JP6601900B2 - セルロースナノファイバー分散体の製造方法およびセルロースナノファイバー乾燥固形物の再分散方法 - Google Patents
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化学変性したセルロース繊維を解繊してセルロースナノファイバー分散体とすること、
セルロースナノファイバー分散体を乾燥してセルロースナノファイバーの乾燥固形物とすること、
セルロースナノファイバーの乾燥固形物を熱水で処理すること、
熱水で処理されたセルロースナノファイバーを溶媒に分散させて、セルロースナノファイバーの分散体を得ること
を含む、セルロースナノファイバーの分散体の製造方法。
セルロース繊維は、目的に応じて適宜選択することができ、特に制限されない。例えば、針葉樹または広葉樹のクラフトパルプ、サルファイトパルプ、サーモメカニカルパルプ、再生パルプ等の木材系パルプ、コットンリンターやコットンリントのような綿系パルプ、麦わら、バガス、竹、麻、ジュート、ケナフ等に由来する非木材系パルプ、バクテリアセルロースのような微生物由来セルロース、ホヤから単離されるセルロースのような動物由来セルロース、海草から単離されるセルロースのような藻類由来セルロースなどを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。好ましくは、木材、綿、非木材植物等の植物由来のパルプである。前記セルロース繊維は、叩解等の表面積を高める処理を施したものであってもよい。
化学変性したセルロース繊維とは、この後の解繊工程において、ナノファイバーの単位にまで解繊できるように化学的に処理されたセルロース繊維をいう。本発明では、このような化学的処理済みの市販のセルロース繊維をこの後の解繊工程に供してもよいし、また、セルロース繊維に化学的処理を施すことにより化学変性したセルロース繊維を用意してもよい。セルロース繊維の解繊(ナノファイバー化)を促進する化学的処理の例としては、セルロース繊維をN−オキシル化合物と共酸化剤とを用いて酸化すること、セルロース繊維をカルボキシメチル化すること、セルロース繊維にカチオン性の基を導入すること、セルロース繊維をカルボキシル基を有する化合物の酸無水物で処理すること、セルロース繊維をリン酸基を有する化合物で処理すること、セルロース繊維をオゾンで処理すること、及びセルロース繊維を酵素で処理すること、が挙げられるが、これらに限定されない。以下に、上記の処理の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
N−オキシル化合物及び共酸化剤を含む反応液中でセルロース原料を酸化することにより酸化セルロース繊維を得ることができる。この処理により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(−COOH)またはカルボキシレート基(−COO−)とを有する酸化セルロース繊維を得ることができる。セルロース繊維の表面にカルボキシル基またはカルボキシレート基を導入することによって、セルロース繊維同士を電気的に反発させることができ、これにより、ナノオーダーの繊維幅へと容易に解繊(ナノ分散)することができるようになる。
溶媒として3〜20質量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用し、マーセル化剤としてセルロース繊維の無水グルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用し、セルロース繊維と溶媒及びマーセル化剤とを混合して、反応温度0〜70℃、好ましくは10〜60℃、かつ反応時間15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間、マーセル化処理を行う。なお、溶媒に低級アルコールを混合する場合の低級アルコールの混合割合は、60〜95質量%である。
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩を水素型カルボキシメチル化セルロースに変換する。水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5〜2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’−(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター。
水及び/又は炭素数1〜4のアルコールの存在下で、セルロース繊維に、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハライドなどのカチオン化剤と、触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を反応させることによって、カチオン性の基が導入されたセルロース繊維(以下、「カチオン変性セルロース繊維」ともよぶ。)を得ることができる。なお、この方法において、反応させるカチオン化剤の添加量や、水及び/又は炭素数1〜4のアルコールの組成比率をコントロールすることによって、カチオン変性セルロース繊維のグルコース単位当たりのカチオン置換度を調整することができる。
試料(カチオン変性セルロース繊維)を乾燥させた後に、全窒素分析計TN−10(三菱化学)で窒素含有量を測定し、次式により算出する。なお、ここでいう置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりのカチオン性置換基のモル数の平均値を表している:
カチオン置換度=(162×N)/(1−151.6×N)
N:窒素含有量。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物によって、セルロース繊維の水酸基の一部をカルボキシル基に化学修飾することにより、セルロース繊維同士を電気的に反発させ、セルロース繊維の解繊(ナノファイバー化)を促進することができる。
リン酸基を有する化合物によってセルロース繊維の水酸基の一部をリン酸基に修飾することにより、セルロース繊維同士を電気的に反発させ、セルロース繊維の解繊(ナノファイバー化)を促進することができる。
セルロース繊維をオゾンで処理することにより、セルロース繊維の水酸基をカルボニル基やカルボキシル基に変換する。これにより、セルロース繊維同士を電気的に反発させ、セルロース繊維の解繊(ナノファイバー化)を促進することができる。
酵素処理によりセルロース繊維の解繊(ナノファイバー化)が促進される理由は定かではないが、酵素によりセルロースの結晶部分が攻撃されて、結合が緩むことにより、解繊性が向上するものと考えられる。
前記工程で用意した化学変性したセルロース繊維(以下、「化学変性セルロース繊維」と称することもある。)を、次に、解繊工程において、溶媒中で機械的なせん断力を用いて解繊しながらナノ分散させて、セルロースナノファイバー分散体とする。
乾燥工程は、前記解繊工程により得られたセルロースナノファイバー分散体の分散媒を蒸発させて、セルロースナノファイバーの乾燥固形物を得る工程である。
セルロースナノファイバーの乾燥固形物は、通常は、過酷な条件で分散処理を行ってもナノ分散することができないことが知られている。本発明は、乾燥固形物の分散処理の前に、熱水で処理することにより、驚くべきことに、ナノ分散が可能となることを見出したものである。本発明の方法は、非常に簡便であり、また、環境負荷が少ないという利点がある。
上記熱水処理工程を行ったセルロースナノファイバーを、溶媒に再分散(ナノ分散)させることによって、セルロースナノファイバー分散体とすることができる。溶媒に再分散(ナノ分散)させる方法は、上述の解繊工程に記載した方法と同様である。分散媒は最も好ましくは水であり、分散媒中の固形分濃度は、特に限定されないが、0.1〜5質量%程度が好ましく、1〜3質量%程度がより好ましい。
本発明により得られる再分散後のセルロースナノファイバー分散体におけるセルロースナノファイバーは、未乾燥のセルロースナノファイバー分散体中のセルロースナノファイバーと同様の高アスペクト比、大比表面積、高強度、高いチキソトロピー性、水中での高いナノ分散性、高い透明性などの優れた特徴を有しており、これらの特徴を利用するような用途に好ましく用いることができる。
(1)N−オキシル化合物と共酸化剤とを用いて酸化されたセルロース繊維(以下、「酸化セルロース繊維」とも呼ぶ。)の用意
針葉樹漂白クラフトパルプ(乾燥質量で4g相当分)、62.4mgのTEMPO、及び0.4gの臭化ナトリウムを蒸留水400mLに分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が5mmolとなるように加えて反応を開始した。反応中は、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10に保ち、室温(20℃〜25℃)で撹拌しながら反応を行った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了とみなし、反応物をガラスフィルターにてろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を5回繰り返し、固形分含量が9.3質量%である酸化セルロース繊維を得た(収率>90%)。
撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシルメチル化セルロース繊維を得た。
(1)前記酸化セルロース繊維を水に懸濁して、固形分含量が1質量%のスラリーを調製した。得られたスラリーをホモミキサーを用いて6000rpmで10分間撹拌し、固形分含量が1質量%の酸化セルロースナノファイバー分散体(参考例1)を得た。
前記解繊工程で得られた酸化セルロースナノファイバー分散体(参考例1)及びカルボキシメチル化セルロースナノファイバー分散体(参考例2)を、105℃の恒温乾燥機中で3〜4時間乾燥させ、それぞれのセルロースナノファイバーの乾燥固形物(絶乾)を得た。
前記乾燥工程で得られた乾燥固形物0.4gと蒸留水40mLを100mL容のナスフラスコに入れ、密栓せずに80℃で30分間撹拌した。撹拌にはマグネチックスターラーを用い、撹拌子は直径7mm、長さ20mmのものを用いた。撹拌の強さはおよそ300〜400rpm程度の穏やかな撹拌とした。
前記熱水処理で得られた固形分含量1質量%のスラリーを、ホモミキサーを用いて6000rpmで10分間撹拌し、固形分含量が1質量%の再分散後のセルロースナノファイバー分散体を得た(実施例1及び2)。
実施例、比較例、及び参考例の分散体/懸濁液のそれぞれを、0.1質量%に薄めてスライドガラスに乗せ、スライドガラスを傾けた時に未分散状態のゲル状の粒が見られるかどうかで分散性を評価した。粒が見られないものが3、粒が浮き出てみられるものが2、ほとんど分散せず粒と水が分離するものを1と評価した。
実施例、比較例、及び参考例の分散体/懸濁液のそれぞれ(固形分含量1質量%)について、波長600nmにおける光透過度を測定した。
実施例、比較例、及び参考例の分散体/懸濁液のそれぞれ(固形分含量1質量%)について、分散/懸濁直後のB型粘度(25℃、30rpm、3分間)と、一昼夜静置した後のB型粘度(25℃、30rpm、3分間)を測定した。
Claims (6)
- 化学変性したセルロース繊維を用意すること、
化学変性したセルロース繊維を解繊してセルロースナノファイバー分散体とすること、
セルロースナノファイバー分散体を乾燥してセルロースナノファイバーの乾燥固形物とすること、
セルロースナノファイバーの乾燥固形物を70℃以上の熱水で処理すること、
70℃以上の熱水で処理されたセルロースナノファイバーを溶媒に分散させて、セルロースナノファイバーの分散体を得ること
を含む、セルロースナノファイバーの分散体の製造方法。 - 70℃以上の熱水で処理することが、セルロースナノファイバーの乾燥固形物を70℃以上の熱水に15分間以上浸漬させることを含む、請求項1に記載の方法。
- 化学変性が、セルロース繊維をN−オキシル化合物と共酸化剤とを用いて酸化すること、セルロース繊維をカルボキシメチル化すること、セルロース繊維にカチオン性の基を導入すること、セルロース繊維をカルボキシル基を有する化合物の酸無水物で処理すること、セルロース繊維をリン酸基を有する化合物で処理すること、セルロース繊維をオゾンで処理すること、及びセルロース繊維を酵素で処理すること、から選択される1つ以上を含む、請求項1または2に記載の方法。
- 化学変性されたセルロースナノファイバーの乾燥固形物を70℃以上の熱水で処理してから溶媒にナノファイバーとして再分散させることを含む、化学変性されたセルロースナノファイバーの乾燥固形物の再分散方法。
- 70℃以上の熱水での処理が、化学変性されたセルロースナノファイバーの乾燥固形物を70℃以上の熱水に15分間以上浸漬させることを含む、請求項4に記載の方法。
- 化学変性されたセルロースナノファイバーが、カルボキシメチル化されたセルロース繊維、N−オキシル化合物及び共酸化剤を用いて酸化されたセルロース繊維、カチオン性の基を導入されたセルロース繊維、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物で処理されたセルロース繊維、リン酸基を有する化合物で処理されたセルロース繊維、オゾンで処理されたセルロース繊維、酵素で処理されたセルロース繊維、またはこれらの2以上の混合物を解繊することにより得られた物である、請求項4または5に記載の方法。
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