以下、本発明による内燃機関の燃焼室構成部材の温度推定装置、及び内燃機関の筒内ガス温度推定装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る燃焼室構成部材の温度推定装置及び筒内ガス温度推定装置を4気筒内燃機関(ディーゼル機関)10に適用したシステム全体の概略構成を示している。このシステムは、燃料供給系統を含むエンジン本体20、エンジン本体20の各気筒の燃焼室(筒内)にガスを導入するための吸気系統30、エンジン本体20からの排ガスを放出するための排気系統40、排気還流を行うためのEGR装置50、及び電気制御装置60を含んでいる。
エンジン本体20の各気筒の上部には、ニードルを利用した燃料噴射弁INJがそれぞれ配設されている。
吸気系統30は、エンジン本体20の各気筒の燃焼室にそれぞれ接続された吸気マニホールド31、吸気マニホールド31の上流側集合部に接続され吸気マニホールド31とともに吸気通路を構成する吸気管32、吸気管32内に回動可能に保持されたスロットル弁33、スロットル弁33の上流において吸気管32に順に介装されたインタクーラー34、過給機35のコンプレッサ35a、及び吸気管32の先端部に配設されたエアクリーナ36を含んでいる。
排気系統40は、エンジン本体20の各気筒にそれぞれ接続された排気マニホールド41、排気マニホールド41の下流側集合部に接続された排気管42、排気管42に配設された過給機35のタービン35b、及び排気管42に介装されたディーゼルパティキュレートフィルタ(DPNR)43を含んでいる。排気マニホールド41及び排気管42は排気通路を構成している。
EGR装置50は、排気ガスを還流させる通路(EGR通路)を構成する排気還流管51と、排気還流管51に介装されたEGR制御弁52と、EGRクーラー53とを備えている。排気還流管51はタービン35bの上流側排気通路(排気マニホールド41)とスロットル弁33の下流側吸気通路(吸気マニホールド31)を連通している。EGR制御弁52は電気制御装置60からの駆動信号に応答し、再循環される排気ガス量(排気還流量、EGRガス流量)を変更し得るようになっている。
電気制御装置60は、互いにバスで接続されたCPU、CPUが実行するプログラム、テーブル(マップ)、及び定数等を予め記憶したROM、RAM、バックアップRAM、並びにADコンバータを含むインターフェース等からなるマイクロコンピュータである。
上記インターフェースは、熱線式エアフローメータ71、吸気温センサ72、吸気管圧力センサ73、吸気酸素濃度センサ74、筒内圧力センサ75、エンジン回転速度センサ76、冷却水温センサ77、排気温センサ78、排気管圧力センサ79、空燃比センサ81、及びアクセル開度センサ82と接続されていて、これらのセンサからの信号をCPUに供給するようになっている。
また、インターフェースは、燃料噴射弁INJ、図示しないスロットル弁アクチュエータ、及びEGR制御弁52と接続されていて、CPUの指示に応じてこれらに駆動信号を送出するようになっている。
熱線式エアフローメータ71は、吸気通路内を通過する吸入空気の質量流量(単位時間当りの吸入空気(新気)流量)を計測するようになっている。吸気温センサ72は、吸気マニホールド31内を通過する吸気の温度(マニホールド内吸気温度)を検出するようになっている。吸気管圧力センサ73は、内燃機関10の燃焼室に吸入されるガスの圧力(吸気マニホールド31内を通過する吸気の圧力、吸気圧力)を検出するようになっている。吸気酸素濃度センサ74は、内燃機関10の燃焼室に吸入されるガス中の酸素濃度(吸気酸素濃度)を検出するようになっている。
筒内圧力センサ75は、燃焼室内のガスの圧力(筒内圧力)を検出するようになっている。エンジン回転速度センサ76は、実クランク角度とともにエンジン10の回転速度であるエンジン回転速度を検出するようになっている。冷却水温センサ77は、エンジン10を冷却する冷却水の温度(冷却水温)を検出するようになっている。排気温センサ78は、燃焼室から排出されるガスの温度(排気温度)を検出するようになっている。排気管圧力センサ79は、燃焼室から排出されるガスの圧力(排気圧力)を検出するようになっている。空燃比センサ81は、DPNR43の下流の排ガスの空燃比を検出するようになっている。アクセル開度センサ82は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するようになっている。
(燃焼室構成部材の温度の推定)
図2(a)は、内燃機関10の燃焼室を模式的に示した主要断面図である。図2(a)に示したように、本例では、燃焼室は、吸気弁Vinの底壁面、及びピストンPIの頂面、並びに、図示しないシリンダヘッド内壁面、図示しない円筒状のシリンダ内壁面、図示しない排気弁の底壁面により画定されている。ピストンPIの頂面には、シリンダの軸心と同軸的に、曲面からなる側壁及び底壁から構成される回転対称形の凹部(以下、「キャビティ」と称呼する。)が形成されている。
即ち、燃焼室の内壁の一部を構成する「燃焼室構成部材」となり得る部材としては、吸気弁Vin、ピストンPI、図示しないシリンダヘッド、図示しないシリンダ、図示しない排気弁等が挙げられる。本例では、これらのうちで「燃焼室構成部材」として、吸気弁Vin、及びピストンPIが採用され、吸気弁Vinの温度(表面温度)Tv、及びピストンPIの温度(表面温度)Tpが推定される。
吸気弁Vinは、主として、燃焼室内のガス(具体的には、後述する混合気及び周辺筒内ガス)、燃焼室に流入する吸気、及びシリンダヘッドにおける吸気弁Vinの着座部(シート部)と、それぞれ熱伝達を行うと考えられる。ピストンPIは、主として、燃焼室内のガス(具体的には、後述する混合気及び周辺筒内ガス)、燃焼室に流入する吸気、及びシリンダの内壁と、それぞれ熱伝達を行うと考えられる。係る観点より、本例では、吸気弁Vinの温度Tvは、下記(1)式、(2)式に従って算出・更新され、ピストンPIの温度Tpは、下記(3)式、(4)式に従って算出・更新される。
上記(1)式において、Tv(k),Tv(k−1)はそれぞれ、今回の作動サイクルにおける吸気弁Vinの温度、前回の作動サイクルにおける吸気弁Vinの温度である。ΔTvは、Tv(k)が更新される時間間隔における吸気弁Vinの温度上昇量であり、ΔTvは、上記(2)式に従って算出される。
上記(2)式において、Mv,Cvはそれぞれ、吸気弁Vinの質量、定圧比熱である。Q1vは、Tv(k)が更新される時間間隔において吸気弁Vinが燃焼室内のガス(具体的には、後述する混合気及び周辺筒内ガス)から受ける熱伝達の量である。Q1vについては後に詳述する。
Q2vは、Tv(k)が更新される時間間隔において吸気弁Vinが燃焼室に流入する吸気に与える熱伝達の量であり、Q3vは、Tv(k)が更新される時間間隔において吸気弁Vinがシリンダヘッドシート部に与える熱伝達の量である。Q2v,Q3vはそれぞれ、下記(5)式、(6)式にて表すことができる。なお、MapX(a,b,…)は、a,b,…を引数とするXを求めるためのテーブルを表す(以下も同じ)。
上記(5)式において、Tin2は、吸気弁Vinの周囲を通過する前(直前)の吸気の温度(吸気弁通過前吸気温度)である。Tin2の算出については後述する。上記(6)式において、Tseatは、シリンダヘッドシート部の温度である。Tseatは、周知の手法の一つにより算出され得る。また、Tseatは、冷却水温と強い相関があるから、上記(6)式において、Tseatを、冷却水温センサ77から検出される冷却水温THWと置き換えることができる。或いは、Tseatは、潤滑油温と強い相関があるから、上記(6)式において、Tseatを、潤滑油温センサ(図示せず)から検出される潤滑油温Toilと置き換えることができる。
Q2vは、Tv(k−1)とTin2との差が大きいほどより大きい値に決定され、Q3vは、Tv(k−1)とTseat(又はTHW,Toil)との差が大きいほどより大きい値に決定される。
上記(3)式において、Tp(k),Tp(k−1)はそれぞれ、今回の作動サイクルにおけるピストンPIの温度、前回の作動サイクルにおけるピストンPIの温度である。ΔTpは、Tp(k)が更新される時間間隔におけるピストンPIの温度上昇量であり、ΔTpは、上記(4)式に従って算出される。
上記(4)式において、Mp,Cpはそれぞれ、ピストンPIの質量、定圧比熱である。Q1pは、Tp(k)が更新される時間間隔においてピストンPIが燃焼室内のガス(具体的には、後述する混合気及び周辺筒内ガス)から受ける熱伝達の量である。Q1pについては後に詳述する。
Q2pは、Tp(k)が更新される時間間隔においてピストンPIが燃焼室に流入する吸気に与える熱伝達の量であり、Q3pは、Tp(k)が更新される時間間隔においてピストンPIがシリンダ内壁に与える熱伝達の量である。Q2p,Q3pはそれぞれ、下記(7)式、(8)式にて表すことができる。
上記(8)式において、Twallは、シリンダ内壁の温度である。Twallは、周知の手法の一つにより算出され得る。また、Twallは、冷却水温と強い相関があるから、上記(8)式において、Twallを、冷却水温センサ77から検出される冷却水温THWと置き換えることができる。或いは、Twallは、潤滑油温と強い相関があるから、上記(8)式において、Twallを、潤滑油温センサ(図示せず)から検出される潤滑油温Toilと置き換えることができる。
Q2pは、Tv(k−1)とTin2との差が大きいほどより大きい値に決定され、Q3pは、Tv(k−1)とTwall(又はTHW,Toil)との差が大きいほどより大きい値に決定される。以上、上記(1)式〜(8)式においてQ1v,Q1p以外の変数等について説明した。
<Q1v,Q1pの算出>
以下、上記(2)式のQ1v、及び上記(4)式のQ1pの算出について詳述する。内燃機関10では、燃料噴射弁INJは、その軸心がシリンダの軸心と一致するように図示しないシリンダヘッドに固定配置されている。その先端には、噴射される燃料が、図2(a)(b)に示すように、互いに均等な角度をもって8方向に、シリンダの軸心を中心軸とした仮想円錐状に、且つ、キャビティの側壁と底壁の境界近傍に向けて拡散していくように、8個の噴孔が設けられている。
8つの噴孔から噴射された燃料はそれぞれ、燃焼室内に存在しているガスの一部分(混合気形成筒内ガス)と混ざり合って混合気(燃焼に寄与するガス)を形成する。本例では、図2(a)(b)に微細なドットで示したように、これらの混合気が、キャビティの底壁及び側壁近傍にて球形状をもって8箇所にてそれぞれ滞留するもの(燃焼前も燃焼後も)と仮定する。「球形状」としたのは、後述する混合気接触面積A1v等の計算の簡略化等の観点からである。
以下、説明の便宜上、或いは、計算の簡略化のため、図3に示すように、ピストンPIのキャビティが、直径D、深さCの円柱状の凹形状からなるものと仮定する。また、吸気弁Vinは、その底壁面(直径dの円形平面)がキャビティの底壁面と平行な状態を維持しながらピストンの移動方向と平行に移動すると仮定するとともに、着火時点での吸気弁Vinの底壁面とキャビティの底壁面との距離をHとする。
上記のように混合気が滞留している状態(燃焼前も燃焼後も)において、混合気の周囲には、燃焼室内に存在しているガスであって噴射された燃料と混ざり合わなかったもの(周辺筒内ガス、燃焼に寄与しないガスであり、EGRガス、残留ガスを含む)が存在する。従って、吸気弁Vin及びピストンPIは、混合気(=燃料噴霧+混合気形成筒内ガス)のみならず周辺筒内ガスとも接触し得、この結果、混合気のみならず周辺筒内ガスからも熱伝達を受ける。
ここで、燃焼室内において、混合気(=燃料噴霧+混合気形成筒内ガス)の温度と周辺筒内ガスの温度とは当然に異なる。従って、過渡運転状態において吸気弁Vin及びピストンPIの温度を精度良く推定するためには、吸気弁Vin及びピストンPIが混合気から受ける熱伝達と、吸気弁Vin及びピストンPIが周辺筒内ガスから受ける熱伝達とを個別に考慮する必要があると考えられる。以上のことを考慮して、Q1v,Q1pは、以下のように算出される。
<<Q1vの算出>>
先ず、上記(2)式のQ1vの算出方法から説明する。Q1vは、下記(9)式に従って算出される。
上記(9)式において、A1vは、上述のように滞留中の混合気が吸気弁Vinの底壁面と接触する面積(混合気接触面積)である。A1vの算出については後に詳述する。α1vは、吸気弁Vinが滞留中の混合気から受ける熱伝達における熱伝達係数(本例では、一定)である。Tfは、混合気の代表温度である。本例では、Tfとして、着火時期を含む所定クランク角度範囲内での混合気温度の平均値が採用される。Tfの算出については後述する。
A2vは、滞留中の混合気の周囲に存在する周辺筒内ガスが吸気弁Vinの底壁面と接触する面積(周辺筒内ガス接触面積)である。A2vの算出についても後述する。α2vは、吸気弁Vinが周辺筒内ガスから受ける熱伝達における熱伝達係数(本例では、一定)である。Tgは、周辺筒内ガスの代表温度である。本例では、Tgとして、着火時期を含む所定クランク角度範囲内での周辺筒内ガス温度の平均値が採用される。Tgの算出については後述する。
以上、上記(9)式において、右辺の第1項は、Tv(k)が更新される時間間隔において吸気弁Vinが滞留中の混合気から受ける熱伝達の量を表し、右辺の第2項は、Tv(k)が更新される時間間隔において吸気弁Vinが滞留中の混合気の周囲に存在する周辺筒内ガスから受ける熱伝達の量を表す。以下、混合気接触面積A1v、及び周辺筒内ガス接触面積A2vの算出について説明する。
上述のようにキャビティの底壁及び側壁近傍にて滞留する球形状の各混合気の大きさ(直径)は、燃料噴射量、混合気の温度及び圧力に依存して変化すると考えられる。以下、先ず、滞留する球形状の各混合気の直径Dsの算出について説明する。
上述のように、混合気は、燃料噴霧と混合気形成筒内ガスからなる。総燃料噴射量(質量)をqfin、混合気形成筒内ガスとなるべく吸気系統30から吸入される吸気マニホールド31内のガス(吸気ガス)の酸素濃度(質量濃度)をRoxi、理論空燃比をAFth、空気中における酸素の質量割合を23.2とすると、質量qfinの燃料が完全燃焼するために必要な前記吸気ガスの量(質量)Gは、下記(10)式にて表すことができる。AFthは、理論空燃比である。Roxiは、吸気酸素濃度センサ74の検出結果から取得され得る。
従って、1つの噴孔から噴射される燃料についての混合気の体積V1は、下記(11)式にて表すことができる。(11)式において、Nは、噴孔数(本例では、8)である。ρmは、混合気の密度であり、下記(12)式にて表すことができる。(12)式において、Pmは、混合気の圧力である。Pmとしては、例えば、筒内圧力センサ75から検出される燃焼室内の着火時点での圧力等が使用され得る。ρmは、混合気代表温度Tfが高いほど小さく、混合気圧力Pmが小さいほど小さい。
従って、滞留する球形状の各混合気の直径Dsは、下記(13)式にて表すことができる。これにより、Dsは、総燃料噴射量qfinが大きいほど大きく、混合気代表温度Tfが高いほど大きく、混合気圧力Pmが小さいほど大きくなる。
上述のようにして得られるDsを用いて、球形状の各混合気の表面積Asは、下記(14)式にて表すことができ、各混合気の表面積Asの総和(全表面積)Asallは、下記(15)式にて表すことができる。
混合気接触面積A1vは、このAsallを用いて、下記(16)式に従って算出される。(16)式において、Avulは、吸気弁Vinの底壁面の表面積である。Rvは係数であり、以下のように決定される。
先ず、図4に示すように、Ds≦Hの場合を想定する。この場合、図4に示すように、滞留する球形状の各混合気は、吸気弁Vinとは接触しないと考える。従って、この場合、Rv=0に決定される。
次に、図5に示すように、Ds>Hの場合を想定する。この場合、図5に示すように、滞留する球形状の各混合気は、吸気弁Vinと接触すると考える。この場合、キャビティの底壁面及び側壁面に接する直径Dsの球において、キャビティの底壁面と平行であってキャビティの底壁面から上方にHだけ離れた平面よりも上方側に位置する部分の表面(図5において黒い領域に対応する部分の表面)の表面積をA1とすると、Rvは、下記(17)式に従って決定される。A1は、値Dsと、値Hと、幾何学的な関係とから求めることができる。
上述のように、直径Dsは、総燃料噴射量qfin、混合気代表温度Tf、及び混合気圧力Pmに依存して変化する。この結果、上記(15)式、(16)式、(17)式から理解できるように、全表面積Asall、係数Rv、ひいては混合気接触面積A1vが、総燃料噴射量qfin、混合気代表温度Tf、及び混合気圧力Pmに依存して変化する。以上、混合気接触面積A1vの算出について説明した。
周辺筒内ガス接触面積A2vは、下記(18)式に従って算出される。(18)式から理解できるように、A2vは、吸気弁Vinの底壁面の表面積Avulから混合気接触面積A1vを除いた面積である。
この結果、上述のように混合気接触面積A1vが総燃料噴射量qfin、混合気代表温度Tf、及び混合気圧力Pmに依存して変化することに起因して、周辺筒内ガス接触面積A2vも、総燃料噴射量qfin、混合気代表温度Tf、及び混合気圧力Pmに依存して変化する。以上、上記(9)式においてTf,Tg以外の変数等について説明した。
<<Q1pの算出>>
次に、上記(4)式のQ1pの算出方法から説明する。Q1pは、上述のQ1v(上記(9)式を参照)と同様、下記(19)式に従って算出される。
上記(19)式において、A1pは、上述のように滞留中の混合気がピストンPIのキャビティの内壁面(底壁面+側壁面)と接触する面積(混合気接触面積)である。A1pの算出については後に詳述する。α1pは、ピストンPIが滞留中の混合気から受ける熱伝達における熱伝達係数(本例では、一定)である。
A2pは、滞留中の混合気の周囲に存在する周辺筒内ガスがピストンPIのキャビティの内壁面(底壁面+側壁面)と接触する面積(周辺筒内ガス接触面積)である。A2pの算出についても後述する。α2pは、ピストンPIが周辺筒内ガスから受ける熱伝達における熱伝達係数(本例では、一定)である。
以上、上記(19)式において、右辺の第1項は、Tp(k)が更新される時間間隔においてピストンPIが滞留中の混合気から受ける熱伝達の量を表し、右辺の第2項は、Tp(k)が更新される時間間隔においてピストンPIが滞留中の混合気の周囲に存在する周辺筒内ガスから受ける熱伝達の量を表す。以下、混合気接触面積A1p、及び周辺筒内ガス接触面積A2pの算出について説明する。
混合気接触面積A1pは、上述のA1v(上記(16)式を参照)と同様、Asallを用いて、下記(20)式に従って算出される。(20)式において、Apisは、ピストンPIのキャビティの内壁面(底壁面+側壁面)の表面積である。Rpは係数であり、以下のように決定される。
先ず、図6に示すように、Ds≦Cの場合を想定する。この場合、図6に示すように、滞留する球形状の各混合気は、ピストンPIのキャビティと接触すると考える。この場合、キャビティの底壁面及び側壁面に接する直径Dsの球において、図6に示す断面に対して垂直であり且つ球の中心を通り且つキャビティの底壁面に対してキャビティの中心軸に近づくほど下がる方向に45°の角度をなす平面よりも下方且つ外方側に位置する部分の表面(図6において黒い領域に対応する部分の表面)の表面積をA2(=(1/2)・As)とすると、Rpは、下記(21)式に従って決定される。
次に、図7に示すように、Ds>Cの場合を想定する。この場合、図7に示すように、滞留する球形状の各混合気は、吸気弁Vinと接触すると考える。この場合、キャビティの底壁面及び側壁面に接する直径Dsの球において、図7に示す断面に対して垂直であり且つ点E(キャビティの側壁の上端の角)を通り且つキャビティの底壁面に対してキャビティの中心軸に近づくほど下がる方向に45°の角度をなす平面よりも下方且つ外方側に位置する部分の表面(図7において黒い領域に対応する部分の表面)の表面積をA3とすると、Rpは、下記(22)式に従って決定される。A3は、値Dsと、値Cと、幾何学的な関係とから求めることができる。
上述のように、直径Dsは、総燃料噴射量qfin、混合気代表温度Tf、及び混合気圧力Pmに依存して変化する。この結果、上記(15)式、(20)式、(21)式、(22)式から理解できるように、全表面積Asall、係数Rp、ひいては混合気接触面積A1pが、総燃料噴射量qfin、混合気代表温度Tf、及び混合気圧力Pmに依存して変化する。以上、混合気接触面積A1pの算出について説明した。
周辺筒内ガス接触面積A2pは、下記(23)式に従って算出される。(23)式から理解できるように、A2pは、ピストンPIのキャビティの内壁面の表面積Apisから混合気接触面積A1pを除いた面積である。
この結果、上述のように混合気接触面積A1pが総燃料噴射量qfin、混合気代表温度Tf、及び混合気圧力Pmに依存して変化することに起因して、周辺筒内ガス接触面積A2pも、総燃料噴射量qfin、混合気代表温度Tf、及び混合気圧力Pmに依存して変化する。以上、上記(19)式においてTf,Tg以外の変数等について説明した。
<<Tfの算出>>
次に、上記(9)式、(19)式にて使用される混合気代表温度Tfの算出について図8を参照しながら説明する。図8は、クランク角度に対する、燃焼室内のガス(筒内ガス)の温度Tc及び燃焼室内の容積(筒内ガス容積)Vcの推移の一例を示している。図8において、実線は、燃焼に寄与するガス(混合気)の温度の推移を示し、破線は、燃焼に寄与しないガス(周辺筒内ガス)の温度の推移を示している。
図8において、CA0は圧縮開始時クランク角度であり、CAigは着火時期であり、TDCは圧縮上死点である。CAigにおいて、温度Tc2は着火直前の温度であり、温度Tc5は着火直後の温度である。即ち、本例では、着火時期CAigにおいて、燃焼による温度上昇が一時に発生して温度がTc2からTc5までステップ的に上昇するものと仮定する。
本例では、Tfとして、圧縮開始時クランク角度CA0と着火時期CAigとの間の圧縮行程中の所定のクランク角度CA1から膨張行程中の所定のクランク角度CA7までの範囲内における、燃焼に寄与するガス(混合気)の温度の平均値が採用される。即ち、図8において斜線で示した領域の面積をS1とすると、Tfは、下記(24)式に従って算出される。
以下、S1の算出について説明する。本例では、圧縮行程及び膨張行程において、上述の「燃焼による温度上昇」を除いて、「断熱変化」(Tc・Vcκ−1=一定)に基づいて、クランク角度の進行に従って温度が変化するものと仮定する。
CA0における温度(圧縮開始時筒内ガス温度)Tc0の算出については後に詳述する。Tc0が算出されると、「Tc・Vcκ−1=一定」を利用して、CA1における温度Tc1、及びCAigにおける温度Tc2がそれぞれ算出され得る。また、CAigにおけるTc5が算出されると、「Tc・Vcκ−1=一定」を利用して、TDCにおける温度Tc6、及びCA7における温度Tc7がそれぞれ算出され得る。
従って、Tc5が算出できれば、S1を算出することができる。なお、S1として、図8に示した座標平面において、(CA1,Tc1)と(CAig,Tc2)、(CAig,Tc5)と(TDC,Tc6)、(TDC,Tc6)と(CA7,Tc7)をそれぞれ直線で結んで得られる面積を採用してもよい。
以下、Tc5の算出について説明する。Tc5は下記(25)式に従って算出される。(25)式において、Tc3は、燃焼する混合気が全て拡散燃焼したと仮定した場合における着火時期CAigでの「燃焼による温度上昇」後の温度であり、Tc4は、燃焼する混合気が全て予混合燃焼したと仮定した場合における着火時期CAigでの「燃焼による温度上昇」後の温度である。θは、燃焼する全混合気のうちで予混合燃焼が行われる割合である。θは、一定であってもよいし、NE及びqfinに基づいて決定してもよい。
Tc3は下記(26)式に従って算出される。(26)式において、ΔT3は、混合気が全て拡散燃焼したと仮定した場合における燃焼による温度上昇量である。ΔT3は、下記(27)式に従って算出される。(27)式において、Kは、燃料の単位質量あたりの発熱量であり、Cmは混合気の比熱である。Gsは、質量qfinの燃料が拡散燃焼により完全燃焼するために必要な混合気形成筒内ガスの量(質量)であり、上記(10)式と類似する下記(28)式に従って算出される。(28)式において、AF1は拡散燃焼についての平均理論空燃比である。なお、(27)式において、Gsを(Gs+qfin)に置き換えてもよい。
Tc4は下記(29)式に従って算出される。(29)式において、ΔT4は、混合気が全て予混合燃焼したと仮定した場合における燃焼による温度上昇量である。ΔT4は、下記(30)式に従って算出される。(30)式において、Gcylは、吸気行程において燃焼室に吸入されたガスの量(質量)であり、下記(31)式に従って算出される。(31)式において、Tbaseは定数であり、a,bは、エンジン回転速度NEと、予め作製されたテーブルMapa(NE)、Mapb(NE)とからそれぞれ決定される。Tinは吸気の温度であり、例えば、吸気温センサ72の検出結果から得られる。Pinは吸気の圧力であり、例えば、吸気管圧力センサ73の検出結果から得られる。なお、(30)式において、Gcylを(Gcyl+qfin)に置き換えてもよい。
以上のようにTc3、Tc4が算出できるから、上記(25)式に従って拡散燃焼と予混合燃焼との割合が考慮されてTc5が算出できる。これにより、S1が算出できるから、上記(24)式に従って混合気代表温度Tfが算出できる。
<<Tgの算出>>
次に、上記(9)式、(19)式にて使用される周辺筒内ガス代表温度Tgの算出について図8を参照しながら説明する。本例では、Tgとして、Tfと同様、クランク角度CA1かクランク角度CA7までの範囲内における、燃焼に寄与しないガス(周辺筒内ガス)の温度の平均値が採用される。即ち、図8において微細なドットで示した領域の面積をS2とすると、Tgは、下記(32)式に従って算出される。
以下、S2の算出について説明する。周辺筒内ガスは燃焼しない。従って、本例では、圧縮行程及び膨張行程において、周辺筒内ガスの温度は、「断熱変化」(Tc・Vcκ−1=一定)にのみ基づいてクランク角度の進行に従って変化するものと仮定する。
そうすると、後に詳述するように圧縮開始時筒内ガス温度Tc0が算出されると、「Tc・Vcκ−1=一定」を利用して、CA1における温度Tc1、TDCにおける温度Tc6’、及びCA7における温度Tc7’がそれぞれ算出され得る。この結果、S2を算出することができるから、上記(32)式に従って周辺筒内ガス温度Tgが算出できる。
なお、S2として、図8に示した座標平面において、(CA1,Tc1)と(TDC,Tc6’)、(TDC,Tc6’)と(CA7,Tc7’)をそれぞれ直線で結んで得られる面積を採用してもよい。
以上より、上記(9)式、(19)式の右辺の変数の全てが算出できるから、Q1v,Q1pが算出できる。従って、上記(2)式、(4)式の右辺の変数の全てが算出できるから、ΔTv,ΔTpが算出できる。この結果、上記(1)式、(3)式に従って、吸気弁Vinの温度Tv、ピストンPIの温度Tpが逐次算出・更新され得る。
ここで、上述のように、混合気接触面積A1v,A1p、並びに周辺筒内ガス接触面積A2v、A2pが、過渡運転状態において時々刻々と変化し得る総燃料噴射量qfin、混合気代表温度Tf、及び混合気圧力Pmに依存して時々刻々と変化する。従って、A1v,A2vを使用して算出される熱伝達量Q1v(上記(9)式を参照)、並びに、A1p,A2pを使用して算出される熱伝達量Q1p(上記(19)式を参照)も、過渡運転状態において、qfin、Tf、及びPmの変化に依存して時々刻々と変化し得る。
そして、このように、過渡運転状態においてqfin、Tf、及びPmの変化に依存して時々刻々と変化し得る熱伝達量Q1v,Q1pが考慮されて、吸気弁Vinの温度Tv、及びピストンPIの温度Tpが逐次算出・更新される(上記(1)式〜(4)式を参照)。この結果、過渡運転状態において、Tv,Tpを精度良く推定することができる。
(圧縮開始時筒内ガス温度Tc0の推定)
次に、本例における圧縮開始時筒内ガス温度Tc0の推定方法について図9を参照しながら説明する。図9に示すように、インテークマニホールド内の吸気の温度(マニホールド内吸気温度)をTin1とすると、Tin1は、吸気温センサ72から取得できる。
吸気行程において、インテークマニホールド内の温度Tin1の吸気は、高温の吸気ポートから熱伝達を受けながら吸気ポートを通過して吸気弁Vinに到達する。従って、上記吸気弁通過前吸気温度Tin2(吸気弁Vinの周囲を通過する直前の吸気の温度、上記(5)式、(7)式を参照)は、下記(33)式に従って求めることができる。
上記(33)式において、ΔTin1は、吸気ポートからの熱伝達による吸気の温度上昇量であり、下記(34)式に従って求めることができる。(34)式において、Cgは吸気の定圧比熱である。Qinは、吸気ポートからの熱伝達の量であり、下記(35)式に従って求めることができる。(35)式において、Tinwは、吸気ポートの内壁の温度である。Tinwは、周知の手法の一つにより算出され得る。また、Tinwは、冷却水温と強い相関があるから、(35)式において、Tinwを、冷却水温センサ77から検出される冷却水温THWと置き換えることができる。或いは、Tinwは、潤滑油温と強い相関があるから、(35)式において、Tinwを、潤滑油温センサ(図示せず)から検出される潤滑油温Toilと置き換えることができる。
次に、吸気弁Vinの周囲を通過する直前の温度Tin2の吸気は、吸気弁Vinの周囲を介して燃焼室に流入して筒内ガスとなる。このとき、筒内ガスは、高温の吸気弁Vin及びピストンPIから熱伝達を受ける。このように吸気弁Vin、及びピストンPIから熱伝達を受けた後の筒内ガスの温度をTin3とすると、Tin3は、下記(36)式に従って求めることができる。
上記(36)式において、ΔTin2は、吸気弁Vin及びピストンPIからの熱伝達による筒内ガスの温度上昇量であり、下記(37)式に従って求めることができる。(37)式において、Q2v,Q2pはそれぞれ、上記(5)式、(7)式にて求められるQ2v,Q2pと同じである。
次いで、吸気弁Vin、及びピストンPIから熱伝達を受けた後の温度Tin3の筒内ガスは、吸気が燃焼室に吸入される前に既に燃焼室内に残留していた高温のガス(残留ガス)と混ざり合う。このように残留ガスと混ざり合った後の新たな筒内ガスの温度をTc0とすると、Tc0は、以下の手法により求めることができる。
温度Tin3の筒内ガスのエネルギーEgは、下記(38)にて表すことができる。また、残留ガスのエネルギーEexは、下記(39)式にて表すことができる。(39)式において、Cexは、残留ガスの定圧比熱である。Texは、残留ガスの温度である。Texとしては、例えば、排気温センサ78から検出される燃焼室内の排気上死点での温度等が使用され得る。Gexは、残留ガスの量(質量)であり、下記(40)式に従って求めることができる。
(40)式において、Rは、残留ガスのガス定数である。Vtdcは、排気上死点での燃焼室の容積である。Pexは、残留ガスの圧力である。Pexとしては、例えば、排気管圧力センサ79から検出される燃焼室内の排気上死点での圧力等が使用され得る。
上記エネルギーEexを有する質量Gexの残留ガスと上記エネルギーEgを有する質量Gcylの筒内ガスとが外部と熱交換を行うことなく混ざり合って、新たにエネルギー(Eg+Eex)、質量(Gcyl+Gex)、温度Tc0の筒内ガスが形成されるものとすると、下記(41)式が成立する。(41)式において、Ceqは、残留ガスと混ざり合った後の新たな筒内ガスの定圧比熱である。この(41)式をTc0について整理すると、下記(42)式が得られる。
Tc0は、上記(42)式に従って求めることができる。そして、残留ガスと混ざり合った後の温度Tc0の筒内ガスが圧縮行程にて圧縮されると考えることができる。従って、本例では、このTc0が、圧縮開始時筒内ガス温度とされる。
以上のように、圧縮開始時筒内ガス温度Tc0は、燃焼室に流入した吸気(従って、筒内ガス)が吸気弁Vin及びピストンPIから受ける熱伝達(Q2v,Q2p)に基づく温度上昇量ΔTin2(上記(37)式を参照)が考慮されて、算出される。ここで、上述のように、Q2v,Q2p(従って、ΔTin2)は、過渡運転状態において精度良く推定され得る吸気弁Vinの温度Tv、ピストンPIの温度Tpに基づいて算出される(上記(5)式、(7)式を参照)。この結果、圧縮開始時筒内ガス温度Tc0も、過渡運転状態において、精度良く推定され得る。
(噴射時期補正量の算出)
以下、図10〜図12にフローチャートで示したルーチンを参照しながら、上述のように算出される吸気弁温度Tv、ピストン温度Tp、並びに圧縮開始時筒内ガス温度Tc0を用いて噴射時期補正量を算出する手法について説明する。
図10に示したルーチンでは、圧縮開始時筒内ガス温度Tc0の算出、及び噴射時期補正量の算出が行われる。図10に示したルーチンは、例えば、圧縮行程中の所定の時点(例えば、吸気弁Vinの閉弁時点等、噴射時期を決定すべき時点)が到来する毎に繰り返し実行される。
先ず、ステップ1005では、吸気温センサ72の検出結果に基づいて、マニホールド内吸気温度Tin1が取得される。次いで、ステップ1010では、上記(31)式、(33)式、(34)式、(35)式を利用して、吸気弁通過前吸気温度Tin2が算出される。次に、ステップ1015では、上記(5)式、(7)式を利用して、吸気弁Vinと吸気との間で行われる熱伝達の量Q2v、及びピストンPIと吸気との間で行われる熱伝達の量Q2pが算出される。上記(5)式、(7)式において、Tv(k−1),Tp(k−1)としては、後述する図11のルーチンのステップ1140にて更新されているTv(k),Tp(k)の最新値が使用される。
続いて、ステップ1020では、上記(36)式、(37)式を利用して、温度Tin3が算出される。次に、ステップ1025では、上記(38)式、(39)式、(40)式、(42)式を利用して、圧縮開始時筒内ガス温度Tc0が算出される。上記(39)式、(42)式において、残留ガスのエネルギーEexとしては、後述する図11のルーチンのステップ1145にて更新されているEexの最新値が使用される。
次いで、ステップ1030では、エンジン回転速度NEと、総燃料噴射量qfinと、予め作製されたテーブルMapTc0t(NE,qfin)とから、目標圧縮開始時筒内ガス温度Tc0tが決定される。このテーブルMapTc0tは、NEとqfinとを一定に維持した定常運転状態において圧縮行程開始時点での筒内ガス温度を計測する実験を、NEとqfinとの組み合わせを種々変更しながら繰り返すことで作製され得る。
次に、ステップ1035では、温度偏差ΔTc0(=Tc0t−Tc0)が算出される。そして、ステップ1040にて、ΔTc0に基づいて噴射時期補正量が算出されて、ステップ1095にて本ルーチンが一旦終了する。
これにより、ΔTc0>0の場合、噴射時期補正量が進角側に算出される。即ち、噴射時期が、基本噴射時期CAbaseよりも進角側に決定される。これにより、過渡運転状態において、圧縮開始時筒内ガス温度が相対的に低い(従って、圧縮端温度が相対的に低い)ことに起因する「失火」の発生が抑制され得る。
なお、基本噴射時期CAbaseは、NEと、qfinと、予め作製されたテーブルMapCAbase(NE,qfin)とから決定される。このテーブルMapCAbaseは、NEとqfinとを一定に維持した定常運転状態において着火時期を狙いとする時期に調整するために必要な噴射時期を適合する実験を、NEとqfinとの組み合わせを種々変更しながら繰り返すことで作製され得る。
一方、ΔTc0<0の場合、噴射時期補正量が遅角側に算出される。即ち、噴射時期が、基本噴射時期CAbaseよりも遅角側に決定される。これにより、過渡運転状態において、圧縮開始時筒内ガス温度が相対的に高い(従って、圧縮端温度が相対的に高い)ことに起因する「燃焼騒音大」の発生が抑制され得る。
図11に示したルーチンでは、吸気弁温度Tv、ピストン温度Tpの算出が行われる。図11に示したルーチンは、例えば、吸気行程中の所定の時点(例えば、吸気行程開始時点等)が到来する毎に繰り返し実行される。
先ず、ステップ1105では、前回の燃焼サイクルにおける着火時期CAigが取得される。CAigとしては、例えば、筒内圧力センサ75から検出される筒内圧力の履歴に基づいて、筒内圧力が急激に増大したと判定される時期が使用され得る。また、取得されたCAigに基づいて、着火時期での吸気弁Vinの底壁面とピストンPIのキャビティの底壁面との距離Hが取得される。
次に、ステップ1110では、上記(24)式、(32)式を利用して、混合気代表温度Tf、及び周辺筒内ガス代表温度Tgが算出される。次いで、ステップ1115を経由して、図12に示すルーチンが実行される。図12に示したルーチンでは、接触面積A1v,A2v,A1p,A2pの算出が行われる。
先ず、ステップ1205では、上記(10)式、(11)式、(12)式を利用して、1つの噴孔から噴射される燃料についての混合気の体積V1が算出される。次いで、ステップ1210では、上記(13)式、(14)式を利用して、滞留する球形状の各混合気の直径Ds及び表面積Asが算出される。
続いて、ステップ1215では、上記(15)式を利用して、各混合気の表面積の総和(全表面積)Asallが算出される。次に、ステップ1220では、上記(17)式、(21)式、(22)式を利用して、係数Rv,Rpが算出される。
続いて、ステップ1225では、上記(16)式を利用して、吸気弁Vinについての混合気接触面積A1vが算出され、続くステップ1230では、上記(18)式を利用して、吸気弁Vinについての周辺筒内ガス接触面積A2vが算出される。
そして、ステップ1235では、上記(20)式を利用して、ピストンPIについての混合気接触面積A1pが算出され、続くステップ1240では、上記(23)式を利用して、ピストンPIについての周辺筒内ガス接触面積A2pが算出される。その後、図11のステップ1120に戻る。
図11のステップ1120では、上記(9)式、(19)式を利用して、吸気弁Vinが燃焼室内のガスから受ける熱伝達の量Q1v、及びピストンPIが燃焼室内のガスから受ける熱伝達の量Q1pが算出される。次いで、ステップ1125では、上述の図10のステップ1015にて算出されたQ2v,Q2pの最新値が取得される。
続いて、ステップ1130では、上記(6)式、(8)式を利用して、吸気弁Vinがシリンダヘッドシート部に与える熱伝達の量Q3v、及びピストンPIがシリンダ内壁に与える熱伝達の量Q3pが算出される。
次に、ステップ1135では、上記(2)式、(4)式を利用して、吸気弁Vinの温度上昇量ΔTv、及びピストンPIの温度上昇量ΔTpが算出され、続くステップ1140では、上記(1)式、(3)式を利用して、吸気弁温度Tv(k)、及びピストン温度Tp(k)が算出・更新される。これにより、Tv(k−1),Tp(k−1)も、更新前のTv(k),Tp(k)にそれぞれ更新される。このように算出・更新されるTv,Tpは、上述のように、図10のステップ1015にて使用される。
そして、ステップ1145では、上記(39)式を利用して、残留ガスのエネルギーEexが算出されて、ステップ1195にて本ルーチンが一旦終了する。このように算出されるEexは、上述のように、図10のステップ1025にて使用される。
次に、図13、図14を参照しながら、図10に示すルーチンに基づいて温度偏差ΔTc0(=Tc0t−Tc0)による噴射時期補正を行うことによる作用・効果について説明する。なお、上述のように、Tc0は、過渡運転状態においても精度良く推定され得るから、Tc0は、過渡運転状態においても実際の圧縮開始時筒内ガス温度と精度良く一致するものとする。
図13は、時刻t1にて噴射量qfinがステップ的に増大した場合(加速)における目標圧縮開始時筒内ガス温度Tc0t(ステップ1030を参照)、及び圧縮開始時筒内ガス温度Tc0(ステップ1025を参照)の変化の一例を示したタイムチャートである。この場合、図13に示すように、上述のMapTc0t(NE,qfin)にて決定されるTc0tは、時刻t1にて、qfinのステップ的な増大に伴ってステップ的に増大する。
一方、Tc0は、時刻t1以降、遅れを伴ってTc0tに追従していく。この遅れは、残留ガス温度、並びに、吸気弁温度及びピストン温度が遅れを伴って増大していくことに基づく。この結果、時刻t1以降の短期間に亘ってTc0(即ち、実際の圧縮開始時筒内ガス温度)がTc0tに対して不足する(換言すれば、ΔTc0>0となる)(図13において微細なドットで示した領域を参照)。
ここで、温度偏差ΔTc0による噴射時期補正が行われない場合(即ち、噴射時期が上記基本噴射時期CAbaseそのものに決定される場合)、上述のように圧縮開始時筒内ガス温度(従って、圧縮端温度)に不足が生じる期間において「失火」が発生する可能性がある。これに対し、本例のように温度偏差ΔTc0による噴射時期補正が行われる場合、上述のように圧縮開始時筒内ガス温度に不足が生じる期間(即ち、ΔTc0>0となる期間)において噴射時期がCAbaseよりも進角側に決定される。これにより、上述の「失火」の発生が抑制され得る。
図14は、時刻t2にて噴射量qfinがステップ的に減少した場合(減速)におけるTc0t(ステップ1030を参照)、及びTc0(ステップ1025を参照)の変化の一例を示したタイムチャートである。この場合、図14に示すように、上述のMapTc0t(NE,qfin)にて決定されるTc0tは、時刻t2にて、qfinのステップ的な減少に伴ってステップ的に減少する。
一方、Tc0は、時刻t2以降、遅れを伴ってTc0tに追従していく。この遅れは、残留ガス温度、並びに、吸気弁温度及びピストン温度が遅れを伴って減少していくことに基づく。この結果、時刻t2以降の短期間に亘ってTc0(即ち、実際の圧縮開始時筒内ガス温度)がTc0tに対して過剰となる(換言すれば、ΔTc0<0となる)(図14において微細なドットで示した領域を参照)。
ここで、温度偏差ΔTc0による噴射時期補正が行われない場合(即ち、噴射時期が上記基本噴射時期CAbaseそのものに決定される場合)、上述のように圧縮開始時筒内ガス温度(従って、圧縮端温度)が過剰となる期間において「燃焼騒音大」が発生する可能性がある。これに対し、本例のように温度偏差ΔTc0による噴射時期補正が行われる場合、上述のように圧縮開始時筒内ガス温度が過剰となる期間(即ち、ΔTc0<0となる期間)において噴射時期がCAbaseよりも遅角側に決定される。これにより、上述の「燃焼騒音大」の発生が抑制され得る。
以上、本例のように温度偏差ΔTc0による噴射時期補正が行われると、過渡運転状態において生じ得る上述した圧縮開始時筒内ガス温度の過不足に基づいて噴射時期が適切に補正され得る。この結果、過渡運転状態においても、着火時期が適切に調整されて「失火」や「燃焼騒音大」の発生を抑制することができる。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、目標圧縮開始時筒内ガス温度Tc0tと圧縮開始時筒内ガス温度Tc0との比較結果に基づいて噴射時期補正量が算出されているが、Tc0から周知の手法の一つに従って(例えば、冷却水温等に基づいて)圧縮端温度を算出するとともに、目標圧縮端温度をNEとqfinとの組み合わせから決定し、目標圧縮端温度と算出された圧縮端温度との比較結果に基づいて噴射時期補正量が算出されてもよい。
また、上記実施形態では、上述した種々の熱伝達量(Q1v,Q2v,Q3v,Q1p,Q2p,Q3p等)がNEに依存して算出されていないが、上述した種々の熱伝達量がNEに依存して算出されてもよい。この場合、上述した種々の熱伝達量は、NEが大きいほど(即ち、Tv,Tpが更新される時間間隔が短いほど)より小さい値に計算される。
また、上記実施形態では、吸気弁温度TvがQ1v,Q2v,Q3vに基づいて算出・更新され、ピストン温度TpがQ1p,Q2p,Q3pに基づいて算出・更新されているが(上記(1)式〜(4)式を参照)、吸気弁温度TvがQ1vにのみ基づいて算出・更新され、ピストン温度TpがQ1pにのみ基づいて算出・更新されてもよい。
加えて、上記(5)式によるQ2vの算出にあたり、吸気弁Vinの周囲を通過した後(直後)の吸気の温度をTin2’としたとき、(5)式中のTin2を、Tin2’に置き換えてQ2vを算出してもよい。同様に、上記(7)式によるQ2pの算出にあたり、(7)式中のTin2を、Tin2’に置き換えてQ2pを算出してもよい。
60…電気制御装置、72…吸気温センサ、73…吸気管圧力センサ、75…筒内圧力センサ、76…エンジン回転速度センサ、77…冷却水温センサ、78…排気温センサ、79…排気管圧力センサ、INJ…燃料噴射弁、PI…ピストン、吸気弁Vin