JP6680077B2 - ころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法、及びこれに用いる判定用治具 - Google Patents

ころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法、及びこれに用いる判定用治具 Download PDF

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Description

本発明は、ころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法、及びこれに用いる判定用治具に関する。
ころ軸受は、外輪又は内輪の軌道面とつば面とが交わる隅部に、逃げ溝が凹設されている。この逃げ溝は、溝幅寸法が規定の公差よりも大きい場合、ころの当たりによるエッジロードが発生し、軸受寿命が低下する。また、規定の公差よりも小さい場合、軌道面やつば面の加工時に工具の干渉が生じるおそれがある。このため、逃げ溝の逃げ溝幅寸法が規定の公差内であることを確認する必要がある。
転がり軸受の生産ラインにおいて、機械加工後のワークの寸法チェック項目として、内輪及び外輪の外径、内径、軌道径、幅等の複数部位の寸法が設定できる測定器が知られている(特許文献1参照)。この測定器は、測定レバーに装着された複数の測定子のうち、測定する項目に対応する測定子を被測定物の測定部位に接触させることにより、測定部位の寸法を測定している。
実開平7−8709号公報
しかしながら、上記従来の測定器では、マイクロメータを用いて簡便に寸法測定が行えるが、微小部位である逃げ溝に対しては、溝幅寸法の測定の測定信頼性を更に向上させる課題があった。そのため、逃げ溝幅寸法に関しては必ずしも十分な精度で管理し得なかった。また、高度な測定機器を用いれば、逃げ溝幅寸法を高精度に管理可能となるが、測定作業自体が煩雑となり、設備コストや設備維持コストも増大する。
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、高度な測定機器を用いずに低コストで簡便に逃げ溝幅寸法を管理できるころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法、及びこれに用いる判定用治具を提供することにある。
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 軌道輪の軌道面と前記軌道輪のつば面とが交わる隅部に逃げ溝が凹設されたころ軸受の前記つば面に、前記逃げ溝の逃げ溝幅公差によって外径が設定されたピンのピン側面を当接させ、
前記ピンを、ピン先端面が突き当たるまで、前記つば面に当接させながら前記逃げ溝の前記軌道面側の開口に向かって摺動させ、
前記ピンが突き当たり停止した位置から前記ピンを前記軌道面に沿って摺動させ、
前記ピンの前記軌道面に沿った移動開始後の前記ピンの摺動抵抗を検知し、
検知された前記摺動抵抗の変化に基づいて、前記逃げ溝の前記軌道面に沿って開口する溝幅寸法が前記逃げ溝幅公差内であるかを判定する、
ころ軸受の逃げ溝幅判定方法。
上記(1)の構成のころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法によれば、次の作用を奏する。すなわち、外径が逃げ溝幅の公差最大値によって設定されたピンを用いる際は、ピンをつば面に沿って逃げ溝に向けて進めると、軌道面側の逃げ溝幅が、軸受幅方向に関する逃げ溝幅公差内である場合には、ピン先端面が軌道面に突き当たり、軌道面側で開口する逃げ溝内にピンが入り込まない。この状態でピンを軌道面に沿って摺動させると、ピンの摺動抵抗は略一定のままとなる。一方、軌道面側の逃げ溝幅が、逃げ溝幅公差より大きい場合には、ピンが逃げ溝の軌道面側の開口内に入り込み、ピン先端面が逃げ溝内で突き当たる。この状態でピンを軌道面に沿って摺動させると、ピンの摺動抵抗が、逃げ溝から軌道面に乗り上がる際に一旦増加する。この摺動抵抗の変化を検知することで、軌道面に沿って開口する逃げ溝が、逃げ溝幅公差内であるか否かを正確に判定できる。
また、外径が逃げ溝幅の公差最小値によって設定されたピンを用いる際は、ピンをつば面に沿って逃げ溝に向けて進めると、軌道面側の逃げ溝幅が、軸受幅方向に関する逃げ溝幅公差内である場合には、ピンが逃げ溝の軌道面側の開口内に入り込み、ピン先端面が逃げ溝内で突き当たる。一方、軌道面側の逃げ溝幅が、逃げ溝幅公差より小さい場合には、ピン先端面が逃げ溝内で突き当たり、軌道面側で開口する逃げ溝内にピンが入り込まない。この突き当たった状態でピンを軌道面に沿って摺動させると、上記同様にピンの摺動抵抗が変化するため、逃げ溝が、逃げ溝幅公差内であるか否かを正確に判定できる。これにより、高度な測定器を用いずに簡便に逃げ溝幅寸法の管理が可能となる。
(2) 軌道輪の軌道面と前記軌道輪のつば面とが交わる隅部に逃げ溝が凹設されたころ軸受の前記軌道面に、前記逃げ溝の逃げ溝幅公差によって外径が設定されたピンのピン側面を当接させ、
前記ピンを、ピン先端面が突き当たるまで、前記軌道面に当接させながら前記逃げ溝の前記つば面側の開口に向かって摺動させ、
前記ピンが突き当たり停止した位置から前記ピンを前記つば面に沿って摺動させ、
前記ピンの前記つば面に沿った移動開始後の前記ピンの摺動抵抗を検知し、
検知された前記摺動抵抗の変化に基づいて、前記逃げ溝の前記つば面に沿って開口する溝幅寸法が前記逃げ溝幅公差内であるかを判定する、
ころ軸受の逃げ溝幅判定方法。
上記(2)の構成のころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法によれば、次の作用を奏する。すなわち、外径が逃げ溝幅の公差最大値によって設定されたピンを用いる際は、ピンを軌道面に沿って逃げ溝に向けて進めると、つば面側の逃げ溝幅が、軸受径方向に関する逃げ溝幅公差内である場合には、ピン先端面がつば面に突き当たり、つば面側で開口する逃げ溝内にピンが入り込まない。この状態でピンをつば面に沿って摺動させると、ピンの摺動抵抗は略一定のままとなる。一方、つば面側の逃げ溝幅が、逃げ溝幅公差より大きい場合には、ピンが逃げ溝のつば面側の開口内に入り込み、ピン先端面が逃げ溝内で突き当たる。この状態でピンをつば面に沿って摺動させると、ピンの摺動抵抗が、逃げ溝からつば面に乗り上がる際に一旦増加する。この摺動抵抗の変化を検知することで、つば面に沿って開口する逃げ溝が、逃げ溝幅公差内であるか否かを正確に判定できる。
また、外径が逃げ溝幅の公差最小値によって設定されたピンを用いる際は、ピンを軌道面に沿って逃げ溝に向けて進めると、つば面側の逃げ溝幅が、軸受径方向に関する逃げ溝幅公差内である場合には、ピンが逃げ溝のつば面側の開口内に入り込み、ピン先端面が逃げ溝内で突き当たる。一方、つば面側の逃げ溝幅が、逃げ溝幅の公差より小さい場合には、ピン先端面がつば面に突き当たる。このような突き当たった状態でピンをつば面に沿って摺動させると、上記同様にピンの摺動抵抗が変化するため、逃げ溝が、逃げ溝幅公差内であるか否かを正確に判定できる。これにより、高度な測定器を用いずに簡便に逃げ溝幅寸法の管理が可能となる。
(3) (1)又は(2)に記載のころ軸受の逃げ溝幅判定方法に用いる前記ピンを含む判定用治具。
上記(3)の構成の判定用治具によれば、ピンが逃げ溝内に入り込むか否かを判定することで、逃げ溝が、逃げ溝幅公差内であるかを簡単、且つ高精度に判定できる。
(4) ピン先端面を先端として前記ピンのピン基端を着脱自在に固定するブロックを有する、(3)の判定用治具。
上記(4)の構成の判定用治具によれば、ピンに取り付けたブロックが持ち手となり、取り扱い性が向上する。また、ブロックは、ピンを着脱自在に支持するので、ピンに破損や摩耗が生じても、ピンを交換するだけで済み、メンテナンス性が向上する。
(5) 前記ブロックは、前記ピンを、ピン側面が前記ピンの全長にわたって突出した状態で支持する(4)の判定用治具。
上記(7)の構成の判定用治具によれば、ピン側面をピン全長にわたってころ軸受の面に当接させることができ、ピンと被摺動面とを簡単に平行配置できる。これにより、判定作業の作業性が向上し、判定精度も高められる。
(6) 前記ピンは、軸断面形状が円形である、(3)〜(5)の何れか一つの判定用治具。
上記(6)の構成の判定用治具によれば、ピンを被摺動面で摺動させる際、ピンに軸線周りの回転が生じても、ピンと被摺動面との距離を一定にできる。これにより、逃げ溝幅寸法の判定精度が高められる。
(7) 前記ブロックは、平坦な一側面に、前記ピンを支持するスリットが形成され、前記スリットは、該スリットの延在方向に直交する断面視で、前記ピンの外形円の半分を超える円弧領域を挟持するピン挟持部を有する、(6)の判定用治具。
上記(7)の構成の判定用治具によれば、軸断面形状が円形のピンを、ブロックの一側面に安定して支持できる。これにより、ピン側面を被摺動面と平行に移動させやすくなり、作業性を高められる。
(8) 前記ピン先端面は、前記ピンの外径と等しい外径を有する平坦面である、(6)又は(7)の判定用治具。
上記(8)の構成の判定用治具によれば、逃げ溝に入り込むピン先端面の外径を、逃げ溝幅公差によって設定されたピン外径と高精度に合わせることが可能となる。これにより、逃げ溝幅寸法の判定精度が高められる。
(9) (1)又は(2)に記載のころ軸受の逃げ溝幅判定方法により、前記逃げ溝が前記逃げ溝幅公差内にされた前記軌道輪を用いて前記ころ軸受を製造する、ころ軸受の製造方法。
上記(9)のころ軸受の製造方法によれば、高精度に逃げ溝幅が形成された軌道輪を用いるため、エッジロードが生じにくい、軸受寿命の長いころ軸受を製造できる。
本発明によれば、高度な測定機器を用いずに低コストで簡便に逃げ溝幅寸法を管理できる。
本発明に係るころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法の手順を示す説明図である。 ころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法が適用されるころ軸受の一例を表す断面図である。 (A)〜(C)は、ころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法をピンの移動工程別に表した工程説明図である。 ピンの移動距離とピンの摺動抵抗との関係を模式的に示すグラフである。 逃げ溝がピン先端面の外径より小さい場合の工程説明図である。 軌道面にピン側面を当接させた状態を示す工程説明図である。 つば面が傾斜するころ軸受の要部拡大断面図である。 他の構成の判定用治具を用いたころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法の手順を示す工程説明図である。 ブロックを有する評価用治具の一例を示す平面図である。 (A)は図9のA−A線断面図、(B)は図9のB−B線断面図である。 判定用治具のピン挟持部の要部拡大断面図である。 他の円筒ころ軸受の一部分を切り欠いた斜視図である。 円すいころ軸受の一部分を切り欠いた斜視図である。 (A)はつば面側からピンを摺動させる場合の判定状況の斜視図、(B)は軌道面側からピンを摺動させる場合の判定状況の斜視図である。 軌道面の逃げ溝幅の判定結果を表す説明図である。 つば面側の逃げ溝幅の判定結果を表す説明図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<第1の判定例>
図1は本発明に係るころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法の手順を示す説明図である。
ころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法は、概略的には、判定用治具100として、逃げ溝29の逃げ溝幅公差によって設定された外径φDを有するピン11を用いる。このピン11のピン側面31を軌道輪のつば面13に当接させる(第1移動ステップ)。次に、ピン11を、ピン先端面33が突き当たるまで、つば面13に当接させながら逃げ溝29の軌道面側の開口に向けて摺動させる(第2移動ステップ)。そして、ピン11が突き当たり停止した位置からピン11を軌道輪の軌道面15に沿って摺動させる(第3移動ステップ)。ピン11の軌道面15に沿った移動開始後のピン11の摺動抵抗を検知し(摺動抵抗検知ステップ)、この検知された摺動抵抗の変化に基づいて、軌道面に沿って開口する逃げ溝29の逃げ溝幅LBが逃げ溝公差内であるかを判定する(判定ステップ)。
上記のころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法を下記のころ軸受に適用した一例について、以下に詳細に説明する。
図2はころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法が適用されるころ軸受の一例を表す断面図である。
ころ軸受17は、内周面に軌道面15を有する外輪19と、外周面に軌道面21を有する内輪23と、を有する。外輪19の軌道面15と内輪23の軌道面21との間には、複数の転動体25が転動自在に配設される。複数の転動体25は、円周方向に略等間隔に、保持器27により保持される。本構成のころ軸受17においては、逃げ溝29が、外輪19の軌道面15と外輪19のつば面13とが交わる隅部に凹設される。以下の本構成の説明では、軌道面とは外輪19の軌道面15、つば面とは外輪19のつば面13を指すものとして説明する。
図1に示す判定用治具100は、軸方向直交断面が円形で、逃げ溝29の逃げ溝幅LBの公差最大値によって設定された外径(ピン径)φDを有するピン11で形成される。逃げ溝幅LBは、逃げ溝29の軌道面15側における、軌道面15に沿った軸受幅方向の開口幅である。ピン11の外径φDは、逃げ溝幅LBの公差最大値よりも僅かに小さい径に設定することが好ましい。こうすることで、逃げ溝幅LBが公差最大値と略同値である場合に、ピン11が逃げ溝内に入りやすくなり、公差最大値を境としてピン挿入の可否が決定されるようになる。
図3(A)〜(C)は、ころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法をピンの移動工程別に表した工程説明図である。
上述したころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法における第1移動ステップでは、図3(A)に示すように、ピン11を外輪19のつば面13と平行にして、外輪19の軸方向である図中矢印S1で示す方向に移動させ、ピン側面31をつば面13に当接させる。
次に、図3(B)に示すように、第2移動ステップでは、つば面13にピン側面31を当接させながら、径方向外側に向かう図中矢印S2で示す方向にピン11を摺動させる。つまり、ピン先端面33が突き当たるまで、ピン11を逃げ溝29の軌道面15側の開口に向かって、径方向外側に摺動させる。
このとき、逃げ溝29の逃げ溝幅LB(図1参照)が、逃げ溝幅公差の最大値より大きい場合は、図3(B)に例示するように、ピン11のピン先端面33が逃げ溝29内に入り込み、ピン先端面33が逃げ溝29内で突き当たり、停止する。
そして、図3(C)に示すように、第3移動ステップでは、ピン11のピン先端面33が突き当てられた外輪19の突き当て位置から、外輪19の軸方向である図中矢印S3で示す方向に、ピン11を軌道面15に沿って摺動させる。
図示例の場合、ピン11を軌道面15に沿って摺動させると、ピン11の摺動抵抗が、逃げ溝29から軌道面15に乗り上がる際に一旦増加する。つまり、ピン11の摺動の際に引っ掛かりを生じる。
図4はピンの移動距離とピンの摺動抵抗との関係を模式的に示すグラフである。同図に示すように、ピンが逃げ溝の傾斜面と摺動する期間において、摺動抵抗が一旦高くなる摺動抵抗のピークを生じる。そして、図3(C)に示すようにピン11が軌道面15に完全に乗り上がると、摺動抵抗が低下して、略一定の値で推移する。
一方、図5に示すように、逃げ溝29の逃げ溝幅LBが逃げ溝幅公差内である場合は、ピン11を図中矢印S2に沿って摺動させても、ピン11が逃げ溝29内に入り込まず、ピン先端面33の一部が軌道面15に当接して停止する。
この状態で、ピン11を軌道面15に沿って図中矢印S3で示す方向に摺動させると、ピン11の摺動抵抗は略一定のままで推移する。つまり、ピン11は、S3方向への移動直後では、逃げ溝29への入り込みがないため、引っ掛かりなく移動する。
この摺動抵抗の変化を判定者の感覚で検知することで、逃げ溝幅LBが逃げ溝幅公差内であるか否かが判定できる。この摺動抵抗の変化の有無は、判定者の感触によって引っ掛かりの有無として確実に知覚できる。
すなわち、摺動抵抗を検知する際に、ピン11が摺動抵抗の変化がなく、スムーズにS3の方向に移動した場合、逃げ溝幅LBはピン径φD以下(或いはピン径φDより小さい幅)であることが分かる。つまり、逃げ溝幅LBは、逃げ溝幅公差内であり、OK判定となる。逆に、ピン11をS3方向に移動した際、摺動抵抗が変化してピークが生じる場合は、ピン11が逃げ溝29内に入り込んでいることになり、逃げ溝幅LBはピン径φDより大きい(或いはピン径φD以上の幅)ことが分かる。つまり、逃げ溝幅LBは、逃げ溝幅公差より大きく、NG判定となる。これにより、高度な測定器を用いずに、低コストで簡便に逃げ溝幅寸法の管理が可能となる。
上記判定例では、ピン11の外径を逃げ溝幅LBの公差最大値によって設定して、逃げ溝幅が公差内であるかを判定しているが、ピン11の外径を逃げ溝幅LBの公差最小値によって設定することで、上記同様の手順により、逃げ溝幅が公差内であるかを判定できる。
つまり、ピン11の外径を逃げ溝幅LBの公差最小値によって設定した際は、ピン11が逃げ溝29に入る場合は、逃げ溝幅が公差内でありOK判定となる。また、ピン11が逃げ溝29に入らない場合は、逃げ溝幅が公差より小さく、NG判定となる。
なお、上記判定例では、外輪19を判定対象としているが、逃げ溝が内輪23に存在する場合は、内輪23の軌道面とつば面とを利用して、上記同様に逃げ溝幅寸法が逃げ溝幅公差内であるかを判定できる。
上記したように、ピン11の外径を、逃げ溝幅LA,LBの公差最大値や公差最小値である規格値に対して、僅かに小さく形成したが、この規格値との差は被判定物の溝形状等に応じて適宜変更可能である。例えば、上記差は、規定値よりも小さくする値で、0を超え0.1mmまでの間の差、すなわち、−0.1mmまでの間の差とする。好ましくは−0.05mmまでの間の差、更に好ましくは−0.01mmまでの間の差とするのがよい。
ピン11の外径は、例えば公差最大値から小さくなるほど、ピン11が逃げ溝29に入っても必ずしもNG判定の被判定物であるとは限らない場合がある。そのため、上記僅かに小さい径とは、ピン11が逃げ溝内に入りやすくなる程度の寸法であり、逃げ溝幅が公差内に収まっているかの判定精度を実質的に低下させない寸法に設定される。
このように、本判定方法によれば、被判定物のOK/NGの判定を正確に実施できる。そのため、例えば、製造ラインで被判定物を加工する際に、OK判定品のみを製造ラインの後段に搬送し、NG判定品を製造ラインから確実に除去でき、これにより、無駄な加工が発生することのない高効率の製造ラインを構築できる。
<第2の判定例>
次に、第1の判定例の場合とは逆向きにピン11を移動させ、径方向に関する逃げ溝幅寸法の判定を行う手順を説明する。なお、以降の説明では、同一の部材や対応する部材については、同一の符号を付与することで、その説明を簡単化、又は省略する。
図6は軌道面15にピン側面31を当接させた状態を示す工程説明図である。
本判定例では、逃げ溝幅LHを判定する。逃げ溝幅LHは、逃げ溝29のつば面13側における、つば面13に沿った径方向の開口幅である。
この場合、判定したい逃げ溝29の逃げ溝幅LHの公差最大値によって設定されたピン径φDを有するピン11を用いる。このピン11を軌道面15と平行にして、図中矢印S1の方向に移動させ、ピン11のピン側面31を軌道面15に当接させる。そして、軌道面15にピン側面31を当接させながらピン先端面33が突き当たるまで、ピン11を、逃げ溝29のつば面13側の開口に向かって移動させる。つまり、ピン11を外輪19の軸方向である図中矢印S2の方向に摺動させる。
次に、ピン11が突き当てられた突き当て位置から、ピン11をつば面13に沿って摺動させる。つまり、ピン11を外輪19の径方向内側に向かう図中矢印S3の方向に摺動させる。そして、ピン11のつば面13に沿ったS3の方向へ移動開始後の摺動抵抗を判定者の感覚で検知する。
このとき検知される摺動抵抗の変化に基づいて、逃げ溝29の逃げ溝幅LHが逃げ溝幅公差内であるかを判定する。
ピン11をS3の方向に移動させた際に、摺動抵抗が一定のまま推移し、摺動抵抗のピークが生じない場合、逃げ溝幅LHはピン径φD以下(或いはピン径φDより小さい幅)であることが分かる。つまり、逃げ溝幅LHは、逃げ溝幅公差内であり、OK判定となる。逆に、ピン11をS3方向に移動した際、摺動抵抗が変化してピークを生じた場合は、ピン11が逃げ溝29内に入り込んだことになり、逃げ溝幅LHはピン径φDより大きい(或いはピン径φD以上)ことが分かる。つまり、逃げ溝幅LHは逃げ溝幅公差より大きく、NG判定となる。
なお、ころ軸受には、図7に示すように、つば面13が径方向に対して角度θで傾斜するものもある。このように、つば面13が傾斜したころ軸受では、第2の判定例に示す手順で逃げ溝幅寸法を判定することが好ましい。
上述したころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法によれば、ピン11をつば面13や軌道面15に当接させながら逃げ溝29に向けて移動させ、ピン11が逃げ溝29の内部に入るか否かで異なるピン11の摺動抵抗によって逃げ溝幅LBの判定が行える。これにより、高度な測定器を用いずに簡便に逃げ溝幅寸法の管理が可能となる。
上記判定例では、ピン11の外径を逃げ溝幅LHの公差最大値によって設定して、逃げ溝幅が公差最大値以下であるかを判定しているが、ピン11の外径を逃げ溝幅LHの公差最小値によって設定することで、上記同様の手順により、逃げ溝幅が公差内であるかを判定できる。
つまり、ピン11が逃げ溝29に入る場合は、逃げ溝幅が公差内でありOK判定となる。また、ピン11が逃げ溝29に入らない場合は、逃げ溝幅が公差より小さくNG判定となる。
なお、上記判定例では、外輪19を判定対象としているが、逃げ溝が内輪23に存在する場合は、内輪23の軌道面とつば面とを利用して、上記同様に逃げ溝幅寸法が逃げ溝幅公差内であるかを判定できる。
上記した判定用治具100,110は、ピン11の軸断面形状が円形である。そのため、ピン11を摺動面(つば面13,軌道面15)と摺動させる際、ピン11に軸線周りの回転が生じても、ピン11と摺動面との間の距離を一定に保持できる。これにより、逃げ溝幅寸法の判定精度が低下することがない。
<判定用治具の他の構成例>
図8は他の構成の判定用治具を用いたころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法の手順を示す工程説明図である。
本構成例は、判定用治具として、ピン11にブロック35を取り付けた構成の判定用治具110を用いること以外は、前述の第1、第2判定例で示す構成及び手順と同様である。
本構成の判定用治具110は、ピン11にブロック35が取り付けられることで、ブロック35が持ち手となり、取り扱い性が向上する。ブロック35は、鋼材や真鍮材等の金属材料や樹脂材料等を用いた部材であってもよく、複数種の材料を組み合わせた部材であってもよく、ピン11が固定できる強度を有していればよい。
判定用治具110は、ピン11のピン先端面33と反対側のピン基端がブロック35に固定される。ブロック35は、ピン11を着脱自在に支持する構成とすれば、ピン11に破損や摩耗が生じても、ピン11のみを交換するだけで済み、メンテナンス性が良好となる。
図9はブロックを有する評価用治具の一例を示す平面図、図10(A)は図9のA−A線断面図、(B)は図9のB−B線断面図である。
図9に示すように、本構成のブロック35はL字板状に形成され、L字板状のブロック35の一端側の一側面37と、他端側の一側面37とに、ピン11を挟持するスリット39がそれぞれ形成される。スリット39は、図10(A),(B)に示すように、ブロック35の一端側と他端側を、それぞれ板厚方向に二分する溝である。
ブロック35は、L字板状とすることにより、1つのブロック35に2つのピン11が取り付け可能となる。例えば、逃げ溝幅LB又は逃げ溝幅LHの公差最大値によって設定されたピンと、公差最小値によって設定されたピンとを1つのブロック35に取り付けることで、逃げ溝幅LB又は逃げ溝幅LHの判定に使用する評価用治具が1つで済む。また、逃げ溝幅LBと逃げ溝幅LHの公差最大値側のみを判定する場合に、1つのブロック35に、逃げ溝幅LBと逃げ溝幅LHの公差最大値によって設定されたピンを設けた構成にしてもよい。同様に、公差最小値側のみを判定する場合にも、それぞれの公差最小値によって設定されたピンを1つのブロック35に設けた構成にしてもよい。これにより、使用する評価用治具が1つで済み、作業効率が向上する。更に、ブロック35をL字板状とすることで、評価用治具自体がコンパクトになり、判定使用時に周囲部材との干渉を低減できる。
ブロック35は、形成されたスリット39にピン11A,11Bを挟み、固定ボルト41で締結してピン11A,11Bをそれぞれ固定する。これにより、ブロック35は、複数種類のピン径φDのピンを交換自在に支持できる。
ブロック35は、異なる逃げ溝幅LBごとに識別が可能となるように、それぞれのピン径サイズ等の識別情報を識別部43に表示することもできる。識別部43には、文字やマーク等の情報を刻印してもよく、その情報が記されたシールを貼り付けてもよい。また、識別部43の色を変更して識別させる構成としてもよく、RFIDタグや、バーコード、QRコード(登録商標)等の識別媒体を配置した構成としてもよい。
ピン11A,11Bは、ピン先端面33の周縁が、面取のなされていないエッジ部とされる。したがって、ピン先端面33は、ピン11A,11Bの外径と等しい外径を有する平坦面からなる。これらのピン11A,11Bは、市販されるピンゲージ等を切断して使用でき、高精度な外径が容易に得られる。
図11は判定用治具のピン挟持部の要部拡大断面図である。
ブロック35は、平坦な一側面37に、スリット39の深さ方向に直交する延在方向に沿ってピン挟持部45が形成される。ピン挟持部45は、スリット39の延在方向に直交する断面視で、ピン11の外形円に沿った円弧状に形成される。この断面円弧状のピン挟持部45は、ピン11の外形円47の半分を超える円弧領域を挟持する円弧面を有する。つまり、ピン挟持部45は、図11に示す断面において、ピン11の外形円47の内側一端Pinから中心Oを超える高さの円弧面を有し、ピン11をピン挟持部45から抜け止めしつつ挟持する。
そして、ブロック35は、ピン11の外形円47の外側一端Poutを、ピン11の全長にわたって、ブロック35の一側面37から外側に突出させている。
上記構成の判定用治具110によれば、円柱状のピン11を、ブロック35の一側面37と平行に保持できるため、ピン側面31を被摺動面と平行に移動させやすくなる。よって、判定作業の作業性を向上でき、判定精度も高められる。
以上説明したころ軸受の逃げ溝幅判定方法の適用対象は、図2に示すころ軸受17に限らない。例えば、図12,図13に示す他の構成のころ軸受に対しても同様に逃げ溝幅の判定及び管理が行える。
図12は他の円筒ころ軸受の一部分を切り欠いた斜視図、図13は円すいころ軸受の一部分を切り欠いた斜視図である。
図12に示す円筒ころ軸受53は、ラジアル荷重が加わる回転支持部に組み込まれる。この円筒ころ軸受53は、内周面に円筒凹面状の外輪軌道57を有する外輪19と、外周面に円筒凸面状の内輪軌道59を有する内輪23と、これら外輪軌道57と内輪軌道59との間に、保持器27に保持された状態で転動自在に設けられた、それぞれが転動体である複数の円筒ころ61とを備える。また、外輪19の内周面両端部に内向鍔部63を、内輪23の外周面一端部に外向鍔部65を、それぞれ形成している。この場合、ころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法と、これに用いる判定用治具は、外輪軌道57と内向鍔部63との間の逃げ溝29、内輪軌道59と外向鍔部65との間の逃げ溝29の判定に適用可能となる。
図13に示す円すいころ軸受55は、内周面に円すい凹面状の外輪軌道57を有する外輪19と、外周面に円すい凸面状の内輪軌道59を有する内輪23と、これら外輪軌道57と内輪軌道59との間に、保持器27に保持された状態で転動自在に設けられた、それぞれが転動体である複数の円すいころ67とを備える。また、内輪23の外周面両端部のうち、大径側端部には大径側鍔部69を、小径側端部には小径側鍔部71を、それぞれ形成している。この場合、ころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法と、これに用いる判定用治具は、内輪軌道59と大径側鍔部69との間、内輪軌道59と小径側鍔部71との間の各逃げ溝29の判定に適用可能となる。
更に、ころ軸受の逃げ溝幅寸法判定方法と、これに用いる判定用治具は、図示は省略するが、球面ころ軸受に設けられる逃げ溝にも適用可能である。
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
例えば、上記構成例の判定用治具は、作業者の感触により判定するものとして説明したが、判定用治具は摺動抵抗を感知するセンサをブロック等に設け、摺動抵抗の変化をスピーカからの音や、LED等の光源の発光、メータ等による数値情報の表示、等の簡単な構成で作業者に報知させる構成にしてもよい。摺動抵抗を感知するセンサとしては、圧力センサ、加速度センサ等が利用できる。
また、判定対象となるころ軸受は、トランスミッションやデファレンシャルギヤ等のギヤボックス、自動車及び鉄道車両並びに建機車両等の車両、鉄鋼製造設備、製紙設備、風車、水車、工作機械、建設機械、鉱山機械、農業機械、搬送や圧延等のローラ支持、等の用途に好適に適用可能である。
上記構成で製作した判定用治具110を使用して、逃げ溝幅LBのOK/NG判定(公差上限外れが無きことの確認)を行った。以下、その結果について説明する。
図14(A)はつば面側からピンを摺動させる場合の判定状況の斜視図、図14(B)は軌道面側からピンを摺動させる場合の判定状況の斜視図、図15は軌道面側の逃げ溝幅LBの判定結果を表す説明図、図16はつば面側の逃げ溝幅LHの判定結果を表す説明図である。
逃げ溝幅LB,LHのOK/NG判定は、判定者数7人により、ピン11が逃げ溝29に挿入できたか否かを確認する感触判定で行った。なお、判定者には、ピン11の直径に関する情報を与えずに、ピン11が既知の逃げ溝29に入る(NG)か、入らない(OK)か、の二択で判定させた。
図14(A)に示すつば面からピン11を摺動させて判定する逃げ溝幅LBの精度確認結果を図15に示す。また、図14(B)に示す転動面からピン11を摺動させて判定する逃げ溝幅LHの精度確認結果を図16に示す。図15,図16から分かるように、実測値に対して−0.02mmの外径のピン11で判定すれば、NG判定が100%の精度で確認できた。したがって、規格値に対して−0.02mmのピン径とすれば、ピン11が逃げ溝29に挿入できたか否かの判定により、高い再現性の判定結果が得られる。つまり、規格値から明らかに外れた被判定物を、判定者の違いによらず確実にNG判定にできる。このように、本判定方法は、被判定対象に求められる精度や判定者の作業効率に応じてピン11の外径を調整してもよく、その場合、被判定対象の判定を最適な条件で実施できる。
なお、判定者3名により一般的なシックネスゲージを用いて判定した場合は、検出精度が0.1mmを超える結果となった。
11 ピン
13 つば面
15 軌道面
17 ころ軸受
19 外輪
23 内輪
29 逃げ溝
31 ピン側面
33 ピン先端面
35 ブロック
37 一側面
39 スリット
45 ピン挟持部
47 外形円
100,110 判定用治具
LB 逃げ溝幅

Claims (3)

  1. 軌道輪の軌道面と前記軌道輪のつば面とが交わる隅部に逃げ溝が凹設されたころ軸受の前記つば面に、前記逃げ溝の逃げ溝幅公差によって外径が設定されたピンのピン側面を当接させ、
    前記ピンを、ピン先端面が突き当たるまで、前記つば面に当接させながら前記逃げ溝の前記軌道面側の開口に向かって摺動させ、
    前記ピンが突き当たり停止した位置から前記ピンを前記軌道面に沿って摺動させ、
    前記ピンの前記軌道面に沿った移動開始後の前記ピンの摺動抵抗を検知し、
    検知された前記摺動抵抗の変化に基づいて、前記逃げ溝の前記軌道面に沿って開口する溝幅寸法が前記逃げ溝幅公差内であるかを判定する、
    ころ軸受の逃げ溝幅判定方法。
  2. 軌道輪の軌道面と前記軌道輪のつば面とが交わる隅部に逃げ溝が凹設されたころ軸受の前記軌道面に、前記逃げ溝の逃げ溝幅公差によって外径が設定されたピンのピン側面を当接させ、
    前記ピンを、ピン先端面が突き当たるまで、前記軌道面に当接させながら前記逃げ溝の前記つば面側の開口に向かって摺動させ、
    前記ピンが突き当たり停止した位置から前記ピンを前記つば面に沿って摺動させ、
    前記ピンの前記つば面に沿った移動開始後の前記ピンの摺動抵抗を検知し、
    検知された前記摺動抵抗の変化に基づいて、前記逃げ溝の前記つば面に沿って開口する溝幅寸法が前記逃げ溝幅公差内であるかを判定する、
    ころ軸受の逃げ溝幅判定方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のころ軸受の逃げ溝幅判定方法に用いる前記ピンを含む判定用治具。
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