JP6675574B1 - 乳酸を生成する遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌 - Google Patents
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Abstract
Description
従って、微生物を用いて、より簡単な工程で乳酸を製造できる実用的な方法が求められている。中でも、二酸化炭素を固定して乳酸を製造できる実用的な方法が求められている。
特許文献2は、シゾサッカロミセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)に、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子として、ラクトバチルス ペントーサス(Lactobacillus pentosus)由来のLDH遺伝子を導入した形質転換体を用いて乳酸を製造する方法を開示している。
特許文献3は、モーレラ サーモアセティカ(Moorella thermoacetica)に、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子として、サーモアナエロバクター シュードエタノリクス(Thermoanaerobacter pseudethanolicus)由来のldh遺伝子を導入した形質転換体を用いて乳酸を製造する方法を開示している。
特許文献4は、ジオバチルス サーモグルコシダンス(Geobacillus thermoglucosidans)に、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子として、ラクトバチルス デルブリッキィ(Lactobacillus delbrueckii)由来のhdhD遺伝子又はldhA遺伝子を導入した形質転換体を用いて乳酸を製造する方法を開示している。
非特許文献1は、エシェリヒア コリ(Escherichia coli)に、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)由来の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入して得た形質転換体を用いて乳酸を生成する方法を教えている。
しかし、これらの方法は、糖を炭素原料として用いて乳酸を生成する方法であって、二酸化炭素を炭素原料として用いて乳酸を生成する方法ではない。
シアノバクテリアは、植物に比べると炭酸固定能力は高いが、十分な炭酸固定能力ではないため、シアノバクテリアを宿主として用いる方法は、工業的な乳酸製造方法として実用化されていない。
ハイドロジェノバクター サーモフィラスは1.5時間で2倍に増殖する水素細菌であるが、十分な量の乳酸を生産するには通電を行う必要があり、ハイドロジェノバクター サーモフィラスを宿主として用いる方法は、工業的な乳酸製造方法として実用化されていない。
このような状況の下で、本発明者は、ヒドロゲノフィラス属細菌に、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入すると、ヒドロゲノフィラス属細菌内で機能して高活性を発現することを見出した。
本発明者は、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのゲノム上に並んで存在するHPTL_1694、HPTL_1695、HPTL_1696の各遺伝子が乳酸資化酵素遺伝子として機能するのではないかと考えた。
本発明者は、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入したヒドロゲノフィラス サーモルテオラス形質転換体において、ゲノム上のHPTL_1694、HPTL_1695、及びHPTL_1696の1つ以上の遺伝子を破壊すると、培地中に分泌される乳酸の量が著しく増加することを見出した。このことから、HPTL_1694、HPTL_1695、及びHPTL_1696の各遺伝子が乳酸資化酵素遺伝子であると結論付けた。
HPTL_1694遺伝子、HPTL_1695遺伝子、及びHPTL_1696遺伝子の何れか1つ以上を破壊すれば、乳酸生成能が向上することから、これら3つの遺伝子はオペロンを形成しており、これらの遺伝子にコードされる3つのタンパク質が複合体を形成して乳酸資化の機能を発揮すると考えられる。
〔1〕 乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入されており、かつゲノム上の3つの乳酸資化酵素遺伝子の1つ以上が破壊されている遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
〔2〕 上記3つの乳酸資化酵素遺伝子が、それぞれ、下記(a1)〜(a6)の何れかのDNA、下記(b1)〜(b6)の何れかのDNA、及び下記(c1)〜(c6)の何れかのDNAからなるものである、〔1〕に記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
(a1) 配列番号1の塩基配列からなるDNA
(a2) 配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(a3) 配列番号1と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(a4) 配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(a5) 配列番号2と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(a6) 配列番号2のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(b1) 配列番号3の塩基配列からなるDNA
(b2) 配列番号3の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(b3) 配列番号3と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(b4) 配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(b5) 配列番号4と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(b6) 配列番号4のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c1) 配列番号5の塩基配列からなるDNA
(c2) 配列番号5の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c3) 配列番号5と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c4) 配列番号6のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(c5) 配列番号6と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c6) 配列番号6のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
〔3〕 乳酸資化酵素遺伝子に、1又は複数個のヌクレオチドの欠失、付加、置換、及びこれらの組み合わせが導入されることで、乳酸資化酵素遺伝子が破壊されている、〔1〕又は〔2〕に記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
〔4〕 乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が、下記(d1)〜(d6)の何れかのDNAからなるものである、〔1〕〜〔3〕の何れかに記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
(d1) 配列番号9、10、又は11の塩基配列からなるDNA
(d2) 配列番号9、10、又は11の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(d3) 配列番号9、10、又は11と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(d4) 配列番号12、13、又は14のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(d5) 配列番号12、13、又は14と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(d6) 配列番号12、13、又は14のアミノ酸配列において1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
〔5〕 リンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が、下記(e1)〜(e6)の何れかのDNAからなるものである、〔1〕〜〔4〕の何れかに記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
(e1) 配列番号15、16、又は17の塩基配列からなるDNA
(e2) 配列番号15、16、又は17の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(e3) 配列番号15、16、又は17と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(e4) 配列番号18、19、又は20のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(e5) 配列番号18、19、又は20と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(e6) 配列番号18、19、又は20のアミノ酸配列において1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
〔6〕 さらに、乳酸透過酵素遺伝子が導入されている、〔1〕〜〔5〕の何れかに記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
〔7〕 乳酸透過酵素遺伝子が、下記(f1)〜(f6)の何れかのDNAからなるものである、〔6〕に記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
(f1) 配列番号21の塩基配列からなるDNA
(f2) 配列番号21の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸透過酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(f3) 配列番号21と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸透過酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(f4) 配列番号22のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(f5) 配列番号22と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸透過酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(f6) 配列番号22のアミノ酸配列において1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸透過酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
〔8〕 〔1〕〜〔7〕の何れかに記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌を、二酸化炭素を実質的に唯一の炭素源として用いて培養する工程を含む乳酸の製造方法。
二酸化炭素は、物理的又は化学的に固定することもできるが、生物を利用して二酸化炭素を固定すれば、それにより食料、飼料、燃料などとして利用できる有機物を生産することができる。即ち、二酸化炭素そのものを資源として直接的に有価物に変換することができる。これにより、二酸化炭素の増加による地球温暖化と、食料、飼料、燃料の確保困難という2つの問題を共に解決できる。また、二酸化炭素の増加による地球温暖化を抑制しながら、需要のある化成品を製造することができる。
本発明の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌は、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入されており、かつゲノム上の3つの乳酸資化酵素遺伝子の1つ以上が破壊されている。
ヒドロゲノフィラス属細菌としては、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス(Hydrogenophilus thermoluteolus)、ヒドロゲノフィラス ハロラブダス(Hydrogenophilus halorhabdus)、ヒドロゲノフィラス デニトリフィカンス(Hydrogenophilus denitrificans)、ヒドロゲノフィラス ハルシ(Hydrogenophilus hirschii)、ヒドロゲノフィラス アイランディカス(Hydrogenophilus islandicus)、ヒドロゲノフィラス属細菌Mar3株(Hydrogenophilus sp. Mar3)、ヒドロゲノフィラス属細菌Z1038株(Hydrogenophilus sp. Z1038)が挙げられる。中でも、炭酸固定微生物としてトップレベルの生育速度ひいては炭酸固定能力を有する点で、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスが好ましい。
ヒドロゲノフィラス属細菌は地球上のいたる所から簡単に分離できる。ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスの好ましい株として、TH-1(NBRC 14978)株が挙げられる。ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス TH-1(NBRC 14978)株は、炭酸固定微生物としてトップの生育速度を示す〔Agricultural and Biological Chemistry, 41, 685-690 (1977)〕。ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス NBRC 14978株は、ブダペスト条約の下で国際寄託されており、公に利用可能である。
(2-1)野生型の乳酸資化酵素遺伝子
野生型のヒドロゲノフィラス属細菌は、ゲノム上に3つの乳酸資化酵素遺伝子を有し、これら各遺伝子がコードするポリペプチドが乳酸資化酵素複合体(乳酸オキシダーゼ複合体と考えられる)を形成している。野生型のヒドロゲノフィラス属細菌は、活性を有する乳酸資化酵素複合体を生成することで乳酸資化能を有する。
(a1) 配列番号1の塩基配列からなるDNA
(a2) 配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(a3) 配列番号1と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(a4) 配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(a5) 配列番号2と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(a6) 配列番号2のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
配列番号1は、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス野生株のHPTL_1694遺伝子の塩基配列であり、配列番号2は、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス野生株のHPTL_1694遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列である。
(b2) 配列番号3の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(b3) 配列番号3と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(b4) 配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(b5) 配列番号4と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(b6) 配列番号4のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
配列番号3は、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス野生株のHPTL_1695遺伝子の塩基配列であり、配列番号4は、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス野生株のHPTL_1695遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列である。
(c2) 配列番号5の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c3) 配列番号5と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c4) 配列番号6のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(c5) 配列番号6と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c6) 配列番号6のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
配列番号5は、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス野生株のHPTL_1696遺伝子の塩基配列であり、配列番号6は、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス野生株のHPTL_1696遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列である。
また、(a5)、(b5)、(c5)のDNAは、それぞれ、配列番号2、4、6のアミノ酸配列と、95%以上、中でも98%、中でも99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードすることが好ましい。
例えば、被験ポリペプチドが配列番号1に類似する塩基配列にコードされるポリペプチドであれば、被験ポリペプチドと、配列番号2にコードされるポリペプチドと、配列番号3にコードされるポリペプチドとを、PMS及びMTTの共存下で乳酸と反応させる。
本発明の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌は、ゲノム上の上記3つの乳酸資化酵素遺伝子の何れか1つ以上が破壊されており、それにより活性を有する乳酸資化酵素複合体を形成しないか、又はこの活性が野生型乳酸資化酵素複合体より低い。
このように、1又は複数個のヌクレオチドの欠失、付加(挿入を含む)、置換、及びこれらの組み合わせ(以下、「変異」ということもある)により、乳酸資化酵素遺伝子を破壊すればよい。複数ヌクレオチドの欠失、付加(挿入を含む)、置換を導入する場合、遺伝子中の1か所に導入してもよく、複数か所に分散して導入してもよい。
相同組換えによる遺伝子破壊方法自体はよく知られているが、相同組換えを利用したゲノム上の遺伝子の改変は、ヒドロゲノフィラス属細菌では前例がない。本発明者は、ヒドロゲノフィラス属細菌で機能してポジティブセレクションマーカーとして用いることができるハイグロマイシン耐性遺伝子を見出し、また、ヒドロゲノフィラス属細菌内(特に、ストレプトマイシン耐性株内)で機能してカウンターセレクションマーカーとして用いることができるストレプトマイシン感受性遺伝子を見出した。従って、これらを用いれば相同組換えにより、ヒドロゲノフィラス属細菌の乳酸資化酵素遺伝子を破壊することができる。
相同組換え効率を良くするために、上記5’上流領域のDNA、及び3’下流領域のDNAは、それぞれ、10ヌクレオチド以上、好ましくは50ヌクレオチド以上、より好ましくは100ヌクレオチド以上のDNAであることが好ましい。或いは、欠失させようとする領域の5’上流領域、及び欠失させようとする領域の3’下流領域と、それぞれ完全に同一な塩基配列からなるDNAを連結しなくてもよく、相同組換えに用いる領域の長さが長いほど、欠失させようとする領域の5’上流領域又は3’下流領域との間の同一性を低くしても相同組換えを起こさせることができる。
次いで、ベクターの部分、或いはベクターと5’上流領域又は3’下流領域との境目を制限酵素で切断することにより直鎖状にして、ラベリング用DNA断片を得ればよい。切断は、欠失させようとする領域の5’上流領域と3’下流領域の間にマーカーカセットが挟まれた状態になるように行う。このようにして、ストレプトマイシン感受性遺伝子を含むDNA断片と、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むDNA断片とが連結したマーカーカセットが挿入されたラベリング用DNA断片が得られる。
内部が欠失した乳酸資化酵素遺伝子が挿入されたベクターをこの欠失乳酸資化酵素遺伝子が分断されないように切断して直鎖状にする。この直鎖状DNA断片を、上記ストレプトマイシン感受性株(乳酸資化酵素遺伝子がラベリング用DNA断片に置換された遺伝子組換え体)に導入する操作を行い、ストレプトマイシン耐性となった株を選択すればよい。ストレプトマイシン耐性で、かつハイグロマイシン耐性を失った株を選択することも好ましい。これにより、乳酸資化酵素遺伝子に挿入されているマーカーカセットが脱落した遺伝子組換え体、即ち、乳酸資化酵素遺伝子の内部が欠失した遺伝子組換え体が得られる。
乳酸資化酵素遺伝子内部が欠失している場合は、ヒドロゲノフィラス属細菌の親株に比べて、乳酸を唯一の炭素源とする培地での増殖速度が低下しているか、又は生育しなくなっている。
(3-1)乳酸ヒドロゲナーゼ・リンゴ酸/乳酸ヒドロゲナーゼ遺伝子
本発明の遺伝子組換え体は、上記説明したヒドロゲノフィラス属細菌の乳酸資化酵素遺伝子破壊株であって、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された遺伝子組換え体である。換言すれば、この遺伝子組換え体は、ゲノム上の乳酸資化酵素遺伝子が破壊されており、かつ外来性の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有する。リンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼは、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素である。2種以上の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子や、2種以上のリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入してもよい。
野生型のヒドロゲノフィラス属細菌のゲノム上の乳酸資化酵素遺伝子を破壊した後に、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入してもよく、野生型のヒドロゲノフィラス属細菌に、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した後に、ゲノム上の乳酸資化酵素遺伝子を破壊してもよい。
パラジオバチルス サーモグルコシダシウスのldh遺伝子の塩基配列は配列番号9であり、ジオバチルス カウストフィラスのldh遺伝子の塩基配列は配列番号10であり、サーマス サーモフィラスのldh遺伝子の塩基配列は配列番号11である。
サーマス サーモフィラスのmldh遺伝子の塩基配列は配列番号15であり、メイオサーマス ルバーのmldh-1遺伝子の塩基配列は配列番号16であり、メイオサーマス ルバーのmldh-2遺伝子の塩基配列は配列番号17である。
本発明は、上記説明したヒドロゲノフィラス属細菌の乳酸資化酵素遺伝子破壊株であって、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子と、乳酸透過酵素遺伝子が導入された遺伝子組換え体を包含する。換言すれば、この遺伝子組換え体は、ゲノム上の乳酸資化酵素遺伝子が破壊されており、かつ外来性の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子と、外来性の乳酸透過酵素遺伝子を有する。
乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、リンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、乳酸資化酵素遺伝子は、それぞれ、1種又は2種以上を導入することができる。
ジオバチルス カウストフィラスのlutP遺伝子の塩基配列は配列番号21である。
また、(f3) 配列番号21と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸透過酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAも好ましく用いることができる。
また、(f6) 配列番号22のアミノ酸配列において1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸透過酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAも好ましく用いることができる。
宿主のヒドロゲノフィラス属細菌の野生株又は乳酸資化酵素遺伝子破壊株に、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子や、乳酸透過酵素遺伝子を導入して形質転換体を得る方法について説明する。
また、好ましいプロモーターとしては、tacプロモーター、lacプロモーター、trcプロモーター、又はOxford Genetics社OXB1、OXB11〜OXB20の各プロモーターなどが挙げられ、好ましいターミネーターとしては、大腸菌rRNAオペロンのrrnB T1T2 ターミネーター、バクテリオファージλt0転写ターミネーター、T7 ターミネーターなどが挙げられる。
形質転換は、塩化カルシウム法、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン介在トランスフェクション法、電気パルス法などの公知の方法で行える。
培地のpHは、6.2〜8程度とすればよい。
何れの場合も、水素、酸素、及び二酸化炭素を含む混合ガス、好ましくは水素、酸素、及び二酸化炭素からなる混合ガスを供給しながら培養すればよい。有機培地を使用する場合は、水素、酸素、及び二酸化炭素を含む混合ガス、例えば空気の通気で良い。二酸化炭素ガスを供給しない場合は、炭素源として炭酸塩を含む培地を用いればよい。混合ガスは、密閉された培養容器に封入又は連続供給して、振盪培養することで培地内に溶解させてもよく、培養容器を密閉型又は開放型とし、かつバブリングにより培地内に溶解させてもよい。
供給ガス中の水素、酸素、二酸化炭素の容量比(水素:酸素:二酸化炭素)は、1.75〜7.5:1:0.25〜3が好ましく、5〜7.5:1:1〜2がより好ましく、6.25〜7.5:1:1.5がさらにより好ましい。また、ヒドロゲノフィラス属細菌は好熱細菌であるため、培養温度は、35〜55℃が好ましく、37〜52℃がより好ましく、50〜52℃がさらにより好ましい。
上記説明した遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌を用いて乳酸を製造するに当たっては、水素、酸素、及び二酸化炭素を含む混合ガスを供給しながら、無機培地又は有機培地を用いて、この遺伝子組換え体を培養すればよい。
供給されるガスは、水素、酸素、及び二酸化炭素からなる混合ガスとすることが好ましいが、効率的に乳酸を生成できる範囲で異種ガスが混入していてもよい。
ヒドロゲノフィラス属細菌は、水素をエネルギー源として、二酸化炭素を唯一の炭素源として生育できるため、特に、炭素源として実質的に二酸化炭素だけを用いて(特に、二酸化炭素だけを用いて)上記化合物を製造することにより、効率的に二酸化炭素を固定できる。従って、有機物や炭酸塩などの炭素源を含まない無機培地を用いること、即ち、実質的に二酸化炭素だけを炭素源として(特に、二酸化炭素だけを炭素源として)培養することが好ましい。「炭素源として実質的に二酸化炭素だけを用いる」ことは、不可避の量の他の炭素源が混入する場合も包含する。なお、二酸化炭素を供給せず、糖、有機酸、アミノ酸などの有機物や炭酸塩を含む培地を用いることもできる。
培地のpHは、6.2〜8が好ましく、6.4〜7.4がより好ましく、6.6〜7がさらにより好ましい。この範囲であれば、菌の生育及び混合ガスの培地中への溶解が良く、乳酸を効率よく製造できる。
供給ガス中の水素、酸素、二酸化炭素の容量比(水素:酸素:二酸化炭素)は、1.75〜7.5:1:0.25〜3が好ましく、5〜7.5:1:1〜2がより好ましく、6.25〜7.5:1:1.5がさらにより好ましい。この範囲であれば、菌の生育が良く、目的化合物を効率よく製造できる。
混合ガス又は原料ガスの供給速度は、培地1 L当たり、10.5〜60 L/時間、中でも10.5〜40 L/時間、中でも10.5〜21 L/時間とすればよい。この範囲であれば、遺伝子組換え体の生育が良く、目的化合物を効率よく製造できると共に、混合ガスの無駄が抑えられる。
培養温度は、35〜55℃が好ましく、37〜52℃がより好ましく、50〜52℃がさらにより好ましい。この範囲であれば、遺伝子組換え体の生育が良く、乳酸を効率よく製造できる。
(1)ストレプトマイシン耐性株の取得
ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス TH-1株(NBRC 14978)(以下、「TH-1株」と言うことがある)をA液体培地〔(NH4)2SO4 3.0 g、KH2PO4 1.0 g、K2HPO4 2.0 g、NaCl 0.25 g、FeSO4・7H2O 0.014 g、MgSO4・7H2O 0.5 g、CaCl2 0.03 g、MoO3 4.0 mg、ZnSO4・7H2O 28 mg、CuSO4・5H2O 2.0 mg、H3BO3 4.0 mg、MnSO4・5H2O 4.0 mg、CoCl2・6H2O 4.0 mgを蒸留水1 Lに溶解(pH 7.0)〕5 mLの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養した。24時間後の培養液をストレプトマイシン 500 μg/mLを含むA固体培地〔(NH4)2SO4 3.0 g、KH2PO4 1.0 g、K2HPO4 2.0 g、NaCl 0.25 g、FeSO4・7H2O 0.014 g、MgSO4・7H2O 0.5 g、CaCl2 0.03 g、MoO3 4.0 mg、ZnSO4・7H2O 28 mg、CuSO4・5H2O 2.0 mg、H3BO3 4.0 mg、MnSO4・5H2O 4.0 mg、CoCl2・6H2O 4.0 mg、寒天 15 gを蒸留水1 Lに溶解(pH 7.0)〕に塗布し、H2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
その結果、ストレプトマイシン 500 μg/mLを含むA固体培地上で3つのコロニーの形成が確認できた。これらの生育株は、TH-1株のストレプトマイシン耐性株であり、そのうちの1つをNOC269株と命名した。
(2-1)カウンターセレクションマーカーの調製
TH-1株の野生株(ストレプトマイシン感受性株)から、常法に従い、ゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを鋳型として用いて、S12リボソームタンパク質をコードする、ストレプトマイシン感受性遺伝子であるrpsL遺伝子を含むDNA断片をPCR法により増幅した。PCRには、以下のプライマーを用いた。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
(a-1) 5’-ATACGCGTCCTCCGATGCGTCGTAAGGGAAACGTC-3’(配列番号23)
(b-1) 5’-ATAGTCGACTTATTTCTTGCCCGCAGCGGCGCCCG-3’(配列番号24)
なお、プライマー(a-1)にはMluI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-1)にはSalI制限酵素部位が付加されている。
ハイグロマイシン耐性遺伝子(以下、「hph」と言うことがある)配列を含有するプラスミドpJR225(GenBank: K01193)〔Gene, 25, 179-188 (1983)〕のDNAを鋳型として用いて、hph遺伝子を含むDNA断片をPCR法により増幅した。PCRには、以下のプライマーを用いた。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
(a-2) 5’-ATACTCGAGGAGATGACGTTGGAGGGGCAAGGTCG-3’(配列番号25)
(b-2) 5’-ATACGCGTCTATTCCTTTGCCCTCGGACGAGTGCT-3’(配列番号26)
なお、プライマー(a-2)には、XhoI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-2)には、MluI制限酵素部位が付加されている。
このようにして調製したrpsL遺伝子を含むDNA断片を制限酵素SalIで、hph遺伝子を含むDNA断片を制限酵素XhoIで切断し、制限酵素SmaIで切断した大腸菌プラスミドベクターpUC19(GenBank: M77789.2)と混合して、T4 DNAリガーゼ(タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
得られたライゲーション液で、塩化カルシウム法によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、アンピシリン50 μg/mL、及びハイグロマイシン50 μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出し、このプラスミドを制限酵素MluIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、pUC19ベクターの約2.7-kbpのDNA断片に加え、rpsL遺伝子とhph遺伝子が連結した配列に相当する約1.5-kbpのDNA断片が認められた。
構築された、rpsL遺伝子とhph遺伝子が連結したマーカーカセットを含むプラスミドを、pUC-Sms・Hmrと命名した。
(3-1)HPTL_1695遺伝子破壊用DNAの構築
TH-1株の野生株のゲノムDNAを鋳型として用いて、HPTL_1695遺伝子の欠失したい領域の5’側上流、及び、3’側下流の領域に相当するDNA断片をPCR法により増幅した。PCRには、以下のプライマーを用いた。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
(a-3) 5’-cgcGAATTCatggctacccaaccccgcgtcggtct-3’(配列番号27)
(b-3) 5’-cgcACGCGTtggagtgcggctggtCATcgggtgac-3’(配列番号28)
なお、プライマー(a-3)にはEcoRI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-3)にはMluI制限酵素部位が付加されている。
HPTL_1695遺伝子の欠失したい領域の3’側下流領域増幅用プライマー
(a-4) 5’-gcACGCGTCTGCAGaacggaggcgagcgatgaacg-3’(配列番号29)
(b-4) 5’-cgcGCATGCtcaggggatcaagaagacgtgcaccc-3’(配列番号30)
なお、プライマー(a-4)にはMluI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-4)にはSphI制限酵素部位が付加されている。
得られたライゲーション液で、塩化カルシウム法によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、アンピシリン50 μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出し、このプラスミドを制限酵素EcoRI及びSphIで切断し、上流及び下流領域のクローニングの成否を確認した。この結果、クローニングに成功した場合に予想される2.7-kbpと1.6-kbpのDNA断片が認められた。
このプラスミドでは、HPTL_1695遺伝子の5’側上流領域と3’側下流領域が連結されており、HPTL_1695遺伝子の内部が欠失した状態のDNA断片がクローニングされている。構築された、HPTL_1695遺伝子が欠失した状態のDNA断片を含むプラスミドを、pΔHPTL_1695と命名した。
上記(2)で調製したpUC-Sms・Hmrを制限酵素MluIで切断し、1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した後、rpsL遺伝子とhph遺伝子が連結したマーカーカセットの約1.5-kbpのDNA断片をアガロースゲルから切り出し、ゲルを凍結及び融解することで、ゲルからDNAを回収した。
回収したマーカーカセットのDNA断片を、制限酵素MluIで切断した(3-1)で作成したpΔHPTL_1695と混合し、T4 DNAリガーゼ(タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
得られたライゲーション液で、塩化カルシウム法によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、アンピシリン 50 μg/mL、及びハイグロマイシン 50 μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出し、このプラスミドを制限酵素MluIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、pΔHPTL_1695プラスミドの約4.3-kbpのDNA断片に加え、マーカーカセットの配列に相当する約1.5-kbpのDNA断片が認められた。
構築されたHPTL_1695遺伝子ラベリング用のプラスミドをpΔHPTL_1695-Sms・Hmrと命名した。
(3-2)で調製した環状プラスミドpΔHPTL_1695-Sms・Hmrを制限酵素EcoRIとSphIで切断することで直鎖状にした。得られた直鎖状のpΔHPTL_1695-Sms・Hmrで、電気パルス法(エレクトロポレーション法)により、TH-1株のストレプトマイシン耐性株であるNOC269株を形質転換し、ハイグロマイシン 100 μg/mLを含むA固体培地に塗布し、H2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の各生育株を、ハイグロマイシン 100 μg/mL、又はストレプトマイシン 500 μg/mLを含むA固体培地にそれぞれ再ストリークし、H2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
その結果得られた、ハイグロマイシン耐性かつストレプトマイシン感受性の株を鋳型として用いて、HPTL_1695遺伝子を含むDNA領域をコロニーPCR法により増幅した。PCRには、以下のプライマーを用いた。(a-5)と(b-5)のプライマーの組み合わせは、(3-1)で用いた(a-3)と(b-4)のプライマーの組み合わせであり、野生型のTH-1株のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うと、HPTL_1695遺伝子を含む約2.9-kbpのDNA領域が増幅する。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてTaKaRa Ex Taq(タカラバイオ株式会社製)を用いて、常法により行った。
HPTL_1695遺伝子を含む領域増幅用プライマー
(a-5) 5’-cgcGAATTCatggctacccaaccccgcgtcggtct-3’(配列番号31)
(b-5) 5’-cgcGCATGCtcaggggatcaagaagacgtgcaccc-3’(配列番号32)
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、HPTL_1695遺伝子にマーカーカセットが挿入された配列に相当する約3.1-kbpのDNA断片が検出された。この株ではHPTL_1695遺伝子にマーカーカセットが挿入されており、即ちHPTL_1695遺伝子がマーカーによりラベリングされた株が得られた。
(3-1)で調製した環状プラスミドpΔHPTL_1695を制限酵素EcoRIとSphIで切断することで直鎖状にした。得られた直鎖状のpΔHPTL_1695で、電気パルス法(エレクトロポレーション法)により、(3-3)で取得したHPTL_1695遺伝子のラベリング株を形質転換し、ストレプトマイシン 500 μg/mLを含むA固体培地に塗布し、H2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の各生育株を、ハイグロマイシン 100 μg/mL、又はストレプトマイシン 500 μg/mLを含むA固体培地にそれぞれ再ストリークし、H2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
その結果得られた、ハイグロマイシン感受性かつストレプトマイシン耐性の株を鋳型として用いて、HPTL_1695遺伝子を含むDNA領域をコロニーPCR法により増幅した。コロニーPCRは (3-3)と同様の方法で行った。
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、HPTL_1695遺伝子が(3-1)のHPTL_1695遺伝子の内部が欠失した状態のDNA断片に置換された場合に増幅する約1.6-kbpのDNA断片が検出された。即ち、HPTL_1695遺伝子の内部が欠失しHPTL_1695遺伝子が破壊されている。このHPTL_1695遺伝子が破壊された株をNOC373株と命名した。
NOC373株ではHPTL_1695遺伝子が破壊されている。このHPTL_1695遺伝子が破壊されたNOC373株が乳酸資化性を失ったか否かを以下のように確認した。
唯一の炭素源として30 mM 乳酸ナトリウムを含むA固体培地に、NOC373株とNOC373株の親株であるNOC269株をストリークし、50℃にて60時間培養した。その結果、親株であるNOC269株は30 mM 乳酸ナトリウムを含むA固体培地で生育が確認できたが、HPTL_1695遺伝子を破壊したNOC373株は全く生育しなかった。即ち、NOC373株は、HPTL_1695遺伝子の破壊により、本来持っていた乳酸資化性能を失った。従って、HPTL_1695遺伝子が、正真正銘の乳酸資化酵素遺伝子であることが分かった。
(4-1)プラスミドベクターの構築
乳酸生成能付与のための遺伝子の導入に用いたプラスミドベクターの構築方法を、以下に説明する。
先ず、広宿主域ベクターpRK415(GenBank: EF437940.1)〔Gene, 70, 191-197 (1998)〕を鋳型として、PCRを行った。テトラサイクリン遺伝子領域を除く残りのプラスミド領域のDNA断片を増幅すべく、下記の一対のプライマーを合成し、使用した。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
pRK415プラスミド配列増幅用プライマー
(a-6) 5’-CGTGGCCAACTAGGCCCAGCCAGATACTCCCGATC-3’(配列番号35)
(b-6) 5’-TGAGGCCTCATTGGCCGGAGCGCAACCCACTCACT-3’(配列番号36)
なお、プライマー(a-6)及び(b-6)には、SfiI制限酵素部位が付加されている。
nptII遺伝子配列増幅用プライマー
(a-7) 5’-ctgGGCCTAGTTGGCCacgtagaaagccagtccgc-3’(配列番号37)
(b-7) 5’-tccGGCCAATGAGGCCtcagaagaactcgtcaaga-3’(配列番号38)
なお、プライマー(a-7)及び(b-7)には、SfiI制限酵素部位が付加されている。
このようにして調製したDNA断片をそれぞれ制限酵素SfiIで切断し、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を反応させてライゲーション液を得た。得られたライゲーション液で、塩化カルシウム法〔Journal of Molecular Biology, 53, 159-162 (1970)〕によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシン 50 μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出した。このプラスミドDNAを制限酵素SfiIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、pRK415プラスミドに由来する約2.0-kb及び3.0-kb及び3.7-kbのDNA断片に加え、nptII遺伝子配列の約1.1-kb DNA断片が認められた。
構築されたプラスミドをpCYK01と命名した。
(4-2-1)λt0ターミネーター配列のDNA断片の調製
λt0ターミネーター配列のDNAを作成するため、下記の一対のプライマーを合成し、PCRに使用した。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて行った。各プライマー同士のエクステンションとするため、鋳型のDNAは含んでいない。
λt0ターミネーター配列調製用プライマー
(a-8) 5’-GCATTAATCcttggactcctgttgatagatccagtaatgacctcagaactccatctggatttgttcagaacgctcggttgccg -3’(配列番号39)
(b-8) 5’-caccgtgcagtcgatgGATctggattctcaccaataaaaaacgcccggcggcaaccgagcgttctgaacaaatccagatggag -3’(配列番号40)
プライマー(a-8)及び(b-8)の3’側の塩基配列は互いに相補的になっている。
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、λt0ターミネーター配列に相当する、約0.13-kbのDNA断片が検出された。
tacプロモーターを含有するプラスミドpMAL-c5X(ニュー・イングランド・バイオラボ社製)を鋳型として、PCRを行った。PCRに際して、tacプロモーター配列を増幅するべく、下記の一対のプライマーを合成し、使用した。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法で行った。
tacプロモーター配列増幅用プライマー
(a-9) 5’-TTATTGGTGAGAATCCAGATCCATCGACTGCACGGTGCACCAATGCTTCT-3’(配列番号41)
(b-9) 5’-gcaagcttggagtgatcatcgtATGCATATGCGTTTCTCCTCCAGATCCctgtttcctgtgtgaaattgt
-3’(配列番号42)
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、tacプロモーターに相当する約0.3-kbのDNA断片が検出された。
上記(4-2-1)及び(4-2-2)で調製したDNA断片をアガロースゲルから切り出し、ゲルを凍結及び融解することで、ゲルからDNAを回収した。回収したλt0ターミネーター配列及びtacプロモーター配列に相当するDNA断片を混合して鋳型とし、オーバーラップエクステンションPCR(overlap extension PCR)を行った。オーバーラップエクステンションPCRに際しては、λt0ターミネーターの下流にtacプロモーターが連結したDNAを作成するべく、上記の(a-8)と(b-9)のプライマーの組み合わせを使用した。なお、鋳型DNA断片を増幅する際に用いたプライマーである(b-8)及び(a-9)の5’側の塩基配列は互いに相補的になっている。また、プライマー(a-8)及び(b-9)には、それぞれPshBI、HindIII制限酵素部位が付加されている。
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、λt0ターミネーターの下流にtacプロモーターが連結したDNAに相当する、約0.4-kbのDNA断片が検出された。
得られたライゲーション液で、塩化カルシウム法によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシン 50 μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出した。このプラスミドDNAを制限酵素PshBI及びHindIIIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCYK01の約9.6-kbのDNA断片に加え、λt0ターミネーターの下流にtacプロモーターが連結した約0.4-kbのDNA断片が認められた。
rrnBターミネーター配列を含有するプラスミドpMAL-c5X(ニュー・イングランド・バイオラボ社製)を鋳型として、PCRを行った。PCRに際して、rrnBターミネーター配列を増幅するべく、下記の一対のプライマーを合成し、使用した。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法で行った。
rrnBターミネーター配列増幅用プライマー
(a-10) 5’-ctcgaattcactggccgtcgttttacaacgtcgtg-3’(配列番号43)
(b-10) 5’-CGCAATTGAGTTTGTAGAAACGCAAAAAGGCCATC-3’(配列番号44)
なお、プライマー(a-10)及び(b-10)には、それぞれ、EcoRI及びMunI制限酵素部位が付加されている。
生成した反応液を1%アガロースゲルにより電気泳動に供した結果、rrnBターミネーター配列に相当する約0.6-kbのDNA断片が検出された。
得られたライゲーション液で、塩化カルシウム法によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシン50 μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出し、このプラスミドを制限酵素EcoRI及びMunIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、上記(4-2-3)のプラスミドの約10.0-kbのDNA断片に加え、rrnBターミネーター配列に相当する約0.6-kbのDNA断片が認められた。
構築された遺伝子発現用クローニングベクターをpCYK21と命名した。
(4-3-1)乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のクローニング
パラジオバチルス サーモグルコシダシウス NBRC 107763、ジオバチルス カウストフィラス NBRC 102445、メイオサーマス ルバー NBRC 106122から、常法に従い、ゲノムDNAを抽出した。また、サーマス サーモフィラス HB8株(ATCC 27634)のゲノムDNAをタカラバイオ株式会社から購入した。
(a-11) 5’-TTACATATGAAACAACAAGGCATGAATCGAGTAGC-3’(配列番号45)
(b-11) 5’-TTAGAATTCTTATTTTACATCATCAAAATAACGGG-3’(配列番号46)
なお、プライマー(a-11)にはNdeI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-11)にはEcoRI制限酵素部位が付加されている。
ジオバチルス カウストフィラス ldh遺伝子増幅用プライマー
(a-12) 5’-TTACATATGAAAAACGGGAGAGGAAATCGGGTAGC-3’(配列番号47)
(b-12) 5’-TTAGAATTCTTACTGAGCAAAATAGCGCGCCAATA-3’(配列番号48)
なお、プライマー(a-12)には、NdeI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-12)には、EcoRI制限酵素部位が付加されている。
サーマス サーモフィラス ldh遺伝子増幅用プライマー
(a-13) 5’-TTACATATGAAGGTCGGCATCGTGGGAAGCGGCAT-3’(配列番号49)
(b-13) 5’-TTAGAATTCCTAAAACCCCAGGGCGAAGGCCGCCT-3’(配列番号50)
なお、プライマー(a-13)には、NdeI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-13)には、EcoRI制限酵素部位が付加されている。
サーマス サーモフィラス mldh遺伝子増幅用プライマー
(a-14) 5’-ttaCATATGAGGTGGCGGGCGGACTTCCTCTCGGC-3’(配列番号51)
(b-14) 5’-ttaGAATTCTCAAGCATCGTCCCTCCAAGGCACGC-3’(配列番号52)
なお、プライマー(a-14)には、NdeI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-14)には、EcoRI制限酵素部位が付加されている。
メイオサーマス ルバー mldh-1遺伝子増幅用プライマー
(a-15) 5’-ttaCATATGCAAGGCATTCCTGTGCAACAACTGCG-3’(配列番号53)
(b-15) 5’-ttaGAATTCTTAAAGGCCCACCGCTTTAGCGGCCT-3’(配列番号54)
なお、プライマー(a-15)には、NdeI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-15)には、EcoRI制限酵素部位が付加されている。
メイオサーマス ルバー mldh-2遺伝子増幅用プライマー
(a-18) 5’-ttaCATATGAGGGTTCCTTATCCCGTACTCAAGCA-3’(配列番号55)
(b-18) 5’-TTTGAATTCTCATCTTGTCCCTCCTCCTTGTAGAT-3’(配列番号56)
なお、プライマー(a-18)には、NdeI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-18)には、EcoRI制限酵素部位が付加されている。
A固体培地上の各生育株をカナマイシン 50 μg/mLを含むA液体培地 5 mLの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出した。パラジオバチルス サーモグルコシダシウス、ジオバチルス カウストフィラス、及びサーマス サーモフィラスの各ldh遺伝子、サーマス サーモフィラスのmldh遺伝子、メイオサーマス ルバーのmldh-1及びmldh-2遺伝子をそれぞれ含む各プラスミドを制限酵素NdeI及びEcoRIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCYK21の約10.6-kbのDNA断片に加え、パラジオバチルス サーモグルコシダシウス、ジオバチルス カウストフィラス、及びサーマス サーモフィラスの各ldh遺伝子、サーマス サーモフィラスのmldh遺伝子、メイオサーマス ルバーのmldh-1及びmldh-2遺伝子それぞれの長さ約1.0-kbの挿入断片が認められた。
上記のようにして得た各乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子導入株をカナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、H2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入し、50℃にて20時間、振盪培養した。
このようにして培養増殖された菌体を、遠心分離(4℃、15,000 rpm, 1分間) により回収した。超音波処理で菌体細胞を破砕した後、遠心分離(4℃、15,000 rpm, 5分間)により得た細胞破砕上清を粗酵素液として用い、以下の方法により乳酸デヒドロゲナーゼ活性を測定した。粗酵素液、50 mM 酢酸ナトリウム(sodium acetate) (pH 5.0)、 0.5 mM NADH、0.2 mM フルクトース-1,6-ビスリン酸(fructose 1,6-bisphosphate)、5 mM ピルビン酸ナトリウム(sodium pyruvate)を混合し、50℃で反応を行い、NADHに由来する340 nmの吸光度減少を追跡し、反応初速度を解析した。反応初速度とタンパク質濃度から比活性を算出した。1分間あたり、1μmolの乳酸を産生せしめる酵素量を1 U(Unit)と定義した。
サーマス サーモフィラスの乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(ldh)を含むpC-Tth-ldhプラスミドを持つヒドロゲノフィラス サーモルテオラスLDH05(野生型のHPTL_1695を有する)、及びメイオサーマス ルバーのリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(mldh-1)を含むpC-Mru-mldh1プラスミドを持つヒドロゲノフィラス サーモルテオラスMLDH02(野生型のHPTL_1695を有する)から、それぞれ常法によりプラスミドを抽出し、電気パルス法(エレクトロポレーション法)により、NOC373株(HPTL_1695遺伝子破壊株)をそれぞれ形質転換し、カナマイシン 50 μg/mLを含むA固体培地に塗布し、H2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の各生育株をカナマイシン 50 μg/mLを含むA液体培地 5 mLの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出した。サーマス サーモフィラスのldh遺伝子、メイオサーマス ルバーのmldh-1遺伝子をそれぞれ含む各プラスミドを制限酵素NdeI及びEcoRIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCYK21の約10.6-kbのDNA断片に加え、サーマス サーモフィラスのldh遺伝子、メイオサーマス ルバーのmldh-1遺伝子それぞれの長さ約1.0-kbの挿入断片が認められた。得られた株を表2のように命名した。
表2の各菌株をそれぞれカナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地に白金耳を用いて植菌し、H2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを培養に伴い供給し、50℃にて24時間、振盪培養した。
培養後、遠心分離(4℃、15,000 rpm、5分間) により得た培養上清の乳酸を、F-キット L-乳酸(ロシュ社)を用いて定量した。
表3に示すように、HPTL_1695遺伝子が破壊されたLAC01株、LAC02株では、対応するLDH05株、MLDH02株と比べて、培地上清中の乳酸量がそれぞれ著しく増大していた。
NOC373株の親株であるNOC269株(ストレプトマイシン耐性株)を宿主として、サーマス サーモフィラスのldh遺伝子、メイオサーマス ルバーのmldh-1遺伝子をそれぞれ導入した各形質転換体の培地上清中の乳酸量は、LDH05、MLDH02株とほぼ同じであった。ストレプトマイシン耐性の形質は乳酸の生成能に影響を及ぼさないことが分かる。
細胞内で生成した乳酸の培地上清への分泌をさらに促進させるため、乳酸透過酵素遺伝子を共発現させた。
ジオバチルス カウストフィラスのゲノムDNAのそれぞれを鋳型として用いて、ジオバチルス カウストフィラスの乳酸透過酵素遺伝子をPCR法により増幅した。PCRには、以下のプライマーを用いた。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
ジオバチルス カウストフィラスの乳酸透過酵素遺伝子(lutP)の増幅用プライマー
(a-19) 5’-CGGCAATTGCGGGCACAAAGGGGAGGAGAAAACCG-3’(配列番号57)
(b-19) 5’-CGGCAATTGTTATGGAATCATCCACGACAATACCG-3’(配列番号58)
なお、プライマー(a-19)及び(b-19)にはMunI制限酵素部位が付加されている。
上記PCRで生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、各乳酸透過酵素遺伝子について、約1.7-kbpのDNA断片がそれぞれ検出された。
固体培地上の生育株の中から、乳酸透過酵素遺伝子が、プラスミドに包含されていたldh遺伝子又はmldh遺伝子の下流に、ldh遺伝子又はmldh遺伝子と同じ向きでクローニングされた株を、コロニーPCRにより選抜した。ldh遺伝子又はmldh遺伝子の上流配列に相当するプライマーと上記(b-19)のプライマーを組み合わせて、コロニーPCRを行うことで、ldh遺伝子又はmldh遺伝子と同じ向きに乳酸透過酵素遺伝子がクローニングされている株を、DNA断片の増幅の可否により判別することができる。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてTaKaRa Ex Taq(タカラバイオ株式会社製)を用いて、常法により行った。
コロニーPCR用のプライマー
ジオバチルス カウストフィラスの乳酸透過酵素遺伝子lutP
(a-20) 5’-GGCTCGTATAATGTGTGGAATTGTGAGCGGATAAC-3’(配列番号59)
(b-20) 5’-CGGCAATTGTTATGGAATCATCCACGACAATACCG-3’(配列番号60)
この結果、いずれの形質転換においても、ldh遺伝子又はmldh遺伝子と同じ向きに乳酸透過酵素遺伝子がクローニングされている場合に増幅する約2.7-kbのDNA断片が検出された。得られたプラスミド、及び菌株を表4のように命名した。
乳酸透過酵素の遺伝子を導入した表4の株をそれぞれカナマイシン 50 μg/mlを含むA液体培地に白金耳を用いて植菌し、H2:O2:CO2=7.5:1:1.5の混合ガスを培養に伴い供給し、50℃にて24時間、振盪培養した。
培養後、遠心分離(4℃、15,000 rpm、5分間) により得た培養上清の乳酸を、F-キット L-乳酸(ロシュ社)を用いて定量したところ、表5に示すように、HPTL_1695遺伝子破壊株であるNOC373株にジオバチルス カウストフィラスの乳酸透過酵素遺伝子lutP を導入したLAC06、LAC12株では、乳酸透過酵素遺伝子を導入していない株であるLAC01、LAC02株と比べて、培地上清中の乳酸量がそれぞれ増大していた。
また、乳酸資化酵素遺伝子が破壊されていないNOC269株が宿主の場合には、乳酸透過酵素遺伝子の導入による効果は顕著ではなかった。これに対して、乳酸資化酵素遺伝子を破壊することで、乳酸透過酵素遺伝子の導入による乳酸生成能の向上が顕著になった。即ち、乳酸資化酵素遺伝子破壊と乳酸透過酵素遺伝子導入とが、相乗的に作用して乳酸生成能を向上させた。
ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスLAC06株、及びLAC12株を、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)に寄託した。
ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスLAC06株の受託番号はNITE BP-03007であり、受託日は2019年7月30日である。また、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスLAC12株の受託番号はNITE BP-03008であり、受託日は2019年7月30日である。
また、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスLDH05株及びヒドロゲノフィラス サーモルテオラスMLDH02株も、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)に寄託されている。
ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスLDH05株の受託番号はNITE BP-02822であり、受託日は2018年11月14日である。また、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスMLDH02株の受託番号はNITE BP-02828であり、受託日は2018年11月21日である。
従って、これらの菌株は公に利用可能である。
Claims (7)
- 乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、及び/又はリンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入されており、かつゲノム上の3つの乳酸資化酵素遺伝子の1つ以上が破壊されており、前記3つの乳酸資化酵素遺伝子が、それぞれ、下記(a1)〜(a6)の何れかのDNA、下記(b1)〜(b6)の何れかのDNA、及び下記(c1)〜(c6)の何れかのDNAからなるものである、遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
(a1) 配列番号1の塩基配列からなるDNA
(a2) 配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(a3) 配列番号1と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(a4) 配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(a5) 配列番号2と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(a6) 配列番号2のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(b1) 配列番号3の塩基配列からなるDNA
(b2) 配列番号3の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(b3) 配列番号3と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(b4) 配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(b5) 配列番号4と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(b6) 配列番号4のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c1) 配列番号5の塩基配列からなるDNA
(c2) 配列番号5の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c3) 配列番号5と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c4) 配列番号6のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(c5) 配列番号6と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c6) 配列番号6のアミノ酸配列において、1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸資化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA - 乳酸資化酵素遺伝子に、1又は複数個のヌクレオチドの欠失、付加、置換、及びこれらの組み合わせが導入されることで、乳酸資化酵素遺伝子が破壊されている、請求項1に記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
- 乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が、下記(d1)〜(d6)の何れかのDNAからなるものである、請求項1又は2に記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
(d1) 配列番号9、10、又は11の塩基配列からなるDNA
(d2) 配列番号9、10、又は11の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(d3) 配列番号9、10、又は11と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(d4) 配列番号12、13、又は14のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(d5) 配列番号12、13、又は14と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(d6) 配列番号12、13、又は14のアミノ酸配列において1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA - リンゴ酸/乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が、下記(e1)〜(e6)の何れかのDNAからなるものである、請求項1〜3の何れかに記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
(e1) 配列番号15、16、又は17の塩基配列からなるDNA
(e2) 配列番号15、16、又は17の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(e3) 配列番号15、16、又は17と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(e4) 配列番号18、19、又は20のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(e5) 配列番号18、19、又は20と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(e6) 配列番号18、19、又は20のアミノ酸配列において1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA - さらに、乳酸透過酵素遺伝子が導入されている、請求項1〜4の何れかに記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
- 乳酸透過酵素遺伝子が、下記(f1)〜(f6)の何れかのDNAからなるものである、請求項5に記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌。
(f1) 配列番号21の塩基配列からなるDNA
(f2) 配列番号21の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ乳酸透過酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(f3) 配列番号21と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ乳酸透過酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(f4) 配列番号22のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA
(f5) 配列番号22と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ乳酸透過酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(f6) 配列番号22のアミノ酸配列において1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ乳酸透過酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA - 請求項1〜6の何れかに記載の遺伝子組換えヒドロゲノフィラス属細菌を、二酸化炭素を実質的に唯一の炭素源として用いて培養する工程を含む乳酸の製造方法。
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