以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明による香り発生装置では、芳香剤を充填する充填領域を有するカートリッジは、ケース内にスライド可能に収容される。スライド動作としては、直線的なスライドと、曲線的な、典型的には回転スライドがある。ケースの外形としては、カード型、円盤型、円筒型、球型などが考えられる。以下では、典型的な例として、直線的なスライド動作を行う実施の形態としてカード型の香り発生装置、曲線的なスライド動作を行う実施の形態として円盤型および円筒型の香り発生装置を挙げて、具体的に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るカード型の香り発生装置の斜視図を示している。この香り発生装置は、液状または霧状の芳香剤を充填する充填領域を有する板状のカートリッジ20と、このカートリッジ20をスライド可能に収容するカード状のケース(容器)10とを備える。「カートリッジ」とは、ケース10に対して交換可能に着脱できる部品を意味する。図1(a)は、分離したケース10とカートリッジ20を表面側の斜め上から見た斜視図、図1(b)はこれと同じものを裏面側の斜め上から見た斜視図、図1(c)はカートリッジ20を表面側の斜め上から見た分解斜視図である。第1の実施の形態では、便宜上、香りが放散するケースの面を表面と呼ぶ。図1(a)(b)(c)は、視認性向上のため、その表面サイズに比べて厚さを誇張して示している。ケース10の表面の一端側には、その内部に収容したカートリッジ20の一部を通気孔として外部に露出するための透孔(または開口)12を有している。
透孔12の個数は典型的には複数個であるが、後述するように単一個の場合もありうる。本発明における透孔に必要なことは、ケース10内のスライド範囲内でカートリッジ20がスライドすることにより、充填領域が透孔12に重なる重畳面積が段階的またはほぼ連続的に変化するような幅または拡がりを透孔単体または透孔の集合が有することである。図1に示した例ではケース10に複数の透孔12が設けられている。個々の透孔12のサイズは、内部に位置する含浸部材22に透孔12を通してユーザの指や外部の物が接触することが防止される程度に、また、1つの透孔で過度の香りの放散が得られることが防止される程度に、小さいことが望ましい。透孔12の個数は、段階的またはほぼ連続的に放散度合いが変化するように、複数設けられることが好ましい。透孔の形状は円形としたが、任意の形状であってよい。例えば、文字やロゴの形状としてもよい。
カートリッジ20には、図1(c)によく表れるように、その板状の本体部の一面のほぼ全面に亘って充填領域を定める所定の深さを有する凹部21が形成されている。この凹部21に、液状または霧状の芳香剤を内部に含浸する含浸部材22が固定配置される。その固定の方法は嵌着、接着、圧着等、任意である。
含浸部材22は、液状または霧状の芳香剤を吸収含浸する多数の微細な空隙を有する繊維状の素材からなる部材または多孔性の部材で構成される。含浸部材22の厚さは凹部21の深さより若干薄く設定される。すなわち、カートリッジ20がケース10に収容された状態で、凹部21の周囲の表面はケース10の内壁に接触(好ましくは密接)するが、凹部21に収容された含浸部材22はケース10の内壁から離間した状態にある。これにより、凹部21によりケース10の内壁との間に薄い空気層(空間)が形成される。この実施の形態における典型的な含浸部材22は含浸シートであり、その好適な例として金属繊維シートを用いる例を説明する。金属繊維シートは、極細の金属繊維の集合がシート状に成型されたものであり、香水、コロン、エッセンシャルオイル等の芳香剤の含浸特性に優れる。すなわち、その多数の微細な空隙構造により、注入する液体に勢いがついて流れたり、撥ねたり、溢れたりすることが抑制される。また、香り発生装置を激しく動かしても、瓶やボトル容器などのアトマイザーと異なり、液体のままの慣性力、重力の影響を受けづらく、漏れにくい。なお、金属繊維の素材としては、耐久性、抗酸性および耐食性を有するものを採用することが好ましい。
図1に示した本実施の形態におけるカートリッジ20の厚さは、約0.5mm、凹部21の深さは約0.4mmを想定している。
香りの変更時には、カートリッジ20の材料にもよるが、カートリッジ20を洗浄(例えば超音波洗浄)することにより、同一のカートリッジ20を異なる芳香剤に再利用することができる。勿論、異なるカートリッジ20を使い分けてもよい。
カートリッジ20の端部(ケース10への挿入側と逆の端部)において、取り出し用切り欠き23を設けている。取り出し用切り欠き23は、ケース10内に収容されたカートリッジ20を後述の操作用開口13(スライド操作窓)からの操作によって、ケース10の外部へ排出する際に、カートリッジ20の端部がケース10から露出した後に、ユーザが指の爪などを引っ掛けて、カートリッジ20をさらに引き出して完全に排出するのに役立つ。図に示した取り出し用切り欠き23はカートリッジ20の表裏を貫通するものであるが、少なくとも一面に設けた溝であってもよい。取り出し用切り欠き23や溝は、カートリッジ20が完全にケース10内に収容された状態でも、スライド動作の支障とならない。
本実施の形態におけるケース10は、典型的には、ほぼクレジットカードサイズの長方形の表面形状を有する金属製の容器である。本明細書において金属とは、機械的加工を施すことが出来る固体物質であり、好ましくは、ステンレス、チタン等の、耐久性、抗酸性、耐食性を有する。金属には合金も含む。カートリッジ20の材質も好ましくは同様の金属である。
ケース10は、その一側面(この例では、短辺側)に、カートリッジ20の挿入口11を有する。この挿入口11は、カートリッジ20がケース10内にスライドして進入する空洞の端部開口を形成している。
図1(b)に示すように、ケース10の背面にはほぼ長手方向に延びる操作用開口(スライド操作窓)13が形成されている。この操作用開口13からは、内部に挿入されたカートリッジ20が露出して見える。このような構成の操作用開口13は、上記空洞に通じており、ケース10内に収容状態にあるカートリッジ20をスライド操作するためのスライド操作窓を構成する。これにより、ケース10内にカートリッジ20が完全に収容された状態でも(カートリッジ20の端部が挿入口11からはみ出さない状態においても)、ユーザは、ケース10に対するカートリッジ20のスライド動作を、ケース10の外側から実行することができる。
少なくとも操作用開口13に現れうるカートリッジ20の領域において、特に必須ではないが、ユーザ操作時の指との間の摩擦力を高めるために、表面の摩擦係数を増加させる表面加工を施してもよい。図1は梨子地加工の例を示している。表面加工としては、その他、スライド方向に直角の方向の複数の平行溝、複数のディンプル等を含む。
図2(a)〜(d)に示すように、ケース10内でカートリッジ20が所定のスライド範囲(すなわち第1の位置と第2の位置の間)を移動(直線的にスライド)することにより、香りの放散度合いを変化させることができる。第1および第2の位置ならびにその中間の位置で、カートリッジ20はケース10の内部に完全に収容されている。より具体的には、カートリッジ20は、図2(a)に示す第1の位置において含浸部材22の充填領域が透孔12に重なる重畳面積がゼロ(開口率0%)であり、図2(d)に示す第2の位置において前記重畳面積が最大(開口率100%)となる。図2(b)(c)に示すような、第1および第2の位置の中間の位置(それぞれ開口率が約66%と約33%)を含めて、全スライド範囲内で前記重畳面積が段階的に変化する。
図3(a)は、図1に示したカートリッジ20の変形例としてのカートリッジ20aの構成例を示している。図3(b)は、分離したカートリッジ20aの部品を表面側の斜め上から見た斜視図である。
図1に示したカートリッジ20は、その凹部21で定まる充填領域(含浸部材22の領域)をその表面のほぼ全面に設けたが、図3の例では、図3(b)によく表れるように、その一面の端部寄りにより短い長さの凹部21aで定まる充填領域を設けている。含浸部材22aはこの凹部21aに収容されるサイズとしている。カートリッジ20aはカートリッジ20に比べて、その面積の減少分だけ芳香剤の含浸容量(保持容量)が低下する反面、カートリッジ20aとケース10の内壁との接触面積が大きくなるので、密閉性が向上し、挿入口11から香りが漏れる可能性を低減することができる。
図4(a)(b)は、それぞれ、本実施の形態による香り発生装置のケースのサイズおよび厚さについて、より好ましい寸法比の実際的なケースの試作品の外観を示す表面側斜視図と背面側斜視図である。ケース10bのサイズは、クレジットカードとほぼ同じ縦横サイズ(85.5mm×54mm)であり、厚さは約1mmを想定している。挿入口11につながるケース10bの内部の空間の厚さは約0.5mmを想定している。この厚さは、ケース10bにカートリッジ20b(図8で後述)が挿入されたとき、カートリッジ20bの凹部(含浸部材)の周囲の表面とケース10bの内壁とが密着するよう、高精度の寸法で精密加工される。
図5(a)〜(g)は、それぞれ、図4に示したケース10bの平面図、正面図、B−B線矢視端面図、底面図、C−C線矢視端面図、右側面図、および背面図である。図6は、図5(b)に示した円形領域15の内部の拡大図である。この例では、ケース10bには多数の透孔12bが設けられている。したがって、カートリッジ20bのスライドによって、香りの放散の度合いはほぼ連続的に可変となる。
図7(a)(b)は、図4、図5に示したケース10bに対応したカートリッジ20bの構成例を示す斜視図および分解斜視図である。図7(b)から分かるように、凹部21bに含浸部材22bが収容される。この凹部21bの深さは約0.4mmである。図8(a)(b)(c)は、図7に示したカートリッジ20bの正面図、A−A線矢視端面図、背面図である。このカートリッジ20bの縦横サイズは58.1mm×46.2mmであり、厚さは約0.5mmである。カートリッジ20bの角部には必須ではないが、アールを施してある。
図7、図8に示したカートリッジ20bの含浸部材22bとしての金属繊維シートは、例えば、金属繊維を絡み合わせてフェルト状に構成したものである。この金属繊維シートの材質としては、例えば既存の抗耐食ステンレス鋼などを利用できる。本例では、金属繊維シートの厚さは、0.2mm(板:0.035mm+繊維:0.165mm)、サイズは、46.1mm×38.2mmである。
一般に、香りを発生する香水、コロン、エッセンシャルオイルなどの液体は、オイル、アルコール等の含有成分により、粘性や毛細管現象での振る舞いに応じて、同じ含浸部材であっても浸透率(浸透しやすさ)が異なる。このような液体毎に異なる性質により、含浸部材に対して、染みすぎる(=漏れやすい)、染みない(=含浸、拡散しづらい)、などの課題が生じる。本実施の形態では、含浸シートの利用によりこのような課題を解決する。
特に極細の繊維の集合である含浸シートは、上述したとおり、香水、コロン、エッセンシャルオイル等の芳香剤の含浸特性に優れる。すなわち、芳香剤の注入時に吸収しやすく、含浸部材の全域で芳香剤を漏れることなく保持する。
このように含浸された芳香剤は、香り発生装置の使用時に、主として外気に触れる部分から揮発・放散される。(この放散の度合いは外部に触れる面積をスライド動作により調整することにより制御することができる。)
芳香剤を注入して使用を開始した後は、毛細管現象により、好ましくは、芳香剤が揮発して減少した箇所へ、含浸部材の内部や他の領域から芳香剤が再拡散して補給される。
本実施の形態のカード型の香り発生装置の用途としては、(1)名刺入れに名刺と共に収納して、名刺にほのかな香りを移す、(2)財布に収納して、財布を使用する度に香るようにする、(3)身体に香水やコロンを付けなくても、衣服のポケットや鞄等に収納して、身体の周辺から香るようにする、(4)カードスタンドに立てて置物として使用する、等が考えられる。
図9は、カートリッジ20bの裏面の表面加工の他の例として、所定の模様をエッチング加工した例を示している。カートリッジ裏面のエッチング加工は、ケース裏のスライド操作窓である操作用開口13(図4(b))から親指などを差し込んで操作する際に、摩擦係数を増加させることにより指の滑り止めとして機能する。ここでは、装飾効果をも狙った模様の一例として、ペイズリー柄40としている。
図10に、図4に示したケース10bの変形例の外観を示す。ケース10bでは、操作用開口13をケース10bの裏面のほぼ中央に設けたが、この変形例では、操作用開口13bの一端がケース10bの裏面の挿入口11bにつながって開放された例を示している。この場合、ケース10bに対するカートリッジ20bの挿入、取り出しの操作がより容易となることが期待できる。したがって、ケース10bについては、カートリッジ20bの取り出し用切り欠き23は必ずしも設ける必要はない。
図11は、含浸部材22としての含浸シートの説明図である。第1の実施の形態に関しては、この図では、便宜上、厚さを拡大して示してある。
図11(a)に示すように、含浸部材22としての含浸シート26はカートリッジ20の凹部21に装着する際、単体の含浸部材22を凹部に押し込んで固定する等の方法により単独で装着することができる。これに対して、同図(b)に示すように、接着部材29を介してカートリッジ20の凹部21に接着するようにしてもよい。接着部材29としては、接着剤や両面テープなどが利用できる。含浸部材22の形状、サイズ、厚さは後述する変形例や他の実施の形態も含めて、用途や状況に応じて変わりうる。
図12に、図1に示した香り発生装置の変形例を示す。この変形例でのカートリッジ20cは、含浸部材22cとして、上記含浸部材22の挿入方向先端側を斜めに切除した形状のものを用いる。カートリッジ20cに設けられる凹部21cもこの含浸部材22cの形状に合わせた形状を有する。ケース10cは、その透孔12cとして、カートリッジ20cのスライド方向を横切る方向に延びる単一の長孔(ここでは横長透孔)の例を示している。単一の長孔の代わりに、複数の細孔を直線状に羅列した構成であってもよい。
図13は、図12に示した香り発生装置の動作説明図である。カートリッジ20cをケース10cの奥方向へ挿入していく際、含浸部材22cの傾斜した先端部が透孔12c(横長の長孔)をその一端側から他端側へ連続的に乗り越えていく。これにより、透孔12cと含浸部材22cの重複面積が連続的に変化(増加)していく。すなわち、ケース10cに対するカートリッジ20cのスライド動作に伴って、香りの放散度合いが連続的に変化する。
ところで、上述した香り発生装置のいずれの構成も、ケースに対してカートリッジの表裏を逆に挿入する誤操作がなされるおそれがある。ケースの表裏や挿入方向を、カートリッジへの印刷表示等によりユーザに知らしめるとしても、構造的に表裏逆挿入を防止できれば好ましい。
図14(a)(b)は、カートリッジの表裏逆挿入を防止する目的のために、ケースの挿入口の両端の形状を異ならせるとともに、これに合わせてカートリッジの両側部の断面形状を異ならせた2例を示している。
図14(a)に示したケース10dはその挿入口11dの一端側を矩形形状とし、他端側を山形(<)形状14aとしたものである。これに対応するカートリッジ20dは、スライド方向に沿った両側部のうちの一方の断面形状を矩形形状とし、他方の断面形状を山形(<)形状24aとしている。
図14(b)に示したケース10eはその挿入口11eの一端側を矩形形状とし、他端側を傾斜(/)形状14bとしたものである。これに対応するカートリッジ20eは、スライド方向に沿った両側部のうちの一方の断面形状を矩形形状とし、他方の断面形状を傾斜(/)形状24bとしている。このような特殊な形状の例として、山形形状と傾斜形状を挙げたが、挿入口の両端(およびカートリッジの両側部)の形状を互いに異ならせることができれば、これらの形状に限るものではない。
図15は、表裏逆挿入を防止するためのさらに他の構成例を示す。図15(a)はこの構成例におけるケース10fとカートリッジ20fの外観構成を示している。図15(b)は図15(a)におけるE−E線矢視部分端面図を示している。ケース10fの一面(この例では裏面)の内壁において、挿入口11の近傍で、挿入口11の中央から偏った位置(この例では一方の側端近傍)に突起部17を設けている(図15(b)参照)。この突起部17は、ケース10fの表面側に凹部16を加圧形成することにより設けることができる。勿論、凹部16によらずに突起部17を独立して形成してもよい。
このケース10fに対応するカートリッジ20fの一面(この例では裏面)には、スライド時に突起部17が通過する溝25をスライド方向のほぼ全長に亘って設ける。この構成により、カートリッジ20fは誤って表裏を逆に挿入しようとした場合、その挿入時に、カートリッジ20fの先端部が突起部17に当接することによりその進入が阻止されるので、ユーザは誤挿入に気づくことができる。
次に、本発明の第2の実施の形態として、カフスボタン(カフリンクス)等に適した円盤型の香り発生装置について説明する。第2の実施の形態では、カートリッジとケースとの間の相対的なスライド動作がケースに対するカートリッジの回転によって行われる。図は便宜上、実物大より大きく示されている。
図16に、第2の実施の形態によるカフスボタン100を斜め上方向から見た斜視図を示す。カフスボタン100は、カートリッジとしての蓋部110、ケースとしての基部120、脚部130、回転軸部135および留め具140を備えて構成される。蓋部110はほぼ円盤状の形状を有し、基部120に着脱(嵌合)可能である。蓋部110と基部120とによりボタン部が構成される。少なくとも、蓋部110および基部120の材質は上記と同様の材質である。脚部130は基部120の底面から突出した2本の棒状部により構成される。この2本の棒状部の間に、回転軸部135により回転可能に、留め具140が取り付けられる。このようなカフスボタン100の外観は特に既存のものと変わらないが、以下の点で異なる。
図17は、図16に示したカフスボタン100を斜め下方向から見た斜視図である。この図から分かるように、基部120の底面には、そのほぼ半分の半月状の領域に、香りの放散孔として、複数の透孔121が設けられている。
図18(a)(b)は、それぞれ、カートリッジとしての蓋部110の部品の分解斜視図、および、蓋部110の斜視図を示す。図18(a)から分かるように、蓋部110を構成するカートリッジ本体部の裏面(内側の面)には、ほぼ半月状の凹部111が設けられている。図18(b)に示すように、この凹部111にほぼ同サイズ・同形状の含浸部材112が収容される。収容された含浸部材112の厚さは凹部111の深さより小さい。含浸部材112は第1の実施の形態と同様の含浸シートを使用することができる。
図19に、図16に示したカフスボタン100のF−F線矢視断面図を示す。図18で説明したように、収容された含浸部材112の厚さは凹部111の深さより小さいので、蓋部110の凹部111に収容された含浸部材112の表面は、蓋部110の裏面の面位置(すなわち、基部120の凹部111の底面)より後退して、空間114が形成されていることが分かる。図示の例では、空間114が透孔121に連通している場合を示しているが、連通するか否かは次に説明するように、基部120に対する蓋部110の回転角度による。
図20に、第2の実施形態による円盤型の香り発生装置の基部120(ケース)内での蓋部110(カートリッジ)のスライド回転により香りの放散度合いが変化することの説明図を示す。図20(a)〜20(e)は、それぞれ開口率が0%、約25%、50%、約75%、100%の場合を示している。これらの図は、基部120の背面側から、脚部および留め具を除外して見た概略図である。半月状の領域内に複数の透孔121を分散配置しているので、蓋部110の回転角度と開口率とはリニアな関係はないが、0%から100%までほぼ連続的に開口率を変化させることができる。
なお、蓋部110と基部120との結合は単なる摩擦力によるものであってもよいが、図21(a)(b)に示すような連結構造を採用してもよい。図21(a)は、既知のネジ構造を示している。蓋部110aの結合部の外周にネジ山115が形成される一方、基部120aの凹部の内周にネジ溝125が形成されている。開口率の0%〜100%の範囲の調整は、ネジ係合の締め付けの最終の少なくとも半周で行われる。また、蓋部110が意図せずに基部120から離脱してしまうことを防止するため、ネジ山の傾斜はゆるく、締め付けは比較的多回転を要するような、ネジ構造とすることが好ましい。
図21(b)の連結構造では、蓋部110の結合部の外周に少なくとも一個(この例では2個)の突起部116が形成される一方、基部120の凹部の内周に環状溝126が形成されている。蓋部110bを基部120bに係合する際、蓋部110bの結合部を基部120bの凹部に押圧挿入すると、蓋部110bの突起部116が基部120bの環状溝126に嵌合する。この状態では、蓋部110bは基部120bに対して、ユーザの操作による外力に従って、回転するとともに、回転を停止した状態でその回転角度が維持される。すなわち、開口率の0%〜100%の範囲の調整が行える。蓋部110bは基部120bに対して比較的強い力で上方へ引き上げられることにより、突起部116が環状溝126から基部120bの凹部内壁へ乗り上げる。さらに蓋部110bはさらに引き上げられることにより、基部120bから離脱する。この構成によれば、ユーザが蓋部を回転操作する際に不用意に基部から離脱することが防止される。
蓋部110と基部120の結合構造は特にこれらに限定するものではなく、任意所望の構造を採用することができる。突起部116はバネで常時外方へ付勢されたボールベアリングのような球形部材(図示せず)であってもよい。
ところで、上記のカード型の香り発生装置の場合、多数の透孔12からケース内部が透けて見えるので、ユーザは、ケース10とカートリッジ20の位置関係に基づいて、内部に収容されたカートリッジ20がどの程度挿入されているか(すなわち香りの放散度合い)が一目で認識できる。これに対して、図16,図17に示すようなカフスボタン100の構造では、透孔121が基部120の背面に配置されているので、一旦、収容した後、放散度合いを調整しようとした場合、透孔121が見えないため、調整が困難となる。そこで、図22に、現在の基部120に対する蓋部110の回転角度がどの程度の放散度合いに相当するのかをユーザに知らしめるための指標を、蓋部110および基部120に表示する例を示す。この例では、蓋部110の表面の周縁部の一カ所に、指標として、蓋部110の円周状の基準位置を表すマーク118を表示する。マーク118は逆三角マークとしたが、これに限るものではない。単なる丸印、角印であってもよい。
対する基部120側の指標としては、開口率が100%となるような基部120に対する回転角度に蓋部110が位置する際の当該逆三角マーク118の対応する基部120の周縁位置に、100%を表すマーク128a(この例では満月印)を表示している。また、開口率が50%となるような基部120に対する回転角度に蓋部110が位置する際の当該逆三角マーク118の対応する基部120の周縁位置に、50%を表すマーク128b(この例では半月印)を表示している。同様に、開口率が0%となるような基部120に対する回転角度に、蓋部110が位置する際の当該逆三角マーク118の対応する基部120の周縁位置に0%を表すマーク(図では隠れて見えないが例えば新月印128c)を表示する。図示しないが、基部120には50%を表すマーク128bと逆側に同じく50%の半月マークを表示するようにしてもよい。(この場合、両半月マークは、上弦と下弦の関係となる。)開口率を表す指標もこれらに限るものではない。特に個別に図示はしないが、例えば、開口率に応じて長さの異なる長方形のマーク、開口率に応じて直径の異なる円形マーク、0%から100%まで変化する傾斜線を有する横長の直角三角形マーク等も採用可能である。さらには、開口率に対応した数値やON,OFF等を表す文字であってもよい。なお、これらの指標の表示は、印刷、刻印、貼付、等任意である。
以上説明した円盤型の香り発生装置は、脚部130および留め具140を削除したり、用途に応じた他のアダプタ(クリップやフック等)に置換することにより、カフスボタン以外の用途、例えばペンダント、タイピン、イヤリング、ブレスレット、等の装身具、その他、キーホルダー等のアクセサリー、車載用芳香剤、などに使用することができる。また、蓋部110や基部120には適宜、加工、宝飾などの装飾を施すことができる。
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態においても、カートリッジとケースとの間の相対的なスライド動作がケースに対するカートリッジの回転によって行われる。但し、第2の実施の形態の円盤型と異なり、第3の実施の形態は円筒型の形状を有する。円盤型では回転軸に垂直の面から香りが放散されるのに対して、円筒型では回転軸に平行な面(円筒曲面)から香りが放散される違いがある。
図23(a)(b)は円筒型の香り発生装置200を異なる視点から見た外観を示す斜視図である。この香り発生装置200は、有底円筒状のケース210と、このケース210に大部分が収容されるカートリッジ220とにより構成される。用途にもよるが、実際の香り発生装置の大きさは、図示の大きさより十分小さいものとすることができる。ケース210とカートリッジ220の材質は上記と同様の材質である。
図24(a)(b)は、異なる視点から見た香り発生装置200のケース210の外観を示す斜視図であり、図24(c)、G−G線矢視断面図である。ケース210は、有底の円筒形状を有し、円筒周壁に複数の透孔212が設けられている。図24(c)に示すように、透孔212は円周のほぼ半分の領域に形成されている。但し、透孔212の形状、個数、配置は図示のものに限らない。
図25は、香り発生装置200のカートリッジ220の外観を示す斜視図である。図25(a)は、第3の実施の形態における含浸部材222の一例の外観を示し、図25(b)(c)はカートリッジ220の本体部223を異なる視点から見た斜視図である。カートリッジ220は、ケース210とほぼ同一径の比較的短い円筒状頭部221と、この頭部221につながる小径円筒部224を有する。小径円筒部224の径は、ケース210の内径とほぼ同じであり、底部227を有する。小径円筒部224は、また、その長手方向に亘って筒のほぼ半分が切除された樋状凹部226を有する。カートリッジ220の含浸部材222は、カートリッジ220の樋状凹部226の湾曲した凹部内壁に沿って配置されるほぼ円筒形状を有する。円筒形状の含浸部材222の外径は、樋状凹部226の内径と同じかこれより若干小さい。含浸部材222は第1の実施の形態と同様の含浸シートを使用することができる。
円筒状頭部221の円形表面の外周近傍には小さい円形のくぼみ223が形成されている。このくぼみ223は、香りの放散度合いを調整する際にカートリッジ220の回転をユーザが認識するための指標として機能する。この指標はくぼみ223に限定されるものではない。突起部や単なるマークであってもよい。
図26は、カートリッジ220の構成例を示す。図26(a)は、円筒状の含浸部材222が樋状凹部226の内部空間に収容された様子を示している。含浸部材222の長手方向の両端部はカートリッジ220の両端の小径円筒部224により位置決め固定される。図26(b)は図26(a)のH−H線矢視断面図である。この状態で、上記のように円筒形状の含浸部材222の外径は、樋状凹部226の内径と同じかこれより若干小さいので、ケース内に収容された状態で含浸部材222はケース210の内壁に接触することがない。
図27に、この円筒型の香り発生装置200のケース210内でのカートリッジ220の回転による香りの放散度合いが変化する様子を説明するための模式的な断面図を示す。図27(a)〜27(e)は、それぞれ開口率が0%、約25%、50%、約75%、100%の場合を示している。ケース210に対して、カートリッジ220を回転させると、含浸部材222が露出した空間225が回転し、この空間225が連通した透孔212から外部へ香りが放散する。ケース210に対するカートリッジ220の回転角度と開口率とはリニアな関係にあり、0%から100%まで段階的に開口率を変化させることができる。
図28(a)(b)(c)(d)は、カートリッジ220の変形例であるカートリッジ220a,220b,220c,220dを示す断面図である。図28(a)は、カートリッジ220aの細長い帯状の含浸部材222aが、カートリッジ220の樋状凹部226の湾曲した凹部内壁に沿って配置される構成例を示す。図28(b)は、カートリッジ220cの帯状の含浸部材222bが、樋状凹部226に設けられた半円筒状アダプタ部228の平面上に配置される構成例を示す。図28(c)は、カートリッジ220cの帯状の含浸部材222cが、樋状凹部226に設けられた半円筒状アダプタ部229の凸湾曲面に沿って配置される構成例を示す。図28(d)は、カートリッジ220dのカマボコ型の半円筒形状の含浸部材222dが、樋状凹部226に設けられた半円筒状アダプタ部228の平面上に配置される構成例を示す。この例における含浸部材222dは中空としているが中実の構成であってもよい。逆に、アダプタ228,229は中実のものを示したが、中空の構造を有するものであってもよい。
同じ構造および厚さの含浸部材を使用する場合、カートリッジ220,220dは、他のカートリッジ220a,220b,220cに比べて、より多量の芳香剤を保持することができる。カートリッジ220b,220cは、他のカートリッジに比べて、ケース210内に収容された閉状態(開口率0%)で、含浸部材222の属する空間の容積が小さくなる利点を有する。これにより、不使用時の芳香剤の無駄な放散を低減することができる。他方、カートリッジ220,220aは他のカートリッジに比べて、構造が簡単かつ軽量となる。
円筒型の香り発生装置は、適宜、フックやピンなどのアダプタを付加したり、チェーン、ストラップ等を付属させることにより、ペンダント、タイピン、イヤリング、ブレスレット、等の装身具、その他、キーホルダー等のアクセサリー、車載用芳香剤、などに応用することができる。
回転スライド動作を行う他の例としては、特に図示はしないが、球型のものも考えられる。球型の香り発生装置は、図16〜図22で説明した円盤型から派生した変形例として把握できる。すなわち、半球状の蓋部(カートリッジ)の内側空間に含浸部材を配置し、この蓋部が回転可能に係合する他の半球状の基部の一部の球側面側に透孔を設ける。その動作は、回転型のものと同様である。
以上説明した実施の形態による香り発生装置によれば次のような顕著な効果が得られる。
(1)ケースから取り出したカートリッジは、充填領域の含浸部材が広く開放されているので、香水やコロン、エッセンシャルオイル等の瓶等から液滴やスプレーを受け止める十分な大きさが確保されている。したがって、ユーザは、手や周囲を汚すことなく、芳香剤の充填を容易に行うことができる。
(2)多数の微細な空隙を有する含浸部材を用いることにより、香り発生装置の携帯時にも芳香剤を漏らすことなく保持することができる。また、含浸部材の表層からの香りの放散に伴って消費された芳香剤を、毛細管現象で自動的に内部から表層へ、または、一領域から他領域へ補給することができる。
(3)カートリッジがケースに収容された状態で凹部の周囲の表面がケースの内壁に接触(好ましくは密接)することにより構成されるケースとカートリッジの密閉構造により、不使用時には、芳香剤を比較的長時間、保持することができる。また、この状態で、中空のケースに対して内蔵されたカートリッジが構造フレームとして機能するので、香り発生装置の構造強度が高まる。
(4)芳香剤の注入→保持→密閉→供給→拡散の一連の機能により、長期間に良質の香りを保持し、楽しむことができる。
(5)香水の香り立ちは、時間とともに香りの質が変化することが知られている。一般的に、次のように3段階で香りの変化が表現される。
トップノート: 〜10分程度。香水の第一印象
ミドルノート: 〜3時間程度。香水のボディ(中核)
ラストノート: 〜12時間程度。香水の余韻
そこで、香水のボディとなるミドルノートを継続させるため、本実施の形態では、注入した香水が一度に揮発しないように、注入後、完全にまたは部分的に密閉する仕組みを設けている。すなわち、ケース内でのカートリッジのスライド動作によって、放散に寄与する面積を0から最大までほぼ連続的または段階的に変化させることにより、香りの放散の度合いを調整することができる。放散の度合いは、カートリッジがケース内に収容された状態で、カートリッジとケースの位置関係(直視または上述したマーク)によってユーザが認識することができる。
(6)ケースにカートリッジを収容した状態で、ケースの外周には香り発生装置の操作等の要請上何ら突起部を設ける必要なく、財布や名刺入れなどの狭い領域への収納時に支障なく、誤操作のおそれもなく、使用することができる。特に、カートリッジがケース内に収容された状態での全スライド範囲内で香り発生装置の全体形状および体積は変わらず、場所をとらない。ユーザが身につけたり、携帯する以外に、置物として利用することもできる。その設置場所としては、浴室、台所、洗面所、トイレなど、設置場所も選ばない。
(7)ケースやカートリッジを特に金属で構成することにより、剛性を維持しつつ、精密プレス加工や微細穴加工の技術を利用して、比較的密閉性の高い、薄型または小型が可能な香り発生装置を実現することができる。上記の効果(3)と相俟って、剛性が高まることにより、ケースの変形が防止され、意図しない香りの漏れが防止される。香り発生装置を薄型または小型に構成できるので、その設置場所、収納場所、挿入場所の自由度が高くなる。また、金属ならではの高級感、肌触り、質感、耐久性が得られる。
(8)ケースやカートリッジの材料として金属を用いた場合、合成樹脂や木材、紙等の他の材料にくらべて高い熱伝導率を有するので、外気温が低く、香りの放散が低下したような場合でも、ケースを握ったり、着衣のポケットで暖めたりすることにより、電気、超音波、ローソクなどの特別な熱源を必要とすることなく、短時間で放散量を増加させることができる。
(9)ある芳香剤のカートリッジを他の芳香剤のカートリッジに交換することにより、同じケースについて香りの切り替えが行える。
(10)カートリッジおよび含浸部材を金属製とすることにより、紙製や布製などの繊維質や木製のものに比べて、洗浄により芳香剤を除去することが容易となり、同じカートリッジを違う香りの香水やコロンについて繰り返して使用することもできる。
(11)カートリッジがケースに収容された状態で、凹部に収容された含浸部材はケースの内壁から離間した状態にあり、凹部によりケースの内壁との間に薄い空気層が形成されるので、芳香剤がケースの透孔から外部へ浸み出したり、漏れたりすることが回避される。
(12)カード型の場合、外観・形状的には、あたかもクレジットカードと同様に扱うことができる。透孔のある面と反対のケースの裏面に、カートリッジの操作用開口(スライド操作窓)を設けることにより、カートリッジの操作時に手が汚れることがなく、また、操作用開口が直接的に香りの放散の度合いに影響することが避けられる。少なくとも操作用開口に現れうるカートリッジの領域において、摩擦係数を増加させる表面加工を施すことにより、カートリッジのスライド操作を容易にすることができる。この表面加工としては自由度が高く、種々の異なる態様を採用することができる。
(13)円盤型の場合、脚部等を付加することにより、外観・形状的には、既存のカフスボタンと同様に扱うことができる。透孔は基部(ケース)の側に設けられているので、使用時には死角に入り、香り発生装置であることを外観上あからさまに主張しない構成とすることができる。円筒型の場合も、透孔の存在する側のケース210を裏側とするようアダプタを付加することにより、同様の効果が得られる。円盤型および円筒型の香り発生装置は、上述したような各種の装身具に適用して好適である。
(14)芳香剤の代わりに防虫剤や動物の忌避剤を充填して、防虫や忌避の用途に利用することも可能である。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記で言及した以外にも種々の変形、変更を行うことが可能である。
上述した各部の寸法、材質、形状、数量等はあくまで説明のための例示であり、本発明はそれらに限定されるものではない。例えば、ケースとカートリッジの典型的な材質は金属としたが、その他、セラミックなどの剛性、耐水性、耐久性のあるものであればよい。また、含浸部材の材質は金属繊維で構成する例を示したが、ガラス、炭素などの耐久性、抗酸性および耐食性のある他の繊維で構成してもよい。耐久性、洗浄性において劣るが、保湿紙や不織布を含浸部材として利用することも可能である。含浸部材のさらに他の材質として、繊維の代わりに多孔性のセラミックや石材を切削、スライス、粉末かして基材に塗布する等の構成も考えられる。
1つのケースにおける透孔の形状やサイズは一定の場合を示したが、ランダムに、あるいは条件に応じて(たとえばスライド位置に応じて)、透孔の形状および/またはサイズを変更するようにしてもよい。
上述した複数の実施の形態の構成例や変形例は、特に支障がない限り、相互に組み合わせて採用することが可能である。