JP6675759B2 - マンノース転移酵素遺伝子、組換えベクター、形質転換体、1−O−β−マンノシルエリスリトールリピッドの製造方法 - Google Patents

マンノース転移酵素遺伝子、組換えベクター、形質転換体、1−O−β−マンノシルエリスリトールリピッドの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、マンノース転移酵素をコードするマンノース転移酵素遺伝子、当該遺伝子を構成するDNA、このような遺伝子やDNAが翻訳されてなるタンパク質、前記マンノース転移酵素遺伝子が導入された組換えベクター、前記組換えベクターで形質転換された形質転換体、および前記形質転換体を用いた1−O−β−マンノシルエリスリトールリピッドの製造方法に関する。
バイオサーファクタントは微生物が生産する天然の界面活性剤であり、生分解性が高く、低毒性で環境に優しく、新規な生理機能も有する。食品工業、化粧品工業、医薬品工業、化学工業、環境分野等で使用すれば、環境調和型の社会を実現する上で有意義である。このようなバイオサーファクタントとして、従来から、マンノースにアルジトールがβグリコシド結合してマンノシルエリスリトール(以下、MEとも称す。)を形成し、更に脂肪酸がエステル結合したマンノシルアルジトールリピッドが存在する。アルジトールがエリスリトールである化合物は、マンノシルエリスリトールリピッド(以下、MELとも称す。)と称されている(特許文献1)。特許文献1では、大豆油やグルコースなどを添加した培地でシュードザイマ・ヒュベイエンシスKM−59株を培養し、MELを得ている。MELは、構成する糖アルコールとしてエリスリトールを含むが、培地にエリスリトールを添加することなく合成されるため、培地に添加した大豆油やグルコースを資化して栄養源として生育し、その際に副生されたエリスリトールを利用してMELを生産すると理解される。
MELを生合成する微生物の中には、MEL生合成遺伝子クラスターを有するものがある。例えば、ウスティラゴ・マイディス(Ustilago maydis)の第7染色体には、マンノースとエリスリトールを結合してMEを生成する反応を触媒するマンノシルトランスフェラーゼ(Emt1p)、脂質をMEに結合させるアシルトランスフェラーゼ(Mac1p、Mac2p)、アセチル基をMEに結合させるアセチルトランスフェラーゼ(Mat1p)、MELを菌体外に分泌する推定トランスポーター(mmf1)をコードする遺伝子で構成される遺伝子クラスターが存在する(非特許文献1)。
図7に、水素原子、アセチル基、または炭素数3〜18の脂肪酸残基をR〜Rで示したMELの構造式を示す。MELには結合する脂肪酸残基やアセチル基の位置や数等が相違する種々の構造が存在する。RおよびRがアセチル基である構造物はMEL−A、Rが水素原子でありRがアセチル基である構造物はMEL−B、Rがアセチル基でありRが水素原子である構造物はMEL−C、RおよびRが水素である構造物はMEL−Dと定義されている。微生物や培地組成によって生成するMELが異なり、例えば、シュードザイマ・アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)やシュードザイマ・アフィディス(Pseudozyma aphidis)は、大豆油、グルコース、またはn−アルカンを含む培地で培養するとMEL−Aを主成分とし、その他MEL−BおよびMEL−Cを含むMELを生産する(非特許文献1)。
一方、MEL生合成経路を欠損させたシュードザイマ(Pseudozyma)属酵母も開発されている(特許文献3)。シュードザイマ属は、MELを多量に生産するためMEL生合成に消費されるエネルギーが大きい。MEL生合成経路を欠損させることで、MEL生合成系の消費エネルギーを異種タンパク質の生産に振り向けさせるというものである。実施例では、シュードザイマ・アンタークティカを使用し、MELの糖骨格であるMEの合成反応を触媒するマンノーストランスフェラーゼをコードする遺伝子(以下、PaEMT1遺伝子とも称する。)を相同遺伝子組換法により欠損させ、MEL生合成系遺伝子欠損型シュードザイマ属酵母を得ている。シュードザイマ・アンタークティカは、大豆油やグルコースを含有する培地で培養するとMELを生産するが、前記MEL生合成系遺伝子欠損型シュードザイマ属酵母は、同条件で培養してもMELを生産しないという。
ここで、エリスリトールは、図8(a)に示す炭素数4の糖アルコールであり、炭素鎖の両端にCHOH基を有している。DL表記法によれば、エリスリトールはDL同一構造である。ただし、マンノースと結合するエリスリトールのヒドロキシメチル基が1位の炭素に由来するか、4位の炭素に由来するかによって、得られるMEの構造は、図8(b)、(c)に示すように相違する。前記特許文献1に記載されるシュードザイマ・ヒュベイエンシスKM−59株は、同図(b)に示される、4−O−β−D−mannopyranosyl−erythritol(以下、この化合物を4−O−β−MEとも称する。)を糖骨格とする化合物を生成する。得られる4−O−β−D−mannopyranosyl−erythritol Lipidを4−O−β−MELとも称する。
上記した4−O−β−MEに対し、図8(c)に示すように、1−O−β−D−mannopyranosyl−erythritol(以下、1−O−β−MEとも称する。)を糖骨格とする1−O−β−D−mannopyranosyl−erythritol Lipidを製造する微生物もある(特許文献2)。便宜のため、この化合物を1−O−β−MELとも称する。シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)を、オリーブ油を含む培地で培養したところ、1−O−β−MELが生成されたという。この1−O−β−MELは、4−O−β−MELと比べて水和性が向上し、ベシクル形成能も高く、スキンケア剤などとして有望なバイオ素材となるという。
特許第4978908号公報 特開2011−182740号公報 特開2011−172526号公報
Morita et al., "Production of mannosylerythritol lipoids and their application in cosmetics",Appl.Microbiol Biotechnol(2013),Vol.97,P.4691−4700
1−O−β−MELが4−O−β−MELよりも水和性に優れることは、マンノースに結合するエリスリトールの立体構造によってMELの特性が相違することを意味する。更に、1−O−β−MELを構成する脂肪酸残基の数、アセチル基の導入位置などによって、MELの水和性も異なるため、種々のMELを自在に製造できれば更なる用途の開発が可能となる。しかしながら、酵母を用いたMELの製造技術として培養条件に基づく種々の改良が重ねられているが、基本的に生産菌に依存するものであり、生産性に限界がある。特に1−O−β−MELを生産しうる微生物は少なく、シュードザイマ・ツクバエンシスに依存しているのが現状である。しかも、シュードザイマ・ツクバエンシスは、MEL−Bを主生成物とするが、MEL−Aはほとんど生合成することができない。従来の微生物を使用して目的のMELを生産するために、1−O−β−MELを生合成しうる技術の開発が望まれる。
MEL生合成遺伝子クラスターを構成する遺伝子の中で、1−O−β−MELの生産に直接関与する酵素として、マンノースとエリスリトールを結合してMEを生成する反応を触媒するマンノシルトランスフェラーゼがある。1−O−β−MELを生合成できるマンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を使用すれば、従来の微生物を使用して1−O−β−MELを生合成させることができる。したがって、1−O−β−MELを生合成するための、マンノース転移酵素遺伝子、当該遺伝子を構成するDNA、このような遺伝子やDNAが翻訳されてなるタンパク質の開発が望まれる。
更に、このようなマンノース転移酵素遺伝子が導入された、組換えベクターや、前記組換えベクターを用いて形質転換してなる形質転換体、更には前記形質転換体を培養してなる1−O−β−MELの製造方法の開発が望まれる。
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、1−O−β−MEL生合成に関与するマンノース転移酵素遺伝子、当該遺伝子を構成するDNA、このような遺伝子やDNAが翻訳されてなるタンパク質を提供することを目的とする。
更に、本発明は、前記マンノース転移酵素遺伝子を導入した組換えベクター、前記組換えベクターを用いて形質転換してなる形質転換体、および前記形質転換体を培養してなる1−O−β−MELの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、MEL生合成のための微生物の培養条件およびMEL生合成遺伝子クラスター、並びにMEL生産菌のマンノース転移酵素を詳細に検討した結果、1−O−β−MELを生産するシュードザイマ・ツクバエンシスのマンノース転移酵素には、特有のアミノ酸配列が存在すること、このようなアミノ酸配列を有するマンノース転移酵素をコードする遺伝子は、1−O−β−MELを生合成するためのマンノース転移酵素遺伝子として使用できること、このような遺伝子を導入して組換えベクターを作成し、この組換えベクターを用いて4−O−β−MEL生産菌を形質転換すると、4−O−β−MEL生産菌の特性を維持しつつ、4−O−β−MELに代えて1−O−β−MELを生産しうることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、マンノースとエリスリトールとから、下記式に示す1−O−β−D−マンノピラノシルエリスリトールを生合成するマンノース転移酵素をコードする遺伝子であって、配列番号1と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むことを特徴とする、マンノース転移酵素遺伝子を提供するものである。
Figure 0006675759
また、本発明は、前記マンノース転移酵素が、配列番号6、配列番号7および/または配列番号8に示すアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記マンノース転移酵素遺伝子を提供するものである。
また、本発明は、上記マンノース転移酵素遺伝子が導入された、組換えベクターを提供するものである。
また本発明は、下記式で示される4−O−β−MEを生合成する菌のマンノース転移酵素活性を失活させた4−O−β−MEL非生産菌を、上記組換えベクターを用いて形質転換したことを特徴とする形質転換体を提供するものである。
Figure 0006675759
また、本発明は、前記4−O−β−MEを生合成する菌が、下記式で示す4−O−β−MELを生産する菌であることを特徴とする、前記形質転換体を提供するものである。
Figure 0006675759
(式中、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい、水素原子、アセチル基、又は炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示し、Rは、水素原子または炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示す。)
更に本発明は、前記形質転換体を培養することを特徴とする、下記式で示す1−O−β−MELの製造方法を提供するものである。
Figure 0006675759
(式中、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい、水素原子、アセチル基、又は炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示し、Rは、水素原子または炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示す。)
加えて本発明は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、および前記配列番号1と90%以上の同一性を有することを特徴とするタンパク質を提供するものである。
また本発明は、配列番号2で表される塩基配列からなるDNA、および前記配列番号2と90%以上の同一性を有することを特徴とするDNAを提供するものである。
本発明によって、1−O−β−MELを生産できるマンノース転移酵素遺伝子が提供される。前記マンノース転移酵素遺伝子を含有する組換えベクターを調製し、該組換えベクターにより、4−O−β−MEを生合成するマンノース転移酵素活性を失活させた4−O−β−MEL非生産菌を形質転換することで、4−O−β−MEL生産菌を用いて1−O−β−MELを製造することができる。
シュードザイマ・アンタークティカがMEL生産能を有し、当該シュードザイマ・アンタークティカのマンノース転移酵素をコードする遺伝子を破壊したMEL非生産株がMEL生産能を欠失したことを示すTLCの図である。符号1は、MEL生産菌の生産物を、符号2は、MEL非生産菌の生産物を示す。 遺伝子発現ベクターpUXV1−PtEMT1の構造を示す図である。 遺伝子発現ベクターpUXV1−PtEMT1で形質転換されたMEL非生産株が、MELの生産能を回復したことを示す図である。 遺伝子発現ベクターpUXV1−PtEMT1で形質転換されたMEL非生産菌から生産されたMEL精製物を薄層クロマトグラフィーで検出した結果を示す図である。 4−O−β−MEL生産菌が生産したMELと、形質転換体が生産したMELのH−NMR解析結果を示す図である。 4−O−β−MEL生産菌が生産したMELと、形質転換体が生産したMELの13C−NMR解析結果を示す図である。 MELの構造を説明する図である。 エリスリトールの構造と、1位のCHOH基、または4位のCHOH基とマンノースとがβグリコシド結合した場合に、MELの糖骨格の立体構造が異なることを説明する図である。
本発明の第一は、マンノースとエリスリトールとから、1−O−β−MEを生合成するマンノース転移酵素をコードする遺伝子であって、配列番号1と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むことを特徴とするマンノース転移酵素遺伝子、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、および前記配列番号1と90%以上の同一性を有することを特徴とするタンパク質、並びに、配列番号2で表される塩基配列からなるDNA、および前記配列番号2と90%以上の同一性を有することを特徴とするDNAである。また、本発明の第二は、前記マンノース転移酵素遺伝子を導入した組換えベクター、前記組換えベクターで形質転換された形質転換体、および前記形質転換体を用いた1−O−β−MELの製造方法である。以下、本発明を詳細に説明する。
(1)1−O−β−MEL
本発明で製造される1−O−β−MELは、下記式で示される。エリスルトールがマンノースにβグリコシド結合した1−O−β−MEに、1〜4個の脂肪酸がエステル結合してなる化合物である。式中、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい、水素原子、アセチル基、又は炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示し、Rは、水素原子または炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示す。なお、本願明細書において、RおよびRがアセチル基である構造物をMEL−A、Rが水素原子でありRがアセチル基である構造物をMEL−B、Rがアセチル基でありRが水素原子である構造物をMEL−C、RおよびRが水素である構造物をMEL−Dと称する。1−O−β−MELは、主としてシュードザイマ・ツクバエンシスによって製造されてきたが、シュードザイマ・ツクバエンシスが生産する1−O−β−MELはMEL−Bに限定されていた。また、シュードザイマ・ツクバエンシスが生産する1−O−β−MELに含まれる脂肪酸残基は2または3に限定され、脂肪酸残基が1のものは存在しなかった。しかしながら、本発明で製造される1−O−β−MELは、脂肪酸残基数が2または3に限定されず、かつアセチル基の配置もMEL−Bに限定されない。したがって、従来存在しない脂肪酸残基が3本鎖の1−O−β−MEL−Aや1−O−β−MEL−C、脂肪酸残基が1本鎖の1−O−β−MELなどの新規化合物も含まれる。
Figure 0006675759
(式中、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい、水素原子、アセチル基、又は炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示し、Rは、水素原子または炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示す。)
(2)マンノース転移酵素遺伝子
エリスリトールは炭素鎖の両端にCHOH基を有するため、何れのCHOH基とマンノシル基とがβ結合するかによって生産されるMELの立体構造が相違する。シュードザイマ・ヒュベイエンシスKM−59株が生成するMELは、図8(b)に示される4−O−β−MEを糖骨格とし、シュードザイマ・ツクバエンシスが生成するMELは、図8(c)1−O−β−MEを糖骨格とする。これらMEL生産菌は、マンノースにエリスルトールをβグリコシド結合する際に、エリスリトールの立体構造を認識して、1−O−β−MEまたは4−O−β−MEを生産すると推定される。一実施形態において、本発明では、MEL生合成遺伝子クラスターを構成する遺伝子の中から、マンノースとエリスリトールとを結合してMEを生合成するマンノース転移酵素を選択し、1−O−β−MELを製造するための遺伝子として使用する。
配列番号1に、シュードザイマ・ツクバエンシスのマンノース転移酵素のアミノ酸配列を示す。このマンノース転移酵素は、マンノースとエリスリトールとから1−O−β−MEを生合成する反応を触媒する。一実施形態において、本発明では、配列番号1に示すアミノ酸配列の他、配列番号1と60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸配列をコードする遺伝子を好ましく使用することができる。一実施形態において、前記マンノース転移酵素が有するアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列とは異なることが好ましい。例えば、一実施形態において、前記マンノース転移酵素が有するアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されていることが好ましい。
アミノ酸配列の同一性は、市販の又はインターネットを通じて利用可能な解析ツール(例えば、FASTA、BLAST、PSI-BLAST、SSEARCH等のソフトウェア)を用いて計算することができる。例えば、BLAST検索を初期条件で行うことにより同一性を測定することができる。BLAST検索の初期条件とは、例えば、次の通りである。即ち、Advanced BLAST 2.1において、プログラムにblastpを用い、Expect値を10、Filterは全てOFFにして、MatrixにBLOSUM62を用い、Gap existence cost、Per residue gap cost、及びLambda ratioをそれぞれ 11、1、0.85(デフォルト値)にして、他の各種パラメータもデフォルト値に設定して検索を行うことにより、アミノ酸配列の同一性の値(%)を算出することができる。
配列番号1と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、各種タンパク質に関するアミノ酸配列が保存されている各種公知のデータベースから、解析ソフトにてアッセンブルを行い選択することができる。配列番号1と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列として、例えば、ウスティラゴ・ホルデイ(Ustilago hordei)のUHOR 04876タンパク質、メラノプシディウム・ペンシルバニカム(Melanopsichium pennsylvanicum)やスポリソリウム・レイリアヌム(Sporisorium reilianum)由来タンパク質、ウスティラゴ・マイディスのエリスリトール−マンノシル−トランスフェラーゼや、シュードザイマ・アフィディスのマンノシルトランスフェラーゼ、シュードザイマ・ヒュベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)やシュードザイマ・アンタークティカのグリコシルトランスフェラーゼ等がある。これらはいずれもアミノ酸数600〜620のアミノ酸配列のタンパク質である。
上記した配列番号1と60%以上の同一性を有するタンパク質の各アミノ酸配列を詳細に比較検討したところ、配列番号1で示すシュードザイマ・ツクバエンシス由来のマンノース転移酵素には、4−O−β−MEを生合成する微生物のマンノース転移酵素と相違する、特徴的なアミノ酸配列が含まれることが判明した。このアミノ酸配列を配列番号6、配列番号7、配列番号8に示す。同一性評価のための検索結果は、データベースによって選択された各タンパク質のアミノ酸配列が相互に近似するように、適宜「−」が挿入された配列で表示される。配列番号1で示すアミノ酸配列のN末端側のアミノ酸を第1アミノ酸とすると、配列番号6は、N末端から第271〜300番目のアミノ酸配列であり、配列番号7は、同第369〜398番目のアミノ酸配列であり、配列番号8は、同第569〜612番目のアミノ酸配列に相当する。配列番号1と60%以上の同一性を有するタンパク質のアミノ酸配列は複数存在するが、前記3つの領域以外のアミノ酸配列(即ち、N末端から第270番目までのアミノ酸配列、同301〜368番目、および同第399〜568番目までのアミノ酸配列)は相互に極めて近似することが判明した。したがって、配列番号1と60%以上の同一性を有し、かつ配列番号6、配列番号7、配列番号8に示すアミノ酸配列の少なくとも1の配列を有するタンパク質は、マンノースにエリスルトールをβグリコシド結合させて1−O−β−MEを生合成できる可能性が極めて高い。本発明で使用するマンノース転移酵素遺伝子は、配列番号1と同一のアミノ酸配列をコードする遺伝子であってもよく、マンノースにエリスルトールをβグリコシド結合させて1−O−β−MEを生合成できることを条件に、配列番号1と60%以上の同一性を有するもの、より好ましくは配列番号6、配列番号7および/または配列番号8のアミノ酸配列を含むものをコードする遺伝子を広く使用することができる。なお、配列番号6、配列番号7、配列番号8のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が付加され、または欠失したものであっても、マンノースにエリスルトールをβグリコシド結合させて1−O−β−MEを生合成できるものであれば、当該アミノ酸配列をコードする遺伝子は、本発明のマンノース転移酵素遺伝子に含まれるものとする。一実施形態において、4−O−β−MEの合成を触媒する酵素は、配列番号1のアミノ酸配列と60%以上の同一性を有し、配列番号1の第1番目〜第270番目、第301番目〜368番目、および第399番目〜第568番目において、少なくとも1つもアミノ酸残基が置換、欠失、不可、及び/又は削除されていることが好ましい。このような変異が導入されるアミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば、50個以下、40個以下、30個以下、20個以下、10個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、又は1個に設定することができる。
一実施形態において、上記アミノ酸残基の変異は、アミノ酸残基の置換であることが好ましい。アミノ酸残基の置換の種類は、特に制限されないが、酵素活性に顕著な影響を与えないという観点から保存的アミノ酸置換が好ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
配列番号6、配列番号7、配列番号8が挿入される位置は、配列番号1に示すアミノ酸配列のこれら配列に該当する位置の近傍であることが好ましい。例えば、配列番号6に関して説明すれば、配列番号1と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、N末端から第268〜270のアミノ酸配列にENH配列を含む点で共通する。したがって、本発明では、ENH配列に次いで配列番号6のアミノ酸配列が含まれるものを好適に使用することができる。同様に、配列番号1と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、N末端から第350〜360番にいずれもKLN配列を含む点で共通する。この配列を目安に、前記KEN配列の後に配列番号7のアミノ酸を含むものを好適に使用することができる。同様に、配列番号1と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、N末端から第540〜560番にAAA配列を含む点で共通する。この配列を目安に、前記AAA配列の後に配列番号8のアミノ酸配列を有するものを使用する。なお、配列番号6、配列番号7、配列番号8のアミノ酸配列は、前記した特有の配列の直後に存在するものであってもよく、ENH配列と配列番号6、KLN配列と配列番号7、AAA配列と配列番号8との間に、7〜20個のアミノ酸を更に含むものであってもよい。具体的には、前記したウスティラゴ・ホルデイのUHOR 04876タンパク質のアミノ酸配列のN末端から第271〜305番目のアミノ酸配列が配列番号6で置換され、同第373〜308番目のアミノ酸配列が配列番号7で置換され、同第568番目以降のアミノ酸配列が配列番号8で置換されたものなどを例示することができる。
なお、通常の遺伝子組換え技術を用いて、アミノ酸やDNAの付加、欠失、挿入、置換等によって、本発明のマンノース転移酵素遺伝子の機能を保持した誘導体を得ることは当業者にとって容易である。ゆえにそのような常套手段で得られる1−O−β−MEを生合成しうるマンノース転移酵素遺伝子も本発明の範囲に含まれるものとする。
(3)タンパク質およびDNA
本発明のタンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。前記したように、配列番号1で表されるアミノ酸配列は、シュードザイマ・ツクバエンシスに由来する、マンノースとエリスリトールとから1−O−β−MEを生合成するマンノース転移酵素のアミノ酸配列である。本発明のタンパク質は、マンノースとエリスリトールとから1−O−β−MEを生合成するマンノース転移反応を触媒することができ、マンノース転移酵素として使用することができる。ただし、マンノース転移活性に限定されず他の触媒活性を有する場合も含む。なお、本発明のタンパク質は、配列番号1と90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するタンパク質であってもよい。
一実施形態において、本発明のDNAは、配列番号2で表される塩基配列を有することが好ましい。配列番号2で表される塩基酸配列は、マンノースとエリスリトールとから1−O−β−MEを生合成するマンノース転移酵素をコードするDNAである。したがって、本発明のDNAは、マンノースとエリスリトールとから1−O−β−MEを生合成する上記マンノース転移酵素の遺伝子と同様に使用することができる。なお、本発明のDNAが有する塩基配列は、上述する1−O−β−MEを生合成するマンノース転移酵素をコードする限り任意であり、例えば、配列番号2と60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するDNAであってもよい。一実施形態において、1−O−β−MEを生合成するマンノース転移酵素をコードするDNAは、配列番号2の塩基配列とは異なる塩基配列を有することが好ましい。
塩基配列の相同性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、FASTA、BLAST、PSI-BLAST、SSEARCH等のソフトウェアを用いて計算される。具体的には、BLAST検索の初期条件で求めることができる。初期条件とは例えば次の通りである。即ち、Advanced BLAST 2.1において、プログラムにblastnを用い、各種パラメータはデフォルト値に設定して検索を行うことにより、ヌクレオチド配列の相同性の値(%)を算出することができる。
(4)マンノース転移酵素遺伝子の調製方法
配列番号1に示すアミノ酸配列は、シュードザイマ・ツクバエンシスのマンノース転移酵素のアミノ酸配列である。このアミノ酸配列をコードする遺伝子は、例えば、シュードザイマ・ツクバエンシスの全ゲノム配列情報を取得し、全遺伝子領域を推定し、4−O−β−MEを生合成するマンノース転移酵素をコードするDNAと同一性を比較し、同一性の高い遺伝子を選択することで調製することができる。また、シュードザイマ・ツクバエンシスを培養する際に、脂肪酸を含む培地で培養して1−O−β−MEL生産に関与する遺伝子群を発現させ、発現量の多いmRNAなどを選択し、4−O−β−MEを合成するマンノース転移酵素の遺伝子ゲノム情報を参照して、配列同一性の高い遺伝子を選択してもよい。このような遺伝子を構成するDNAは、配列番号1をコードするDNA配列に基づいて化学合成したものであってもよい。マンノース転移酵素をコードするDNAは、ここに開示される配列情報を基に、化学的DNA合成法、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、又は生化学的手法などを用いることによって容易に調製することができる
また、前記したウスティラゴ・ホルデイのUHOR 04876タンパク質のアミノ酸配列のN末端から第271〜305番目のアミノ酸配列が配列番号6で置換され、同第373〜308番目のアミノ酸配列が配列番号7で置換され、同第568番目以降のアミノ酸配列が配列番号8で置換されたアミノ酸配列をコードする遺伝子であってもよい。このような遺伝子は、ウスティラゴ・ホルデイから全ゲノム配列情報を得て、UHOR 04876タンパク質をコードするDNAを選択し、配列番号6、配列番号7、配列番号8に相当するDNAで適宜置換して調製することができる。
選択した遺伝子が、マンノース転移酵素をコードするものであるかは、この遺伝子を、後記するマンノース転移酵素活性を欠失したMEL非生産株に導入し、MEL生産条件で培養し、MELを生産するかで評価し、更に得られたMELの構造を解析し、1−O−β−MELを検出することで確認することができる。
(5)組換えベクターおよびその調製方法
本発明では、マンノース転移酵素遺伝子を適当な発現ベクターに導入して組換えベクターとして使用することができる。このような組換えベクターは、発現ベクターのプロモーターの下流に前記マンノース転移酵素遺伝子を挿入して調製することができ、従来公知の遺伝子工学に基づいて構築することができる。なお、使用する発現ベクターとしては、プラスミド、コスミドあるいはウイルス由来のもの等を使用することができる。例えば、シュードザイマ属の4−O−β−MEL生産菌を使用して形質転換する場合には、使用する発現ベクターとして、pUXV1 ATCC 77463、pUXV2 ATCC 77464、pUXV5 ATCC 77468、pUXV6 ATCC 77469、pUXV7 ATCC 77470、pUXV8 ATCC 77471、pUXV3 ATCC 77465、pU2X1 ATCC 77466、pU2X2 ATCC 77467等を例示することができる。
なお、上記は本発明の組換えベクターの一例に過ぎず、当業者が当該技術分野の常套手段に従って、種々の1−O−β−MELを生合成するための組換えベクターを構築することができる。発現ベクターに導入するマンノース転移酵素遺伝子以外は、プロモーター、その他の条件は、既知のものから適宜選択することができる。
(6)形質転換体の調製方法
本発明では、4−O−β−MEL非生産菌に、前記組換えベクターを導入して形質転換体を製造することができる。なお、本発明において「4−O−β−MEL非生産菌」とは、本来4−O−β−MELを生合成できる菌(以下、4−O−β−MEL生産菌とも称する。)であるが、マンノースとエリスルトールとを結合して4−O−β−MEを生合成するマンノース転移酵素活性が失活された菌を意味する。4−O−β−MEL生産菌としては、MEL−A、MEL−B、MEL−C、MEL−Dのいずれの4−O−β−MELを生産するものであってもよい。更に、「菌」の名称に限定されず、4−O−β−MEL生産能を有することを条件に、酵母、カビ等の真核微生物、さらには他の高等生物の細胞でもよい。このような高等生物の細胞としては、動物細胞や培養植物細胞が例示される。4−O−β−MEL生産菌の好ましい例として、サッカロマイセス属の菌株(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ)やシュードザイマ属の菌株(例えば、シュードザイマ・アンタークティカ)を例示することができる。一実施形態において、1−O−β−MEの合成を触媒するマンノース転移酵素をコードするDNAを有する宿主細胞は、4−O−β−MEL非生産菌に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
本発明で使用する4−O−β−MEL非生産菌は、4−O−β−MEL生産菌のマンノース転移酵素が失活され、4−O−β−MEを生合成する従前の培養条件では4−O−β−MELを生合成することができない。ただし、マンノースとエリスリトールとを結合するマンノース転移酵素が失活するのみであるから、例えばMEを含む培地で培養した場合に4−O−β−MELを生合成するものであってもよい。本発明で使用する4−O−β−MEL非生産菌は、4−O−β−MEL生産菌のマンノース転移酵素を失活して調製することができ、このような方法は公知である。例えば特許文献3記載の方法で調製することができる。
なお、微生物が生合成するMELは、MEL−A、MEL−B、MEL−C、MEL−Dの他に、MELに導入される脂肪酸残基数が1〜3個の範囲のものが存在する。培養条件によって同じ微生物が異なるMELを生合成することもできる。従来知られているMELの種類と生産菌との関係の一部を表1に示す。なお、図7に示すように、マンノースにはOR、OR、ORおよびORが存在するが、脂肪酸残基数が1本鎖のMELは、R〜Rのいずれか1カ所が脂肪酸残基で他の3カ所がアセチル基のタイプと、R〜Rのいずれか1カ所が脂肪酸残基でアセチル基が存在せず他の3カ所が水素原子のタイプの2種類しか知られていない。現在知られている構造に基づいて表1を作成した。本発明では、4−O−β−MEL生産菌として表1に示す微生物を好適に使用することができる。ただし、本発明で使用できる4−O−β−MEL生産菌は、下記に限定されるものではない。例えば、脂肪酸残基数が1本鎖のMELであって、R〜Rのいずれか2カ所がアセチル基で他の1カ所が水素原子のMELや、R〜Rのいずれか2カ所が水素原子で他の1カ所がアセチル基のMELを生産する微生物が知られた場合に、このような微生物を使用することもできる。
Figure 0006675759
本発明では、前記した組換えベクターを用いて4−O−β−MEL非生産菌を形質転換し、形質転換体を得ることができる。4−O−β−MEL非生産菌に前記組換えベクターを導入して形質転換する方法や形質転換体の選別方法は、従来公知の方法を用いて行うことができる。たとえば、エレクトロポレーション法で簡便に形質転換することができ、ハイグロマイシンBなどを使用して形質転換体を選別することができる。
得られた形質転換体は、エリスリトールの立体構造を認識してマンノースにエリスリトールを結合して1−O−β−MEを製造する以外は、形質転換前の4−O−β−MEL生産菌の特性を維持している。例えば、4−O−β−MEL生産菌が4−O−β−MEL−A生産菌である場合、形質転換体は1−O−β−MEL−Aを生産することができる。また、脂肪酸残基数が1の4−O−β−MELを生合成する場合は、脂肪酸残基数が1の1−O−β−MELを生合成することができる。したがって、形質転換体によって生産させる1−O−β−MELの構造を基準に、対応する4−O−β−MEL生産菌を選択することができる。例えば、脂肪酸残基数が1の1−O−β−MEL−Cを製造する場合は、脂肪酸残基数が1の4−O−β−MEL−Cを生産するシュードザイマ・アンタークティカを用いて4−O−β−MEL非生産菌を調製し、これを形質転換すればよい。
(7)1−O−β−MELの製造方法
本発明の形質転換体は、1−O−β−MELを生合成できるように改変されたものである。この形質転換体を培養し、形質転換体を含む培養物から1−O−β−MELを採取する。培養条件は、4−O−β−MEL生産菌の培養条件を好適に使用することができる。4−O−β−MEL生産菌がシュードザイマ属の場合には、一般には、pH5〜8、好ましくはpH6、温度20〜35℃、好ましくは22〜28℃で3〜7日間培養すればよい。1−O−β−MELは、定法にしたがって培養液中から回収することができる。
MELは、アセチル基の結合位置や含まれる脂肪酸残基数、エリスリトールの立体構造等が相違すると、界面活性効果やベシクル形成能、水和性などが相違する。本発明によれば、4−O−β−MEL生合菌の培養条件と同じ培養条件で形質転換体を培養することで、4−O−β−MEL生合菌の特性を維持して1−O−β−MELを製造することができる。形質転換体から生合成される産物の推定が容易であり、かつ従前の培養条件で効率的にMELを生合成することができる。
(8)1−O−β−MELの用途
1−O−β−MELは、親水性の糖骨格と、親油性の脂肪酸残基を有し、脂肪酸残基数によって1−O−β−MELの親水性が異なる。したがって、生産された種々の1−O−β−MELは、その特性に応じて、界面活性剤、医薬品、化粧品、食品などに使用することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
(1)MEL生産菌の培養
保存培地(麦芽エキス3g/L、酵母エキス3g/L、ペプトン5g/Lグルコース10g/L、寒天30g/L)に保存したシュードザイマ・ツクバエンシス株を、グルコース20g/L、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウムム3g/L、リン酸2水素カリウム0.3g/L、及び硫酸マグネシウム0.3g/Lを含む液体培地(a)4mLが入った試験管に1白金耳接種し、25℃で振とう培養し、菌体培養液(a)を得た。
この菌体培養液(a)を、オリーブ油40g/L、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム0.3g/L、及び硫酸マグネシウム0.3g/Lを含む液体培地(b)20mLの入った坂口フラスコに接種し、25℃で振とう培養を行い、菌体培養液(b)を得た。
(2)マンノース転移酵素の抽出と遺伝子配列の特定
上記菌体培養液(b)に含まれる菌体を液体窒素で凍結し、フェノールおよびクロロホルムで処理しゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNAの純度と量を分光光度計で確認した後、ゲノムシーケンス用のDNAライブラリー調製キットを用いて、DNAライブラリーを調製した。調製したDNAライブラリーに挿入された遺伝子サイズの分布をバイオアナライザーにて確認した。なお、DNAライブラリーの量は微量DNA定量キットを用いて測定した。所定量のDNAライブラリーを用いて、ゲノム配列を次世代シーケンサーで解読した。得られた配列情報は、解析ソフトにてアッセンブルを行い、断片化したゲノム情報を得た。このゲノム情報から遺伝子領域を推定した。次いで、4−O−β−MEを生合成する既知のマンノース転移酵素のアミノ酸配列と、前記推定遺伝子領域とを対比し、配列同一性の高い遺伝子を選択した。この配列を配列番号3に示す。
(3)4−O−β−MEL非生産菌の調製
特許文献3に従い、4−O−β−MEL生産菌であるシュードザイマ・アンタークティカT−34の4−O−β−MEを生合成するためのマンノース転移酵素を欠損させて、4−O−β−MEL非生産株を調製した。
(4)4−O−β−MEL非生産菌のMEL生合成能の評価
4−O−β−MEL生産菌と4−O−β−MEL非生産株とを上記(1)の菌体培養液(b)を得る条件で7日間培養し、培養物をTLCにて評価した。結果を図1に示す。Mはマーカーであり、図8(d)に示す4−O−β−MELの標品である。また、1は4−O−β−MEL生産菌の培養物を示し、2は、4−O−β−MEL非生産株の培養物を示す。1で示される4−O−β−MEL生産菌であるシュードザイマ・アンタークティカT−34は、MEL−Aを生産するが、2で示される4−O−β−MEL非生産株は、上記培養条件ではいずれのMELも生産することができなかった。
(5)組換えベクター構築
配列番号3に示す遺伝子を発現する組換えベクターを以下の方法で構築した。
まず、配列番号3を参照して、配列番号4に示す開始コドンの上流にBamHIサイト(ggatcc)を導入したプライマーと、配列番号5に示す終始コドンの下流でBamHIサイトを導入するように設計したプライマーとの一対のプライマーを用いてPCRを行い、前記した選択遺伝子を増幅した。増幅した遺伝子を、糸状菌(Ustilago maydis)用の発現ベクターのpUXV1のクローニングサイトに連結し、gapプロモーターの制御下でこの遺伝子が発現される遺伝子組換えベクターpUXV1−PtEMT1を構築した。組換えベクターの構造を図2に示す。
Fwd:gtttggatccatgaaagtggcactgctttc(配列番号4)
Rvs:cgggatcccatgagggaactgatgtgcg(配列番号5)
(6)形質転換体の調製
得られた組換えベクターを用いて4−O−β−MEL非生産株を形質転換した。形質転換の方法は以下に従った。
エレクトロポレーション法にて、前記遺伝子組換えベクターpUXV1−PtEMT1を、前記シュードザイマ・アンタークティカT−34由来の4−O−β−MEL非生産株に導入した。一方、コントロールとしてインサートを含まないベクターpUXV1を用い、同様に操作した。次いで、G418を使用して形質転換体を選別した。
(7)形質転換体のMEL生産能の評価
形質転換体を上記(1)の菌体培養液(a)を得る条件で1日間培養し、ついで菌体培養液(b)を得る条件で7日間培養し、得られた菌体培養液からMELを抽出した。菌体培養液に等量の酢酸エチルを添加し、十分攪拌した後、酢酸エチル層を分取した。酢酸エチル層に含まれるMELの確認は薄層クロマトグラフィーにて行った。結果を図3に示す。図中、Mはマーカーであり、符号1、2、3は酢酸エチル層を示す。TLCで検出したスポットは、既知のMELのスポットと一致した。図3に示すように、遺伝子発現ベクターpUXV1−PtEMT1で形質転換されたシュードザイマ・アンタークティカ由来のMEL非生産株は、MELを生産することができた。
(8)MELの同定
形質転換体から生産されたMELを、シリカカラムクロマトグラフィーで精製した。次いで、精製品の化学構造を、H−NMRと13C−NMRとにより解析した。精製後のMELのTLCを図4に示す。図4においてMはマーカーであり、1は精製品である。図4の結果から、MEL非生産株が生産したMELは、MEL−Aと推定された。
この精製品のH−NMRの分析結果を図5に、13C−NMRの分析結果を図6に示す。図5(A)、は、MEL非生産菌を調製する際に使用したシュードザイマ・アンタークティカが生産したMEL−AのH−NMRの分析結果であり、図5(B)は形質転換体が生産したMEL−AのH−NMRの分析結果である。図5(B)のH−NMRの結果に示すように、シュードザイマ・ツクバエンシス由来のマンノース転移酵素を発現している形質転換体は、1−O−β−MELに特徴的なH−4aとH−4bのピークシフトを示し、1−O−β−MELであることが確認された。同様に、図6(A)はMEL非生産菌を調製する際に使用したシュードザイマ・アンタークティカが生産したMEL−Aの13C−NMRの分析結果であり、図6(B)は形質転換体が生産したMEL−Aの13C−NMRの分析結果である。図6(A)、(B)を比較して明らかなように、エリスリトールの3位の炭素のピーク位置が大きく異なり、1−O−β−MELであることが確認された。
上記したように、4−O−β−MEL生産菌を使用して、1−O−β−MELを製造することができた。しかも、使用した4−O−β−MEL生産菌は、主として4−O−β−MEL−Aを生産するシュードザイマ・アンタークティカである。MEL−Bを生合成するシュードザイマ・ツクバエンシス由来のマンノース転移酵素を使用して、形質転換体から1−O−β−MEL−Aを生産させることができた。これは、MEL−Bを生合成するシュードザイマ・ツクバエンシス由来のマンノース転移酵素の遺伝子を使用し、従来の4−O−β−MEL生産菌の生合成特性をそのまま利用し、マンノースに結合するエリスリトールの立体構造のみが異なる1−O−β−MELを生産させうることを示すものである。
1−O−β−MEを生合成するためのマンノース転移酵素の遺伝子は、微生物が生合成するMELの糖構造を制御するためのターゲット遺伝子の一つとなり、該遺伝子を用いた組み換えベクターで形質転換することで、従来の微生物に1−O−β−MELの生合成能力を付与できることが示された。この技術によって、より水になじみやすく実用性に優れた1−O−β−MELの生産技術の向上や、遺伝子組換え技術を駆使した微生物プロセスによる新たなバイオ素材の開発への応用も期待できる。
本発明のマンノース転移酵素遺伝子を用いると、種々の1−O−β−MELを生産することができ、医薬、環境その他の産業に使用でき有用である。

Claims (6)

  1. マンノースとエリスリトールとから、下記式に示す1−O−β−D−マンノピラノシルエリスリトールを生合成する活性を有し、配列番号1と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号6〜8に示すアミノ酸配列を有するマンノース転移酵素をコードする遺伝子(但し、該マンノース転移酵素が有するアミノ酸配列が配列番号1のアミノ酸配列と同じ場合を除く)
    Figure 0006675759
  2. 請求項1に記載されるマンノース転移酵素遺伝子が導入された、組換えベクター。
  3. 下記式で示される4−O−β−D−マンノピラノシルエリスリトールを生合成する菌のマンノース転移酵素活性を失活させた4−O−β−D−マンノピラノシルエリスリトールリピッド非生産菌を、請求項に記載の組換えベクターを用いて形質転換したことを特徴とする形質転換体。
    Figure 0006675759
  4. 前記4−O−β−D−マンノピラノシルエリスリトールを生合成する菌が、下記式で示す4−O−β−マンノシルエリスリトールリピッドを生産する菌であることを特徴とする、請求項に記載の形質転換体。
    Figure 0006675759
    (式中、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい、水素原子、アセチル基、又は炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示し、Rは、水素原子または炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示す。)
  5. 請求項または記載の形質転換体を培養することを特徴とする、下記式で示す1−O−β−マンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
    Figure 0006675759
    (式中、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい、水素原子、アセチル基、又は炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示し、Rは、水素原子または炭素原子数3〜18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸残基を示す。)
  6. 配列番号1と90%以上の同一性を有し、配列番号6〜8に示すアミノ酸配列を有し、マンノースとエリスリトールとから、下記式に示す1−O−β−D−マンノピラノシルエリスリトールを生合成する活性を有する、タンパク質(但し、配列番号1のアミノ酸配列と同じアミノ酸配列を有するタンパク質を除く)
    Figure 0006675759
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