JP6679236B2 - 免震装置の交換方法 - Google Patents
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Description
そして、免震装置は、その耐用年数に達したり、設置条件の変化によって劣化したり、さらには地震や火災等で損傷が加わった場合に交換作業が行われる(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、例えば、構造体基部の下面における面積が狭い場合や、既存の免震装置よりも交換後の新規免震装置の方が横に大きい場合には、構造体基部の下方にジャッキ装置を設置するためのスペースを確保できないという問題があった。
また、このような場合は、建築物の躯体を構成し、かつ構造体基部(以下、交差部)を介して柱と交差する梁の下方にジャッキ装置を設置し、梁をジャッキアップすることが考えられる。ところが、ジャッキ装置によって梁をジャッキアップする際は、梁に対して剪断力や曲げモーメントが発生するため、梁の保護が必要となる。
建築物の躯体のうち柱と梁とが交差する位置に設けられる交差部と、この交差部の下方に位置する支持部と、の間に設けられた既存免震装置を、ジャッキ装置でジャッキアップして新規免震装置に交換する方法であって、
前記梁に対して、前記ジャッキ装置によるジャッキアップ時に発生する剪断力および/または曲げモーメントに抵抗する強度を有する補強部材を予め取り付けておき、
前記梁のうち前記交差部近傍に位置する箇所の下方に前記ジャッキ装置を設置して前記交差部をジャッキアップし、前記既存免震装置を前記新規免震装置に交換するものであり、
交換箇所の前記交差部および前記既存免震装置を取り出す方向に設けられた前記交差部がある領域を第一領域とし、前記第一領域に隣り合う領域を第二領域とし、前記第二領域に隣り合う領域を第三領域とした場合に、前記第二領域にある前記交差部のジャッキアップ高さを前記第一領域にある前記交差部よりも低くし、前記第三領域にある前記交差部についてはジャッキアップしないことで、前記躯体の下端部を前記交換箇所から遠ざかるにつれて徐々に下がるように傾斜させることを特徴とする。
請求項1に記載の免震装置の交換方法であって、前記補強部材を、前記梁の下面に取り付けることを特徴とする。
請求項1または2に記載の免震装置の交換方法であって、前記補強部材を、前記梁の側面に取り付けることを特徴とする。
請求項1〜3のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法であって、前記補強部材を、前記梁の上面に取り付けることを特徴とする。
請求項1〜4のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法であって、前記補強部材を、前記梁と前記交差部との境界部分に取り付けることを特徴とする。
請求項1〜5のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法であって、前記補強部材として炭素繊維シートを用いることを特徴とする。
請求項1〜5のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法であって、前記補強部材として鋼板を用いることを特徴とする。
請求項1〜7のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法であって、前記支持部と前記ジャッキ装置との間、または、前記梁と前記ジャッキ装置との間に滑動部材を介在させることを特徴とする。
請求項1〜8のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法であって、前記躯体を補強してから前記ジャッキ装置によって前記交差部を、前記梁を介してジャッキアップすることを特徴とする。
なお、本実施形態における建築物1は鉄筋コンクリート製(RC)としたが、これに限られるものではなく、鉄骨鉄筋コンクリート製(SRC:steel reinforced concrete)でもよく、特に限定されるものではない。また、その用途も、例えばマンション・オフィスビル・商業ビル等、様々なものが挙げられ、いずれであってもよい。
さらに、本実施形態における建築物1は、基礎2の工事が完了し、躯体4を施工中の建築物である。ただし、これに限られるものではなく、竣工済みの既設建築物であってもよい。
このような支持部である基礎2は、図1〜図3,図7〜図12に示すように、基礎杭2aと、地中梁2cと、基礎スラブ2dと、固定部2eと、擁壁2fと、台座2gと、を有する。
地中梁2cは杭頭部2bに連結され、建築地盤に対して縦横に張り巡らされている。換言すれば、縦横の地中梁2c同士が交差する位置に基礎杭2aが設けられ、杭頭部2bは基礎杭2aと地中梁2cとの交差部として機能している。
基礎スラブ2dは、地中梁2cの上端部間に亘って設けられるとともに杭頭部2bおよび地中梁2cと一体化しており、地盤表面を被覆している。
固定部2eは、基礎スラブ2dの上面から上方に突出するように形成され、その上面に既存免震装置10xが設置固定されるものである。そして、この固定部2eは、基礎スラブ2dのうち基礎杭2aの上方に対応する位置に配置されて、基礎スラブ2dと一体化している。
擁壁2fは、基礎2を取り囲むようにして当該基礎2の周縁部に沿って配置され、基礎杭2aと地中梁2cと基礎スラブ2dと一体形成されている。この擁壁2fは、基礎2側への土砂の流入を防ぐ土留め壁として機能している。
台座2gは、その上面にジャッキ装置20が設置され、ジャッキ装置20を支持するものである。なお、この台座2gは、固定部2eの脇に設けられている。
柱4aは、基礎杭2aの上方に位置し、梁4bは柱4a同士を繋ぐようにして縦横に配置されている。
また、床スラブ4cが、梁4bの上端部間に亘って設けられるとともに、後述する交差部5および梁4bと一体化しており、躯体4に階層を形成している。
この交差部5の下端部は、躯体4の下端部に設けられた梁4bの下面よりも下方(すなわち、基礎2側)に突出する突出部6とされている。換言すれば、交差部5および突出部6は、躯体4の下端部において、柱4aの下方に位置するとともに下方に向かって突出している。
なお、梁4bは、基礎2の外周に沿って配置された交差部5から擁壁2f側には突出しないように設けられている。そのため、基礎2の隅(出隅)にある交差部5に対しては二本の梁4bが設けられ、擁壁2fに沿う交差部5に対しては三本の梁4bが設けられた状態となる(図2参照)。その他の箇所は四方に梁4bが伸びた状態となっている。
なお、本実施の形態においては、突出部6の下面形状および固定部2eの上面形状は四角形であり、これら突出部6の下面と固定部2eの上面のそれぞれの面積は略等しく設定されている。
積層ゴム11は、高減衰ゴムや天然ゴム等の免震機能を発揮する免震用ゴムと鉄板が交互に重ねられて構成されている。
フランジ部12は、積層ゴム11を上下から挟み込むようにして設けられており、上下のフランジ部12は互いに平行に設けられている。これら上下のフランジ部12の径は、積層ゴム11の径よりも大きく設定されている。フランジ部12のうち積層ゴム11よりも水平方向に突出する部位には、フランジ部12を厚さ方向に貫通する複数のボルト孔が、フランジ部12の周方向に等間隔に設けられている。
取付プレート13の他面側には、この取付プレート13を突出部6および固定部2eに対して定着固定させるための、図示しない複数のスタッドおよび複数の袋ナットが突出して設けられている。複数のスタッドおよび複数の袋ナットは、突出部6および固定部2eに対して埋設されて外側からは見えない状態となっている。
既存免震装置10xのフランジ部12に形成された複数のボルト孔は、取付プレート13の複数の袋ナットに対応しており、フランジ部12のボルト孔から袋ナット側にボルトがねじ込まれる。これによって、フランジ部12を取付プレート13に連結固定することができる。
本実施形態では、固定部2eの上面が突出部6の下面と略等しい面積であるため、固定部2eの上面にもジャッキ装置20を設置するスペースを確保できない状態となっている。
なお、新規免震装置10nのタイプは、既存免震装置10xのタイプと同様であることが好ましいが、特に限定されるものではない。既存免震装置10xと同様に、基礎2と突出部6との間に設けられ、ジャッキ装置20の設置を阻害しないものであれば適宜変更可能である。
また、新規免震装置10nのサイズについては、ジャッキアップ高さよりも低いもので、かつ突出部6下面の範囲を逸脱しない程度に設定されている。新規免震装置10nの高さが既存免震装置10xよりも低い場合は、フィラープレート等のスペーサを使用して高さを調整する。
一方、新規免震装置10nの高さが既存免震装置10xよりも高い場合には、突出部6の下面側または固定部2eの上面側を掘るようにして削り取り、新規免震装置10nの高さに合わせる。または、新規免震装置10nの高さに合わせて建築物1自体の高さレベルを上げることを検討してもよい。ただし、この場合は、基礎2に設けられた複数の既存免震装置10xがある全ての箇所で、建築物1の高さを引き上げるための作業を行うものとする。その際は、複数の既存免震装置10xに対して上述のフィラープレートを適用してもよい。
本実施形態における新規免震装置10nは、既存免震装置10xと同様に積層ゴム11と、フランジ部12と、を備える(説明の便宜上、積層ゴムおよびフランジ部の符号は、既存免震装置10xのものと同一とする)。また、取付プレート13は、突出部6および固定部2eに埋設されているため、共通して使用される。
また、油圧ジャッキであるジャッキ装置20は、ジャッキアップ・ジャッキダウンのための圧力を調整する油圧ポンプ25と接続されている。油圧ポンプ25は、無線または有線で接続された制御装置によって自動制御可能とされており、ジャッキ装置20のジャッキアップ・ジャッキダウン動作を遠隔操作できる。
このようなジャッキ装置20を設置する場合は、図2,図3に示すように、固定部2eの脇の基礎スラブ2d上に、前述の台座2gが設置される。台座2gは、基礎杭2aの杭頭部2bおよび地中梁2cの位置に対応して設置される。
なお、この台座2gは、ある程度の厚みに設定されており、これにより基礎2(基礎スラブ2d)を保護する機能を持つ。つまり、台座2gは、基礎2の一部として備わり、基礎2を保護しつつ、ジャッキ装置20を基礎2上に確実に支持するために機能するものである。また、ジャッキ装置20の高さ調整としても利用される。
なお、この台座2gはコンクリート製であり、かつ基礎2の一部として備わったものであるため、基礎スラブ2dや固定部2eに対して一体化されてもよい。また、このように本実施形態における台座2gはコンクリート製であるが、これに限られるものではなく、例えば鉄骨製の台座を採用してもよい。鉄骨製の台座を採用したとしても、その機能に変わりはない。
この滑動部材21は、ジャッキ装置20によって交差部5をジャッキアップさせた時、すなわち、既存免震装置10xまたは新規免震装置10nが免震機能を発揮できない時に、その代わりに免震機能を発揮するものである。例えばジャッキアップ時に地震が起きた場合には、ジャッキ装置20によって交差部5をジャッキアップしたまま、ジャッキ装置20が滑動部材21上を滑動し、免震作用を得ることができる。
なお、滑動部材21は板状体であり、例えば表面(ジャッキ装置20との接触面)が平滑に形成されたステンレス板等の金属板が用いられている。また、そのサイズは台座2gの上面と略等しく設定されており、台座2g上面の略全面を滑動面とすることができる。
また、梁4bには、ジャッキ装置20によるジャッキアップ時に発生する剪断力30および/または曲げモーメント31に抵抗する強度を有する補強部材32,33を予め取り付けておく。
すなわち、剪断力30は、梁4bと交差部5との境界部分に発生するものである。また、曲げモーメント31は、梁4b全体に発生するとともに、ジャッキ装置との間の設置位置に最も強く発生するものである。
なお、本実施の形態においては、剪断力30と曲げモーメント31の双方に抵抗する強度を有する補強部材32,33が用いられる。
図3,図4に示すように、補強部材32は、梁4bの交差部5近傍における下面および両側面に巻き付けられるようにして取り付けられている。梁4bの下面に取り付けられた補強部材32は、梁4bの下面とジャッキ装置20との間に介在することになり、ジャッキ装置20の上端面が当接する梁4bの下面を保護する役割も果たしている。
また、補強部材33は、梁4b側の補強部材32と一体的に設けられ、交差部5における突出部6よりも上側に位置する箇所に巻き付けられるようにして取り付けられている。
すなわち、補強部材32,33は、梁4bから交差部5にかけて取り付けられており、ジャッキ装置20によるジャッキアップ時に梁4bに対して発生する剪断力30および曲げモーメント31に抵抗する強度を発揮し、梁4bを保護している。
補強部材32,33として炭素繊維シートが用いられる場合は、梁4bおよび交差部5の表面に、炭素繊維シートに樹脂を含浸させながら接着し、硬化させることで梁4bおよび交差部5を補強している。
補強部材32,33として鋼板が用いられる場合は、鋼板が、図示しないアンカー部材によって梁4bおよび交差部5に取り付けられることで梁4bおよび交差部5を補強している。
本実施形態においては、図2に示すように、建築物1の荷重が最も大きく伝わる中央部分の周囲に、それぞれ取付向きの異なる4つのオイルダンパーDが設置されている。
このようなオイルダンパーDが導入されることで、通常の免震装置である既存免震装置10x(新規免震装置10n)ではカバーしきれない長周期地震動を効果的に抑えることができる。
まず、建築物1に採用された複数の既存免震装置10xのうち、新規免震装置10nに交換すべき既存免震装置10xを特定する。本実施形態では、図2において一点鎖線の円Cで囲まれた位置の既存免震装置10xを新規免震装置10nに交換する。
本実施形態では、図1に示すように複数の箇所の柱4aや梁4b、床スラブ4cの補強が行われている(補強対象箇所R)。
その補強方法は、特に限定されるものではない。
例えば図6は、躯体を構成する柱4aの補強例を示している。左側は補強前の柱4aであり、右側が補強後の柱4aである。柱4aは複数の既存鉄筋7xを備えるものであり、これを補強する場合は、柱4aの四隅に追加鉄筋7sを新たに設けるようにする。これによって、柱4aを補強することができる。
また特に、躯体4が竣工した後であれば、複数の箇所の柱4aや梁4b、床スラブ4cに対して炭素繊維シートを巻き付けて補強を行うような方法を適宜採用してもよい。また、炭素繊維シートを巻き付ける補強方法に限られるものではなく、その他、鉄板を全体的または部分的に構造体に添わせて固定する補強方法や、鉄筋コンクリートの増し打ちによる補強方法、特殊な樹脂製のベルト状補強材を巻き付けることによる補強方法、鉄骨ブレースの増設による補強方法など、種々の補強方法を適宜選択して採用してもよい。
なお、このような躯体4の補強を行うタイミングは、ジャッキ装置20によって交差部5をジャッキアップする工程よりも前の工程であれば、いつでもよい。
まず、ジャッキ装置20をどのように配置するか、という配置計画を練る必要がある。交換箇所(図2の円C)は、既存免震装置10xを取り出して、新規免震装置10nと交換するため、ジャッキアップする際には十分な高さが必要となる。ところが、交換箇所の交差部5のみをジャッキアップしてしまうと、躯体4全体に与える影響が大きい。
そのため、図2等に示すように、交換箇所の周囲の交差部5も併せてジャッキアップし、躯体4の下端部を交換箇所から遠ざかるにつれて徐々に下がるように傾斜させて、躯体4全体への影響を小さくする必要がある。
すなわち、既存免震装置10xを取り出す方向(矢印Y)にある交差部5が、交換箇所の交差部5よりも低いと、躯体4の下端部(梁4b・床スラブ4c)が交換箇所から遠ざかるにつれて徐々に下がり、既存免震装置10xの取り出し作業の妨げとなる虞がある。そのため、既存免震装置10xを取り出す方向に設けられた交差部5についても、交換箇所の交差部5と同様の高さにジャッキアップする。
このような交換箇所を含む、最もジャッキアップ高さを高くしなければならない複数の交差部5がある領域を、以下、第一領域A1と称する(図2,図13参照)。
このような第一領域A1に隣り合うジャッキアップ高さを低く設定した領域を、以下、第二領域A2と称する(図2,図13参照)。
このような第二領域A2に隣り合うジャッキアップしない設定の領域を、以下、第三領域A3と称する(図2,図13参照)。
すなわち、ジャッキ装置20の配置計画を立てる場合は、第一領域A1のジャッキアップ高さを高くし、第二領域A2のジャッキアップ高さを低くし、第三領域A3をジャッキアップしないことを念頭に入れる必要がある。さらに換言すれば、第一領域A1と第二領域A2における交差部5の箇所にはジャッキ装置20を設置し、第三領域A3にはジャッキ装置20を設置しないことになる。
また、第二領域A2のジャッキ装置20による交差部5のジャッキアップ高さは、本実施形態において3.5mm程度に設定されている。
ただし、これに限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。すなわち、躯体4への影響を抑えつつ、既存免震装置10xから新規免震装置10nに交換可能なジャッキアップ高さであればよい。
図2はジャッキアップ高さを表現するための概念図であり、この図2においてドットによって塗り潰された箇所は、その太さがジャッキアップ高さを表現している。第一領域A1におけるジャッキアップ高さと、第二領域A2におけるジャッキアップ高さは、ドットによって塗り潰された箇所の太さが異なり、図2では、これら第一領域A1と第二領域A2における当該箇所を直線で繋ぐことで、躯体4の下端部に傾斜ができることを表現している。
さらに、梁4bの変形等を考慮すれば、ジャッキ装置20は、梁4bの中央寄りよりも、突出部6および既存免震装置10xにより近い位置に設置されることが望ましい。ところが、ジャッキ装置20を突出部6に近づけて過ぎてしまうと、隣り合うジャッキ装置20間に、既存免震装置10xを取り出すためのスペースを確保できない場合がある。そこで、四方に設置されたジャッキ装置20における隣り合うジャッキ装置20,20の間隔を既存免震装置10xおよび新規免震装置10nの幅よりも広く設定することにより、既存免震装置10xの取り出し開口を形成している。つまり、取り出し開口の寸法は、安全かつ確実なジャッキアップを可能としつつ、既存免震装置10xを取り出し可能で、かつ、新規免震装置10nを入れることが可能な長さに設定されている。
続いて、台座2gの上面に、滑動部材21を設置固定する。
本実施形態では、上述のように、補強部材32,33として炭素繊維シートが用いられており、補強部材32を、梁4bの交差部5近傍における下面および両側面に巻き付けるようにして取り付け、補強部材33を、梁4b側の補強部材32と一体的に、かつ交差部5における突出部6よりも上側に位置する箇所に巻き付けるようにして取り付ける。
ジャッキ装置20の設置位置が確定したら、図8に示すように、ジャッキ装置20の上端面を梁4bの下面に当接させる。
また、ジャッキ装置20を、このジャッキ装置20を動作させるための油圧ポンプ25と接続する。
なお、この計測器26は、躯体4の下端面(梁4bの下面)の高さを計測している。
なお、第一領域A1と第二領域A2に設置された複数のジャッキ装置20は、油圧ポンプ25の制御により全て同時に、または別々に動作させることができる。
結果的に、第一領域A1のジャッキアップ高さが高く、第二領域A2のジャッキアップ高さが、第一領域A1のジャッキアップ高さよりも低くなるようにジャッキ装置20の制御を行う。
なお、本実施形態においては、第一領域A1と第二領域A2に設置された複数のジャッキ装置20を全て同時に動作させて、交差部5をジャッキアップさせる。具体的には、第一領域A1におけるジャッキアップ高さは、7.0mm程度(6.5mm〜7.5mm)であり、第二領域A2におけるジャッキアップ高さは3.5mm程度(3.0mm〜4.0mm)である。そのため、図13に示すように、まずは第一領域A1における交差部5を、3.5mmジャッキアップするとともに、第二領域A2における交差部5を、1.75mmジャッキアップする。次いで、第一領域A1における交差部5を、さらに3.5mmジャッキアップするとともに、第二領域A2における交差部5を、さらに1.75mmジャッキアップする。つまり、複数のジャッキ装置20を全て同時に動作させ、かつ二段階に分けてジャッキアップし、ジャッキアップ完了のタイミングも同時とする。
次に、第二領域A2にあるジャッキ装置20によって、第二領域A2にある突出部6を、3.0mm〜4.0mmの高さまでジャッキアップする。
そして、第一領域A1にあるジャッキ装置20によって、第一領域A1にある突出部6を、3.0mm〜4.0mmの高さから6.5mm〜7.5mmの高さまでジャッキアップする。
つまり、第一領域A1にある突出部6を一気に7.0mm程度の高さまでジャッキアップしてしまうと、躯体4に影響が出る場合があり、それを防ぐために段階的にジャッキアップしている。
そして、以上の作業で、第一領域A1のジャッキアップ高さが高く、第二領域のジャッキアップ高さが、第一領域A1のジャッキアップ高さよりも低くしたら、第三領域A3はジャッキアップしないので、図2,13に示すように躯体4の下端部が傾斜した状態となる。
この制御システムは、制御装置50と、複数のジャッキ装置20と、油圧ポンプ25と、複数の計測器26と、を備える。
制御装置50は、図示はしないが、各種プログラムや各種データを記憶する記憶部と、各種データを入力するための入力部と、各種データを表示する表示部と、外部通信を行うための通信部と、これら各部を制御する制御部と、を有する。
このような制御装置50に対して、各箇所の交差部5付近に設置された複数の計測器26が無線または有線でデータ通信可能に接続されている(入力側)。さらには、油圧ポンプ25も無線または有線でデータ送信可能に接続されている(出力側)。なお、油圧ポンプ25に対して、複数のジャッキ装置20が接続された状態となっているが、ジャッキ装置20の数量分だけ油圧ポンプ25があってもよい。
制御装置50は、計測器26から受信したデータに基づいて、ジャッキ装置20による現在のジャッキアップ状況・ジャッキダウン状況を確認できる。
油圧ポンプ25に対しては制御装置50から制御信号が送信され、油圧ポンプ25は、制御装置50からの制御信号に基づき、ジャッキ装置20を動作させることができる。
以上において説明したジャッキ装置20によるジャッキアップに係る作業(後述するジャッキダウンに係る作業)は全て、このような制御システムによって自動制御可能とされている。
なお、制御装置50に対しては、梁4bの高さを計測する計測器26だけでなく、梁4b等の躯体4の下端部に付加される力を計測する図示しない計測器が接続されていてもよい。これによって、ジャッキ装置20の動作中に躯体4に対して必要以上の負荷が加わった際に、ジャッキ装置20の動作を停止することができる。
そして、突出部6および固定部2eから完全に切り離された状態となった既存免震装置10xを撤去する。既存免震装置10xは、隣り合う二つのジャッキ装置20間から取り出す。
撤去する際は、図9に示すように、既存免震装置10xを台車27に載せて搬出するが、既存免震装置10xは重量が大きいため、固定部2eの高さに合わせた高さ調整材27aの上に既存免震装置10xを載せて台車27で搬出する。つまり、既存免震装置10xを上下に昇降させずに台車27に載せることができるので、搬出作業を比較的簡易に行うことができる。
そして、新規免震装置10nの下側のフランジ部12を、下側の取付プレート13に取り付ける。すなわち、下側のフランジ部12と下側の取付プレート13とをボルトによって連結して、新規免震装置10nを固定部2eに固定した状態とする。
なお、このジャッキダウンについても、ジャッキアップ時と同様に、第一領域A1と第二領域A2に設置された複数のジャッキ装置20を全て同時に動作させて、突出部6をジャッキダウンさせる。また、第一領域A1と第二領域A2におけるジャッキダウン完了のタイミングは同時であってもよいし、別々であってもよい。
つまり、結果的に、第一領域A1と第二領域A2における突出部6の高さが、第三領域A3における突出部6の高さに揃うようにジャッキ装置20の制御を行う。
なお、本実施形態では、ジャッキアップ時と同様に二段階に分けてジャッキダウンするものとし、ジャッキダウン開始のタイミングと完了のタイミングが第一領域A1と第二領域A2とで揃うようにする。
次に、第二領域A2にあるジャッキ装置20によって、第二領域A2にある交差部5を完全にジャッキダウンする。
そして、第一領域A1にあるジャッキ装置20によって、第一領域A1にある交差部5を完全にジャッキダウンする。
つまり、第一領域A1にある交差部5をジャッキダウンする前に、第二領域A2にある交差部5をジャッキダウンしてしまうと、躯体4に影響が出る場合があり、それを防ぐために段階的にジャッキダウンしている。
そして、以上の作業で、第一領域A1にある交差部5と、第二領域にある交差部5と、第三領域A3にある交差部5の高さが等しい状態となる。
以上のような方法によって、既存免震装置10xを新規免震装置10nに交換することができる。
また、補強部材32,33は、撤去してもよいが、梁4bおよび交差部5に取り付けたままにして、継続的に梁4bおよび交差部5の補強に用いてもよい。補強部材32,33が鋼板である場合は使い回しが利くため、撤去して、他所の作業に用いてもよい。
さらに、台座2gと滑動部材21も残置してもよい。
さらに、梁4bと交差部5との境界部分等のように、単に平面ではない複雑な形状であっても、炭素繊維シートであれば、このような複雑な形状に沿って取り付けることができるので融通性に優れ、梁4bと交差部5との境界部分等のような複雑な形状の部分の補強を確実に行うことができる。
さらに、補強部材32,33として鋼板を用いた場合には使い回しが利くため、撤去した後に他の建築物における免震装置の交換作業で再利用することができる。したがって、免震装置の交換作業に係るコストを低減させることができる。
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、変形例について説明する。以下に挙げる変形例は可能な限り組み合わせてもよい。
上述の実施形態では、既存免震装置10xを新規免震装置10nに交換する箇所は一箇所だけとしたが、交換箇所は複数であってもよいし、全箇所の既存免震装置10xを交換してもよい。
交換箇所が複数であって近接している場合は、これら複数の交換箇所における交差部5および既存免震装置10xがある位置を含む領域が、第一領域A1となる。
交換箇所が複数であって離間している場合は、上述した実施形態を、離間する複数の交換箇所それぞれに適用する。
全箇所の既存免震装置10xを交換する場合は、全箇所の交差部5をジャッキ装置20によってジャッキアップする。
全箇所の交差部5をジャッキアップする際は、ジャッキ装置20による交差部5のジャッキアップ後に、全箇所の既存免震装置10xの上面と突出部6の下面との間に、仮フィラープレート(図示せず)を差し入れる。続いて、ジャッキ装置20によるジャッキアップを解除して、突出部6を仮フィラープレート上に一旦載せる。
その後、全箇所の交差部5を順番に一箇所ずつジャッキアップして、一箇所ずつ既存免震装置10xから新規免震装置10nに交換する。なお、交換済みの箇所における新規免震装置10nの上面と突出部6の下面との間には再度、仮フィラープレートを介在させて、他の箇所との高さレベルを合わせるようにする。
全箇所の交換が終了した後は、全箇所の交差部5をジャッキアップし、仮フィラープレートを全て取り除いてからジャッキダウンする。
以上のような方法を採用することができる。
ただし、これに限られるものではなく、全箇所の交差部5をジャッキアップし、全箇所で既存免震装置10xから新規免震装置10nに交換し、その後、ジャッキダウンして交差部5の位置を下げる方法を採用してもよい。
既存免震装置10xは、支持部である基礎2における基礎スラブ2dの上面のうち、基礎杭2aの杭頭部2bの上方に設置されている。すなわち、上述した実施形態における固定部2eが無い状態で、既存免震装置10xが設置されている。
このような場合には、新規免震装置10nも、基礎スラブ2dの上面のうち、基礎杭2aの杭頭部2bの上方に設置される。
すなわち、基礎2が固定部2eを備えていない場合であっても、ジャッキ装置20によって交差部5をジャッキアップすることができる。
ジャッキ装置20は、基礎スラブ2dの上面のうち、梁4b下方の位置に設置されている。すなわち、上述した実施形態における台座2gが無い状態で、ジャッキ装置20が設置されている。
また、台座2gの代わりに、基礎2の基礎スラブ2d上に鉄板等を敷き込んで、その上にジャッキ装置20を設置してもよい。
このように台座2gが無い状態であっても、ジャッキ装置20によって交差部5をジャッキアップすることができる。
滑動部材21を、梁4bの下面とジャッキ装置20との間に介在させる。
この場合、ジャッキ装置20の下端部は基礎2の基礎スラブ2dもしくは台座2gに対して設置固定された状態となっている。また、梁4bの下面には補強部材32が取り付けられていてもよいし、取り付けられていなくてもよい。
このように梁4bの下面とジャッキ装置20との間に滑動部材21を介在させれば、滑動部材21の免震作用により、免震状態を維持したまま交差部5を持ち上げ、既存免震装置10xと突出部6との間に隙間を形成することができる。
上述した実施形態では、建築物1の基礎2に対して免震構造が組み込まれているものとしたが、本変形例では、基礎2よりも上方の躯体4に対して免震構造が組み込まれている。すなわち、いわゆる中間階免震と呼ばれる免震構造であり、躯体4の中間階に免震構造が組み込まれている。
より詳細に説明すると、躯体4が下部躯体と上部躯体とを備えており、下部躯体の上端面と上部躯体の下端面との間に、複数の既存免震装置10xが設けられた状態となっている。つまり、この場合は、下部躯体の上端部が本発明における支持部として機能し、上述した実施形態における基礎2と同等の機能を発揮する。
そして、このような場合にも、ジャッキ装置20によって、上部躯体の下端面から突出する突出部6を、梁4bを介して持ち上げることができる。
上述した実施形態では、梁4bと交差部5との境界部分に発生する剪断力30に抵抗する強度を有する補強部材33を用いたが、構造計算の結果、補強部材33を用いなくてもよい場合がある。
このような場合には、図15に示すように、補強部材32のみを用いるようにしてもよい。図15に示す例では、補強部材32を、梁4bの下面と両側面に巻き付けるようにして取り付けている。
本変形例によれば、補強部材32を、梁4bの下面に取り付けるとともに、梁4bの側面に取り付けるので、補強部材32が梁4bに巻き付いたような状態となり、梁4bに発生する曲げモーメント31を効果的に抑え、梁4bを確実に保護できる。
上述した実施形態では、梁4bと交差部5との境界部分に発生する剪断力30に抵抗する強度を有する補強部材33を用いたが、構造計算の結果、補強部材33を用いなくてもよい場合がある。
このような場合には、図16に示すように、補強部材34を用いるようにしてもよい。図16に示す例では、補強部材34を、梁4bの両側面の一部に添わせて取り付けている。すなわち、曲げモーメント31が作用する位置を的確に補強した状態となっている。
なお、本変形例の補強部材34としては炭素繊維シートが好適に用いられているが、これに限らず、鋼板を用いてもよい。
本変形例によれば、補強部材34を、梁4bの両側面の一部に取り付けるので、梁4bに発生する曲げモーメント31を的確に、かつ効果的に抑え、梁4bを確実に保護できる。しかも、使用する補強部材34の大きさ・量を抑えることができるので、免震装置の交換作業に係るコストを低減させることができる。
上述した実施形態では、梁4bと交差部5との境界部分に発生する剪断力30に抵抗する強度を有する補強部材33を用いたが、構造計算の結果、補強部材33を用いなくてもよい場合がある。
このような場合には、図17に示すように、補強部材35を用いるようにしてもよい。図17に示す例では、補強部材35を、梁4bの上面(すなわち、梁4bと一体の床スラブ4cの上面)に添わせて取り付けている。すなわち、曲げモーメント31が作用する位置を的確に補強した状態となっている。
なお、本変形例の補強部材35としては炭素繊維シートが好適に用いられているが、これに限らず、鋼板を用いてもよい。
本変形例によれば、補強部材35を、梁4bの上面に取り付けるので、梁4bに発生する曲げモーメント31を的確に、かつ効果的に抑え、梁4bを確実に保護できる。しかも、使用する補強部材35の大きさ・量を抑えることができるので、免震装置の交換作業に係るコストを低減させることができる。
このような場合には、図示はしないが、梁4bと交差部5との境界部分に発生する剪断力30に抵抗する強度を有する補強部材33だけを用いてもよい。
本変形例によれば、補強部材33を、梁4bと交差部5との境界部分に取り付けるので、梁4bと交差部5との境界部分に発生する剪断力30を効果的に抑え、梁4bと交差部5との境界部分を確実に保護できる。
2 基礎(支持部)
2a 基礎杭
2b 杭頭部
2c 地中梁
2d 基礎スラブ
2e 固定部
2f 擁壁
2g 台座
4 躯体
4a 柱
4b 梁
4c 床スラブ
5 交差部
6 突出部
7x 既存鉄筋
7s 追加鉄筋
10x 既存免震装置
10n 新規免震装置
11 積層ゴム
12 フランジ部
13 取付プレート
20 ジャッキ装置
21 滑動部材
25 油圧ポンプ
26 計測器
27 台車
27a 高さ調整材
30 剪断力
31 曲げモーメント
32 補強部材
33 補強部材
34 補強部材
35 補強部材
50 制御装置
D オイルダンパー
R 補強対象箇所
C 交換箇所を示す円
Y 取り出し方向を示す矢印
A1 第一領域
A2 第二領域
A3 第三領域
Claims (9)
- 建築物の躯体のうち柱と梁とが交差する位置に設けられる交差部と、この交差部の下方に位置する支持部と、の間に設けられた既存免震装置を、ジャッキ装置でジャッキアップして新規免震装置に交換する方法であって、
前記梁に対して、前記ジャッキ装置によるジャッキアップ時に発生する剪断力および/または曲げモーメントに抵抗する強度を有する補強部材を予め取り付けておき、
前記梁のうち前記交差部近傍に位置する箇所の下方に前記ジャッキ装置を設置して前記交差部をジャッキアップし、前記既存免震装置を前記新規免震装置に交換するものであり、
交換箇所の前記交差部および前記既存免震装置を取り出す方向に設けられた前記交差部がある領域を第一領域とし、前記第一領域に隣り合う領域を第二領域とし、前記第二領域に隣り合う領域を第三領域とした場合に、前記第二領域にある前記交差部のジャッキアップ高さを前記第一領域にある前記交差部よりも低くし、前記第三領域にある前記交差部についてはジャッキアップしないことで、前記躯体の下端部を前記交換箇所から遠ざかるにつれて徐々に下がるように傾斜させることを特徴とする免震装置の交換方法。 - 前記補強部材を、前記梁の下面に取り付けることを特徴とする請求項1に記載の免震装置の交換方法。
- 前記補強部材を、前記梁の側面に取り付けることを特徴とする請求項1または2に記載の免震装置の交換方法。
- 前記補強部材を、前記梁の上面に取り付けることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法。
- 前記補強部材を、前記梁と前記交差部との境界部分に取り付けることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法。
- 前記補強部材として炭素繊維シートを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法。
- 前記補強部材として鋼板を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法。
- 前記支持部と前記ジャッキ装置との間、または、前記梁と前記ジャッキ装置との間に滑動部材を介在させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法。
- 前記躯体を補強してから前記ジャッキ装置によって前記交差部を、前記梁を介してジャッキアップすることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の免震装置の交換方法。
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