図1は本発明を適用可能な印刷処理システムの構成例を示すブロック図である。印刷処理システム1は、パーソナルコンピューター(以下「PC」と略称する)6、プリンター7、管理サーバー8、RIP(Raster Image Processor)装置9を含み、それらが互いに通信可能に接続されたローカルエリアネットワーク(Local Area Network;以下「LAN」と略称する)として構成されている。より具体的には、LAN回線5に、PC6、プリンター7、管理サーバー8およびRIP装置9などの情報端末装置がそれぞれ接続されている。これらの情報端末装置のそれぞれは、印刷処理システム1内に複数含まれていてもよい。また、上記した各構成要素間の接続は、相互に通信可能であれば有線、無線を問わない。
印刷処理システム1内に設けられるPC6は、一般的なパーソナルコンピューターの構成と同様のハードウェア構成を有している。すなわち、PC6は、当該PC各部の制御および演算処理を司るCPU(Central Processing Unit)61、演算データを一時的に保存するメモリー62、CPU61が実行すべき制御プログラムや各種データを記憶保存するストレージ63、外部との通信を担うインターフェース(IF)64、ユーザーからの操作入力を受け付ける入力部65およびユーザーへの各種報知を行う表示部66などを有しており、これらが電気的に接続されて相互にデータ交換を行う。
プリンター7も、ネットワークプリンターとしての一般的な構成と同様のハードウェア構成を有している。すなわち、プリンター7は、当該プリンター各部の制御およびデータ処理を担うコントローラー71、メディア(印刷媒体)への印刷動作を実行するプリンターエンジン72、画像データを一時的に保存するメモリー73、外部との通信を担うインターフェース(IF)74、ユーザーからの操作入力を受け付ける入力部75およびユーザーへの各種報知を行う表示部76などを有しており、これらが電気的に接続されて相互にデータ交換を行う。以下、プリンターエンジン72は一例としてインクジェット方式のものとして説明するが、印刷方式はこれに限定されず任意である。
なお、プリンター7は、大容量の画像データの受け入れを可能とするために、PC6と同様にストレージを有していてもよい。また、ユーザーインターフェースがPC6上で実現されることを前提に、入力部75および表示部76の少なくとも一方が簡略化または省略されてもよい。また、プリンター7はいわゆるネットワークプリンターとしてシステムに包含されるほか、LAN回線5を介さずにPC6またはRIP装置9と接続される、いわゆるローカルプリンターとして印刷処理システム1に包含されてもよい。
管理サーバー8は、LAN回線5を介して相互に接続される各種端末装置からなる印刷処理システム1を管理する機能を有するものである。その構成は一般的なPCと同様のものである。具体的には、管理サーバー8は、CPU81、メモリー82、ストレージ83、インターフェース(IF)84、入力部85および表示部86などを有している。
また、RIP装置9も一般的なPCと同様の構成を有している。後述のように、RIP装置9はCPUにより実行されるアプリケーションプログラムの違いによりPC6と異なる機能を有しているが、ハードウェア構成は同じである。具体的には、RIP装置9は、CPU91、メモリー92、ストレージ93、インターフェース(IF)94、入力部95および表示部96などを有している。RIP装置9は、PC6で作成された画像データに基づき、プリンター7が解釈可能なジョブデータを作成しプリンター7に送出する機能を有するものである。
この印刷処理システム1は、PC6を操作するユーザーにより指定された内容の画像を、指定された印刷メディアに印刷するためのシステムである。印刷すべき画像としては、文書作成ソフトウェアで作成されたテキスト画像、描画ソフトウェアで形成されたグラフィック画像、デジタルカメラで撮影された写真、スキャナーで読み込まれた画像など種々のものがある。また、印刷メディアとしては、素材(紙、樹脂フィルム、布など)、その光学的特性(色、透明度、光沢の有無など)およびその形態(枚葉状、ロール状、立体成形物など)の組み合わせにより種々のものがある。
図2は印刷処理システムにおいて各装置が果たす機能を模式的に示す図である。PC6は、CPU61がストレージ63に保存された画像編集アプリケーション611を実行することで、プリンター7により印刷される画像の内容を定めた画像データを作成する。作成された画像データはRIP装置9に送信される。
RIP装置9は、CPU91がストレージ93に保存されたRIPアプリケーション911を実行する。RIPアプリケーション911は、種々のデータ形式で作成された画像データをプリンター7が解釈可能なデータ形式に変換したジョブデータを作成する。このときの処理にプリンター7の特性に応じたパラメーターが適用されることで、ジョブデータがプリンター7に応じて最適化されたものとなる。作成されたジョブデータを含むプリンター7への制御命令である印刷ジョブは、ストレージ93に設けられたジョブリスト912に登録される。
RIP装置9にはさらに、CPU91がストレージ93に保存されたプログラムを実行することでジョブ管理部913が設けられる。ジョブ管理部913は、ジョブリスト912に登録された印刷ジョブを順次プリンター7に送出する機能、および、ユーザーからの要求に応じてジョブリスト912に登録されている印刷ジョブの順序を編集する機能を有する。特段の事情がなければ、各印刷ジョブは、プリンター7での印刷処理の進行状況に応じて、ジョブリスト912における登録順で順番に送出される。
ジョブ管理部913によりジョブリスト912から送出される印刷ジョブは、プリンター7に送られる。プリンター7では、印刷ジョブに応じてプリンターエンジン72が印刷処理を実行することで印刷メディアに画像を印刷する。プリンターエンジン72は、コントローラー71に実装されたファームウェア711により制御される。
プリンター7は、印刷ジョブに応じた印刷処理の他に、機能および性能維持のための保守処理(メンテナンス処理)を実行可能である。プリンター7がインクジェット印刷装置である場合、インク滴を吐出するノズルの汚れを除去するためのクリーニング処理や、ノズル内でのインク詰まりを防止するための処理、インクタンク内のインクの撹拌処理などの各種処理が単独でまたは適宜組み合わされて、保守処理として実行される。
保守処理は定期的に実行される必要があり、例えば一定時間ごとに、あるいは印刷ページ数など装置の稼働状況に応じて変化する稼働量が所定に達する度ごとに、実行されるようにすることができる。保守処理の内容およびその実行タイミングは任意であり、ファームウェア711によって規定することができる。この実施形態ではその一例として、プリンター7の稼働期間中、一定時間が経過するごとに、上記した各処理が一連の保守処理として実行されるものとする。
この目的のために、プリンター7にはソフトウェアにより実現されるタイマー712が設けられている。プリンター7の電源が投入されている間、タイマー712は、前回の保守処理が実行されてからの経過時間を計測している。タイマー712の計測値はメモリー73に保存され常時更新されている。計時結果が所定値に達すると保守処理が実行され、タイマー712がリセットされ再計時が開始される。これにより、一定時間ごとに保守処理を実行するという目的が達成される。
管理サーバー8は、CPU81がストレージ83に保存されたプリンター監視アプリケーション811を実行することにより、プリンター監視装置として機能する。プリンター監視装置としての管理サーバー8は、ネットワーク内に含まれるプリンター7の各々からその稼働状況を表すステータス情報を取得し、ステータス情報に基づきプリンター7の稼働状況を把握する。タイマー712の計測値もステータス情報に含まれる。また、管理サーバー8はインターネット通信回線2に接続されている。例えばプリンター7に実装されるファームウェア711の更新データがインターネット通信回線2を通じて配信されると、管理サーバー8は適宜のタイミングでプリンター7に更新データを送信しファームウェア711を更新させる。この他、管理サーバー8は、例えばプリンターエンジン72による印刷処理を印刷メディアに応じて最適化するためのパラメーターを、必要に応じインターネット通信回線2を通じて取得する。このように、管理サーバー8は、プリンター7を常に正常な稼働状態に維持するための管理全般を行う。
プリンター7による印刷処理を適正化するためのパラメーターは、管理サーバー8からRIP装置9にも提供される。RIP装置9ではRIPアプリケーション911が与えられたパラメーターを使用してデータ処理を行うことで、印刷処理が実行されるプリンター7および印刷メディアの特性に適合したジョブデータを作成する。プリンター7とRIP装置9とで用いられる各種パラメーターがいずれも管理サーバー8から与えられることにより、パラメーターの不適合に起因する印刷の失敗を未然に防止することができる。
また、この印刷処理システム1では、RIP装置9が保守ジョブをプリンター7に送出することでプリンター7に保守処理を行わせることが可能となっている。より具体的には、RIP装置9は、プリンター7に保守処理を実行させるための制御命令を保守ジョブとして生成可能であり、必要に応じてプリンター7に対し保守ジョブを送出する。
プリンター7は、印刷ジョブを受けて印刷処理を実行するのと同様に、保守ジョブを受けると指定された内容の保守処理を実行する。他のジョブを実行中でなければ保守ジョブに応じた保守処理が遅滞なく実行され、実行中のジョブがある場合にはそのジョブに引き続き保守ジョブに応じた保守処理が実行される。
したがって、この印刷処理システム1では、プリンター7により一定時間ごとに自動的に実行される予め定められた保守処理に加えて、RIP装置9が保守ジョブを送出することによっても保守処理が実行される。保守処理の内容は保守ジョブにより任意に指定可能であるが、ここでは計画的に実行される保守ジョブと同様の処理とする。また、保守ジョブの送出タイミングを調整することで、プリンター7における保守処理を任意のタイミングで実行することができる。この実施形態では、プリンター7が印刷ジョブに応じた印刷処理を実行している間に保守処理の実行時期が到来するのを回避する目的で、上記のような保守ジョブに基づく保守処理が実行される。保守処理はプリンター7の機能を維持し画質の低下や装置トラブルを未然に防止するために実行される処理である。したがって、前回の保守処理を実行してから所定の実行期限が到来するまでに、次の保守処理が実行される必要がある。
図3は印刷処理と保守処理との関係を示す図である。時刻Taにおいてプリンター7が保守処理を実行すると、それから所定の保守処理実行周期を経た時刻Tbが、次回の保守処理の実行期限となる。次回の保守処理が実行期限Tbを超えても実行されないと、例えばノズルの詰まりのようなトラブルが発生する確率が増大する。しかしながら、プリンター7では印刷ジョブがいつ送信されてくるかを予測することはできない。そのため、図3に示すように、時刻Tcに開始される印刷処理の実行期間が保守処理の実行期限Tbを含んでしまうような印刷ジョブを受ける場合もあり得る。
この場合、本来の実行期限Tbが到来した時に、実行中の印刷処理を中断して保守処理が実行されることは好ましくない。保守処理の前後において画像品質に多少の差異が生じることがあるからである。一方、当該印刷処理の終了時刻Tdを待って保守処理を実行したのでは、保守処理の実行間隔が広くなりすぎて本来の目的である機能維持を達成することができなくなる。そこで、この実施形態では、印刷処理の実行中に保守処理の実行期限が到来する場合には、保守処理の実行タイミングを早め、当該印刷処理の実行に先立って保守処理を実行することで、印刷処理の中断および保守処理の実行期限の超過のいずれもが回避されるようにする。
印刷ジョブの発生時期およびその処理に要する所要時間を事前に把握することができるのはRIP装置9である。したがって、印刷処理および保守処理の実行タイミングについてはRIP装置9により管理するのが合理的である。例えば印刷ジョブをプリンター7に送出する際には、RIP装置9は当該印刷ジョブに応じた印刷処理が実行される期間を推定することが可能である。そして、この期間中に保守処理の実行期限が到来することが予めわかっていれば、印刷処理に先立って保守処理が実行されるように保守ジョブを挿入すればよい。以下、このような保守処理の実行タイミングの管理を可能とするための各部の動作について説明する。なお、適宜の画像編集アプリケーション611により画像データを作成しRIP装置9に送信するPC6の動作は公知のものと変わらないため、ここでは説明を省略する。
図4は管理サーバーの動作を示すフローチャートである。管理サーバー8はネットワーク上のプリンター7を監視するための各種の処理を実行するが、図4はそのうち保守処理の適正化に関する処理を示すものである。管理サーバー8は、プリンター監視アプリケーション811を実行することで図4に示す処理を実現する。管理サーバー8は、ネットワーク上のプリンター7の各々から、当該プリンターの稼働状況を表すステータス情報を取得する(ステップS101)。そして、ステータス情報に含まれるタイマー情報を抽出する(ステップS102)。タイマー情報は、前回の保守処理からの経過時間を計測するタイマー712の計測値に関する情報であり、次回の保守処理の実行タイミングを特定するために用いることのできる情報である。
ネットワーク上のRIP装置9のいずれかからタイマー情報の要求があったとき(ステップS103)、その時点のタイマー情報を、要求のあったRIP装置9に対し送信する(ステップS104)。このような処理がループ処理として繰り返される。このように、管理サーバー8はプリンター7ごとの最新のタイマー情報を常に把握しており、RIP装置9から要求があればタイマー情報を当該RIP装置9に通知する。以上が管理サーバー8の動作である。
図5はRIP装置の動作を示すフローチャートである。RIP装置はRIPアプリケーション911を実行することで図5に示す処理を実現する。ネットワーク上のPC6の画像編集アプリケーション611で作成された画像データをRIP装置9が受信すると(ステップS201においてYES)、RIPアプリケーション611は、各種のデータ形式で作成された画像データをビットマップ展開し、プリンター7が解釈可能なジョブデータを作成する(ステップS202)。
また、RIP装置9は、ジョブデータにおける印刷ページ数や解像度等の情報から、当該印刷ジョブに対応する印刷処理の所要時間の概算値を推定する(ステップS203)。また、使用するプリンター7のタイマー情報を管理サーバー8から取得する(ステップS204)。具体的には、管理サーバー8に対してタイマー情報を要求する信号を送信し、これに応じて管理サーバー8から送信されるタイマー情報を取得する。
これらの情報から、作成した印刷ジョブに応じた印刷処理の実行期間中にプリンター7の保守処理の実行期限が到来する(ここではこの事象を印刷処理と保守処理との「競合」と称する)か否かが判定される(ステップS205)。競合があると判定されると(ステップS205においてYES)、ジョブリスト912の最後尾に、プリンター7に保守処理を行わせるための保守ジョブが追加される(ステップS206)。競合がなければ(ステップS205においてNO)、ステップS206はスキップされる。
次に、作成されたジョブデータが新たな印刷ジョブとしてジョブリスト912の最後尾に追加登録される(ステップS207)。したがって、当該印刷ジョブに対応する印刷処理が保守処理と競合しないと判定された場合には、登録済みの印刷ジョブの後に今回作成された新たな印刷ジョブが登録されることになる。一方、印刷処理と保守処理とが競合すると判定された場合には、新たに追加された保守ジョブの後に新たな印刷ジョブが登録されることになる。
このようにして印刷ジョブがジョブリスト912に追加された後、または、ステップS201において画像データが受信されなかったときには、ジョブ管理部913は、ジョブリスト912に未送出のジョブが残留しているか否かを判定する(ステップS208)。未送出のジョブがある場合(ステップS208においてYES)、ジョブ管理部913はジョブリスト912の最上位に登録されたジョブをプリンター7に送出し(ステップS209)、ステップS201に戻って画像データが受信されるまで待機する。ジョブリスト912にジョブが残留していなければ(ステップS208においてNO)、そのままステップS201に戻る。
以後同様にして、RIP装置9は、画像データが与えられるとジョブデータを作成してジョブリスト912に蓄積してゆく一方、蓄積されたジョブを、プリンター7の処理状況に応じて順次プリンター7に送出する。以上がRIP装置9の動作である。
図6はプリンターの動作を示すフローチャートである。プリンター7は、ファームウェア711に記述されたプログラムを実行することで、図6に示す処理を実現する。プリンター7の電源が投入されると、プリンター7は所定の初期化処理を実行する(ステップSS301)。初期化処理はプリンター7の各部を印刷処理が可能な状態に移行させるための処理である。初期化処理が終了すると、タイマー712による計時が開始される(ステップS302)。
その後、タイマー712の計測値により特定される経過時間が予め定められた保守処理の実行期限に達すると(ステップS303)、所定の保守処理が実行される(ステップS308)。そして、タイマー712の計測値がリセットされ再計時が開始され(ステップS309)、処理はステップS303に戻る。
保守処理の実行期限に達する前にRIP装置9からのジョブを受信すると(ステップS304)、当該ジョブが印刷ジョブか保守ジョブかが判定される(ステップS305)。当該ジョブが印刷ジョブであったとき(ステップS305においてYES)、印刷ジョブに応じた印刷処理が実行される(ステップS306)。そして、プリンター7の動作に伴って変化する稼働量の累積値を表す稼働情報が更新される(ステップS307)。稼働情報は、管理サーバー8により取得されるステータス情報の一部をなしており、管理サーバー8はプリンター7の稼働状況を把握することが可能である。印刷処理の実行により変化する稼働量としては例えば、印刷ページ数、インク使用量、メディア搬送系の稼働時間等が挙げられるがこれに限定されない。その後、処理はステップS303に戻る。
受信したジョブが印刷ジョブでない、つまり保守ジョブであったとき(ステップS305においてNO)、実行期限が到来したときと同様に、保守処理(ステップS308)およびタイマー712のリセット(ステップS309)が実行された後に処理はステップS303に戻る。なお、例えば保守処理が装置各部の稼働量を変化させる、例えばインクの消費を伴うようなものである場合には、保守処理による稼働量に応じて稼働情報が更新されるようにしてもよい。以上がプリンター7の動作である。
印刷処理システム1の各部が上記のように動作することで、印刷処理システム1は全体として次のような動作をすることになる。まず印刷処理については次のような流れとなる。ユーザーがPC6を操作して画像データを作成すると、画像データはRIP装置9に送られ、RIP装置9でジョブデータに変換される。ジョブデータを含む印刷ジョブはRIP装置9内のジョブリスト912に登録され、プリンター7での処理状況に応じて印刷ジョブは順次プリンター7に送信され、印刷処理が実行される。こうしてユーザーが作成した画像データに対応する画像が印刷メディアに印刷される。
また、保守処理については次の通りである。プリンター7は、前回の保守処理の実行からの経過時間を計測しており、経過時間が保守処理の実行期限に達すると自動的に保守処理を実行する。これにより、一定の時間間隔で定期的に保守処理が実行される。
RIP装置9から送出されようとしている印刷ジョブがあり、かつ当該ジョブに応じた印刷処理が保守処理の実行期限が到来する前に終了すると予想される場合には、当該印刷ジョブがプリンター7に送信され、これに応じてプリンター7が印刷処理を実行する。一方、印刷処理の実行中に保守処理の実行期限が到来して実行時期が重なってしまうと予想される場合には、RIP装置9からプリンター7に対して保守ジョブが印刷ジョブよりも先に実行されるような順番で送信される。したがって、プリンター7は、保守ジョブに応じた保守処理を実行した後に印刷ジョブに応じた印刷処理を実行する。これにより、実行期限の到来前に新たな保守処理が実行され、プリンター7の機能が維持される。次の保守処理の実行期限を定めるタイマー712はリセットされるため、プリンター7が自動的に実行する定期的な保守処理の実行時期も先送りされ、短期間のうちに複数回の保守処理が実行されることはない。
このように、この印刷処理システム1では、保守処理が定期的に実行されることでプリンター7の機能が維持されており、画像品質の安定した画像を作成することが可能である。
印刷処理の実行中に保守処理の実行期限が到来する場合には、印刷処理に先立って保守処理が実行される。そのため、印刷処理の実行が保守処理のために中断されることがなく、また所定の実行期限を超過して保守処理が行われないという事象も回避される。このような効果は、保守処理の内容にかかわらず得られるものである。
印刷ジョブの送出時期や印刷処理の内容を事前に把握することが可能なRIP装置9がプリンター7に保守ジョブを与えて保守処理を実行させる構成とすることで、上記のような効果が得られる。保守ジョブを送出するか否かの判定は、印刷ジョブを送出する予定のあるRIP装置9のみが行えばよい。定期的な保守ジョブの実行についてはプリンター7自身が管理しているからである。
プリンター7の稼働状況は管理サーバー8によって監視されている。プリンター7の稼働状況に関する情報を管理サーバー8が一元的に管理することで、RIP装置9は管理サーバー8にアクセスしてプリンター7の稼働情報を取得することが可能になる。このため、個々のRIP装置9が、個別にジョブ送出前にプリンター7からステータス情報を取得する必要がない。保守処理実行後の経過時間を計測するタイマー712はプリンター7に設けられているため、当該プリンター7が作動している限り、計時の継続性が失われることはない。
また、この実施形態の印刷処理システム1では、RIP装置9のジョブリスト912に蓄積されたジョブの実行順序をユーザーが変更することが可能である。以下、これを可能とするための処理について説明する。この処理は、ネットワークを介してRIP装置9のジョブリスト912にアクセスすることが可能でユーザーインターフェース機能を有する任意の端末装置上で実行することが可能である。例えば、RIP装置9に実装されたRIPアプリケーション911の機能の一部として実現することが可能である。また、PC6または管理サーバー8に適宜のプログラムが実装されることにより、PC6または管理サーバー8上で実現されてもよい。さらに、ファームウェア711の機能の一部としてプリンター7上で実現することや、プリンター7と一時的に接続されて使用されるメンテナンス用端末等の各種端末上で実現することも可能である。
図7はジョブリストの編集を可能とするための処理を示すフローチャートである。図7に示す処理を記述したプログラムが適宜の端末装置上で実行されることで、図7に示す処理が実現される。ここでは、端末装置の一例としてRIP装置9が用いられるものとするが、前記した通り任意の端末装置で実行することが可能である。ユーザーがジョブリストの編集を行うためのプログラムを起動させると、現在ジョブリスト912に登録されているジョブの一覧を示すユーザーインターフェース(UI)画面がRIP装置9の表示部96に表示される。
図8はUI画面の一例を示す図である。RIP装置9の表示部96には、「待機中ジョブ」というウィンドウ名を有するウィンドウW1に、ジョブリストに登録されたジョブの一覧が表示される。各ジョブには、他のジョブとの区別のために適宜の名称(ジョブ名)が付されている。この例では、それぞれ印刷ジョブである「ジョブA」、「ジョブB」、「ジョブC」がこの順で一覧に含まれ、さらに、保守ジョブである「メンテナンス」が「ジョブB」と「ジョブC」との間に配置されている。プリンター7へは、この一覧において上位のジョブから順に送出される。図示を省略しているが、ウィンドウW1では、各ジョブについてジョブ名の他にジョブの処理状況を表す「状態」やデータサイズを表す「サイズ」等の情報が表示される。
マウス操作やタッチパネルの押圧など入力部95への適宜の操作入力により、ユーザーはいずれかのジョブを選択することができる。図9では「ジョブB」の行が他の行と異なる色で表示されており、これはユーザーにより「ジョブB」が選択された状態を表している。1つのジョブが選択されると、当該ジョブ名の近傍にサブウィンドウS1が表示される。サブウィンドウS1には、当該ジョブをジョブリストの先頭に移動させるための「先頭へ」ボタン、ジョブリストにおける当該ジョブの順序を1つ繰り上げるための「前へ」ボタン、およびジョブリストにおける当該ジョブの順序を1つ繰り下げるための「次へ」ボタンなどが表示される。
これらのボタンを操作することで、ユーザーは、登録されたジョブの順序を変更することができる。またウィンドウW1の右上には当該ウィンドウを閉じてジョブリストの編集を終了させるための「終了」ボタンも配置される。
図9はジョブの所要時間および配列順序の例を示す図である。登録済みの各ジョブについては、プリンター7での処理における所要時間の概算値が既に求められている。図9において各ジョブを表すブロックの横方向サイズは当該ジョブに対応する処理の所要時間の長さに対応している。ユーザーによる編集が行われる前では、「ケース1」として示すように、ジョブAに対応する印刷処理(印刷A)、ジョブBに対応する印刷処理(印刷B)、メンテナンス(保守ジョブ)に対応する保守処理、ジョブCに対応する印刷処理(印刷C)が、ジョブA、ジョブB、ジョブCの順番で印刷処理が実行されるように予定されている。現在から次の保守処理の実行期限が到来するまでの間に印刷Aおよび印刷Bを完了させることが可能である。しかしながら、続けて印刷Cを実行すると、その実行中に保守処理の実行期限が到来する。これを回避するため、ジョブCの前に保守ジョブが配置されている。
ここで、印刷Aと印刷Bとの順序を入れ替えたとしても、保守処理の実行タイミングに変化はなく、実行期限の到来前に保守処理を実行することが可能である。また、図に「ケース2」として示すように、印刷Bと保守処理との順序を入れ替えても、保守処理の実行タイミングが早められるものの、実行期限の到来前に保守処理を実行することが可能である。さらに、印刷Bを印刷Cの後に移動させたとしても、実行期限の到来前に保守処理を実行可能であることは明らかである。したがって、図8に示すように、ジョブBはジョブリスト上のどの位置へ移動させてもよいことになる。
一方、図9に「ケース3」として示すように、例えば保守処理を印刷Cの後に移動させたとすると、保守処理はその実行期限を超過して実行されることになってしまう。このような移動は回避されるべきである。このようなケースについては、ジョブの移動について制限があることがUI画面上で示される。
図10は移動が制限されたジョブを表すUI画面の例を示す図である。図10は、ジョブ名として「メンテナンス」を付与された保守ジョブが選択された場合のUI画面に表示されるウィンドウW2を示している。この場合のサブウィンドウS2では、「次へ」ボタンがグレーアウトされ、さらにその横に注意喚起用のマークが表示されている。これにより、当該ボタンは選択されるべきものでないことがユーザーに提示される。
図11は移動が制限されたジョブを表すUI画面の他の例を示す図である。図11は、ジョブCが選択された場合のUI画面に表示されるウィンドウW3を示している。図9にケース3として示したように、ジョブCに対応する処理(印刷C)を保守処理よりも先にすると、保守処理はその実行期限を超過して実行されることになる。このため、サブウィンドウS3では、ジョブCをメンテナンス(保守ジョブ)よりも前に移動させるような操作が全て制限される。仮にジョブCの後に新たなジョブ「ジョブD」があれば、ジョブCをジョブDの後に移動させることは許容される。
このように、表示されたジョブリストにおいていずれかのジョブが選択されたとき、当該ジョブについて制限された移動があるか否かによりサブウィンドウの表示は変化し、制限がある場合にはサブウィンドウにおいてそのことがユーザーに提示される。これにより、ユーザーによる不適切なジョブの入れ替えが抑制される。
図7に戻ってジョブの編集処理についての説明を続ける。ステップS401において表示されたジョブリストに対し、ユーザーからの操作入力が受け付けられる。すなわち、ユーザーが「終了」ボタンを操作した場合には(ステップS402においてYES)、その時点のジョブ順序のままUI画面上のウィンドウが閉じられ処理は終了する。
一方、操作がジョブの順序を編集するための編集入力であった場合には(ステップS403)、ユーザーによる編集入力が受け付けられる(ステップS404)。編集入力は、順序を操作すべきジョブの選択に関するもの、および選択されたジョブの移動先に関するものを含む。
グレーアウトされたボタンへの操作入力も一応受け付けられる。受け付けられた編集入力が、印刷処理と保守処理との競合を生じさせる、つまり指定された順序で処理を実行すると保守処理の実行が実行期限を超過してしまうようなものであった場合には(ステップS405)、UI画面に警告メッセージが表示される(ステップS406)。
図12は警告メッセージの例を示す図である。図12は、図10に示す画面において「メンテナンス」ジョブをジョブCの後ろへ移動させる「次へ」ボタンが操作された場合を想定したものである。このような移動は図9の「ケース3」に該当し、保守処理の実行が実行期限を超過してしまうものである。そこで、「メンテナンス期限を超過します。続行しますか?」との警告メッセージを含む警告ウィンドウA2がウィンドウW2に重ねて表示され、このような移動を行うか否かにつきユーザーの意思を改めて確認するための「YES」ボタンおよび「NO」ボタンも表示される。
ユーザーが「YES」ボタンを操作した場合には当該変更がユーザーの意思で確定されたものと見なされ(ステップS407においてYES)、ステップS401に戻って、変更が反映されたジョブリストが表示される。このままの順序でジョブが処理された場合、保守処理が実行期限を超過して実行されることとなるが、ユーザーはそのことを理解した上でこのような設定をしたものであり、その意思が尊重される。
ユーザー操作が「NO」ボタンであった場合には(ステップS407においてNO)、ステップS402に戻り、ジョブリストは変更されない。なお、編集入力の結果が保守処理の期限超過を生じさせないものであれば(ステップS405においてNO)、当該変更は有効なものとされる。この場合も、ステップS401に戻り変更が反映されたジョブリストが表示される。このようにして、ユーザーはジョブの順序を編集することが可能である。
以上説明したように、上記実施形態の印刷処理システム1は、本発明の「印刷制御装置」の一態様とみることができる。この場合、RIP装置9、プリンター7および管理サーバー8が、それぞれ本発明の「ジョブ送出部」、「ジョブ処理部」および「通知部」として機能している。また、プリンター7に設けられたメモリー73が本発明の「情報保持部」として機能している。また、この実施形態では、プリンター7のタイマー712の計時結果を表すタイマー情報が、本発明の「実行情報」に相当している。
また、RIP装置9を本発明の「ジョブ管理装置」とみることもでき、この場合には、RIP装置9のCPU91およびインターフェース94がそれぞれ本発明の「ジョブ管理部」および「ジョブ送出部」として機能していることになる。また、ジョブ管理装置としてのRIP装置9を含む印刷処理システム1においては、プリンター7が本発明の「印刷装置」として機能する。
また、上記実施形態におけるプリンター7の機能を維持するための保守方法では、RIP装置9およびプリンター7がそれぞれ本発明の「ジョブ送出装置」および「印刷装置」として機能している。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したものに対して種々の変更を加えることが可能である。例えば上記実施形態の印刷処理システム1は、画像データを生成するPC6、プリンター7を監視する管理サーバー8およびRIP装置9がそれぞれ異なるコンピューター装置により実現されている。しかしながら、前述のようにこれらのハードウェア構成は基本的に同一であり、処理能力の許す範囲において、これらが1つのコンピューター装置に統合されてもよい。
例えば、RIP装置9が管理サーバー8の機能を兼ねるものであってもよく、この場合管理サーバー8は必須のものではない。また、PC6がRIP装置9としての機能を兼ねるものであってもよく、この場合RIP装置9としての専用コンピューターは必須のものではなくなる。さらに、1台のコンピューター装置がこれら全ての機能を兼ねてもよい。この意味において、それぞれ1台ずつのコンピューター(ジョブ送出装置)およびプリンター(印刷装置)が相互に接続された印刷処理システムにより、本発明の技術思想を実現することが可能である。
また例えば、上記実施形態では、本発明の「実行情報」であるタイマー情報がプリンター7により計時・保存されている。これに限定されず、例えばプリンター7を常時監視する管理サーバー8が、前回の保守処理からの経過時間を計測するように構成されてもよい。また、上記実施形態では前回の保守処理からの経過時間がタイマー情報として用いられているが、例えば次回の保守処理までの残り時間が減算カウントされる構成であってももちろん構わない。
また例えば、上記実施形態では、RIP装置9が本発明の「ジョブ送出部」、「ジョブ送出装置」としてプリンター7に印刷ジョブや保守ジョブを送出するが、管理サーバー8を「ジョブ送出部」または「ジョブ送出装置」として機能させることも可能である。すなわち、ジョブリストが管理サーバー8に設けられ、RIP装置9により作成されたジョブデータが管理サーバー8上のジョブリストに登録されて管理サーバー8から順次プリンター7に送出される構成であってもよい。特にシステム内に複数のRIP装置9が設けられる場合、それらが生成するジョブデータを管理サーバー8が一括して管理することで、ジョブおよびプリンター7の管理をより円滑に行うことが可能となる。
また例えば、上記実施形態では、前回の保守処理からの経過時間が本発明の「実行情報」として用いられている。これにより一定周期での保守処理が可能となるが、これ以外にも、保守処理の適切な実行時期を特定し得る各種の情報を「実行情報」とすることが可能である。例えば、プリンター7での印刷処理に伴って更新される各種の稼働情報を、本発明の「実行情報」として保守処理の実行時期を決定することができる。例えば印刷ページ数が所定値に達したとき、装置の内部温度が所定の温度範囲になったときなどに、保守処理が実行されるようにしてもよい。また、複数種の実行情報から総合的に保守処理の要否が判断されてもよい。
また例えば、上記実施形態では、ユーザーによる編集操作によってジョブリストにおけるジョブの順序を変更することができる。これに代えて、あるいはこれに加えて、RIP装置9が各印刷ジョブの所要時間に応じて印刷ジョブの順番を自動的に組み替える機能を有していてもよい。このような構成では、例えば印刷ジョブの順番を適切に入れ替えることで、実行期限を超過せず、かつ実行期限にできるだけ近いタイミングで保守処理が実行されるような処理順を実現することも可能になる。
また、上記実施形態では、ユーザーによるジョブ順序の編集操作が保守処理の実行期限を超過するようなものである場合、ユーザーに確認した上でそのような設定を有効としている。これに代えて、保守処理の実行期限を超過するような編集を禁止するように構成されてもよい。なお、ジョブリストの編集機能のない印刷処理システムにおいても、本発明の技術思想は有効である。
また、上記実施形態では保守処理の代表的なものとして、インク詰まりを防止するためのクリーニング処理やインク流路の詰まりを防止するための撹拌として説明した。これ以外にも、例えば印刷物の色ずれを補正するキャリブレーションや、用紙の搬送誤差の補正など、時間の経過とともに印刷装置の機能を維持するために必要となる各種の動作を、保守処理として実行することができる。この場合、複数の動作を1つの保守ジョブにまとめてもよく、また各動作が個別に実施されるにようにしてもよい。