JP6666431B2 - 硬質被膜および切削工具 - Google Patents

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Description

本発明は、硬質被膜および切削工具に関する。本出願は、2016年4月14日に出願した日本特許出願である特願2016−081127号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
切削性能に優れた切削工具として、基材の表面にTiAlN等の硬質被膜が設けられた切削工具がある。このような硬質被膜の形成方法の一つとして、アークイオンプレーティング(AIP)法がある。たとえば特開2002−160107号公報(特許文献1)には、アーク放電の各種条件を適切に制御することにより、AIP法により作製される硬質被膜の問題点であるドロップレットの発生を低減する技術が開示されている。
また硬質被膜の他の形成方法として、化学蒸着(CVD)法がある。たとえば、特開2013−212575号公報(特許文献2)には、硬質被膜を構成する結晶粒のうち、基材との界面近傍に位置する結晶粒の粒径を小さくすることにより、硬質被膜と基材との密着性を向上させる技術が開示されている。特開2014−061588号公報(特許文献3)には、微粒粒状組織からなるA層と柱状組織からなるB層とが交互に積層された硬質被膜を基材上に設けることにより、工具の耐チッピング性および耐摩耗性を向上させる技術が開示されている。
特開2002−160107号公報 特開2013−212575号公報 特開2014−061588号公報
D. Lundin et al, An introduction to thin film processing using high-power impulse magnetron sputtering, J. Mater. Res., vol.27, No.5(2012), 780-792
本開示の一態様に係る硬質被膜は、基材上に形成される硬質被膜であって、硬質被膜は、基材側から順に下部層と上部層とが積層されてなる二層構造層を含み、二層構造層のうち基材側に位置する下端面を構成する下部層の下面を第1界面とし、下部層の上面と上部層の下面との界面を第2界面とし、二層構造層のうち下端面の反対の上端面を構成する上部層の上面を第3界面とし、かつ二層構造層においてその厚み方向に平行な断面を観察した場合に、第1界面から第2界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G1、第2界面から第1界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G2、第2界面から第3界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G3、および第3界面における結晶粒の平均粒径G4は、G2>G3>G4>G1の関係式を満たす。
本開示の一態様に係る切削工具は、基材と、該基材の表面を被覆する上記の硬質被膜とを備える。
図1は、第1の実施形態に係る硬質被膜を基材上に設けた構成の一例を示す模式的な断面図である。 図2は、第1の実施形態に係る二層構造層の構成の一例を示す模式的な断面図である。 図3は、二層構造層作製時におけるHiPIMS装置のチャンバ内での基材の配置状態を示す模式図である。 図4は、第3の実施形態に係る切削工具の一例を示す概略的な平面図である。 図5は、図4に示すX−X線に関する矢視断面図である。 図6は、比Tf/Tmの求め方を説明するための概略的な図である。 図7は、第4の実施形態に係る切削工具の一例を示す概略的な斜視図である。 図8は、図7の斜線部分のうちのY領域を示す断面斜視図であり、切れ刃がシャープエッジ形状を有する態様を示す図である。 図9は、図7に示す断面斜視図において、切れ刃にホーニング加工が施されている態様を示す図である。 図10は、図7に示す断面斜視図において、切れ刃にネガランド加工が施されている態様を示す図である。
[本開示が解決しようとする課題]
しかし、特許文献1の技術では、ドロップレットの問題を十分には解消できていない。また特許文献2に開示される硬質被膜では、硬質被膜の表面における結晶粒の粒径が大きいために、破壊靱性が不十分となる。また特許文献3に開示される硬質被膜では、B層の構造上、柱状組織を構成する結晶粒の脱落が生じ易い。このように、いずれの硬質被膜においてもその特性に不十分な点があるために、該硬質被膜を備える工具の長寿命化は不十分なのが実情である。
上記のような課題に鑑み、本開示は、工具寿命の長期化が可能な硬質被膜および該硬質被膜を備える切削工具を提供することを目的とする。
[本開示の効果]
上記によれば、工具寿命の長期化が可能となる硬質被膜および切削工具を提供することができる。
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
本発明者らは、従来のAIP法およびCVD法によって作製される硬質被膜の性能には限界があると考え、これらの手法に替えて、J. Mater. Res., vol.27, No.5(2012), 780-792(非特許文献1)に記載されるHigh Power Impulse Magnetron Sputtering(HiPIMS)法に着目した。HiPIMS法を用いた硬質被膜の作製に関し鋭意検討を重ねたところ、基材に印加するバイアス電圧を二段階で変化させることによって、特異的な形状を有する結晶粒を含む硬質被膜を作製させることができることを知見し、さらに検討を進めることにより、本開示に係る硬質被膜を完成させた。
〔1〕本開示の一態様に係る硬質被膜は、基材上に形成される硬質被膜であって、硬質被膜は、基材側から順に下部層と上部層とが積層されてなる二層構造層を含み、二層構造層のうち基材側に位置する下端面を構成する下部層の下面を第1界面とし、下部層の上面と上部層の下面との界面を第2界面とし、二層構造層のうち下端面の反対の上端面を構成する上部層の上面を第3界面とし、かつ二層構造層においてその厚み方向に平行な断面を観察した場合に、第1界面から第2界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G1、第2界面から第1界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G2、第2界面から第3界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G3、および第3界面における結晶粒の平均粒径G4は、G2>G3>G4>G1の関係式を満たす。
上記硬質被膜に含まれる二層構造層によれば、第1界面側における平均粒径G1が小さいため、第1界面を形成する他者との高い密着性を発揮する。一方、第3界面側における平均粒径G4が小さいため、硬質被膜の表面側において高い破壊靱性を発揮することができる。
ここで仮に、二層構造層が単に平均粒径の小さな微粒から構成される場合には、成膜環境に起因して二層構造層は高い圧縮残留応力を有することとなる。この場合、二層構造層が自己剥離し易くなり、これに伴う異常摩耗の発生が懸念される。また仮に、二層構造層が通常の柱状結晶、すなわち成長方向において均一な平均粒径を有する柱状結晶である場合には、柱状結晶の脱落による耐欠損性の低下が懸念される。これに対し上記二層構造層においては、上記関係式から明らかなように、二層構造層に含まれる結晶粒の平均粒径は、厚み方向において特異的に変化している。これにより、上述のような異常摩耗の発生(耐摩耗性の低下)および耐欠損性の低下が抑制される。したがって、本実施形態の硬質被膜は、上記の二層構造層を有することにより、耐摩耗性および耐欠損性等の低下を抑制しつつ、高い密着性と高い破壊靱性とを発揮することができる。このため、本実施形態の硬質被膜によれば、工具寿命の長期化が可能となる。
〔2〕上記硬質被膜において好ましくは、下部層は、第1界面側から第2界面に向けて平均粒径が増大する結晶粒を含み、上部層は、第2界面から第3界面側に向けて平均粒径が減少する結晶粒を含む。これにより、上記効果にさらに優れることができる。
〔3〕上記硬質被膜において好ましくは、平均粒径G1は50nm以下であり、平均粒径G2は200nm以上600nm以下であり、平均粒径G3は75nm以上300nm以下であり、平均粒径G4は150nm以下である。これにより、上記効果にさらに優れることができる。
〔4〕上記硬質被膜において好ましくは、上部層の厚みTtと下部層の厚みTbとの比Tt/Tbは、0.2以上0.75以下である。これにより、上記効果にさらに優れることができる。
〔5〕上記硬質被膜において好ましくは、二層構造層は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、AlおよびSiからなる群より選ばれる1種以上の第1元素と、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の第2元素とからなる組成を有する。これにより、硬質被膜の硬度を向上させることができ、もって耐摩耗性を向上させることができる。
〔6〕上記硬質被膜において好ましくは、二層構造層はその組成中に2種以上の第1元素を有し、上部層の厚み方向において、2種以上の第1元素の濃度がそれぞれ周期的に変化する。これにより第2界面と第3界面との間に位置する結晶粒に歪が蓄積されるため、二層構造層の硬度を高めることができる。
〔7〕上記硬質被膜は好ましくは、上部層の上面は、0.07μm以下の算術平均粗さRaと、0.50μm以下の最大高さRzとを有する。この場合、硬質被膜は優れた表面平滑性を有することができる。
〔8〕上記硬質被膜は好ましくは、二層構造層の上部層の上面の100μm×100μmの範囲において、1μm以上の高低差を有する凹凸の数が10個未満である。この場合、硬質被膜は優れた表面平滑性を有することができる。
〔9〕本開示の一態様に係る切削工具は、基材と、該基材の表面を被覆する硬質被膜を備え、該硬質被膜は上記硬質被膜である。上記切削工具によれば、工具寿命の長期化が可能となり、また切削性能の安定化も可能となる。
〔10〕上記切削工具は好ましくは、溝部を被覆する硬質被膜の厚みTfとマージンを被覆する硬質被膜の厚みTmの比Tf/Tmが、0.8以上1.5以下である。これにより、切削工具はさらに工具寿命の長期化が可能となる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)について詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。また本明細書において、「TiAlN」、「TiN」、「TiCN」等の化学式において特に原子比を特定していないものは、各元素の原子比が「1」のみであることを示すものではなく、従来公知のあらゆる原子比を含み、必ずしも化学量論的範囲のものに限定されない。
[第1の実施形態]
<硬質被膜>
図1は、第1の実施形態に係る硬質被膜を基材上に設けた構成の一例を示す模式的な断面図である。図1に示す断面は、硬質被膜の厚み方向(図の上下方向)に平行な断面である。
図1を参照し、硬質被膜100は、基材200上に形成される。本実施形態において硬質被膜100は、基材200上に、基材200側から順に下地層20、二層構造層10、および表面層30が積層された構成を有している。なお硬質被膜100は、下地層20および/または表面層30を有していなくてもよい。また硬質被膜100は、基材200の全面を被覆してもよく、一部(たとえば切削性能に大きくに寄与する領域)のみを被覆しても良い。
硬質被膜100が設けられる基材200は、工具の基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができる。たとえば、炭化タングステン(WC)基超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化ホウ素焼結体、およびダイヤモンド焼結体などが挙げられる。なお、基材200は一体形成されていてもよく、複数の部品が組み合されたものであってもよい。
基材200の形状も特に制限されず、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型チップ、フライス加工用スローアウェイチップ、旋削加工用スローアウェイチップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、切削バイト、耐摩工具、摩擦撹拌接合用ツール等に用いられるいずれの基材の形状を有していても良い。なお図4および図5には、ドリルを基材とした場合が例示されている。
図1に戻り、硬質被膜100の厚みはたとえば0.3〜15μm(0.3μm以上15μm以下)とすることができる。厚みが0.3μm未満の場合、硬質被膜100を有することに起因する特性を発揮し難く、15μmを超えると、基材200と硬質被膜100との密着性が低下する傾向がある。
硬質被膜100の厚みは次のようにして求められる。まず、硬質被膜100の断面を含む測定試料を準備する。この測定試料は、たとえば硬質被膜100が設けられた基材200を、硬質被膜100の厚み方向に沿って(硬質被膜100に略垂直な断面が得られるように)切断することにより得られる。なお必要に応じて、硬質被膜100の断面を研磨処理して平滑にする。次に、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、観察画像に硬質被膜100の厚み方向の全域が含まれるように倍率を調整(たとえば15000倍程度)する。そして、その厚みを5点以上測定し、算出された平均値を厚みとする。なお後述する各層の厚みも同様にして求められる。
<二層構造層>
図2は、第1の実施形態に係る二層構造層の構成の一例を示す模式的な断面図である。図2に示す断面は、硬質被膜の厚み方向(図の上下方向)に平行な断面である。
図2を参照し、二層構造層10は、基材200側から順に下部層1と上部層2とが積層された二層構造を有する。この二層構造層は、後述する特徴的なHiPIMS法により作製される層である。
二層構造層10は3つの界面(第1界面〜第3界面)を有している。本明細書において、二層構造層10のうち基材200側に位置する下端面(図1において下地層20と接している面)を構成する下部層1の下面(図2の位置A)が、第1界面である。下部層1の上面と上部層2の下面との界面(図2の位置B)が、第2界面である。二層構造層10のうち下端面の反対の上端面(図1において表面層30と接している面)を構成する上部層2の上面(図2の位置C)が、第3界面である。
図2から分かるように、第1界面は、下地層20(下地層20が設けられていない場合には基材200)と下部層1とが接してなる界面であり、第3界面は、表面層30(表面層30が設けられていない場合には空気層すなわち外部)と上部層2とが接してなる界面である。つまり、第1界面および第3界面は、二層構造層10の表面と一致する。一方、第2界面は、二層構造層10の内部に存在する界面である。各界面の位置は、TEMまたはSEMを用いて二層構造層10の断面を観察することによって確認することができる。なおSEMを用いる場合には、正確な観察のために、断面をイオンミーリング処理することが好ましい。加えて、5kV程度の低い加速電圧で観察するのが望ましい。
二層構造層10は、複数の結晶粒を含んでいる。すなわち二層構造層10は多結晶構造を有する。特に二層構造層10においてその厚み方向に平行な断面を観察した場合に、第1界面から第2界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G1、第2界面から第1界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G2、第2界面から第3界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G3、および第3界面における結晶粒の平均粒径G4が、G2>G3>G4>G1の関係式を満たすことを特徴とする。
平均粒径G1〜G4は次のようにして決定される。まず、二層構造層10の断面を含む測定試料を準備する。この測定試料は、たとえば硬質被膜100が設けられた基材200を、硬質被膜100の厚み方向に沿って(二層構造層10に略垂直な断面が得られるように)切断することにより得られる。必要に応じて、二層構造層10の断面を研磨処理して平滑にする。次に、断面をTEMで観察し、観察画像に少なくとも二層構造層10の全体領域が含まれるように倍率を調整し(たとえば20000〜50000倍程度)、第1界面、第2界面および第3界面(図2の位置A〜C)を特定する。
続いてTEMの倍率を調整することにより(たとえば200000〜500000倍程度)、第1界面から第2界面側に向けて100nm離れた位置P1が含まれるBF(Bright Field)像、第2界面から第1界面側に向けて100nm離れた位置P2が含まれるBF像、第2界面から第3界面側に向けて100nm離れた位置P3が含まれるBF像、および第3界面が含まれるBF像を、それぞれ複数枚撮影する。撮影したこれらのBF像の中から、各位置P1〜P3および第3界面において、明確に一つの結晶粒であることを確認することができたすべての結晶粒についてその幅を測定し、該結晶粒の粒径とする。
最後に、測定された結晶粒の粒径の平均値を各位置P1〜P3および第3界面ごとにそれぞれ算出し、平均粒径G1〜G4とする。
本実施形態の硬質被膜100は、上述の二層構造層10を有することにより、工具寿命を長期化することができる。この理由ついて、本発明者らの研究に基づく推察も含めながら以下に説明する。
二層構造層10はその厚み方向に平行な断面を観察した場合に、位置P1、位置P2、位置P3および第3界面における各平均粒径G1〜G4が、G2>G3>G4>G1の関係式を満たす。すなわち二層構造層10においては、第1界面近傍および第3界面近傍では比較的小さな平均粒径を有し、第2界面近傍では、比較的大きな平均粒径を有することとなる。下地層20と接してなる第1界面における結晶粒組織が緻密であることにより、二層構造層10と下地層20との密着性が向上する。また第3界面は、二層構造層10の最表面であって、二層構造層10において切削時に最も負荷がかかる部分であるが、この面における結晶粒組織が緻密であることにより、二層構造層10の破壊靱性が向上する。
ここで仮に、二層構造層10の第3界面側が単に均一かつ小さい粒径の微粒粒状晶から構成される場合、このような層を形成するための成膜環境に起因して、二層構造層は高い圧縮残留応力を有することとなる。この場合、二層構造層が自己剥離し易くなり、これに伴う異常摩耗の発生が懸念される。また仮に、二層構造層が単に均一かつ大きい粒状晶から構成される場合、第1界面側における密着性や第3界面側における破壊靱性の低下が懸念される。また仮に、二層構造層が通常の柱状結晶、すなわち成長方向において均一な粒径を有する柱状結晶である場合には、柱状結晶の脱落による耐欠損性の低下が懸念される。
これに対し二層構造層10では、上記のいずれの構成とも相違しており、内部に含まれる結晶粒の平均粒径G1〜G4が、G2>G3>G4>G1の関係式を満たすという特徴的な構成を有している。このような平均粒径の変化により、第1界面側における優れた密着力、第3界面側における優れた破壊靱性および平滑性に加え、力学的な作用によって結晶粒の脱落が抑制される。
したがって、二層構造層10を含む硬質被膜100は、耐摩耗性および耐欠損性等の低下を抑制しつつ、高い密着性と高い破壊靱性とを発揮することができる。このため、本実施形態の硬質被膜100によれば、工具寿命の長期化が可能となる。
また本実施形態においては、図2に示されるように、下部層1は、第1界面側から第2界面に向けて平均粒径が増大する結晶粒3を含み、上部層2は、第2界面から第3界面側に向けて平均粒径が減少する結晶粒4を含むことが好ましい。これにより、上記の力学的な作用が好適に発揮されるため、より高い密着性とより高い破壊靱性とを発揮することができる。
また本実施形態において平均粒径G1〜G4は以下を満たすことが好ましい。この場合、硬質被膜100は、さらに上述の効果に優れることができる。
平均粒径G1:50nm以下
平均粒径G2:200〜600nm
平均粒径G3:75〜300nm
平均粒径G4:150nm以下。
平均粒径G1は、より好ましくは40nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下であり、よりさらに好ましくは20nm以下である。平均粒径G2は、より好ましくは230〜400nmであり、さらに好ましくは260〜340nmであり、よりさらに好ましくは280〜300nm以下である。平均粒径G3は、より好ましくは100〜200nmであり、さらに好ましくは120〜160nmである。平均粒径G4は、より好ましくは85nm以下であり、さらに好ましくは60nm以下である。
なお、平均粒径G1の下限値は特に制限されないが、非常に微粒径となると界面の緻密性を保つことが困難となり、特に生産の品質の観点からは好ましくは5nmであり、より好ましくは10nmであり、さらに好ましくは15nmである。また平均粒径G4の下限値は特に制限されないが、好ましくは20nmであり、より好ましくは30nmである。これにより、第3界面における耐摩耗性の低下を抑制することができる。
また本実施形態において、二層構造層10の厚みは好ましくは0.3μm以上である。0.3μm未満の場合、工具の長寿命化が不十分となる傾向がある。これは、厚みが小さすぎると、二層構造層10内に上述のような平均粒径の変化をもたらすことが困難になるためと考えられる。また二層構造層10の厚みは好ましくは10μm以下である。10μmを超える場合、二層構造層10の耐チッピング性が低下する傾向がある。これは、二層構造層10の厚みが大きすぎると、層内の圧縮残留応力が大きくなり過ぎるために、下地層または基材と二層構造層10との密着性が低下するためと考えられる。二層構造層10の厚みは、より好ましくは0.45〜9.0μmであり、さらに好ましくは0.9〜8.8μmであり、特に好ましくは1〜7μmである。
また本実施形態において、上部層2の厚みTtと下部層1の厚みTbとの比Tt/Tbは、好ましくは0.2〜0.75である。本発明者らの検討により、比Tt/Tbがこれを満たす場合に、適切に上記効果を発揮できることが確認されている。この理由の一つして以下のことが推察される。
後述する製造方法上、下部層1および上部層2は圧縮残留応力を有し易く、かつ下部層1における圧縮残留応力は、上部層2における圧縮残留応力よりも小さい傾向がある。二層構造層10全体における圧縮残留応力が大きすぎると、二層構造層10の剥離が懸念されるが、比Tt/Tbが上記範囲を満たす場合には、圧縮残留応力の過剰な増加を抑制することができ、もって剥離の発生が抑制され得る。比Tt/Tbは、より好ましくは0.2〜0.5である。
なお「圧縮残留応力」とは、層内に存在する内部応力(歪エネルギー)の一種であって、「−」(マイナス)の数値で表される応力をいう。このため、圧縮残留応力が大きいという概念は、上記数値の絶対値が大きくなることを意味し、また圧縮残留応力が小さいという概念は、上記数値の絶対値が小さくなることを意味する。
また本実施形態において、上部層2の上面は0.07μm以下の算術平均粗さRaと、0.50μm以下の最大高さRzとを有することが好ましい。たとえばこのような平滑な面が硬質被膜100の最表面(被削材に接触する面)を構成する場合には、切削抵抗を顕著に抑制することができるため、異常摩耗を抑制することができ、もって工具寿命を安定させることができる。特に、ドリルおよびエンドミルのような回転工具に対してこのような硬質被膜100を用いた場合、切屑の排出性を向上させることができる。
上記RaおよびRzは、JIS B 0601(2001)およびISO4287(1997)に規定されるものである。これらの値は、形状測定レーザーマイクロスコープ(「VK−X110」、キーエンス社製)を用い、以下の計測条件下で二層構造層10の表面を測定することによって求めることができる。なお、測定前に傾き補正機能でイメージ処理を行うことが好ましい。
(計測条件)
倍率 :100倍
使用機能 :複数線粗さ
複数線設定 :周囲10本、間引き20本
カットオフλs :2.5μm
カットオフλc :0.25mm
スタイラスモード :オン
スタイラス先端角度 :60°
スタイラス先端半径 :2μm
ノイズフィルター :無し。
上記Raおよび上記Rzは、それぞれ0.061μm以下および0.47μm以下がより好ましく、0.05μm以下および0.40μm以下であることがさらに好ましい。たとえば、二層構造層10の製造に用いる装置各部のブラスト処理の頻度を上げる等の種々の処理を実施することにより、このような平滑性の高い表面(上部層2の上面)を有する二層構造層10を製造することができる。また、第3界面における平均粒径G4を小さく制御することによっても、上記RaおよびRzの値を小さくすることができる。
なお、上記のような表面の平滑性の高い硬質膜は、AIP法によって製造することは困難である。AIP法によって形成された硬質被膜には、ドロップレットが存在するためである。AIP法によって形成された硬質被膜の表面に対し、研磨等の後処理を実施することによって表面平滑性をある程度向上させることができるが、その場合にも、上記のような高い平滑性を付与することは困難である。換言すれば、本実施形態の二層構造層10によれば、研磨等の後処理を実施することなく、優れた平滑性を発揮することができる。
また、二層構造層10の上部層2の上面に関し、100μm×100μmの範囲において1μm以上の高低差を有する凹凸の数(凹部および凸部の総数)は、10個未満であることが好ましい。たとえば、このような平滑な面が硬質被膜100の最表面(被削材に接触する面)を構成する場合には、切削加工時の切削抵抗を顕著に抑制することができるため、異常摩耗を抑制することができ、もって工具寿命を安定させることができる。特に、ドリルおよびエンドミルのような回転工具に好適であることは上記と同様である。
上記凹凸の数は、次のようにして求めることができる。まず、形状測定レーザーマイクロスコープ(「VK−X110」、キーエンス社製)を用い、凹凸部機能を使用して、100倍の倍率で二層構造層10の表面(100μm×100μm)を観察する。このとき、傾き補正機能を用いて観察画像のイメージ処理を実施し、高さ閾値を「分布平均±測定したい高低差を有する凹凸」の大きさに設定して、対象とする凹凸の数を測定する。たとえば、高低差1μm以上の凹凸を測定すべく、まず凸部モードを選定して高さ閾値を「平均値+1μm」に設定して測定し、次いで凹部モードに変更して高さ閾値を「平均値−1μm」に設定して測定する。これにより、1μm以上の高低差を有する凹凸の数が求められる。なお、100ピクセル以下の微小領域は測定しないように設定される。
上記凹凸の数は、より好ましくは5個以下であり、さらに好ましくは3個以下であり、特に好ましくは0個である。たとえば、二層構造層10の製造に用いる装置各部のブラスト処理の頻度を上げる等の種々の処理を実施することにより、このような平滑性の高い表面を有する二層構造層10を製造することができる。なお、このような表面の平滑性の高い硬質膜をAIP法によって製造することが困難であることは上述のとおりである。
また、二層構造層10の上面に関し、100μm×100μmの範囲において0.5μm以上の高低差を有する凹凸の数は、好ましくは10個以下であり、より好ましくは2個以下であり、さらに好ましくは1個以下であり、特に好ましくは0個である。同様に、0.3μm以上の高低差を有する凹凸の数は、好ましくは10個以下であり、より好ましくは5個以下であり、さらに好ましくは2個以下であり、特に好ましくは0個である。これらの凹凸の数も、上記の方法に準じて求めることができる。
また本実施形態において、二層構造層10は、周期表の4族元素(Ti、Zr、Hfなど)、5族元素(V、Nb、Taなど)、6族元素(Cr、Mo、Wなど)、AlおよびSiからなる群より選ばれる1種以上の第1元素と、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の第2元素とからなる組成を有することが好ましい。
具体的な二層構造層10の組成としては、TiAlN、TiCrN、TiAlCrN、TiN、CrN、AlCrN、AlCrSiN、TiSiN、TiCN等が挙げられる。なかでも、二層構造層10が、TiとAlとを第1元素とした組成を有することが好ましい。耐酸化性および硬度において特に優れることができるためである。
特に、二層構造層10の組成はTi1-xAlxN(0.45≦x≦0.7)であることが好ましい。高温時の硬度と耐酸化性とのバランスに優れ、故に高い汎用性を有するためである。さらにTi1-xAlxN(0.45≦x≦0.7)を満たす組成を有する二層構造層10には、Si、Nb、W、BおよびOからなる群より選択される少なくとも1種の元素(ただし、各元素の二層構造層10内での濃度は1〜5原子%)が添加されていることが好ましい。このような元素の添加により、硬度のさらなる向上による耐摩耗性の向上が可能となる。二層構造層10の組成は、二層構造層10の断面をEDSで観察することにより確認することができる。
<下地層および表面層>
下地層20および表面層30のそれぞれは、従来工具の基材表面に設けられる層として公知のものを特に限定なく使用することができる。
<硬質被膜の製造方法>
硬質被膜100が下地層20および/または表面層30を有する場合、これらの層は従来公知の製造方法により製造することができる。以下、HiPIMS法を用いた特徴的な製造方法によって初めて製造可能となった二層構造層10の製造方法について図3を用いて説明する。ここでは、一例として基材200の表面にTiAlNからなる二層構造層10を形成する場合について説明する。
図3は、二層構造層作製時におけるHiPIMS装置のチャンバ内での基材の配置状態を示す模式図である。なおHiPIMS装置とは、HiPIMS法を実施可能なHiPIMS装置である。図3を参照し、チャンバ(不図示)内には、二層構造層10の原料となるターゲット50が配置されている。なお、図3では2つのターゲット50を示すが、ターゲット50の数は特に制限されない。
チャンバ内に配置される複数のターゲット50の間には、図中の矢印方向に回転可能なテーブル51が配置されており、テーブル51上には、回転軸52によって支持され、かつ図中の矢印方向に回転可能となる複数の基材ホルダー53が配置されている。基材ホルダー53には、複数の基材200が載置される。基材200はそれ自身での回転も可能である。なお回転軸52の数および基材ホルダー53の数は図3に示すものに限られない。またチャンバ内には、基材200を加熱可能なヒータ(不図示)が配置されている。
ターゲット50には、パルス電力を供給するためのパルス電源の負極が接続されている。短パルス電源の正極はアース接続されている(不図示)。テーブル51には、バイアス電圧を印加するためのバイアス電源(不図示)の負極が電気的に接続されている。バイアス電源の正極はアース接続されている(不図示)。バイアス電源としてはDC(直流)、パルスDC、RF(高周波)、MF(中波数)、HiPIMS等が使用できる。
二層構造層10の製造時に際し、まず図3に示すようにチャンバ内に基材200を配置するとともに、ターゲット50を配置する。ターゲット50は、それぞれ同じ組成を有している。たとえば、ターゲット50として、Ti0.5Al0.5の組成を有する多結晶を用いることができる。そしてチャンバ内を真空にし、不活性ガス(Ar)および窒素ガスを導入する。またテーブル51に対し、バイアス電源を介してバイアス電圧を印加するとともに、ターゲット50に対し、パルス電源を介してパルス電力を供給して、HiPIMS装置の成膜動作を実施させる(第1工程)。第1工程における成膜条件は以下のとおりである。
(第1工程の成膜条件)
バイアス電圧 :0〜50(−V)
パルス電力 :30〜60kW
平均電力 :6〜8kW(ターゲット1個当たり)
パルス幅 :10〜150μs
電力密度 :170〜340W/cm2(ターゲット1個当たり)
Ar分圧 :1Pa以下
2分圧 :遷移モードで成膜するように制御。
これにより、チャンバ内にプラズマ60が発生し、かつターゲット50にイオンが衝突することにより、ターゲット50から金属原子および/または金属イオンが放出され、窒素原子と共に基材200の表面に付着する。この第1工程により、下部層1が形成される。
次いで、以下の成膜条件下で、HiPIMS装置の成膜動作を実施する(第2工程)。この第2工程により、上部層2が形成される。製造コスト、二層構造層10の清浄性等の観点から、第1工程および第2工程は連続して実施されることが好ましい。
(第2工程の成膜条件)
バイアス電圧 :100〜200(−V)
パルス電力 :30〜60kW
平均電力 :3〜5kW(ターゲット1個当たり)
パルス幅 :100〜500μs
電力密度 :170〜340W/cm2(ターゲット1個当たり)
Ar分圧 :1Pa以下
2分圧 :遷移モードで成膜するように制御。
以上により、下部層1および上部層2からなり、かつ組成がTiAlNからなる二層構造層10が製造される。なお各成膜条件において、「電力密度」はパルス電力の最大値をターゲットがスパッタされる面の全体の面積で割った値である。
第1工程の成膜条件と第2工程の成膜条件との対比から明らかなように、上記製造方法において特徴的な点は、両工程におけるパルス電力を最適化した上で、第1工程におけるパルス幅、平均電力およびバイアス電圧の大きさと第2工程におけるパルス幅、平均電力およびバイアス電圧の大きさとを相違させる点にある。これにより、上述の特徴を有する二層構造層10が形成される。その理由は明確ではないが、本発明者らの検討に基づいて以下のように推察される。
上記の第1工程の成膜条件下では、基材200上に到達するイオンおよび/または原子の量が、2.7〜4.0個・cm-2・s-1と比較的多くなるようにパルス電力および平均電力が調整される。なお、パルス電力および平均電力の適正値は、材料によって異なる。このため、基材200表面上での結晶核の発生密度は高くなる。ただしこのとき、成長面へのボンバード(イオンの衝撃に伴い成長面に与えられたエネルギー)が大きいと、結晶核が合体してしまうために、結晶成長の基となる結晶核が大きくなってしまう。このために、位置A近傍(図2)における平均粒径が大きくなってしまい、結果的に、位置A近傍において適切な密着力を有する緻密な結晶粒組織の形成が難しくなる。
しかし、第1工程におけるバイアス電圧は0〜50(−V)と小さい。この場合、基材200の表面に対するイオンおよび/または原子によるボンバードは小さくなる。このため、位置A近傍における平均粒径を小さくすることができ、結果的に、位置A近傍において優れた密着力を有する緻密な結晶粒組織を形成することができる。
また、第1工程におけるボンバードが小さいために、結晶粒組織内の圧縮残留応力は小さくなる。また、ターゲット50に対してパルス電力が供給されないタイミングに、結晶粒組織内の圧縮残留応力が緩和される。これらの相乗効果により、第1工程において付与される圧縮残留応力が十分に小さくなるために、微粒の結晶粒は競争的に成長することとなる。このため、位置Aから位置B(図2)にかけて結晶粒の平均粒径は増大する。
一方、第2工程においては、基材200上に到達するイオンおよび/または原子の量は下がり、パルス幅が長くなり、バイアス電圧が100〜200(−V)と大きくなる。この場合、位置B近傍の成長面に対するボンバードは大きくなる。このため、位置Bから成長する結晶粒は、イオンボンバードによるエッチングに曝されながら成長することとなる。これにより、第2工程における結晶粒の成長速度は、第1工程における結晶粒の成長速度よりも小さくなり、かつその平均粒径も徐々に減少する。このため、位置Bから位置Cにかけて結晶粒の平均粒径は減少することとなる。また、基材200上に到達するイオンおよび/または原子の量を最適化することよって、位置C近傍において結晶粒組織を緻密にすることができ、加えて軽いエッチングによる相乗効果によって、位置Cにおける表面形状の平滑性を高めることも可能である。
第1工程および第2工程の成膜条件に関し、より好適な値は以下のとおりである。左側(前者)に記載される範囲はより好ましい範囲であり、右側(後)に記載される範囲はさらに好ましい範囲である。
バイアス電圧(第1工程):10〜40、20〜30(−V)
バイアス電圧(第2工程):100〜175、100〜140(−V)
パルス電力(第1工程) :40〜55、45〜50kW
パルス電力(第2工程) :45〜60、50〜60kW
パルス幅(第1工程) :50〜150、75〜120μs
パルス幅(第2工程) :200〜400、250〜350μs
電力密度(第1工程) :226〜311、255〜283W/cm2
電力密度(第2工程) :255〜340、283〜340W/cm2
平均電力(第1工程) :6.5〜8.0、7.0〜8.0kW平均電力(第2工程) :3.5〜4.5、3.5〜4.0kW。
以上、二層構造層10の製造方法について詳述したが、HiPIMS法以外の他の方法を用いても、二層構造層10を製造することは困難である。たとえば、AIP法を用いた場合、ターゲットに対して電力が供給されないタイミングは存在せず、故に上述のような残留圧縮応力の緩和は起こらない。また、基材上に到達するイオンおよび/または原子の量は、HiPIMS法よりも顕著に大きい傾向がある。このため、小さなバイアス電圧で成膜した場合、成膜初期における結晶核を小さくすることができない。また、緻密な被膜を得るべく大きなバイアス電圧で成膜した場合、ボンバードが大きすぎるために、結晶粒の平均粒径を徐々に増大させることができない。
またスパッタ法を用いた場合、ボンバードを調整するために必要なイオン化率が達成できない。また小さなバイアス電圧で成膜した場合、成膜初期における結晶核を小さくすることができない。小さなバイアス電圧で成膜した場合、緻密性を保つことも困難である。
またCVD法を用いた場合、成膜される層には引張残留応力が付与されることとなるため、位置Bから位置Cに向けて平均粒径が小さくなるような結晶粒を意図的に成長させることはできないと考えられる。
[第2の実施形態]
<硬質被膜>
本実施形態の硬質被膜は、二層構造層の上部層の組成が周期的に変化する点以外は、第1の実施形態の硬質被膜と同様である。以下、第1の実施形態と相違する点について詳述する。
図2を参照し、本実施形態の硬質被膜100に含まれる二層構造層10は、その組成中に2種以上の第1元素を有する。そして、上部層2の厚み方向において、2種以上の第1元素の濃度がそれぞれ周期的に変化する。このような組成の周期的な変化(構成元素の種類および構成元素の構成比率)は、TEMまたはTEM付帯のEDSを用いて確認することができる。
ここで「周期的に変化する」とは、二層構造層10の成長方向(図の上下方向)において連続する、第1元素の濃度の増加と減少とを周期の1セットとしたとき、上部層2の厚み方向において少なくとも1セット以上の周期が存在することを意味する。たとえば、二層構造層10全体の組成がTi1-xAlxNの場合、上部層2の厚み方向において第1元素であるAlの濃度が連続的に増加と減少とを繰り返すこととなる。また、Alの濃度の変化に伴い、他の第1元素であるTiの濃度も連続的に増加と減少とを繰り返すこととなる。第1元素の濃度は、縦軸を濃度とし、上部層2の厚み方向(図の上下方向)とした場合に、正弦波等の形状を描くように周期的に変化し得る。
上部層2の厚み方向において第1元素の濃度が周期的に変化するような構造を有する場合、上部層2の結晶粒内に適度な歪みが蓄積される。このため、このような結晶粒は、組成の周期的な変化を有さない場合と比して、より高い硬度を有することができる。
このような特徴を備えた上部層2は、たとえば、上述の第2工程における各種成膜条件のうち、バイアス電圧、パルス電力、および平均電力を適宜調整することにより可能となる。これらの条件を適宜調整することによって、上部層2が上記のような構造となる理由の一つとして、次のことが推察される。
上部層2は、上述のようにイオンボンバードによるエッチングに曝されながら成長する領域である。そして、HiPIMS装置のチャンバ内において、テーブル51の回転に伴い、ターゲット50と基材200との距離が周期的に変化する。このため、第2工程には、基材200上に成長する上部層2がエッチングされ易いタイミング(成長し難いタイミング)と、エッチングされ難いタイミング(成長し易いタイミング)とが周期的に存在することとなる。たとえば、TiAlNからなる上部層2を成長させる場合、TiとAlとはエッチングされ易さが異なっており、Alのほうがエッチングされ易い性質を有する。すなわち、エッチングされ易いタイミングにおいては、TiとAlとの両者がエッチングされるものの、Alのほうがより多くエッチングされることとなる。
このため、上部層2のうち、エッチングされ易いタイミングに形成される領域ではAlの濃度が低くなり(Tiの濃度が高くなり)、エッチングされ難いタイミングに形成される領域ではAlの濃度が高くなる(Tiの濃度が低くなる)。したがって、結果的に、成長する結晶粒中におけるTiおよびAlの各濃度が周期的に変化する。
このようにして形成される本実施形態の上部層2は、組成の異なる2種のターゲットを用いて作製される従来の超多層構造と比して、層間の密着力が高い。このため、上部層2においては層間の剥離が起こり難く、もって従来の超多層構造よりも高い破壊靱性を有し得る。
以上詳述した本実施形態の二層構造層10において、上部層2における周期(1セット)の厚みは、好ましくは1〜10nmである。この場合、上部層2の結晶粒内に蓄積される歪みの大きさが好適となるために、二層構造層10はさらに硬度に優れることとなる。周期の厚みはより好ましくは4〜8nmである。
周期の厚みは次のようにして測定される。まず、二層構造層10の断面サンプルを得て、その断面をTEM付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)装置を用いて分析する。これにより、断面における第1元素の原子比を算出することができる。そして、任意の第1元素の濃度が最大となる位置と最小となる位置との距離を10箇所で測定し、この平均値を周期の厚みとする。
また二層構造層10の組成を構成する2種以上の第1元素の原子割合の合計を1としたときに、上部層2の厚み方向において、少なくとも1種の第1元素の割合が0.2〜0.7の範囲で周期的に変動し、かつ該第1元素における最大値と最小値との差が0.2〜0.5であることが好ましい。この場合、優れた密着力を維持しつつ、上述の歪みを蓄積させることができ、もって硬度(耐摩耗性)に優れることとなる。なかでも、二層構造層10を構成する2種以上の第1元素にTiおよびAlが含まれる場合には、この効果が顕著となる。
特に、二層構造層10の組成がTiAlNである場合には、上部層2の厚み方向においてその組成が、Ti1-xAlxN(0.4<x≦0.7)からTi1-yAlyN(0.2≦y≦0.4)に連続的に変化し、かつAlの最大値であるxとAlの最小値であるyとの差が0.2〜0.4であることが好ましい。この場合、耐欠損性(破壊靱性)に顕著に優れることとなる。またこの場合に、下部層1の組成はTi1-zAlzN(0.45≦z≦0.7)であることが好ましい。耐摩耗性および耐酸化性に優れるためである。
[第3の実施形態]
<切削工具>
図4は、第3の実施形態に係る切削工具の一例を示す概略的な平面図である。図5は、図4に示すX−X線に関する矢視断面図である。本実施形態では、2枚刃のドリルが例示される。
図4を参照し、切削工具70は、ボディー71とシャンク72とから構成される構造を有する。ボディー71は、外周刃部73と溝部74とを有する。図5を参照し、外周刃部73は、マージン73aを有する。また切削工具70は、基材81と、基材81の表面を被覆する硬質被膜82とを備える。基材81の表面全体が硬質被膜82によって被覆されていてもよく、基材81の一部が被覆されていてもよい。
本実施形態においては、回転工具の一つである切削工具70としてドリルを例示するが、ドリルの他、エンドミルを挙げることができる。すなわち回転工具とは、被削材に対する逃げ角のないマージン73a、および切り屑を外に流し出すための溝部74を有する基材81と、硬質被膜82とを備えるものである。好適な切削工具70はドリルである。
基材81は上述の基材200であり、硬質被膜82は第1の実施形態に係る硬質被膜100および第2の実施形態に係る硬質被膜100の少なくとも一方である。このため、切削工具70は、硬質被膜100の効果を発揮することができ、もって長い工具寿命を有することができる。切削工具70においては、少なくともマージン73aの表面に硬質被膜100が設けられていることが好ましい。硬質被膜100の効果を適切に発揮させるためである。特に、図5に示すように、ボディー71の表面全体に硬質被膜100が設けられていることが好ましい。
なお、切削工具70が硬質被膜100を有することは、次のようにして確認することができる。まず、切削工具70の断面(たとえば図5に示す断面)を作製し、この断面が表面に露出するように切削工具70を樹脂に埋め込む。次いで、露出する断面を必要に応じて研磨処理した後、SEMを用いて該断面を観察する。
本実施形態の切削工具70において、溝部74を被覆する硬質被膜100の厚みTfと、マージン73aを被覆する硬質被膜100の厚みTmとの比Tf/Tmが、0.8〜1.5であることが好ましい。その理由は以下のとおりである。
従来、AIP法等により基材81の表面に硬質被膜を設けた場合、ドロップレッドの存在により、その表面の平滑性が十分ではなかった。このため、切削抵抗を低減させるために、形成された硬質被膜の表面に対して研磨処理を実施する例もある。しかしこれらの後処理は、処理の性質上、溝部74上の硬質被膜100と比してマージン73a上の硬質被膜100をより多く除去してしまうものである。
このため、後処理を経た後の切削工具においては、後処理前の切削工具と比して、溝部74を被覆する硬質被膜100の厚みTfとマージン73aを被覆する硬質被膜100の厚みTmとの比Tf/Tmが大きくなる傾向があった。マージン73a上の硬質被膜100は、切削性能に大きく関係するものであり、特に摩耗、欠損等の損傷が起こり易い部分である。このため、この部分の硬質被膜100の厚みTmが厚みTfと比してあまりに小さいと、工具寿命の低下や工具性能の低下が引き起こされる。
これに対し二層構造層10は、上述のように平滑な表面を有し得るため、硬質被膜100もまた平滑な最表面を有し得る。したがって、このような硬質被膜100を基材81の表面に設けた場合には、上記のような後処理を実施する必要がなく、故に最終製品として得られる切削工具における比Tf/Tmを比較的小さくすることができる。
すなわち、本実施形態に係る硬質被膜100によれば、比Tf/Tmが0.8〜1.5と比較的小さくありながら、その表面の平滑性が十分に高いという、AIP法では製造が困難であった態様を有することができる。このような態様を有する硬質被膜100は、比Tf/Tmが比較的小さいことに起因する工具寿命の長期化と、表面が平滑なことに起因する切削抵抗の低減との両特性を相乗的に発揮することができる。
TfおよびTmは、次のようにして決定される。図6において、円Sは、ボディー71の断面を内部に含み、かつマージン73aの先端73aaを繋ぐことにより描かれる仮想の円であり、その直径をDとする。円S1は、マージン73aの先端73aaと円Sとの接点を中心点とし、かつその半径D1が1/10Dとなる仮想の円である。線L1は、先端73aaと円Sの中心点Pとを繋ぐ仮想の線である。線L2は、ランド幅の裏先端73bと円Sの中心点Pとを繋ぐ仮想の線である。線L3は、線L1と線L2との成す角2αを等分する仮想の線である。円S2は、線L3とボディー71の外周との接点を中心点とし、かつその半径D2が1/10Dとなる仮想の円である。
マージン73aを被覆する硬質被膜100の厚みTmとは、円S1内に位置するマージン73a上の硬質被膜100の厚みであり、少なくとも任意の5点における各測定値の平均値である。溝部74を被覆する硬質被膜100の厚みTfとは、円S2内に位置する溝部74上の硬質被膜100の厚みであり、少なくとも任意の5点における各測定値の平均値である。
[第4の実施形態]
<切削工具>
図7は、第4の実施形態に係る切削工具の一例を示す概略的な斜視図である。図8は、図7の斜線部分を示す図であり、Y領域を示す断面斜視図である。本実施形態では、スローアウェイチップが例示される。
図7を参照し、切削工具90は、上面、下面および四つの側面を含む表面を有しており、全体として、上下方向にやや薄い四角柱形状である。また、切削工具90には、上下面を貫通する貫通孔が形成されており、切削工具90の4つの側面の境界部分においては、隣り合う側面同士が円弧面で繋がれている。
本実施形態の切削工具90では、上面および下面がすくい面91を成し、4つの側面(およびこれらを繋ぐ円弧面)が逃げ面92を成す。また、すくい面91と逃げ面92との境界部分が切れ刃93として機能する。換言すれば、本実施形態の切削工具90は、表面(上面、下面、四つの側面、これらの側面を繋ぐ円弧面、および貫通孔の内周面)を有し、表面はすくい面91および逃げ面92を含み、すくい面91および逃げ面92の一部(境界部分)が切れ刃93を成す。
図8を参照し、切削工具90は、基材94と、基材94の表面を被覆する硬質被膜95とを備える。基材94の表面全体が硬質被膜95によって被覆されていてもよく、基材94の一部が被覆されていてもよい。
基材94は上述の基材200であり、硬質被膜95は第1の実施形態に係る硬質被膜100および第2の実施形態に係る硬質被膜100の少なくとも一方である。このため、切削工具90は、硬質被膜100の効果を発揮することができ、もって長い工具寿命を有することができる。切削工具90においては、少なくとも被削材と接触する部分および切屑と接触する部分に硬質被膜100が設けられていることが好ましい。
ここで切れ刃93は、上記のように「すくい面91および逃げ面92の境界部分」であり、これは「すくい面91と逃げ面92との境界を成す稜線と、すくい面91および逃げ面92のうち稜線近傍となる部分と、を併せた部分」を意味する。このように規定される切れ刃93の領域は、切削工具90の切れ刃93の形状によって決定される。各形状の切れ刃93の領域を図8〜図10に示す。
図8に、シャープエッジ形状を有する切削工具90を示す。このようなシャープエッジ形状の切削工具90において、「すくい面91と逃げ面92との境界を成す稜線」は、図中の稜線Eに相当する。また「すくい面91および逃げ面92のうち稜線E近傍となる部分」は、稜線Eからの距離(直線距離)Dが、100μm以下の領域(図8において、点ハッチングが施される領域)と定義される。したがって、たとえばシャープエッジ形状の切削工具90における逃げ面92側に位置する切れ刃93とは、図8において逃げ面92側に位置し、かつ点ハッチングが施される領域に対応する部分となる。
図9に、ホーニング形状を有する切削工具90を示す。図9においては、切削工具90の各部の他、すくい面91を含む仮想平面R、逃げ面92を含む仮想平面F、仮想平面Rと仮想平面Fとが交差してなる仮想稜線EE、すくい面91と仮想平面Rとの乖離の境界となる仮想境界線ER、および逃げ面92と仮想平面Fとの乖離の境界となる仮想境界線EFが示されている。なお、ホーニング形状の切削工具90において、上記の「稜線E」は、「仮想稜線EE」と読み替える。
このようなホーニング形状の切削工具90において、「すくい面91および逃げ面92のうち仮想稜線EE近傍となる部分」は、仮想境界線ERおよび仮想境界線EFとに挟まれる領域(図9において点ハッチングが施される領域)と定義される。したがって、図9を参照し、ホーニング形状の切削工具90における切れ刃93とは、逃げ面92側に位置し、かつ点ハッチングが施される領域と、すくい面91側に位置し、かつ点ハッチングが施される領域とを合わせた領域となる。
図10に、ネガランド形状の切削工具90を示す。図10においても、すくい面91を含む仮想平面R、逃げ面92を含む仮想平面F、仮想平面Rと仮想平面Fとが交差してなる仮想稜線EE、すくい面91と仮想平面Rとの乖離の境界となる仮想境界線ER、および逃げ面92と仮想平面Fとの乖離の境界となる仮想境界線EFが示されている。なお、ネガランド形状の切削工具90においても、上記の「稜線E」は、「仮想稜線EE」と読み替える。
このようなネガランド形状の切削工具90において、「すくい面91および逃げ面92のうち仮想稜線EE近傍となる部分」は、仮想境界線ERおよび仮想境界線EFとに挟まれる領域(図10において点ハッチングが施される領域)と定義される。したがって、図10を参照し、ネガランド形状の切削工具90における切れ刃93とは、逃げ面92側に位置し、かつ点ハッチングが施される領域と、すくい面91側に位置し、かつ点ハッチングが施される領域とを合わせた領域となる。
以下実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[検討1]
<実施例1>
基材として、材質がISO K30グレードの超硬合金であるドリル(直径1.0mm、2枚刃、L/D=15)を準備した。次にこの基材をHiPIMS装置のチャンバ内のテーブル上に設置した。チャンバ内には、チタンとアルミニウムとの合金からなる複数のターゲットを配置した。
その後、チャンバ内の圧力が0.005Pa以下となるように真空引きしてアルゴンガスを導入し、チャンバ内の圧力を0.7〜0.9Paに維持しながら、基材に150(−V)〜600(−V)の電圧をかけてエッチング用フィラメントに電流を流すことによって、アルゴン中でグロー放電を発生させた。これにより、アルゴンイオンによる基材表面のクリーニング処理を15〜120分間行なった。クリーニング処理後、チャンバ内からアルゴンガスを排気させた。
そして、アルゴンガス(0.43Pa)および窒素ガス(0.14〜0.19Pa、遷移モードで成膜できるように調整)を導入しながら、表1に示す成膜条件下で第1工程および第2工程を順に実施して、基材上への硬質被膜の成膜を実施した。なお、表1の成膜条件に関する各欄において、スラッシュで区切る左側の記載が第1工程の条件であり、右側の記載が第2工程の条件である。各工程におけるチャンバ内圧力は0.57〜0.62Paとした。
Figure 0006666431
<実施例2〜21、比較例1および2>
成膜条件を表1に示すように変更し、また目的とする各被膜の組成に適したターゲットおよびガスを用いた以外は、実施例1と同様にして基材上への硬質被膜の成膜を実施した。
<比較例3〜5>
比較例3〜5においては、HiPIMS装置に代えてアーク放電装置を用いて、上記基材上に成膜処理を実施した。比較例3〜5において、アーク電流は150Aとし、窒素圧力は5.3Paとした。また、比較例4および比較例5においては従来公知の方法により後処理を実施した。
<硬質被膜の組成および構造の確認>
実施例1〜21および比較例1〜5の表面被覆超硬ドリルを、ダイヤモンド回転刃を備えた切断機を用いて切断し、表面被覆超硬ドリルのマージンに位置する硬質被膜の断面を含む測定試料を準備した。そして、TEMによる断面観察により第1〜第3界面を特定した上で上部層および下部層の各組成、および各層の厚さ(TtおよびTb)を確認した。また上部層の組成が厚み方向に周期的に変化していた場合には、その周期の10セットの厚みを測定し、その平均値を算出した。
また、各実施例および各比較例に関し、上述の方法に従って特定された平均粒径G1〜G4を算出した。さらに、硬質被膜の表面に関し、RaおよびRzを上述の方法に従って算出した。また、硬質被膜の表面であって100μm×100μmの範囲に関し、1μm以上の高低差を有する凹凸の数、0.5μm以上の高低差を有する凹凸の数、および0.3μm以上の高低差を有する凹凸の数を、上述の方法に従って算出した。各結果を表1および表2に示す。
Figure 0006666431
表1および表2を参照し、実施例1〜21においては、平均粒径が第1界面から第2界面に向けて連続的に増大するとともに、第2界面から第3界面に向けて連続的に減少しており、G2>G3>G4>G1の関係式を満たす二層構造層が形成されていた。一方、比較例1〜5においては、このような平均粒径の変化を有する二層構造層は形成されなかった。
なお、表1において「上部層」の欄に2つの組成が記載されているものは、上部層において組成の周期的な変動が観察されたものである。たとえば実施例2の上部層においては、Ti0.55Al0.45NからTi0.75Al0.25Nまで連続的にTiの割合が大きくなり、引き続きTi0.55Al0.45Nにまで連続的にTiの割合が小さくなる厚み8nmの周期(1セット分)が観察された。
<比Tf/Tmの算出>
実施例1〜6および比較例1〜5の表面被覆超硬ドリルにおいて、マージン上の硬質被膜の厚みTmと、溝部上の硬質被膜との厚みTfを測定し、これらの比Tf/Tmを算出した。その結果を表3に示す。
Figure 0006666431
<切削試験>
実施例1〜21および比較例1〜5の表面被覆超硬ドリルを用いて、以下の条件で穴あけ試験を行い、表面被覆超硬ドリルが欠損するまで切削加工を継続させた。欠損するまでに穴あけ加工が実施された穴数を表3に示す。
(切削条件)
被削材:SUS420
切削速度:40m/min
送り量:0.03mm/rev.
穴深さ:15mm
切削油:有り(内部給油)。
表3を参照し、実施例1〜21の表面被覆超硬ドリルによれば、比較例1〜5の表面被覆超硬ドリルよりも多くの穴をあけることができた。したがって、実施例1〜21の表面被覆超硬ドリルにおいては、工具寿命の長期化が可能となった。
[検討2]
<実施例22および比較例6>
基材として、材質が住友電気工業製ISO P20グレードサーメットであり、形状が「ISO:TNGG160404」であるスローアウェイチップを準備して、成膜条件を表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして基材上への硬質被膜の成膜を実施した。
<実施例23および比較例7>
基材として、材質が超硬合金上にISO H20グレードの立方晶窒化硼素焼結体を配したものであり、形状が住友電気工業製の「4NU−DNGA150408」であるスローアウェイチップを準備して、成膜条件を表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして基材上への硬質被膜の成膜を実施した。
Figure 0006666431
<硬質被膜の組成および構造の確認>
実施例1と同様にして、硬質被膜の組成および構造を確認した。各結果を表4および表5に示す。
Figure 0006666431
<切削試験>
実施例22および比較例6のスローアウェイチップを用いて、以下の条件で10分間サーメット旋削試験を行い、旋削後の被削材の面粗さRaをJIS B 0601(2001)に準じて測定した。また、被削材表面の光沢を目視により確認した。その結果を表6に示す。
(サーメット旋削条件)
被削材:SCM415
切削速度:230m/min.
送り量:0.2mm/rev.
切り込み量:1.0mm
切削油:有り。
また実施例23および比較例7の切削工具を用いて、以下の条件で切削距離が5kmとなるようにcBN旋削試験を行い、旋削後の被削材の面粗さRzをJIS B 0601(2001)に準じて測定した。また切削工具の逃げ面摩耗量Vbを測定した。その結果を表6に示す。
(cBN旋削条件)
被削材:SCM415(HRC=60)
切削速度:200m/min.
送り量:0.1mm/rev.
切り込み量:0.1mm
切削油:無し。
Figure 0006666431
表6を参照し、実施例22は比較例6と比して、切削後の被削材の表面形状が平滑であり、また面外観にも優れていた。また実施例23は比較例7と比して、耐摩耗性が高く、また最大高さRzも低かった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 下部層、2 上部層、3,4 結晶粒、5 粒径、10 二層構造層、20 下地層、30 表面層、50 ターゲット、51 テーブル、52 回転軸、53 基材ホルダー、60 プラズマ、70,90 切削工具、71 ボディー、72 シャンク、73 外周刃部、73a マージン、73aa 先端、73b ランド幅の裏先端、74 溝部、81,94,200 基材、82,95,100 硬質被膜、91 すくい面、92 逃げ面、93 切れ刃。

Claims (10)

  1. 基材上に形成される硬質被膜であって、
    前記硬質被膜は、前記基材側から順に下部層と上部層とが積層されてなる二層構造層を含み、
    前記二層構造層のうち前記基材側に位置する下端面を構成する前記下部層の下面を第1界面とし、前記下部層の上面と前記上部層の下面との界面を第2界面とし、前記二層構造層のうち前記下端面の反対の上端面を構成する前記上部層の上面を第3界面とし、かつ
    前記二層構造層においてその厚み方向に平行な断面を観察した場合に、
    前記第1界面から前記第2界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G1、前記第2界面から前記第1界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G2、前記第2界面から前記第3界面側に向けて100nm離れた位置における結晶粒の平均粒径G3、および前記第3界面における結晶粒の平均粒径G4は、G2>G3>G4>G1の関係式を満たす、硬質被膜。
  2. 前記下部層は、前記第1界面側から前記第2界面に向けて平均粒径が増大する結晶粒を含み、前記上部層は、前記第2界面から前記第3界面側に向けて平均粒径が減少する結晶粒を含む、請求項1に記載の硬質被膜。
  3. 前記平均粒径G1は50nm以下であり、
    前記平均粒径G2は200nm以上600nm以下であり、
    前記平均粒径G3は75nm以上300nm以下であり、
    前記平均粒径G4は150nm以下である、請求項1または請求項2に記載の硬質被膜。
  4. 前記上部層の厚みTtと前記下部層の厚みTbとの比Tt/Tbは、0.2以上0.75以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の硬質被膜。
  5. 前記二層構造層は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、AlおよびSiからなる群より選ばれる1種以上の第1元素と、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の第2元素とからなる組成を有する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の硬質被膜。
  6. 前記二層構造層はその組成中に2種以上の第1元素を有し、前記上部層の厚み方向において、2種以上の前記第1元素の濃度がそれぞれ周期的に変化する、請求項5に記載の硬質被膜。
  7. 前記上部層の上面は、0.07μm以下の算術平均粗さRaと、0.50μm以下の最大高さRzとを有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の硬質被膜。
  8. 前記二層構造層の前記上部層の上面の100μm×100μmの範囲において、1μm以上の高低差を有する凹凸の数が10個未満である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の硬質被膜。
  9. 基材と、前記基材の表面を被覆する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の硬質被膜とを備える、切削工具。
  10. 前記切削工具は溝部と、マージンとを有し、
    前記溝部を被覆する前記硬質被膜の厚みTfと前記マージンを被覆する前記硬質被膜の厚みTmの比Tf/Tmが、0.8以上1.5以下である、請求項9に記載の切削工具。
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