(第一の実施形態)
図1は、本発明における透過潜像画像形成体(1)(以下「形成体」という。)の一例を示す平面図である。形成体(1)は、基材(2)上の少なくとも一部に、後述する潜像画像が形成された潜像画像形成領域(3)(以下「形成領域」という。)を有している。なお、図1に示すように、形成領域(3)以外の領域には、料額、文字、他の模様等の必要な情報が、公知の印刷方式(例えば、オフセット印刷、凹版印刷等)により施されてもよい。
基材(2)は、上質紙、コート紙、アート紙等の用紙を用いることができる。ただし、本発明のすき入れ模様を形成するために、凹形状を構成する必要があることから、基材(2)の厚みは20μm〜1000μmが好ましい。
図2は、本発明の形成体(1)の形成領域(3)を示す拡大図である。形成領域(3)は、すき入れ模様の第1の潜像画像(4)を有している。なお、詳細は後述するが、図2(a)は、第1の画線(5)が第1の方向(S1)に万線状に配置されているが、この第1の画線(5)は、必ずしも同じ方向である第1の方向(S1)に配列されていなくてもよく、図5(b)に示すように、異なる方向に第1の画線(5)が配列されていてもよい。以降では、第1の方向(S1)方向に配列されていることとして説明する。また、本発明における「万線状に配置」とは、複数の画線が重ならないように配列されていることをいう。
図3(a)に示すように、形成領域(3)を真上から観察(以下「第1の観察点(L1)」という。)した場合、有意味情報は視認されないが、透過光下で観察(以下「第2の観察点(L2)」という。)した場合、第1の潜像画像(4)は、基材(2)の厚みが薄いため、光の透過率が高くなり、すき入れ画像として視認される。次に、第1の潜像画像(4)について、詳細に説明する。
(第1の潜像画像)
図4は、第1の潜像画像(4)を示す平面図である。第1の潜像画像(4)は、基材(2)よりも、厚みが薄い点線状の第1の画線(5)が、第1の方向(S1)に第1のピッチ(P1)で複数配置されて成る。なお、本発明において、「第1の方向」とは、基材(2)に第1の画線(5)が配置される方向のことである。
第1のピッチ(P1)は、限定されるものではないが、形成体(1)を貴重印刷物とした場合、第1のピッチ(P1)は、80μm〜1000μmの範囲で形成されるのが、好ましい。
第1のピッチ(P1)を1000μmより広くすることも可能であるが、第1の潜像画像(4)を付与する形成領域(3)が大きくなり、貴重印刷物を構成するデザイン、例えば、他の印刷図柄の制約を受けるため、好ましくない。また、第1のピッチ(P1)を80μmより狭くすることも可能であるが、第1の画線(5)は、基材(2)自体の厚さを異ならせて形成するため、第1のピッチ(P1)が80μmより狭いと、製造上困難であり、好ましくない。
図5(a)は、図4に示した領域(Z1)の拡大図である。第1の画線(5)は、基材(2)よりも透過率の高い実線部(5a)と、実線部(5a)の画線長さ方向(S2)に隣接又は近接して配置された、輪郭部(5b)から成る。なお、図5(a)では、実線部(5a)は、連続線で形成されているが、これに限定されるものではなく、一つの画線上に配置されるように、点や画素を複数配置して、実線部(5a)を構成してもよい。ただし、点や画素で構成する場合に、隣り合う点や画素の間隔は、本発明の特徴点である輪郭部(5b)とは異なるため、その間隔は、輪郭部(5b)よりも狭くしなければならない。
図5(b)は、図5(a)のA1−A1’断面図である。実線部(5a)は、第1の潜像画像(4)を構成する要素であり、基材(2)に対して凹形状で形成される。よって、実線部(5a)は、透過光下で、基材(2)よりも明るく(白く)視認される。
実線部(5a)が、基材(2)よりも明るく視認されるためには、基材(2)よりも高い透過率が必要である。本発明において、「基材(2)よりも透過率の高い、実線部(5a)の透過率」とは、第2の観察点(L2)において、基材(2)よりも、実線部(5a)の明度が5以上高いことをいう。基材(2)と実線部(5a)の明度差(ΔL)が5以上の場合、第2の観察点(L2)において、実線部(5a)と基材(2)を区分けして視認することが可能となる。
明度差(ΔL)は、第2の観察点(L2)で、測色計を用いて、基材(2)及び実線部(5a)の明度(L)の値をそれぞれ測定する又はスキャナ等で基材(2)及び実線部(5a)を透過画像として取り込んだ後、透過画像を画像処理ソフトを用いて、明度(L)の値をそれぞれ測定することで算出される。
実線部(5)の第1の画線(5)の厚さ(h2)は、限定されるものではないが、前述したような、形成体(1)を貴重印刷物とした場合、30μm〜70μmの範囲で形成されるのが好ましい。
厚さ(h2)を70μm以上とすることも可能であるが、基材(2)の厚さ(h1)や基材(2)を構成する材料によっては、基材(2)と実線部(5)の透過率があまり変わらず、透過光下で第1の潜像画像(4)が不鮮明に視認されるため、好ましくない。また、厚さ(h2)を30μm以下とすることも可能であるが、厚さ(h2)が薄くなることで、形成体(1)の耐久性が低下し、好ましくない。
輪郭部(5b)は、第1の潜像画像(4)の輪郭の一部を構成する要素であり、実線部(5a)と透過率の異なる凹形状又は凸形状で形成されるが、まず、輪郭部(5b)を凸形状で形成した例について説明する。
輪郭部(5b)は、第2の観察点(L2)で、実線部(5a)と透過率が異なる。よって、第2の観察点(L2)では、第1の潜像画像(4)が透過率の異なる輪郭部(5b)の一部が強調されて視認されることで、従来より、鮮明なすき入れ模様を視認することが可能となる。
本発明において「異なる透過率」とは、実線部(5a)と輪郭部(5b)の明度差(ΔL)が5以上であることをいう。実線部(5a)と輪郭部(5b)の明度差(ΔL)が5以上の場合、第2の観察点(L2)である透過光下で観察した場合、実線部(5a)と輪郭部(5b)を肉眼で区分けして視認することが可能となる。
なお、明度差(ΔL)の測定方法は、前述した基材(2)及び実線部(5a)と同様であることから説明を省略する。
加えて、第1の潜像画像(4)は、従来のすき入れ模様と比べて、透かしインキを用いた偽造防止効果に優れた模様とするために、輪郭部(5b)の画線長さ(X1)と基材(2)の厚さ(h1)の関係は、X1<h1×2の式が成立するように配置される。なお、輪郭部(5b)の画線長さ(X1)についての下限は、特に限定するものではなく、輪郭部(5b)が形成可能な長さであればよい。
この輪郭部(5b)の画線長さ(X1)と基材(2)の厚さ(h1)の関係は、第1の画線(5)の実線部(5a)を疑似的に透かしインキ用いて再現しようとした場合、透かしインキは、基材(2)の厚さ(h1)方向に浸透することで繊維間の空隙を埋め、透過率を増やすことができるが、同時に基材(2)の第1の方向(S1)及び画線長さ方向(S2)方向についても同程度に透かしインキが浸透することとなる。よって輪郭部(5b)に隣接する実線部(5a)は、共に基材(2)の厚さ(h1)分の透明インキが滲み、輪郭部(5b)を再現できないことから、輪郭部(5b)の画線長さ(X1)は、基材(2)の厚さ(h1)の2倍以下の比率で構成することで、透明インキによる偽造を防止できる。
図4では、配置されている全ての第1の画線(5)が輪郭部(5b)を有しているが、必ずしも、第1の潜像画像(4)を構成する第1の画線(5)に輪郭部(5b)を有している必要はなく、第1の潜像画像(4)を構成する少なくとも一つの第1の画線(5)が有していればよい。あくまでも、本発明の課題としては、画線から成るすき入れ画像を、透かしインキにより偽造することを防止するものであるため、透かしインキでは形成不可能な輪郭部(5b)が一つでも第1の潜像画像(4)を構成している画線にあれば、それは真正の本発明の形成体(1)であることが証明可能である。ただし、更なる画像効果を奏するには、図4に示すように、全ての第1の画線(5)が輪郭部(5b)を有していると、第1の潜像画像(4)の形状を鮮明に表現することができ、好ましい。以下、全ての第1の画線(5)が輪郭部(5b)を有していることとして説明する。
なお、図5(b)では、輪郭部(5b)の厚さ(h4)が、基材(2)の厚さ(h1)と同じであるが、これに限らず、実線部(5)と異なる透過率であれば、基材(2)と異なる厚さ、例えば、基材(2)よりも厚く又は薄くすることも可能である。
図6は、第2の観察点(L2)から視認された第1の潜像画像(4)を示す平面図である。図5を用いて前述したように、実線部(5a)と輪郭部(5b)から成る第1の画線(5)を配置することで、第2の観察点(L2)では、図6に示す第1の潜像画像(4)が視認可能となる。なお、図6において輪郭部(5b)は、花びらの一部に黒色の細線を構成している。輪郭部(5b)を、実線部(5a)と透過率の異なる凸形状で形成した場合、実線部(5a)よりも、輪郭部(5b)が暗く(黒く)視認される。よって、図6に示すように、4枚の白い花びらから成る第1の潜像画像(4)の輪郭の一部が、白い花びらよりも暗い黒色で視認される。
次に、輪郭部(5b)を、実線部(5a)と透過率の異なる凹形状で形成した場合について説明する。図7は、輪郭部(5b)を凹形状とした場合の、図5(a)におけるA1−A1’断面図である。輪郭部(5b)の厚さ(h4)は、凹形状の実線部(5a)よりも、薄く形成する。
輪郭部(5b)を、実線部(5a)と透過率の異なる凹形状で形成した場合、視認される第1の潜像画像(4)の輪郭部(5b)は、図6に示した、黒色ではなく、実線部(5a)よりも、白く(明るく)視認される。よって、図示しないが、4枚の白い花びらから成る第1の潜像画像(4)の輪郭の一部が、白い花びらよりも明るい白色で視認される。
なお、輪郭部(5b)を凹形状とした場合、実線部(5a)よりも薄く、かつ、基材(2)を貫通しない厚さであれば、厚さ(h4)は、限定されるものではないが、前述したような形成体(1)を貴重印刷物とした場合、30μm〜70μmの範囲で形成され、かつ、実線部(5a)の厚さ(h2)と30μm以上異なるのが、好ましい。
厚さ(h2)を70μm以上とすることも可能であるが、基材(2)の厚さ(h1)及び実線部(5a)の厚さ(h2)によっては、基材(2)、実線部(5)及び輪郭部(5b)の透過率があまり変わらず、透過光下で第1の潜像画像(4)が不鮮明に視認されるため、好ましくない。また、厚さ(h2)を30μm以下とすることも可能であるが、厚さ(h2)が薄くなることで、形成体(1)の耐久性が低下し、好ましくない。
また、輪郭部(5b)の厚さ(h4)を、実線部(5a)の厚さ(h2)に対して30μm未満とすることも可能であるが、基材(2)に用いる用紙によっては、実線部(5a)と輪郭部(5b)の透過率があまり変わらず、透過光下で濃淡のない等色の白色として視認されため、第1の潜像画像(4)が不鮮明となり、好ましくない。
図8は、第1の画線(5’)を透かしインキで構成した場合を説明する模式図であり、図8(a1)は、透かしインキから成る第1の画線(5’)を示す平面図であり、図8(a2)は図8(a1)のX2−X2’断面図である。図8(a1)及び図8(a2)に示すように、第1の画線(5)を透かしインキを用いて再現しようとした場合、透かしインキが基材(2)に浸透することで、隣り合う実線部(5a’−1)と実線部(5a’−2)が滲むことで、隣り合う実線部(5a’−1)及び実線部(5a’−2)の間に配置される必要のある、輪郭部(5b’)が消失する。
よって、透過光下では、図6に示した、第1の潜像画像(4)の輪郭の一部である、輪郭部(5b)から成る花びら内の黒色の細線が、図8(a3)に示すように消失するため、輪郭部(5b)を凹形状又は凸形状で構成した本発明の第1の潜像画像(4)とは異なる画像(4I)が視認されるため、真偽判別を容易に行うことが可能となる。
輪郭部(5b)の画線長さ(X1)は、輪郭部(5b)の画線長さ(X1)と基材(2)の厚さ(h1)の関係が、X1<h1×2の式が成立するように配置されていれば、複数配置された輪郭部(5b)において、画線長さ(X1)は、同じ長さでも、少なくとも二つ以上異なる長さでもよいが、全て同じ画線長さ(X1)で形成されることが、より好ましい。
透かしインキは、基材(2)に印刷されると、透かしインキが基材(2)に浸透する。その際「にじみ」が発生するが、同じ透かしインキ及び同じ基材(2)を用いたとしても、複数配置した輪郭部(5b)において、同じ形状の「にじみ」とすることは、極めて難しい。よって、複数の輪郭部(5b)の画線長さ(X1)を、全て同じ長さで形成することで、透かしインキを用いて、輪郭部(5b)を再現しようとした場合、複数の輪郭部(5b)において、「にじみ」の度合いに差が生じ、透過光下で偽造品を観察した場合、より画像(4I)に違和感が生じることから、形成体(1)の偽造抵抗力が、向上する。
なお、図5(b)では、第1の潜像画像(4)を構成する第1の画線(5)の実線部(5a)の厚さ(h2)は一定である。第1の画線(5)の厚さ(h2)を一定とした場合、透過光下で第1の潜像画像(4)は、階調を有しないすき入れ模様として視認される。第1の潜像画像(4)を形成する第1の画線(5)の厚さ(h2)又は断面形状を変化させることで、第1の潜像画像(4)は、階調を有するすき入れ模様として視認される。なお、第1の画線(5)の幅(W1)とは、第1の画線(5)における第1の方向(S1)の幅とする。
例えば、図9(a)に示す第1の潜像画像(4)は、図9(b)のB−B’断面図に示すように、第1の画線(5)が、厚さ(h2)の異なる、二種類の第1の画線(5−1、5−2)から成る。第1の画線(5−1)は、第1の画線(5−2)と比べて厚いため、透過光量が少なくなる。よって、透過光下で、第1の画線(5−2)と比べて、第1の画線(5−1)は黒く(暗く)視認されることから、第1の潜像画像(4)は、階調を有するすき入れ模様として視認される。
次に、断面形状を異ならせることにより、第1の潜像画像(4)に階調を付与した構成について説明する。
図10は、第1の潜像画像(4)を形成する第1の画線(5)の他の断面形状を示す断面図である。図10(a)、図10(b)、図10(c)及び図10(d)は、前述した図9(b)の断面図と同様に、基材(2)を第1の方向(S1)に対して平行に切断した断面図である。
図10(a)、図10(b)、図10(c)及び図10(d)に示すように、複数の第1の画線(5)は、少なくとも一つの第1の画線(5)の幅(W1)又は厚さ(h2)を、他の第1の画線(5)と異ならせることにより、第1の画線(5)の透過率に差を生じさせることが可能である。
なお、幅(W1)及び厚さ(h2)は、どちらか一方のみを異ならせた構成でも、両方を異ならせた構成でもよい。さらには、図示しないが、一つの第1の画線(5)内で、幅(W1)及び厚さ(h2)を異ならせることも可能である。一つの第1の画線(5)内で、幅(W1)及び厚さ(h2)を異ならせることにより、一つの第1の画線(5)内で透過率を変化させることが可能となる。
以上、第1の画線(5)は、幅(W1)及び断面形状を異ならせた場合、その形状の変化に対応し、透過率が異なり濃淡が生じて視認される。それにより、階調を有する第1の潜像画像(4)を形成することが可能となる。
次に、第1の画線(5)の形成方法について説明する。第1の画線(5)は、基材(2)上に、すき入れ、レーザ加工等、基材(2)と透過率を異ならせることが可能な形成方法にて付与される。
すき入れによる第1の画線(5)の形成は、基材(2)を紙とした際の抄紙工程で、すき入れを施すことが可能な公知の抄紙機を用いて形成される。また、レーザ加工による第1の画線(5)の形成は、公知のレーザ加工装置を用いて基材(2)の一部を除去することで形成する。基材(2)に対し、第1の画線(5)の周囲をレーザ加工により除去することで形成した場合、除去した領域は、第1の画線(5)より薄く(凹形状)なる。
以上、第一実施形態の形成体(1)は、第2の観察点(L2)である透過光下で観察した場合、微細な凹形状又は凸形状の画線から成るすき入れ模様である第1の潜像画像(4)が視認されるとともに、第1の潜像画像(4)を透かしインキを用いて再現しようとした場合には、透かしインキのにじみにより、輪郭の一部が消失することから、同じ形状の画像として再現することが困難となる。よって、従来よりも、偽造抵抗力が優れたすき入れ模様を有する形成体(1)となる。
(第二の実施形態)
図11(a)は、第二の実施形態における形成体(1)の形成領域(3)を示す平面図である。なお、第一の実施形態と同様の内容についての説明は、省略する。
第一の実施形態では、形成領域(3)内に、第1の潜像画像(4)のみ形成されていたが、第二の実施形態における形成領域(3)は、図11(b)に示す第1の潜像画像(4)に加え、図11(c)に示す凸形状の複数の第2の画線(6)から成る第2の画像(7)と、図11(d)に示す印刷画線である複数の第3の画線(8)から成る第3の画像(9)が組み合わされて形成されている。
第二の実施形態は、第一の実施形態と同様に、形成領域(3)を透過光下で観察した場合、第1の潜像画像(4)が視認できるが、加えて、図12(a)に示すように、第1の観察点(L1)である正面から観察した場合、基材(2)と異なる色で第3の画像(9)が可視画像として視認でき、更に、斜めからの観察(以下「第3の観察点(L3)」という。)では、図12(b)に示すように、第2の画線(6)と第3の画線(8)の配置により、第3の画像(9)の色が視認できる部分と、第3の画像(9)の色が視認できない部分が生じ、第2の潜像画像(10)である「JPN」が視認できるものである。
つまり、第二実施形態の形成体(1)は、観察方法により、最大で三つの異なる画像を視認可能な形成領域(3)を備えている。以下、形成領域(3)に形成されている第2の画像(7)、第1の潜像画像(4)及び第3の画像(9)について、詳細に説明する。
(第2の画像)
まず、第2の画像(7)について説明する。第2の画像(7)は、図13(a)に示すように、第2の画線(6)が、前述した第1の潜像画像(4)を構成する第1の画線(5)と同じ方向である、第1の方向(S1)に、第1の画線(5)と同じピッチである第1のピッチ(P1)で複数配置されて成る。
第2の画像(7)は、図13(a)のA−A’線の断面図である図13(b)に示すように、透過画像である第1の潜像画像(4)を構成する凹形状の複数の第1の画線(5)の各画線間に形成された、凸形状の複数の第2の画線(6)から成る。
第二の実施形態の形成体(1)は、透過光下に加え、新たに正面からの観察である第1の観察点(L1)で視認可能な第3の画像(9)と、斜めからの観察である第3の観察点(L3)で視認可能な第2の潜像画像(10)が付与されている。凹形状の第1の画線(5)間に、凸形状の第2の画線(6)が形成されることで、第1の画線(5)、第2の画線(6)及び基材(2)の透過率が互いに異なり、透過画像である第1の潜像画像(4)が視認されるとともに、斜めから観察されることで、凸形状の第2の画線(6)の死角に第3の画線(8)の一部が配置されることで、第2の潜像画像(10)を視認することが可能となる。
なお、第2の画線(6)の断面形状は、図13(b)に示す半円状に限らず、図14(a)に示す三角形状や、図14(b)に示す台形形状としてもよい。
第2の画線(6)の形成方法は、エンボス加工や、盛り上がりを有する印刷画線を得られる公知の印刷方法(例えば、凹版印刷、スクリーン印刷、UV-IJP等)とする。また、凸形状を形成するために他を除去して凸形状を残すことでも、第2の画線(6)を形成することが可能である。例えば、抄紙工程におけるすき入れや、基材(2)の一部をレーザ加工によって除去することで形成することができる。
第2の画線(6)の断面形状は、図13及び図14に示す形状に限定されるものではなく、第1の観察点(L1)から観察したときに、凸形状の表面全面が観察でき、第3の観察点(L3)から観察したときに、凸形状の場合、手前側となる表面が観察でき、奥側となる表面が観察できない形状であればよい。なお、第3の観察点(L3)から観察したときの凸形状の表面の見え方についての詳細は、後述する。
第2の画線(6)は、図13(a)において、画線で構成しているが、それに限らず、画線、複数の画素の少なくとも一つ又はそれぞれの組み合わせで構成してもよい。本発明において、「画線」とは、直線、破線、波線等のことであり、「画素」とは、所定の形状を有する文字、数字、記号、図形、マーク等のことである。
図15は、画素(6a)の形状を示す一例である。複数の画素(6a)を用いて第2の画線(6)を形成する場合、肉眼で画線と視認できるように、複数の画素(6a)が画線状に配置される必要がある。以下、本実施の形態については、第2の画線(6)を、図13(a)に示す直線として説明する。
図16に示すように、第2の画線(6)の幅(W2)は、第2の画線(6)における第1の方向(S1)の幅(W2)とする。第2の画線(6)の幅(W2)は、後述する潜像部(11)及び背景部(12)の区分けができ、かつ、第2の潜像画像(10)が鮮明に視認できるように、第1のピッチ(P1)に対応して形成される。
第1のピッチ(P1)に対応した第2の画線(6)の幅(W2)の範囲は、第1のピッチ(P1)に対し、1/5〜4/5の広さの範囲が好ましく、例えば、第1のピッチ(P1)が80μmのとき、第2の画線(6)の幅(W2)は、16μm〜64μmとし、第1のピッチ(P1)が1000μmのとき、第2の画線(6)の幅(W2)は、200μm〜800μmとする。このように、第1のピッチ(P1)に対し、第2の画線(6)の幅(W2)を、後述する第3の画線(8)を印刷した後の第2の潜像画像(10)の視認性を鑑みて適宜調整すればよい。
凸形状の第2の画線(6)の厚さ(h3)は、10μm〜100μmの範囲で形成される。
第2の画線(6)の厚さ(h3)を、10μmより低くしても、第2の潜像画像(10)は形成可能だが、第2の潜像画像(10)が視認できる範囲が狭くなるため、好ましくない。また、第2の画線(6)の厚さ(h3)を100μmより高くすることも可能だが、基材(2)が必要以上に厚くなり、加工効率が悪くなるという問題が生じるため、好ましくない。
なお、第一の実施形態では、第1の画線(5)における輪郭部(5b)は凹形状でも、凸形状でもよいとしていたが、第二の実施形態では、凸形状とする場合、輪郭部(5b)の厚さ(h4)は、基材の厚さ(h1)と第2の画線(6)の厚さ(h4)を足した厚さよりも、低く形成する必要がある。輪郭部(5b)の厚さ(h4)を、基材の厚さ(h1)と第2の画線(6)の厚さ(h4)を足した厚さと同じ又は高く形成した場合、第3の観察点(E3)から、視認した際に、第2の画線(6)及び後述する第3の画線(8)が、輪郭部(5b)の影となり、視認されないことで、第2の潜像画像(10)の一部に欠けが生じることから、好ましくない。
以上のように、第2の画線(6)から成る第2の画像(7)は、規則的に配置された第2の画線(6)の位相が部分的に異なることで、潜像部(11)と背景部(12)に区分けされる。
図17(a)は、潜像部(11)と背景部(12)を示す平面図である。潜像部(11)は、規則的に配置された第2の画線(6)の位相が部分的に異なることで形成した有意味情報であり、背景部(12)は、潜像部(11)の周囲に配置された背景となる部分である。なお、潜像部(11)の形状は、図17(a)に示す「JPN」の文字に限定されず、有意味情報であれば、数字、記号、図形、マーク等で形成されてもよい。
図17(b)は、図17(a)に示す領域(Z2)の拡大図であり、潜像部(11)を構成する第2の画線(6)を潜像画線(11A)とし、背景部(12)を構成する第2の画線(6)を背景画線(12A)とする。なお、潜像画線(11A)は、背景画線(12A)に対し、第1の方向(S1)とは反対方向である下側に位相を異ならせてもよい。
また、潜像画線(11A)及び背景画線(12A)は、図17(b)に示すように、離れていても、図18(a)又は図18(b)に示すように、繋がっていてもどちらでもよい。
(第1の潜像画像と第2の画像の配置)
次に、第1の潜像画像(4)と第2の画像(7)の配置について説明する。
図19は、形成領域(3)内に、第1の潜像画像(4)と第2の画像(7)が配置されている状態を示す平面図である。第1の潜像画像(4)は、第2の画像(7)内に配置される。
図20(a)は、図19に示す領域(Z3)の拡大図である。第2の画線(6)は、万線状に配置された第1の画線(5)の間に配置される。それにより、図20(a)のC−C’断面図である、図20(b)に示すように、複数の第2の画線(6)の各画線間には、第2の画線(6)よりも透過率が高い底部(U)が存在し、更に、底部(U)には、底部(U)よりも透過率が高い第1の画線(5)が配置される。
よって、透過光下である第1の観察点(L1)で観察した際には、第2の画線(6)及び底部(U)と比べて、第1の画線(5)が最も透過率が高く視認されることから、万線状のすき入れ模様内に、複数の第1の画線(5)から成る第1の潜像画像(4)を視認することが可能となる。
なお、凹形状の第1の画線(5)の間に、凸形状の第2の画線(6)を配置する場合、第1の画線(5)は、図21(a)及び図21(b)に示すように、隣り合う第2の画線(6)の凸形状間に、底面(F)を有して凹形状の第1の画線(5)を形成してもよい。
底面(F)は、第1の方向(S1)に隣り合う第2の画線(6)の間の距離(Y)から、第1の画線(5)を除いたものである。底面(F)の幅(W1T)は、第1のピッチ(P1)から第2の画線(6)の幅(W2)を引いた幅である第2の画線(6)の間の距離(Y)より狭ければ、特に制限を受けるものではない。例えば、第1のピッチ(P1)が1000μm、第2の画線(6)の幅(W2)が400μmであった場合、底面(F)の幅(W1T)は600μmより狭いものであればよい。なお、底面(F)は、前述したように、第2の画線(6)と第1の画線(5)の間の部分だけを示す。
(第3の画像)
次に、可視画像である第3の画像(9)について説明する。第3の画像(9)は、図22に示すように、第3の画線(8)が第2のピッチ(P2)で第3の方向(S3)に複数配置されて成る。本発明において、「第3の方向(S3)」とは、第3の画線(8)が配置される方向のことである。また、第3の画線(8)における第3の方向(S3)の幅を第3の画線(8)の幅(W3)とする。
第3の画線(8)は、前述した第2の画線(6)と同様に、画線、複数の画素又はこれらの組合せで形成される。
第2のピッチ(P2)は、第1のピッチ(P1)と略同じ広さで形成される。略同じ広さとは、第1のピッチ(P1)に対し、4/5〜6/5の広さの範囲である。好ましくは、同じピッチとするのがよい。これは、第1のピッチ(P1)と第2のピッチ(P2)が同じ場合、第2の画線(6)と第3の画線(8)が必ず一定の間隔で重なるため、第2の潜像画像(10)を視認しやすいからである。
第3の画線(8)の幅(W3)は、少なくとも10μmより広く、上限は、第1のピッチ(P1)に対し、9/10の広さの範囲で形成される。これは、第3の画線(8)の幅(W3)が第1のピッチ(P1)に対して9/10より広いと、潜像画線(11A)、背景画線(12A)に第3の画線(8)が重なるので、コントラストが得られず第2の潜像画像(10)が視認できないからである。また、第3の画線(8)の幅(W3)が10μmより狭いと、第2の画線(6)と第3の画線(8)の重なる面積が小さいため、第2の潜像画像(10)の視認性が低下し、好ましくない。
第1の画線(5)及び第2の画線(6)を配置する第1の方向(S1)と、第3の画線(8)を配置する第3の方向(S3)は、同じ方向でも異なる方向でもよいが、異なる方向とする場合は、第1の方向(S1)と第3の方向(S3)は、±0.5度から±3度の範囲で形成される。±0.5度から±3度の範囲とすることで、第2の潜像画像(10)が視認しやすくなる。
第3の画像(9)は、第2の潜像画像(10)よりも大きく形成され、かつ、潜像部(11)と背景部(12)を覆うように配置される。これは、潜像部(11)と背景部(12)に第3の画像(9)が重ならない部分があると、第2の潜像画像(10)全体を視認できないからである。
第3の画像(9)を形成する第3の画線(8)の色は、基材(2)と異なる色であればよく、特に限定されるものではない。
第3の画線(8)の形成方法は、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷方法、レーザ加工等を用いることができる。なお、印刷によって第3の画像(9)が形成される場合、第3の画線(8)はインキから成り、レーザ加工によって第3の画像(9)が形成される場合、第3の画線(8)は基材(2)がレーザにより変色されて成る。
次に、第3の観察点(L3)である、傾けて観察した場合に視認できる第2の潜像画像(10)について、図23及び図24を用いて説明する。なお、第1の画線(5)は除外して、第2の潜像画像(10)の視認原理について説明する。
図23(a)は、一例として凸形状であり、かつ、断面形状が半円形状の第2の画線(6)と第3の画線(8)が重なって配置された一例を示す平面図であり、その一部を拡大したものである。なお、L−L’線は、凸形状の第2の画線(6)の頂点(Q)の位置を示しており、本発明において、「凸形状の頂点」とは、基材(2)を第3の観察点(L3)から観察したときに凸形状の第2の画線(6)の手前側となる面のうち、最も高い部分のことである。
図23(a)に示す配置では、第3の画線(8)が、第2の画線(6)の頂点(Q)を境とし、第2の画線(6)の表面の半分に重なる状態を示している。このとき、第1の観察点(L1)から観察した場合、第3の画線(8)を視認することができる。
一方、第3の観察点(L3)から観察した場合、第2の画線(6)の頂点(Q)を境とし、手前側となる第2の画線(6)の表面では視認することができるが、奥側の表面は第2の画線(6)の裏側にあたり、死角となることから視認することができない。
また、基材(2)の平らな部分は、第2の画線(6)の死角となり基本的に視認することができないが、第2の画線(6)の頂点(Q)を境とし、手前側となる第2の画線(6)の表面に近い側の部分は、第2の画線(6)の形状や第2のピッチ(P2)及び画線の幅(W2)によって、視認できることもある。
また、第2の画線(6)の頂点(Q)を境とし、手前側となる第2の画線(6)の表面で視認できる範囲も、第2の画線(6)の形状、第2のピッチ(P2)及び第2の画線(6)の幅(W2)によって若干の差はあるが、以降、第2の画線(6)の頂点(Q)を境とし、手前側となる第2の画線(6)の表面のみが視認できるものとし、第3の観察点(L3)から観察した際に、第2の画線(6)の頂点(Q)を境とし、手前側となる第2の画線(6)の表面のことを「観察部(E)」、奥側となる第2の画線(6)の表面及び基材(2)の平らな部分のことを「非観察部(E’)」として説明する。
前述した、図14(b)に示した、断面形状が台形形状の第2の画線(6)が形成される場合、観察部(E)と非観察部(E’)の範囲が異なるので、次に説明する。
図24は、図14(b)に示した台形形状の断面形状を有する第2の画線(6)が形成された基材(2)に、第3の画線(8)が重なる配置の断面図である。このとき、第3の観察点(L3)から観察すると、手前側となる第2の画線(6)の表面(E1)と第2の画線(6)の上面(E2)に形成された第3の画線(8)を視認することができる。
しかし、第2の画線(6)の上面(E2)に形成される第3の画線(8)は、手前側となる第2の画線(6)の表面(E1)に形成される第3の画線(8)に対して視認性が弱く、第2の潜像画像(10)の視認性への影響は小さいため、手前側となる第2の画線(6)の表面(E1)に重なる第3の画線(8)により、第2の潜像画像(10)が視認される。
したがって、図24に示す第2の画線(6)は、第3の観察点(L3)から観察した際に、手前側となる第2の画線(6)の表面(E1)が観察可能となる。また、図24に示す第2の画線(6)の非観察部(E’)の範囲は、頂点(Q)を境とし、奥側となる第2の画線(6)の表面、第2の画線(6)の上面(E2)及び基材(2)の平らな部分となる。
このように、第3の画線(8)が、第2の画線(6)の観察部(E)に重なる場合、第3の観察点(L3)から第3の画線(8)を視認することができ、第2の画線(6)の観察部(E)に重ならない第3の画線(8)は、視認することができない。
第2の潜像画像(10)は、以上の視認原理を利用しており、第2の画像(7)の潜像画線(11A)及び背景画線(12A)を異なる位相で配置することで、第2の画線(6)と第3の画線(8)の重なり方が異なり、その結果、第3の観察点(L3)から観察したとき、第2の潜像画像(10)が視認される。
次に、潜像画線(11A)及び背景画線(12A)を構成する第2の画線(6)と第3の画線(8)の具体的な配置と、第3の観察点(L3)から視認できる第2の潜像画像(10)ついて説明する。なお、第1の画線(5)は除外して第2の潜像画像(10)の視認原理について説明する。また、第2の潜像画像(10)を、図25、図26及び図27では、ローマ字の「A」という有意味情報とした一例について、説明する。
まず、図25を用いて、第1の配置について説明する。図25(a)は、第1の配置である、第3の画線(8)が、潜像画線(11A)の全体及び背景画線(12A)の観察部(E)の一部に重なる状態を示している。また、背景画線(12A)の観察部(E)に重なる第3の画線(8)の面積率が、潜像画線(11A)の観察部(E)に重なる第3の画線(8)の面積率より小さい状態を示している。
第1の配置の形成体(1)を第3の観察点(L3)から観察した場合、潜像画線(11A)の観察部(E)と背景画線(12A)の観察部(E)に第3の画線(8)が重なるため、潜像部(11)と背景部(12)が第3の画線(8)の色で視認できる。このとき、背景画線(12A)の観察部(E)に重なる第3の画線(8)の面積率が、潜像画線(11A)の観察部(E)に重なる第3の画線(8)の面積率より小さいため、図25(b)に示すように、第2の潜像画像(10)として背景部(12)は潜像部(11)より明るい色で視認できる。
次に、図26を用いて、第2の配置について説明する。図26(a)は、第2の配置である第3の画線(8)が、潜像画線(11A)の観察部(E)の少なくとも一部に重なり、背景画線(12A)の観察部(E)に重ならない配置を示す。
第2の配置の形成体(1)を第1の観察点(L1)から観察した場合、潜像画線(11A)の観察部(E)に第3の画線(8)が重なっているため、潜像部(11)が第3の画線(8)の色で視認できる。その結果、図26(b)に示すように第2の潜像画像(10)として潜像部(11)のみが、第3の画線(8)の色で視認できる。
次に、図27を用いて、第3の配置について説明する。図27(a)は、第3の配置である、第3の画線(8)が背景画線(12A)の観察部(E)の少なくとも一部に重なり、潜像画線(11A)の観察部(E)に重ならない配置を示す。
第3の配置の形成体(1)を第3の観察点(L3)から観察した場合、背景画線(12A)の観察部(E)と第3の画線(8)が重なっているため、背景部(12)が第3の画線(8)の色で視認できる。その結果、図27(b)に示すように第2の潜像画像(10)として背景部(12)のみが第3の画線(8)の色で視認できる。
つまり、第2の画線(6)と、第3の画線(8)との位置関係が、第1の配置、第2の配置、第3の配置いずれの位置関係であっても、第2の潜像画像(10)を視認することが可能である。このことから、製造時における第2の画線(6)と第3の画線(8)との位置合わせに高い精度を必要としないため、生産性に優れている。
以上の構成と、各画像の観察原理により、第二の実施形態の形成体(1)を、第2の観察点(L2)である透過光下で観察した場合には、すき入れ模様として花の形状である第1の潜像画像(4)が視認され、第1の観察点(L1)である正面から観察した場合には、万線状の第2の画像(7)が視認され、更に、第3の観察点(L3)である可視光源下で傾けて観察した場合には、第1の潜像画像(4)とは異なる図柄の「JPN」の文字である第2の潜像画像(10)が視認できる。