JP4302871B2 - 新規な蒸留酒とその製造法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、果実や野菜をアルコールに浸漬し、その浸出液を減圧蒸留することによって製造され、そのまま、あるいは水や炭酸水などで希釈して飲用に供することもでき、また、他の飲食品に芳香を付与する香料として用いたり、リキュールなどのベースアルコールとして用いることもできる、フレッシュな芳香の蒸留酒とその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
蒸留酒にはウイスキー、ブランデー、焼酎、ジン、ウオッカ等があり、それぞれ独自の芳香を持っている。これらの蒸留酒に果実や野菜由来のフレッシュでみずみずしい芳香を持たせるには、市販の香料を添加するのがもっとも容易であり、そのようにして作られたフレーバーウオッカが販売されている。また、アンジェリカやジェニパーベリー、コリアンダー等の芳香の強いハーブ類の植物を乾燥させ、アルコールに浸漬した後に常圧で蒸留して製造するのがジンであるが、乾燥した植物を用いているためにフレッシュ感には乏しい。また、常圧で蒸留するため、加熱に弱い芳香成分は壊れ、加熱臭と言われる2次臭が生成し、不快臭も発生する。さらにまた、オレンジキュラソーのようなリキュールには、乾燥したオレンジや各種の果実の果皮や乾燥ハーブなどをアルコールに浸漬した後に常圧で蒸留して製造するものもあるが、常圧蒸留であるために高沸点の雑味成分が除去されないことの他、加熱臭の発生や加熱によって芳香の一部が変質するという欠点がある。
【0003】
果実や野菜等の芳香成分を利用したものとしては香料がある。近年では、多くの香料は合成法によって製造されているが、天然物から製造するものもある。天然香料の製造法としては、一般に圧搾法、蒸留法、抽出法の3つの方法が知られている。
【0004】
圧搾法は、柑橘類の果皮のように比較的含油量の多い原材料から精油を採取するのに適した方法であり、一般に機械で原材料を圧搾し、浸出してきた芳香成分を集めるという方法が取られている。
【0005】
蒸留法で、もっとも広く用いられている方法は、水蒸気蒸留法である。これは、蒸留釜に原材料を投入し、底部から水蒸気を吹き込んで蒸留する方法である。ほとんどの精油はこの方法で採取されているが、原材料が加熱されるので、熱による芳香成分の変質を避けることができない。
【0006】
抽出法は、特にローズやジャスミン等の花から芳香成分を精製する場合に適している。一般に、原材料を裁断した後、揮発性及び不揮発性溶剤に浸漬して芳香成分を抽出する。溶剤としてエタノール等のアルコールを用いることもあるが、石油エーテルやヘキサン、ベンゼン等の揮発性有機溶媒を用いることが多く、食品への応用には問題が多い。
【0007】
しかし、これらの方法で採取した香料を飲料に添加した場合には、香料添加の表示をする必要がある。さらに、このようにして得られた香料を添加し飲料を製造すると、ほとんどの場合、人工的で不自然な風味になる。香料を添加しないで、容易に果実や野菜由来のフレッシュな芳香を付与できる方法が求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、生の果実や野菜由来のフレッシュな芳香を持つ蒸留酒とその製造法を提供しようとするものである。また、香料を添加しないで、容易に果実や野菜由来のフレッシュな芳香を付与することができ、香料と同じように用いることができる蒸留酒とその製造法を提供しようとするものである。
【0009】
【問題を解決するための手段】
即ち、本発明者らは、柑橘類またはリンゴの生の果実の皮を適度な濃度のアルコール水溶液に浸漬し、得られたアルコール抽出液を適度な減圧度で減圧蒸留して蒸留液を集めれば、果実の皮が持っていたみずみずしくフレッシュな芳香が失われず、しかも加熱による2次的な芳香の発生もないということを見出し、本発明を完成するにいたった。したがって、本発明によれば、生の果実の皮の持つフレッシュでみずみずしい芳香と自然な風味を持ち、香料の代わりやリキュールのベースとしても用いることができる新しい蒸留酒とその製造法が提供される。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明においては、任意の芳香を持つ果実や野菜等の生の植物体を原材料として好適に用いることができる。果実としては、みかん、オレンジ、レモン、夏みかん、ゆず、すだち、カボス、グレープフルーツ等の柑橘類や、リンゴ、なし、モモ、ブドウ、キウイ、バナナ、メロン、すいか等をあげることができる。また、野菜類としては、トマト、ピーマン、セロリ等の他、セージ、シナモン、ラベンダー、パセリ、ローズマリー、ショウガ、ペッパー、ペパーミント等の香辛野菜類をあげることができるが、特に香辛野菜類を好適に用いることができる。
【0011】
これらの果実や野菜類は、乾燥させず生のまま用いる。果実や野菜は、乾燥によって本来持っていたみずみずしい風味を失う。生のまま用いるのであれば、冷蔵保存あるいは冷凍凍結したものでもよい。一般には果実や野菜類は裁断して、アルコールで芳香成分が抽出されやすいようにして用いるが、丸のまま用いてもよい。また、果実や野菜を、洗浄した後、そのまま、又は亜硫酸やビタミンC等の酸化防止剤を添加しながら破砕、圧搾し、果汁あるいは野菜汁を得、遠心分離、ろ過等により清澄化するか、あるいは混濁したまま用いてもよい。さらに得られた果汁や野菜汁を適宜、公知の手法により濃縮してもよい。また、果汁あるいは野菜汁を搾汁した後の搾り粕も、好適に用いることができる。搾り粕は、圧搾した際の粕、搾汁した際のろ過残、遠心後の固形分等どれも好適に用いることができる。
【0012】
複数の果実や野菜類を1回の抽出に用いてもよい。特に野菜類は、それだけでは、独特の青臭さを強く感じさせるものも多いので、果実類と混合して抽出してもよい。また、リンゴとレモン、モモとオレンジのように複数の果実を同時に抽出してもよい。
【0013】
果実類の芳香成分の多くは果皮とその近傍の果肉に多く存在しているので、生の果皮を原材料として用いることもできる。果皮はそれだけで用いてもよいが、果肉と混合して用いてもよい。果実の果皮、特に柑橘系の果実の果皮は、フレッシュな芳香と同時にナリンギンやリモノイド等の苦味成分を大量に含んでおり、アルコールで抽出しただけでは苦味が強すぎて飲用には適さない。ところが、これらの苦味成分のほとんどは本発明の条件下での減圧蒸留では留出してこないので、程よい苦さを持った特徴的な蒸留酒が得られる。果皮の添加量を調節することによって製造する蒸留酒の苦味度を調節することができる。
【0014】
生の果実や野菜類はアルコールに浸漬して芳香成分を抽出する。抽出に用いるアルコールは、純粋な原料用アルコールが好適に用いられるが、アルコールを含んだ酒類も好適に用いることができる。そのような酒類としては、ウイスキー、ブランデー、焼酎、ジン、ウオッカ等をあげることができる。アルコール濃度も特に規定されないが、好ましくは20%から100%が用いられ、さらに好ましくは40%から100%濃度が用いられる。一般に芳香成分の多〈はアルコールによく溶けるので、アルコール濃度が高いほど短時間に抽出が終了するが、低いアルコール濃度でよく抽出される成分もあるので、アルコール濃度によって抽出される芳香成分も変わってくる。したがって、所望の芳香成分が抽出されやすい濃度を選べばよい。
【0015】
生の果実や野菜類の添加量も原材料の持つ芳香成分の量やどのような蒸留酒を所望するかによって異なるため一定ではない。一般には、アルコール量の10%から50%(W/V)添加すればよい。少ない添加量であれば、芳香の少ない蒸留酒が得られ、逆に大量の添加量であれば、芳香の多い蒸留酒が得られるが、芳香成分の抽出効率が低下する。抽出条件も特に規定されないが、室温で1日から数日抽出すればよい。抽出温度は、好ましくは5℃からアルコール抽出液の気化温度まで、特に好ましくは室温から60℃までの温度が用いられる。加温して抽出を行えば短時間で抽出が終了して有利であるが、温度が高すぎると加熱による芳香成分の変質が起こることがある。また、生の原材料をアルコールと混合して破砕し、浸漬あるいはそのまま圧搾することによって抽出効率をあげてやることもできる。
【0016】
抽出が終了したアルコール抽出液はそのまま、あるいはろ過、遠心処理等によって固形分を除去した後に減圧蒸留する。減圧蒸留するアルコール抽出液のアルコール濃度も特には規定されないが、好ましくは20〜60%、特に好ましくは30〜40%になるように水を添加して調製するとよい。減圧蒸留は公知の蒸留器を用いて、公知の方法で行えばよい。具体的には、減圧度−100mmHgから−750mmHgでの蒸留が好適に用いられ、−500mmHgから−700mmHgの減圧度での蒸留が特に好適に用いられる。蒸留釜内容液温70℃以下で本溜液が得られるように蒸留を行うのが好ましい。減圧蒸留を行うことにより、アルコール抽出液に付与されていた生の果実や野菜由来のフレッシュでみずみずしい芳香成分が変質することなく濃縮され、さらに高沸点な雑臭が除去される。
【0017】
本留液のアルコール濃度も特に限定されない。一般に、蒸留酒の製造においては、蒸留の開始直後に留出してくる液を前留液、蒸留の終了間近の留出液を余留液と呼び、本留液とは除外する。本発明においては、このように前留液や余留液を区別して蒸留してもよいが、アルコールを含有する全ての留出液を本留としてもよい。余留液は高沸点物質に富んでいるので、余留液を除いた本留液は特に雑味の少ないものとなる。
【0018】
このようにして得られた本留液はこのまま、あるいは水又はアルコールで希釈して飲用に供してもよい。砂糖や液糖、酸味料等を添加し、味を調整して飲用に用いてもよい。また、再度減圧蒸留して所望する芳香成分を濃縮してもよい。さらにまた、得られた本留液に、再度生の果実や野菜類を浸漬し、減圧蒸留してもよい。
【0019】
本留液は、香料と同じように香り付け材料として用いることもできる。具体例としては、チューハイなどのアルコール飲料、炭酸飲料、果実飲料、乳酸菌飲料、紅茶等の飲料の他、アイスクリーム、ケーキ、飴、ガム、菓子、パン等の食品への使用をあげることができる。本留液の使用量については特段の制限はないが、付与する芳香の程度と嗜好性によって決定される。
【0020】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0021】
〔実施例1〕
生のレモンの果皮150gを95%アルコール400mlに浸漬し、室温で24時間抽出した。抽出後のレモンの果皮は脱水されて硬くなっているので、容易に取り除くことができる。得られたアルコール抽出液に600mlの水を添加してから、減圧度700mmHgで減圧蒸留した。アルコール%が70%になるように本留液を集めたところ、蒸留釜内容液の温度は最高でも50℃までしか上昇しなかった。本留液はさらに、65%アルコール濃度になるように水で希釈したところ、レモンの芳香を持ち、その上独特の苦味を適度に持った蒸留酒が完成した。
【0022】
〔実施例2〕
生生姜150gを1mm角に裁断したのち、95%アルコール400mlに浸漬し、室温で48時間抽出した。抽出後の生生姜をフィルターでろ過して取り除き、得られたアルコール抽出液に600mlの水を添加してから、減圧度700mmHgで減圧蒸留した。アルコール%が68%になるように本留液を集めたところ、蒸留釜内容液の温度は最高でも50℃までしか上昇しなかった。本留液はさらに、60%アルコール濃度になるように水で希釈したところ、生姜の風味を持ち、雑味の少ない蒸留酒が完成した。
【0023】
〔実施例3〕
グレープフルーツを丸ごとプロセッサーで破砕し、果皮や果肉の混濁液を作成した。この混濁液100gを40%アルコール1000mlに浸漬し、室温で72時間抽出した。抽出液をそのまま蒸留釜に入れて、減圧度700mmHgで減圧蒸留した。アルコール濃度が70%になるように本留液を集めた後、60%アルコール濃度になるように水で希釈し、蒸留酒を作成した。製造した蒸留酒は、まるで生のグレープフルーツを食べているかのようなフレッシュな芳香を持ち、グレープフルーツ独特の苦味を適度に持っているこれまでにない蒸留酒であった。
【0024】
〔実施例4〕
ふじリンゴを500ppmのビタミンCの存在下、果皮ごとジューサーで破砕すると果汁を得ることができるが、ここでは果汁を絞った後の果皮や種子等の残渣を利用する。得られたリンゴ残渣150gを60%のアルコール600mlに浸漬し、室温で48時間抽出した。抽出後のリンゴ残渣をろ過によって取り除き、得られたアルコール抽出液に400mlの水を添加してから、減圧度700mmHgで減圧蒸留した。アルコール濃度が70%になるように本留液を集め、60%アルコール濃度になるように水で希釈したところ、生のリンゴのような酸味とリンゴのみずみずしい芳香を持った蒸留酒が完成した。
【0025】
〔実施例5〕
前述の実施例1〜3で製造した蒸留酒を香料として用いて、表1に示したレシピでリキュールを製造し、それらの官能検査を7名の専門パネラーを用いて5点法で行った。官能検査では、点数の高い標品が良い評価を受けたことになる。尚、参考として本発明で得られた蒸留酒の代わりに市販の香料を用いたリキュールも製造し、宮能検査に供した。結果は表1に示した。
【0026】
【表1】
【0027】
実施例1〜3で製造した蒸留酒を芳香源として用いて製造したリキュールは、どれも市販の香料を用いて製造したリキュールよりも高い評価を受けた。特に、より自然な風味が得られ、味覚の面で香料よりも優れていることが明らかになった。尚、このようにして製造されたリキュールは香料を使用していないので、香料表示が不要である。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、果実や野菜由来のフレッシュな芳香を持ち、そのまま飲むこともできるが、香料の代わりにも用いたり、リキュールのベースとしても用いることができる新しい蒸留酒とその製造法が提供される。
Claims (2)
- 柑橘類またはリンゴの生の果実の皮をアルコールに浸漬し、減圧蒸留して得られることを特徴とする蒸留酒。
- 柑橘類またはリンゴの生の果実の皮をアルコールに浸漬し、減圧蒸留することを特徴とする蒸留酒の製造法。
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