本発明のアルカリ電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」と表記することがある)は、引張り強さが5cN/dtex以上の高強度複合接着繊維を含み、接着しているため、セパレータの破断強度が高い。また、電極のバリが貫通したり、電極のバリによって破断しにくくなる。更に、耐圧縮性に優れ、電池構成後も電極間距離を維持することができるため、活物質が脱落した際の微粉による物理的短絡を防ぎやすい。
なお、後述の極細繊維を、分割性繊維を外力により分割して得る場合には、前記高強度複合接着繊維はヤング率が高く、適度な剛性を有しているため、分割性繊維を分割する際の支持体として作用し、分割性を向上させることができ、地合いが優れ、比表面積の広いセパレータとすることができるため、デンドライドによる短絡を防止しやすい。
この高強度複合接着繊維は引張り強さが強ければ強いほど、前記性能に優れているため、引張り強さは5.5cN/dtex以上であることが好ましく、6.0cN/dtex以上であることが更に好ましく、6.2cN/dtex以上であることが更に好ましい。引張り強さの上限は特に限定するものではないが、50cN/dtex程度が適当である。本発明における「引張り強さ」は、JIS L 1015:2010「化学繊維ステープル試験方法」8.7.1(標準時試験)に則り、定速緊張形引張試験機を使用し、つかみ間隔20mm、引張り速度20mm/分の条件下で測定した引張り強さをいう。
本発明の高強度複合接着繊維はどのような樹脂成分から構成されていても良いが、耐電解液性に優れているように、ポリオレフィン系樹脂のみからなるのが好ましい。例えば、ポリエチレン系樹脂(例えば、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、又はエチレン共重合体など)、ポリプロピレン系樹脂(例えば、ポリプロピレン、又はプロピレン共重合体など)、あるいはポリメチルペンテン系樹脂(例えば、ポリメチルペンテン、又はメチルペンテン共重合体など)の中から選ばれる2種類以上の樹脂からなり、接着成分が表面に露出しているのが好ましい。これらの中でも、外力を作用させることによって分割性繊維を分割して極細繊維を発生させる場合には、高強度複合接着繊維が適度な剛性を有することによって、支持体としての作用を奏することができるように、ポリプロピレン系樹脂を含んでいるのが好ましい。
この好適であるポリプロピレン系樹脂はプロピレンの単独重合体であることもできるし、プロピレンとα−オレフィン(例えば、エチレン、ブテン−1など)との共重合体であることもできる。より具体的には、例えば、結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、エチレン単位の含有量の少ないエチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン単独重合体からなるホモ部とエチレン単位の含有量の比較的多いエチレン−プロピレンランダム共重合体からなる共重合部とから構成されたプロピレンブロック共重合体、更に、前記プロピレンブロック共重合体における各ホモ部または共重合部が、更にブテン−1などのα−オレフィンを共重合したものからなる結晶性プロピレン−エチレン−α−オレフィン共重合体などを挙げることができる。これらの中でもアイソタクチックポリプロピレン単独重合体が強度の点から好適であり、特に、アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が90%以上、分子量分布の指標であるQ値(重量平均分子量/数平均分子量=Mw/Mn比)が6以下、メルトインデックスMI(温度230℃、荷重2.16kg)が3〜50g/10分であることが好ましい。このようなポリプロピレン系成分は、チーグラー・ナッタ型触媒、あるいはメタロセン系触媒などを用いて、プロピレンを単独重合又はプロピレンと他のα−オレフィンとを共重合させて得ることができる。
このように高強度複合接着繊維がポリプロピレン系樹脂を含んでいる場合、接着成分は、接着する際にポリプロピレン系樹脂に影響を与えず、ポリプロピレン系樹脂によって繊維形態を維持することができるように、接着成分はポリプロピレン系樹脂よりも10℃以上融点が低いことが好ましく、20℃以上低いことがより好ましい。具体的には、接着成分として、エチレン系重合体(例えば、高密度、中密度、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなど)、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体などを挙げることができる。分割性繊維に外力を作用させることによって分割して極細繊維を発生させる場合には、高強度複合接着繊維が適度な剛性を有することにより、支持体としての作用を奏することができるように、接着成分は高密度ポリエチレンからなるのが好ましい。接着成分がポリエチレンであることによって、ある程度硬く、張りや腰のあるセパレータとすることができ、取り扱い性に優れるセパレータとすることができる。
本発明の高強度複合接着繊維は接着成分によって接着できるように、接着成分は繊維表面の少なくとも一部を占めているが、繊維表面において接着成分の占める割合が高ければ高いほど、接着に関与することができる接着成分が多く、破断強度の高いセパレータであることができるため、接着成分は繊維表面の50%以上を占めている(両端部を除く)ことが好ましく、70%以上を占めている(両端部を除く)ことがより好ましく、90%以上を占めている(両端部を除く)ことが更に好ましく、繊維表面全体を占めている(両端部を除く)ことが最も好ましい。そのため、高強度複合接着繊維の横断面における各成分の配置状態としては、芯鞘型、偏芯型又は海島型であることが好ましい。
本発明の高強度複合接着繊維は圧力によっても変形しにくく、より電解液の保持性に優れるセパレータであることができるように、ヤング率が30cN/dtex以上であることが好ましく、35cN/dtex以上であることがより好ましく、40cN/dtex以上であることが更に好ましい。なお、ヤング率の上限は特に限定するものではないが、110cN/dtex以下であることが好ましい。この「ヤング率」はJIS L 1015:2010、8.11項に規定されている方法により測定した初期引張抵抗度から算出した見掛ヤング率の値をいう。なお、初期引張抵抗度は定速緊張形試験機を用い、引張り速度20mm/分で測定した値をいう。
本発明の高強度複合接着繊維の熱収縮率は10%以下であることが好ましい。このような熱収縮率であると、高強度複合接着繊維の接着成分を接着させて不織布を形成する際に収縮しにくいため、繊維の均一分散性が維持され、短絡防止性に優れているためである。より好ましい熱収縮率は9%以下である。この熱収縮率はJIS L 1015:2010 8.15(b)乾熱寸法変化率に基づき、温度120℃のオーブン乾燥機を用い、30分間熱処理して測定した値をいう。
本発明の高強度複合接着繊維の繊維径は特に限定するものではないが、5〜32μmであることが好ましく、8〜17μmであることがより好ましい。高強度複合接着繊維の繊維径が5μm未満であると破断強度が弱くなる傾向があり、また、極板のバリが突き抜けたり、極板のエッジによって引き裂かれて短絡しやすい傾向があり、高強度複合接着繊維の繊維径が32μmを越えると、高強度複合接着繊維の分散がバラツキやすくなり、緻密性が損なわれ、電解液の保持性が悪くなる傾向があるためである。
本発明の高強度複合接着繊維の繊維長は特に限定するものではないが、繊維長が短いほど繊維の自由度が高く、均一に分散することができ、より地合いの優れる不織布であることができるため、0.1〜25mm(より好ましくは0.1〜20mm)であることが好ましく、0.1〜25mm(より好ましくは0.1〜20mm)に切断されていることが好ましい。
このような本発明で用いる高強度複合接着繊維は、例えば、特開2002−180330号公報に記載の方法により製造することができる。つまり、繊維表面に接着成分を備えた複合未延伸糸を常法の溶融紡糸法により形成した後、100℃以上で、かつ接着成分の融点未満の温度を有する加圧飽和水蒸気中で、4〜15倍延伸することにより得ることができる。
なお、本発明のセパレータを構成する不織布においては、高強度複合接着繊維は繊維径又は繊維長の点において相違する、2種類以上の高強度複合接着繊維を含むことができる。
このような高強度複合接着繊維は、不織布の破断強度が150N/5cm以上となりやすいように、不織布中に、40mass%以上の量で含まれているのが好ましく、45mass%以上の量で含まれているのがより好ましく、50mass%以上の量で含まれているのが更に好ましい。他方で、後述の極細繊維との兼ね合いから、不織布中、70mass%以下であるのが好ましく、60mass%以下であるのがより好ましい。
本発明のセパレータを構成する不織布は高強度複合接着繊維に加えて、繊維径2〜5μmの極細繊維を含んでいる。この極細繊維を含んでいることによって、比表面積が広くなり、電解液と接触できる面積が広くなるため、電解液の保持性に優れているばかりでなく、デンドライドが他極へ到達するまでの道のりも長くなり、デンドライドによる短絡の発生を抑制することができる。
本発明における極細繊維の繊維径は比表面積が小さくならないように、繊維径は5μm以下であり、4.7μm以下であることがより好ましく、4.5μm以下であることが更に好ましく、4.3μm以下であることが更に好ましい。他方、地合いの優れる不織布であることができるように、繊維径は2μm以上であり、2.5μm以上であるのが好ましく、3μm以上であるのがより好ましい。なお、横断面形状が非円形である場合、極細繊維の繊維径は横断面積と同じ面積をもつ円の直径を繊維径とする。
本発明の極細繊維は、他極へ到達するまでの道のりが複雑で、デンドライドが伸長しにくいように、横断面形状が非円形であるのが好ましい。例えば、長円形状、楕円形状、多角形状(例えば、三角形状、台形状などの四角形状、五角形状、六角形状など)を挙げることができ、特に、デンドライドが堰き止められて伸長しにくい形状である三角形状又は四角形状であることが好ましい。
このような非円形の横断面形状を有する極細繊維は、例えば、樹脂組成の異なる2種類以上の樹脂からなる分割性繊維に外力を作用させることによって発生させることができる。より具体的には、図1に示すようなオレンジ型の横断面形状を有する分割性繊維1に外力を作用させることにより、樹脂成分11からなる略三角形状の極細繊維及び樹脂成分12からなる略三角形状の極細繊維を発生させることができる。図2に示すようなオレンジ型の横断面形状を有する分割性繊維1に外力を作用させることにより、樹脂成分11からなる略楕円形状の極細繊維と樹脂成分12からなる略三角形状の極細繊維とを発生させることができる。図3に示すようなオレンジ型の横断面形状を有する分割性繊維1に外力を作用させることにより、樹脂成分11からなる略三角形状の極細繊維、樹脂成分12からなる略三角形状の極細繊維、及び樹脂成分12からなる円形状の極細繊維を発生させることができる。図4に示すようなオレンジ型の横断面形状を有する分割性繊維1に外力を作用させることにより、樹脂成分11からなる略楕円形状の極細繊維、樹脂成分12からなる略三角形状の極細繊維、及び樹脂成分11からなる円形状の極細繊維を発生させることができる。図5に示すような多重バイメタル型の横断面形状を有する分割性繊維1に外力を作用させることにより、樹脂成分11又は樹脂成分12からなる略台形状の極細繊維と樹脂成分11又は樹脂成分12からなる略半円形状の極細繊維とを発生させることができる。図6に示すようなオレンジ型の横断面形状を有し、且つ中空部分を有する分割性繊維1に外力を作用させることにより、樹脂成分11からなる略台形状の極細繊維、及び樹脂成分12からなる略台形状の極細繊維を発生させることができる。なお、外力としては、例えば、水流などの流体流、カレンダー、レファイナー、パルパー、ミキサー、ビーターなどを挙げることができる。
本発明の極細繊維は耐電解液性に優れるように、高強度複合接着繊維と同様のポリオレフィン系樹脂から構成されていることが好ましい。つまり、ポリエチレン系樹脂(例えば、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、又はエチレン共重合体など)、ポリプロピレン系樹脂(例えば、ポリプロピレン、又はプロピレン共重合体など)、あるいはポリメチルペンテン系樹脂(例えば、ポリメチルペンテン、又はメチルペンテン共重合体など)から構成されていることができる。メチルペンテン系樹脂からなる極細繊維又はポリプロピレン系樹脂からなる極細繊維は融点が比較的高いことから、耐熱性に優れ、メチルペンテン系樹脂は軽量であるため、好適である。特に、接着成分として高密度ポリエチレンを有する高強度複合接着繊維を含む場合、メチルペンテン系樹脂からなる極細繊維又はポリプロピレン系樹脂からなる極細繊維は、接着成分を接着させたとしても溶融せず、極細繊維の表面積を維持することができ、電解液の保持性、及びデンドライドによる短絡防止性に優れているため好適である。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる極細繊維は電解液との馴染みが良く、電解液の保持性に優れているため、内圧の低い電池を製造しやすい。なお、極細繊維は樹脂組成、繊維径、繊維長の少なくとも1点で相違する極細繊維を2種類以上含むことができる。
この極細繊維はセパレータの破断強度が優れているように、延伸されていることが好ましい。なお、極細繊維を分割性繊維から得る場合、分割性繊維の段階で延伸されていれば、分割して発生した極細繊維は延伸されている。
本発明で用いる極細繊維の繊維長は特に限定するものではないが、繊維長が短いほど繊維の自由度が高く、均一に分散することができ、より地合いの優れる不織布であることができるため、0.1〜25mm(より好ましくは0.1〜20mm)であることが好ましい。
このような極細繊維の不織布中における存在量は、後述の不織布の比表面積が0.70m2/g以上となる量であれば良く、特に限定するものではないが、不織布中に、30mass%以上の量で含まれていれば、比表面積が0.70m2/g以上となりやすく、35mass%以上の量で含まれているのがより好ましく、40mass%以上含まれていることが更に好ましい。他方で、高強度複合接着繊維との兼ね合いから60mass%以下であるのが好ましく、55mass%以下であるのがより好ましく、50mass%以下であるのが更に好ましい。
本発明のセパレータである不織布は基本的に上述のような高強度複合接着繊維と極細繊維とから構成されているが、極細繊維を、分割性繊維を分割して発生させたような場合には、分割性繊維が完全に分割せず、極細繊維同士が結合した状態のパルプ状繊維が混在していることもある。
本発明のセパレータである不織布は上述の高強度複合接着繊維が接着した不織布である。上述の高強度複合接着繊維は接着成分を溶融後に固化させて接着することができ、接着成分ではない成分(非接着成分)は溶融せず、非接着成分によって繊維形態を維持できるため、破断強度の優れるセパレータである。
本発明のセパレータを構成する不織布は、高強度複合接着繊維が接着していることに加えて、繊維が三次元的に絡合している。このように、高強度複合接着繊維が接着していることに加えて三次元的に絡合しているため、破断強度が優れている。また、三次元的に絡合していることによって、デンドライドが他極へ到達するまでの道のりが長く、複雑であるため、デンドライドによる短絡が発生しにくい。このような三次元的な絡合は、例えば、水流などの流体流を繊維ウエブに対して作用させることによって、得ることができる。
このような本発明のセパレータの目付は信頼性に優れるセパレータであるように、50g/m2を超える。目付が高いと繊維量が多くなり、地合いが良く、信頼性が高い。目付が高い方が信頼性が高いため、55g/m2以上であるのが好ましく、60g/m2以上であるのがより好ましく、65g/m2以上であるのが更に好ましい。セパレータの目付の上限は特に限定するものではないが、100g/m2以下であるのが好ましく、95g/m2以下であるのがより好ましく、90g/m2以下であるのが更に好ましい。本発明における「目付」はJIS P 8124:2011(紙及び板紙−坪量測定法)に規定されている方法に基づいて得られる坪量を意味する。
本発明のセパレータは比表面積が0.70m2/g以上であることを特徴としている。このように比表面積が広く、電解液と接触できる面積が広いため、電解液の保持性に優れているばかりでなく、デンドライドが他極へ到達するまでの道のりも長いため、デンドライドによる短絡が発生しにくいセパレータである。このように、比表面積が大きいほど、前記効果に優れているため、比表面積は0.75m2/g以上であるのが好ましく、0.80m2/g以上であるのがより好ましい。前述のように、比表面積が大きいほど、電解液の保持性に優れ、また、デンドライドが他極へ到達するまでの道のりが長く、短絡が発生しにくく好ましいため、上限は特に限定するものではない。このような比表面積を有するセパレータは、例えば、比較的相溶性の低い樹脂の組合せからなる分割性繊維を分割して発生させた極細繊維を含んでいると、前記比表面積を満たしやすい。
本発明における「比表面積」は、セパレータ(試料)を真空中、温度70℃で4時間処理した後、室温冷却して1×10−3Torrまで真空引きした後、試料約0.5gを精秤し、ガス吸着測定装置[日本ベル(株)製、BELSORP 28A]を用い、BET法により測定した値である。なお、吸着ガスとして、クリプトンを用いる。
本発明のセパレータは破断強度が150N/5cm以上であるため、物理的短絡の防止性に優れている。つまり、破断強度が高いことによって、電池構成時にセパレータが変形しにくく、孔径変化が小さいため、物理的短絡防止性に優れている。また、破断強度が高いことによって、ハンドリング性に優れ、電池の生産性に優れている。セパレータの破断強度が高い程、前記効果に優れるため、破断強度は170N/5cm以上であるのが好ましく、190N/5cm以上であるのがより好ましく、210N/5cm以上であるのが更に好ましい。前述のように、破断強度が大きいほど、前記効果に優れるため、上限は特に限定するものではない。
本発明における「破断強度」は、セパレータの長手方向に200mm、短手方向に50mmの短冊状に切断した試料を、引張強さ試験機(オリエンテック製、テンシロンUTM−III−100)に固定(チャック間距離:100mm)し、速度300mm/min.で引張り、破断時の強さの測定を3回行い、その算術平均値をいう。
本発明のセパレータの厚さは、前述の目付、比表面積及び破断強度を満たす限り、特に限定するものではないが、デンドライドによる短絡を防止しやすいように、ある程度の厚さを有するのが好ましく、より具体的には、160μm以上であるのが好ましく、170μm以上であるのがより好ましく、180μm以上であるのが更に好ましい。一方で、ある程度高容量の電池を作製できるように、220μm以下であるのが好ましい。本発明における「厚さ」は、JIS B 7502:1994に規定されている外側マイクロメーター(0〜25mm)を用いた5N荷重時の測定を、無作為に選んだ10点について行い、その算術平均値をいう。
本発明のセパレータは電池製造時に極板のバリが電池用セパレータを突き抜けたりせず、物理的短絡を効果的に防止できるように、平均ニードル式耐貫通力が1000N以上であるのが好ましい。この平均ニードル式耐貫通力は高ければ高いほど前記効果に優れているため、1100N以上であるのがより好ましく、1200N以上であるのが更に好ましい。なお、平均ニードル式耐貫通力は高ければ高いほど前記効果に優れているため、上限は特に限定するものではない。
本発明の「平均ニードル式耐貫通力」は、次の測定手順によって得られる値をいう。まず、円筒状貫通孔(内径=11mm)を有する支持台の円筒状貫通孔を覆うようにセパレータ試料を1枚載置し、更にセパレータ試料上に、円筒状貫通孔(内径=11mm)を有する固定材を、固定材の中心が前記支持台の円筒状貫通孔の中心と一致するように載置してセパレータ試料を固定する。その後、このセパレータ試料に対して、ハンディー圧縮試験機(カトーテック製、KES−G5)に取り付けたニードル(先端部における曲率半径=0.5mm、直径=1mm、治具からの突出長さ=2cm)を、0.01cm/sec.の速度で垂直に突き刺し、ニードルがセパレータ試料を突き抜けるのに要する力を測定し、この力をニードル式耐貫通力とする。このニードル式耐貫通力の測定を、任意に選んだセパレータ試料10点について行い、この10点の算術平均値を平均ニードル式耐貫通力とする。
本発明のセパレータは緻密性に優れ、短絡が生じにくく、しかも電解液の均一保持性に優れるように、地合いの指標である地合指数が0.15以下であるのが好ましく、0.13以下であるのがより好ましい。この地合指数は特願平11−152139号に記載されている方法により得られる値をいう。つまり、次のようにして得られる値をいう。
(1)光源からセパレータに対して光を照射し、照射された光のうち、セパレータの所定領域において反射された反射光を受光素子によって受光して輝度情報を取得する。
(2)セパレータの所定領域を画像サイズ3mm角、6mm角、12mm角、24mm角に等分割して、4つの分割パターンを取得する。
(3)得られた各分割パターン毎に等分割された各区画の輝度値を輝度情報に基づいて算出する。
(4)各区画の輝度値に基づいて、各分割パターン毎の輝度平均(X)を算出する。
(5)各分割パターン毎の標準偏差(σ)を求める。
(6)各分割パターン毎の変動係数(CV)を次の式により算出する。
変動係数(CV)=(σ/X)×100
(7)各画像サイズの対数をX座標、当該画像サイズに対応する変動係数をY座標とした結果得られる座標群を、最小二乗法により一次直線に回帰させ、その傾きを算出し、この傾きの絶対値を地合指数とする。
本発明のセパレータは、例えば、次のようにして製造することができる。まず、引張り強さが5cN/dtex以上の高強度複合接着繊維と、繊維径2〜5μmの極細繊維に分割可能な分割性繊維とを用意する。この高強度複合接着繊維としては、前述のものを使用することができ、特にポリプロピレンと高密度ポリエチレンからなり、高密度ポリエチレンが繊維表面全体(接着成分)を占める、芯鞘構造の高強度複合接着繊維が好ましい。また、分割性繊維としては、前述の図1〜図6のような分割性繊維を用意する。なお、分割性繊維は極細繊維の発生源であるため、分割性繊維はメチルペンテン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体を適宜組み合わせた繊維であるのが好ましく、比較的相溶性が低く、しかも接着成分が高密度ポリエチレンからなる高強度複合接着繊維で接着しても溶融しない、メチルペンテン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とからなる分割性繊維を使用するのが好ましい。
次いで、高強度複合接着繊維と分割性繊維とを用いて繊維ウエブを形成する。これら繊維の配合比は特に限定するものではないが、破断強度の優れるセパレータを得ることができるように、高強度複合接着繊維を40mass%以上含ませるのが好ましい。また、比表面積が広く、デンドライドによる短絡が発生しにくいように、分割性繊維を30mass%以上含ませるのが好ましい。なお、繊維ウエブを形成する方法は特に限定するものではないが、デンドライドによる短絡防止性及び電解液の保持性に優れているように、地合いの優れる繊維ウエブを形成しやすい湿式法により形成するのが好ましい。この好適である湿式繊維ウエブは、例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式により形成することができる。
次いで、繊維ウエブ(特には湿式繊維ウエブ)に対して、水流を作用させる。水流を作用させることによって、繊維が三次元的に絡合するのは勿論のこと、水流の作用によって分割性繊維が分割して極細繊維を発生する。本発明においては、ある程度の剛性を有する高強度複合接着繊維を含んでいることによって、高強度複合接着繊維が支持体として作用し、分割性繊維を十分に分割して極細繊維を発生させやすい結果、比表面積が0.70m2/g以上という広い比表面積を有するセパレータを製造しやすい。
この水流は繊維同士を三次元的に絡合させることができるとともに、十分に分割性繊維を分割できるのであれば、どのような条件であっても良く、特に限定するものではないが、例えば、直径0.05〜0.3mm、ピッチ0.2〜3mmで一列又は二列以上にノズルを配置したノズルプレートから、圧力1MPa〜30MPaの水流を繊維ウエブに対して噴出すれば良い。このような水流は1回以上、繊維ウエブの片面又は両面に対して噴出すれば良い。なお、水流を作用させる際に、繊維ウエブを支持するネットなどの非開孔部が太いと、得られるセパレータも大きな孔を有するものとなり、短絡が生じやすくなるので、非開孔部の太さが0.25mm以下の支持体を使用するのが好ましい。
なお、高強度複合接着繊維を含んでいるとはいえ、水流によって分割性繊維が移動してしまい、分割性繊維を分割しにくい場合には、水流を作用させる前に、高強度複合接着繊維の接着成分により接着して、分割性繊維を固定するのが好ましい。このように分割性繊維を固定した場合であっても、水流の作用によって接着が解け、三次元的に絡合すると同時に、極細繊維が発生する。
この繊維ウエブの接着は無圧下で行なっても良いし、加圧下で行なっても良いし、無圧下で接着成分を溶融させた後に加圧しても良い。このような接着を実施できる装置として、例えば、熱カレンダー、熱風貫通式熱処理器、シリンダ接触型熱処理器などがある。加熱温度は、加熱と加圧を同時に行なう場合には、高強度複合接着繊維の接着成分の軟化温度から融点までの範囲内の温度であるのが好ましく、加圧を伴わない場合には、高強度複合接着繊維の接着成分の軟化温度から融点よりも30℃高い温度までの範囲内で行なうのが好ましい。
このように水流を作用させて繊維同士を三次元的に絡合させるとともに極細繊維を発生させた後に、高強度複合接着繊維の接着成分により接着して、本発明のセパレータを得ることができる。このように、繊維同士が三次元的に絡合した状態で、高強度複合接着繊維が接着しているため、優れた破断強度を有し、物理的短絡の防止性に優れるセパレータを製造することができる。なお、高強度複合接着繊維の接着成分による接着は、水流を作用させる前の繊維ウエブの接着と同様の方法、条件で実施することができる。
本発明のセパレータは耐電解液性に優れているように、高強度複合接着繊維と極細繊維のいずれもポリオレフィン系樹脂からなるのが好ましいが、ポリオレフィン系樹脂は電解液との親和性が悪いため、公知の親水化処理、例えば、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、放電処理、界面活性剤処理、或いは親水性樹脂付与処理を実施するのが好ましい。このように親水化処理を実施したセパレータは繊維表面に親水性基を有する。例えば、スルホン化処理を実施したセパレータの繊維は表面にスルホン酸基を有する。
本発明のセパレータは、デンドライドによる短絡発生防止性、物理的短絡発生防止性、電解液の保持性、及び破断強度の強いものであるため、本発明のセパレータを使用すれば、電解液が枯れにくく、短絡が発生しにくい、寿命の長いアルカリ電池を製造することができる。例えば、円筒形、角型又はボタン型のアルカリ電池を製造できる。より具体的には、アルカリマンガン電池、水銀電池、酸化銀電池、又は空気電池などの一次電池、或いはニッケル−カドミウム電池、銀−亜鉛電池、銀−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、ニッケル−水素電池又は鉛蓄電池などの二次電池、特にニッケル−カドミウム電池、ニッケル−水素電池を好適に製造できる。
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(分割性繊維A)
図6に示すような、ポリプロピレン成分(図中記号11、略台形状で繊度0.11dtex(繊維径:3.8μm)のポリプロピレン極細繊維(融点:160℃)を8本発生可能)と、ポリメチルペンテン成分(図中記号12、略台形状で繊度0.11dtex(繊維径:4.1μm)のポリメチルペンテン極細繊維(融点:235℃)を8本発生可能)とからなる、オレンジ型の横断面形状を有し、且つ中空部分を有する、繊度1.7dtex、繊維長3mmの延伸された分割性繊維Aを用意した。
(分割性繊維B)
図1に示すような、ポリプロピレン成分(図中記号11、略三角形状で繊度0.11dtex、(繊維径:3.9μm)のポリプロピレン極細繊維(融点:160℃)を8本発生可能)と、高密度ポリエチレン成分(図中記号12、略三角形状で繊度0.11dtex、(繊維径:3.8μm)の高密度ポリエチレン極細繊維(融点:130℃)を8本発生可能)とからなる、オレンジ型断面を有する、繊度1.7dtex、繊維長5mmの延伸された分割性繊維Bを用意した。
(高強度複合接着繊維A)
芯成分がポリプロピレン(融点:168℃)からなり、鞘成分が高密度ポリエチレン(融点:135℃)からなる、引張り強さが6.5cN/dtexの高強度複合接着繊維A(繊維径:10μm、繊維長:5mm、ヤング率:45cN/dtex、熱収縮率:7%)を用意した。
(複合接着繊維B)
芯成分がポリプロピレン(融点:160℃)からなり、鞘成分が高密度ポリエチレン(融点:130℃)からなる、引張り強さが4.0cN/dtexの複合接着繊維B(繊維径:10μm、繊維長:5mm、ヤング率:20cN/dtex、熱収縮率:12%)を用意した。
(複合接着繊維C)
芯成分がポリプロピレン(融点:165℃)からなり、鞘成分が低密度ポリエチレン(融点:110℃)からなる、引張り強さが2.3cN/dtexの複合接着繊維C(繊維径:18μm、繊維長:5mm、ヤング率:12cN/dtex、熱収縮率:15%)を用意した。
(実施例1〜3、比較例1〜4)
表1に示す配合で混合分散させたスラリーを形成した後、湿式法(水平長網方式)により繊維ウエブをそれぞれ形成した。
次いで、この繊維ウエブを無加圧下、温度135℃(高強度複合接着繊維A又は複合接着繊維Bを含む場合)又は110℃(複合接着繊維Cを含む場合)で乾燥すると同時に、高強度複合接着繊維A、複合接着繊維B又は複合接着繊維Cで接着して、接着繊維ウエブをそれぞれ製造した。
次いで、接着繊維ウエブを線径0.15mmのネット上に載置し、ノズル径0.13mm、ピッチ0.6mmのノズルプレートから圧力8MPaの水流を両面交互に2回づつ噴出して、分割性繊維の分割及び繊維を三次元的に絡合させて水流絡合繊維ウエブをそれぞれ製造した。
続いて、これら水流絡合繊維ウエブを無加圧下、温度140℃(高強度複合接着繊維A又は複合接着繊維Bを含む場合)又は110℃(複合接着繊維Cを含む場合)で乾燥すると同時に、高強度複合接着繊維A、複合接着繊維B又は複合接着繊維Cで再度接着して、接着水流絡合不織布をそれぞれ製造した。
次いで、温度60℃の発煙硫酸溶液(15%SO3溶液)中に2分間浸漬した後、十分に水洗し、乾燥して、スルホン酸基を繊維表面に導入し、更に常温のカレンダーで厚さ調整し、目付65g/m2又は75g/m2のセパレータをそれぞれ製造した。
(比較例5)
分割性繊維A40mass%と高強度複合接着繊維A60mass%とを水に分散させ、パルパーにより分割性繊維Aを分割して、ポリプロピレン極細繊維、ポリメチルペンテン極細繊維、及び高強度複合接着繊維Aとが混在したスラリーを形成した後、湿式法(水平長網方式)により繊維ウエブを形成した。
次いで、この繊維ウエブを無加圧下、温度140℃で乾燥すると同時に、高強度複合接着繊維Aで接着して、接着不織布を製造した。
そして、温度60℃の発煙硫酸溶液(15%SO3溶液)中に2分間浸漬した後、十分に水洗し、乾燥して、スルホン酸基を繊維表面に導入し、更に常温のカレンダーで厚さ調整し、目付75g/m2のセパレータを製造した。
(物性評価)
前述の方法により、各セパレータの破断強度、比表面積、平均ニードル式貫通力及び地合指数を測定した。これらの結果は表1に示す通りであった。
(サイクル特性の評価)
サイクル特性について、次の手順により評価した。
まず、電極の集電体として、発泡ニッケル基材を用いたペースト式ニッケル正極(幅41mm、70mm長)と、ペースト式水素吸蔵合金負極(ミッシュメタル系合金、幅40mm、100mm長)とを作製した。
次いで、42mm幅、176mm長に裁断した実施例1〜3及び比較例1〜5の各セパレータを正極と負極との間に挟み、渦巻状に巻回して、電極群をそれぞれ作製した。
次いで、これら電極群を外装缶に収納し、電解液として5N水酸化カリウム及び1N水酸化リチウムを外装缶に注液し、封緘して、容量が1600mAhの円筒型ニッケル−水素電池をそれぞれ作製した。
次いで、円筒型ニッケル−水素電池の活性化を行った後、充電率0.1Cで120%充電し、15分間休止し、終止電圧0.8Vになるまで放電率0.2Cで充電させることを1サイクルとする充放電を繰り返し、放電容量が初期容量の80%未満となるまでに要する充放電サイクル数を、それぞれ測定した。そして、比較例1の電池のサイクル数を基準(100)とした時の比率をそれぞれ算出した。この結果は表1に示す通りであった。
(電池製造時の不良率の測定)
上述の(サイクル特性の評価)と同様にして、円筒型ニッケル−水素電池を製造する際に、電極のバリ、もしくはセパレータ中への活物質の物理的な潜り込みによって短絡してしまい、正常な充放電性能が得られなかった電池をそれぞれ計数した。そして、正常な充放電性能が得られなかった電池の数の百分率をそれぞれ算出し、「不良率」とした。この結果は表1に示す通りであった。
実施例1と比較例1との比較から、比表面積が0.70m2/g以上であることによって、サイクル特性に優れていることがわかった。これは、デンドライドによる短絡が生じにくいためであると考えられた。また、高強度複合接着繊維を含んでいることによって、安定して電池を製造できることがわかった。これは、電極のバリがセパレータを貫通しにくく、また、セパレータ中への活物質の物理的な潜り込みがないためであると考えられた。
実施例1と比較例2との比較から、破断強度が150N/5cm以上であることによって、物理的短絡が発生しにくく、安定して電池を製造できることがわかった。
実施例2と比較例5との比較から、繊維同士が三次元的に絡合し、破断強度が150N/5cm以上であることによって、物理的短絡が発生しにくく、安定して電池を製造できることがわかった。
実施例1と比較例3との比較から、比表面積が0.70m2/g以上であることによって、サイクル特性に優れていることがわかった。なお、比較例3において比表面積が小さいのは、分割性繊維Bの分割が不十分で、極細繊維の発生量が少ないためであると考えられた。
比較例3のセパレータにおいて、極細繊維量が少ないと考えられたため、極細繊維量の増加を見込んで、分割性繊維Bの量を多くした比較例4であっても、比表面積が0.70m2/g以上とすることができず、サイクル特性が劣っているばかりか、破断強度も150N/5cmを下回り、安定して電池を製造できないものであった。