(第1の実施形態)
図1は、本発明で適用可能なカラーインクジェット記録装置の一実施形態の構成を示す概要斜視図である。インクタンク206〜210は、5色のインク(黒、シアン、マゼンタ、黄、クリア:K、C、M、Y、CL)をそれぞれ収容している。KのインクとしてはPBk(フォトブラック)、Mbk(マッドブラック)等が利用可能である。これら5色のインクを、記録ヘッド200(図1では不図示)に取り付けられ、記録媒体107と対向する位置のノズル列201〜205に対して供給可能に構成されている。ノズル列201〜205は、5色のインクに対応して設けられ、インクタンク206〜210から供給されるインクを吐出できるように構成されている。CLとは無色透明で光沢制御に用いられる付与材で、画質向上液として用いられる。CL「クリアー」を意味するが詳細は後述する。本実施形態では、記録材であるKCMYの各インクは顔料色材で発色する顔料インクである。また、この記録装置は複数種類の記録媒体について記録が可能である。
搬送ローラ103は、補助ローラ104とともに記録媒体(記録用紙)107を挟持しながら回転して記録媒体107を搬送するとともに、記録媒体107を保持する役割も担っている。キャリッジ106は、インクタンク206〜210及びノズル列201〜205が搭載された記録ヘッド200を搭載可能である。キャリッジ106はこれら記録ヘッド及びインクタンクを搭載し、キャリッジレール101(部分的に記載)に沿ってX方向に往復移動可能に構成されている。このキャリッジ106の往復移動中に記録ヘッドからインクが吐出され、これにより記録媒体に画像が記録される。記録ヘッドの回復動作時等の非記録動作時には、このキャリッジ106は図中の点線で示したホームポジション位置hに待機するように制御される。
図1に示すホームポジションhに待機している記録ヘッドは、記録開始命令が入力されると、キャリッジ106と共に図中X方向に移動しつつ、インクを吐出して記録媒体107上に画像を記録する。この記録ヘッドの1回の移動(走査)によって、記録ヘッドの吐出口の配列範囲に対応した幅を有する領域に対して記録が行われる。キャリッジ106の主走査方向(X方向)への1回の走査に伴う記録が終了すると、キャリッジ106はホームポジションhに戻り、再び図中のX方向へ走査しながら記録ヘッドで記録を行う。前回の記録走査が終了してから続く記録走査が始まる前には、搬送ローラ103が回転して、主走査方向と交差する副走査方向(Y方向)へと記録媒体が搬送される。このように記録ヘッドの記録走査と記録媒体の搬送とを繰り返すことにより記録媒体107に対する画像の記録が完成する。記録ヘッドからインクを吐出する記録動作は、後述の制御手段による制御に基づいて行われる。
なお、上記の例では、記録ヘッドが往路方向に走査する時にのみ記録動作を行う、いわゆる片方向記録を行う場合について説明した。しかし、記録ヘッドが往路方向への走査時と復路方向への走査時の両方において記録を行う、いわゆる双方向記録を行うものにも本発明は適用可能である。また、上記の例では、インクタンク206〜210と記録ヘッドとを分離可能にキャリッジ106に搭載する構成を示した。しかし、インクタンク206〜210と記録ヘッドとが一体となったカートリッジをキャリッジに搭載する形態を採用してもよい。さらに、一つの記録ヘッドから複数色のインクを吐出可能な複数色一体型のヘッドをキャリッジに搭載する形態を採用してもよい。
図2は、図1に示したカラーインクジェット記録装置の記録制御系回路の概略構成を示すブロック図である。インクジェット記録装置600は、インターフェイス400を介して、ホストコンピュータ(以下、ホストPC)1200等のデータ供給装置に接続されている。データ供給装置から送信される各種データや記録に関連する制御信号等は、インクジェット記録装置600の記録制御部500に入力される。記録制御部500は、後述するマスクの格納を行うメモリや画像処理のための計算を行うCPU(ASICでも良い)を持ち、インターフェイス400を介して入力された制御信号に従って後述のモータドライバ403〜404やヘッドドライバ405を制御する。また、記録制御部500のCPUは、入力される画像データの処理(図3にて後述)や後述のヘッド種別信号発生回路406より入力される信号の処理を行う。搬送モータ401は、記録媒体107の搬送のために搬送ローラ103を回転させるための搬送モータである。キャリッジモータ402は、記録ヘッドを搭載するキャリッジ106を往復移動させるためのキャリッジモータである。403および404は、搬送モータ401およびキャリッジモータ402をそれぞれ駆動するためのモータドライバである。ヘッドドライバ405は記録ヘッド200を駆動するヘッドドライバであり、記録ヘッド200が複数の場合はそれに対応して複数設けられていてもよい。また、406はヘッド種別信号発生回路であり、キャリッジ106に搭載されている記録ヘッドの種類や数を示す信号を記録制御部500に供給する。
図3は、インクジェット記録装置とホストPCとで構成される画像処理システムにおける画像データ処理のフローを示す図である。インクジェット記録装置の記録制御部500は、図2のインターフェイスを介して、プリンタドライバがインストールされたホストPC1200より転送されるデータの処理を行う。
ホストPC1200では、画像記録の実行指示とともに、アプリケーションから入力画像データを取得する(s1000)。この画像データに付随して、記録に用いられる記録媒体の種類についての情報も取得される。まず、受け取った入力画像データを1200dpiの解像度でレンダリング処理(s1001)を行う。これによって、記録用多値RGBデータを取得(s1002)する。本実施形態では、記録用多値RGBデータは256値のデータである。取得された記録用多値RGBデータは、記録制御部500に転送される。このときに記録媒体の種類に関する情報も同じく転送される。
記録制御部500では、記録用多値RGBデータ1002を多値(256値)CMYK+CLデータ1008に変換するための色変換処理s1007を行う。次いで、s1008で多値(256値)CMYK+CLデータを取得し、これをs1009の量子化処理(例えば、誤差拡散)によって量子化(2値化)する。これにより、解像度1200dpiの2値CMYK+CLデータが生成される。そしてS1011で、複数回の走査に応じたデータとするためのマスク処理が行われる。
図3は、1つの処理が終わった後に次の処理を施すように書いてあるが、実際にはパイプライン的に処理を行う。すなわち、処理に必要な数の画像が入力されたら、その処理を行って後工程に処理後の画像を伝達する。例えば処理解像度が1200x1200ppiである記録装置に1200x1200ppiのピクセル画像が入力された場合には、データを作り出すためには、処理は1画素単位で良い。よって、データを作り出す処理を画素単位とし、その処理の繰り返しとするのであれば、必要とするメモリが最小限に抑えられる。s1009では量子化処理が行われるが、その処理系が例えばディザ法であれば、同様に1画素単位で良い。例えば誤差拡散法であれば、1ラスター(1行分の画素群)もしくは2ラスター単位で良い。誤差拡散法と採用する場合でも、s1008で取得するデータを1ラスターもしくは2ラスター単位とする必要が生まれるだけであって、データは画素単位で良い。
S1010で取得した2値CMYK+CLデータ1010に基づき、s1011のマスク処理でパスマスクを施して紙面上での記録を行う。キャリッジ106の走査で記録する2値CMYK+CLデータをメモリから読み出し、メモリに格納されているパスマスクとの論理積を取り、当該スキャンで記録するデータを生成する。パスマスクが格納されているメモリは、CMYK+CLデータ1010が格納されているメモリと異なっても良い。
ここで、無色透明で光沢制御に用いる画質向上液として用いるCLを説明する。
本明細書においては、視覚的に感知される光沢性の程度を示す基準として、「光沢度」および「写像性」を利用する。ここではまず、光沢度と写像性の評価方法について説明する。
図4(a)〜(d)は、光沢度および写像性の測定方法を説明する図である。図4(a)を参照するに、20°鏡面光沢度(以下、光沢度と記載する)では、印刷物表面に対し入射角θ=20°で入射した光の反射光を検出する。検出器としては、例えば、BYK−Gardner社製のB−4632(日本名;マイクロ−ヘイズ プラス)などを採用することが出来る。検出部は図4(a)に示すように、正反射光の軸を中心とした開口幅1.8°の範囲での光強度を検出し、その結果、図4(d)のよう正反射角をピークとした強度分布が得られる。このとき、入射光強度に対する正反射光の強度が光沢度となり、その単位は無次元である。このような光沢度および測定方法はJIS規格のK5600に準拠している。
写像性とは、対象物に映る像の鮮明さを表し、例えば、JIS H8686『アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性測定方法』やJIS K7105『プラスチックの光学的特性試験方法』を用いて測定される。写像性を測定する装置としては、写像性測定器ICM−1T(スガ試験機製)や、写像性測定装置GP−1S(オプテック製)が、JIS規格に準拠したものとして市販されている。
対象物となる記録媒体の表面の凹凸が少ない場合、図4(b)のように記録媒体の表面で拡散される光の量は少なく、拡散光に比べ正反射光が強くなる。つまり、表面で反射される光が平行になりやすく、比較的鮮明な像が写り、写像性の値は高くなる。一方、図4(c)のように、記録媒体の表面の凹凸が多い場合、反射光は様々な方向へ拡散され、正反射光が弱くなる。つまり、表面で反射される光の進路は様々で、ぼやけた像が写り、写像性の値は低くなる。
以上説明したように、光沢度や写像性は、記録媒体の表面粗さに依存する。ただし、記録物については、その光沢度や写像性が高いほど好ましいというものではなく、観察のしやすい範囲がある。本発明者らが検討したところ、そのような光沢度の範囲は、20°鏡面光沢度において30〜60であると判断した。したがって、本発明では、記録画像によらず、記録物の光沢度を30〜60の範囲に収めるような記録制御を行う。より具体的には、使用するインクの種類やその記録密度(階調)に応じて光沢度や写像性は変化するので、画像に応じて画質向上液の記録量や記録タイミングを調整して、画像全体の光沢度を上記範囲に統一するようにする。
図5(a)〜(f)は、記録媒体に顔料インクや画質向上液を記録した状態を、濃度領域ごとに説明する図である。ハイライト部のようにドットの記録密度が低い場合、記録されるドットは図5(a)のように疎らで、記録面の光沢性は記録媒体そのものの光沢性に依存する。一般に、白紙部分の光沢度は、顔料インクを記録した領域よりも低い傾向にある。よって、ハイライト部の光沢度はより多くのドットを記録する中濃度領域や高濃度領域の光沢度よりも低く感知されやすい。そこで、本実施形態では、ハイライト部の光沢度を30〜60程度まで高めるため、図5(d)のように、顔料インクが記録されない領域の所々に、画質向上液を記録する。
一方、中濃度領域のように、より多くのドットが記録される階調では、記録媒体の表面は図5(b)のように、広がった顔料インクによって略埋め尽くされる。この際、記録面は平滑で、その光沢度は100を超えるなど、好適な範囲30〜60に比べて高くなってしまう。このため、本実施形態では、記録面の平滑度をあえて乱すために、適量の画質向上液を記録する。但し、記録媒体には吸収可能な液体量の上限があるので、既に形成された平滑層の上に上限まで画質向上液を記録しても、高すぎる光沢度を十分に下げることは出来ない。そこで、本実施形態では、顔料インクと画質向上液を混在させながら略同じタイミングで記録することにより、図5(e)のように記録面に凹凸を形成し、高すぎる光沢度を抑制する。
高濃度領域のように、更に多くのドットが互いに重複して記録される場合には、顔料インクの色材や分散樹脂等の固形分量が多くなり、図5(c)のように、全体に多くの凹凸が形成される。特に、異なる複数の顔料インクが重なった場合、このような凹凸はより顕著になる。よって、高濃度領域の光沢度は中濃度領域よりは下がる傾向がある。ただし、本発明者らの検討によればその光沢度は60〜80の範囲であり、好適な範囲である30〜60よりは上回っている。よって、高濃度領域についても光沢度を下げるためにある程度の画質向上液を付与する必要がある。
しかしながら、高濃度領域では図5(c)に見るように既に多くの凹凸が形成されているため、中濃度と同じ方法で画質向上液を付与すると、写像性がさらに低下することが懸念される。よって、本実施形態では、図5(f)のように、顔料インクが既に記録された上に画質向上液をオーバーコートする。これにより、写像性を維持しつつ、光沢度を好適な範囲に抑えることが出来るようになる。
以上説明したように、本実施形態においては、濃度領域ごとに適切な量の画質向上液を適切なタイミングで付与する。
図3のs1007の色変換処理は、3次元LUTに基づいて、上記色域のマッピングがなされたR、G、Bデータを、このデータが表す色を再現する有色インクと画質向上液の組み合わせの多値の色データ(各色256階調8ビットのデータ)に変換する。本実施形態では、R、G、Bデータに基づいて、4種類の有色インクC、M、Y、Kのそれぞれに対応する4つの多値データのほか、画質向上液に対応する第1の多値データCL1と第2の多値データCL2を生成する。ここで、第1の多値データCL1は、図5(e)で説明したような、有色インクと略同じタイミングで記録される画質向上液のための多値データである。また、第2の多値データCL2は、図5(f)で説明したような、有色インクを記録した後に記録される画質向上液のための多値データである。
図6は、本実施形態のs1007の色変換処理で実行する信号値変換の例を説明する図である。横軸は、(R、G、B)=(255、255、255)であるホワイト(白)から(R、G、B)=(0、255、255)であるシアンを経て(R、G、B)=(0、0、0)であるブラック(黒)へ向かうシアンラインの入力信号値を示している。縦軸は、個々の入力信号値に対応するC(シアン)、K(ブラック)、CL1(画像向上液の第1の多値データ)、CL2(画像向上液の第2多値データ)夫々の出力信号値を示している。
シアンラインにおいて、シアンインク用の出力信号Cは、0から徐々に増加し、シアン(0、255、255)でピークとなり、更にブラックに向けて徐々に減少し、ブラックで0となる。一方、ブラックインクの出力信号Kは、シアン(0、255、255)までは0で、これを過ぎた辺りから徐々に増加し、ブラックでMAXとなる。このように、シアンCおよびブラックK夫々の出力信号値や総和および割合は、入力信号値に応じて変化する。そして、出力信号値は単位領域あたりのインクの付与量に相関するので、有色インクによって表現される記録面の光沢度や写像性も、入力信号値に応じて変化する。
そこで本実施形態では、有色インクと同じタイミングで記録される画像向上液の第1の多値データCL1と、有色インクよりも後で記録される画像向上液の第2多値データCL2を、有色信号の出力値に応じて調整し光沢度や写像性を図5で説明したように制御する。
そのため、図6を参照するに、本実施形態では、相対的にドットの記録密度が低いハイライトから中濃度であるシアンにおいて、CL1(第1の多値データ)を主に使用する。そして、相対的にドットの記録密度が高いシアンからブラックにおいては、CL1を徐々に減少させながら最終的に0とし、この減少とともにCL2(第2の多値データ)を徐々に増加している。すなわち、ハイライトからシアンにおいては、シアンインクと同じタイミングで画像向上液が付与され、図5(b)あるいは図5(d)のような記録状態を得る。一方、ブラックに近い領域においては、シアンインクとブラックインクが記録された後から画質向上液が付与され、図5(f)のような記録状態を得る。いずれにしても、好適な範囲の光沢度および写像性が得られ、光沢むらを抑えることが可能となる。
なお、ここでは、CL1(第1の多値データ)が減少を開始するタイミング(信号値)とKが0より大きくなるタイミングをほぼ等しくしているが、本実施形態はこのような信号値変換に限定されるものではない。よりハイライトに近いKが0の領域であっても、紙面がインクで埋め尽くされてしまうような状態になる場合には、光沢度や写像性に応じて、CL1の信号値を下げ、CL2を0より大きくするようにしてもよい。
以上、図6ではシアンラインを例に説明しているが、このような調整は、全ての有色インクについて全ての階調で適正化することが出来る。この場合、個々の入力信号値(R、G、B)から変換される多値データ(C、M、Y、K)に適したCL1とCL2が、色変換処理s1007で参照する3次元LUTにおいて対応付けられていればよい。尚、3時限LUTのテーブルの格子点に適応しないデータは、補間演算を併用して変換を行ってもよい。
マスク処理(s1011)では、互いに補完の関係にあるマスクパターンを用い、s1010で取得された2値CMYK+CLデータによって記録が決定した画素それぞれについて、実際に記録を行う走査を決定する。
図7(a)および(b)は一般的なマルチパス記録方法を説明するための図である。マルチパス記録では、記録ヘッドが1回の記録走査で記録可能な領域を複数回の記録走査に分割して記録する。ここでは、4パスのマルチパス記録を行う場合を例に説明する。4パスのマルチパス記録の場合、ノズル列に含まれる768個のノズルは192ノズルずつの4つのブロックに分割され、個々のブロックには異なるマスクパターンA〜Dが宛がわれる。これらマスクパターンにおいて、黒く示した領域がドットの記録を許容する記録許容画素、白く示した領域がドットの記録を許容しない記録非許容画素を示し、マスクパターンA〜Dは互いに排他且つ補完の関係を有している。図では、マスクパターンA〜D夫々の記録許容画素の比率は均等に25%である場合を示している。
図7(b)は同図(a)で示したマスクパターンMを用いて4パスのマルチパス記録を行う状態を説明する図である。4パスのマルチパス記録の場合、記録走査が1回行われるたびに記録媒体は1ブロック分すなわち192画素分ずつY方向に搬送される。これにより、1ブロック分の幅に相当する記録媒体の画像領域は、4回の記録走査によって100%の画像が完成される仕組みになっている。
図3のマスク処理(s1011)では、このように予め用意されたマスクパターンと、s1010で取得される2値CMYK+CLデータとの論理積演算を行い、各記録走査で実際にドットを記録する画素を決定する。
ところで、以上説明したマルチパス記録では、用意するマスクパターンに特徴を持たせることによって、様々な記録制御を行うことが出来る。そこで、本実施形態では、CL1およびCL2を記録するタイミングを互いに異ならせるために、マスク処理(s1011)では、以下に説明するような特徴的なマスクパターンを使用する。
図8(a)および(b)は、マスク処理(s1011)で使用するマスクパターンをそれぞれ示した図である。図8(a)は、マスク処理(s1011)で使用する4色の有色インクとCL1に基づく記録のためのマスクパターンである。第1ブロックおよび第2ブロックには互いに補完関係にある記録許容率が50%のマスクパターンが宛がわれ、第3ブロックおよび第4ブロックの記録許容率は0%となっている。一方、図8(b)は、マスク処理(s1011)で使用する、CL2のためのマスクパターンである。第1ブロックおよび第2ブロックの記録許容率は0%であり、第3ブロックおよび第4ブロックには互いに補完関係にある記録許容率が50%のマスクパターンが宛がわれている。
図9(a)および(b)は、図8(a)および(b)で示したマスクパターンを用いて4パスのマルチパス記録で記録した場合のそれぞれの記録状態を示す図である。1ブロック分に相当する記録媒体の同一画像領域は、1パス目と2パス目において図9(a)で示したマスクパターンによる記録が完了し、その後の3パス目と4パス目で図9(b)に示したマスクパターンによる記録が行われる。すなわち、1パス目と2パス目で有色インクおよび画質向上液のCL1データの記録が完了し、その後の3パス目と4パス目で画質向上液のCL2データが記録される。
図10は、個々のノズル列201〜205が設けられている記録ヘッド200のノズルの吐出口開口側の様子を示す図である。CLのノズル列205はチップ1に、有色インクのノズル列201〜204はチップ2に設けられている。しかし、これら全てが同一チップに設けられていても構わない。
個々のノズル列において、記録に使用されるノズル領域を説明する図である。以上で説明した画像処理の結果、有色インクを吐出するノズル列は、図8(a)のマスクパターンを使用するので、実際に吐出動作を行うノズル領域は下半分の2ブロック分(「同時記録」用の384ノズル分)である。一方、画質向上液(CL)用のノズル列は、図8(a)および(b)の両方のマスクパターンの論理和を使用するので、全ノズル領域(768ノズル)を用いて吐出動作を行うことになる。この際、下半分の領域は第1の多値データCL1から変換された2値データCL1´に基づく吐出動作が行われ、画質向上液は有色インクと同じタイミングで記録媒体に付与される。一方、上半分の領域は第2の多値データCL2から変換された2値データCL2´に基づく吐出動作が行われ、既に記録されている有色インクや画質向上液の層上から、画質向上液を付与することになる。
図11(a)および(b)は、本実施形態の信号値変換および記録動作を行った場合の、光沢度および写像性を説明するための図である。両図において横軸は図6と同じシアンラインの信号値を示す。また、破線は画質向上液を使用しないで記録した場合の光沢度および写像性を、実線は上述した方法で画質向上液を記録した場合の光沢度および写像性をそれぞれ示している。
有色インクのみを使用した場合、ホワイトからのハイライト部において、写像性は目標範囲内である。一方、光沢度は目標範囲を下回っている。これは図6(a)で説明したように、記録されるドットが疎らで、記録面の光沢性が記録媒体そのものの光沢性に依存するからである。これに対し、本実施形態の方法で画質向上液を記録した場合、図5(d)のように白紙領域の所々に画質向上液が記録されるので、光沢度は目標範囲内まで上昇している。また、写像性についても目標範囲内を維持している。
中濃度領域においては、有色インクのみを記録した場合、写像性は目標範囲内であるが、光沢度は目標範囲を大きく超えてしまっている。これは、図5(b)で説明したように、記録媒体の表面が、広がった顔料インクによって略埋め尽くされ、顔料インクそのものの高い光沢度が現れるからである。これに対し、本実施形態の方法で画質向上液を使用した場合、図5(e)のように適度な凹凸が形成されるので、光沢度は目標範囲内に収まっている。また、写像性については、その値は下がるものの目標範囲内を維持している。
高濃度領域においては、有色インクのみを使用した場合、写像性は目標範囲内ではあるがハイライト部や中濃度領域に比べると低くなっている。これは、図5(c)で説明したように、顔料インクの色材や分散樹脂等の固形分量が多くなるため、全体に多くの凹凸が形成されるからである。そして、光沢度については目標範囲を超えてしまっている。これに対し、本実施形態では、図5(f)のように画質向上液を顔料インクの層上からにオーバーコートしている。よって、必要以上の凹凸を形成して写像性を更に低下させることなく、光沢度を目標の範囲まで下げている。
図12は、図11(a)および(b)で説明した効果をまとめた表である。示した表中の(a)、(b)・・・(f)は、図5(a)、(b)・・・(f)の記録状態はそれぞれに対応する。顔料インクのみで記録した記録状態(a)〜(c)では濃度領域によって光沢度がばらついているが、本実施形態のように画質向上液を追加で記録した記録状態(d)〜(f)では、いずれの濃度領域も光沢度が中程度(30〜60)に揃っている。その一方で、写像性は目標範囲(中程度)に維持されている。このように、本実施形態によれば、写像性と光沢度の双方を鑑みた光沢性において、濃度領域ごとの光沢性のばらつきを抑え、光沢むらを回避することが出来る。
なお、本実施形態の色変換処理1007において、図6で説明したようなCL1やCL2の生成は、シアンラインに限らずRGB空間の全域について行うことが出来る。本実施形態によれば、全ての有色インクについて、各階調に応じて適量の画像向上液を適切なタイミングで付与することが出来る。その結果、色空間全体において色相ごとの光沢性を目標範囲内に収束させ、画像全体の光沢性を一様にすることが可能となる。
以上説明したように、本実施形態によれば、色変換処理1007において各有色インクに対応する多値データを生成する際に、これら多値データの値に応じた画像向上液のための第1の多値データと第2の多値データを生成する。そして、これら2つの多値データを量子化した後に、異なるマスクパターンを用いてマルチパス記録を行うことにより、画像向上液を記録するタイミングや量を適切に調整することが出来る。その結果、階調や色相によらず全ての色域で光沢むらのない一様な画像を得ることが出来る。
筆者らの検討の結果、無色透明であるCOの記録媒体上での付与位置を調整して適切な位置へドットを記録することが画質向上に寄与することが分かった。
付与位置(以下、記録位置)を調整するためには以下のような手段を採用する。
本実施形態では記録位置を調整の項目として、以下の3つを採用する。もちろん、記録装置の特性に合わせて、その他の調整項目を採用して調整しても良い。
1.Even−Odd列間調整
図10には、同じK色について、Even列(eで符号された点線枠のノズル列)と、それとノズル列のピッチの半分の距離ずれて配置されたOdd列(oで符号された点線枠のノズル列)とが示されている。このEven列とOdd列とは、それぞれの色についても同様に設けられている。Even−Odd列間調整では、同じ色についてのEven−Odd列間の記録位置を調整する。Even列と同じカラムを記録するためのデータに基づいてOdd列から吐出した液滴がEven列で吐出した液滴と記録用紙上で一致するように、Even列を基準にしてOdd列の駆動タイミングを補正する。この補正は各色について行う。Even列とOdd列でインク吐出速度が異なる場合には、液滴の記録用紙上での位置は、記録ヘッドの吐出面と記録用紙との間の距離の影響を受ける。
2.往復間調整
同じノズル列からのキャリッジの往復記録間での記録位置を調整する。各色について行い、Even列の往路記録による記録位置と、同じEven列の復路記録による記録位置とを調整する。吐出された液滴はキャリッジの移動速度による慣性を受けて飛翔するため、ずれ量はキャリッジ速度及び飛翔時間の影響を受ける。
3.色間調整
ある色のノズル列を基準とし、他の色による記録位置を補正する。例えばブラックインクを記録するノズル列を基準とし、ブラックインクのEven列のキャリッジの往路記録による記録位置と、調整対象色のEven列のキャリッジの往路記録による記録位置とを調整する。
図13は記録位置ズレの測定に用いる反射センサ703の構成とその制御構成とを示す図である。図13に示すように、反射センサ703は、記録媒体の表面に光を照射するLED701と、表面からの反射光を受光するフォトダイオード702からなる。照射光の照射エリアと受光側の検出エリアは反射面で重なるように検出スポット704を構成し、大きさは5mm×5mmとしている。媒体面に形成したパターン705に光を照射した場合、パッチの濃度を反映した反射強度のレベルを検知することができる。白い紙面上では反射強度は強くなり、濃度の濃いパッチ上では反射強度は弱くなる。反射センサ703の取り付け位置は図1にも図示している。また、反射センサ703には、後述する正反射光を受光するためのフォトダイオード706が設けられている。
図2に示すように、記録装置2ではASIC751が反射センサ703の動作を制御する。LED701はR(赤)、G(緑)、B(青)の三原色を選択的に発光することができ、検出対象のパッチ色などに基づいて、LEDドライバ755によって制御される。フォトダイオード702からの受光信号はアナログ処理部(AFE:アナログフロントエンド)756で信号増幅処理やノイズ除去のためのローパスフィルタ処理などが行われる。このようにして処理されたアナログ信号はASIC751のADC(A/D変換器)752を介してデジタル信号としてASIC751に入力される。また、そのアナログ信号はコンパレータ757に入力され、コンパレータ出力が割込み信号として、ASIC751の割り込みポート753に入力される。また、キャリッジ106の位置を検出するエンコーダ758からの信号もASIC751に入力される。
ASIC751は記録制御部500のCPUと協働して反射センサ703からの出力信号とエンコーダ758からの位置信号の同期をとり、キャリッジ106の位置に対応した濃度検出信号として反射センサ703からの信号を処理する。ASIC751にはRAM754が接続されており、読取ったパッチのデータやエンコーダから出力されるカウント値等を記憶する。
図14は有色インクの記録位置、CLの付与位置のズレの調整(以下レジ調整)に用いられる記録媒体上に形成された調整パターン(以下単にパターンとも称する)のパッチを示す図である。
図14(a)に示すように、カラー(K、C、M、Y)のパッチ804は四角い形状の濃度均一のパッチである。パターンの主走査方向(X方向)の長さは少なくとも反射センサ703の検出スポット805(図14(b))よりも長くする。副走査方向(Y方向)の長さも検出スポット805より大きく、余裕があったほうが好ましい。パッチの形状は、検出した際の信号立ち上がりをシャープにするためにキャリッジの走査方向に直交するエッジを持つように四角にする。パターン濃度が高い方が信号のコントラストを高められるため、濃度均一の高濃度パターンとする。
反射センサ703による主走査方向の狙い位置802がパッチ中心と一致するようにインクを吐出してパッチ804を形成しようとするが、記録装置個々のさまざまなずれ要因によってずれた位置にパッチが形成される。複数のパッチを並べて調整パターンを形成する場合には、記録装置個々の特性を考慮して、隣のパッチ808との間に、想定されるずれを許容できるような間隔803をとる。パッチの検出の際は、狙い位置802を中心にした検出範囲801の中でパターン位置を検出する。
図14(b)は、パッチ804を反射センサ703で検出した際の検出信号の主走査方向(X方向)に関する変化を示す図である。図14(b)には、反射センサ703の検出スポット805の中心位置を基準に検出信号の信号強度の変化が示されている。この変化によれば、パッチ804が検出スポット805にかかることで検出した検出信号807の信号強度は低下し、全スポットがパッチ804に入ると均一なレベルで安定する。この際、コンパレータ757において検出信号807を閾値806と比較し、検出信号807の強度が閾値(TH)806を下回った時点割り込み信号を発生させる。なお、閾値806は、形成されたパッチの測定を一度行って、その測定結果に応じてASIC751が演算して算出する。最も簡単な演算は、測定結果における検出信号の807の最大値と最小値の平均とすれば良い。
ASIC751は割り込み信号に従い、その時点のエンコーダ758によるキャリッジ位置を取得する。キャリッジ106が移動しながらパッチ804を検出して、パターンのパッチの両側のエッジ位置2点を検出することができる。この位置の検出分解能エンコーダからの信号を時間的に分割し解像度を逓倍するため、エンコーダの数倍となる。検出されたエッジ位置2点のパターン中心位置809をパッチ804の位置として定める。
以上示した構成の記録装置において適用される着弾位置の調整に用いられるパターンについて説明する。
図15は複数のパッチから構成されるパターン301〜315の配置を示す図である。調整項目は行毎に異なり、それに応じてパターンの形成条件(種類)も行ごとに異ならせている。301はKのOdd列による往路記録、302はKのEven列により往路記録、303はKのEven列の復路記録で形成されたパターンであり、それぞれX方向に並ぶ5つのパッチを含んでいる。301と302のパターンを利用してKの色の主走査方向(X方向)のズレを検出し、補正を行う。(Even−Odd列間調整)。また、302と303のパターンを利用してKの色について主走査方向(X方向)のズレを検出し、補正を行う(往復間調整)。
また、301〜303の3行を1セットの色が変わったものが、304〜306(シアン)、307〜309(マゼンタ)、310〜312(イエロー)、313〜315(クリア)である。これらについて、Kでしたものと同じく、Even−Odd列間調整、往復間調整を行う。また、302と305の組み合わせは、K、Cのそれぞれの色で、ともに往方向(Fwd)の走査、Evenのノズル列によって形成されたパターンである。この2つの組み合わせによってKとCとの主走査方向(X方向)における往方向についての記録位置のズレを検出し、補正を行う(色間調整)。同様に302のパターンと308のパターンでKとMを、302のパターンと311のパターンとでKとYの色間調整を行う。それぞれの色について、は上述のように、往方向(Fwd)の走査のEvenのノズル列の記録位置を基準にして、往方向(Fwd)の走査のOddノズル列の記録位置、復路(Back)のEven列の記録位置を合わせる。以上によりKの往路でのEVEN列による記録位置を基準とした記録位置調整ができる。なお、主走査方向(X方向)に5つ配置されたパターンは、そのそれぞれを検出し、検出した5つのズレ量を元に演算を施して1つのズレ量を決定する。本実施形態では、ズレ量の最大値および最小値を棄却した残り3つを平均して求めることにする。具体的な調整の仕方としては限定されないが、以下のようなものが有る。Kの往復間調整を例にとれば、302と303のパターンのパッチ中心の位置が、ASIC751によって検出され、記録制御部500のCPUは得られた位置をもとに、Kについて往復間の記録位置のずれ量(調整値)を算出しメモリに格納する。そして記録制御部500において、画像データに基づく記録を行う際に、調整値に応じた調整量で有色インクの記録位置の調整を行う。例えばKの往路の走査ではデータをシフトせずに、復路の走査にてメモリに格納された調整値に対応するカラム分記録用のデータをずらして記録ヘッドに転送する。上述した色間調整、Even−Odd列間調整についても各色に関して、ASIC751が決定したパターンの位置を元にCPUは調整値を算出してメモリに格納する。そして記録制御部500は画像データの記録において、各調整項目についての調整値に応じた調整量のデータシフトを行って記録位置の調整を行う。これは以下のCLについても同様である。
パターン313〜315はCLの付与位置の調整に用いる。それぞれ5つのパッチから構成されている。上述してきたRGBのLEDを用いることによる光学的濃度センサに加えて、正反射光を検出するセンサを用いる。図13に示したセンサ構成で上述したフォトダイオード702によって検出されるのは、入射角とは異なる反射角での検出であり、乱反射光の光量を検出していることになる。CLはほぼ無色透明であるので、乱反射光の光量はCLの有無によって大きくは変化せず、フォトダイオード702では検出しにくい。CLは光沢制御のために用いると上述したが、光沢の程度の指標となるのは正反射光の強度であり、これによりCLの検出を行う。図13に示した反射センサ703では、フォトダイオード706を入射角と反射角とがほぼ等しくなるような位置に配置して正反射を受光できるようにしている。フォトダイオード706で受光した光を信号とし、パッチの位置検出を行う際の信号の処理については、フォトダイオード702で受光した光と同様に行うことで、CLパッチの検出ができる。
CLのパターンの詳細とその検出の詳細を図14(c)、(d)、図15で説明する。図15のパターン313〜315は、図14(c)に示すように、Kインクで予め下地821(図中では白抜き)を形成したその上に設けられたパターンである。下地821の上にCLを付与してパッチ820(図中では黒色)を形成することで形成される。313はキャリッジの往方向(Fwd)の走査のOddノズル列、314は往方向(Fwd)の走査のEvenノズル列、315は復方向(Back)の走査のEvenノズル列によって形成されたものである。このパッチの記録は例えばノズル列の中央部で記録を行う。しかしどの部分で記録を行っても差し支えない。
本実施形態におけるCLは媒体の種類によっては、媒体に浸透し、表面上に残らない場合がある。そこで、媒体表面を埋める程度に下地821を形成し、媒体表面の目止めを行い、CLを付与する。Kが顔料インクであると顔料は媒体表面上に残りやすいので好適である。そしてCLはK上には残りやすいので、このようにして媒体表面上にCLを残すことができる。上述の有色のインクのパッチは濃度の高い均一なパッチとしたが、CLのパターンは、例えば中間調の均一なパターンとする。この中間調の選び方は、Kインクの下地上にCLを記録した際に、正反射が最も変化する程度の付与量に設定する。本実施形態では媒体にCLを付与可能な画素相当のエリアのうち30%のエリアを占める程度の量とする。なお、図15のパターン313〜315においては、それぞれのパターンにおいて、5つのパッチのKの下地は共通であり、その上にCLの5つのパッチが形成されている。しかし、個々のパッチについて、Kの下地を分離した形態としても構わない。上述した正反射の検出によって測定した際の信号が822である。822の信号強度は記録媒体の反射光と、Kのみの反射光と、K上のCLの反射光と、の3つに由来し、3段階に大別される。このうちの記録媒体の測定は棄却して、Kのみの反射光と、K上のCLの反射光と、の2つを利用する。図14(c)に示した例においては、CLのパッチ820の信号強度は、Kの下地がある位置での信号強度より小さくなっている。Kの下地によって形成された平滑な面に対してCLのパッチ820表面はそれほど平滑ではなく、正反射光の強度は小さくなっている。有色のインクの検出と同様に、測定結果に応じて演算して閾値を算出する。連続的に変化しているポイントはパターン間の遷移領域であると捉えてさらに棄却し、測定結果の最大値と最小値の平均とすれば閾値823が得られる。この閾値を利用ながら、有色インクについて行ったのと同様にCLのパターンの中心位置を求める。そして、図15のパターン313と314で走査方向(X方向)のズレを検出して補正を行い(Even−Odd列間調整)、パターン314と315とで主走査方向(X方向)のズレを検出して補正する(往復間調整)。
以上は、光沢紙等のCLによって光沢制御が可能な記録媒体での調整を説明した。一方、普通紙等では、有色インクが紙の中へ浸透してしまい、光沢制御が可能とならない。このような媒体にレジ調整を行おうとした場合には、パターンが図14(d)のようになり、下地821、パッチ820ともに沈んでしまい、CLのパッチ820は下地821との平滑性のコントラストが取れず、精度のよい調整ができない。
上述したようなCLの媒体表面上での残り方の媒体による違いに対応するべく、本実施形態においては、CLのパターンの測定によってCLのレジ調整の可否を判断する。
また発明者の検討により、CLの付与位置が所望の位置から大きくずれている場合には、光沢制御が適切に行えず、光沢感のムラとして視認されてしまう場合があることが分かっっている。
よって、CLの付与位置の調整が出来ないと判断した記録媒体でも、CLの付与位置が大きくずれないように工夫をする。本実施形態で使用した有色インクのうち、記録装置での付与位置の調整が未実行である条件下で、CLインクの付与位置ズレと傾向が近しいインクを求めたところ、それはCであった。そこで、以下の形態では、記録装置で1回も付与位置の調整が行われていない条件下では、CLの付与位置の調整は、Cインクの調整値を利用することにする。本実施形態ではインクの吐出速度を基準にして、CLインクとCインクの付与位置ズレの傾向が近しいと判断した。記録装置やヘッドの製造上の特性を考えて、付与位置ズレの傾向が近しいと判断する判断理由を変えても良い。その場合には違うインクが、CLと挙動が近しいものとなり得る。
そして、2回目以降の付与位置の調整では、CL有無の検出が可能か否かの判断を基準とし、結果、調整が可能であれば検出したズレを利用して調整値を更新して調整し、検出が不可能であると判断した場合には付与位置の調整値を更新しない、こととする。
図16にフローチャートを示し、図15を合わせて参照しながら、以下に上述した調整方法について、記録装置が実行する処理を詳細に説明する。
まず、記録装置はインターフェイス400あるいは、記録装置の操作パネル(不図示)からユーザーによる記録位置調整(レジ調整)の実行指示を受け付ける。これを受けて記録制御部500のCPUは、記録制御部500のメモリに格納されたプログラムに従って以下のレジ調整の制御を行う。このレジ調整には有色インクのレジ調整とCLのレジ調整が含まれ、図16はCLのレジ調整について記載している。なお、このレジ調整は複数種類の記録媒体について実行可能である。ユーザーはこのとき、インターフェイス400上、記録装置の操作パネル上で、調整に用いられる記録媒体の種類を選択、あるいは入力し、この情報はレジ調整の実行指示とともに記録制御部500へと送られる。媒体の種類の情報にはその媒体の厚さの情報が紐づいていてもよい。
まず、記録制御部500は記録ヘッド200を制御して調整パターンを記録させる。Step1では、まず記録媒体へKのインク(ここではPBkインク)のパターンを記録してKの下地821を形成し、Step2でその上にCLのパターンを記録することで、5つのCLのパッチ820を形成する。これによりCLのパターン313〜315が形成される。また、それとは別に各有色インクに関する調整に利用されるパターン301〜312も形成される。
Step3で形成されたパターンのうち、ここでは313を反射センサ703で測定し、CPUはその結果を受けて、CLのパターンに基づく調整を、当該記録媒体において可とするかどうかを判断する。具体的には、CLのパターンから検出した信号において、CLのパターンとその周囲の領域との平滑性の違いに係る情報として、パターンを測定した際の正反射光の信号強度を用いて判断する。これによってCLのパターンとその周囲の領域とを識別し、パターンを精度よく検出できる場合は調整可とする。具体的には、記録媒体からの正反射光に由来する信号強度と、Kの下地821からの正反射光に由来する信号強度と、CLのパッチからの正反射光に由来する信号強度とが、所定の条件を満たしたかどうかで判断する。例えば、CLのパッチからの正反射光の信号強度と記録媒体からの正反射光に由来する信号強度との間にKの下地821からの正反射光に由来する信号強度が入っていると検知できるか否かで判断する。検知できれば調整可、できなければ調整不可とする。あるいは、Kの下地821からの信号強度とCLのパターンからの信号強度との差が所定の値より大きい場合には調整可、大きくない場合には調整不可とする。
Step4にて調整可と判断した場合には、Step5でASIC751は検出された信号を利用して、図14(c)を用いて説明したようにパッチ820の位置を決定するための閾値を決定する。そして決定した閾値を利用して、Step6でCLのパッチ820の位置を検出して記録制御部500のCPUに送信する。検出した位置に基づいて、CPUはStep7でCLの付与位置のズレ量に対応する調整値を算出しメモリに格納する。他のパターン314、315についても同様に検出し、調整値を得る。また、他の色の調整値についてもパターン301〜312を測定し、調整項目毎の調整値を得る。ここで、CPUは有色インク、CLについての調整項目毎の調整値を、使用された記録媒体の種類あるいは厚さとともにセットで記憶する。例えば媒体A(厚さX)に対してCLの往復間調整の調整値は+2と記憶するわけである。そして、媒体Bが使用される場合には、CPUはメモリから媒体Bの厚さの値であるYを引き出し、XとYとの関係からCLの往復間調整の調整値を導き出す。往復間調整は吐出口から記録媒体表面の距離とキャリッジのスピードの影響が大きく、記録媒体が変わって吐出口から記録媒体表面の距離が変わる際にはこのような演算で対応が可能である。
一方、Step3で測定した結果、Step4で調整可と判断されなかった場合にはStep9に進む。Step9において、記録制御部500のCPUは、メモリにCLの調整の履歴が格納されているかどうかを確認し、今回の調整が、記録装置における初期の調整か否か、すわなち、ユーザーによる初めてのレジ調整か否かを判断する。これは例えばメモリにCLの調整値が格納されているか否かで判断する。
初期の調整であればStep10に進み、CLに関する各調整項目についての調整値は、この調整で調整パターンを測定して決定された他色の対応する調整項目の調整値とする。ここではCの調整値を代用する。Cの調整値については、CLのパターンと同じく形成されたCのパターン304〜306および他の色のパターンを用いて算出された値である。例えば、CLの往路のEVENノズル列のKの往路のEVENノズル列に対する付与位置の調整値は、Cの往路のEVENノズル列のKの往路のEVENノズル列に対する付与位置の調整値と同じとなる。
一方step9で初期の調整ではないと判断された場合には、Step11においてCLの調整値を変更しない。以上で求まった調整値をStep8で記録制御部500のメモリに記憶する。
上述の処理において、記録制御部500のメモリに記憶されるのは、Step4にて調整可である場合には、CLの調整パターンに基づく値であり、Step4にて調整不可である場合には他の色(ここではC)の値となる。ここで、記録制御部500のメモリに格納されるCLの調整値に対して、CLの調整パターンに基づくものであるかCのパターンに基づくものであるかの情報を加えてもよい。このようにした上で、step9で初期の調整ではないと判断された場合に、メモリからCLの現在の調整値がCLの調整パターン由来かCの調整パターン由来かの情報を引き出して、それに応じてCLの調整値の変更をしてもよい。例えば、現在の調整値がCLのパターン由来であれば、Step11に進み、CLの調整値を変更しないようする。画像を記録する際には、CLの調整値に紐付いている過去の調整時の記録媒体の種類または厚さの情報と、これから画像記録を行う記録媒体の種類または厚さの情報と、によって画像記録に使用するCLの調整値を決めればよい。また、現在の調整値がCLのパターン由来でなく、例えば以前の調整のCの調整パターン由来であれば、今回行われたレジ調整において新たに決定されたCの調整の値としてもよい。CLとCは近しいといえども別々の種類の材料を含むインクであり、以前にCLのパターンに基づいて決定された調整値を変更せずに、その調整値を元に使用される記録媒体に応じて調整値を変化させる方が精度が高い。一方、記録制御部500のメモリに格納されるCLの調整値にCLのパターン由来かCのパターン由来かの情報を加えない場合には、CLの調整値を変更せず、その調整値を元に使用される記録媒体に応じて調整値を変化させる。CLのパターン由来であれば、その値を元に記録媒体に応じて調整値を変化させて行う記録は良好な結果を期待でき、仮に、CLのパターン由来であったとしてもその値を元に記録媒体に応じて調整値を変化させれば、所望の画質を得ることはできる。
なお、本実施形態において、Step4で調整可否を判断する際には、調整パターン313〜315を全て個別に判断しその全てで調整可の基準を満たすことを条件とする。しかし、他にも、パターン313と314の両方は十分に検出可能でありこれらパターン基づく調整は可と判断することもできる。この場合には、CLのEven−Odd列間を補正し、パターン315に基づく調整は不可としてCLの往復間調整は、Cの往復間調整の調整値を用いることにしてもよい。また、上記の判定において、CLパッチの信号強度は5つのパッチの平均値としてこの平均値が所定の条件を満たすか否かで判断しても構わない。
また、本実施形態において、Step4で調整不可と判断した場合、CLの全ての調整項目に対して、Cの調整値を利用することにする。上記したように、本実施形態では、記録媒体上での位置ズレの傾向が近しいと判断するのに、CL、有色インクの吐出速度を基準にしたため、全ての調整項目において同じインクの調整値を利用することが妥当であると考える。
また、上述した例では、パターンの位置検出をおうためのパターン313の測定をして、調整の可否を判定した。しかし、パターン313〜315のいずれかに似たパターンをレジ調整の実行指示後一番最初に形成し、このパターンを測定することで、パターン313〜315における、CLのパターンと下地との平滑性の違いの情報を得ることができる。すわなち、パターン313〜315を実際に測定した場合に得られるであろう情報と程度が大きく違わない情報が得られるパターンであれば、調整可否を判断するためのパターンとして利用できる。パターン313に酷似し、パターン313よりは小さめのパターンを一つ形成してこれを測定した結果、CLのレジ調整が可と判断されてから、パターン313〜315の形成を行うようにしてCLを節約できる。CLのレジ調整が不可と判断されれば、パターン313〜315の形成を無しにすればよい。
また、以上の実施例では反射センサ703を用いてCLのレジ調整の可否の判断を行った。センサを用いて判断する方法は判断のばらつきが少なく好適であるが、ブレがすくないが、熟練したユーザーが目視で判断するようなケースもあってよい。
また、CLのパターンは上述した形態に限定されず、下地は矩形の他、楕円形等であってもよい。また、CLの材料が、有る程度の記録媒体に対して浸透が少ないように工夫されているものであれば、下地を無しにして媒体にCLを付与し、付与されたCLと媒体との平滑性の違いでレジ調整の可否を判断するようにしてもよい。
他の実施形態として、図18に示すような、記録ヘッド200A、200Bの別対の2ヘッドをともにキャリッジに装着して利用する記録装置では、CL1の調整値はC1を利用し、CL2の調整値はC2を利用すると良い。このようにして同じ記録ヘッドに設けられた別のノズル列の調整を用いる。このような2ヘッドの記録装置においてはヘッドを個別に交換することができ、吐出速度は、ヘッドの製造ロットでもバラツキを持つ可能性があるからである。
また、上述したCLの調整可否判断とは独立に、CMYKの調整を行うことが望ましい。C、M、Y、Kそれぞれ独立に、検出できるか否か、つまり、閾値が設定できるか否かを判定し、それぞれ独立に記録位置の調整値を更新するか否かを判断することが望ましい。
また、CL単独の付与位置のずれ、すなわちCLのEven−Odd列間調整および往復間調整については、画像への影響が大きいが、それに比べて、CLと他色との間の色間の位置ずれは前者2つほどではないことが発明者の検討によって分かっている。よって、本実施形態では、CLと他の有色インクとの色間調整は行わなくともよいこととする。もし調整をおこなう場合は、正反射センサでパターン302とパターン314を測定し、上述したものと同様に測定結果に応じて調整が可能であるかどうかの判定をし、CLとKとの列間の調整値を更新するかどうかを決定すれば良い。
また、このようなレジ調整は、一定のタイミングでユーザーに調整するようにアナウンスしても良い。本実施形態では、記録用紙が変更されたタイミングでユーザーに調整するようにアナウンスをすることにしている。それに加え、ユーザーが実行可能にし、ユーザーが画質に満足できない場合に再調整できるようにしている。
〔第2の実施形態〕
第1の実施形態では記録装置が用いる有色インクをCMYKの4つとしたが、他に有色インクがあってもよい。例えば、フォトシアンとフォトマゼンダを加えた6色としても良いし、さらにグレーや淡グレーを追加した8色、そしてさらにレッドやブルーやグリーンを加えた11色としても良い。また、ブラックも上述したブラックインク以外に普通紙等に最適化したブラックインクを搭載した12色としても良い。もちろんインク色の組み合わせはこれに限らず、記録装置で実現したい記録特性に合わせて取捨選択すれば良い。これらの場合には、初期のレジ調整においてCLの調整値に利用可とするインクを検討することが望ましい。
〔第3の実施形態〕
本実施形態では、第1の実施形態に加えて、ユーザーによって有色インクの記録位置を調整する方法を採用する。ユーザーがインターフェイス400、あるいは不図示の記録装置の操作パネルから手動の調整を実行する指示を記録装置に対して入力した場合、記録制御部500は記録ヘッド200に図17(a)に示すような調整パターンを記録させる。これらのパターン330およびパターン332はKを記録するヘッドのEven列による往路記録で、パターン331をKを記録するヘッドのOdd列による往路記録で記録させる。そして、ユーザーに(2)〜(10)のうちどれが好ましいかを選択させる。この場合は(6)が好ましいと判断されるように、1直線に見えるものを選択して欲しい旨をパターンに表記したり、記録装置のモニタ(不図示)あるいは、PCに表示したりする。このセットを図17(b)に示すように11個繰り返せば、ユーザーが好ましいパターンを選択し、ユーザーによる記録位置調整が可能となる。各パターンの上にある文字は調整項目に対応する。先頭の文字が色、その後のO−EはEven−Odd列間補正、F−Bは往復間補正。
本実施形態では、ユーザーによるCLの調整は行わない。記録装置による上述した調整で十分とする。そのため手動の場合には、CLの調整用のパターンは記録しない。