本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本明細書において、数値範囲をA〜Bと表記した場合、その数値範囲に下限Aおよび上限Bの値は含まれるものとする。
本実施形態に係る長尺状の斜め延伸フィルム(長尺斜め延伸フィルム、または単に斜め延伸フィルムとも称する)の製造方法は、熱可塑性樹脂を含む長尺状の原反フィルムを、幅手方向および長手方向に対して斜め方向に延伸して長尺斜め延伸フィルムを製造する、長尺斜め延伸フィルムの製造方法である。
長尺斜め延伸フィルムの配向方向、すなわち、遅相軸の方向は、フィルム面内(厚さ方向に垂直な面内)において、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度をなす方向である(自動的にフィルムの長手方向に対しても0°を超え90°未満の角度をなす方向となる)。遅相軸は、通常、延伸方向または延伸方向に直角な方向に発現するので、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の方向に延伸を行うことにより、かかる遅相軸を有する長尺斜め延伸フィルムを製造しうる。長尺斜め延伸フィルムの幅手方向と遅相軸とがなす角度、すなわち配向角は、0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
本実施形態において、長尺とは、フィルムの幅に対し、少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するもの(フィルムロール)を考えることができる。
長尺斜め延伸フィルムは、長尺状の未配向フィルムを製膜した後にこれを一度巻芯に巻き取って巻回体(原反フィルム)とし、この巻回体から原反フィルムを斜め延伸工程に供給して製造するようにしてもよいし、製膜後の長尺フィルムを巻き取ることなく、製膜工程から連続して斜め延伸工程に供給して製造することもできる。製膜工程と斜め延伸工程とを連続して行うことは、延伸後のフィルムの膜厚や光学値の結果をフィードバックして製膜条件を変更し、所望の長尺斜め延伸フィルムを得ることができるので好ましい。また、長尺斜め延伸フィルムを連続的に製造することにより、所望の長さの長尺斜め延伸フィルムを得ることができる。
原反フィルムに含まれる熱可塑性樹脂としては、セルロースエステル系樹脂、脂環式オレフィンポリマー系樹脂(COP)、ポリカーボネート系樹脂(PC)などを用いることができる。
上記した原反フィルムを斜め延伸して得られる斜め延伸フィルムは、例えば、偏光サングラスを装着して視認可能な液晶表示装置に適用することができる。すなわち、液晶層よりも視認側の偏光板の偏光子に対して、さらにその視認側に斜め延伸フィルムを貼り合わせて円偏光板を構成する。このとき、斜め延伸フィルムの遅相軸と偏光子の透過軸とが45°となるように、両者を貼り合わせる。この構成では、液晶層から出射されて視認側の偏光子を透過した直線偏光は、斜め延伸フィルム(λ/4フィルムとして機能する)にて円偏光に変換される。したがって、観察者が偏光サングラスを装着して液晶表示装置の表示画像を観察する場合に、偏光子の透過軸と、偏光サングラスの透過軸とがどのような角度をなしていても、偏光サングラスの透過軸に平行な光の成分を観察者の眼に導いて表示画像を観察させることができる。よって、観察する角度によって(偏光サングラスの透過軸の方向によって)表示画像が見え難くなるのを抑制することができる。
このように、偏光サングラス対応の液晶表示装置の円偏光板に斜め延伸フィルムを適用する場合には、斜め延伸フィルムの視認側に、表面を保護するためのハードコート層を形成することが望ましい。
以下、本発明の実施態様を、適宜図面を参照して具体的に説明する。
<セルロースエステル系樹脂>
本実施形態の原反フィルムに用いられるセルロースエステル系樹脂フィルムとしては、下記式(1)および(2)を満たすセルロースアシレートを含有し、かつ、下記一般式(A)で表される化合物を含有するものが挙げられる。
式(1) 2.0≦Z1<3.0
式(2) 0≦X<3.0
(式(1)および(2)において、Z1はセルロースアシレートの総アシル置換度を表し、Xはセルロースアシレートのプロピオニル置換度およびブチリル置換度の総和を表す。)
以下、一般式(A)について詳細に説明する。一般式(A)において、L1およびL2は各々独立に単結合または2価の連結基を表す。L1およびL2としては、例えば、下記構造が挙げられる。(下記Rは水素原子または置換基を表す。)
L1およびL2として、好ましくは−O−、−COO−、−OCO−である。
R1、R2およびR3は各々独立に置換基を表す。R1、R2およびR3で表わされる置換基の具体例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基等)、アルケニル基(ビニル基、アリル基等)、シクロアルケニル基(2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基等)、アルキニル基(エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(フェニル基、p−トリル基、ナフチル基等)、ヘテロ環基(2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基等)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基等)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基等)、アミノ基(アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基等)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基等)、メルカプト基、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基等)、アリールチオ基(フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基等)、スルファモイル基(N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’フェニルカルバモイル)スルファモイル基等)、スルホ基、アシル基(アセチル基、ピバロイルベンゾイル基等)、カルバモイル基(カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基等)が挙げられる。
R1およびR2としては、好ましくは、置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のシクロヘキシル基であり、より好ましくは、置換基を有するフェニル基、置換基を有するシクロヘキシル基であり、さらに好ましくは、4位に置換基を有するフェニル基、4位に置換基を有するシクロヘキシル基である。
R3として、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、シアノ基、アミノ基であり、さらに好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シアノ基、アルコキシ基である。
WaおよびWbは水素原子または置換基を表すが、
(I)WaおよびWbが互いに結合して環を形成してもよく、
(II)WaおよびWbの少なくとも一つが環構造を有してもよく、または
(III)WaおよびWbの少なくとも一つがアルケニル基またはアルキニル基であってもよい。
WaおよびWbで表わされる置換基の具体例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基等)、アルケニル基(ビニル基、アリル基等)、シクロアルケニル基(2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基等)、アルキニル基(エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(フェニル基、p−トリル基、ナフチル基等)、ヘテロ環基(2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基等)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基等)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基等)、アミノ基(アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基等)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基等)、メルカプト基、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基等)、アリールチオ基(フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基等)、スルファモイル基(N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’フェニルカルバモイル)スルファモイル基等)、スルホ基、アシル基(アセチル基、ピバロイルベンゾイル基等)、カルバモイル基(カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基等)が挙げられる。
上記の置換基は、更に上記の基で置換されていてもよい。
(I)WaおよびWbが互いに結合して環を形成する場合、その環は、含窒素5員環または含硫黄5員環であることが好ましい。また、一般式(A)は、下記一般式(1)または一般式(2)で表される化合物であることが特に好ましい。
一般式(1)において、A1およびA2は各々独立に、−O−、−S−、−NRx−(Rxは水素原子または置換基を表す)または−CO−を表す。Rxで表される置換基の例は、上記WaおよびWbで表わされる置換基の具体例と同義である。Rxとして、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基である。
一般式(1)において、Xは第14〜16族の非金属原子を表す。Xとしては、=O、=S、=NRc、=C(Rd)Reが好ましい。ここでRc、Rd、Reは置換基を表し、例としては上記WaおよびWbで表わされる置換基の具体例と同義である。L1、L2、R1、R2、R3、nは、一般式(A)におけるL1、L2、R1、R2、R3、nと同義である。
一般式(2)において、Q1は−O−、−S−、−NRy−(Ryは水素原子または置換基を表す)、−CRaRb−(RaおよびRbは水素原子または置換基を表す)または−CO−を表す。ここで、Ry、Ra、Rbは置換基を表し、例としては上記WaおよびWbで表わされる置換基の具体例と同義である。
Yは置換基を表す。Yで表わされる置換基の例としては、上記WaおよびWbで表される置換基の具体例と同義である。Yとして、好ましくは、アリール基、ヘテロ環基、アルケニル基、アルキニル基である。
Yで表わされるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ビフェニル基等が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
ヘテロ環基としては、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基等の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも一つ含むヘテロ環基が挙げられ、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基が好ましい。
これらのアリール基またはヘテロ環基は、少なくとも一つの置換基を有していてもよい。この置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキルスルフィニル基、炭素数1〜6のアルキルスルホニル基、カルボキシル基、炭素数1〜6のフルオロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアルキルチオ基、炭素数1〜6のN−アルキルアミノ基、炭素数2〜12のN,N−ジアルキルアミノ基、炭素数1〜6のN−アルキルスルファモイル基、炭素数2〜12のN,N−ジアルキルスルファモイル基等が挙げられる。
L1、L2、R1、R2、R3、nは、一般式(A)におけるL1、L2、R1、R2、R3、nと同義である。
(II)一般式(A)において、WaおよびWbの少なくとも一つが環構造を有する場合の具体例としては、好ましくは、下記一般式(3)である。
一般式(3)において、Q3は=N−または=CRz−(Rzは水素原子または置換基)を表し、Q4は第14〜16族の非金属原子を表す。ZはQ3およびQ4と共に環を形成する非金属原子群を表す。
Q3、Q4およびZから形成される環は、更に別の環で縮環していてもよい。Q3、Q4およびZから形成される環は、ベンゼン環で縮環した含窒素5員環または6員環であることが好ましい。
L1、L2、R1、R2、R3、nは、一般式(A)におけるL1、L2、R1、R2、R3、nと同義である。
(III)WaおよびWbの少なくとも一つがアルケニル基またはアルキニル基である場合、それらは置換基を有するビニル基またはエチニル基であることが好ましい。
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)で表される化合物のうち、特に、一般式(3)で表される化合物が好ましい。
一般式(3)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物に比べて耐熱性および耐光性に優れており、一般式(2)で表される化合物に比べ、有機溶媒に対する溶解性やポリマーとの相溶性が良好である。
一般式(A)で表される化合物は、所望の波長分散性、および滲み防止性を付与するのに適宜量を調整して含有することができるが、添加量としてはセルロース誘導体に対して、1〜15質量%含むことが好ましく、特には、2〜10質量%含むことが好ましい。この範囲内であれば、上記セルロース誘導体に十分な波長分散性、および滲み防止性を付与することができる。
なお、一般式(A)、一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)で表わされる化合物は、既知の方法を参照して得ることができる。具体的には、Journal of Chemical Crystallography(1997);27(9);512−526)、特開2010−31223号公報、特開2008−107767号公報等を参照して合成することができる。
(セルロースアシレートについて)
本実施形態に係るセルロースアシレートフィルムは、セルロールアシレートを主成分として含有する。例えば、本実施形態に係るセルロースアシレートフィルムは、フィルムの全質量(100質量%)に対して、セルロースアシレートを好ましくは60〜100質量%の範囲で含む。また、セルロースアシレートの総アシル基置換度は、2.0以上3.0未満であり、2.2〜2.7であることがより好ましい。
セルロースアシレートとしては、セルロースと、炭素数2〜22程度の脂肪族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸とのエステルが挙げられ、特に、セルロースと炭素数が6以下の低級脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
セルロースの水酸基に結合するアシル基は、直鎖であっても分岐していてもよく、また環を形成してもよい。さらに別の置換基が置換してもよい。同じ置換度である場合、上述した炭素数が多いと複屈折性が低下するため、炭素数としては炭素数2〜6のアシル基の中で選択することが好ましく、プロピオニル置換度およびブチリル置換度の総和は0以上3.0未満である。前記セルロースアシレートとしての炭素数が2〜4であることが好ましく、炭素数が2〜3であることがより好ましい。
具体的には、セルロースアシレートとしては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートまたはセルロースアセテートフタレートのようなアセチル基の他にプロピオネート基、ブチレート基またはフタリル基が結合したセルロースの混合脂肪酸エステルを用いることができる。なお、ブチレートを形成するブチリル基は、直鎖であっても分岐していてもよい。
本実施形態においては、セルロースアシレートとして、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートが特に好ましく用いられる。
また、上記のセルロースアシレートは、下記の数式(i)および数式(ii)を同時に満足するものが好ましい。
式(i) 2.0≦X+Y<3.0
式(ii) 0≦X<3.0
式中、Yはアセチル基の置換度を表し、Xはプロピオニル基もしくはブチリル基またはその混合物の置換度を表す。
また、目的に叶う光学特性を得るために、置換度の異なる樹脂を混合して用いてもよい。その際の混合比としては、1:99〜99:1(質量比)が好ましい。
上述した中でも、特にセルロースアセテートプロピオネートが、セルロースアシレートとして好ましく用いられる。セルロースアセテートプロピオネートでは、0≦Y≦2.5であり、かつ、0.5≦X≦3.0である(ただし、2.0≦X+Y<3.0である)ことが好ましく、0.5≦Y≦2.0であり、かつ、1.0≦X≦2.0である(ただし、2.0≦X+Y<3.0である)ことがより好ましい。なお、アシル基の置換度は、ASTM(American Society for Testing and Materials;米国試験材料協会)が策定・発行する規格の一つであるASTM−D817−96に準じて測定されうる。
セルロースアシレートの数平均分子量は、60000〜300000の範囲であると、得られるフィルムの機械的強度が強くなるため、好ましい。より好ましくは、数平均分子量が70000〜200000のセルロースアシレートが用いられる。
セルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される。測定条件は以下の通りである。なお、本測定方法は、本実施形態における他の重合体の測定方法としても使用することができる。
溶媒:メチレンクロライド;
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工株式会社製)を3本接続して使用する;
カラム温度:25℃;
試料濃度:0.1質量%;
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製);
ポンプ:L6000(日立製作所株式会社製);
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー株式会社製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
セルロースアシレート中の残留硫酸含有量は、硫黄元素換算で0.1〜45質量ppmの範囲であることが好ましい。これらは塩の形で含有していると考えられる。残留硫酸含有量が45質量ppmを超えると、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際に破断しやすくなる傾向がある。なお、残留硫酸含有量は、1〜30質量ppmの範囲がより好ましい。残留硫酸含有量は、ASTM−D817−96に規定の方法により測定することができる。
また、セルロースアシレート中の遊離酸含有量は、1〜500質量ppmであることが好ましい。上記の範囲であると、上記と同様に破断しにくいため、好ましい。なお、遊離酸含有量は、1〜100質量ppmの範囲であることが好ましく、さらに破断しにくくなる。特に1〜70質量ppmの範囲が好ましい。遊離酸含有量はASTM−D817−96に規定の方法により測定することができる。
合成したセルロースアシレートの洗浄を十分に行うことにより、残留硫酸含有量および遊離酸含有量を上記の範囲とすることができ、好ましい。
セルロースアシレートの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどが挙げられる。また、それらから得られたセルロースアシレートは、それぞれ任意の割合で混合使用されうる。
セルロースアシレートは、公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば、特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
また、セルロースアシレートは、セルロースアシレート中の微量金属成分によっても影響を受ける。これらの微量金属成分は、製造工程で使われる水に関係していると考えられるが、不溶性の核となりうるような成分は少ない方が好ましい。特に、鉄、カルシウム、マグネシウム等の金属イオンは、有機の酸性基を含んでいる可能性のあるポリマー分解物等と塩形成することにより不溶物を形成する場合があり、少ないことが好ましい。また、カルシウム(Ca)成分は、カルボン酸やスルホン酸等の酸性成分と、また多くの配位子と配位化合物(すなわち、錯体)を形成しやすく、多くの不溶なカルシウムに由来するスカム(不溶性の澱、濁り)を形成する虞があるため、少ないことが好ましい。
具体的には、鉄(Fe)成分については、セルロースアシレート中の含有量が1質量ppm以下であることが好ましい。また、カルシウム(Ca)成分については、セルロースアシレート中の含有量が好ましくは60質量ppm以下であり、より好ましくは0〜30質量ppmである。さらに、マグネシウム(Mg)成分については、やはり多過ぎると不溶分を生ずるため、セルロースアシレート中の含有量が0〜70質量ppmであることが好ましく、特に0〜20質量ppmであることが好ましい。
なお、鉄(Fe)成分の含有量、カルシウム(Ca)成分の含有量、マグネシウム(Mg)成分の含有量などの金属成分の含有量は、絶乾したセルロースアシレートをマイクロダイジェスト湿式分解装置にて硫硝酸で分解し、アルカリ溶融で前処理を行った後、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析することができる。
<脂環式オレフィンポリマー系樹脂>
本実施形態の原反フィルムに用いられる脂環式オレフィンポリマー系樹脂としては、特開平05−310845号公報に記載されている環状オレフィンランダム多元共重合体、特開平05−97978号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11−124429号公報に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体およびその水素添加物等を採用することができる。
脂環式オレフィンポリマー系樹脂は、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造や不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造のごとき脂環式構造を有するポリマーである。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性および長尺フィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
脂環式オレフィンポリマー中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、本実施形態の長尺斜め延伸フィルムより得られる位相差フィルム等の光学材料の透明性および耐熱性が向上するので好ましい。
脂環構造を有するオレフィンポリマー系樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂およびこれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体またはそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体またはそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性および軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
上記のようなノルボルネン系樹脂を用いた長尺フィルム(原反フィルム)を成形する方法としては、溶液製膜法や溶融押出法の製造方法が好まれる。溶融押出法としては、ダイスを用いるインフレーション法等が挙げられるが、生産性や厚さ精度に優れる点でTダイを用いる方法が好ましい。
Tダイを用いた押出成形法としては、特開2004−233604号公報に記載されているような、冷却ドラムに密着させる時の溶融状態の熱可塑性樹脂を安定な状態に保つ方法により、リタデーションや配向角といった光学特性のばらつきが小さい長尺フィルムを製造することができる。
具体的には、1)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;2)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から最初に密着する冷却ドラムまでを囲い部材で覆い、囲い部材からダイス開口部または最初に密着する冷却ドラムまでの距離を100mm以下とする方法;3)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂より10mm以内の雰囲気の温度を特定の温度に加温する方法;4)関係を満たすようにダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;5)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂に、最初に密着する冷却ドラムの引取速度との速度差が0.2m/s以下の風を吹き付ける方法;が挙げられる。
この長尺フィルムは、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、共流延成形法、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法、共流延成形法が好ましい。
<ポリカーボネート系樹脂>
本実施形態の原反フィルムに用いられるポリカーボネート系樹脂としては、特に限定なく種々のものが使用でき、化学的性質および物性の点から芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、特にビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。その中でも、ビスフェノールAにベンゼン環、シクロヘキサン環、および脂肪族炭化水素基等を導入したビスフェノールA誘導体を用いたものがより好ましい。さらに、ビスフェノールAの中央の炭素に対して、非対称に上記官能基が導入された誘導体を用いて得られた、単位分子内の異方性を減少させた構造のポリカーボネート樹脂が特に好ましい。このようなポリカーボネート樹脂としては、例えば、ビスフェノールAの中央の炭素の2個のメチル基をベンゼン環に置き換えたもの、ビスフェノールAのそれぞれのベンゼン環の一の水素をメチル基やフェニル基などで中央炭素に対し非対称に置換したものを用いて得られるポリカーボネート樹脂が特に好ましい。
具体的には、4,4′−ジヒドロキシジフェニルアルカンまたはこれらのハロゲン置換体からホスゲン法またはエステル交換法によって得られるものであり、例えば、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルブタン等が挙げられる。また、この他にも例えば、特開2006−215465号公報、特開2006−91836号公報、特開2005−121813号公報、特開2003−167121号公報、特開2009−126128号公報、特開2012−31369号公報、特開2012−67300号公報、国際公開第00/26705号等に記載されているポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂は、ポリスチレン系樹脂、メチルメタクリレート系樹脂、およびセルロースアセテート系樹脂等の透明性樹脂と混合して使用してもよい。また、セルロースアセテート系樹脂を用いて形成した樹脂フィルムの少なくとも一方の面にポリカーボネート系樹脂を含有する樹脂層を積層してもよい。
ポリカーボネート系樹脂は、ガラス転移点(Tg)が110℃以上であって、吸水率(23℃水中、24時間の条件で測定した値)が0.3%以下のものであることが好ましい。また、Tgが120℃以上であって、吸水率が0.2%以下のものがより好ましい。
本実施形態で用いることができるポリカーボネート系樹脂フィルムは公知の方法で製膜することができ、その中でも溶液流延法や溶融流延法が好ましい。
<添加剤>
本実施形態の原反フィルムは、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、リタデーション調整剤、酸化防止剤、劣化防止剤、剥離助剤、界面活性剤、染料、微粒子等がある。本実施形態において、微粒子以外の添加剤についてはドープ液の調製の際に添加してもよいし、微粒子分散液の調製の際に添加してもよい。
(可塑剤)
原反フィルムに添加される可塑剤としては、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系、糖エステル系、アクリル系ポリマー等が挙げられる。この中では、透湿性の観点からポリエステル系、及び糖エステル系ポリマーの可塑剤が好ましく用いられる。
ポリエステル系可塑剤は、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル系の可塑剤に比べて非移行性や耐抽出性に優れる。用途に応じてこれらの可塑剤を選択、あるいは併用することによって、広範囲の用途に適用できる。アクリル系ポリマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸アルキルエステルのホモポリマー又はコポリマーが好ましい。アクリル酸エステルのモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、又は上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。アクリル系ポリマーは上記モノマーのホモポリマー又はコポリマーであるが、アクリル酸メチルエステルモノマー単位が30質量%以上を有していることが好ましく、またメタクリル酸メチルエステルモノマー単位が40質量%以上有することが好ましい。特にアクリル酸メチル又はメタクリル酸メチルのホモポリマーが好ましい。
ポリエステル系可塑剤は、一価ないし四価のカルボン酸と一価ないし六価のアルコールとの反応物であるが、主に二価カルボン酸とグリコールとを反応させて得られたものが用いられる。代表的な二価カルボン酸としては、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。またポリエステル系可塑剤の好ましくは、芳香族末端エステル系可塑剤である。芳香族末端エステル系可塑剤としては、フタル酸、アジピン酸、少なくとも一種のベンゼンモノカルボン酸及び少なくとも一種の炭素数2〜12のアルキレングリコールとを反応させた構造を有するエステル化合物が好まし。最終的な化合物の構造としてアジピン酸残基及びフタル酸残基を有していればよく、エステル化合物を製造する際には、ジカルボン酸の酸無水物又はエステル化物として反応させてもよい。
ベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、安息香酸であることが最も好ましい。また、これらはそれぞれ一種又は二種以上の混合物として使用することができる。
炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等が挙げられる。これらの中では特に1,2−プロピレングリコールが好ましい。これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用してもよい。
芳香族末端エステル系可塑剤は、オリゴエステル、ポリエステルの型のいずれでもよく、分子量は100〜10000の範囲が良いが、好ましくは350〜3000の範囲である。また酸価は、1.5mgKOH/g以下、ヒドロキシ(水酸基)価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.5mgKOH/g以下、ヒドロキシ(水酸基)価は15mgKOH/g以下のものである。
具体的には以下に示す化合物などが挙げられるがこれらに限定されない。
糖エステル系化合物としては、セルロースエステル以外のエステルであって、下記単糖、二糖、三糖又はオリゴ糖などの糖のOH基の全て若しくは一部をエステル化した化合物であり、より具体的な例示としては、一般式(4)で表される化合物などを挙げることができる。
式中、R1〜R8は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数2〜22のアルキルカルボニル基、又は置換若しくは無置換の炭素数2〜22のアリールカルボニル基を表す。R1〜R8は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
以下に、一般式(4)で示される化合物をより具体的に示すが(化合物1−1〜化合物1−23)、これらに限定はされない。なお、下表において平均置換度が8.0未満の場合、R1〜R8のうちのいずれかは水素原子を表す。
これらの可塑剤は、セルロースエステルフィルム100質量部に対して、0.5〜30質量部を添加するのが好ましい。
(リタデーション調整剤)
リタデーションを調整するために添加する化合物としては、欧州特許911,656A2号明細書に記載されているような、二つ以上の芳香族環を有する芳香族化合物を使用することができる。
また、二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。該芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環が含まれていることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。中でも1,3,5−トリアジン環が特に好ましい。
(ポリマーまたはオリゴマー)
本実施形態の原反フィルムは、セルロースエステルと、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、およびスルホン酸基から選ばれる置換基を有し、かつ、重量平均分子量が500〜200,000の範囲内であるビニル系化合物のポリマーまたはオリゴマーとを含有することが好ましい。当該セルロースエステルと、当該ポリマーまたはオリゴマーとの含有量の質量比が、95:5〜50:50の範囲内であることが好ましい。
(マット剤)
本実施形態では、マット剤として微粒子を原反フィルム中に含有させることができ、これによって、原反フィルムおよびそれを用いて製造される長尺斜め延伸フィルムの搬送や巻き取りをしやすくすることができる。
マット剤の粒径は10nm〜0.1μmの1次粒子もしくは2次粒子であることが好ましい。1次粒子の針状比は1.1以下の略球状のマット剤が好ましく用いられる。
微粒子としては、ケイ素を含むものが好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。本実施形態に好ましい二酸化珪素の微粒子としては、例えば、日本アエロジル(株)製のアエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されているものを挙げることができ、アエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812を好ましく用いることができる。ポリマーの微粒子の例としては、シリコーン樹脂、弗素樹脂およびアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましい。このような樹脂としては、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(東芝シリコーン(株)製)を挙げることができる。
二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmであることがより好ましく、5〜12nmであることが更に好ましい。1次粒子の平均径が小さいほうが、ヘイズが低く好ましい。見かけ比重は90〜200g/L以上が好ましく、100〜200g/L以上がより好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の微粒子分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が発生せず好ましい。
本実施形態におけるマット剤の添加量は、原反フィルム1m2当たり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがより好ましく、0.08〜0.16gが更に好ましい。
(その他の添加剤)
その他、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等の熱安定剤を加えてもよい。更に界面活性剤、剥離促進剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等も加えてもよい。
(張力軟化点)
本実施形態の原反フィルムには、より高温の環境下での使用に耐えられることが求められている。このため、原反フィルムの張力軟化点は、105℃〜145℃であれば十分な耐熱性を示すため好ましく、特に110℃〜130℃であることが好ましい。
張力軟化点の具体的な測定方法としては、例えば、テンシロン試験機(ORIENTEC社製、RTC−1225A)を用いて、試料フィルムを120mm(縦)×10mm(幅)で切り出し、10Nの張力で引っ張りながら30℃/minの昇温速度で昇温を続け、9Nになった時点での温度を3回測定し、その平均値により求めることができる。
(寸法変化率)
本実施形態の原反フィルムを斜め延伸した後のフィルムを有機EL画像表示装置に用いた場合、吸湿による寸法変化により、厚みムラや位相差値の変化、およびコントラストの低下や色ムラといった問題を発生させないために、斜め延伸フィルムの寸法変化率(%)は0.5%未満が好ましく、更に、0.3%未満であることが好ましい。
(欠点)
本実施形態の原反フィルムは、フィルム中の欠点が少ないことが好ましい。ここで、欠点とは、溶液製膜の乾燥工程において溶媒の急激な蒸発に起因して発生するフィルム中の空洞(発泡欠点)や、製膜原液中の異物や製膜中に混入する異物に起因するフィルム中の異物(異物欠点)を言う。
具体的にはフィルム面内の直径5μm以上の欠点が1個/10cm四方以下であることが好ましい。更に好ましくは0.5個/10cm四方以下、一層好ましくは0.1個/10cm四方以下である。
上記欠点の直径とは、欠点が円形の場合はその直径を示し、円形でない場合は欠点の範囲を下記方法により顕微鏡で観察して決定し、その最大径(外接円の直径)とする。
欠点の範囲は、欠点が気泡や異物の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の透過光で観察したときの影の大きさである。欠点が、ロール傷の転写や擦り傷など、表面形状の変化の場合は、欠点を微分干渉顕微鏡の反射光で観察して大きさを確認する。
なお、反射光で観察する場合に、欠点の大きさが不明瞭であれば、表面にアルミや白金を蒸着して観察する。かかる欠点頻度にて表される品位に優れたフィルムを生産性よく得るには、ポリマー溶液を流延直前に高精度濾過することや、流延機周辺のクリーン度を高くすること、また、流延後の乾燥条件を段階的に設定し、効率よくかつ発泡を抑えて乾燥させることが有効である。
欠点の個数が1個/10cm四方より多いと、例えば後工程での加工時などでフィルムに張力がかかると、欠点を基点としてフィルムが破断して生産性が低下する場合がある。また、欠点の直径が5μm以上になると、偏光板観察などにより目視で確認でき、光学部材として用いたとき輝点が生じる場合がある。
(全光線透過率)
本実施形態の原反フィルムは、その全光線透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。また、全光線透過率の現実的な上限としては、99%程度である。かかる全光線透過率にて表される優れた透明性を達成するには、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散や吸収を低減させることが有効である。また、製膜時のフィルム接触部(冷却ロール、カレンダーロール、ドラム、ベルト、溶液製膜における塗布基材、搬送ロールなど)の表面粗さを小さくしてフィルム表面の表面粗さを小さくすることによりフィルム表面の光の拡散や反射を低減させることが有効である。
<原反フィルムの製膜法>
上述した樹脂を含む本実施形態の原反フィルムは、以下に示す溶液流延製膜法、溶融流延製膜法のどちらでも製膜することができる。なお、ここでは、原反フィルムがセルロースエステル系樹脂を含む場合について説明するが、他の樹脂を含む場合も同様である。
原反フィルムを溶液流延製膜法にて製造する場合、セルロースエステル系樹脂の原反フィルムの原料溶液であるドープを、流延ダイによって回転金属製エンドレスベルトからなる支持体上に流延する。流延によって支持体上に形成されたドープ膜すなわちウェブは支持体上を約一周したところで、剥離ロールによって剥離する。剥離されたウェブ(フィルム)を、ついでテンターよりなる延伸装置に導入する。
原反フィルムを溶融流延製膜法で製造する場合、Tダイを用いた押出し方法では、ポリマーを溶融可能な温度で溶融し、Tダイからフィルム状(シート状)に冷却ドラム上に押し出し、冷却固化して冷却ドラムからフィルムを剥離する。剥離されたフィルムを、ついでテンターよりなる延伸装置に導入する。
以下、各製膜法の詳細について説明する。
〔溶液流延製膜法〕
溶液流延製膜法による原反フィルムの製造方法において、セルロースエステル溶液であるドープの固形分濃度は、通常10〜40質量%程度であり、流延工程における流延時のドープ粘度は1〜200ポイズの範囲で調製される。
ここで、まず、セルロースエステルの溶解は、溶解釜中での撹拌溶解方法、加熱溶解方法、超音波溶解方法等の手段が通常用いられ、加圧下で、溶剤の常圧での沸点以上でかつ溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱し、攪拌しながら溶解する方法が、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため、より好ましい。また、特開平9−95538号公報記載の冷却溶解方法、あるいは特開平11−21379号公報記載の高圧下で溶解する方法などを用いてもよい。
セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤、あるいは膨潤させた後、さらに良溶剤と混合して溶解する方法も好ましく用いられる。このとき、セルロースエステルを貧溶媒と混合して湿潤あるいは膨潤させる装置と、良溶剤と混合して溶解する装置を別々に分けても良い。
セルロースエステルの溶解に用いる加圧容器の種類は、特に問うところではなく、所定の圧力に耐えることができ、加圧下で加熱、攪拌ができればよい。加圧容器には、その他、圧力計、温度計などの計器類を適宜配設する。加圧は窒素ガスなどの不活性気体を圧入する方法や、加熱による溶剤の蒸気圧の上昇によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易であるので、好ましい。
溶剤を添加しての加熱温度は、使用する溶剤の沸点以上で、2種類以上の混合溶剤の場合は、沸点が低い方の溶剤の沸点以上の温度に加温しかつ該溶剤が沸騰しない範囲の温度が好ましい。加熱温度が高すぎると、必要とされる圧力が大きくなり、生産性が悪くなる。好ましい加熱温度の範囲は20〜120℃であり、30〜100℃が、より好ましく、40〜80℃の範囲がさらに好ましい。また圧力は、設定温度で、溶剤が沸騰しないように調整される。
セルロースエステルと溶剤の他に、必要な可塑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を、予め溶剤と混合し、溶解または分散してからセルロースエステル溶解前の溶剤に投入しても、セルロースエステル溶解後のドープへ投入しても良い。
セルロースエステルの溶解後は、冷却しながら容器から取り出すか、または容器からポンプ等で抜き出して、熱交換器などで冷却し、得られたセルロースエステルのドープの製膜に供するが、このときの冷却は、常温まで行ってもよい。
セルロースエステル原料と溶媒との混合物を、撹拌機を有する溶解装置で溶解する際に、撹拌翼の周速は少なくとも0.5m/秒以上で、かつ30分以上撹拌して溶解することが好ましい。
セルロースエステルドープに含まれる異物(特に液晶表示装置において画像と認識し間違う異物)は、これを濾過することによって除去しなければならない。光学フィルムとしての品質は、この濾過によって決まるといってもよい。
濾過に使用する濾材は、絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さすぎると、濾材の目詰まりが発生しやすく、濾材の交換を頻繁に行わなければならず、生産性を低下させるという問題がある。このため、セルロースエステルドープに使用する濾材は、絶対濾過精度0.008mm以下のものが好ましく、0.001〜0.008mmの範囲がより好ましく、0.003〜0.006mmの範囲の濾材がさらに好ましい。
濾材の材質には、特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック繊維製の濾材やステンレス繊維等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく、好ましい。
セルロースエステルドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上でかつ溶剤が沸騰しない範囲の温度で加圧下加熱しながら濾過する方法が、濾材前後の差圧(以下、濾圧とすることがある)の上昇が小さく、好ましい。
好ましい濾過温度の範囲は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃の範囲であることがさらに好ましい。
濾圧は、3500kPa以下であることが好ましく、3000kPa以下がより好ましく、2500kPa以下であることがさらに好ましい。なお、濾圧は、濾過流量と濾過面積を適宜選択することで、コントロールできる。
セルロースエステル系樹脂の原反フィルムを製造するには、まず、セルロースエステルを、良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒に溶解し、これに上記の可塑剤や紫外線吸収剤を添加してセルロースエステル溶液(ドープ)を調製する。
ドープは、支持体の温度が一般的な0℃〜溶剤の沸点未満の範囲で支持体上に流延することができ、さらには5℃〜溶剤沸点−5℃の温度範囲で支持体上に流延することができるが、5〜30℃の温度範囲で支持体上に流延することがさらに好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は、露点以上に制御する必要がある。
また、ドープ粘度が1〜200ポイズになるように調整されたドープを、流延ダイから支持体上にほぼ均一な膜厚になるよう流延し、流延膜中の残留溶媒量が対固形分重量200%以上では、流延膜温度が溶剤沸点以下に、また、残留溶媒量が200%以下〜剥離までは、流延膜温度が溶剤沸点+20℃以下の範囲になるように、乾燥風により流延膜(ウェブ)を乾燥させる。
ここで、残留溶媒量は、下記の式で表わせる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ただし、式中、Mはウェブの任意時点での重量、Nは重量Mのものを110℃で3時間乾燥させたときの重量である。
支持体上では、ウェブが支持体から剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させるため、ウェブ中の残留溶媒量が150質量%以下まで乾燥させるのが好ましく、50〜120%が、より好ましい。
支持体からウェブを剥離するときのウェブ温度は、0〜30℃が好ましい。また、ウェブは、支持体からの剥離直後に、支持体密着面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶剤蒸気など揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時のウェブ温度は5〜30℃がさらに好ましい。
ウェブ(またはフィルム)の乾燥工程では、一般にロール懸垂方式か、ピンテンター方式またはクリップテンター方式でウェブを搬送しながら乾燥する方式が採られる。
剥離後のウェブは、例えば一次乾燥装置に導入される。一次乾燥装置内では、側面から見て千鳥配置せられた複数の搬送ロールによってウェブが蛇行搬送され、その間にウェブは、乾燥装置の天井より吹き込まれ、乾燥装置の底の部分より排出される温風によって乾燥される。
次いで、得られたフィルム(シート)を一軸方向に延伸する。延伸により分子が配向される。延伸する方法は、特に制限はないが、公知のピンテンターやクリップ式のテンターなどを好ましく用いることができる。延伸方向は長さ方向でも幅手方向でも任意の方向(斜め方向)でも可能であるが、延伸方向を幅手方向とすることにより、原反フィルムの破断伸度を調整しやすく、好ましい。
特に、支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってウェブは幅方向に収縮しようとする。高温度で乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮は可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップでウェブの幅両端を幅保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)が好ましい。
原反フィルムの延伸条件としては、所望の破断伸度特性が得られるように温度、倍率を選ぶことができる。通常、延伸倍率は1.1〜2.0倍、好ましくは1.2〜1.5倍であり、延伸温度は、通常、シートを構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)−40℃〜Tg+50℃、好ましくはTg−40℃〜Tg+40℃の温度範囲で設定される。延伸倍率が小さすぎると、所望の破断伸度特性が得られない場合があり、逆に大きすぎると、破断してしまう場合がある。延伸温度が低すぎると、破断し、また高すぎると、所望の破断伸度特性が得られない場合がある。
上記の方法で作製した熱可塑性樹脂フィルムの破断伸度特性を、目的に合った所望の特性に修正する場合、フィルムを長さ方向や幅手方向に延伸または収縮させてもよい。長さ方向に収縮するには、例えば、幅延伸を一時クリップアウトさせて長さ方向に弛緩させる、または横延伸装置の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることにより、フィルムを収縮させるという方法がある。後者の方法は一般の同時二軸延伸装置を用いて、縦方向の隣り合うクリップの間隔を、例えばパンタグラフ方式やリニアドライブ方式でクリップ部分を駆動して滑らかに徐々に狭くする方法によって行うことができる。
テンターでの把持・延伸は、剥離直後の膜の残留溶媒量が50〜150質量%から巻き取り直前の実質的な残留溶媒量が0質量%の範囲のどこで行うこともできるが、残留溶媒量が5〜10%の範囲で行うのが好ましい。
テンターをベースの走行方向にいくつかの温度ゾーンに分けることも一般によく行われる。延伸する際の温度は、所望の物性や平面性が得られるような温度が選択されるが、テンター前後の乾燥ゾーンの温度はまた種々の理由により延伸の際の温度とは異なる温度が選択されることもある。例えば、テンター前の乾燥ゾーンの雰囲気温度がテンター内の温度と異なる場合は、テンター入口に近いゾーンの温度を、テンター前の乾燥ゾーンの温度とテンター中央部の温度の中間的な温度に設定することが一般に行われている。テンター後とテンター内の温度が異なる場合にも同様にテンター出口に近いゾーンの温度をテンター後とテンター内の温度の中間的な温度に設定する。テンター前後の乾燥ゾーンの温度は一般に30〜120℃、好ましくは50〜100℃であり、テンター内延伸部の温度は50〜180℃、好ましくは80〜170℃であり、テンター入口部あるいは出口部の温度はそれらの中間的な温度から適宜選択される。
延伸のパターン、すなわち把持クリップの軌跡は、温度同様に膜の光学物性や平面性から選択され、様々であるが、把持開始後しばらくは一定幅で、その後延伸され、延伸終了後再び一定幅で保持されるパターンが良く用いられる。テンター出口付近のクリップ把持が終了する付近では、把持を開放することによるベース振動の抑制のために幅緩和が一般に行われる。
延伸のパターンはまた延伸速度とも関連するが、延伸速度は一般的には10〜1000(%/min)好ましくは100〜500(%/min)である。この延伸速度はクリップの軌跡が曲線である場合には一定でなく、ベースの走行方向に徐々に変化する。
さらに、上記のテンター方式による乾燥後のウェブ(フィルム)は、次いで二次乾燥装置に導入される。二次乾燥装置内では、側面から見て千鳥配置された複数の搬送ロールによってウェブが蛇行搬送され、その間にウェブは、二次乾燥装置の天井より吹き込まれ、かつ二次乾燥装置の底の部分より排出される温風によって乾燥され、セルロースエステル系樹脂の原反フィルムとして巻取り機に巻き取られる。
ウェブを乾燥させる手段は、特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等が用いられる。簡便さの点では、熱風で乾燥することが好ましい。乾燥温度は40〜150℃が好ましく、80〜130℃が平面性、寸法安定性を良くするためさらに好ましい。
このように、ウェブの乾燥工程においては、支持体より剥離したウェブをさらに乾燥し、最終的に、残留溶媒量を3質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下とすることが、寸法安定性が良好なフィルムを得る上で好ましい。
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下で行われてもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われてもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
なお、搬送乾燥工程を終えたセルロースエステル系樹脂の原反フィルムに対し、巻取工程に導入する前段において、エンボス加工装置により、セルロースエステル系樹脂の原反フィルムの両側縁部にエンボスを形成する加工を行うことが好ましい。エンボス加工装置としては、例えば特開昭63−74850号公報に記載されている装置を利用できる。
セルロースエステル系樹脂の原反フィルムの製造に係わる巻取り機は、一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
巻き取り後の原反フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、膜厚範囲は20〜200μmで、最近の薄手傾向にとっては30〜120μmの範囲が好ましく、特に40〜100μmの範囲が好ましい。
〔溶融流延製膜法〕
溶融流延製膜法としては、Tダイを用いた方法やインフレーション法などの溶融押出し法、カレンダー法、熱プレス法、射出成形法などがある。中でも、厚さムラが小さく、50〜500μm程度の厚さに加工しやすく、かつ、膜厚ムラやリタデーションのムラを小さくできるTダイを用いた方法が好ましい。Tダイを用いた押出し方法は、ポリマーを溶融可能な温度で溶融し、Tダイからフィルム状(シート状)に冷却ドラム上に押し出し、冷却固化して冷却ドラムから剥離する方法であり、得られるフィルムの厚み精度が優れており、好ましく用いることができる。
溶融押出しは、他のポリエステルなどの熱可塑性樹脂に用いられる条件と同様の条件で行うことができる。例えば、熱風や真空または減圧下で乾燥したセルロースエステルを1軸や2軸タイプの押出し機を用いて、押出し温度200〜300℃程度で溶融し、リーフディスクタイプのフィルターなどでろ過し異物を除去した後、Tダイからフィルム状(シート状)に流延し、冷却ドラム上で固化させる。供給ホッパーから押出し機へ導入する際は、減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。
押出し流量は、ギヤポンプを導入するなどして安定して行うことが好ましい。また、異物の除去に用いるフィルターとしては、ステンレス繊維焼結フィルターが好ましく用いられる。ステンレス繊維焼結フィルターは、ステンレス繊維体を複雑に絡み合った状態を作り出した上で圧縮し接触箇所を焼結し一体化したもので、その繊維の太さと圧縮量により密度を変え、ろ過精度を調整できる。ろ過精度を粗、密と連続的に複数回繰り返した多層体としたものが好ましい。また、ろ過精度を順次上げていく構成をとったり、ろ過精度の粗、密を繰り返す方法をとることで、フィルターのろ過寿命が延び、異物やゲルなどの補足精度も向上できるので好ましい。
ダイに傷や異物が付着するとスジ状の欠陥が発生する場合がある。このような欠陥のことをダイラインと呼ぶが、ダイライン等の表面の欠陥を小さくするためには、押出し機からダイまでの配管は、樹脂の滞留部が極力少なくなるような構造にすることが好ましい。また、ダイの内部やリップにキズ等が極力無いものを用いることが好ましい。ダイ周辺に樹脂から揮発成分が析出しダイラインの原因となる場合があるので、揮発成分を含んだ雰囲気は吸引することが好ましい。また、静電印加等の装置にも析出する場合があるので、交流を印加したり、他の加熱手段で析出を防止することが好ましい。
可塑剤などの添加剤は、あらかじめ樹脂と混合しておいてもよいし、押出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
冷却ドラムの温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下であることが好ましい。冷却ドラムへ樹脂を密着させるために、静電印加により密着させる方法、風圧により密着させる方法、全幅あるいは端部をニップして密着させる方法、減圧で密着させる方法などを用いることが好ましい。
このような溶融流延製膜法で成形された熱可塑性樹脂の原反フィルムは、溶液流延製膜法で成形された原反フィルムと異なり、厚み方向リタデーション(Rt)が小さいとの特徴があり、溶液流延製膜法とは異なる延伸条件が必要になる場合もある。所望の光学物性を得るためには、場合によっては、フィルムの進行方向の延伸とフィルム幅手方向の延伸の両者を同時あるいは逐次に行うこともある。また、場合によっては、フィルム幅手方向の延伸のみの場合もある。この延伸操作によって分子が配向され、フィルムが必要なリタデーション値に調整される。
本実施形態の原反フィルムが、溶融流延製膜法によって製造される場合、使用し得る紫外線吸収剤としては、前記の溶液流延製膜法による原反フィルムの製造方法において用いるものと、ほぼ同様のものを使用することができる。
これらの紫外線吸収剤の配合量は、熱可塑性樹脂に対して、0.01〜10質量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5質量%が好ましい。使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、逆に多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合がある。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
原反フィルムには、フィルムの滑り性を付与するために微粒子を添加することが好ましい。用いる微粒子としては、溶融時の耐熱性があれば無機化合物または有機化合物のどちらでもよく、例えば、無機化合物としては、珪素を含む化合物、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等が好ましく、さらに好ましくは、ケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムである。中でも、ヘイズを小さく抑えることができることから、二酸化珪素が特に好ましく用いられる。原反フィルムを溶融流延製膜法で製造する場合でも、使用するマット剤としては、前記の溶液流延製膜法による原反フィルムの製造方法において用いるものと、ほぼ同様のものを使用することができる。
<原反フィルムの仕様>
本実施形態における原反フィルムの厚さは、1〜400μm、好ましくは20〜200μm、より好ましくは30〜120μmであり、特に40〜100μmの範囲であることが好ましい。
原反フィルムの幅は、特に限定されないが、500〜4000mm、好ましくは1000〜2000mmとすることができる。
原反フィルムの斜め延伸時の延伸温度での好ましい弾性率は、ヤング率で表して、0.01MPa以上5000MPa以下、更に好ましくは0.1MPa以上500MPa以下である。弾性率が低すぎると、延伸時・延伸後の収縮率が低くなり、シワが消えにくくなる。また、弾性率が高すぎると、延伸時にかかる張力が大きくなり、フィルムの両側縁部を保持する部分の強度を高くする必要が生じ、後工程のテンターに対する負荷が大きくなる。
原反フィルムとしては、無配向なものを用いてもよいし、あらかじめ配向を有するフィルムが供給されてもよい。また、必要であれば原反フィルムの配向の幅手方向の分布が弓なり状、いわゆるボウイングを成していてもよい。要は、原反フィルムの配向状態を、後工程の延伸が完了した位置におけるフィルムの配向を所望なものとしうるよう、調整することができる。
<斜め延伸フィルムの製造方法および製造装置>
次に、上述した長尺フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸して長尺状の斜め延伸フィルムを製造する、斜め延伸フィルムの製造方法および製造装置について説明する。
(装置の概要)
図1は、斜め延伸フィルムの製造装置1の概略の構成を模式的に示す平面図である。製造装置1は、長尺フィルムの搬送方向上流側から順に、フィルム繰り出し部2と、搬送方向変更部3と、ガイドロール4と、延伸部5と、ガイドロール6と、搬送方向変更部7と、フィルム巻き取り部8とを備えている。なお、搬送方向変更部7とフィルム巻き取り部8との間にフィルム切断装置を設けて、斜め延伸後のフィルムを所望の長さで切断し、フィルム巻き取り部8にて巻き取るようにしてもよい。なお、延伸部5の詳細については後述する。
フィルム繰り出し部2は、上述した長尺フィルムを繰り出して延伸部5に供給するものである。このフィルム繰り出し部2は、長尺フィルムの製膜装置と別体で構成されていてもよいし、一体的に構成されてもよい。前者の場合、長尺フィルムを製膜後に一度巻芯に巻き取って巻回体(長尺フィルム原反)となったものをフィルム繰り出し部2に装填することで、フィルム繰り出し部2から長尺フィルムが繰り出される。一方、後者の場合、フィルム繰り出し部2は、長尺フィルムの製膜後、その長尺フィルムを巻き取ることなく、延伸部5に対して繰り出すことになる。
搬送方向変更部3は、フィルム繰り出し部2から繰り出される長尺フィルムの搬送方向を、斜め延伸テンターとしての延伸部5の入口に向かう方向に変更するものである。このような搬送方向変更部3は、例えばフィルムを搬送しながら折り返すことによって搬送方向を変更するターンバーや、そのターンバーをフィルムに平行な面内で回転させる回転テーブルを含んで構成されている。
搬送方向変更部3にて長尺フィルムの搬送方向を上記のように変更することにより、製造装置1全体の幅をより狭くすることが可能となるほか、フィルムの送り出し位置および角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい斜め延伸フィルムを得ることが可能となる。また、フィルム繰り出し部2および搬送方向変更部3を移動可能(スライド可能、旋回可能)とすれば、延伸部5において長尺フィルムの幅手方向の両端部を挟む左右のクリップ(把持具)のフィルムへの噛込み不良を有効に防止することができる。
なお、上記したフィルム繰り出し部2は、延伸部5の入口に対して所定角度で長尺フィルムを送り出せるように、スライドおよび旋回可能となっていてもよい。この場合は、搬送方向変更部3の設置を省略した構成とすることもできる。
ガイドロール4は、長尺フィルムの走行時の軌道を安定させるために、延伸部5の上流側に少なくとも1本設けられている。なお、ガイドロール4は、フィルムを挟む上下一対のロール対で構成されてもよいし、複数のロール対で構成されてもよい。延伸部5の入口に最も近いガイドロール4は、フィルムの走行を案内する従動ロールであり、不図示の軸受部を介してそれぞれ回転自在に軸支される。ガイドロール4の材質としては、公知のものを用いることが可能である。なお、フィルムの傷つきを防止するために、ガイドロール4の表面にセラミックコートを施したり、アルミニウム等の軽金属にクロームメッキを施す等によってガイドロール4を軽量化することが好ましい。
また、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4よりも上流側のロールのうちの1本は、ゴムロールを圧接させてニップすることが好ましい。このようなニップロールにすることで、フィルムの流れ方向における繰出張力の変動を抑えることが可能となる。
延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の両端(左右)の一対の軸受部には、当該ロールにおいてフィルムに生じている張力を検出するためのフィルム張力検出装置として、第1張力検出装置、第2張力検出装置がそれぞれ設けられている。フィルム張力検出装置としては、例えばロードセルを用いることができる。ロードセルとしては、引張または圧縮型の公知のものを用いることができる。ロードセルは、着力点に作用する荷重を起歪体に取り付けられた歪ゲージにより電気信号に変換して検出する装置である。
ロードセルは、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の左右の軸受部に設置されることにより、走行中のフィルムがロールに及ぼす力、即ちフィルムの両側縁近傍に生じているフィルム進行方向における張力を左右独立に検出する。なお、ロールの軸受部を構成する支持体に歪ゲージを直接取り付けて、該支持体に生じる歪に基づいて荷重、即ちフィルム張力を検出するようにしてもよい。発生する歪とフィルム張力との関係は、予め計測され、既知であるものとする。
フィルム繰り出し部2または搬送方向変更部3から延伸部5に供給されるフィルムの位置および搬送方向が、延伸部5の入口に向かう位置および搬送方向からズレている場合、このズレ量に応じて、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4におけるフィルムの両側縁近傍の張力に差が生じることになる。したがって、上述したようなフィルム張力検出装置を設けて上記の張力差を検出することにより、当該ズレの程度を判別することができる。つまり、フィルムの搬送位置および搬送方向が適正であれば(延伸部5の入口に向かう位置および方向であれば)、上記ガイドロール4に作用する荷重は軸方向の両端で粗均等になるが、適正でなければ、左右でフィルム張力に差が生じる。
したがって、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の左右のフィルム張力差が等しくなるように、例えば上記した搬送方向変更部3によってフィルムの位置および搬送方向(延伸部5の入口に対する角度)を適切に調整すれば、延伸部5の入口部の把持具によるフィルムの把持が安定し、把持具外れ等の障害の発生を少なくできる。更に、延伸部5による斜め延伸後のフィルムの幅方向における物性を安定させることができる。
ガイドロール6は、延伸部5にて斜め延伸されたフィルムの走行時の軌道を安定させるために、延伸部5の下流側に少なくとも1本設けられている。
搬送方向変更部7は、延伸部5から搬送される延伸後のフィルムの搬送方向を、フィルム巻き取り部8に向かう方向に変更するものである。
ここで、配向角(フィルムの面内遅相軸の方向)の微調整や製品バリエーションに対応するために、延伸部5の入口でのフィルム進行方向と延伸部5の出口でのフィルム進行方向とがなす角度の調整が必要となる。この角度調整のためには、製膜したフィルムの進行方向を搬送方向変更部3によって変更してフィルムを延伸部5の入口に導く、および/または延伸部5の出口から出たフィルムの進行方向を搬送方向変更部7によって変更してフィルムをフィルム巻き取り部8の方向に戻すことが必要となる。
また、製膜および斜め延伸を連続して行うことが、生産性や収率の点で好ましい。製膜工程、斜め延伸工程、巻取工程を連続して行う場合、搬送方向変更部3および/または搬送方向変更部7によってフィルムの進行方向を変更し、製膜工程と巻取工程とでフィルムの進行方向を一致させる、つまり、図1に示すように、フィルム繰り出し部2から繰り出されるフィルムの進行方向(繰り出し方向)と、フィルム巻き取り部8にて巻き取られる直前のフィルムの進行方向(巻き取り方向)とを一致させることにより、フィルム進行方向に対する装置全体の幅を小さくすることができる。
なお、製膜工程と巻取工程とでフィルムの進行方向は必ずしも一致させる必要はないが、フィルム繰り出し部2とフィルム巻き取り部8とが干渉しないレイアウトとなるように、搬送方向変更部3および/または搬送方向変更部7によってフィルムの進行方向を変更することが好ましい。
上記のような搬送方向変更部3・7としては、エアーフローロールもしくはエアーターンバーを用いるなど、公知の手法で実現することができる。
フィルム巻き取り部8は、延伸部5から搬送方向変更部7を介して搬送されるフィルムを巻き取るものであり、例えばワインダー装置、アキューム装置、ドライブ装置などで構成される。フィルム巻き取り部8は、フィルムの巻き取り位置を調整すべく、横方向にスライドできる構造であることが好ましい。
フィルム巻き取り部8は、延伸部5の出口に対して所定角度でフィルムを引き取れるように、フィルムの引き取り位置および角度を細かく制御できるようになっている。これにより、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺斜め延伸フィルムを得ることが可能となる。また、フィルムのシワの発生を有効に防止することができるとともに、フィルムの巻き取り性が向上するため、フィルムを長尺で巻き取ることが可能となる。
このフィルム巻き取り部8は、延伸部5にて延伸されて搬送されるフィルムを一定の張力で引き取る引取部を構成している。なお、延伸部5とフィルム巻き取り部8との間に、フィルムを一定の張力で引き取るための引取ロールを設けるようにしてもよい。また、上述したガイドロール6に上記引取ロールとしての機能を持たせてもよい。
本実施形態において、延伸後のフィルムの引取張力T(N/m)は、100N/m<T<300N/m、好ましくは150N/m<T<250N/mの間で調整することが好ましい。上記の引取張力が100N/m以下では、フィルムのたるみや皺が発生しやすく、リタデーション、配向角のフィルム幅方向のプロファイルも悪化する。逆に、引取張力が300N/m以上となると、配向角のフィルム幅方向のバラツキが悪化し、幅収率(幅方向の取り効率)を悪化させてしまう。
また、本実施形態においては、上記引取張力Tの変動を±5%未満、好ましくは±3%未満の精度で制御することが好ましい。上記引取張力Tの変動が±5%以上であると、幅方向および流れ方向(搬送方向)の光学特性のバラツキが大きくなる。上記引取張力Tの変動を上記範囲内に制御する方法としては、延伸部5の出口側の最初のロール(ガイドロール6)にかかる荷重、すなわちフィルムの張力を測定し、その値が一定となるように、一般的なPID制御方式により引取ロールまたはフィルム巻き取り部8の巻取ロールの回転速度を制御する方法が挙げられる。上記荷重を測定する方法としては、ガイドロール6の軸受部にロードセルを取り付け、ガイドロール6に加わる荷重、すなわちフィルムの張力を測定する方法が挙げられる。ロードセルとしては、引張型や圧縮型の公知のものを用いることができる。
延伸後のフィルムは、延伸部5の把持具による把持が開放されて、延伸部5の出口から排出され、把持具で把持されていたフィルムの両端(両側)がトリミングされた後に、順次巻芯(巻取ロール)に巻き取られて、長尺斜め延伸フィルムの巻回体となる。なお、上記のトリミングは、必要に応じて行われればよい。
また、長尺斜め延伸フィルムを巻き取る前に、フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを長尺斜め延伸フィルムに重ねて同時に巻き取ってもよいし、巻き取りによって重なる長尺斜め延伸フィルムの少なくとも一方(好ましくは両方)の端にテープ等を貼り合わせながら巻き取ってもよい。マスキングフィルムとしては、長尺斜め延伸フィルムを保護することができるものであれば特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
また、長尺斜め延伸フィルムを巻き取る前に、該フィルムの少なくとも一方の面(好ましくは両方の面)の幅手方向の両端部に、ナーリング部またはエンボス部と呼ばれる、フィルム面よりも嵩高くした部分(凸部)を形成することで、フィルムを巻き取ったときのフィルム同士のブロッキングを防止するようにしてもよい。なお、ナーリング部の高さおよび形状は、幅手方向の両端部で異なっていてもよい(非対称であってもよい)。
(延伸部の詳細)
次に、上述した延伸部5の詳細について説明する。図2は、延伸部5のレールパターンの一例を模式的に示す平面図である。但し、これは一例であって、延伸部5の構成はこれに限定されるものではない。
本実施形態における長尺斜め延伸フィルムの製造は、延伸部5として、斜め延伸可能なテンター(斜め延伸機)を用いて行われる。このテンターは、長尺フィルムを、延伸可能な任意の温度に加熱し、斜め延伸する装置である。このテンターは、加熱ゾーンZと、左右で一対のレールRi・Roと、レールRi・Roに沿って走行してフィルムを搬送する多数の把持具Ci・Co(図2では、1組の把持具のみを図示)とを備えている。なお、加熱ゾーンZの詳細については後述する。レールRi・Roは、それぞれ、複数のレール部を連結部で連結して構成されている(図2中の白丸は連結部の一例である)。把持具Ci・Coは、フィルムの幅手方向の両端を把持するクリップで構成されている。
図2において、長尺フィルムの繰出方向D1は、延伸後の長尺斜め延伸フィルムの巻取方向D2と異なっており、巻取方向D2との間で繰出角度θiを成している。繰出角度θiは0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
このように、繰出方向D1と巻取方向D2とが異なっているため、テンターのレールパターンは左右で非対称な形状となっており、フィルムの搬送経路が途中で屈曲している。そして、製造すべき長尺斜め延伸フィルムに与える配向角θ、延伸倍率等に応じて、レールパターンを手動または自動で調整できるようになっている。本実施形態の製造方法で用いられる斜め延伸機では、レールRi・Roを構成する各レール部およびレール連結部の位置を自由に設定し、レールパターンを任意に変更できることが好ましい。
本実施形態において、テンターの複数の把持具Ci・Coは、前後の把持具Ci・Coと一定間隔を保って、一定速度で走行するようになっている。把持具Ci・Coの走行速度は適宜選択できるが、通常、1〜150m/分である。本実施形態では、フィルムの生産性とを考慮して、20〜100m/分であることが好ましい。左右一対の把持具Ci・Coの走行速度の差は、走行速度の通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。これは、延伸工程出口でフィルムの左右に進行速度差があると、延伸工程出口におけるシワ、寄りが発生するため、左右の把持具Ci・Coの速度差は、実質的に同速度であることが求められるためである。一般的なテンター装置等では、チェーンを駆動するスプロケットの歯の周期、駆動モータの周波数等に応じ、秒以下のオーダーで発生する速度ムラがあり、しばしば数%のムラを生ずるが、これらは本実施形態で述べる速度差には該当しない。
本実施形態の製造方法で用いられる斜め延伸機において、特にフィルムの搬送が斜めになる箇所において、把持具の軌跡を規制するレールには、しばしば大きい屈曲率が求められる。急激な屈曲による把持具同士の干渉、あるいは局所的な応力集中を避ける目的から、屈曲部では把持具の軌跡が曲線を描くようにすることが望ましい。
このように、長尺フィルムに斜め方向の配向を付与するために用いられる斜め延伸テンターは、レールパターンを多様に変化させることにより、フィルムの配向角を自在に設定でき、さらに、フィルムの配向軸(遅相軸)をフィルム幅方向に渡って左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚みやリタデーションを制御できるテンターであることが好ましい。
次に、延伸部5での延伸動作について説明する。長尺フィルムは、その両端を左右の把持具Ci・Coによって把持され、加熱ゾーンZ内を把持具Ci・Coの走行に伴って搬送される。左右の把持具Ci・Coは、延伸部5の入口部(図中Aの位置)において、フィルムの進行方向(繰出方向D1)に対して略垂直な方向に相対しており、左右非対称なレールRi・Ro上をそれぞれ走行し、延伸終了時の出口部(図中Bの位置)で把持したフィルムを開放する。把持具Ci・Coから開放されたフィルムは、前述したフィルム巻き取り部8にて巻芯に巻き取られる。一対のレールRi・Roは、それぞれ無端状の連続軌道を有しており、テンターの出口部でフィルムの把持を開放した把持具Ci・Coは、外側のレールを走行して順次入口部に戻されるようになっている。
このとき、レールRi・Roは左右非対称であるため、図2の例では、図中Aの位置で相対していた左右の把持具Ci・Coは、レールRi・Ro上を走行するにつれて、レールRi側(インコース側)を走行する把持具CiがレールRo側(アウトコース側)を走行する把持具Coに対して先行する位置関係となる。
すなわち、図中Aの位置でフィルムの繰出方向D1に対して略垂直な方向に相対していた把持具Ci・Coのうち、一方の把持具Ciがフィルムの延伸終了時の位置Bに先に到達したときには、把持具Ci・Coを結んだ直線がフィルムの巻取方向D2に略垂直な方向に対して、角度θLだけ傾斜している。以上の所作をもって、長尺フィルムが幅手方向に対してθLの角度で斜め延伸されることとなる。ここで、略垂直とは、90±1°の範囲にあることを示す。
次に、上記した加熱ゾーンZの詳細について説明する。延伸部5の加熱ゾーンZは、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2および緩和ゾーンZ3で構成されている。延伸部5では、把持具Ci・Coによって把持されたフィルムは、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2、緩和ゾーンZ3を順に通過する。本実施形態では、予熱ゾーンZ1と延伸ゾーンZ2とは隔壁で区切られており、延伸ゾーンZ2と緩和ゾーンZ3とは隔壁で区切られている。なお、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2、緩和ゾーンZ3のそれぞれのゾーン内で、適宜隔壁設けてもよい(各ゾーンの内部をさらに隔壁で分割してもよい)。
予熱ゾーンZ1とは、加熱ゾーンZの入口部において、フィルムの両端を把持した把持具Ci・Coが、左右で(フィルム幅方向に)一定の間隔を保ったまま走行するゾーンである。
延伸ゾーンZ2とは、フィルムの両端を把持した把持具Ci・Coの間隔が開き出し、所定の間隔になるまでのゾーンである。このとき、上述のような斜め延伸が行われるが、必要に応じて斜め延伸前後において縦方向あるいは横方向に延伸してもよい。図2では、延伸ゾーンZ2が、フィルムの搬送方向に沿って、横延伸ゾーンZ2−1と、斜め延伸ゾーンZ2−2とを含む例を示している。横延伸ゾーンZ2−1では、フィルムの搬送とともに、一対の把持具Ci・Coの間隔を広げることで、フィルムが幅手方向(横方向)に延伸される。斜め延伸ゾーンZ2−2では、フィルムの搬送方向を途中で変えて、一方の把持具Ciを相対的に先行させ、他方の把持具Coを相対的に遅延させることにより、フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸する斜め延伸工程が行われる。
緩和ゾーンZ3とは、延伸ゾーンZ2での斜め延伸工程の終了後に、斜め延伸によってフィルムに残留している応力(残留応力)を、後述する温度設定によって緩和する緩和工程が行われるゾーンである。緩和ゾーンZ3では、斜め延伸フィルムの光学軸(遅相軸)が固定されることから、緩和ゾーンZ3は熱固定ゾーンとも呼ばれる。緩和ゾーンZ3では、両端の把持具Ci・Coが互いに平行を保ったまま走行してもよいし、フィルムを幅手方向に収縮させた後、平行を保つように走行してもよい。いずれにしても、緩和ゾーンZ3では、フィルムの搬送経路は斜め延伸ゾーンZ2−2のように屈曲せず、フィルムの搬送方向は一定である。
なお、延伸後のフィルムは、緩和ゾーンZ3を通過した後に、ゾーン内の温度がフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)以下に設定される区間(冷却ゾーン)を通過してもよい。
熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンZ1の温度はTg〜Tg+60℃、延伸ゾーンZ2の温度はTg〜Tg+50℃、緩和ゾーンZ3及び冷却ゾーンの温度はTg−40〜Tg+30℃に設定することが好ましい。
なお、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2および緩和ゾーンZ3の長さは適宜選択でき、延伸ゾーンZ2の長さに対して、予熱ゾーンZ1の長さは通常50〜200%、緩和ゾーンZ3の長さは通常50〜150%である。
また、延伸前のフィルムの幅をWo(mm)とし、延伸後のフィルムの幅をW(mm)とすると、延伸工程における延伸倍率R(W/Wo)は、好ましくは1.1〜3.0、より好ましくは1.3〜2.0である。延伸倍率がこの範囲にあると、フィルムの幅方向の厚みムラが小さくなるので好ましい。
〔斜め延伸ゾーン、緩和ゾーンでの温度制御について〕
次に、斜め延伸ゾーンZ2−2および緩和ゾーンZ3での温度制御について説明する。なお、以下では、フィルムの幅手方向において、斜め延伸時に一対の把持具Ci・Coの一方が先行して走行する側(把持具Ciが走行する側)を先行側とし、他方が遅延して走行する側(把持具Coが走行する側)を遅延側とする。
図3は、斜め延伸ゾーンZ2−2および緩和ゾーンZ3での、遅延側から先行側にかけての温度分布を模式的に示している。本実施形態では、斜め延伸ゾーンZ2−2において、先行側と遅延側との間で、先行側の温度が遅延側の温度よりも1〜15℃低くなるような第1の温度分布を形成している。すなわち、斜め延伸ゾーンZ2−2の遅延側の温度をT1(℃)とし、先行側の温度をT2(℃)としたとき、
1℃≦(T1−T2)≦15℃ ・・・(1)
である。特に、斜め延伸ゾーンZ2−2では、斜め延伸前にフィルムの両端を把持していた一対の把持具Ci・Coがそれぞれ斜め延伸終了位置P・Qに到達したときの、上記一対の把持具Ci・Coを結ぶ方向(以下では、PQ方向とも称する)において、上記第1の温度分布を形成している。このとき、斜め延伸終了位置P・Qは、斜め延伸ゾーンZ2−2と緩和ゾーンZ3とを仕切る隔壁の直前、すなわち、上記隔壁に対して、フィルム搬送方向の上流側に位置しているものとする。なお、上記第1の温度分布を形成する位置は、斜め延伸ゾーンZ2−2内であればどこでもよく、上記の位置(斜め延伸終了位置P・Qを結ぶ位置)には限定されない。
図4は、斜め延伸ゾーンZ2−2における上記第1の温度分布の例を示している。第1の温度分布は、遅延側から先行側にかけて、温度が単調に減少する分布である。例えば、第1の温度分布は、直線a1で示すように、遅延側から先行側にかけて、温度が一定の割合で減少する分布(温度勾配が一定の分布)であってもよいし、曲線a2で示すように、遅延側から先行側に向かうほど、幅手方向の位置の変化量に対する温度低下量が大きくなる分布であってもよいし、曲線a3で示すように、遅延側から先行側に向かうほど、幅手方向の位置の変化量に対する温度低下量が小さくなる分布であってもよい。
一方、図3に示すように、緩和ゾーンZ3では、先行側と遅延側との間で、先行側の温度が遅延側の温度よりも5〜30℃高くなるような第2の温度分布を形成している。すなわち、緩和ゾーンZ3での先行側の温度をT3(℃)とし、遅延側の温度をT4(℃)としたとき、
5℃≦(T3−T4)≦30℃ ・・・(2)
である。特に、緩和ゾーンZ3では、緩和ゾーンZ3の中間点M3を通り、フィルム搬送方向に垂直な幅手方向において、上記第2の温度分布を形成している。ここで、上記の中間点M3は、斜め延伸ゾーンZ2−2にて一対の把持具Ci・Coがそれぞれ斜め延伸終了位置P・Qに到達したときの、一対の把持具Ci・Coを結ぶ区間の中間である第1の位置M1と、緩和ゾーンZ3の出口(区間ST)の幅手方向の中間である第2の位置M2とを結ぶ区間の中間位置(第3の位置)である。なお、上記第2の温度分布を形成する位置は、緩和ゾーンZ3内であればどこでもよく、上記の位置には限定されない。
図5は、緩和ゾーンZ3における上記第2の温度分布の例を示している。第2の温度分布は、遅延側から先行側にかけて、温度が単調に増加する分布である。例えば、第2の温度分布は、直線b1で示すように、遅延側から先行側にかけて、温度が一定の割合で増加する分布(温度勾配が一定の分布)であってもよいし、曲線b2で示すように、幅手方向の位置の変化量に対する温度増加量が小さくなる分布であってもよいし、曲線b3で示すように、遅延側から先行側に向かうほど、幅手方向の位置の変化量に対する温度増加量が大きくなる分布であってもよい。
また、斜め延伸ゾーンZ2−2の温度は、緩和ゾーンZ3の温度よりも、5〜40℃高い。より具体的には、斜め延伸ゾーンZ2−2の第1の位置M1の温度が、緩和ゾーンZ3の中間点M3(第3の位置)の温度よりも、5〜40℃高い。すなわち、斜め延伸ゾーンZ2−2の第1の位置M1の温度をT5(℃)とし、緩和工程Z3の中間点M3の温度をT6(℃)としたとき、
5℃≦(T5−T6)≦40℃ ・・・(3)
である。なお、斜め延伸ゾーンZ2−2の上記温度は、斜め延伸ゾーンZ2−2内で上記第1の位置M1以外の位置の温度であってもよい。また、緩和ゾーンZ3の上記温度も、緩和ゾーンZ3内で上記中間点M3以外の位置の温度であってもよい。
上記した条件式(1)〜(3)を満足するような温度制御は、図6に示すように、斜め延伸ゾーンZ2−2および緩和ゾーンZ3に、加熱部11・12をそれぞれ配置することによって実現できる。加熱部11・12は、例えば熱風を吹き出す吹出口を有し、上記熱風によってフィルムを加熱する、先行側から遅延側にかけて長尺状のノズルで形成されている。このうち、加熱部11は、吹出口の幅(長尺方向に垂直な開口幅)が、先行側から遅延側に向かうにつれて広がる形状で形成されている。一方、加熱部12は、吹出口の幅(長尺方向に垂直な開口幅)が、遅延側から先行側に向かうにつれて広がる形状で形成されている。これにより、斜め延伸ゾーンZ2−2では、先行側よりも遅延側で温度が高くなる上記第1の温度分布を実現することができ、緩和ゾーンZ3では、遅延側よりも先行側で温度が高くなる上記第2の温度分布を実現することができる。また、加熱部11から吹き出す熱風の温度を、加熱部12から吹き出す熱風の温度よりも高くすることにより、斜め延伸ゾーンZ2−2の温度を、緩和ゾーンZ3の温度よりも高くすることができる。
なお、加熱部11・12は、吹出口の開口幅が一定のノズルで構成されてもよい。この場合、吹き出す熱風の温度を先行側と遅延側とで変えることにより、上記した第1の温度分布および第2の温度分布を形成することができる。そして、加熱部11から吹き出す熱風の温度を、加熱部12から吹き出す熱風の温度よりも高くすることにより、斜め延伸ゾーンZ2−2の温度を、緩和ゾーンZ3の温度よりも高くすることができる。
また、加熱部11・12は、熱風を吹き出すノズルの代わりに、赤外線ヒータで構成されてもよい。赤外線ヒータを先行側と遅延側との間に複数配置し、各赤外線ヒータの出力(ワット数)を調整することにより、上記した第1の温度分布および第2の温度分布を形成することができる。そして、加熱部11と加熱部12とで、赤外線ヒータの出力を変えることにより、斜め延伸ゾーンZ2−2の温度を、緩和ゾーンZ3の温度よりも高くすることができる。
また、図7は、第2の温度分布を形成する手段の他の例を模式的に示している。延伸部5の炉内で、特に搬送経路が屈曲する斜め延伸領域においては、屈曲部の遅延側で炉内に熱がこもりやすい。このため、図7に示すように、緩和ゾーンZ3において、先行側の排気部E1の排気能力(単位時間あたりの排気量)を、遅延側の排気部E2の排気能力よりも高めることにより、遅延側で炉内にこもった熱を先行側に移動させ、これによって、上記した第2の温度分布を形成してもよい。具体的には、先行側の排気口の位置を、遅延側の排気口の位置よりもレール側に近づける、先行側の排気口の面積を、遅延側の排気口の面積よりも広げる、などの方法が考えられる。なお、排気部E1・E2で排気した空気は、再度延伸部5の炉内に戻して炉内を循環させるようにしてもよいし、そのように循環させなくてもよい。また、斜め延伸を行う延伸ゾーンZ2の容積を、先行側よりも遅延側で大きくすると、遅延側でより熱がこもりにくくなるため、より望ましい。
条件式(1)〜(3)を満足することにより、斜め延伸工程で生じたフィルム幅手方向の膜厚差を、緩和工程での残留応力の緩和によって小さくして、幅手方向に膜厚がほぼ均一な斜め延伸フィルムを得ることができる。これにより、シワの発生を低減しつつ、斜め延伸フィルムの生産性を向上させることができる。以下、この点について、より詳細に説明する。
フィルムの搬送方向が途中で屈曲する屈曲型の斜め延伸方式では、一対の把持具Ci・Coがフィルムの幅手方向において非対称に走行し、フィルムにかかる張力が幅手方向において不均一となるため、斜め延伸後のフィルムにおいて、先行側で膜厚が厚くなり、遅延側で膜厚が薄くなるのは前述の通りである。このときのフィルムの表面の形状は、例えば図8の破線で示す通りとなる。
条件式(1)を満足する、つまり、斜め延伸ゾーンZ2−2において、先行側よりも遅延側で温度を高くすることにより、斜め延伸によってフィルムに係る応力(張力)と残留する応力(残留応力)を、遅延側で減少させ、先行側で最小限に維持することができる。そして、条件式(2)を満足する、つまり、緩和ゾーンZ3において、遅延側よりも先行側の温度を高くすることにより、遅延側では残留応力を緩和しつつもその緩和を抑えながら、先行側では、斜め延伸工程で維持されている残留応力の緩和を促進することができる。以上により、先行側のフィルムの膜厚を減少させて、フィルムの幅手方向の膜厚のバラツキを低減することが可能となる。緩和工程後のフィルムの表面の形状は、図8の実線で示す通りとなる。
また、条件式(3)を満足する、つまり、斜め延伸ゾーンZ2−2と緩和ゾーンZ3とで5℃以上40℃以下の温度差をつけることにより、斜め延伸によってフィルムに生じた残留応力を緩和ゾーンZ3にて確実に緩和することが可能となり、フィルムの幅手方向の膜厚のバラツキを低減する効果がより得られやすくなる。
したがって、膜厚がほぼ均一な斜め延伸フィルムを製造するにあたって、予め、幅手方向に膜厚を変化させた特殊なフィルムを製造して用意しておく必要がなくなる。その結果、斜め延伸フィルムの生産性を向上させることができる。また、斜め延伸ゾーンZ2−2での斜め延伸によってフィルムに付与されて残留する応力が、緩和ゾーンZ3にて適切に緩和されるため、その残留応力に起因してフィルムにアバラ状のシワ(ツレ)が発生するのを低減することもできる。つまり、条件式(1)〜(3)を満足することにより、シワの発生を低減しつつ、斜め延伸フィルムの生産性を向上させることができる。
また、斜め延伸ゾーンZ2−2にて、T1−T2が1℃以上であることにより、遅延側での張力と残留応力を確実に低減しつつ、先行側で残留応力を確実に維持することができる。これにより、緩和ゾーンZ3にて第2の温度分布を形成したときに、先行側で応力が緩和されすぎて、遅延側よりも先行側で膜厚が小さくなり、膜厚が幅手方向に不均一になるのを回避することができる。一方、T1−T2が15℃以下であることにより、遅延側で残留応力が低減しすぎるのを回避できる。これにより、緩和ゾーンZ3にて第2の温度分布を形成したときに、先行側での応力緩和によってもなお、先行側の膜厚が遅延側の膜厚に近づかなくなる事態を回避でき、これによって、膜厚が幅手方向に不均一になるのを回避することができる。
また、緩和ゾーンZ3にて、T3−T4が5℃以上であることにより、緩和ゾーンZ3の先行側での応力緩和が小さすぎて、先行側の膜厚の減少量が低下するのを回避できる。一方、T3−T4が30℃以下であることにより、緩和ゾーンZ3の先行側での応力緩和が大きすぎて、先行側の膜厚の減少量が増大するのを回避できる。いずれにしても、膜厚が幅手方向に不均一になるのを回避することができる。
また、斜め延伸ゾーンZ2−2では、斜め延伸終了位置P・Qを結ぶ方向(斜め延伸終了位置P・Qに到達した把持具Ci・Coを結ぶ方向)において、上記第1の温度分布を形成している。斜め延伸ゾーンZ2−2において、斜め延伸終了位置P・Qを結ぶ線上は、斜め延伸におけるテンション(張力)が最も大きくかかる位置である。したがって、そのような位置で上記第1の温度分布を形成することにより、緩和ゾーンZ3にて第2の温度分布を形成してフィルムの幅手方向の膜厚のバラツキを低減する、本実施形態の製法が非常に有効となる。
また、緩和ゾーンZ3では、上述した中間点M3を通り、搬送方向に垂直な幅手方向において、上記第2の温度分布を形成している。緩和ゾーンZ3全体の平均的な位置で第2の温度分布を形成することにより、先行側でのフィルムの膜厚を減少させて、フィルムの幅手方向の膜厚のバラツキを低減する効果を確実に得ることができる。
また、斜め延伸ゾーンZ2−2の上記第1の位置M1の温度が、緩和ゾーンZ3の上記中間点M3の温度よりも、5〜40℃高い。第1の位置M1および中間点M3について温度差を上記のように規定することにより、条件式(3)の設定がさらに有効となる。
また、上記第1の温度分布は、遅延側から先行側にかけて、温度が単調に減少する分布であるので、先行側の温度が遅延側の温度よりも低くなる温度分布(第1の温度分布)を確実に実現することができる。
同様に、上記第2の温度分布は、遅延側から先行側にかけて、温度が単調に増加する分布であるので、先行側の温度が遅延側の温度よりも高くなる温度分布(第2の温度分布)を確実に実現することができる。
ところで、斜め延伸ゾーンZ2−2では、フィルムの幅手方向に対して遅相軸が30°〜60°の角度をなすように、フィルムを斜め方向に延伸してもよい。特に、長尺状の斜め延伸フィルムと、長尺状の偏光子(長尺偏光フィルム)とを貼り合わせて長尺状の偏光板をロール・トゥ・ロール方式で製造する場合には、円偏光板の生産性を飛躍的に向上させる観点から、フィルムの幅手方向に対して遅相軸が略45°の角度をなすように、フィルムを斜め方向に延伸して、長尺状の斜め延伸フィルムを製造することが望ましい。なお、略45°とは、45°±3°の範囲を含む。
(その他)
斜め延伸工程において、フィルムの搬送速度は、1〜150m/分であってもよい。フィルムの生産性を向上させる観点では、フィルムの搬送速度は、10〜120m/分であることが望ましく、20〜100m/分であることがより望ましい。
<長尺斜め延伸フィルムの品質>
本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め延伸フィルムにおいては、配向角θが巻取方向に対して、例えば0°より大きく90°未満の範囲に傾斜しており、少なくとも1300mmの幅において、幅方向の、面内リタデーションRoのバラツキが2nm以下、配向角θのバラツキが0.6°未満であることが好ましい。また、前記長尺斜め延伸フィルムの、波長550nmで測定した面内リタデーション値Ro(550)が、80nm以上160nm以下の範囲にあることが好ましく、90nm以上150nm以下の範囲であることがさらに好ましい。
すなわち、本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め延伸フィルムにおいて、面内リタデーションRoのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、2nm以下であり、1nm以下であることが好ましい。面内リタデーションRoのバラツキを上記範囲にすることにより、長尺斜め延伸フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL画像表示装置に適用したときに、黒表示時の外光反射光の漏れによる色ムラを抑えることができる。また、長尺斜め延伸フィルムを例えば液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることも可能になる。
また、本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め延伸フィルムにおいて、配向角θのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、0.6°未満であり、0.4°未満であることが好ましく、0.2°未満であることが最も好ましい。配向角θのバラツキが0.6°を超える長尺斜め延伸フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL表示装置などの画像表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、明暗のコントラストを低下させることがある。
本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め延伸フィルムの面内リタデーションRoは、用いられる表示装置の設計によって最適値が選択される。なお、前記Roは、面内遅相軸方向の屈折率nxと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nyとの差にフィルムの平均厚みdを乗算した値(Ro=(nx−ny)×d)である。
本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め延伸フィルムの平均厚みは、機械的強度などの観点から、1〜400μm、好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは10〜60μm、特に好ましくは15〜45μmである。
本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め延伸フィルムは、その表面に機能層を有していてもよい。機能層としては、反射防止層、低屈折率層、ハードコート層、光散乱層、光拡散層、帯電防止層、導電層、電極層、複屈折層、表面エネルギー調整層、UV吸収層、色材層、耐水層、特定のガスバリア層、耐熱層、磁気層、酸化防止層、オーバーコート層などを考えることができる。
<円偏光板>
本実施形態の円偏光板は、偏光板保護フィルム、偏光子、λ/4フィルムがこの順で積層されており、λ/4フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸(または透過軸)とのなす角度が45°である。本実施形態の円偏光板が有機EL表示装置に用いられる場合、上記の偏光板保護フィルム、偏光子、λ/4フィルムは、図9の保護フィルム313、偏光子311、λ/4フィルム316にそれぞれ対応する。本実施形態においては、長尺状偏光板保護フィルム、長尺状偏光子、長尺状λ/4フィルム(長尺斜め延伸フィルム)がこの順で積層して形成されることが好ましい。
また、本実施形態の円偏光板が液晶表示装置に用いられる場合、上記の偏光板保護フィルム、偏光子、λ/4フィルムは、図10の保護フィルム506、偏光子501、λ/4フィルム503にそれぞれ対応する。表示セル401の外側(視認側)に、保護フィルム506、偏光子501が配置されており、偏光子501のさらに外側に(視認側に)、λ/4フィルム503が配置されているので、表示セル401から出射されて偏光子501を透過した直線偏光は、λ/4フィルム503にて円偏光または楕円偏光に変換される。したがって、観察者が偏光サングラスを装着して表示装置400の表示画像を観察する場合に、どのような角度で観察する場合でも(偏光子501の透過軸(吸収軸に垂直)と、偏光サングラスの透過軸とがどのようにズレていても)、偏光サングラスの透過軸に平行な光の成分を観察者の眼に導いて表示画像を観察させることができ、観察する角度によって表示画像が見え難くなるのを抑制することができる。
本実施形態の円偏光板は、偏光子として、ヨウ素または二色性染料をドープしたポリビニルアルコールを延伸したものを使用し、λ/4フィルム/偏光子の構成で貼合して製造することができる。偏光子の膜厚は、5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。
偏光板は、一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理したλ/4フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わされることが好ましい。
偏光板は、更に当該偏光板の偏光板保護フィルムの反対面に剥離フィルムを貼合して構成することができる。保護フィルムおよび剥離フィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
<有機EL表示装置>
図9は、本実施形態のOLEDとしての有機EL表示装置100の概略の構成を示す断面図である。なお、有機EL表示装置100の構成は、これに限定されるものではない。
有機EL表示装置100は、有機EL素子101上に接着層201を介して円偏光板301を形成することによって構成されている。有機EL素子101は、ガラスやポリイミド等を用いた基板111上に、順に、金属電極112、発光層113、透明電極(ITO等)114、封止層115を有して構成されている。なお、金属電極112は、反射電極と透明電極とで構成されていてもよい。
円偏光板301は、有機EL素子101側から順に、λ/4フィルム316、接着層315、偏光子311、接着層312、保護フィルム313、硬化層314を積層してなり、偏光子311がλ/4フィルム316と保護フィルム313とによって挟持されている。偏光子311の透過軸と本実施形態の長尺斜め延伸フィルムからなるλ/4フィルム316の遅相軸とのなす角度が約45°(または135°)となるように両者を貼り合わせることで、円偏光板301が構成されている。
上記の保護フィルム313には硬化層314が積層されていることが好ましい。硬化層314は、有機EL表示装置100の表面のキズを防止するだけではなく、円偏光板301による反りを防止する効果を有する。更に、硬化層314上には、反射防止層が形成されてもよい。有機EL素子101自体の厚さは、1μm程度である。
上記の構成において、金属電極112と透明電極114とに電圧を印加すると、発光層113に対して、金属電極112および透明電極114のうちで陰極となる電極から電子が注入され、陽極となる電極から正孔が注入され、両者が発光層113で再結合することにより、発光層113の発光特性に対応した可視光線の発光が生じる。発光層113で生じた光は、直接または金属電極112で反射した後、透明電極114および円偏光板301を介して外部に取り出されることになる。
一般に、有機EL表示装置においては、透明基板上に金属電極と発光層と透明電極とを順に積層して発光体である素子(有機EL素子)が形成されている。ここで、発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、このような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層との積層体や、これらの正孔注入層、発光層、電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物質を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
有機EL表示装置においては、発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
このような構成の有機EL表示装置において、発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
本実施形態の円偏光板は、このような外光反射が特に問題となる有機EL表示装置に適している。
すなわち、有機EL素子101の非発光時に、室内照明等により有機EL素子101の外部から入射した外光は、円偏光板301の偏光子311によって半分は吸収され、残りの半分は直線偏光として透過し、λ/4フィルム316に入射する。偏光子311の透過軸とλ/4フィルム316の遅相軸とが45°(または135°)で交差するように配置されているため、λ/4フィルム316に入射した光は、λ/4フィルム316を透過することにより円偏光に変換される。
λ/4フィルム316から出射された円偏光は、有機EL素子101の金属電極112で鏡面反射する際に、位相が180度反転し、逆回りの円偏光として反射される。この反射光は、λ/4フィルム316に入射することにより、偏光子311の透過軸に垂直(吸収軸に平行)な直線偏光に変換されるため、偏光子311で全て吸収され、外部に出射されないことになる。つまり、円偏光板301により、有機EL素子101での外光反射を低減することができる。
<液晶表示装置>
図10は、本実施形態の液晶表示装置としての表示装置400の概略の構成を示す断面図である。表示装置400は、表示セル401の一方の面側に偏光板402を配置して構成されている。
なお、液晶表示装置の場合、表示セル401は、一対の基板で液晶層を挟持した液晶セルを考えることができる。なお、液晶セルに対して偏光板402とは反対側には、偏光板402とクロスニコル状態で配置される別の偏光板と、液晶セルを照明するバックライトとが設けられるが、図10では、それらの図示を省略している。
また、表示装置400は、偏光板402に対して表示セル401とは反対側に、フロントウィンドウ403を有していてもよい。フロントウィンドウ403は、表示装置400の外装カバーとなるものであり、例えばカバーガラスで構成されている。フロントウィンドウ403と偏光板402との間には、例えば紫外線硬化型樹脂からなる充填材404が充填されている。充填材404がない場合は、フロントウィンドウ403と偏光板402との間に空気層が形成されるため、フロントウィンドウ403および偏光板402と空気層との界面での光の反射により、表示画像の視認性が低下する場合がある。しかし、上記の充填材404により、フロントウィンドウ403と偏光板402との間に空気層が形成されないため、上記界面での光の反射による表示画像の視認性の低下を回避することができる。
偏光板402は、所定の直線偏光を透過する偏光子501を有している。偏光子501の一方の面側(表示セル401とは反対側)には、接着層502を介して、λ/4フィルム503と、紫外線硬化型樹脂からなる硬化層504とがこの順で積層されている。また、偏光子501の他方の面側(表示セル401側)には、接着層505を介して保護フィルム506が貼り合わされている。
偏光子501は、例えばポリビニルアルコールフィルムを二色性色素で染色し、高倍率延伸することで得られるものである。偏光子501は、アルカリ処理(鹸化処理ともいう)された後、一方の面側にλ/4フィルム503が接着層502を介して貼り合わされ、他方の面側に保護フィルム506が接着層505を介して貼り合わされる。
接着層502・505は、例えばポリビニルアルコール接着剤(PVA接着剤、水糊)からなる層であるが、紫外線硬化型の接着剤(UV接着剤)からなる層であってもよい。これらの接着剤は、接着面に塗布する状態では液体であり、塗布後に乾燥または紫外線照射によって硬化することで、2者を接着する。つまり、接着層502・505は、液状からの状態変化によって、偏光子501とλ/4フィルム503、偏光子501と保護フィルム506とをそれぞれ接着する。このように、接着層502・505は、液状からの状態変化によって2者を接着する点で、そのような状態変化を起こさずに2者を接着する粘着層(基材の上に粘着剤を有するシート状の粘着層)とは異なっている。
λ/4フィルム503は、透過光に対して波長の1/4程度の面内位相差を付与する層であり、本実施形態では、例えばセルロース系樹脂(セルロース系ポリマー)を含んでいる。なお、λ/4フィルム503は、セルロース系ポリマーの代わりにポリカーボネート系樹脂(ポリカーボネート系ポリマー)を含んでいてもよいし、シクロオレフィン系樹脂(シクロオレフィン系ポリマー)を含んでいてもよい。ただし、耐薬品性の観点からは、λ/4フィルム503は、セルロース系ポリマーまたはポリカーボネート系ポリマーを含んでいることが望ましい。
λ/4フィルム503は、厚さが10μm〜70μmの薄膜のλ/4フィルムである。また、λ/4フィルム503の遅相軸と偏光子501の吸収軸とのなす角度(交差角)は、30°〜60°であり、これによって、偏光子501からの直線偏光は、λ/4フィルム503によって円偏光または楕円偏光に変換される。
硬化層504(ハードコート層とも言う)は、活性エネルギー線硬化型樹脂(例えば紫外線硬化型樹脂)で構成されている。
保護フィルム506は、例えばセルロース系樹脂(セルロース系ポリマー)、アクリル樹脂、環状ポリオレフィン(COP)、ポリカーボネート(PC)からなる光学フィルムで構成される。保護フィルム506は、単に偏光子501の裏面側を保護するフィルムとして設けられているが、所望の光学補償機能を有する位相差フィルムを兼ねた光学フィルムとして設けられてもよい。
なお、液晶表示装置の場合、表示セル401(液晶セル)に対して偏光板402とは反対側に配置される別の偏光板は、偏光子の表面を2つの光学フィルムで挟持して構成されるが、上記の偏光子および光学フィルムとしては、偏光板402の偏光子501および保護フィルム506と同様のものを用いることができる。
ここで、上記した偏光子501およびλ/4フィルム503は、それぞれ長尺状であってもよい。この場合、λ/4フィルム503の遅相軸が、λ/4フィルム503の長手方向に対して30°〜60°傾斜していることが望ましい。この場合、長尺状のλ/4フィルム503を、斜め延伸によって作製してロール状のフィルムとし、これをロール状の偏光子501と、いわゆるロール・トゥ・ロール方式で貼り合わせて長尺状の偏光板402を作製することができる。したがって、フィルム片を1枚ずつ貼り合わせるバッチ式で偏光板402を作製する場合に比べて、生産性が飛躍的に向上し、歩留りも大幅に改善することができる。
なお、λ/4フィルム503の接着層502側に、λ/4フィルム503の接着性を向上させるための易接着層が設けられてもよい。易接着層は、λ/4フィルム503の接着層502側に易接着処理を行うことによって形成される。易接着処理としては、コロナ(放電)処理、プラズマ処理、フレーム処理、イトロ処理、グロー処理、オゾン処理、プライマー塗布処理等があるが、このうち少なくとも1種が実施されればよい。これらの易接着処理のうち、生産性の観点からは、コロナ処理、プラズマ処理が易接着処理として好ましい。
<実施例>
以下、本実施形態における斜め延伸フィルムの製造に関する具体例な実施例について、比較例も挙げながら説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下では、「部」あるいは「%」の表記を用いるが、特に断らない限り、これらは「質量部」あるいは「質量%」を表すものとする。
〔原反フィルムの作製〕
以下の方法により、原反フィルムとしての長尺フィルム1を作製した。なお、長尺フィルム1は、セルロースエステル系樹脂フィルムである。
≪微粒子分散液≫
微粒子(アエロジルR972V 日本アエロジル(株)製) 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行い、微粒子分散液1を調製した。
≪微粒子添加液≫
以下の組成に基づいて、メチレンクロライドを入れた溶解タンクに充分攪拌しながら、上記微粒子分散液をゆっくりと添加した。さらに二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
メチレンクロライド 99質量部
微粒子分散液1 5質量部
≪主ドープ液≫
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースアセテートを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。なお、糖エステル化合物およびエステル化合物は、以下の合成例により合成した化合物を用いた。
《主ドープ液の組成》
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.50、プロピオニル基置換度0.90、総置換度2.40) 100質量部
糖エステル化合物 5.0質量部
エステル化合物 5.0質量部
紫外線吸収剤 1.5質量部
微粒子添加液1 1質量部
≪糖エステル化合物の合成≫
以下の工程により、糖エステル化合物を合成した。
攪拌装置、還流冷却器、温度計および窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸180.8g(0.6モル)、ピリジン379.7g(4.8モル)を仕込み、攪拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。
次に、コルベン内を4×102Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。
最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×102Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A−1、A−2、A−3、A−4およびA−5の混合物(糖エステル化合物)を得た。
得られた混合物をHPLCおよびLC−MASSで解析したところ、A−1が1.3質量%、A−2が13.4質量%、A−3が13.1質量%、A−4が31.7質量%、A−5が40.5質量%であった。平均置換度は5.5であった。
《HPLC−MSの測定条件》
1)LC部
装置:日本分光(株)製カラムオーブン(JASCO CO−965)、ディテクター(JASCO UV−970−240nm)、ポンプ(JASCO PU−980)、デガッサ−(JASCO DG−980−50)
カラム:Inertsil ODS−3 粒子径5μm 4.6×250mm(ジーエルサイエンス(株)製)
カラム温度:40℃
流速:1ml/min
移動相:THF(1%酢酸):H2O(50:50)
注入量:3μl
2)MS部
装置:LCQ DECA(Thermo Quest(株)製)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)法
Spray Voltage:5kV
Capillary温度:180℃
Vaporizer温度:450℃
≪エステル化合物の合成≫
以下の工程により、エステル化合物を合成した。
1,2−プロピレングリコール251g、無水フタル酸278g、アジピン酸91g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、攪拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、攪拌しながら徐々に昇温する。15時間脱水縮合反応させ、反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、エステル化合物を得た。エステル化合物は、1,2−プロピレングリコール、無水フタル酸およびアジピン酸が縮合して形成されたポリエステル鎖の末端に安息香酸のエステルを有する。エステル化合物の酸価は0.10、数平均分子量は450であった。
次いで、無端ベルト流延装置を用い、ステンレスベルト支持体上に均一に流延した。
無端ベルト流延装置では、上記主ドープ液をステンレススティールベルト支持体上に均一に流延した。ステンレススティールベルト支持体上で、流延(キャスト)した長尺フィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレススティールベルト支持体上から剥離し、多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、幅1500mmの長尺フィルム1を得た。
〔斜め延伸フィルムの作製〕
上記で製造したセルロース系樹脂からなる長尺フィルム1を、図1の製造装置1の延伸部5に供給して斜め延伸を行い、延伸部5の各ゾーンの温度を制御して、長尺斜め延伸フィルムを得た(表1の実施例1〜13、比較例1〜5参照)。このとき、延伸部5では、フィルムの配向角(遅相軸と幅手方向とのなす角度)が略45°となるように斜め延伸を行い、フィルムの搬送速度は15m/分とした。また、延伸前後におけるフィルムの延伸倍率は、実施例1〜12および比較例1〜4では1.2倍とし、実施例13および比較例5では1.4倍とし、トリミング処理を施した後の最終的なフィルム幅は、2000mmとした。そして、延伸部5での温度条件を表1のように種々変更して、斜め延伸フィルムを製造した。なお、このときの斜め延伸フィルムの設計膜厚は、表1に示す値とした。
ここで、延伸部5の延伸ゾーンZ2(特に斜め延伸ゾーンZ2−2)および緩和ゾーンZ3には、図6で示した加熱部11・12(ノズル)をそれぞれ配置した。そして、斜め延伸ゾーンZ2−2では、図3の斜め延伸終了位置P・Qを通る方向において、図4の直線a1で示す第1の温度分布を形成した。また、緩和ゾーンZ3では、中間点M3を通り、上記搬送方向に垂直な幅手方向において、図5の直線b1で示す第2の温度分布を形成した。
第1の温度分布における遅延側の温度T1(℃)および先行側の温度T2(℃)については、レール幅(レール間隔)×5%だけレールの内側に入り込んだ2点であって、斜め延伸終了位置P・Qを通る線上に位置する2点の温度を測定し、測定した遅延側および先行側の温度を、それぞれ温度T1および温度T2とした。また、第2の温度分布における先行側の温度T3(℃)および遅延側の温度T4(℃)については、レール幅×5%だけレールの内側に入り込んだ2点であって、上記中間点M3を通る幅手方向に位置する2点の温度を測定し、測定した先行側および遅延側の温度を、それぞれ温度T3および温度T4とした。さらに、斜め延伸ゾーンZ2−2の上記第1の位置M1の温度をT5(℃)とし、緩和ゾーンZ3の上記中間点M3の温度をT6(℃)として、それぞれの温度T5・T6を測定した。また、上記の温度T1〜T6は、耐熱型非接触温度センサー(IRtec Rayomatic 14、(株)ユートロン製)を用い、各ゾーン内を搬送されるフィルムの下方150mmの位置からフィルム側の温度を測定することによって得た。
なお、温度T1〜T6の一例を挙げると、実施例1の斜め延伸フィルムの製造においては、T1=200.5℃、T2=199.5℃、T3=197.5℃、T4=192.5℃、T5=200℃、T6=195℃、であった。また、その他の実施例および比較例では、表1に示す温度差となるように、延伸部5の各ゾーンの温度を制御した。なお、予熱ゾーンZ1および横延伸ゾーンZ2−1の温度は同じであり、かつ、斜め延伸ゾーンZ2−2の遅延側の温度T1とほぼ同じであった。
〔評価〕
(膜厚偏差の評価)
表1の温度条件で製造された各斜め延伸フィルムについて、デジマチックシックネスゲージ(ミツトヨ製)を用い、幅手方向に100mm間隔で膜厚を測定した。そして、このような膜厚測定を、フィルム搬送方向(長手方向)の50mごとに5回行い、上記全データ(膜厚値)の最大値と最小値との差を、膜厚偏差(μm)として求め、以下の基準に基づいて膜厚偏差を評価した。
《評価基準》
◎ :膜厚偏差が0μmよりも大きく、0.5μm以下である。
○ :膜厚偏差が0.5μmよりも大きく、1.0μm以下である。
× :膜厚偏差が1.0μmよりも大きく、1.5μm以下である。
××:膜厚偏差が1.5μmよりも大きい。
(シワの評価)
表1の温度条件で製造された各斜め延伸フィルムを目視で観察し、以下の評価基準に基づいてアバラ状のシワ(ツレ)の有無を評価した。
《評価基準》
○ :シワがほとんど観察されなかった。
△ :微小なシワが観察されたが、実使用上問題の無いレベルである。
× :実使用上問題となる大きなシワが観察された。
表1は、各斜め延伸フィルムについての評価の結果を示している。
表1の実施例1〜13の斜め延伸フィルムでは、膜厚偏差の評価が○または◎であり、良好な結果が得られている。これは、実施例1〜13の斜め延伸フィルムの製造においては、1℃≦(T1−T2)≦15℃、5℃≦(T3−T4)≦30℃、5℃≦(T5−T6)≦40℃、を満足しているためと考えられる。つまり、上記温度条件を満足することにより、斜め延伸ゾーンZ2−2での斜め延伸によって、遅延側で膜厚が薄く、先行側で膜厚が厚くなるにもかかわらず、緩和ゾーンZ3での先行側にて、残留応力の緩和を促進させて膜厚を減少させることができ、これによって、フィルム幅手方向の膜厚差を小さくすることができているためと考えられる。また、実施例1〜13の斜め延伸フィルムでは、シワの評価も△または○と良好であるが、これは、緩和ゾーンZ3にて残留応力が幅手方向において適切に緩和されている結果、残留応力に起因するシワの発生が抑えられているためと考えられる。
これに対して、比較例1〜5の斜め延伸フィルムでは、膜厚偏差の評価が×または××となっている。これは、比較例1〜5の斜め延伸フィルムの製造においては、1℃≦(T1−T2)≦15℃、5℃≦(T3−T4)≦30℃、5℃≦(T5−T6)≦40℃、の少なくともいずれかの条件を満足しておらず、幅手方向で膜厚のバラツキが小さくなるように、緩和ゾーンZ3にて残留応力が緩和されていないか、あるいは逆に残留応力が緩和されすぎて、膜厚のバラツキが生じているためと考えられる。特に、比較例1の斜め延伸フィルムにおいては、残留応力が適切に緩和されていない結果、残留応力に起因するシワが発生しているものと考えられる。
また、実施例11・12の結果より、膜厚が薄くても、斜め延伸ゾーンZ2−2および緩和ゾーンZ3での適切な温度制御により、膜厚偏差およびシワの発生を低減できると言える。
また、実施例13の結果より、延伸倍率が変化しても、斜め延伸ゾーンZ2−2および緩和ゾーンZ3での適切な温度制御により、膜厚偏差およびシワの発生を低減できると言える。なお、延伸倍率が1.4倍の比較例5では、延伸倍率が1.2倍の比較例4と同様に、5℃≦(T5−T6)≦40℃を満足していないため、膜厚のバラツキが生じているものと考えられる。
以上のように、実施例1〜13の斜め延伸フィルムの製造においては、幅手方向に膜厚が均一な原反フィルムを用いて斜め延伸を行っても、幅手方向に膜厚がほぼ均一な斜め延伸フィルムを製造することができるため、原反フィルムとして、幅手方向に膜厚を変化させた特殊なフィルムを製造して用意しておく必要がなくなる。その結果、斜め延伸フィルムの生産性を向上させることができる。しかも、残留応力に起因するシワの発生も低減できるため、シワの発生を低減しつつ、斜め延伸フィルムの生産性を向上させることができる。
なお、以上では、斜め延伸ゾーンZ2−2に形成する第1の温度分布を、図4で示した直線a1の分布としたが、その他、曲線a2・a3で示す分布であっても、T1−T2を適切に設定することにより、実施例1〜13と同様の結果が得られることがわかった。したがって、斜め延伸ゾーンZ2−2に形成する第1の温度分布は、遅延側から先行側にかけて、温度が単調に減少する分布であればよいと言える。
また、以上では、緩和ゾーンZ3に形成する第2の温度分布を、図5で示した直線b1の分布としたが、その他、曲線b2・b3で示す分布であっても、T3−T4を適切に設定することにより、実施例1〜13と同様の結果が得られることがわかった。したがって、緩和ゾーンZ3に形成する第2の温度分布は、遅延側から先行側にかけて、温度が単調に増加する分布であればよいと言える。
なお、以上では、フィルムの配向角が略45°となるように斜め延伸を行った例について説明したが、フィルムの配向角が30°や60°となるように斜め延伸を行った場合でも、実施例1〜13と同様の温度制御によって、実施例1〜13と同様の結果が得られることがわかった。
また、以上では、セルロースエステル系樹脂を用いて斜め延伸フィルムを製造する場合について説明したが、COPやPCなど、セルロースエステル系樹脂以外の樹脂を用い、実施例1〜13と同様の温度制御を行って斜め延伸フィルムを製造することにより、実施例1〜13と同様の結果が得られることがわかった。