以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
まず、本実施形態に係る電気化学素子の検査方法、および製造方法が適用される電気化学素子の例として非水電解液リチウムイオン二次電池について説明する。ただし、電気化学素子は、非水電解液リチウムイオン二次電池に限定されず、例えば、電気二重層コンデンサであってもよい。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1は、積層型(扁平型)の双極型ではない非水電解液リチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の基本構成を模式的に表した断面概略図である。図1に示すように、積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の積層体である発電要素21が、外装材29の内部に余剰空間20が存在するように封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、セパレータ17と、負極とを積層した構成を有している。なお、セパレータ17は、非水電解液を内蔵している。非水電解液には、液体電解質および高分子ゲル電解質などのゲル状電解質が含まれる。正極は、正極集電体12の両面に正極活物質層15が配置された構造を有する。負極は、負極集電体11の両面に負極活物質層13が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、セパレータ17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10は、単電池層19が複数積層され、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
外装材29の内部に発電要素21とともに非水電解液が封入されることにより、発電要素21に非水電解液が供給され、セパレータ17、正極活物質層15、および負極活物質層13に非水電解液が含浸する。セパレータ17、正極活物質層15、および負極活物質層13は含浸した非水電解液を保持する。
発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに負極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層正極集電体が位置するようにし、該最外層正極集電体の片面または両面に正極活物質層が配置されているようにしてもよい。
正極集電体12および負極集電体11は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板(タブ)27および負極集電板(タブ)25がそれぞれ取り付けられ、外装材29の端部に挟まれるようにして外装材29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体12および負極集電体11に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
なお、図1では、扁平型(積層型)の双極型ではない積層型電池を示したが、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層と、を有する双極型電極を含む双極型電池であってもよい。この場合、一の集電体が正極集電体および負極集電体を兼ねることとなる。
以下、各部材について、さらに詳細に説明する。
[集電体]
正極集電体12および負極集電体11を構成する材料に特に制限はないが、好適には金属が用いられる。具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅、その他合金等などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅が好ましい。
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
[正極活物質層]
正極活物質層15は正極活物質を含み、必要に応じて、導電助剤、バインダー、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤をさらに含む。
正極活物質としては、例えば、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、Li(Ni−Mn−Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。より好ましくは、Li(Ni−Mn−Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LiaNibMncCodMxO2(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。サイクル特性の観点からは、一般式(1)において、0.4≦b≦0.6であることが好ましい。なお、各元素の組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)は、材料の純度向上および電子伝導性向上という観点から、容量および出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中の遷移金属を一部置換するものである。サイクル特性の観点からは、遷移元素の一部が他の金属元素により置換されていることが好ましく、特に一般式(1)において0<x≦0.3であることが好ましい。Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種が固溶することにより結晶構造が安定化されるため、その結果、充放電を繰り返しても電池の容量低下が防止でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
より好ましい実施形態としては、一般式(1)において、b、cおよびdが、0.44≦b≦0.51、0.27≦c≦0.31、0.19≦d≦0.26であることが、容量と耐久性とのバランスに優れる点で好ましい。
なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
正極活物質層に含まれる活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。
正極活物質層に用いられるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその塩、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのバインダーは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
正極活物質層中に含まれるバインダー量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
バインダー以外のその他の添加剤については、上記負極活物質層の欄と同様のものを用いることができる。
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、Li4Ti5O12)、金属材料、リチウム合金系負極材料などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、炭素材料またはリチウム−遷移金属複合酸化物が、負極活物質として用いられる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
負極活物質層に含まれるそれぞれの活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜30μmである。
負極活物質層がバインダーを含む場合には、水系バインダーを含むことが好ましい。水系バインダーは、原料としての水の調達が容易であることに加え、乾燥時に発生するのは水蒸気であるため、製造ラインへの設備投資が大幅に抑制でき、環境負荷の低減を図ることができるという利点がある。
水系バインダーとは水を溶媒もしくは分散媒体とするバインダーをいい、具体的には熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー、水溶性高分子など、またはこれらの混合物が該当する。ここで、水を分散媒体とするバインダーとは、ラテックスまたはエマルジョンと表現される全てを含み、水と乳化または水に懸濁したポリマーを指し、例えば自己乳化するような系で乳化重合したポリマーラテックス類が挙げられる。
水系バインダーとしては、具体的にはスチレン系高分子(スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−アクリル共重合体等)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル-ブタジエンゴム、(メタ)アクリル系高分子(ポリエチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリプロピルアクリレート、ポリメチルメタクリレート(メタクリル酸メチルゴム)、ポリプロピルメタクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリイソプロピルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリヘキシルメタクリレート、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリエチルヘキシルメタクリレート、ポリラウリルアクリレート、ポリラウリルメタクリレート等)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブタジエン、ブチルゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンオキシド、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ポリビニルピリジン、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂;ポリビニルアルコール(平均重合度は、好適には200〜4000、より好適には、1000〜3000、ケン化度は好適には80モル%以上、より好適には90モル%以上)およびその変性体(エチレン/酢酸ビニル=2/98〜30/70モル比の共重合体の酢酸ビニル単位のうちの1〜80モル%ケン化物、ポリビニルアルコールの1〜50モル%部分アセタール化物等)、デンプンおよびその変性体(酸化デンプン、リン酸エステル化デンプン、カチオン化デンプン等)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩等)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸(塩)、ポリエチレングリコール、(メタ)アクリルアミドおよび/または(メタ)アクリル酸塩の共重合体[(メタ)アクリルアミド重合体、(メタ)アクリルアミド−(メタ)アクリル酸塩共重合体、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜4)エステル−(メタ)アクリル酸塩共重合体など]、スチレン−マレイン酸塩共重合体、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性体、ホルマリン縮合型樹脂(尿素−ホルマリン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂等)、ポリアミドポリアミンもしくはジアルキルアミン−エピクロルヒドリン共重合体、ポリエチレンイミン、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白、並びにマンナンガラクタン誘導体等の水溶性高分子などが挙げられる。これらの水系バインダーは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用して用いてもよい。
上記水系バインダーは、結着性の観点から、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム、およびメタクリル酸メチルゴムからなる群から選択される少なくとも1つのゴム系バインダーを含むことが好ましい。さらに、結着性が良好であることから、水系バインダーはスチレン−ブタジエンゴムを含むことが好ましい。
水系バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴムを用いる場合、塗工性向上の観点から、上記水溶性高分子を併用することが好ましい。スチレン−ブタジエンゴムと併用することが好適な水溶性高分子としては、ポリビニルアルコールおよびその変性体、デンプンおよびその変性体、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩等)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸(塩)、またはポリエチレングリコールが挙げられる。中でも、バインダーとして、スチレン−ブタジエンゴムと、カルボキシメチルセルロースとを組み合わせることが好ましい。スチレン−ブタジエンゴムと、水溶性高分子との含有質量比は、特に制限されるものではないが、スチレン−ブタジエンゴム:水溶性高分子=1:0.3〜0.7であることが好ましい。
負極活物質層がバインダーを含む場合、負極活物質層に用いられるバインダーのうち、水系バインダーの含有量は80〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることが好ましく、100質量%であることが好ましい。水系バインダー以外のバインダーとしては、下記正極活物質層に用いられるバインダーが挙げられる。
負極活物質層中に含まれるバインダー量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは負極活物質層の全量100質量%に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%であり、さらに好ましくは2〜4質量%であり、最も好ましくは2.5〜3.5質量%である。水系バインダーは結着力が高いことから、有機溶媒系バインダーと比較して少量の添加で活物質層を形成できる。
負極活物質層は、必要に応じて、導電助剤、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤をさらに含む。
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
電解質塩(リチウム塩)は、上述した電解液が負極活物質層へと浸透することで、負極活物質層中に含まれることになる。したがって、負極活物質層に含まれうるリチウム塩の具体的な形態は、上述した電解質を構成するリチウム塩と同様である。
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
負極活物質層および後述の正極活物質層中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
負極活物質層の密度は、1.4〜1.6g/cm3であることが好ましい。負極活物質層の密度が1.6g/cm3以下であれば、電池の充放電時に発生したガスが発電要素の内部から十分に抜けることができ、長期サイクル特性がより向上しうる。また、負極活物質層の密度が1.4g/cm3以上であれば、活物質の連通性が確保され、電子伝導性が十分に維持される結果、電池性能がより向上しうる。負極活物質層の密度は、1.42〜1.53g/cm3であることが好ましい。なお、負極活物質層の密度は、単位体積あたりの活物質層質量を表す。具体的には、電池から負極活物質層を取り出し、電解液中などに存在する溶媒等を除去後、電極体積を長辺、短辺、高さから求め、活物質層の重量を測定後、重量を体積で除することによって求めることができる。
また、負極活物質層のセパレータ側表面の表面中心線平均粗さ(Ra)は0.5〜1.0μmであることが好ましい。負極活物質層の中心線平均粗さ(Ra)が0.5μm以上であれば、長期サイクル特性がより向上しうる。これは、表面粗さが0.5μm以上であれば、発電要素内に発生したガスが系外へ排出されやすいためであると考えられる。また、負極活物質層の中心線平均粗さ(Ra)が1.0μm以下であれば、電池要素内の電子伝導性が十分に確保され、電池特性がより向上しうる。
ここで、中心線平均粗さRaとは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にx軸を、縦倍率の方向にy軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、下記の数式1によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものである(JIS−B0601−1994)。
Raの値は、例えばJIS−B0601−1994等に定められている方法によって、一般的に広く使用されている触針式あるいは非接触式表面粗さ計などを用いて測定される。装置のメーカーや型式には何ら制限は無い。本発明における検討では、粗さ解析装置(SLOAN社製、型番:Dektak3030)を用い、JIS−B0601に定められている方法に準拠してRaを求めた。接触法(ダイヤモンド針等による触針式)、非接触法(レーザー光等による非接触検出)のどちらでも測定可能であるが、本発明における検討では、接触法により測定した。
また、比較的簡単に計測できることから、本発明に規定する表面粗さRaは、製造過程で集電体上に活物質層が形成された段階で測定する。ただし、電池完成後であっても測定可能であり、製造段階とほぼ同じ結果であることから、電池完成後の表面粗さが、上記Raの範囲を満たすものであればよい。また、負極活物質層の表面粗さは、負極活物質層のセパレータ側のものである。
負極の表面粗さは、負極活物質層に含まれる活物質の形状、粒子径、活物質の配合量等を考慮して、例えば、活物質層形成時のプレス圧を調整するなどして、上記範囲となるように調整することができる。活物質の形状は、その種類や製造方法等によって取り得る形状が異なり、また、粉砕等により形状を制御することができ、例えば、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状などが挙げられる。したがって、活物質層に用いられる形状を考慮して、表面粗さを調整するために、種々の形状の活物質を組み合わせてもよい。
[セパレータ(電解質層)]
セパレータは、電解質を保持して正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を確保する機能、および正極と負極との間の隔壁としての機能を有する。
ここで、電池の初回充電時に発生したガスの発電要素からの放出性をより向上させるためには、負極活物質層を抜けてセパレータに達したガスの放出性も考慮することが好ましい。斯様な観点から、セパレータの透気度および空孔率を適切な範囲とすることがより好ましい。
具体的には、セパレータの透気度(ガーレ値)は200(秒/100cc)以下であることが好ましい。セパレータの透気度が200(秒/100cc)以下であることによって発生するガスの抜けが向上し、サイクル後の容量維持率が良好な電池となり、また、セパレータとしての機能である短絡防止や機械的物性も十分なものとなる。透気度の下限は特に限定されるものではないが、通常300(秒/100cc)以上である。セパレータの透気度は、JIS P8117(2009)の測定法による値である。
また、セパレータの空孔率は40〜65%であることが好ましい。セパレータの空孔率が40〜65%であることによって、発生するガスの放出性が向上し、長期サイクル特性がより良好な電池となり、また、セパレータとしての機能である短絡防止や機械的物性も十分なものとなる。なお、空孔率は、セパレータの原料である樹脂の密度と最終製品のセパレータの密度から体積比として求められる値を採用する。例えば、原料の樹脂の密度をρ、セパレータのかさ密度をρ’とすると、空孔率=100×(1−ρ’/ρ)で表される。
セパレータの形態としては、例えば、上記電解質を吸収保持するポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を挙げることができる。
ポリマーないし繊維からなる多孔性シートのセパレータとしては、例えば、微多孔質(微多孔膜)を用いることができる。該ポリマーないし繊維からなる多孔性シートの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;これらを複数積層した積層体(例えば、PP/PE/PPの3層構造をした積層体など)、ポリイミド、アラミド、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素系樹脂、ガラス繊維などからなる微多孔質(微多孔膜)セパレータが挙げられる。
微多孔質(微多孔膜)セパレータの厚みとして、使用用途により異なることから一義的に規定することはできない。1例を示せば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが望ましい。前記微多孔質(微多孔膜)セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、数十nm程度の孔径である)であることが望ましい。
不織布セパレータとしては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いる。また、不織布のかさ密度は、含浸させた高分子ゲル電解質により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。
前記不織布セパレータの空孔率は50〜90%であることが好ましい。さらに、不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。
ここで、セパレータは、樹脂多孔質基体の少なくとも一方の面に耐熱絶縁層が積層されたセパレータであってもよい。耐熱絶縁層は、無機粒子およびバインダーを含むセラミック層である。耐熱絶縁層を有することによって、温度上昇の際に増大するセパレータの内部応力が緩和されるため熱収縮抑制効果が得られうる。また、耐熱絶縁層を有することによって、耐熱絶縁層付セパレータの機械的強度が向上し、セパレータの破膜が起こりにくい。さらに、熱収縮抑制効果および機械的強度の高さから、電気デバイスの製造工程でセパレータがカールしにくくなる。また、上記セラミック層は、発電要素からのガスの放出性を向上させるためのガス放出手段としても機能しうるため、好ましい。
また、本実施形態において、セパレータは、電解液を保持する。電解液としては、液体電解質またはゲルポリマー電解質が用いられる。これらの電解液は、リチウムイオンのキャリヤーとしての機能を有する。
液体電解質は、有機溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類が例示される。また、リチウム塩としては、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiTaF6、LiCF3SO3等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。
また、本実施形態において、電解液は、電極保護剤を含む。「電極保護剤」とは、電極を保護する(電極の劣化を防止する)機能を有する剤であり、従来公知の化合物が好適に用いられうる。好ましくは、電極保護剤は、負極活物質の表面にSEI被膜を形成して負極活物質の劣化を防止する機能を有するものである。電極保護剤の具体例としては、例えば、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、1,2−ジビニルエチレンカーボネート、1−メチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−メチル−2−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−2−ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1−ジメチル−2−メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。なかでも、特に優れた電極保護作用を有し、サイクル耐久性の向上に寄与しうるものとして、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートがより好ましい。これらの電極保護剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
また、電極保護剤の他の好ましい形態として、環式スルホン酸エステルが挙げられる。電極保護剤として環式スルホン酸エステルを含むことで、さらに高い寿命性能を得ることができる。環式スルホン酸エステルとしては、下記式(1):
式中、
Oは酸素、およびSは硫黄を表し、
A、BおよびDは、それぞれ独立して、単結合、酸素、硫黄、カルボニル基、チオカルボニル基、スルフィニル基、スルホニル基、およびNR5基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、この際、R5は、水素原子、一価の脂肪族炭化水素基、一価の脂環式炭化水素基および一価の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、単結合または二価の脂肪族炭化水素基を表す、
で表される化合物であることが好ましい。
式(1)において、R5は、水素原子、一価の脂肪族炭化水素基、一価の脂環式炭化水素基および一価の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基である。脂肪族炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5、さらに好ましくは炭素数1〜3の直鎖または分岐のアルキル基であり、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基(アミル基)、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、i−プロピル基、sec−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、2−エチル−2−メチルプロピル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、t−オクチル基などが挙げられる。脂環式炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5、さらに好ましくは炭素数1〜3のシクロアルキル基であり、たとえば、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロヘキシルプロピル基、シクロドデシル基、ノルボルニル基(C7)、アダマンチル基(C10)、シクロペンチルエチル基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5、さらに好ましくは炭素数1〜3のアリール基であり、たとえば、フェニル基、アルキルフェニル基、アルキルフェニル基で置換されたフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、単結合または二価の脂肪族炭化水素基を表す。二価の脂肪族炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5、さらに好ましくは炭素数1〜3の直鎖または分岐のアルキレン基のいずれでもよく、たとえば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピレン基、テトラメチレン基などが挙げられる。
また、環式スルホン酸エステルは、下記式(2):
式中、
Zは炭素数1〜5のアルキレン基またはスルホニルアルキレン基である、
で表される化合物であることがより好ましい。式(2)で表される環式スルホン酸エステルとしては、Zがスルホニルアルキレン基(−SO2−CnH2n−)であるジスルホン酸化合物も含む。ジスルホン酸化合物としては、アルキレン基としては、炭素数1〜3がより好ましい。
式(1)または式(2)で表される環式スルホン酸エステルとしては、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。すなわち、式(1)または式(2)で表される環式スルホン酸エステルとして、スルホニル基を2つ有する環式ジスルホン酸エステルも好ましく用いられる。
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。電解液としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することが容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
ゲル電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
[正極集電板および負極集電板]
集電板25、27を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11、12と集電板25、27との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
[外装材]
外装材29としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から発電要素21表面に付与される圧力を容易に調整することができ、所望の電解液層厚みへと調整容易であることから、外装材はアルミネートラミネートがより好ましい。
図2は、二次電池の代表的な実施形態である扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図2に示すように、扁平なリチウムイオン二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素57は、リチウムイオン二次電池50の外装材52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極タブ58および負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、先に説明した図1に示すリチウムイオン二次電池10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、正極(正極活物質層)15、電解質層17および負極(負極活物質層)13で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよい。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよい。
また、図2に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図2に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン二次電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
一般的な電気自動車では、電池格納スペースが170L程度である。このスペースにセルおよび充放電制御機器等の補機を格納するため、通常セルの格納スペース効率は50%程度となる。この空間へのセルの積載効率が電気自動車の航続距離を支配する因子となる。単セルのサイズが小さくなると上記積載効率が損なわれるため、航続距離を確保できなくなる。
したがって、本実施形態においては、発電要素を外装材で覆った電池構造体は大型であることが好ましい。具体的には、ラミネートセル電池の短辺の長さが100mm以上であることが好ましい。かような大型の電池は、車両用途に用いることができる。ここで、ラミネートセル電池の短辺の長さとは、最も長さが短い辺を指す。短辺の長さの上限は特に限定されるものではないが、通常400mm以下である。
一般的な電気自動車では、一回の充電による走行距離(航続距離)は100kmが市場要求である。かような航続距離を考慮すると、電池の体積エネルギー密度は157Wh/L以上であることが好ましく、かつ定格容量は20Wh以上であることが好ましい。
また、定格容量に対する電池面積(外装材まで含めた電池の投影面積)の比の値が5cm2/Ah以上であり、かつ、定格容量が3Ah以上であることが好ましい。
図3は非水電解液リチウムイオン二次電池の単電池層の概略構成を示す断面図である。
単電池層19は、正極活物質層15とセパレータ17との界面間の空間である正極−セパレータ間空孔71、および負極活物質層13とセパレータ17との界面間の空間である負極−セパレータ間空孔72を有する。
正極活物質層15は、微視的には、正極活物質粒子31および正極導電助剤粒子34を含む。正極活物質粒子31は、正極活物質の粒子であり、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子である。正極活物質層15は、正極活物質粒子31相互間の隙間である、正極活物質層内粒子間の空隙33と、正極活物質粒子31内に存在する隙間である、正極活物質粒子内の空孔32とを有している。
負極活物質層13は、微視的には、負極活物質粒子41および負極導電助剤粒子44を含む。負極活物質粒子41は、負極活物質の粒子であり、例えば、グラファイトの粒子である。負極活物質層13は、負極活物質粒子41相互間の隙間である、負極活物質層内の粒子間空隙43と、負極活物質粒子41内に存在する隙間である、負極活物質粒子内の空孔42とを有している。
セパレータ17は、セパレータ17内部の空孔であるセパレータ内の空孔61を有している。
なお、図3においては、正極活物質粒子内の空孔32、負極活物質粒子内の空孔42、およびセパレータ内の空孔61を模式的かつ部分的に示した。しかし、これらの空孔32、42、61は、通常、すべての正極活物質粒子31、負極活物質粒子41、およびセパレータ17内に均一に存在し、かつ形状は任意である。
正極−セパレータ間空孔71および負極−セパレータ間空孔72は、各単電池層19に非水電解液が含浸される際に非水電解液が輸送される一の輸送路である第1流路群を構成する。非水電解液は、第1流路群を、毛管圧力、および気液界面の圧力差を駆動力とした気液置換により輸送される。第1流路群を輸送される非水電解液の輸送方向は、図3において太い矢印により示されている。
正極活物質層内粒子間の空隙33、負極活物質層内粒子間の空隙43、正極活物質粒子内の空孔32、負極活物質粒子内の空孔42、およびセパレータ内の空孔61は、第2流路群を構成する。第2流路群は、各単電池層19に非水電解液が含浸される際に非水電解液が輸送される他の輸送路である。非水電解液は、第2流路群を、毛管圧力、および気液界面の圧力差を駆動力とした気液置換により輸送される。第2流路群を輸送される非水電解液の輸送方向は、図3において太い矢印から枝分かれした細い矢印で示されている。
ここで、第1流路群における非水電解液の輸送と第2流路群における非水電解液の輸送は並行してなされ得るが、第1流路群における非水電解液の輸送完了の方が第2流路群における非水電解液の輸送完了よりも早くなるのが通常である。これは、第2流路群には第1流路群を介して非水電解液が輸送されることが多いからである。
セパレータ17と各活物質層13、15との界面間に形成された空間からなる第1流路群と、活物質層13、15内の活物質粒子間の空隙33、43、ならびに活物質粒子内およびセパレータ内の空孔32、42、61からなる第2流路群において、毛管現象により非水電解液が輸送され、第1流路群、および、第2流路群において初期に存在する気体と非水電解液の置換が進行し、第1流路群、および、第2流路群の内部に非水電解液を保持する。
この際、第1流路群において非水電解液が輸送される際の気液置換により生じる置換気泡が、各活物質層13、15およびセパレータ17の各表面に集積し、集積した置換気泡が第2流路群における非水電解液の輸送を阻害する。このことは、発電要素21への非水電解液の含浸に要する時間が長期化する原因となる。
本実施形態においては、非水電解液の第1流路群における輸送完了を、電気化学素子の超音波透過率の増加率の変化に基づいて判定する。そして、非水電解液の第1流路群における輸送完了を判定したときに、非水電解液リチウムイオン二次電池への加圧領域を移動させることにより発電要素21の外へ置換気泡を排出する。これにより、第1流路群における非水電解液の輸送により生じた置換気泡の排出除去を効果的に実現し、発電要素21への非水電解液の含浸に要する時間を短縮することができる。
図4は、本実施形態に係る電気化学素子の検査方法および製造方法を実施するための超音波検査装置の概略構成図である。
超音波検査装置100は、パルス送受信部110、解析部120、測定条件設定部130、走査位置制御部140、超音波発信素子150、超音波受信素子160、およびYZ軸移動機構170を有する。
パルス送受信部110は、信号発生部111、送信部112、受信部113、および増幅部114を有する。解析部120は、周波数変換部121、判定部122、および表示部123を有する。
超音波検査装置100の超音波発信素子150、超音波受信素子160、YZ軸移動機構170、およびパルス送受信部110を除く各要素は、コンピュータにより構成することができる。
測定条件設定部130は、信号発生部111に発生させる超音波の周波数および波数を設定する。測定条件設定部130は、設定した超音波の周波数および波数を信号発生部111に送信する。
測定条件設定部130は、走査位置制御部140がYZ軸移動機構170を駆動して超音波発信素子150および超音波受信素子160に積層型電池10を走査させる際の、走査開始位置、走査終了位置、および走査範囲などの走査位置制御情報を設定する。測定条件設定部130は、設定した走査位置制御情報を走査位置制御部140に送信する。
測定条件設定部130は、周波数変換部121が高速フーリエ変換をする周波数範囲を設定する。測定条件設定部130は、設定した周波数範囲を周波数変換部121に送信する。
走査位置制御部140は、測定条件設定部130において設定された走査位置制御情報に基づいてYZ軸移動機構170を駆動する。これにより、走査位置制御部140は、超音波発信素子150および超音波受信素子160に、積層型電池10の発電要素21である積層体の積層方向に対し垂直方向であるYZ軸方向に、積層型電池10上を走査させる。超音波発信素子150および超音波受信素子160は、積層型電池10を介して互いに対向する位置関係を保ちつつ積層型電池10を走査する。
走査位置制御部140は、積層型電池10の走査と、超音波発信素子150が発信する超音波パルス波(以下、単に「超音波」とも称する)とを同期させるためのパルス変調信号を生成し、信号発生部111に発信する。走査位置制御部140は、超音波発信素子150および超音波受信素子160が、走査開始位置である計測格子の中央に到達した時点でパルス変調信号を発信する。
信号発生部111は、例えば電子回路により構成され、走査位置制御部140から受信したパルス変調信号をトリガとして、測定条件設定部130から受信した超音波の周波数および波数に基づいて短形波バースト信号を生成し、送信部112に出力する。短形波バースト信号とは、連続する所定個数の短形波を有する信号である。
送信部112は、パルス電力増幅回路を有し、信号発生部111から受信した短形波バースト信号をパルス電力増幅回路で必要な出力レベルまで増幅し、超音波発信素子150に出力する。
超音波発信素子150は、圧電トランスデューサにより構成することができ、送信部112から出力される短形波バースト信号が印加されることにより圧力波を励起し、超音波を積層型電池10に照射する。超音波発信素子150は、YZ軸移動機構170による駆動により、積層型電池10を上記YZ方向に走査する。
超音波受信素子160は、圧電トランスデューサにより構成することができ、超音波発信素子150が出力し、積層型電池10を透過した超音波の音響エネルギー[J]を電圧信号に変換して、受信部113に送信する。
受信部113は、超音波受信素子160から電圧信号を受信するインターフェースを構成する。
増幅部114は、増幅回路により構成することができる。増幅部114は、受信部113を介して受信した、積層型電池10を透過した超音波の音響エネルギーに対応する電圧信号(以下、「透過波信号」と称する)を必要な値まで増幅し、周波数変換部121に送信する。
周波数変換部121は、増幅部114から受信した透過波信号を、測定条件設定部130から受信した周波数範囲で高速フーリエ変換し、周波数変換された透過波信号を判定部122を介して表示部123に送信し、表示部123に表示させる。
判定部122は、周波数変換部121により周波数変換された透過波信号の信号レベル(透過波の強度)に基づいて、超音波発信素子150および超音波受信素子160による各測定位置における第1流路群における非水電解液の輸送完了の有無を判定する。具体的には、判定部122は、透過波信号の信号レベルから積層型電池10の各測定位置における超音波透過率を計算し、超音波透過率の増加率の変化に基づいて、当該測定位置ごとに、第1流路群における非水電解液の輸送完了の有無を判定する。すなわち、第1流路群において非水電解液の輸送が完了していない測定位置においては、第1流路群を構成する、各活物質層13、15とセパレータ17とのそれぞれの界面間に形成された空間に非水電解液が存在していない。したがって、第1流路群を構成する空間と各活物質層13、15との境界、および第1流路群を構成する空間とセパレータ17との境界に固体−気体界面が存在するため、当該固体−気体界面において超音波の反射率が比較的高くなる。一方、第1流路群において非水電解液の輸送が完了している測定位置においては、第1流路群を構成する、各活物質層13、15とセパレータ17とのそれぞれの界面間に形成された空間に非水電解液が存在している。したがって、第1流路群を構成する空間は非水電解液により満たされているため、第1流路群と各活物質層13、15との境界、および第1流路群とセパレータ17との境界に固体−気体界面が存在せず、固体−液体界面が存在する。固体−液体界面における超音波の反射率は、固体−気体界面における超音波の反射率より低い。また、第1流路群において非水電解液の輸送が完了するまでは、第1流路群が非水電解液により満たされていくにしたがい、固体−液体界面の割合が増加し、固体−気体界面の割合が減少する。そして、第1流路群において非水電解液の輸送が完了してからは、固体−液体界面のみが存在する状態が維持される。したがって、各測定位置における超音波透過率の増加率の変化に基づいて、当該測定位置ごとに、第1流路群における非水電解液の輸送完了の有無を判定することができる。具体的には、第1流路群における輸送完了を、超音波透過率の増加率がほぼ一定となったことにより判定することができる。超音波透過率の増加率がほぼ一定となったことは、例えば、一定の強度の超音波を積層型電池に照射したときの積層型電池10を透過した透過波の強度の時間微分値が所定の閾値範囲内となったことをもって判断することができる。なお、積層体21の第1流路群における非水電解液の輸送が完了したことは、超音波受信素子160によるすべての測定位置において第1流路群における非水電解液の輸送が完了したと判断されたことをもって判定する。
判定部122は、積層型電池10の各測定位置の第1流路群における非水電解液の輸送完了の有無の判定結果を表示部123に送信する。
表示部123は、判定部122から受信した、積層型電池10の各測定位置の第1流路群における非水電解液の輸送完了の有無の判定結果を二次元表示する。
第1流路群を非水電解液で満たすことにより超音波の反射率が変化する原理について説明する。
図5は、多孔質の音響インピーダンスと無孔質の音響インピーダンスとを示す説明図である。また、図6は、音響インピーダンスに基づいて計算される超音波の超音波透過率の説明図である。
図5の左上の図は、内部に空孔HLを有する多孔質の表面を原点として、当該表面に垂直な一次元座標系のX軸方向に超音波Sを照射した状態を示す。
図5の右上の図は、多項質中の超音波Sの伝搬に関する分布定数回路モデルを示す。
図5の式(1)は、分布定数回路モデルから計算した多孔質の音響インピーダンスZ0を示す。
ここで、ρは細孔内空気実効密度[kg/m3]、Φは実効流れ抵抗[N/sm4]、Rhは横穴入口抵抗[N/sm4]、εは空孔率[−]、κは空気体積弾性率[Pa・s]、Ωは主気孔率[−]である。
図5の式(2)は、無孔質の音響インピーダンスZ0を示す。
式(2)は、式(1)において、実効流れ抵抗Φ、および横穴入口抵抗Rhを0とし、空孔率を1とすることにより得られる。
図6の上図は、音響インピーダンスがZ0の材料に、音響インピーダンスがZ1の材料を介して超音波Sが伝搬される状態を示し、式(3)はこのときの超音波透過率τを示す。超音波透過率τは、共振の影響を無視できる場合は、超音波の周波数によらず一定である。
図7は、音響インピーダンスが変化する前後で超音波の超音波透過率が変化することを示す説明図である。
式(4)は、音響インピーダンスがZ0の各材料LY1、LY3が、音響インピーダンスがZ1の材料LY2を介して積層されている場合の超音波の超音波透過率τを示している。一方、式(5)は、音響インピーダンスがZ0の材料LY1、LY3が、音響インピーダンスがZ2の材料LY2’を介して積層されている場合の超音波の超音波透過率τ’を示している。
このように、隣接する材料の一方の音響インピーダンスが変化することにより、超音波の超音波透過率は超音波の反射の影響により変化する。
ここで、音響インピーダンスがZ0の材料LY1を正極活物質層15、音響インピーダンスがZ1の材料LY2を非水電解液が存在しない第1流路群、音響インピーダンスがZ0の材料LY3をセパレータ17と仮定する。そうすると、第1流路群に非水電解液が満たされることにより音響インピーダンスがZ1の材料LY2が、音響インピーダンスがZ2の材料LY2’に変化する。これは、第1流路群を構成する空間が非水電解液により満たされることにより音響インピーダンスが変化するためである。その結果、超音波の透過率が、τ(式(4))からτ’(式(5))に変化する。
このように、第1流路群に非水電解液が満たされることにより超音波の超音波透過率が変化する。したがって、積層型電池10の積層体21の第1流路群における非水電解液の輸送完了を超音波の透過率の増加率の変化に基づいて判定することができる。
なお、第2流路群は、各活物質層13、15内の活物質粒子間の空隙33、43、および各活物質粒子内およびセパレータ内の空孔32、42、61により構成されるが、空隙および空孔内部における吸音により超音波の透過率を減少させ得る。
本実施形態において実施される各工程について説明する。
図8は、非水電解液リチウムイオン二次電池の製造工程のうち、初期充電までの各工程を示すフローチャートである。本フローチャートは、本実施形態に係る電気化学素子の製造方法に対応する。
超音波検査装置100により、積層型電池10の積層体21の第1流路群における非水電解液の含浸完了時間を測定する(S101)。
図9は、図8のステップS101のサブルーチンフローチャートである。本フローチャートは、本実施形態に係る電気化学素子の検査方法に対応する。
外装材29内に非水電解液を注入し(S201)、積層体21への非水電解液の含浸を開始する(S202)とともに、含浸を開始してからの時間の測定を開始する(S203)。
積層体21の第1流路群における非水電解液の輸送が完了したかどうかを判断する(S204)。第1流路群における非水電解液の輸送が完了したかどうかは、上述したように、積層型電池10に照射した超音波の超音波透過率の増加率の変化に基づいて判定することができる。
積層体21の第1流路群における非水電解液の輸送が完了していないと判断した場合は(S204:NO)、さらに積層体21への非水電解液の含浸をしている時間の測定を継続する。積層体21の第1流路群における非水電解液の輸送が完了したと判断した場合は(S204:YES)、積層体21への非水電解液の含浸をしている時間の測定を終了し、第1流路群における非水電解液の輸送完了に要した時間t*を記憶する(S205)。
なお、ステップS101は、積層体21の第1流路群における非水電解液の輸送完了に要した時間t*を測定するために実施する。したがって、同じ製品を製造する際は、製品ごとにステップS101を実施する必要はない。
また、積層体21の第1流路群における非水電解液の輸送完了に要した時間t*は、複数の積層型電池10を用いて、各複数の積層型電池10を一定時間ごとに破壊して、第1流路群に非水電解液が存在するかどうか検査することにより測定してもよい。
積層体21が挿入された外装材29内に非水電解液を注入する(S102)。積層体21が挿入された外装材29を、拘束治具内に配置し、積層体を加圧した状態で外装材29内に液体非水電解液を注入することができる。なお、ステップS102は、ステップ101においてすでに外装材29内に非水電解液が注入されている場合は実施する必要はない。非水電解液の注入後、外装材29の開口部が封止される。
発電要素21内に非水電解液をt*時間に渡り含浸させた後(S103)、発電要素21内の第1流路群における非水電解液の輸送に伴う気液置換により置換気泡が発生し、各活物質層13、15およびセパレータ17の各表面に集積した置換気泡を、発電要素表面を加圧することで、前述置換気泡を発電要素表面から余剰空間20へ排出する(S104)。
置換気泡の除去後、発電要素21への非水電解液の含浸を継続する(S105)。即ち、第1流路群における非水電解液の輸送が完了し、かつ、第2流路群における非水電解液の輸送を阻害する各活物質層13、15およびセパレータ17の各表面に集積した置換気泡を除外した状態で、第2流路群における非水電解液の含浸を継続する。
初期充電工程において、電池を電極保護剤の分解電圧に保持し、負極活物質層の第2流路群における含浸により形成された、非水電解液と負極粒子の界面において、固体表面被膜層(SEI)を生成する。前記SEIは、電子絶縁性とリチウムイオン電導性を有し、負極活物質層表面における非水電解液の分解を防止し、非水電解液中のリチウムイオンの量が維持されて安定した充放電が確保される。
(実施例)
本発明の実施例を比較例とともに説明する。
以下のように積層型電池を作製し、本実施形態に係る積層型電池の検査方法により積層型電池の検査を実施した。
1.積層型電池の作製
[非水電解液の調整]
エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(30:30:40(体積比))を溶媒とし、LiPF6をリチウム塩として用いた。リチウム塩の濃度を1.0mol/リットルに調整したものを非水電解液とした。
[正極活物質の作製]
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、および硫酸マンガンを溶解した水溶液(1.0mol/リットル)に、60℃にて水酸化ナトリウムおよびアンモニアを連続的に供給してpHを11.0に調整し、共沈法によりニッケルとマンガンとコバルトとが50:30:20のモル比で固溶してなる金属複合水酸化物を作製した。この金属複合水酸化物と炭酸リチウムを、Li以外の金属(Ni、Co、Mn)の合計のモル数とLiのモル数の比が1:1となるようにした後、十分混合し、昇温速度5℃/分で昇温し、450℃の空気雰囲気で4時間仮焼成した後、昇温速度3℃/分で昇温し、730℃で10時間本焼成し、室温まで冷却してNMC複合酸化物(LiNi0.50Mn0.30Co0.20O2)を得た。
[正極の作製]
上記方法で作成した正極活物質を60質量%、LiMn2O4(平均粒子径:15μm)25質量%。導電助剤としてアセチレンブラック5質量%、およびバインダーとしてPVdF10質量%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、正極スラリーを作製した。次に、正極スラリーを、集電体であるアルミニウム箔(厚さ:20μm)の両面に塗布し、乾燥・プレスを行い、片面塗工量19.0mg/cm2,両面厚み155μm(箔込み)の正極を作成した。
[負極の作製]
負極活物質として人造黒鉛(平均粒子径:20μm)95質量%、導電助剤としてアセチレンブラック2質量%およびバインダーとしてSBR(日本ゼオン社製)2質量%、CMC(日本製紙ケミカル社製、商品名:サンローズ)1質量%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒であるイオン交換水を適量添加して、負極スラリーを作製した。次に、負極スラリーを、集電体である銅箔(厚さ:10μm)の両面に塗布し、乾燥・プレスを行い、片面塗工量8.1mg/cm2、両面厚み124μm(箔込み)の負極を作製した。
[セパレータの作製]
無機粒子であるアルミナ粒子(BET比表面積:5m2/g、平均粒径2μm)95重量%およびバインダーであるカルボキシメチルセルロース(バインダー重量あたりの含有水分量:9.12重量%)5重量%を水に均一に分散させた水溶液を作製した。該水溶液をグラビアコーターを用いてポリエチレン(PP)微多孔膜(膜厚:20μm、空隙率:55%)の両面に塗工した。次いで、60℃にて乾燥して水を除去し、多孔膜の両面に3.5μmずつ耐熱絶縁層を形成した、総膜厚25μmの多層多孔膜である耐熱絶縁層付セパレータを作製した。この時の耐熱絶縁層の目付は15g/m2である。
[積層型電池の完成工程]
作製した正極を220×200mmの長方形状に切断し、負極層を225mm×205mmの長方形状に切断した(正極15枚、負極16枚)。この正極と負極とを作製した230mm×210mmのセパレータを介して交互に積層した。これらの正極と負極それぞれにタブを溶接し、アルミラミネートフィルムからなる外装材中に挿入した。
2.積層体への非水電解液の含浸に伴う超音波の透過波の強度の経時変化の測定
[測定方法]
<実施例>
・超音波検査装置は、ジャパンプローブ株式会社製の空中超音波検査システムNAUT21を使用した。
・サンプルモジュールは、正極、セパレータ、およびガラスプレートにより構成し、表面からの蒸発を抑制するために、正極およびセパレータをガラスプレートの間に配置した。
・正極およびセパレータの端部を非水電解液の液溜りに接触させてサンプルモジュールへの非水電解液の含浸を開始し、サンプルモジュールを透過する、超音波の透過波の強度の経時変化を定点測定した。
・超音波の周波数f1を200[kHz]とした。
<比較例>
・超音波の周波数f1を1[MHz]とした以外、実施例と同様とした。
[結果]
図10は、積層体への非水電解液の含浸に伴う超音波の透過波の強度の経時変化の測定結果を実施例と比較例とを比較して示す図である。
実施例においては、非水電解液のサンプルモジュールへの到達前の超音波の透過波の強度がS*[V]であったのに対し、非水電解液の到達1分後に1.47S*[V]に増加した。これは、第1流路群(本実施例においては、正極とセパレータの界面間に形成された空間)に存在する空気が非水電解液により置換され、正極、セパレータ、および第1流路群から構成される系の超音波透過率が変化したことによるものと考えられる。
超音波の透過波の強度は、1.47S*[V]に達した以降、ほぼ一定の値にて推移し、非水電解液の到達1分後に対する120分後における透過波の強度の増加率は1.01倍であった。この時間帯においては、すでに第1流路群における非水電解液の輸送は完了し、第2流路群における非水電解液の輸送が進行していると考えられる。しかし、超音波の周波数を200[kHz]としたことで、第2流路群における非水電解液の輸送の影響が超音波の透過波の強度に影響せず、透過率はほぼ一定の値で推移したものと考えられる。
本実施例においては、第1流路群における非水電解液の輸送完了時の超音波の透過波の強度S1に対する、非水電解液の含浸前の超音波の超過強度S0の比βの逆数1/βは1.47であった。また、第1流路群における非水電解液の輸送完了時(非水電解液の到達後1分時)の超音波の透過波の強度S1に対する、非水電解液の到達後120分時の超音波の透過波の強度S(t)の比αは1.01であった。
比較例においては、超音波の透過波の強度は、非水電解液のサンプルモジュールへの到達前の超音波の透過波の強度S*[V]に対し、非水電解液の到達1分後に1.37S*[V]に増加した。また、その後も超音波の透過波の強度は徐々に増加し、非水電解液の到達1分後に対する120分後における透過波の強度の増加率は1.38倍であった。超音波の周波数を1[MHz]とした場合は、第2流路群における非水電解液の輸送の進行に伴い、正極活物質内の空孔およびセパレータ内部の空孔において気液置換が進行し、このことが超音波透過率の経時的変化に影響したものと考えられる。
比較例においては、第1流路群における非水電解液の輸送完了時の超音波の透過波の強度S1に対する、非水電解液の含浸前の超音波の超過強度S0の比βの逆数1/βは1.37であった。また、第1流路群における非水電解液の輸送完了時(非水電解液の到達後1分時)の超音波の透過波の強度S1に対する、非水電解液の到達後120分時の超音波の透過波の強度S(t)の比αは1.38であった。
実施例と比較例との比較により次のことが実証された。すなわち、超音波の周波数を200[kHz]とすることにより、第1流路群における非水電解液の輸送が完了した後の第2流路群における非水電解液の輸送の影響が超音波の透過波の強度に現れにくくなる。一方、超音波の周波数を1[MHz]とすることにより、第1流路群における非水電解液の輸送が完了した後の第2流路群における非水電解液の輸送の影響が超音波の透過波の強度に現れる。
したがって、第1流路群において非水電解液が存在しない領域における超音波の透過波の強度S0に対する、第1流路群において非水電解液が存在する領域における透過波の強度S1の比1/βが所定の第1閾値以上となる超音波の周波数を選択する。これにより、1/βは超音波透過率の増加率でもあることから、第1流路群における輸送完了を超音波透過率の増加率の変化に基づいて判定することができる。すなわち、第1流路群における輸送完了を超音波透過率の増加率がほぼ一定となったことにより判定することができる。
第1閾値は、例えば、非水電解液が存在しない領域における超音波の透過波の強度S0と第1流路群において非水電解液が存在する領域における透過波の強度S1との中間の値(S0とS1の平均値)とすることができる。この場合、本実施例においては、第1流路群において非水電解液が存在する領域における透過波の強度S1の分散許容値σが0.05S1であれば、S1の平均値と第1閾値との間隔が、通常の選別において必要とされる、3σの1.33倍以上とすることができる。なお、第1閾値は、S1の平均値と第1閾値との間隔が3σの1.33倍以上であれば限定されない。
さらに、第2流路群における非水電解液の輸送の進行に伴う超音波の透過波の強度の増加率αが所定の第2閾値以下の範囲となる超音波の周波数を選択する。第2閾値は装置の測定精度にもよるが、5%以下とすることができる。これにより、第1流路群における非水電解液の輸送完了後の第2流路群における輸送による超音波透過率の増加率αをより小さくすることができる。したがって、第1流路群における非水電解液の輸送が完了した後の第2流路群における非水電解液の輸送の影響をより小さくし、第1流路群における輸送完了をより正確に判定することができる。
3.積層体内部への非水電解液の含浸速度の測定
[測定方法]
<実施例>
・超音波検査装置は、ジャパンプローブ株式会社製の空中超音波検査システムNAUT21を使用した。
・積層型電池の外装材内に非水電解液を注入し、注入後の非水電解液の積層体内への含浸速度を測定した。非水電解液の含浸速度は、超音波の透過波の強度が1.1S*以下の領域の正極面積に対する面積率z(以下、単に「面積率z」と称する)の、非水電解液注入後の時間推移として測定した。
・面積率zは、ロールプレスによる置換気泡除去前と置換気泡除去後について測定した。
・超音波の周波数f1を200[kHz]とした。
[結果]
図11は、超音波の透過波の強度が1.1S*以下の領域の正極面積に対する面積率zの非水電解液注入後の時間推移を示す図である。
置換気泡除去前の面積率zは、正極面積に対する、第1流路群における非水電解液の輸送が完了していない領域の面積および置換気泡により透過波の強度の減少が発生している領域の面積の合計の比率を示している。置換気泡除去後の面積率zは、正極面積に対する、第1流路群における非水電解液の輸送が完了していない領域の面積の比率を示している。
図11に示すように、置換気泡除去後の面積率zは、注液後経過時間[Hr]が時間t*までは減少し、時間t*経過後は、24時間ほぼ一定の値で推移した。したがって、注液後経過時間が時間t*に達したときに、積層体全体において、非水電解液の第1流路群における輸送が完了したと判断することができる。
本実施例においては、第1流路群における輸送が完了するのは、積層体に非水電解液を含浸させる前の超音波の透過波の強度S*に対する透過波の強度の増加率(透過率の増加率でもある)が1.1を超えたときであることを前提としている。そして、時間t*経過後は、置換気泡除去後の面積率zがほぼ一定の値で推移したことから、その前提が正しかったことが実証された。
以上、本発明の実施形態および実施例について説明したが、本実施形態は以下の効果を奏する。
積層体の第1流路群における非水電解液の輸送完了を、電気化学素子の超音波透過率の増加率の変化に基づいて判定する。これにより、第1流路群における非水電解液の輸送により生じた、第2流路群における非水電解液の輸送を阻害する、置換気泡の排出除去を効果的に実現することができる。
さらに、第1流路群において非水電解液が存在しない領域における超音波の透過波の強度に対する、第1流路群において非水電解液が存在する領域における超音波の透過波の強度の比率が所定の第1閾値以上となる周波数の超音波を用いる。これにより、第1流路群における非水電解液の輸送完了を正確に判定できる。
さらに、第2流路群における非水電解液の輸送の進行に伴う透過波の強度の増加率が所定の第2閾値以下となる範囲となる周波数の超音波を用いる。これにより、第2流路群における非水電解液の輸送の影響をより小さくし、第1流路群における輸送完了をより正確に判定できる。
積層体の第1流路群における非水電解液の輸送完了に要する時間を判定し、判定した時間に基づいて、第1流路群における非水電解液の輸送の際の気液置換に伴い発生した気泡を、電気化学素子への加圧領域を移動させることにより電気化学素子外に排出する。これにより、第1流路群における非水電解液の輸送により生じた、第2流路群における非水電解液の輸送を阻害する、置換気泡の排出除去を効果的に実現し、第2流路群における非水電解液の輸送が開始する時間を最適化することができる。
さらに、電気化学素子の超音波透過率の増加率の変化に基づいて、積層体に非水電解液が供給されてから第1流路群における輸送完了までの時間を判定する。これにより、電気化学素子を破壊することなく、簡単に、積層体に非水電解液が供給されてから第1流路群における輸送完了までの時間を判定できる。
さらに、第1流路群において非水電解液が存在しない領域における超音波の透過波の強度に対する、第1流路群において非水電解液が存在する領域における超音波の透過波の強度の比率が所定の第1閾値以上となる周波数の超音波を用いる。これにより、第1流路群における非水電解液の輸送完了を正確に判定することができる。
さらに、第2流路群における非水電解液の輸送の進行に伴う透過波の強度の増加率が所定の第2閾値以下となる範囲となる周波数の超音波を用いる。これにより、第2流路群における非水電解液の輸送の影響をより小さくし、第1流路群における輸送完了をより正確に判定し、含浸工程時間をさらに短縮することができる。
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、上述した実施形態においては、積層体の第1流路群における非水電解液の輸送完了を、電気化学素子の超音波透過率の増加率の変化に基づいて判定している。しかし、電気化学素子による超音波反射率の減少率の変化に基づいて、積層体の第1流路群における非水電解液の輸送完了を判定してもよい。