発生するCd−Kα線(23.1keV)とモリブデンから発生するMo−Kβ線(19.6keV)とのエネルギーが近接しており、測定対象元素と内標準元素とのX線特性が類似しているので、試料S中の共存元素による吸収や励起の影響を高精度に補正できる。特に、試料Sを試料基板11に滴下乾燥させて測定する場合には、試料Sの滴下ごとに滴下位置や乾燥痕の形状が少し変化するが、内標準測定をすることにより、その滴下位置や乾燥痕の形状の変化による2次X線9の測定強度の変動を補正できる。このように、第1実施形態の、分光素子44bを備える蛍光X線分析装置1を用いて、内標準測定すると、従来の蛍光X線分析装置に比べて、感度、SN比とも大幅に向上する。
なお、以上に説明した第1実施形態の蛍光X線分析装置1および対応する蛍光X線分析方法において、例えば、2mm厚のアルミニウム板であるフィルターが進退自在手段(図示なし)によって分光素子43a、44a、44bと試料Sとの間に挿入されて、試料Sが測定されてもよい。このフィルターは、Mo−Kβ線、Cd−Kα線、30keVおよび34.8keVの連続X線の強度を低減させることはほとんどないが、Mo−Kα線の強度を1/10に低減するので、Mo−Kα線によって励起されていた低エネルギー側のX線の測定強度が弱くなり、低エネルギー側の妨害線の影響を少なくすることができる。特に、測定対象元素が高エネルギー側の場合には測定対象元素以外の蛍光X線9の信号を除去して、いわゆる検出器10の不感時間を短縮できる。
次に、第2実施形態の蛍光X線分析装置1について説明する。第2実施形態の蛍光X線分析装置1は、第1実施形態の蛍光X線分析装置1と比べて、X線管2がロジウムを含むターゲット材を有するロジウムX線管2であり、分光素子が、反射層4aとスペーサ層4bとの厚さの比が1対2、層対の周期長dが35.1Åである分光素子43b(図2)である点が異なるだけであり、他の構成は同じである。
第2実施形態の蛍光X線分析装置1の動作とともに、対応する一実施形態の蛍光X線分析方法について説明する。試料S中のスズを定量する分析において、ロジウムX線管2のターゲット材に含まれる元素から指定されたロジウムを、内標準元素として例えば2ppmだけ添加した、検量線用試料Sおよび未知試料Sを準備する。
次に、第1実施形態の蛍光X線分析装置1に対応する蛍光X線分析方法と同様にして検量線用試料Sおよび未知試料Sを試料基板11(図1)に滴下して乾燥させて、これらの試料基板11を試料保持部に載置する。蛍光X線分析装置1を作動させると、ロジウムX線管2から放射されたX線3が分光素子43bで反射されて、20.2keVのRh−Kα線、およびRh−Kα線の2倍のエネルギーである40.4keVの連続X線を含む1次X線7が、試料保持部によって試料測定位置に移動された、検量線用試料Sが滴下乾燥された試料基板11に照射される。そして、内標準元素であるロジウムから発生するRh−Kβ線(22.8keV)の測定強度に対する、測定対象元素であるスズから発生するSn−Kα線(25.1keV)の測定強度の比に基づいて、検量線が作成される。作成された検量線の縦軸はRh−Kβ線の測定強度に対する、Sn−Kα線の測定強度の比であり、横軸は検量線用試料Sのスズの濃度である。
検量線が作成されると、検量線用試料Sと同様に未知試料Sについて測定され、内標準元素であるロジウムから発生するRh−Kβ線の測定強度に対する、測定対象元素であるスズから発生するSn−Kα線の測定強度の比に基づいて、検量線から未知試料S中のスズが定量される。
第2実施形態の蛍光X線分析装置1または対応する一実施形態の蛍光X線分析方法によれば、低コストの簡易な構成で、ロジウムX線管2からの20.2keVのRh−Kα線に加えてRh−Kα線の2倍のエネルギーである40.4keVの連続X線で励起できる広いエネルギー範囲にわたって測定が可能であり、ロジウムX線管2からのRh−Kα線では励起できない元素であって、測定対象元素や内標準元素にできないロジウムX線管2のターゲット材に含まれる元素から指定されたロジウムを内標準元素として、迅速に高感度、高精度の分析ができる。特に、分光素子43bが反射するRh−Kα線の2倍のエネルギーを有する40.4keVの連続X線が、スペクトルの重なりが障害にならないSn−Kα線と、内標準線としてのRh−Kβ線を励起するので、スズについて高感度、高精度の分析ができる。
なお、分光素子43bに代えて、以下に説明する分光素子44c(図4)を用いてもよい。この分光素子44cでは、多層膜4e1においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対1、層対の周期長は35.1Åであり、多層膜4e2においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対1、層対の周期長は23.7Åである。分光素子44cは、入射角度θおよび出射角度θが0.5°になるように配置され(図4)、ロジウムX線管2から放射されたX線3を分光して、多層膜4e1において20.2keVのRh−Kα線を強く反射する一方、多層膜4e2においてRh−Kα線よりも高エネルギーである30keVの連続X線を強く反射する。
この分光素子44cを用いる場合には、40.4keVの連続X線に代わり、30keVの連続X線が強く反射され、分光素子43bを用いた場合と同様の効果が得られる。
さらに、分光素子44cに代えて、以下に説明する分光素子44d(図4)を用いてもよい。この分光素子44dでは、多層膜4e1においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対2、層対の周期長は35.1Åであり、多層膜4e2においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対1、層対の周期長は23.7Åである。分光素子44dは、入射角度θおよび出射角度θが0.5°になるように配置され(図4)、ロジウムX線管2から放射されたX線3を分光して、多層膜4e1において20.2keVのRh−Kα線およびRh−Kα線の2倍のエネルギーである40.4keVの連続X線を強く反射する一方、多層膜4e2においてRh−Kα線よりも高エネルギーである30keVの連続X線を強く反射する。
この分光素子44dを用いる場合には、30keVの連続X線および40.4keVの連続X線が強く反射され、やはり分光素子43bを用いた場合と同様の効果が得られる。
次に、第3実施形態の蛍光X線分析装置1について説明する。第3実施形態の蛍光X線分析装置1は、第1実施形態の蛍光X線分析装置1と比べて、X線管2がタングステンを含むターゲット材を有するタングステンX線管2であり、分光素子が、反射層4aとスペーサ層4bとの厚さの比が1対1、層対の周期長dが73.2Åである分光素子43c(図2)である点が異なるだけであり、他の構成は同じである。
第3実施形態の蛍光X線分析装置1の動作とともに、対応する一実施形態の蛍光X線分析方法について説明する。試料S中のカドミウムとクロムを定量する分析において、タングステンX線管2のターゲット材に含まれる元素から指定されたタングステンを、内標準元素として例えば2ppmだけ添加した、検量線用試料Sおよび未知試料Sを準備する。
次に、第1実施形態の蛍光X線分析装置1に対応する蛍光X線分析方法と同様にして検量線用試料Sおよび未知試料Sを試料基板11に滴下して乾燥させて、これらの試料基板11を試料保持部に載置する。蛍光X線分析装置1を作動させると、タングステンX線管2から放射されたX線3が分光素子43cで反射されて、9.7keVのW−Lβ1線、およびW−Lβ1線の3倍のエネルギーである29.0keVの連続X線を含む1次X線7が、試料保持部によって試料測定位置に移動された、検量線用試料Sが滴下乾燥された試料基板11に照射される。
そして、内標準元素であるタングステンから発生するW−Lγ線(11.3keV)の測定強度に対する、測定対象元素であるカドミウムから発生するCd−Kα線(23.1keV)の測定強度の比、および、内標準元素であるタングステンから発生するW−Lγ線(11.3keV)の測定強度に対する、測定対象元素であるクロムから発生するCr−Kα線(5.4keV)の測定強度の比に基づいて、カドミウムとクロムの検量線が作成される。作成されたカドミウムの検量線の縦軸はW−Lγ線の測定強度に対する、Cd−Kα線の測定強度の比であり、横軸は検量線用試料Sのカドミウムの濃度である。作成されたクロムの検量線の縦軸はW−Lγ線の測定強度に対する、Cr−Kα線の測定強度の比であり、横軸は検量線用試料Sのクロムの濃度である。
それぞれの検量線が作成されると、検量線用試料Sと同様に未知試料Sについて測定され、内標準元素であるタングステンから発生するW−Lγ線の測定強度に対する、測定対象元素であるカドミウムから発生するCd−Kα線の測定強度の比に基づいて、カドミウムの検量線から未知試料S中のカドミウムが定量される。カドミウムと同様にクロムについても、クロムの検量線から未知試料S中のクロムが定量される。
第3実施形態の蛍光X線分析装置1または対応する一実施形態の蛍光X線分析方法によれば、低コストの簡易な構成で、タングステンX線管2からの9.7keVのW−Lβ1線に加えてW−Lβ1線の3倍のエネルギーである29.0keVの連続X線で励起できる広いエネルギー範囲にわたって測定が可能であり、タングステンX線管2からのW−Lβ1線では励起できない元素であって、測定対象元素や内標準元素にできないタングステンX線管2のターゲット材に含まれる元素から指定されたタングステンを内標準元素として、迅速に高感度、高精度の分析ができる。特に、分光素子43cが反射するW−Lβ1線の3倍のエネルギーを有する29.0keVの連続X線が、スペクトルの重なりが障害にならないCd−Kα線およびCr−Kα線と、内標準線としてのW−Lγ線を励起するので、カドミウムとクロムについて高感度、高精度の分析ができる。
なお、分光素子43cに代えて、以下に説明する分光素子44e(図4)を用いてもよい。分光素子44eでは、多層膜4e1においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対1、層対の周期長は73.2Åであり、多層膜4e2においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対1、層対の周期長は23.7Åである。分光素子44eは、入射角度θおよび出射角度θが0.5°になるように配置され(図4)、タングステンX線管2から放射されたX線3を分光して、多層膜4e1において9.7keVのW−Lβ1線を強く反射する一方、多層膜4e2においてW−Lβ1線よりも高エネルギーである30keVの連続X線を強く反射する。
この分光素子44eを用いる場合には、29.0keVの連続X線に代わり、30keVの連続X線が強く反射され、分光素子43cを用いた場合と同様の効果が得られる。
さらに、分光素子44eに代えて、以下に説明する分光素子44f(図4)を用いてもよい。この分光素子44fでは、多層膜4e1においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対2、層対の周期長は73.2Åであり、多層膜4e2においては、反射層とスペーサ層との厚さの比は1対1、層対の周期長は23.7Åである。分光素子44fは、入射角度θおよび出射角度θが0.5°になるように配置され(図4)、タングステンX線管2から放射されたX線3を分光して、多層膜4e1において9.7keVのW−Lβ1線およびW−Lβ1線の3倍のエネルギーである29.0keVの連続X線を強く反射する一方、多層膜4e2においてW−Lβ1線よりも高エネルギーである30keVの連続X線を強く反射する。
この分光素子44fを用いる場合には、30keVの連続X線および29.0keVの連続X線が強く反射され、やはり分光素子43cを用いた場合と同様の効果が得られる。
第1〜第3実施形態の蛍光X線分析装置1および対応する各実施形態の蛍光X線分析方法においては、分光素子43a〜43c、44a〜44fを単湾曲分光素子として説明したが、平らな分光素子であってもよい。さらに、分光素子43a〜43c、44a〜44fについてX線3の入射角度θが0.5°になるように配置されていると説明したが、X線3の入射位置が中央部から離れるに従い、入射角度θを連続的に変化させて、これに合わせて多層膜の層対の周期長dを連続的に変えてもよく、これにより、分光素子43a〜43c、44a〜44fから反射されるX線の集光特性と単色性を向上させることができる。
第1〜第3実施形態の蛍光X線分析装置1および対応する各実施形態の蛍光X線分析方法においては、検量線を用いて未知試料S中の測定対象元素を定量したが、分析元素における、相対的な測定強度比である相対感度をあらかじめ蛍光X線分析装置1に記億させておき、検量線を用いず、内標準元素および測定対象元素の測定強度と記憶させた相対感度とを用いて定量値を算出してもよい。
なお、内標準法としては、タングステンX線管を備え、連続X線を分光素子で単色化せずに1次X線とする従来の蛍光X線分析装置を用いて、カドミウムを測定対象元素とし、モリブデン、タングステンなどを内標準元素として、Cd−Kα線を測定線として分析できるが、Cd−Kα線に連続X線が重なって大きなバックグラウンドとなるため、本発明のような高感度、高精度の分析はできない。
1 蛍光X線分析装置
2 X線管
3 X線
7 1次X線
9 2次X線(蛍光X線)
10 検出器
11 試料基板
43a〜43c、44a〜44f 分光素子
S 試料

Claims (6)

  1. X線管と、
    前記X線管から放射されたX線を分光する分光素子であって、所定の特性X線、および、その所定の特性X線よりも高エネルギーである所定の連続X線を反射する分光素子と、 前記所定の特性X線および前記所定の連続X線を含む1次X線が照射された試料から発生する2次X線の強度を測定する検出器と、
    を備え、
    前記X線管のターゲット材に含まれる元素から指定された内標準元素から発生する、前記所定の特性X線よりも高エネルギーの蛍光X線の測定強度に対する、測定対象元素から発生する蛍光X線の測定強度の比に基づいて測定対象元素を定量する蛍光X線分析装置。
  2. 請求項1に記載の蛍光X線分析装置において、
    前記分光素子が、原子番号42から52までの元素のうち少なくとも1つの元素の蛍光X線のKα線を励起する、前記所定の連続X線を反射する蛍光X線分析装置。
  3. 請求項1または2に記載の蛍光X線分析装置において、
    前記X線管が、モリブデンを含むターゲット材を有するモリブデンX線管であり、
    前記所定の特性X線がMo−Kα線で、前記所定の連続X線がMo−Kα線の2倍のエネルギーを有する連続X線であり、
    測定対象元素がカドミウムで、内標準元素がモリブデンであり、Mo−Kβ線の測定強度に対するCd−Kα線の測定強度の比に基づいてカドミウムを定量する蛍光X線分析装置。
  4. X線管と、
    前記X線管から放射されたX線を分光する分光素子であって、所定の特性X線、および、その所定の特性X線よりも高エネルギーである所定の連続X線を反射する分光素子と、 前記所定の特性X線および前記所定の連続X線を含む1次X線が照射された試料から発生する2次X線の強度を測定する検出器と、
    を備える蛍光X線分析装置を用いて、
    前記X線管のターゲット材に含まれる元素から指定した内標準元素を添加した試料について、前記X線管のターゲット材に含まれる元素から指定した内標準元素から発生する、前記所定の特性X線よりも高エネルギーの蛍光X線の測定強度に対する、測定対象元素から発生する蛍光X線の測定強度の比に基づいて測定対象元素を定量する蛍光X線分析方法。
  5. 請求項4に記載の蛍光X線分析方法において、
    前記分光素子が、原子番号42から52までの元素のうち少なくとも1つの元素の蛍光X線のKα線を励起する、前記所定の連続X線を反射する蛍光X線分析装置を用いて、
    原子番号42から52までの元素のうち少なくとも1つの元素を測定対象元素として指定し、指定した測定対象元素の蛍光X線のKα線の強度を測定する蛍光X線分析方法。
  6. 請求項4または5に記載の蛍光X線分析方法において、
    前記X線管が、モリブデンを含むターゲット材を有するモリブデンX線管であり、
    前記所定の特性X線がMo−Kα線で、前記所定の連続X線がMo−Kα線の2倍のエネルギーを有する連続X線であり、
    測定対象元素がカドミウムで、内標準元素がモリブデンであり、Mo−Kβ線の測定強度に対するCd−Kα線の測定強度の比に基づいてカドミウムを定量する蛍光X線分析方法。
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