以下、本発明の造粒粉末および造粒粉末の製造方法を、添付図面に基づく好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<造粒粉末>
まず、本発明の造粒粉末の実施形態について説明する。
図1は、本発明の造粒粉末の実施形態に含まれる1つの造粒粒子を示す断面図である。
図1に示す造粒粒子1は、複数個の金属粒子51を含んでおり、金属粒子51同士の間に有機バインダー52が介在することで、全体として球形状にまとまっている。
図1に示す造粒粒子1において、有機バインダー52は金属粒子51同士の間に介在するとともに、各金属粒子51の表面の少なくとも一部を覆うように存在している。これにより、各金属粒子51は、有機バインダー52のマトリックス中に分散した状態になっている。
この有機バインダー52は、第1成分としてポリビニルアルコールを含み、第2成分としてウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびアクリル系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。
このような有機バインダー52を有することにより、造粒粒子1は、流動性の高いものとなる。これは、第1成分と第2成分とを併用することにより、造粒粒子1の機械的強度が最適化されるとともに、有機バインダー52の吸湿性が低くなる。これにより、有機バインダー52の吸湿に伴って造粒粒子の表面の摩擦係数や転がり抵抗が増大してしまうのを抑制することができる。その結果、造粒粒子1が高湿度な環境に置かれた場合であっても、造粒粒子1の流動性の低下を抑制することができる。
具体的には、JIS Z 2502に規定の金属粉の流動性試験方法に準じて測定された本発明の造粒粉末の流動度は、金属粉末としてFe基合金粉末を用いた場合、35[sec/50g]以下であるのが好ましく、32[sec/50g]以下であるのがより好ましく、29[sec/50g]以下であるのがさらに好ましい。このような流動度を有する造粒粉末は、仮に成形型に狭小部分および一部に深い部分があったとしても、この当該部分に隙間なく流動し、成形型を確実に充填することができる。その結果、希望通りの寸法でかつ均質で高密度の焼結体が得られる。
なお、造粒粉末の流動度は、以下のようにして測定される。
まず、測定用に校正された漏斗を用意し、漏斗のオリフィスを塞いだ状態で、漏斗内に測定対象の造粒粉末50gを入れる。
次いで、オリフィスを開けると同時に計時を開始する、そして、最後の造粒粉末がオリフィスを離れる瞬間に計時を終了する。
次いで、漏斗に設定された補正係数を、造粒粉末の落下に要した時間の平均値に乗じて、流動度の測定値とする。
以上のようにして流動度が測定される。
また、本発明の造粒粉末の各粒子形状は、流動性および充填性に大きな影響を及ぼす。かかる観点から、造粒粉末の各粒子形状は、真球に近い形状であるのが好ましい。
また、造粒粒子1自体の機械的強度が最適化されることによって、造粒粒子1には可塑性が付与されることとなる。このため、成形時に造粒粒子1が適度に押しつぶされることによって、圧密化されるため、得られる成形体には、高い保形性と緻密性とが付与される。その結果、緻密で寸法精度の高い焼結体を得ることができる。
また、このような有機バインダー52を有することにより、造粒粒子1は、見掛密度が高いものとなる。これは、第1成分と第2成分とを併用することにより、吸湿による有機バインダー52の膨潤等が抑えられるため、緻密な造粒粒子1を得ることができる。その結果、多数の造粒粒子1を容器内に充填したとき、造粒粒子1の充填性、すなわち見掛密度が高くなる。換言すれば、主に結着性が大きい第1成分と主に耐吸湿性が大きい第2成分とが併用されることで、有機バインダー52の使用量を抑えつつ、金属粒子51同士を強く結着することができるので、造粒粒子1の見掛密度を高くすることができる。その結果、造粒粒子1は、成形性に優れる、すなわち、成形型への充填量が安定するため、成形体の寸法精度を高めることに寄与する。これにより、成形型への充填ムラが抑えられ、緻密で寸法精度の高い焼結体を製造することができる。
したがって、本発明の造粒粉末によれば、それが置かれる環境の天候、季節、場所等による造粒粒子1の特性変化を抑制し、環境によらず優れた成形性を示すため、緻密で寸法精度の高い成形体および焼結体を製造することができる。
また、金属粒子51と水分との接触機会が抑制されることにもなるので、金属粒子51が酸化するのを抑制し(耐候性を向上させ)、金属粒子51の変性による焼結性の低下、機械的特性の低下といった不具合の発生を抑制することができる。
このような造粒粒子1の用途は、特に限定されないが、例えば、当該造粒粉末を成形してなる成形体の製造、特に、焼結体製造用の成形体の製造に好適に用いられる。
以下、金属粒子51および有機バインダー52についてそれぞれ詳述する。
(金属粒子)
本発明の造粒粉末に含まれる金属粒子51としては、特に限定されず、いかなる種類の金属粒子51であってもよい。金属粒子51の構成材料としては、粉末冶金に供される焼結可能な金属材料が挙げられ、例えば、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Ta、W等の金属の単体、またはこれらの少なくとも1種を含む合金が挙げられる。
また、金属粒子51を含む金属粉末は、互いに組成が異なる2種類以上の粉末を混合してなる混合粉末であってもよく、金属粉末とセラミック粉末との混合粉末であってもよい。
このうち、Fe系合金としては、例えば、ステンレス鋼、低炭素鋼、炭素鋼、耐熱鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、Fe−Ni合金、Fe−Ni−Co合金等が挙げられる。
また、Ni系合金としては、例えば、Ni−Cr−Fe系合金、Ni−Cr−Mo系合金、Ni−Fe系合金等が挙げられる。
また、Co系合金としては、例えば、Co−Cr系合金、Co−Cr−Mo系合金、Co−Al−W系合金等が挙げられる。
また、Ti系合金としては、例えば、Tiと、Al、V、Nb、Zr、Ta、Mo等の金属元素との合金が挙げられ、具体的には、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−7Nb等が挙げられる。
また、Al系合金としては、例えば、ジュラルミン等が挙げられる。
また、セラミック粉末を構成するセラミックス材料としては、例えば、アルミナ、マグネシア、ベリリア、ジルコニア、イットリア、フォルステライト、ステアタイト、ワラステナイト、ムライト、コージライト、フェライト、サイアロン、酸化セリウムのような酸化物系セラミックス材料、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのような非酸化物系セラミックス材料等が挙げられる。
また、金属粉末の平均粒径は、好ましくは1μm以上30μm以下、より好ましくは2μm以上20μm以下とされ、さらに好ましくは3μm以上10μm以下とされる。このような粒径の金属粉末は、成形時の圧縮性の低下を避けつつ、造粒粉末の流動性が十分に高くなるため、最終的に十分に緻密な焼結体を製造可能なものとなる。
なお、平均粒径が前記下限値未満である場合、造粒前において金属粉末が凝集し易くなり、造粒粉末の粒子間において金属粉末の含有量にばらつきが生じたり、成形時の圧縮性が著しく低下したりするおそれがある。一方、平均粒径が前記上限値を超える場合、成形した際に、造粒粉末の粒子間の隙間が大きくなり過ぎて、最終的に得られる焼結体の緻密化が不十分になるおそれがある。
また、金属粉末の平均粒径とは、レーザー回折法により得られた粒度分布において、質量基準の粒度の累積が小径側から50%のときの粒径のことである。
また、金属粉末の最大粒径は、10μm以上100μm以下程度であるのが好ましく、10μm以上50μm以下程度であるのがより好ましい。このような最大粒径を有する金属粉末を用いることにより、造粒粉末を成形する際の造粒粉末の流動性を特に高めることができる。その結果、最終的に、寸法精度が高く、かつ、機械的特性に優れた焼結体を製造することができる。すなわち、金属粉末の最大粒径は、造粒粉末の流動性に大きな影響を及ぼすとともに、成形時には金属粉末の充填性にも大きな影響を及ぼす。したがって、最大粒径を前記範囲内に設定することにより、最終的に、寸法精度が高く、かつ、機械的特性に優れた焼結体を得ることができる。
なお、金属粉末の最大粒径とは、レーザー回折法により得られた粒度分布において、質量基準の粒度の累積が小径側から99.9%のときの粒径のことである。
さらに、金属粉末の平均粒径をD50とし、金属粉末についてレーザー回折法により得られた粒度分布において質量基準の粒度の累積が小径側から10%のときの粒径をD10とし、同様に小径側から90%のときの粒径をD90としたとき、(D90−D10)/D50は、0.5以上5以下であるのが好ましく、1.0以上3.5以下であるのがより好ましい。このような条件を満足する金属粉末は、造粒粉末の形状をより真球に近づけることを可能にする。このため、得られる造粒粉末はとりわけ流動性の高いものとなり、最終的に得られる焼結体の寸法精度と機械的特性とが特に良好になる。また、粒度分布が最適化されているため、成形時の密度のばらつきが抑えられ、成形時の残留応力のばらつきも小さく抑えられる。その結果、応力解放に伴う成形体の変形量が抑えられ、最終的に焼結体の寸法精度が特に良好になる。
このような金属粉末は、いかなる方法で製造されたものでもよいが、例えば、アトマイズ法(水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法等)、還元法、カルボニル法、粉砕法等の方法により製造されたものを用いることができる。
このうち、金属粉末には、アトマイズ法により製造されたものを用いるのが好ましい。アトマイズ法によれば、前記したような極めて微小な平均粒径の金属粉末を効率よく製造することができる。また、粒径のばらつきが少なく、粒径の揃った金属粉末を得ることができる。したがって、このような金属粉末を用いることにより、焼結体における気孔の生成を防止することができ、密度の向上を図ることができる。
また、アトマイズ法で製造された金属粉末は、比較的真球に近い球形状をなしているため、成形時の充填性に優れるとともに、有機バインダーに対する分散性に優れたものとなる。このため、造粒粉末を成形型に充填して成形する際に、その充填性および均一性を高めることができ、最終的により緻密な焼結体を得ることができる。
(有機バインダー)
本発明の造粒粉末に含まれる有機バインダー52は、第1成分と第2成分とを含んでいる。
−第1成分−
このうち、第1成分は、ポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコールは、結着性が高いため、比較的少量であっても効率よく造粒粉末を形成することができる。また、熱分解性も高いことから、脱脂および焼成の際に、短時間で確実に分解、除去することが可能になる。
また、ポリビニルアルコールのけん化度は、特に限定されないが、90モル%以上99モル%以下であるのが好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度が前記範囲内であることにより、第2成分の組成にもよるが、第1成分と第2成分とをより均一に混合することができる。その結果、有機バインダー52の一部の吸湿性が低いという状態が生じ難くなり、この部分が原因となって造粒粒子1の流動性が低下することが抑制される。また、粒子間の特性のばらつきが抑えられるため、特性の揃った造粒粒子1が得られる。
さらに、有機バインダー52に対して、適度な水溶性が付与されるため、それに基づいて金属粒子51同士を結着する結着力も十分に高くなる。このため、粒子形状を維持し得る造粒粒子1が得られる。このような造粒粒子1は、それが成形されて成形体となったとき、成形体の保形性を高めるようにも作用する。したがって、ポリビニルアルコールのけん化度を前記範囲内にすることで、機械的強度の高い成形体を得ることができ、ひいては、寸法精度の高い焼結体を得ることができる。
なお、ポリビニルアルコールのけん化度が前記下限値を下回ると、第2成分の組成によっては、金属粒子51に対する結着力が低下して、造粒粒子1の流動性が低下したりするおそれがある。一方、ポリビニルアルコールのけん化度が前記上限値を上回ると、第2成分の組成によっては、第2成分と均一に混合し難くなるおそれがある。
一方、ポリビニルアルコールの重合度は、特に限定されないが、300以上3000以下であるのが好ましく、500以上2500以下であるのがより好ましい。ポリビニルアルコールの重合度が前記範囲内であることにより、第2成分の組成にもよるが、第1成分と第2成分とをより均一に混合することができる。また、有機バインダー52に対して、適度な水溶性が付与されるため、それに基づいて金属粒子51同士が十分な結着力で結着された造粒粒子1が得られる。
なお、ポリビニルアルコールは、吸湿性を有している。この吸湿性は、有機バインダー52に対して適度な粘性を付与するため、金属粒子51同士を結着する結着力を生み出す要素の1つである。このため、第1成分を添加することによって有機バインダー52の結着力を十分に確保することができる。
−第2成分−
一方、第2成分は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびアクリル系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種である。これらの成分は、疎水性が高く、吸湿性が低いため、第1成分の吸湿を抑制し、結果的に有機バインダー52の吸湿を抑制する。その結果、造粒粒子1が高湿度な環境に置かれた場合であっても、造粒粒子1の流動性の低下を抑制することができる。したがって、本発明の造粒粉末によれば、環境によらず優れた特性の焼結体を製造することができる。
また、第2成分は、油溶性または油分散性を有するものであってもよいが、好ましくは水溶性または水分散性を有するものとされる。このような第2成分は、造粒粒子1を製造する際に懸濁液の状態で供給されるが、この際、水系の懸濁液を用いることを可能にする。これにより、懸濁液自体および造粒工程の安全性が高くなり、造粒装置の構造の簡素化を図ることもできる。
さらに、第2成分が水溶性または水分散性を有していることにより、同様に水溶性を有している第1成分と第2成分との相溶性が高くなる。このため、有機バインダー52は、より均質なものとなり、十分な結着力を発現させるとともに、緻密で流動性の高い造粒粒子1を得ることができる。
また、第2成分の吸湿率は、第1成分の吸湿率よりも低ければよいが、第1成分の吸湿率の50%以下であるのが好ましく、1%以上40%以下であるのがより好ましい。これにより、第1成分と第2成分の双方を含む有機バインダー52は、主に第1成分によって生み出される結着力と、主に第2成分によって生み出される耐吸湿性と、を併せ持つものとなる。したがって、かかる有機バインダー52を用いて得られた造粒粒子1は、十分な流動性を有するとともに、高い可塑性を有するものとなる。このような造粒粒子1は、成形型に充填されたとき、その充填量が安定するため、成形体の寸法精度を高めることに寄与する。これにより、成形型への充填ムラが抑えられ、緻密で寸法精度の高い成形体を形成することを可能にする。また、得られた成形体は、保形性の高いものとなる。したがって、最終的には、緻密で寸法精度の高い焼結体を得ることができる。
また、第2成分の吸湿率は、0.03質量%以下であるのが好ましく、0.02質量%以下であるのがより好ましい。これにより、第1成分と第2成分の双方を含む有機バインダー52は、十分な耐吸湿性を有するものとなり、環境によらず優れた成形性を有する造粒粒子1が得られる。
なお、第2成分の吸湿率の下限値は、特に設定されないが、第2成分の吸湿率が親水性基に関連すると考えられること、および、第2成分に含まれる親水性基が第1成分や金属粒子51との相溶性に関連すると考えられること等を考慮すれば、0.001質量%以上であるのが好ましい。これにより、有機バインダー52に対して十分な耐吸湿性を付与しつつ、第1成分と第2成分との相溶性がある程度確保され、均質な有機バインダー52が得られる。
なお、第1成分および第2成分の各吸湿率は、各成分の溶液を基板上に塗布し、乾燥させてフィルム化した後、このフィルムの吸湿量の割合として求められる。
具体的には、質量が既知の基板上に溶液を滴下し、十分に乾燥させてフィルム化する。次いで、得られたフィルムを加湿環境下に置き、所定の時間ごとにフィルムの質量を測定し、質量の増加分を算出する。この質量の増加分をフィルムの乾燥質量で除することにより、その時間での吸湿率を算出することができる。
第1成分および第2成分の各吸湿率を測定する際の加湿環境は、塩化ナトリウム水溶液を用い、飽和塩法によって得られた温度23℃、相対湿度75%の環境である。また、吸湿時間(吸湿開始から質量測定までの時間)は120分とする。
また、有機バインダー52における第2成分の含有量は、固形分の質量比で、第1成分の含有量の0.3倍以上10倍以下であるのが好ましく、1倍超8倍以下であるのがより好ましい。これにより、有機バインダー52は、主に第1成分によって生み出される結着力と、主に第2成分によって生み出される耐吸湿性と、を併せ持つものとなる。したがって、かかる有機バインダー52を用いて得られた造粒粒子1は、十分な流動性と高い可塑性とを有し、成形性に優れたものとなる。
特に、第2成分の含有量を第1成分の含有量の1倍超とすることにより、前述した結着力と耐吸湿性とのバランスが特に良好になる。
また、第2成分は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびアクリル系樹脂よりなる群から選択される2種以上を含むことが好ましい。第2成分として2種以上の樹脂を併用することにより、第1成分と第2成分の混合状態をより均一化することができる。これにより、有機バインダー52がより均質になり、十分な流動性と高い可塑性とを有する造粒粒子1が得られる。
加えて、主に第1成分によって生み出される結着力と、主に第2成分によって生み出される耐吸湿性とが、より高いバランスを維持することができる。すなわち、第1成分に比べて第2成分の含有量を多くした場合でも、有機バインダー52の結着力を損なうことなく、複数種の第2成分が相乗的に作用して耐吸湿性を特に高めることが可能になるので、例えば造粒粉末の粉末特性を損なうことなく有機バインダー52の総量を減らすことができ、見掛密度を高めることができる。
なお、第2成分として2種以上の樹脂を併用する場合には、少なくともウレタン系樹脂を含むことが好ましく、第2成分中においてウレタン系樹脂が主成分であることがより好ましい。これにより、結着力と耐吸湿性とのバランスを特に高めることができる。加えて、造粒粒子1に高い可塑性が付与されるため、製造される成形体の充填性および保形性が高くなる。このため、最終的に、緻密で寸法精度の高い焼結体を得ることができる。
・ウレタン系樹脂
第2成分のうち、ウレタン系樹脂としては、主鎖の繰り返し単位中にウレタン結合を含む重合体であればいかなるものでもよいが、好ましくは、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールのようなポリオール化合物と、ポリイソシアネートと、を反応させてなる水分散型ウレタン系樹脂またはその変性物が挙げられる。
なお、ウレタン系樹脂は、上述したようにポリオール化合物とポリイソシアネートの反応生成物であることから、比較的凝集力の弱いポリオール成分で構成されるソフトセグメントと、比較的凝集力の強いウレタン結合やウレア結合で構成されるハードセグメントと、を備える構造を有している。このため、ウレタン系樹脂は、主にハードセグメントに基づいて金属粒子51同士を結着する結着力を顕著に発現させ、造粒粒子1の流動性を確保するとともに、主にソフトセグメントに基づいて造粒粒子1の可塑性を発現させる。これにより、特に成形性に優れた造粒粒子1が得られる。
ポリオール化合物としては、例えば、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール等が挙げられる。
このうち、ポリエステル系ポリオールとしては、例えば、縮合型ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、ヒマシ油系ポリオール等が挙げられる。
縮合型ポリエステルポリオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンイソフタレートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール、ポリ(3−メチルペンチレンアジペート)ジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリネオペンチルテレフタレートジオール等が挙げられる。
ポリラクトンポリオールの具体例としては、例えばポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール等が挙げられる。
ヒマシ油系ポリオールの具体例としては、ヒマシ油、トリメチロールプロパン変性ヒマシ油、ペンタエリスリトール変性ヒマシ油、ヒマシ油のEO(4〜30モル)付加物等が挙げられる。
一方、ポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール及びポリ(テトラメチレン/ヘキサメチレン)カーボネートジオール(例えば1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールをジアルキルカーボネートと脱アルコール反応させながら縮合させて得られるジオール)等が挙げられる。
また、ポリエーテル系ポリオールとしては、例えば、脂肪族ポリエーテルポリオール、芳香族環含有ポリエーテルポリオール等が挙げられる。
脂肪族ポリエーテルポリオールの具体例としては、ポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシエチレン/プロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
芳香族環含有ポリエーテルポリオールの具体例としては、ビスフェノールAのEO2モル付加物、ビスフェノールAのEO4モル付加物、ビスフェノールAのEO6モル付加物、ビスフェノールAのEO8モル付加物、ビスフェノールAのEO10モル付加物、ビスフェノールAのEO20モル付加物のようなビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのPO2モル付加物、ビスフェノールAのPO3モル付加物、ビスフェノールAのPO5モル付加物のようなビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
また、ウレタン系樹脂に水溶性または水分散性を付与するためには、界面活性剤を併用するようにしてもよいが、ウレタン系樹脂中に親水性基を導入するのが好ましい。これにより、ウレタン系樹脂は、第1成分や金属粒子51に対して密着性が高くなり、成形性に優れた造粒粒子1を製造可能な有機バインダー52を得ることができる。また、ウレタン系樹脂は、自己乳化型となり、造粒後に密着性や耐吸湿性が低下するのを抑制することができる。
導入される親水性基としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基のようなアニオン性基、4級アンモニウムのようなカチオン性基、非イオン性基等が挙げられる。
また、これらの親水性基を導入する方法としては、例えば、これらの親水性基を含む原材料を用いてウレタン系樹脂を製造する方法が挙げられる。具体的には、ポリオール化合物を合成するための自オール化合物として、親水性基を1個または2個含むジオール化合物を用いるようにすればよい。
親水性基導入後のウレタン系樹脂の親水性基官能基価は、特に限定されないが、0.1[meq/g]以上3[meq/g]以下であるのが好ましい。これにより、ウレタン系樹脂は、ポリビニルアルコールや金属粒子51との相溶性に富んだものとなる。このため、とりわけ成形性に優れた造粒粒子1が得られる。
・ポリエステル系樹脂
また、ポリエステル系樹脂としては、主鎖の繰り返し単位中にエステル結合を含む重合体であればいかなるものでもよいが、好ましくは、多価カルボン酸と多価アルコールとを反応させてなる飽和ポリエステル系樹脂またはその変性物が挙げられる。このような飽和ポリエステル系樹脂またはその変性物は、不飽和ポリエステル系樹脂に比べて二重結合の含有率が非常に小さいため、有機バインダー52の耐候性をより高めるように寄与する。
また、ポリエステル系樹脂は、分子末端に水酸基またはカルボキシル基を含んでいることが好ましい。このようなポリエステル系樹脂は、第1成分と特になじみ易いため、有機バインダー52中において第1成分と第2成分とをより均一に混ぜ合わせることを可能にする。その結果、均質な有機バインダー52が得られるため、造粒不良が発生し難くなり、均質な造粒粉末が得られる。このような造粒粉末は、成形型に充填される際、充填性および均一性をより高めることができる。
このうち、多価カルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,3−ジカルボン酸のような芳香族多価カルボン酸、コハク酸、アジピン酸のような脂肪族飽和多価カルボン酸等が挙げられる。これらのうち、多価カルボン酸としては、特にナフタレン骨格を含むものが好ましく用いられる。このような多価カルボン酸を用いることにより、ポリエステル系樹脂には接着性が付与されるので、ポリビニルアルコールだけでなく、第2成分に由来する大きな結着力が得られる。
一方、多価アルコールとしては、例えば、グリコール類、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
また、ポリエステル系樹脂に水溶性または水分散性を付与するためには、界面活性剤を併用するようにしてもよいが、ポリエステル系樹脂中に親水性基を導入するのが好ましい。これにより、ポリエステル系樹脂は、第1成分や金属粒子51に対して密着性が高くなり、成形性に優れた造粒粒子1を製造可能な有機バインダー52を得ることができる。
導入される親水性基としては、例えば、スルホン酸金属塩基、カルボン酸基、リン酸基等が挙げられる。
このうち、スルホン酸金属塩基を導入する方法としては、例えば、スルホン酸金属塩基を含有する多価カルボン酸または多価アルコールをポリエステル系樹脂の重合時に共重合させることが挙げられる。
このとき、使用するモノマー中において、親水性基を含むモノマーの割合は、0.5モル%以上60モル%以下程度であるのが好ましく、1モル%以上50モル%以下程度であるのがより好ましい。これにより、ポリエステル系樹脂は、ポリビニルアルコールや金属粒子51との相溶性に富んだものとなる。このため、とりわけ成形性に優れた造粒粒子1が得られる。
また、カルボン酸基を導入する方法としては、例えば、ポリエステル系樹脂を重合した後に、常圧、窒素雰囲気下で多価カルボン酸無水物を後付加して酸価を付与する方法や、ポリエステルを高分子量化する前のオリゴマー状態のものに多価カルボン酸無水物を投入し、次いで減圧下の重縮合反応により高分子量化することで酸価を付与する方法等が挙げられる。
・アクリル系樹脂
また、アクリル系樹脂(アクリル樹脂またはメタクリル樹脂のいずれかであることを示す。以下において同じ。)としては、モノマーとしてアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを含む重合体であればいかなるものでもよいが、好ましくは、これらのアクリル系モノマーとこのアクリル系モノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
アクリル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートのようなアルキル基含有(メタ)アクリル系モノマー、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのような水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリル酸のようなエチレン性不飽和カルボン酸、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートのようなアミノ基含有(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミドのようなアミド含有(メタ)アクリル系モノマー、アクリロニトリルのようなニトリル基含有(メタ)アクリル系モノマー、グリシジル(メタ)アクリレートのようなエポキシ基含有(メタ)アクリル系モノマー等が挙げられる。
一方、アクリル系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエンのような芳香族炭化水素系ビニル単量体、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸のようなα,β−エチレン性不飽和カルボン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸のようなスルホン酸含有ビニル単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸のような酸無水物、塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレンのような塩素含有単量体、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテルのような水酸基含有アルキルビニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテルジエチレングリコールモノアリルエーテルのようなアルキレングリコールモノアリルエーテル、エチレン、プロピレン、イソブチレンのようなα−オレフィン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニルのようなビニルエステル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルのようなビニルエーテル、エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテルのようなアリルエーテル等が挙げられる。
また、アクリル系樹脂に水溶性または水分散性を付与するためには、界面活性剤を併用するようにしてもよいが、アクリル系樹脂中に親水性基を導入するのが好ましい。これにより、アクリル系樹脂は、第1成分や金属粒子51に対して密着性が高くなり、成形性に優れた造粒粒子1を製造可能な有機バインダー52を得ることができる。
導入される親水性基としては、例えば、水酸基、カルボン酸基、アルコキシシリル基等が挙げられる。
また、これらの親水性基を導入する方法としては、例えば、アクリル系モノマーとこれらの親水性基を含むモノマーとを共重合させるようにすればよい。
このとき、使用するモノマー中において、親水性基を含むモノマーの割合は、0.5モル%以上10モル%以下程度であるのが好ましく、1モル%以上8モル%以下程度であるのがより好ましい。これにより、アクリル系樹脂は、ポリビニルアルコールや金属粒子51との相溶性に富んだものとなる。このため、とりわけ成形性に優れた造粒粒子1が得られる。
・その他の成分
なお、有機バインダー52は、第1成分および第2成分の他に、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエーテル、またはこれらの共重合体等の各種樹脂や、ワックス類、アルコール類、高級脂肪酸、脂肪酸金属、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、非イオン性界面活性剤、シリコーン系滑剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
このうち、ワックス類としては、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油のような植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろうのような動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンのような鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムのような石油系ワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックスのような合成炭化水素、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体のような変性ワックス、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体のような水素化ワックス、12−ヒドロキシステアリン酸のような脂肪酸、ステアリン酸アミドのような酸アミド、無水フタル酸イミドのようなエステル等の合成ワックスが挙げられる。
また、アルコール類としては、例えば、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール等が挙げられ、特に、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、マンニトール等が好ましく用いられる。
また、高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられ、特に、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸のような飽和脂肪酸が好ましく用いられる。
また、脂肪酸金属としては、例えば、ラウリン酸、ステアリン酸、コハク酸、ステアリル乳酸、乳酸、フタル酸、安息香酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、ナフテン酸、オレイン酸、パルミチン酸、エルカ酸のような高級脂肪酸と、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Al、Sn、Pb、Cdのような金属との化合物が挙げられ、特に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸マグネシウム等が好ましく用いられる。
また、非イオン界面活性剤系滑剤としては、例えば、エレクトロストリッパーTS−2、エレクトロストリッパーTS−3(いずれも花王株式会社製)等が挙げられる。
また、シリコーン系滑剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサンおよびその変性物、カルボキシル変性シリコーン、αメチルスチレン変性シリコーン、αオレフィン変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、親水性特殊変性シリコーン、オレフィンポリエーテル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、アルコール変性シリコーン等が挙げられる。
また、有機バインダー52の含有率は、金属粉末100質量部に対して、0.2質量部以上10質量部以下程度であるのが好ましく、0.3質量部以上5質量部以下程度であるのがより好ましく、0.3質量部以上2質量部以下であるのがさらに好ましい。有機バインダー52の含有率が前記範囲内であることにより、著しく大きな粒子が造粒されたり、造粒されていない金属粒子が残存してしまうのを防止しつつ、造粒粉末を効率よく形成することができる。また、有機バインダー52の含有率が最適化されるため、造粒粒子1の成形性が高くなり、成形体の形状の安定性等を特に優れたものとすることができる。また、有機バインダー52の含有率を前記範囲内としたことにより、成形体と脱脂体との大きさの差、いわゆる収縮率を最適化して、最終的に得られる焼結体の寸法精度の低下を防止することができる。
<造粒粉末の製造方法>
次に、本発明の造粒粉末の製造方法の実施形態について説明する。
本実施形態に係る造粒粉末の製造方法は、有機バインダー52を含む有機バインダー溶液を調製する工程と、有機バインダー溶液を用い、金属粒子51同士を結着し、造粒する工程と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
[1]まず、有機バインダー52を含む有機バインダー溶液を調製する。
有機バインダー溶液は、有機バインダー52と、必要に応じてそれを溶解または分散させる溶媒(分散媒)とを用いて調製される。溶媒としては、例えば、水、アルコール類等が挙げられる。
[2]次に、得られた有機バインダー溶液を用いて金属粒子51同士を結着し、造粒する。これにより、造粒粉末が得られる。
造粒法としては、例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)法、転動造粒法、流動層造粒法、転動流動造粒法等が挙げられる。
このうち、噴霧乾燥法では、金属粒子51と有機バインダー溶液とを混合してなるスラリー(懸濁液)を用いる。そして、このスラリーを、噴霧乾燥することにより、造粒粒子1が得られる。
スラリー中には、必要に応じて、防錆剤、酸化防止剤、界面活性剤、消泡剤等、任意の添加剤が添加されていてもよい。
以上のようにして複数の金属粒子51を有機バインダー52で結着してなる造粒粒子1が得られる。
また、このようにして得られた造粒粒子1に対し、必要に応じて、加熱処理を施すようにしてもよい。これにより、有機バインダー52の吸湿性が若干低下するため、造粒粉末が吸湿し難くなり、経時的な流動性の低下が抑えられる。
この際の加熱温度は、有機バインダー52の組成に応じて適宜設定されるが、一例として150℃以上250℃以下程度とされる。
また、加熱時間は、一例として0.1時間以上3時間以下程度とされる。
<焼結体の製造方法>
次に、造粒粉末を用いて焼結体を製造する方法の一例について説明する。
(成形)
まず、上述したような本発明の造粒粉末を用いて、プレス成形機により成形し、所望の形状、寸法の成形体を製造する。本発明の造粒粉末は、それ自体が緻密であり、かつ、充填性の高いものである。これにより、成形型への充填量が安定するため、成形体の寸法精度を高めることができる。その結果、成形型への充填ムラが抑えられ、高密度の成形体を製造することができ、最終的に、高密度でかつ収縮率の小さい焼結体が得られる。
なお、製造される成形体の形状寸法は、以後の脱脂および焼結による収縮分を見込んで決定される。また、成形法は、プレス成形に限定されず、圧縮成形、射出成形等であってもよい。
(脱脂)
前述した成形工程で得られた成形体に対し、脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。この脱脂処理としては、特に限定されないが、非酸化性雰囲気、例えば真空または減圧状態下(例えば1×10−1〜1×10−6Torr)、あるいは窒素ガス、アルゴンガス、水素ガス、アンモニア分解ガス等のガス中で、熱処理を行うことによりなされる。この場合、熱処理の条件は、有機バインダーの分解開始温度等によって若干異なるが、好ましくは温度100℃以上750℃以下程度で0.5時間以上40時間以下程度、より好ましくは温度150℃以上700℃以下程度で1時間以上24時間以下程度とされる。
(焼成)
前述した脱脂工程で得られた脱脂体を焼成炉で焼成して焼結させ、目的とする焼結体を得る。この焼成により、造粒粉末を構成していた金属粉末は、拡散、粒成長し、全体として緻密な、すなわち高密度、低空孔率の焼結体が得られる。
焼成時における焼成温度は、造粒粉末の組成等により若干異なるが、例えば、Fe基合金粉末を用いた場合、1100℃以上1400℃未満であるのが好ましく、1200℃以上1350℃以下であるのがより好ましい。
焼成中の最高温度保持時間は0.5時間以上5時間以下程度であるのが好ましく、0.75時間以上3時間以下程度であるのがより好ましい。
特に、有機バインダー52としてポリビニルアルコールのように結着性が大きく、かつ熱分解性の高い材料を用いることにより、有機バインダー52の使用量を抑え、かつ金属粒子51同士の粒子間距離を縮めることができるので、焼結開始温度を下げることができる。その結果、比較的低温で短時間の焼成であっても、緻密な焼結体が得られる。
また、焼成雰囲気は、特に限定されないが、減圧(真空)下または非酸化性雰囲気とされるのが好ましい。これにより、金属の酸化による特性劣化を防ぐことができる。
なお、上記のようにして得られた焼結体は、いかなる目的で用いられるものであってもよく、その用途としては、例えば各種機械部品等が挙げられる。
以上のようにして得られる焼結体の相対密度は、その用途等により異なるが、例えば、95%超、好ましくは97%以上となることが期待される。このような焼結体は、機械的特性に特に優れたものとなる。また、本発明の造粒粉末を用いることにより、低温での焼成であっても、かかる機械的特性に優れた焼結体を効率よく製造することができる。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、造粒粉末の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することができる。
また、本発明の造粒粉末には、必要に応じて、任意の要素が付加されていてもよい。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.造粒粉末の製造
(実施例1)
<1>まず、金属粉末として、水アトマイズ法により製造された平均粒径10μmの合金工具鋼粉末(エプソンアトミックス(株)製、SKD−11)を用意した。
<2>一方、有機バインダーの第1成分として、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA−117)を用意した。
また、有機バインダーの第2成分として、水分散型ウレタン樹脂を用意した。
そして、溶媒としてイオン交換水を用意し、第1成分と第2成分とを添加した後、室温まで冷却することにより、有機バインダー溶液を調製した。なお、溶媒の添加量は、有機バインダーの固形分1gあたり50gとした。また、第1成分と第2成分の比率は、固形分の質量比で1:1とした。
また、有機バインダーの固形分の添加量は、金属粉末100質量部に対して、1.0質量部となる量とした。
また、ポリビニルアルコールのけん化度は98〜99モル%、重合度は1700であった。
<3>次に、金属粉末と有機バインダー溶液とを混合し、スラリーを調製した。スラリー中の金属粉末の割合は70質量%とした。
<4>次いで、噴霧乾燥装置にスラリーを投入して造粒し、平均粒径60μmの造粒粉末を得た。
(実施例2〜27)
有機バインダーの第2成分の組成や比率を表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして造粒粉末を得た。
なお、表1に示す第2成分は、いずれも水溶液または水分散液の形態をなしており、かつ、水以外の溶剤を含んでいない。また、これらの第2成分の固形分の吸湿率は、いずれも0.001質量%以上0.03質量%以下であり、かつ、第1成分(ポリビニルアルコール)の吸湿率の40%以下である。
また、造粒粉末の平均粒径は30〜80μmであった。
なお、使用したポリビニルアルコールのけん化度は98〜99モル%、重合度は1500〜2000であった。
(比較例1)
有機バインダーにおける第2成分の添加を省略した以外は、実施例1と同様にして造粒粉末を得た。
(比較例2)
有機バインダーにおける第1成分の添加を省略した以外は、実施例1と同様にして造粒粉末を得た。
(比較例3)
有機バインダーにおける第1成分の添加を省略した以外は、実施例7と同様にして造粒粉末を得た。
(比較例4)
有機バインダーにおける第1成分の添加を省略した以外は、実施例23と同様にして造粒粉末を得た。
2.造粒粉末および焼結体の評価
2.1 吸湿量の評価
まず、各実施例および各比較例で得られた造粒粉末10gをガラスシャーレ上に秤量した。
次に、75%の相対湿度の条件を得るために塩化ナトリウム水溶液を入れて23℃に保持したデシケーター内に、造粒粉末を入れたガラスシャーレを放置した(飽和塩法、JIS B 7920:2000)。
そして、放置開始から30分後および120分後にそれぞれ造粒粉末の質量を測定した。そして、次式にしたがって吸湿量を測定した。
吸湿量(%)=(W−W0)/W0×100
ただし、Wは、測定時の質量、W0は、初期の質量、である。
測定結果を表1に示す。
2.2 見掛密度の評価
各実施例および各比較例で得られた造粒粉末について、JIS Z 2504:2012に規定の金属粉の見掛密度測定方法により、見掛密度を測定した。
測定結果を表1に示す。
2.3 流動度の評価
各実施例および各比較例で得られた造粒粉末について、JIS Z 2502:2012に規定の金属粉の流動性試験方法により、流動度を測定した。
測定結果を表1に示す。
2.4 耐吸湿性の評価
2.1〜2.3の評価結果に基づき、各実施例および各比較例で得られた造粒粉末の耐吸湿性を総合的に評価した。
具体的には、吸湿量が相対的に少なく、かつ、見掛密度が相対的に高く、かつ、流動度が相対的に大きいものを、耐吸湿性が高いものと評価する一方、その反対のものを、耐吸湿性が低いものと評価した。
なお、この評価では、以下の評価基準を利用した。
<耐吸湿性の評価基準>
〇:耐吸湿性が相対的に非常に良好である
△:耐吸湿性が相対的に良好である
×:耐吸湿性が相対的に不良である
測定結果を表1に示す。
2.5 成形体の機械的強度の評価
まず、各実施例および各比較例で得られた造粒粉末について、以下に示す成形条件で成形した。
<成形条件>
・成形方法 :プレス成形法
・成形形状 :φ20mm、厚み5mmのDisc形状
・成形圧力 :600MPa(6t/cm2)
・成形環境 :室温26.1℃、相対湿度80.8%
次に、得られた成形体を圧縮し、成形体が圧壊したときの圧縮強度を測定した。そして、これを成形体の機械的強度とした。
測定結果を表1に示す。
表1から明らかなように、各実施例で得られた造粒粉末は、加湿された環境下であっても、吸湿性が低いため、見掛密度が高く、かつ、流動度も高いことが認められた。また、この造粒粉末を用いて製造された成形体は、機械的強度が高いことも認められた。
これに対し、各比較例で得られた造粒粉末は、相対的に吸湿性が高く、見掛密度および流動度が低いことが認められた。
以上のことから、本発明の造粒粉末は、置かれる環境によらず優れた成形性を示すことが認められた。
なお、金属粉末の組成をステンレス鋼(SUS316L)に変更した場合についても評価したが、評価結果は同じであった。