JP6630687B2 - 内燃機関の制御装置 - Google Patents

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Description

この発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に、内燃機関の冷却損失からピストン温度を予測してピストンを冷却するオイルジェット装置を制御する内燃機関の制御装置に関する。
エンジンのピストンの熱は、シリンダを介してウォータジャケットの冷却水に放熱される。近年、エンジンは体格を小さく抑えつつ高出力であることが求められており、発熱量が多いため放熱をさらに行なう必要がある。
このため、近年のエンジンには潤滑油をピストンの裏側に噴射して冷却するオイルジェットが採用されている。特にピストンの温度が上昇しやすいターボチャージャ付きエンジンや、熱負荷が高いキャビティが形成されている直接筒内噴射式エンジンでは、ピストンにクーリングチャンネルという潤滑油を流し込む円環状の空洞が形成され、オイルジェットの冷却効果が高められている。オイルジェットの実行・停止は、以下のような目的で行なわれる。
まず、オイルジェット実行時の第1の目的は、ピストンを冷却してノッキング抑制することである。ガソリンエンジンでしばしばみられるが、ピストンの温度が上昇しすぎると、燃焼室端部のところで異常燃焼が発生しノッキングが発生する。ノッキングによってエンジンが破壊されるのを防ぐため、ノッキングを抑制する必要がある。
第2の目的は、ピストンクーリングチャンネル内のデポジット(deposit)抑制と除去である。オイルジェット装置の冷却対象であるピストンはクーリングチャンネルという冷却のための潤滑油の通路が設けられている。潤滑油は、たとえば200℃を超えるとデポジット化してクーリングチャンネルの中に付着する。オイルジェットによって、ピストンを冷却しデポジットが発生しにくくするとともに、付着したデポジットを洗い流す。
第3の目的は、潤滑油温度の早期に上昇させることである。たとえば、早朝の始動時はエンジン温度は10℃程度である。内燃機関の始動時には、燃焼熱をピストンを経由して潤滑油に移動させ潤滑油をエンジンに循環させることによって、エンジン全体の早期暖機を行なうことができる。
一方、オイルジェットは、内燃機関の運転中でも停止することもある。このような停止の目的は以下の通りである。
第1の目的は、冷却損失低減による燃費向上である。ピストンを冷却するということは、冷却損失を増加させることである。ピストン温度が適温範囲である場合にオイルジェットを停止させることによって、冷却損失が低減する。
第2の目的は、オイルポンプ仕事量減による燃費向上である。オイルジェットを噴射すると潤滑油の圧力が低下するので圧力を維持するためにオイルポンプを余分に駆動する必要がある。このため、内燃機関の運転中であっても必要がなければオイルジェットを停止したほうが燃費が向上する。
オイルジェット装置を備えた内燃機関が特開2012−145021(特許文献1)に開示されている。この内燃機関は、ピストン温度算出マップに基づいてピストン温度を算出し、オイルジェット装置の油量を制御するコントローラユニットを含む。
特開2012−145021
従来技術ではオイルジェット実行、停止はそれぞれエンジン潤滑油温や冷却水温度で判定する方法を主として使用している。たとえば、予め実験等で適合範囲をマップに定めておき、エンジン始動時の低油温、低水温時はピストンオイルジェットを停止、油温および水温が上昇したエンジン暖機後はピストンオイルジェットを実行する。
このとき、オイルジェット実行による信頼性確保(ピストンクーリングチャンネル内のデポ抑制および除去)とオイルジェット停止による燃費向上(冷却損失低減)のトレードオフが課題となる。仮に燃費優先のため、オイルジェットを停止すると、ピストン温度が上昇(=冷却損失低減)し、投入エネルギーが仕事となる割合が増えることによって燃費が向上する。この背反現象としてピストン温度が上昇するため、ピストンクーリングチャンネル内のオイルのデポジット化が課題となる。したがって、オイルジェットの実行を必要な範囲に限定して行なうことが重要である。
特開2012−145021のように、マップを使用してピストン温度を推定する方法では、油温および水温以外の全ての条件や現象を盛り込むことは膨大な量の実験を行なわなくてはならず現実的ではない。したがって、使用状況によってはオイルジェットを実行しなくても良い場合であっても、マップを用いた制御ではオイルジェットを実行してしまうことがある。
たとえば、油温および水温が上がっている場合でもピストン温度が低いような低負荷運転においては、オイルジェットの実行は必ずしも必要ではない。このような場合には、油温および水温が高くても、ピストン温度は低いため、オイルジェットを停止しても機能上は問題なく、オイルジェットを停止することによって燃費向上が期待できる。
また、極低温環境下でエンジンを停止させた直後は、油水温は低下するがピストンの温度はそれほど低下していない場合が考えられる。その後に始動するタイミングによっては油水温のマップでオイルジェットを制御することが適切でない場合も考えられる。
つまり、油温および水温とピストン温度とは挙動が異なる場合も考えられるので、ピストン温度をより正確に推定してオイルジェットの実行の判断を行なうことができれば好ましい。
この発明の目的は、ピストンオイルジェットの最適化によって信頼性を維持しつつ内燃機関の冷却損失を低減させたピストンオイルジェット制御装置を提供することである。
この発明は、要約すると、内燃機関の制御装置に関する。内燃機関は、シリンダヘッドと、シリンダブロックと、ピストンと、ピストンに潤滑油を噴射するオイルジェット装置とを備える。制御装置は、内燃機関への供給燃料量に基づいて投入熱量を算出し、燃焼室からシリンダヘッドおよびシリンダブロックに対して生じる第1の冷却損失と、内燃機関の仕事量と、排気損失と、ポンプ損失と、機械損失とを投入熱量から減算して、燃焼室からピストンに対して生じる第2の冷却損失を算出する。制御装置は、第2の冷却損失と、燃焼ガス温度とに基づいてピストンの温度を算出し、算出したピストンの温度に基づいてオイルジェット装置を制御する。
好ましくは、制御装置は、第1の冷却損失を算出する場合に、ニュートンの冷却法則を使用して燃焼ガス温度と冷却水温度とに基づいて損失を算出し、ピストンの温度を算出する場合に、ニュートンの冷却法則を使用して第2の冷却損失と、燃焼ガス温度とに基づいてピストンの温度を算出する。
好ましくは、制御装置は、オイルジェット装置から潤滑油の噴射の停止中において算出したピストンの温度が第1しきい値温度を超えた場合にオイルジェット装置から潤滑油を噴射する。また、制御装置は、オイルジェット装置から潤滑油を噴射中において算出したピストンの温度が第1しきい値温度よりも低い第2しきい値温度より低い場合にオイルジェット装置からの潤滑油の噴射を停止する。
本発明によれば、物理モデル構築によるピストン温度予測により、オイルジェットの実行、停止が判定でき内燃機関の熱効率が向上する。
本実施の形態に係る冷却装置を備えるエンジン1の概略構成を示す図である。 内燃機関への投入燃料エネルギーがどのように消費されたかを示すヒートバランスを説明するための図である。 ピストン周辺の物理モデルを示す図である。 ECU40が実行する処理を説明するためのフローチャートである。 図4のステップS2においてECU40が実行する処理を説明するための等価ブロック図である。 図4のステップS3で実行されるピストン温度の算出処理を説明するための等価ブロック図である。 ピストン温度の変化とオイルジェットの作動状態について制御例を示したグラフである。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
図1は、本実施の形態に係る冷却装置を備えるエンジン1の概略構成を示す図である。エンジン1は、複数のシリンダを備える場合もあり、図1には代表的に1つのシリンダの断面が概略的に示される。また、エンジン1は、ディーゼルエンジンであるが、ディーゼルエンジンに限定されるものではなく、本願発明はガソリンエンジンにも適用してもよい。
各シリンダには、燃焼室4内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)5が設けられている。インジェクタ5は図示しないコモンレールに接続されており、コモンレールに貯留された高圧燃料がインジェクタ5に常時供給されている。
エンジン1には、燃焼室4内に空気を吸入するための吸気通路がインテークマニホールド8を介して接続されている。また、エンジン1には、燃焼後の排気ガスを排出するための排気通路がエキゾーストマニホールド10を介して接続されている。燃焼室4とインテークマニホールド8との間は、吸気バルブ11によって開閉される。燃焼室4とエキゾーストマニホールド10との間は、排気バルブ12によって開閉される。
シリンダブロック3の内部には、ピストン26が往復運動可能に収容されている。ピストン26は、クランクシャフト27にコンロッド28を介して連結されている。
シリンダブロック3には、ピストン26の裏面に対して潤滑油(以下、単にオイルという)を噴射するオイルジェット装置29が取り付けられている。また、シリンダブロック3には、オイルジェット装置29にオイルを供給するためのオイル流路30が形成されている。
ピストン26には、オイルジェット装置29から噴射されたオイルが導入されるクーリングチャンネル32が形成されている。クーリングチャンネル32にオイルが導入されることによって、ピストン26が効率的に冷却される。なお、クーリングチャンネル32に導入されたオイルは、オイル排出口31からピストン26の外部に排出される。
燃焼ガスは1000℃を超える高温であるが、潤滑油の温度は通常は100℃前後である。潤滑油をピストンの裏面側にピストンオイルジェットによって噴射して、ピストンに形成された通路(クーリングチャンネル)に潤滑油を循環させることにより、ピストンが冷却される。
エンジン1は、電子制御ユニット(ECU)40をさらに備える。ECU40には、各種センサから、アクセル開度Acc、エンジン回転速度Ne、冷却水温度Tw、外気温Tatm、油温To等が与えられる。
ECU40は、アクセル開度Acc、エンジン回転速度Ne、冷却水温度Tw及び油温Toを取得し、所定の処理を行ない、インジェクタ5を制御することで、燃焼室4内への燃料の噴射を制御する。
図1に示したような構成の内燃機関の燃費向上のためには内燃機関の熱効率向上が必要不可欠である。内燃機関への投入燃料エネルギー(噴射した燃料量に比例)は、仕事(動力)と損失に消費される。このうち損失は、機械損失、冷却損失、排気損失、ポンプ損失に大別される。
図2は、内燃機関への投入燃料エネルギーがどのように消費されたかを示すヒートバランスを説明するための図である。このようなヒートバランスにおいて、各損失を低減させることが内燃機関仕事率(熱効率)の向上に対してキーポイントとなる。
図2には、オイルジェット実行時とオイルジェット停止時のそれぞれのヒートバランス例が示される。熱効率は、仕事/投入燃料エネルギーで算出される。したがって、オイルジェット実行時に、投入燃料エネルギーを100として、そのうち35が仕事に使われた場合、熱効率は35%となる。また、投入燃料エネルギーのうち19%は冷却損失に消費される。一方、オイルジェット停止時は、冷却損失は16%となり、熱効率は37%に向上する。
すなわち、損失を低減させると、同じ仕事をさせるために投入する燃料が少なくて済むので、燃費が向上する。
本実施の形態では、冷却損失に着目し、冷却損失を低減させることによって燃費を向上させる。エンジンの冷却は、燃料の燃焼によって一旦加熱したエンジンをわざわざ冷やすことである。しかし、エンジンが冷えすぎると、オイル潤滑不足などの不具合が生じる。エンジンの温度が上昇しすぎると、デポジットの発生等の不具合が生じる。冷却自体は損失であるので、冷却は、エンジンの過熱を防止するために必要な分だけにとどめておくことが好ましい。したがって、エンジンの過熱を防ぎつつエンジンを冷却しすぎないように熱制御を行なうことが重要である。
図3は、ピストン周辺の物理モデルを示す図である。図3に示すように、冷却損失Qrの内訳は、燃焼室内では、主にシリンダライナーにおける冷却損失Q1と、シリンダヘッドにおける冷却損失Q2と、ピストンにおける冷却損失Q3とに大別される。このうち、ピストンへの冷却損失量Q3は、ピストンオイルジェットの有無およびオイルジェット量(と温度)に応じて変化する。
本実施の形態では、ECU40が、エンジン全体のヒートバランス(投入熱量、冷却損失等の比率)をエンジン状態から算出する。さらにECU40が、各部位の物性、幾何学形状から決まる部材毎への熱移動量を算出し、これを用いてピストン温度Tpを計算する。たとえば、部位の物性、幾何学形状の例としては、燃焼室の中のガス温度、燃焼室壁面の表面積、ガス−壁面の熱伝導性などが挙げられる。
そして、ECU40は、計算したピストン温度により、ピストンオイルジェットの実行、停止判定を行なう。
図4は、ECU40が実行する処理を説明するためのフローチャートである。図4を参照して、ECU40は、ステップS1において、エンジンの運転条件と、各種センサの検出値とを読み込む。
続いて、ステップS2において、運転条件およびセンサ検出値から得た状態量より、エンジンのヒートバランス(仕事量、各損失の割合)を示す各熱量を計算する。
投入熱量Qi、仕事量Qw、排気損失Qex、ポンプ損失Qp、機械損失Qm、冷却損失Qrの間には以下の式(1)が成立する。
Qi=Qw+Qex+Qp+Qm+Qr …(1)
上式より、冷却損失Qrは次式(2)で求めることができる。
Qr=Qi−(Qw+Qex+Qp+Qm) …(2)
図5は、図4のステップS2においてECU40が実行する処理を説明するための等価ブロック図である。ステップS2の処理を行なうために、ECU40は、熱量計算部100として動作する。図5を参照して、熱量計算部100は、投入熱量算出部101と、仕事量算出部102と、排気損失算出部103と、ポンプ損失算出部104と、機械損失算出部105と、減算部106,107と、加算部108とを含む。
投入熱量算出部101は、燃料噴射量から投入熱量Qiを算出する。仕事量算出部102は、筒内圧センサの検出値(筒内圧)と、インテークマニホールド中のセンサの検出値(シリンダの中に入るガス量、ガス温度)、エンジン回転速度Neに基づいて仕事量Qwを算出する。減算部106は、投入熱量Qiから仕事量Qwを減算して、損失Qlossを算出する。
排気損失算出部103は、排気温度センサの検出した排気温から排気損失Qexを算出する。ポンプ損失算出部104は、ガス量、過給圧、スロットル開度、排気圧からポンプ損失Qpを算出する。機械損失算出部105は、幾何学上の図面値、ピストン速度、筒内圧、油温、水温に基づいて、機械損失Qmを算出する。
加算部108は、排気損失Qex、ポンプ損失Qp、機械損失Qmを加算する。減算部107は、損失Qlossから加算部108の出力値を減算して、冷却損失Qrを算出する。
再び図4に戻って、ステップS2の熱量計算の処理によって、冷却損失Qrが求まったら、続いてECU40は、ピストン温度Tpの計算を行なう。ピストン温度Tpを計算するために、燃焼室全体での冷却損失Qrから他の部分の損失を引いて、ピストン部における冷却損失を算出する必要がある。
図3で説明したように、冷却損失Qrは、シリンダ冷却分Q1、ヘッド冷却分Q2、ピストン冷却分Q3の合計である。したがって、ピストン部における冷却損失Q3は、次式(3)で求められる。
Q3=Qr−(Q1+Q2) …(3)
図6は、図4のステップS3で実行されるピストン温度の算出処理を説明するための等価ブロック図である。図6を参照して、ピストン温度算出部200は、シリンダ部冷却損失算出部201と、ヘッド部冷却損失算出部202と、加算部203と、減算部204と、ピストン温度算出部205とを含む。
冷却損失Q1,Q2,Q3には、全てニュートンの冷却法則より、以下の式(4)が成立する。
Q=h×A×(T1−T2) …(4)
ここで、Qは冷却損失(kW)を示し、Aは燃焼ガスとの接触面積(m)を示し、T1は、燃焼ガス温度(K)を示し、T2は燃焼ガスから熱が移動する部材(シリンダブロック、シリンダヘッド、ピストン)の温度を示す。また、hは、燃焼ガスと部材間の熱伝達係数(W/K)を示す。
また、伝達係数hは次式(5)のように算出することができる。
h=λ×Nu/L …(5)
ここでLは、熱が移動する長さを示す(例えばシリンダライナーなら、ピストン上下に合わせてLが変化するので、逐次計算する)。λは、熱伝導率(W/mK)を示し、材質によって固有の値である。Nuは、ヌッセルト数を示し、ヌッセルト数Nuは、レイノルズ数Reとプラントル数Puの関数である(Nu∝f(Re、Pr))。
シリンダ部冷却損失算出部201は、燃焼ガスからシリンダライナーへの熱移動が、シリンダライナーから冷却水への熱移動と等しいとして、燃焼ガス温度Tc、冷却水温度Twを上記のニュートンの冷却法則の式に適用して、シリンダ部の冷却損失Q1を算出する。
ヘッド部冷却損失算出部202は、燃焼ガスからシリンダヘッド間の熱移動が、シリンダヘッドから冷却水への熱移動と等しいとして、燃焼ガス温度Tc、冷却水温度Twを上記のニュートンの冷却法則の式に適用して、ヘッド部の冷却損失Q2を算出する。
加算部203によってQ1+Q2が算出され、減算部204によって、冷却損失の合計値QrからQ1+Q2が減算され、ピストン部の冷却損失Q3が算出される。
ピストン温度算出部205は、上記のニュートンの冷却法則の式(4)を変形し、既知数としてQ3をQに適用し、ガス温度TcをT1に適用すると、未知数T2としてピストン温度Tpを次式(6)によって算出することができる。
Tp=Tc−Q3/(h×A) …(6)
再び図4に戻って、ステップS4以降において、ECU40は、算出されたピストン温度Tpに基づいてピストンジェットの実行/停止の判定を行なう。
まず、ステップS4において、ピストン温度TpとオイルジェットONのしきい値温度Tonとが比較される。ステップS4においてTp>Tonが成立したときには(S4でYES)、ステップS5に処理が進められ、ECU40は、オイルジェットがオフであればオイルジェットを作動させ、オイルジェットがオンであればオイルジェットの作動を継続させる。
ステップS4においてピストン温度TpがTon以下であった場合(S4でNO)、ステップS6に処理が進められ、ピストン温度TpとオイルジェットOFFのしきい値温度Toffとが比較される。ステップS6においてTp<Toffが成立したときには(S6でYES)、ステップS7に処理が進められ、ECU40は、オイルジェットが作動中であればオイルジェットを停止させ、オイルジェットが停止中であればオイルジェットの停止を継続させる。
ステップS6においてピストン温度TpがToff以上であった場合(S6でNO)、ステップS8に処理が進められ、オイルジェットは、現状が維持される。
ステップS5,S7,S8のいずれかでオイルジェットの状態が決定されたら、ステップS9において処理はメインルーチンに戻される。
図7は、ピストン温度の変化とオイルジェットの作動状態について制御例を示したグラフである。図4で説明したしきい値温度TonとToffは、Ton>Toffとなるように設定されている。したがって、図7のようにピストン温度Tpが変化したとき、時刻t0〜t1の間のように、オイルジェットOFFの場合には、しきい値温度Toffを超えてもしきい値温度Tonを超えない限り、オイルジェットはOFF状態のままである。
時刻t1においてオイルジェットOFFの場合において、ピストン温度Tpがしきい値温度Tonを超えたとき、オイルジェットはOFF状態からON状態に変化する。
その後時刻t1〜t2の間のように、オイルジェットONの場合にはしきい値温度Tonを下回ってもしきい値温度Toffを下回らない限り、オイルジェットはON状態のままである。
時刻t2においてオイルジェットONの場合において、ピストン温度Tpがしきい値温度Toffを下回ると、オイルジェットはON状態からOFF状態に変化する。
図4,図5に示した例では、ピストン温度を判定するしきい値を2つ設けた。しきい値は1つでも良いが、オイルジェットON/OFFを頻繁に繰り返すと、ピストン温度Tpの推定精度も悪くなっていくおそれがある。ONしきい値とOFFしきい値を別々に設定して判定を行なうことにより、オイルジェットのON/OFFのごく短時間での繰り返しが避けられ、ピストン温度Tpの推定精度を維持することが期待できる。ただし、必ずしもしきい値を2つ設ける必要はない。しきい値が1つである場合でも、本実施の形態で説明したピストン温度Tpの算出手法を適用することができる。なお、しきい値が1つの場合には、オイルジェットのON/OFFの切替えが発生した後にしばらくの時間は現状維持とし切替を行なわないようにすることが好ましい。
以上説明したように、本実施の形態に示したオイルジェットの制御によれば、物理モデル構築によるピストン温度予測により、これまではピストン温度が低いにもかかわらず、オイルジェットを実行していた走行について、オイルジェットを停止することが可能となる。そのようなジェット停止により、内燃機関の熱効率は向上し、燃費が向上する。たとえば、図2の例に示したように、熱効率が35%から37%に向上すると、燃費は5%近く向上することが期待できる。
最後に、本実施の形態について、図面を再び参照して総括する。図1に示すエンジン1は、シリンダヘッド2と、シリンダブロック3と、ピストン26と、ピストン26に潤滑油を噴射するオイルジェット装置29とを備える。図4、図5に示すように、制御装置40は、エンジン1への供給燃料量に基づいて投入熱量Qiを算出し、燃焼室4からシリンダヘッド2およびシリンダブロック3に対して生じる第1の冷却損失(Q1+Q2)と、エンジン1の仕事量Qworkと、排気損失Qexと、ポンプ損失Qpと、機械損失Qmとを投入熱量Qiから減算して、燃焼室4からピストン26に対して生じる第2の冷却損失(Q3)を算出する。制御装置40は、第2の冷却損失(Q3)と、燃焼ガス温度Tcとに基づいてピストンの温度Tpを算出し、算出したピストンの温度Tpに基づいてオイルジェット装置29を制御する。
図6に示すように、好ましくは、制御装置40は、第1の冷却損失(Q1+Q2)を算出する場合に、シリンダ部冷却損失算出部201、ヘッド部冷却損失算出部202の各々においてニュートンの冷却法則を使用して燃焼ガス温度Tcと冷却水温度Twとに基づいて損失を算出する。また、制御装置40は、ピストンの温度Tpを算出する場合には、ニュートンの冷却法則を使用して第2の冷却損失(Q3)と、燃焼ガス温度Tcとに基づいてピストンの温度Tpを算出する。
図7に示すように、好ましくは、制御装置40は、オイルジェット装置29から潤滑油を噴射停止中において、算出したピストンの温度Tpが第1しきい値温度Tonを超えた場合に、オイルジェット装置29から潤滑油を噴射する。また、制御装置40は、オイルジェット装置29から潤滑油を噴射中において算出したピストンの温度Tpが第1しきい値温度Tonよりも低い第2しきい値温度Toffより低い場合にオイルジェット装置29からの潤滑油の噴射を停止する。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 エンジン、2 シリンダヘッド、3 シリンダブロック、4 燃焼室、5 インジェクタ、8 インテークマニホールド、10 エキゾーストマニホールド、11 吸気バルブ、12 排気バルブ、26 ピストン、27 クランクシャフト、28 コンロッド、29 オイルジェット装置、30 オイル流路、31 オイル排出口、32 クーリングチャンネル、40 制御装置、100 熱量計算部、101 投入熱量算出部、102 仕事量算出部、103 排気損失算出部、104 ポンプ損失算出部、105 機械損失算出部、106,107,203,204 減算部、108 加算部、200,205 ピストン温度算出部、201 シリンダ部冷却損失算出部、202 ヘッド部冷却損失算出部。

Claims (3)

  1. 内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関は、シリンダヘッドと、シリンダブロックと、ピストンと、前記ピストンに潤滑油を噴射するオイルジェット装置とを備え、
    前記制御装置は、前記内燃機関への供給燃料量に基づいて投入熱量を算出し、燃焼室から前記シリンダヘッドおよび前記シリンダブロックに対して生じる第1の冷却損失と、前記内燃機関の仕事量と、排気損失と、ポンプ損失と、機械損失とを前記投入熱量から減算して、前記燃焼室から前記ピストンに対して生じる第2の冷却損失を算出し、
    前記制御装置は、前記第2の冷却損失と、燃焼ガス温度とに基づいて前記ピストンの温度を算出し、算出した前記ピストンの温度に基づいて前記オイルジェット装置を制御する、内燃機関の制御装置。
  2. 前記制御装置は、前記第1の冷却損失を算出する場合に、ニュートンの冷却法則を使用して燃焼ガス温度と冷却水温度とに基づいて損失を算出し、前記ピストンの温度を算出する場合に、ニュートンの冷却法則を使用して前記第2の冷却損失と、燃焼ガス温度とに基づいて前記ピストンの温度を算出する、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  3. 前記制御装置は、前記オイルジェット装置から前記潤滑油の噴射の停止中において算出した前記ピストンの温度が第1しきい値温度を超えた場合に前記オイルジェット装置から前記潤滑油を噴射し、
    前記制御装置は、前記オイルジェット装置から前記潤滑油を噴射中において算出した前記ピストンの温度が前記第1しきい値温度よりも低い第2しきい値温度より低い場合に前記オイルジェット装置からの前記潤滑油の噴射を停止する、請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
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