JP6616599B2 - 固体酸化物形燃料電池用の電極材料とこれを用いた固体酸化物形燃料電池 - Google Patents

固体酸化物形燃料電池用の電極材料とこれを用いた固体酸化物形燃料電池 Download PDF

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Description

本発明は、固体酸化物形燃料電池用の電極材料とこれを用いた固体酸化物形燃料電池に関する。
固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell,以下、単に「SOFC」という)は、種々のタイプの燃料電池の中でも、発電効率が高い、環境への負荷が低い、多様な燃料の使用が可能であるなどの利点を有している。SOFCの単セルは、本質的な構成として、酸素イオン伝導体からなる緻密な層状の固体電解質を基本とし、この固体電解質の一方の面に多孔質構造の空気極(カソード)が形成され、他方の面に多孔質構造の燃料極(アノード)が形成されている。ここで、空気極が形成された側の固体電解質の表面には、空気等に代表されるO(酸素)含有ガスが供給され、燃料極が形成された側の固体電解質の表面には、H(水素)に代表される可燃性燃料ガスが供給される。そして一般的な動作においては、空気中のOガスが空気極で還元されて酸素イオンとなり、この酸素イオンは固体電解質を通過して燃料極に到達する。そして燃料極において酸素イオンはHガス燃料を酸化し、これに伴い外部負荷に電子を放出して電気エネルギーが生成される。
特開2014−67563号公報
このようなSOFCにおいては、固体電解質材料として、酸素イオン伝導性、安定性および価格のバランスの良好なイットリア安定化ジルコニア(YSZ)が広く用いられている。また、燃料極材料としては、SOFCの運転環境において電子伝導性を示す酸化ニッケル(NiO)等の遷移金属酸化物材料と酸素イオン伝導性を示すイットリア安定化ジルコニア(YSZ)の混合物(例えば、NiO/YSZサーメット)が一般に用いられている。そして、空気極材料としては、ランタンストロンチウムコバルタイト((LaSr)CoO;LSC),ランタンストロンチウムマンガナイト((LaSr)MnO;LSM)等のペロブスカイト型酸化物や、ランタンストロンチウム鉄コバルタイト((LaSr)(CoFe)O;LSCF)等の酸素イオン−電子混合導電性材料が一般に用いられている。なお、固体電解質材料と空気極材料との反応を防止する反応防止層が設けられる場合、この反応防止層用材料として、ガドリニウムドープセリア(GDC)が用いられている。
ところで、SOFCは、従来より800℃以上(典型的には、800℃〜1000℃程度)の高温で作動させていたが、耐久性の向上、低コスト化の観点から、近年では作動温度をより低温化することが望まれている。例えば、SOFCの作動温度を600℃〜700℃程度にまで低温化することが検討されている。しかしながら、このような温度環境においても、燃料極で使用されている上記の遷移金属酸化物材料は熱凝集し易く、電気化学反応を行う三相界面が減少したり、導電パスが遮断されたりして、反応活性が低下してしまうという問題があった。このような遷移金属酸化物材料の反応活性の低下は発電性能の低下に直接的に繋がるために好ましくない。
本発明は上記の従来の問題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、例えば、中低温(例えば600℃〜700℃程度)作動型のSOFCの燃料極等の電極の性能を向上させることができるSOFC用の電極材料を提供することである。また、本発明の他の目的は、この電極材料を用いたSOFCを提供することである。
上記目的を実現するべく、本発明によって、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電極を形成するために用いる電極材料が提供される。この電極材料は、SOFCの運転環境において電子伝導性を有する遷移金属および遷移金属化合物のうちの少なくとも一つからなる遷移金属成分粉末と、SOFCの運転環境において少なくとも酸素イオン伝導性を有する酸素イオン伝導性材料粉末と、を含む。そして遷移金属成分粉末は、平均結晶子径をS、平均粒子径をDとしたとき、次式:P=S/D;で表されるパラメータPが、P>0.085を満たすことを特徴としている。
この様にパラメータPが特定の範囲に制限された遷移金属成分粉末を用いることで、該粉末を構成する遷移金属成分粒子の安定性が高められ、熱凝集および焼結が抑制される。これにより、電極の劣化を抑制し、SOFCの発電性能を長期に亘って安定して高く維持することができる。
なお、特許文献1には、SOFCの燃料極材料として、酸化ニッケル−ジルコニア混合焼成粉末に、微細なジルコニア粉末を混合して用いることが開示されている。この特許文献1において、燃料極材料中の酸化ニッケルの平均結晶子径は1〜100nmの範囲でより小さいことが好ましいことが開示されているが、酸化ニッケルの大きさ(平均粒子径)との関係については何ら検討されていない。
ここに開示される電極材料の好ましい一態様において、上記酸素イオン伝導性材料粉末は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ),スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ),サマリウムドープセリア(SDC)およびガドリニウムドープセリア(GDC)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴としている。これらの材料は、固体電解質材料として利用され得る酸素イオン伝導性材料であり、遷移金属成分粉末と固体電解質材料との熱膨張係数差を好適に緩和し、かつ、遷移金属成分粉末の凝集を好適に抑制し得るために好ましい。
ここに開示される電極材料の好ましい一態様において、上記遷移金属成分粉末は、少なくとも酸化ニッケル(NiO)を含むことを特徴としている。
遷移金属成分のなかでも、金属ニッケル(Ni)は改質反応やシフト反応に活性の高いため、SOFCの運転環境においてNiに還元され得るNiOは遷移金属成分粉末として好ましい。
ここに開示される電極材料の好ましい一態様において、上記遷移金属成分粉末と上記酸素イオン伝導性材料粉末との割合は、質量比で、90:10〜40:60であることを特徴としている。このような構成により、中低温の作動温度においても電子伝導性と酸素イオン伝導性とをバランスよく両立することができる。
ここに開示される電極材料の好ましい一態様において、少なくとも1種の分散媒を含み、ペースト状に調製されていることを特徴としている。このような構成によると、例えば、SOFCの電極を塗布法、印刷法等により好適に作製することができるために好ましい。
他の側面において、ここに開示される技術は、燃料極と、固体電解質と、空気極と、を備えたSOFCを提供する。このSOFCは、燃料極が上記のいずれかに記載の電極材料から作製されていることを特徴としている。ここで開示される電極材料は、遷移金属成分粉末の熱凝集が抑制されて熱安定性が高められているため、SOFCの電極を作製した場合に長期に亘り高い発電性能を維持することができる。このような特徴は、固体電解質層を薄膜化した場合の固体電解質層と燃料極との間の熱応力の発生の抑制にもつながる。このため、このような電極材料を用いたSOFCでは、長期信頼性の高い高性能な(例えば、出力密度の高い)ものであり得る。
一実施形態に係るアノード支持型のSOFCを模式的に示す断面図である。 一実施形態に係るアノード支持型のSOFCスタックを模式的に示す分解斜視図である。 一実施形態における遷移金属成分粉末の平均粒子径と、これを使用したSOFCの発電性能および劣化率との関係を示すグラフである。 一実施形態における遷移金属成分粉末の結晶子径と、これを使用したSOFCの発電性能および劣化率との関係を示すグラフである。 一実施形態における遷移金属成分粉末のパラメータPと、これを使用したSOFCの発電性能および劣化率との関係を示すグラフである。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
ここで開示される電極材料は、本質的に、遷移金属成分粉末と、酸素イオン伝導性材料粉末と、を含むものとして特徴づけられる。そしてこの遷移金属成分粉末は、平均結晶子径をS、平均粒子径をDとしたとき、次式で表されるパラメータP:P=S/D;がP>0.085を満たすことで特徴づけられる。すなわち、遷移金属成分粉末のパラメータPが適切な範囲となるように調整されている。以下、これらの電極材料の構成成分について詳細に説明する。
[遷移金属成分粉末]
遷移金属成分粉末は、遷移金属および遷移金属化合物からなる群から選択される少なくとも一つの遷移金属成分からなる粉末を含んでいる。遷移金属成分としては、具体的には、元素周期律表の3族〜11族に属する遷移金属元素の単体(すなわち、遷移金属)や、当該遷移金属元素を主要構成成分とする化合物(すなわち、遷移金属化合物)であり得る。ここで、遷移金属化合物とは、当該遷移金属元素と他の金属元素および/または半金属元素からなる合金、固溶体、金属間化合物等の金属的性質を示す物質や当該遷移金属元素と非金属元素との化合物(典型的には、酸化物、窒化物等)を包含する。例えば、典型的には、チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),銅(Cu)等の3d遷移元素、ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),オスミウム(Os),イリジウム(Ir),白金(Pt),金(Au),銀(Ag)の貴金属元素等の金属、白金−パラジウム合金,白金−ロジウム合金等の合金、並びに、酸化コバルト(CoO,Co,Co),酸化銅(CuO,CuO),酸化銀(AgO,AgO),酸化タングステン(WO,W,WO,WO)等の酸化物および窒化物等の遷移金属化合物が挙げられる。
以上のような遷移金属成分は、SOFCの燃料極の運転環境である中低温(例えば、600℃以上700℃以下)の還元雰囲気(Hガス雰囲気)において、高い電気伝導性を示すとともに、水素解離能力(水素酸化活性であり得る)を備え得る。したがって、この電極材料は、特にSOFCの燃料極用材料として好適に用いることができる。なかでも、Co,Ni,Cu,Ag,WおよびPtの単体や、これらの合金、酸化物等は、上記SOFCの運転環境において水素等の燃料ガスとの反応性が十分に大きいことから特に好適な材料であり得る。これらの遷移金属成分は、いずれか1種が単独で粉末を構成していても良いし、2種以上が組み合わされて粉末を構成していても良い。上記の特性と、価格の面等を考慮すると、遷移金属はNiまたはPtであるのが好ましく、特に、Ni,NiO,Pt,Pt合金を含むことが好ましい。より好ましくはNiOであり得る。NiOが他の遷移金属および遷移金属化合物の少なくとも一つと共に含まれる場合には、このNiOがより高い含有率で含まれることが好適である。
そして上記の遷移金属成分粉末は、一般的に、平均粒子径が小さい程、反応表面積や燃料ガス/固体電解質/遷移金属成分粉末が接する三相界面を増大できる点で好ましい。しかしながら、SOFCが運転される600℃以上の温度域において、遷移金属成分粉末は熱凝集しやすいという問題が生じ得る。この問題は、遷移金属成分粉末の平均粒子径が小さい程顕著となり、多孔質電極が緻密化されたり、電極の導電パスを遮断されたりする等の問題が生じ得た。
そこで、ここに開示される遷移金属成分粉末は、次式:P=S/D;で表されるパラメータPが、P>0.085を満たすようにしている。なお、式中の、Sは遷移金属成分粉末の平均結晶子径、Dは平均粒子径である。
一般に、市販されている遷移金属成分粉末は、各遷移金属の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物等の塩類又は遷移金属粉を、ロータリーキルン等の転動炉、プッシャー炉等の連続炉、あるいはバーナー炉等のバッチ炉を用いて、酸化性雰囲気下で焼成し、必要に応じて粒度調整をすることにより製造されている。そしてこのような遷移金属成分粉末についてのパラメータPは、典型的には0.083以下であり、多くの場合は0.08以下であり、例えば0.05以下であり得る。
これに対し、ここに開示される技術においては、パラメータPが上記関係を満たすことで、遷移金属成分粉末を構成する個々の遷移金属成分粒子における結晶子の大きさが拡大されている。換言すると、遷移金属成粒子内で結晶子が大きく成長されており、遷移金属成分粉末の電子伝導性が高められるとともに、熱安定性が改善される。したがって、かかる電極材料を用いて製造された電極を備えるSOFCにおいては、600℃以上の温度域における遷移金属成分粉末の熱凝集の問題を抑制することができ、長期に亘って反応活性の良好な電極を作製することができる。
上記のパラメータPは、0.09以上であるのが好ましく、0.1以上であるのがより好ましく、0.11以上であるのが特に好ましい。例えば、Pは、0.12以上や、0.13以上の値であることが更に好ましい。パラメータPの上限は特に制限されず、理論的に1に近いほどより好ましい。すなわち、理想的には、個々の遷移金属成分粒子が、遷移金属成分の単結晶粒子であることが望ましい。
なお、遷移金属成分粉末に関する平均結晶子径(結晶子の大きさ)は、粉末X線回折法により得られる回折パターンに基づきシェラー(Scherrer)の式:S=Kλ/(β×cosθ);を用いて算出することができる。式中、Sは平均結晶子径を、KはScherrer定数(0.92)を、λは使用X線の波長を、βは回折線(回折ピーク)の半値全幅を、θは回折角を示している。
粉末X線回折法において、例えば、遷移金属成分粉末がNiO粉末である場合、2θ=43°に検出される回折線に基づき、平均結晶子径を算出することができる。
また、平均粒子径は、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布における積算値50%での粒径(50%体積平均粒子径)である。
上記のパラメータPは、遷移金属成分粉末に対して適切な熱処理を施して結晶子を成長させたり、遷移金属成分粉末に粒度調整処理を施して平均粒子径を低減したりすることで調整することができる。熱処理に際しては、対象とする遷移金属成分に対応した結晶粒の成長温度範囲に遷移金属成分粉末を保持することが挙げられる。例えば、遷移金属成分粉末がNiO粉末である場合、NiO粉末を1100℃〜1500℃の温度に0.5〜24時間程度保持することが例示される。また、粒度調整処理に際しては、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル等の適切な粉砕機を利用して乾式または湿式で遷移金属成分粉末の粒度(平均粒子径)を調整することが挙げられる。なお、粒度調整に際しては、結晶粒の微細化が生じないような条件で処理することがより好ましい。このような粒度および結晶子径の調整は、各処理の間で遷移金属成分粉末を都度採取して、粒度および結晶子径を測定しパラメータPを確認しながら実施することができる。
このような遷移金属成分粉末の平均粒子径は、厳密に限定されるものではないが、三相界面を増大させ得る点で比較的微細なものであることが好ましい。例えば、平均粒子径は、20μm以下が適当であり、好ましくは0.01μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上5μm以下であり、例えば0.1μm以上3μm以下である。
[酸素イオン伝導性材料粉末]
酸素イオン伝導性材料粉末としては、SOFCの運転環境において少なくとも酸素イオン伝導性を有する各種の材料の粉末を用いることができる。例えば、SOFCの固体電解質材料として使用されている各種の材料の粉末を好適に用いることができる。このような酸素イオン伝導性材料としては、具体的には、ジルコニア(ZrO),セリア(CeO)等の酸化物に、マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),カルシウム(Ca),チタン(Ti),ガリウム(Ga),ストロンチウム(Sr),イットリウ(Y),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),スカンジウム(Sc),ハフニウム(Hf),バリウム(Ba),タングステン(W),ビスマス(Bi),ランタン(La),セリウム(Ce),サマリウム(Sm),ガドリニウム(Gd),エルビウム(Er)等の安定化元素を添加(ドープ)して結晶構造を安定化させた、安定化ジルコニア、安定化セリア等を好適に用いることができる。なかでも、イットリア安定化ジルコニア(YSZ),スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ),サマリウムドープセリア(SDC)およびガドリニウムドープセリア(GDC)はSOFCの運転環境において結晶構造の安定性が高く、また、高い酸素イオン伝導性を示し得るために好ましい材料であり得る。酸素イオン伝導性材料において、安定化元素は、いずれか1種であっても良いし、2種以上の組み合わせであっても良い。安定化元素の添加割合は厳密には制限されないものの、概ね1〜20モル%程度、例えば4〜15モル%とすることが好ましい。また、酸素イオン伝導性材料は、いずれか1種が単独で酸素イオン伝導性材料粉末を構成していても良いし、2種以上が混合されて酸素イオン伝導性材料を構成していても良い。
このような酸素イオン伝導性材料粉末の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば、平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上5μm以下であり、例えば0.1μm以上3μm以下である。
遷移金属成分粉末と酸素イオン伝導性材料粉末との割合は特に制限されない。遷移金属成分粉末に、ごく僅かでも酸素イオン伝導性材料粉末が混合されることで、遷移金属成分粉末の熱凝集を抑制することができ、ここに開示される電極材料とすることができる。かかる観点から、遷移金属成分粉末と酸素イオン伝導性材料粉末との合計に占める酸素イオン伝導性材料粉末の割合は、0質量%を超過していればよく、例えばSOFCにおける電極の寸法や使用する固体電解質材料のCTE等を考慮して適切な割合で配合することができる。一方で、遷移金属成分粉末の割合が少なすぎると、電極の電子伝導性が急激に損なわれるために好ましくない。かかる観点から、遷移金属成分粉末と酸素イオン伝導性材料粉末との合計に占める酸素イオン伝導性材料粉末の割合は、70質量%以下であるのが好ましい。例えばSOFCの燃料極を形成した場合に、固体電解質との熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion:CTE)の差を適切に緩和するとの観点から、遷移金属成分粉末と酸素イオン伝導性材料粉末との混合比率(質量比)は、およそ90:10〜40:60であることが適切であり、80:20〜45:55であることが好ましく、70:30〜50:50の範囲にあることが好適である。
なお、遷移金属成分粉末と酸素イオン伝導性材料粉末とは、互いに単独で混合された状態(いわゆるサーメット)であっても良いし、複合化された状態であっても良い。例えば、酸素イオン伝導性材料粉末を構成する粒子の表面に、遷移金属成分粉末が担持された状態であっても良い。この場合、遷移金属成分粉末と酸素イオン伝導性材料粉末とは、(1)機械的結合、(2)物理的結合(例えば分子間結合)、(3)化学的結合(例えば共有結合、イオン結合(焼結を含む))のいずれか1つまたは2つ以上の組み合わせにより結合されていても良い。
なお、ここに開示される電極材料は、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、上記の遷移金属成分粉末と酸素イオン伝導性材料粉末との他に、分散媒、造孔材、焼結助剤等の他の構成成分を含むことができる。かかる他の構成成分については、種々の基準に照らして調整することができる。
(造孔材)
造孔材は、電極を多孔質構造に形成するために電極材料に配合される材料であって、電極作製時(焼成時)に消失する各種の材料を用いることができる。例えば、造孔材としては、天然有機粉体、粒状の合成樹脂材料、炭素粉末等が好ましい例として挙げられる。
天然有機粉体としては、例えば、澱粉を含む各種の植物のうち、澱粉を多く含む種子(胚乳)、塊根等の部位を粉末にしたものや、かかる部位か抽出した澱粉粉末であってよい。例えば、代表的には、もち米粉、米粉、大麦粉、小麦粉、オート(燕麦)粉、とうもろこし粉、えんどう豆粉、じゃがいも粉、さつまいも粉、キャッサバ粉、葛粉、サゴ粉、アマランス粉、バナナ粉、アロールート粉、カンナ粉などの食物粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ粉等の澱粉粉末を例示することができる。
粒状樹脂材料としては、電極の焼成時(典型的には、800℃〜1500℃の高温での焼成時)に消失することができる各種の合成樹脂からなる粒子状の材料を用いることができる。典型的には、いわゆる樹脂ビーズを好ましく用いることができる。かかる粒状樹脂材料は、粒子の粒径が揃ったものを容易に入手することができ、また表面形態も滑らかであるため、電極形成用のスラリーを調製したときの流動性を良好に保ち得るために好ましい。また、所望の多孔質構造(例えば、細孔径分布がシャープな多孔質構造等)の電極を形成し得る点においても好ましい。かかる粒状樹脂材料を構成する樹脂の種類は特に制限されず、例えば、代表的には、ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン,スチレン・アクリロニトリル共重合体,アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンポリマー等のポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂およびこれらの複合体等が例示される。
造孔材として各種の炭素粉末を用いることもできる。かかる炭素粉末は700℃〜900℃でほぼ焼失するため、電極の焼成時(典型的には、800℃〜1500℃)にほぼ全てが燃え抜けるために好適である。炭素粉末としては、その結晶構造や製造方法等は特に制限されず、黒鉛(天然黒鉛およびその改質体、人造黒鉛)等に代表される各種の炭素材料を用いることができる。
(分散媒)
上記の粉末状の電極材料は、そのまま圧縮成形する等して電極構造に成形してもよいし、あるいは、粉末状の電極材料を分散媒中に分散したペースト(インク、スラリー、サスペンションなどを包含する)の形態に調製して用いるようにしても良い。このとき用いる分散媒としては、上記の遷移金属成分粉末および酸素イオン伝導性材料粉末を良好に分散し得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられている各種の分散媒を特に制限なく使用することができる。典型的には、かかる分散媒としては、ビヒクルと、粘度調整のための有機溶媒との混合物を考慮することができる。
有機溶媒としては、例えば、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体(グリコールエーテル系溶剤)、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、ターピネオール等の高沸点有機溶剤の1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、ビヒクルは、有機バインダとして種々の樹脂成分を含むことができる。かかる樹脂成分はペーストを調製するのに良好な粘性および塗膜形成能(例えば、印刷性や、基板に対する付着性等を含む)を付与し得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ロジン樹脂等を主体とするものが挙げられる。このうち、特にエチルセルロース等のセルロース系高分子が含まれているのが好ましい。なお、かかる分散媒には、分散剤や可塑剤等のこの種の分散媒に一般的に使用され得る任意の添加剤が含まれていても良い。
分散媒の割合は、電極材料の使用目的に応じて適宜調整することができる。例えば、SOFCの電極およびその他の構成部材の形態や、その成形に採用する手法等に応じて、適宜調整することができる。例えば、かかるペースト状の形態の電極材料は、印刷等の手法により上記のSOFCの構成部材を形成するのに好ましく用いることができる。より具体的には、例えば、スクリーン印刷やドクターブレード法等の手法によりSOFCの燃料極を作製するためのグリーンシート(未焼成段階の成形体)を成形する場合は、かかる分散媒が、ペースト全体(すなわち、例えば、上記遷移金属成分粉末および酸素イオン伝導性材料粉末と、造孔材と、分散媒との合計)に占める割合は、5質量%以上60質量%以下程度とすることが好ましく、7質量%以上50質量%以下がより好ましく、10質量%以上40質量%以下が特に好ましい。また、ビヒクルに含まれる有機バインダは、例えば、ペースト全体の1質量%以上15質量%以下程度、好ましくは1質量%以上10質量%以下程度、より好ましくは1質量%以上7質量%以下程度の割合とすることが例示される。かかる構成とすることで、例えば、粉末状の遷移金属成分粉末および酸素イオン伝導性材料粉末を均一な厚さの層状体(例えば、塗膜)として形成(塗布)し易く、取扱いが容易であり、さらにかかる塗布物から分散媒を除去するのに長時間を要することがないために好適である。特に、薄層化が進められるSOFCの燃料極のグリーンシートを好適に形成することができる。
なお、ペースト状に調製するに際し、上記粉末状の電極材料および分散媒の混合には、例えば、公知の三本ロールミル等を用いることができる。ペースト状の電極材料は、所望の用途に応じて適切な粘度に調整することによって、塗布または印刷等の形態で電極材料を所望の位置に所望の形態にて簡便に供給することが可能となる。例えば、極精密に寸法が管理されたSOFCの燃料極を簡便かつ好適に成形することができる。
上記のようにして準備した電極材料の成形体(いわゆるグリーンシート)は、従来のこの種の構成部材と同様に焼成することができる。この場合の焼成温度は、例えば1000℃〜1400℃程度とすることができる。なお、この焼成をSOFCの他の構成部材の焼成と同時に行う場合等には、焼成条件を適宜変更することができる。これにより、例えば、SOFCの燃料極等の燃料電池構成部材を作製することができる。
(SOFC)
[実施態様1]
ここに開示される技術により提供される固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、本質的には、燃料極(アノード)と固体電解質と空気極(カソード)とが備えられている。ここでSOFCは、例えば、従来公知の平板型(Planar),MOLB型、縦縞円筒型(Tubular)、あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒型(Flat tubular)、一体積層型等の種々の構造のSOFCであってよい。また、ここに開示される電極材料を用いた電極(典型的には空気極)は、形状やサイズは特に限定されない。SOFCを支持する支持体(基材)についても特に制限なく、例えば燃料極(アノード支持型)、空気極(カソード支持型)、固体電解質(固体電解質支持型)等であり得る。
図1は、アノード支持型のSOFC(単セル)10を模式的に示した断面構成図である。この図は模式的に描かれており、図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を厳密に反映するものではない。ここに示されるSOFC10は、支持体となる燃料極40と、この燃料極40の少なくとも一部の表面上に形成された薄膜状の固体電解質30と、この固体電解質30の表面上に形成された薄膜状の空気極20とが積層された構造を有している。なお、必須の構成要素ではないが、空気極20と固体電解質30との間に、両者の反応を防止する反応防止層25が備えられていてもよい。ここで、燃料極40と空気極20とは、燃料ガスの流通が可能なように多孔質構造とされている。
この燃料極40は、ここに開示される電極材料を用いて好適に作製することができる。燃料極40の端部42は、燃料ガス(典型的には、水素(H)または炭化水素(例えばメタン;CH))を供給するガス管60と接合されている。かかる接合面は、気体(燃料ガスもしくは空気)が流出又は流入しないように接続部材50によって接合され、封止されている。また、空気極20は酸素(O)を含む気体に曝されるよう、典型的には外気に露出した構造となるよう、構成されている。
かかるSOFC10に電流を印加すると、空気極20において、酸素含有ガス(典型的には空気)中の酸素がイオン化されて、酸素イオン(O2−)となる。この酸素イオンは、空気極20から固体電解質30を介して燃料極40に供給される。そして該燃料極40において、燃料ガスと反応して水(HO)を生成し、電子を放出することにより、発電が行われる。
ここで、SOFC10を構成する燃料極40の形状は、SOFC10に供給される燃料ガスに接触できるように構成されていればよく、上述したSOFCの形状に応じて適宜選択することができる。図1に示す構成のSOFC10は、いわゆるアノード支持型であるため、比較的厚く形成された燃料極40がSOFC10の支持体として利用されている。なお、図示しないが、なお、支持体である燃料極40は、固体電解質30との界面から離れた領域は燃料極としての寄与が少ない。したがって、具体的に図示しないが、図1における燃料極40部分を、固体電解質30に隣接する領域と、固体電解質30から離れた領域とに分け、固体電解質30から離れた領域を多孔度のより高いアノード支持体部分として形成するようにしても良い。この場合、固体電解質30に隣接する領域の厚みは、例えば、1μm〜200μm程度とすることができ、好ましくは5μm〜100μm程度、より好ましくは10μm〜100μmであるが、かかる厚みに限定されるものではない。また、上記アノード支持体としての燃料極40の厚みは、取扱い性、耐久性、熱膨張率等を考慮して設定することが好ましい。典型的には0.1mm〜10mm程度であり、好ましくは0.5mm〜5mm程度であるが、この厚みに限定されるものではない。
ここで開示されるSOFC10を構成する固体電解質30は緻密構造を有している。固体電解質30は、上記燃料極40の上に積層されており、燃料極40の形状に応じてその形状を適宜変更することができる。また、固体電解質30の膜厚は、固体電解質層の緻密性が維持される程度に厚くする一方、SOFCとして好ましい酸素イオン伝導度および低抵抗性を供し得る程度に薄くなるよう、両者をバランスさせて厚さ寸法を設定することが好ましい。典型的には0.1μm〜50μm程度であり、好ましくは1μm〜40μm程度であり、より好ましくは5μm〜20μm程度であるが、かかる膜厚は限定されるものではない。
固体電解質を構成する材料としては、従来からSOFCに用いられている材料の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができル。例えば、上記の酸素イオン伝導性材料として例示したような、高い酸素イオン伝導性を有する化合物が好ましく用いられる。具体的には、例えば、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、ガドリニウム(Gd)、サマリウム(Sm)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タングステン(W),エルビウム(Er)等のうちから選択される元素を安定化剤として含む、酸化物であることが好ましい。具体的には、例えば、イットリア(Y)、カルシア(CaO)、スカンジア(Sc)、マグネシア(MgO)、イッテルビア(Yb)、エルビア(Er)等の少なくとも1種で結晶構造を安定化させたジルコニア(ZrO)や、ガドリニア(Gd)、ランタニア(La)、サマリア(Sm)、イットリア(Y)をドープしたセリウム酸化物(CeO)が、好適例として挙げられる。例えば、イットリウム(Y)の酸化物(例えば、イットリア(Y))をドープしたイットリア安定化ジルコニア(YSZ)や、スカンジウム(Sc)の酸化物(例えばスカンジア(Sc))をドープしたスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等を好ましく用いることができる。
空気極(カソード)20は、上記燃料極40と同様に多孔質構造を有している。空気極20は、上記固体電解質30の上に積層されており、固体電解質30の形状に応じてその形状を適宜変更することができる。空気極20の厚みは、典型的には1μm〜200μm程度であり、好ましくは5μm〜100μm程度、より好ましくは10μm〜100μmであるが、かかる厚みに限定されるものではない。
空気極20を構成する材料としては、従来からSOFCに用いられている空気極用材料の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができル。例えば、以下の導電性ペロブスカイト型酸化物を用いることができる。具体的には、(LaSr)MnO、(LaCa)MnOに代表されるランタンマンガネート(LaMnO)系ペロブスカイト型酸化物や、LaCoO、(LaSr)CoO、(LaSr)(CoFe)O等に代表される、ランタンコバルタイト(LaCoO)系のペロブスカイト型酸化物、さらには、(LaSr)(TiFe)O等に代表される、ランタンチタネート(LaTiO)系のペロブスカイト型酸化物からなるものが例示される。なお、ここに列挙した一般式は、当業者において慣用的に使用されているように、かかる酸化物を構成する主元素の組み合わせを簡略的に示すものであって、実際の電極材料の組成を示すものではない。また、上記に示した主元素以外の元素をドープするようにしても良い。
[実施態様2]
かかる実施態様における固体酸化物形燃料電池(SOFC)システムは、SOFCのスタックセル100を備えている。図2に、スタックセル100の一形態の分解斜視図を模式的に示す。このスタックセル100は、SOFC(単セル)10A,10Bが、インターコネクタ50(50A)を介して複数層積み重なったスタックとして構成されている。単セル10A,10Bは、層状の固体電解質30の両面が、それぞれ層状の燃料極(アノード)40と空気極(カソード)20とで挟まれたサンドイッチ構造を備えている。図面中央に配されるインターコネクタ50Aは、その両面を二つの単セル10A,10Bで挟まれており、一方のセル対向面52がセル10Aの空気極20と対向(隣接)し、他方のセル対向面54がセル10Bの燃料極40と対向(隣接)している。かかる燃料極40は、ここに開示される電極材料から構成されている。また、インターコネクタ50は、例えば、SUS430等の耐熱合金,Crofer(ティッセンクルップ),ZMG(日立金属)等の金属材料や、LaCrO系のセラミックス材料を使用して構成することができる。インターコネクタ50の、セル対向面52には複数の溝が形成されており、供給された酸素含有ガス(典型的には空気)が流れる空気流路53を構成している。同様に、反対側のセル対向面54にも複数の溝が形成されており、供給された燃料ガス(典型的にはHガス)が流れるための燃料ガス流路55を構成している。かかる形態のインターコネクタ50では、典型的には空気流路53と燃料ガス流路55とが互いに直交するように形成されている。一般的な動作においては、酸素(O)含有ガス中のOガスが空気極54で還元されてO2−アニオンとなり、固体電解質を通って燃料極40に移動し、Hガス燃料を酸化する。そしてかかる酸化反応に伴い、電気エネルギーを発生させている。
なお、以上のSOFCシステムの製造方法は、従来公知の製造方法に準じればよく特別な処理を必要としないため、詳細な説明は省略する。
以下、本発明に関する幾つかの試験例を説明するが、本発明をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
[電極材料の用意]
(例1〜5)
製造元の異なる5通りの酸化ニッケル(NiO)粉末を用意し、例1〜5の遷移金属成分粉末とした。この例1〜5の遷移金属成分粉末(酸化ニッケル)の平均粒子径と平均結晶子径とを測定し、下記の表1に示した。また、平均粒子径と平均結晶子径との値から、パラメータPを算出し、併せて表1に示した。
なお、各酸化ニッケル粉末の平均粒子径は、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置を用いて測定された体積基準の粒度分布におけるD50を採用した。
平均結晶子径は、各例の酸化ニッケル粉末についてX線回折分析を行い、得られたXRD回折パターンにおける2θ=43°に検出されたピークの半値全幅(FWHM)から、シェラーの式に基づき算出した。X線回折分析は、粉末X線回折装置(株式会社リガク製,RINT−TTRIII)を用い、分析条件は以下のとおりとした。
励起X線:CuKα(波長λ=1.54056Å),50kV,50mA
測定範囲:2θ=10〜60°
ステップ幅:0.01°
スキャンスピード:5°/min
(例6〜13)
例1〜5と同じ遷移金属成分粉末(酸化ニッケル粉末)に対し、1100℃〜1500℃の温度で0.5〜20時間程度加熱する結晶子径調整処理を施すことで、結晶子の大きさを様々に変化させた。その後、ビーズミル(寿工業(株)製、ウルトラアペックスミル、ビーズ径0.5mm)を使用し、結晶子調整処理後の酸化ニッケル粉末を2000rpmの条件で湿式粉砕することで、例6〜13の遷移金属成分粉末とした。
このようにして得た例6〜13の遷移金属成分粉末について、上記例1〜5と同様に、平均粒子径と平均結晶子径とを測定するとともに、パラメータPを算出し、これらの結果を併せて表1に示した。
[評価用のSOFCセルの作製]
また、上記で用意した各例の遷移金属成分粉末をSOFCの燃料極用材料として用い、以下の手順で、評価用のSOFCセルを作製した。
まず、酸化ニッケル(NiO,平均粒子径0.5μm)粉末と、8%イットリア安定化ジルコニア(8%YSZ,平均粒子径0.5μm)粉末とを、60:40の質量比で混合することで、燃料極支持体用材料を用意した。そして、この燃料極支持体用材料と、造孔材(炭素成分)、バインダ(ポリビニルブチラール;PVB)、可塑剤および分散媒(キシレン)とを、順に48〜58:15〜5:8.5:4.5:24の質量比で混練することにより、ペースト状の燃料極支持体形成用組成物を調製した。次いで、この燃料極支持体形成用組成物をキャリアシート上にドクターブレード法によりシート状に塗布し、乾燥させることで、厚みが0.5〜1.0mmの燃料極支持体グリーンシートを形成した。
次に、上記で用意した例1〜13の遷移金属成分粉末(酸化ニッケル粉末)と、8%YSZ(平均粒子径0.5μm)粉末とを、質量比で、60:40の割合で混合し、ここに開示される電極材料とした。また、この電極材料と、バインダ(エチルセルロース;EC)および分散媒(TE)とを、80:2:18の質量比で混合することで、燃料極形成用組成物を調製した。この燃料極形成用組成物は、ここに開示されるペースト状の電極材料であり得る。次いで、この燃料極形成用組成物を上記燃料極支持体グリーンシートの上にスクリーン印刷法により供給し、乾燥させて、厚みが約10μmの燃料極グリーンシートを形成した。
固体電解質材料として、8%YSZ(平均粒子径0.5μm)粉末と、バインダ(EC)と、分散媒(TE)とを、65:4:31の質量比で混練することにより、ペースト状の固体電解質層形成用組成物を調製した。これを上記燃料極グリーンシートの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚みが約10μmの固体電解質層グリーンシートを形成した。
また、反応防止層材料として、10%ガドリニウムドープセリア粉末(10%GDC,平均粒子径0.5μm)と、バインダ(EC)と、分散媒(TE)とを、65:4:31の質量比で混練することにより、ペースト状の反応防止層用組成物を調製した。これを上記固体電解質層グリーンシートの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚みが約5μmの反応防止層グリーンシートを形成した。
このようにして用意した積層グリーンシートを円形に切り抜き、1350℃で共焼成することで、燃料極支持体,燃料極層,固体電解質層および反応防止層が順に一体的に積層されたSOFCのハーフセルを得た。なお、焼成後のハーフセルの形状は、直径20mmの円形であった。
次いで、空気極材料としてLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83−δ(LSCF、平均粒子径0.5μm)と、バインダ(エチルセルロース;EC)および分散媒(TE)とを、80:3:17の質量比で混合することで、空気極形成用組成物を調製した。次いで、この燃料極形成用組成物を、上記で用意したSOFCのハーフセルの反応防止層上にスクリーン印刷法によって円形シート状に供給することで、空気極層グリーンシートを形成した。次いで、これを1100℃で焼成して層状の空気極を形成することで、例1〜13の評価用のSOFCを得た。なお、空気極の寸法は、直径10mm、厚み約30μmとした。
そして、このように得られた評価用のSOFCについて、発電性能と劣化率とを以下に示す手順で測定した。
[発電性能]
各例のSOFCを下記の条件で運転し、電流密度0.5A/cmにおける出力密度(W/cm)を測定し、発電性能とした。その結果を、表1の「発電性能」の欄に示した。
燃料極供給ガス:水素ガス(50ml/min)
空気極供給ガス:空気(100ml/min)
運転温度:700℃
[劣化率]
各例のSOFCを下記の条件で運転し、電流密度0.5A/cmで100時間運転したときの前後で開放電圧を測定し、下式に基づき電圧劣化率を算出した。その結果を、表1の「劣化率」の欄に示した。なお、式中、「初期開放電圧」は、運転前の開放電圧であり、「運転後開放電圧」は、100h運転後の開放電圧である。
燃料極供給ガス:水素ガス(50ml/min)
空気極供給ガス:空気(100ml/min)
運転温度:700℃
劣化率={(運転後開放電圧)−(初期開放電圧)}÷(初期開放電圧)
Figure 0006616599
[評価]
表1の結果を基に、燃料極の電子伝導性材料の平均粒子径と、発電性能および劣化率との関係を図3に、結晶子径と、発電性能および劣化率との関係を図4に、パラメータPと、発電性能および劣化率との関係を図5に、それぞれ示した。
図3および図4から明らかなように、平均粒子径と結晶子径とは、発電性能および劣化率との間に有意な相関関係は見られなかった。これに対し、図5に示すように、パラメータPについては、発電性能および劣化率との間に相関を示しP>0.085の場合に発電性能が確実に0.36を超え、かつ、劣化率が0.1未満の良好な値となることがわかった。
なお、入手したままのNiO粉末については、Pが0.082以下と、0.085よりも小さい値であった。そのため、このNiO粉末を用いて製造した例1〜5のSOFCについては、発電性能および劣化率を共に良好な値とすることができなかった。一方で、例6〜13に示されるように、入手したNiO粉末に熱処理および粒度調整を施すことで、例えばPを0.084以上に増大できることがわかった。そして、P>0.085以上を満たすNiO粉末を用いてSOFCを作製した場合に、発電性能および劣化率を共に良好な値とすることができることがわかった。これは、一つのNiO粒子を構成するNiO結晶子の大きさを大きくすることで、電子伝導性が高められたとともに、作動温度における還元Ni粒子の安定性が高められて、Ni粒子の凝集が抑制されたことによるものと考えられる。
以上のことから、ここに開示される電極材料を用いて、例えば、低温作動型のSOFCの燃料極を形成することで、発電性能および耐久性に優れたSOFCが実現できることが確認された。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
10,10A,10B SOFC(単セル)
20 空気極(カソード)
25 反応防止層
30 固体電解質
40 燃料極(アノード)
50,50A インターコネクタ
52 ,54 セル対向面
53 空気流路
55 燃料ガス流路
100 スタックセル

Claims (6)

  1. 固体酸化物形燃料電池の電極を形成するために用いる電極材料であって、
    前記固体酸化物形燃料電池の運転環境において電子伝導性を有する遷移金属および遷移金属化合物のうちの少なくとも一つからなる遷移金属成分粉末と、
    前記固体酸化物形燃料電池の運転環境において少なくとも酸素イオン伝導性を有する酸素イオン伝導性材料粉末と、
    を含み、
    前記遷移金属成分粉末と、前記酸素イオン伝導性材料粉末とは、互いに独立した粉末であり且つ混合された状態で存在しており、
    前記遷移金属成分粉末は、平均結晶子径をS、平均粒子径をDとしたとき、次式で表されるパラメータP:P=S/D;がP>0.085を満たす、電極材料。
  2. 前記酸素イオン伝導性材料粉末は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ),スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ),サマリウムドープセリア(SDC)およびガドリニウムドープセリア(GDC)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の電極材料。
  3. 前記遷移金属成分粉末は、少なくとも酸化ニッケル(NiO)を含む、請求項1または2に記載の電極材料。
  4. 前記遷移金属成分粉末と前記酸素イオン伝導性材料粉末との割合は、質量比で、90:10〜40:60である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極材料。
  5. 少なくとも1種の分散媒を含み、ペースト状に調製された、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極材料。
  6. 燃料極と、固体電解質と、空気極と、を備えた固体酸化物形燃料電池であって、
    前記燃料極が請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極材料から作製されている、固体酸化物形燃料電池。
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