JP6628019B1 - プレス成形鋼品 - Google Patents
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Abstract
Description
本願は、2018年4月13日に、日本国に出願された特願2018−077657号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
また、特許文献4に開示された技術は、高強度となる部位と、低強度で伸びの特性が向上した部位とに分ける技術であり、耐摩耗性の向上に寄与するものではない。
すなわち、本発明の一態様に係るプレス成形鋼品は、第一の部位と前記第一の部位に一体に連なる第二の部位とを有するプレス成形鋼品であって、前記第一の部位の金属組織中のマルテンサイト分率が体積%で90%以上であり、前記第一の部位の旧γ粒径のアスペクト比が、前記第二の部位の旧γ粒径のアスペクト比の1.4倍以上である。
本実施形態のプレス成形鋼品10は、縦壁部12である第一の部位10aの耐摩耗性向上を目的として、第一の部位10aの金属組織中のマルテンサイト分率が体積%で90%以上であり、第一の部位10aの旧γ粒径のアスペクト比が、第二の部位10bの旧γ粒径のアスペクト比の1.4倍以上であることを特徴としている。また、プレス成形鋼品10は、第一の部位10aの旧γ粒径のアスペクト比が1.5以上であるものとしても良い。また、これらのプレス成形鋼品10において、第一の部位10aの厚さ方向中心部における当該厚さ方向のビッカース硬さは、第二の部位10bの厚さ方向中心部における当該厚さ方向のビッカース硬さよりも5%以上高いものとしても良い。また、これらのプレス成形鋼品10において、第一の部位10aの厚さ方向におけるビッカース硬さが、当該厚さ方向の中心部に対して表面部の方が2%以上高いものとしても良い。さらに、第一の部位10aの厚さが第二の部位10bの厚さに対して10%以上小さいものとしても良い。
このようなプレス成形鋼品10では、第一の部位10aの金属組織中のマルテンサイト分率が体積%で90%以上であり、より好ましくは体積%で95%以上又は97%以上である。マルテンサイト分率を90%以上とすることで、第一の部位10aの強度を高めることができる。なお、第一の部位10aにおけるマルテンサイト以外の残部は、残留オーステナイト、ベイナイト、パーライト、フェライトが含まれる場合がある。また、第二の部位10bについても第一の部位10aと同様にマルテンサイト分率が体積%で90%以上であっても良い。このようにすることで、第二の部位10bについても高強度の部材とすることができる。第二の部位10bについても第一の部位10aと同様に、後述する加熱工程S1、加工・冷却工程S2及び冷却工程S3を実施することで、同様のマルテンサイト分率とすることができる。ここで、マルテンサイト分率は体積分率で求められるが、金属組織面におけるマルテンサイトの占める面積率から求めるものとしても良い。
後述するとおり、熱間プレス成形時に存在する過冷オーステナイトは、加工後の冷却により主にマルテンサイトに変態する。第一の部位10aは、熱間プレス成形により塑性加工を受けた結果、過冷オーステナイト中に転位が蓄積され、そのアスペクト比は高くなる。一方、第二の部位10bは、第一の部位10a同様の塑性加工を施さない又は塑性加工度が小さいため、過冷オーステナイトには同様の転位が蓄積されず、粒径のアスペクト比も変化しない、または、その変化が第一の部位10aと比較して小さい。これにより、第二の部位10bの旧γ粒径のアスペクト比に対する第一の部位10aの旧γ粒径のアスペクト比の比(以下、単にアスペクト比の比率と称する)は、1.4倍以上であり、より好ましくは1.5倍以上、1.7倍以上、2.0倍以上、2.2倍以上又は2.4倍以上である。このようにアスペクト比の比率を1.4倍以上とすることで、第一の部位10aでは第二の部位10bに比較して転位密度の高いマルテンサイトを得ることができ、これにより第二の部位10bと比較して硬さを高くすることができ耐摩耗性及び疲労強度を向上させることができる。また、アスペクト比の比率の上限は、10.0倍であることが好ましく、より好ましくは7.0倍、5.0倍、3.0倍である。なお、第一の部位10a及び第二の部位10bの旧γ粒径の各アスペクト比は、それぞれ、試験片の研磨後にピクリン酸飽和水溶液などの公知の腐食液により旧γ粒を出現させた上で、光学顕微鏡で例えば0.05μm2以上の範囲を観察し、個々の各旧γ粒径のアスペクト比の測定値の平均値である。第一の部位10a及び第二の部位10bの各アスペクト比は、それぞれ厚さ方向に表面から板厚の1/4の位置において測定される。第一の部位10aの測定位置については耐摩耗性が求められる側の表面から板厚の1/4の位置とすることが好ましい。アスペクト比の比率は、上記のようにして第一の部位10a及び第二の部位10bのアスペクト比を測定し、第一の部位10aのアスペクト比を第二の部位10bのアスペクト比で割ることにより求められる。計算値であるアスペクト比の比率は、第一の部位10aのアスペクト比を第二の部位10bのアスペクト比で割った値について、小数点第2位を四捨五入して小数点1位までとした値とする。なお、アスペクト比を測定する第一の部位10aの長さ方向の位置としては特に限定されないが、例えば長さ方向に中央となる位置とすることができる。また、第二の部位10bでは、円板の中心となる位置とすることができる。
第一の部位10aにおける厚さ方向中心部における厚さ方向のビッカース硬さは、第二の部位10bにおける厚さ方向中心部における厚さ方向のビッカース硬さよりも5%以上高く、より好ましくは7%以上、10%以上又は15%以上高い。このようにすることで、第一の部位10aでは第二の部位10bに対して硬く耐摩耗性及び疲労強度を向上させることができる。また、第一の部位10aにおいて、厚さ方向のビッカース硬さは、厚さ方向中心部に対して摩擦や繰り返し荷重を直接受ける表面部の方が2%以上高いものとしても良く、より好ましくは、3%以上、5%以上又は10%以上高いものとしても良い。摩耗を直接受ける部分は表面部であるため、このようにすることで耐摩耗性を向上することができる。また、繰り返し荷重における疲労亀裂は表面から発生・進展するため、このように表面部をより高硬度化することで疲労亀裂の発生を防止するとともに疲労亀裂の進展を抑制することができ、疲労強度を向上させることができる。一方で、第二の部位10bの硬さは第一の部位10aに比較して硬さが低いので、第二の部位10bによりプレス成形鋼品全体としての靱性を確保することができる。また、第一の部位10aにおいても、上記のとおり最も摩擦及び繰り返し荷重の影響を受ける表面部は硬くするとともに、中心部は表面部に比較して硬さを抑制することで第一の部位10aとしても靱性を確保することができる。特に、トランスミッション部品などでは、耐摩耗性及び疲労強度とともに、過負荷が生じた場合において脆性破壊をしないことが重要である。この点において、上記のとおり第一の部位10aと第二の部位10bにおける硬さの相違、第一の部位10aの中心部と表面部における硬さの相違により、耐摩耗性及び疲労強度とともに靱性を確保することは重要である。なお、表面部のビッカース硬さは、表面から厚さ方向に50μmの位置で測定される。また、上記ビッカース硬さは、例えば、JIS Z2244:2009の規格に従い、試験力50gfによるビッカース硬さHV0.05により測定できる。また、計算値である第一の部位10aと第二の部位10bのビッカース硬さの比率は、第一の部位10aのビッカース硬さを第二の部位10bのビッカース硬さで割った値について、小数点第3位を四捨五入して小数点2位までとした値を百分率表示した値とする。計算値である第一の部位10aにおける表面部と中心部のビッカース硬さの比率についても同様である。なお、ビッカース硬さを測定する第一の部位10aの長さ方向の位置としては特に限定されないが、例えば長さ方向に中央となる位置とすることができる。また、第二の部位10bでは、円板の中心となる位置とすることができる。
第一の部位10aの厚さ(板厚)は、第二の部位10bの厚さ(板厚)よりも5%以上小さいことが好ましく、より好ましくは8%以上、10%以上、20%以上又は30%以上小さいことがよい。後述する塑性加工により第一の部位10aは、第二の部位10bの厚さから厚さ方向に塑性変形を受け減肉する。これにより第一の部位10aはアスペクト比の大きい旧γ粒径を有し、第二の部位10bと比較して厚さ方向中心部における厚さ方向のビッカース硬さが高くなるため、耐摩耗性、疲労強度を向上させることができる。なお、計算値である第一の部位10aと第二の部位10bの厚さの比率は、第一の部位10aの厚さを第二の部位10bの厚さで割った値について、小数点第3位を四捨五入して小数点2位までとした値を百分率表示した値とする。プレス加工前の厚さが異なる鋼材を用いると、第一の部位10aの厚さが、第二の部位10bの厚さより5%未満とすることができる。このため、この第一の部位10aの厚さと第二の部位10bの厚さとの比を、特に規定する必要はない。
すなわち、本実施形態に係るプレス成形鋼品の例では、質量%で、
C:0.10〜1.50%、
Si:0.01〜1.00%、
Mn:0.01〜3.00%、
P:0.1000%以下、
S:0.1000%以下、
Al:0〜0.500%、
N:0〜0.0500%、
O:0〜0.0500%
Cr:0〜2.000%、
Mo:0〜2.000%、
Ni:0〜2.000%、
Cu:0〜1.000%、
Nb:0〜1.000%、
V:0〜1.000%、
Ti:0〜1.000%、
B:0〜0.0500%、
W:0〜1.000%、
Ta:0〜1.000%、
Sn:0〜0.020%、
Sb:0〜0.020%、
As:0〜0.020%、
Mg:0〜0.0200%、
Ca:0〜0.020%、
Zr:0〜0.020%、
REM:0〜0.040%、
残部:Feおよび不純物
であっても良い。
Cは、焼入れの熱処理により鋼の強度を高める元素である。中・高炭素鋼板は、成形後、自動車のチェーン、ギヤー、クラッチ等の駆動系部品及び鋸、刃物等の素材として用いられる前に、焼入れ及び焼入れ焼戻しの熱処理が施されることにより、部品として必要な強度あるいは靭性を確保する。C含有量が0.10%未満では、焼入れによる強度の増加を得られないので、0.10%をC含有量の下限とする。一方、C含有量が1.50%を超えると、冷延焼鈍後において、粒子内部に結晶界面を持つ炭化物の個数割合が増加し、絞りが低下するので、C含有量の上限を1.50%とする。より好ましくは、C含有量は0.15〜1.30%である。
Siは、脱酸剤として作用し、また、熱延板焼鈍および冷延板焼鈍における炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。Siの含有量が0.01%未満では、上述の効果が得られないので、Si含有量の下限を0.01%とする。一方、Si含有量が1.00%を超えると、フェライトがヘキ開破壊しやすくなり、絞りが低下するので、Si含有量の上限を1.00%とする。Si含有量は、より好ましくは0.05%以上、0.80%以下であり、さらに好ましくは0.08%以上、0.50%以下である。
Mnは、Siと同様に熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。Mn含有量が0.01%未満では、上述の効果が得られないので、Mn含有量の下限を0.01%とする。一方、Mn含有量が3.00%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、変形において、針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下する。従って、Mn含有量の上限を3.00%とする。Mn含有量は、より好ましくは0.30%以上、2.50%以下、さらに好ましくは0.50%以上、1.50%以下である。
Pは、フェライト粒界を脆化させる不純物元素である。P含有量は少ないほど好ましいが、精錬工程においてP含有量0.0001%未満にして鋼を高純度化する場合、精錬のために要する時間が多くなり、製造コストの大幅な増加を招くので、P含有量の下限を0.0001%とする。一方、P含有量が0.1000%を超えると、フェライト粒界から割れが発生し、絞りが低下するので、P含有量の上限を0.1000%とする。P含有量は、より好ましくは0.0010%以上、0.0500%以下、更に好ましくは0.0020%以上0.0300%以下である。
Sは、MnSなどの非金属介在物を形成する不純物元素であり、非金属介在物は割れ発生の起点となるので、S含有量は少ないほど好ましい。しかし、S含有量を0.0001%未満に低減することは、精錬コストの大幅な増加を招くので、S含有量の下限を0.0001%とする。一方、0.1000%を超えてSを含有すると、絞りの低下が著しくなるので、S含有量の上限を0.1000%以下とする。S含有量は、より好ましくは0.0003%以上、0.0300%以下である。
Alは、鋼の脱酸剤として作用する元素である。Al含有量が0.001%未満では、含有効果が十分に得られないので、Al含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Al含有量が0.500%を超えるとフェライトの粒界を脆化させ、変形における絞りの低下を引き起こす。このため、Al含有量の上限を0.500%としてもよい。Al含有量はより好ましくは0.005%以上0.300%以下であり、さらに好ましくは0.010%以上0.100%以下である。
Nは、鋼のベイナイト変態を促進させるとともに、多量の含有によりフェライトの脆化を引き起こす元素である。N含有量は少ないほど好ましいが、N含有量を0.0001%未満に低減することは精錬コストの増加を招くので、N含有量の下限を0.0001%としてもよい。一方、N含有量が0.0500%を超える場合、変形時にフェライトの割れを引き起こすので、N含有量の上限を0.0500%としてもよい。N含有量は、より好ましくは0.0010%以上、0.0250%以下であり、さらに好ましくは0.0020%以上、0.0100%以下である。
Oは、多量の含有により鋼中に粗大な酸化物の形成を促す元素であるので、O含有量は少ないほうが好ましい。しかし、O含有量を0.0001%未満に低減することは、精錬コストの増加を招くので、0.0001%をO含有量の下限としてもよい。一方、O含有量が0.0500%を超える場合、鋼中に粗大な酸化物が形成し、粗大な酸化物を起点とした割れが発生するので、O含有量の上限を0.0500%としてもよい。O含有量は、より好ましくは0.0005%以上、0.0250%以下であり、さらに好ましくは0.0010%以上、0.0100%以下である。
Crは、Si、Mnと同様に熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。しかしCr含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、Cr含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Cr含有量が2.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍で炭化物が球状化しにくくなり、変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Cr含有量の上限を2.000%としてもよい。Cr含有量は、より好ましくは0.005%以上、1.500%以下、さらに好ましくは0.010%以上、1.300%以下である。
Moは、Si、Mn、Crと同様に熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。Mo含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、Mo含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Mo含有量が2.00%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍で炭化物が球状化しにくくなり、変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Mo含有量の上限を2.00%としてもよい。Mo含有量は、より好ましくは0.005%以上、1.900%以下、さらに好ましくは0.008%以上、0.800%以下である。
Niは、部品の靭性の向上、および焼入れ性の向上のために有効な元素である。その効果を有効に発揮させるためには、0.001%以上のNiを含有させることが好ましい。一方、Ni含有量が2.000%を超えると、絞りが低下するので、Ni含有量の上限を2.000%としてもよい。Ni含有量は、より好ましくは0.005%以上、1.500%以下、さらに好ましくは0.005%以上、0.700%以下である。
Cuは、微細な析出物の形成により鋼材の強度を増加させる元素である。強度増加の効果を有効に発揮するためには、0.001%以上のCuの含有が好ましい。一方、Cu含有量が1.00%を超えると、絞りが低下するので、Cu含有量上限を1.00%としてもよい。Cu含有量は、より好ましくは0.003%以上、0.500%以下、さらに好ましくは0.005%以上、0.200%以下である。
Nbは、炭窒化物を形成し、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。Nb含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、Nb含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Nb含有量が1.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Nb含有量の上限を1.000%としてもよい。Nb含有量は、より好ましくは0.005%以上、0.600%以下、さらに好ましくは0.008%以上、0.200%以下である。
Vも、Nbと同様に、炭窒化物を形成し、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。V含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、V含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、V含有量が1.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、V含有量の上限を1.000%としてもよい。V含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.750%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.250%以下である。
Tiも、Nb、およびVと同様に、炭窒化物を形成し、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。Ti含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、Ti含有量の下限を0.001%以上としてもよい。一方、Ti含有量が1.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Ti含有量の上限を1.000%としてもよい。Ti含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.500%以下、さらに好ましくは0.003%以上、0.150%以下である。
Bは、部品の熱処理時の焼入れ性を改善する元素である。B含有量が0.0001%未満では、上述の効果が得られないので、B含有量の下限を0.0001%としてもよい。B含有量が0.0500%を超えると、粗大なFe−B−C化合物を生成し、変形時に割れの起点となり、絞りを低下させるので、B含有量の上限を0.0500%としてもよい。B含有量は、より好ましくは0.0005%以上、0.0300%以下、さらに好ましくは0.0010%以上、0.0100%以下である。
Wも、Nb、V、およびTiと同様に、炭窒化物を形成し、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。W含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、W含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、W含有量が1.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、W含有量の上限を1.000%としてもよい。W含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.450%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.160%以下である。
Taも、Nb、V、Ti、およびWと同様に、炭窒化物を形成し、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。Ta含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、Ta含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Ta含有量が1.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Ta含有量の上限を1.000%以下としてもよい。Ta含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.750%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.150%以下である。
Snは、鋼原料としてスクラップを用いた場合に鋼中に含有される元素であり、Sn含有量は少ないほど好ましい。Sn含有量を0.001%未満に低減する場合、精錬コストの増加を招くので、Sn含有量の下限を0.001%としてもよい。また、Sn含有量が0.020%を超える場合、フェライトが脆化し、変形において絞りが低下するので、Sn含有量の上限を0.020%としてもよい。Sn含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.010%以下である。
Sbは、Snと同様に鋼原料としてスクラップを用いた場合に鋼中に含有される元素であり、Sb含有量は少ないほど好ましい。Sb含有量を0.001%未満に低減する場合、精錬コストの増加を招くので、Sb含有量の下限を0.001%としてもよい。また、Sb含有量が0.020%を超える場合、フェライトが脆化し、変形において絞りが低下するので、Sb含有量の上限を0.020%以下としてもよい。Sb含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.011%以下である。
Asは、Sn、及びSbと同様に鋼原料としてスクラップを用いた場合に含有される元素であり、As含有量は少ないほど好ましい。As含有量を0.001%未満に低減する場合、精錬コストの増加を招くので、As含有量の下限を0.001%としてもよい。また、As含有量が0.020%を超える場合、フェライトが脆化し、変形において絞りが低下するので、As含有量の上限を0.020%以下としてもよい。As含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.007%以下である。
Mgは、含有量が微量であっても硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有できる。Mg含有量が0.0001%未満ではその効果は得られないので、Mg含有量の下限を0.0001%としてもよい。一方、Mgを過剰に含有した場合、フェライトの粒界が脆化し、変形において絞りの低下を招くので、Mg含有量の上限を0.0200%としてもよい。Mg含有量は、より好ましくは0.0001%以上、0.0150%以下、さらに好ましくは0.0001%以上、0.0075%以下である。
Caは、Mgと同様に含有量が微量であっても硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有できる。Ca含有量が0.001%未満ではその効果は得られないので、Ca含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Caを過剰に含有した場合、フェライトの粒界が脆化し、変形において絞りの低下を招くので、Ca含有量の上限を0.020%としてもよい。Ca含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.010%以下である。
Zrは、Mg、Ca、Yと同様に含有量が微量であっても硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有できる。Zr含有量が0.001%未満ではその効果は得られないので、Zr含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Zrを過剰に含有する場合、フェライトの粒界が脆化し、変形において絞りの低下を招くので、Zr含有量の上限を0.020%としてもよい。Zr含有量は、より好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
REM(希土類金属元素)は、Sc、Yおよびランタノイドからなる合計17元素を意味し、REM含有量とはこれら17元素の含有量の合計を意味する。REMは、Mg、Ca、およびZrと同様に含有量が微量であっても硫化物の形態制御に有効な元素であり、必要に応じて含有しても良い。REM含有量が0.001%未満ではその効果は得られないので、REM含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、REMを過剰に含有する場合、フェライトの粒界が脆化し、変形において絞りの低下を招くので、REM含有量の上限を0.040%としてもよい。REM含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.010%以下である。
Ms=560.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−19.8×Cr−19.5×Ni−20.5×Cu−4.5×Mo ・・・・・・(1)
ただし、式(1)中のC、Si、Mn、Cr、Ni、Cu、Moは、各成分の質量%を示している。
温度T2がマルテンサイト開始温度Ms未満であると後述する追加加工が完了する前に過冷オーステナイトがマルテンサイトに変態してしまう。また、700℃を超えてしまうと加工時に再結晶化が進んでしまい、過冷オーステナイト中に転位が蓄積されず(再結晶により転位が消滅し)、アスペクト比の高いオーステナイトを得ることができず、硬さを高めることができなくなる。
表2、表3に示すように、発明例1−1〜1−12及び比較例1〜5について、各鋼種A、B、Cの鋼材を用いて、加工条件として、加熱工程S1における加熱温度T1、加工・冷却工程S2における平均冷却速度CR2、温度T2、700℃〜温度T2の範囲における追加加工での(第一の部位の)塑性歪みを異なるようにした。なお、表2には、さらに、Ac3又はAcm温度、マルテンサイト変態開始温度Ms、また、表3には、追加加工によって得られる(第一の部位の)しごき率を示す。しごき率は、加工前の厚さに対する加工前から加工後における厚さの減少量の百分率として求められる。発明例1−1〜1−12ではいずれも第一の部位10aにおけるマルテンサイト分率が90%以上であり、アスペクト比の比率が1.4倍以上、第一の部位10aのアスペクト比が1.5以上であった。一方、比較例1、3、4ではマルテンサイト分率が70%、80%、30%と90%未満であった。温度T2は、加工終了温度でもある。
表4、表5に示すように、発明例2−1〜2−9ではいずれも第一の部位10aにおけるマルテンサイト分率が90%以上であり、アスペクト比の比率が1.4倍以上、第一の部位10aのアスペクト比が1.5以上であった。温度T2は、加工終了温度でもある。さらに、発明例2−1〜2−9では、第一の部位10aの厚さ方向中心部における厚さ方向のビッカース硬さは、第二の部位10bの厚さ方向中心部における厚さ方向のビッカース硬さに対して2%以上高い値を示した。ビッカース硬さは、試験力50gfにより実施した。また、実施例1同様に耐摩耗性について評価を行った。そして、発明例2−1〜2−9ではより高い耐摩耗性を得ることができた。なお、実施形態にも記載したとおり、ビッカース硬さの比率は計算結果の小数点第3位を四捨五入して小数点第2位までとした値とする。
表6、表7に示すように、発明例3−1〜3−5ではいずれも第一の部位10aにおけるマルテンサイト分率が90%以上であり、アスペクト比の比率が1.4倍以上、第一の部位10aのアスペクト比が1.5以上であった。温度T2は、加工終了温度でもある。さらに、発明例3−1〜3−5では、第一の部位10aの厚さ方向のビッカース硬さが、中心部に対して表面部で2%以上高い値を示した。ビッカース硬さの測定条件は実施例2と同様である。表面部のビッカース硬さは表面より厚さ方向に50μmの位置で測定した。また、実施例1同様に耐摩耗性について評価を行った。そして、発明例3−1〜3−5ではより高い耐摩耗性を得ることができた。なお、実施形態にも記載したとおり、ビッカース硬さの比率は計算結果の小数点第3位を四捨五入して小数点第2位までとした値とする。
表8、表9に示すように、発明例4−1〜4−5ではいずれも第一の部位10aにおけるマルテンサイト分率が90%以上であり、アスペクト比の比率が1.4倍以上、第一の部位10aのアスペクト比が1.5以上であった。温度T2は、加工終了温度でもある。さらに、発明例4−1〜4−5では、第一の部位10aの厚さが第二の部位10bの厚さに対して10%以上小さくなるまで加工された。実施例1同様に耐摩耗性について評価を行った。そして、発明例4−1〜4−5ではより高い耐摩耗性を得ることができた。なお、実施形態にも記載したとおり、厚さの比率は計算結果の小数点第3位を四捨五入して小数点第2位までとした値とする。
例えば、上記各実施形態及び実施例においてプレス成形鋼品10は、円板状の底部11(第二の部位10b)及び円筒状の縦壁部12(第一の部位10a)を備えるカップ形状とするものとしたが、これに限られるものではない。プレス成形鋼品は、第二の部位10bが矩形状のものや、第一の部位10aが第二の部位10bの周縁の一部に形成されているものとし、例えば断面がU字状や断面ハット形の長尺部品としても良い。ここで、本実施形態及び実施例におけるプレス成形鋼品10は、第一の部位10aが高い耐摩耗性を有しているが故に通常焼き入れ部よりも強度が高いので、センターピラーなどの長尺部品などにも好適である。また、プレス成形品10は、円板状の鋼材20から上記方法により加工されるものとしたがこれに限られるものではなく、矩形状の鋼材20で形成され、その一部分が第一の部位10a、他の部分が第二の部位10bとしても良い。プレス成形鋼品10において、第一の部位10aが第二の部位10bに対して厚さが異なる場合、例えば一定の厚さの鋼材のうち第一の部位10aとなる部分をしごき加工等して厚さを変化させて第一の部位10aを形成した場合、厚さの相違に基づいて第一の部位10aの範囲と第二の部位10bの範囲をそれぞれ特定しても良い。また、プレス成形品10は、第一の部位10aと第二の部位10bとで同一の厚さとしても良い。例えば、厚さが部位によって異なる鋼材を用いて、厚さが大きい部位について加工して第一の部位10aを形成することで、第一の部位10aと第二の部位10bとを同一の厚さとすることもできる。この場合、第一の部位10aの範囲と第二の部位10bの範囲は、旧γ粒のアスペクト比や、ビッカース硬さなどにより特定することができる。
10a 第一の部位
10b 第二の部位
11 底部
12 縦壁部
Claims (8)
- 第一の部位と前記第一の部位に一体に連なる第二の部位とを有するプレス成形鋼品であって、
前記第一の部位の金属組織中のマルテンサイト分率が体積%で90%以上であり、
前記第一の部位の旧γ粒径のアスペクト比が、前記第二の部位の旧γ粒径のアスペクト比の1.4倍以上であるプレス成形鋼品。 - 前記第一の部位の旧γ粒径のアスペクト比が1.5以上である請求項1に記載のプレス成形鋼品。
- 前記第一の部位の厚さ方向中心部における当該厚さ方向のビッカース硬さは、前記第二の部位の厚さ方向中心部における当該厚さ方向のビッカース硬さよりも5%以上高い請求項1または請求項2に記載のプレス成形鋼品。
- 前記第一の部位の厚さ方向におけるビッカース硬さが、当該厚さ方向の中心部に対して表面部の方が2%以上高い請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のプレス成形鋼品。
- 前記第一の部位の厚さが、前記第二の部位の厚さよりも10%以上小さい請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のプレス成形鋼品。
- 円板状に形成された底部と、
前記底部の周縁から円筒状に突出している縦壁部とを備え、
前記底部が前記第二の部位であり、
前記縦壁部が前記第一の部位である請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のプレス成形鋼品。 - 前記第一の部位は他の部品と接触する接触面を有する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のプレス成形鋼品。
- トランスミッション部品である請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のプレス成形鋼品。
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