本発明の製造方法とは、一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド化合物の製造方法であって、一般式(2)で表される化合物と、一般式(2)で表される化合物1molに対して、化学量論量で1当量以上、3当量以下の一般式(3):NH4F(HF)p(一般式(3)中、pは0〜10の整数を表す)で表される化合物とを、一般式(2)で表される化合物の0〜4質量倍の溶媒の存在下で反応させるところに特徴を有している。
(一般式(1)中、R1はF、又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表し、Cat1+はR2R3R4R5N+で表される1価のカチオンを表し、一般式(2)中、Cat2+は水素イオン又はR2R3R4R5N+で表される1価のカチオンを表し、R2〜R5は同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、R6はハロゲン、又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表し、pは0〜10の整数を表す。)
本発明者らは、より安価で、効率のよいフルオロスルホニルイミド化合物の製造方法を提供すべく検討を重ねていたところ、クロロスルホニルイミド化合物(一般式(2)で表される化合物)の濃度が高い状態でフッ素化剤と反応させれば、より少ないフッ素化剤の量でも高い転化率でフルオロスルホニルイミド化合物が得られることを見出して本発明を完成した。
本発明法により高転化率でフルオロスルホニルイミド化合物が得られる詳細な理由は明らかではないが、本発明者らは以下のように考えている。第一に、使用する溶媒量を減じて反応溶液における溶質濃度を高めることでクロロスルホニルイミド化合物(一般式(2)で表される化合物)と、フッ素化剤(一般式(3)で表される化合物)より発生するHFとの接触頻度が高められ、その結果クロロスルホニルイミド化合物からフルオロスルホニルイミド化合物への転化率が向上することが考えられる。
第二に、使用する溶媒量を減じることで、反応により副生するHClを系外(反応溶液外)に排除する効果が高まることが考えられる。すなわち、HFよりも酸性度の高いHClが反応系内に過剰に存在する場合には、出発原料として使用するフッ素化剤(NH4F(HF)p)と副生したHClとの間で塩交換反応(NH4F(HF)p+HCl→NH4Cl+(p+1)HF)が生じ、反応に関与する前にHFが系外へと流出してしまう可能性が高まる。しかしながら、沸点の極めて低いHCl(沸点:−85℃)は溶媒等の媒体が存在しなければ反応系内に留まる事ができず直ちに反応系外へと流出してしまう。したがって、無溶媒下や、反応溶液の溶質濃度を高めた濃厚溶液条件下では反応系内におけるHCl濃度が低くなり上記塩交換反応が生じ難くなるため、フッ素化剤の使用量を減らしても高い転化率でフルオロスルホニルイミド化合物が得られるものと考えられる。
本発明において「フルオロスルホニルイミド」との文言には、フルオロスルホニル基を2つ有するビス(フルオロスルホニル)イミド、フルオロスルホニル基とフルオロアルキルスルホニル基を有するN−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドが含まれる。また、同様に、「クロロスルホニルイミド」との文言には、ビス(クロロスルホニル)イミド、N−(クロロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドが含まれる。以下、本発明の製造方法について説明する。
本発明では一般式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)又はクロロスルホニルイミド化合物(2)と称する場合がある)を出発原料として用いる。
一般式(2)中、R6はハロゲン、炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す。ハロゲンとしてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられる。好ましくはフッ素原子又は塩素原子である。
フルオロアルキル基の炭素数は好ましくは1〜4であり、より好ましくは1〜2である。具体的なフルオロアルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ペルフルオロ−n−プロピル基、フルオロプロピル基、ペルフルオロイソプロピル基、フルオロブチル基、3,3,4,4,4−ペンタフルオロブチル基、ペルフルオロ−n−ブチル基、ペルフルオロイソブチル基、ペルフルオロ−t−ブチル基、ペルフルオロ−sec−ブチル基、フルオロペンチル基、ペルフルオロ−n−ペンチル基、ペルフルオロヘキシル基、ペルフルオロ−n−ヘキシル基、ペンタフルオロイソヘキシル基等が挙げられる。
R6としては、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基が好ましく、より好ましくは塩素原子、トリフルオロメチル基である。
化合物(2)を構成するカチオン:Cat2+は、水素イオン(H+)、又はR2R3R4R5N+である。ここでカチオンR2R3R4R5N+を構成するR2〜R5は、同一又は異なって、水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。アルキル基の炭素数は1〜4であるのが好ましく、より好ましくは1〜2である。アルキル基は、直鎖状、分枝鎖状、環状、又はこれらの内2以上の構造を有するものであってもよい。好ましくは直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基であり、直鎖状のアルキル基がより好ましい。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
一般式:R2R3R4R5N+で表されるカチオンCat2+の具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム類;トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム等の第3級アンモニウム類;ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム等の第2級アンモニウム類;メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム等の第1級アンモニウム類;及びNH4 +で表されるアンモニウム等が挙げられる。
化合物(2)のカチオンCat2+がR2R3R4R5N+である場合には、後述するフッ素化反応の際に化合物(2)から遊離のプロトンが生成しないため、この遊離のプロトンと化合物(3)との反応によるHFの生成をなくすことができる。
化合物(2)には、1種のカチオンCat2+が含まれていてもよく、2種以上のカチオンCat2+が含まれていてもよい。カチオンCat2+は、好ましくは水素イオン、4級アンモニウム類、第3級アンモニウム類、又はアンモニウムであり、より好ましくは水素イオン、テトラエチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、およびアンモニウムであり、より好ましくは水素イオン、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、およびアンモニウムである。特に、カチオンCat2+が、水素イオン、トリエチルアンモニウム、又はアンモニウムである場合にはより高い転化率で反応を進行させることができるので好ましい。またカチオンCat2+が水素イオンである場合は、化合物(2)のカチオン交換反応と、化合物(2)のフッ素化反応との反応を同時に行うことができるため、効率が良く好ましい。
カチオンCat2+がR2R3R4R5N+である化合物(2)は、下記一般式(4)で表されるクロロスルホニルイミド化合物(以下、クロロスルホニルイミド化合物(4)と称する場合がある)とアンモニウム化合物との反応により得られる(カチオン交換反応1)。
(一般式(4)中、R6は一般式(2)と同様、ハロゲン、炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す)
クロロスルホニルイミド化合物(4)は、市販の物を用いてもよく、また従来公知の方法で合成したものであってもよい。なお、クロロスルホニルイミド化合物(4)は、例えば、塩化シアンと無水硫酸との反応により得られたクロロスルホニルイソシアネートと、クロロスルホン酸との反応(ビス(クロロスルホニル)イミドの製法);クロロスルホニルイソシアネートとフッ化アルキルスルホン酸との反応、フッ化アルキルスルホニルイソシアネートとクロロスルホン酸との反応(N−(クロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドの製法);により得られる。
アンモニウム化合物としては、上述した化合物(2)を構成するカチオン:Cat2+(R2R3R4R5N+で表される構造であって、R2〜R5は、同一又は異なって、水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基)に対応するアミン化合物またはそのハロゲン化物を用いることができ、例えば、アンモニア(NH3);エチルアミン、ブチルアミン等の炭素数1〜6のアルキル基を有する第1級アミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン等の炭素数1〜6のアルキル基を有する第2級アミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等の炭素数1〜6のアルキル基を有する第3級アミンといったアミン類;フッ化アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム等のハロゲン化アンモニウム、トリエチルアンモニウムクロリド、トリブチルアンモニウムクロリド等の第3級アンモニウム化合物、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、トリエチルメチルアンモニウムクロリド等の第4級アンモニウム化合物といったアンモニウム塩類;等が挙げられる。好ましくはアンモニア、第4級アミン、ハロゲン化アンモニウム、第3級アンモニウム化合物、第4級アンモニウム化合物であり、より好ましくは、アンモニア、第3級アミン、ハロゲン化アンモニウム、第3級アンモニウム化合物であり、さらに好ましくはアンモニア、トリエチルアミン、塩化アンモニウム、トリエチルアンモニウムクロリドである。
アンモニウム化合物の使用量は、1molのクロロスルホニルイミド化合物(4)に対して1mol〜5molとするのが好ましい。より好ましくは1mol〜2.5molである。
クロロスルホニルイミド化合物(4)とアンモニウム化合物の反応は、無溶媒下で行ってもよく、あるいは後述するクロロスルホニルイミド化合物(2)と化合物(3)との反応に用いられる溶媒下で行ってもよい。クロロスルホニルイミド化合物(4)とアンモニウム化合物の反応に溶媒を使用する場合は、バレロニトリル、イソブチロニトリル、アセトニトリル等の鎖状ニトリル溶媒、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶媒が好ましく、より好ましくはトルエン、アセトニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリルである。
クロロスルホニルイミド化合物(4)とアンモニウム化合物の反応条件は特に限定されず、原料であるクロロスルホニルイミド化合物(4)及びアンモニウム化合物の使用量、反応の進行状態に応じて適宜調整すればよい。たとえば、反応温度は−10℃〜100℃とするのが好ましく、0〜90℃がより好ましく、10℃〜80℃がさらに好ましい。反応時間は例えば10分〜1時間とするのが好ましい。
本発明では、上記一般式(2)で表される化合物と、この化合物(2)1molに対して、化学量論量で1当量以上、3当量以下の一般式(3):NH4F(HF)pで表される化合物(以下、化合物(3)と称する場合がある)を、化合物(2)の0〜4質量倍の溶媒の存在下で反応させる(フッ素化反応)。一般式(3)中、pは0〜10の整数を表す。特にNH4F(p=0)、又はNH4FHF(p=1)が好ましい。
化合物(3)は、1molのクロロスルホニルイミド化合物(2)に対して、化学量論量で1当量〜3当量使用する。好ましくは1当量〜2.5当量であり、より好ましくは1当量〜1.5当量である。化合物(3)の使用量が多すぎると製造コストの増加を招き、さらには化合物(3)が分解してHFが多量に発生する虞があり、一方少なすぎるとフッ素化反応が円滑に進行せず反応が停止してしまう虞がある。本発明によれば、フッ素化剤である化合物(3)を過剰に使用する必要がないため、製造コストの増大を抑制でき、またフッ素化剤に由来する腐食性物質の生成量も低減することができる。
なお、クロロスルホニルイミド化合物(2)は化合物(3)と反応し得る基を1乃至2有する。したがって、フッ素化剤として一般式(3)においてpが0である化合物(すなわち、NH4F)を使用する場合、「化合物(3)の使用量がクロロスルホニルイミド化合物(2)1molに対し、化学量論量で1当量以上、3当量以下」とは、例えばR6がフッ素原子又はフルオロアルキル基のときは化合物(3)と反応し得る官能基は1つであるので、クロロスルホニルイミド化合物(2)1molに対して化合物(3)を1mol〜3molの範囲内で使用することを意味する。この場合、化合物(3)の使用量は、好ましくは1mol〜2.5molであり、より好ましくは1mol〜1.5molである。一方、R6がフッ素原子以外のハロゲン原子である場合は化合物(3)と反応し得る官能基は2つであるので、「化合物(3)の使用量がクロロスルホニルイミド化合物(2)1molに対し、化学量論量で1当量以上、3当量以下」とは、クロロスルホニルイミド化合物(2)1molに対して化合物(3)を2mol〜6molの範囲内で使用することを意味する。化合物(3)の使用量は、好ましくは2mol〜5molであり、より好ましくは2mol〜3molである。なお、一般式(3)においてpが1(すなわちNH4F・HF)を使用する場合は、化合物(3)に含まれるフッ素原子はp=0の時と比較して倍になるので、フッ素化剤である化合物(3)の使用量は上述の範囲の半分にすればよい。化合物(3)の使用量が多すぎると製造コストの増加を招き、さらには化合物(3)が分解してHFが多量に発生する虞があり、一方少なすぎるとフッ素化反応が円滑に進行せず反応が停止してしまう虞がある。一般式(3)においてpが2以上の場合にも同様にして化合物(3)の使用量を調整すればよい。
本発明では、クロロスルホニルイミド化合物(2)の0質量倍(すなわち無溶媒)〜4質量倍の溶媒の存在下で、クロロスルホニルイミド化合物(2)と化合物(3)とを反応させる。溶媒使用量を上記範囲内とすることにより、クロロスルホニルイミド化合物(2)と、化合物(3)より発生するHFとの接触頻度が高まり、また反応により副生するHClが反応系外に排除されやすくなるため、化合物(3)(フッ素化剤)を過剰に使用しなくても高い転化率でフッ素化反応を進行させることができる。
本発明で使用できる溶媒としては、例えば、アセトニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル類;エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソピロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル類;ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、シクロペンチルメチルエーテル等の鎖状又は環状エーテル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン、3−メチルスルホラン等の鎖状又は環状スルホン類;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン等の窒素含有化合物類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物類;が挙げられる。上記反応を円滑に進行させる観点からは、ニトリル類及びカルボン酸エステル類よりなる群から選択される少なくとも1種の溶媒の存在下、又は無溶媒下で反応を行うのが好ましい。溶媒存在下で反応を行う場合は、アセトニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、酢酸エチル、酢酸イソピロピル、及び酢酸ブチルよりなる群から選択される少なくとも1種の溶媒が好ましく、アセトニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリルよりなる群から選択される少なくとも1種の溶媒がより好ましい。
溶媒の量はクロロスルホニルイミド化合物(2)に対して2質量倍以下とするのが好ましく、より好ましくは1質量倍以下であり、さらに好ましくは0.5質量倍以下である。溶媒の使用量が多すぎると製造コストが高くなるため好ましくない。反応の収率、転化率の面からは溶媒の使用量は少なければ少ないほど好ましい。一方、製造上の面からは溶媒を使用することも好ましく、これにより攪拌効率や伝熱効率を上昇でき、その結果反応効率を向上させることができるため好ましい。また出発原料や生成物が固体である場合には、溶媒の使用により反応途中での固体析出を抑制でき、さらに反応容器の劣化を抑える効果も期待できる。この点からは、溶媒の使用量は0.05質量倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量倍以上である。
クロロスルホニルイミド化合物(2)と化合物(3)との反応は、アンモニア、又は直鎖状のアルキル基を有する1〜3級アルキルアミンの存在下で行ってもよい。アンモニア等が反応系内に存在することで、化合物(3)から副生したHFを原料(フッ素化剤)として再生させることができる。これにより、腐食性のHFの反応系外への流出が抑制され、同時に反応溶液中のフッ素化剤濃度の低下も抑制されるため、生成物であるフルオロスルホニルイミドの収率を向上させることができる。特に化合物(2)のカチオンCat2+が水素イオンである場合、フッ素化反応時にカチオン交換反応が起こっても、化合物(2)から生じる遊離のプロトンと、フッ素化反応により生成するClは、アンモニア等と塩を形成するので、HFやHClが生成して反応系外に流出してしまうのを抑制することができる。上記アルキルアミンが有するアルキル基の炭素数としては1〜4であるのが好ましく、より好ましくは1〜2である。直鎖状のアルキル基を有する1〜3級アルキルアミン(以下、単に「アルキルアミン」と称する場合がある)としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンといった炭素数1〜4のアルキル基を有する第1級アルキルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミンといった炭素数1〜4のアルキル基を有する第2級アルキルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンといった炭素数1〜4のアルキル基を有する第3級アルキルアミン等のアルキルアミン類が挙げられる。これらの中でも汎用性や取扱い性の点からは、アンモニア、トリエチルアミン等の3級アルキルアミン、ジエチルアミン等の2級アルキルアミンが好ましく、アンモニア、トリエチルアミンがより好ましく、アンモニアがさらに好ましい。
アンモニア又はアルキルアミン(以下「アンモニア等」と称する場合がある)の反応系内への供給方法は特に限定されない。例えば、アンモニア等が気体の場合には、反応容器内に気体を流通させて反応溶液に溶解させる方法、気体を反応溶液に流通させてバブリングにより反応系内に供給する方法、気体のアンモニア等を予め溶媒に溶解させ溶液(液体)として反応系内に全量を一括で若しくは連続的に、又は全量を数回に分割して断続的に添加する方法;アンモニア又はアルキルアミンが液体(アンモニア等の溶液を含む)である場合は、最初にアンモニア等の全量を他の原料と混合する方法、最初にアンモニア等の溶液の一部を他の原料と混合し、残りを連続フィード添加する方法、又は断続的にパルス添加する方法、或いはこれらを組み合わせた方法;が挙げられる。なおアンモニア又はアルキルアミンが過剰に反応系内に存在すると目的物が分解してしまう虞があるため、アンモニア又はアルキルアミンは連続的、又は全量を数回に分割して断続的に反応系内に添加することが好ましい。具体的には、気体のアンモニア等を反応容器内に流通させる方法、気体のアンモニア等を反応溶液にバブリングする方法、アンモニア等を溶媒に溶解させて反応溶液に滴下する方法、液体のアルキルアミンを反応溶液に滴下する方法のいずれかを採用することが好ましい。なお、アンモニア等の供給は、クロロスルホニルイミド化合物(2)と化合物(3)とを混合した後に開始するのが好ましく、また反応溶液の温度を上昇する前に開始するのがより好ましい。
アンモニア又はアルキルアミンは、クロロスルホニルイミド化合物(2)1molに対して、1mol〜40molの範囲内で使用するのが好ましい。より好ましくは1mol〜25molであり、さらに好ましくは5mol〜20molである。また、反応系内への単位時間当たりのアンモニア又はアルキルアミンの供給量は、原料として使用したクロロスルホニルイミド化合物(2)の総量に対する化学量論量で、0.3当量/時〜10当量/時の範囲内とするのが好ましい。より好ましくは0.3当量/時〜7当量/時であり、さらに好ましくは1当量/時〜6当量/時である。
反応条件は特に限定されず、出発原料である化合物(2)及び化合物(3)の使用量や、反応の進行状況に従って適宜調節すればよい。特定量の溶媒存在下でクロロスルホニルイミド化合物(2)と化合物(3)とを反応させる本発明によれば、より低い反応温度でも高収率でフルオロスルホニルイミド化合物を得ることができる。反応温度としては、例えば20℃以上が好ましく、より好ましくは25℃以上であり、さらに好ましくは40℃以上であり、100℃以下が好ましく、より好ましくは90℃以下であり、さらに好ましくは75℃以下であり、さらに一層好ましくは60℃以下である。本発明によれば、比較的低い温度でも反応を進行させられるので、副生成物であるHFがガスとなって反応系外へ流出してしまうのを抑制することができる。また、反応系内に留まったHFはフッ素化剤として反応に関与するため、フルオロスルホニルイミドへの転化率を向上させることができる。
反応時間は、例えば、19F−NMR等で確認することができる。すなわち、反応の進行によりフッ素に由来するケミカルシフトにピークが出現し、さらに、そのピークの相対強度(積分値)が増大する。したがって、19F−NMRにより反応の進行状態を追跡しながら、フッ素化反応の終了を確認すればよい。なお、反応時間が長すぎる場合には、副生物の生成が顕著となるので、目的物のピークの相対強度が最大となる時点(例えば、反応の開始から0.5時間〜24時間程度)でフッ素化反応を終了するのが好ましい。反応時間は、より好ましくは1時間以上であり、10時間以下であるのがより好ましく、さらに好ましくは6時間以下である。
反応終了後、生成物を単離して精製してもよく、また反応溶液をそのまま他の反応の出発原料として使用してもよい。精製方法は特に限定されず従来公知の精製方法、例えば、再沈殿法、分液抽出法、再結晶法、晶析法及びクロマトグラフィーによる精製法等が採用できる。これらの精製方法は1種を単独で実施してもよく、2種以上を組み合わせて実施してもよい。
上記本発明の製造方法により一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド化合物(オニウム塩)が得られる。一般式(1)中、R1はF、又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表し、Cat1+はR2R3R4R5N+で表される1価のカチオンを表す(化合物(2)の場合と同様)。フルオロアルキル基としてはR6と同様のものが挙げられる。本発明に係るフルオロスルホニルイミド化合物の具体例としては、ビス(フルオロスルホニル)イミドアンモニウム塩、ビス(フルオロスルホニル)イミドトリエチルアンモニウム塩、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアンモニウム塩、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミドトリエチルアンモニウム塩、(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドアンモニウム塩、(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドトリエチルアンモニウム塩等が挙げられる。好ましくは、ビス(フルオロスルホニル)イミドアンモニウム塩、ビス(フルオロスルホニル)イミドトリエチルアンモニウム塩、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアンモニウム塩、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミドトリエチルアンモニウム塩が挙げられる。
一般式(1)で表される上記フルオロスルホニルイミド化合物(1)は、アルカリ金属化合物と反応させることで、アルカリ金属カチオンを有する一般式(5)で表されるフルオロスルホニルイミド化合物(アルカリ金属塩)が得られる(カチオン交換反応2)。
一般式(5)中、R1は一般式(1)と同一であり、Mはアルカリ金属を表す。アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb及びCsが好ましく、より好ましくはLi、Na及びKであり、さらに好ましくはLiである。
化合物(1)と反応させるアルカリ金属化合物としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等の水酸化物;Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3等の炭酸塩;LiHCO3、NaHCO3、KHCO3、RbHCO3、CsHCO3等の炭酸水素化物;LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl等の塩化物;LiF、NaF、KF、RbF、CsF等のフッ化物;MeOLi、EtOLi等のアルコキシド化合物;EtLi、BuLi等のアルキルリチウム化合物;等が挙げられる(Meはメチル基、Etはエチル基、Buはブチル基を示す)。これらの中でもアルカリ金属としてリチウム、ナトリウム又はカリウムを含有する化合物が好ましく、より具体的にはLiOH、NaOH、KOH、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、LiCl、NaCl、KCl、LiF、NaF、KFが好ましく、より好ましくはLiOH、NaOH、KOH、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3であり、さらに好ましくはLiOH、NaOH、KOHである。
上記アルカリ金属化合物は、フルオロスルホニルイミド化合物(1)1molに対して1mol〜10molの範囲で使用するのが好ましい。より好ましくは1mol〜5molであり、さらに好ましくは1mol〜2molである。
フルオロスルホニルイミド化合物(1)と上記アルカリ金属化合物との反応は溶媒の存在下で行うのが好ましい。溶媒としては、クロロスルホニルイミド化合物(2)の合成反応で使用した溶媒又は水が使用できる。上記反応を円滑に進行させる観点からはアセトニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、酢酸エチル、酢酸イソピロピル、酢酸ブチル、又は水が好ましい。溶媒は使用するアルカリ金属化合物に応じて選択すればよい。また溶媒は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
フルオロスルホニルイミド化合物(1)とアルカリ金属化合物との反応条件は特に限定されず、出発原料であるフルオロスルホニルイミド化合物(1)とアルカリ金属化合物の使用量や、反応の進行状況に従って適宜調節すればよい。例えば、反応温度としては0℃〜100℃が好ましく、より好ましくは10℃〜80℃であり、さらに好ましくは15℃〜40℃である。反応時間は0.1時間〜24時間であるのが好ましく、より好ましくは0.3時間〜10時間であり、さらに好ましくは0.5時間〜5時間である。
反応終了後は、純度を高めるべく生成物を精製してもよい。精製方法は特に限定されず従来公知の精製方法、例えば、再沈殿法、分液抽出法、再結晶法、晶析法及びクロマトグラフィーによる精製法等が使用できる。これらの精製方法は1種を単独で実施してもよく、2種以上を組み合わせて実施してもよい。
上記製造方法により得られる一般式(5)で表されるフルオロスルホニルイミド化合物としては、これらに限定されるものではないが、例えば、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、カリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、カリウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、カリウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられ、好ましくはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである。
本発明の製造方法により得られるフルオロスルホニルイミド化合物(1)(オニウム塩)及びフルオロスルホニルイミド化合物(5)(アルカリ金属塩)は、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、電解キャパシタ、電気二重層キャパシタ等の充電/放電機構を有する電池や一次電池等の電池、燃料電池、太陽電池、エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスを構成するイオン伝導体の材料として好適に用いられる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
[NMR測定]
19F−NMRの測定は、Varian社製の「Unity Plus−400」を使用して行った(内部標準物質:トリフルオロメチルベンゼン、溶媒:重アセトニトリル、積算回数:16回)。
なお、フルオロスルホニルイミドの転化率は、19F-NMR測定で得られたチャートにおいて、内部標準物質として加えたトリフルオロメチルベンゼンの量、及びこれに由来するピークの積分値と、目的生成物に由来するピークの積分値との比較から、有機層に含まれる反応生成物であるフルオロスルホニルイミド化合物(1)の粗収量を求め、原料として用いたクロロスルホニルイミド化合物(2)に対する粗収量の割合を転化率とした。
転化率(%)=100×{化合物(1)の粗収量(mol)/化合物(2)の仕込み量(mol)}
比較例1 アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造
攪拌装置を備えた容量100mLのPFA(四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体、以下同様)製反応容器内で、ビス(クロロスルホニル)イミド1.07g(5mmol、化合物(2))とバレロニトリル10mL(8.0g、溶媒)とを混合し、0.5mol/Lのビス(クロロスルホニル)イミド溶液を調製した。化合物(2)に対する溶媒の使用量(溶媒/化合物(2))は7.4(質量比)であった。
次いで、ビス(クロロスルホニル)イミド溶液に酸性フッ化アンモニウムNH4F・HFを0.69g(12mmol)加えた後、反応容器にテフロン(登録商標、以下同様)製冷却器とガラス製連結管を取り付け反応溶液の温度を80℃まで昇温し、この温度で4時間攪拌を続けた。
反応終了後、反応溶液を室温まで冷却してから、反応容器にアセトニトリル10mLを加え、反応溶液を濾過し固形分を除去した。得られた有機層を試料として19F-NMR(溶媒:重アセトニトリル)測定を行った。得られたチャートにおいて、内部標準物質として加えたトリフルオロメチルベンゼンの量、及びこれに由来するピークの積分値と、目的生成物に由来するピークの積分値との比較から、有機層に含まれるアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粗収量を求めた(2.5mmol、転化率50%)。使用した反応容器等を目視で確認したところ、ガラス製連結管のつやが失われており腐食が確認された。反応条件及びフルオロスルホニルイミドの転化率を表1に示す。
19F−NMR(溶媒:重アセトニトリル):δ56.0
実施例1 アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造
溶媒(バレロニトリル)を使用しなかったこと以外は、比較例1と同様にしてアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造を行った。原料の使用量、反応条件及びフルオロスルホニルイミドへの転化率を表1に示す。
実施例2 アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造
攪拌装置を備えた容量100mLのPFA製の反応容器内で、ビス(クロロスルホニル)イミド1.07g(5mmol)と塩化アンモニウム0.294g(5.5mmol、1.1当量)とを混合し、室温(25℃)で0.5時間攪拌した。
次いで、ビス(クロロスルホニル)イミド溶液に酸性フッ化アンモニウムNH4F・HFを0.69g(12mmol)加えた後、反応容器にテフロン製冷却器とガラス製連結管を取り付け反応溶液の温度を80℃まで昇温し、この温度で4時間攪拌を続けた。反応条件及びフルオロスルホニルイミドへの転化率を表1に示す。
実施例3、比較例2、4及び6 アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造
各種条件を表1に示すように変更したこと以外は比較例1と同様にして、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造を行った。原料の使用量、反応条件及びフルオロスルホニルイミドへの転化率を表1に示す。
実施例4〜9、比較例3及び5 アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造
各種条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例2と同様にして、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造を行った。原料の使用量、反応条件及びフルオロスルホニルイミドへの転化率を表1に示す。
実施例10 アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造
攪拌装置を備えた容量100mLのPFA製の反応容器内で、ビス(クロロスルホニル)イミド1.07g(5mmol)とアセトニトリル0.5mLとを混合し、10mol/Lのビス(クロロスルホニル)イミド溶液を調製した。ここに塩化アンモニウム0.27g(5.25mmol、1.05当量)を加えて、室温(25℃)で0.5時間攪拌した。
次いで、この混合溶液に酸性フッ化アンモニウムNH4F・HFを0.34g(6mmol)加えた後、反応容器にテフロン製冷却器とガラス製連結管を取り付け、反応溶液へのアンモニアガスの流通(バブリング)を開始した。反応溶液にアンモニアガスをバブリングさせながら(8.8当量/時間。使用したビス(クロロスルホニル)イミドに対する単位時間当たりの供給量(化学量論量))、反応溶液の温度を60℃まで昇温し、この温度で4時間攪拌を続けた。なお、このとき使用したアンモニアガスの使用量は、ビス(クロロスルホニル)イミドに対して35当量であった。反応終了後、使用した反応容器等を目視で確認したが、ガラス製連結管の腐食は確認できなかった。反応条件及びフルオロスルホニルイミドへの転化率を表1に示す。
比較例7
反応時間を8時間としたこと以外は比較例1と同様にしてアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造を行った。原料の使用量、反応条件及びフルオロスルホニルイミドへの転化率を表1に示す。
表1中「質量比」とは、化合物(2)に対する溶媒の使用量(溶媒/化合物(2))を意味し、略号はそれぞれバレロニトリル(VN)、無溶媒(neat)、アセトニトリル(MeCN)、酢酸ブチル(BuOAc)を意味する。
化合物(2)1molに対して3当量以上の化合物(3)(フッ素化剤)を使用した比較例4〜6では、溶媒使用量を変更しても転化率に顕著な変化は確認されなかったが(比較例4〜6)、化合物(3)の使用量を減じると転化率が顕著に低下した(比較例1)。また化合物(3)の使用量を減じた場合には反応時間を8時間まで延長しても転化率は向上しなかった(比較例7)。しかしながら、溶媒使用量を化合物(2)に対して0〜4質量倍とすることで、化合物(3)の使用量を減じても比較例4〜6と同等以上にまで転化率を向上させられることが分かる(実施例1)。これは、溶媒使用量の多い比較例1では、副生成物であるHClが反応溶液中に留まり、これにより化合物(3)と、HClとの間で塩交換反応が進行し、化合物(3)が消費され、反応系内からHFが流出した結果、転化率が低下したのに対して、実施例1では溶媒使用量を減じたことにより副生成物であるHCl反応系内に留まることができなくなった結果、塩交換反応の進行が抑制され、反応溶液中の化合物(3)量を維持できたため高い転化率が達成できたものと考えられる。転化率の向上効果は、予め化合物(2)のカチオン交換反応を行った場合にも同様に確認できた(実施例2)。なお反応終了後、使用した反応容器等を目視で確認したところ、比較例4〜6では、使用したガラス製連結管のつやが失われており腐食が確認された。
また実施例3〜9と比較例2〜3との比較より、化合物(2)に対する溶媒使用量が4質量倍超の場合には反応温度を低下するとほとんどフッ素化反応が進行しないのに対して(比較例2:5%、比較例3:1%)、化合物(2)に対する溶媒使用量を0〜4質量倍の範囲とすることにより、反応温度を低下しても反応を進行させることができ、高い転化率を維持できることが分かる(実施例3〜9:73%〜94%)。
実施例10の結果より、アンモニアガス気流下で反応を行えば、フッ素化剤量をさらに低減しても転化率を維持できることが分かる。これは、反応系内で発生したHFがNH3(アンモニア)と反応して再びフッ化アンモニウムNH4Fが生成し(NH3+HF→NH4F)、反応系内のNH4F量(フッ素化剤)の低下が抑制されたため、効率的にフッ素化が進行したものと推察される。
実施例11
攪拌装置を備えた容量100mLのPFA製反応容器内で、ビス(クロロスルホニル)イミド1.07g(5mmol、化合物(2))と酢酸プロピル4.0g(溶媒)とを混合し、1.1mol/Lのビス(クロロスルホニル)イミド溶液を調製した。化合物(2)に対する溶媒の使用量(溶媒/化合物(2))は3.7(質量比)であった。
次いで、ビス(クロロスルホニル)イミド溶液に酸性フッ化アンモニウムNH4F・HFを0.69g(12mmol、化合物(3))加えた後、反応容器にテフロン製冷却器とガラス製連結管を取り付け反応溶液の温度を60℃まで昇温し、この温度で4時間攪拌を続けた。
反応終了後、反応溶液を室温まで冷却してから、反応容器にアセトニトリル10mLを加え、反応溶液を濾過し固形分を除去した。得られた有機層を試料として19F-NMR(溶媒:重アセトニトリル)測定を行った。得られたチャートにおいて、内部標準物質として加えたトリフルオロメチルベンゼンの量、及びこれに由来するピークの積分値と、目的生成物に由来するピークの積分値との比較から、有機層に含まれるアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粗収量を求めた(4.35mmol、転化率87%)。反応条件及びフルオロスルホニルイミドの転化率を表2に示す。
19F−NMR(溶媒:重アセトニトリル):δ56.0
実施例12
攪拌装置を備えた容量100mLのPFA製の反応容器内で、ビス(クロロスルホニル)イミド1.07g(5mmol)と酢酸イソプロピル3.0gとを混合し、1.5mol/Lのビス(クロロスルホニル)イミド溶液を調製した。ここに塩化アンモニウム0.294g(5.5mmol、1.1当量)を加えて、室温(25℃)で1時間攪拌した。
次いで、ビス(クロロスルホニル)イミド溶液に酸性フッ化アンモニウムNH4F・HFを0.69g(12mmol)加えた後、反応容器にテフロン製冷却器とガラス製連結管を取り付け反応溶液の温度を80℃まで昇温し、この温度で4時間攪拌を続けた。反応条件及びフルオロスルホニルイミドへの転化率を表2に示す。
19F−NMR(溶媒:重アセトニトリル):δ56.0
実施例13、15及び17
各種条件を表2に示すように変更したこと以外は実施例11と同様にして、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造を行った。原料の使用量、反応条件及びフルオロスルホニルイミドへの転化率を表2に示す。
実施例14、16及び18
各種条件を表2に示すように変更したこと以外は実施例12と同様にして、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの製造を行った。原料の使用量、反応条件及びフルオロスルホニルイミドへの転化率を表2に示す。
表2中、「質量比」とは、化合物(2)に対する溶媒の使用量(溶媒/化合物(2))を意味し、略号は酢酸イソプロピル(iPrOAc)、酢酸ブチル(BuOAc)を意味する。
表1、及び表2の結果より、化合物(2)の0〜4質量倍の溶媒を使用する場合には、温度や、カチオン交換反応の有無といった条件を変更しても高い転化率で生成物が得られることが分かる。