以下、実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参照して判断すべきものである。又、図面相互間においてもお互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
(第1の実施形態)
実施形態に係る測定用セルは、セル本体と、前記セル本体に支持又は収容された混合物とを具備する。この混合物は、非水溶媒を含んだ媒体と1以上の酵素体とを含有する。酵素体は酵素を含んでおり、その詳細については後述する。
実施形態に係る測定用セルが具備する混合物に基質を導入すると、酵素体に含まれている酵素が触媒する反応、すなわち酵素反応が進行する。その結果、混合物の電気的特性、電気化学的特性、または光学的特性が変化する。本実施形態では、測定対象物質自体が酵素反応により反応する基質である。すなわち、測定対象物質の導入に伴う混合物における電気的、電気化学的、または光学的特性変化を測定することにより、被測定試料が含んでいる測定対象物質を検出することができる。
実施形態に係る検出装置は、上述した測定用セルと、測定用セルが具備する混合物における電気的、電気化学的、または光学的特性を測定する測定部とを具備する。測定用セルが具備する混合物の電気的特性または電気化学的特性を測定する場合、検出装置は、前記混合物と接するように設置された1以上の電極をさらに具備する。混合物の光学的特性を測定する場合、検出装置は、色素をさらに具備していてもよい。
図1に、実施形態に係る検出装置の一例の概略図を示す。
図1に示す検出装置100は、非水溶媒を含んだ媒体2と酵素体3とを含んだ混合物102を具備する測定用セル101と測定部9とを具備する。さらに、図1に示す検出装置100は、作用電極として検出用の電極10と対比用の電極11とを含む一対の電極を具備する。
図1には、一対の電極が図示されているが、後述するように電極の数は一つでも二つ以上でもよい。
また、測定用セル101は、検出装置100に対し着脱可能であってもよい。この場合、検出装置100への装着時には、測定用セル101が含む1以上の電極が測定部9に電気的に接続されるようにしてもよく、或いは測定用セル101と測定部9とが無線接続されていてもよい。
なお、図1に示す検出用の電極10の近傍では、媒体2中に酵素体3が分散されている。これに対し、対比用の電極11の近傍では、媒体2中に酵素体3が分散されていない。
図1に示す検出装置100では、混合物102は、酵素体3と媒体2とを含んでいる。酵素体3は、ここでは一種のみであり、各酵素体3は一種の酵素5を含んでいる。この混合物102は、測定用セル101のセル本体1に支持または収容されている。酵素体3には水が含まれており、この水がウォータープール4を形成している。
図1において、酵素5を触媒とする酵素体3における酵素反応が、加水分解反応などの水を必要とする酵素反応である場合、酵素体3に含まれているウォータープール4の水を酵素反応に用いることができる。また、ウォータープール4が酵素反応の反応場となるため、酵素5は高い活性を示す。
混合物102における媒体2に含まれている非水溶媒は、それ自体が電解質として機能する非水溶媒、例えばイオン液体とすることができる。このような非水溶媒を用いた場合、媒体2に別途電解質を溶解させる必要がなく、また電解質溶液の濃度の変化や電解質の析出が発生しない。また、非水溶媒は蒸発しにくいため、混合物102を含んだ測定用セル101を長期間使用することができる。
なお、混合物102を構成する酵素体3および媒体2の詳細については後述する。
検出装置100では、被測定試料が含んでいる測定対象物質6自体が基質である。測定対象物質6を測定用セル101の混合物102に導入すると、酵素体3における酵素5の働きにより、基質である測定対象物質6の酵素反応が進行し、1以上の生成物が生成される。ここでは、一例として、生成物7aおよび7bが生成されることとする。そして、これに伴って生ずる混合物102における電気的特性または電気化学的特性の変化を、測定部9が検出用の電極10を介して電気的信号として検出することによって、測定対象物質6を検出する。
生成物7aおよび7bの少なくとも一方が、例えば酸化還元種のように電極の作用により反応する物質、すなわち電極活物質である場合、混合物102の電気化学的特性変化を測定することができる。ここでは、一例として、生成物7aが電極活物質であるとする。
電気化学的特性変化の測定には、例えばボルタンメトリーを用いることができる。ボルタンメトリー法による電気化学的特性変化の測定を行う場合、例えばサイクリックボルタンメトリー(Cyclic Voltammetry; CV)、アンペロメトリー、クロノアンペロメトリー、交流ボルタンメトリー、電位ステップボルタンメトリー、階段波ボルタンメトリー、パルスボルタンメトリー、およびクロノポテンショメトリーなどのような電気化学的測定法を用いることができる。
検出装置100が、作用電極として検出用の電極10のみを具備する場合、例えば、クロノアンペロメトリー(chronoamperometry; CA)法を用いて、図2(a)に示すような測定モード(S1測定モード)により、酸化電流または還元電流の経時変化を測定する。
具体的には、S1測定モードでは、第1の時刻(tn)から第2の時刻(tn+1)までの一定の時間間隔(Δt=tn+1−tn)において電極10に流れる電流値の変化、すなわち第1の時刻(tn)での電流値(Itn)と第2の時刻(tn+1)での電流値(Itn+1)との差(ΔIn)を測定することによって、測定対象物質6を検出することができる(数1)。
なお、測定用セル101に被測定試料が導入されていない状態、すなわち定常状態において、第1の時刻(tn')および第2の時刻(tn'+1)でのそれぞれの電流値(Itn'、Itn'+1)を求め、これらの電流値の差(ΔIo=|Itn'+1−Itn'|)をノイズレベルの電流変化値として事前に定義することができる。
また、図1のように、検出装置100が、作用電極として検出用の電極10だけではなく、対比用の電極11も備えている場合、図2(b)に示すような測定モードを用いることができる。ここで、この測定モードをS2測定モードと呼ぶ。S2測定モードでは、CA法による測定を、検出用の電極10および対比用の電極11の両電極を用いて同時に行う。そして、同じ時刻に得られた検出用の電極10の電流値(I1)と対比用の電極11の電流値(I2)との差(ΔIn=|I1−I2|)に基づいて、被測定試料を検出する。なお、S2測定モードでは、測定用セル101に被測定試料を導入していない定常状態において、検出用の電極10の電流値(I1)と対比用の電極11の電流値(I2)との差(ΔIn=|I1−I2|)を求め、これをノイズレベルの電流変化値(ΔIo)とすることができる。
図1の検出装置において、例えば、S2測定モードによる測定を行うと、混合物102における測定対象物質6の濃度が増大し、これとともに生成物7aの濃度が増大する。検出用の電極10は、生成物7aの酸化電流または還元電流を検出するため、検出用の電極10の電流値(I1)は増大する。一方、対比用の電極11の付近には酵素体3が分散されていないため、対比用の電極11では生成物7aの酸化電流や還元電流が検出されない。すなわち、対比用の電極11の電流値(I2)は、一定に保たれる。従って、生成物7aの酸化または還元に伴う電流値差(ΔIn)は、ノイズレベルの電流変化値(ΔIo)より大きくなる。
上述した方法で被測定試料の定量測定を行う場合、電流の変化量と被測定試料濃度との関係を事前に調べておく。例えば、検量線を作成して構築したデータベースを、測定部9のデータ処理部に収納しておく。なお、測定部9はデータを演算・出力する機能を有するだけではなく、測定条件の制御、データの送受信、アラームの発信などの機能も備えることができる。また、測定用セル101と測定部9とは、有線接続されていてもよく、無線接続されていてもよい。
測定用セル101と測定部9とが無線接続されている場合、測定用セル101と測定部9とは、それぞれ無線による送受信の機能を備える。例えばRFID(Radio frequency identifier)のように電磁界や電波などによる無線通信を行う場合、受信機能を有する部位としてパッシブタグを測定用セル101側に取り付けることができる。また、測定部9には、送信機能を有する部位としてのリーダを取り付けることができる。RFIDに用いるパッシブタグは、リーダより発信される電波をエネルギー源として動作することができる。従って、パッシブタグを用いるRFIDを採用することにより、測定用セル101側に電池を内蔵させる必要がなくなる。パッシブタグが受信したリーダからの電波は、測定用セル101における測定やデータの送受信のための電気エネルギーとして使うことができる。
検出装置100を用いた電気化学的測定による測定対象物質6の検出方法の一例として、CA測定による検出について説明したが、電気化学的測定方法はこれに限られない。また、採用する電気化学的測定方法に対応して、検出装置100の設計が異なる場合がある。種々の電気化学的測定方法および採用する方法に伴う検出装置100の設計の詳細については後述する。
図3に示す検出装置100は、メディエーター14が含まれていることを除き、図1の検出装置100と同様の構成を有する。
図3の検出装置100では、基質としての測定対象物質6およびメディエーター14の双方が酵素体3における酵素反応に参加する。例えば、測定対象物質6が酵素反応によって酸化または還元されると、これに伴い、メディエーター14は、酵素反応によって還元または酸化され、生成物7aおよび7bを生成する。
生成物7aおよび7bの生成によって生ずる混合物102における電気的特性または電気化学的特性の変化を測定部9が作用電極10を介して電気的信号として検出することによって、測定対象物質6を検出する。例えば、生成物7aは、検出用の電極10において酸化または還元反応により酸化−還元生成物8を生成する。測定部9は、これによって生じる電流を、作用電極10を介して検出する。このようにして、測定対象物質6を検出する。
なお、酸化−還元生成物8は、メディエーター14と同じものである場合、酵素反応に再び参加することができる。
また、検出装置100の測定用セル101が複数の電極を含んでいる場合、それらの電極上、例えば検出用の電極10と対をなす電極上で水が生成されることがある。この電極上の反応は、水の自製に関わる反応の一つである。
この水は、酵素体3の反応場に戻ることができる。例えば、後述するように酵素体3は、その内部にウォータープール4を含んだ逆ミセルを含み得る。この場合、電極上の反応によって生じた水の少なくとも一部は、逆ミセル内のウォータープール4に入る。電極上で生じた水は、逆ミセルの含水限界量に達するまでウォータープール4に入ることができる。
混合物102における媒体2がイオン液体を含む場合、ウォータープール4内の水量が逆ミセルの含水限界量に達すると、余分な水は混合物102から外部へ排出される。イオン液体は水より比重が大きいため、水はイオン液体の上方へと移動する。このようにして相分離を生じる。水の相はイオン液体の相の上方に位置しているので、余分な水は蒸発によって除去される。
このように、電極上の反応によって生じる水を酵素体3のウォータープール4に補給する構成を採用することができる。この構成によれば、ウォータープール4の水が欠乏し難く、それゆえ、酵素5は常に高い活性を示す。また、酵素反応が加水分解反応である場合、水が欠乏することに起因して基質の加水分解反応が妨げられることがない。
上述した例では、混合物102における電気化学的特性の変化を電気化学的測定により検出して、測定対象物質6を検出する方法について説明した。しかし、実施例の測定用セル101および検出装置100を用いる測定対象物質6の検出方法は、電気化学的測定方法に限られない。例えば、測定部9を分光光度計などの光学的特性を測定できる装置とすることによって、光学的測定方法による検出が可能になる。また、検出装置100を電圧センサとすることもできる。
混合物102における光学的特性変化を測定して測定対象物質6を検出する場合も、上述したような測定用セル101を用いることができる。ただし、光学的測定方法を用いる場合は、検出用の電極10や対比用の電極11などの電極を省略してもよい。また、検出装置100は、異なる方法で測定を行う複数の測定部9を含み、それら測定部9が単一の測定用セル101に対して測定を行うものであってもよい。このような検出装置100では、例えば電気化学的測定による測定対象物質6の検出と、光学的測定による測定対象物質6の検出との両方を同一の測定用セル101に対して実施することができる。
混合物102の光学的特性の変化の測定は、例えば、特定の波長におけるその吸光度の変化を測定することによって行う。例えば、酵素5が触媒する酵素反応の生成物7aについて吸光係数が既知である波長において、混合物102の吸光度を測定し、Lambert-Beerの法則などにより生成物7aの濃度を算出することができる。このように、光学的測定により生成物7aを検出することによって、測定対象物質6を検出することができる。
なお、Lambert-Beerの法則を用いる場合、測定用セル101のセル本体1において、混合物102を収容している部分が一定の厚みを有していることが望ましい。
また、必要に応じて混合物102は、色素等を含むことができる。例えば、メディエーター14として色素を用いてもよい。或いは、生成物7aとして色素を生成する酵素反応を利用することができる。メディエーター14として色素を用いた場合は、酵素反応によって色素の濃度が減少するため、混合物102の吸光度が減少する。酵素反応により色素が生成される場合は、色素の濃度が増大するため、混合物102の吸光度が増大する。何れの場合も、混合物102の光学的特性変化、例えば吸光度の変化を検出することによって、測定対象物質6を検出することができる。
また、混合物102を撮影し、撮影画像から酵素反応により引き起こされた混合物102の色の変化を比色分析法に基づいて分析することにより、測定対象物質6を検出することができる。混合物102の撮影に用いる機器は特に限定されないが、例えば携帯型カメラでも十分である。
光学的測定を用いる検出装置100において、測定部9としては、例えば試料の吸光度や色度などの光学的特性を測定可能である限り、如何なる光学的測定用の装置をも用いることができる。なお、測定用セル101が検出装置100に対し着脱可能である場合、検出装置100への装着時には、測定部9を用いてセル本体1における混合物102の光学的特性を測定できるように測定用セル101を検出装置100に装着する。
以上説明したように、第1の実施の形態に関わる検出装置を用いることにより、水溶媒電解液を用いることなく、被測定試料を選択的に且つ高感度で検出することができる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る測定用セルは、セル本体に支持又は収用された混合物自体が基質を含むことを除き、第1の実施形態に係る測定用セルと同様の構成を有する。第2の実施形態では、被測定試料に含まれている測定対象物質は、酵素体の含む酵素に対する阻害剤である。
図4に、第2の実施形態に係る検出装置の一例の概略図を示す。
図4に示すように、第2の実施形態に係る検出装置200は、混合物202が、媒体2と酵素体3とに加え、基質15とをさらに含んでいる点を除き、第1の実施形態に係る検出装置100と同様の構成を有する。
基質15は、混合物202において、過飽和の状態で存在する。混合物202において、固体状の基質15、例えば基質15の粉末が媒体2内で分散されていることが好ましい。
第2の実施形態では、測定対象物質6が酵素5の阻害剤であるため、酵素体3を含有する混合物202に測定対象物質6を導入すると、酵素体3における酵素反応が阻害される。その結果、酵素反応により生成される生成物、例えば生成物7'aおよび7'bの濃度が変化する。検出装置200は、例えば生成物7'aの濃度変化を検出することにより、測定対象物質6を検出する。第2の実施形態における測定対象物質6の検出では、第1の実施形態について説明したのと同様に、生成物7'aの生成によって生ずる混合物202の電気的特性、電気化学的特性、または光学的特性の変化を検出することによって、測定対象物質6を検出する。
生成物7'aが電極活物質である場合、混合物202の電気化学的特性変化を測定することができる。電気化学的特性変化の測定は、例えば、検出用の電極10のみを用いてS1測定モードにより測定できる。
また、図4に示す検出装置200では、検出用の電極10と対比用の電極11との一対の作用電極を用い、S2測定モードにより混合物202の電気化学的特性変化を測定することもできる。
図4の検出装置200では、測定用セル201内の混合物202に導入する測定対象物質6の濃度が増大すると、酵素5が触媒する酵素反応がより大きく阻害され、生成物7'aの生成がより大きく抑制される。生成物7'aの濃度の減少は、酸化または還元電流値の減少として検出用の電極10によって測定される。
次に、下記式に基づいて(数2)、阻害率(Inhibition rate、%)を算出し、それに基づいて測定対象物質6の濃度を推算する。
阻害率に基づいて測定対象物質6の定量測定を行う場合、阻害率と測定対象物質6の濃度の関係を事前に調べておく。例えば、検量線を作成して構築したデータベースを、測定部9のデータ処理部に収納する。
被測定試料に含まれる測定対象物質6が危険物質である場合、測定部9は、例えばアラーム発信の機能を備えた警報機として機能できるものであってもよい。測定部9は警報器として機能する場合、例えば、図5に示すクロノアンペロメトリー(CA)による測定のフローチャートに従って測定対象物質6の測定とアラームの発信を行うことができる。図5のフローチャートにおいて、ΔIoは、ノイズレベルの電流変化値として事前定義される定数であり、例えば第1の実施形態において説明したS1測定モードでの定常状態における第1の時刻での電流値と第2の時刻での電流値との差(ΔIo=|Itn'+1−Itn'|)とすることができる。または、S2測定モードでの定常状態における検出用の電極10の電流値と対比用の電極11の電流値との差(ΔIn=|I1-I2|)とすることができる。
S1測定モードまたはS2測定モードのいずれの測定モードを用いる場合でも、△Inの値に基づいて、適切な警告信号を発することができる。
例えば、△In<△Ioの場合、すなわちΔIn=|Itn+1−Itn|またはΔIn=|I1−I2|により算出されたΔInが電流ノイズ由来の△Io以下である場合、例えば危険物質である測定対象物質6の濃度が検出レベル以下と判断される。このような場合は、例えば検出装置200をセーフモードで運用する。セーフモードでは、例えば測定部9の指示により表示パネルなどにセーフモードとの表示をする。セーフモードでは、測定対象物質6の測定が繰り返される。
△In>△Ioの場合、すなわちΔIn=|Itn+1−Itn|により算出されたΔInが電流ノイズ由来の△Io以上であり、且つ測定対象物質6の許容曝露限界濃度(Acceptable Exposure Limit; AEL)に対応する電流変化値ΔIAEL以下である場合(△In<△IAEL)、測定対象物質6の検出濃度が、例えばアラームレベル1に該当すると判断される。このような場合は、例えば測定部9はアラームレベル1の警告を発信する。アラームレベル1の警告の発信は、例えば表示パネル等にアラームレベル1との表示をして行う。または、ブザーなどにより警告を示す音声を発してもよい。測定部9は、アラームレベル1の警告を発信した後、或いは継続的に警告を発信しながら、測定対象物質6の測定を繰り返す。
なお、アラームレベル1の警告を発信した後の繰り返しの測定において、式ΔIn=|Itn+1−Itn|におけるItnは、△In<△Ioと最後に判定された時刻(tn)、すなわちセーフモードでのItnを用いる。また、Itn+1は繰り返しの測定において測定される電流値である。
△In>△Ioの場合、すなわちΔIn=|Itn+1−Itn|により算出されたΔInが電流ノイズ由来の△Io以上であり、さらに測定対象物質6の許容曝露限界濃度(AEL)に対応する電流変化値ΔIAEL以上である場合(△In>△IAEL)、測定対象物質6の検出濃度が、例えばアラームレベル2に該当すると判断される。このような場合は、例えば測定部9はアラームレベル2の警告を発信するアラームレベル2の警告の発信は、例えば表示パネル等にアラームレベル2との表示をして行う。または、ブザーなどにより警告を示す音声を発してもよい。測定部9は、アラームレベル2の警告を発信した後、例えば中央管理システムへ危機通達信号を送信する。危機通達信号を受信した中央管理システムは、例えばネットワークを通して避難勧告および危機対策の信号を発信するなどして、危険物質に対する対策をさらに実行する。その後、測定を中断してもよく、或いは中断せずに測定を繰り返すこともできる。また、この際、警告を継続的に発信してもよい。測定を中断する場合は、例えば測定の停止の指示が入力される。
また、中央管理システムは、検出装置200の外部にあってもよい。外部の中央管理システムとは、例えば無線により連絡してもよい。さらに、中央管理システムへ発信・連絡するモードが自動的に起動・実行されるように設定することもできる。
第2の実施形態に係る測定用セル201およびそれを含む検出装置200と、第1の実施形態に係る測定用セルおよびそれを含む検出装置100との主たる相違点は、酵素体3における酵素反応においての測定対象物質6の役割にある。第1の実施形態では測定対象物質6自体が酵素反応の基質であることに対し、第2の実施形態では、測定対象物質6は酵素5の阻害剤である。この点と、これに伴って酵素5などの酵素反応に係る物質として選択できるものが異なる点を除き、第1の実施形態と第2の実施形態とに実質的な相違点はない。従って、第1の実施例に係る測定用セル101および検出装置100に適用することができる設計の変更等は、すべて第2の実施形態に係る測定用セル201および検出装置200に適用することができる。
以上説明したように、第2の実施形態に関わる検出装置を用いることにより、水溶媒電解液を用いることなく、被測定試料を選択的に且つ高感度で検出することができる。
以下に、実施形態の測定用セルおよび検出装置の各部材について詳述する。
1.セル本体
測定用セルは、セル本体1を含む。セル本体1は、媒体2と酵素体3とを含む混合物を支持または収容する。
セル本体1は、例えば絶縁性の材料からなる。また、セル本体1は、測定部9に物理的に接続されていてもよく、あるいは、例えば無線接続されていてもよい。さらに、セル本体1は、測定部9に対し着脱可能であってもよい。
セル本体1の形状は、特に限定されず、例えば円形、正方形、長方形、楕円形などの形状の底面を有する容器であってもよい。このような容器型のセル本体1に、媒体2と酵素体3との混合物が収容され得る。また、セル本体1の形状は、例えば円形、正方形、長方形、楕円形などの形状の面を有する板状のものであってもよい。このような板状のセル本体1に、媒体2と酵素体3との混合物が支持され得る。
セル本体1は、混合物への測定対象物質6の導入が可能である限り、混合物が収容されている部分を完全に囲ってもよい。或いは、混合物を露出させても良い。
また、混合物に隣接する空間を設けるように、セル本体1を設計してもよい。このような空間を設ける場合、その空間を囲う部分が絶縁性の材料からなることが望ましい。空間を囲う部分には、開口部を設け、測定対象物質6を含んだ被測定試料の導入路とする。さらに、被測定試料が、例えば固体状のものである場合、開口部の周辺の材料をその被測定試料に対して密着性の高い材料とすることができる。例えば、測定対象物質6が揮発性の物質である場合、セル本体1を被測定試料に押し当てて、被測定試料の固体面によって開口部を塞ぐようにする。こうすることによって、混合物に隣接する空間が、その外壁の一部として被測定試料を含む密閉空間となり、測定対象物質6を効率よく採取することができる。また、このように、被測定試料に対して前処理を施す必要がなく、測定対象物質6の検出および測定が容易に行える。
なお、測定対象物質6を採取する際、混合物と被測定試料との接触を防ぐために、混合物に隣接する空間に、一定の空隙を有する充填剤、多孔性膜、またはスペーサーなどを設けてもよい。
上記のように採取できる揮発性の測定対象物質6は、例えば以下のものを含む。アルコールの代謝物であるアセトアルデヒドや発がん性物質であるホルムアルデヒドは、揮発性の測定対象物質6として、人体から採取できる。これらは、例えば、セル本体1の開口部を直接人体の皮膚表面に押し当てることにより採取できる。農作物に残存する農薬などは、被測定試料としての農作物から採取できる。セル本体1を農作物に貼り付けることによって、残存する農薬など、例えばジクロルボス、パラチオンやカルバリルを連続的に検出することができる。また、同様な方法により、食品の鮮度を評価することもできる。また、農作物そのものだけでなく、例えば農地の土壌に含まれている成分を評価することもできる。他にも、木材、塗料、または接着剤が用いられている建築材料を被測定試料とし、測定対象物質6としてのホルムアルデヒドを採取することができる。
また、測定対象物質6が非揮発性の物質である場合は、例えば液体の被測定試料を、媒体2と酵素体3との混合物に隣接する空間に入れても良い。測定対象物質6を含む被測定試料が混合物に接触すると、被測定試料中の測定対象物質6が液−液抽出により混合物へ選択的に抽出および濃縮される。こうして、測定対象物質6を高い感度で検出することができる。また、このように、被測定試料に対して前処理を施す必要がなく、測定対象物質6の検出および測定が容易に行える。
上記のように採取できる非揮発性の測定対象物質6を含んだ被測定試料は、例えば以下のものを含む。実施形態の測定用セルおよび検出装置を医学的用途や健康管理などに用いる場合は、例えば血液および唾液、涙、汗、尿などを被測定試料とすることができる。また、被測定試料は、液体でなくともよく、例えば、人の吐息をセル本体1に設けた空間に吹き込み、吐息に含まれているアルコール、またはバイオマーカーガスの一種であるアセトンガスを測定対象物質6として検出することもできる。その他、例えば被測定試料としての汚水に含まれている汚染物質を測定対象物質6として検出することができる。
実施形態の測定用セルおよび検出装置によって検出・測定できる測定対象物質6は以上のものに限られず、また被測定試料は以上のものに限られない。さらに、媒体2と酵素体3との混合物へ測定対象物質6を導入できる限り、実施形態の測定用セルおよび検出装置の利用形態は上記のものに限られない。
2.媒体
測定用セルのセル本体1に支持または収用される混合物は、媒体2を含む。媒体2は非水溶媒を含む。また、セル本体1に電極が設けられており、その電極を用いてセル本体1における混合物の電気的特性または電気化学的特性を測定する場合は、媒体2が電解質溶液として機能する。
電解質溶液としての媒体2は、水溶媒系の電解質溶液でないことが望ましい。水溶媒系の電解質溶液では、長期測定において、水溶媒や水溶媒系電解液の水分の蒸発や電解質の析出が起こり得る。そのため、長期間にわたる測定対象物質6濃度の正確な測定が困難となるおそれがある。従って、水溶媒系の電解質溶液を用いた場合、測定用セルおよび検出装置の寿命が短くなり、測定対象物質6の定量測定が難しくなり得る。
安全の面から、実施形態の媒体2に用いる非水溶媒としては、大豆油やオリーブオイル、パラフィン、イオン液体が望ましい。特に、実施形態の媒体2に含む非水溶媒としてイオン液体を用いることが望ましい。イオン液体を用いた場合、イオン液体自体が電解質として機能するため、別途電解質を溶解させる必要がない。すなわち、電解質の濃度調整が不要となる。さらに、イオン液体は水溶媒に比べて遥かに広い電位窓を有し、電気伝導性も優れている。また、低揮発性や難燃性の特性を有することもイオン液体の利点である。
さまざまな種類のイオン液体が存在するが、必要に応じて新たなイオン液体を合成することができる。また、イオン液体には、非プロトン性のイオン液体(Aprotic Ionic Liquid: AIL)とプロトン性のイオン液体(Protic Ionic Liquid: PIL)とがあるが、それぞれを必要に応じて使いわけることができる。または、AILとPILとを混合したものを用いることもできる。
イオン液体として、例えば、1-octyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)amide、[C8mIm+][TFSA-] (TFSA- = (CF3SO2)N-)、1-alkylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)amide、[CnImH+][TFSA-] (n = 4 and 8)、室温イオン液体(room temperature ionic liquid; RTIL)、triethyl sulfonoium bis(trifluromethyl sulfonyl)imide(TSBTSI)、1-butyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate([bmim][PF6])、1-butyl-2,3-dimethylimidazolium bis(trifluoromethylsulfonyl)imide ([bmim][Tf2N])、1−ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethylsulfonyl)imide ([emim][Tf2N])、octyl-3-methylimidazoliumhexafluorophosphate ([omim][PF6])、1-decyl-3-methylimidazolium bis(trifluoro-methylsulfonyl)imide ([dmim][Tf2N])、1-butyl-3-Methylimidazolium tetrafluoroborate ([bmim][BF4])、1-dodecyl-3-methylimidazolium chloride[dmim][Cl]、1-Methyl-3-octylimidazolium chloride(MOImCl)、ionic liquid[C2mim][NTf2]、1-butyl-3-methylimidazolium bis[(trifluoromethyl)sulfonyl]imide、[C4mim][NTf2]、IL[C8mim][Tf2N](1-octyl-3-methylimidazolium bis(trifluromethylsulfonyl)amide)、IL 2(1-ethyl-3-methyl-imidazolium bromide, emimBr)、1-ethyl-3-methylimidazolium trifluoromethanesulfonate ([emim][Tf])、1-ethyl-3-methylimidazolium tetra-fluoroborate ([emim][BF4])、1-butyl-3-methylpyridinium tetrafluoroborate ([bmpyri]BF4)、1-butyl-3-methylpyrrolidinium tetrafluoroborate ([bmpyrro]BF4)、[bmim]BF4、1-ethyl-3-methylimidazolium chloride ([emim][Cl])などを用いることができる。
3.酵素体
酵素体3は、1つ以上の酵素5を含む。酵素体3は、単独の酵素5であってもよい。或いは、酵素体3は、固定化された酵素5を含む。ここで、酵素の固定化とは、担体結合法により担体へ酵素を結合させること、包括法により高分子ゲルやマイクロカプセルなどに酵素を封じ込めること、および架橋法により酵素同士を結合させることを含む。酵素5を固定化して得られる酵素体3は、例えば分散剤により形成される分子集合体と酵素5とを含む複合体、酵素5を内包するマイクロカプセル、高分子材料等からなる支持体とこの支持体に担持または内包された酵素5とを含む複合体などを含む。さらに、酵素体3として、酵素5を含んだ細胞や微生物を用いることもできる。
ほとんどの場合、酵素反応は水を必要とする。これは、酵素が本来水の中で働く生体触媒であることに起因する。通常、酵素は、水中において、柔軟になるため高い酵素活性を示す。逆に、水のない系では酵素の活性が著しく低下してしまう。また、酵素反応において、例えば加水分解反応の場合は、水自体が反応種として酵素反応に参加する。
酵素体3は水を含むことができ、この水は、酵素5の酵素反応場として機能することができる。そのため、酵素体3において、酵素5は高い酵素活性を示す。
酵素体3は、非水溶媒を含んだ媒体2内に分散されて、混合物を構成する。
実施形態の測定用セルおよび検出装置において、混合物は、一種の酵素体3を含み、各酵素体3は二種以上の酵素5を含んでいてもよい。または、混合物は、酵素5の種類が異なる複数種の酵素体3を含んでいてもよい。この場合、各酵素体3は、酵素5を一種のみ含んでいてもよく、酵素5を二種以上含んでいてもよい。
また、混合物が、酵素5の種類が異なる複数種の酵素体3を含んでいる場合において、一方の酵素体3における酵素反応によって生成された生成物の一部が、他方の酵素体3における酵素反応の基質となる場合がある。同一の系に含まれている個別の酵素体3の間では、化学物質の交換が速やかに行われている。そのため、一方の酵素体3における酵素反応によって生成された生成物は、速やかに他方の酵素体3へ移動し、そこで基質として酵素反応に参加する。
また、混合物が、酵素5の種類が異なる複数種の酵素体3を含んでいる場合において、一方の酵素体3における酵素反応の生成物に水が含まれ、他方の酵素体3における酵素反応が反応種として水を必要とする場合がある。このような場合、一方の酵素体3で生成された水は、速やかに他方の酵素体3へ移動し、そこで酵素反応に用いることができる。
酵素
酵素体3に含む酵素5としては、例えば酸化還元酵素、改変酵素、加水分解酵素、合成酵素、転移酵素、脱離酵素、タンパク質架橋化酵素、変異化酵素、異性化酵素、架橋酵素、抗体酵素、リアーゼ(lyase)、リガーゼ(ligase)、および結晶化された酵素などを用いることができる。以下にこれらの種類を示すが、酵素体3の含むことのできる酵素5はこれらに限定されるものではない。
例えば、Parathion Hyrolase、organophosphorus hydrolase enzyme(OPH)、コリンエステラーゼ(Cholinesterase; ChE)、コリンオキシダーゼ (Choline Oxidase; ChO)、ブチリルコリンエステラーゼ(Butyrylcholinesterase; BChE)、β−ガラクトシダーゼ(β-galactosidase)、ペルオキシダーゼ(HRP) 、アセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase; AChE)、ホルムアルデヒド脱水酵素(formaldehyde dehydrogenase)、コレステロールエステラーゼ(ChEt)、コレステロールオキシダーゼ(ChOx)、グルコースイソメラーゼ、グルコース−1−オキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース脱水素酵素、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、インペルターゼ、ペニシリナーゼ、β−グルコシダーゼ、デカルボキシラーゼ、アンモニアリアーゼ、モノアミンオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ(Alcohol Dehydrogenase; ADH)、アスコルビン酸オキシダーゼ、アミノ酸オキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、クレアチナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、アシル−CoAオキシダーゼ、アシル−CoAシンセターゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸β−脱炭酸酵素、アスパルターゼ、アセテートキナーゼ、アミノアシラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラニン脱水素酵素、アラバナーゼ、アラビノシダーゼ、RNAポリメラーゼ、アルカリキシラナーゼ、アルカリセルラーゼ、アルカリプロテアーゼ、アルカリリパーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、アルドラーゼ、α−アセト乳酸脱炭酸酵素、α−キモトリプシン、イソアミラーゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、インベルターゼ、ウリカーゼ、ウレアーゼ、ウロキナーゼ、エステラーゼ、N-アセチルノイラミン酸リアーゼ、エンド−β−グルカナーゼ、ω−ヒドロキシラーゼ、カタラーゼ、カルボキシルエステラーゼ、カルボキシペプチダーゼ、カルボニックアンヒドラーゼ、γ−グルタミントランスペプチダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、ギ酸デヒドロゲナーゼ、
キシラナーゼ、キシランアセチルエステラーゼ、キシロースイソメラーゼ、キモシン、グアノシン−5’−リン酸シンセターゼ、クエン酸シンセターゼ、グリセロールオキシダーゼ、グリセロールキナーゼ、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ、グルコアミラーゼ、グルコシルトランスフェラーゼ、グルタミン酸デカルボキシダーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、クレアチニナーゼ、クレアチニンデイミナーゼ、クレチナーゼ、クロロペルオキシダーゼ、5’−アデニル酸デアミナーゼ、コリパーゼ、コレステロールオキシダーゼ、サーモライシン、ザルコシンオキシダーゼ、ザルコシンデヒドロゲナーゼ、3−α−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、3−クロロ−D−アラニンクロリドリアーゼ、ジアホラーゼ、シアン酸アルドラーゼ、シクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼ、ジヒドロピリミジナーゼ、ストレプトキナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、スブチリシン、セファロスポリンアシラーゼ、セファロスポリンアミダーゼ、セルラーゼ、セロビオヒドロラーゼ、チトクロムC、チミディレートシンターゼ、DNAポリメラーゼ、デオキシリボース−5−リン酸アルドラーゼ、デキストラナーゼ、ドーパデカルボキシラーゼ、トランスグルタミナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、トリプシン、トリプトファナーゼ、トリプトファンシンセターゼ、ナリンギナーゼ、ニトリルヒドラターゼ、乳酸脱水素酵素、ノイラミニダーゼ、ハロヒドリンエポキシダーゼ、ハロヒドリンハロゲンハライドリアーゼ、ハロペルオキシダーゼ、ヒスチジンアンモニアリアーゼ、ヒダントイナーゼ、ピラノース−2−オキシダーゼ、フェニルアラニンアンモニアリナーゼ、フェノールオキシダーゼ、プトレッシンオキシダーゼ、フラビン酵素、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、プルラナーゼ、プロテアーゼ、プロウロキナーゼ、プロティナーゼ、プロリンイミノペプチダーゼ、ブロモペルオキシダーゼ、ヘキソキナーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ、ペクチントランスエリミナーゼ、β−エーテラーゼ、β−グルカナーゼ、β−グルコアミラーゼ、β−フルクトフラノシダーゼ、β−フラクトフラシノダーゼ、ペプチダーゼ、ヘミセルラーゼ、ペニシリンアミラーゼ、ペニシリンアミダーゼ、ペントサナーゼ、ホスホジエステラーゼ、ホスホリパーゼ、ホスホリラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、マンナナーゼ、ムタナーゼ、ムタロターゼ、ラクターゼ、ラクトノヒドロラーゼ、ラクトペルオキシダーゼ、ラクマターゼ、ラセマーゼ、ラッカーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、リジルエンドペプチダーゼ、リジンオキシダーゼ、リジンデカルボキシラーゼ、リゾチーム、リパーゼ、リブロース−1,5−ビスホスフェイトカルボキシラーゼ、リポプロテインリパーゼ、リボヌクレアーゼA、リンゴ酸デヒドロキナーゼ、ルシフェラーゼ、ロイシンアミノペプチダーゼ、ロダナーゼなどの酵素を用いることができるが、これらに限定されるものではない。または、遺伝子組み替えで、新たに創出される、人工酵素を用いることもできる。
抗体酵素としては、例えばインフルエンザウィルス、エイズウィルス、ヘリコパクター・ピロリ菌、サイトカイン、IgEなどに存在する抗原に対して抗原特異性を持つ抗体酵素を用いることができる。
分散剤
分散剤として乳化剤を用いることができる。乳化剤は、親水基と疎水基とを有する両親媒性分子である。乳化剤を使用して安定な分子集合体を形成することができる限り、実施形態に用いられる乳化剤の種類と組み合わせは特に限定されない。乳化剤には、例えば、脂質と境界脂質、スフィンゴ脂質、蛍光脂質、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、合成高分子、タンパク質などの天然高分子等を適宜選択して使用することができる。
また、乳化剤として脂質を用いる場合には、例えばトリオレイン、モノオレイン、卵黄レシチン、リン脂質類、合成脂質類、リゾリン脂質類、グリコシルジアシルグリセロール類、プラズマローゲン類、スフィンゴミエリン類、ガングリオシド類、蛍光脂質、スフィンゴ脂質、スフィンゴ糖脂質、レシチン、ステロイド、ステロール類、コレステロール、酸化コレステロール、シヒドロコレステロール、グリセリルジステアレート、グリセリルモノオレエート、グリセリルジオレエート、イソソルベイトモノブラシデイド、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノパルミトレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノブラシデート、ドデシル酸リン酸塩、ジオクタデシルリン酸塩、トコフェノール、クロロフィル、キサントフィル、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、イノシトール、臭化へキサデシルトリメチルアンモニウム、ジグルコシルジグリセリド、ホスファチジルコリン、レチナール/酸化コレステロール/レクチン/ロドプシン、脳全脂質、ヒト赤血球全脂質等を使用することができる。
また、分散剤として各種界面活性剤を用いる場合、例えば、アルキル四級アンモニウム塩(CTAB、TOMAC等)、アルキルピリジニウム塩(CPC等)、ジアルキルスルホコハク酸塩(AOT等)、ジアルキルリン酸塩、アルキル硫酸塩(SDS等)、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン系界面活性剤(Tween系、Brij系、Triton系等)、アルキルソルビタン(Span系等)、レシチン系界面活性剤、プルロニック型ノニオン界面活性剤とカチオン界面活性剤、ベタイン系界面活性剤、蔗糖脂肪酸エステル等の界面活性剤を用いることができる。実施形態に用いられる分散剤としての界面活性剤はこれらに限定されない。
分散剤としてイオン液体を用いる場合、例えば1-alkylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)amide, [CnImH+][TFSA-] (n = 4 and 8)のようなプロトン性イオン液体を用いることができる。
また、分散剤として高分子を使用する場合、例えば、ポリソープ、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、櫛形ポリエチレングリコール等を使用することができる。
また、分散剤としてタンパク質を用いる場合、例えば、カゼイン等を使用することができる。
また、分散剤としてプルロニックを用いることができる。
分子集合体
媒体2において、分散剤によりほぼ球状の逆ミセルまたは紐状の逆紐状ミセル、またはリポソーム、ベシクル、マイクロエマルション、ラージャーエマルション、両連続マイクロエマルション、単分散状のシングルエマルション、ダブルエマルション、多重層エマルションのいずれか一つ以上の分子集合体を形成させることができる。
酵素体3は、このような分子集合体に酵素5を固定化して得られたものであってもよい。例えば分子集合体の一例として、媒体2において分散剤により形成されるほぼ球状の逆ミセルは、その中央にかなりの量の水をウォータープール4として保持することができる。逆ミセルのウォータープール4に酵素5を取り込ませることによって、酵素5を固定化することができる。このように酵素5を固定化することを、ウォータープール4への酵素5の可溶化ともいう。酵素体3では、ウォータープール4を酵素5が触媒する酵素反応の場として利用する。
逆ミセルは例えば次のように形成される。非水溶媒に乳化剤を添加してゆき、乳化剤の濃度が臨界ミセル濃度(Critical Micelle Concentration; CMC)に達すると、乳化剤の親水基と疎水基がそれぞれ内側と外側に向き、水を囲んだほぼ球状の逆ミセルを形成することができる。
また、乳化剤の濃度をさらに増やして、球状であった逆ミセルを成長させて紐状に伸びた逆紐状ミセルを形成することができる。逆紐状ミセルの中心部にある水は、逆ミセルと同様に酵素反応の反応場となる。また、逆紐状ミセルを酵素体3として用いることにより、媒体2とこの酵素体3とを含んだ混合物をゲル化させることができる。混合物のゲル化の詳細については後述する。
また、乳化剤の代わりに、例えばAOTなどの界面活性剤を非水溶媒に添加して逆ミセルおよび逆紐状ミセルを作製できる。非水溶媒中において、AOTの濃度を増えさせると、逆紐状ミセルを形成させることができる。さらに、AOTの濃度を増やせ続けると、逆紐状ミセルがお互いに絡み合って混合物全体がゲル化する。
また、その他の分子集合体として、例えば分散剤により形成されるリポソーム、ベシクル、マイクロエマルション、ラージャーエマルション、両連続マイクロエマルション、油中水滴型エマルションなどの単分散状のシングルエマルション(W/O単分散状エマルション)、ダブルエマルション(W/O/W型ダブルエマルション)、または多重層エマルションを用いることができる。これらの分子集合体は、内部にウォータープール4として利用できる内水相または水相を含み得る。
なお、ウォータープール4の中で、イオン−双極子相互作用により分子運動を束縛された状態の分散剤の分子またはプロトン性イオン液体(PIL)の分子の親水基周辺に存在する水を、結合水と称する。一方、ウォータープール4の中心部に存在する水は、バルク水とほぼ同様な状態の自由水である。自由水と結合水との間では、交換が迅速に行われている。自由水は、含水量ωoの増大とともに増大する。含水量ωoは下記式によって求められる。
ここで、[H2O]は水のモル濃度であり、[S]は分散剤(S)のモル濃度である。
また、ウォータープールの半径(Rw)が下記式によって求められる。
イオン液体としてプロトン性イオン液体(PIL)も用いる場合、PILは補助界面活性剤としての役割も果たし、逆ミセルまたはマイクロエマルション(water-in-ionic liquid型; W/IL)の形成にも寄与することになる。そのため、逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)の形成に利用されるPILの量も考慮する必要がある。一般的に含水量ωoは、一定の界面活性剤の濃度[S]において、PIL量が増大すると、ωoはより大きくなる。
含水量ωoを適切に調整することにより、ウォータープール4の大きさを適切に調整することができる。
上述した逆ミセル、逆紐状ミセル、リポソーム、ベシクル、マイクロエマルション、ラージャーエマルション、W/O単分散状エマルション、またはW/O/W型ダブルエマルション等の分子集合体は、さらにゲルまたは高分子材料でコートすることができる。
なお、ゲルまたは高分子でコートした逆ミセル、リポソーム、ベシクル、マイクロエマルション、ラージャーエマルション、W/O単分散状エマルション、またはW/O/W型ダブルエマルション等の分子集合体は、マイクロカプセルとみなすことができる。
分子集合体の安定性や酵素反応の効率性、または酵素反応生成物の高効率検出を高める目的として、さらに酸化グラフェン、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノホン、シリカナノ粒子、銀ナノ粒子、金ナノ粒子、パラジウムナノ粒子、半導体ナノ粒子、メソポーラス材料の一種類以上を分子集合体の内部、表面、また周辺に分散することができる。ここで、分子集合体の内部は、例えば逆ミセル等のウォータープール内、または逆紐状ミセルの中心部等である。これらのうち、酸化グラフェン、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノホン、銀ナノ粒子、金ナノ粒子、パラジウムナノ粒子を分散させた場合は、高い電子伝導性とイオン伝導性、並びに分子集合体の安定性向上の効果を得ることができる。一方、シリカナノ粒子、半導体ナノ粒子、メソポーラス材料を分散させた場合、分子集合体の安定性の向上という効果を得ることができる。
マイクロカプセル
実施形態に係るマイクロカプセルとは、例えば微小な核(固体・液体・気体)を含む芯部を多孔性の壁膜により包み込んで得られ、大きさがナノスケールからミリスケールの範囲のものを指す。酵素体3におけるマイクロカプセルは、酵素5の改変、非水溶媒からの隔離、保存、および隠蔽などの効果を有する。
実施形態に係るマイクロカプセルの芯部は、酵素反応の場として利用される。さらに、マイクロカプセルは、芯部へ測定対象物質6、基質15、メディエーター14、水、生成物など酵素反応に係る成分を速やかに取り込むことができ、また、芯部から酵素反応の生成物を速やかに放出することができる。
マイクロカプセルの壁膜、すなわち殻部の材料として、吸湿性高分子材料やその他の、例えば担体として用いることのできる高分子の材料を用いることができる。すなわち、マイクロカプセルの壁膜は、吸湿性高分子材料や高分子材料からなる有機の壁膜、無機の壁膜、無機・有機のハイブリッド壁膜の何れか一種類の壁膜であり得る。
マイクロカプセルは、一般的に化学的技法および物理化学的技法、機械的かつ物理的技法の三大技法により作製することができる。これらの技法の中で、球状単核のマイクルカプセルを作製する技法として、化学的技法の界面重合法、in-situ重合法、液中硬化被覆法と、物理化学的技法の液中乾燥法などの方法がある。
実施形態に係る関わるマイクロカプセルは、上述の方法で作製できるほか、例えば二段階乳化法や膜乳法、一段階乳化法により作製されたダブルエマルションを鋳型として作製することができる。特に一段階乳化法により作製されたダブルエマルションを鋳型として得られたマイクロカプセルは、芯物質内の不純物が少なく、粒径や芯の数、芯の粒径のバラツキが少なく、且つ酵素の高活性を保ったまま芯部に内包させることができるため、望ましい。
または、反応性の分散剤により形成された逆ミセルまたはベシクル、ダブルエマルションを用いて、分散剤の光重合によりマイクロカプセルを作製することもできる。
マイクロカプセル内に酵素5を保持させたものを酵素体3とすることができる。このような酵素体3は、例えば上述の方法によってマイクロカプセルを作製する際、作製されるマイクロカプセルに酵素5が内包されるようにしてマイクロカプセルを作製して得ることができる。また、酵素5の代わりに、後述する細胞や微生物をマイクロカプセル内に保持してもよい。こうして得られる酵素5を内包するマイクロカプセル(酵素体3)を媒体2に分散させる前に、水溶媒に浸漬して芯部または壁膜に水分を含ませてもよい。
細胞および微生物
酵素体3として、酵素5を含んだ細胞や微生物を用いることができる。細胞や微生物は、単体で酵素体3として用いることができる。或いは、担体結合法や包括法などに固定化させた細胞または微生物を酵素体3とすることもできる。
また、細胞や微生物をゲルまたは高分子材料でコートして、酵素体3としてもよい。細胞や微生物をコートするゲルや高分子材料の詳細は後述する。細胞や微生物をゲルでコートする場合、ゲルとともに、細胞外マトリックスタンパク質(Extracellular Matrix protein: ECM protein)または細胞外マトリックスであるフィブロネクチン(Fibronectin: FN)も併せてコートすることもできる。
自然に存在する細胞や微生物には、さまざまな酵素が含まれており、実施形態の測定用セルおよび検出装置において有用な酵素または酵素の組み合わせを有するものもある。適当な組み合わせの酵素を有する細胞または微生物を選択することにより、実施形態の酵素体3として用いることができる。また、実施形態に用いることのできる細胞は、微生物以外の細胞、例えば動物細胞や植物細胞であり得る。
細胞や微生物は、増殖を伴わない死滅した状態のものを用いることができる。なお、このように死滅状態にある微生物は、静止状態にあるといい、このような微生物を固定化したものを固定化静止菌体という。
支持体
酵素を固定化する支持体は、例えば粉末状または多孔性ビーズ状のキチン、キトサン(例えば、富士紡績製のキトパールBCW3010)、キシラン、κ−カラギーナンなどの多糖類を用いることができる。また、支持体として、例えば多孔性のガラス、ポリ乳酸、アルミナ、シリカゲル、セライトを用いることができる。その他にも、例えばセルロース、デキストラン、アガロースなどの多糖類誘導体も支持体として用いることができる。なお、セルロースの場合は、不織布にして用いることができる。
上記の支持体を担体として、担体結合法(物理的吸着法、イオン結合法、共有結合法)により担体を酵素5で修飾する、または担体上に酵素5を分散して複合体を作製する。或いは、例えば格子状の支持体を用い、包括法(格子型)により支持体を酵素で修飾し、支持体の網目構造において酵素を分散して複合体を作製する。こうして得られる複合体を酵素体3として用いることができる。
また、酵素5を固定化する支持体を親水性または吸湿性のものとすることができる。支持体として、例えば吸湿性高分子を用いることによって、被測定試料または空気が含んでいる水を支持体に捕集することができる。こうしてセル本体1の外部からの水を酵素体3に取り込むことにより、酵素反応に必要な水を酵素体3に供給することができる。
支持体として用いることのできる吸湿性高分子(高吸水性ポリマー)には、天然高分子または合成高分子を原料としたものがある。
天然高分子を原料とした吸湿性高分子は、吸水速度が速い点において優れている。天然高分子として、例えば、デンプン系(デンプン−アクリロニトリルグラフト重合体加水分解物、デンプン−アクリル酸グラフト重合体、デンプン−スチレンスルホン酸グラフト重合体、デンプン−ビニルスルホン酸グラフト重合体、デンプン−アクリルアミドグラフト重合体など)、セルロース系(セルロース−アクリロニトリルグラフト重合体、セルロース−スチレンスルホン酸グラフト重合体、カルボキシメチルセルロースの架橋体)、その他の多糖類系(ヒアルロン酸、アガロース)、タンパク質系(コラーゲンなど)などを用いることができる。
合成高分子を原料とした吸湿性高分子は、機械的強度および化学的安定性の面において優れている。合成高分子として、例えば、ポリビニルアルコール系(ポリビニルアルコール架橋重合体、PVA吸水ゲル凍結・解凍エラストマーなど)、アクリル系(ポリアクリル酸ナトリウム架橋体、アクリル酸ナトリウム−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル系重合体ケン化物など)、その他の付加重合体(無水マレイン酸系重合体、ビニルピロリドン系共重合体など)、ポリエーテル系(ポリエチレングリコール・ジアクリレート架橋重合体など)、縮合系ポリマー(エステル系ポリマー、アミド系ポリマー)などを用いることができる。
上述の吸湿性高分子は用途に応じて、粉末状、ビーズ状、繊維状、フィルム状、不織布状などさまざまな形状に適宜に加工して使用することができる。
上記の吸湿性高分子を担体として、担体結合法(物理的吸着法、イオン結合法、共有結合法)により担体を酵素で修飾し、担体上に酵素を分散して酵素体3を作製する。或いは、例えば格子状の支持体を用い、包括法(格子型)により支持体を酵素で修飾する、または支持体の網目構造において酵素を分散して酵素体3を作製する。
酵素を固定化する支持体として、高分子ゲル(ポリマーゲル)を用いてもよい。このようなゲルとしては、例えば、トロポエラスチンというタンパク質で作られたMetrogel(MeTro Hydrogel)、gelatin methacrylate(GelMA)ヒドロゲル、ゼラチン、アルギン酸ヒドロゲル、ポリアクリル酸ナトリウムゲル、メビオールジェル(池田化学社製の登録商標; Mebiolgel)、常温固化型・伸縮性ハイドロゲルAQUAJOINT(日産化学工業株式会社製の商品名)、シリカゲル、寒天、κ−カラギーナン、ポリアクリルアミドゲルを用いることができる。
上記のゲルに、結合法(物理的吸着法、イオン結合法、共有結合法)により酵素を分散・修飾して、或いは、包括法により酵素をゲルで包括することにより酵素体3を作製することができる。
なお、ゲルとしては、主の溶媒が水であるヒドロゲルを用いてもよく、主の溶媒が非水溶媒であるオルガノゲルを用いてもよい。
媒体2と酵素体3との光学的特性を測定して測定対象物質6を検出する場合は、混合物の透光性を妨げないように支持体を選択することが望ましい。このような支持体としては、例えばセルロースパウダー、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノクリスタル(CNC)、キチンナノファイバー、またはキトサンナノファイバーなどを用いることができる。なお、典型的なCNFは4〜100nm程度の幅および5μm程度の長さを有し、典型的なCNCは、幅10〜50nm程度の幅および100〜500nm程度の長さを有する。また、例えばスギノマシン社製のセルロース・キチン・キトサン由来のナノファイバーである[BiNFi-s]を用いてもよい。なお、「BiNFi-s」は約20nmの直径および数μmの長さを有する。
3.メディエーター
実施形態に係るメディエーター14は、酵素5が触媒する酵素反応のメディエーターとなる物質であれば、その種類は特に限定されない。
酵素体3の作製の際、メディエーター14が予め酵素体3の酵素反応場に分散されるように酵素体3を作製することができる。または、酸素のようなメディエーター14は、ブリージング(breathing)によって大気から媒体2と酵素体3とを含む混合物を経て酵素体3の酵素反応場に供給することもできる。
また、メディエーター14を過飽和となるように、例えば媒体2またはウォータープール4に溶解可能な粉末状の固体として混合物に分散させることができる。混合物において過飽和に分散されたメディエーター14は、固−液抽出法によって、酵素体3の酵素反応場へ移動し、酵素反応に参加する。過飽和となるようにメディエーター14を媒体2内で分散させる場合、常に一定濃度のメディエーター14を酵素反応場へ提供できるメリットがある。
さらに、電極上の反応、例えば酸化−還元反応により生じた生成物も、再び酵素体3の酵素反応場へ移動し、メディエーター14として使うことができる。
1つの測定セルにおいて複数種のメディエーター14を用いてもよい。1以上の酵素体3に複数種の酵素5が含まれている場合、異なる種類のメディエーター14のそれぞれを、異なる酵素反応に対応させてもよい。或いは、種類の異なる2以上のメディエーター14を、同一の酵素反応に対応させてもよい。
メディエーター14として、例えば、フェロセン/フェリシニウムイオン、フェリシアン化カリウム/フェロシアン化カリウム、p−ベンゾキノン/ヒドロキノン、p−クレゾール、Pryogallol/Purpurogallin、ヨウ素、p−ニトロフェノール、フェノール、芳香族アミン、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)(還元体)/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)(酸化体)、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine; TMB)/3,3',5,5'-tetramethylbenzidine diimineなどを用いることができる。
4.基質
第1の実施形態のように、基質が測定対象物質6自体である場合、酵素体3の内外において基質を予め分散させる必要がない。一方、第2の実施形態のように測定対象物質6が酵素反応の基質ではない場合は、基質15を予め酵素体3の酵素反応場に分散させることができる。
また、基質15を過飽和の状態となるように、例えば媒体2またはウォータープール4に溶解可能な粉末状の固体として媒体2に分散し、固−液抽出法によって、酵素体3の酵素反応場へ移動させることができる。過飽和となるように基質15を媒体2に分散する場合、長期間にわたり酵素反応に必要とされる基質15を提供することができる。
基質15が測定対象物質6自体ではない場合、例えば、acetylthiocholine (ATCh)、アセチルコリンクロライド(Acetylcholine chloride:ACh)、S-Butyrylthiocholine chloride(BTChCl)、Choline(Ch)、アセチルチオコリンクロライド(Acetylthiocholine chloride: ATChCl)、Acetylthiocholine perchlorateなどを基質15として用いることができる。
5.混合物
混合物は、媒体2と酵素体3とを含む。また、酵素体3における酵素反応にメディエーター14が参加する場合は、混合物はメディエーター14をさらに含み得る。さらに、第2の実施形態では、混合物は、基質15をさらに含む。
混合物は、セル本体1に支持または収納される。
混合物は、例えば支持体に含浸させることにより、セル本体1に収納させることができる。例えば、不織布に酵素体3を含む媒体2を含浸させることにより、混合物を収納することができる。
また、混合物はゲル化されていてもよい。例えば、非水溶媒を含んだ媒体2と酵素体3とを含む混合物をオルガノゲル状とすることができる。
混合物をオルガノゲル状とするには、例えば媒体2に含まれている非水溶媒に逆紐状ミセルまたはナノファイバーを分散させることができる。ここで、逆紐状ミセルやナノファイバーは、酵素体3の一部であり得る。また、例えば、内径が10nm程度の有機ナノチューブを非水溶媒中に分散させることにより混合物をゲル化することができる。さらに、非水溶媒分子を架橋することによりゲル化させることもできる。酵素体3が逆ミセルや逆紐状ミセルを含む場合、逆ミセルまたは逆紐状ミセル内のウォータープール4にゼラチンまたはレシチンを含ませてウォータープ−ル4をゲル化することによってオルガノゲルを作製することもできる。
混合物をゲル化することによって、セル本体1上に混合物を支持することがより容易になる。また、ゲル化した混合物は、液体の場合よりも安定性が高い。例えば、混合物をゲル化することによって、セル本体1の外部からの衝撃などの影響による媒体2中に分散された酵素体3の分布の偏りが生じにくくなる。
また、混合物は、インクジェット法、ディップコーティング法、スピンコート法、スプレーコート法、キャスト法などの手法を用いて、例えば検出用の電極10などの電極上にコートさせることによって、セル本体1上に支持させることができる。混合物をコートする場合、対比用の電極11の付近のように、媒体2に酵素体3が分散されていない部分については、例えば媒体2のみを対比用の電極11上にコートさせることができる。または、酵素体3から酵素5を省略したもの、例えばウォータープール4に酵素5を可溶化させていない逆ミセルなどを含んだ媒体2を対比用の電極11にコートさせることができる。
一方、コスト削減の視点から、電極上に混合物をコートする工程を省略するために、検出用の電極10およびその対極や参照電極などの上に同じ混合物をコートしても構わない。
その後、電極上にコートした混合物をゲル化させることにより、ゲル化した混合物を得ることができる。
6.電気化学的測定
セル本体1において、混合物の電気的または電気化学的特性の変化を測定して測定対象物質6を検出する場合、1以上の電極を混合物と接触するように設置する。1以上の電極のうち、少なくとも一つは検出用の電極10である。後述するように、検出用の電極10は、測定方法によって電極としての定義が異なる。
図6に、例えば基質の酵素反応に由来する生成物を電気化学的測定法(ボルタンメトリーなどの方法)で検出することにより、測定対象物質6を検出する検出装置100の基本構造を示す。
図6の検出装置100では、測定方法をボルタンメトリー法の電気化学的測定法とし、上述したS1測定モードにより電極上の酸化−還元反応を測定することにより、測定対象物質6を検出することができる。この検出装置100では、ポテンショスタット装置の作用電極を検出用の電極10とする。なお、図6に示す検出装置100は、電極として、ポテンショスタット装置の参照電極12および対極13も含む。
酵素体3における酵素反応に由来する生成物7aをクロノアンペロメトリーで測定することができる。この場合、参照電極12に対して一定の電圧を検出用の電極10に印加して、電流の経時変化を測定部9としてのポテンショスタットで計測する(図2(a))。さらに、得られた電流の変化挙動を上述した方法に基づいて計算することにより、測定対象物質6を検出することができる。クロノアンペロメトリーは、長期に亘って測定対象物質6の有無を検出する場合や測定対象物質6の経時的変化を測定する場合、またはフロー系における測定対象物質6を検出する場合において望ましい。
一方、バッチ式で測定対象物質6を測定する場合は、サイクリックボルタンメトリーによる測定を用いることができる。サイクリックボルタンメトリーで得られた電流−電位曲線から、酵素反応に由来する生成物の酸化または還元のピーク電流値を得ることができる。電極活物質の酸化または還元のピーク電流値に基づいて、測定対象物質6を測定することができる。
一方、S2測定モードで電極活物質を測定する場合は、測定用セル101は、検出用の電極10に加え、対比用の電極11を含む。図7に、電気化学的測定法によるS2測定モードを用いる測定用セル101の一例を示す。図7の測定用セル101は、基板16の両面に電極を印刷して得られた印刷電極において、その両面に単独の媒体2または媒体2と酵素体3とを含む混合物をさらにコートしたものである。なお、この測定用セル101は、さらに電気的絶縁層17を含む。図7(a)は、測定用セル101の一方の面の概略を示し、図7(b)は、測定用セル101の他方の面の概略を示す。図7(c)は、図7(a)の破線VIIcに沿って得られた測定用セル101の断面図である。図7(d)は、図7(b)の破線VIIdに沿って得られた測定用セル101の断面図である。
図7の測定用セル101では、検出用の電極10と対比用の電極11は、両者とも作用電極であり、同じ参照電極12および対極13を使用する。測定用セル101の一方の面(例えば図7(a)に示す面)にコートされている混合物102において、検出用の電極10の付近には酵素体3が分散されている。また、測定用セル101の他方の面(例えば図7(b)に示す面)においても、検出用の電極10の付近に酵素体3が分散されている。これらの、測定用セル101の一方の面で分散されている酵素体3と、他方の面で分散されている酵素体3とは、種類が同じでも、または異なっていてもよい。一方、図7(a)、図7(b)、図7(d)に示すように、測定用セルのどちらの面においても、対比用の電極11部分の付近には、酵素体3が分散されていない。
図7では、検出用の電極10としての作用電極が1つ図示されているが、検出用の電極10としての作用電極を複数本配置してもよく、これらの複数の作用電極に対し、1本の参照電極12および1本の対極13を使用することができる(図示省略)。
また、検出用の電極10と対比用の電極11とで、異なる参照電極および対極を使用することもできる。すなわち、測定用セル101は、検出用の電極10に対応する第1の参照電極と第1の対極とを含み、さらに、対比用の電極11に対応する第2の参照電極と第2の対極とを含んでもよい(図示省略)。この場合、非水溶媒を含む媒体2のうち、対比用の電極11および第2の参照電極の付近には酵素体3が分散されていない。
このような測定用セル101と測定部9としてのバイポテンショスタットとを用いることにより、S2測定モードで酵素反応に由来する生成物を測定することができる。クロノアンペロメトリーを用いて電気化学的測定を実施する場合、測定用セル101において、一定の電圧(参照電極12に対する電圧)を検出用の電極10と対比用の電極11のそれぞれに印加して、両電極における電流の経時変化をバイポテンショスタットで計測することができる。測定対象物質6が存在する場合、図2(b)に示すような電流と時間との関係を示す時間変化曲線が得られる。
なお、図6の検出装置100および図7の測定用セル101では、作用電極、参照電極、および対極を用いる3電極方式の電気化学的測定法を用いる場合を示したが、例えば2電極方式または4電極方式の電気化学的測定法を用いることもできる。
図8(a)に2電極方式の電気化学的測定法を用いる検出装置100の一例の概略を示す。図8(a)の検出装置100は、網状の検出用の電極10とこの検出用の電極10と対になる電極20とを含む。また、網状の検出用の電極10のみ、媒体2と酵素体3とを含む混合物102と接触する。検出用の電極10の上で酸化反応が行われる場合は、検出用の電極10はアノードと呼ばれる。この場合、検出用の電極10と対になる電極20はカソードとなる。一方、検出用の電極10の上で酸化反応が行われる場合は、検出用の電極10はカソードと呼ばれる。この場合、検出用の電極10と対になる電極20はアノードとなる。
なお、例えばカーボンクロス電極やポーラス構造を有するグラフェン電極を検出用の電極10として用いることができる。
また、図8(b)に示すように、非水溶媒を含む媒体2と酵素体3とを含む混合物102と接触するように電極20を設置してもよい。
検出用の電極10は、例えば白金または金、チタンの電極を用いることができる。検出用の電極10と対になる電極20は測定条件に応じて選択することができ、例えば銀、白金、パラジウム、または銀−塩化銀(Ag/AgCl)等を用いることができる。
また、参照電極12としては、擬似参照電極を用いることができる。擬似参照電極は、一定な電位を保つことができない。ただし、擬似参照電極の電位は測定条件に対し明確な依存性を示す。そのため、測定条件が分かれば、電位を計算することができるので、擬似参照電極を参照電極12として用いることができる。
参照電極12および擬似参照電極として、例えば白金、白金黒、パラジウム、銀、銀−塩化銀(Ag/AgCl)電極、金、カーボン電極などの電極を用いることができる。
検出用の電極10または対比用の電極11の電極を構成する物質としては、化学的な安定性及び表面における反応活性の点から一般的に用いられる白金、金、カーボンの電極等を用いることができる。また、媒体2に含まれる非水溶媒や、被測定試料によっては、例えば白金−カーボン電極、金−カーボン電極、タングステン電極、チタン電極、銀電極、パラジウム電極、グラフェン電極、酸化グラフェン電極、グラッシーカーボン電極、炭素クロス電極、カーボンペースト電極、半導体電極(例:二酸化チタン)など、有機導電体、ダイヤモンド電極等を用いることもできる。
また、検出用の電極10または対比用の電極11は、用途に応じて、平板、棒、網状、ワイヤー、クロスなどの形状に適宜に加工して使用することもできる。
測定方法をポテンシオメトリー法とし、S1測定モードを用いる検出装置100の一例の概略を図9(a)に示す。この検出装置100では、例えば測定部9としてエレクトロメータを用い、エレクトロメータのイオンセンサを検出用の電極10として使用する。また、検出装置100は、参照電極12を含む。
一方、S2測定モードを用いる場合は、測定用セル101および検出装置100は、さらに対比用の電極11として第2のイオンセンサを含む。図9(b)に、ポテンシオメトリー法によるS2測定モードを用いる測定用セル101の一例の概略を示す。図9(b)に示すように、混合物102において、検出用の電極10の付近には、酵素体3が分散されている。一方、媒体2において、対比用の電極11および参照電極12の付近には酵素体3が分散されていないことが望ましい。
また、図9(b)では、検出用の電極10として一本のイオンセンサが図示されているが、同じセル内に検出用の電極10としてのイオンセンサを複数本配置してもよい。
さらに、検出用の電極10とは異なるセルに、異なる(第2の)参照電極を設置してもよい。この場合、第2の参照電極のセルに設置されているイオンセンサを対比用の電極11として用いることができる。対比用の電極11および第2の参照電極が設置されているセルでは、媒体2に酵素体3を分散しない。
ポテンシオメトリー法により、酵素反応由来の混合物102の変化を膜電位として捉えることができる。図2(a)に示す電流の時間変化曲線と同様に、まず、膜電位の経時変化を測定し、膜電位と時間との関係を示す時間変化曲線を得る。次に、膜電位の変化挙動に基づいて測定対象物質6の定量測定を行うことができる。なお、測定対象物質6の定量測定に関しては、事前に、膜電位と測定対象物質6の濃度との関係を調べておく。例えば、事前の測定に基づいてデータベースを構築し、このデータベースを測定部9のデータベース処理部に収納する。
また、測定部9を、例えば水素イオン(pH)を測るpHセンサとすることもできる。また、測定部9を、例えばアンモニウムイオンを測るアンモニウムイオンセンサとしてもよい。この場合、参照電極12を必ずしも混合物102に接するように設置しなくともよい。なお、検出用の電極10と対比用の電極11が同じ測定用セル101内に設置される場合、検出用の電極10と対比用の電極11との両電極に対し、一つの参照電極12を兼用できる。
図10に、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor: FET)を含んだ検出装置100を示す。FETを含んだ検出装置100においては、ゲート電極(G)を検出用の電極10として使用する。
図10(a)は、S1測定モードを用いる場合のFETを含んだ検出装置100の基本構造を示す。また、図10(b)は、S1測定モードを用いる場合の分離ゲート型FETを含んだ検出装置100を示す。
FETを含んだ検出装置100では、ゲート電極(検出用の電極10)の界面電位変化に起因するドレイン電流の変調原理を利用して、酵素反応の生成物の検出を行っている。
また、ゲート電極にさらに、酵素反応の生成物を検出できる感知部(イオン感応膜)または抗体、アプタマーなどのレセプター分子を設けることができる。こうすることにより、検出装置100が検出する測定対象物質6について、選択性を持たせることができる。また、ゲート電極にイオン選択性膜を設けることにより、イオン選択性電界効果トランジスタ(Ion selective field effect transistor: ISFET)とすることができる。例えば、イオン感応膜をゲート電極に設けることができる。ここで、ゲート電極にイオン感応膜を設けた部分を検知部と呼ぶ。また、感応膜を設けていない部分をゲート電極部と呼ぶ。検知部において、この検知部と酵素反応の生成物との間で相互作用が生じた場合、感知用ゲートとしてのゲート電極部の電位の変化、すなわちゲート電位変化が引き起こされる。続いて、ゲート電極のゲート電位が変化することによりドレイン電流が変調される。そこで、ドレイン電極(D)およびソース電極(S)間の電圧VDSとドレイン電流IDとが一定となるように設定した条件にて、ゲート電極の界面電位の変化を、メータの出力電圧(VGS)の変化として直接計測する。生成物の濃度と出力電圧(VGS)との関係を事前に調べておけば、その関係に基づいて生成物の定量測定もできる。生成物の濃度と出力電圧との関係は、例えば事前の測定に基づいて作成した検量線を含む。生成物の濃度と出力電圧との関係は、データベースとして検出器9に収納することができる。
図10(c)は、S2測定モードを用いる場合のFETを含んだ検出装置100の基本構造を示す。また、図10(d)は、S2測定モードを用いる場合の多チャンネンル型FET含んだ検出装置100を示す。
図10(c)に示すように、検出用の電極10としての第1のゲート電極(G1)と同一のセルに、対比用の電極11としての第2のゲート電極(G2)を設置することができる。図10(c)の検出装置100では、検出用の電極10と対比用の電極11とが(G1、G2)、同一の参照電極12を使用する。また、この場合は、図10(c)に示すように、非水溶媒を含む媒体2において、対比用の電極11(G2)および参照電極12に接する部分には、酵素体3が分散されていない。このような検出装置100では、S2測定モードで酵素反応の生成物を測定できる。
さらに、同じセル内に検出用の電極10としてのゲート電極を複数本配置し、多チャンネル型FETとすることができる。図10(d)に示すように、三つのゲート電極(G1、G2、G3)の内、一つのゲート電極(G2)を対比用の電極11として使用し、残り二つのゲート電極(G1、G3)を検出用の電極10として用いることができる。混合物102おいて、検出用の電極10としてのゲート電極(G1、G3)の付近には酵素体3が分散されており、対比用の電極11としてのゲート電極(G2)および参照電極12の付近には酵素体3が分散されていない。検出用の電極10としてのゲート電極(G1、G3)のそれぞれの付近に分散する酵素体3は、それぞれの種類が異なっていてもよい。種類の異なる酵素体3を用いる場合、酵素体3が拡散して互いに混じり合うことを防ぐために、図10(d)に示すように、ゲート電極(G1)とゲート電極(G3)との間に仕切り21を設けてもよい。
また、検出用の電極10と対比用の電極11とは、それぞれが異なるセルに設置されたゲート電極であってもよい。
図10(d)の検出装置100では、複数本のゲート電極を検出用の電極10として用いることにより、複数種の測定対象物質6を同時に測定することができる。
また、図10(a)−(d)に示す検出装置100には、参照電極12が図示されているが、参照電極は省略してもよい。
ゲート電極の材料にグラフェンを用いる場合は、検出装置はグラフェンFET(Graphene Field Effect Transistor: GFET)となる。GFETは、通常のFETよりも検出感度を10〜1000以上に向上させることができる。そのため、GFETを含んだ検出装置が望ましい。
また、n-G/G/p-Gからなるグラフェンダイオードを用いることができる。こここで、n−Gは、n型不純物、例えば窒素(N)をドープして得られるn型グラフェンである。p−Gは、p型不純物、例えばホウ素(B)をドープして得られるp型グラフェン(p-G)である。Gは不純物をドープしていないグラフェン(G)である。グラフェンダイオードは、p型半導体であるp−Gとn型半導体であるn−Gの間にグラフェンを介在させて接合させ、p型半導体とn型半導体とのそれぞれを外部電気回路に接続することにより作製することができる。グラフェンダイオードを使用する場合、グラフェン(G)の部分を検出用の電極10として用いることができる。
図11に、酵素反応の生成物の変化挙動を導電率や膜抵抗として検出することにより、被測定試料を検出する検出装置100の基本構造を示す。
S1測定モードで酵素反応の生成物の変化挙動を導電率または膜抵抗として検出する場合、以下に示す二通りの測定方法で測定することができる。
例えば、図11(a)に示すような検出装置100を用いて、2端子法で導電率を測定することができる。2端子法で導電率を測定する場合、1対の電極が1セットとなり、検出用の電極10として用いる。
一対の電極の間の混合物102に、電流を流し、その際の混合物102の電圧降下を測定して、導電率を求める。なお、2端子法により測定される電圧は、混合物102に含まれている非水溶媒と検出用の電極10との界面における、さまざまな要因に起因する電圧降下の結果を含む。
また、導電率の測定において、直流または交流の何れを用いてもよい。ただし、界面における電圧降下を考慮すると、交流による導電率測定が望ましい。高周波数の交流による導電率測定がさらに望ましい。
または、例えば図11(b)に示すような検出装置100を用いて、4端子法で導電率を測定することができる。4端子法で導電率を測定する場合、2対の電極、すなわち1対の検出用の電極および1対の電流電極が1セットとなり、検出用の電極10として使用される。図11(b)では、1対の検出電極が内側に設置されており、1対の電流電極が外側に設置されている。
4端子法の場合、外側の電流電極の間に電流を流して、内側の検出電極間の電位差を測定して、導電率を求める。なお、内側の検出電極間の電位差測定には、内部抵抗の高い検出器を用いることが望ましい。さらに、外側の電流電極の不可逆性によって生じる誤差を回避するために、高い周波数で測定することが望ましい。
また、S2測定モードを用いて酵素反応の生成物の変化挙動を導電率として検出することもできる。
また、検出用の電極10として、グラフェンを用いることにより、検出装置100をグラフェン導電率型センサとすることができる。グラフェン導電率型センサは、電気抵抗式センサであり、センサ部としてのグラフェン表面に検出対象の分子やイオンが吸着すると、グラフェンの抵抗が変化することを利用するセンサである。グラフェン導電率型センサは、分子やイオンがグラフェンに吸着されるとキャリア密度とキャリア移動度の変化を引き起こす原理を利用する。
検出装置100をグラフェン導電率型センサとする場合、検出用の電極10として、グラフェン電極を用いてもよく、酸化グラフェン電極を用いてもよい。グラフェン電極および酸化グラフェン電極はそれぞれ、例えば炭素印刷電極の表面上にグラフェンまたは酸化グラフェンの薄片をコートすることにより作製することができる。
以上、セル本体1に収容されている混合物の電気的特性または電気化学的特性の変化を測定して測定対象物質6を検出する検出装置の詳細について、第1の実施形態に係る検出装置100を例として説明した。これらの詳細は、第1の実施形態に係る検出装置100に限られず、第2の実施形態に係る検出装置200に適用することができる。
電極としては、例えばセルロース、紙、高分子の不織布、多孔性薄膜、高分子薄膜にコーティングされたPt、Au、Ag、カーボン、グラフェン、酸化グラフェン、カーボンナノチューブなどの電極、基板などに印刷された印刷電極などを用いることができる。また、金属繊維を電極として用いることもできる。印刷電極を印刷する基板としては、ガラス基板、金属基板、セラミックス基板、高分子の基板などを用いることできるが、基板の種類を特に限定するものではない。また、基板としては、例えば紙や不織布、多孔性薄膜、を用いてもよい。
7.光学的測定
セル本体1に収容されている混合物の光学的特性の変化を測定して測定対象物質6を検出する場合、セル本体1の少なくとも1部が透光性の部材で構成されていることが望ましい。また、セル本体1において、混合物も透光性を有するように調整されていることが望ましい。
酵素体3における酵素反応に係る反応種または生成物のいずれかが混合物の光学的特性を変化させる物質である場合は、その物質を光学的に測定することにより測定対象物質6を検出することができる。セル本体1の混合物は、必要に応じて色素等を含んでもよい。色素は、酵素反応に参加するメディエーター14であってもよく、あるいは、酵素反応に係る反応種や生成物と反応することによって混合物の光学的特性を変化させるものでもよい。
実施形態の測定用セルおよび検出装置に用いることのできる色素としては、例えば、DCIP(2,6-ジクロロフェノルインドフェノール ナトリウム塩),ローダミンB(RhB)、クロロフィル、メチレンブルー、ローズベンガル、クリプトシアニン、キノシアニンなどがある。色素の他、可視光から紫外光の範囲において吸収スペクトルを持つ分子、または蛍光色素も色素分子と同様な機能を果たすことができる。可視光から紫外光の範囲において吸収スペクトルを持つ分子としては、例えば、NADH、NAD+、pyrogellol、purpurogallin、フェリシアン塩などがある。蛍光色素としては、例えば、ローダミン123などがある。
色素は、混合物において媒体2に含まれていてもよく、または酵素体3に含まれていてもよい。
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る分析装置は、第1の実施形態に係る検出装置100または第2の実施形態に係る検出装置200と、測定対象物質6を気化またはイオン化するサンプリング部とを具備する。実施形態の分析装置のサンプリング部は、測定対象物質6を気化する気化部および測定対象物質6をイオン化するイオン化源の少なくとも一方を含む。
実施形態の分析装置は、サンプリング部において測定対象物質6を気化またはイオン化させてから測定用セルへと導入する。実施形態の分析装置では、測定対象物質6を気化またはイオン化させるサンプリング部を備えることにより、被測定試料から測定対象物質6を効率よく採取することができる。そのため、より高い精度で測定対象物質6を検出および測定することができる。また、サンプリング部において測定対象物質6が気化またはイオン化されるため、被測定試料が気体や液体である場合に加え、固体の被測定試料においても測定対象物質6を迅速に検出することが可能である。
測定対象物質6の気化には、例えばレーザー照射または気体噴射、超音波照射、加熱、電圧の印加などを用いることができる。これらの方法のいずれかを用いて固体および液体の試料を気化することにより、気体試料としてサンプリングすることができる。
測定対象物質6のイオン化には、例えばイオン化源を用いて分子をイオン化させる手法を用いることができる。分子のイオン化に際して、測定対象物質6の分子の状態や分子量、極性、揮発性、分子のイオン化エネルギーなどの条件に応じて、イオン化法を選択する必要がある。分子の状態とは、例えば測定対象物質6が固体、液体、或いは気体であるかである。
イオン化法は、ハードイオン化法とソフトイオン化法とに大きく分けることができる。
ハードイオン化法では、試料分子のフラグメンテーション反応が激しく、試料分子が加熱分解してしまう、または官能基を脱落してしまうことが多い。そのため、ハードイオン化法では、分子がイオン化されると同時に短く切断される。また、ハードイオン化法に分類されるイオン化法は、通常高真空などの過酷な環境下で分子のイオン化を行う必要がある。
ハードイオン化法において分子をイオン化させる代表的な方法は、例えばコロナ放電、強い静電場への分子の導入、分子に対する熱電子の衝突などの方法によって分子のイオン化を行う。
ソフトイオン化法は、よりマイルドなイオン化法である。ソフトイオン化法では、難揮発性の試料の分子構造を維持したまま気体状イオンにすることができ、フラグメントイオンの生成が少ない。また、ソフトイオン化法に分類される多くのイオン化法では、大気圧下で試料をイオン化させることができ、さらに試料の前処理や分離を必要としない。
ソフトイオン化法において分子をイオン化させる代表的な方法では、例えばイオン化反応、酸化還元反応、イオン付加、または試料分子への分子のイオン化エネルギーを超える光子エネルギーなどの付与によって分子のイオン化を行う。
サンプリング部においてイオン化源によって実施するイオン化法としては、被測定試料の前処理を必要とせず、フラグメントイオンの生成が少なく、且つ真空環境下などの特別な環境を必要としないため測定の現場での分子のイオン化が可能であるソフトイオン化法が望ましい。その中でも、環境イオン化法がさらに望ましい。
特に、低温プラズマ法(low temperature plasma probe ionization; LTP)が好ましい。LTPは、非侵襲・非接触のサンプリング法としてのイオン化法である。LTPは低温で運用でき、消費電力も低く、さらにイオン化源としてのプラズマ源におけるディスチャ−ジガスとしてエア(空気)の使用が可能であるため好ましい。また、LTPでは、気体、液体、固体の試料のサンプリングが可能である。そのため、化学兵器用剤である神経ガス(気体)や爆薬(固体)を測定対象物質とする場合、測定の現場にてこれらの分子をイオン化できるため、有力なイオン化法としてLTPを運用することができる。
また、イオン化法として、大気圧レーザーイオン化法(atmospheric pressure laser ionization; APLI)を用いることもできる。特に、イオン化源として小型のレーザー光源(LD励起固体レーザー:Diode Pumped Solid State Laser: DPSS)を使用した場合は、携帯可能な小型分析装置を実現できるため好ましい。
さらに、例えば化学兵器用剤に曝されて、化学兵器用剤に対し中毒となった患者の血液を被測定試料とし、その血液に含まれている化学兵器用剤を測定対象物質6としてサンプリングする場合、例えばペーパースプレーイオン化法(paper spray ionization; PSI)を用いることができる。PSIでは、血液試料から測定対象物質6の分子を直接イオン化することができる。
実施形態の分析装置では、サンプリング部において被測定試料に含まれている測定対象物質6を気化またはイオン化し、測定用セルに導入する。気化またはイオン化された測定対象物質6は、第1の実施形態および第2の実施形態の検出装置について説明したとおりに測定部により測定および検出される。このようにして、被測定試料を分析して、測定対象物質6を検出することができる。
サンプリング部では、例えば被測定試料に含まれている測定対象物質6を気化部により気化することができる。または、被測定試料に含まれている測定対象物質6を、イオン化源を用いて直接イオン化することができる。或いは、測定対象物質6を気化部により気化してからイオン化源を用いてイオン化することができる。
気化部として、例えばレーザー照射装置または気体噴射ノズル、超音波照射装置、加熱装置などの装置を用いることができる。気化部として用いることのできる装置は、試料を気化する手段を備えればよく、特に限定されない。
イオン化の方法として、例えば低温プラズマプローブ法(LTP)を用いる場合は、イオン化源としてプラズマ源を用いることができる。また、イオン化の方法として、例えば大気圧レーザーイオン化法(APLI)を用いる場合は、イオン化源としてレーザー光源を用いることができる。イオン化源は、測定対象物質6を直接イオン化する、または気化した測定対象物質6をイオン化することが可能であれば、特に限定されない。
実施形態の分析装置は、上記サンプリング部において測定対象物質6を気化またはイオン化するため、被測定試料から測定対象物質6を迅速にサンプリングすることが可能である。さらに、測定対象物質6を含んだ被測定試料をサンプリング部に入れればよく、被測定試料に対する特別な前処理が必要ないため、分析が容易に行える。また、第1および第2の実施形態の検出装置を備えているため、高選択的な試料分析が可能であり、さらに簡単に操作することができる。加えて、第1および第2の実施形態の検出装置が簡易な構造を有しているため、低価格化および小型化が容易である。
実施例の分析装置によれば、さまざまな被測定試料を対象に非侵襲および非接触に測定対象物質6をサンプリングして、分析を行うことができる。例えば、農業への応用の例として、果物から農薬(ジクロルボス)を検出することができる。また、果物または野菜、土壌などの被測定試料から、他の農薬、例えば、パラチオンやカルバリルなども検出することができる。農業以外の応用例として、例えばトリニトロトルエン(trinitrotoluene; TNT)などの爆薬を検出することもできる。
実施例の分析装置によって分析することのできる被測定試料および検出できる測定対象物質6は、上記例に限られない。
[実施例]
以下、第1の実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1の検出装置は、第1の実施形態に基づき、農薬パラチオン(parathion)を検出できる検出装置である。
実施例1の検出装置100は1種類の酵素5を含む酵素体3を1種類含む。実施例1の検出装置100では、酵素5はパラチオン加水分解酵素(Parathion Hydrolase:PH)であり、測定対象物質6でもあるパラチオンを基質とする酵素反応を触媒する。
実施例1では、非プロトン性のイオン液体(AIL)である[C8mIm+][TFSA-]とプロトン性のイオン液体(PIL)である[C4ImH+][TFSA-]との混合液(χPIL=AIL/PIL=0.4)を媒体2として用いる。なお、[C8mIm+][TFSA-]は疎水性イオン液体であり、[C4ImH+][TFSA-]は親水性イオン液体である。また、[C4ImH+][TFSA-]は補助界面活性剤としての役割も果たす。
この混合液にアニオン性界面活性剤1,2-ビス(2-エチルヘキシルカルボニル)-1-エタンスルホン酸ナトリウム(Aerosol OT: AOT)を加え、20時間撹拌することによってAOT(0.07M)を分散させる。続いて、水溶液として、酵素5としてのパラチオン加水分解酵素(PH)を含む希薄な緩衝液[0.02 M リン酸/ホウ酸塩/酢酸塩、pH=7](0.02M PBS)を加え、1時間撹拌することにより、媒体2としての[C8mIm+][TFSA-]と[C4ImH+][TFSA-]との混合液の中にAOTと[C4ImH+][TFSA-]とからなり酵素体3を含むウォータープール4を含む逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)を形成させる。
上記のインジェクション法により、酵素体3としてPHをウォータープール4に可溶化した逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)を形成する。このようにして、この酵素体3と上述した媒体2とを含む混合物102が得られる。
実施例1の検出装置100において、測定対象物質6としてのパラチオンを混合物102に導入すると、パラチオンは酵素体3に入り、PHによって加水分解され、p−ニトロフェノール(PNP)を生成する(化1)。PNPは、例えば白金からなる作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用いて、S1測定モードまたはS2測定モードにより検出することができる。なお、作用電極は、白金に限られない。
S1測定モードを実施する場合、例えば対極と参照電極としてそれぞれ白金電極と白金擬似参照電極を用いる。実施例1の検出装置では、例えば測定部9としてポテンショスタット(EG&G社製、Potentiostat/Galvanostat model 283)を用い、白金からなる作用電極(検出用の電極10)にPNPの酸化電位より貴の範囲に含まれる定電位を印加し、パラチオンの加水分解物であるPNPを測定することによりパラチオンを検出することができる。
S2測定モードを実施して、パラチオンを検出する場合、例えば検出用の電極10および対比用の電極11として、共に白金電極を用いることができる。この場合、媒体2において、検出用の電極10の付近には酵素体3が分散されているが、対比用の電極11の付近には酵素体3が分散されていない。セル本体1中の系では、検出用の電極10と対比用の電極11との両方の作用電極が同一の混合物102と接するように設置されているため、一本の対極および一本の参照電極を両方の作用電極の間で兼用することができる。それぞれの作用電極に、PNPの酸化電位より貴の範囲に含まれる定電位(参照電極に対する電位)を印加する。
なお、S1測定モードまたはS2測定モードの詳細は、上述したとおりである。
実施例1の検出装置100が含む測定用セル101において、混合物102に導入されるパラチオンの濃度が増大するとPNPの酸化電流も増大する。予めPNPの濃度とPNPの酸化電流との関係の検量線を準備し、これをデータベースとして測定部9のデータ処理部に収納することができる。検量線を用いれば、検出されるPNPの酸化電流値に基づいて、パラチオンの定量測定を行うことができる。
(実施例2)
実施例2の検出装置は、第1の実施形態に基づき、有機過酸化物、例えば2-butanone peroxideを検出できる検出装置である。
実施例2の検出装置100は、1種類の酵素5を含む酵素体3を1種類含む。実施例2では、酵素5はペルオキシダーゼ(HRP)であり、測定対象物質6でもある有機過酸化物(ROOH)を基質とする酵素反応を触媒する。また、実施例12の検出装置100は、有機過酸化物を基質とする酵素反応におけるメディエーター14としてフェロセンFe(C5H5)2を用いる。
実施例2の検出装置100は、酵素5がHRPであること、メディエーター14としてのフェロセンが用いられていることおよび混合物102を作製する際、水溶液として酵素5であるHRPを含む0.05Mリン酸バッファー(0.05M PBS, pH=7.4)を用いて逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)を形成させたことを除き、実施例1の検出装置100と同様の構成を有する。
実施例2の検出装置100では、測定対象物質6としての有機過酸化物を混合物102に導入すると、酵素体3の酵素5であるHRPが触媒する酵素反応により、有機過酸化物が還元されるとともに、メディエーター14であるフェロセンFe(C5H5)2をフェリシニウムイオン[Fe(C5H5)2]+に酸化する(化2)。
実施例2の検出装置100において、実施例1と同様に、例えば白金からなる作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用い、この作用電極に定電位を印加し、S1測定モードまたはS2測定モードを実施して、フェリシニウムイオンを検出することができる。白金からなる作用電極を用いてS1測定モードを実施する場合、対極と参照電極として、それぞれ白金電極と白金擬似参照電極を用いる。検出用の電極10の上では、フェリシニウムイオンが還元されてフェロセンになる(化3)。こうしてフェリシニウムイオンの還元電流を測定することにより、有機酸化物を検出することができる。
なお、作用電極上(検出用の電極10上)でのフェリシニウムイオンの還元により生じるフェロセンは再び酵素体3に入り、メディエーター14として繰り返し使用することができる。
(実施例3)
実施例3の検出装置は、第1の実施形態に基づき、シックハウス症候群の原因物質の一つであるホルムアルデヒドを検出できる検出装置である。
実施例3の検出装置100は、1種類の酵素5を含む酵素体3を1種類含む。実施例3の検出装置100では、酵素5はホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼであり、測定対象物質6でもあるホルムアルデヒドを基質とする酵素反応を触媒する。また、実施例3の検出装置100では、ホルムアルデヒドを基質とする酵素反応におけるもう一方の基質となるメディエーター14としてNAD+を用いる。
実施例3の検出装置100では、AILである[C8mIm+][TFSA-]とPILである[C8ImH+][TFSA-]との混合液(χPIL=AIL/PIL=0.6)を媒体2として用いる。[C8mIm+][TFSA-]は疎水性イオン液体であり、[C8ImH+][TFSA-]は親水性イオン液体である。また、[C8ImH+][TFSA-]は補助界面活性剤としての役割も果たす。
この混合液にAOTを加え、20時間撹拌することによってAOT(0.07M)を分散させる。続いて、水溶液として、酵素5としてのホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼを含む希薄な緩衝液[0.1Mリン酸バッファー、pH=7.4]を加え、1時間撹拌することにより、媒体2としての[C8mIm+][TFSA-]と[C8ImH+][TFSA-]との混合液の中にAOTと[C8ImH+][TFSA-]とからなり、ウォータープール4を含む逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)を形成させる。
上記のインジェクション法により、酵素体3としてホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼをウォータープール4に可溶化させた逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)を形成する。このようにして、酵素体3と媒体2とを含む混合物102が得られる。
実施例3の検出装置100において、測定対象物質6としてのホルムアルデヒドを混合物102に導入すると、酵素体3の酵素5であるホルムアルデヒドロゲナーゼが触媒する酵素反応により、ホルムアルデヒドが酸化されてギ酸が生成されるとともに、メディエーター14であるNAD+がNADHに還元される(化4)。
実施例3の検出装置100において、例えば酸化グラフェンからなる作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用い、この作用電極にNADHの酸化電位より貴の範囲に含まれる定電位を印加し、S1測定モードまたはS2測定モードによりNADHを検出することができる。検出用の電極10上では、NADHが酸化されてNAD+になる(化5)。こうしてNADHの酸化電流を測定することによりホルムアルデヒドを検出することができる。
また、作用電極は、酸化グラフェンに限られない。例えば、作用電極として酸化グラフェンと白金ナノ粒子とのハイブリッド材料からなる電極を用いることができる。
S1測定モードを実施する場合、例えば対極と参照電極としてそれぞれカーボンインクで作製された炭素電極と白金擬似参照電極を用いる。
S1測定モードおよびS2測定モードの詳細は、上述したとおりである。
実施例3の検出装置100の混合物102に導入されるホルムアルデヒドの濃度が増大すると、NADHの酸化電流も増大する。予めNADHの濃度とNADHの酸化電流との関係の検量線を準備し、これをデータベースとして測定部9のデータ処理部に収納することができる。検量線を用いれば、検出されるNADHの酸化電流値に基づいて、ホルムアルデヒドの定量測定を行うことができる。
また、作用電極上(検出用の電極10上)でのNADHの酸化により生じるNAD+は、酵素体3に再び入り、酵素5における酵素反応のメディエーター14として繰り返し使用することができる。
(実施例4)
実施例4の検出装置は、第1の実施形態に基づき、アルコール(エタノール)を検出できる検出装置である。
実施例4の検出装置100は、アルコールデヒドロゲナーゼ(Alcohol Dehydrogenase; ADH)が酵素5であることを除き、実施例3の検出装置100と同一の構成を有する。
実施例4の検出装置100では、測定対象物質6としてのエタノールを混合物102に導入すると、酵素体3の酵素5であるアルコールデヒドロゲナーゼが触媒する酵素反応により、エタノールが酸化されてアセトアルデヒドが生成するとともに、メディエーター14であるNAD+がNADHに還元される(化6)。
実施例4の検出装置100において、実施例3と同様に作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用い、作用電極に定電位を印加し、S1測定モードまたはS2測定モードを実施してNADHの酸化電流を測定することにより、エタノールを検出することができる。
なお、実施例4の検出装置100においても、実施例3と同様に、NAD+をメディエーター14として繰り返し使用することができる。
(実施例5)
実施例5の検出装置は、第1の実施形態に基づき、グルコースを検出できる検出装置である。
実施例5の検出装置100は、グルコースオキシダーゼ(glucose oxidase; GOD)が酵素5であり、フェリシアン塩(Fe(CN)6)がメディエーター14であることを除き、実施例3の検出装置100と同一の構成を有する。
実施例5の検出装置100では、測定対象物質6としてのグルコースを混合物102に導入すると、酵素体3の酵素5であるGODが触媒する酵素反応により、グルコースが酸化されてグルコノラクトンが生成するとともに、メディエーター14である[Fe(CN)6]3-が[Fe(CN)6]4-に還元される(化7)。
実施例5の検出装置100において、例えば白金からなる作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用い、この作用電極に定電位を印加し、S1測定モードまたはS2測定モードにより[Fe(CN)6]4-を検出することができる。検出用の電極10上では、[Fe(CN)6]4-が酸化されて[Fe(CN)6]3-になる(化8)。こうして[Fe(CN)6]4-の酸化電流を測定することによりグルコースを検出することができる。白金からなる作用電極(検出用の電極10)を用いてS1測定モードを実施する場合、対極と参照電極として、それぞれ白金電極と白金擬似参照電極を用いる。
なお、作用電極上(検出用の電極10上)での[Fe(CN)6]4-の酸化により生じる[Fe(CN)6]3-は再び酵素体3に入り、メディエーター14として繰り返し使用することができる。
また、実施例5の変形例として、メディエーター14としてのフェリシアン塩を省略した検出装置100について説明する。
混合物102に[Fe(CN)6]3-を含まない場合、非水溶媒に存在する溶存酸素をメディエーター14として用いることができる。また、メディエーター14としての酸素は、ブリージングにより大気から補給することができる。
実施例5の変形例では、酵素5であるGODが触媒する酵素反応により、グルコースが酸化されてグルコノラクトンが生成するとともに、メディエーター14としての酸素が過酸化水素に還元される(化9)。
実施例5の変形例の検出装置100において、酵素反応により生成される過酸化水素は、例えば白金からなる作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用いて、S1測定モードまたはS2測定モードにより検出することができる。陽極としての検出用の電極10に定電位(640mV)を印加すると、検出用の電極10の上で過酸化水素が酸化されて酸素および水素イオンが生成される(化10)。この酸素および水素イオンは、陰極(対極)としての、例えば銀電極上で還元されて、水が生成される(化11)。こうして、酵素反応により生成された過酸化水素を検出用の電極10で直接検出するによりグルコースを検出することができる。
上述のとおり、酵素反応により生成した過酸化水素は、陽極としての検出用の電極10および対極の表面上で起こる全反応により水を生成する(化12)。
このように生成された水が、再び酵素体3に入ることでウォータープール4に水が補給される。また、酵素体3は、逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)であるため、ウォータープール4への水の補給量が自動的に制御される。すなわち、ウォータープール4内の水量が逆ミセルまたはマイクロエマルションの含水限界量に達すると、酸化−還元反応で生成された余分な水は混合物102から外部へ自動的に排出される。
また、実施例5の変形例と同様に、過酸化水素を生成する酵素反応を触媒する他の種類の酵素5を用いた場合でも、過酸化水素の検出により、測定対象物を検出することができる。過酸化水素を生成する酵素反応としては、例えばコレステロールオキシダーゼの触媒するコレステロールの酸化反応、ウリカーゼの触媒する尿酸の酸化反応、乳酸オキシダーゼの触媒する乳酸の酸化反応などがある。
このような酵素反応を用いる検出装置100では、生成された過酸化水素の電極上での酸化−還元反応により水が生成され、酵素体3のウォータープール4の水を補給することができる。
(実施例6)
実施例6の検出装置は、第1の実施形態に基づき、グルコースを検出できる検出装置である。
実施例6の検出装置100は、1種類の酵素5を含む酵素体3を1種類含む。実施例6の検出装置100では、酵素5はグルコースオキシダーゼ(GOD)であり、測定対象物質6としてのグルコースを基質とする酵素反応を触媒する。また、実施例6の検出装置100では、グルコースを基質とする酵素反応におけるもう一方の基質となるメディエーター14としてフェリシニウムイオン[Fe(C5H5)2]+を用いる。
実施例6の酵素体3は、GODとポリビニルアルコール(PVA)の粉末を均一になるまで混合した後、希薄なリン酸・クエン酸バッファー(pH=5)を加えて、GODをPVAで包括することにより固定化して作製する。
こうして作製した酵素体3を、媒体2としての非水溶媒であるトリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドに分散させて、媒体2と酵素体3との混合物102とする。実施例6の検出装置100は、このようにして得られた混合物102を用いて製造される。
実施例6の検出装置100において、測定対象物質6としてのグルコースを混合物102に導入すると、酵素体3の酵素5であるGODが触媒する酵素反応により、グルコースが酸化されてグルコノラクトンが生成されるとともに、メディエーター14であるフェリシニウムイオンがフェロセンFe(C5H5)2に還元される(化13)。
実施例6の検出装置100において、例えば白金からなる作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用い、この作用電極に定電位(350mV vs. Pt)を印加し、S1測定モードまたはS2測定モードによりフェロセンを検出することができる。検出用の電極10の上では、フェロセンが酸化されてフェリシニウムイオンになる(化3)。こうしてフェロセンの酸化電流を測定することによりグルコースを検出することができる。白金からなる作用電極(検出用の電極10)を用いてS1測定モードを実施する場合、対極と参照電極として、それぞれ白金電極と白金擬似参照電極を用いる。
なお、作用電極上(検出用の電極10上)でのフェロセンの酸化により生じるフェリシニウムイオンは、酵素体3に再び入り、酵素5における酵素反応のメディエーター14として繰り返し使用することができる。
(実施例7)
実施例7の検出装置は、第1の実施形態に基づき、グルコースを検出できる検出装置である。
実施例7の検出装置100は、p−ベンゾキノンがメディエーター14であり、酵素体3を以下のようにして作製することを除き、実施例6の検出装置100と同一の構成を有する。
実施例7の酵素体3は、以下のようにしてグルコースオキシダーゼを分子ヒドロゲルへ修飾(包括固定化)することにより作製される。
まず、Fmoc-L-lysine(36mg)と、Fmoc-L-phenylalanine(38mg)と、炭酸ナトリウム(20g)とを混ぜて(約1:1:1.9の混合割合)、その中へリン酸バッファー(PBS)(pH=7.4)(104mg/mL)を0.9mL加え、撹拌して懸濁液を作る。次に、懸濁液を撹拌しながら、60℃でまで加熱する。60℃において懸濁液がゲル化され、透明な分子ヒドロゲルになるため、懸濁液が完全に透明になるまで加熱し続け、分子ヒドロゲルを作る。
次に、分子ヒドロゲルを35〜40℃まで冷やし、冷やした分子ヒドロゲルへグルコースオキシダーゼを加えて、撹拌した後、室温まで冷やす。こうして、分子ヒドロゲルに包括することによりグルコースオキシダーゼを固定化し、実施例7の酵素体3が得られる。
このようにして得られた酵素体3を、媒体2としての非水溶媒であるトリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドに分散させて、媒体2と酵素体3との混合物102を作製する。
実施例5の検出装置100では、測定対象物質6としてのグルコースを混合物102に導入すると、酵素体3の酵素5であるグルコースオキシダーゼが触媒する酵素反応により、グルコースが酸化されてグルコノラクトンを生成するとともに、メディエーター14であるp−ベンゾキノンがヒドロキノンに還元される(化14)。
実施例7の検出装置100において、実施例6と同様に、例えば白金からなる作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用い、この作用電極にヒドロキノンの酸化電位より貴の範囲に含まれる定電位を印加し、S1測定モードまたはS2測定モードによりヒドロキノンを検出することができる。検出用の電極10の上では、ヒドロキノンが酸化されてp−ベンゾキノンになる(化15)。こうしてヒドロキノンの酸化電流を測定することによりグルコースを検出することができる。白金からなる作用電極(検出用の電極10)を用いてS1測定モードを実施する場合、対極と参照電極として、それぞれ白金電極と白金擬似参照電極を用いる。
なお、作用電極上(検出用の電極10上)でのヒドロキノンの酸化により生じるp−ベンゾキノンは再び酵素体3に入り、メディエーター14として繰り返し使用することができる。
(実施例8)
実施例8の検出装置は、第1の実施形態に基づき、グルコースを検出できる検出装置である。
実施例8の検出装置は、2種類の酵素5(第1の酵素および第2の酵素)を含む1種類の酵素体3を含む。また、実施例8の検出装置の酵素体3では、2種類のメディエーター(第1のメディエーターおよび第2のメディエーター)が用いられる。
実施例8の検出装置100では、第1の酵素はグルコースオキシダーゼ(GOD)であり、測定対象物質6としてのグルコースを基質とする酵素反応(第1の酵素反応)を触媒する。
第1のメディエーターとして、酸素が用いられる。第1のメディエーターとしての酸素は非水溶媒に存在する溶存酸素であり、ブリージングにより大気から補給することができる。第1の酵素反応によってグルコースが酸化されてグルコノラクトン(C6H10O6)が生成すると同時に、第1のメディエーターとしての酸素は過酸化水素に還元される(化9)。
第1の酵素反応により生成された過酸化水素は、第2の酵素であるHRPが触媒する酵素反応(第2の酵素反応)の基質となる。また、第2の酵素反応には、第2のメディエーターとしてヒドロキノンが参加する。第2の酵素反応において、過酸化水素が水に還元されるとともに、第2のメディエーターとしてのヒドロキノンはp−ベンゾキノンに酸化される(化16)。
実施例8の媒体2として、AILである[C8mIm+][TFSA-]とPILである[C8ImH+][TFSA-]との混合液(χPIL=AIL/PIL=0.7)を用いる。[C8mIm+][TFSA-]は疎水性イオン液体であり、[C8ImH+][TFSA-]は親水性イオン液体である。また、[C8ImH+][TFSA-]は補助界面活性剤としての役割も果たす。
この混合液にAOTを加え、20時間撹拌することによってAOT(0.07M)を分散させる。続いて、水溶媒として第1の酵素としてのGODおよび第2の酵素としてのHRPを含む希薄な緩衝液[0.02 M phosphate/borate/acetate, pH=7.0]を加え、1時間撹拌することにより、媒体2としての[C8mIm+][TFSA-]と[C8ImH+][TFSA-]との混合液の中にAOTと[C8ImH+][TFSA-]とからなり、ウォータープール4を含む逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)を形成させる。
こうして得られた逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)のウォータープール4に、酵素5としてGOD(第1の酵素)とHRP(第2の酵素)が可溶化されている。
上述したとおり、実施例8の検出装置において、測定対象物質6としてのグルコースを混合物102に導入すると、酵素体3の第1の酵素であるGODが触媒する第1の酵素反応により、第1のメディエーターである酸素が過酸化水素に還元される(化9)。第2の酵素であるHRPが触媒する第2の酵素反応により、過酸化水素が還元されて水となり、第2のメディエーターであるヒドロキノンがp−ベンゾキノンに酸化される(化16)。なお、水の量が逆ミセルのウォータープール4の含水限界値以上に達すると、余分な水は逆ミセルのウォータープール4から排出される。
一方で、p−ベンゾキノンは、実施例7と同様に例えば白金からなる作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用いて、S1測定モードまたはS2測定モードにより検出することができる。白金からなる作用電極(検出用の電極10)を用いてS1測定モードを実施する場合、対極と参照電極として、それぞれ白金電極と白金擬似参照電極を用いる。
なお、実施例8の検出装置100においても、実施例7と同様に、ヒドロキノンをメディエーター14として繰り返し使用することができる。
(実施例9)
実施例9の検出装置100は、第2のメディエーターとしてフェロセンFe(C5H5)2を用いる点を除き、実施例8の検出装置100と同一の構成を有する。
実施例9の検出装置100では、測定対象物質6としてのグルコースを混合物102に導入する結果、第2の酵素反応によって過酸化水素が水に還元されるとともに、第2のメディエーターであるフェロセンがフェリシニウムイオン[Fe(C5H5)2]+に酸化される(化17)。
実施例9の検出装置100では、実施例2と同様に作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用いてフェリシニウムイオンの還元電流を測定してS1測定モードまたはS2測定モードを実施することにより、グルコースを定量測定することができる。
(実施例10)
実施例10の検出装置は、第1の実施形態に基づき、コレステロールエステルおよびコレステロールを検出できる検出装置である。
実施例10の検出装置100は、3種類の酵素5(第1の酵素、第2の酵素、第3の酵素)を含む1種類の酵素体3を含む。また、実施例10の検出装置の酵素体3では、2種類のメディエーター(第1のメディエーターおよび第2のメディエーター)が用いられる。
実施例10の検出装置100では、第1の酵素はコレステロールエステラーゼ(ChEt)であり、測定対象物質6としてのコレステロールエステルを基質とする酵素反応(第1の酵素反応)を触媒する。なお、第1の酵素反応は、加水分解反応であり、水を必要とする。コレステロールエステルは、第1の酵素反応により加水分解されて、コレステロールおよび脂肪酸(fatty acid)を生成する(化18)。
第1の酵素反応により生成されたコレステロールは、第2の酵素であるコレステロールオキシダーゼ(ChOx)が触媒する第2の酵素反応の基質となる。第2の酵素反応において、コレステロールが酸化されてコレステノンが生成されるとともに、第1のメディエーターとしての酸素が還元されて過酸化水素が生成される(化19)。第1のメディエーターとしての酸素は、実施例8と同様に、非水溶媒に存在する溶存酸素であり、ブリージングにより大気から補給することができる。
第2の酵素反応により生成された過酸化水素は、さらに第3の酵素であるHRPが触媒する第3の酵素反応により水に還元される。それと同時に、第2のメディエーターとしてのヒドロキノンがp−ベンゾキノンに酸化される(化16)。
実施例10の検出装置100では、実施例8と同様にp−ベンゾキノンの還元電流を測定することによって、コレステロールエステルを検出することができる。
また、実施例10の検出装置100では、コレステロールが第2の酵素反応の基質であるため、コレステロール自体を測定対象物質6として検出することもできる。また、コレステロールエステルおよびコレステロールの総量を測定することもできる。
実施例10では、混合物102は、実施例8と異なり、以下の方法で作製するゲル状の混合物102である。
まず、実施例8と類似する方法により、第1の酵素としてのコレステロールエステラーゼ(ChEt)と、第2の酵素としてのコレステロールオキシダーゼ(ChOx)と、第3の酵素としてのHRPとを可溶化した逆ミセルまたはマイクロエマルションを作製し、酵素体3とする。
次に、酵素体3の作製に用いたイオン液体の混合液を、40〜50℃の温度で酵素体3を分散させたままの状態にし、ここにゼラチンのパウダーを適量加え、30分間程強く撹拌する。続いて、混合液を撹拌しながら30℃まで冷やし、さらに溶液が非常に濃厚、且つ均一になるまで撹拌し続ける。得られた混濁液を室温において透明なゲルになるまで放置する。
上記の処理過程によって、ゼラチンが酵素体3(逆ミセルまたはマイクロエマルション)のウォータープール4に入った後、そこでゲル化する。さらに、ウォータープール4内でゲル化したゼラチンにより分子間ネットワークが形成されるため、この酵素体3を含む混合物102全体がゲル化する。さらに、混濁液を室温で放置することにより、加熱で熱変性してしまった蛋白質(ゼラチン、グルコースオキシダーゼ、およびHRP)のリフォールディング(refolding)を行うことができる。
なお、S2測定モードを実施して、コレステロールエステルおよびコレステロールの総量を測定する場合、対比用の電極11に接するように設置する媒体2として、第1乃至第3の酵素であるコレステロールエステラーゼ(ChEt)、コレステロールオキシダーゼ(ChOx)、およびHRPを可溶化していないイオン液体ゲルを用いる。このイオン液体ゲルは、検出用の電極10に接するイオン液体ゲルと同様に、AILである[C8mIm+][TFSA-]とPILである[C8ImH+][TFSA-]との混合液、およびアニオン性界面活性剤であるAOT、緩衝液[0.1M リン酸バッファー, pH=7.4]、並びにゼラチンから作製される。
(実施例11)
実施例11の検出装置は、第1の実施形態に基づき、コレステロールエステルおよびコレステロールを検出できる検出装置である。
実施例11の検出装置100は、2種類の酵素体3(第1の酵素体および第2の酵素体)を含み、各々の種類の酵素体が種類の異なる酵素5(第1の酵素および第2の酵素)を1種ずつ含む。また、実施例11の検出装置の第1の酵素体では、そこに含まれる第1の酵素が触媒する酵素反応の基質となるメディエーター14(第1のメディエーター)が用いられる。さらに、第2の酵素体では、そこに含まれる第2の酵素が触媒する酵素反応の基質となるメディエーター14(第2のメディエーター)が用いられる。後述するように、第1のメディエーターと第2のメディエーターとは種類が異なる。
実施例11の検出装置100の構成は、以下のとおり、第1の酵素反応の反応場と第2の酵素反応の反応場とを第1の酵素体と第2の酵素体とに分けたことを除き、実施例8の検出装置100の構成と実質的に同じである。
実施例11の検出装置100では、実施例8と同様に、第1の酵素はグルコースオキシダーゼ(GOD)であり、測定対象物質6としてのグルコースを基質(第1の基質)とする酵素反応(第1の酵素反応)を触媒する。
また、実施例8と同様に、第1のメディエーターとして酸素が用いられる。
実施例11の検出装置100において、実施例8と同様に、第2の酵素はHRPである。従って、実施例11の検出装置100における第2の酵素反応は、実施例8における第2の酵素反応と同様のものである。
媒体2としてのAILとPILの混合液において、PILに対するAILの割合を、χPIL=AIL/PIL=0.6となるように調整することを除き、実施例8と同様の方法で実施例11の媒体2を調整する。
この媒体2を用い、水溶媒として、第1の酵素としてのグルコースオキシダーゼ(GOD)を含む希薄な緩衝液[0.1Mリン酸バッファー、pH=7.4]を用いることを除き、実施例8と同様の方法で、実施例11の媒体2に分散されたAOTと[C8ImH+][TFSA-]とからなり、ウォータープール4に第1の酵素としてGODを可溶化した逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)、すなわち第1の酵素体を形成する。
さらに、別途、水溶媒として、第2の酵素としてのHRPを含む希薄な緩衝液[0.1Mリン酸バッファー、pH=7.4]を用いることを除き、第1の酵素体の形成と同様の方法で、実施例11の媒体2に分散されたAOTと[C8ImH+][TFSA-]とからなり、ウォータープール4に第2の酵素としてのHRPを可溶化した逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)、すなわち第2の酵素体を形成する。
これらの第1の酵素体が分散された媒体2と第2の酵素体が分散された媒体2とを混合して、実施例11の混合物102を作製する。
実施例11の検出装置100において、測定対象物質6としてのグルコースを混合物102に導入すると、実施例8と同様の酵素反応(第1の酵素反応および第2の酵素反応)が進行してp−ベンゾキノンが生成する。ただし、実施例8と異なり、実施例11では第1の酵素反応と第2の酵素反応とがそれぞれ第1の酵素体と第2の酵素体とで進行する。つまり、第1の酵素反応により生成した過酸化水素は、第1の酵素体から出て、第2の酵素体に入り、そこで第2の酵素反応により還元される。
上記を除き、実施例11の検出装置100は、実施例8の検出装置100と同様の構成を有し、実施例8の検出装置100と同様にグルコースを検出することができる。
(実施例12)
実施例12の検出装置100は、第2のメディエーターとしてフェロセンFe(C5H5)2を用いる点を除き、実施例11の検出装置100と同一の構成を有する。
実施例12の検出装置100では、実施例2と同様に作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用いてフェリシニウムイオン[Fe(C5H5)2]+の還元電流を測定してS1測定モードまたはS2測定モードを実施することにより、グルコースを定量測定することができる。
(実施例13)
実施例13の検出装置は、第1の実施形態に基づき、アセトンを検出できる検出装置である。
実施例13の検出装置100は、1種類の酵素5を含む酵素体3を1種類含む。実施例13の検出装置100では、酵素5は二級アルコール脱水素酵素(Secondary alcohol dehydrogenase:S-ADH)であり、測定対象物質6としてのアセトンを基質とする酵素反応を触媒する。また、実施例13の検出装置100では、アセトンを基質とする酵素反応におけるメディエーター14としてNADHを用いる。
実施例13では、イオン液体である1-butyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate ([bmim][PF6])を媒体2として用いる。
界面活性剤であるBrij-35を[bmim][PF6]に加えて撹拌することにより、Brij-35を[bmim][PF6]に分散させ、逆ミセルを形成する。次に、水溶液としての緩衝液として100mMリン酸バッファー(100mM PBS, pH=7.8)を適量加えて撹拌し、ウォータープール4を含み、Brij-35と[bmim][PF6]とからなる逆ミセルまたはマイクロエマルション(Water/Briji-35(0.5M)/[bmim][PF6])を作製する。
こうして得られたWater/Briji-35(0.5M)/[bmim][PF6]のウォータープール4に、酵素5としてのS-ADHを可溶化させることにより酵素体3を作製する。また、実施例13では、ウォータープール4における水の含有量を、例えばωo=17となるように水の量を調製する。
或いは、媒体2としての[bmim][PF6]に界面活性剤であるBrij-3を加えて撹拌する際、撹拌しながら適量のS-ADHを含む100mMリン酸バッファー(100mM PBS, pH=7.8)を加え、十分に撹拌することにより、S-ADHを可溶化した逆ミセル(Water/Briji-35(0.5M)/[bmim][PF6])を製造することができる。
実施例13の検出装置100において、測定対象物質6としてのアセトンを混合物102に導入すると、酵素体3の酵素5であるS-ADHが触媒する酵素反応によりアセトンが還元されてイソプロパノールが生成されるとともに、メディエーター14であるNADHがNAD+に酸化される(化20)。
実施例13の検出装置100では、例えば酸化グラフェンからなる作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用い、この作用電極に定電位を印加し、S1測定モードまたはS2測定モードによりNAD+を検出することができる。検出用の電極10の上では、NAD+が還元されてNADHになる(化5)。こうしてNAD+の還元電流を測定することによりアセトンを検出することができる。
実施例13におけるS1測定モードおよびS2測定モードの詳細は、作用電極に印加する電位が異なる点およびNAD+の還元電流を測定する点を除き、実施例2と同様である。
なお、作用電極上(検出用の電極10上)でのNAD+の還元により生じるNADHは、酵素体3に再び入り、酵素5における酵素反応のメディエーター14として繰り返し使用することができる。
また、微小電極を用いてNADHの定電位電界(クロノアンペロメトリー; CA)測定を実施することもできる。微小電極によるNADHのCA測定は、NADHの酸化により生じた定常電流を測定する方法である。微小電極の直径は、例えば50μmであり、実施例3と同様の酸化グラフェンでコートした炭素印刷電極を酸化グラフェン微小電極として用いることができる。この場合、参照電極も実施例2と同様に銀電極を用いる。また、対極として炭素電極を用いることができる。
さらに、微小電極を用いてNADHのサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行うこともできる。
実施例13の検出装置100では、光学的測定方法によりNADHを測定することによって、アセトンを検出することもできる。
実施例13の測定用セル101に収容されている混合物102について、例えば波長340nmにおける吸光度を測定することによって、Lambert-Beerの法則に基づいて混合物102におけるNADHの濃度を測定することができる。
上述したように、混合物102にアセトンが導入されると、酵素反応によってNADHがNAD+に酸化される。波長340nmにおける混合物102の吸光度を測定することによって、酵素反応に伴うNADHの濃度の減少を検出できる。混合物102におけるNADH濃度の減少に基づいて、アセトンを検出および測定することができる。
(実施例14)
実施例14の検出装置100は、第1の実施形態に基づき、光学的測定法によりアルコール(エタノール)を検出できる検出装置である。
実施例14の測定用セル101は、酵素5としてのアルコールオキシダーゼとペルオキシダーゼ(HRP)とを含んだ酵素体3と、媒体2としての非水溶媒である1-butyl-3-methylimidazolium chloride(bmimCl)と、色素としての2,6-ジクロロインドフェノールナトリウム塩水和物(2,6-Dichloroindophenol sodium salt hydrate; DCIP)とを含む混合物102を収容する。
実施例14の測定用セルは、以下のように作製する。
3mg/mLのアルコールオキシダーゼと0.02mg/mLのHRP、7mMのDCIPを含む0.01Mリン酸緩衝液(1mL)に1gのavicel(登録商標;FMC社製のセルロースパウダー)を加えて混合液を得る。次に、室温にて、混合液に対して水分の含有量が36%になるまでエアを流すことによって、酵素体3を形成させる。このようにして得られた酵素体3とbmimClとを一定の混合比で混合して混合物102を得る。この混合物102をセル本体1に入れることによって、測定用セル101を作製する。
実施例14の測定用セル101に収容されている混合物102について、例えば波長605nmにおける吸光度を測定することによって、Lambert-Beerの法則に基づいて混合物におけるDCIPの濃度を測定することができる。
実施例14の測定用セル101に測定対象物質6としてのアルコール(エタノール)を導入すると、酵素5としてのアルコールオキシダーゼとHRPとが触媒する酵素反応により酸化体のDCIPoxが分解されて、分解物(DCIPdecomp)となる。具体的には、アルコールオキシダーゼが触媒する酵素反応によりエタノールがアセトアルデヒドに酸化されるとともに、過酸化水素が生成する(化21)。過酸化水素は、HRPが触媒する酵素反応によってDCIPoxを分解する(化22)。
波長605nmにおける混合物102の吸光度を測定することによって、酵素反応に伴うDCIPoxの濃度の減少を検出できる。このように、DCIPoxの吸光度の変化を測定することによって、アルコール(エタノール)を検出することができる。
なお、実施例14における媒体2として、非水溶媒である1-butyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate ([bmim][PF6])を用いることもできる。
以下、第2の実施の形態に係る具体的な実施例について説明する。
(実施例15)
実施例15の検出装置200は、第2の実施形態に基づき、神経剤ガス(サリン、VX)を検出できる検出装置である。
実施例15の検出装置200は、1種類の酵素5を含む酵素体3を1種類含み、さらに基質15を含む。実施例15の検出装置200では、酵素5はアセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase; AChE)であり、基質15はアセチルチオコリンクロライド(Acetylthiocholine chloride; ATChCl)である。また、実施例15の検出装置200が検出する測定対象物質6は神経剤ガス(サリン、VX)であるが、これはAChEが触媒するATChClを基質とする酵素反応の阻害剤となる。
媒体2としては、非水溶媒であるトリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを用いる。
酵素体3は、以下のように作製する。
メソ孔を有する多孔質球状シリカ粒子の水溶媒系のゾル(平均粒径:0.3μm、細孔径:16nm)(phosphate buffered saline; PBS, pH=7.4)に酵素5としてのAChEおよび5%アルブミン(Bovine Serum Albumin; BSA)を分散させて、メソ孔を有する多孔質球状シリカ粒子にAChEを固定化させて酵素体3とする。こうして得られた酵素体3のゾルを上記媒体2に分散して、酵素体3と媒体2とを含む混合物202とする。親水性のメソ孔を有する多孔質球状シリカ粒子は吸湿性であるため、さらに大気から水分を吸湿することができ、酵素体3は自動的に水を補給することができる。
また、実施例15の検出装置200において、媒体2中に酵素5(AChE)が触媒する酵素反応の基質としてのATChClのパウダーを分散する。
基質15であるATChClは、酵素体3に含まれる酵素5であるAChEが触媒する酵素反応によって加水分解され、Thiocholine(TCh)などを生成する(化23)。
実施例15の検出装置200において、TChは、例えば白金からなる検出用の電極10を用いて、S1測定モードまたはS2測定モードにより測定することができる。S1測定モードおよびS2測定モードによるTChの測定は、実施例1においての酵素反応の生成物であるPNPの測定と同様に実施する。
実施例15の検出装置200において、測定対象物質6としての神経剤ガスを混合物202に導入すると、酵素体3の含む酵素5であるAChEが触媒する酵素反応、すなわちATChClの加水分解反応が阻害される。その結果、TChの生成量が減少する。
上述したTChの測定により、TChの減少を検出できる。このように検出したTChの減少に基づいて神経剤ガスを検出する。また、予め検量線を作成するなどして構築したデータベースを利用して、神経剤ガスの定量測定を行うことができる。
また、別の神経剤ガスの検出方法としては、例えばISFETを含んだ検出装置を実施例15の検出装置200とし、ATChClの加水分解物(酢酸塩等)による媒体2のpHの変化を測定することにより、神経剤ガスを検出することも可能である。または、ポテンシオメトリー法により、媒体2のpHの変化を測定して、神経剤ガスを検出することもできる。このように、媒体2のpHの変化を測定する場合、酵素体3の作製に用いる多孔質球状シリカ粒子の水溶媒系のゾルとして、リン酸バッファーを含まないゾルを用いる。
(実施例16)
実施例16の検出装置200は、第2の実施形態に基づき、神経剤ガス(サリン、VX)を検出できる検出装置である。
実施例16の検出装置200は、2種類の酵素5(第1の酵素および第2の酵素)を含む1種類の酵素体3を含み、さらに基質15を含む。実施例16の検出装置200では、第1の酵素はコリンエステラーゼ(cholinestrase; ChE)であり、アセチルコリンクロライド(Acetylcholine chloride; ACh)を基質15とする酵素反応(第1の酵素反応)を触媒する。
基質15であるAChは、第1の酵素であるChEが触媒する第1の酵素反応によってコリン(choline; Ch)および有機酸(organic acid;RCOOH)を生成する(化24)。なお、第1の酵素反応は加水分解反応であるため、水を必要とする。
第1の酵素反応により生成されたChは、第2の酵素であるコリンオキシダーゼ(choline oxidase; ChO)が触媒する酵素反応(第2の酵素反応)の基質となる。なお、第2の酵素反応は加水分解反応であるため、水を必要とする。また、第2の酵素反応に酸素がメディエーター14として参加する。なお、メディエーター14としての酸素は、非水溶媒に存在する溶存酸素であり、ブリージングにより大気から補給することができる。
AChは第1の酵素5(ChE)における酵素反応によりChを生成する。生成されたChは第2の酵素5であるChOの基質となる。第1の酸化反応により生成されたChが第2の酵素反応により加水分解されるとともに、メディエーター14としての酸素が還元されて過酸化水素が生成される(化25)。
非水溶媒を含んだ媒体2と酵素体3とを含む混合物202は、以下のように作製する。
実施例16の媒体2として、実施例3の媒体2と同様のAILとPILとの混合液を用いる。水溶液として5% BSAを用いることを除き実施例3と同様に媒体2に分散された逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)を作製する。この逆ミセルまたはマイクロエマルション(W/IL)のウォータープール4に第1の酵素としてのChEと第2の酵素としてのChOが可溶化されている酵素体3を作製する。
また、このようにして得られる媒体2と酵素体3とを含む混合物202に、第1の酵素反応の基質としてのAChのパウダーを分散する。
第2の酵素反応により生成される過酸化水素は、例えば白金からなる作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用いて、S1測定モードまたはS2測定モードにより検出することができる。陽極としての検出用の電極10に定電位(640mV)を印加すると、検出用の電極10の上で過酸化水素が酸化されて酸素および水素イオンが生成される(化10)。この酸素および水素イオンは、陰極(対極)としての、例えば銀電極上で還元されて、水が生成される(化11)。生成された水は、再び酵素体3に入り、酵素反応(第1の酵素反応および第2の酵素反応)に参加することができる。
このように、実施例16では、酵素体3における酵素反応により生成した過酸化水素がさらに電極上で反応して水を生成するため、検出装置200の系内で水を再生することができる。そのため、加水分解反応である酵素反応に必要な水を滞ることなく供給することができる。
測定対象物質6としての神経剤ガス(サリン、VX)はChEが触媒する第1の酵素反応の阻害剤となる。実施例16の検出装置200において、測定対象物質6としての神経剤ガスを混合物202に導入すると、第1の酵素であるChEが触媒する第1の酵素反応、すなわちAChの加水分解反応が阻害される。その結果、Chの生成量が減少するため、Chを基質とする第2の酵素反応の生成物である過酸化水素の生成量が減少する。
実施例16の検出装置200では、例えば上述した検出用の電極10を用いるS1測定モードまたはS2測定モードによる過酸化水素の測定により、過酸化水素の減少を検出できる。このようにして検出した過酸化水素の減少に基づいて神経剤ガスを検出する。また、予め検量線を作成するなどして構築したデータベースを利用して神経剤ガスの定量測定を行うことができる。
(実施例17)
実施例17の検出装置200は、第2の実施形態に基づき、神経剤ガス(サリン、VX)を検出できる検出装置である。
実施例17の検出装置200は、2種類の酵素体3(第1の酵素体および第2の酵素体)を含み、各々の種類の酵素体3が種類の異なる酵素5(第1の酵素および第2の酵素)を1種類ずつ含む。実施例17の検出装置200は、さらに基質15を含む。
実施例17の検出装置200は、第1の酵素であるChEを含む第1の酵素体と、第2の酵素であるChOを含む第2の酵素体とを含むことを除き、実施例16の検出装置200と同様の構成を有する。
実施例17の検出装置200では、実施例16と異なり第1の酵素反応と、第2の酵素反応とがそれぞれ第1の酵素体と、第2の酵素体とで進行する。つまり、第1の酵素反応により生成したChは、第1の酵素体から出て、第2の酵素体に入り、そこで第2の酵素反応により酸化される。
上記を除き、実施例17の検出装置200は、実施例16の検出装置200と同様の構成を有し、実施例16の検出装置200と同様に神経剤ガスを検出することができる。
(実施例18)
実施例18の検出装置200は、第2の実施形態に基づき、神経剤ガス(サリン、VX)を検出できる検出装置である。
実施例18の検出装置200は、3種類の酵素5(第1の酵素、第2の酵素、第3の酵素)を含む1種類の酵素体3を含み、さらに基質15を含む。また、実施例18の検出装置の酵素体3では、2種類のメディエーター(第1のメディエーターおよび第2のメディエーター)が用いられる。
実施例18の検出装置200では、第1の酵素および第2の酵素は、実施例16と同様に、それぞれChEおよびChOである。実施例18における第1の酵素反応および第2の酵素反応も実施例16と同様のものであり、それぞれの酵素反応の基質も実施例16と同様である。また、実施例18においても、酸素が第1のメディエーターとして第2の酵素反応に参加する。
実施例18の酵素体3は、第3の酵素としてHRPをさらに含む。第3の酵素としてのHRPは、第2の酵素反応により生成される過酸化水素を基質とする酵素反応(第3の酵素反応)を触媒する。実施例18では、さらに第2のメディエーターとしてのヒドロキノンが第3の酵素反応に参加する。
実施例18の酵素体3は、第1の酵素をChEとし、第2の酵素をChOとすることを除き、実施例10と同様に作製する。
実施例18では、第3の酵素としてHRPを用いることにより、水を酵素体3内で生成することができる。このようにして再生した水を、第1の酵素反応および第2の酵素反応に用いることができる。
実施例18の検出装置200では、実施例8と同様にp−ベンゾキノンの還元電流を測定することによって、p−ベンゾキノンの減少を検出し、それに基づいて神経剤ガスを検出することができる。
(実施例19)
実施例19の検出装置200は、第2の実施形態に基づき、神経剤ガス(サリン、VX)を検出できる検出装置である。
実施例19の検出装置200は、3種類の酵素体3(第1の酵素体、第2の酵素体、第3の酵素体)を含み、各々の種類の酵素体3が種類の異なる酵素5(第1の酵素、第2の酵素、第3の酵素)を1種類ずつ含む。実施例19の検出装置200は、さらに基質15を含む。
実施例19の検出装置200は、第1の酵素であるChEを含む第1の酵素体と、第2の酵素であるChOを含む第2の酵素体と、第3の酵素であるHRPを含む第3の酵素体とを含むことを除き、実施例18の検出装置200と同様の構成を有する。
実施例19の検出装置200では、実施例18と異なり第1の酵素反応と、第2の酵素反応と、第3の酵素反応とがそれぞれ第1の酵素体と、第2の酵素体と、第3の酵素体とで進行する。つまり、第1の酵素反応により生成したChは、第1の酵素体から出て、第2の酵素体に入り、そこで第2の酵素反応により酸化される。また、第2の酵素反応により生成した過酸化水素は、第2の酵素体から出て、第3の酵素体に入り、そこで第3の酵素反応により還元される。
上記を除き、実施例19の検出装置200は、実施例16の検出装置200と同様の構成を有し、実施例18の検出装置200と同様に神経剤ガスを検出することができる。
(実施例20)
実施例20の検出装置200は、媒体2と酵素体3とを含んだ混合物202を実施例10と同様の方法でゲル化することを除き、実施例18の検出装置200と同様の構成を有し、実施例18の検出装置200と同様に神経剤ガスを検出することができる。
(実施例21)
実施例21の検出装置200は、第2の実施形態に基づき重金属イオンを検出できる検出装置である。
実施例21の検出装置200は、測定用セル201のセル本体1に収容されている混合物202に基質15としての過酸化水素が含まれていることを除き、実施例2の検出装置100と同様の構成を有する。
貴金属イオンが導入されていない場合、通常過酸化水素はHRPが触媒する酵素反応により、水に還元されると同時にメディエーターとしてのフェロセンがフェリシニウムイオンに酸化される(化17)。
鉛、カドミウム、水銀などの重金属イオンは、酵素5としてのHRPが触媒する酵素反応の阻害剤である。測定対象物質6としての重金属イオンが、測定用セル201に収容されている混合物202に導入されると、HRPが触媒する酵素反応である過酸化水素の還元反応が阻害される。その結果、メディエーターとしてのフェロセンの酸化反応により生じるフェリシニウムイオン[Fe(C5H5)2]+の生成量も減少することになる。したがって、フェリシニウムイオン[Fe(C5H5)2]+の減少を検出することにより、重金属イオンを検知することができる。
実施例21の検出装置では、実施例2と同様に、例えば白金からなる作用電極(検出用の電極10、対比用の電極11)を用い、この作用電極に定電位を印加し、S1測定モードまたはS2測定モードを実施して、フェリシニウムイオンを検出することによって、フェリシニウムイオンの減少を測定することができる。こうしてフェリシニウムイオンの還元電流を測定することにより、重金属を検出することができる。
なお、作用電極上(検出用の電極10上)でのフェリシニウムイオンの還元により生じるフェロセンは再び酵素体3に入り、メディエーター14として繰り返し使用することができる。
以下、第3の実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
(実施例22)
実施例22の検出装置は、第3の実施形態に基づき爆薬であるトリニトロトルエン(Trinitrotoluene; TNT)を検出できる検出装置である。
実施例22の検出装置は、測定対象物質6としてのTNTを含んだ被測定試料を60℃で加熱することにより、TNTを昇華させることができるサンプリング部を有する。サンプリング部で得られたTNTの蒸気は、測定用セルにおける混合物に導入して測定する。
実施例22における混合物は、1種類の酵素5を含む1種類の酵素体3を含む。実施例22では、酵素5はnitroreductase(NTR)であり、測定対象物質6としてのTNTを基質とする酵素反応を触媒する。また、TNTを基質とする酵素反応におけるもう一方の基質となるメディエーター14としてNADHを用いる。
実施例22では、イオン液体である1-butyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate([bmim][PF6])を媒体2として用いる。
界面活性剤であるBrij-35を[bmim][PF6]に加えて撹拌することにより、Brij-35を[bmim][PF6]に分散させ、逆ミセルを形成する。次に、水溶液としての緩衝液として100mMリン酸バッファー(100mM PBS, pH=7.0)を適量加えて撹拌し、ウォータープール4を含み、Brij-35と[bmim][PF6]とからなる逆ミセルまたはマイクロエマルション(Water/Briji-35(0.5M)/[bmim][PF6])を作製する。
こうして得られたWater/Briji-35(0.5M)/[bmim][PF6]のウォータープール4に、酵素5としてのNTRを可溶化させることにより酵素体3を作製する。また、実施例22では、ウォータープール4における水の含有量を、例えばωo=17となるように水の量を調製する。
実施例22の測定用セルにおいて、サンプリング部からTNTをセル本体の混合物に導入すると、酵素5であるNTRが触媒する酵素反応によりTNTが還元されるとともに、メディエーター14であるNADHがNAD+に酸化される(化26)。
実施例22の検出装置では、実施例13と同様に、電気化学的測定方法または光学的測定方法によりNAD+を測定して、TNTを検出することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] セル本体と、
前記セル本体に支持又は収容された混合物であって、非水溶媒を含んだ媒体と1以上の酵素体とを含有し、前記1以上の酵素体は、酵素、酵素と分散剤からなる分子集合体とを含んだ第1複合体、酵素を含む芯部と前記芯部を被覆した殻部とを備えたマイクロカプセル、酵素を含んだ細胞、酵素を含んだ微生物、および酵素とこれを固定化した支持体とを含んだ第2複合体からなる群より選ばれる混合物と、
を具備した測定用セル。
[2] 前記1以上の酵素体の少なくとも一部は、吸湿性であるか、もしくは、前記酵素と接触するように水を含んでいるか、または、前記1以上の酵素体の少なくとも一部が含んでいる前記酵素は、水を生成する反応を触媒するものであるか、もしくは、酸化還元反応により水と他の化合物へと分解される化合物を生成する反応を触媒するものである[1]に記載の測定用セル。
[3] 前記非水溶媒はイオン液体を含んだ[1]または[2]に記載の測定用セル。
[4] 前記混合物は基質をさらに含み、前記基質は前記1以上の酵素体の少なくとも一部に含まれている前記酵素が触媒する反応の反応物である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の測定用セル。
[5] 前記混合物はゲルである[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の測定用セル。
[6] 前記1以上の酵素体は前記第1複合体を含み、前記分子集合体は、逆ミセル、逆紐状ミセル、リポソーム、ベシクル、マイクロエマルション、ラージャーエマルション、両連続マイクロエマルション、単分散状のシングルエマルション、ダブルエマルション、および多重層エマルションの1以上を含んだ[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の測定用セル。
[7] 前記1以上の酵素体は前記マイクロカプセルを含み、前記殻部はゲルまたは高分子材料からなり、前記芯部は、分散剤からなる分子集合体、細胞、または微生物を含む[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の測定用セル。
[8] 前記1以上の酵素体は前記マイクロカプセルを含み、前記殻部は多孔性および親水性の壁膜からなる[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の測定用セル。
[9] 前記1以上の酵素体は、前記第2複合体を含み、前記支持体は、吸水性材料、ヒドロゲル、シリカゲル、ポリマーゲル、分子ゲル、ナノファイバーゲル、ナノポーラス構造を有する無機材料、シクロデキストリン/ポリマー、ナノゲル、ナノファイバー、メソ孔を有する多孔質球状シリカ粒子、および高分子材料からなる群より選ばれる1以上からなる[1]乃至[8]のいずれか1つに記載の測定用セル。
[10] 前記1以上の酵素体の少なくとも一部が含んでいる前記酵素は、加水分解酵素、酸化還元酵素、合成酵素、転移酵素、脱離酵素、改変酵素、タンパク質架橋化酵素、変異化酵素、人工酵素、架橋酵素、抗体酵素、リアーゼ、リガーゼ、および結晶化された酵素からなる群より選ばれる1以上を含んだ[1]乃至[9]のいずれか1つに記載の測定用セル。
[11] [1]乃至[10]のいずれか1つに記載の測定用セルと、
前記混合物の電気的特性変化または電気化学的特性を測定する測定部とを具備し、前記測定用セルは、さらに前記混合物と接するように設置された1以上の電極を具備した検出装置。
[12] [1]乃至[10]のいずれか1つに記載の測定用セルと、
前記混合物の光学的特性を測定する測定部とを具備した検出装置。
[13] [11]または[12]に記載の検出装置と、
被測定試料に含まれている測定対象物質をレーザー照射、気体噴射、超音波照射、加熱、または電圧印加により気化する気化部および前記測定対象物質をイオン化するイオン化源の少なくとも一方を含むサンプリング部とを具備する分析装置。