JP6597447B2 - 軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から重希土類元素を溶出させる方法 - Google Patents

軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から重希土類元素を溶出させる方法 Download PDF

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Description

本発明は、例えばR−Fe−B系永久磁石(Rは希土類元素)などの軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から、重希土類元素を溶出させる方法に関する。
R−Fe−B系永久磁石は、高い磁気特性を有していることから、今日様々な分野で使用されていることは周知の通りである。このような背景のもと、R−Fe−B系永久磁石の生産工場では、日々、大量の磁石が生産されているが、磁石の生産量の増大に伴い、製造工程中に加工不良物などとして排出される磁石スクラップや、切削屑や研削屑などとして排出される磁石加工屑などの量も増加している。とりわけ情報機器の軽量化や小型化によってそこで使用される磁石も小型化していることから、加工代比率が大きくなることで、製造歩留まりが年々低下する傾向にある。従って、製造工程中に排出される磁石スクラップや磁石加工屑などを廃棄せず、そこに含まれる金属元素、特に希土類元素をいかに回収して再利用するかが今後の重要な技術課題となっている。また、R−Fe−B系永久磁石を使用した電化製品などから循環資源として希土類元素をいかに回収して再利用するかについても同様である。本発明者は、これまでこの技術課題に対して精力的に取り組んできており、その研究成果として、R−Fe−B系永久磁石などの希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から希土類元素を回収する方法として、処理対象物に対して酸化処理を行った後、処理環境を炭素の存在下に移し、1150℃以上の温度で熱処理することで、希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収する方法を特許文献1において提案している。
本発明者が特許文献1において提案した方法は、低コストと簡易さが要求されるリサイクルシステムとして優れたものであるが、処理対象物が例えばR−Fe−B系永久磁石の場合、鉄族元素から分離して回収された希土類元素の酸化物は、NdやPrなどの軽希土類元素とDyなどの重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物である。従って、希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物から希土類元素を回収する優れた方法が特許文献1によって提供された今、次なる課題は、軽希土類元素と重希土類元素をいかに分離するかという点にある。
軽希土類元素と重希土類元素を分離する方法として知られている一般的なものは、溶媒抽出法によるものである(例えば特許文献2)。現在のところ、溶媒抽出法は、希土類元素の分離や精製についての主流的な技術として位置付けられている。しかしながら、溶媒抽出法は、2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルエステルなどの有機リン化合物を抽出剤として用いるとともに、ケロシンなどの引火性の高い有機溶媒を用いることから、環境保全上の問題や安全上の問題があるため、溶媒抽出法の代替技術が求められている。
国際公開第2013/018710号 特開平2−80530号公報
そこで本発明は、溶媒抽出法の代替技術としての、軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から両者を分離するために有効な、軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から重希土類元素を溶出させる方法を提供することを目的とする。
上記の点に鑑みてなされた本発明の軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から重希土類元素を溶出させる方法は、請求項1記載の通り、
(1)軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から両者の複合酸化物ないし酸化物の混合物を得る工程
(2)得られた軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物を、アルミニウム源とともに焼成する工程
(3)得られた焼成物を、濃度が0.1mol/L〜3.0mol/Lの塩酸および/または硝酸に添加する工程
(4)重希土類元素を含む溶液を残渣から分離する工程
を少なくとも含んでなることを特徴とする。
また、請求項2記載の方法は、請求項1記載の方法において、アルミニウム源が、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
また、請求項3記載の方法は、請求項1記載の方法において、アルミニウム源を、軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物100重量部に対して0.1重量部〜10重量部用いることを特徴とする。
また、請求項4記載の方法は、請求項1記載の方法において、処理対象物がR−Fe−B系永久磁石であることを特徴とする。
本発明によれば、溶媒抽出法の代替技術としての、軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から両者を分離するために有効な、軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から重希土類元素を溶出させる方法を提供することができる。
実施例1における、工程2における酸化アルミニウムの添加量と、残渣由来の焼成物に含まれる全希土類元素(Nd,Pr,Dy)に対するDyの重量比の関係を示すグラフである。 同、酸化アルミニウムの添加量の違いによって、残渣由来の焼成物のX線回析図形がどのように変化するかを調べたチャートである。
本発明の軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から重希土類元素を溶出させる方法は、
(1)軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から両者の複合酸化物ないし酸化物の混合物を得る工程
(2)得られた軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物を、アルミニウム源とともに焼成する工程
(3)得られた焼成物を、濃度が0.1mol/L〜3.0mol/Lの塩酸および/または硝酸に添加する工程
(4)重希土類元素を含む溶液を残渣から分離する工程
を少なくとも含んでなることを特徴とするものである。以下、本発明の方法における工程を順次説明する。
(1)軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から両者の複合酸化物ないし酸化物の混合物を得る工程
まず、本発明の方法を適用することができる軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物は、NdやPrなどの軽希土類元素とDyやTbなどの重希土類元素を含むものであれば特段の制限はなく、軽希土類元素と重希土類元素に加えてその他の元素としてFe,Co,Niなどの鉄族元素やホウ素などを含んでいてもよい。具体的には、例えばR−Fe−B系永久磁石などが挙げられる。軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から両者の複合酸化物ないし酸化物の混合物を得る方法は、自体公知の方法であってよく、例えば、特許文献1に記載の、希土類元素と鉄族元素を含む処理対象物に対して酸化処理を行った後、処理環境を炭素の存在下に移し、1150℃以上の温度で熱処理することで、希土類元素を酸化物として鉄族元素から分離して回収する方法を好適に採用することができる。軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物の、軽希土類元素の含量と重希土類元素の含量の合計は、70mass%以上が望ましく、75mass%以上がより望ましい。軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物は、鉄族元素やホウ素などを含んでいてもよいが、これらの含量は、それぞれ5.0mass%以下が望ましく、2.5mass%以下がより望ましい。

(2)得られた軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物を、アルミニウム源とともに焼成する工程
次に、先の工程で得られた軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物を、アルミニウム源とともに焼成する。この工程は、本発明の方法において第1の鍵となる工程であり、軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物とアルミニウム源を焼成することで、軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物にアルミニウムを取り込ませると、軽希土類元素と重希土類元素の間で塩酸や硝酸への溶解性に差が生じ、軽希土類元素よりも重希土類元素の方が塩酸や硝酸への溶解性が高くなることを本発明者は見出した。本発明では、この現象を利用して、軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から重希土類元素を溶出させる。この現象が生じる理由は必ずしも明らかではないが、軽希土類元素は、重希土類元素よりもアルミニウムと複合酸化物(例えばNdAlO)を形成しやすく、アルミニウムと複合酸化物を形成することで塩酸や硝酸に溶解しにくくなる性質を有する一方で、重希土類元素は、軽希土類元素よりもアルミニウムと複合酸化物(例えばDyAlO)を形成しにくいことで塩酸や硝酸に溶解しやすい性質を有することによると本発明者は考察している。アルミニウム源としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどを、単独で、または複数種類を混合して用いることができる。アルミニウム源は、軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物100重量部に対して0.1重量部〜10重量部用いることが望ましく、1重量部〜8重量部用いることがより望ましく、2重量部〜8重量部用いることがさらに望ましい。用いるアルミニウム源の量が少なすぎると、軽希土類元素とアルミニウムの複合酸化物が十分に生成されないことで、軽希土類元素が重希土類元素とともに塩酸や硝酸に溶解し、軽希土類元素と重希土類元素を分離しにくくなる。用いるアルミニウム源の量が多すぎると、重希土類元素がアルミニウムと複合酸化物を形成し、軽希土類元素とアルミニウムの複合酸化物と同様に塩酸や硝酸に溶解しにくくなることで、軽希土類元素と重希土類元素を分離しにくくなる。軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物とアルミニウム源の焼成は、例えば、両者をそれぞれ必要に応じて粒径が1mm以下、望ましくは500μm以下の粒状ないし粉末状に粉砕し、混合してから、1200℃以上、より望ましくは1300℃以上で行えばよい。なお、焼成温度の上限は、例えばエネルギーコストの点に鑑みれば1700℃が望ましく、1600℃がさらに望ましい。熱処理時間は、例えば10分間〜3時間が適当である。焼成時の雰囲気は特段限定されず、例えば大気雰囲気などの酸素が存在する雰囲気であってもよいし、アルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気であってもよい。
(3)得られた焼成物を、濃度が0.1mol/L〜3.0mol/Lの塩酸および/または硝酸に添加する工程
この工程は、本発明の方法において第2の鍵となる工程である。肝要なのは、先の工程で得られた、軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物とアルミニウム源の焼成物を、所定の濃度の塩酸や硝酸に添加するということである。このように処理条件を設定することで、アルミニウムと複合酸化物を形成した軽希土類元素は焼成物に残留する一方で、重希土類元素は塩酸や硝酸に溶解する。用いる塩酸や硝酸の濃度の下限を0.1mol/Lと規定するのは、0.1mol/L未満では、濃度が薄すぎて、重希土類元素が溶解しにくくなるからである。用いる塩酸や硝酸の濃度の上限を3.0mol/Lと規定するのは、3.0mol/Lを超えると、濃度が濃すぎて、軽希土類元素とアルミニウムの複合酸化物が溶解しやすくなるからである。塩酸や硝酸は、焼成物1gに対して1mL〜50mLの割合で用いればよい。焼成物を添加する塩酸や硝酸の温度は、例えば20℃〜85℃であってよく、焼成物を添加した後、例えば1時間〜24時間撹拌保持するのがよい。なお、焼成物は、必要に応じて粒径が1mm以下、望ましくは500μm以下の粒状ないし粉末状に粉砕して塩酸や硝酸に添加することが望ましい。
(4)重希土類元素を含む溶液を残渣から分離する工程
先の工程で得られる溶液には重希土類元素が含まれ、残渣には軽希土類元素とアルミニウムの複合酸化物が含まれる。従って、溶液と残渣を例えば濾過により分離することで、重希土類元素を含む溶液を得ることができる。残渣から分離された重希土類元素を含む溶液に対し、沈殿剤として例えばシュウ酸や酢酸を加え、重希土類元素のシュウ酸塩や酢酸塩からなる沈殿物を得た後、沈殿物を焼成すれば、この焼成物は重希土類元素の酸化物からなるので、例えば溶融塩電解法やカルシウム還元法などにより還元することによって重希土類金属に変換することができる。重希土類元素のシュウ酸塩や酢酸塩からなる沈殿物を得るためのシュウ酸や酢酸は、(3)の工程によって焼成物から塩酸や硝酸に溶出した希土類元素がシュウ酸塩や酢酸塩を形成するための必要量の例えば1倍〜3倍(モル比)用いればよい((3)の工程によって焼成物から塩酸や硝酸に溶出した希土類元素のモル量は、焼成物を塩酸や硝酸に添加することで得られる溶液を分析することで求めることができる)。沈殿温度は、例えば20℃〜85℃であってよい。沈殿時間は、例えば1時間〜6時間であってよい。重希土類元素のシュウ酸塩や酢酸塩からなる沈殿物の焼成は、例えば大気雰囲気などの酸素が存在する雰囲気で500℃〜1000℃で行えばよい。焼成温度は、600℃〜950℃がより望ましく、700℃〜900℃がさらに望ましい。焼成時間は、例えば1時間〜6時間であってよい。なお、残渣から分離された重希土類元素を含む溶液が軽希土類元素を含む場合、溶液に対し、沈殿剤として例えばシュウ酸や酢酸を加え、軽希土類元素と重希土類元素のシュウ酸塩や酢酸塩からなる沈殿物を得た後、沈殿物を焼成すれば、この焼成物は軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物からなるので、焼成物に対して例えば(2)〜(4)の工程を実施することで、溶液に含まれる軽希土類元素の含量の低減化を図ることができる。また、溶液から分離された残渣に含まれる軽希土類元素は、必要に応じてアルミニウムとの分離操作を行った後、例えば溶融塩電解法やカルシウム還元法などにより還元することによって軽希土類金属に変換することができる。なお、溶液から分離された軽希土類元素とアルミニウムの複合酸化物を含む残渣が重希土類元素を含む場合、残渣に対して例えば(3)〜(4)の工程を実施することで、残渣に含まれる重希土類元素の含量の低減化を図ることができる。
以上の工程を少なくとも含んでなる本発明の方法は、溶媒抽出法において抽出剤として用いる2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルエステルなどの有機リン化合物や、有機溶媒として用いる引火性の高いケロシンなどを用いる必要がなく、必要な物質は安価であって、溶媒抽出法によって配慮しなければならない環境保全上の問題や安全上の問題が皆無ないしは少ないものであるので、本発明の方法は、軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から両者を分離するために有効な、低コストと簡易さが要求されるリサイクルシステムとして実用化することができる。なお、(4)の工程において、溶液に含まれる軽希土類元素の含量の低減化や、残渣に含まれる重希土類元素の含量の低減化を行う場合、溶媒抽出法を用いて行うことを本発明は排除しない(軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物に対して溶媒抽出法を用いて軽希土類元素と重希土類元素を分離する場合に比較して有機リン化合物や有機溶媒の必要量ははるかに少なくて済む)。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
実施例1:
(工程1)
R−Fe−B系永久磁石の製造工程中に発生した約10μmの粒径を有する磁石加工屑(自然発火防止のため水中で7日間保管したもの)に対し、吸引ろ過することで脱水してからロータリーキルンを用いて燃焼処理することで酸化処理を行った。こうして酸化処理を行った磁石加工屑のICP分析(使用装置:島津製作所社製のICPV−1017)の結果を表1に示す。
Figure 0006597447
次に、酸化処理を行った磁石加工屑50gとカーボンブラック(東海カーボン社製のファーネスブラック、以下同じ)10gを混合し、カーボンブラック10gを予め底面に敷き詰めた寸法が内径50mm×深さ50mm×肉厚10mmの炭素るつぼ(黒鉛製、以下同じ)に収容した後、電気炉を用い、工業用アルゴンガス雰囲気(酸素含有濃度:0.2ppm、流量:10L/分。以下同じ)中で1450℃まで10℃/分で昇温してから2時間熱処理した。その後、炉内の加熱を停止し、炉内の工業用アルゴンガス雰囲気を維持したまま、炭素るつぼを室温まで炉冷した。炉冷を終了した後、炭素るつぼ内には、互いに独立かつ密接して存在する2種類の塊状物(塊状物Aと塊状物B)が存在した。塊状物Aと塊状物BのそれぞれのSEM・EDX分析(使用装置:日立ハイテクノロジーズ社製のS800、以下同じ)を行ったところ、塊状物Aの主成分は鉄である一方、塊状物Bの主成分は希土類元素の酸化物であった。塊状物BのSEM・EDX分析の結果(Nd,Pr,Dyのみ)を表2に示す(鉄は検出限界以下)。なお、塊状物Bの主成分である希土類元素の酸化物は、軽希土類元素(Nd,Pr)と重希土類元素(Dy)の複合酸化物ないし酸化物の混合物であることを、別途に行ったX線回析分析(使用装置:ブルカー・エイエックスエス社製のD8 ADVANCE、以下同じ)において確認した。
Figure 0006597447
(工程2)
工程1で得た希土類元素の酸化物を主成分とする塊状物Bを、瑪瑙製の乳鉢と乳棒で粉砕し、ステンレス製の篩を用いて粒径が125μm未満の粉末を得る操作を複数回行うことで、約1kgの塊状物Bの粉末を調製した。こうして調製した塊状物Bの粉末10gと、0.05g〜0.8gの酸化アルミニウムの粉末(塊状物B100重量部に対して0.5重量部〜8重量部)をよく混合し、炭素るつぼに収容した後、電気炉を用い、工業用アルゴンガス雰囲気中で1450℃まで10℃/分で昇温してから1時間焼成した。その後、炉内の加熱を停止し、炉内の工業用アルゴンガス雰囲気を維持したまま、炭素るつぼを室温まで炉冷した。炉冷を終了した後、炭素るつぼ内には、単一の焼成物が存在した。
(工程3)
工程2で得た焼成物を、瑪瑙製の乳鉢と乳棒で粉砕し、ステンレス製の篩を用いて粒径が125μm未満の粉末を調製した。こうして調製した焼成物の粉末10gを、60℃に加熱した濃度が1.0mol/Lの塩酸100mLに添加して撹拌した。
(工程4)
工程3における撹拌を開始してから6時間後、残渣をろ過することで、塩酸溶液と残渣を分離した。得られた塩酸溶液100mLにシュウ酸二水和物13g(工程3によって焼成物から塩酸に溶出したすべての希土類元素がシュウ酸塩を形成するための必要量の2倍(モル比)に相当)を加えて室温で2時間撹拌することで白色の沈殿物を得、この沈殿物を大気雰囲気で900℃で2時間焼成することで焼成物を得た。また、得られた残渣を大気雰囲気で900℃で2時間焼成することで焼成物を得た。塩酸溶液由来の焼成物と残渣由来の焼成物のそれぞれについてSEM・EDX分析を行い、工程2における酸化アルミニウムの添加量と、焼成物に含まれる全希土類元素(Nd,Pr,Dy)に対するDyの重量比の関係を調べた。残渣由来の焼成物についての結果を図1に示す。図1から明らかなように、工程2における酸化アルミニウムの添加量が増加するにつれて、残渣由来の焼成物に含まれる全希土類元素に対するDyの重量比が減少した。一方で、酸化アルミニウムの添加量が増加するにつれて、塩酸溶液由来の焼成物に含まれる全希土類元素に対するDyの重量比は増加した(図略)。次に、工程2における酸化アルミニウムの添加量の違いによって、残渣由来の焼成物のX線回析図形がどのように変化するかを調べた。結果を図2に示す。図2から明らかなように、工程2における酸化アルミニウムの添加量が増加するにつれて、NdAlOのピークが大きくなった。以上の結果から、軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物を、酸化アルミニウムとともに焼成した後、得られた焼成物を塩酸に溶解すると、軽希土類元素はアルミニウムと複合酸化物を形成して焼成物に残留しようとする一方で、重希土類元素は塩酸に溶解しようとすると考えられ、この性質の違いを利用して、軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から重希土類元素を溶出させることができることがわかった。
実施例2:
実施例1の工程2において用いた酸化アルミニウムの粉末かわりに、粒径が1mm以下の金属アルミニウムの粉砕物を用いることと、焼成時の雰囲気をアルゴンガス雰囲気のかわりに大気雰囲気とすること以外は実施例1と同様の実験を行ったところ、実施例1と同様に処理対象物とした磁石加工屑からの重希土類元素の溶出量を増やすことができた。
実施例3:
実施例1の工程3において用いた濃度が1.0mol/Lの塩酸のかわりに、濃度が3.0mol/Lの塩酸を用いることと、焼成物の粉末10gのかわりに焼成物の粉末30gを塩酸に添加すること以外は実施例1と同様の実験を行ったところ、実施例1と同様に処理対象物とした磁石加工屑からの重希土類元素の溶出量を増やすことができた。
実施例4:
実施例1の工程3において用いた濃度が1.0mol/Lの塩酸のかわりに、濃度が1.0mol/Lの硝酸を用いること以外は実施例1と同様の実験を行ったところ、実施例1と同様に処理対象物とした磁石加工屑からの重希土類元素の溶出量を増やすことができた。
本発明は、溶媒抽出法の代替技術としての、軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から両者を分離するために有効な、軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から重希土類元素を溶出させる方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

Claims (4)

  1. 軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から重希土類元素を溶出させる方法であって、
    (1)軽希土類元素と重希土類元素を含む処理対象物から両者の複合酸化物ないし酸化物の混合物を得る工程
    (2)得られた軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物を、アルミニウム源とともに焼成する工程
    (3)得られた焼成物を、濃度が0.1mol/L〜3.0mol/Lの塩酸および/または硝酸に添加する工程
    (4)重希土類元素を含む溶液を残渣から分離する工程
    を少なくとも含んでなることを特徴とする方法。
  2. アルミニウム源が、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  3. アルミニウム源を、軽希土類元素と重希土類元素の複合酸化物ないし酸化物の混合物100重量部に対して0.1重量部〜10重量部用いることを特徴とする請求項1記載の方法。
  4. 処理対象物がR−Fe−B系永久磁石であることを特徴とする請求項1記載の方法。
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