JP6645012B2 - 蒸着材料 - Google Patents

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本発明は、被蒸着物の上に光学薄膜を形成するための蒸着材料であって、特に酸化ジルコニウムを含む光学薄膜を形成するための蒸着材料に関する。
光学薄膜は、光の干渉現象を利用し、反射防止や特定の波長のみを透過させるバンドパスフィルター、ビームスプリッター、増反射膜などとして、従来から、眼鏡レンズやデジタルカメラレンズ、光ディスクのピックアップレンズといった光を利用する機器に設けられている。これらの機器に加え、最近では自動車に搭載された近赤外域フィルターや、近紫外域フィルターなど、最新のエレクトロニクスには不可欠の材料として広範に使われている。
このような光学薄膜を形成するためには、真空蒸着法やスパッタ法があるが、蒸着材料によって形成される薄膜の成膜速度が速いこと、比較的低コストであること、曲面を含む被蒸着物への比較的均一な成膜が可能といった点から、真空蒸着法が用いられることが多い。
この真空蒸着法における蒸着材料の加熱の方法として、抵抗加熱法や電子線加熱法があるが、低融点材料に限らず高融点材料にも適用でき、蒸着材料によって形成される薄膜の成膜速度を制御しやすいといった点から、電子線加熱法がよく用いられている。
電子線加熱法を用いた真空蒸着法において従来から用いられている蒸着材料として、酸化ジルコニウム(ZrO)をベースとする高屈折材料が一般的に利用されている(特許文献1)。また、ZrOをベースとする薄膜を形成する蒸着材料としては、例えばZrO単独の材料に加え、ZrOに酸化アルミニウム(Al)を加えた材料(特許文献2)や、ZrOに酸化チタン(TiO)を加えたものを混合焼結したもの(特許文献3、4)を用いることが多い。また、酸化ジルコニウムから蒸着中に発生するガスを低減するため、金属タンタル、金属ジルコニウムを加えたもの(特許文献5)も用いられることがある。
特開2002−267801号公報 米国特許第3934961号公報 特開平05−264804号公報 特開平06−041729号公報 特開平06−67001号公報
しかしながら、ZrO単独の材料やZrO-TiO混合焼結物においては、室温から100℃程度の温度で蒸着成膜すると、屈折率が変動するという現象が見受けられる。この現象は、真空蒸着室内に含まれる残留ガス量に依存し、蒸着時に雰囲気ガスを導入して真空蒸着室内の圧力を一定にしたとしても発生する。
屈折率の変動現象が発生すると、屈折率が意図せずに変わってしまうため、多層膜成膜後に、目的とする分光特性を得られないことがある。
被蒸着物となる材料を300℃程度に加熱すると、屈折率の変動幅は小さくなるが、プラスチックレンズのような低融点の材料を被蒸着物とする場合、100℃を超えるような高温で加熱するとプラスチックレンズの形状を維持できないため、必然的に加熱温度が通常100℃未満となる。
加熱温度を100℃未満としても、イオンアシストデポジション(IAD)法により屈折率変動幅の小さい薄膜を成膜できるが、膜密度が上がってしまうため膜応力が引張り方向から圧縮方向に変わってしまう。多層膜の成膜では、交互に膜応力方向の異なる薄膜を成膜することで膜応力を緩和しているため、ZrO系薄膜をIADにより蒸着すると膜剥がれが発生する懸念がある。
屈折率変動幅の小さな材料に置き換えることも可能であるが、例えば、Alでは屈折率がZrOから低下し、高屈折材料として機能しないという問題も考えられる。
そこで、本発明は、屈折率を維持しつつ屈折率変動幅が小さい薄膜を成膜することができる蒸着材料を提供することを目的とする。
以上の目的を達成するために本発明の一形態は、ZrOおよびTaを含み、Ta/ZrOの質量比が2.5以下であることを特徴とする蒸着材料である。
本発明の一形態における蒸着材料によれば、光学薄膜がZrOを基本組成としながらも、真空蒸着室内に含まれる残留ガスに依存する屈折率変動幅を減少でき、屈折率がZrO+TiOと同等である光学薄膜を形成することができる蒸着材料が提供される。
本発明を実施するための最良の形態を以下に説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための蒸着材料を例示するものであって、本発明は蒸着材料を以下に限定するものではない。
(蒸着材料)
本実施形態における蒸着材料は、組成がZrOをベースとする蒸着材料であって、Ta/ZrOの質量比が2.5以下である。屈折率を調整するために、TiO/(ZrO+Ta+TiO)の質量比で0.002以上0.1以下となるTiOを添加することができる。
本実施形態における蒸着材料は、真空蒸着において、組成がZrOをベースとする蒸着材料であっても、真空蒸着室内に含まれる残留ガスに依存する屈折率変動幅を縮小することができる。すなわち、Ta/ZrOの質量比が2.5以下であることで、真空蒸着室内に含まれる残留ガスに依存する屈折率変動幅が縮小する。なおかつ、屈折率もZrO+TiOと同等な光学薄膜を成膜することができる。すなわち、TiOをTiO/(ZrO+Ta+TiO)の質量比が0.002以上0.1以下となるように加えることで、真空蒸着室内に含まれる残留ガスに依存する屈折率変動幅が減少するだけでなく、屈折率もZrO+TiOと同等となる光学薄膜を得ることができる。
(蒸着材料の製造方法)
本実施形態における蒸着材料の製造方法は、蒸着材料の原料となる、ZrO粉末、Ta粉末およびTiO粉末を調整、混合し、プレス成型した。プレス成形した成形体を真空中で焼成し、蒸着材料を得た。Ta粉末は、Ta/ZrOの質量比が2.5以下とする。Ta/ZrOの質量比は、より好ましくは0.8以上2.5以下の範囲であり、さらに好ましくは1.0以上1.5以下の範囲である。質量比の下限は、真空蒸着室内に含まれる残留ガスの影響による屈折率変動幅減少の効果が得られる程度とし、一方、質量比の上限は、2.5より大きくすると、電子線加熱時に焼結体全体が溶融してしまうので、使用済み蒸着材料を安定して排出できなくなる虞がある。
TiO粉末は、TiO/(ZrO+Ta+TiO)の質量比が0.002以上0.1以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは重量比が0.01以上0.07以下の範囲であることが望ましい。重量比が0.002以下では、屈折率を調整するには不十分であり、重量比が0.1以上では屈折率が上がり過ぎるからである。
原料粉末を調製して混合する工程は、ZrO粉末、Ta粉末およびTiO粉末を、所定の比率となるように秤量し、粉体混合機などで混合する。ビニール袋等で凝集物をほぐしながら混合してもよい。粉末が混合したのち、プレス成型して成形体を得る。
この成形体を乾燥した後、真空中で、温度が1500℃以上1800℃以下のもと、1〜10時間の焼成をすることにより蒸着材料を製造する。
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、本発明は以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
(実施例1)
ZrO粉末290.0g、Ta粉末210.0g(Ta/ZrO=0.72)を、1Lナイロンポット内に投入し、ともに投入したナイロンボール(粒径20μm)で凝集物をほぐしながら30分混合し、ポットから取り出した混合物をプレス成形した。この成形体を乾燥した後、真空中1700℃で2時間焼成することにより実施例1の焼結体を作製した。
(実施例2)
ZrO粉末275.0g、Ta粉末225.0g(Ta/ZrO=0.81)、に変更しこと、焼成温度を1800℃に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で焼結体を作製することにより実施例2の焼結体を作製した。
(実施例3)
ZrO粉末200.0g、Ta粉末300.0g(Ta/ZrO=1.5)、に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で焼結体を作製することにより実施例3の焼結体を作製した。
(実施例4)
ZrO粉末150.0g、Ta粉末350.0g(Ta/ZrO=2.33)に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で焼結体を作製することにより実施例4の焼結体を作製した。
(実施例5)
ZrO粉末249.5g、Ta粉末249.5g(Ta/ZrO=1.0)に変更したこと、TiO粉末1.0g(TiO/(ZrO+Ta+TiO)=0.002)を追加したこと以外は実施例1と同じ方法で焼結体を作製することにより実施例5の焼結体を作製した。
(実施例6)
ZrO粉末272.3g、Ta粉末222.7g(Ta/ZrO=0.82)に変更したこと、TiO粉末5.0g(TiO/(ZrO+Ta+TiO)=0.01)を追加したこと、焼成温度を1650℃に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で焼結体を作製することにより実施例6の焼結体を作製した。
(実施例7)
ZrO粉末264.0g、Ta粉末216.0g(Ta/ZrO=0.82)に変更したこと、TiO粉末20.0g(TiO/(ZrO+Ta+TiO)=0.04)を追加したこと、焼成温度を1650℃に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で焼結体を作製することにより実施例7の焼結体を作製した。
(実施例8)
ZrO粉末247.5g、Ta粉末202.5g(Ta/ZrO=0.82)に変更したこと、TiO粉末50.0g(TiO/(ZrO+Ta+TiO)=0.1)を追加したこと、焼成温度を1550℃に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で焼結体を作製することにより実施例8の焼結体を作製した。
(実施例9)
ZrO粉末192.0g、Ta粉末288.0g(Ta/ZrO=1.5)に変更したこと、TiO粉末20.0g(TiO/(ZrO+Ta+TiO)=0.1)を追加したこと、焼成温度を1600℃に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で焼結体を作製することにより実施例9の焼結体を作製した。
(実施例10)
ZrO粉末144.0g、Ta粉末336.0g(Ta/ZrO=2.3)に変更したこと、TiO粉末20.0g(TiO/(ZrO+Ta+TiO)=0.1)に変更したこと、焼成温度を1650℃に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で焼結体を作製することにより実施例10の焼結体を作製した。
(比較例1)
ZrO粉末270.0g、TiO粉末30.0gに変更したこと、焼成温度を1900℃に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で焼結体を作製することにより比較例1の焼結体を作製した。
(比較例2)
ZrO粉末125.0g、Ta粉末375.0g(Ta/ZrO=3.0)に変更したこと、焼成温度を1550℃に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で焼結体を作製することにより比較例2の焼結体を作製した。
(評価)
実施例1〜10及び比較例1、2で作製した焼結体について、電子線加熱方式の蒸着装置を用いて、比較例及び比較例の蒸着評価を行った。被蒸着物の温度を80℃、装置真空度2.0×10−4Paとし、同一材料を1/4λ(制御波長=550nm)ずつ合計10回蒸着し、その最小値を当該材料の屈折率とした。また、最大値と最小値の屈折率差から変動幅を求めた。電子線照射後に、ペレット形状を維持するものを○、溶融などで形状を維持できないものを×とした。
Figure 0006645012
表1からわかるように、実施例1〜10の蒸着材料はいずれも、屈折率変動幅が小さく、真空蒸着室内に含まれる残留ガスの影響を受けにくいことが判る。
屈折率は、実施例5〜10のようにTiOを添加することで容易に調整できる。比較例2のようにTaを重量比Ta/ZrOで3.00以上含むと、焼結体上部が溶融してしまい、使用済み蒸着材料を安定して排出できなくなるため、連続蒸着には不向きである。
本発明は、反射防止膜を有するレンズの製造に蒸着材料として好適に用いることができる。

Claims (3)

  1. ZrO、TaおよびTiOからなり、
    Ta/ZrOの質量比が、0.8以上2.33以下であり、
    TiO/(ZrO+Ta+TiO)の質量比が、0.01以上0.07以下であることを特徴とする蒸着材料。
  2. ペレット形状を有する請求項1に記載の蒸着材料。
  3. 電子線加熱方式により蒸着材料を使って光学薄膜を成膜したとき、その光学薄膜における屈折率の最大値と最小値の差から求めた屈折率変動幅が、0.032未満である請求項1または2に記載の蒸着材料。
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