以下、本発明の建設機械の実施の形態を図面を用いて説明する。本実施の形態においては、建設機械の一例として油圧ショベルを例に挙げて説明する。なお、運転席に着座したオペレータから見た方向を用いて説明する。
まず、本発明の建設機械の第1の実施の形態を適用した油圧ショベルの構成を図1及び図2を用いて説明する。図1は本発明の建設機械の第1の実施の形態を適用した油圧ショベルを示す側面図、図2は図1に示す油圧ショベルの上部旋回体の各種構成を一部省略した状態で示す平面図である。図2中、フロントの一部を二点鎖線で示している。
図1において、油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載され、下部走行体2と共に車体を構成する上部旋回体3と、上部旋回体3の前端部に俯仰動可能に設けられたフロント4とで大略構成されている。
フロント4は、掘削作業等を行うための作動装置であり、ブーム6、アーム7、バケット8を備えている。図2に示すように、ブーム6の基端側となるフート部6aにはピン挿通孔(図示せず)が形成されており、ブーム6は上部旋回体3の後述する旋回フレーム16に対して連結ピン10を用いて回動可能に連結されている。ブーム6の先端部には、図1に示すように、アーム7の基端部が回動可能に連結されている。アーム7の先端部には、バケット8の基端部が回動可能に連結されている。ブーム6、アーム7、バケット8は、それぞれブームシリンダ12、アームシリンダ13、バケットシリンダ14によって回動される。
上部旋回体3は、図1及び図2に示すように、支持構造体であるフレームとしての旋回フレーム16と、旋回フレーム16上の後側に配置された機械室17と、旋回フレーム16上の左前側に設置されたキャブ18と、旋回フレーム16上の右側前端部、すなわち、フロント4(ブーム6)を挟んでキャブ18の反対側に配設された工具箱19と、旋回フレーム16上の右側で工具箱19の後方に配設された燃料タンク20と、旋回フレーム16上の右側で燃料タンク20の後方、すなわち、機械室17の前側に配設された作動油タンク21とを含んで構成されている。旋回フレーム16の後端部、つまり、機械室17の後方には、フロント4との重量バランスをとるために、カウンタウェイト22が取り付けられている。
旋回フレーム16は、図2に示すように、前後方向に延在する厚肉な底板24と、底板24上に立設され左右方向に所定の間隔をもって前後方向に延在する左右の縦板25、25と、底板24や左右の縦板25、25から外側に延在する複数(図2では1つのみ図示)の張出しビーム26と、複数の張出しビーム26に取り付けられ左右に位置する左右のサイドフレーム27、27とで大略構成された支持構造体である。左右の縦板25、25の前側部位はブーム取付部28、28となっている。左右のブーム取付部28、28にはそれぞれ、左右方向に貫通するピン挿通孔28a(図5及び図7参照)が同軸上に形成されている。左右の縦板25、25間にはブーム6のフート部6aが配置され、左右の縦板25、25のピン挿通孔28aとブーム6のピン挿通孔(図示せず)とに連結ピン10を挿通することで、ブーム6が旋回フレーム16に対して連結ピン10を中心として上下方向に回動可能に支持される。
機械室17には、エンジン30が配置されている。エンジン30は、例えば、ディーゼルエンジンである。エンジン30には、排ガスを排出するための排気管31が接続されている。エンジン30の左側には、熱交換装置32が設けられている。熱交換装置32は、エンジン冷却水を冷やすラジエータ、作動油を冷却するオイルクーラ、エンジン30が吸込む空気を冷却するインタクーラ等(いずれも図示せず)により構成されている。エンジン30の右側には、油圧ポンプ33が接続されている。油圧ポンプ33は、エンジン30によって駆動され、作動油タンク21内の作動油を図1に示すフロント4の各シリンダ12、13、14や他の油圧アクチュエータ(図示せず)に供給する。
エンジン30の排気管31には、エンジン30の排気を浄化するためのNOx浄化装置35が設置されている。NOx浄化装置35は、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を液体還元剤である尿素水溶液を用いて浄化するものである。NOx浄化装置35は、排気管31に接続された収容筒体36と、収容筒体36内の上流側に収容された尿素選択還元触媒37と、尿素選択還元触媒37の下流側に配置された酸化触媒38と、尿素選択還元触媒37の上流側に設けた尿素噴射弁(図示せず)とを備えている。NOx浄化装置35で使用される液体還元剤は、還元剤タンク40に貯留されている。還元剤タンク40は、工具箱19内に収容されており、供給ライン(図示せず)を介して尿素噴射弁(図示せず)に接続されている。還元剤タンク40の構造の詳細は後述する。
キャブ18は、図1及び図2に示すように、オペレータが搭乗して油圧ショベル1を操作するところである。その内部には、オペレータが着席する運転席、各種操作を行うレバー、ペダル等(いずれも図示せず)が配設されている。
工具箱19は、還元剤タンク40や工具など(図示せず)を収容するものである。工具箱19は、前後方向に2段の階段状となるように構成されており、上部旋回体3上でメンテナンス作業を行う際に作業者の歩行する通路となる。工具箱19の構造の詳細は後述する。
燃料タンク20は、直方体状のタンクとして形成されており、内部に燃料を貯えるものである。燃料タンク20は、ブーム6のフート部6aと旋回フレーム16を連結する連結ピン10の位置よりも後側に配置されており、連結ピン10を抜き差しする作業の邪魔にならないようになっている。作動油タンク21は、直方体状の耐圧タンクとして形成されており、内部に作動油を貯えるものである。
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態の一部を構成する還元剤タンク及び還元剤タンクを収容する工具箱の構造の詳細を図3乃至図7を用いて説明する。
図3は図2に示す油圧ショベルの工具箱内に収容された還元剤タンクをタンク支持板に固定した状態で示す斜視図、図4は図2に示す油圧ショベルの工具箱を拡大した状態で示す斜視図、図5は図4に示す油圧ショベルの工具箱をV−V矢視から見た断面図、図6は図5に示す油圧ショベルの工具箱における蓋体の開いた状態を示す説明図、図7は図5に示す油圧ショベルの工具箱における第1工具箱の回動した状態を示す説明図である。なお、図3乃至図7において、図1及び図2に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
先ず、還元剤タンクの構造を説明する。図3において、還元剤タンク40は、合成樹脂又はステンレス等の材料により形成された多面体の箱状の容器である。例えば、タンク底面部41と、タンク底面部41の前端から立ち上がるタンク前面部42と、タンク底面部41の後端から立ち上がるタンク後面部43と、タンク底面部41の左端及び右端から立ち上がりタンク前面部42とタンク後面部43とを接続する左右のタンク側面部44、44と、これらタンク前面部42、タンク後面部43、左右のタンク側面部44、44の上側を閉塞する屈曲形状のタンク天面部45とで構成されている。タンク天面部45は、その前側部分が水平状の後側部分から下方向に傾斜するように屈曲している。タンク天面部45の傾斜する前側部分には、液体還元剤を補給するための補給口46が斜め上向きに突設されている。補給口46には、補給口46を閉塞するためのキャップ47が着脱可能に取り付けられている。還元剤タンク40は、工具箱19内に収容される際に、L字状に屈曲したタンク支持板50にベルト51を用いて固定される。
次に、工具箱の構造を説明する。図4において、工具箱19は、前後方向に2段の階段状に形成されており、旋回フレーム16上の右側前端部に設置された工具箱下段60と、工具箱下段60上に配置された工具箱上段80とで構成されている。工具箱19の設置された旋回フレーム16の右側前端部の前面には、矩形状の足掛け板29が前方へ突出するように設けられている。足掛け板29、工具箱19の工具箱下段60、工具箱上段80はそれぞれ、上部旋回体3上でメンテナンスを行う作業者が下部走行体2から上部旋回体3に昇るときに、足を掛ける1段目、2段目、3段目の階段として機能する。
工具箱下段60は、図4及び図5に示すにように、その内部に還元剤タンク40を収容するものであり、上下方向に扁平な直方体の箱状に形成されている。工具箱下段60は、旋回フレーム16の前端部から立ち上がる前面部61と、燃料タンク20と対面する後面部62と、前面部61と後面部62を接続する左右の側面部63、63と、これら前面部61、後面部62、左右の側面部63、63の上側を閉塞する上面部64と、前面部61、後面部62、左右の側面部63、63の下端に設けられた下枠部65とを含んでいる。下枠部65は、中央部分が大きく開口した角枠状に形成されている。すなわち、工具箱下段60は、底抜け構造であり、旋回フレーム16との間に還元剤タンク40を収容可能な空間を画成している。上面部64の内側における工具箱上段80の配置部分には、上面部64を補強する補強部材66が取り付けられている。工具箱下段60の高さ寸法は、工具箱下段60の上面部64が旋回フレーム16の縦板25のピン挿通孔28aよりも下側となるように設定されている。
工具箱下段60の前側には、前面部61と上面部64とに亘って左右方向に延びる広幅な下段開口部67が形成されている。下段開口部67は、工具箱下段60内に配置された還元剤タンク40の補給口46に対応する位置に設けられており、還元剤タンク40への液体還元剤の補給時に、補給口46へのアクセスを可能とするものである。下段開口部67には、下段開口部67を開閉可能に覆う下段蓋体68が設けられている。下段蓋体68は、例えば、前面部61と上面部64とに沿ってL字状に屈曲しており、閉じた状態で前面部61に沿う第1面部69と、閉じた状態で上面部64に沿う第2面部70とで構成されている。工具箱下段60の前面部61と下段蓋体68の第1面部69の下端部との間には、第1ヒンジ72が設けられている。下段蓋体68は、図6に示すように、第1ヒンジ72を中心として、工具箱上段80から離れる方向、つまり、第1面部69が下方に第2面部70前方に向かう方向に回動することで、下段開口部67を開放するものである。工具箱下段60の上面部64における下段開口部67の近傍には、後述のヒンジ機構95のための左右の角孔64aが上下方向に貫通して形成されている。
工具箱上段80は、図4及び図5に示すにように、前後方向の長さ寸法が工具箱下段60の前後方向の長さ寸法の半分程度に設定されている。工具箱上段80は、工具箱下段60の下段蓋体68よりも後側で工具箱下段60上に積み重ねられており、連結ピン10(図2参照)が挿通するピン挿通孔28aの軸線の延長線上に配置されている。工具箱上段80は、左右方向に長い箱構造体であり、工具箱下段60の上面部64に載置される下面81と、下面81の前端から立ち上がる前面82と、下面81の後端から立ち上がる後面83と、下面81の左端及び右端から立ち上がり前面82と後面83を接続する左右の側面84、84と、これら前面82、後面83、左右の側面84、84の上側を閉塞する上面85とで構成されている。工具箱上段80は、その内部に工具等を収容するものであり、還元剤タンク40に液体還元剤を補給する際には、液体還元剤を充填した補給容器としての市販の容器Bを配置収容することが可能である。市販の容器Bの例として、バックインボックスが挙げられる。
工具箱上段80には、前面82と上面85とに亘って左右方向に延びる広幅な上段開口部87が形成されている。上段開口部87には、上段開口部87を開閉可能に塞ぐ上段蓋体88が設けられている。上段蓋体88は、前面82と上面85とに沿ってL字状に屈曲しており、閉じた状態で前面82に沿う第1面89と、閉じた状態で上面85に沿う第2面90とで構成されている。工具箱上段80の後面83の上端には、ヒンジ取付板92が後方に向けて突設されている。ヒンジ取付板92と上段蓋体88の第2面90の後端との間には、第2ヒンジ93が設けられている。上段蓋体88は、図6に示すように、第2ヒンジ93を中心として工具箱下段60から離れる方向、つまり、第1面89が上方に第2面90が後方に向かう方向に回動することで、上段開口部87を開放するものである。
上段蓋体88の第1面89の中央部には、上段蓋開口部89aが設けられている。上段蓋開口部89aは、容器Bに付属するノズルN(図10参照)の出入を可能とするものである。上段蓋開口部89aには、上段蓋開口部89aを開閉可能に塞ぐスライド蓋91が設けられている。スライド蓋91の開閉は、スライド蓋91がスライド機構により左右方向にスライドすることで行われる。
工具箱下段60と工具箱上段80との間には、左右のヒンジ機構95(図5乃至図7では1つのみ図示)が設けられている。これにより、工具箱上段80は、図5及び図7に示すように、工具箱下段60上に載置された状態と工具箱下段60の下段開口部67に接近した状態との間で、工具箱下段60に対して回動可能である。ヒンジ機構95は、工具箱下段60の上面部64の角孔64aの近傍に位置し、工具箱下段60の上面部64の裏面側に溶接等によって固着された固定片96と、固定片96に軸97を介して回動可能に連結され、上面部64の角孔64aを介して工具箱上段80の下面81にボルト99により取り付けられる可動片98とを含んで構成されている。このように構成された工具箱19では、図7に示すように、ヒンジ機構95の軸97を中心として、工具箱上段80が前方へ傾斜するにように工具箱下段60に対して回動する。本実施の形態においては、連結ピン10(図2参照)が挿通するピン挿通孔28aの軸線の延長線から外れる位置に、工具箱上段80が回動可能な構成となっている。また、工具箱上段80が工具箱下段60に収容された還元剤タンク40に接近する方向へ回動可能であることを利用して、還元剤タンク40への液体還元剤の補給を行うことが可能な構成となっている。
図4に示すように、工具箱上段80の上面85における右側端部には、工具箱上段80を工具箱下段60の下段開口部67に接近する方向へ回動させる(前方に傾斜させる)際に工具箱上段80に力を作用させるための第1取手100が設けられている。第1取手100は、例えば、一方側が短いL字状の部材を倒れ状態と起立状態の間で回動可能に工具箱上段80に取り付けたものである。具体的には、倒れ状態で前後方向に延在する把持部101と把持部101の前端部から略直角に屈曲した把持部101よりも短い短辺部102とで構成されたL字部材と、L字部材に取り付けられた回動軸103と、L字部材を回動可能に工具箱上段80に取り付けた取付部104とで構成されている。工具箱上段80を前方へ回動させる場合には、把持部101を前方へ回動させて起立状態にする(後述の図11参照)。これにより、他方の短辺部102が工具箱上段80の上面85に当接する。起立状態において把持部101に対して前方へ更に力を作用させると、短辺部102を介して工具箱上段80に力が作用するので、工具箱上段80が工具箱下段60に対して回動する。
また、本実施の形態によれば、工具箱上段80を回動させる際に用いる第1取手100を倒れ状態及び起立状態との間で回動可能な構成としたので、還元剤タンク40への補給作業を行わない通常時において、工具箱19上を歩行する際に、第1取手100が障害物となりにくい。
また、工具箱上段80の後面83側のヒンジ取付板92には、工具箱上段80を回動させる際に作業者が工具箱上段80に力を作用させるための第2取手106が取り付けられている。第2取手106は、工具箱上段80を前方へ傾斜させる方向及び傾斜状態を元に戻す方向の両方向に回動させる際に用いることができる。第2取手106は、例えば、ヒンジ取付板92に固定された左右の脚部107、107と、左右の脚部107、107を接続する左右方向に延在する把持部108とで構成されている。
また、図4に示すように、工具箱下段60の上面部64の右側端部における工具箱上段80の前面82の近傍位置には、工具箱下段60に対して回動する工具箱上段80を所定の回動位置にて保持する保持機構110が設けられている。
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態の一部を構成する工具箱上段の保持機構の構成を図8及び図9を用いて説明する。図8は図4に示す油圧ショベルの工具箱の保持機構の構成を示す図、図9は図8に示す保持機構の使用状態を示す説明図である。なお、図8及び図9において、図1乃至図7に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
保持機構110は、工具箱下段60の下段開口部67に接近する方向に回動した工具箱上段80を所定の回動位置にて保持するものであり、工具箱上段80の回動可能な構造を利用した還元剤タンク40への液体還元剤の補給作業の際に用いるものである(後述の図10参照)。保持機構110は、図8に示すように、複数(図8では3つ)の補助ピン挿通孔111a、111b、111cを有するブラケット本体111と、複数の補助ピン挿通孔111a、111b、111cに挿通可能な補助ピン112とで構成されている。
ブラケット本体111は、例えば、四分円状に形成された板部材であり、工具箱下段60の上面部64上における工具箱上段80の側面84より外側かつ前面82より前側の位置に取り付けられている(図4参照)。複数の補助ピン挿通孔111a、111b、111cは、異なる高さに配置されている。例えば、ブラケット本体111の外周部に沿って間隔を空けて並置されている。ブラケット本体111における各補助ピン挿通孔111a、111b、111cの側部には、各補助ピン挿通孔111a、111b、111cの位置に対応した工具箱上段80の回動位置(傾斜状態)から推定される還元剤タンク40への液体還元剤の補給容量を記載してもよい。
補助ピン112は、補助ピン挿通孔111a、111b、111cの直径よりも径が大きい掴部114と、補助ピン挿通孔111a、111b、111cに挿通する挿通部115とで構成されている。補助ピン112は、工具箱19又はキャブ18(図1参照)等に格納されている。
保持機構110では、図9に示すように、複数の補助ピン挿通孔111a、111b、111cのうち、いずれか1つに補助ピン112の挿通部115を挿通させる。これにより、工具箱上段80を工具箱下段60の下段開口部67に接近する方向に回動させた際に、工具箱上段80が補助ピン112の挿通部115に接触し、その回動が規制される。その結果、工具箱上段80は、作業者が支持することなしに、補助ピン112を挿通した補助ピン挿通孔111a、111b、111cの位置にて保持機構110により保持される。
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態における液体還元剤の補給作業の手順を図10乃至図12を用いて説明する。
図10は本発明の建設機械の第1の実施の形態における還元剤タンクへの補給作業での準備作業を示す説明図、図11は本発明の建設機械の第1の実施の形態における還元剤タンクへの補給作業での回動作業の初期状態を示す説明図、図12は本発明の建設機械の第1の実施の形態における還元剤タンクへの補給作業での回動作業の最終状態を示す説明図である。図10乃至図12は、工具箱下段の右側の側面部及び工具箱上段の右側の側面を取り除いて状態で工具箱下段及び工具箱上段の内部を示す図である。なお、図10乃至図12において、図1乃至図9に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
上述した構成の油圧ショベル1において、液体還元剤が充填された補給容器として市販の容器Bを用いた補給作業の概略を説明する。なお、市販の容器Bとして、例えば、ノズルNの付属したバックインボックスが想定されている。
先ず、作業者は、図10に示すように、ノズルNを取り付けた容器Bを工具箱上段80に配置固定し、工具箱下段60内に収容されている還元剤タンク40の補給口46に容器BのノズルNを挿入する。次に、図11に示すように、容器Bを収容した工具箱上段80を前方に傾斜させた状態へ(工具箱下段60の下段開口部67に向かって)回動させる。最終的には、図12に示すように、工具箱上段80を保持機構110が保持可能となる位置にまで倒し込む。これにより、工具箱上段80内に収容されていた容器Bが前方へ傾いた状態となり、容器Bから還元剤タンク40へ液体還元剤を補給することができる。作業者は、還元剤タンク40への補給完了後、図10に示すように、工具箱上段80を後方へ回動させて工具箱下段60に載置された元の状態に戻す。このように、作業者が容器B及び工具箱上段80を保持することなく、還元剤タンク40へ液体還元剤を補給することができるので、還元剤タンク40への補給作業のおける作業者の負担を軽減することができる。
還元剤タンク40への補給作業の具体的な手順の一例は、以下のとおりである。第1段階として、保持機構110の設定を行う。作業者は、保持機構110の補助ピン112(図8参照)を工具箱19やキャブ18(図1参照)等の格納場所から取り出す。その後、保持機構110のブラケット本体111の複数の補助ピン挿通孔111a、111b、111cのうちのいずれか1つに補助ピン112の挿通部115を挿通させる(図9参照)。補助ピン112の挿通位置は、還元剤タンク40の残量に応じて任意に定める。例えば、最大限の補給を行いたい場合には、最下位の補助ピン挿通孔111cに補助ピン112を差し込む。それに対して、最小限の補給を行いたい場合には、最上位の補助ピン挿通孔111aに補助ピン112を差し込む。図10では、補助ピン挿通孔111cに補助ピン112を差し込んでいる。
第2段階として、容器Bの配置等の準備作業を行う。作業者は、図10に示す工具箱上段80の上段蓋体88を上方へ回動して上段開口部87を開放し(図6参照)、ノズルNを取り付けた容器Bを上段開口部87から工具箱上段80内に配置しバンドDにより固定する(図5参照)。その後、図10に示すように、工具箱上段80の上段蓋体88に設けたスライド蓋91をスライドさせることで上段蓋開口部89aを開放し、上段蓋開口部89aから容器BのノズルNを引き出しつつ、上段蓋体88を回動させて上段開口部87を閉じる。さらに、工具箱下段60の下段蓋体68を前方へ回動して下段開口部67を開放し、工具箱下段60内に収容されている還元剤タンク40の補給口46のキャップ47を取り外す。この還元剤タンク40の補給口46に容器BのノズルNを挿入する。
第3段階として、工具箱上段80の回動作業を行う。作業者は、工具箱上段80に設けた第1取手100を倒れ状態から起立状態に回動し、起立状態の第1取手100に対して前方向へ力を作用させる。作業者が油圧ショベル1の前側から補給作業を行う場合には、第1取手100を作業者側に引き込むようにすればよい。これにより、図11に示すように、工具箱上段80が工具箱下段60の下段開口部67に向かって(前方へ)回動する。作業者は、図12に示すように、保持機構110のブラケット本体111の補助ピン挿通孔111a、111b、111cに挿通した補助ピン112に当接するまで工具箱上段80を倒し込み(回動させ)、その状態において工具箱上段80を一時的に放置する。この場合、工具箱上段80は前方へ傾いた状態で保持機構110により保持されるので、工具箱上段80内に収容されている容器Bも傾いた状態となり、容器Bから還元剤タンク40へ液体還元剤が補給される。
このように、還元剤タンク40へ液体還元剤を補給する際に、工具箱上段80が保持機構110により保持されるので、回動した状態の工具箱上段80を作業者自らが一定の高さに保持する必要がない。すなわち、作業者は、保持機構110の補助ピンの位置に達するまで工具箱上段80を回動させることだけで、還元剤タンク40への補給を行うことができる。したがって、工具箱上段80の高さの調整及び維持の動作が必要となる保持機構110を備えていない構成の場合と比較して、作業者の補給作業が容易となる。
第4段階として、還元剤タンク40への補給完了後の片付け作業を行う。作業者は、必要量の液体還元剤が還元剤タンク40に補給されたと判断すると、工具箱上段80に設けた第2取手106を用いて、工具箱上段80を後方へ回動させて工具箱下段60に載置された元の状態に戻す。その後、容器BのノズルNを還元剤タンク40の補給口46から引き抜き、還元剤タンク40の補給口46にキャップ47を取り付ける。工具箱下段60の下段蓋体68を回動して下段開口部67を閉じる。次に、工具箱上段80の上段蓋体88を上方へ回動させて上段開口部87を開放しつつ、ノズルNを上段蓋開口部89aから引き抜く。最後に、工具箱上段80から容器Bを取り出し、上段蓋体88を閉じる。
上述したように、本発明の建設機械の第1の実施の形態によれば、液体還元剤を充填した容器(補給容器)Bを工具箱上段(第2工具箱)80内に収容した状態で工具箱上段(第2工具箱)80を工具箱下段(第1工具箱)60に対して工具箱下段(第1工具箱)60の下段開口部(第1開口部)67に接近する方向に回動可能とすると共に、回動した工具箱上段(第2工具箱)80を保持機構110により保持するように構成したので、重量物としての容器(補給容器)B及び工具箱上段(第2工具箱)80を作業者が支持することなしに、容器(補給容器)Bから還元剤タンク40へ液体還元剤を補給することができる。したがって、還元剤タンク40への補給時における作業者の負担を軽減することができる。
また、本実施の形態によれば、連結ピン10が挿通するピン挿通孔28aの軸線の延長線上に配置した工具箱上段80を、ピン挿通孔28aの軸線の延長線から外れる位置に回動可能としたので、連結ピン10を抜き差しするときに工具箱19が障害とならない。したがって、工具箱上段80の回動構造は、還元剤タンク40への補給作業及び連結ピン10の抜き差し作業時の両方に利用することができる。
さらに、本実施の形態によれば、保持機構110のブラケット本体111に複数の補助ピン挿通孔111a、111b、111cを異なる高さに配置した状態で設けたので、複数の補助ピン挿通孔111a、111b、111cのうち、いずれか1つの適切な位置の補助ピン挿通孔111a、111b、111cに補助ピン112を差し込むことで、工具箱上段80の回動位置を還元剤タンク40への補給量に対応した位置に設定することができる。
また、本実施の形態によれば、工具箱下段60の下段蓋体68を、工具箱上段80から離れる方向へ回動することで工具箱下段60の下段開口部67が開放されるように構成したので、工具箱下段60内に収容されている還元剤タンク40の補給口46へのアクセス等の補給作業の際に、下段蓋体68が作業の妨げになることがない。したがって、作業者の補給作業が容易となり、作業者の負担を軽減することができる。
さらに、本実施の形態によれば、工具箱上段80の上段蓋体88に、容器Bと還元剤タンク40の補給口46とを接続するノズルNを出し入れ可能な上段蓋開口部89aを設けたので、上段蓋体88を閉じた状態で補給作業を行うことができる。したがって、補給作業の際に、上段蓋体88が作業の妨げとなることはない。その結果、作業者の補給作業が容易となり、作業者の負担を軽減することができる。
また、本実施の形態によれば、工具箱上段80を回動させる際に作業者が工具箱上段80に力を作用させるための第1取手100及び第2取手106を工具箱上段80に設けているので、作業者の工具箱上段80の回動作業が容易となる。したがって、還元剤タンク40への補給時における作業者の負担を軽減することができる。
また、本実施の形態によれば、工具箱上段80を回動させる際に用いる第1取手100を倒れ状態及び起立状態との間で回動可能な構成としたので、還元剤タンク40への補給作業を行わない通常時において、工具箱19上を歩行する際に、第1取手100が障害物となりにくい。
次に、本発明の建設機械の第2の実施の形態を図13及び図14を用いて説明する。図13は本発明の建設機械の第2の実施の形態の一部を構成する液体還元剤補給用の漏斗を工具箱内部に収容した状態で示す図、図14は本発明の建設機械の第2の実施の形態における還元剤タンクへの補給作業を示す説明図である。図13及び図14は、工具箱下段の右側の側面部及び工具箱上段の右側の側面を取り除いて状態で工具箱下段及び工具箱上段の内部を示す図である。なお、図13及び図14おいて、図1乃至図12に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図13に示す第2の実施の形態に係る工具箱19の工具箱下段60には、還元剤タンク40の補給口46に挿入可能な還元剤補給用の漏斗120が収容されている。漏斗120は、工具箱下段60の下段蓋体68の第1面部69の内側にバンド121により固定されている。補給作業の際には、図14に示すように、容器BのノズルNを漏斗120を介して還元剤タンク40の補給口46に接続する。したがって、作業者は、容器BのノズルNを直接還元剤タンク40の補給口46に接続する必要がなく、容器BのノズルNの還元剤タンク40の補給口46への接続が容易となる。上記以外の還元剤タンク40への補給作業は、第1の実施の形態における補給作業と同様である。
本発明の建設機械の第2の実施の形態によれば、前述した第1の実施の形態と同様な効果を得ることができる。
また、本実施の形態によれば、工具箱下段60に還元剤タンク40の補給口46に挿入可能な漏斗120を収容したので、還元剤タンク40への補給作業の際に、容器BのノズルNを漏斗120を介して還元剤タンク40の補給口46に接続できるので、液体還元剤の還元剤タンク40への補給作業の作業者負担をさらに軽減することができる。
なお、上述した本発明の建設機械の第1及び第2の実施の形態においては、本発明の建設機械を油圧ショベル1に適用した例を示したが、本発明は、工具箱及び工具箱に収容した還元剤タンクを備えた油圧クレーンやホイールローダ等の各種の建設機械に広く適用することができる。
また、本発明は本実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
例えば、上述した第1の実施の形態においては、工具箱下段60の下段開口部67を開閉可能に覆う下段蓋体68として、工具箱上段80から離れる方向へ回動することで下段開口部67が開放される構成の例を示した。しかし、下段開口部67を開閉可能に覆う下段蓋体は、補給作業の妨げとならない構成であれば任意である。例えば、下段開口部67を開閉可能に覆う下段蓋体として、回動構造でなく、スライドすることで下段開口部67を開閉するスライド構造を備えた下段蓋体でもよい。
また、上述した第1の実施の形態においては、工具箱下段60の下段開口部67に開閉可能に覆う下段蓋体68を開放することで、還元剤タンク40への補給作業を行う構成の例を示した。それに対して、図4の二点鎖線で示すように、工具箱下段60の下段蓋体68に下段蓋開口部69aを設けると共に、この下段蓋開口部69aを開閉可能に塞ぐスライド蓋71を設ける構成も可能である。スライド蓋71は、スライドすることで下段蓋開口部69aを開閉する。この場合、下段蓋体68を閉じた状態においてスライド蓋71を開放し、下段蓋体68の下段蓋開口部69aを介して還元剤タンク40への補給作業を行う。この補給作業において、スライド蓋71が補給作業の妨げとなることはない。したがって、作業者の補給作業が容易となり、作業者の負担を軽減することができる。
また、上述した実施の形態においては、工具箱上段80の上段蓋体88を、工具箱上段80の後面83のヒンジ取付板92に設けた第2ヒンジ93を中心として回動させる構成の例を示したが、工具箱上段80の上段開口部87を開閉可能に覆う上段蓋体の開閉構造は任意である。例えば、工具箱上段80の前面82に設けた第2ヒンジ93を中心として、上段蓋体88を回動させる構成も可能である。この場合、上段蓋体88は、工具箱下段60に接近する方向に回動することで、上段開口部87を開放するものである。また、上段蓋体として、回動構造を備えたものではなく、スライドすることで上段開口部87を開閉するスライド構造を備えたものでもよい。
なお、上述した実施の形態においては、工具箱上段80の上段蓋体88の第1面89に上段蓋開口部89aを設け、この上段蓋開口部89aを開閉可能に塞ぐスライド蓋を設けた構成の例を示したが、上段蓋体88の第2面90に上段蓋開口部を設け、この第2面90の上段蓋開口部を開閉可能に塞ぐスライド蓋を設ける構成も可能である。つまり、上段蓋体88の上段蓋開口部は、容器BのノズルNを工具箱上段80内から引き出すためのものであるので、ノズルNの引出しが容易な位置に設ければよい。
また、上述した実施の形態においては、工具箱上段80を保持する保持機構110を工具箱下段60に設ける構成の例を示したが、保持機構を工具箱上段80に設ける構成も可能である。保持機構として、例えば、工具箱上段80の前面82における上端部の側方に前方へ突出する棒状部材を設ける。この棒状部材を、例えば、複数の段階に伸縮可能な構成とする。棒状部材の長さを調整することで、工具箱上段80の回動位置を還元剤タンク40への補給量に対応した位置に設定することができる。例えば、多量の補給が必要な場合には、棒状部材を短縮する一方、少量の補給で十分な場合には、棒状部材を伸長すればよい。
また、上述した実施の形態においては、液体還元剤の補給作業の手順の具体例の一例として、第1段階として保持機構110の設定を行い、第2段階として容器Bの配置等の準備作業を行う例を示したが、第1段階と第2段階の順序を逆に実行してもよい。
また、上述した第2の実施の形態においては、工具箱下段60に漏斗120を収容した例を示したが、工具箱上段80に漏斗120を収容することも可能である。この場合も、還元剤タンク40への補給作業の際に、容器BのノズルNを漏斗120を介して還元剤タンク40の補給口46に接続できるので、第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。