JP6646709B2 - マイクロ波加熱蒸留法を用いた果実および/または果皮スピリッツの製造方法 - Google Patents
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これらの蒸留酒に果実や野菜由来のフレッシュでみずみずしい芳香を持たせるために従来から種々の工夫がなされては来たが、これらのアルコール飲料はいずれも柑橘類などの特有の香味を有するものの、搾りたてのような新鮮な柑橘類などの香味に関しては十分でなく、近年ますます多様化し高級化する消費者のニーズを必ずしも満足させ得るものではなかった。
例えば、特許文献1では、柑橘類の果皮を大まかに破砕してアルコールに浸漬した後、減圧蒸留して柑橘系の香り豊かなスピリッツ原酒を得ていたが、果実・果皮の香気(油分)が十分には取れなかったし、浸漬後の果皮は廃棄していた。
特許文献4の風味呈味改善剤(香料)は、飲料、ゼリー、アイスクリーム、その他食品に添加することによりナチュラルな風味及び呈味改善効果を発揮するが、例えば、酒類に使用する際には、(1)冷蔵、冷凍にて保存する必要がある、(2)エキス分と精油分を別々に使用しなくてはならないなどの問題点があった。
糖質ゼロの果汁含有アルコール飲料ではなかったし、糖類とともにクエン酸やリンゴ酸などの酸味料を配合した酒類では、香気成分が分解しやすいpH3以下の酸性領域となり、配合された柑橘類由来の天然香気成分の劣化が進みやすく、しばしば、飲用に供される前に風味が失われるという問題点があった。
さらにまた、食品製造工程中で一般に行われている加熱殺菌工程によって、柑橘類由来の天然香気成分の劣化は加速度的に進み、天然の香気成分に特徴的な爽やかな風味が失われるという問題点があった。
すなわち、本発明の目的は、少し物足りない香味と呈味の原酒Aとをブレンドして果実および/または果皮特有の香味豊かでバランスの良い呈味性を示す原酒ABすることもできる、マイクロ波加熱蒸留法を用いた果実および/または果皮の香味を強く感じ、強い呈味性を示す原酒Bを製造する方法を提供することにある。
(1)アルコールと果物の果皮付きの果実および/または果皮を混合して、果物の果皮付きの果実および/または果皮にアルコールを浸漬する浸漬工程、その浸漬工程の後に浸漬液と浸漬後の果物の果皮付きの果実および/または果皮とを固液分離する固液分離工程、前記固液分離工程の後に、固液分離された浸漬後の果物の果皮付きの果実および/または果皮をマイクロ波蒸留する蒸留工程を有することを特徴とする、果物の果皮付きの果実および/または果皮特有の芳香と香味を強く感じ、強い呈味性を示すスピリッツ原酒を製造する方法。
(2)前記スピリッツ原酒が、前記固液分離工程で分離された浸漬液を減圧蒸留して得られる、果物の果皮付きの果実および/または果皮の少し物足りない香味と呈味の果実系スピリッツ原酒とブレンドするためのものである、上記(1)に記載の果物の果皮付きの果実および/または果皮特有の芳香と香味を強く感じ、強い呈味性を示すスピリッツ原酒を製造する方法。
(3)前記スピリッツ原酒が、アルコール濃度が20〜90v/v%であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の果物の果皮付きの果実および/または果皮特有の芳香と香味を強く感じ、強い呈味性を示すスピリッツ原酒を製造する方法。
(4)果物の果皮付きの果実および/または果皮は、柑橘類、リンゴ、ブドウからなる群から選ばれる果物の果皮付きの果実および/または果皮である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の果物の果皮付きの果実および/または果皮特有の芳香と香味を強く感じ、強い呈味性を示すスピリッツ原酒を製造する方法。
果皮を取り除いた後の浸漬液は減圧蒸留して柑橘系の香り豊かなスピリッツ原酒Aを得る。このスピリッツ原酒Aは、柑橘類果皮特有の少し物足りない香味と呈味を有するものであり、これは上記のスピリッツ原酒Bとのブレンド用として用いる。このブレンドにより、柑橘類果皮特有の香味豊かでバランスの良い呈味性を示すスピリッツ原酒ABを得ることができる。
マイクロ波加熱蒸留法では、原料としての浸漬後の果実および/または果皮をマイクロ波蒸留装置に投入して密封する。その後、真空ポンプを使用してマイクロ波蒸留装置内の圧力を50mmHgまで減圧して保持する。その後、1.2kw×4のマイクロ波にて電磁波を原料に照射して加熱することによって、原料を沸騰させて蒸留を行い、浸漬後の果実および/または果皮の芳香成分が含まれた蒸気を取り出す。なお、マイクロ波蒸留装置は減圧によって、マイクロ波蒸留装置内は40℃程度で沸騰することとなる。マイクロ波蒸留装置の減圧状態の程度は特に制限はないが、2kPa〜14kPa(20mmHg〜110mmHg)の減圧下に保持することにより蒸留を効率よく行うことができる。
取り出された蒸気は、凝縮されて、再び液化され、所定の容器に貯留される。具体的には、蒸気を−5℃で冷却することによって再び液化し、1〜2時間程度で原料から浸漬液を減圧蒸留して得たスピリッツ原酒とは異なる果実および/または果皮特有の芳香と香味を強く感じ、強い呈味性を示すスピリッツ原酒を得ることができる。
減圧蒸留する浸漬液のアルコール濃度も特には規定されないが、好ましくは20〜60%、特に好ましくは50〜60%になるように水を添加して調製するとよい。減圧蒸留は公知の蒸留器を用いて、公知の方法で行えばよい。具体的には、減圧度660mmHgから10mmHgでの蒸留が好適に用いられ、260mmHgから20mmHgの減圧度での蒸留が特に好適に用いられる。蒸留釜内容液温70℃以下で本溜液が得られるように蒸留を行うのが好ましい。減圧蒸留を行うことにより、浸漬液に付与されていた生の果実や野菜由来のフレッシュでみずみずしい芳香成分が変質することなく濃縮され、さらに高沸点な雑臭が除去される。
マイクロ波加熱蒸留法により得られた本留液とブレンドするための、浸漬液の減圧蒸留法により得られた本留液も、再度減圧蒸留して所望する芳香成分を濃縮してもよい。さらにまた、得られた本留液に、再度生の果実や野菜類を浸漬し、減圧蒸留してもよい。
実施例で用いたマイクロ波加熱蒸留法とは、固体/液体兼用減圧蒸留装置SVD型(株式会社横山エンジニアリング)の密閉タンク内のトレイにアルコールを浸漬した果実・果皮を収容し、熱源としてマイクロ波(電磁波)を用いて真空条件下で蒸留を行う方法である(図11)。なお、減圧蒸留装置はこれに限定されるわけではない。
果実・果皮をマイクロ波によって内部から加熱すると、激しい分子振動を受けて温度が上昇する。すると、果実・果皮に含まれる水分やアルコール分、香気成分(油分)が果実・果皮の表面側へ移行して蒸発する。それを冷却することで、高い濃度のアルコール分、香気成分(油分)を回収することができる。
製造フローと結果
従来の製造方法と新規手法の製造フローを図1および2に示す。試験ではレモン果皮を原料に製造を行った。浸漬に使用した果皮は、本試験では図3の写真に示されたような果皮を用いる。レモンはスライサーにより短冊加工したものも過去行っている。その場合は浸漬時間を2日とすることで本試験と同等の物を得ることができる。
みかん果皮は手剥きしたものをそのまま使用し3日間浸漬。
ゆず果皮はミンチ機にてダイス加工したものを1日浸漬。
どの果皮でも細かく加工するほど浸漬に必要な時間は短くなることを確認済みである。
アルコール(酒類)と果皮(レモン果皮)を混合後、果皮にアルコールを浸漬し、その後で浸漬液と浸漬後の果皮に分離し、浸漬液を減圧蒸留して果皮スピリッツを得る。
レモンの果皮(ベルト式搾取汁機で搾汁、内皮除去後の果皮)100kgを、アルコール分57.7%の酒類263リットルと混合し、3日間果皮に酒類を浸漬し、その後で浸漬液と浸漬後の果皮に固液分離し、分離した浸漬液のみを減圧蒸留装置の蒸留槽内に投入し、蒸留槽内の圧力を約20kPaの減圧条件下に保持し(蒸気温度は約67℃)、1時間蒸留した。得られた蒸留物から約166Lの果皮スピリッツを採取した。
アルコール(酒類)と果皮(レモン果皮)を混合後、果皮にアルコールを浸漬し、その後で浸漬液と浸漬後の果皮に分離し、浸漬後の果皮をマイクロ波蒸留し、浸漬液を減圧蒸留して得た果皮スピリッツとは異なる芳香と強い呈味性を有する新規果皮スピリッツを得る。
レモンの果皮(ベルト式搾取汁機で搾汁、内皮除去後の果皮)100kgを、アルコール分57.7%の酒類263リットルと混合し、3日間果皮に酒類を浸漬し、その後で浸漬液と浸漬後の果皮に固液分離し、分離した浸漬後の果皮のみをマイクロ波加熱蒸留装置の蒸留槽内に投入し、20mmHgの真空度で2時間マイクロ波を照射した。得られた蒸留物から41Lの新規果皮スピリッツを採取した。
各原酒のレモンの特徴的な香気(油分)であるD-Limonene濃度を表2に示す。新規手法では従来法ではレモンの特徴的な香気(油分)を約3倍回収できることが分かった。
新規法と従来法の酒質はすべてのパネルで違いを認識できており、評価も新規法の物が高かった。新規法はD-Limonene濃度が高いためか、油分を嫌うパネルもいたものの、香りの強さや呈味を感じるパネルが多く、よりレモンらしいとしたパネルが14/17と多数を占めた。
カボス、みかん、ゆずを用いて上記[試験方法]と同様の方法でスピリッツを製造した結果を表4に示す。
どのスピリッツも原料の香味特徴を強く有する酒質であることが確認できた。
アルコールを浸漬した果皮を新技術(マイクロ波加熱蒸留)を用いて蒸留することで、従来法に比べてより原料の特徴香味を強く感じるスピリッツを製造することができることが確認できた。製造されたスピリッツは香料を使用していないので、香料表示が不要である。
貯蔵開始時と貯蔵3ヶ月で、表5の一般分析では顕著な差は確認されず、表6の香気成分でも低沸点、中高沸点、フェノールに大きな差は確認されなかった。
表7の官能検査においてもマイナスの評価もなく、3点識別で有意な差も確認されなかった(有意差なし)。
[官能検査結果報告]
従来法によるスピリッツA、新規法によるスピリッツ原酒B、スピリッツ原酒Aとスピリッツ原酒Bとをブレンドしたスピリッツ原酒ABの酒質を評価するために官能検査を行った。官能検査結果を表8に示す。
自社基準を合格したパネリストが個別のサンプルの香、味、総合を1点、2点、3点で評価した。評点は数値が少ないほど良好である。
官能検査の後に、スピリッツ原酒ABとスピリッツ原酒A、スピリッツ原酒ABとスピリッツ原酒Bの酒質を比較し、その差の有無と寸評を確認した。スピリッツ原酒Aとスピリッツ原酒ABの酒質比較を表9、スピリッツ原酒Bとスピリッツ原酒ABの酒質比較を表10に示す。その結果、スピリッツ原酒ABの評点が最もよく、バランスの良い酒である事が確認できた。
なお、参考値として、各スピリッツ原酒のアルコール回収率(%)を表11に示す。
Claims (4)
- アルコールと果物の果皮付きの果実および/または果皮を混合して、果物の果皮付きの果実および/または果皮にアルコールを浸漬する浸漬工程、その浸漬工程の後に浸漬液と浸漬後の果物の果皮付きの果実および/または果皮とを固液分離する固液分離工程、前記固液分離工程の後に、固液分離された浸漬後の果物の果皮付きの果実および/または果皮をマイクロ波蒸留する蒸留工程を有することを特徴とする、果物の果皮付きの果実および/または果皮特有の芳香と香味を強く感じ、強い呈味性を示すスピリッツ原酒を製造する方法。
- 前記スピリッツ原酒が、前記固液分離工程で分離された浸漬液を減圧蒸留して得られる、果物の果皮付きの果実および/または果皮の少し物足りない香味と呈味の果実系スピリッツ原酒とブレンドするためのものである、請求項1に記載の果物の果皮付きの果実および/または果皮特有の芳香と香味を強く感じ、強い呈味性を示すスピリッツ原酒を製造する方法。
- 前記スピリッツ原酒が、アルコール濃度が20〜90v/v%であることを特徴とする請求項1または2に記載の果物の果皮付きの果実および/または果皮特有の芳香と香味を強く感じ、強い呈味性を示すスピリッツ原酒を製造する方法。
- 果物の果皮付きの果実および/または果皮は、柑橘類、リンゴ、ブドウからなる群から選ばれる果物の果皮付きの果実および/または果皮である、請求項1ないし3のいずれかに記載の果物の果皮付きの果実および/または果皮特有の芳香と香味を強く感じ、強い呈味性を示すスピリッツ原酒を製造する方法。
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