JP6614273B2 - 鉛蓄電池 - Google Patents

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Description

本発明は、鉛蓄電池に関する。
近年、自動車においては、大気汚染防止又は地球温暖化防止のため、様々な燃費向上対策が検討されている。燃費向上対策を施した自動車としては、例えば、エンジンの動作時間を少なくするアイドリングストップシステム車(以下、「ISS車」という)、及び、エンジンの動力によるオルタネータの発電を低減する発電制御車等のマイクロハイブリッド車が検討されている。
ISS車では、エンジンの始動回数が多くなるため、鉛蓄電池の大電流放電が繰り返される。また、ISS車及び発電制御車では、オルタネータによる発電量が少なくなり、鉛蓄電池の充電が間欠的に行われるため充電が不充分となる。
前記のような使われ方をする鉛蓄電池は、PSOC(Partial State Of Charge)と呼ばれる部分充電状態で使用されることになる。
ところで、鉛蓄電池は、例えば、正極(正極板等)と、負極(負極板等)と、両電極を隔離する合成樹脂製の袋状のセパレータとが積層された構造を有している。前記セパレータとしては、リブの一体加工及び袋加工が容易なポリオレフィン等を主体として成形した、平板状シートの片面に極板当接用主リブを突設してなるリブ付き微多孔質フィルムが知られている。このリブ付き微多孔質フィルムからなるセパレータは、通常、極板当接用主リブを突設した面が正極板に当接するように設計されている。また、極板当接用主リブを突設した面と反対側の面は、リブを設けないフラットな面であり、負極板に当接するように設計されている。
一般に、鉛蓄電池において充電する際、充電末期に正極から酸素ガスが発生するため、セパレータの正極に対向する面は酸化雰囲気下にある。したがって、セパレータの正極に対向する面は、負極に対向する面と比較して酸化されやすく、セパレータが劣化して脆くなり、その厚みが減少して穴があきやすくなる。その結果、正極と負極とが短絡することが問題となる場合がある。
また、鉛蓄電池では、充放電の繰り返しにおいて、放電時には水が生成し、充電時には硫酸が生成する。そして、硫酸は水に比べて比重が高く下部に沈降しやすいことから、電解液(硫酸)濃度が電池の上部と下部とで異なってくる成層化現象が生じる。従来のエンジン車では、走行時に過充電されるので、この際に正極及び負極から発生する酸素ガス及び水素ガスによる電解液の攪拌作用によって、成層化は緩和される。しかし、PSOC下では、充電不足の状態が続くので、酸素ガス及び水素ガスによる電解液の攪拌作用が発現しにくく、成層化が生じやすい。成層化が発生すると、電池上部の電解液濃度が低下するため、電池上部で硫酸鉛の溶解量が増加し、浸透短絡が発生しやすくなる。
これに対し、下記特許文献1には、デンドライトショート(短絡)を抑制するために、ポリオレフィン、無機粉体及び可塑剤を主体とした原料組成物から構成され、特定の構造を有するセパレータを用いることが記載されている。
特開2013−211115号公報
ところで、本発明者らの検討によれば、セパレータに含まれる無機粉体としてシリカを用いた場合、浸透短絡しやすくなり、例えば、前記特許文献1に記載されている技術では、浸透短絡の抑制が充分でないことが予想されることが見出された。そのため、近年、鉛蓄電池に対しては、短絡の抑制効果を従来技術と比較して更に高めることが求められている。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、シリカを含むセパレータを用いた場合であっても短絡の抑制効果に優れる鉛蓄電池を提供することを目的とする。
本発明に係る鉛蓄電池は、セパレータを介して対向する正極及び負極と、電解液と、を備え、セパレータがポリオレフィン及びシリカを含み、正極が、正極集電体と、正極集電体に保持された正極材と、を有し、負極が、負極集電体と、負極集電体に保持された負極材と、を有し、電解液がアルミニウムイオンを含み、化成後の負極材に対する化成後の正極材の質量比が1.05以上である。
本発明に係る鉛蓄電池は、前記構成を備えることにより、シリカを含むセパレータを用いた場合であっても短絡の抑制効果に優れる。また、本発明に係る鉛蓄電池によれば、短絡を抑制しつつ優れた電池特性を得ることが可能であり、例えば、優れた充電受け入れ性及びISSサイクル特性を得ることができる。したがって、特に、初期の状態からある程度の充放電が繰り返されて活物質が充分に活性化した後において、ISS車、マイクロハイブリッド車等では低くなりがちなSOC(State Of Charge)を適正なレベルに維持することができる。また、本発明に係る鉛蓄電池によれば、優れた充電受け入れ性及びISSサイクル特性と、他の優れた電池特性(容量、放電特性等)とを両立することができる。
また、本発明に係る鉛蓄電池によれば、PSOC下で使用される鉛蓄電池の寿命が短くなることを抑制することができる。なお、PSOC下で使用される鉛蓄電池の寿命が短くなる理由について、充電が不足している状態で充放電を繰り返すと、放電の際に負極(負極板等)に生成する硫酸鉛が粗大化し、充電生成物である海綿状金属鉛に硫酸鉛が戻り難くなるためと考えられる。
エネルギー分散型X線分光法(EDX)による元素分析において、前記セパレータにおける酸素及びケイ素の質量の合計は、炭素、酸素及びケイ素の質量の合計を基準として30〜80質量%であることが好ましい。この場合、短絡の抑制効果に更に優れると共に、セパレータ強度を向上させることができる。
電解液におけるアルミニウムイオンの濃度は、0.01〜0.3mol/Lであることが好ましい。この場合、短絡の抑制効果に更に優れると共に、充電受け入れ性等の電池特性を更に向上させることができる。
前記電解液は、ナトリウムイオンを更に含むことが好ましい。この場合、5時間率容量サイクル特性を更に向上させることができる。
化成後の負極材に対する化成後の正極材の質量比は、1.05〜1.60が好ましく、1.05〜1.50がより好ましい。この場合、短絡を更に効果的に抑制することができると共に充電受け入れ性及び低温高率放電性能に更に優れる。
正極材の比表面積は、3m/g以上が好ましい。この場合、充電受け入れ性に更に優れる。
負極材の比表面積は、0.4m/g以上が好ましい。この場合、電解液と負極活物質との反応性を高めることができる。
本発明に係る鉛蓄電池は、前記セパレータが、第1のリブと、第2のリブと、ベース部と、を有する長尺のセパレータであり、前記ベース部が、前記第1のリブ及び前記第2のリブを支持しており、前記第1のリブ及び前記第2のリブが、前記セパレータの長手方向に延びており、前記セパレータの短手方向における両端部のそれぞれが前記第2のリブを10〜40本含み、前記両端部の間の領域が前記第1のリブを含む態様であってもよい。
本発明によれば、シリカを含むセパレータを用いた場合であっても短絡の抑制効果に優れる鉛蓄電池を提供することができる。また、本発明に係る鉛蓄電池によれば、短絡を抑制しつつ優れた電池特性(例えば充電受け入れ性及びISSサイクル特性)を得ることができる。さらに、本発明に係る鉛蓄電池によれば、優れた充電受け入れ性及びISSサイクル特性と、他の優れた電池特性(容量、放電特性等)とを両立することができる。本発明に係る鉛蓄電池は、充電が間欠的に行われ、PSOC下で高率放電が行われる液式鉛蓄電池として、ISS車、マイクロハイブリッド車等の自動車において好適に用いることができる。本発明によれば、鉛蓄電池のマイクロハイブリッド車への応用を提供できる。本発明によれば、鉛蓄電池のISS車への応用を提供できる。
セパレータを示す図面である。 セパレータ及び電極の断面図である。 袋状のセパレータと、袋状のセパレータに収容される電極とを示す図面である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、比重は、温度によって変化するため、本明細書においては20℃で換算した比重と定義する。また、本明細書において「シリカ」とは、二酸化ケイ素(SiO)、又は、二酸化ケイ素によって構成される物質の総称を意味する。
<鉛蓄電池>
本実施形態に係る鉛蓄電池は、セパレータを介して対向する正極(正極板等)及び負極(負極板等)と、電解液(硫酸等)と、を備え、セパレータがポリオレフィン及びシリカを含み、電解液がアルミニウムイオンを含む。
本実施形態に係る鉛蓄電池は、例えば、電槽、電極(電極板等)、電解液(硫酸等)及びセパレータを備えており、電極として正極及び負極を有している。電極、電解液及びセパレータは、電槽内に収容されている。本実施形態に係る鉛蓄電池としては、液式鉛蓄電池、制御弁式鉛蓄電池等が挙げられ、液式鉛蓄電池が好ましい。
正極及び負極は、セパレータを介して積層されることにより電極群(極板群等)を構成している。正極は、正極集電体と、当該正極集電体に保持された正極材と、を有している。負極は、負極集電体と、当該負極集電体に保持された負極材と、を有している。本実施形態において正極材及び負極材は、例えば、化成後の電極材である。電極材が未化成である場合、電極材(未化成の正極材及び未化成の負極材)は、その原料等を含有している。集電体は、電極材からの電流の導電路を構成する。鉛蓄電池の基本構成としては、従来の鉛蓄電池と同様の構成を用いることができる。
化成後の負極材に対する化成後の正極材の質量比(正極材/負極材)は、1.05以上である。前記質量比が1.05以上であることで、短絡を効果的に抑制することができる。前記質量比は、短絡を更に効果的に抑制することができる観点から、1.10以上がより好ましく、1.13以上が更に好ましい。前記質量比は、充電受け入れ性及び低温高率放電性能に更に優れる観点から、1.60以下が好ましく、1.55以下がより好ましく、1.50以下が更に好ましく、1.40以下が特に好ましく、1.30以下が極めて好ましく、1.20以下が非常に好ましく、1.17以下がより一層好ましい。これらの観点から、前記質量比は、1.05〜1.60が好ましく、1.05〜1.55がより好ましく、1.05〜1.50が更に好ましく、1.05〜1.40が特に好ましく、1.05〜1.30が極めて好ましく、1.05〜1.20が非常に好ましく、1.05〜1.17がより一層好ましく、1.10〜1.17が更に好ましく、1.13〜1.17が特に好ましい。
化成後の負極材に対する化成後の正極材の質量比が前記範囲内であると短絡の発生を抑制できる理由について、本発明者らは次のように推測する。微小電流による過放電状態では、正極又は負極の活物質の残存率が25%程度になるまで放電が可能である。正極材/負極材の質量比が1.05未満(例えば1.00以上1.05未満。正極の活物質の量に対して負極の活物質の量が多い場合等)であると、負極が放電できる容量が大きくなることで、電解液として用いる硫酸の消費量が多くなり、電解液の硫酸比重が水に近い値にまで低下する。一方、正極材/負極材の質量比が1.05以上(正極の活物質の量に対して負極の活物質の量が少ない場合等)であると、負極が放電できる容量が小さくなることで、負極材の量が多いときに比べて放電限界に早く達し、電解液として用いる硫酸の消費量が少なくなり、電解液の硫酸比重の低下が小さくなる。その結果、活物質中の硫酸鉛の電解液への溶解が抑制されるため、浸透短絡を抑制することができるものと推測される。
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との電気的な接続を阻止し、且つ、電解液の硫酸イオンを透過させるものである。セパレータは、ポリオレフィン及びシリカを含む。セパレータは、ポリオレフィン及びシリカを主体(例えば、ポリオレフィン及びシリカの含有量(合計量)がセパレータの全質量基準で50質量%以上)とした材料から構成されていることが好ましい。ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、メチルペンテン等の単独重合体若しくは共重合体、又は、これらの混合物を使用できる。前記単独重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。これらの中でも、成形性及び経済性に優れる観点から、ポリエチレンが好ましい。ポリエチレンは、溶融成形温度がポリプロピレンよりも低く、生産性が良好である。
ポリオレフィンの重量平均分子量は、セパレータの機械的強度に優れる観点から、50万以上が好ましく、100万以上がより好ましい。重量平均分子量の上限に特に制限はないが、実用的な観点から、500万以下が好ましい。なお、ポリオレフィンの重量平均分子量は、例えば、高温GPC装置により、溶離液としてトルエン又はキシレンを用いて測定することができる。
本実施形態においては、シリカとしてシリカ粒子を用いることが好ましい。シリカ粒子としては、粒径が細かく、内部及び/又は表面に孔構造を備えている粒子が好ましい。シリカ粒子の比表面積は、100m/g以上であることが好ましい。比表面積が100m/g以上であると、セパレータの孔構造を更に微細化(緻密化)及び複雑化して耐短絡性を更に高め、且つ、電解液保持力を高め、粉体表面に多数の親水基(−OH等)を備えることによりセパレータの親水性を更に高めることができる。また、シリカ粒子の比表面積は、セパレータ中でシリカ粒子が均一に分散できる観点から、400m/g以下であることが好ましい。これらの観点から、シリカ粒子の比表面積は、100〜400m/gであることが好ましい。シリカ粒子の比表面積は、例えばBET法により測定できる。
セパレータにおける粒径(最長径)2μm以上のシリカ粒子の数は、セパレータ強度の均一性に優れる観点から、セパレータの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で分析した際に任意に選択される30μm×40μmの範囲内において20個以下であることが好ましく、10個以下であることがより好ましい。
エネルギー分散型X線分光法(EDX)による元素分析において、セパレータにおける酸素及びケイ素(シリコン)の質量の合計は、短絡の抑制効果に更に優れる観点、及び、セパレータ強度を向上させる観点から、セパレータにおける炭素、酸素及びケイ素の質量の合計を基準として、下記の範囲であることが好ましい。酸素及びケイ素の質量の前記合計は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。酸素及びケイ素の質量の前記合計は、55質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよい。酸素及びケイ素の質量の前記合計は、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下が更に好ましい。酸素及びケイ素の質量の前記合計は、65質量%以下であってもよい。酸素及びケイ素の質量の前記合計は、30〜80質量%が好ましく、40〜75質量%がより好ましく、50〜70質量%が更に好ましい。酸素及びケイ素の質量の前記合計は、55〜75質量%であってもよく、60〜65質量%であってもよい。
セパレータ中の炭素、酸素及びケイ素の質量は、例えば、セパレータの断面をエネルギー分散型X線分光法(EDX)で分析することにより求められる。すなわち、セパレータの断面をEDXで分析した際に検出される炭素、酸素及びケイ素の質量の合計を基準にして酸素及びケイ素の質量の合計が前記範囲であることが好ましい。
本実施形態のセパレータは、例えば、ポリオレフィン、シリカ及び可塑剤を主体とした原料組成物を溶融混練して所定形状のシート状物に成形することにより得ることができる。
可塑剤としては、例えば、飽和炭化水素(パラフィン)からなる工業用潤滑油等の鉱物オイル;ステアリルアルコール等の高級アルコール;フタル酸ジオクチル等のエステル系可塑剤などが使用できる。中でも、再利用がしやすい点で、鉱物オイルが好ましい。可塑剤は、ポリオレフィン、シリカ及び可塑剤を主体とした原料組成物中に、原料組成物の全量を基準として30〜70質量%配合されることが好ましい。
可塑剤は、ポリオレフィン、シリカ及び可塑剤を主体とした原料組成物を溶融混練して所定形状のシート状物に成形した後、例えば、溶剤を用いた抽出除去等の方法により除去される。可塑剤を除去することで、多孔質化できるが、鉛蓄電池用セパレータにおいては、可塑剤を適量含有させておくことで、耐酸化性を向上させることができる。セパレータ中の可塑剤の含有量は、セパレータの全質量を基準として5〜30質量%が好ましい。
可塑剤を抽出除去するために用いる溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の飽和炭化水素系の有機溶剤を用いることができる。
セパレータは、その他、必要に応じて、界面活性剤(親水化剤)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、滑剤、抗菌剤、防黴剤、顔料、染料、着色剤、防曇剤、艶消し剤等の添加剤を、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で含有してもよい。
セパレータは、第1のリブと、当該第1のリブを支持するベース部と、を有することが好ましく、ベース部に支持された第2のリブを更に有することがより好ましい。第1のリブ及び第2のリブは、例えば凸状である。セパレータは、例えば長尺であり、第1のリブ及び第2のリブは、例えば、セパレータの長手方向に延びている。第1のリブの高さ及び/又は幅は、例えば、第2のリブよりも大きい。本実施形態に係る鉛蓄電池は、第1のリブを含む第1の領域、及び、第2のリブを含む第2の領域を有し、セパレータの短手方向(長手方向に直交する方向。幅方向)における両端部(一端部及び他端部。二つの第2の領域)のそれぞれが第2のリブを含み、且つ、前記両端部の間の領域(第1の領域)が第1のリブを含む態様であってもよい。以下、本実施形態のセパレータの一態様を、図1〜図3を用いて説明する。
図1(a)は、セパレータを示す正面図であり、図1(b)は、セパレータの断面図である。図2は、セパレータ及び電極の断面図である。図1に示すように、セパレータ10は、平板状のベース部11と、凸状の複数のリブ(第1のリブ)12と、凸状の複数のミニリブ(第2のリブ)13とを備えている。ベース部11は、リブ12及びミニリブ13を支持している。リブ12は、セパレータ10の幅方向における中央(第1の領域)において、セパレータ10の長手方向に延びるように複数(多数本)配置されている。複数のリブ12は、セパレータ10の一方面10aにおいて互いに略平行に配置されている。リブ12の間隔は、例えば3〜15mmである。リブ12の高さ方向の一端はベース部11に一体化しており、リブ12の高さ方向の他端は、正極及び負極のうちの一方の電極14aに接している(図2参照)。ベース部11は、リブ12の高さ方向において電極14aと対向している。セパレータ10の他方面10bにはリブは配置されておらず、セパレータ10の他方面10bは、正極及び負極のうちの他方の電極14b(図2参照)と対向又は接している。
ミニリブ13は、セパレータ10の幅方向における両側(両端部、二つの第2の領域)において、セパレータ10の長手方向に延びるように複数(多数本)配置されている。ミニリブ13は、鉛蓄電池が横方向に振動した際に、電極の角がセパレータを突き破って短絡することを防止するためにセパレータ強度を向上させる機能を有する。
ミニリブ13の数は、セパレータを巻き取る際にセパレータの端がしわになりにくく生産性に優れる観点、及び、短絡を防止するための強度が容易に向上する観点から、10本以上が好ましく、20本以上がより好ましい。ミニリブ13の数は、セパレータを袋状に形成しやすい観点から、40本以下が好ましい。これらの観点から、ミニリブ13の数は、10〜40本が好ましく、20〜40本がより好ましい。セパレータの短手方向の両端部にミニリブが配置されている場合、ミニリブ13の数は、例えば、両端部のそれぞれに配置される数である。
ミニリブ13の高さ、幅及び間隔は、何れもリブ12よりも小さいことが好ましい。ミニリブ13の断面形状は、リブ12と同一であってもよく、異なっていてもよい。ミニリブ13の断面形状は、半円型であることが好ましい。また、セパレータ10においてミニリブ13は配置されていなくてもよい。
ベース部11の厚みTの上限は、更に優れた充電受け入れ性及び放電特性を得る観点から、0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましく、0.25mm以下が更に好ましく、0.25mm未満が特に好ましく、0.225mm以下が極めて好ましく、0.2mm以下が非常に好ましい。ベース部11の厚みTの下限は、特に制限はないが、短絡の抑制効果に更に優れる観点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。
リブ12の高さ(ベース部11及び電極14の対向方向の高さ)Hの上限は、更に優れた充電受け入れ性を得る観点から、1mm以下が好ましく、0.9mm以下がより好ましく、0.8mm以下が更に好ましく、0.6mm以下が特に好ましい。リブ12の高さHの下限は、正極での酸化劣化を抑制する観点から、0.3mm以上が好ましく、0.4mm以上がより好ましく、0.5mm以上が更に好ましい。これらの観点から、リブ12の高さHは、0.3〜1mmが好ましく、0.3〜0.9mmがより好ましく、0.3〜0.8mmが更に好ましく、0.4〜0.8mmが特に好ましく、0.5〜0.6mmが極めて好ましい。
ベース部11の厚みTに対するリブ12の高さHの比率H/Tの下限は、セパレータの耐酸化性に優れる観点から、2以上が好ましい。比率H/Tが2以上であると、電極(例えば正極)と接触しない部分を充分に確保できるため、セパレータの耐酸化性が向上すると推測される。比率H/Tの下限は、セパレータの耐酸化性及び生産性に優れる観点から、2.3以上がより好ましく、2.5以上が更に好ましい。
比率H/Tの上限は、リブの形状保持性に優れる観点、及び、短絡の抑制効果に更に優れる観点から、6以下が好ましい。比率H/Tが6以下であると、正極と負極との間の距離が充分であることから短絡が更に抑制されると推測される。また、比率H/Tが6以下であると、鉛蓄電池を組み立てた際にリブが破損することなく、充電受け入れ性等の電池特性が良好に維持されると推測される。比率H/Tの上限は、短絡の抑制効果に更に優れる観点、及び、リブの形状保持性に優れる観点から、5以下がより好ましく、4以下が更に好ましく、3.7以下が特に好ましく、3.5以下が極めて好ましく、3以下が非常に好ましい。
前記観点から、比率H/Tは、2〜6が好ましく、2.3〜5がより好ましく、2.3〜4が更に好ましく、2.3〜3.7が特に好ましく、2.3〜3.5が極めて好ましく、2.5〜3が非常に好ましい。
リブ12の上底幅B(図1(b)参照)は、リブの形状保持性及び耐酸化性に優れる観点から、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上が更に好ましく、0.35mm以上が特に好ましい。同様の観点から、リブ12の上底幅Bは、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、0.8mm以下が更に好ましく、0.5mm以下が特に好ましい。これらの観点から、リブ12の上底幅Bは、0.1〜2mmが好ましく、0.2〜2mmがより好ましく、0.3〜2mmが更に好ましく、0.35〜2mmが特に好ましく、0.35〜1mmが極めて好ましく、0.35〜0.8mmが非常に好ましく、0.35〜0.5mmがより一層好ましい。リブ12の上底幅Bは、0.2〜1mmであってもよく、0.2〜0.8mmであってもよい。
リブの下底幅Aは、リブの形状保持性に優れる観点から、0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましく、0.4mm以上が更に好ましく、0.5mm以上が特に好ましく、0.7mm以上が極めて好ましい。同様の観点から、リブの下底幅Aは、4mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、1mm以下が更に好ましい。これらの観点から、リブの下底幅Aは、0.2〜4mmが好ましく、0.3〜2mmがより好ましく、0.4〜1mmが更に好ましく、0.5〜1mmが特に好ましく、0.7〜1mmが極めて好ましい。
下底幅Aに対する上底幅Bの比率B/Aは、リブの形状保持性に優れる観点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上が更に好ましく、0.4以上が特に好ましく、0.45以上が極めて好ましい。同様の観点から、比率B/Aは、1以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.6以下が更に好ましく、0.55以下が特に好ましい。これらの観点から、比率B/Aは、0.1〜1が好ましく、0.2〜0.8がより好ましく、0.3〜0.6が更に好ましく、0.4〜0.55が特に好ましく、0.45〜0.55が極めて好ましい。
セパレータ10は、正極及び負極の少なくとも一方の電極を包む袋状であることが好ましい。例えば、正極及び負極のうちの一方が袋状のセパレータに収容され、且つ、正極及び負極のうちの他方と交互に積層されている態様が好ましい。例えば、袋状のセパレータを正極に適用した場合、正極集電体の伸びにより正極がセパレータを貫通する可能性があることから、負極が袋状のセパレータに収容されていることが好ましい。
セパレータ10としては、微多孔性ポリエチレンシート;ガラス繊維と耐酸紙とを貼りあわせたもの等を用いることができる。セパレータ10は、電極(極板等)を積層する工程の際に、負極(負極板等)の長さに応じて切断されることが好ましい。また、前記切断されたセパレータ10は、2つに折り、両サイドを圧着することで負極を包み込む形であってもよい。
図3は、袋状のセパレータ20と、セパレータ20に収容される電極(例えば負極)14とを示す図面である。図1(a)に示すように、セパレータ20の作製に用いるセパレータ10は、例えば、長尺のシート状に形成されている。図3に示すセパレータ20は、セパレータ10を適切な長さに切断し、セパレータ10の長手方向に二つ折りにしてその内側に電極14を配置して重ね合せ、両側部をメカニカルシール、圧着又は熱溶着することにより得られる(例えば、図3の符号22はメカニカルシール部を示す)。
(電解液)
本実施形態に係る鉛蓄電池の電解液は、アルミニウムイオンを含む。電解液がアルミニウムイオンを含むことにより、シリカを含むセパレータを用いた場合であっても優れた短絡の抑制効果が得られる。
シリカを含むセパレータを用いた場合に短絡が起こりやすくなる原因、及び、電解液がアルミニウムイオンを含むことにより短絡の発生を抑制できる原因は明らかではないが、本発明者らは次のように推測する。
まず、放電反応のときには正極側がアルカリ雰囲気になりやすく、電解液中にアルミニウムイオンが存在しない場合、アルカリ性になるとシリカが溶解しやすくなる。シリカが溶解すると、セパレータが収縮してセパレータの厚みが減少するために短絡が生じやすくなると推測される。また、正極の放電反応による水素イオンの消費によりpHが上昇する(pHがアルカリ側にシフトする)と、正極において硫酸鉛の溶解度が上昇し、当該溶解度と、充電時にpHが低下する(pHが酸性側にシフトする)際の硫酸鉛の溶解度との差からセパレータ内部に硫酸鉛の析出物が生じやすくなり、短絡が加速するものと推測される。
一方、本実施形態では、電解液がアルミニウムイオンを含むことにより、放電時にセパレータ内部に水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物が析出する。このように水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物が析出することによりシリカの溶解が抑制されるため、セパレータの厚みを保持することができる。また、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物の析出反応により電解液のpHが上昇すること(pHがアルカリ側にシフトすること)も緩和できるため、硫酸鉛の溶解度の上昇を抑制できる。これらにより、アルミニウムイオンが電解液中に存在することで、短絡を抑制することができると推測される。
電解液のアルミニウムイオン濃度は、短絡の抑制効果に更に優れる観点、及び、充電受け入れ性等の電池特性が更に向上する観点から、電解液の全量を基準として、0.01mol/L以上が好ましく、0.02mol/L以上がより好ましく、0.05mol/L以上が更に好ましい。同様の観点から、電解液のアルミニウムイオン濃度は、0.08mol/L以上であってもよく、0.1mol/L以上であってもよく、0.12mol/L以上であってもよく、0.14mol/L以上であってもよく、0.15mol/L以上であってもよい。電解液のアルミニウムイオン濃度は、短絡の抑制効果に更に優れる観点、及び、充電受け入れ性及びISSサイクル特性が更に向上する観点から、電解液の全量を基準として、0.3mol/L以下が好ましく、0.25mol/L以下がより好ましく、0.2mol/L以下が更に好ましい。これらの観点から、電解液のアルミニウムイオン濃度は、電解液の全量を基準として、0.01〜0.3mol/Lが好ましく、0.02〜0.25mol/Lがより好ましく、0.05〜0.2mol/Lが更に好ましい。同様の観点から、電解液のアルミニウムイオン濃度は、0.08〜0.2mol/Lであってもよく、0.1〜0.2mol/Lであってもよく、0.12〜0.2mol/Lであってもよく、0.14〜0.2mol/Lであってもよく、0.15〜0.2mol/Lであってもよい。電解液のアルミニウムイオン濃度は、例えば、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により測定することができる。
電解液のアルミニウムイオン濃度が前記所定範囲であることにより短絡の抑制効果に更に優れるメカニズムについては、アルミニウムイオンを用いることに関して上述した通りと推測する。充電受け入れ性が向上するメカニズムの詳細については明らかではないが、以下のように推測される。すなわち、アルミニウムイオン濃度が前記所定範囲であると、任意の低SOC下において、放電生成物である結晶性硫酸鉛の電解液中への溶解度が上がるため、又は、アルミニウムイオンの高いイオン伝導性により電解液の電極活物質内部への拡散性が向上するため、充電受け入れ性が向上すると推測される。
電解液は、例えば、アルミニウムイオンと硫酸とを含む。電解液は、アルミニウムイオン以外のイオン(ナトリウムイオン、カリウムイオン、リン酸イオン等)を更に含んでいてもよく、ナトリウムイオンを含むことが好ましい。電解液がナトリウムイオンを含む場合、5時間率容量サイクル特性が更に向上する傾向がある。
鉛蓄電池において、電池容量が早期に低下するPCL(Premature Capacity Loss)と呼ばれる現象がある。これは、集電体と活物質との界面で部分放電が進行して、早期に容量低下してしまう現象である。PCLは、5時間率容量サイクル特性により評価することができる。
電解液がナトリウムイオンを含む場合、ナトリウムイオン濃度は、5時間率容量サイクル特性に更に優れる観点から、電解液の全量を基準として、0.01mol/L以上が好ましく、0.02mol/L以上がより好ましく、0.03mol/L以上が更に好ましい。電解液のナトリウムイオン濃度は、5時間率容量サイクル特性、充電受け入れ性及びISSサイクル特性が更に向上する観点から、電解液の全量を基準として、0.1mol/L以下が好ましく、0.08mol/L以下がより好ましく、0.06mol/L以下が更に好ましい。これらの観点から、ナトリウムイオン濃度は、電解液の全量を基準として、0.01〜0.1mol/Lが好ましく、0.02〜0.08mol/Lがより好ましく、0.03〜0.06mol/Lが更に好ましい。電解液のナトリウムイオン濃度は、例えば、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により測定することができる。
(正極材)
[正極活物質]
正極材は、正極活物質を含有している。正極活物質は、正極活物質の原料を含む正極材ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の正極活物質を得た後に未化成の正極活物質を化成することで得ることができる。化成後の正極活物質は、β−二酸化鉛(β−PbO)を含むことが好ましく、α−二酸化鉛(α−PbO)を更に含んでいてもよい。正極活物質の原料としては、特に制限はなく、例えば鉛粉が挙げられる。鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。正極活物質の原料として鉛丹(Pb)を用いてもよい。未化成の正極材は、主成分として、三塩基性硫酸鉛を含む未化成の正極活物質を含有することが好ましい。
正極活物質の平均粒径は、充電受け入れ性及びサイクル特性が更に向上する観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.7μm以上が更に好ましい。正極活物質の平均粒径は、サイクル特性が更に向上する観点から、2.5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1.5μm以下が更に好ましい。正極活物質の前記平均粒径は、化成後の正極材における正極活物質の平均粒径である。正極活物質の平均粒径は、例えば、化成後の正極中央部の正極材における縦10μm×横10μmの範囲の走査型電子顕微鏡写真(1000倍)の画像内における全ての活物質粒子の長辺長さ(最大粒径)の値を算術平均化した数値として得ることができる。
正極活物質の含有量は、電池特性(容量、低温高率放電性能、充電受け入れ性、ISSサイクル特性等)に更に優れる観点から、正極材の全質量を基準として、95質量%以上が好ましく、97質量%以上がより好ましく、99質量%以上が更に好ましい。正極活物質の含有量の上限は、100質量%以下であってもよい。正極活物質の前記含有量は、化成後の正極材における正極活物質の含有量である。
[正極添加剤]
正極材は、添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、炭素材料(炭素質導電材。炭素繊維を除く)、補強用短繊維等が挙げられる。炭素材料としては、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック(ケッチェンブラック等)、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。補強用短繊維としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等が挙げられる。
[正極材の物性]
正極材の比表面積の下限は、充電受け入れ性に更に優れる観点から、3m/g以上が好ましく、4m/g以上がより好ましく、5m/g以上が更に好ましい。正極材の比表面積の上限は、特に制限はないが、実用的な観点及び利用率に優れる観点から、15m/g以下が好ましく、13m/g以下がより好ましく、12m/g以下が更に好ましい。正極材の前記比表面積は、化成後の正極材の比表面積である。正極材の比表面積は、例えば、正極材ペーストを作製する際の硫酸及び水の添加量を調整する方法、未化成の正極活物質の段階で活物質を微細化させる方法、化成条件を変化させる方法等により調整することができる。
正極材の比表面積は、例えば、BET法で測定することができる。BET法は、一つの分子の大きさが既知の不活性ガス(例えば窒素ガス)を測定試料の表面に吸着させ、その吸着量と不活性ガスの占有面積とから表面積を求める方法であり、比表面積の一般的な測定手法である。具体的には、以下のBET式に基づいて測定する。
下記式(1)の関係式は、P/Pが0.05〜0.35の範囲でよく成立する。なお、式(1)中、各符号の詳細は下記のとおりである。
P:一定温度で吸着平衡状態であるときの吸着平衡圧
:吸着温度における飽和蒸気圧
V:吸着平衡圧Pにおける吸着量
:単分子層吸着量(気体分子が固体表面で単分子層を形成したときの吸着量)
C:BET定数(固体表面と吸着物質との間の相互作用に関するパラメータ)
Figure 0006614273
式(1)を変形する(左辺の分子分母をPで割る)ことにより下記式(2)が得られる。測定に用いる比表面積計では、吸着占有面積が既知のガス分子を試料に吸着させ、その吸着量(V)と相対圧力(P/P)との関係を測定する。測定したVとP/Pより、式(2)の左辺とP/Poをプロットする。ここで、勾配がsであるとすると、式(2)より下記式(3)が導かれる。切片がiであるとすると、切片i及び勾配sは、それぞれ下記式(4)及び下記式(5)のとおりとなる。
Figure 0006614273
Figure 0006614273
Figure 0006614273
Figure 0006614273
式(4)及び式(5)を変形すると、それぞれ下記式(6)及び式(7)が得られ、単分子層吸着量Vを求める下記式(8)が得られる。すなわち、ある相対圧力P/Pにおける吸着量Vを数点測定し、プロットの勾配及び切片を求めると、単分子層吸着量Vが求まる。
Figure 0006614273
Figure 0006614273
Figure 0006614273
試料の全表面積Stotal(m)は、下記式(9)で求められ、比表面積S(m/g)は、全表面積Stotalより下記式(10)で求められる。なお、式(9)中、Nは、アボガドロ数を示し、ACSは、吸着断面積(m)を示し、Mは、分子量を示す。また、式(10)中、wは、サンプル量(g)を示す。
Figure 0006614273
Figure 0006614273
正極材の多孔度は、正極材中の空孔部(孔)に硫酸が入り込む領域が多くなり容量が増加しやすい観点から、50体積%以上が好ましく、55体積%以上がより好ましい。正極材の多孔度の上限に特に制限はないが、正極材中の空孔部への硫酸含浸量が適度あり、活物質同士の結合力を良好に維持できる観点から、70体積%以下が好ましい。多孔度の上限は、実用的な観点から、60体積%以下がより好ましい。正極材の前記多孔度は、化成後の正極材の多孔度である。なお、正極材の多孔度は、例えば、水銀ポロシメーター測定から得られる値(体積基準の割合)である。正極材の多孔度は、例えば、正極材ペーストを作製する際に加える希硫酸量によって調整することができる。
(負極材)
[負極活物質]
負極材は、負極活物質を含有している。負極活物質は、負極活物質の原料を含む負極材ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の負極活物質を得た後に未化成の負極活物質を化成することで得ることができる。化成後の負極活物質としては、海綿状鉛(Spongylead)等が挙げられる。前記海綿状鉛は、電解液中の硫酸と反応して、次第に硫酸鉛(PbSO)に変わる傾向がある。負極活物質の原料としては、鉛粉等が挙げられる。鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。未化成の負極活物質は、例えば、塩基性硫酸鉛及び金属鉛、並びに、低級酸化物から構成される。
負極活物質の平均粒径は、充電受け入れ性及びISSサイクル特性が更に向上する観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.7μm以上が更に好ましい。負極活物質の平均粒径は、ISSサイクル特性が更に向上する観点から、2.5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1.5μm以下が更に好ましい。負極活物質の前記平均粒径は、化成後の負極材における負極活物質の平均粒径である。負極活物質の平均粒径は、例えば、化成後の負極中央部の負極材における縦10μm×横10μmの範囲の走査型電子顕微鏡写真(1000倍)の画像内における全ての活物質粒子の長辺長さ(最大粒径)の値を算術平均化した数値として得ることができる。
負極活物質の含有量は、電池特性(容量、低温高率放電性能、充電受け入れ性、ISSサイクル特性等)に更に優れる観点から、負極材の全質量を基準として、93質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましい。負極活物質の含有量の上限は、100質量%以下であってもよい。負極活物質の前記含有量は、化成後の負極材における負極活物質の含有量である。
[負極添加剤]
負極材は、添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、スルホン基(スルホン酸基、スルホ基)及びスルホン酸塩基(スルホン基の水素原子がアルカリ金属で置換された基等)からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する樹脂(スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂);硫酸バリウム;炭素材料(炭素質導電材。炭素繊維を除く);補強用短繊維などが挙げられる。スルホン基及びスルホン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する樹脂を負極材が含むことにより、充電受け入れ性を更に向上させることができる。
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂としては、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有するビスフェノール系樹脂(以下、単に「ビスフェノール系樹脂」という)、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩等が挙げられる。リグニンスルホン酸は、リグニンの分解物の一部がスルホン化された化合物である。リグニンスルホン酸塩としては、例えば、リグニンスルホン酸カリウム及びリグニンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。これらの中でも、充電受け入れ性が更に向上する観点から、ビスフェノール系樹脂が好ましい。
ビスフェノール系樹脂は、ビスフェノール系化合物と、アミノアルキルスルホン酸、アミノアルキルスルホン酸誘導体、アミノアリールスルホン酸及びアミノアリールスルホン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種と、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種と、を反応させて得られる樹脂であることが好ましい。
ビスフェノール系化合物は、2個のヒドロキシフェニル基を有する化合物である。ビスフェノール系化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」ともいう)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(「ビスフェノールS」ともいう)等が挙げられる。
アミノアルキルスルホン酸としては、アミノメタンスルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸、3−アミノプロパンスルホン酸、2−メチルアミノエタンスルホン酸等が挙げられる。アミノアルキルスルホン酸誘導体としては、アミノアルキルスルホン酸の水素原子がアルキル基(例えば炭素数1〜5のアルキル基)等で置換された化合物、アミノアルキルスルホン酸のスルホン基(−SOH)の水素原子がアルカリ金属(例えばナトリウム又はカリウム)で置換されたアルカリ金属塩などが挙げられる。アミノアリールスルホン酸としては、アミノベンゼンスルホン酸(4−アミノベンゼンスルホン酸等)、アミノナフタレンスルホン酸などが挙げられる。アミノアリールスルホン酸誘導体としては、アミノアリールスルホン酸の水素原子がアルキル基(例えば炭素数1〜5のアルキル基)等で置換された化合物、アミノアリールスルホン酸のスルホン基(−SOH)の水素原子がアルカリ金属(例えばナトリウム又はカリウム)で置換されたアルカリ金属塩などが挙げられる。
ホルムアルデヒド誘導体としては、パラホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン、トリオキサン等が挙げられる。
ビスフェノール系樹脂は、下記式(I)で表される構造単位、及び、下記式(II)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種を有することが好ましい。
Figure 0006614273

[式(I)中、Xは、2価の基を示し、Aは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は、アリーレン基を示し、R11は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R12は、メチロール基(−CHOH)を示し、R13及びR14は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、n11は、1〜600の整数を示し、n12は、1〜3の整数を示し、n13は、0又は1を示す。]
Figure 0006614273

[式(II)中、Xは、2価の基を示し、Aは、炭素数1〜4のアルキレン基、又は、アリーレン基を示し、R21は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R22は、メチロール基(−CHOH)を示し、R23及びR24は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、n21は、1〜600の整数を示し、n22は、1〜3の整数を示し、n23は、0又は1を示す。]
式(I)で表される構造単位、及び、式(II)で表される構造単位の比率は、特に制限はなく、合成条件等によって変化し得る。ビスフェノール系樹脂としては、式(I)で表される構造単位、及び、式(II)で表される構造単位のいずれか一方のみを有する樹脂を用いてもよい。
及びXとしては、例えば、アルキリデン基(メチリデン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、sec−ブチリデン基等)、シクロアルキリデン基(シクロヘキシリデン基等)、フェニルアルキリデン基(ジフェニルメチリデン基、フェニルエチリデン基等)などの有機基;スルホニル基が挙げられ、充電受け入れ性に更に優れる観点からはイソプロピリデン基(−C(CH−)が好ましく、放電特性に更に優れる観点からはスルホニル基(−SO−)が好ましい。X及びXは、フッ素原子等のハロゲン原子により置換されていてもよい。X及びXがシクロアルキリデン基である場合、炭化水素環はアルキル基等により置換されていてもよい。
及びAとしては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素数1〜4のアルキレン基;フェニレン基、ナフチレン基等の2価のアリーレン基が挙げられる。前記アリーレン基は、アルキル基等により置換されていてもよい。
11、R13、R14、R21、R23及びR24のアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム及びカリウムが挙げられる。n11及びn21は、ISSサイクル特性及び溶媒への溶解性に更に優れる観点から、5〜300が好ましい。n12及びn22は、充電受け入れ性、放電特性及びISSサイクル特性がバランス良く向上する観点から、1又は2が好ましく、1がより好ましい。n13及びn23は、製造条件により変化するが、ISSサイクル特性に更に優れると共にビスフェノール系樹脂の保存安定性に優れる観点から、0が好ましい。
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂(ビスフェノール系樹脂等)の重量平均分子量は、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂が鉛蓄電池において電極から電解液に溶出することを抑制することによりISSサイクル特性が向上しやすくなる観点から、3000以上が好ましく、10000以上がより好ましく、20000以上が更に好ましく、30000以上が特に好ましい。スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の重量平均分子量は、電極活物質に対する吸着性が低下して分散性が低下することを抑制することによりISSサイクル特性が向上しやすくなる観点から、200000以下が好ましく、150000以下がより好ましく、100000以下が更に好ましい。
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の重量平均分子量は、例えば、下記条件のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)により測定することができる。(GPC条件)
装置:高速液体クロマトグラフ LC−2200 Plus(日本分光株式会社製)
ポンプ:PU−2080
示差屈折率計:RI−2031
検出器:紫外可視吸光光度計UV−2075(λ:254nm)
カラムオーブン:CO−2065
カラム:TSKgel SuperAW(4000)、TSKgel SuperAW(3000)、TSKgel SuperAW(2500)(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
溶離液:LiBr(10mM)及びトリエチルアミン(200mM)を含有するメタノール溶液
流速:0.6mL/分
分子量標準試料:ポリエチレングリコール(分子量:1.10×10、5.80×10、2.55×10、1.46×10、1.01×10、4.49×10、2.70×10、2.10×10;東ソー株式会社製)、ジエチレングリコール(分子量:1.06×10;キシダ化学株式会社製)、ジブチルヒドロキシトルエン(分子量:2.20×10;キシダ化学株式会社製)
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂を用いる場合、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の含有量は、更に優れた充電受け入れ性を得る観点から、負極材の全質量を基準として、固形分換算で0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の含有量は、更に優れた放電特性を得る観点から、負極材の全質量を基準として、固形分換算で2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。
炭素材料としては、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック(ケッチェンブラック等)、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。補強用短繊維としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等が挙げられる。
[負極材の物性]
負極材の比表面積は、電解液と負極活物質との反応性を高める観点から、0.4m/g以上が好ましく、0.5m/g以上がより好ましく、0.6m/g以上が更に好ましい。負極材の比表面積は、サイクル時の負極の収縮を更に抑制する観点から、2m/g以下が好ましく、1.8m/g以下がより好ましく、1.5m/g以下が更に好ましい。負極材の前記比表面積は、化成後の負極材の比表面積である。負極材の比表面積は、例えば、負極材ペーストを作製する際の硫酸及び水の添加量を調整する方法、未化成の負極活物質の段階で活物質を微細化させる方法及び化成条件を変化させる方法により調整することができる。負極材の比表面積は、例えば、BET法で測定することができる。
(集電体)
集電体の製造法としては、鋳造方式、エキスパンド方式、打ち抜き方式等が挙げられる。集電体の材料としては、例えば、鉛−カルシウム−錫系合金及び鉛−アンチモン系合金が挙げられる。これらにセレン、銀、ビスマス等を微量添加することができる。例えば、これらの材料を上述の製造法で格子状又はメッシュ状に形成することにより集電体を得ることができる。正極及び負極の集電体の材料及び/又は製造法は、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
<鉛蓄電池の製造方法>
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、例えば、電極(正極及び負極)を得る電極製造工程と、前記電極を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池を得る組み立て工程とを備えている。
電極製造工程では、例えば、電極材ペースト(正極材ペースト及び負極材ペースト)を集電体(鋳造方式により得られる鋳造格子体、エキスパンド方式により得られるエキスパンド格子体等)に充填した後に、熟成及び乾燥を行うことにより未化成の電極を得る。正極材ペーストは、例えば、正極活物質の原料(鉛粉等)を含有しており、他の添加剤を更に含有していてもよい。負極材ペーストは、負極活物質の原料(鉛粉等)を含有しており、分散剤として、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂(ビスフェノール系樹脂等)を含有していることが好ましく、他の添加剤を更に含有していてもよい。
正極材を得るための正極材ペーストは、例えば、下記の方法により得ることができる。正極材ペーストを作製するに際しては、化成時間を短縮できる観点から、正極活物質の原料として鉛丹(Pb)を用いてもよい。
まず、正極活物質の原料に添加剤(補強用短繊維等)を添加して乾式混合することにより混合物を得る。そして、この混合物に硫酸(希硫酸等)及び溶媒(イオン交換水等の水、有機溶媒など)を加えて混練することにより正極材ペーストが得られる。
正極材ペーストを集電体に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより未化成の正極を得ることができる。
正極材ペーストにおいて補強用短繊維を用いる場合、補強用短繊維の配合量は、正極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、0.005〜0.3質量%が好ましく、0.05〜0.3質量%がより好ましい。
未化成の正極を得るための熟成条件としては、温度35〜85℃、相対湿度50〜98%RHの雰囲気で15〜60時間が好ましい。乾燥条件は、温度45〜80℃で15〜30時間が好ましい。
負極材ペーストは、例えば、下記の方法により得ることができる。まず、負極活物質の原料に添加剤(スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂、炭素材料、補強用短繊維、硫酸バリウム等)を添加して乾式混合することにより混合物を得る。そして、この混合物に硫酸(希硫酸等)及び溶媒(イオン交換水等の水、有機溶媒など)を加えて混練することにより負極材ペーストが得られる。この負極材ペーストを集電体に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより未化成の負極を得ることができる。
負極材ペーストにおいて、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂(ビスフェノール系樹脂等)、炭素材料、補強用短繊維又は硫酸バリウムを用いる場合、各成分の配合量は下記の範囲が好ましい。スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、樹脂固形分換算で、0.01〜2.0質量%が好ましく、0.05〜1.0質量%がより好ましく、0.1〜0.5質量%が更に好ましく、0.1〜0.3質量%が特に好ましい。炭素材料の配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、0.1〜3質量%が好ましく、0.2〜1.4質量%がより好ましい。補強用短繊維の配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として0.05〜0.3質量%が好ましい。硫酸バリウムの配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、0.01〜2.0質量%が好ましく、0.01〜1.0質量%がより好ましい。
未化成の負極を得るための熟成条件としては、温度45〜65℃、相対湿度70〜98%RHの雰囲気で15〜30時間が好ましい。乾燥条件は、温度45〜60℃で15〜30時間が好ましい。
組み立て工程では、例えば、前記のように作製した未化成の負極及び未化成の正極を、セパレータを介して交互に積層し、同極性の電極の集電部をストラップで連結(溶接等)させて電極群を得る。この電極群を電槽内に配置して未化成の電池を作製する。次に、未化成の電池に電解液を注入した後、直流電流を通電して電槽化成する。化成後の電解液の比重を適切な比重に調整して鉛蓄電池が得られる。
前記電解液は、例えば、硫酸及びアルミニウムイオンを含有しており、硫酸及び硫酸アルミニウム粉末を混合することにより得ることができる。電解液中に溶解させる硫酸アルミニウムは、無水物又は水和物として添加することができる。
電解液(アルミニウムイオンを含む電解液)の化成後の比重は下記の範囲であることが好ましい。電解液の比重は、浸透短絡又は凍結を更に抑制すると共に放電特性に更に優れる観点から、1.25以上が好ましく、1.26以上がより好ましく、1.27以上が更に好ましく、1.275以上が特に好ましい。電解液の比重は、充電受け入れ性及びISSサイクル特性が更に向上する観点から、1.33以下が好ましく、1.32以下がより好ましく、1.31以下が更に好ましく、1.30以下が特に好ましい。電解液の比重の値は、例えば、浮式比重計、又は、京都電子工業株式会社製のデジタル比重計によって測定することができる。
電槽は、内部に電極(極板等)を収納可能なものである。電槽は、電極を収納しやすい観点から、上面が開放された箱体と、この箱体の上面を覆う蓋体とを有するものが好ましい。なお、箱体と蓋体との接着には、接着剤、熱溶着、レーザ溶着、超音波溶着等を適宜用いることができる。電槽の形状としては、特に限定されるものではないが、電極(板状体である極板等)の収納時に無効空間が少なくなるように方形のものが好ましい。
電槽の材料は、特に制限されるものではないが、電解液(希硫酸等)に対し耐性を有するものである必要がある。電槽の材料の具体例としては、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、ABS樹脂等が挙げられる。材料がPPであると、耐酸性、加工性及び経済性の面で有利である。PPは、電槽と蓋の熱溶着が困難であるABS樹脂と比較して加工性の面で有利である。
電槽が箱体及び蓋体により構成される場合、箱体及び蓋体の材料は、互いに同一の材料であってもよく、互いに異なる材料であってもよい。箱体及び蓋体の材料としては、無理な応力が発生しない観点から、熱膨張係数の等しい材料が好ましい。
化成条件及び硫酸の比重は電極活物質の性状に応じて調整することができる。また、化成処理は、組み立て工程後に実施されることに限られず、電極製造工程における熟成及び乾燥後に実施されてもよい(タンク化成)。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
<鉛蓄電池の作製>
(実施例1)
[正極板の作製]
正極活物質の原料として、鉛粉及び鉛丹(Pb)を用いた(鉛粉:鉛丹=96:4(質量比))。この正極活物質の原料と、正極活物質の原料100質量部に対して0.07質量部の補強用短繊維(アクリル繊維)と、水とを混合して混練した。続いて、希硫酸(比重1.280)を少量ずつ添加しながら混練して、正極材ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド格子体(正極集電体)にこの正極材ペーストを充填した。次いで、正極材ペーストが充填された格子体(正極集電体)を温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、乾燥して未化成の正極板を作製した。
[負極板の作製]
負極活物質の原料として鉛粉を用いた。この鉛粉100質量部に対して、ビスパーズP215(ビスフェノール系化合物とアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物、商品名、日本製紙株式会社製)0.2質量部(固形分換算)、補強用短繊維(アクリル繊維)0.1質量部、硫酸バリウム1.0質量部及び炭素材料(ファーネスブラック)0.2質量部を含む混合物を添加し、乾式混合した後、水を加えて混練した。続いて、希硫酸(比重1.280)を少量ずつ添加しながら混練して、負極材ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド格子体(負極集電体)にこの負極材ペーストを充填した。次いで、負極材ペーストが充填された格子体(負極集電体)を温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、乾燥して未化成の負極板を作製した。
[セパレータの準備]
ポリエチレン及びシリカ粒子を含み且つ一方面に複数の線状のリブ及びミニリブが配置されている長尺のシート状物を、リブ及びミニリブが配置されている面が外側に位置するように袋状に加工して、袋状のセパレータを用意した(図1及び図3参照)。リブ及びミニリブのそれぞれは、互いに略平行に配置されており、セパレータの長手方向に延びている。セパレータの短手方向において、リブを含む第1の領域は、ミニリブを含む二つの第2の領域の間に位置している。セパレータの詳細を以下に示す。
・総厚み:0.75mm(ベース部の厚みT:0.2mm、リブの高さH:0.55mm、H/T=2.75)
・リブの間隔:7.35mm、リブの上底幅B:0.4mm、リブの下底幅A:0.8mm
・前記第2の領域のそれぞれにおけるミニリブの数:20本
・シリカ粒子:粒径(最長径)2μm以上のシリカ粒子の数は、セパレータの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で分析した際に任意に選択される30μm×40μmの範囲内において9個であった。
[電池の組み立て]
前記袋状のセパレータに未化成の負極板を収容した。次に、未化成の正極板5枚と、前記袋状のセパレータに収容された未化成の負極板6枚とを、セパレータのリブが正極板に接するようにして交互に積層した。続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で同極性の極板の耳部同士を溶接して極板群を作製した。極板群を電槽に挿入して2V単セル電池(JIS D 5301規定のB19サイズの単セルに相当)を組み立てた。アルミニウムイオン濃度が0.08mol/Lになるように硫酸アルミニウム無水物を溶解させた比重1.23の希硫酸(電解液)をこの電池に注入した。その後、50℃の水槽中で、通電電流10Aで16時間化成し、化成後の電解液の比重を1.280に調整して、実施例1の鉛蓄電池を得た。
[負極材に対する正極材の質量比]
化成後の鉛蓄電池を解体し、正極板、及び、セパレータに収容された負極板を電池から取り出し、さらに、セパレータから負極板を取り出した。正極板及び負極板を1時間水洗した後、50℃で約1日間放置して乾燥させた。その後、乾燥させた正極板及び負極板の化成後の正極材及び化成後の負極材をそれぞれ正極集電体及び負極集電体から除去した。電極材(化成後の正極材及び化成後の負極材)を除去する前後での正極板及び負極板の質量の変化量をそれぞれ正極材及び負極材の質量として求めた。その結果から、負極材に対する正極材の質量比(正極材/負極材)を算出した。結果を表1に示す。
[セパレータ中における酸素及びケイ素の合計量]
まず、イオンミリング装置E−3500(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名)により、電池の組み立て前のセパレータを切断して断面を露出させた。次に、走査型電子顕微鏡(商品名:JSM−6010LA、日本電子株式会社製)を用いてセパレータ断面のEDX分析を行った。倍率300倍でマッピング分析を行い、測定後、セパレータ部分を選択して炭素、酸素及びケイ素の存在量を定量し、各元素の質量へ換算した。得られた炭素、酸素及びケイ素の質量の合計を基準として、セパレータ中における酸素及びケイ素の質量の合計量(質量%)を計算した。なお、マッピング分析の条件は、加速電圧が15kV、スポットサイズが72、低真空モードで圧力が35Pa、ドゥエルタイムが1ミリ秒、プロセスタイムがT4、画素数が512×384、積算回数を5回とした。各元素の定量結果を表1に示す。
[比表面積の測定]
比表面積の測定試料は、下記の手順により作製した。まず、化成した電池を解体して電極板(正極板及び負極板)を取り出し、水洗した後、50℃で24時間乾燥した。次に、前記電極板の中央部から電極材(正極材及び負極材)を2g採取して、130℃で30分乾燥して測定試料を作製した。
化成後の正極材及び負極材の比表面積は、前記で作製された測定試料を液体窒素で冷却しながら液体窒素温度で窒素ガス吸着量を多点法で測定し、BET法に従って算出した。測定条件は下記のとおりであった。このようにして測定した結果、正極材の比表面積は5m/gであり、負極材の比表面積は0.6m/gであった。
{比表面積の測定条件}
装置:HM−2201FS(Macsorb社製)
脱気時間:130℃で10分
冷却:液体窒素で4分
吸着ガス流量:25mL/分
(実施例2及び3)
電解液として、アルミニウムイオン濃度が表1に示す値になるように調製した比重1.280(化成後)の希硫酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2及び3の鉛蓄電池を作製した。
(実施例4〜6)
化成後の負極材に対する化成後の正極材の質量比(正極材/負極材)が表1に示す値となるように正極材及び負極材の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4〜6の鉛蓄電池を作製した。
(実施例7)
電解液として、アルミニウムイオン濃度及びナトリウムイオン濃度が表1に示す値となるように硫酸アルミニウム無水物及び硫酸ナトリウムを溶解させた比重1.280(化成後)の希硫酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7の鉛蓄電池を作製した。
(比較例1)
電解液として、アルミニウムイオンを含まない比重1.280(化成後)の希硫酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の鉛蓄電池を作製した。
(比較例2)
化成後の負極材に対する化成後の正極材の質量比(正極材/負極材)が0.95となるように正極材及び負極材の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の鉛蓄電池を作製した。
<電池特性の評価>
実施例及び比較例で得られた鉛蓄電池について、5時間率容量サイクル特性、低温高率放電性能、充電受け入れ性、浸透短絡の抑制効果及びISSサイクル特性を下記のとおり評価した。結果を表1に示す。なお、表1中の「−」は、硫酸アルミニウム又は硫酸ナトリウムを配合しなかったことを意味する。
(5時間率容量サイクル特性)
作製した鉛蓄電池を、雰囲気温度25℃において、5.6Aで定電流放電し、セル電圧が1.75Vを下回るまでの放電持続時間から5時間率放電容量を算出した。その後、5時間率充電容量が5時間率放電容量に対して150%になるまで5.6Aで定電流充電した。次いで、セル電圧が1.75Vになるまで5.6Aで定電流放電した。前記充電と放電を繰り返した。初期の5時間率放電容量に対して、得られる5時間率放電容量が50%を下回ったときを寿命として、そのときのサイクル数を測定した。5時間率容量サイクル特性は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
(低温高率放電性能)
作製した鉛蓄電池を、雰囲気温度−15℃において、150Aで定電流放電し、セル電圧が1.0Vを下回るまでの放電持続時間を測定した。低温高率放電性能は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
(充電受け入れ性)
作製した鉛蓄電池を、雰囲気温度25℃において、5.6Aで30分間定電流放電し、6時間放置した。その後、鉛蓄電池を、100Aの制限電流の下、2.33Vで60秒間定電圧充電し、充電開始から5秒目の電流値を測定した。充電受け入れ性は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
(浸透短絡抑制効果)
作製した鉛蓄電池を、雰囲気温度25℃において、1.4Aで定電流放電した。次に、セル電圧が1.75Vに至るまで放電した後、鉛蓄電池を、雰囲気温度40℃で、10Wのランプに接続して5日間過放電状態で放置した。その後、雰囲気温度25℃で25Aの制限電流の下、セル電圧2.33Vで8時間充電した。前記の放電と充電を繰り返して、充電時に電流のふらつき(0.3A以上の電流変動)又は末期電流(充電開始から約8時間後における電流)の高止まり(3A以上)が生じた時点を短絡と判断し、短絡までの繰り返し回数を測定した。浸透短絡の抑制効果は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
(ISSサイクル特性)
作製した鉛蓄電池に対し、雰囲気温度25℃において、45A−59秒間、300A−1秒間の定電流放電を行った後、100A−2.33V−60秒間の定電流・定電圧充電を行うことを1サイクルとする試験を行った。この試験はISS車での鉛蓄電池の使われ方を模擬したサイクル試験である。このサイクル試験では、放電量に対して充電量が少ないため、充電が完全に行われないと徐々に充電不足になる。その結果、放電電流を300Aとして1秒間放電した時の1秒目電圧が徐々に低下する。すなわち、定電流・定電圧充電時に負極が分極して早期に定電圧充電に切り替わると、充電電流が減衰して充電不足になる。このサイクル試験では、300A放電時の1秒目電圧を測定し、この1秒目電圧が1.2Vを下回ったときのサイクル数をISSサイクル特性とした。ISSサイクル特性は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
Figure 0006614273
表1に示した結果から明らかなように、実施例1〜7の鉛蓄電池は、浸透短絡の評価結果が比較例1及び2の鉛蓄電池よりも優れることが確認された。実施例1〜7の鉛蓄電池は、化成後の負極材に対する化成後の正極材の質量比が1.05以上であるため、当該質量比が前記条件を満たさない比較例2の鉛蓄電池に比べ、過放電状態のときの電解液比重の低下が小さく、硫酸鉛の溶解度の上昇を抑制できることで、浸透短絡を抑制する効果に優れたものと推測される。一方、化成後の負極材に対する化成後の正極材の質量比が1.05以上であるものの、電解液がアルミニウムイオンを含まない比較例1の鉛蓄電池では、実施例1〜7の鉛蓄電池に比べ、浸透短絡の評価結果が劣ることが確認された。
10,20…セパレータ、10a…一方面、10b…他方面、11…ベース部、12…リブ、13…ミニリブ、14,14a,14b…電極、22…メカニカルシール部、A…リブの下底幅、B…リブの上底幅、H…リブの高さ、T…ベース部の厚み。

Claims (7)

  1. セパレータを介して対向する正極及び負極と、電解液と、を備え、
    前記セパレータがポリオレフィン及びシリカを含み、
    前記正極が、正極集電体と、当該正極集電体に保持された正極材と、を有し、
    前記負極が、負極集電体と、当該負極集電体に保持された負極材と、を有し、
    前記電解液がアルミニウムイオンを含み、
    化成後の前記負極材に対する化成後の前記正極材の質量比が1.05以上であり、
    前記正極材の比表面積が3m /g以上である、鉛蓄電池。
  2. セパレータを介して対向する正極及び負極と、電解液と、を備え、
    前記セパレータがポリオレフィン及びシリカを含み、
    前記正極が、正極集電体と、当該正極集電体に保持された正極材と、を有し、
    前記負極が、負極集電体と、当該負極集電体に保持された負極材と、を有し、
    前記電解液がアルミニウムイオンを含み、
    化成後の前記負極材に対する化成後の前記正極材の質量比が1.05以上であり、
    前記正極材の多孔度が70体積%以下である、鉛蓄電池。
  3. セパレータを介して対向する正極及び負極と、電解液と、を備え、
    前記セパレータがポリオレフィン及びシリカを含み、
    前記正極が、正極集電体と、当該正極集電体に保持された正極材と、を有し、
    前記負極が、負極集電体と、当該負極集電体に保持された負極材と、を有し、
    前記電解液がアルミニウムイオンを含み、
    化成後の前記負極材に対する化成後の前記正極材の質量比が1.05以上であり、
    前記負極材の比表面積が0.4m /g以上である、鉛蓄電池。
  4. セパレータを介して対向する正極及び負極と、電解液と、を備え、
    前記セパレータがポリオレフィン及びシリカを含み、
    前記正極が、正極集電体と、当該正極集電体に保持された正極材と、を有し、
    前記負極が、負極集電体と、当該負極集電体に保持された負極材と、を有し、
    前記電解液がアルミニウムイオン及びナトリウムイオンを含み、
    化成後の前記負極材に対する化成後の前記正極材の質量比が1.05以上である、鉛蓄電池。
  5. 化成後の前記負極材に対する化成後の前記正極材の質量比が1.05〜1.40である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
  6. 前記セパレータが、第1のリブと、第2のリブと、ベース部と、を有する長尺のシート状物を、前記第1のリブ及び前記第2のリブが配置されている面が外側に位置するように袋状に加工して得られた袋状のセパレータであり、
    前記ベース部が、前記第1のリブ及び前記第2のリブを支持しており、
    前記第1のリブ及び前記第2のリブが、前記シート状物の長手方向に延びており、
    前記シート状物の短手方向における両端部のそれぞれが前記第2のリブを含み、
    前記両端部の間の領域が前記第1のリブを含み、
    前記負極が前記袋状のセパレータに収容されている、請求項1〜のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
  7. 前記電解液における前記アルミニウムイオンの濃度が0.01〜0.3mol/Lである、請求項1〜のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
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